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特開2022-41246圧電体素子の製造方法、及び圧電体素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041246
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】圧電体素子の製造方法、及び圧電体素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/318 20130101AFI20220304BHJP
   H01L 41/319 20130101ALI20220304BHJP
   H01L 41/43 20130101ALI20220304BHJP
   C04B 35/491 20060101ALI20220304BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
H01L41/318
H01L41/319
H01L41/43
C04B35/491
C04B35/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146335
(22)【出願日】2020-08-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和1年9月3日 日本セラミックス協会発行 第35回日本セラミックス協会関東支部研究発表会講要旨集、第24~25頁にて公開 令和1年9月3日~4日 第35回日本セラミックス協会関東支部研究発表会にて公開 令和1年11月20日 日本セラミックス協会発行 第36回日韓国際セラミックスセミナープログラム集、ポスターセッションP-26頁にて公開 令和1年11月20日~23日 第36回日韓国際セラミックスセミナーにて公開 令和2年1月9日 実行委員長 藤 正督発行 第58回日本セラミックス基礎科学討論会 講演要旨集、第155頁にて公開 令和2年1月9日~10日 第58回日本セラミックス基礎科学討論会にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 久男
(72)【発明者】
【氏名】脇谷 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】坂元 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】川口 昂彦
(57)【要約】
【課題】CSD法によって、圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子をより低温で作製することができる圧電体素子の製造方法が提供される。
【解決手段】圧電体素子の製造方法は、基板、第1電極層、圧電体層、及び第2電極層をこの順に備える圧電体素子の製造方法であり、LNO層形成工程を含む。第1電極層は、ニッケル酸ランタン(LaNiO)系セラミックスからなるLNO層を含む。圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスを含み、かつLNO層の表面に形成されている。LNO層形成工程は、ランタン原子、ニッケル原子、及び炭素数1以上4以下の有機溶媒を含む第1膜を、10℃/秒以上の昇温速度で450℃以上600℃以下の温度まで昇温し、この温度を保持して、LNO層を形成する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、第1電極層、圧電体層、及び第2電極層をこの順に備える圧電体素子の製造方法であって、
前記第1電極層は、ニッケル酸ランタン系セラミックスからなるLNO層を有し、
前記圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスを有し、かつ前記LNO層の表面に形成されており、
ランタン原子、ニッケル原子、及び炭素数1以上4以下の有機溶媒を含む第1膜を、10℃/秒以上の昇温速度で450℃以上600℃以下の温度まで昇温し、前記温度を保持して、前記LNO層を形成するLNO層形成工程を含む、圧電体素子の製造方法。
【請求項2】
前記炭素数1以上4以下の有機溶媒は、アルコールを含む、請求項1に記載の圧電体素子の製造方法。
【請求項3】
前記昇温速度は、30℃/秒以上である、請求項1又は請求項2に記載の圧電体素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1膜は、2-メトキシエタノール、及び2-アミノエタノールの少なくとも一方を含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の圧電体素子の製造方法。
【請求項5】
前記圧電体層は、前記LNO層の表面に形成された下地層と、前記下地層の表面に形成された前記チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスからなるPZT層とを含み、
鉛原子、チタン原子、及び第1有機溶媒を含む第2膜を、450℃以上600℃以下で加熱して、前記LNO層の表面に前記下地層を形成する下地層形成工程と、
鉛原子、チタン原子、ジルコニウム原子、及び第2有機溶媒を含む第3膜を、450℃以上600℃以下で加熱して、前記下地層の表面に前記PZT層を形成するPZT層形成工程とを含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の圧電体素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2膜は、ジルコニウム原子を更に含有し、
前記第2膜のチタン原子に対するジルコニウム原子の割合は、モル比で、0%超25%未満である、請求項5に記載の圧電体素子の製造方法。
【請求項7】
前記PZT層形成工程において、
チタンアルコキシド化合物と、ジルコニウムアルコキシド化合物と、第3有機溶媒と、炭素数1以上8以下のモノカルボン酸及び炭素数2以上8以下のジカルボン酸の少なくとも一方とを添加して、第1溶液を調製し、
前記第1溶液に、水を添加した後、さらに、鉛原子、及び第4有機溶媒を含有する第2溶液を添加して、第3溶液を調製し、
前記第3溶液を前記下地層の表面に塗布して、前記第3膜を形成する、請求項5又は請求項6に記載の圧電体素子の製造方法。
【請求項8】
前記圧電体層は、前記LNO層の表面に形成された前記チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスからなるPZT層を含み、
チタンアルコキシド化合物と、ジルコニウムアルコキシド化合物と、第1有機溶媒と、炭素数1以上8以下のモノカルボン酸及び炭素数2以上8以下のジカルボン酸の少なくとも一方とを添加して、第1溶液を調製し、
前記第1溶液に、水を添加した後、さらに、鉛原子、及び第2有機溶媒を含有する第2溶液を添加して、第3溶液を調製し、
前記第3溶液を前記LNO層の表面に塗布して、鉛原子、チタン原子、ジルコニウム原子、及び第3有機溶媒を含む第3膜を形成し、
前記第3膜を、450℃以上600℃以下で加熱して、前記LNO層の表面に前記PZT層を形成するPZT層形成工程を含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の圧電体素子の製造方法。
【請求項9】
基板、第1電極層、圧電体層、及び第2電極層をこの順で備え、
前記第1電極層は、ニッケル酸ランタン系セラミックスからなるLNO層を有し、
前記圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスからなるPZT層を有し、
下記式(1)で表される変動率Aが10%以下であり、
下記式(2)で表される変動率Bが10%以下である、圧電体素子。
【数1】

(式(1)中、[A]は、前記PZT層の厚み方向の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM-EDX)で前記厚み方向に沿って分析をした、前記LNO層の表面から前記厚み方向の前記第2電極層側に第1距離離れた第1位置の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)を示し、[AX+100]は、前記分析をした、前記第1位置から前記厚み方向の前記第2電極層側に100nm離れた第2位置の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)を示し、
式(2)中、[B]は、前記分析をした、前記第1位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)を示し、[BX+100]は、前記分析をした、前記第2位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体素子の製造方法、及び圧電体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電特性を有するチタンジルコン酸鉛(Pb(Ti、Zr)O)薄膜(以下、「PZT薄膜」という。)を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスが注目を集めている。
【0003】
PZT薄膜は、その配向方向により物理定数が異なることが知られている。特に正方晶系、菱面体晶系及びその境界のMPB(Morphotropic phase boundary)組成のPZT薄膜は、c軸配向((001)配向)制御がされることで、高い圧電性及び強誘電性を示す。つまり、c軸配向制御されたPZT薄膜は、高い圧電定数d33を示すとともに、高い残留分極値Prを示す。
【0004】
PZT薄膜の成膜方法として、CSD(Chemical Solution Depositoon)法、及びスパッタリング法が知られている。なかでも、CSD法は、PZT薄膜の組成制御が容易で、スパッタリング法とは異なり、大きな基板に均一なPZT薄膜を容易に成膜できる。さらに、CSD法は、真空装置などの高価な設備を必要としないため、低コストである。そのため、CSD法によって、c軸配向制御されたPZT薄膜を成膜する研究が盛んに行われている。
【0005】
特許文献1には、CSD法による圧電体素子の製造方法が開示されている。特許文献1に開示の製造方法は、下部電極層形成工程と、圧電体層形成工程と、上部電極層形成工程とを有する。下部電極層形成工程、圧電体層形成工程、及び上部電極層形成工程は、この順に実行される。
【0006】
下部電極層形成工程では、シリコン基板の表面に、ニッケル酸ランタン(LaNiO)セラミックスからなる下部電極を形成する。詳しくは、シリコン基板の表面にLNO前駆体溶液を塗布し、急速加熱炉(RTA:Rapid Thermal Annealing)を用いて、昇温速度200℃/分、700℃で5分の条件で急速加熱し、ニッケル酸ランタンセラミックスの結晶化を行う。
【0007】
LNO前駆体溶液は、硝酸ランタン、酢酸ニッケル、2-メトキシエタノール、及び2-アミノエタノールからなる。
【0008】
圧電体層形成工程では、下部電極層の表面に、チタン酸ジルコン酸鉛セラミックスからなる圧電体層を形成する。詳しくは、下部電極層の表面にPZT前駆体溶液を塗布し、RTAを用いて、昇温速度200℃/分、650℃で5分の条件で、急速加熱し、チタンジルコン酸鉛セラミックスの結晶化を行う。
【0009】
PZT前駆体前駆体溶液は、Ti-Zr溶液をPb溶液に混合して得られる。Ti-Zr溶液は、チタンイソプロポキシド、ジルコンノルマルプロポキシド、及び無水エタノールからなる。Pb溶液は、酢酸鉛(II)、及び無水エタノールからなる。
【0010】
上部電極層形成工程では、金からなる上部電極層をイオンビーム蒸着法等により形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008-251916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に開示の製造方法では、基板は、650℃以上の高温に曝される。そのため、基板には、シリコン基板、酸化マグネシウム単結晶基板、チタン酸ストロンチウム単結晶基板、高融点ガラス基板等の熱的に安定性を有する基板が必要となる。その結果、圧電デバイスの設計の自由度が制限されるおそれがある。
【0013】
本開示は、上記に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、CSD法によって、より低温で圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子を製造することができる圧電体素子の製造方法を提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0015】
<1> 基板、第1電極層、圧電体層、及び第2電極層をこの順に備える圧電体素子の製造方法であって、
前記第1電極層は、ニッケル酸ランタン系セラミックスからなるLNO層を有し、
前記圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスを有し、かつ前記LNO層の表面に形成されており、
ランタン原子、ニッケル原子、及び炭素数1以上4以下の有機溶媒を含む第1膜を、10℃/秒以上の昇温速度で450℃以上600℃以下の温度まで昇温し、前記温度を保持して、前記LNO層を形成するLNO層形成工程を含む、圧電体素子の製造方法。
【0016】
<2> 前記炭素数1以上4以下の有機溶媒は、アルコールを含む、<1>に記載の圧電体素子の製造方法。
【0017】
<3> 前記昇温速度は、30℃/秒以上である、<1>又は<2>に記載の圧電体素子の製造方法。
【0018】
<4> 前記第1膜は、2-メトキシエタノール、及び2-アミノエタノールの少なくとも一方を含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載の圧電体素子の製造方法。
【0019】
<5> 前記圧電体層は、前記LNO層の表面に形成された下地層と、前記下地層の表面に形成された前記チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスからなるPZT層とを含み、
鉛原子、チタン原子、及び第1有機溶媒を含む第2膜を、450℃以上600℃以下で加熱して、前記LNO層の表面に前記下地層を形成する下地層形成工程と、
鉛原子、チタン原子、ジルコニウム原子、及び第2有機溶媒を含む第3膜を、450℃以上600℃以下で加熱して、前記下地層の表面に前記PZT層を形成するPZT層形成工程とを含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の圧電体素子の製造方法。
【0020】
<6>前記第2膜は、ジルコニウム原子を更に含有し、
前記第2膜のチタン原子に対するジルコニウム原子の割合は、モル比で、0%超25%未満である、<5>に記載の圧電体素子の製造方法。
【0021】
<7> 前記PZT層形成工程において、
チタンアルコキシド化合物と、ジルコニウムアルコキシド化合物と、第3有機溶媒と、炭素数1以上8以下のモノカルボン酸及び炭素数2以上8以下のジカルボン酸の少なくとも一方とを添加して、第1溶液を調製し、
前記第1溶液に、水を添加した後、さらに、鉛原子、及び第4有機溶媒を含有する第2溶液を添加して、第3溶液を調製し、
前記第3溶液を前記下地層の表面に塗布して、前記第3膜を形成する、<5>又は<6>に記載の圧電体素子の製造方法。
【0022】
<8> 前記圧電体層は、前記LNO層の表面に形成された前記チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスからなるPZT層を含み、
チタンアルコキシド化合物と、ジルコニウムアルコキシド化合物と、第1有機溶媒と、炭素数1以上8以下のモノカルボン酸及び炭素数2以上8以下のジカルボン酸の少なくとも一方とを添加して、第1溶液を調製し、
前記第1溶液に、水を添加した後、さらに、鉛原子、及び第2有機溶媒を含有する第2溶液を添加して、第3溶液を調製し、
前記第3溶液を前記LNO層の表面に塗布して、鉛原子、チタン原子、ジルコニウム原子、及び第3有機溶媒を含む第3膜を形成し、
前記第3膜を、450℃以上600℃以下で加熱して、前記LNO層の表面に前記PZT層を形成するPZT層形成工程を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の圧電体素子の製造方法。
【0023】
<9> 基板、第1電極層、圧電体層、及び第2電極層をこの順で備え、
前記第1電極層は、ニッケル酸ランタン系セラミックスからなるLNO層を有し、
前記圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスからなるPZT層を有し、
下記式(1)で表される変動率Aが10%以下であり、
下記式(2)で表される変動率Bが10%以下である、圧電体素子。
【数1】

(式(1)中、[A]は、前記PZT層の厚み方向の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM-EDX)で前記厚み方向に沿って分析をした、前記LNO層の表面から前記厚み方向の前記第2電極層側に第1距離離れた第1位置の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)を示し、[AX+100]は、前記分析をした、前記第1位置から前記厚み方向の前記第2電極層側に100nm離れた第2位置の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)を示し、
式(2)中、[B]は、前記分析をした、前記第1位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)を示し、[BX+100]は、前記分析をした、前記第2位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)を示す。)
【発明の効果】
【0024】
本開示の一実施形態によれば、CSD法によって、より低温で圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子を製造することができる圧電体素子の製造方法が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示の実施形態に係る圧電体素子の一態様の断面図である。
図2】チタンアルコキシドと、ジルコニウムアルコキシドと、部分安定化剤である酢酸との部分加水分解反応を説明するための図である。
図3】本開示の実施形態に係る圧電体素子の他の態様の断面図である。
図4】実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例5で得られたLNO層のX線回折パターン図である。
図5】実施例1及び実施例2で得られた圧電体素子の特性(P-Eヒステリシスループ)の測定結果を示す図である。
図6】実施例3及び実施例4で得られた圧電体素子の特性(P-Eヒステリシスループ)の測定結果を示す図である。
図7】参考例1のPZT層の厚み方向の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM-EDX)でPZT層の厚み方向に沿って線分析をしたPZT層の厚み方向のLNO層の表面からの距離に対する濃度比(Ti濃度/Pb濃度)及び濃度比(Zr濃度/Pb濃度)の各々の変動を示すグラフである。
図8】参考例2のPZT層の厚み方向の断面をSTEM-EDXでPZT層の厚み方向に沿って線分析をしたPZT層の厚み方向のLNO層の表面からの距離に対する濃度比(Ti濃度/Pb濃度)及び濃度比(Zr濃度/Pb濃度)の各々の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0027】
本開示の基板、第1電極層、圧電体層、及び第2電極層をこの順に備える圧電体素子の製造方法であって、第1電極層は、ニッケル酸ランタン系セラミックスからなるLNO層を有し、圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスを有し、かつLNO層の表面に形成されており、ランタン原子、ニッケル原子、及び炭素数1以上4以下の有機溶媒を含む第1膜を、10℃/秒以上の昇温速度で450℃以上600℃以下の温度まで昇温し、この温度を保持して、LNO層を形成するLNO層形成工程を含む。
【0028】
これにより、CSD法によって、より低温で圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子を製造することができる。これは、下記の理由によると推測される。
従来、LNO前駆体を高温(例えば、700℃)の結晶化温度で焼成することで、(100)方向に高配向したLNOが得られることが報告されていた。そのため、従来のLNO前駆体溶液の調製では、LNO前駆体を高温の第1結晶化温度で焼成するために、側鎖が大きい溶媒を用いてLNO前駆体を熱的に安定化させていた。具体的に、側鎖が大きい溶媒として、2-メトキシエタノール及び2-アミノエタノールを用いていた。これらの溶媒は、LNO前駆体溶液の調製過程で、例えば、硝酸ランタン、及び酢酸ニッケルとアルコール交換反応を起こして、熱的に安定なLNO前駆体を生成させる。この熱的に安定なLNO前駆体の側鎖の熱分解を促進させるために、700℃以上の第1結晶化温度でLNO前駆体を焼成していた。そうすることで、(100)方向に高配向したLNOが得られた。
一方、本開示では、LNO前駆体を急速昇温(10℃/秒以上)で加熱することで、短時間の間、LNO前駆体を高温に曝す。更に、第1実施形態では、従来の溶媒よりも側鎖が小さい炭素数1以上4以下の有機溶媒を用いる。そのため、従来よりも低温の第1結晶化温度でLNO前駆体の側鎖の熱分解は促進され得る。つまり、本開示では、炭素数1以上4以下の有機溶媒を用い、かつ10℃/秒以上の昇温速度でLNO前駆体を加熱することで、従来よりも低温の結晶化温度でLNO前駆体溶液を焼成しても、(100)方向に高配向したLNO系セラミックス膜が得られる。これにより、LNO系セラミックス膜の高配向性と低温結晶化は実現される。
【0029】
本開示の圧電体素子は、基板、第1電極層、圧電体層、及び第2電極層をこの順で備え、第1電極層は、ニッケル酸ランタン系セラミックスからなるLNO層を有し、圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスからなるPZT層を有し、下記式(1)で表される変動率Aが10%以下であり、下記式(2)で表される変動率Bが10%以下である。
【数2】

(式(1)中、[A]は、前記PZT層の厚み方向の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM-EDX)で前記厚み方向に沿って分析をした、前記LNO層の表面から前記厚み方向の前記第2電極層側に第1距離離れた第1位置の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)を示し、[AX+100]は、前記分析をした、前記第1位置から前記厚み方向の前記第2電極層側に100nm離れた第2位置の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)を示し、
式(2)中、[B]は、前記分析をした、前記第1位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)を示し、[BX+100]は、前記分析をした、前記第2位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)を示す。)
【0030】
これにより、本開示の圧電体素子は、圧電性及び強誘電性に優れる。
【0031】
以下、図面を参照して、本開示に係る金属部材、金属樹脂複合体、及び金属部材の製造方法の実施形態について説明する。また、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0032】
(1)第1実施形態
本開示の第1実施形態に係る圧電体素子1及び圧電体素子1の製造方法について説明する
【0033】
(1.1)圧電体素子
まず、図1を参照して、第1圧電体素子1について説明する。図1は、本開示の第1実施形態に係る圧電体素子1の断面図である。
【0034】
圧電体素子1は、図1に示すように、基板11と、第1電極層12と、圧電体層13と、第2電極層14とを備える。基板11、第1電極層12、圧電体層13、及び第2電極層14は、この順に積層されている。
【0035】
(1.1.1)基板
基板11としては、ガラス基板、半導体単結晶基板、金属基板、セラミックス基板、耐熱性プラスチック基板等が挙げられる。ガラス基板の材料としては、例えば、アミノシリケートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。半導体単結晶基板の材料としては、例えば、シリコン、酸化マグネシウム、Sr又はLaをドープしたチタン酸ストロンチウム等が挙げられる。金属基板の材料としては、例えば、ステンレス、チタン、アルミニウム、マグネシウム等が挙げられる。セラミックス基板の材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア等が挙げられる。基板11のサイズ等は、圧電体素子1の用途等に応じて適宜調製される。
【0036】
(1.1.2)第1電極層
第1実施形態では、第1電極層12は、ニッケル酸ランタン系セラミックスからなるLNO層12aからなる。
【0037】
ニッケル酸ランタン系セラミックスは、ニッケル酸ランタン(LaNiO)(以下、「LNO」という。)を主成分とする。主成分とは、ニッケル酸ランタン系セラミックスを構成する全成分に対する割合が60質量%以上である成分をいう。
【0038】
LNOは、R-3c(「-3」は3の上にバーを付した記号)の空間群を有し、菱面体に歪んだペロブスカイト型構造(菱面体晶系:a0=5.461Å(a0=ap)、α=60°、擬立方晶系:a0=3.84Å)を有する。LNOは、抵抗率が1×10-3(Ω・cm、300K)で、金属的電気伝導性を有する酸化物である。LNOでは、温度が変化しても金属-絶縁体転移は起こらない。
【0039】
ニッケル酸ランタン系セラミックスは、LNOのみならず、LNOのニッケルの一部を他の金属(以下、「置換金属」という。)で置換したセラミックスを含む。置換金属は、鉄、アルミニウム、マンガン、及びコバルトからなる群から選択された少なくとも1種の金属を含む。LNOのニッケルの一部を置換金属で置換したセラミックスとしては、例えば、鉄で置換したLaNiO-LaFeO、アルミニウムで置換したLaNiO-LaAlO、マンガンで置換したLaNiO-LaMnO、コバルトで置換したLaNiO-LaCoO等が挙げられる。LNOのニッケルの一部は、2種類以上の置換金属で置換されていてもよい。
【0040】
第1電極層12の膜厚は、圧電体素子1の用途等に応じて適宜調製され、好ましくは0.1μm以上0.4μm以下である。
【0041】
(1.1.3)圧電体層
第1実施形態では、圧電体層13は、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスからなるPZT層13aからなる。
【0042】
チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスは、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、「PZT」という。)を主成分とする。主成分とは、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスを構成する全成分に対する割合が80質量%以上である成分をいう。
【0043】
PZTは、一般式Pb(ZrTi1-x)O(0.4<x<1))で表される。PZTのチタン原子に対するジルコニウム原子の割合(Zr/Ti)は、モル比で、好ましくは67%(40/60)以上233%(70/30)以下、さらに好ましくは67%(40/60)以上150%(60/40)以下である。PZTのチタンに対するジルコニウムの割合(Zr/Ti)は、圧電体素子1の圧電性及び強誘電性を向上させる観点から、特に好ましくは、正方晶系と菱面体晶系との境界(モルフォトロピック相境界)付近の組成となる108%(52/48)である。
【0044】
PZT層13aは、その厚み方向における組成分布が均一であることが好ましい。これにより、圧電体素子1は、その厚み方向における組成分布が均一でない構成よりも圧電性及び強誘電性が優れる。
具体的に、下記式(1)で表される変動率Aが10%以下であり、下記式(2)で表される変動率Bが10%以下であることが好ましい。変動率A及び変動率Bの各々が、10%以下であれば、PZT層13aの厚み方向における組成分布が均一であるとみなすことができる。
【数3】
【0045】
式(1)中、[A]は、PZT層13aの厚み方向の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM-EDX)でPZT層13aの厚み方向に沿って分析された、第1位置の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)を示す。第1位置は、LNO層12aの表面S12からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に第1距離離れた位置を示す。
式(1)中、[AX+100]は、PZT層13aの厚み方向の断面をSTEM-EDXでPZT層13aの厚み方向に沿って分析された、第2位置の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)を示す。第2位置は、第1位置からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に100nm離れた位置を示す。
式(2)中、[B]は、PZT層13aの厚み方向の断面をSTEM-EDXでPZT層13aの厚み方向に沿って分析された、第1位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)を示す。
式(2)中、[BX+100]は、PZT層13aの厚み方向の断面をSTEM-EDXでPZT層13aの厚み方向に沿って分析された、第2位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)を示す。
【0046】
第1距離は、特に限定されず、好ましくは300nm以上600nm以下である。第1距離が300nm以上600nm以下であることは、変動率A及び変動率Bは、基板11近傍のPZT層13aの組成の変動を示す。特に、基板11近傍の変動率A及び変動率Bが10%以下であれば、PZT層13aの厚み方向における組成分布が均一であるとみなすことができる。
変動率Aは、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下であり、圧電体素子1により優れる圧電性及び強誘電性を発現させる観点から低いほど好ましい。変動率bは、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下であり、圧電体素子1により優れる圧電性及び強誘電性を発現させる観点から低いほど好ましい。
【0047】
このような厚み方向における組成分布が均一であるPZT層13aは、その製造工程において、例えば、後述する部分加水分解法を用いたPZT前駆体溶液を用いることで得られる。
【0048】
チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスは、PZTのみならず、PZTを主成分とし、Sr、Nb、及びAlからなる群から選択された少なくとも1種の金属を微量添加したセラミックス、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)及び亜鉛ニオブ酸鉛(PZN)の少なくとも一方を含有するセラミックスを含有してもよい。
【0049】
圧電体層13の膜厚は、圧電体素子1の用途等に応じて適宜調製され、好ましくは0.5μm以上5.0μm以下である。
【0050】
正方晶系のPZTは、バルクセラミックスの値でa=b=4.036Å、c=4.146Åの格子定数を有する材料である。そのため、a=3.84Åの格子定数を有する擬立方晶構造のLNOは、PZTの(001)面および(100)面との格子マッチングが良好である。
【0051】
格子マッチングとは、PZTの単位格子とLNOの単位格子との格子整合性を示す。一般的に、ある種の結晶面が表面に露出している場合、その結晶格子と、その表面に成膜する膜の結晶格子とがマッチングしようとする力が働き、界面でエピタキシャルな結晶核を形成しやすいことが知られている。
【0052】
PZT層13aの主配向面である(001)面および(100)面と、LNO層12aの主配向面S12との格子定数の差が絶対値で±10%以内であることが好ましい。格子定数の差がこの範囲内にあれば、PZT層13aの(001)面又は(100)面のいずれかの面の配向性を高くすることができる。そして、LNO層12aとPZT層13aの界面S12でエピタキシャルな結晶核を形成することができる。なお、格子マッチングによる配向制御において、(001)面及び(100)面のいずれかに選択的に配向した膜を実現することは困難である。
【0053】
LNOは後述する製造方法により作製することで、種々の基板の表面に擬立方晶系の(100)面に優先配向した膜を実現することができる。したがって、LNO層12aは、第1電極層12としての働きだけではなく、PZT層13aの配向制御層として機能する。このことから(100)面に配向したLNOの表面(格子定数:3.84Å)と格子マッチングのよい、PZT(格子定数:a=4.036、c=4.146Å)の(001)面または(100)面が選択的に生成する。
【0054】
(1.1.4)第2電極層
第2電極層14の材質は、導電性材料であればよく、金属、導電性金属酸化物等が挙げられる。金属としては、例えば、金、銀、白金、イリジウム、ルテニウム等が挙げられる。導電性金属酸化物としては、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、ニオビウムドープ酸化チタン(TNO)等が挙げられる。第2電極層14の膜厚は、圧電体素子1の用途等に応じて適宜調製すればよく、好ましくは0.1μm以上0.4μm以下である。
【0055】
(1.1.5)圧電体素子の用途
圧電体素子1は、各種電子機器に用いるセンサ、アクチュエータ、光学デバイス、マイクロポンプ、セラミックコンデンサ、強誘電体メモリ等に好適に用いられる。センサとしては、角速度センサ、赤外線センサ等が挙げられる。アクチュエータとしては、例えば、圧電アクチュエータ、超音波モータ等が挙げられる。光学デバイスとしては、光導波路、光スイッチ等が挙げられる。
特に第1実施形態では、後述するように、製造工程において、基板11の熱履歴の温度が550℃以下となり得る。そのため、基材11として、従来の圧電体素子には用いられなかったアミノシリケートガラス板が用いられ得る。これにより、圧電体素子1は、スマートフォンのタッチパネル等の透明電子部材に好適に用いられる。
【0056】
(1.2)圧電体素子の製造方法
次に、図2を参照して、第1実施形態に係る圧電体素子1の製造方法について説明する。
【0057】
第1実施形態に係る圧電体素子1の製造方法は、第1電極層形成工程と、圧電体層形成工程と、第2電極層形成工程とを含む。第1電極層形成工程、圧電体層形成工程、及び第2電極層形成工程は、この順で実行される。これにより、第1実施形態に係る圧電体素子1が得られる。
【0058】
(1.2.1)第1電極層形成工程
第1実施形態では、第1電極層形成工程は、第1溶液調製工程と、第1塗布工程と、第1乾燥工程と、第1仮焼工程と、第1本焼成工程とを有する。第1溶液調製工程、第1塗布工程、第1乾燥工程、第1仮焼工程、及び第1本焼成工程は、この順に実行される。これにより、基板11の表面にLNO層12aからなる第1電極層12が形成される。以下、第1電極層形成工程を「LNO層形成工程」という場合がある。
【0059】
(1.2.1.1)第1溶液調製工程
第1溶液調製工程では、LNO層12aの原料となるLNO前駆体溶液を調製する。LNO前駆体溶液は、ランタン化合物、ニッケル化合物、及び炭素数1以上4以下の有機溶媒を少なくとも添加して、調製される。
【0060】
ランタン化合物としては、例えば、硝酸ランタン、塩化ランタン、ランタンカルボン酸塩、ランタンアルコキシド等が挙げられる。ランタンカルボン酸塩としては、例えば、酢酸ランタン、オクチル酸ランタン、2-エチルヘキサン酸ランタン等が挙げられる。ランタンアルコキシドとしては、例えば、ランタンイソプロポキシド、ランタンブトキシド、ランタンエトキシド、ランタンメトキシエトキシド等が挙げられる。なかでも、ランタン化合物としては、硝酸ランタンが好ましい。
【0061】
ニッケル化合物としては、例えば、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、ニッケルカルボン酸塩、ニッケルアルコキシド等が挙げられる。ニッケルカルボン酸塩としては、例えば、酢酸ニッケル、オクチル酸ニッケル、2-エチルヘキサン酸ニッケル等が挙げられる。ニッケルアルコキシドとしては、例えば、ニッケルイソプロポキシド、ニッケルブトキシド、ニッケルエトキシド、ニッケルメトキシエトキシド等が挙げられる。なかでも、ニッケル化合物としては、酢酸ニッケルが好ましい。
【0062】
炭素数1以上4以下の有機溶媒は、ランタン化合物及びニッケル化合物の各々に対する溶解度が高く、低温(例えば、300℃)で熱分解する有機溶媒であることが好ましい。具体的に、炭素数1以上4以下の有機溶媒としては、例えば、炭素数1以上4以下のアルコール、炭素数1以上4以下のエーテル等が挙げられる。炭素数1以上4以下のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール等が挙げられる。炭素数1以上4以下のエーテルとしては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等が挙げられる。これらの炭素数1以上4以下の有機溶媒は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。なかでも、炭素数1以上4以下の有機溶媒としては、アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。炭素数1以上4以下の有機溶媒の添加量は、ランタン化合物及びニッケル化合物の合計100質量部に対して、好ましくは400質量部以上2000質量部以下、より好ましくは500質量部以上2000質量部以下である。
【0063】
LNO前駆体溶液は、炭素数1以上4以下の有機溶媒とは異なる他の有機溶媒を含有してもよい。他の有機溶媒としては、2-メトキシエタノール、2-アミノエタノール等が挙げられる。これらの他の有機溶媒は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。なかでも、LNO前駆体溶液は、2-メトキシエタノール、及び2-アミノエタノールの少なくとも一方を含有することが好ましい。LNO前駆体溶液が2-メトキシエタノール、及び2-アミノエタノールの少なくとも一方を含有することで、圧電性及び強誘電性がより優れる圧電体素子1が得られる。他の有機溶媒の混合割合は、炭素数1以上4以下の有機溶媒100質量部に対して、好ましくは5質量部以上30質量部以下である。
【0064】
(1.2.1.2)第1塗布工程
第1塗布工程では、LNO前駆体溶液を基材11の表面に塗布する。これにより、基材11の表面にLNO塗布膜が形成される。LNO塗布膜は、ランタン原子、ニッケル原子、及び炭素数1以上4以下の有機溶媒を含む。LNO塗布膜は、第1膜の一例である。
LNO塗布膜の塗布方法は、特に限定されず、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法等が挙げられる。スピンコート法では、単位時間当たりの回転数を制御することで、LNO塗布膜の膜厚が基板11の表面に均一な薄膜を均一に塗布することができる。例えば、基板11の回転速度を早くすることで膜厚を薄くすることができる。また、ディップコート法では、基板11の引き上げ速度を速くすることで膜厚を薄くすることができる。
【0065】
LNO塗布膜の膜厚は、好ましくは0.1μm以上0.3μm以下である。
【0066】
(1.2.1.3)第1乾燥工程
第1乾燥工程では、LNO塗布膜を乾燥させる。これにより、得られるLNO層12a中の物理吸着水分は除去され得る。乾燥温度は、好ましくは100℃超200℃未満である。
【0067】
(1.2.1.4)第1仮焼工程
第1仮焼工程では、LNO塗布膜を仮焼する。これにより、得られるLNO層12a中に有機成分が残留することを抑制し得る。仮焼温度は、好ましくは200℃以上400℃未満である。
【0068】
(1.2.1.5)第1本焼成工程
第1本焼成工程では、急速加熱炉(RTA:Rapid Thermal Annealing)を用いて、LNO塗布膜を10℃/秒以上の昇温速度で450℃以上600℃以下の温度(以下、「第1結晶化温度」という。)まで昇温し、第1結晶化温度を保持して、LNOの結晶化を行う。これにより、(100)面方向に高配向したLNO層12aが得られる。これは、下記の理由によると推測される。
すなわち、LNO前駆体を高温(例えば、700℃)の第1結晶化温度で焼成することで、(100)方向に高配向したLNOが得られることが報告されていた。そのため、従来のLNO前駆体溶液の調製では、LNO前駆体を高温の第1結晶化温度で焼成するために、側鎖が大きい溶媒を用いてLNO前駆体を熱的に安定化させていた。具体的に、側鎖が大きい溶媒として、2-メトキシエタノール及び2-アミノエタノールを用いていた。これらの溶媒は、LNO前駆体溶液の調製過程で、例えば、硝酸ランタン、及び酢酸ニッケルとアルコール交換反応を起こして、熱的に安定なLNO前駆体を生成させる。この熱的に安定なLNO前駆体の側鎖の熱分解を促進させるために、700℃以上の第1結晶化温度でLNO前駆体を焼成していた。そうすることで、(100)方向に高配向したLNOが得られた。
一方、第1実施形態では、LNO前駆体を急速昇温(10℃/秒以上)で加熱することで、短時間の間、LNO前駆体を高温に曝す。更に、第1実施形態では、従来の溶媒よりも側鎖が小さい炭素数1以上4以下の有機溶媒を用いる。そのため、従来よりも低温の第1結晶化温度でLNO前駆体の側鎖の熱分解は促進され得る。つまり、第1実施形態では、炭素数1以上4以下の有機溶媒を用い、かつ10℃/秒以上の昇温速度でLNO前駆体を加熱することで、従来よりも低温の第1結晶化温度でLNO前駆体溶液を焼成しても、(100)方向に高配向したLNO系セラミックス膜が得られる。これにより、LNO系セラミックス膜の高配向性と低温結晶化は実現される。
【0069】
また、LNO層12aは基板11に関係なく、(100)面方向に配向し易い。そのため、基板11の選択の自由度が高い。
【0070】
昇温速度は、10℃/秒以上であり、好ましくは30℃/秒以上である。昇温速度が30℃/秒以上であると、圧電性及び強誘電性がより優れる圧電体素子1が得られる。これは、昇温速度が30℃/秒以上であると、LNO前駆体は残留有機物が熱分解する高温に短時間で曝され、LNOは(100)方向により高配向されやすくなる。その結果、PZT層13aがc軸配向制御されやすくなるためと推測される。
【0071】
第1結晶化温度は、450℃以上600℃以下、好ましくは500℃以上600℃以下、より好ましくは500℃以上550℃以下である。第1結晶化温度が450℃未満であると、得られる圧電体素子1の圧電性及び強誘電性が十分ではない。また、LNO系セラミックスの結晶化を十分に促進させるため、第1結晶化温度の保持時間は、好ましくは10分以上である。
【0072】
LNO層12aの所望の膜厚は、例えば、第1塗布工程、第1乾燥工程、第1仮焼工程、及び第1本焼成工程を1サイクルとして、このサイクルを複数回繰り返すことで得られる。第1実施形態では、1サイクルあたり、0.04μm以上の膜厚のLNO層12aが形成され得る。
【0073】
(1.2.2)圧電体層形成工程
第1実施形態では、圧電体層形成工程は、第2溶液調製工程と、第2塗布工程と、第2乾燥工程と、第2仮焼工程と、第2本焼成工程とを含む。第2溶液調製工程、第2塗布工程、第2乾燥工程、第2仮焼工程、及び第2本焼成工程は、この順で実行される。これにより、LNO層12aの表面S12にPZT層13aが形成される。以下、圧電体層形成工程を「PZT層形成工程」という場合がある。
【0074】
(1.2.2.1)第2溶液調製工程
第2溶液調製工程では、Pb溶液とTi-Zr溶液とを混合及び反応させて、PZT層13aの原料となるPZT前駆体溶液を調製する。Pb溶液は、請求項8における第2溶液の一例である。Ti-Zr溶液は請求項8における第1溶液の一例である。PZT前駆体溶液は、請求項8における第3溶液の一例である。
【0075】
Pb溶液と第1Ti-Zr溶液とを混合する際、Pb成分の添加量は、化学量論組成(Pb(ZrTi1-x)O(0.4<x<1))に対して15mol%から20mol%過剰であることが好ましい。これにより、第2本焼成工程において、揮発による鉛成分の不足分を補うことができる。
【0076】
(a)Pb溶液
Pb溶液は、例えば、鉛化合物を第1有機溶媒に加えて、アンモニアガスをバブリングしながら還流することで得られる。鉛化合物が水和物を含む場合は、鉛化合物を乾燥させた後に、乾燥後の鉛化合物を第1有機溶媒に加える。Pb溶液は、鉛、及び第1有機溶媒を含有する。第1有機溶媒は、請求項8における第2有機溶媒の一例である。
鉛化合物としては、酢酸鉛(II)、鉛ジイソプロキシド、鉛ジブトキシド等が挙げられる。これらの鉛化合物は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。
第1有機溶媒としては、エタノール、キシレン、ブタノール等が挙げられる。これらの第1有機溶媒は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。
【0077】
(b)第1Ti-Zr溶液
第1実施形態では、第1Ti-Zr溶液は、部分加水分解法により調製される。詳しくは、第1チタンアルコキシド化合物と、第1ジルコニウムアルコキシド化合物と、第2有機溶媒と、炭素数1以上8以下のモノカルボン酸及び炭素数2以上8以下のジカルボン酸の少なくとも一方(部分安定化剤)とを少なくとも添加して第1混合溶液を調製し、第1混合溶液に、水を加えて部分加水分解及び重縮合を行うことで調製される。第1混合溶液は、第1溶液の一例である。第2有機溶媒は、請求項8における第1有機溶媒の一例である。
【0078】
第1チタンアルコキシド化合物及び第1ジルコニウムアルコキシド化合物を混合する際、チタン原子に対するジルコニウム原子の割合(Zr/Ti)は、モル比で、好ましくは67%(40/60)以上233%(70/30)以下、さらに好ましくは67%(40/60)以上150%(60/40)である。チタンに対するジルコニウムの割合(Zr/Ti)は、特に好ましくは、PZTの正方晶系と菱面体晶系との境界(モルフォトロピック相境界)付近の組成となる108%(52/48)である。
【0079】
第1チタンアルコキシド化合物としては、チタンイソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド等が挙げられる。これらの第1チタンアルコキシド化合物は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。
【0080】
第1ジルコニウムアルコキシド化合物としては、ジルコニウムノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド等が挙げられる。これらの第1ジルコニウムアルコキシド化合物は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。
【0081】
第2有機溶媒としては、エタノール、キシレン、ブタノール等が挙げられる。これらの第2有機溶媒は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。第2有機溶媒は、第1有機溶媒と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0082】
炭素数1以上8以下のモノカルボン酸及び炭素数2以上8以下のジカルボン酸の少なくとも一方は、後述するように、PZT前駆体の部分安定化剤として機能する。
炭素数1以上8以下のモノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、ヘキサン酸、2-メチルペンタン酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、2-エチルブタン酸、3-エチルブタン酸、ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、3-メチルヘキサン酸、4-メチルヘキサン酸、5-メチルヘキサン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、2-エチルペンタン酸、3-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、2-メチルヘプタン酸、3-メチルヘプタン酸、4-メチルヘプタン酸、5-メチルヘプタン酸、6-メチルヘプタン酸、2,2-ジメチルヘキサン酸、3,5-ジメチルヘキサン酸等が挙げられる。これらの炭素数1以上8以下のモノカルボン酸は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。
炭素数2以上8以下のジカルボン酸としては、例えば、シユウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸等が挙げられる。これらの炭素数2以上8以下のジカルボン酸は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。
炭素数1以上8以下のモノカルボン酸及び炭素数2以上8以下のジカルボン酸の少なくとも一方の添加量は、Zrイオン及びTiイオンの合計量1molに対して、例えば、1.5molである。
【0083】
水としては、蒸留水、イオン交換水等が挙げられる。水の添加量は、Zrイオン及びTiイオンの合計量1molに対して、例えば1molである。
【0084】
第1実施形態では、Pb溶液と、部分加水分解法により調製された第1Ti-Zr溶液とを混合及び反応させて調製されたPZT前駆体溶液が用いられる。
これにより、得られる圧電体素子1の圧電性及び強誘電性は、部分加水分解法により調製されていないTi-Zr溶液を用いた構成よりも優れる。これは、得られる圧電体素子1の厚み方向における組成分布が均一になることが主要因であると推測される。
具体的には、有機溶媒中の反応制御(化学修飾制御法を用いたPZT前駆体の部分加水分解法)により、PZT前駆体溶液中で金属-酸素結合を形成させるための分子設計を実現した。
図2は、チタンアルコキシドと、ジルコニウムアルコキシドと、部分安定化剤である酢酸との部分加水分解反応を説明するための図である。図2に示すように、化学修飾制御法によるペロブスカイト構造のBサイトの反応制御は、酢酸のキレート化による立体障害Xで優先的に加水分解される側鎖基を作り、高重合度で均質性の高いTi-Zr溶液が合成される。この高重合度で均質性の高いTi-Zr溶液をPb溶液と混合及び反応させることで、組成変化が小さいPZT前駆体が得られる。そのため、得られる圧電体素子1の厚み方向における組成分布は、均一になると推測される。
また、従来、CSD法では、PZT前駆体を600℃以上の温度(以下、「第2結晶化温度」という。)で焼成して、PZT系セラミックスの結晶化を行う必要があった。一方、第1実施形態では、部分加水分解法により調製された第1Ti-Zr溶液を含むPZT前駆体溶液と、LNOが(100)面方向に高配向されたLNO層12aとを用いることで、従来よりも低温の第2結晶化温度でPZT前駆体を焼成しても、PZT系セラミックス膜の結晶化が行えるようになったと考えられる。
【0085】
(1.2.2.2)第2塗布工程
第2塗布工程では、PZT前駆体溶液をLNO層12aの表面S12に塗布する。これにより、PZT塗布膜が得られる。PZT塗布膜は、鉛原子、チタン原子、ジルコニウム原子、第1有機溶媒、及び第2有機溶媒を含有する。PZT塗布膜は、請求項8における第3膜の一例である。第1有機溶媒及び第2有機溶媒は、請求項8における第3有機溶媒の一例である。
PZT前駆体溶液の塗布方法は、特に限定されず、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法等が挙げられる。
【0086】
(1.2.2.3)第2乾燥工程
第2乾燥工程では、PZT塗布膜を乾燥させる。これにより、PZT塗布膜中の水分、及び残留溶媒は除去され得る。乾燥温度は、好ましくは100℃超200℃未満である。乾燥温度が上記範囲内であれば、得られるPZT膜中に水分が残留することを抑制することができる。
【0087】
(1.2.2.4)第2仮焼工程
第2仮焼工程では、PZT塗布膜を仮焼する。これにより、得られるPZT塗布膜中に有機成分が残留することを抑制することができる。仮焼温度は、好ましくは200℃以上400℃未満である。
【0088】
(1.2.2.5)第2本焼成工程
第2本焼成工程では、急速加熱(RTA)炉を用いて、PZT塗布膜を急速加熱し、第2結晶化温度を保持して、PZT系セラミックスの結晶化を行う。
【0089】
昇温速度は、好ましくは3.3℃/秒以上であり、好ましくは10℃/秒以上である。昇温速度が3.3℃/秒以上であれば、得られる圧電体素子1の圧電性及び強誘電性がより優れる。
【0090】
第2結晶化温度は、好ましくは450℃以上600℃以下である。また、PZT系セラミックスの結晶化を十分に促進させるため、第2結晶化温度の保持時間は、好ましくは1分以上である。
【0091】
PZT層13aの所望の膜厚は、例えば、第2塗布工程、第2乾燥工程、第2仮焼工程、及び第2本焼成工程を1サイクルとして、このサイクルを複数回繰り返すことで得られる。第1実施形態では、1サイクルあたり、0.15μm以上の膜厚のPZT層13aが形成され得る。
【0092】
(1.2.3)第2電極層形成工程
第2電極層形成工程では、圧電体層13の表面に、第2電極層14を形成する。
第2電極層14の形成方法は、特に限定されず、例えば、イオンビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法、スパッタ法等が挙げられる。
【0093】
(2)第2実施形態
次に、図3を参照して、本開示の第2実施形態に係る圧電体素子1及び圧電体素子1の製造方法について説明する。図3は、本開示の第2実施形態に係る圧電体素子1の断面図である。
【0094】
(2.1)圧電体素子
第2実施形態に係る圧電体素子1は、第1電極層12が導電体層12bを有する点、及び圧電体層13が下地層13bを有する点で、第1実施形態に係る圧電体素子2と異なる。
【0095】
第2実施形態に係る圧電体素子1は、図3に示すように、基板11と、第1電極層12と、圧電体層13と、第2電極層14とを備える。
【0096】
(2.1.1)第1電極層
第2実施形態では、第1電極層12は、LNO層12aと、導電体層12bとを有する。第1電極層12において、LNO層12aは、最も圧電体層13側に位置する。そのため、圧電体層13は、LNO層12aの表面S12に積層されている。
【0097】
導電体層12bの材質としては、第2電極層14の材質として例示したものと同様のものが挙げられる。導電体層12bの膜厚は、圧電体素子1の用途等に応じて適宜調製すればよく、好ましくは0.1μm以上0.4μm以下である。
【0098】
(2.1.2)圧電体層
第2実施形態では、圧電体層13は、PZT層13aと、下地層13bとを有する。圧電体層13において、下地層13bは、最も第1電極層12側に位置する。そのため、下地層13bは、LNO層12aの表面S12に積層されている。
【0099】
下地層13bは、チタン酸鉛系セラミックスからなる。
チタン酸鉛系セラミックスは、一般式Pb(ZrTi1-x)O(0≦x<0.4))で表されるセラミックス(以下、「PT」という。)を主成分とする。主成分とは、チタン酸鉛系セラミックスを構成する全成分に対する割合が80質量%以上である成分をいう。
チタン酸鉛系セラミックスのチタン原子に対するジルコニウム原子の割合(Zr/Ti)は、モル比で、好ましくは0%(0/100)以上43%(30/70)以下、さらに好ましくは、0%(0/100)超25%(20/80)未満である。
【0100】
チタン酸鉛系セラミックスは、PTのみならず、PTを主成分とし、Sr、Nb、及びAlからなる群から選択された少なくとも1種の金属を微量添加したセラミックス、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)及び亜鉛ニオブ酸鉛(PZN)の少なくとも一方を含有するセラミックスを含有してもよい。
【0101】
(2.2)圧電体素子の製造方法
第2実施形態に係る圧電体素子1の製造方法は、第1電極層形成工程が導電体層形成工程を含む点、及び圧電体形成工程が下地層形成工程を含む点で、第1実施形態に係れる圧電体素子1の製造方法と異なる。
【0102】
第2実施形態に係る圧電体素子1の製造方法は、第1電極層形成工程と、圧電体層形成工程と、第2電極層形成工程とを含む。第1電極層形成工程、圧電体層形成工程、及び第2電極層形成工程は、この順で実行される。
【0103】
(2.2.1)第1電極層形成工程
第2実施形態において、第1電極層形成工程は、導電体層形成工程と、第1溶液調製工程と、第1塗布工程と、第1乾燥工程と、第1仮焼工程と、第1本焼成工程とを有する。導電体層形成工程、第1溶液調製工程、第1塗布工程、第1乾燥工程、第1仮焼工程、及び第1本焼成工程は、この順に実行される。これにより、基板11の表面に、導電体層12b及びLNO層12aがこの順で積層されてなる第1電極層12が形成される。
【0104】
(2.2.1.1)導電体層形成工程
導電体層形成工程では、基板11の表面に、導電体層12bを形成する。
導電体層12bの形成方法は、特に限定されず、例えば、イオンビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法、スパッタ法等が挙げられる。
【0105】
第2実施形態に係る第1塗布工程、第1乾燥工程、第1仮焼工程、及び第1本焼成工程の各々は、第1塗布工程において、LNO前駆体溶液を導電体層12bの表面に塗布する他は、第1実施形態と同様にして実行される。
【0106】
(2.2.2)圧電体層形成工程
第2実施形態において、圧電体層形成工程は、第3溶液調製工程と、第3乾燥工程と、第3仮焼工程と、第3本焼成工程と、第2溶液調製工程と、第2乾燥工程と、第2仮焼工程と、第2本焼成工程とを含む。第3溶液調製工程、第3乾燥工程、第3仮焼工程、第3本焼成工程、第2溶液調製工程、第2乾燥工程、第2仮焼工程、及び第2本焼成工程は、この順で実行される。これにより、LNO層12aの表面S12に、下地層13b、及びPZT層13aがこの順に積層される。
【0107】
(2.2.2.1)第3溶液調製工程
第3溶液調製工程では、Pb溶液と第2Ti-Zr溶液とを混合して、下地層13bの原料となるPT前駆体溶液を調製する。
【0108】
Pb溶液と第2Ti-Zr溶液とを混合する際、Pb成分の添加量は、化学量論組成(Pb(ZrTi1-x)O(0≦x<0.4))に対し15mol%から20mol%過剰であることが好ましい。これにより、第3本焼成工程において、揮発によるPb成分の不足分を補うことができる。
【0109】
Pb溶液は、第1実施形態の第2溶液調製工程と同様にして、得られる。
【0110】
第2実施形態では、第2Ti-Zr溶液は、部分加水分解法により調製される。詳しくは、第2チタンアルコキシド化合物と、第3有機溶媒と、炭素数1以上8以下のモノカルボン酸及び炭素数2以上8以下のジカルボン酸の少なくとも一方(部分安定化剤)とを少なくとも添加して第2混合溶液を調製し、第2混合溶液に、水を加えて加水分解を行うことで調製される。第2混合溶液を調製する際、第2ジルコニウムアルコキシド化合物を添加してもよい。
【0111】

第2Ti-Zr溶液において、第2チタンアルコキシド化合物及び第2ジルコニウムアルコキシド化合物を混合する際、チタン原子に対するジルコニウム原子の割合(Zr/Ti)は、モル比で、好ましくは0%(0/100)以上43%(30/70)以下、さらに好ましくは、0%(0/100)超25%(20/80)未満である。
【0112】
第2チタンアルコキシド化合物としては、第1実施形態の第1チタンアルコキシド化合物として例示した化合物と同様の化合物が挙げられる。これらの第2チタンアルコキシド化合物は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。第2チタンアルコキシド化合物は、第1チタンアルコキシド化合物と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
第2ジルコニウムアルコキシド化合物としては、第1実施形態の第2ジルコニウムアルコキシド化合物として例示した化合物と同様の化合物が挙げられる。これらの第2ジルコニウムアルコキシド化合物は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。第2ジルコニウムアルコキシド化合物は、第1ジルコニウムアルコキシド化合物と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
第3有機溶媒としては、エタノール、キシレン、ブタノール等が挙げられる。これらの第3有機溶媒は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。第3有機溶媒は、第2有機溶媒と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
PT前駆体溶液の炭素数1以上8以下のモノカルボン酸としては、第1実施形態の炭素数1以上8以下のモノカルボン酸として例示した化合物と同様の化合物が挙げられる。これらの炭素数1以上8以下のモノカルボン酸は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。PT前駆体溶液の炭素数1以上8以下のモノカルボン酸は、PZT前駆体溶液の炭素数1以上8以下のモノカルボン酸と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
PT前駆体溶液の炭素数2以上8以下のジカルボン酸としては、第1実施形態の炭素数2以上8以下のジカルボン酸として例示した化合物と同様の化合物が挙げられる。これらの炭素数2以上8以下のジカルボン酸は一種単独で使用されてもよいし、二種以上組み合わせて使用されてもよい。PT前駆体溶液の炭素数2以上8以下のジカルボン酸は、PZT前駆体溶液の炭素数2以上8以下のジカルボン酸と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
炭素数1以上8以下のモノカルボン酸及び炭素数2以上8以下のジカルボン酸の少なくとも一方の添加量は、第2混合溶液中のZrイオン及びTiイオンの合計量1molに対して、例えば、1.5molである。
【0113】
(2.2.2.2)第3塗布工程
第3塗布工程では、PT前駆体溶液をLNO層12aの表面S12に塗布する。これにより、PT塗布膜が得られる。PT塗布膜は、鉛原子、チタン原子、第1有機溶媒、及び第3有機溶媒を含有し、必要に応じて、ジルコニウム原子を更に含有する。PT塗布膜は、請求項5における第2膜の一例である。
LNO前駆体溶液の塗布方法は、特に限定されず、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法等が挙げられる。
【0114】
ここで、PT前駆塗布膜のZrの含有量が多いほど、チタン酸鉛系セラミックスを結晶化するための第3結晶化温度を高くする必要がある。また、得られる圧電体層13中のZrの含有量が多いと、圧電性及び強誘電性により優れる圧電体素子1が得られる。そのため、PT塗布膜のチタン原子に対するジルコニウム原子の割合(Zr/Ti)が、モル比で、0%(0/100)超25%(20/80)未満であることが好ましい。これにより、第3結晶化温度を低く抑えつつ、圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子1が得られる。
チタン原子に対するジルコニウム原子の割合(Zr/Ti)を上記範囲内のPT塗布膜は、第2Ti-Zr溶液中のチタン原子に対するジルコニウム原子の割合(Zr/Ti)をモル比で、0%(0/100)超25%(20/80)未満に調整することで得られる。
【0115】
(2.2.2.3)第3乾燥工程
第3乾燥工程では、PT塗布膜を乾燥させる。これにより、PT塗布膜中の水分、及び残留溶媒は除去され得る。乾燥温度は、好ましくは100℃超200℃未満である。乾燥温度が上記範囲内であれば、得られるPT塗布膜中に水分が残留することを抑制することができる。
【0116】
(2.2.2.4)第3仮焼工程
第3仮焼工程では、PT塗布膜を仮焼する。これにより、得られるPT塗布膜中に有機成分が残留することを抑制することができる。仮焼温度は、好ましくは200℃以上400℃未満である。
【0117】
(2.2.2.5)第3本焼成工程
第3本焼成工程では、急速加熱(RTA)炉を用いて、PT塗布膜を急速加熱し、第3結晶化温度を保持して、PT系セラミックスの結晶化を行う。これにより、LNO層12aの表面S12に下地層13bが形成される。
【0118】
昇温速度は、好ましくは3.3℃/秒以上であり、好ましくは10℃/秒以上である。昇温速度が3.3℃/秒以上であれば、得られる圧電体素子1の圧電性及び強誘電性がより優れる。
【0119】
第3結晶化温度は、好ましくは450℃以上600℃以下である。また、PT系セラミックスの結晶化を十分に促進させるため、第3結晶化温度の保持時間は、好ましくは5分以上である。
【0120】
第2実施形態では、第2溶液調製工程、第2塗布工程、第2乾燥工程、第2仮焼工程、及び第2本焼成工程に各々は、第2塗布工程において、PZT前駆体溶液を下地層13bの表面に塗布する他は、第1実施形態と同様にして実行される。
このように、第2実施形態では、下地層13bの表面にPZT層13aを形成する。そのため、従来よりも低温の第2結晶化温度でPZT前記体溶液を焼成しても、PZT系セラミックスの結晶化を行うことができる。
【0121】
第2実施形態では、圧電体層13の所望の膜厚は、例えば、第2塗布工程、第2乾燥工程、第2仮焼工程、及び第2本焼成工程を1サイクルとして、このサイクルを複数回繰り返すことで得られる。
【0122】
(2.2.3)第2電極層形成工程
実施形態2において、第2電極層形成工程は実施形態1と同様にして実行される。
【実施例0123】
以下、本発明に係る実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0124】
[基材の準備]
基材11として、ガラス基板、及びシリコン基板を準備した。
【0125】
[LNO前駆体溶液の準備]
LNO前駆体溶液として、LNO(A)前駆体溶液と、LNO(B)前駆体溶液とを下記のようにして、調製した。LNO(A)前駆体溶液と、LNO(B)前駆体溶液とは、有機溶媒が異なる。
【0126】
〔LNO(A)前駆体溶液の調製〕
硝酸ランタン六水和物(La(NO・6HO) 20質量部をビーカーに秤量し、水和物の除去のために、150℃で1時間以上乾燥させて、第1乾燥物を得た。次いで、第1乾燥物を室温まで冷却させた後、第1乾燥物に、エタノール 90質量部及び2-メトキシエタノール 10質量部を加えて、室温で3時間攪拌して硝酸ランタンを溶解させ、溶液Aを得た。
酢酸ニッケル四水和物((CHCOO)Ni・4HO) 20質量部を第1セパラブルフラスコに秤量し、水和物の除去のため150℃で1時間乾燥させた後、200℃で1時間、計2時間乾燥させて、第2乾燥物を得た。次いで、第2乾燥物に、エタノール 90質量部、2-メトキシエタノール 5質量部及び2-アミノエタノール 5質量部を加え、110℃で30分間攪拌し、溶液Bを得た。
溶液Bを室温まで冷却後、溶液Aを溶液Bが入っている第1セパラブルフラスコに投入し、室温で3時間攪拌して、LNO(A)前駆体溶液を得た。
【0127】
〔LNO(B)前駆体溶液の調製〕
硝酸ランタン六水和物 20質量部をビーカーに秤量し、水和物の除去のために、150℃で1時間以上乾燥させて、第3乾燥物を得た。次いで、第3乾燥物を室温まで冷却させた後、第3乾燥物にエタノール 100質量部を加えて、室温で3時間攪拌して硝酸ランタンを溶解させて、溶液Cを得た。
酢酸ニッケル四水和物 20質量部を第2セパラブルフラスコに秤量し、水和物の除去のため150℃で1時間乾燥させた後、200℃で1時間、計2時間乾燥させて、第4乾燥物を得た。次いで、第4乾燥物に、エタノール 100質量部を加え、110℃で30分間攪拌し、溶液Dを得た。
溶液Dを室温まで冷却後、溶液Cを溶液Dが入っている第2セパラブルフラスコに投入し、室温で3時間攪拌して、LNO(B)前駆体溶液を得た。
【0128】
[PZT前駆体溶液の準備]
PZT前駆体溶液として、第1PZT(53/47)前駆体溶液と、第1PZT(30/70)前駆体溶液と、PT前駆体溶液と、第2PZT(53/47)前駆体溶液と、第2第1PZT(30/70)前駆体溶液とを下記のようにして、調製した。
第1PZT(53/47)前駆体溶液と、第1PZT(30/70)前駆体溶液と、PT前駆体溶液とは、溶液中のジルコニウムの含有量が異なる。
第2PZT(53/47)前駆体溶液と、第2PZT(30/70)前駆体溶液とは、溶液中のジルコニウムの含有量が異なる。
第1PZT(53/47)前駆体溶液、第1PZT(30/70)前駆体溶液、及びPT前駆体溶液の各々は、その原料に部分安定化剤(酢酸)を含むのに対し、第2PZT(53/47)前駆体溶液、及び第2PZT(30/70)前駆体溶液の各々は、その原料に部分安定剤を含まない。
【0129】
〔第1PZT(53/47)前駆体溶液の調製〕
酢酸鉛(II)三水和物((CHCOO)Pb・3HO)を第3セパラブルフラスコに秤量し、その水和物の除去のため150℃で3時間乾燥させて、第5乾燥物を得た。次いで、第5乾燥物に、無水エタノールを加え、アンモニアガスをフローさせながら、50℃で2時間加熱攪拌させ、Pb溶液を調製した。
Zr-Ti前駆体溶液は、部分加水分解法により調製した。詳しくは、ジルコニウム-n-プロポキシド(Zr(OC)、及びチタンテトライソプロポキシド(((CHCHO)Ti)を、第4セパラブルフラスコに秤量し、無水エタノールを加えて溶解し、78℃で2時間還流を行い、部分安定化剤である酢酸を加え、78℃で1時間還流して、溶液Eを得た。ジルコニウム-n-プロポキシドと、チタンテトライソプロポキシドとの混合割合は、(Zr/Ti)のモル比で、(53/47)とした。
次いで、溶液Eを冷却機中に移し、5℃で30分攪拌し、蒸留水を加え1時間部分加水分解反応を行うことで、Zr-Ti前駆体溶液を調製した。酢酸の添加量は、溶液E中において、Zrイオン及びTiイオンの合計量1molに対して1.5molとした。蒸留水の添加量は、溶液E中において、Zrイオン及びTiイオンの合計量1molに対して1molとした。
次いで、Pb溶液とZr-Ti前駆体溶液を混合及び反応させ、冷却器中において、5℃で16時間攪拌することで、第1PZT(53/47)前駆体溶液を得た。Pb溶液と、Zr-Ti前駆体溶液との混合割合は、Pb成分を化学量論組成(Pb(Zr0.53,Ti0.47)O)に対し20mol%過剰となるようにした。
【0130】
〔第1PZT(30/70)前駆体溶液の調製〕
ジルコニウム-n-プロポキシドと、チタンテトライソプロポキシドとの混合割合を、(Zr/Ti)のモル比で、(30/70)にした他は、(第1PZT(53/47)前駆体溶液の調製)と同様にして、第1PZT(30/70)前駆体溶液を得た。
【0131】
〔PT前駆体溶液の調製〕
ジルコニウム-n-プロポキシドを用いなかった他は、(第1PZT(53/47)前駆体溶液の調製)と同様にして、PT前駆体溶液を得た。
【0132】
〔第2PZT(53/47)前駆体溶液の調製〕
Zr-Ti前駆体溶液に部分安定化剤の酢酸を加えなかった他は、(第1PZT(53/47)前駆体溶液の調製)と同様にして、第2PZT(53/47)前駆体溶液を得た。
【0133】
〔第2PZT(30/70)前駆体溶液の調製〕
ジルコニウム-n-プロポキシドと、チタンテトライソプロポキシドとの混合割合を、(Zr/Ti)のモル比で43%(30/70)にしたこと、Zr-Ti前駆体溶液に部分安定化剤の酢酸を加えなかったことの他は、(第1PZT(53/47)前駆体溶液の調製)と同様にして、第2PZT(30/70)前駆体溶液を得た。
【0134】
(実施例1)
[第1電極層形成工程]
〔LNO層形成工程〕
ガラス基板の表面にLNO(A)前駆体溶液をスピンコート法により塗布し、LNO(A)塗布膜を得た。スピンコートの条件は、回転数2500rpm、30秒とした。
次いで、酸素雰囲気下において、LNO(A)塗布膜を150℃で10分間乾燥した後、150℃から350℃に昇温し、350℃で10分間仮焼した。
次いで、RTAを用いて、昇温速度40℃/秒で、350℃から550℃まで昇温し、550℃で15分間本焼成して、ガラス基板の表面にLNO薄膜を得た。
得られたLNO薄膜の形成方法と同様にして、LNO(A)前駆体溶液のスピンコート法による塗布、乾燥、仮焼及び本焼成を1サイクルとする作業を、得られたLNO薄膜上に3回繰り返した。
これにより、基板11の表面に、LNO層12aとして4層のLNO薄膜を得た。
【0135】
[圧電体層形成工程]
〔下地層形成工程〕
LNO層12aの表面S12に、PZT(30/70)前駆体溶液をスピンコート法により塗布し、PZT(30/70)塗布膜を得た。スピンコートの条件は、回転数2500rpm、30秒とした。
次いで、酸素雰囲気下において、PZT(30/70)塗布膜を150℃で10分間乾燥した後、150℃から420℃に昇温し、420℃で10分間仮焼した。
次いで、RTAを用いて、昇温速度3.3℃/秒で、420℃から550℃まで昇温し、550℃で15分間本焼成して、LNO層12aの表面S12に、下地層13bとしてPZT(30/70)膜を得た。
【0136】
〔PZT層形成工程〕
得られたPZT(30/70)薄膜の表面に、第1PZT(53/47)前駆体溶液をスピンコート法により塗布し、第1PZT(53/47)塗布膜を得た。スピンコートの条件は、回転数2500rpm、30秒とした。
次いで、酸素雰囲気下において、第1PZT(53/47)塗布膜を150℃で10分間乾燥した後、150℃から420℃に昇温し、420℃で10分間仮焼した。
次いで、RTAを用いて、昇温速度3.3℃/秒で、420℃から550℃まで昇温し、550℃で15分間本焼成して1PZT(30/70)薄膜の表面に、第1PZT(53/47)薄膜を得た。
得られた第1PZT(53/47)膜の形成方法と同様にして、第1PZT(53/47)前駆体溶液のスピンコート法による塗布、乾燥、仮焼及び本焼成を1サイクルとする作業を、得られたPZT(53/47)薄膜上に3回繰り返した。
これにより、LNO層12の表面S12に、下地層13bとしての1層のPZT(30/70)薄膜、PZT層13aとしての4層のPZT(53/47)薄膜がこの順で積層された圧電体層13を得た。
【0137】
[第2電極層形成工程]
PZT層13の表面に、イオンビーム蒸着法により、Auからなる上部電極層を得た。
【0138】
以上のようにして、圧電体素子を得た。
【0139】
(実施例2)
下記(1)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(1):LNO層形成工程において、RTAの昇温速度を20℃/秒としたこと
【0140】
(実施例3)
下記(2)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(2):LNO層形成工程において、LNO(A)前駆体溶液の代わりにLNO(B)前駆体溶液を用いたこと
【0141】
(実施例4)
下記(1)及び(2)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(1):LNO層形成工程において、RTAの昇温速度を20℃/秒としたこと
(2):LNO層形成工程において、LNO(A)前駆体溶液の代わりにLNO(B)前駆体溶液を用いたこと
【0142】
(実施例5)
下記(3)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(3):PZT層形成工程において、第1PZT(30/70)前駆体溶液の代わりに、PT前駆体溶液を用いたこと
【0143】
(実施例6)
下記(1)及び(3)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(1):LNO層形成工程において、RTAの昇温速度を20℃/秒としたこと
(3):PZT層形成工程において、第1PZT(30/70)前駆体溶液の代わりに、PT前駆体溶液を用いたこと
【0144】
(実施例7)
下記(2)及び(3)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(2):LNO層形成工程において、LNO(A)前駆体溶液の代わりにLNO(B)前駆体溶液を用いたこと
(3):PZT層形成工程において、第1PZT(30/70)前駆体溶液の代わりに、PT前駆体溶液を用いたこと
【0145】
(実施例8)
下記(1)~(3)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(1):LNO層形成工程において、RTAの昇温速度を20℃/秒としたこと
(2):LNO層形成工程において、LNO(A)前駆体溶液の代わりにLNO(B)前駆体溶液を用いたこと
(3):PZT層形成工程において、第1PZT(30/70)前駆体溶液の代わりに、PT前駆体溶液を用いたこと
【0146】
(実施例9)
下記(1)及び(4)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(1):LNO層形成工程において、RTAの昇温速度を20℃/秒としたこと
(4):PZT層形成工程において、第1PZT(30/70)前駆体溶液の代わりに、第1PZT(53/47)前駆体溶液を用いたこと
【0147】
(実施例10)
下記(5)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(5):PZT層形成工程において、第1PZT(53/47)前駆体溶液の代わりに第2PZT(53/47)前駆体溶液を用い、第1PZT(30/70)前駆体溶液の代わりに第2PZT(30/70)前駆体溶液を用いたこと
【0148】
(比較例1)
下記(6)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(6):LNO層形成工程において、RTAの昇温速度を3.3℃/秒としたこと
【0149】
(比較例2)
下記(2)及び(6)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(2):LNO層形成工程において、LNO(A)前駆体溶液の代わりにLNO(B)前駆体溶液を用いたこと
(6):LNO層形成工程において、RTAの昇温速度を3.3℃/秒としたこと
【0150】
(比較例3)
下記(7)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(7):LNO層形成工程において、550℃に代えて400℃で本焼成を行ったこと
【0151】
(比較例4)
下記(1)、(2)、及び(7)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(1):LNO層形成工程において、RTAの昇温速度を20℃/秒としたこと
(2):LNO層形成工程において、LNO(A)前駆体溶液の代わりにLNO(B)前駆体溶液を用いたこと
(7):LNO層形成工程において、550℃に代えて400℃で本焼成を行ったこと
【0152】
(比較例5)
下記(4)、(8)~(10)が異なる他は、実施例1と同様にして、圧電体素子を得た。
(4):PZT層形成工程において、第1PZT(30/70)前駆体溶液の代わりに、第1PZT(53/47)前駆体溶液を用いたこと
(8):基板11として、ガラス基板の代わりにシリコン基板を用いたこと
(9):LNO層形成工程において、昇温速度を40℃/秒から30℃/秒に代え、本焼成の条件を550℃で15分間から750℃で5分間に代えたこと
(10):PZT層形成工程において、乾燥条件を150℃から115℃に代え、仮焼条件を420℃から350℃に代え、本焼成条件を550℃で15分間を650℃で5分間に代えたこと
【0153】
(圧電体素子の測定等)
実施例1~実施例10、及び比較例1~比較例5の圧電体素子の圧電定数d33、及び残留分極(Pr:Remanent Polarization)を、下記の測定方法等により測定した。得られた残留分極Pr及び圧電定数d33の測定結果を表1に示す。
なお、表3中、残留分極Pr及び圧電定数d33の測定結果において、「0」とは、結晶性が悪いために、圧電定数d33及び残留分極Prを測定できなかったことを示す。
【0154】
(圧電定数d33の測定)
第1電極層及び第2電極層に電圧を印加した際の微小変位を、走査型プローブ顕微鏡(SPM)により測定し、圧電定数d33を求めた。
圧電定数d33が40(pm/V)以上である圧電体素子を、圧電性に優れる圧電体素子と評価した。
【0155】
(残留分極Prの測定)
残留分極Prの測定には、ソーヤ・タワー回路を用いた。すなわち、圧電体素子に三角波電圧を印加し、それによって生じる分極が更に表面電荷を発生させ、この表面電荷量を測定し、電極面積で除することによって、残留分極Prを求めた。
残留分極Prが15(μC/cm)以上である圧電体素子を、強誘電性に優れる圧電体素子と評価した。
【0156】
【表1】
【0157】
【表2】
【0158】
【表3】
【0159】
実施例1~実施例10では、硝酸ランタン、酢酸ニッケル、エタノールを含むLNO塗布膜を、10℃/秒以上の昇温速度で450℃以上600℃以下の第1結晶化温度まで昇温し、第1結晶化温度を保持して、LNO層を形成した。そのため、実施例1~実施例10の圧電体素子は、圧電定数d33が40(pm/V)以上で、かつ残留分極Prが15(μC/cm)以上であった。その結果、実施例1~実施例10では、CSD法によって、圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子をより低温で作製することができることがわかった。
【0160】
また、実施例1と実施例3との比較、及び実施例2と実施例4との比較とから明らかなように、LNO前駆体溶液の溶媒において、エタノール、2-メトキシエタノール及び2-アミノエタノールを含有する実施例1及び実施例2は、エタノールのみを含有する実施例3及び実施例4よりも、圧電体素子の圧電定数d33が高かった。その結果、LNO前駆体溶液の溶媒が炭素数1以上4以下の有機溶媒に加えて2-メトキシエタノール及び2-アミノエタノールを更に含有すると、圧電性により優れる圧電体素子を作製することができることがわかった。
【0161】
また、実施例1と実施例5との比較、実施例2と実施例6との比較、実施例3と実施例7との比較、及び実施例4と実施例8との比較から明らかなように、PT塗布膜のチタン原子に対するジルコニウム原子の割合が、モル比で、43%(30/70)である実施例1~実施例4は、0%である実施例5~実施例8よりも、圧電体素子の圧電定数d33及び残留分極Prがより高かった。その結果、PT塗布膜は、ジルコニウムを含有すると、圧電性及び強誘電性がより優れる圧電体素子を作製することができることがわかった。
【0162】
また、実施例2と実施例7との比較から明らかなように、圧電体層13が下地層13bを有する実施例2は、圧電体層13が下地層13bを有しない実施例7よりも、圧電体素子の圧電体素子の圧電定数d33及び残留分極Prがより高かった。その結果、圧電体層13が下地層13bを有することで、圧電性及び強誘電性がより優れる圧電体素子を作製することができることがわかった。
【0163】
また、実施例1と実施例10との比較から明らかなように、部分加水分解法により調製したZr-Ti前駆体溶液を用いた実施例1は、部分加水分解法により調製していないZr-Ti前駆体溶液を用いた実施例10よりも、圧電体素子の圧電体素子の圧電定数d33及び残留分極Prがより高かった。その結果、部分加水分解法により調製したZr-Ti前駆体溶液を用いることで、圧電性及び強誘電性がより優れる圧電体素子を作製することができることがわかった。
【0164】
一方、比較例1及び比較例2では、硝酸ランタン、酢酸ニッケル、エタノールを含むLNO塗布膜を、550℃まで10℃/秒未満の昇温速度で昇温した。そのため、比較例1及び比較例2の圧電体素子は、圧電定数d33が40(pm/V)未満で、かつ残留分極Prが15(μC/cm)未満であった。その結果、比較例1及び比較例2では、CSD法によって、圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子をより低温で作製することができないことがわかった。
【0165】
比較例3及び比較例4では、硝酸ランタン、酢酸ニッケル、エタノールを含むLNO塗布膜を、450℃未満の第1結晶化温度を保持して、LNO層を形成した。そのため、比較例1及び比較例2の圧電体素子は、圧電定数d33が40(pm/V)未満で、かつ残留分極Prが15(μC/cm)未満であった。その結果、比較例3及び比較例4では、CSD法によって、圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子をより低温で作製することができないことがわかった。
【0166】
比較例5では、LNO塗布膜の第1結晶化温度が750℃であった。そのため、比較例5の圧電体素子は、圧電定数d33が40(pm/V)以上で、かつ残留分極Prが15(μC/cm)以上であり、非常に優れた圧電体素子であったが(Pr=38μC/cm、d33=500pm/V)、基板11は750℃の高温に曝された。その結果、比較例5では、CSD法によって、圧電性及び強誘電性に優れる圧電体素子を作製することができることがわかったが、基板11は、650℃以上の高温に曝された。
【0167】
また、比較例1と実施例1との比較、比較例2と実施例2との比較から明らかなように、LNO層12aが基板11の表面に(100)面で優先配向しないと、部分加水分解法により調製したZr-Ti前駆体溶液を含むPZT前駆体溶液を用いても、得られる圧電体素子は、優れた圧電性及び強誘電性を発現しないことがわかった。
【0168】
図4は、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例5で得られたLNO層12aのX線回折パターン図である。図4に示すように、昇温速度が40℃/秒の実施例1、昇温速度が30℃/秒の比較例5、及び昇温速度が20℃/秒の実施例2では、LNO層が(100)面に優先配向されていることがわかった。一方、昇温速度3.3℃/秒の比較例1では、LNO層が(100)面に優先配向されていないことがわかった。これらの結果から、LNO層形成工程において、昇温速度を10℃/秒以上とすることで、LNO層を(100)面に優先配向されていることができることがわかった。
【0169】
図5は、実施例1及び実施例2で得られた圧電体素子の特性(P-Eヒステリシスループ)の測定結果を示す図である。図6は、実施例3及び実施例4で得られた圧電体素子の特性P-Eヒステリシスループ)の測定結果を示す図である。
図5に示すように、高温まで安定な分子構造を維持できたLNO(A)前駆体溶液を用いたLNO層12aをPZT層13aの配向制御層及び第1電極層12として用いて急速昇温(40℃/秒)した実施例1では、非常に大きな残留分極値(強誘電性)、及び比較的良好な圧電性(d33=170pm/V)が得られた。
図6に示すように、LNO(B)前記体溶液を用いたLNO層12aをPZT層13aの配向制御層及び第1電極層12として用いて急速昇温した実施例3及び実施例4でも、比較的良好な強誘電性と圧電性が得られることも分かった。しかし、LNO(A)前駆体溶液を用いることで、LNO(B)前駆体溶液を用いるよりも高性能な圧電体素子を作製できることが分かった。
【0170】
図7は、参考例1のPZT層13aの厚み方向の断面をSTEM-EDXでPZT層13aの厚み方向に沿って線分析をしたPZT層13aの厚み方向のLNO層12aの表面S12からの距離に対する、濃度比(Ti濃度/Pb濃度)及び濃度比(Zr濃度/Pb濃度)の各々の変動を示すグラフである。詳しくは、図7は、LNO層12の表面S12からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に0.41μm離れた位置からの100nm区間における濃度比(Ti濃度/Pb濃度)及び濃度比(Zr濃度/Pb濃度)の各々の変動幅を示す。また、参考例1の圧電体素子は、比較例5に準じて、部分加水分解法により調製された第1Ti-Zr溶液を含むPZT前駆体溶液を用いて作製された。参考例1の圧電体素子は、比較例5と同様に、圧電定数d33が40(pm/V)以上で、かつ残留分極Prが15(μC/cm)以上であり、非常に優れた圧電体素子である。0.41μmは、第1距離の一例である。LNO層12の表面S12からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に0.41μm離れた位置は、第1位置の一例である。LNO層12の表面S12からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に0.51μm離れた位置は、第2位置の一例である。
【0171】
図8は、参考例2のPZT層13aの厚み方向の断面をSTEM-EDXでPZT層13aの厚み方向に沿って線分析をしたPZT層13aの厚み方向のLNO層12の表面S12からの距離に対する、濃度比(Ti濃度/Pb濃度)及び濃度比(Zr濃度/Pb濃度)の各々の変動を示すグラフである。詳しくは、図8は、LNO層12の表面S12からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に0.34μm離れた位置からの100nm区間における濃度比(Ti濃度/Pb濃度)及び濃度比(Zr濃度/Pb濃度)の各々の変動幅を示す。また、参考例2の圧電体素子は、部分加水分解法により調製されていないPZT前駆体溶液を用いた他は、参考例1と同様に作製された。参考例2の圧電体素子は、参考例1とは異なり、圧電定数d33が40(pm/V)未満で、かつ残留分極Prが15(μC/cm)未満であった。
【0172】
部分加水分解法により調製されたPZT前駆体溶液を用いた参考例1では、非常に優れた強誘電性と圧電性を示した。
また、図7に示すように、LNO層12の表面S12からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に0.41μm離れた第1位置の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)は、0.270であった。LNO層12の表面S12からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に0.51μm離れた第2位置(第1位置からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に100nm離れた位置)の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)は、0.275であった。つまり、第1位置から第2位置までの100nmの間で濃度比(Ti濃度/Pb濃度)は、変動幅で0.005(変動率Aは約1%)しか変化していない。換言すると、組成傾斜CAが示すように、100nmにわたって濃度比(Ti濃度/Pb濃度)が均一であることがわかった。
さらに、参考例1では、第1位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)は、0.190であった。第2位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)は、0.175であった。つまり、第1位置から第2位置までの100nmの間で濃度比(Zr濃度/Pb濃度)は、変動幅で0.015(変動率Bは約8%)しか変化していない。換言すると、組成傾斜CBが示すように、100nmにわたって濃度比(Zr濃度/Pb濃度)が均一であることがわかった。
以上より、部分加水分解法により調製されたPZT前駆体溶液を用いた参考例1のPZT層13aは、その厚み方向における組成分布が均一であることがわかった。
【0173】
これに対し、部分加水分解法により調製されていないPZT前駆体溶液を用いた参考例2では、図8に示すように、LNO層12の表面S12からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に0.34μm離れた第1位置の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)は、約0.300であった。LNO層12の表面S12からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に0.44μm離れた第2位置(第1位置からPZT層13aの厚み方向の第2電極層14側に100nm離れた位置)の濃度比(Ti濃度/Pb濃度)は、0.225であった。つまり、第1位置から第2位置までの100nmの間で濃度比(Ti濃度/Pb濃度)は、変動幅で約0.075(変動率Aは約25%)と、大きく変化している。換言すると、組成傾斜CAが示すように、100nmにわたって濃度比(Ti濃度/Pb濃度)の均一性が低いことがわかった。
さらに、参考例2では、第1位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)は、約0.150であった。第2位置の濃度比(Zr濃度/Pb濃度)は、約0.200であった。つまり、第1位置から第2位置までの100nmの間で濃度比(Zr濃度/Pb濃度)は、変動幅で約0.050(変動率Bは約25%)と、大きく変化している。換言すると、組成傾斜CBが示すように、100nmにわたって濃度比(Zr濃度/Pb濃度)の均一性が低いことがわかった。
以上より、部分加水分解法により調製されたPZT前駆体溶液を用いた参考例1では、その厚み方向における組成分布の均一性が非常に高いので、強誘電性や圧電性が高いことがわかった。
【符号の説明】
【0174】
1 圧電体素子
11 基板
12 第1電極層
13 圧電体層
13a PZT層
13b 下地層
14 第2電極層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8