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特開2022-41050混練パドル、それを備えた混練装置及びその溶接硬化肉盛方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041050
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】混練パドル、それを備えた混練装置及びその溶接硬化肉盛方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/70 20220101AFI20220304BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20220304BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20220304BHJP
【FI】
B01F7/04 B
B29B7/48
B23K26/342
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146055
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 和典
(72)【発明者】
【氏名】松岡 裕斗
【テーマコード(参考)】
4E168
4F201
4G078
【Fターム(参考)】
4E168BA33
4E168BA87
4F201BA01
4F201BK13
4F201BK15
4F201BK26
4F201BK40
4F201BK55
4F201BK80
4G078AA09
4G078AB05
4G078AB06
4G078BA01
4G078BA07
4G078BA09
4G078DA01
(57)【要約】
【課題】混練パドルの耐久性を確実に向上させる。
【解決手段】混練パドル5は、剪断混練装置20の混練室2a内に互いに平行に配置される2本の回転軸4に所定の位相差でそれぞれ配置され、この回転軸4の軸方向から見て複数の円弧を重ねた形状を有し、複数の頂部13が混練室2a内面及び対応する他の混練パドル5の外周と近接して移動することにより、被混練材料を剪断しながら混練する。パドル本体6の複数の頂部13、これら複数の頂部13の間の回転方向側面15の全体及び軸方向から見て回転軸4が挿通される軸挿通孔の周縁のボス部を除く両側表面14の全体に溶接硬化肉盛層16が形成されており、溶接硬化肉盛層16は、溶接下盛層16aと、この溶接下盛層16aよりも硬度の高い材料で、溶接下盛層16aの全面を覆う溶接上盛層16bとからなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剪断混練装置の混練室内に互いに平行に配置される2本の回転軸に所定の位相差でそれぞれ配置され、該回転軸の軸方向から見て複数の円弧を重ねた形状を有し、複数の頂部が上記混練室内面及び対応する他の混練パドルの外周と近接して移動することにより、被混練材料を剪断しながら混練する混練パドルであって、
パドル本体の複数の頂部、該複数の頂部の間の回転方向側面の全体及び軸方向から見て上記回転軸が挿通される軸挿通孔の周縁のボス部を除く両側表面の全体に溶接硬化肉盛層が形成されており、
上記溶接硬化肉盛層は、
溶接下盛層と、該溶接下盛層よりも硬度の高い材料で、該溶接下盛層の全面を覆う溶接上盛層とからなる
ことを特徴とする混練パドル。
【請求項2】
請求項1に記載の混練パドルにおいて、
上記溶接上盛層は、上記パドル本体の頂部において、補強層が形成されている
ことを特徴とする混練パドル。
【請求項3】
請求項2に記載の混練パドルにおいて、
上記溶接上盛層は、上記補強層において該補強層以外よりも多層になっている
ことを特徴とする混練パドル。
【請求項4】
請求項3に記載の混練パドルにおいて、
上記補強層において、上記溶接下盛層が2層で、上記溶接上盛層は3層になっている
ことを特徴とする混練パドル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の混練パドルにおいて、
上記溶接下盛層は、ニッケル基合金よりなり、
上記溶接上盛層は、ニッケル及びタングステンカーバイトの合金よりなる
ことを特徴とする混練パドル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の混練パドルが複数個固定された回転軸を有する
ことを特徴とする剪断混練装置。
【請求項7】
剪断混練装置の混練室内に互いに平行に配置される2本の回転軸に所定の位相差でそれぞれ配置され、該回転軸の軸方向から見て複数の円弧を重ねた形状を有し、複数の頂部が上記混練室内面及び対応する他の混練パドルの外周と近接して移動することにより、被混練材料を剪断しながら混練する混練パドルの外周を溶接肉盛りする混練パドルの溶接硬化肉盛方法であって、
溶接下盛工程において、
パドル本体の複数の頂部を上記回転軸の軸方向に沿ってそれぞれ溶接硬化肉盛りし、
上記複数の頂部のうち、一方の上記頂部から他方の頂部に向かって移動しながら上記回転軸の軸方向に沿って回転方向側面の全体を順次溶接硬化肉盛りし、全ての上記回転方向側面を溶接硬化肉盛りし、
軸方向から見て上記回転軸が挿通される軸挿通孔の周縁のボス部の外周面から上記頂部に向かって移動しながら該ボス部の外周面に沿う円弧状に順次溶接硬化肉盛し、全ての該ボス部を除く表面の全体に溶接下盛層を形成し、
上記溶接下盛工程の後に、溶接上盛工程において、
上記パドル本体の複数の頂部を上記回転軸の軸方向に沿ってそれぞれ溶接硬化肉盛りし、
上記複数の頂部のうち、一方の上記頂部から他方の頂部に向かって移動しながら上記回転軸の軸方向に沿って回転方向側面の全体を順次溶接硬化肉盛りし、全ての上記回転方向側面を溶接硬化肉盛りし、
軸方向から見て上記回転軸が挿通される軸挿通孔の周縁のボス部の外周面から上記頂部に向かって移動しながら該ボス部の外周面に沿う円弧状に順次溶接硬化肉盛し、全ての該ボス部を除く表面の全体に溶接硬化肉盛層を形成する
ことを特徴とする混練パドルの溶接硬化肉盛方法。
【請求項8】
請求項7に記載の混練パドルの溶接硬化肉盛方法において、
上記溶接上盛工程において、上記ボス部の外周面に沿う円弧状に順次溶接硬化肉盛した後、上記複数の頂部を再び肉盛りして補強層を形成する
ことを特徴とする混練パドルの溶接硬化肉盛方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の混練パドルの溶接硬化肉盛方法において、
レーザークラッディングによって上記ボス部を除く全表面に溶接硬化肉盛りを行う
ことを特徴とする混練パドルの溶接硬化肉盛方法。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか1つに記載の混練パドルの溶接硬化肉盛方法において、
溶接下盛工程において、上記頂部に2層溶接した後、上記回転方向側面の全体及び上記ボス部を除く両側表面の全体に1層溶接し、
溶接上盛工程において、上記頂部に2層溶接した後、上記回転方向側面の全体及び上記ボス部を除く両側表面の全体に1層溶接し、最後に上記頂部に1層溶接する
ことを特徴とする混練パドルの溶接硬化肉盛方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油化学、合成樹脂等の分野で使用される混練装置に使用される混練パドル、それを備えた混練装置及びその溶接硬化肉盛方法に関し、特に混練パドルの耐摩耗性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、剪断混練装置に使用される混練パドルには、被混練体を剪断することによる反力を受けるので、その反力による摩耗を防止するために硬化肉盛を施すことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3725745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、混練パドルの頂部以外の外表面も頂部ほどではないが、摩耗が進むことが考えられる。この種の常に剪断しながら混練するセルフクリーニングタイプの混練パドルでは、その円弧部(回転方向側面)は、どの部分も一様に1周につき1回対応するパドルの頂部が近接して通過するため、硬化肉盛と母材との境界において摩耗が生じて溝が形成されることがあり、その摩耗を防止するには回転方向側面の全周に硬化肉盛を施す必要があると考えられる。
【0005】
また、回転方向側面以外の軸方向両側面についても、硬化肉盛りを施すことで耐摩耗性を確保し、比較的安価で靱性のある材料でパドル本体の母材を構成したいというニーズもある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、混練パドルの耐久性を確実に向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、溶接硬化肉盛を軸挿通孔のボス部以外の外表面全体に設けた。
【0008】
具体的には、第1の発明では、
剪断混練装置の混練室内に互いに平行に配置される2本の回転軸に所定の位相差でそれぞれ配置され、該回転軸の軸方向から見て複数の円弧を重ねた形状を有し、複数の頂部が上記混練室内面及び対応する他の混練パドルの外周と近接して移動することにより、被混練材料を剪断しながら混練する混練パドルを対象とする。
【0009】
そして、上記混練パドルでは、
パドル本体の複数の頂部、該複数の頂部の間の回転方向側面の全体及び軸方向から見て上記回転軸が挿通される軸挿通孔の周縁のボス部を除く両側表面の全体に溶接硬化肉盛層が形成されており、
上記溶接硬化肉盛層は、
溶接下盛層と、該溶接下盛層よりも硬度の高い材料で、該溶接下盛層の全面を覆う溶接上盛層とからなる。
【0010】
上記の構成によると、混練作業中に被混練物と接触して摩耗され得る外表面全体を溶接下盛層と溶接上盛層との複数層で硬化肉盛り溶接することで、耐摩耗性が確実に向上する。さらに、外表面のみに耐摩耗性の高い肉盛りを設けることで耐摩耗性を確保できるので、母材自体は、例えばタングステンカーバイトのような重くて加工のしにくい材料を使わなくてよくなると共に、より靱性のある部材を用いることができ、また、メッキや溶射に比べて母材と溶接肉盛りとの密着度を確保できると共に、最低限必要な程度の肉厚のある層を設けることができる。下盛と上盛の溶接材料を変えることで、下盛は、母材との密着力アップ(境界部の成分を安定)させる材料及び母材熱影響部の緩和の効果がある材料を選択できる。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、
上記溶接上盛層は、上記パドル本体の頂部において、補強層が形成されている。
【0012】
上記の構成によると、特に耐摩耗性を必要とする頂部において補強層を設けることで、混練パドル全体の耐摩耗性が向上する。
【0013】
第3の発明では、第2の発明において、
上記溶接上盛層は、上記補強層において該補強層以外よりも多層になっている。
【0014】
上記の構成によると、補強層の溶接工程を他の領域よりも増やすことで容易に頂部の耐摩耗性を向上させることができる。
【0015】
第4の発明では、第3の発明において、
上記補強層において、上記溶接下盛層が2層で、上記溶接上盛層は3層になっている。
【0016】
上記の構成によると、面積が狭い上に、摩耗が進みやすい頂部の層数を高くすることで、形状を整えながら、耐摩耗性を向上させることができる。
【0017】
第5の発明では、第1から第4のいずれか1つの発明において、
上記溶接下盛層は、ニッケル基合金材料よりなり、
上記溶接上盛層は、ニッケル及びタングステンカーバイトの合金材料よりなる。
【0018】
上記の構成によると、上盛層を耐摩耗性に優れるタングステンカーバイトを含む材料で施し、下盛層をそれよりも硬度が低いが、母材との密着力が高く、母材熱影響部の緩和の効果がある材料とすることで、材料費や施工性が確保される。
【0019】
第6の発明の混練装置は、第1から第5のいずれか1つの発明の混練パドルが複数個固定された回転軸を有する。
【0020】
上記の構成によると、耐摩耗性が向上した混練パドルを用いることで、耐摩耗性が向上した商品性の高い混練装置が得られる。
【0021】
第7の発明では、
剪断混練装置の混練室内に互いに平行に配置される2本の回転軸に所定の位相差でそれぞれ配置され、該回転軸の軸方向から見て複数の円弧を重ねた形状を有し、複数の頂部が上記混練室内面及び対応する他の混練パドルの外周と近接して移動することにより、被混練材料を剪断しながら混練する混練パドルの外周を溶接肉盛りする混練パドルの溶接硬化肉盛方法を対象とする。
【0022】
そして、上記混練パドルの溶接硬化肉盛方法は、
溶接下盛工程において、
パドル本体の複数の頂部を上記回転軸の軸方向に沿ってそれぞれ溶接硬化肉盛りし、
上記複数の頂部のうち、一方の上記頂部から他方の頂部に向かって移動しながら上記回転軸の軸方向に沿って回転方向側面の全体を順次溶接硬化肉盛りし、全ての上記回転方向側面を溶接硬化肉盛りし、
軸方向から見て上記回転軸が挿通される軸挿通孔の周縁のボス部の外周面から上記頂部に向かって移動しながら該ボス部の外周面に沿う円弧状に順次溶接硬化肉盛し、全ての該ボス部を除く表面の全体に溶接下盛層を形成し、
上記溶接下盛工程の後に、溶接上盛工程において、
上記パドル本体の複数の頂部を上記回転軸の軸方向に沿ってそれぞれ溶接硬化肉盛りし、
上記複数の頂部のうち、一方の上記頂部から他方の頂部に向かって移動しながら上記回転軸の軸方向に沿って回転方向側面の全体を順次溶接硬化肉盛りし、全ての上記回転方向側面を溶接硬化肉盛りし、
軸方向から見て上記回転軸が挿通される軸挿通孔の周縁のボス部の外周面から上記頂部に向かって移動しながら該ボス部の外周面に沿う円弧状に順次溶接硬化肉盛し、全ての該ボス部を除く表面の全体に溶接硬化肉盛層を形成する構成とする。
【0023】
上記の構成によると、混練作業中に被混練物と接触して摩耗され得る外表面全体を溶接下盛層と溶接上盛層との複数層で硬化肉盛り溶接することで、耐摩耗性が確実に向上する。また、回転方向側面の全体を軸方向表裏面の溶接よりも先に行うことで、角部に膨らみが生じない。
【0024】
第8の発明では、第7の発明において、
上記溶接上盛工程において、上記ボス部の外周面に沿う円弧状に順次溶接硬化肉盛した後、上記複数の頂部を再び肉盛りして補強層を形成する。
【0025】
上記の構成によると、一連の溶接工程において、特に耐摩耗性が必要な頂部の溶接が容易かつ確実に行われる。
【0026】
第9の発明では、第7又は第8の発明において、
レーザークラッディングによって上記ボス部を除く全表面に溶接硬化肉盛りを行う。
【0027】
上記の構成によると、プラズマアーク溶接等に比べ、入熱をできるだけ抑えることができるので、軸挿通孔周辺などの母材の歪み、割れ、残留応力などの熱影響を少なくすることができる。
【0028】
第10の発明では、第7から第9のいずれか1つの発明において、
溶接下盛工程において、上記頂部に2層溶接した後、上記回転方向側面の全体及び上記ボス部を除く両側表面の全体に1層溶接し、
溶接上盛工程において、上記頂部に2層溶接した後、上記回転方向側面の全体及び上記ボス部を除く両側表面の全体に1層溶接した後、最後に上記頂部に1層溶接する。
【0029】
上記の構成によると、溶接下盛工程において、頂部に2層溶接しておくことで、最終形状が整いやすくなり、最後に頂部に1層溶接することで、頂部に凹部が形成されるのを防ぐことができる。これにより、面積が狭い上に、摩耗が進みやすい頂部の層数を高くすることで、形状を整えながら、耐摩耗性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、軸挿通孔の周縁のボス部を除く外表面全体に溶接硬化肉盛層を形成したことにより、混練パドルの耐久性を確実に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態に係る混練室に内蔵された混練パドル及びその周辺を示す断面図である。
図2A】混練パドルを示す正面図である。
図2B図2AのIIB-IIB線断面図である。
図2C】硬化溶接肉盛りした後の混練パドルを示す写真である。
図3】本発明の実施形態にかかる混練パドルを有する混練機の概要を示す断面図である。
図4A】溶接下盛工程及び溶接上盛工程における一方の頂部を溶接する工程を示す斜視図である。
図4B】溶接下盛工程及び溶接上盛工程における他方の頂部を溶接する工程を示す斜視図である。
図4C】溶接下盛工程及び溶接上盛工程における一方の頂部から他方の頂部に向かって回転方向側面を硬化溶接肉盛りする工程を示す斜視図である。
図4D】溶接下盛工程及び溶接上盛工程における他方の頂部から一方の頂部に向かって回転方向側面を硬化溶接肉盛りする工程を示す斜視図である。
図4E】正面側の、軸挿通孔の周縁のボス部の外周面から一方の頂部に向かって移動しながら該ボス部の外周面に沿う円弧状に順次溶接硬化肉盛する工程を示す正面図である。
図4F】正面側の、軸挿通孔の周縁のボス部の外周面から他方の頂部に向かって移動しながら該ボス部の外周面に沿う円弧状に順次溶接硬化肉盛する工程を示す正面図である。
図4G】背面側の、軸挿通孔の周縁のボス部の外周面から一方の頂部に向かって移動しながら該ボス部の外周面に沿う円弧状に順次溶接硬化肉盛する工程を示す背面図である。
図4H】背面側の、軸挿通孔の周縁のボス部の外周面から他方の頂部に向かって移動しながら該ボス部の外周面に沿う円弧状に順次溶接硬化肉盛する工程を示す背面図である。
図5A】頂部における断面マクロ、下盛及び上盛の断面ミクロを示す写真である。
図5B】正面又は背面の平面部における断面マクロ、下盛及び上盛の断面ミクロを示す写真である。
図5C】回転方向側面のR面における断面マクロ、下盛及び上盛の断面ミクロを示す写真である。
図6】各種耐摩耗方法の比較した結果を示す図である。
図7】その他の実施形態にかかる、おにぎり型の混練パドルを示す図2A相当正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
-混練パドルの構成-
図1及び図3に本発明の実施形態の混練パドル5を有する混練装置20を示し、この混練装置20は、工業製品原料生産から一般消費材の原料や製品生産まで多岐にわたり利用される。この混練装置20の、ケーシング1のトラフ2で区切られる混練室2a内には、一対の平行な回転軸4が水平方向に配設され、回転モータ21に回転駆動されるようになっている。この一対の回転軸4には、混練パドル5がいずれも取付角度を例えば45度ずつ変えて組込まれている。対応する左右一対の混練パドル5は、いずれも位相が90度ずれた状態で結合されている。被混練材料は、材料投入口22から投入され、回転軸4で混練されて、材料排出口23から排出されるようになっている。なお、図1に示すように、トラフ2外周のジャケット3内に熱媒体が流通可能となっていてもよい。
【0034】
一対の混練パドル5は、常に一方の先端(頂部13)が他方の円弧面(回転方向側面)をこするように近接して回転し、またトラフ2の内面と混練パドル5との隙間も小さいため、混練パドル5やトラフ2の内面に材料の付着が抑えられるセルフクリーニング作用を有し、さらに、混練パドル5と対応する混練パドル5間、トラフ2の内面と混練パドル5間での剪断作用も有する。
【0035】
図2A及び図2Bに示すように、この混練パドル5は、中央にキー溝7を介して回転軸4が挿通される軸挿通孔8aを有する円筒状のボス部8を有する。このボス部8と、ボス部8の回転中心を通る面の両側において相互に膨出した一対の円弧面(回転方向側面15)を有する膨出部とで軸方向から見て複数の円弧を重ねた略楕円形の形状のパドル本体6が構成されている。
【0036】
上記パドル本体6に用いるステンレス鋼としては、SUS304やSUS630が望ましいが、これに相当するステンレス鋳鋼のSCSを使用してもよい。しかし、いずれの場合も、ステンレス鋼の中でこれらの合金に限定するものではない。
【0037】
そして、図2Cに示すように、混練パドル5では、パドル本体6の一対の頂部13(13a,13b)、これら一対の頂部13の間の回転方向側面15の全体及び軸方向から見て回転軸4が挿通される軸挿通孔8aの周縁のボス部8を除く両側表面(正面及び背面の表面)14の全体に溶接硬化肉盛層16が形成されている。
【0038】
この溶接硬化肉盛層16は、溶接下盛層16aと、この溶接下盛層16aよりも硬度の高い材料で、この溶接下盛層16aの全面を覆う溶接上盛層16bとからなる。例えば、溶接下盛層16aの溶接材料は、ニッケル基合金(NiII)よりなり、溶接上盛層16bの溶接材料は、ニッケル及びタングステンカーバイトの合金(NiII+50%W2C)よりなるが、必ずしもこれらの溶接材料に限定されない。このように、上盛層を硬度の高い耐摩耗性に優れる材料で施し、下盛層をそれよりも硬度の低い材料とすることで、材料費や施工性が確保される。また、下盛と上盛の溶接材料を変えることで、上盛で耐摩耗性を確保しながら、下盛は、母材との密着力アップ(境界部の成分を安定)させる材料及び母材熱影響部の緩和の効果がある材料を選択できる。
【0039】
本実施形態では、混練作業中に被混練物と接触して摩耗され得る外表面13,14,15全体を溶接下盛層16aと溶接上盛層16bとの複数層で硬化肉盛り溶接することで、耐摩耗性が確実に向上する。外表面13,14,15のみを耐摩耗性の高い肉盛りを設けることで耐摩耗性を確保できるので、母材自体は、タングステンカーバイトのような重くて加工しにくい材料を使わなくてよくなると共に、靱性のある部材を用いることができる。また、メッキや溶射に比べて母材と溶接肉盛りとの密着度を確保できると共に、最低限必要な程度の肉厚のある層を設けることができる。
【0040】
本実施形態では、特に耐摩耗性を必要とする頂部13において補強層を設けることで、混練パドル5全体の耐摩耗性が向上する。
【0041】
本実施形態では、溶接上盛層16bは、補強層において2層で、この補強層以外は1層としてもよいが、特に頂部13の形状の安定性も考慮すれば、例えば、溶接下盛層16aが2層で溶接上盛層16bが3層の合計5層としてもよい。要は、補強層の層数を他の領域の層数よりも多層にするとよい。このように、補強層の肉盛り工程を他の領域よりも増やすことで容易に頂部13の耐摩耗性を向上させることができる。
【0042】
本実施形態では、耐摩耗性が向上した混練パドル5を用いることで、耐摩耗性が向上した商品性の高い混練装置20が得られる。
【0043】
-混練パドルの製造方法-
次に、混練パドル5の製造方法について簡単に説明する。
【0044】
まず、パドル本体6を予熱し、その予熱下において、レーザークラッディングにて溶接硬化肉盛層16を設ける。上述したように、溶接硬化肉盛層16は、パドル本体6の一対の頂部13、これら一対の複数の頂部13の間の回転方向側面15の全体及び軸方向から見て回転軸4が挿通される軸挿通孔8aの周縁のボス部8を除く両側表面14の全体に溶接硬化肉盛層16を施す。レーザークラッディングでは、入熱をできるだけ抑えることができるので、軸挿通孔8a周辺などの母材の歪み、割れ、残留応力などの熱影響を少なくすることができる。
【0045】
具体的には、まず、溶接下盛工程において、図4Aに示すように、パドル本体6の一方の頂部13aを回転軸4の軸方向(図2Aの表裏方向、図2Bの左右方向)に沿って溶接硬化肉盛りする。次いで、図4Bに示すように、他方の頂部13bも回転軸4の軸方向に沿って溶接硬化肉盛りする。頂部13が3つ以上ある場合も、同様にそれぞれの頂部13について行う。このとき、例えば下盛層を約1mmとする。この下盛層をそれぞれの頂部13において2層設けてもよい。溶接範囲の狭い頂部13に溶接下盛層16aを2層設けておけば、最終形状が整いやすくなる。
【0046】
次いで、図4Cに示すように、一方の頂部13aから他方の頂部13bに向かって移動しながら回転軸4の軸方向に沿って回転方向側面15の全体を順次溶接硬化肉盛りする。
【0047】
次いで、図4Dに示すように、他方の頂部13bから一方の頂部13aに向かって移動しながら回転軸4の軸方向に沿って回転方向側面15の全体を順次溶接硬化肉盛りし、全ての回転方向側面15を溶接硬化肉盛りする。頂部13が3つ以上ある場合も、同様にそれぞれの頂部13から別の頂部13に向かって同様の溶接を行う。この回転方向側面15では、必ずしも頂部13のように2層に溶接を施さなくてもよい。次の軸方向の両側表面14の溶接を行う前に、回転方向側面15を先に溶接することで、角部に膨らみが生じることを軽減できる。
【0048】
次に、図4Eに示すように、ボス部8の膨出高さの高い正面側の、軸方向から見て回転軸4が挿通される軸挿通孔8aの周縁のボス部8の外周面から一方の頂部13aに向かって移動しながら、このボス部8の外周面に沿う円弧状に両側表面14の一方を溶接硬化肉盛する。同様に、図4Fに示すように、ボス部8の膨出高さの高い正面側の、軸方向から見て回転軸4が挿通される軸挿通孔8aの周縁のボス部8の外周面から他方の頂部13に向かって移動しながらこのボス部8の外周面に沿う円弧状に両側表面14の一方を溶接硬化肉盛する。
【0049】
次いで、パドル本体6を裏返して、図4Gに示すように、ボス部8の膨出高さの低い背面側の、軸方向から見て回転軸4が挿通される軸挿通孔8aの周縁のボス部8の外周面から一方の頂部13aに向かって移動しながらこのボス部8の外周面に沿う円弧状に両側表面14の他方を溶接硬化肉盛する。同様に、図4Hに示すように、ボス部8の膨出高さの低い背面側の、軸方向から見て回転軸4が挿通される軸挿通孔8aの周縁のボス部8の外周面から他方の頂部13bに向かって移動しながらこのボス部8の外周面に沿う円弧状に両側表面14の他方を溶接硬化肉盛する。このようにしてボス部8を除く外表面13,14,15の全体に溶接下盛層16aを形成する。
【0050】
この溶接下盛工程の後の溶接上盛工程においても同様に、図4A図4Hの順でボス部8を除く外表面13,14,15の全体に溶接下盛層16aの上から溶接上盛層16bを施す。図4A及び図4Bに示す、頂部13の溶接においては、溶接上盛層16bを1層だけ設けてもよいが、2層設けてもよい。
【0051】
最後に図4Hの溶接上盛層16bが施された後、図4A及び図4Bに示す頂部13の溶接上盛を両方の頂部13を再び肉盛りして補強層を形成する。頂部13の溶接を最後に行うことで、頂部13が凹んだ形状となるのを防ぐことができる。
【0052】
本実施形態では、混練作業中に被混練物と接触して摩耗され得る混練パドル5の外表面13,14,15全体を溶接下盛層16aと溶接上盛層16bとの複数層で硬化肉盛り溶接することで、耐摩耗性が確実に向上する。
【0053】
溶接上盛工程において、ボス部8の外周面に沿う円弧状に両側表面14を順次溶接硬化肉盛した後、複数の頂部13を再び肉盛りして補強層を形成したので、頂部13は、溶接下盛層16aが1又は2層で、溶接上盛層16bが2又は3盛りとなり、頂部13の溶接硬化肉盛層16は、3層又は5層となる。それ以外の溶接硬化肉盛層16は、溶接下盛層16aが1層で、溶接上盛層16bも1層の合計2層となる。
【0054】
次いで、パドル本体6及び溶接硬化肉盛層16を例えばブランケット状の鉱物質断熱材(非アスベスト材)でくるんで常温近くまで徐冷を行う。
【0055】
次いで、目視で割れ、欠肉等がないか検査する。溶接上盛層16bにおける割れは、ある程度発生し、余熱方法や成分(タングステンカーバイドの比率)を工夫することで緩和させることはできるが、完全になくすことは難しい。したがって、割れが多くなりすぎていないかどうかを確認する。
【0056】
次いで、溶接硬化肉盛層16の外面形状仕上げ等を実施し、図2Cに示す混練パドル5が完成する。
【0057】
本実施形態では、一連の溶接工程において、特に耐摩耗性が必要な頂部13を含む外表面13,14,15全体の溶接が容易かつ確実に行われる。
【0058】
-実施例-
このような熱処理方法によって製造した混練パドル5の溶接硬化肉盛層16の断面形状を図5A図5Cに示す。本実施例では、母材がSUS304のパドル本体6を使用し、ニッケル基合金による溶接下盛層16aが1層で、タングステンカーバイト50%含有のニッケル合金の溶接上盛層16bが頂部13において2層、頂部13以外で1層行われた。
【0059】
図5Aに、下盛1層、上盛2層の、頂部13における断面マクロ、下盛及び上盛の断面ミクロを示す。図5Bに、軸方向両側表面14の平面部における断面マクロ、下盛及び上盛の断面ミクロを示す。図5Cに、円弧状外周面(R面)における断面マクロ、下盛及び上盛の断面ミクロを示す。
【0060】
これらの写真を見ても分かるように、頂部13の下盛層などが他の領域に比べて薄くなっているが、これは、頂部13の形状に起因すると考えられるので、下盛を2層にすることで対応可能である。
【0061】
また、上盛層に若干の亀裂の発生が確認されたが、これは、混練装置20での使用で問題のないレベルであることが分かった。
【0062】
図6に示すように、耐摩耗対策のないSUS304のような金属素材そのものでは、耐摩耗性を確保できない。
【0063】
タングステンカーバイトの焼結剤は、耐摩耗性は十分で、耐摩耗材の厚さは十分あるが、重いという欠点があり、入手も困難である。耐摩耗性対策のある各メーカーの特殊鋼材も同様である。
【0064】
メッキや溶射などの表面処理では、耐摩耗性はある程度確保できるが、耐摩耗材の厚みが薄く、母材との密着性が低く、剥離しやすいという欠点があり、薄すぎて角部の肉盛りが困難である。
【0065】
蒸着や窒化などの表面処理では、耐摩耗性はある程度確保でき、母材との密着性も高いが、耐摩耗材の厚みが薄く、剥離しやすいという欠点があり、薄すぎて角部の肉盛りが困難である。
【0066】
プラズマアーク溶接では、耐摩耗性はある程度確保でき、母材との密着性も高く、耐摩耗材の厚みも確保できるが、入熱量が多く、全面肉盛り溶接すると、母材に歪み、割れ、残留応力が発生するなどの熱影響が大きい。
【0067】
しかし、本実施形態のようなレーザクラッティングによると、耐摩耗性が高く、母材としてSUS304等を使用できて全体の重さが軽くて加工も容易であり、耐摩耗材の厚みも層数を工夫することで容易に確保でき、母材との密着性も高く、プラズマアーク溶接等に比べて入熱量が低くて熱影響を受けにくく、全面肉盛りが容易であり、材料の入手性もよいという格段に有利な特徴がある。
【0068】
したがって、本実施形態に係る混練パドルによると、軸挿通孔8aの周縁のボス部8を除く外表面13,14,15全体に溶接硬化肉盛層16を形成したことにより、混練パドル5の耐久性を確実に向上させることができる。
【0069】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0070】
すなわち、図7に示すような形状の混練パドル5’にも本発明が適用可能である。すなわち、この混練パドル5’は、略三角形のおにぎり型形状をしており、上記実施形態の図2Aの場合と同様に、キー溝7を介して回転軸4が取付けられる軸挿通孔8aが形成されたボス部8と、その回転中心の周りの3等配分位置に外方に膨出した3つの円弧面(回転方向側面15)が形成された膨出部とを有するパドル本体6を備えている。パドル本体6は、3つの頂部13を有し、ボス部8を除く外表面13,14,15全体に、上記実施形態と同様に溶接硬化肉盛層16が形成されている。
【0071】
また、上記実施形態では、混練パドル5は、頂部13が軸方向に直線状に延びるようにパドル本体6を形成しているが、撹拌機能の他に送り機能をも持たせるため、頂部13が1つの螺旋上に存在するように一定方向に捩じられて形成されていてもよい。この場合も、上記実施形態と同様の手順で溶接加工を行うとよい。
【0072】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0073】
1 ケーシング
2 トラフ
2a 混練室
3 ジャケット
4 回転軸
5,5’ 混練パドル
6 パドル本体
7 キー溝
8 ボス部
8a 軸挿通孔
13 頂部
13a 一方の頂部
13b 他方の頂部
14 両側表面
15 回転方向側面
16 溶接硬化肉盛層
16a 溶接下盛層
16b 溶接上盛層
20 混練装置
21 回転モータ
22 材料投入口
23 材料排出口
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5A
図5B
図5C
図6
図7