(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041277
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】バタークリーム用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20220304BHJP
A23L 9/20 20160101ALN20220304BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146382
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】特許業務法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】小林 真己
(72)【発明者】
【氏名】石田 栄一
【テーマコード(参考)】
4B025
4B026
【Fターム(参考)】
4B025LB20
4B025LG14
4B025LG16
4B025LG26
4B025LK01
4B025LP10
4B026DC06
4B026DG03
4B026DG04
4B026DH01
4B026DH03
4B026DH10
4B026DK03
4B026DX02
4B026DX03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】吸水量、歩留、ホイップ性能が向上し、保型性、及び口どけが良好なバタークリーム用油脂組成物の提供。
【解決手段】構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30~45質量%であり、炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量が1~9質量%であるエステル交換油、及びショ糖脂肪酸エステルを含有するバタークリーム用油脂組成物。
【効果】吸水量、歩留、ホイップ性能が向上し、保型性、および口どけが良好なバタークリーム用油脂組成物を提供することができる。更にこれをフィリング、トッピング又はサンド等の用途に使用することで、消費者にとって、魅力のある菓子類やパンを提供できるようになる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30~45質量%であり、炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量が1~9質量%であるエステル交換油、およびショ糖脂肪酸エステルを含有するバタークリーム用油脂組成物。
【請求項2】
油相部の20℃における固体脂含量が10~25%、30℃における固体脂含量が8%以下である、請求項1に記載のバタークリーム用油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子類またはパンのフィリング、トッピングまたはサンド等の用途に使用される、バタークリームに用いられるバタークリーム用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バタークリームとは、クッキー、ビスケット、バターケーキ等のフィリング、トッピングおよびサンド用途等に使用されているクリームの一形態である。
一般的にクリームとしては、油中水型乳化物であるバタークリームと水中油型乳化物であるホイップクリームがある。バタークリームはその原料となるショートニング、マーガリン等の状態で流通し、バタークリーム製造時に水溶性成分を添加する。そのため流通形態での保存性が良好である。一方、ホイップクリームは水溶性成分を含んだ状態で流通するため、バタークリームと比較して保存性に劣る。近年、食品ロス低減の目的から、常温でかつ賞味期限の長い製品が好まれるため、クリーム原料として、バタークリームの需要は増加している。
バタークリームは、充分に空気を抱き込むこと(良好なホイップ性能)により口どけを良好にすることができる。また吸水量が多いほど、風味のバラエティー化が容易になり、油っぽさを低減することができる。しかし水溶性成分を多く含む(吸水量が多い)バタークリームとした場合、糖類などの水溶性成分はべたつきの原因となるため、製造機材にバタークリームが付着しやすくなることで歩留が低下するといった問題が新たに発生する。さらに、充分に空気を抱き込み、水溶性成分を多く含むバタークリームは、保型性が劣り崩れやすくなるため、流通時の温度変化の耐性が弱く、容易に形がくずれてしまう。
上記課題を解決する技術として、特許文献1および2では、原料にパーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油を使用したバタークリーム用油脂組成物が開示されている。この技術では、バタークリームのホイップ性能と保型性、口どけの良さは改善するが、吸水量、および歩留向上は実現できない。
特許文献3では炭素数14以下の飽和脂肪酸含量と炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が規定されたランダムエステル交換油を使用したバタークリーム用油脂組成物が開示されている。この技術では保型性や口どけは改善するが、吸水量、歩留、およびホイップ性能が不十分となってしまう。
以上のように、製造時において吸水量、歩留、ホイップ性能が向上し、製造後、保型性と口どけに優れたバタークリームが得られるバタークリーム用油脂組成物は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-187437号公報
【特許文献2】特開2017-175982号公報
【特許文献3】特開2019-198284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、バタークリーム製造時の吸水量、歩留、ホイップ性能が向上し、保型性、および口どけに優れたバタークリームが得られるバタークリーム用油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の構成脂肪酸含有量で定義されるエステル交換油、およびショ糖脂肪酸エステルを配合して得られるバタークリーム用油脂組成物が、上記の課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の〔1〕~〔2〕である。
【0006】
〔1〕構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30~45質量%であり、炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量が1~9質量%であるエステル交換油、およびショ糖脂肪酸エステルを含有することを特徴とする、バタークリーム用油脂組成物。
〔2〕油相部の20℃における固体脂含量が10~25%、30℃における固体脂含量が8%以下である、〔1〕に記載のバタークリーム用油脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バタークリーム製造時の吸水量、歩留、ホイップ性能が向上し、保型性、および口どけに優れたバタークリームが得られるバタークリーム用油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、バタークリーム用油脂組成物は、構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30~45質量%であり、炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量が1~9質量%であるエステル交換油、およびショ糖脂肪酸エステルを含有することを特徴とする。その形態は水を含まないショートニングもしくは水を含むマーガリンいずれの形態であってもかまわない。バタークリームは、バタークリーム用油脂組成物と水溶性成分を混合したものである。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0009】
[エステル交換油]
本発明に用いるエステル交換油は、構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30~45質量%であり、炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量が1~9質量%である。ラウリン酸の含有量の下限値としては、好ましくは33質量%以上であり、より好ましくは36質量%以上である。ラウリン酸の含有量の上限値としては、好ましくは43質量%以下である。エステル交換油における構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上の場合、得られたバタークリーム用油脂組成物は良好なホイップ性能と、吸水量を得ることができる。エステル交換油における構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が45質量%以下であれば、炭素数20~24の飽和脂肪酸を1質量%以上含有させることができる。
エステル交換油における構成脂肪酸中の炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量下限値としては、好ましくは2質量%以上である。上限値としては、好ましくは6%以下である。エステル交換油における構成脂肪酸中の炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量が1質量%未満である場合、得られたバタークリーム用油脂組成物は良好なホイップ性能を得られず、吸水量が低下する。また製造されたバタークリームの保型性が低下する。9質量%を超える場合には製造されるバタークリームの口どけが悪化する。
エステル交換油の構成脂肪酸としてラウリン酸含有量が30~45質量%であり、炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量が1~9質量%の範囲であると、エステル交換油を含有するバタークリーム用油脂組成物はβ’型の結晶多型を形成しやすくなる。それによりバタークリームに含まれる油脂結晶がネットワークを形成し、空気や水を抱き込みやすくなると考えられ、結果として吸水量、ホイップ性能が向上する。
エステル交換油の製造方法は、ナトリウムメトキシド等のアルカリ触媒を用いた方法、あるいはリパーゼ等の酵素触媒を用いた方法等が挙げられる。エステル交換反応後、脱色・脱臭等の精製を行うことができる。本発明におけるエステル交換油とは、精製・脱臭して食用に適したものをいう。
【0010】
本発明に用いるエステル交換油は、具体的にはラウリン系油脂、および炭素数20~24の飽和脂肪酸を高い割合で含む油脂をエステル交換することによって得ることができる。ラウリン系油脂の具体例としては、パーム核油、パーム核オレイン、パーム核ステアリン、ヤシ油、またはこれらの水素添加油、およびこれらを1種または2種以上用いてエステル交換した油脂が挙げられる。ラウリン系油脂として上記油脂を1種または2種以上用いてもよい。炭素数20~24の飽和脂肪酸を高い割合で含む油脂としては、ハイエルシン菜種油を水素添加した極度硬化油、ハイエルシン菜種油を分別し水素添加した極度硬化油が挙げられる。また、イワシ、サバ、ニシン、マグロ、カツオ等の魚油を完全に水素添加した極度硬化油も挙げられる。本発明においては上記油脂を1種または2種以上用いてもよい。なお、構成脂肪酸中のラウリン酸および炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量が上記の範囲内であれば、それ以外の油脂を添加してもよい。
【0011】
バタークリーム用油脂組成物中の当該エステル交換油の含有量は、上記油脂結晶の量を増加させ吸水量とホイップ性能を向上させるという観点から、バタークリーム用油脂組成物中10~30質量%であることが好ましい。上限値としては、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。下限値としては、より好ましくは12質量%以上であり、さらに好ましくは14質量%以上である。当該エステル交換油の含有量を上記範囲に調整することにより、本発明の効果がより一層向上する。
【0012】
[その他の油脂]
本発明のバタークリーム用油脂組成物には上記エステル交換油の他に様々な油脂を含有することができる。例えば、液状油としては菜種油、大豆油、ヒマワリ油、紅花油、コーン油、ゴマ油、綿実油、米油、落花生油、亜麻仁油等が例として挙げられる。固体脂としては動植物油脂であるパーム油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、ラードおよびこれらの分別油、水素添加油が挙げられる。水素添加油の場合は、トランス脂肪酸を増加させないという観点から、極度硬化油とすることが好ましい。また、上述の油脂の中から、1種もしくは2種以上の組み合わせからなるエステル交換油を使用してもよい。本発明において、上記油脂を1種または2種以上用いてもよい。
【0013】
[ショ糖脂肪酸エステル]
本発明のバタークリーム用油脂組成物は、ショ糖脂肪酸エステルを含有することを特徴とする。ショ糖脂肪酸エステルは、エステル交換油の吸水性を低下することなく、水溶性成分を含みべたつきやすくなったバタークリームの製造機器への付着性を低下することにより、歩留を向上するという効果を有する。その歩留向上効果は、本発明のエステル交換油と併用して用いた場合に有効な効果である。
ショ糖脂肪酸エステルの含有量はバタークリーム用油脂組成物中、好ましくは0.05質量%以上1質量%以下である。下限値として、より好ましくは0.1質量%以上であり、上限値として、より好ましくは0.5質量%以下である。ショ糖脂肪酸エステルの含有量は上記範囲とすることで、バタークリーム製造時の吸水量、歩留が向上する。また、ショ糖脂肪酸エステルは、バタークリーム製造時の吸水量、歩留の観点から、脂肪酸部分の炭素数が8~30であることが好ましく、12~25であることがより好ましく、18~22であることがさらに好ましい。また、脂肪酸部分は不飽和脂肪酸であることが好ましい。これらの中でもショ糖オレイン酸エステル、もしくはショ糖エルカ酸エステルを用いることが特に好ましい。
【0014】
ショ糖脂肪酸エステルを配合したことによる吸水量、歩留向上の詳細なメカニズムは不明であるが、立体的にかさ高い分子構造の親水基であるショ糖部分がバタークリーム中の液糖部分と、脂肪酸エステル部分が油脂とそれぞれ親和性が高いことから、連続相である油脂中に液糖を包含することによって吸水量が向上する。これにより、油脂中からの液糖の染み出しが抑えられ、液糖由来のバタークリームのべたつきを抑制することができると推測される。さらに、それにより、バタークリーム製造機器への付着性が低下し、結果として歩留が向上すると推測される。
【0015】
また、ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、特に制限されないが、例えば、8以下であり、好ましくは6以下であり、より好ましくは4以下であり、さらに好ましくは2以下である。
【0016】
本発明において、上記ショ糖脂肪酸エステルとして、市販のものを用いることができる。例えば、三菱ケミカルフーズ社製のリョートーシュガーエステルP-170(ショ糖パルミチン酸エステル、HLB約1)、リョートーシュガーエステルS-170(ショ糖ステアリン酸エステル、HLB約1)、リョートーシュガーエステルO-170(ショ糖オレイン酸エステル、HLB約1)、リョートーシュガーエステルER-190(ショ糖エルカ酸エステル、HLB約1)、リョートーシュガーエステルER-290(ショ糖エルカ酸エステル、HLB約2)、およびリョートーシュガーエステルPOS-135(ショ糖混合脂肪酸エステル、HLB約1)等が挙げられる。
【0017】
[モノグリセリン脂肪酸エステル]
本発明のバタークリーム用油脂組成物は、モノグリセリン脂肪酸エステルを含有することが好ましい。モノグリセリン脂肪酸エステルを含有することにより、ショ糖脂肪酸エステルの歩留向上効果を低下させることなく、バタークリーム吸水性をさらに向上することができる。
モノグリセリン脂肪酸エステルの含有量はバタークリーム用油脂組成物中、好ましくは0.05質量%以上1質量%以下である。下限値として、より好ましくは0.1質量%以上であり、上限値として、より好ましくは0.5質量%以下である。モノグリセリン脂肪酸エステルの含有量は上記範囲とすることで、バタークリーム製造時の吸水量をさらに向上することができる。また、モノグリセリン脂肪酸エステルは、バタークリーム製造時の吸水量の観点から、脂肪酸部分の炭素数が8~30であることが好ましく、12~25であることがより好ましく、18~22であることがさらに好ましい。また、脂肪酸部分は不飽和脂肪酸であることが好ましい。また、モノグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は、特に制限されないが、例えば、8以下であり、好ましくは6以下である。
上記モノグリセリン脂肪酸エステルとして、市販のものを用いることができる。例えば、理研ビタミン社製のエマルジーMP(モノグリセリンパルミチン酸エステル、HLB4.3)、エマルジーMU(モノグリセリンリノール酸エステル、HLB4.2)、エマルジーOL-100H(モノグリセリンオレインル酸エステル、HLB4.3)等が挙げられる。
【0018】
バタークリーム用油脂組成物を製造する際に添加する乳化剤としては、本発明の効果を失わない範囲であれば、ショ糖脂肪酸エステルの他に、グリセリン脂肪酸エステル(上記モノグリセリン脂肪酸エステルを除く)、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、リン脂質等の乳化剤を用いてもよい。これらの乳化剤は、単独で用いることもでき、または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
本発明のバタークリーム用油脂組成物には、本発明の効果を失わない範囲であれば、乳化剤以外にその他の成分を含有することができる。その他の成分とは、例えば、食塩、増粘安定剤、乳および乳製品、卵および卵加工品、糖類、甘味料、着色料、酸化防止剤、保存料、植物蛋白、香料、pH調整剤、食品素材等が挙げられる。
【0020】
(バタークリーム用油脂組成物の製造)
本発明のバタークリーム用油脂組成物は、例えば以下のような製造方法により製造することができる。
ショートニング形態のバタークリーム用油脂組成物の場合は、まず、連続相となる油脂成分を加熱溶解し、ショ糖脂肪酸エステル等の添加物を溶解もしくは分散させる。これをボテーター、コンビネーター、パーフェクター等により急冷捏和処理し、さらに場合によっては熟成(テンパリング)することによって得ることができる。
【0021】
マーガリン形態のバタークリーム用油脂組成物の場合は、まず、連続相となる油脂成分を加熱溶解し、ショ糖脂肪酸エステル等の添加物を溶解もしくは分散させる。これに水相を加え、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等により急冷捏和処理し、さらに場合によっては熟成(テンパリング)することによって得ることができる。
水相の含有量は、マーガリン形態のバタークリーム用油脂組成物中に1~60質量%である。バタークリーム用油脂組成物の保存性の観点から、水相の含有量を17質量%以下とすることがより好ましい。
ショートニングおよびマーガリンは、加熱後、急冷捏和処理して製造されるが、この際の加熱条件は60~80℃で、10~25℃まで急冷し捏和することが好ましい。
【0022】
(バタークリーム)
本発明におけるバタークリームは、バタークリーム用油脂組成物と水溶性成分を含む。
バタークリーム用油脂組成物は、ショートニングもしくはマーガリン形態である。なお、ここでマーガリンとは、日本農林規格のマーガリンまたはファットスプレッドに該当するものである。
バタークリーム用油脂組成物は、本発明のエステル交換油とそれ以外の油脂からなり、バタークリーム用油脂組成物中、本発明のエステル交換油の含有量は10~30質量%が好ましく、ラウリン酸含有量は3~13.5質量%であり、炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量は0.1~2.7質量%である。
バタークリームの油相部(バタークリーム用油脂組成物中に含まれる油脂、乳化剤の混合物)は、20℃における固体脂含量(以下、SFCと記載する)が10~25%、30℃におけるSFCが8%以下であることが好ましい。バタークリーム製造時の温度は一般的に室温(15~25℃)であり、20℃におけるSFCが10~25%であると、15~25℃でのホイップ性能が良好となる。また口腔内の温度は30℃~35℃であり、30℃におけるSFCが8%以下であると、優れた口どけが得られる。
ショ糖脂肪酸エステルは、バタークリーム用油脂組成物中、0.05質量%以上1質量%以下が好ましい。
本発明における水溶性成分とは、バタークリームに含まれる水に可溶な成分のことを指す。具体的には、液状成分としては水、液糖、練乳、牛乳等が挙げられる。固形状成分としては粉糖、上白糖、食塩、脱脂粉乳等が挙げられる。その他にも、ジャム、甘味料、水溶性の香料や着色料、酸化防止剤、食品保存料等が挙げられる。これらの水溶性成分は、バタークリーム用油脂組成物の水相部として添加しても、バタークリーム製造時にバタークリーム用油脂組成物に対して添加してもよい。
バタークリーム中に、水溶性成分は10~75質量%含有させることが好ましく、50~65質量%であることがより好ましい。バタークリーム中の水溶性成分の量を上記範囲とすることで、バタークリーム製造時のべたつきが抑えられ、歩留が良好となる。水溶性成分が75質量%より多いと、染み出しが起きてバタークリームの保型性が悪くなる。また、10質量%より少ないと、バタークリームの口どけが悪くなり、好ましくない。バタークリーム中の水分量は、バタークリーム中に3~50質量%であることが好ましい。
【0023】
(バタークリームの製造)
ショートニングもしくはマーガリン形態であるバタークリーム用油脂組成物に対して水溶性成分およびその他の成分を加えて、これをホイップすることにより、バタークリームを製造することができる。その他の成分としては、水溶性成分に含まれないココアパウダー等のカカオ製品類、ピーナッツペースト等のナッツ類、油溶性の香料等を挙げることができる。なお、水溶性成分やその他の成分を添加する際、バタークリーム用油脂組成物はあらかじめホイップした状態であっても、ホイップしていない状態であってもどちらでもよい。
バタークリームをホイップするためには、撹拌/混合装置であれば特に限定されるものではなく、例えば、縦型ミキサー、連続ホイップマシーン等を用いて行うことができる。
【実施例0024】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0025】
(エステル交換油の製造)
エステル交換油A1は以下の通り製造した。すなわち、反応容器にパーム核油70質量%、ヤシ極度硬化油15質量%、菜種油10質量%、およびハイエルシン菜種極度硬化油5質量%を仕込み、窒素気流中、撹拌しつつ加熱した。100℃~120℃の状態で3時間以上この状態を保ち、油脂中の水分が100ppm以下になるまで脱水した。その後、油脂を80℃まで冷却し、アルカリ触媒(ナトリウムメチラート)を0.1~0.2質量部加え、撹拌下窒素気流中で30分間反応させた。触媒除去のため、反応液に70℃の温水を加え撹拌して洗浄した後、静置して油層と水層を分離した。分離した水層のpHが8以下になるまで温水洗浄を繰り返した後、窒素気流中、撹拌しつつ加熱し、100℃~120℃で水分が蒸発しなくなるまで脱水した。次いで、活性白土を3質量部加え15分間脱色した後、濾過した。得られた脱色油は230~240℃で3時間脱臭を行い、エステル交換油A1を得た。なお、エステル交換油A2~A9は表1に基づき、エステル交換油A1と同じ方法で製造した。混合油B1はエステル交換油A1と同一の原料油脂であるが、エステル交換を行っていない混合油である。
表1にエステル交換油A1~A9および混合油B1の組成、ラウリン酸含有量、および炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量の一覧を示す。
【0026】
(エステル交換油の分析評価)
得られたエステル交換油について脂肪酸組成を測定した。測定方法は、以下のとおりである。
脂肪酸組成:基準油脂分析試験法〈2.4.2.2-2013 脂肪酸組成〉に準じて測定した。ガスクロマトグラフィー装置は、Agilent 6850(アジレント・テクノロジー(株)製)を用い、カラムは、DB-WAX(アジレント・テクノロジー(株)製)を用いた。
【0027】
【0028】
(実施例1)
表2の配合組成で以下の方法によりバタークリーム用油脂組成物を製造した。すなわちエステル交換油A1:1.73kg、エステル交換油A6:1.73kg、エステル交換油A9:1.73kg、菜種油:3.47kg、モノグリセリン不飽和脂肪酸エステル:20g、ショ糖不飽和脂肪酸エステル:20gを配合し70℃で加熱溶解したのち、70℃に加熱した水:1.3kgを配合し、撹拌、乳化した。これをコンビネーター(シュレーダー社製)に通し、18℃に急冷捏和した後、20℃で24時間テンパリングし、バタークリーム用油脂組成物を得た。同様にして、実施例2~11、比較例1~4も製造した。なお、実施例10は水相成分を含まないため、油相成分を加熱溶解した後、コンビネーターにて18℃に急冷捏和した。
【0029】
(バタークリーム用油脂組成物中の油相部の分析評価)
表2に示したバタークリーム用油脂組成物の油相部について、SFCを測定した。測定方法は下記のとおりである。
SFC:基準油脂分析試験法〈2.2.9-2013 固体脂含量(NMR法)〉に準じて測定した。測定装置は、SFC-2000R(アステック(株)製)を用いた。
【0030】
(バタークリームの製造)
上記方法で得られたバタークリーム用油脂組成物を用いてバタークリームを製造した。
バタークリーム用油脂組成物200gを中速で5分撹拌した後に、液糖200gおよび水50gを添加し、中速で10分撹拌し、バタークリームを製造した。
なお、本発明の評価では室温20℃の試験室にて、5コートの縦型ミキサーでホイッパーを用いてバタークリームを製造した。液糖は、日食ハイマルトースシラップMC-45(水分量30%;日本食品化工)を使用した。バタークリーム用油脂組成物、液糖、および水はあらかじめ20℃に調温したものを使用した。
【0031】
(バタークリームの評価)
上記方法で得られたバタークリームにつき、吸水量、歩留、ホイップ性能、保型性および口どけを以下の方法にて評価した。
<吸水量>
吸水量が良好であることは、上記製造方法で製造したバタークリームにさらに多くの水溶性成分を追添できることを意味しており、バタークリームの風味のバラエティー化や油っぽさの低減において、より有利な効果であるといえる。
具体的には、上記製造方法にて製造したバタークリーム400gに対し、60秒ごとに50gの水をさらに加えて撹拌、均質化させた。水を保持できなくなり、分離が生じた時点を終点とし、終点に達するまでに添加した水の合計量を求めた。使用したバタークリーム用油脂組成物の油脂含有量と添加した水の合計量から、吸水指数を以下の式にて求め、その値にて吸水量の評価を行った。
吸水指数=(添加した水の量)/(バタークリーム用油脂組成物の油脂含有量)
吸水指数が高い程、吸水量がよいとの基準で評価し、吸水指数が4.0以上を大変良好(◎)、3.5以上4.0未満を良好(○)、3.0以上3.5未満をやや不良(△)、3.0未満を不良(×)とし、◎、○を実使用に適う合格範囲とした。
<歩留>
歩留とは、バタークリーム製造機器に付着せず製品として回収できる割合を指す。評価は、下記の方法にて間接的に評価した。
すなわち、上記製造方法にて製造したバタークリームに対し、パレットナイフ(刃渡り18cm、幅4cm、ステンレス製)を10cm差し込み、引き抜いた際にパレットナイフの刃に付着したバタークリームの重量を測定した。
付着したバタークリームの重量が少ないほど、バタークリーム製造時に製造機器(縦型ミキサー)への付着残存しにくくなり、歩留が良くなるとした。重量が1.0g未満を大変良好(◎)、1.0g以上2.0g未満を良好(○)、2.0g以上を不良(△)とし、◎、○を実使用に適う合格範囲とした。
<ホイップ性能>
ホイップ性能は、バタークリームの空気の抱き込みやすさを示す。空気を多く抱き込むことにより、バタークリームの口どけが良好になる。なお、本評価では水溶性成分を添加する前のバタークリーム用油脂組成物にて評価し、これをバタークリームの空気の抱き込みやすさとした。
評価は、計量カップ(内径10cm、容量113mL)にヘラを用いてバタークリーム用油脂を充填し、バタークリーム用油脂組成物の質量を測定した。次に、バタークリーム用油脂組成物200gを中速で5分撹拌した後に、計量カップ(内径10cm、容量113mL)にヘラを用いて充填し、ホイップ後のバタークリーム用油脂組成物の質量を測定した。ホイップ性能は以下の式にて得られた値にて評価した。なお、本発明の評価では室温20℃の試験室にて、5コートの縦型ミキサーでホイッパーを用いてホイップした。バタークリーム用油脂組成物はあらかじめ20℃に調温したものを使用した。
ホイップ性能=(ホイップ後の質量)/(ホイップ前の質量)
撹拌によって多くの空気を抱き込み、撹拌前と比べて比重が軽くなった程度が大きいほどホイップ性能がよいとの基準で評価し、ホイップ性能が0.50未満を大変良好(◎)、0.50以上0.55未満を良好(○)、0.55以上を不良(△)とし、◎、○を実使用に適う合格範囲とした。
<保型性>
本発明における保型性は、製造したバタークリームの温度耐性の指標である。
評価は、上記製造方法にて製造したバタークリームを絞り袋に入れた後、直径2cm幅で10gずつ絞り、直後にバタークリームの高さを測定した(保存前のバタークリームの高さ)。ついで25℃で一晩保存した後、バタークリームの高さを測定した(保存後のバタークリームの高さ)。以下の式を用いて高さの変化率を算出した。
高さの変化率=保存後のクリームの高さ(mm)/保存前のクリームの高さ(mm)
高さの変化率を以下の評価基準で評価し保型性の評価とした。保存の前後で高さの変化が少ないほど保型性がよいとの基準で評価し、高さの変化率が0.85以上を大変良好(◎)、0.70以上0.85未満を良好(○)、0.55以上0.70未満をやや不良(△)、0.55未満を不良(×)とし、◎、○以上を実使用に適う合格範囲とした。
<口どけ>
口どけとは、摂食時に口の中でバタークリームの油脂がすぐに溶解し、油っぽさを感じさせない食感を示す。ホイップ性能が良好であると、口どけが良好になる。
評価は、上記製造方法にて製造したバタークリームを10人のパネラーの官能評価にて評価した。口どけが良好な状態とは、口の中ですぐに油脂が溶解し、油っぽさを感じない状態をいう。比較例1の口どけを基準とし、口どけが非常に良好(◎)、良好(○)、比較例1と同等(△)、口どけが悪い(バタークリームの油っぽさが口に残る)(×)として評価した。最も多かった評価を口どけの評価とし、◎、○を実使用に適う合格範囲とした。
【0032】
【0033】
表2から明らかな通り、実施例1~16のバタークリーム用油脂組成物は、構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30~45質量%であり、炭素数20~24の飽和脂肪酸含有量が1~9質量%であるエステル交換油A1~A5のいずれかを含有し、かつショ糖脂肪酸エステル含有することから、吸水量、歩留、ホイップ性能が向上し、保型性、および口どけが良好なバタークリーム用油脂組成物であることがわかった。
【0034】
【0035】
表3から明らかなとおり、エステル交換油A1~A5を含有していない比較例1においては、吸水量、ホイップ性能、口どけが不十分であった。ショ糖脂肪酸エステルを含有していない比較例2においては、吸水量および歩留が不十分であった。エステル交換油A1に代えて、エステル交換を行っていない混合油B1を使用した比較例3においては、吸水量、ホイップ性能、および口どけが不十分であった。