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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041421
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】植物発酵物及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220304BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20220304BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20220304BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20220304BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20220304BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20220304BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALI20220304BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20220304BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220304BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220304BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20220304BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20220304BHJP
   C12R 1/225 20060101ALN20220304BHJP
【FI】
C12N1/20 E
C12N9/99
C12P1/04 Z
C12N1/20 A
A61K8/9789
A61K36/28
A61K36/185
A61K8/9728
A61Q19/02
A61P17/00
A61P43/00 111
A61K35/744
A61K35/747
C12R1:225
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146605
(22)【出願日】2020-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 智子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅彦
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C083
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B064CA02
4B064CD22
4B064DA01
4B065AA30X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB26
4B065BD09
4B065BD15
4B065BD18
4B065CA50
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083EE35
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087ZA89
4C087ZC20
4C088AB12
4C088AB26
4C088NA05
4C088ZA89
4C088ZC42
(57)【要約】
【課題】アルニカ、ゴレンシ等の植物に由来する素材であって、活性向上のため改良された素材を提供する。
【解決手段】植物又はその処理物を原料とする微生物による発酵物であって、前記植物がアルニカである場合、前記微生物はラクトバチルス ゼアエ(Lactobacillus zeae)に属する微生物、ラクトバチルス ホルデイ(Lactobacillus hordei)に属する微生物、及びペディオコッカス アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する微生物からなる群から選ばれた1種又は2種以上の微生物であり、前記植物がゴレンシである場合、前記微生物はラクトバチルス属(Lactobacillus属)に属する微生物である、該発酵物である。この発酵物は、皮膚外用剤、化粧料への配合素材等として有用である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物又はその処理物を原料とする微生物による発酵物であって、前記植物がアルニカである場合、前記微生物はラクトバチルス ゼアエ(Lactobacillus zeae)に属する微生物、ラクトバチルス ホルデイ(Lactobacillus hordei)に属する微生物、及びペディオコッカス アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する微生物からなる群から選ばれた1種又は2種以上の微生物であり、前記植物がゴレンシである場合、前記微生物はラクトバチルス属(Lactobacillus属)に属する微生物である、該発酵物。
【請求項2】
前記植物はゴレンシであり、前記微生物は、ラクトバチルス マリ(Lactobacillus mali)に属する微生物である、請求項1記載の発酵物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発酵物を含有する皮膚外用剤。
【請求項4】
美白効果をもたらすために用いられる、請求項3記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
前記発酵物は、チロシナーゼ阻害作用を有するものである、請求項3又は4に記載の皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤等として有用な植物発酵物に関し、より詳細には、アルニカ又はゴレンシの発酵物、及びこれを含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルニカは、ヨーロッパ原産の高山植物として知られ、キク科の多年草であり、ハーブや生薬用として広く栽培されている。一方、ゴレンシは、熱帯アジア原産のカタバミ科の常緑小高木であり、その果実はスターフルーツとして広く流通している。従来、植物エキスや発酵物を化粧料等に用いることが行われているが、これらアルニカやゴレンシにつては皮膚外用剤としての利用が報告されている。すなわち、例えば、特許文献1には、皮膚老化防止用組成物に含有せしめる紫外線ダメージ抑制剤として、アルニカエキスを用いることが記載されている。また、例えば、特許文献2には、ゴレンシの葉の80%エタノール抽出物は、チロシナーゼ阻害作用、メラニン産生抑制作用等を有しており、更に、太陽光に曝された被験者の背部皮膚に塗布することにより、淡色化効果が認められたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6305727号公報
【特許文献2】特開2004-352659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、アルニカ又はゴレンシによる活性を十分に引き出すことができなかった。
【0005】
よって、本発明の目的は、アルニカ、ゴレンシ等の植物に由来する素材であって、活性向上のため改良された素材を提供することにある。また、これにより、新規な皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の第1は、植物又はその処理物を原料とする微生物による発酵物であって、前記植物がアルニカである場合、前記微生物はラクトバチルス ゼアエ(Lactobacillus zeae)に属する微生物、ラクトバチルス ホルデイ(Lactobacillus hordei)に属する微生物、及びペディオコッカス アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する微生物からなる群から選ばれた1種又は2種以上の微生物であり、前記植物がゴレンシである場合、前記微生物はラクトバチルス属(Lactobacillus属)に属する微生物である、該発酵物を提供するものである。
【0008】
本発明に係る発酵物においては、前記植物はゴレンシであり、前記微生物は、ラクトバチルス マリ(Lactobacillus mali)に属する微生物であることが好ましい。
【0009】
本発明の第2は、上記の発酵物を含有する皮膚外用剤を提供するものである。
【0010】
本発明に係る皮膚外用剤においては、該皮膚外用剤は、美白効果をもたらすために用いられることが好ましい。
【0011】
本発明に係る皮膚外用剤においては、前記発酵物は、チロシナーゼ阻害作用を有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルニカ、ゴレンシ等の植物又はその処理物を原料とし、これを特定の微生物で処理した発酵物であるので、チロシナーゼ阻害活性等、美白効果をもたらす活性に優れている。よって、これにより新規な皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において「アルニカ」は、通常当業者に理解される植物と同義であり、具体的には、キク科ウサギギク属のアルニカ(学名:Arnica montana、和名としてセイヨウウサギギクとも呼ばれる。)を含む意味である。アルニカは、ハーブや生薬用としても広く栽培されており、容易に入手可能である。
【0014】
本明細書において「ゴレンシ」は、通常当業者に理解される植物と同義であり、具体的には、カタバミ科ゴレンシ属のゴレンシ(学名:Averrhoa carambola、和名として五歛子とも呼ばれる。)を含む意味である。ゴレンシは、熱帯アジア原産の常緑小高木であり、その果実はスターフルーツとして広く流通されており、容易に入手可能である。
【0015】
本発明においては、アルニカ、ゴレンシ等の植物又はその処理物に微生物を作用させて、その微生物による発酵物となす。微生物に作用させる植物体の部位としては、例えばアルニカの場合では、花部、葉部、幹部、地上部、根部、全草、又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは花部、葉部、又はこれらの部位の混合物等であり、より好ましくは花部である。一方、例えばゴレンシの場合では、葉部、枝部、花部、果実部、樹皮部、根部、又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部、枝部、又はこれらの部位の混合物等であり、より好ましくは葉部である。微生物に作用させる植物体の形状としては、植物原体又はその乾燥物の破砕物、搾汁液、抽出物、又はこれらの混合物等であり、特に限定されない。好ましくは搾汁液、抽出物、又はこれらの混合物等であり、より好ましくは抽出物である。
【0016】
アルニカ、ゴレンシ等の植物又はその処理物に作用させる微生物としては、具体的には、アルニカに作用させる微生物としては、ラクトバチルス ゼアエ(Lactobacillus zeae)、ラクトバチルス ホルデイ(Lactobacillus hordei)、及びペディオコッカス アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する微生物からなる群から選ばれた1種又は2種以上の微生物であることが好ましい。また、ゴレンシに作用させる微生物としては、ラクトバチルス属(Lactobacillus属)に属する微生物であることが好ましく、例えば、ラクトバチルス マリ(Lactobacillus mali)等である。これらの微生物であれば、当該植物又はその処理物の発酵が良好に促進され、且つ、美白効果をもたらす活性に優れている。微生物は、1種類を単独で上記原料との処理に用いてもよく、2種類以上を併用して上記原料との処理に用いてもよい。すなわち、異なる2種類以上の微生物による処理を順次に行ってもよく、異なる2種類以上の微生物を一時に併用して処理を行うようにしてもよく、また、これらの処理を組み合わせてもよい。
【0017】
アルニカ、ゴレンシ等の植物又はその処理物に上記微生物を作用させる際の条件については、当該植物又はその処理物の成分が上記微生物によってなにかしらの変化がもたらされるような条件であればよく、特に制限はないが、例えば、アルニカ、ゴレンシ等の植物又はその処理物に作用させた微生物が初発菌数の2~10000倍量、典型的には5~1000倍量、より典型的には10~1000倍量に増殖する生育条件であることがより好ましい。生育が乏しいと、発酵が良好に進まない。
【0018】
アルニカ、ゴレンシ等の植物又はその処理物に上記微生物を作用させる際には、その微生物の生育の補助材として、例えばグルコース、フルクトース、ショ糖、オリゴ糖等の糖類、アラニン、アルギニン、トリプトファン、システイン等のアミノ酸類、カゼイン分解物、タンパク分解物等のペプチド類、イーストエキス、肉エキス、ダイズエキス等のエキス類、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等の脂肪酸を側鎖にもつ界面活性剤あるいは、標準的な乳酸菌用培地構成である、例えばラクトバシラスMRSブロス(Difco)等を用いてもよい。
【0019】
ただし、アルニカ、ゴレンシ等の植物又はその処理物に由来する成分に加えてその他の成分が残存すると、防腐性、使用感等の観点から、得られる発酵物の品質に影響をきたす場合があるので、発酵に際しては、アルニカ、ゴレンシ等の植物又はその処理物に由来する成分以外の成分を必要以上に配合することは、望ましいとはいえない。よって、上記補助材を用いる場合には、例えば、アルニカ、ゴレンシ等の植物又はその処理物からの由来物100質量部に対してそれ以外の構成割合を0.001質量部以上5.0質量部以下とすることが好ましく、0.01質量部以上0.5質量部以下とすることがより好ましい。一方、アルニカ、ゴレンシ等の植物又はその処理物に由来しない原料を何も添加せずに、上記微生物による処理に供するようにしてもよい。
【0020】
以下、本発明に係る発酵物を得るための、限定されない任意の態様について、更に具体的に説明する。
【0021】
上記微生物に作用させる原料としては、例えば、アルニカ、ゴレンシ等の植物の抽出物を得て、それを原料とすることができる。この場合、例えば植物体の乾燥粉末に対して10~200倍量の水や熱水(例えば、逆浸透膜処理水、イオン交換水、水道水、井水、蒸留水、超純水等を用いてもよい。)を加えて加熱処理して熱水抽出物を得て、それをそのまま抽出懸濁液の状態で原料にしたり、任意に水分を蒸発濃縮して原料にしたり、あるいは、フィルター濾過、遠心分離等の固液分離手段によって固形分を除いて上清を得て原料にしたりして、そのような原料に対して、上記微生物を適当な初発濃度接種して、作用させるようにすればよい。
【0022】
上記微生物による処理は、通常の通気、静置培養に準じた方法で行うことができる。この場合、初発菌数濃度としては、好ましくは1×104CFU/mL以上5×107CFU/mL以下であり、より好ましくは1×105CFU/mL以上1×107CFU/mL以下である。温度条件としては、20℃~40℃、より好ましくは25℃~37℃である。処理期間としては12時間~10日間、より好ましくは1~3日間である。このような静置培養により、例えば初発菌数の2~10000倍量、典型的には5~1000倍量、より典型的には10~1000倍量に微生物を増殖させてなる、発酵物を得ることができる。微生物による処理の後には、使用した微生物を含むままで、本発明に係る発酵物となしてもよいが、上述した防腐性、使用感等の観点からは、発酵に使用した微生物の菌体は、フィルター濾過、遠心分離等の固液分離手段によって除き、得られた上清を発酵物となすことが好ましい。また、微生物による処理の後には、その処理物に各種溶媒を加えて、抽出物ないし希釈物を調製し、本発明の発酵物として使用することも可能である。ここで使用する溶媒は、水、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール、1,3-ブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、グリセリン等の多価アルコールなど、化粧品に汎用される溶媒があげられるが、これらに限定されたものではなく、単独あるいは二種以上混合して用いることができる。
【0023】
本発明に係る発酵物は、それをそのまま皮膚外用剤として用いてもよく、あるいは皮膚外用剤の製造工程で配合するようにして用いてもよい。具体的には、例えば、乳液、クリーム、クレンジング、マッサージ、サンスクリーン、化粧下地、クリームファンデーション等の形態の化粧料あるいはその原料として、好適に用いられ得る。なお、ここでいう化粧料は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律で定義されている医薬品、医薬部外品、化粧品を含む意味である。
【0024】
また、皮膚外用剤の形態としては、皮膚に作用させる成分を適当な基材部に担持してなる、パック、マスク、ジェル等であってもよい、すなわち、そのような皮膚外用剤の、皮膚に作用させる成分として、好適に用いられ得る。
【0025】
また、本発明の限定されない任意の態様において、上記皮膚外用剤は、美白効果をもたらすために用いられることや、チロシナーゼ阻害作用を有すること等の機能性を表示した製品であってもよい。
【実施例0026】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0027】
〔1.アルニカ抽出物の調製〕
1-1.植物
アルニカ(学名:Arnica montana)の花部の乾燥物を試験に用いた。
【0028】
1-2.抽出
前培養用のアルニカ抽出物を、次のとおり調製した。すなわち、植物粉末:水=1:20(質量比)、となるよう水(逆浸透膜処理水、以下「RO水」という。)を加え、終濃度が0.2w/v%となるようにグルコースを、及び終濃度が0.1w/v%となるようにイーストエキス(Difco)を添加し、よく攪拌して懸濁液を調製した。懸濁液を3mLずつ試験管に分注し、アルミキャップをして121℃、15分間オートクレーブにかけて熱水抽出物を得た。
【0029】
本培養用のアルニカ抽出物としては、(1)無添加、及び(2)0.2w/v%グルコース及び0.1w/v%イーストエキス添加の2種類を調製した。すなわち、植物粉末:水=1:20(質量比)となるようRO水を加え、上記(1)としては無添加で、又は上記(2)としては終濃度が0.2w/v%となるようにグルコースを、及び終濃度が0.1w/v%となるようにイーストエキス(Difco)を添加し、よく攪拌して、それぞれ懸濁液を調製した。その懸濁液を10mLずつ試験管に分注して、シリコ栓をして98℃、100分間オートクレーブにかけて熱水抽出物を得た。
【0030】
〔2.ゴレンシ抽出物の調製〕
2-1.植物
ゴレンシ(学名:Averrhoa carambola)の葉の乾燥物を試験に用いた。
【0031】
2-2.抽出
前培養用のゴレンシ抽出物は、アルニカ抽出物と同様にして調製した。
【0032】
本培養用のゴレンシ抽出物としては、(1)無添加、及び(2)0.2w/v%グルコース及び0.1w/v%イーストエキス添加の2種類を、アルニカ抽出物と同様にして調製した。
【0033】
〔3.乳酸菌〕
使用した13種類の乳酸菌を表1に示す。菌は、-80℃DMSO保存株をLactobacilli MRS Broth(Difco)に接種し、至適培養温度にて20時間培養後、同条件で更に1代継代したものを菌液として、アルニカ抽出物又はゴレンシ抽出物との前培養に供した。なお、使用した11種類の乳酸菌(No.5およびNo.10以外)は、いずれも各乳酸菌の属種を代表する基準株を入手して使用した。使用した13種類の株は、表1に記載した寄託先から入手できる。
【0034】
【表1】
【0035】
[試験例1]
前培養は、前培養用のアルニカ抽出物3mLに菌液を0.5v/v%接種し(初発菌数濃度:およそ2×106~3×107CFU/mL)、好気下にて至適温度で48時間、静置培養した。また、コントロールとして乳酸菌を含まない新鮮なLactobacilli MRS Broth(Difco)を0.5v/v%接種し、同条件で培養した。
【0036】
本培養は、本培養用のアルニカ抽出物10mLに前培養後の培養物を1v/v%接種し(初発菌数濃度:およそ3×104~5×106CFU/mL)、好気下にて至適温度で72時間、静置培養した。また、未発酵のコントロールとしては、上記乳酸菌を含まない前培養液を1v/v%接種し、同条件で培養した。
【0037】
本培養後、生菌数を確認した。具体的には、本培養後の培養物を原液あるいは0.1w/v%イーストエキスで適宜希釈した液を、スパイラルプレーター EDDY JET2(IUL Instruments)にてLactobacilli MRS寒天平板培地に100μL播種し、至適温度で3日間培養後、形成したコロニーをコロニーカウンター ProtoCOL3(SYNBIOSIS)にて計数して、CFU(コロニー形成単位)/mLの値を算出した。
【0038】
【表2】
【0039】
その結果、乳酸菌No.13(Streptococcus thermophilus)は、GY無添加の場合の前培養後の生菌数が検出されず、GY添加の場合でも到達生菌数が3×102CFU/mLに達せずに、アルニカを原料とする発酵物の調製には適さない菌種又は菌株であった。
【0040】
上記以外の乳酸菌9株では、アルニカ抽出物での培養により、生菌数が初発菌数に比べて少なくとも10倍以上増加していた(乳酸菌No.9のGY無添加の場合を除く)。アルニカ抽出物にグルコース及びイーストエキスを添加したときの影響は、生菌数が増加する傾向(例;乳酸菌No.3)、ほぼ同等(例;乳酸菌No.10)、抑制する傾向(例;乳酸菌No.11)と、乳酸菌の種類によって様々であり、一様な傾向はみられなかった。菌の生育に対する影響の程度は、いずれもそれほど顕著ではなかった。
【0041】
以上から、上記乳酸菌9株、すなわち乳酸菌No.2(Lactobacillus pentosus)、乳酸菌No.3(Lactobacillus zeae)、乳酸菌No.4(Lactobacillus mali)、乳酸菌No.6(Lactobacillus fabifermentans)、乳酸菌No.7(Lactobacillus hordei)、乳酸菌No.8(Lactococcus lactis subsp. lactis)、乳酸菌No.9(Leuconostoc pseudomesenteroides)、乳酸菌No.10(Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides)、及び乳酸菌No.11(Pediococcus acidilactici)は、アルニカを原料とする発酵物の調製に適することが明らかとなった。
【0042】
[試験例2]
前培養は、前培養用のゴレンシ抽出物3mLに菌液を0.5v/v%接種し初発菌数濃度:およそ3×106~3×107CFU/mL)、好気下にて至適温度で48時間、静置培養した。また、コントロールとして乳酸菌を含まない新鮮なLactobacilli MRS Broth(Difco)を0.5v/v%接種し、同条件で培養した。
【0043】
本培養は、本培養用のゴレンシ抽出物10mLに前培養後の培養物を1v/v%接種し(初発菌数濃度:およそ4×104~2×106CFU/mL)、好気下にて至適温度で72時間、静置培養した。また、未発酵のコントロールとしては、上記乳酸菌を含まない前培養液を1v/v%接種し、同条件で培養した。
【0044】
本培養後、生菌数を確認した。具体的には、本培養後の培養物を原液あるいは0.1w/v%イーストエキスで適宜希釈した液を、スパイラルプレーター EDDY JET2(IUL Instruments)にてLactobacilli MRS寒天平板培地に100μL播種し、至適温度で3日間培養後、形成したコロニーをコロニーカウンター ProtoCOL3(SYNBIOSIS)にて計数して、CFU(コロニー形成単位)/mLの値を算出した。
【0045】
【表3】
【0046】
その結果、乳酸菌No.8(Lactococcus lactis subsp. lactis)及び乳酸菌No.13(Streptococcus thermophilus)は、培養後の生菌数が検出されずに、ゴレンシを原料とする発酵物の調製には適さない菌種又は菌株であった。
【0047】
上記以外の乳酸菌11株では、ゴレンシ抽出物での培養により、生菌数が初発菌数に比べて少なくとも10倍以上増加していた(乳酸菌No.5のGY無添加の場合を除く)。ゴレンシ抽出物にグルコース及びイーストエキスを添加したときの影響は、生菌数が増加する傾向(例;乳酸菌No.5)、ほぼ同等(例;乳酸菌No.7及び11)、抑制する傾向(例;乳酸菌No.6)と、乳酸菌の種類によって様々であり、一様な傾向はみられなかった。菌の生育に対する影響の程度は、いずれもそれほど顕著ではなかった。
【0048】
以上から、上記乳酸菌11株、すなわち乳酸菌No.1(Lactobacillus plantarum subsp. plantarum)、乳酸菌No.2(Lactobacillus pentosus)、乳酸菌No.3(Lactobacillus zeae)、乳酸菌No.4(Lactobacillus mali)、乳酸菌No.5(Lactobacillus casei)、乳酸菌No.6(Lactobacillus fabifermentans)、乳酸菌No.7(Lactobacillus hordei)、乳酸菌No.9(Leuconostoc pseudomesenteroides)、乳酸菌No.10(Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides)、乳酸菌No.11(Pediococcus acidilactici)、及び乳酸菌No.12(Pediococcus pentosaceus)は、ゴレンシを原料とする発酵物の調製に適することが明らかとなった。
【0049】
[試験例3]
試験例1において、アルニカ抽出物を用いた培養後の生菌数が1×106CFU/mL以上を示した8種類の乳酸菌(No.2~4、6~8、10~11)を選択して、各乳酸菌による培養物について、チロシナーゼ阻害活性を調べた。
【0050】
具体的には、GY無添加のアルニカ抽出物による本培養終了後、培養物を3000rpm(1600×g)で、10分間遠心し、上清を0.22μmフィルターで無菌濾過して発酵上清を得た。発酵上清は、4℃遮光保存の後、測定まで-20℃で冷凍保存した。表4には、使用した発酵上清又は未発酵のアルニカ抽出物について、pH測定の結果と、105℃で3時間加熱後、デシケーター内にて放冷することにより測定したときの蒸発残留物濃度(mg/mL)を示す。
【0051】
【表4】
【0052】
チロシナーゼ阻害活性の測定は、Matsudaらの方法(Matsuda H et. al.;Studies of cuticle drugs from natural sources. III. Inhibitory effect of Myrica rubra on melanin biosynthesis., Biol. Pharm. Bull., 18(8), 1148-1150 (1995))を一部改変して実施した。具体的には、各乳酸菌による発酵上清又は未発酵のアルニカ抽出物を、96穴マイクロプレートの各ウェルにそれぞれ50μL入れ(サンプル原液)、各ウェルに300mMリン酸緩衝液(pH6.8)50μLを加えて混和した後、室温で10分間プレインキュベートした。次いで、270U/mLチロシナーゼ溶液(チロシナーゼ:マッシュルーム由来、シグマ アルドリッチ)25μLと、0.06w/v%3,4―Dihydroxy-L-phenylalanine(L-DOPA、富士フイルム和光純薬株式会社)25μLを、各ウェルに加えて混合し、室温で5分間インキュベート後、ドーパクロム(メラニン生合成の中間体)の極大吸収波長である475nmの吸光度を測定した。反応系の最終ボリュームは150μLであり、そのうち発酵上清(サンプル原液)の最終配合割合は50μL/150μLであった。
【0053】
測定した吸光度から、次式により、チロシナーゼ阻害率を算出した。式中、「コントロール」はサンプルの代わりにRO水を加えた反応系を、「ブランク」はチロシナーゼの代わりに50mMリン酸カリウム緩衝液を加えた反応系を、それぞれ表す。
【0054】
【数1】
【0055】
試験は、各乳酸菌による発酵上清又は未発酵のアルニカ抽出物について、3回のチロシナーゼ反応試験を行って、その平均と標準偏差を求めた。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
その結果、未発酵のアルニカ抽出物ではチロシナーゼ阻害率が-2%(SD:±4%)であったのに対して、各乳酸菌による発酵物のうち、乳酸菌No.3(Lactobacillus zeae)では17%(SD:±3%)であり、乳酸菌No.7(Lactobacillus hordei)では15%(SD:±3%)であり、乳酸菌No.11(Pediococcus acidilactici)では16%(SD:±3%)であった。
【0058】
以上から、上記乳酸菌によるアルニカ抽出物の発酵物では、未発酵の抽出物に比べて、チロシナーゼ阻害活性が高められることが明らかとなった。
【0059】
[試験例4]
試験例2において、ゴレンシ抽出物を用いた培養後の生菌数が1×106CFU/mL以上を示した5種類の乳酸菌(No.4、9~12)を選択して、試験例3と同様にして発酵上清を調製し、チロシナーゼ阻害活性を調べた。表6には、使用した発酵上清又は未発酵のゴレンシ抽出物について、pH測定の結果と、105℃で3時間加熱後、デシケーター内にて放冷することにより測定したときの蒸発残留物濃度(mg/mL)を示す。
【0060】
【表6】
【0061】
試験は、各乳酸菌による発酵上清又は未発酵のゴレンシ抽出物について、3回のチロシナーゼ反応試験を行って、その平均と標準偏差を求めた。結果を表7に示す。
【0062】
【表7】
【0063】
その結果、未発酵のゴレンシ抽出物ではチロシナーゼ阻害率が45%(SD:±5%)であったのに対して、乳酸菌No.4(Lactobacillus mali)による発酵物では58%(SD:±2%)であった。
【0064】
以上から、上記乳酸菌によるゴレンシ抽出物の発酵物では、未発酵の抽出物に比べて、チロシナーゼ阻害活性が高められることが明らかとなった。