(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041349
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】接触位置測定装置、及び、接触位置測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20220304BHJP
B61K 9/02 20060101ALI20220304BHJP
G01L 5/12 20060101ALI20220304BHJP
G01L 5/20 20060101ALI20220304BHJP
G01G 19/04 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
G01B7/16 R
B61K9/02
G01L5/12
G01L5/20
G01G19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146493
(22)【出願日】2020-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】本堂 貴敏
【テーマコード(参考)】
2F051
2F063
【Fターム(参考)】
2F051AA01
2F051AB09
2F051BA07
2F063AA02
2F063BA13
2F063CA34
2F063DA02
2F063DA05
2F063EC25
2F063LA04
2F063LA27
(57)【要約】
【課題】簡単な構成により車輪とレールとの接触位置を測定可能な接触位置測定装置等を提供する。
【解決手段】鉄道車両の車輪100におけるレールとのまくらぎ方向における接触位置を測定する接触位置測定装置を、車輪の周方向に分散して配置され車輪の弾性変形を検出するとともに、接触位置に応じて車輪回転時の出力波形の周波数特性が変化する接触位置測定用ブリッジ回路Qs1,Qs2を構成する複数の接触位置測定用ひずみゲージ1A乃至7Bと、車輪回転時における接触位置測定用ブリッジ回路の出力波形の周波数特性に基づいて接触位置を演算する接触位置演算部とを備える構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪におけるレールとのまくらぎ方向における接触位置を測定する接触位置測定装置であって、
前記車輪の周方向に分散して配置され前記車輪の弾性変形を検出するとともに、前記接触位置に応じて車輪回転時の出力波形の周波数特性が変化する接触位置測定用ブリッジ回路を構成する複数の接触位置測定用ひずみゲージと、
車輪回転時における前記接触位置測定用ブリッジ回路の出力波形の周波数特性に基づいて前記接触位置を演算する接触位置演算部と
を備えることを特徴とする接触位置測定装置。
【請求項2】
前記接触位置測定用ブリッジ回路は、前記車輪と前記レールとの接触力の少なくとも一つを測定するブリッジ回路と共用であること
を特徴とする請求項1に記載の接触位置測定装置。
【請求項3】
前記車輪は、
外周縁部に設けられ踏面が形成されたリム部と、
中央部に設けられ車軸が取り付けられるボス部と、
前記リム部と前記ボス部との間に設けられた板部とを有し、
前記接触位置測定用ひずみゲージは、前記板部に貼付され前記横圧に起因する前記板部のせん断ひずみを検出すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の接触位置測定装置。
【請求項4】
前記接触位置測定用ブリッジ回路は、前記車輪と前記レールとの間の横圧を測定するブリッジ回路と共用であること
を特徴とする請求項3に記載の接触位置測定装置。
【請求項5】
前記接触位置演算部は、前記車輪の1回転分の前記接触位置測定用ブリッジ回路の出力波形の複数の次数のフーリエ係数を用いた冗長な方程式により前記接触位置を演算すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の接触位置測定装置。
【請求項6】
前記車輪の周方向に分散して配置され前記車輪の弾性変形を検出するとともに、前記車輪と前記レールとの間に作用する輪重に応じて出力が変化する輪重測定用ブリッジ回路を構成する複数の輪重測定用ひずみゲージと、
車輪回転時における前記輪重測定用ブリッジ回路の出力波形に基づいて、前記輪重、及び、前記車輪と前記レールとの間で作用する前後接線力を演算する輪重前後接線力演算部とを備えること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の接触位置測定装置。
【請求項7】
前記接触位置測定用ひずみゲージと、前記輪重測定用ひずみゲージとを、多軸のひずみゲージとして一体化したこと
を特徴とする請求項6に記載の接触位置測定装置。
【請求項8】
鉄道車両の車輪におけるレールとのまくらぎ方向における接触位置を測定する接触位置測定方法であって、
前記車輪の弾性変形を検出する接触位置測定用ひずみゲージを、前記車輪の周方向に分散して複数配置し、
複数の前記接触位置測定用ひずみゲージを用いて前記接触位置に応じて車輪回転時の出力波形の周波数特性が変化する接触位置測定用ブリッジ回路を構成し、
車輪回転時における前記接触位置測定用ブリッジ回路の出力波形の周波数特性に基づいて前記接触位置を演算すること
を特徴とする接触位置測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車輪とレールとのまくらぎ方向における接触位置の測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行安全性を評価するために、車輪とレールとの間の接触力を測定することが知られている。
このような接触力として、鉛直方向の接触力である輪重、まくらぎ方向の接触力である横圧、前後方向の接触力である前後接線力などがある。
このような接触力は、例えば、車輪にその弾性変形を検出する複数のひずみゲージを貼付したいわゆるPQ輪軸を用いて測定することができる。
【0003】
一方、上述した接触力に加えて、車輪とレールとのまくらぎ方向(車幅方向)における接触位置を測定することができれば、車輪、レール間の接触に関わる現象解明や、より精度の高い走行安全定評価の構築に貢献できる。
例えば、非特許文献1乃至3には、PQ輪軸に接触位置測定用のひずみゲージを貼付することにより、接触位置を測定する方法が記載されている。
また、車輪レール間の接触力等の測定に関連する技術として、特許文献1には、車輪の車軸回りにおける位置を異ならせた複数の輪重ブリッジ回路の出力を用いて、前後接線力を推定するとともに、推定された輪重、前後接線力から専用の車輪回転角センサを設けることなく車輪の回転角を推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】金原,大野.「脱線メカニズムの解明に向けた車輪・レール間接触位置連続測定装置の開発」,JR EAST Technical Review No.3
【非特許文献2】小澤,他.「車輪板部のひずみ量解析を用いた車輪とレールとの接触位置の特定手法」,J-RAIL2018,No.3211,2018.
【非特許文献3】野口.「車輪/レール接触位置の測定方法の検討」,J-RAIL2019,No. S6-1-4,2019.
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、接触力測定用として専用のひずみゲージを貼付することにより、接触位置を測定する場合、接触力測定用のブリッジ回路とは別個に接触位置測定用のブリッジ回路を設けることが必要となり、回転する車輪から軸箱などの非回転部分にデータを伝送するスリップリング装置の多極化や、測定機器の多チャンネル化が必要となって装置構成が複雑化してしまう。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、簡単な構成により車輪とレールとの接触位置を測定可能な接触位置測定装置及び接触位置測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明の接触位置測定装置は、鉄道車両の車輪におけるレールとのまくらぎ方向における接触位置を測定する接触位置測定装置であって、前記車輪の周方向に分散して配置され前記車輪の弾性変形を検出するとともに、前記接触位置に応じて車輪回転時の出力波形の周波数特性が変化する接触位置測定用ブリッジ回路を構成する複数の接触位置測定用ひずみゲージと、車輪回転時における前記接触位置測定用ブリッジ回路の出力波形の周波数特性に基づいて前記接触位置を演算する接触位置演算部とを備えることを特徴とする。
これによれば、車輪回転時における出力波形の周波数特性が車輪とレールとの接触位置変化に応じて変化するものであれば、接触力を測定するためのブリッジ回路を接触位置測定用ブリッジ回路として利用することができる。
これにより、接触位置測定用ひずみゲージを専用のものとして設ける必要がなく、車輪に貼付するひずみゲージの個数を低減するとともに、スリップリングの多極化、測定機器の多チャンネル化を抑制しつつ、車輪とレールとの接触位置を測定することができる。
【0008】
本発明において、前記接触位置測定用ブリッジ回路は、前記車輪と前記レールとの接触力の少なくとも一つを測定するブリッジ回路と共用である構成とすることができる。
これによれば、接触力測定用の輪軸において新たなひずみゲージ、ブリッジ回路を設けることなく接触位置を測定することができる。
【0009】
本発明において、前記車輪は、外周縁部に設けられ踏面が形成されたリム部と、中央部に設けられ車軸が取り付けられるボス部と、前記リム部と前記ボス部との間に設けられた板部とを有し、前記接触位置測定用ひずみゲージは、前記板部に貼付され前記横圧に起因する前記板部のせん断ひずみを検出する構成とすることができる。
これによれば、接触位置測定用ブリッジ回路の出力の周波数特性を接触位置変化に応じて確実に変化させ、上述した効果を得ることができる。
【0010】
本発明において、前記接触位置測定用ブリッジ回路は、前記車輪と前記レールとの間の横圧を測定するブリッジ回路と共用である構成とすることができる。
これによれば、接触位置測定用ブリッジ回路と横圧測定用ブリッジ回路とを共用し、装置構成を簡素化することができる。
また、横圧を車輪の板部のせん断ひずみに基づいて測定することにより、板部の曲げ変形に基づいて測定する一般的な手法に対して、接触位置がまくらぎ方向に変化した際の輪重成分等に起因する横圧の測定誤差を低減することができる。
【0011】
本発明において、前記接触位置演算部は、前記車輪の1回転分の前記接触位置測定用ブリッジ回路の出力波形の複数の次数のフーリエ係数を用いた冗長な方程式により前記接触位置を演算する構成とすることができる。
これによれば、冗長化した方程式を用いることにより、特異点を消滅させ、力の作用状況によらずに接触位置を算出することができる。
【0012】
本発明において、前記車輪の周方向に分散して配置され前記車輪の弾性変形を検出するとともに、前記車輪と前記レールとの間に作用する輪重に応じて出力が変化する輪重測定用ブリッジ回路を構成する複数の輪重測定用ひずみゲージと、車輪回転時における前記輪重測定用ブリッジ回路の出力波形に基づいて、前記輪重、及び、前記車輪と前記レールとの間で作用する前後接線力を演算する輪重前後接線力演算部とを備える構成とすることができる。
これによれば、輪重測定用ブリッジ回路の出力波形に基づいて、接触位置の演算に用いられる輪重、前後接線力を演算することにより、車輪回転角を検出するために専用の回転角度センサを設ける必要がなく、装置構成をさらに簡素化することができる。
【0013】
本発明において、前記接触位置測定用ひずみゲージと、前記輪重測定用ひずみゲージとを、多軸のひずみゲージとして一体化した構成とすることができる。
これによれば、ひずみゲージの車輪への貼付工程を簡素化することができる。
【0014】
上述した課題を解決するため、本発明の接触位置測定方法は、鉄道車両の車輪におけるレールとのまくらぎ方向における接触位置を測定する接触位置測定方法であって、前記車輪の弾性変形を検出する接触位置測定用ひずみゲージを、前記車輪の周方向に分散して複数配置し、複数の前記接触位置測定用ひずみゲージを用いて前記接触位置に応じて車輪回転時の出力波形の周波数特性が変化する接触位置測定用ブリッジ回路を構成し、車輪回転時における前記接触位置測定用ブリッジ回路の出力波形の周波数特性に基づいて前記接触位置を演算することを特徴とする。
本発明においても、上述した接触位置測定装置の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、簡単な構成により車輪とレールとの接触位置を測定可能な接触位置測定装置及び接触位置測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明を適用した接触位置測定装置等の実施形態において用いられる車輪の構成及びひずみゲージの配置を示す図である。
【
図2】実施形態の接触位置測定装置等におけるせん断ひずみを検出するひずみゲージからなるブリッジ回路の構成を示す図である。
【
図3】車輪板部曲げひずみを利用した比較例に係る横圧測点と、実施形態のせん断ひずみによる横圧測定法の感度係数を比較した図である。
【
図4】接触位置条件を変化させた場合の比較例の輪重交差感度検定結果を示す図である。
【
図5】接触位置条件を変化させた場合の実施形態の輪重交差感度検定結果を示す図である。
【
図6】実施形態及び比較例におけるブリッジ回路の載荷位置ごとの輪重交差感度比を示す図である。
【
図7】実施形態のせん断横圧測点を採用した場合の比較例に対する輪重交差感度低減率の車輪1回転平均を示す図である
【
図8】輪重相当荷重と前後接線力相当荷重とを同時に載荷した際の比較例のせん断横圧測点に生じる出力を、3種類の接触位置条件について示した図である。
【
図9】輪重相当荷重と前後接線力相当荷重とを同時に載荷した際の実施形態のせん断横圧測点に生じる出力を、3種類の接触位置条件について示した図である。
【
図10】実施形態及び比較例におけるブリッジ回路の載荷位置ごとの前後接線力交差感度比を示す図である。
【
図11】実施形態における接触位置シフト時の輪重交差感度関数の縦軸を拡大した図である。
【
図12】実施形態のせん断横圧測点における交差感度関数波形をフーリエ級数近似した結果を示す図である。
【
図13】実施形態のせん断横圧測点における交差感度関数波形をフーリエ級数近似した場合のフーリエ係数の次数ごとの内訳を示す図である。
【
図14】せん断横圧測点の横圧感度及び接触位置に関する交差感度関数を11次のフーリエ級数で近似した結果を示す図である。
【
図15】せん断横圧測点の横圧感度及び接触位置に関する交差感度関数を11次のフーリエ級数で近似した次数ごとのフーリエ係数を示す図である。
【
図16】1次のフーリエ係数を用いて構成した式13の係数行列の行列式と、1次、3次のフーリエ係数を用いて構成した式21の係数行列とその転置の積の行列式との評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した接触位置測定装置及び接触位置測定方法の実施形態について説明する。
実施形態の接触位置測定装置等においては、車輪板部に貼付されたひずみゲージを有するブリッジ回路の出力に基づいて、車輪とレールとの間の鉛直方向荷重である輪重、及び、まくらぎ方向荷重である横圧を測定可能ないわゆるPQ輪軸を用いる。
【0018】
図1は、実施形態の接触位置測定装置等において用いられる車輪の構成及びひずみゲージの配置を示す図である。
図1(a)は、車輪100を車軸方向かつ車幅方向外側から見た図である。
図1(b)、
図1(c)は、それぞれ
図1(a)のb-b部矢視断面図、c-c部矢視断面図である。
車輪100は、例えば、リム部110、ボス部120、板部130等を一体に形成した一体圧延車輪である。
実施形態のPQ輪軸は、図示しない車軸の両端部に、左右一対の車輪100のボス部120をそれぞれ圧入して構成される。
【0019】
リム部110は、車輪100の外周縁部に設けられたタイヤ部分であり、踏面111、フランジ112等を有する。
踏面111は、リム部110の外周面部であって、図示しないレールの頭部と接触する部分である。
踏面111には、曲線通過を円滑に可能とするため、車両外側が内側に対して小径となるよう所定の踏面勾配が設けられている。
フランジ112は、踏面111の車両内側の端部から外径側につば状に張り出して形成されている。
なお、
図1(a)において、リム部110に周方向に沿って記載された数字は、接触力測定等における載荷点などを示すために用いられる周方向の位置指標である。
この位置指標は、車輪100を周方向に32分割し、
図1(a)における時計回り方向に沿って等間隔に配列される。
【0020】
ボス部120は、車輪100の中央部に設けられ、図示しない車軸が圧入される円筒状の部分である。
リム部110、ボス部120は、板部130に対して車軸方向における両側へ突出して形成されている。
【0021】
板部130は、リム部110の内径側に設けられる円盤状の部分である。
板部130は、例えば、車軸の軸心方向と直交する平面に沿って延在する平板状に形成されている。
ボス部120は、板部130の中央部に設けられている。
【0022】
板部130には、ひずみゲージを貼付するため、開口131が形成されている。
開口131は、車輪100の径方向において、リム部110の内周縁部と、ボス部120の外周縁部との中間部に設けられている。
開口131は、車輪100の周方向に沿って、例えば8箇所、等間隔に配列されている。
開口131は、上述した位置指標において、0,4,8,12,16,20,24,28に対応した位置に形成されている。
開口131の内周面には、以下説明するひずみゲージが貼付されている。
【0023】
ひずみゲージ1A,1B,2A,2B,3A,3B,4A,4B,5A,5B,6A,6B,7A,7B,8A,8Bは、開口131の内周面に貼付されている。
ひずみゲージ1A,1Bは、位置指標0に相当する箇所(車軸回りにおける位相・角度位置)に設けられた開口131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
【0024】
ひずみゲージ2A,2Bは、位置指標4に相当する箇所に設けられた開口131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ3A,3Bは、位置指標8に相当する箇所に設けられた開口131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ4A,4Bは、位置指標12に相当する箇所に設けられた開口131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ5A,5Bは、位置指標16に相当する箇所に設けられた開口131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ6A,6Bは、位置指標20に相当する箇所に設けられた開口131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ7A,7Bは、位置指標24に相当する箇所に設けられた開口131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ8A,8Bは、位置指標28に相当する箇所に設けられた開口131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
【0025】
せん断横圧測点を採用した場合、ひずみゲージ1A,1B,3A,3B,5A,5B,7A,7B,8A,8Bには、ひずみゲージ1箇所あたり3点分(3軸)のひずみゲージが設けられる。
これらを区別するために、主番号に加えて枝番号を付番する。
図1(b)、
図1(c)に示すように、ひずみゲージの頭(軸方向のうち車輪外径側に向いた方向)がフランジ方向に傾いているひずみゲージの枝番を3とし、中央の輪重測定用ひずみゲージの枝番を2とし、ひずみゲージの頭が反フランジ方向に傾いているひずみゲージの枝番を1とした。
このうち、枝番1,3のものは、横圧測定用、接触位置測定用のひずみゲージとして機能する。
なお、ひずみゲージ2A,2B,4A,4B,6A,6B,8A,8Bは、枝番2に相当する単軸のひずみゲージである。
枝番2に係る各ひずみゲージは、公知の連続輪重測定装置における輪重測定用ブリッジ回路を構成するものである。
なお、実施形態の接触位置測定装置においては、車輪回転時における輪重測定用ブリッジ回路の出力波形に基づいて、輪重及び前後接線力を演算する公知の輪重前後接線力演算部とを備えている。
【0026】
また、車輪100には、板部130の曲げ変形を利用した横圧測定装置を構成するひずみゲージ1a,1a’,3a,3a’,5a,5a’,7a,7a’が設けられている。
これらのひずみゲージは、板部130の曲げ変形に基づいて横圧を測定する公知の横圧ブリッジ回路を構成する。
ひずみゲージ1a,1a’,3a,3a’,5a,5a’,7a,7a’は、板部130の表面(車輪110側面)であって、開口131よりも内径側の領域に配置されている。
ひずみゲージ1a,1a’は、ひずみゲージ1A,1Bが設けられた開口131の内径側に配置されている。
ひずみゲージ1aは、車輪110における車幅方向外側の面に貼付されている。
ひずみゲージ1a’は、車輪110における車幅方向内側の面に貼付されている。
ひずみゲージ1aとひずみゲージ1a’とは、板部130を挟み、車輪110の回転軸方向に対向して配置されている。
【0027】
ひずみゲージ3a,3a’は、ひずみゲージ3A,3Bが設けられた開口131の内径側に配置されている。
ひずみゲージ3aは、車輪110における車幅方向外側の面に貼付されている。
ひずみゲージ3a’は、車輪110における車幅方向内側の面に貼付されている。
ひずみゲージ3aとひずみゲージ3a’とは、板部130を挟み、車輪110の回転軸方向に対向して配置されている。
【0028】
ひずみゲージ5a,5a’は、ひずみゲージ5A,5Bが設けられた開口131の内径側に配置されている。
ひずみゲージ5aは、車輪110における車幅方向外側の面に貼付されている。
ひずみゲージ5a’は、車輪110における車幅方向内側の面に貼付されている。
ひずみゲージ5aとひずみゲージ5a’とは、板部130を挟み、車輪110の回転軸方向に対向して配置されている。
【0029】
ひずみゲージ7a,7a’は、ひずみゲージ7A,7Bが設けられた開口131の内径側に配置されている。
ひずみゲージ7aは、車輪110における車幅方向外側の面に貼付されている。
ひずみゲージ7a’は、車輪110における車幅方向内側の面に貼付されている。
ひずみゲージ7aとひずみゲージ7a’とは、板部130を挟み、車輪110の回転軸方向に対向して配置されている。
【0030】
図2は、せん断横圧測点に対応したブリッジ回路構成を示す図である。
せん断横圧測点のブリッジ回路は、例えばQs1系統、Qs2系統の2系統が設けられる。これらは横圧測定用、接触位置測定用のブリッジ回路として機能する。
Qs1系統のブリッジ回路は、ひずみゲージ1A-1、1B-1、5A-1、5B-1、5B-3、5A-3、1B-3、1A-3を、環状に順次結線して構成されている。
Qs1系統のブリッジ回路では、ひずみゲージ1B-1と5A-1との中間部、及び、ひずみゲージ5A-3と1B-3との中間部の間の電圧を出力とする。
Qs2系統のブリッジ回路は、ひずみゲージ3A-1、3B-1、7A-1、7B-1、7B-3、7A-3、3B-3、3A-3を、環状に順次結線して構成されている。
Qs1系統のブリッジ回路では、ひずみゲージ3B-1と7A-1との中間部、及び、ひずみゲージ7A-3と3B-3との中間部の間の電圧を出力とする。
実施形態の接触位置測定装置は、ブリッジ回路Qs1,Qs2の出力に基づいて、車輪とレールとのまくらぎ方向における接触位置を演算する図示しない接触位置演算部を有する。
【0031】
せん断横圧測点の各種特性を実験的に評価するため、以下の静荷重試験を実施した。
静荷重試験においては、輪重、横圧、前後接線力を想定した荷重を、通常の検定試験と同様の条件で載荷することに加えて、輪重相当荷重の負荷位置が、踏面中心からまくらぎ方向に変位した場合の出力特性を調査した。
【0032】
図3は、車輪板部曲げひずみを利用した従来技術(以下、比較例)に係る横圧測点と、実施形態のせん断横圧測点の感度係数を比較した図である。
比較例は、横圧測点として、ひずみゲージ1a,1a’,3a,3a’,5a,5a’,7a,7a’を用い、これらを含む公知のブリッジ回路Qb1,Qb2を構成する。
実施形態のせん断横圧測点は、比較例の横圧測点に対して感度が約60%程度低下するものの、当該輪軸の輪重の最大感度(約2.5με/kN)と比べると約4倍の感度を確保できており、横圧測定法として十分な感度を有していることが確認できる。
また、せん断横圧測点の感度関数形状は、概ね三角関数状であることが確認できる。
なお、比較例(板部曲げ)と実施形態(せん断横圧測点)とでは符号が反転しているが、これは回路構成によるものであり、横圧測定において特に問題とはならない。
【0033】
まくらぎ方向の接触位置変化が横圧測定用ブリッジ出力に及ぼす影響を評価するために、載荷位置を踏面中心から反フランジ側に20mmシフトさせる条件と、フランジ側に20mmシフトさせる条件、ならびに、踏面中心に載荷する条件の3条件の試験を実施した。
【0034】
輪重相当荷重のみを載荷した際の比較例、及び、実施形態の横圧ブリッジの輪重交差感度検定結果を、3種類の接触位置条件について、
図4、
図5にそれぞれ示す。
図4は、比較例の輪重交差感度検定結果を示す図である。
図5は、実施形態の輪重交差感度検定結果を示す図である。
図4,5において、上段から順に踏面中心、反フランジ側20mm、フランジ側20mmに載荷位置を設定した際の結果を示している。
また、各図において、縦軸は交差感度を示し、横軸は載荷点位置を示している。
【0035】
比較例(板部曲げ)と、実施形態(せん断横圧測点)の両者ともに、載荷位置が踏面中心からまくらぎ方向にシフトされると、出力が増加することがわかる。
曲げ、せん断それぞれのブリッジ回路について、相対的な交差感度の影響の受けやすさを評価するため、各ブリッジ回路の交差感度比r(φ)を、載荷位置の関数として、式1のように定義する。
【数1】
ただし、ε
qq1(φ)及びε
qq2(φ)は、それぞれブリッジ回路1,2の横圧感度であり、例えばせん断ひずみを用いた横圧測定法の場合、
図3の下段に示す感度である。
また、ε
qp1(φ)及びε
qp2(φ)は、それぞれブリッジ回路1,2の輪重感度であり、例えばせん断ひずみを用いた横圧測定法の場合、
図5に示す感度である。
ε
qp1(φ)及びε
qp2(φ)は、まくらぎ方向の載荷位置によって変化する。
【0036】
図6は、実施形態及び比較例におけるブリッジ回路の載荷位置ごとの輪重交差感度比を示す図である。
図6において、上段には比較例(板部曲げ)の交差感度比、中断には実施形態(板部せん断)の交差感度比、下段には実施形態と比較例の交差感度比の比をそれぞれ示している。
載荷位置を踏面中心からシフトさせた2条件では、交差感度比の比が軒並み1を下回っている。
すなわち、実施形態の交差感度比は、比較例の交差感度比を上回ることがなく、比較例よりもまくらぎ方向の接触位置変化の影響を受けにくいことがわかる。
なお、踏面中心載荷の条件で、交差感度比の比が1を上回る領域があるが、踏面中心付近ではそもそも交差感度そのものが小さいため、大きな影響はないと考えられる。
載荷点番号ごとの交差感度比を比較すると、特に実施形態では、ひずみゲージ貼付位置の直上に載荷される場合(載荷点番号0,8,16,24)に、交差感度比が小さくなる傾向がある。
すなわち、せん断ひずみを用いた横圧測定法を間欠測定に適用した場合には、より大きな交差感度比低減効果が得られる。
【0037】
図7は、せん断ひずみによる横圧測定法を採用した場合の輪重交差感度低減率の車輪1回転平均を示す図である。
載荷位置が反フランジ側にシフトした条件では約20%、フランジ側にシフトした状態では約12%程度、比較例に対して交差感度比が低下することがわかる。
【0038】
図8、
図9は、輪重相当荷重と前後接線力相当荷重とを同時に載荷した際の比較例、及び、実施形態の横圧測定法のためのブリッジ回路に生じる出力を、3種類の接触位置条件について示した図である。
図8、
図9に示すのはいずれも前後接線力に対するひずみ感度であり、輪重相当荷重の影響は除去している。
比較例(板部曲げ)、実施形態(板部せん断)の両者ともに、載荷位置が踏面中心からまくらぎ方向にシフトされると、出力が増加することがわかる。
横圧感度とは概ね位相が90度ずれている。
【0039】
前後接線力交差感度についても、輪重交差感度と同様の交差感度比を載荷位置ごとに計算した。
図10は、実施形態及び比較例におけるブリッジ回路の載荷位置ごとの前後接線力交差感度比を示す図である。
図の上段には比較例(板部曲げ)の交差感度比、中段には実施形態(板部せん断)の交差感度比、下段には実施形態と比較例の交差感度比の比をそれぞれ示している。
【0040】
踏面中心から20mmシフトした位置における前後接線力交差感度比は、比較例と実施形態の両者ともに0.05(5%)程度であり、輪重交差感度比と同程度のオーダである。
ただし、実際の走行試験においては、前後接線力の大きさそのものが輪重と比較して小さいことが多く、輪重交差感度ほど測定精度に大きな影響を及ぼさないものと考えられる。
【0041】
交差感度比の比については、載荷位置を踏面中心から20mmシフトさせた2条件については、交差感度比の比が載荷位置によらず1前後である。
したがって、前後接線力交差感度比については、比較例と実施形態では大きな差がないことが確認される。
なお、踏面中心載荷条件において、せん断ひずみを用いた横圧測定法の交差感度比が大きくなる領域があるが、踏面中心においては交差感度そのものが小さいため、大きな影響はないと考えられる。
【0042】
図11は、実施形態における接触位置シフト時の輪重交差感度関数の縦軸を拡大した図である。
図11に示すように、開口131の直上に対応する位置(載荷点番号0,8,16,24)において、交差感度の大きさが極小値を持つ傾向が認められる。
この傾向は、載荷位置が反フランジ側にシフトした条件でより顕著に出ている。
このことは、PQ輪軸において、接触位置がまくらぎ方向に移動した場合に、ひずみ出力波形の周波数特性が変化しており、このような周波数特性の変化により接触位置を抽出できる可能性を示している。
【0043】
図12は、実施形態のせん断横圧測点における交差感度関数波形をフーリエ級数近似した結果を示す図である。
図13は、
図12のフーリエ係数の次数ごとの内訳を示す図である。
図12,13から、せん断横圧測点の交差感度関数には、1次以外の高調波成分が含まれることがわかる。
高調波成分の大きさは、載荷位置を反フランジ側にシフトさせた条件のほうが、フランジ側へシフトさせた条件よりも大きい。
【0044】
以下、PQ輪軸のブリッジ回路の出力から、接触位置を求解するための条件について検討する。
接触位置を求解するための方程式が可解であるためには、基本的に以下の2点が要求される。
・方程式の数が未知数の数以上であること
・係数行列がフルランクであること
方程式の数は、基本的にブリッジ回路の系統数と等しいため、測定したい物理量の数を決めると、最低限必要なブリッジ回路の系統数が決まる。
一方、係数行列がフルランクであることの条件としては、以下の2条件を満たす必要がある。
・接触位置測定に使用する2系統のブリッジ回路の、接触位置に関する交差感度比が異なること
・係数行列が車輪円周方向接触位置に関して特異点を持たないこと、もしくは、複数の方程式系を併用することで特異点回避が可能なこと
【0045】
これらの条件より、4系統のブリッジ回路(従来技術に係るPQ測定と同じ系統数)を使用した場合、接触力(作用力)の連続測定と、接触位置の間欠測定とが、理論的には可能であり、さらに6系統のブリッジ出力(従来技術+2系統)を使用することで、作用力と接触位置両者の連続測定が可能であることが示される。
一方、この条件は、各ブリッジ回路の感度関数が単一の三角関数で近似でき、かつ、ある特定の時刻に得られるブリッジ出力のみを使用する場合の可解条件である。
これに対し、時間方向の情報量を増やし、さらにそれを周波数領域で処理することにより、可解条件を拡張することができる。
まくらぎ方向の接触位置変化を考慮した感度関数が、有限フーリエ級数で近似される場合の、周波数領域での連立方程式の可解性について、以下説明する。
【0046】
横圧測定用ブリッジ出力と作用力、まくらぎ方向接触位置の関係を、式2のように仮定する。
【数2】
ただし、Pは輪重、Qは横圧、Tは前後接線力、yはまくらぎ方向の接触位置、φは車輪円周方向の接触位置、ζ(φ)は輪重とまくらぎ方向接触位置に関する交差感度関数、η(φ)は前後接線力とまくらぎ方向接触位置に関する交差感度関数、h(φ)は横圧に関する感度関数である。
【0047】
以下、上述した具体的なひずみゲージの貼付位置や、ブリッジ回路の構成に限定されず、式2の具体的な関数形状が、有限フーリエ級数によって表現される場合の一般論について説明する。
すなわち、感度関数が以下の式3,4,5という形で表現されているものとする。
【数3】
ここで、車輪円周方向の接触位置を表す角度φは、検定試験における検定開始位置(すなわち、載荷点などの位置指標0の位置)を基準とした変数であることに注意する。
【0048】
上述したフーリエ級数表現は、実走行データのうち、ある時刻のデータから車輪1周分遡ったデータ列に対しても適用することが可能である。
このデータ列をεact(φ)とすると、式6のように表現できる。
【数4】
ただし、Φは、ある瞬間の円周方向接触位置を基準とした角度変数であり、検定時の位相との差φ
0(位相シフト量と呼ぶ)を用いて、φ=Φ-φ
0という関係が成立すると仮定する。
【0049】
一方、式3,4,5を、式2に代入して整理すると、任意のN次の項について式7が算出される。
【数5】
【0050】
式7に、φ=Φ-φ
0を代入し、加法定理を用いて展開すると式8を得る。
【数6】
式8は、検定で得られた感度関数を使用して、実走行時に得られるひずみ波形を構成したものと考えられる。
したがって、式8と式6の係数比較により、式9,10が成立する。
【数7】
ただし、左辺の実波形に対するフーリエ係数は、車輪1回転分のデータに対して得られるものであるため、右辺の作用力や接触位置についても、車輪1回転分平均化された値であることに注意する。
【数8】
は具体的には、式11,12により表せる。
【数9】
【0051】
このことから、式9,10は、式13のように整理できる。
【数10】
ただし、
【数11】
である。
式13を、便宜上、式14のように表記する。
【数12】
【0052】
ただし、S
Nは、実波形から計算されたフーリエ係数ベクトル、A
N(P,T,φ
0)は係数行列、xは横圧と左右変位を並べたベクトルである。
この方程式は、任意の次数について成立するため、D次の有限フーリエ級数で感度関数を近似している場合、形式上は1系統あたりD個の方程式が得られる。
式13の係数行列の行列式は、式15のように表せる。
【数13】
【0053】
行列式が非零となる条件はいくつか考えられるが、ブリッジ出力の周波数特性のみによって決まる。
行列式が零とならない条件が存在するための必要条件は、
【数14】
である。
特に、前後接線力はあまり大きく作用しない状況も考えられるため、前者の条件がより重要である。
【0054】
式16を満たすようなブリッジ回路構成が存在する場合には、式16を単独で解くことはできるが、冗長な連立方程式を構成することで、式13を単独で仕様する場合より、条件をよくすることができる可能性がある。
また、式16単独では可解条件を満たさなくても、方程式を追加することによって可解条件を満たすようにできる可能性がある。
冗長な連立方程式を構成するためには、主に以下の方法が考えられる。
・同じブリッジ回路の別の次数Mのフーリエ係数を使用した連立方程式を構成する。
・別のブリッジ開度のフーリエ係数を使用した連立方程式を構成する。
・上記を組み合わせる。
【0055】
例えば、2系統のブリッジ回路1,2を考え、それぞれの出力波形のN次フーリエ級数項に関して、式17,18が成立するものとする。
【数15】
【0056】
M次フーリエ級数項に関しても同様に、式19,20が成立するものとする。
【数16】
【0057】
式17乃至20をまとめると、式21のような連立方程式を得る。
【数17】
【0058】
ただし、S,Aはそれぞれ複数の方程式をまとめたフーリエ係数ベクトルと係数行列である。
明らかにこの連立方程式は冗長だが、この方程式の誤差ノルム最小解
【数18】
は、行列Aの擬似逆行列A
+を用いて、式22のように表せる。
【数19】
擬似逆行列は、具体的には、式23のように計算できる。
【数20】
【0059】
この擬似逆行列の計算が成立するためには、ATAがフルランク、すなわち、行列Aが列フルランクでなければならない。
これは、周波数領域で表現した冗長な連立方程式の可解条件でもある。
行列Aが列フルランクとなるようなブリッジ回路と次数の組み合わせが見つかれば、横圧とまくらぎ方向接触位置を計算することが可能である。
ただし、行列Aのランクを求め、さらに可解条件を一般的に求めることは難しく、使用するブリッジ回路を想定し、係数行列を構成した上で、行列ATAの行列式を数値的に評価するというのが現実的な方法である。
【0060】
上述した通り、ここで扱っている問題は、あくまでも車輪1回転分の元波形データに対するフーリエ係数を使用するものであり、計算される横圧も接触位置も、車輪1回転分の平均的な値になると考えられる。
一方、輪重及び前後接線力については、横圧と接触位置を求める際に必要となるが、これは輪重測定用ブリッジ出力から得ることができる。
ただし、使用する方程式が、車輪1回転分の平均的な値であることが望ましい。
【0061】
以下、車輪1回転の平均的な輪重、前後接線力の計算方法について説明する。
あわせて、位相シフト量についても計算することが可能である。
基本的には、横圧、まくらぎ方向接触位置を計算する方法と同様の方法により計算することができる。
輪重測定用ブリッジ回路の出力ε
p1,ε
p2と、輪重P、前後接線力Tの関係が式24,25のように表されると仮定する。
【数21】
【0062】
さらに、感度関数f
1(φ),f
2(φ),g
1(φ),g
2(φ)は、式26乃至29のようにフーリエ級数近似されるものとする。
【数22】
【0063】
横圧、接触位置を計算する方程式と同様の手順で、輪重、前後接線力を計算する方程式が式30のように導出される。
【数23】
ただし、左辺のベクトルは、実波形から計算されるフーリエ係数から構成されるベクトルである。
【0064】
横圧、接触位置に関する方程式と同様に、係数行列の擬似逆行列を用いれば、式31のように誤差ノルム最小解を計算できる。
【数24】
位相シフト量φ
0が既知であれば、この計算のみで前後接線力と輪重を計算することができる。
位相シフト量φ
0が未知の場合には、二乗誤差を評価する。
位相シフト量の暫定値
【数25】
を設定すると、暫定値に対して誤差ノルム最小解は、式32のように計算できる。
【数26】
【0065】
誤差ノルム最小解を使用して計算される、ブリッジ出力に対するフーリエ係数ベクトルを
【数27】
とし、式33のように定義する。
【数28】
【0066】
さらに、誤差ベクトル
【数29】
を式34により定義する。
【数30】
ただし、Iは単位行列である。
誤差ベクトルを用いると、二乗誤差
【数31】
は、式35の通り計算される。
【数32】
位相シフト量の暫定値
【数33】
を変化させて二乗誤差を評価したときに、二乗誤差が最小となるような位相シフト量が、求める位相シフト量である。
【0067】
以下、上述したせん断ひずみを用いた横圧測定法を採用した場合について、連立方程式を構成した際の可能性について説明する。
図14は、せん断ひずみを用いた横圧測定法における横圧感度及び接触位置に関する交差感度関数を11次のフーリエ級数で近似した結果を示す図である。
図15は、その次数ごとのフーリエ係数を示す図である。
図14に示す通り、輪重・接触位置交差感度関数は、1周期に4点の極値を持つ波形であり、周波数領域での定性的な性質が横圧感度関数とは異なる。
この定性的性質の違いは、周波数領域では、
図15に示す高次のフーリエ係数の強度の違いとして現れている。
このような交差感度関数と感度関数の関係は、可解な方程式系を構成しやすいと考えられる。
すなわち、作用力変動がない状態で、踏面中心付近で接触している場合には、ひずみ波形は車輪1回転相当の周波数成分しか持たないが、接触点が踏面中心からずれるにつれて、高調波成分が大きくなるため、周波数成分ごとに分離し、その強度を見ることによって、まくらぎ方向接触位置を推定できる。
【0068】
一方、比較例の板部曲げ横圧測点では、横圧感度、接触位置交差感度のいずれも、単一の三角関数状の形状をしている。
このようなブリッジ回路では、特定の周波数成分を用いて接触位置を推定することは困難であると考えられる。
【0069】
連立方程式の可解性を評価するために、1次のフーリエ係数を用いて構成した式13の係数行列の行列式と、1次、3次のフーリエ係数を用いて構成した式21の係数行列とその転置の積の行列式を評価した。
これらの行列式は、輪重P、前後接線力Tによっても変化するため、これらをパラメータとしたときの行列式の変化を評価した。
なお、式13の係数行列については、解析的に行列式が得られており、行列式は位相シフト量φ0に依存しないことが示されている。
冗長な方程式についても、数値的に評価した結果、位相シフト量の変化によって行列式が変化しないことを確認したため、位相シフト量φ0はパラメータとして扱っていない。
【0070】
図16は、行列式の評価結果を示す図である。
図16において、横軸は前後接線力を示し、縦軸は行列式を示している。
図16では、輪重Pを19kNから100kNの範囲において変化させた際の、各輪重値に対する、行列式と前後接線力の関係を示している。
上段に示すように、非冗長な方程式である式13においては、輪重の変化に対する行列式の変化量は顕著でなく、凡そ前後接線力が負の領域で行列式が負、前後接線力が正の領域で行列式が正となる傾向にある。
輪重の大きさに関わらず、前後接線力が-2から0kN付近において行列式が零となる領域があり、ここが連立方程式の特異点となる。
一方、中段に示すように、連立方程式を冗長化した式21の場合には、前後接線力が負の領域でも行列式が正となる。
【0071】
図16の最下段に、縦軸を対数スケールにとった図を示している。
非冗長な方程式において行列式が零となる付近において、行列式の絶対値が小さくなるものの、輪重が作用していれば零になることはなく、事実上特異点が消滅することがわかる。
ここでは行列式を評価することによって可解性を評価したが、現実的には、行列式が非零であるからといって、必ずしも接触位置を正当に計算できることは保証されない。
式13に関して、1系統のブリッジ出力しか使用していないにも関わらず、行列式の評価においては解ける領域があると結論付けられる背景には、実走行時のひずみ波形から、車輪1回転分の波形が厳密に抽出されているという前提条件がある。
すなわち、行列式が非零となる条件は式16に示す通りだが、これは言い換えれば、横圧感度関数と接触位置交差感度関数の位相がずれていることを要求する式である。
感度関数を有限フーリエ級数で近似した時点で、位相に微小なずれが生じるため行列式自体は非零となるが、各々の位相関係を正しく評価するためには、精密に車輪1回転分のデータを抽出する必要がある。
【0072】
すなわち、式13を使用した接触位置評価は、1周期切り出し誤差の影響を強く受けると考えられる。
一方、方程式を冗長化することにより、わずかな位相差のみならず、周波数ごとの強度も評価に加えることができるため、1周期切り出し誤差の影響を緩和する効果があると推測される。
このように冗長化した方程式を用いることにより、特異点を消滅させ、1周期切り出し誤差の影響を低減することができると考えられる。
【0073】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)車輪回転時の接触位置測定用ブリッジ回路Qs1,Qs2の出力波形の周波数特性に基づいてまくらぎ方向の車輪―レール間の接触位置を演算することにより、車輪回転時における出力波形の周波数特性が車輪とレールとの接触位置変化に応じて変化するものである限り、接触力を測定するためのブリッジ回路の少なくとも一つを接触位置測定用ブリッジ回路として利用することができる。
これにより、接触位置測定用ひずみゲージを専用のものとして設ける必要がなく、車輪に貼付するひずみゲージの個数を低減するとともに、スリップリングの多極化、測定機器の多チャンネル化を抑制しつつ、車輪とレールとの接触位置を測定することができる。
(2)接触位置測定用ブリッジ回路は、車輪とレールとの接触力の少なくとも一つを測定するブリッジ回路と共用であることにより、接触力測定用の輪軸において新たなひずみゲージ、ブリッジ回路を設けることなく接触位置を測定することができる。
(3)接触位置測定用ひずみゲージが車輪板部の横圧に起因するせん断ひずみを検出することにより、接触位置測定用ブリッジ回路の出力の周波数特性を接触位置変化に応じて確実に変化させ、上述した効果を得ることができる。
(4)接触位置測定用ブリッジ回路が横圧を測定するブリッジ回路と共用であることにより、接触位置測定用ブリッジ回路と横圧測定用ブリッジ回路とを共用し、装置構成を簡素化することができる。
また、横圧を車輪の板部のせん断ひずみに基づいて測定することにより、板部の曲げ変形に基づいて測定する一般的な手法に対して、接触位置がまくらぎ方向に変化した際の輪重成分等に起因する横圧の測定誤差を低減することができる。
(5)車輪1回転分の接触位置測定用ブリッジ回路の出力波形の複数の次数のフーリエ係数を用いた冗長な方程式により接触位置を演算することにより、特異点を消滅させ、出力波形の1周期切り出し時の誤差の影響を低減することができる。
(6)輪重測定用ブリッジ回路の出力波形に基づいて、接触位置の演算に用いられる輪重、前後接線力を演算することにより、車輪回転角を検出するために専用の回転角度センサを設ける必要がなく、装置構成をさらに簡素化することができる。
【0074】
(他の実施形態)
なお、本発明は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。
(1)接触位置測定装置、及び、接触位置測定方法を構成する各構成要素、部品などの形状、構造、材質、製法、個数、配置などは、上述した実施形態に限定されず適宜変更することができる。
(2)車輪の形状、構造や、ひずみゲージの貼付手法などは、実施形態のものに限らず、適宜変更することができる。
例えば、実施形態ではせん断ひずみを測定するためのひずみゲージを含む3軸のひずみゲージを、車輪の周上4箇所に形成された開口131に2枚ずつ貼付しているが、車輪周方向のひずみゲージの分布密度をさらに多くしてもよい。この場合、追加されたひずみゲージを既存のブリッジ回路に挿入したり、あるいは、新たなブリッジ回路を構成してもよい。
(3)実施形態における具体的な演算手法及び数式等は一例であって、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0075】
1A~8B 輪重測定・横圧測定(板部せん断)用のひずみゲージ
1a~7a 横圧測定(板部曲げ)用のひずみゲージ
100 車輪 110 リム部
111 踏面 112 フランジ
120 ボス部 130 板部
131 開口
Qs1,Qs2 接触位置測定用ブリッジ回路