(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041550
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】エレベータのブレーキ監視システム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/16 20060101AFI20220304BHJP
B66B 11/08 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
B66B5/16 Z
B66B11/08 G
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146817
(22)【出願日】2020-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎史
【テーマコード(参考)】
3F304
3F306
【Fターム(参考)】
3F304BA07
3F304DA49
3F304EC10
3F304ED18
3F306BA09
(57)【要約】
【課題】ブレーキ装置に用いられる制動材の摩耗状態を監視し、制動材の摩耗が著しい場合に迅速に対処可能とする。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータのブレーキ監視システムは、ブレーキ装置と、導体と、検出手段と、判定手段とを備える。上記ブレーキ装置は、電動機の回転軸上に軸方向に移動可能に設けられたブレーキディスクと制動時に上記ブレーキディスクに圧接するプレートとの間に制動材を有する。上記導体は、上記制動材の上記ブレーキディスクとの接触面の一部に設けられる。上記検出手段は、上記導体に電流を流したときの電気的変化を検出する。上記判定手段は、上記検出手段によって検出された上記導体の電気的変化に基づいて、上記制動材の摩耗状態を判定する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の回転軸上に軸方向に移動可能に設けられたブレーキディスクと制動時に上記ブレーキディスクに圧接するプレートとの間に制動材を有するブレーキ装置と、
上記制動材の上記ブレーキディスクとの接触面の一部に設けられる導体と、
上記導体に電流を流したときの電気的変化を検出する検出手段と、
上記検出手段によって検出された上記導体の電気的変化に基づいて、上記制動材の摩耗状態を判定する判定手段と
を具備したことを特徴とするエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項2】
上記導体は、上記制動材と同等の硬度を有し、上記制動材と同様に摩耗することを特徴とする請求項1記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項3】
上記導体は、上記制動材の中で最も制動力が働く部分に設けられることを特徴とする請求項1記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項4】
上記導体は、上記制動材の外周部に設けられることを特徴とする請求項1記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項5】
上記導体は、上記制動材の外周部を含む複数の箇所に設けられることを特徴とする請求項1記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項6】
上記導体の電気的変化として、上記導体の導通状態の変化を含み、
上記判定手段は、
上記導体の導通が遮断された場合に、上記制動材が一定値以上に摩耗している状態にあると判定することを特徴とする請求項1記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項7】
上記導体の電気的変化として、上記導体の電流変化を含み、
上記判定手段は、
上記導体の電流変化に基づいて、上記制動材の摩耗状態を判定することを特徴とする請求項1記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項8】
上記導体に流れる電流の値と上記制動材の摩耗度との対応関係を示すテーブル情報を記憶した記憶手段を備え、
上記判定手段は、
上記記憶手段に記憶された上記テーブル情報を参照して、上記導体に流れる電流の値から上記制動材の摩耗度を段階的に判定することを特徴とする請求項7記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータのブレーキ状態を監視するためのブレーキ監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの電動機には、例えばクラッチ式の電磁ブレーキ装置が用いられる。電磁ブレーキ装置は、アーマチュアと摩擦プレートとの間に介在されたブレーキディスクを備える。ブレーキディスクは、電動機の回転軸上に軸方向に移動可能に取り付けられる。
【0003】
このような構成の電磁ブレーキ装置において、制動時は、ブレーキディスクを摩擦プレートにアーマチュアを介して押し付け、アーマチュアと摩擦プレートとの間に挟み込む。これにより、ブレーキディスクを介して電動機の回転軸に制動力が作用する。一方、アーマチュアを電磁石で吸引すると、アーマチュアがブレーキディスクから離間し、摩擦プレートに対するブレーキディスクの押し付けが解除される。その結果、制動力が解除され、電動機の回転軸が回転可能な状態になる。
【0004】
ここで、摩擦プレートのブレーキディスクとの接触面と、アーマチュアのブレーキディスクとの接触面には、それぞれに「ブレーキシュー」または「ブレーキパッド」と呼ばれる制動材が設けられている。この制動材は、使用頻度により摩耗し、それに伴い制動力も低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常の運転環境であれば、エレベータ(乗りかご)の速度調整は、電動機によって行われており、ブレーキ装置は電動機による速度調整によりエレベータが停止した後に作動する。そのため、ブレーキ装置の制動材の摩耗は少なく、エレベータの稼働時間から制動材の摩耗状態を推測できる。したがって、定期的な点検で制動材の摩耗状態を確認し、必要に応じて交換するなどして対処できる。しかし、停電が発生しやすい環境では、停電によって電動機の速度調整は不要となるため、エレベータの減速及び停止はブレーキ装置によってのみ行われることとなる。つまり、停電の度に電磁ブレーキ装置が何度も使用されるため、制動材が著しく摩耗する傾向がある。その場合、定期的な点検では迅速に対処できないため、制動材の摩耗状態を常に監視しておく必要がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ブレーキ装置に用いられる制動材の摩耗状態を監視し、制動材の摩耗が著しい場合に迅速に対処できるエレベータのブレーキ監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係るエレベータのブレーキ監視システムは、ブレーキ装置と、導体と、検出手段と、判定手段とを備える。上記ブレーキ装置は、電動機の回転軸上に軸方向に移動可能に設けられたブレーキディスクと制動時に上記ブレーキディスクに圧接するプレートとの間に制動材を有する。上記導体は、上記制動材の上記ブレーキディスクとの接触面の一部に設けられる。上記検出手段は、上記導体に電流を流したときの電気的変化を検出する。上記判定手段は、上記検出手段によって検出された上記導体の電気的変化に基づいて、上記制動材の摩耗状態を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は一実施形態に係るエレベータの構成を示す図である。
【
図2】
図2は上記エレベータに用いられる巻上機を上から見た状態を示す図である。
【
図3】
図3は上記エレベータに用いられる電磁ブレーキ装置の構成を示す断面図である。
【
図4】
図4は上記電磁ブレーキ装置のブレーキディスクと制動材を側面から見た場合の模式図である。
【
図5】
図5は上記電磁ブレーキ装置のブレーキディスクと制動材を上から見た場合の模式図である。
【
図6】
図6は上記電磁ブレーキ装置のブレーキディスクと制動材を側面から見た場合の模式図であり、上記制動材が摩耗した状態を示している。
【
図7】
図7は上記電磁ブレーキ装置のブレーキディスクと制動材を上から見た場合の模式図であり、上記制動材が摩耗した状態を示している。
【
図8】
図8は上記電磁ブレーキ装置のブレーキディスクと制動材を側面から見た場合の模式図であり、上記制動材に複数箇所に導体を設けた例を示している。
【
図9】
図9は上記電磁ブレーキ装置のブレーキディスクと制動材を正面から見た場合の模式図であり、上記制動材に複数箇所に導体を設けた例を示している。
【
図10】
図10は上記導体の導通状態の変化によって摩耗判定する場合の構成を示す図である。
【
図11】
図11は上記導体の導通状態の変化によって摩耗判定する場合の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0011】
図1は一実施形態に係るエレベータの構成を示す図である。なお、
図1では、1:1ローピング形式のエレベータの構成を例にしているが、特にこの構成に限定されるものではない。
【0012】
エレベータの昇降路10内に乗りかご11及びカウンタウエイト12が設けられている。乗りかご11及びカウンタウエイト12は、それぞれに昇降路10に立設された図示せぬガイドレールに昇降自在に支持されている。
【0013】
また、建物の機械室13内に巻上機14、メインシーブ15、電磁ブレーキ装置16、エレベータ制御装置17などが配設されている。巻上機14は、エレベータ制御装置17から出力される駆動信号により回転駆動し、メインシーブ15に巻き掛けられたメインロープ18を繰り出す。メインロープ18の一端部には乗りかご11が連結され、メインロープ18の他端部にはカウンタウエイト12が連結されている。巻上機14の駆動により、メインロープ18を介して乗りかご11とカウンタウエイト12がつるべ式に昇降路10内を昇降動作する。
【0014】
エレベータ制御装置17は、乗りかご11の運転制御を含む、エレベータ全体の制御を行う。エレベータ制御装置17と乗りかご11との間には、各種信号を伝送するためのテールコード19が接続されている。このテールコード19には電力ラインも含まれており、図示せぬ電源装置からテールコード19を介して乗りかご11に所要の電力が供給される。
【0015】
図2は、巻上機14を上から見た状態を示している。
巻上機14は、メインシーブ15が支持されたギヤケース(減速機ケース)21と、巻上機14の駆動源となる電動機22と、電動機22に制動力を与えるクラッチ式の電磁ブレーキ装置16とを主要な要素として備える。
【0016】
ギヤケース21は、電動機22の回転を減速してメインシーブ15に伝達するための図示せぬギア式の減速機構を内蔵している。電動機22は、ギヤケース21に支持されている。電動機22の回転軸23は、ギヤケース21内で減速機構と噛み合い、ギヤケース21の外に突出されている。電磁ブレーキ装置16は、電動機22の反対側でギヤケース21に支持されている。
【0017】
図3は、クラッチ式の電磁ブレーキ装置16の構成を示す断面図である。
電磁ブレーキ装置16は、円筒状のフレーム51を備える。電動機22の回転軸23は、ギヤケース21から回転自在に突出し、フレーム51内の中心開口孔52を貫通している。この回転軸23の端部に、軸方向に沿って移動可能な円環状のブレーキディスク53が設けられている。ブレーキディスク53は、フレーム51に固定支持された円環状の摩擦プレート54と、フレーム51に移動自在に支持された円環状のアーマチュア(可動プレート)55との間に介在されている。
【0018】
ここで、本実施形態において、摩擦プレート54のブレーキディスク53との接触面に、「ブレーキシュー」または「ブレーキパッド」と呼ばれる円環状の制動材56が設けられている。制動材56は、制動時にブレーキディスク53の一方面の外周部分に押し付けられる。また、アーマチュア55のブレーキディスク53との接触面に対しても円環状の制動材57が設けられている。制動材57は、制動時にブレーキディスク53の他方面の外周部分に押し付けられる。
【0019】
フレーム51内に設けられた電磁石58のコイル59に対する通電が遮断されると、アーマチュア55がコイルばね60の付勢力を受けて矢印a方向に移動する。これにより、ブレーキディスク53が制動材56と制動材57との間に挟み込まれ、ブレーキディスク53に対して摩擦による制動力が働く。ブレーキディスク53は、電動機22の回転軸23に取り付けられている。したがって、ブレーキディスク53に制動力が働くことで、電動機22の回転停止状態がロックされることになる。
【0020】
一方、電磁石58のコイル59が通電されると、アーマチュア55がコイルばね60の付勢力に抗して電磁石58側に吸引され、矢印a方向とは反対の方向に移動する。これにより、ブレーキディスク53に対する制動力が解除され、電動機22が回転可能な状態になる。
【0021】
このような構成の電磁ブレーキ装置16によれば、通常は、乗りかご11が各階で停止したときに、ブレーキディスク53に制動力を働かせて、乗りかご11の停止状態をロックしておく。この場合、乗りかご11の着床動作に合わせて電動機22の駆動が停止制御されているため、大きな制動力を必要とせず、制動材56,57の摩耗も少ない。一方、停電が発生した場合には、制御的に運転停止できないため、大きな制動力が必要となり、制動材56,57の摩耗が激しくなる。したがって、特に停電が発生しやすい環境下では、制動材56,57の摩耗状態を常に監視しておく必要がある。
【0022】
以下では、電磁ブレーキ装置16に用いられる制動材56,57の摩耗状態を監視する方法について説明する。なお、ここでは摩擦プレート54の制動材56に着目して説明するが、アーマチュア55の制動材57についても同様である。
【0023】
図4および
図5にブレーキディスク53と制動材56との関係を模式的に示す。
図4はブレーキディスク53と制動材56を側面から見た場合の模式図、
図5はブレーキディスク53と制動材56を上から見た場合の模式図である。
【0024】
制動材56のブレーキディスク53との接触面の外周に沿って、制動材56の半径方向に所定の幅w1を有する円環状の導体61が設けられている。導体61は、導線62を介してエレベータ制御装置17に接続されている。後述するように、エレベータ制御装置17は、導体61に所定の電流を流して、導体61の電気的変化から制動材56の摩耗(導体61の設置箇所の摩耗)を判定する機能を備えている(
図10および
図11参照)。
【0025】
そのため、導体61の硬度は、制動材56と同等かそれ以下であり、制動材56と同様に摩耗するような硬さが好ましい。また、導体61の幅w1は、例えば制動材56の半径方向の幅d1の半分以下であることが好ましい。これは、導体61の幅w1が広すぎると、導体61が摩耗しても電気的な変化が少ないからである。したがって、制動材56の摩耗がある程度進行した状態で、導体61の通電が遮断されるような幅サイズに設定しておくことが好ましい。
【0026】
また、導体61は、
図4および
図5に示すように、制動材56のブレーキディスク53との接触面の外周に配置することが好ましい。これは、ブレーキディスク53に制動材56が接触したときに、制動材56の外周側に制動力が大きく働き、最も摩耗しやすいからである。導体61は、制動材56の中で最も制動力が働く部分に設けられることが好ましいこととなる。
【0027】
図6および
図7に制動材56が摩耗した状態を示す。
この例では、制動材56の外周の一部が摩耗し、その部分の導体61が欠損した状態を示している。導体61の欠損により、導通が切れるので、エレベータ制御装置17側で制動材56が摩耗していると判定できる。
【0028】
図8および
図9に別の例を示す。
制動材56のブレーキディスク53との接触面の複数箇所(ここでは2箇所)に導体を設け、それぞれの場所で摩耗状態を判定することでも良い。この例では、制動材56の内周に沿って円環状の導体63が設けられている。導体63は、導線64を介してエレベータ制御装置17に接続されている。エレベータ制御装置17から導体61,63に所定の電流を流して、その導通状態を監視することで、制動材56の摩耗(導体61,63の設置箇所の摩耗)を判定する。
【0029】
導体63は、制動材56の半径方向に所定の幅w2を有する。導体63の幅w2は、導体61の幅w1と同じでも、異なる値でも良い。この導体63についても、制動材56の摩耗がある程度進行した状態で、導体63の導通が切れるような幅サイズに設定しておくことが好ましい。
【0030】
このように、制動材56の内周側に別の導体63が設けておけば、導体63の導通状態から制動材56の内周側における摩耗状態を把握できる。なお、制動材56に設置する導体の数をさらに増やして、制動材56の各箇所で摩耗状態を個別に判定する構成としても良い。ただし、上述したように、制動材56の外周側に制動力が大きく働き、最も摩耗しやすい。したがって、制動材56の外周側に少なくとも1つの導体61を設けておけば良い。
【0031】
次に、制動材の摩耗状態の判定方法について説明する。
いま、
図4および
図5に示したように、制動材56の外周部に沿って円環状の導体61が設けられている場合を想定する。エレベータ制御装置17は、この導体61に所定の電流を流したときの電気的変化に基づいて、制動材56の摩耗状態を判定する。ここで、上記電気的変化には、導体61の導通状態の変化(導通しているか否か)と、導体61に流れる電流値の変化(抵抗値の変化)がある。
【0032】
以下では、(a)導体61の導通状態の変化によって摩耗判定する場合と、(b)導体61に流れる電流値の変化によって摩耗判定する場合とに分けて説明する。
【0033】
(a)導体61の導通状態の変化による摩耗判定
図10は導体61の導通状態の変化によって摩耗判定する場合の構成を示す図である。この例では、エレベータ制御装置17に入力回路71と判定部72とが設けられる。
【0034】
入力回路71は、導体61の電気的変化として導体61の導通状態の変化を検出するための検出手段として用いられ、電源71aと、フォトダイオード71bと、フォトトランジスタ71cとを備える。電源71aの一端はGNDに接地され、電源71aの他端は導体61の入力端に接続されている。導体61の出力端はフォトダイオード71bに接続されている。フォトダイオード71bは、フォトトランジスタ71cと共にフォトカプラを構成している。判定部72は、図示せぬ演算装置(CPU)に設けられており、フォトトランジスタ71cのオン/オフ信号に基づいて、導体61の摩耗状態を判定する。
【0035】
このような構成において、電源71aから制動材56上の導体61に供給された電流がフォトダイオード71bに入力される。フォトダイオード71bは、入力された電流を光信号に変換して、フォトトランジスタ71cに送信する。これにより、フォトトランジスタ71cは、フォトダイオード71bからの光信号を受けてオンする。判定部72は、フォトトランジスタ71cからオン信号を受信している間は、導体61が導通状態にあり、制動材56が摩耗していない状態にあると判定する。
【0036】
ここで、制動材56の摩耗により導体61の導通が遮断されると、フォトダイオード71bに対する電流の入力が途絶えるので、フォトトランジスタ71cはオフする。判定部72は、フォトトランジスタ71cからオフ信号を受信すると、制動材56が一定値以上摩耗している状態にあると判定する。「一定値以上摩耗」とは、制動材56が交換を要する程度に摩耗が進行している状態のことである。
【0037】
なお、
図10の例では、入力回路71にフォトカプラを用いたが、導体61の導通状態に応じてオン/オフ動作するスイッチ素子であれば、どのようなものを用いても良い。
【0038】
(b)導体61に流れる電流値の変化による摩耗判定
図11は導体61に流れる電流値の変化によって摩耗判定する場合の構成を示す図である。この例では、エレベータ制御装置17にA/D変換回路73と判定部74とメモリ部75が設けられる。なお、図示を省略するが、エレベータ制御装置17から導体61に対して所定の電流が供給されている。
【0039】
A/D変換回路73は、導体61の電気的変化として導体61の電流変化を検出するための検出手段として用いられ、導体61に流れる電流の値(アナログ)をA/D変換して判定部74に与える。判定部74は、図示せぬ演算装置(CPU)に設けられており、A/D変換回路73から導体61に流れる電流の値(デジタル)を取り込み、その電流の値に基づいて制動材56の摩耗度を判定する。ここで言う「摩耗度」とは、制動材56の摩耗の進行の度合いを示す指標のことである。メモリ部75には、予め導体61に流れる電流の値と導体61の摩耗度との関係を示すテーブル情報が記憶されている。
【0040】
このような構成において、制動材56と共に導体61が摩耗すると、導体61の抵抗値が上がるので、導体61に流れる電流の値が変化する。この場合、導体61の抵抗値が上がるのに従って、導体61に流れる電流の値が下がる。判定部74は、A/D変換回路73を介して導体61に流れる電流の値を取り込むことにより、メモリ部75に記憶されているテーブル情報を参照して、当該電流値に対応した制動材56の摩耗度を判定する。
【0041】
このように、制動材56に設けられた導体61の電気的変化を検出することで、制動材56の摩耗状態を簡単に判定することができる。この場合、上記(a)の方法では、制動材56が一定以上に摩耗しているか否かがわかる。上記(b)の方法では、制動材56の摩耗度つまり摩耗の進行状態が段階的にわかる。いずれの方法でも、エレベータ制御装置17から摩耗判定結果を例えばビルの監視室あるいは外部の監視センタに発報することで、制動材56の制動力が低下して危険な状態になる前に迅速に対処できる。
【0042】
なお、上記実施形態では、摩擦プレート54に設けられた制動材56の摩耗判定について説明したが、アーマチュア55に設けられた制動材57に対しても、その制動材57に導体を設けておくことで、上記同様に摩耗状態を判定することができる。また、
図8および
図9の例のように、制動材に複数の導体を設けておく場合には、
図10または
図11で説明した方法で、各導体毎に電気的変化を検出して、制動材の各導体が設置された箇所の摩耗状態を個別に判定する構成とすれば良い。
【0043】
さらに、上記実施形態では、クラッチ式の電磁ブレーキ装置を例にして説明したが、例えばディスク式やドラム式であっても、制動材(プレーキシューやプレーキバッド)を備えたブレーキ装置であれば、そのすべてに本発明を適用可能である。
【0044】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、ブレーキ装置に用いられる制動材の摩耗状態を監視し、制動材の摩耗が著しい場合に迅速に対処できるエレベータのブレーキ監視システムを提供することができる。
【0045】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
10…昇降路、11…乗りかご、12…カウンタウエイト、13…機械室、14…巻上機、15…メインシーブ、16…電磁ブレーキ装置、17…エレベータ制御装置、18…メインロープ、19…テールコード、21…ギヤケース、22…電動機、23…回転軸、51…フレーム、52…中心開口孔、53…ブレーキディスク、54…摩擦プレート、55…アーマチュア、56,57…制動材、58…電磁石、59…コイル、60…コイルばね、61,63…導体、62,64…導線、71a…電源、71b…フォトダイオード、71c…フォトトランジスタ、72…判定部、73…A/D変換回路、74…判定部、75…メモリ部。
【手続補正書】
【提出日】2021-11-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の回転軸上に軸方向に移動可能に設けられたブレーキディスクと制動時に上記ブレーキディスクに圧接するプレートとの間に制動材を有するブレーキ装置と、
上記制動材の上記ブレーキディスクとの接触面の一部に設けられる導体と、
上記導体に電流を流したときの電気的変化を検出する検出手段と、
上記検出手段によって検出された上記導体の電気的変化に基づいて、上記制動材の摩耗状態を判定する判定手段とを具備し、
上記導体は、上記制動材の上記ブレーキディスクとの接触面の外周に設けられ、上記導体の幅は、上記制動材の半径方向の幅の半分以下であることを特徴とするエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項2】
上記導体は、上記制動材と同等の硬度を有し、上記制動材と同様に摩耗することを特徴とする請求項1記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項3】
上記導体は、上記制動材の外周部を含む複数の箇所に設けられることを特徴とする請求項1記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項4】
上記導体の電気的変化として、上記導体の導通状態の変化を含み、
上記判定手段は、
上記導体の導通が遮断された場合に、上記制動材が一定値以上に摩耗している状態にあると判定することを特徴とする請求項1記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項5】
上記導体の電気的変化として、上記導体の電流変化を含み、
上記判定手段は、
上記導体の電流変化に基づいて、上記制動材の摩耗状態を判定することを特徴とする請求項1記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【請求項6】
上記導体に流れる電流の値と上記制動材の摩耗度との対応関係を示すテーブル情報を記憶した記憶手段を備え、
上記判定手段は、
上記記憶手段に記憶された上記テーブル情報を参照して、上記導体に流れる電流の値から上記制動材の摩耗度を段階的に判定することを特徴とする請求項5記載のエレベータのブレーキ監視システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
一実施形態に係るエレベータのブレーキ監視システムは、ブレーキ装置と、導体と、検出手段と、判定手段とを備える。上記ブレーキ装置は、電動機の回転軸上に軸方向に移動可能に設けられたブレーキディスクと制動時に上記ブレーキディスクに圧接するプレートとの間に制動材を有する。上記導体は、上記制動材の上記ブレーキディスクとの接触面の一部に設けられる。上記検出手段は、上記導体に電流を流したときの電気的変化を検出する。上記判定手段は、上記検出手段によって検出された上記導体の電気的変化に基づいて、上記制動材の摩耗状態を判定する。
上記構成のエレベータのブレーキ監視システムにおいて、上記導体は、上記制動材の上記ブレーキディスクとの接触面の外周に設けられ、上記導体の幅は、上記制動材の半径方向の幅の半分以下であることを特徴とする。