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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041290
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/38 20060101AFI20220304BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20220304BHJP
   H02K 3/46 20060101ALI20220304BHJP
   H02K 3/50 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
H02K3/38 Z
F04B39/00 106E
H02K3/46 B
H02K3/50 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146396
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】特許業務法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 希幸
(72)【発明者】
【氏名】中根 芳之
【テーマコード(参考)】
3H003
5H604
【Fターム(参考)】
3H003AA01
3H003AB05
3H003AC03
3H003CF06
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC13
5H604PB03
5H604QB14
(57)【要約】
【課題】高性能化を実現しつつ、コイルエンドとステータコアとの間の絶縁性を維持し、かつ、大型化を抑制可能な電動圧縮機を提供する。
【解決手段】本発明の電動圧縮機は、電動モータ5等を備えている。電動モータ5は、ステータ5aとロータ5bとを有している。ステータ5aは、ステータコア50と、コイル53と、インシュレータ51と、中性点57とを有している。コイル53はコイルエンド53aを有している。インシュレータ51は、収容部51dを有している。収容部51dは、基部51aと第1周壁51bと第2周壁51cとからなる。収容部51dは、コイルエンド53aの一部を内部に収容する。中性点57は、駆動軸心O方向から見て、第1周壁51bと第2周壁51cとの間に配置されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と、
前記駆動軸を回転させる電動モータと、
前記駆動軸によって駆動され、流体の圧縮を行う圧縮機構と、
前記駆動軸及び前記電動モータを内部に収容するハウジングとを備え、
前記電動モータは、前記ハウジングに固定されるステータと、前記ステータ内に配置され、前記駆動軸とともに回転可能なロータとを有し、
前記ステータは、前記駆動軸の駆動軸心方向に延びる筒状をなすとともに、径方向に延びる複数の第1歯が内周側に形成されるステータコアと、
複数相の導線が前記各第1歯に巻回されて形成されるコイルと、
絶縁性を有し、前記ステータコアにおける前記駆動軸心方向の端面に設けられるインシュレータと、
前記複数相の導線が互いに結線された中性点とを有し、
前記コイルは、前記ステータコアよりも前記駆動軸心方向に突出するコイルエンドを有し、
前記インシュレータは、前記各第1歯よりも径方向の外側に位置し、前記ステータコアの前記端面に向かって前記駆動軸心方向に凹設された収容部を有し、
前記収容部は、前記インシュレータの周方向に環状に延びる基部と、
前記基部と接続し、前記インシュレータの周方向に延びるとともに、前記駆動軸心方向で前記ステータコアから離れるように延びる第1周壁と、
前記第1周壁よりも径方向の内側で前記基部と接続し、前記インシュレータの周方向に延びるとともに、前記駆動軸心方向で前記ステータコアから離れるように延びる第2周壁とからなり、
前記コイルエンドの一部は前記収容部の内部に収容され、
前記中性点は、前記駆動軸心方向から見て、前記第1周壁と前記第2周壁との間に配置されていることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記各第1歯と前記コイルとの間には絶縁性を有する絶縁シートが設けられ、
前記絶縁シートは、前記ステータコアよりも前記駆動軸心方向に延出する延出部を有し、
前記第2周壁は、前記各第1歯とともに前記複数相の導線が巻回される複数の第2歯を有し、
前記延出部は、前記各第2歯に当接しつつ前記各第2歯に支持されている請求項1記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記コイルエンドの端部には、前記駆動軸心方向から見て、前記第1周壁と前記第2周壁との間に凹む凹部が設けられ、
前記中性点は前記凹部内に配置されている請求項1又は2記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記中性点は、前記収容部内に配置されている請求項1又は2記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図8図11に従来の電動モータが開示されている。この電動モータは、車両駆動用の電動機として用いられている。電動モータは、ステータと、ステータ内に配置されたロータとを備えている。ロータには駆動軸が固定されている。ロータは、駆動軸とともにステータ内で回転可能である。
【0003】
ステータは、ステータコアと、コイルと、インシュレータとを有している。ステータコアは、駆動軸の駆動軸心方向に延びる筒状をなしている。ステータコアの内周側には、駆動軸心方向に延びる複数の第1歯が形成されている。コイルは、各第1歯に巻回された導線によって形成されている。また、コイルは、ステータコアよりも駆動軸心方向に突出するコイルエンドを有している。インシュレータは、絶縁性を有する樹脂によって形成されており、ステータコアにおける駆動軸心方向の端面に設けられている。これにより、インシュレータは、駆動軸心方向でステータコアとコイルエンドとの間に位置している。インシュレータは、駆動軸心方向でステータコアから離れるように延びる第1周壁を有している。
【0004】
この電動モータでは、インシュレータによって、コイルエンドとステータコアと駆動軸心方向に離隔させつつ、コイルエンドとステータコアとを絶縁している。ここで、電動モータでは、第1周壁によって、コイルエンドとステータコアとの間の絶縁距離を好適に確保している。こうして、この電動モータでは、作動時におけるコイルエンドからステータコアへの短絡を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-152957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種の電動モータは電動圧縮機にも採用され得る。また、電動圧縮機では、更なる高性能化が要求される。そこで、電動圧縮機では、ステータコアの各第1歯に対する導線の巻き数を増加させたり、導線の本数を増加させたりすることよって電動モータの性能向上を図ることが考えられる。
【0007】
しかし、導線の巻き数の増加や本数の増加によって、コイルエンドが大型化する。このため、コイルエンドとステータコアとが駆動軸心方向で接近し易くなり、作動時におけるコイルエンドからステータコアへの短絡が生じ易くなる。そこで、このように電動モータの性能向上を図りつつも、コイルエンドとステータコアとの間の絶縁を維持する必要がある。
【0008】
また、コイルエンドの大型化によって、電動モータ、ひいては電動圧縮機が大型化してしまう。さらに、このような電動モータには、複数相の導線を互いに結線させた中性点が存在するものの、導線の巻き数の増加や本数の増加によって、中性点も大型化する。この点においても、電動圧縮機が大型化してしまう。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高性能化を実現しつつ、コイルエンドとステータコアとの間の絶縁性を維持し、かつ、大型化を抑制可能な電動圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電動圧縮機は、駆動軸と、
前記駆動軸を回転させる電動モータと、
前記駆動軸によって駆動され、流体の圧縮を行う圧縮機構と、
前記駆動軸及び前記電動モータを内部に収容するハウジングとを備え、
前記電動モータは、前記ハウジングに固定されるステータと、前記ステータ内に配置され、前記駆動軸とともに回転可能なロータとを有し、
前記ステータは、前記駆動軸の駆動軸心方向に延びる筒状をなすとともに、径方向に延びる複数の第1歯が内周側に形成されるステータコアと、
複数相の導線が前記各第1歯に巻回されて形成されるコイルと、
絶縁性を有し、前記ステータコアにおける前記駆動軸心方向の端面に設けられるインシュレータと、
前記複数相の導線が互いに結線された中性点とを有し、
前記コイルは、前記ステータコアよりも前記駆動軸心方向に突出するコイルエンドを有し、
前記インシュレータは、前記各第1歯よりも径方向の外側に位置し、前記ステータコアの前記端面に向かって前記駆動軸心方向に凹設された収容部を有し、
前記収容部は、前記インシュレータの周方向に環状に延びる基部と、
前記基部と接続し、前記インシュレータの周方向に延びるとともに、前記駆動軸心方向で前記ステータコアから離れるように延びる第1周壁と、
前記第1周壁よりも径方向の内側で前記基部と接続し、前記インシュレータの周方向に延びるとともに、前記駆動軸心方向で前記ステータコアから離れるように延びる第2周壁とからなり、
前記コイルエンドの一部は前記収容部の内部に収容され、
前記中性点は、前記駆動軸心方向から見て、前記第1周壁と前記第2周壁との間に配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の電動圧縮機では、インシュレータがステータコアにおける駆動軸心方向の端面と、コイルエンドとの間に位置している。このため、この電動圧縮機では、性能向上に伴ってコイルエンドが大型化しても、インシュレータによって、コイルエンドとステータコアと駆動軸心方向に離隔させつつ、コイルエンドとステータコアとを絶縁できる。
【0012】
また、インシュレータは収容部を有しており、この収容部は、インシュレータにおいて、ステータコアの各第1歯よりも外周となる個所に位置しており、内部にコイルエンドの一部を収容する。これにより、この電動圧縮機では、導線の巻き数や本数を増加させて電動モータの性能向上を図りつつも、コイルエンドがステータコアに対して駆動軸心方向や径方向に突出することを抑制できる。ここで、コイルエンドのうち、収容部に収容された部分については、コイルエンドの他の部分よりも駆動軸心方向でステータコアに近づくことになる。しかし、コイルエンドにおいて収容部に収容された部分は、第1周壁と第2周壁とによって囲われる。さらに、インシュレータ自体が絶縁性を有している。これらのため、コイルエンドにおける収容部に収容された部分と、ステータコアとにおける絶縁性も維持される。
【0013】
さらに、この電動圧縮機では、中性点が駆動軸心方向から見て、第1周壁と第2周壁との間に配置されている。このため、この電動圧縮機では、たとえ中性点が大型化していても、中性点をコイルエンドの端部の他、コイルエンドとインシュレータとの間に配置し易く、電動モータが径方向に大型化することを抑制できる。
【0014】
したがって、本発明の電動圧縮機は、高性能化を実現しつつ、コイルエンドとステータコアとの間の絶縁性を維持し、かつ、大型化を抑制できる。
【0015】
各第1歯とコイルとの間には絶縁性を有する絶縁シートが設けられ得る。また、絶縁シートは、ステータコアよりも駆動軸心方向に延出する延出部を有し得る。さらに、第2周壁は、各第1歯とともに複数相の導線が巻回される複数の第2歯を有し得る。そして、延出部は、各第2歯に当接しつつ各第2歯に支持されていることが好ましい。
【0016】
この場合には、各第1歯及び各第2歯に導線が巻回されるため、コイルを好適に形成することができる。また、この電動圧縮機では、絶縁シートの延出部が各第2歯に当接しつつ各第2歯に支持される。このため、延出部を含め、絶縁シートの不必要な変形を抑制でき、絶縁シートの絶縁性能の低下を防止できる。また、この電動圧縮機では、コイルエンドの一部を収容部に収容するに当たり、例えばコイルエンドの端部を収容部に向かって押圧することが考えられる。しかし、この電動圧縮機では、延出部が各第2歯に支持されるため、コイルエンドの一部を収容部に収容する際の負荷によって延出部が不必要に変形したり、破れが生じたりすることを抑制できる。
【0017】
コイルエンドの端部には、駆動軸心方向から見て、第1周壁と第2周壁との間に凹む凹部が設けられ得る。そして、中性点は凹部内に配置されていることが好ましい。
【0018】
また、中性点は、収容部内に配置されていることも好ましい。
【0019】
これらの場合には、電動モータが駆動軸心方向に大型化することをより好適に抑制できる。このため、電動圧縮機を好適に小型化することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電動圧縮機は、高性能化を実現しつつ、コイルエンドとステータコアとの間の絶縁性を維持し、かつ、大型化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例1の電動圧縮機を示す模式図である。
図2図2は、実施例1の電動圧縮機に係り、図1のX1部分を示す要部拡大断面図である。
図3図3は、実施例1の電動圧縮機に係り、ステータコア及びインシュレータを示す斜視図である。
図4図4は、実施例1の電動圧縮機に係り、図3のA-A断面を示す要部拡大断面図である。
図5図5は、実施例1の電動圧縮機に係り、ステータとインバータ装置との接続を示す模式図である。
図6図6は、実施例2の電動圧縮機に係り、図2と同様の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。実施例1、2の電動圧縮機は、具体的には、スクロール型電動圧縮機である。実施例1、2の電動圧縮機は、図示しない車両に搭載されており、車両の冷凍回路を構成している。
【0023】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の電動圧縮機は、ハウジング1と、駆動軸3と、電動モータ5と、圧縮機構7と、インバータ装置9とを備えている。ハウジング1は、ハウジング本体11と、リヤカバー13と、インバータカバー15とを有している。
【0024】
本実施例では、図1図2及び図6に示す実線矢印によって、電動圧縮機の前後方向及び上下方向を規定している。また、図3及び図4では、図1に対応して、電動圧縮機の前後方向を規定している。この電動圧縮機は、自己の前方側が車両の前方側となり、自己の後方側が車両の後方側となる姿勢で車両に搭載されている。また、この電動圧縮機は、自己の上方側が車両の上方側となり、自己の下方側が車両の下方側となる姿勢で車両に搭載されている。なお、電動圧縮機は、搭載される車両に応じて、自己の姿勢を適宜変更可能である。
【0025】
図2に示すように、ハウジング本体11は、前壁11aと周壁11bとを有している。前壁11aは、ハウジング本体11の前端に位置しており、ハウジング本体11の径方向に延びている。周壁11bは、前壁11aと接続しており、前壁11aから駆動軸3の駆動軸心O方向で後方に向かって延びている。より具体的には、周壁11bは、前壁11aから駆動軸3の駆動軸心O方向で後方に向かって直線状に延びた後、後方に向かうにつれてハウジング本体11の径方向の外側に向かうように傾斜して延び、さらに後方に向かって直線状に延びている。これらの前壁11aと周壁11bとにより、ハウジング本体11は、駆動軸心O方向に延びる有底の略円筒状に形成されている。ここで、駆動軸心O方向は、電動圧縮機の前後方向と平行である。
【0026】
これらの前壁11aと周壁11bとによって、ハウジング本体11の内部には、モータ室111が形成されている。モータ室111は、前壁11a及び周壁11bによって、ハウジング本体11、ひいては電動圧縮機の外部から区画されている。
【0027】
また、図1に示すように、周壁11bには、複数のボルト孔11cが形成されている。ボルト孔11cは、駆動軸心O方向に延びており、ハウジング本体11の後端に開口している。なお、図1では、複数のボルト孔11cのうちの一つを図示している。
【0028】
さらに、周壁11bには吸入口11dが形成されている。吸入口11dは配管を通じて凝縮器と接続されている。これにより、モータ室111内には、蒸発器を経た低温かつ低圧の冷媒ガスが吸入口11dから吸入される。つまり、モータ室111は吸入室としても機能する。冷媒ガスは、本発明における「流体」の一例である。なお、配管及び蒸発器の図示は省略する。
【0029】
リヤカバー13は、駆動軸心O方向でハウジング本体11の後方側に位置している。リヤカバー13は、各ボルト孔11cに挿通された複数のボルト13aによって、ハウジング本体11の後端に固定されている。なお、図1では、複数のボルト13aのうちの一つを図示している。リヤカバー13は有底の筒状に形成されており、内部に吐出室が形成されている。吐出室は、配管によって凝縮器と接続されている。なお、吐出室及び凝縮器の図示は省略する。
【0030】
インバータカバー15は、駆動軸心O方向でハウジング本体11の前方側に位置している。インバータカバー15は図示しない複数のボルトによって、ハウジング本体11の前壁11aに固定されている。インバータカバー15は有底の筒状に形成されており、内部にインバータ装置9が収容されている。
【0031】
図5に示すように、インバータ装置9は、第1出力部9aと、第2出力部9bと、第3出力部9cとを有している。第1出力部9aは3相交流の第1相を出力し、第2出力部9bは3相交流の第2相を出力し、第3出力部9cは3相交流の第3相を出力する。インバータ装置9は、これらの第1~第3出力部9a~9cを通じて、電動モータ5、より詳細には、後述するステータ5aと電気的に接続されている。つまり、インバータ装置9と電動モータ5とは、3相交流によって通電可能に接続されている。また、インバータ装置9は、電源コネクタを通じて、車両に搭載されたバッテリと電気的に接続されている他、制御コネクタを通じて、車両の制御装置と電気的に接続されている。なお、電源コネクタ、制御コネクタ、バッテリ及び制御装置の図示は省略する。
【0032】
図1及び図2に示すように、駆動軸3は、モータ室111内を含め、ハウジング本体11の内部に設けられている。図2に示すように、駆動軸3は、駆動軸心O方向に延びる円柱状をなしており、小径部3aと、大径部3bと、テーパ部3cとを有している。小径部3aは、駆動軸3の前端に位置している。大径部3bは、小径部3aよりも後方に位置している。大径部3bは、小径部3aよりも大径に形成されている。テーパ部3cは、小径部3aと大径部3bとの間に位置している。テーパ部3cは前端で小径部3aと接続している。そして、テーパ部3cは、後方に向かうにつれて拡径しつつ、後端で大径部3bに接続している。
【0033】
駆動軸3は、小径部3aがラジアル軸受19を介して、ハウジング本体11の前壁11aに回転可能に支承されている。これにより、駆動軸3は、モータ室111内で駆動軸心O周りに回転可能となっている。
【0034】
電動モータ5は、モータ室111内に設けられている。電動モータ5は、ステータ5aとロータ5bとを有している。ステータ5aは、ステータコア50と、2つのインシュレータ51と、複数のコイル53と、中性点57とを有している。
【0035】
ステータコア50は金属製である。図3に示すように、ステータコア50は、駆動軸心Oを中心とし、かつ、駆動軸心O方向で前後に延びる円筒状に形成されている。ステータコア50は、バックヨーク部50aと、複数の第1歯50bと、複数の第1スロット50cとを有している。バックヨーク部50aは、一定の肉厚を有しつつ、駆動軸心O方向でステータコア50の前端から後端まで延びている。バックヨーク部50aの外周面は、ステータコア50の外周面500を構成している。図2に示すように、外周面500は、モータ室111内で周壁11bの内周面に固定されている。これにより、ステータコア50、ひいてはステータ5aは、ハウジング本体11に固定されている。
【0036】
図3に示すように、各第1歯50bは、バックヨーク部50aの内周面に形成されている。各第1歯は、バックヨーク部50aから、ステータコア50の中心、すなわち駆動軸心Oに向かってステータコア50の径方向に延びている。ここで、各第1歯50bは、バックヨーク部50aから駆動軸心Oに向かうにつれて、幅方向に次第に細くなる形状をなしている。また、各第1歯50bは、ステータコア50の周方向に等間隔で配置されている。なお、各第1歯50bの形状や個数は適宜設計可能である。
【0037】
図2に示すように、各第1歯50bは、駆動軸心O方向でバックヨーク部50a、ひいてはステータコア50の前端から後端まで延びている。これにより、バックヨーク部50aの後端面及び各第1歯50bの後端面によって、ステータコア50の後端面501が構成されている。同様に、バックヨーク部50aの前端面及び各第1歯50bの前端面によって、ステータコア50の前端面502が構成されている。
【0038】
図3に示すように、各第1スロット50cは、第1歯50b同士の間に形成されている。つまり、各第1歯50b及び各第1スロット50cは、ステータコア50の内周側に形成されている。これらの各第1スロット50cについても、ステータコア50の周方向に等間隔で配置されており、それぞれ駆動軸心O方向でステータコア50の前端面502から後端面501まで延びている。なお、第1スロット50cの個数は、第1歯50bの個数に応じて適宜設計可能である。
【0039】
2つのインシュレータ51は、同一の構成である。インシュレータ51は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)製であり、電気絶縁性及び伝熱性を有している他、電動圧縮機の作動時における各コイル53の熱に対する耐熱性を有している。インシュレータ51は、駆動軸心Oを中心とする円環状に形成されている。また、インシュレータ51は、ステータコア50よりもやや小径に形成されている。なお、電気絶縁性、伝熱性及び耐熱性を有する他の樹脂や他の材料によってインシュレータ51を形成しても良い。
【0040】
図4に示すように、インシュレータ51は、収容部51dと、複数の第2歯51eと、複数の第2スロット51fとを有している。
【0041】
収容部51dは、インシュレータ51において、駆動軸心O方向でステータコア50に向かうように凹設された空間である。収容部51dは、インシュレータ51の周方向に延びており、インシュレータ51を周方向に一周している。
【0042】
収容部51dは、基部51aと、第1周壁51bと、第2周壁51cとからなる。基部51aは円環状に形成されている。より具体的には、基部51aの外径は、バックヨーク部50aの外径、すなわちステータコア50の外径よりも小さく形成されている。一方、基部51aの内径は、バックヨーク部50aの内径とほぼ同じ大きさに形成されている。また、基部51aは、所定の板厚を有する平面の板状をなしており、表面510と表面510の反対側に位置する裏面511とを有している。ここで、本実施例では、基部51aの板厚を約1mmに設定している。
【0043】
第1周壁51bは、根元部分で基部51aの外周縁と一体をなしている。第1周壁51bは、基部51aの周方向に延びるとともに、基部51aから駆動軸心O方向で離れる方向に所定の長さで延びている。つまり、第1周壁51bは、ステータコア50から駆動軸心O方向で離れる方向に所定の長さで延びている。これにより、第1周壁51bは、インシュレータ51の外周壁を構成しつつ、基部51aを外周側から囲っている。
【0044】
第2周壁51cは、根元部分で基部51aの内周縁と一体をなしている。第2周壁51cは、第1周壁51bに沿って基部51aの周方向に延びている。また、第2周壁51cは、第1周壁51bと同じ長さで基部51aから駆動軸心O方向で離れる方向に延びている。つまり、第2周壁51cについても、ステータコア50から駆動軸心O方向で離れる方向に延びている。ここで、本実施例では、第1周壁51b及び第2周壁51cが駆動軸心O方向に延びる長さを約5mmに設定している。これにより、収容部51dにおいて、基部51aの表面510から、第1周壁51b及び第2周壁51cの各先端部分までは、駆動軸心O方向で約4mm離隔している。なお、基部51aの表面510から第1周壁51b及び第2周壁51cの各先端部分が駆動軸心O方向に離れている関係にあれば、基部51aの板厚の他、第1周壁51b及び第2周壁51cにおける駆動軸心O方向の長さは、適宜設計可能である。
【0045】
このように、インシュレータ51では、第2周壁51cが第1周壁51bよりもインシュレータ51の内周側に離隔している。そして、基部51aは、第1周壁51bと第2周壁51cとの間に挟まれている。
【0046】
各第2歯51eは、第2周壁51cから、インシュレータ51の中心、すなわち駆動軸心Oに向かってインシュレータ51の径方向に延びている。ここで、各第2歯51eは、ステータコア50の各第1歯50bに対応する形状に形成されている。つまり、各第2歯51eは、第2周壁51cからインシュレータ51の中心に向かうにつれて、幅方向に次第に細くなる形状をなしている。また、各第2歯51eは、駆動軸心O方向でインシュレータ51の前端から後端まで延びている。さらに、第2歯51eの個数は、第1歯50bの個数と同数となっている。そして、各第2歯51eは、インシュレータ51の周方向に等間隔で配置されている。
【0047】
各第2スロット51fは、第2歯51e同士の間に形成されている。ここで、各第2歯51eは、各第1歯50bに対応する形状であるとともに、各第1歯50bの個数と同数となっている。このため、各第2スロット51fは、ステータコア50の第1スロット50cに対応する形状となっているとともに、第1スロット50cの個数と同数となっている。そして、各第2歯51eと同様、各第2スロット51fについても、駆動軸心O方向でインシュレータ51の前端から後端まで延びている。
【0048】
図2に示すように、2つのインシュレータ51は、ステータコア50の後端面501及び前端面502にそれぞれ設けられている。ここで、後端面501に設けられるインシュレータ51では、駆動軸心O方向で各第2歯51eを各第1歯50bに整合させているとともに、駆動軸心O方向で各第2スロット51fを各第1スロット50cに整合させている。そして、この状態で、基部51aの裏面511及び第1、2周壁51b、51cの各根元部分をバックヨーク部50aの後端に当接させているとともに、各第2歯51eを各第1歯50bの後端に当接させている。こうして、後端面501に設けられるインシュレータ51は、収容部51dがモータ室111の後方に臨んだ状態で、ステータコア50に駆動軸心O方向で当接している。
【0049】
一方、ステータコア50の前端面502に設けられるインシュレータ51は、後端面501に設けられるインシュレータ51とは、前後を反転させつつ、駆動軸心O方向で各第2歯51e及び各第2スロット51fを各第1歯50b及び各第1スロット50cにそれぞれ整合させている。つまり、前端面502に設けられるインシュレータ51は、基部51aの裏面511及び第1、2周壁51b、51cの各根元部分をバックヨーク部50aの前端に当接させているとともに、各第2歯51eを各第1歯50bの前端に当接させている。こうして、前端面502に設けられるインシュレータ51は、収容部51dがモータ室111の前方に臨んだ状態で、ステータコア50に駆動軸心O方向で当接している。
【0050】
このように、ステータコア50の後端面501及び前端面502に各インシュレータ51が設けられることにより、各インシュレータ51の収容部51dは、ステータコア50のバックヨーク部50aと駆動軸心O方向で重なる位置に配置される。つまり、収容部51dは、インシュレータ51において、各第1歯50b及び各第1スロット50cよりも径方向の外側となる個所に位置している。
【0051】
各コイル53は、各第1スロット50c及び各第2スロット51fに巻回された導線55によって形成されている。ここで、図5に示すように、導線55は、第1導線55aと、第2導線55bと、第3導線55cとを有している。詳細な図示を省略するものの、第1~3導線55a~55cは、いずれも断面形状が円形となる丸線であり、エナメル樹脂によって絶縁被膜されている。
【0052】
第1導線55aは、一端側がコネクタ(図示略)を介してインバータ装置9の第1出力部9aに電気的に接続されている。また、第2導線55bは、一端側がコネクタ(図示略)を介してインバータ装置9の第2出力部9bに電気的に接続されている。そして、第3導線55cは、一端側がコネクタ(図示略)を介してインバータ装置9の第3出力部9cに電気的に接続されている。こうして、各コイル53のうち、第1導線55aによって形成されたコイル53は第1出力部9aから通電され、第2導線55bによって形成されたコイル53は第2出力部9bから通電され、第3導線55cによって形成されたコイル53は第3出力部9cから通電されるようになっている。
【0053】
また、第1~3導線55a~55cは、第1~3出力部9a~9cとは反対側で互いに結線されており、中性点57を形成している。ここで、中性点57を形成するに当たり、第1~3導線55a~55cでは、結線される個所の絶縁被膜が剥がされている。そして、中性点57が形成された後、中性点57と、第1~3導線55a~55cにおいて中性点57の近傍となる個所とが絶縁チューブ(図示略)等によって絶縁されている。このように、第1~3導線55a~55cが結線され、かつ、絶縁チューブが設けられることから、この電動圧縮機では、電動モータ5の出力向上に伴って、中性点57が大型化し易くなっている。
【0054】
図2に示すように、各コイル53は、コイルエンド53aを有している。コイルエンド53aは、具体的には、各コイル53において、ステータコア50及び各インシュレータ51よりも駆動軸心O方向に突出する部分である。ここで、本実施例では、電動モータ5の出力向上を図るため、各第1スロット50c及び各第2スロット51fに対する導線55、すなわち第1~3導線55a~55cの巻き数を増大させている。これにより、各コイル53では、コイルエンド53aを含め、全体が大型化している。
【0055】
また、コイルエンド53aは、駆動軸心O方向でインシュレータ51と対向する第1部分531と、駆動軸心O方向で第1部分531の反対に位置する第2部分532とを有している。これにより、各インシュレータ51は、ステータコア50とコイルエンド53aとの間に位置して、ステータコア50及びコイルエンド53aに駆動軸心0方向で当接している。具体的には、各インシュレータ51の第1周壁51b及び第2周壁51cの各先端部分と、第1部分531とが駆動軸心O方向で当接している他、各第2歯51eと第1部分531とが駆動軸心O方向で当接している。また、コイルエンド53aでは、第2部分532によって、前後方向の端部がそれぞれ構成されている。
【0056】
そして、本実施例では、コイルエンド53aの第2部分532に対して中性点57を駆動軸心O方向に押し当てている。これにより、コイルエンド53aでは、第1部分531の一部、より具体的には、第1部分531においてインシュレータ51の収容部51dに対向する部分が、収容部51dに向かって突出しつつ収容部51d内に収容されている。つまり、コイルエンド53aには、収容部51d内に収容された被収容部位531aが存在する。そして、この被収容部位531aは、各インシュレータ51の基部51a、より具体的には、基部51aの表面510と駆動軸心O方向で当接している。
【0057】
ここで、収容部51dは、バックヨーク部50aと駆動軸心O方向で重なる位置、すなわち、各第1歯50b及び各第1スロット50cよりもステータコア50の外周に位置している。このため、被収容部位531aは、各第1歯50b及び各第1スロット50cよりもステータコア50の外周に位置することになる。
【0058】
このように、ステータ5aでは、ステータコア50の後端面501とコイルエンド53aとの間の他、ステータコア50の前端面502とコイルエンド53aとの間にインシュレータ51が存在している分、コイルエンド53aとステータコア50とが駆動軸心O方向に離間している。また、各インシュレータ51により、コイルエンド53aとステータコア50とは直接当接していない。また、各インシュレータ51は、絶縁性を有しているため、各インシュレータ51は、ステータコア50とコイルエンド53aとに当接しつつ、ステータコア50とコイルエンド53aとを絶縁させている。
【0059】
また、コイルエンド53aの第2部分532に中性点57が押し当てられ、被収容部位531aが収容部51d内に収容されることにより、第2部分532では、駆動軸心O方向で収容部51dと重なる個所に凹部533が形成されている。つまり、凹部533は、コイルエンドの前端と後端とに形成されている。凹部533は、駆動軸心O方向で収容部51dに向かって凹みつつ、収容部51dに沿うように第2部分532の周方向に延びている。
【0060】
そして、このステータ5aでは、凹部533の内部に中性点57を収容している。これにより、中性点57は、コイルエンド53aに埋設されつつ、駆動軸心O方向から見て、第1周壁51bと第2周壁51cとの間に配置されている。換言すれば、中性点57は、コイルエンド53aにおいて、駆動軸心O方向でインシュレータ51の収容部51dと重なる位置に配置されている。なお、図2では、説明を容易にするため、コイルエンド53aにおいて収容部51d内に収容された部分の他、凹部533の形状や中性点57の形状を誇張して図示している。後述する図6についても同様である。また、中性点57は、コイルエンド53aの前端に位置する凹部533の内部に収容されても良い。また、図示を省略するものの、コイルエンド53aの形状の維持やコイルエンド53aに対する中性点57の位置のずれ等を防止するため、コイルエンド53a及び中性点57は、紐によって拘束されている。
【0061】
また、図2に示すように、ステータ5aでは、ステータコア50及び各インシュレータ51と、各コイル53との間に絶縁シート59が設けられている。絶縁シート59は、絶縁性を有する紙や樹脂等によって形成されている。
【0062】
絶縁シート59は、本体部59aと延出部59bとを有している。本体部59aと延出部59bとは一体をなしている。本体部59aは、絶縁シート59において、ステータコア50と各コイル53との間に位置する部分である。延出部59bは、絶縁シート59においてステータコア50から駆動軸心O方向に延出する部分であって、各インシュレータ51とコイルエンド53aとの間に位置する部分である。
【0063】
本体部59aは、ステータコア50と各コイル53との間において、各コイル53を覆いつつ、ステータコア50aの周方向に延びている。この際、本体部59aは、ステータコア50の各第1歯50b及び各第1スロット50bの形状に沿って複数回折れ曲がりつつ、周方向に延びている。これにより、本体部59aは、各第1歯50b及び各第1スロット50bに当接しているとともに、各第1歯50b及び各第1スロット50bに支持されている。延出部59bについても同様に、各インシュレータ51とコイルエンド53aとの間において、コイルエンド53aを覆いつつ、インシュレータ51の周方向に延びている。この際、延出部59bは、インシュレータ51の各第2歯51e及び各第2スロット51fの形状に沿って複数回折れ曲がりつつ、周方向に延びている。これにより、延出部59bは、各第2歯51e及び各第2スロット51fbに当接しているとともに、各第2歯50e及び各第2スロット51eに支持されている。こうして、絶縁シート59は、ステータコア50の内周側において、ステータコア50と各コイル53とを絶縁している。
【0064】
ロータ5bは、ステータ5a内に配置されている。ロータ5bは、複数枚の鋼板を駆動軸心O方向に積層することによって形成されており、円筒状をなしている。また、ロータ5bには永久磁石(図示略)が設けられている。ロータ5bには、駆動軸3の大径部3bが焼き嵌めによって固定されている。これにより、ロータ5bは駆動軸3と一体化されており、駆動軸3と一体で駆動軸心O周りに回転可能となっている。
【0065】
図1に示す圧縮機構7としては、公知のスクロール型圧縮機構が採用されている。圧縮機構7は、ハウジング本体11内に収容されている。圧縮機構7は、ハウジング本体11内において、モータ室111よりも後方側で周壁11bの内周面に固定された固定スクロールと、固定スクロールに対向して配置され、駆動軸3によって回転可能な可動スクロールとを有している。固定スクロールと可動スクロールとは噛合して両者間に圧縮室を形成している。なお、固定スクロール、可動スクロール及び圧縮室については、いずれも図示を省略する。
【0066】
以上のように構成されたこの電動圧縮機では、蒸発器を経た低温低圧の冷媒ガスが吸入口11dからモータ室111内に吸入される。また、インバータ装置9がステータ5aに対して給電を行いつつ、電動モータ5の駆動制御を行う。具体的には、第1~第3出力部9a~9cを通じて、各コイル53に交流電流が供給される。この際、第1~第3出力部9a~9cから給電される交流電流の位相は互いに異なっている。これにより、各コイル53は順に磁界を生じさせる。このため、ステータコア50内でロータ5bが駆動軸3とともに駆動軸心O周りに回転する。こうして、電動モータ5が駆動軸3を駆動軸心O周りに回転させることで、圧縮機構7が作動する。このため、モータ室111内に吸入された冷媒ガスが圧縮機構7に導入され、圧縮室で圧縮される。そして、圧縮機構7で圧縮された冷媒ガスは、吐出室から吐出口を経て凝縮器に吐出される。
【0067】
この電動圧縮機では、ステータ5aが2つのインシュレータ51を有しており、各インシュレータ51は、ステータコア50の後端面501とコイルエンド53aとの間と、ステータコア50の前端面502とコイルエンド53aとの間にそれぞれ位置している。そして、各インシュレータ51は、ステータコア50と、コイルエンド53aの第1部分531とに駆動軸心O方向で当接する。これにより、この電動圧縮機では、導線55の巻き数の増加による電動モータ5の出力向上を図りつつも、換言すれば、導線55の巻き数の増加によってコイルエンド53aが大型化しつつも、各インシュレータ51によって、ステータコア50とコイルエンド53aとを駆動軸心O方向に離隔させることが可能となっている。ここで、各インシュレータ51が絶縁性を持っているため、各インシュレータ51によって、ステータコア50とコイルエンド53aとが絶縁されている。これにより、この電動圧縮機では、電動モータ5の作動時にコイルエンド53aからステータコア50への短絡が生じ難くなっている。
【0068】
また、各インシュレータ51は伝熱性を持っているため、ステータコア50及びコイルエンド53aの第1部分531に各インシュレータ51が駆動軸心方向で当接することにより、各インシュレータ51を通じてコイルエンド53aの熱をステータコア50に好適に伝達させることが可能となっている。このため、この電動圧縮機では、電動モータ5の出力向上によって、コイルエンド53aを含め、コイル53が高温となり易いものの、コイルエンド53a、ひいてはコイル53を好適に冷却することが可能となっている。また、この電動圧縮機では、コイル53の発熱による導線55、つまり、第1~3導線55a~55cの絶縁被覆の損傷も防止できるため、この点においても、電動モータ5の作動時にコイルエンド53aからステータコア50への短絡が生じ難くなっている。
【0069】
さらに、各インシュレータ51は収容部51dを有しており、この収容部51dは、ステータコア50のバックヨーク部50aと駆動軸心O方向で重なる位置、すなわち、各第1歯50b及び各第1スロット50cよりもステータコア50の外周となる個所に位置している。これにより、この電動圧縮機では、収容部51d内にコイルエンド53aの一部、つまり、被収容部位531aを収容することが可能となっている。こうして、この電動圧縮機では、導線55の巻き数を増加させつつも、コイルエンド53aがステータコア50に対して駆動軸心O方向や径方向に突出することを抑制できる。この結果、この電動圧縮機では、ステータ5a、ひいては電動モータ5の大型化を抑制できることから、ハウジング本体11、更にはハウジング1の大型化を抑制することができる。ここで、被収容部位531aについては、収容部51d内に収容されることによって、コイルエンド53aの他の部分よりも駆動軸心O方向でステータコア50に近づくことになる。しかし、被収容部位531aは、第1周壁51bと第2周壁51cとによって囲われている。さらに、各インシュレータ51自体が絶縁性を有している。これらのため、被収容部位531aと、ステータコア50とにおける絶縁性も維持されている。また、収容部51d内において被収容部位531aは、基部51aと当接する。このため、被収容部位531aの熱についてもステータコア50に好適に伝達させることが可能となっている。
【0070】
また、この電動圧縮機では、コイルエンド53aの第2部分532に凹部533が形成されており、この凹部533内に中性点57が配置されている。これにより、この電動圧縮機では、中性点57がコイルエンド53aに埋設されているとともに、中性点57は、駆動軸心O方向から見て、第1周壁51bと第2周壁51cとの間、つまり収容部51dに対応して位置している。そして、このように中性点57を収容部51dに対応して配置することにより、コイルエンド53aに中性点57を埋設させ易くなっている。また、このように、凹部533内に中性点57を配置することにより、コイルエンド53aに対して中性点57を容易に配置することが可能となっているとともに、中性点57がコイルエンド53aに対して駆動軸心O方向に突出することを抑制することが可能となっている。
【0071】
したがって、実施例1の電動圧縮機は、高性能化を実現しつつ、コイルエンド53aとステータコア50との間の絶縁性を維持し、かつ、大型化を抑制できる。
【0072】
また、この電動圧縮機では、各インシュレータ51が第2歯51e及び第2スロット51fを有している。これにより、この電動圧縮機では、各コイル53を形成するに当たり、導線55、すなわち第1~3導線55a~55cを各第1スロット50cと各第2スロット51fとに巻回させることで、各コイル53を好適に形成することが可能となっている。
【0073】
さらに、この電動圧縮機では、導線55が丸線であり、各第1、2スロット50c、51fに第1~3導線55a~55cを巻回させながら、コイルエンド53aを含め各コイル53を形成する。このため、第1、2スロット50c、51fに巻回される形状に予め形成された導線によって形成されたコイルとは異なり、第2部分532側からコイルエンド53aを収容部51dに向けて駆動軸心O方向に押圧することで、被収容部位531aを収容部51d内に収容させ易くなっている。
【0074】
また、この電動圧縮機では、ステータコア50及び各インシュレータ51と、各コイル53との間に絶縁シート59が設けられている。そして、絶縁シート59の延出部59bは、各第2歯51e及び各第2スロット51fbに当接しているとともに、各第2歯50e及び各第2スロット51eに支持されている。これにより、この電動圧縮機では、延出部59bを含め、絶縁シート59の不必要な変形を抑制できるため、絶縁シート59の絶縁性能の低下を防止することができる。また、この電動圧縮機では、被収容部位531aを収容部51d内に収容するに当たって、中性点57を通じて第2部分532側からコイルエンド53aを収容部51dに向けて押圧しているものの、延出部59bが各第2歯50e及び各第2スロット51eに支持されるため、被収容部位531aを収容部51d内に収容する際の負荷によって延出部59bが不必要に変形したり、破れが生じたりすることも抑制できる。
【0075】
さらに、この電動圧縮機では、ハウジング本体1の周壁11bが前壁11aから駆動軸3の駆動軸心O方向で後方に向かって直線状に延びた後、後方に向かうにつれてハウジング本体11の径方向の外側に向かうように傾斜して延びている。このため、図2に示すように、モータ室111は、前壁11aに近い前方部分に比べて、後方部分が径方向に大型化している。これにより、この電動圧縮機では、モータ室111内において、ステータコア50から後方に突出するコイルエンド53aと、周壁11bとを径方向に可及的に遠ざけることが可能となっている。これにより、この電動圧縮機では、コイルエンド53aから周壁11bへの短絡も生じ難くなっている。
【0076】
(実施例2)
図6に示すように、実施例2の電動圧縮機では、コイルエンド53aの被収容部位531aに加えて、中性点57についてもインシュレータ51の収容部51d内に収容している。これにより、この電動圧縮機においても、中性点57は、駆動軸心O方向から見て、第1周壁51bと第2周壁51cとの間、すなわち、駆動軸心O方向で収容部51dと重なる位置に配置されている。この電動圧縮機における他の構成は実施例1の電動圧縮機と同様であり、同一の構成については、同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0077】
この電動圧縮機では、収容部51d内に中性点57を収容することにより、コイルエンド53aの凹部533やコイルエンド53aの外周に中性点57を配置する必要がない。ここで、この電動圧縮機では、収容部51d内に中性点57が収容される分、実施例1の電動圧縮機に比べて収容部51d内に収容される被収容部位531aの割合、つまり、収容部51d内に収容される導線55の割合が少なくなる。また、中性点57が収容部51d内に収容されることにより、第2部分532の一部が駆動軸心O方向に突出し得るものの、全体として、コイルエンド53aがステータコア50に対して駆動軸心O方向や径方向に突出することを抑制できる。さらに、収容部51d内に中性点57が収容されることで、収容部51d、ひいてはインシュレータ51によっても中性点57を好適に絶縁することが可能となっている。この電動圧縮機における他の作用は、実施例1の電動圧縮機と同様である。
【0078】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0079】
例えば、導線55は、第1スロット50c及び第2スロット51fに巻回する形状に予め形成されていても良い。
【0080】
また、第2歯51e及び第2スロット51fを省略してインシュレータ51を形成しても良い。
【0081】
さらに、インシュレータ51において、第1周壁51bは、基部51aの外周縁よりも内側で基部51aと接続していても良く、第2周壁51cは、基部51aの内周縁よりも外側で基部51aと接続していても良い。
【0082】
また、収容部51d内に収容されたコイルエンド53aの一部と、基部51aの表面510との間に隙間が存在していても良い。この場合であっても、第1、2周壁51b、51cの先端部分がコイルエンド53aの第1部分531と駆動軸心O方向に当接することにより、インシュレータ51を通じてコイルエンド53aからステータコア50に伝熱させることが可能である。
【0083】
また、第1周壁51b、第2周壁51c及び各第2歯51eに対して、コイルエンド53aや中性点57を拘束する紐を収容可能な凹溝等を形成しても良い。
【0084】
また、ハウジング1の外部にインバータ装置9を配置する構成としても良い。
【0085】
さらに、圧縮機構7として、ベーン式圧縮機構や斜板式圧縮機構の他、遠心式圧縮機構等を採用しても良い。
【0086】
また、圧縮機構7は、燃料電池へ圧送するための空気や水素等、冷媒ガス以外の流体を圧縮しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は車両等の空調装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1…ハウジング
3…駆動軸
5…電動モータ
5a…ステータ
5b…ロータ
7…圧縮機構
9…インバータ装置
50…ステータコア
50b…第1歯
51…インシュレータ
51a…基部
51b…第1周壁
51c…第2周壁
51d…収容部
51e…第2歯
53…コイル
53a…コイルエンド
55…導線
57…中性点
59…絶縁シート
59b…延出部
532…第2部分(端部)
533…凹部
O…駆動軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6