(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041452
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】ネジ、および、ネジの締め付け制御方法
(51)【国際特許分類】
F16B 35/00 20060101AFI20220304BHJP
F16B 31/02 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
F16B35/00 J
F16B31/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146660
(22)【出願日】2020-09-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス:https://doi.org/10.1299/jsmemecj.2019.S03102 ウェブサイトの掲載日:2019年(令和1年)9月2日 ・集 会 名:日本機械学会2019年度年次大会 開 催 日:2019年(令和1年)9月8日~9月11日 ・ウェブサイトのアドレス:https://doi.org/10.1016/j.measurement.2020.108131(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0263224120306692?via%3Dihub) ウェブサイトの掲載日:2020年(令和2年)7月4日
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】森 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】成田 史生
(57)【要約】
【課題】形状やサイズにかかわらず、比較的簡単に締結力を検査可能であり、締結時に追加部材を要することなく、締結力を調整することができるネジ、および、ネジの締め付け制御方法を提供する。
【解決手段】ネジは、磁歪効果を有する材料から成る。その材料は、磁歪材料または、磁歪材料を含む複合材料であることが好ましく、磁歪材料は、Coを69at%乃至79at%含む鉄コバルト系磁歪合金であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪効果を有する材料から成ることを特徴とするネジ。
【請求項2】
前記材料は、磁歪材料または、磁歪材料を含む複合材料であることを特徴とする請求項1記載のネジ。
【請求項3】
前記磁歪材料は、鉄コバルト系磁歪合金であることを特徴とする請求項2記載のネジ。
【請求項4】
前記磁歪材料は、Coを69at%乃至79at%含む鉄コバルト系磁歪合金であることを特徴とする請求項2記載のネジ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のネジの締め付けを制御するためのネジの締め付け制御方法であって、
所定の磁場をかけたときの、前記ネジの軸力と磁束密度の変化との関係をあらかじめ求めておく準備工程と、
前記所定の磁場をかけた状態で、被締結物に対して前記ネジを締め付けつつ、前記ネジの磁束密度の変化を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定した前記磁束密度の変化から、前記準備工程で求めた前記関係に基づいて、前記ネジの軸力を推定する推定工程と、
前記推定工程で推定した前記軸力が、所望の軸力になるまで、前記ネジの締め付け状態を変化させながら、前記測定工程と前記推定工程とを繰り返す調整工程とを、
有することを特徴とするネジの締め付け制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ、および、ネジの締め付け制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ネジは、多くの機械や構造物で固定のために用いられているが、ネジを用いて固定したものは、ネジの弛みや滑り、疲労、腐食などの様々な要因により破損する可能性がある。特に、多くのネジは、普段から振動等の外力に曝されており、時間の経過と共に締結力が低下して、弛みが発生しやすいため、弛みが破損の最大の要因となっている。ただし、ネジの弛みを防ぐためには、ネジの締結力を単純に増加させればいいというわけではなく、過剰な力でネジを締結したときには、弛みとは別に、ネジおよびその周辺部の破損の原因となる。そこで、ネジの弛み防止や、ネジ周辺部に過度の力が働かないようにするためには、適切なトルクでネジを締結することが求められる。しかし、多くの現場では、経験に頼ったネジの締付けが行われているのが実状であった。
【0003】
そこで、ネジの内部の力を計測するものとして、超音波を使用してネジの締結状態を検査する装置などが開発されている(例えば、特許文献1参照)。また、ネジの締結力を調整するために、ネジの頭部と非接合部材との間に、圧電素子や超磁歪素子、形状記憶合金などを含む締結力調整部材を設ける構造が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
なお、本発明者等により、鉄コバルト系磁歪材料やその複合材料を、安価かつ大量に生産できる方法が開発されている(例えば、特許文献3または4参照)。この鉄コバルト系磁歪材料は、加工しやすく、強度も十分であるため、鉄の替わりに用いることができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-8151号公報
【特許文献2】特開2001-50230号公報
【特許文献3】特開2017-163119号公報
【特許文献4】特開2014-84484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のネジの締結状態の検査装置は、比較的大掛かりな装置であるため、検査に多大な労力を要すると共に、検査するネジの形状やサイズに制約があるといった課題があった。また、特許文献2に記載の構造は、締結力調整部材に、電圧や磁界、熱などを加えることにより、ネジの締結力を調整可能であるが、ネジを締結する際に、締結力調整部材も一緒に取り付ける必要があり、部材が一つ増えるため、締結時の手間が煩雑になるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、形状やサイズにかかわらず、比較的簡単に締結力を検査可能であり、締結時に追加部材を要することなく、締結力を調整することができるネジ、および、ネジの締め付け制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るネジは、磁歪効果を有する材料から成ることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るネジは、磁歪効果を有する材料から成っているため、磁場によって締結力を調整することができる。例えば、締結前に磁場を印加して、磁歪効果で弾性変形させておき、締結後に磁場を取り除くことにより、残留応力が付加されるため、増し締めすることができる。これにより、締結時に追加部材を要することなく、締結力を調整することができる。
【0010】
また、本発明に係るネジは、締結による変形により、逆磁歪効果で内部の磁束密度が変化するため、その磁束密度の変化を測定することにより、内部の軸力を評価することができる。このため、例えば、ホール素子やコイルといった市販の小型のセンサなどにより、磁束密度の変化を測定するだけで、形状やサイズにかかわらず、ワイヤレスかつ非接触で、比較的簡単に締結力を検査することができる。
【0011】
また、本発明に係るネジは、締結により、内部に引張予荷重を付加することができるため、締結前と比べて、変形による磁束密度の変化が大きくなる。このため、締結力に対する磁束密度の感度が高くなり、高精度で締結力を検査することができる。
【0012】
本発明に係るネジで、前記材料は、磁歪効果を有し、かつ使用時に破損しない強度を有していれば、いかなるものであってもよく、例えば、磁歪材料または、磁歪材料を含む複合材料であってもよい。また、その磁歪材料は、加工しやすく、強度も十分大きい鉄コバルト系磁歪合金であることが好ましく、特に、磁歪量が100ppmより大きい、Coを69at%乃至79at%含む鉄コバルト系磁歪合金であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るネジは、磁歪効果を有する材料から成っているため、熱処理や磁場、予荷重により、その特性を変えることができる。このため、使用場所や使用条件などの状況に合わせて、所望の特性にして使用することができる。なお、本発明に係るネジは、雄ネジやボルト、ビスなどである。
【0014】
本発明に係るネジの締め付け制御方法は、本発明に係るネジの締め付けを制御するためのネジの締め付け制御方法であって、所定の磁場をかけたときの、前記ネジの軸力と磁束密度の変化との関係をあらかじめ求めておく準備工程と、前記所定の磁場をかけた状態で、被締結物に対して前記ネジを締め付けつつ、前記ネジの磁束密度の変化を測定する測定工程と、前記測定工程で測定した前記磁束密度の変化から、前記準備工程で求めた前記関係に基づいて、前記ネジの軸力を推定する推定工程と、前記推定工程で推定した前記軸力が、所望の軸力になるまで、前記ネジの締め付け状態を変化させながら、前記測定工程と前記推定工程とを繰り返す調整工程とを、有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係るネジの締め付け制御方法は、本発明に係るネジを使用して、所望の軸力に調整してネジを締め付けることができ、ネジの締結力を調整することができる。本発明に係るネジの締め付け制御方法は、いかなる方法でネジに磁場をかけてもよく、例えば、磁石やコイルを利用して磁場をかけてもよい。また、いかなる方法で磁束密度の変化を測定してもよく、例えば、ホール素子やコイルといった市販の小型のセンサなどにより磁束密度の変化を測定してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、形状やサイズにかかわらず、比較的簡単に締結力を検査可能であり、締結時に追加部材を要することなく、締結力を調整することができるネジ、および、ネジの締め付け制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態のネジの一例のスタッドボルトを示す側面図である。
【
図2】
図1に示すスタッドボルトを用いた締結試験の試験方法を示す側面図である。
【
図3】
図2に示す締結試験結果の、スタッドボルトの締結トルク(T)と軸方向のひずみ(ε)との関係を示すグラフである。
【
図4】
図2に示す締結試験結果の、各磁場での、スタッドボルトの締結トルク(T)と磁束密度の変化(ΔB)との関係を示すグラフである。
【
図5】
図2に示す締結試験結果の、スタッドボルトの締結トルク(T)と、軸力(F)および磁束密度の変化(ΔB)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態のネジは、磁歪効果を有する磁歪材料、または、磁歪材料を含む複合材料から成っている。本発明の実施の形態のネジは、例えば、加工しやすく、強度も十分大きい鉄コバルト系磁歪合金から成り、使用時に破損しない強度を有している。なお、本発明の実施の形態のネジは、雄ネジやボルト、ビスなどである。
【0019】
次に、作用について説明する。
本発明の実施の形態のネジは、磁歪効果を有する材料から成っているため、磁場によって締結力を調整することができる。例えば、締結前に磁場を印加して、磁歪効果で弾性変形させておき、締結後に磁場を取り除くことにより、残留応力が付加されるため、増し締めすることができる。これにより、締結時に追加部材を要することなく、締結力を調整することができる。
【0020】
また、本発明の実施の形態のネジは、締結による変形により、逆磁歪効果で内部の磁束密度が変化するため、その磁束密度の変化を測定することにより、内部の軸力を評価することができる。このため、例えば、ホール素子やコイルといった市販の小型のセンサなどにより、磁束密度の変化を測定するだけで、形状やサイズにかかわらず、ワイヤレスかつ非接触で、比較的簡単に締結力を検査することができる。
【0021】
また、本発明の実施の形態のネジは、締結により、内部に引張予荷重を付加することができるため、締結前と比べて、変形による磁束密度の変化が大きくなる。このため、締結力に対する磁束密度の感度が高くなり、高精度で締結力を検査することができる。
【0022】
本発明の実施の形態のネジは、磁歪効果を有する材料から成っているため、熱処理や磁場、予荷重により、その特性を変えることができる。このため、使用場所や使用条件などの状況に合わせて、所望の特性にして使用することができる。
【実施例0023】
本発明の実施の形態のネジとして、
図1に示すスタッドボルト11を用いて、締結試験を行った。
図1に示すように、スタッドボルト11は、Coを71at%、Feを29at%含む鉄コバルト系磁歪合金から成り、直径dが12mm(M12)、長さlが150mm、一方の端部側のネジ部11aの長さb
1が12mm、他方の端部側のネジ部11bの長さb
2が48mm、各ネジ部11a,11bのピッチpが1.75mmである。また、スタッドボルト11は、焼き鈍し処理は行っておらず、長さ方向に平行な磁化容易軸を有している。
【0024】
図2に示すように、締結試験では、直方体(100mm×100mm×80mm)の被締結体1と、2つのM12のナット2a,2bを用いた。被締結体1は、中心を通るよう長さ方向に沿って設けられた貫通孔1aを有している。貫通孔1aの内径は、13mmである。また、被締結体1と2つのナット2a,2bは、非磁性のSUS303製である。締結試験では、まず、被締結体1の貫通孔1aにスタッドボルト11を挿入し、スタッドボルト11の両端のネジ部11a,11bにそれぞれナット2a,2bを取り付けた。次に、被締結体1を万力で固定すると共に、一方のナット2aも回転しないように固定した状態で、他方のナット2bを、トルクレンチを使用して締め付け、スタッドボルト11の軸方向のひずみ、および磁束密度の変化を測定した。
【0025】
軸方向のひずみの測定は、被締結体1の内部に位置するスタッドボルト11の中心部の側面に、2つのひずみゲージ3を取り付け、各ひずみゲージ3からの出力をデータロガー4により測定して行った。磁束密度の変化の測定は、スタッドボルト11の一方の端面にホール素子5を、他方の端面にネオジム磁石6を取り付け、ホール素子5の出力をテスラメータ7で測定して行った。なお、締結試験では、磁石を利用して磁場をかけているが、コイルなどいかなる方法で磁場をかけてもよい。
【0026】
締結試験では、まず、550mTの磁場をかけた状態で、トルクレンチにより、他方のナット2bの締付トルク(T)を5~50Nmの範囲で、5Nm間隔で変化させたときの、スタッドボルト11の軸方向のひずみ(ε)を測定した。その結果を、
図3に示す。
図3に示すように、ひずみは、トルクの大きさにほぼ比例して大きくなっていることが確認された。
【0027】
次に、磁場の大きさを、磁場なし(0mT)、270mT、448mT、550mTの4段階で変えて、トルクレンチにより、他方のナット2bの締付トルク(T)を5~50Nmの範囲で、5Nm間隔で変化させたときの、スタッドボルト11の磁束密度の変化(ΔB)を測定した。その結果を、
図4に示す。
図4に示すように、磁場がないときには、トルクを変化させても、磁束密度は変化しないことが確認された。また、磁場があるときには、トルクが大きくなるに従って、磁束密度の変化も大きくなり、その磁束密度の変化は、磁場が大きくなるに従って大きくなることが確認された。また、磁束密度の変化は、所定のトルクに達すると飽和しており、その飽和するときのトルクの大きさは、磁場が大きくなるに従って大きくなることも確認された。この結果から、磁場の大きさにより、磁束密度の変化を測定する際の感度を制御できるといえる。
【0028】
次に、550mTの磁場をかけたときについて、
図3に示す軸方向のひずみ(ε)の測定結果から、各トルクでのスタッドボルト11の軸力(F)を求め、
図4に示す磁束密度の変化と合わせて、
図5に示す。なお、軸力Fは、F=E
b×ε×A
g(ここで、E
bはスタッドボルト11の縦弾性係数、A
gはスタッドボルト11の断面積)から求めた。
図5に示すように、軸力は、トルクの大きさにほぼ比例して変化することが確認された。また、磁束密度の変化は、やや非線形ではあるが、飽和するまでは、トルクが大きくなるに従って大きくなっている。このことから、磁束密度の変化を測定することにより、軸力を評価可能であり、ワイヤレスかつ非接触で、比較的簡単にスタッドボルト11の締結力を検査できるといえる。
【0029】
また、
図5に示す結果から、所定の磁場をかけたときの、ネジの軸力と磁束密度の変化との関係をあらかじめ求めておくことができるため、以下のように、ネジの締め付けを制御することができる。すなわち、所定の磁場をかけた状態で、被締結物に対してネジを締め付けつつ、ネジの磁束密度の変化を測定し、その測定した磁束密度の変化から、あらかじめ求めておいたネジの軸力と磁束密度の変化との関係に基づいて、ネジの軸力を推定する。その推定した軸力が所望の軸力になるまで、ネジの締め付け状態を変化させながら、磁束密度の変化の測定と軸力の推定とを繰り返す。これにより、所望の軸力に調整してネジを締め付けることができ、ネジの締結力を調整することができる。