(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041603
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】ワークの付加加工方法および加工機械
(51)【国際特許分類】
B23K 26/34 20140101AFI20220304BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220304BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220304BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220304BHJP
【FI】
B23K26/34
B23K26/21 Z
B33Y10/00
B33Y30/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146906
(22)【出願日】2020-09-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昌樹
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA35
4E168BA81
4E168BA86
4E168CA11
4E168EA17
4E168FB03
4E168FB05
(57)【要約】
【課題】ワークの線膨張係数と、材料粉末の線膨張係数との違いに起因して、付加加工層に亀裂、変形または破損等が生じることを抑制するワークの付加加工方法および加工機械、を提供する。
【解決手段】ワークの付加加工方法は、第1の線膨張係数を有するワーク51に対して、応力を付与するステップと、ワークに応力を付与したまま、ワーク51に対して、第1の線膨張係数とは異なる第2の線膨張係数を有する材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するステップと、材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するステップの後に、ワークに対する応力の付与を緩和しつつ、ワーク51を冷却するステップとを備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の線膨張係数を有するワークに対して、応力を付与するステップと、
前記ワークに応力を付与したまま、前記ワークに対して、前記第1の線膨張係数とは異なる第2の線膨張係数を有する材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するステップと、
前記材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するステップの後に、前記ワークに対する応力の付与を緩和しつつ、前記ワークを冷却するステップとを備える、ワークの付加加工方法。
【請求項2】
前記第1の線膨張係数は、前記第2の線膨張係数よりも大きく、
前記応力を付与するステップは、前記ワークに対して圧縮応力を付与するステップを含む、請求項1に記載のワークの付加加工方法。
【請求項3】
前記第1の線膨張係数は、前記第2の線膨張係数よりも小さく、
前記応力を付与するステップは、前記ワークに対して引っ張り応力を付与するステップを含む、請求項1に記載のワークの付加加工方法。
【請求項4】
前記応力を付与するステップは、単位長さ当たりの前記ワークの歪み量が、前記ワークを冷却するステップ時の、前記材料粉末からなる付加加工層の単位長さ当たりの熱収縮量と、前記ワークの単位長さ当たりの熱収縮量との差分と等しくなるように、前記ワークに対して応力を付与するステップを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のワークの付加加工方法。
【請求項5】
前記ワークを冷却するステップは、前記ワークの加工点の温度が、前記材料粉末の液相点温度以下、室温以上の範囲である場合に、前記ワークに対する応力付与を緩和するステップを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のワークの付加加工方法。
【請求項6】
第1ワーク主軸により、前記ワークの一方端を保持し、前記第1ワーク主軸と対向して配置される第2ワーク主軸により、前記ワークの他方端を保持するステップをさらに備え、
前記第1ワーク主軸および前記第2ワーク主軸の間の距離を変化させることによって、前記ワークに対して付与する応力の大きさを変化させる、請求項1から5のいずれか1項に記載のワークの付加加工方法。
【請求項7】
前記ワークの冷却が完了した後、前記ワークを前記第1ワーク主軸および前記第2ワーク主軸から取り外すステップをさらに備える、請求項6に記載のワークの付加加工方法。
【請求項8】
ワークの付加加工を行なう加工機械であって、
前記ワークに対して、材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射する付加加工用ヘッドと、
前記ワークに対して応力を付与する応力付与装置と、
前記加工機械を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
第1の線膨張係数を有するワークに対して応力を付与するように、前記応力付与装置の動作を制御し、
前記ワークに応力を付与したまま、前記ワークに対して、前記第1の線膨張係数とは異なる第2の線膨張係数を有する材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するように、前記応力付与装置および前記付加加工用ヘッドの動作を制御し、
前記材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射した後に、前記ワークに対する応力の付与を緩和しつつ、前記ワークを冷却するように、前記応力付与装置の動作を制御する、加工機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワークの付加加工方法および加工機械に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特開2010-42524号公報(特許文献1)には、三次元形状造形物の製造方法が開示されている。三次元形状造形物の製造方法は、曲がった形状の造形用プレートを、取り付け用プレートに取り付けることによって、造形用プレートに応力を付与する工程と、造形用プレートに粉末層を形成する工程と、粉末層に光ビームを照射することにより焼結層を形成し、造形物を造形する工程と、造形後に、造形プレートを取り付けプレートから取り外す工程とを備える。
【0003】
また、特開平9-295173号公報(特許文献2)には、ピストン母材を保持し、これを回転させる治具と、ピストン母材の外周面に沿って設けられた溝に粉末を投入する粉末供給装置および投入用ノズルと、投入された粉末を加熱溶融するためのレーザビームを発振するレーザ発振器と、ピストン母材を加温できるように、治具にシリコンオイルを循環させるためのオイル槽、ヒータおよびポンプ等とを備える内燃機関用ピストンの製造装置が開示されている。
【0004】
また、特開昭60-223681号公報(特許文献3)には、熱膨張係数の異なる金属部材同士を低温で焼結結合する方法が開示されている。特許文献3に開示される焼結結合する方法では、熱膨張係数が異なる複数の金属の超微粉を樹脂粘結剤により結合して、複数の粉末合金シートを作成する。熱膨張係数の異なる金属部材の間に、熱膨張係数が大きい金属部材から小さい金属部材へと熱膨張係数が段階的に変化するように複数の粉末合金シートを配置し、次いで、これらを超微粉の焼結温度まで加熱して焼結する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-42524号公報
【特許文献2】特開平9-295173号公報
【特許文献3】特開昭60-223681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワークに対して材料粉末を供給しながらレーザ光を照射する指向性エネルギー堆積法(Directed Energy Deposition Method)によって、ワークに3次元形状を作成するワークの付加加工方法が知られている。
【0007】
このようなワークの付加加工方法において、ワークの線膨張係数と、材料粉末の線膨張係数とが異なる場合がある。この場合、付加加工が行なわれたワークを冷却するステップ時に、ワークの熱収縮量と、材料粉末からなる付加加工層の熱収縮量との間に差分が生じ、付加加工層に亀裂、変形または破損等が生じる可能性がある。
【0008】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、ワークの線膨張係数と、材料粉末の線膨張係数との違いに起因して、付加加工層に亀裂、変形または破損等が生じることを防ぐワークの付加加工方法および加工機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に従ったワークの付加加工方法は、第1の線膨張係数を有するワークに対して、応力を付与するステップと、ワークに応力を付与したまま、ワークに対して、第1の線膨張係数とは異なる第2の線膨張係数を有する材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するステップと、材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するステップの後に、ワークに対する応力の付与を緩和しつつ、ワークを冷却するステップとを備える。
【0010】
このように構成されたワークの付加加工方法によれば、予めの応力付与によりワークに歪みを生じさせ、ワークの冷却時に応力付与の緩和によりその歪みを徐々に解消することによって、ワークの熱収縮量と、材料粉末からなる付加加工層の熱収縮量との間に差分が生じることを抑制する。これにより、付加加工層に亀裂、変形または破損等が生じることを防止できる。
【0011】
また好ましくは、第1の線膨張係数は、第2の線膨張係数よりも大きい。応力を付与するステップは、ワークに対して圧縮応力を付与するステップを含む。
【0012】
このように構成されたワークの付加加工方法によれば、第1の線膨張係数が第2の線膨張係数よりも大きい場合、ワークを冷却するステップ時、ワークの熱収縮量が付加加工層の熱収縮量よりも大きくなる。このため、予めの圧縮応力の付与によりワークを圧縮変形させておき、ワークの冷却時にその圧縮歪みを徐々に解消することによって、ワークの熱収縮量と、付加加工層の熱収縮量との間に差分が生じることを抑制できる。
【0013】
また好ましくは、第1の線膨張係数は、第2の線膨張係数よりも小さい。応力を付与するステップは、ワークに対して引っ張り応力を付与するステップを含む。
【0014】
このように構成されたワークの付加加工方法によれば、第1の線膨張係数が第2の線膨張係数よりも小さい場合、ワークを冷却するステップ時、ワークの熱収縮量が付加加工層の熱収縮量よりも小さくなる。このため、予めの引っ張り応力の付与によりワークを引っ張り変形させておき、ワークの冷却時にその引っ張り歪みを徐々に解消することによって、ワークの熱収縮量と、付加加工層の熱収縮量との間に差分が生じることを抑制できる。
【0015】
また好ましくは、応力を付与するステップは、単位長さ当たりのワークの歪み量が、ワークを冷却するステップ時の、材料粉末からなる付加加工層の単位長さ当たりの熱収縮量と、ワークの単位長さ当たりの熱収縮量との差分と等しくなるように、ワークに対して応力を付与するステップを含む。
【0016】
このように構成されたワークの付加加工方法によれば、ワークを冷却するステップ時、ワークの熱収縮量と、付加加工層の熱収縮量との間に差分が生じることをより効果的に抑制できる。
【0017】
また好ましくは、ワークを冷却するステップは、ワークの加工点の温度が、材料粉末の液相点温度以下、室温以上の範囲である場合に、ワークに対する応力付与を緩和するステップを含む。
【0018】
このように構成されたワークの付加加工方法によれば、付加加工層の熱収縮が進行するタイミングでワークに対する応力付与を緩和することによって、付加加工層に亀裂、変形または破損等が生じることをより確実に防止できる。
【0019】
また好ましくは、ワークの付加加工方法は、第1ワーク主軸により、ワークの一方端を保持し、第1ワーク主軸と対向して配置される第2ワーク主軸により、ワークの他方端を保持するステップをさらに備える。第1ワーク主軸および第2ワーク主軸の間の距離を変化させることによって、ワークに対して付与する応力の大きさを変化させる。
【0020】
このように構成されたワークの付加加工方法によれば、互いに対向配置された第1ワーク主軸および第2ワーク主軸を用いて、ワークに対して付与する応力の大きさを自在に調整することができる。
【0021】
また好ましくは、付加加工方法は、ワークの冷却が完了した後、ワークを第1ワーク主軸および第2ワーク主軸から取り外すステップをさらに備える。
【0022】
このように構成されたワークの付加加工方法によれば、ワークを第1ワーク主軸および第2ワーク主軸により保持した状態を付加加工層の熱収縮が終了するまで継続することによって、付加加工層に亀裂、変形または破損等が生じることをより確実に防止できる。
【0023】
この発明に従った加工機械は、ワークの付加加工を行なう加工機械である。加工機械は、ワークに対して、材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射する付加加工用ヘッドと、ワークに対して応力を付与する応力付与装置と、加工機械を制御する制御装置とを備える。制御装置は、第1の線膨張係数を有するワークに対して応力を付与するように、応力付与装置の動作を制御する。制御装置は、ワークに応力を付与したまま、ワークに対して、第1の線膨張係数とは異なる第2の線膨張係数を有する材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するように、応力付与装置および付加加工用ヘッドの動作を制御する。制御装置は、材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射した後に、ワークに対する応力の付与を緩和しつつ、ワークを冷却するように、応力付与装置の動作を制御する。
【0024】
このように構成された加工機械によれば、ワークの線膨張係数と、材料粉末の線膨張係数との違いに起因して、付加加工層に亀裂、変形または破損等が生じることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上に説明したように、この発明に従えば、ワークの線膨張係数と、材料粉末の線膨張係数との違いに起因して、付加加工層に亀裂、変形または破損等が生じることを抑制するワークの付加加工方法および加工機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】
図1中の加工機械において、付加加工時の加工エリア内の様子を示す斜視図である。
【
図3】ワークおよび材料粉末の線膨張係数が異なる場合の従来の現象を示す断面図である。
【
図4】ワークおよび材料粉末の線膨張係数が異なる場合の従来の現象を示す断面図である。
【
図5】本実施の形態におけるワークの付加加工方法の第1ステップ(第1の線膨張係数>第2の線膨張係数)を示す断面図である。
【
図6】本実施の形態におけるワークの付加加工方法の第2ステップ(第1の線膨張係数>第2の線膨張係数)を示す断面図である。
【
図7】本実施の形態におけるワークの付加加工方法の第3ステップ(第1の線膨張係数>第2の線膨張係数)を示す断面図である。
【
図8】本実施の形態におけるワークの付加加工方法の第1ステップ(第1の線膨張係数<第2の線膨張係数)を示す断面図である。
【
図9】本実施の形態におけるワークの付加加工方法の第2ステップ(第1の線膨張係数<第2の線膨張係数)を示す断面図である。
【
図10】
図1および
図2中の加工機械において、ワークの付加加工に関連する制御系を示すブロック図である。
【
図11】
図1および
図2中の加工機械を用いて、本実施の形態におけるワークの付加加工方法を実行するステップの流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0028】
図1は、加工機械を示す前面図である。
図1中には、加工機械の外観をなすカバー体を透視することにより、加工機械の内部が示されている。
図2は、
図1中の加工機械において、付加加工時の加工エリア内の様子を示す斜視図である。
【0029】
図1および
図2を参照して、加工機械100は、ワークの付加加工(AM(Additive manufacturing)加工)と、ワークの除去加工(SM(Subtractive manufacturing)加工)とが可能なAM/SMハイブリッド加工機である。加工機械100は、SM加工の機能として、固定工具を用いた旋削機能と、回転工具を用いたミーリング機能とを有する。加工機械100は、コンピュータによる数値制御によって、ワーク加工のための各種動作が自動化されたNC(Numerically Control)加工機械である。
【0030】
本明細書においては、加工機械100の左右方向(幅方向)に平行で、水平方向に延びる軸を「Z軸」といい、加工機械100の前後方向(奥行き方向)に平行で、水平方向に延びる軸を「Y軸」といい、鉛直方向に延びる軸を「X軸」という。
図1中における右方向を「+Z軸方向」といい、左方向を「-Z軸方向」という。
図1中における紙面の手前方向を「+Y軸方向」といい、奥方向を「-Y軸方向」という。
図1中における上方向を「+X軸方向」といい、下方向を「-X軸方向」という。
【0031】
まず、本実施の形態におけるワークの付加加工方法に用いられる加工機械100の構造について説明する。加工機械100は、ベッド136、第1主軸台111、第2主軸台116、工具主軸121および下刃物台131を有する。
【0032】
ベッド136は、第1主軸台111、第2主軸台116、工具主軸121および下刃物台131を支持するためのベース部材であり、工場などの床面に設置されている。第1主軸台111(後述の第1ワーク主軸112)、第2主軸台116、工具主軸121および下刃物台131は、スプラッシュガード205により区画形成された加工エリア200内に設けられている。
【0033】
加工エリア200は、ワークの除去加工および付加加工が行なわれる空間であり、これらワーク加工に伴う切屑、切削油またはヒューム等の異物が加工エリア200の外部に漏出しないように密閉されている。
【0034】
第1主軸台111および第2主軸台116は、Z軸方向において、互いに対向して設けられている。第1主軸台111および第2主軸台116は、それぞれ、固定工具を用いた旋削加工時にワークを回転させたり、回転工具を用いたミーリング加工時または除去加工時にワークを保持したりするための第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117を有する。第1ワーク主軸112は、Z軸に平行な中心軸201Aを中心に回転可能に設けられ、第2ワーク主軸117は、Z軸に平行な中心軸201Bを中心に回転可能に設けられている。中心軸201Aおよび中心軸201Bは、同一直線上で延びている。
【0035】
第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117には、それぞれ、ワークを着脱可能に把持するためのチャック113およびチャック118が設けられている。
図1に示されるように、チャック113が設けられる第1ワーク主軸112の主軸端面112fと、チャック118が設けられる第2ワーク主軸117の主軸端面117fとの間におけるZ軸方向の距離を、第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117の主軸間距離Hという。
【0036】
図2に示されるように、加工対象であるワーク51が、第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117により保持されている。ワーク51は、たとえば、ステンレス等の金属材料からなる。
【0037】
ワーク51は、中心軸201Aおよび中心軸201Bの延長上で延びる中心軸201を中心とする円柱形状を有する。中心軸201の軸方向におけるワーク51の一方端が、チャック113により把持され、中心軸201の軸方向におけるワーク51の他方端が、チャック118により把持されている。第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117が互いに同期して回転駆動することにより、ワーク51は、中心軸201を中心に回転する。
【0038】
第2主軸台116(第2ワーク主軸117)は、各種の送り機構、案内機構およびサーボモータなどにより、Z軸方向に移動可能に設けられている。第2主軸台116が+Z軸方向に移動することによって、第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117の主軸間距離Hが増大し、第2主軸台116が-Z軸方向に移動することによって、第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117の主軸間距離Hが減少する。
【0039】
工具主軸(上刃物台)121は、回転工具を用いたミーリング加工時に回転工具を回転させる。工具主軸121は、X軸-Z軸平面に平行な中心軸203を中心に回転可能に設けられている。工具主軸121には、回転工具を着脱可能に保持するためのクランプ機構が設けられている。
【0040】
工具主軸121は、図示しないコラム等によりベッド136上に支持されている。工具主軸121は、コラム等に設けられた各種の送り機構、案内機構およびサーボモータなどにより、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動可能に設けられている。このような構成により、工具主軸121に装着された回転工具による加工位置が、3次元的に移動する。
【0041】
工具主軸121は、さらに、Y軸に平行な旋回中心軸204を中心に旋回可能に設けられている(B軸旋回)。工具主軸121の旋回範囲は、工具主軸121の主軸端面123が下方を向く姿勢(
図1中および
図2に示す姿勢)を基準にして±120°の範囲である。工具主軸121の旋回範囲は、
図1および
図2中に示す姿勢から±90°以上の範囲であることが好ましい。
【0042】
なお、
図1中には示されていないが、第1主軸台111の周辺には、工具主軸121に装着された工具を自動交換するための自動工具交換装置(ATC:Automatic Tool Changer)と、工具主軸121に装着する交換用の工具を収容する工具マガジンとが設けられている。
【0043】
下刃物台131は、旋削加工のための複数の固定工具を装着する。下刃物台131は、いわゆるタレット形であり、複数の固定工具が放射状に取り付けられ、旋回割り出しを行なう。
【0044】
より具体的には、下刃物台131は、旋回部132を有する。旋回部132は、Z軸に平行な中心軸206を中心に旋回可能に設けられている。中心軸206を中心にその周方向に間隔を隔てた位置には、固定工具を保持するための複数の工具ホルダが取り付けられている。旋回部132が中心軸206を中心に旋回することによって、工具ホルダに保持された固定工具が周方向に移動し、旋削加工に用いられる固定工具が割り出される。
【0045】
下刃物台131は、図示しないサドル等によりベッド136上に支持されている。下刃物台131は、サドル等に設けられた各種の送り機構、案内機構およびサーボモータなどにより、X軸方向およびZ軸方向に移動可能に設けられている。
【0046】
加工機械100は、付加加工用ヘッド21をさらに有する。付加加工用ヘッド21は、ワークに対して材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射することにより付加加工を行なう(指向性エネルギー堆積法(Directed Energy Deposition))。材料粉末としては、たとえば、コバルト基合金またはSKD材等の金属粉末を利用することができる。
【0047】
付加加工用ヘッド21は、工具主軸121に着脱可能なように構成されている。付加加工時、付加加工用ヘッド21は、工具主軸121に装着される。工具主軸121が、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動することによって、付加加工用ヘッド21による付加加工の加工位置が3次元的に変位する。さらに、工具主軸121が、旋回中心軸204を中心に旋回することによって、付加加工用ヘッド21も工具主軸121と一体となって旋回中心軸204を中心に旋回する。これにより、付加加工用ヘッド21による付加加工の向き(ワークに対するレーザ光の照射方向)を自在に変化させることができる。
【0048】
除去加工時、付加加工用ヘッド21は、工具主軸121から分離され、図示しないヘッドストッカに格納される。
【0049】
工具主軸121には、クランプ機構が設けられており、工具主軸121に対する付加加工用ヘッド21の装着時、そのクランプ機構が動作することによって、付加加工用ヘッド21が工具主軸121に連結される。クランプ機構の一例として、バネ力によりクランプ状態を得て、油圧によりアンクランプ状態を得る機構が挙げられる。
【0050】
加工機械100は、パウダーフィーダ70と、レーザ発振装置76と、ケーブル24とをさらに有する。
【0051】
パウダーフィーダ70は、付加加工に用いられる材料粉末を、加工エリア200内の付加加工用ヘッド21に向けて導入する。パウダーフィーダ70は、パウダーホッパー72と、混合部71とを有する。パウダーホッパー72は、付加加工に用いられる材料粉末を収容するための密閉空間を形成する。混合部71は、パウダーホッパー72に収容された材料粉末と、材料粉末のキャリア用のガスとを混合する。
【0052】
レーザ発振装置76は、付加加工に用いられるレーザ光を発振する。ケーブル24は、レーザ発振装置76から付加加工用ヘッド21に向けてレーザ光を導くための光ファイバーと、パウダーフィーダ70から付加加工用ヘッド21に向けて材料粉末を導くための配管と、空気の流路となるエア配管と、不活性ガスの流路となるガス配管と、冷媒の流路となる冷却配管と、電気配線と、これらを収容する管部材とから構成されている。
【0053】
続いて、本実施の形態におけるワークの付加加工方法について説明する。
図3および
図4は、ワークおよび材料粉末の線膨張係数が異なる場合の従来の現象を示す断面図である。
【0054】
図3および
図4中では、ワーク51の第1の線膨張係数が、材料粉末(付加加工層56)の第2の線膨張係数よりも大きい場合が想定されている。一例として、ワーク51が、線膨張係数17.3×10
-6/℃を有するSUS304からなり、材料粉末が、線膨張係数10×10
-6/℃を有するコバルト基合金からなる。
【0055】
図3を参照して、ワーク51に対して、材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射すると、ワーク51の表面には、ワーク51が溶融してなるメルトプール52が形成され、ワーク51の表面上には、材料粉末が溶融してなる付加加工層56がメルトプール52と重なって形成される。このとき、矢印62に示すワーク51の熱膨張量が、矢印61に示す付加加工層56の熱膨張量よりも大きくなる。
【0056】
図4を参照して、ワーク51を冷却することによって、付加加工層56が、ワーク51の表面上に溶着される。このとき、固化に伴うワーク51の熱収縮量が、固化に伴う付加加工層56の熱収縮量よりも大きいため、付加加工層56およびワーク51の境界に応力が生じる。その結果、付加加工層56に亀裂、変形または破損等が発生する可能性がある。
【0057】
図5から
図7は、本実施の形態におけるワークの付加加工方法のステップ(第1の線膨張係数>第2の線膨張係数)を示す断面図である。
【0058】
図5から
図7を参照して、これに対して、本実施の形態におけるワークの付加加工方法は、
図5に示されるように、第1の線膨張係数を有するワーク51に対して、応力を付与するステップと、
図6に示されるように、ワーク51に応力を付与したまま、ワーク51に対して、第1の線膨張係数とは異なる第2の線膨張係数を有する材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するステップと、
図7に示されるように、材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するステップの後に、ワーク51に対する応力の付与を緩和しつつ、ワーク51を冷却するステップとを備える。
【0059】
ワーク51が有する第1の線膨張係数は、材料粉末が有する第2の線膨張係数よりも大きい。
図5に示される応力を付与するステップは、ワーク51に対して、矢印64に示す圧縮応力を付与するステップを含む。
【0060】
図6に示されるように、予めの圧縮応力の付与によりワーク51に圧縮歪みを生じさせることによって、矢印63に示す、ワーク51の力学的変形量が差し引かれたワーク51の熱膨張量を、矢印61に示す付加加工層56の熱膨張量に近づけることができる。そして、
図7に示されるように、ワーク51の冷却時に圧縮応力の付与の緩和によりその圧縮歪みを徐々に解消することによって、ワーク51の熱収縮量と、付加加工層56の熱収縮量との間に差分が生じることを抑制できる。これにより、付加加工層56に亀裂、変形または破損等が生じることを防止できる。
【0061】
図8および
図9は、本実施の形態におけるワークの付加加工方法のステップ(第1の線膨張係数<第2の線膨張係数)を示す断面図である。
図8および
図9には、それぞれ、先出の
図5および
図6に対応するステップが示されている。
【0062】
図8および
図9を参照して、ワーク51が有する第1の線膨張係数が、材料粉末が有する第2の線膨張係数よりも小さい場合、
図8に示される応力を付与するステップは、ワーク51に対して、矢印68に示す引っ張り応力を付与するステップを含む。
【0063】
ワーク51が有する第1の線膨張係数が、材料粉末が有する第2の線膨張係数よりも小さい場合、ワーク51の熱膨張量が、付加加工層56の熱膨張量よりも小さくなる。
【0064】
これに対して、
図9に示されるように、予めの引っ張り応力の付与によりワーク51に引っ張り歪みを生じさせることによって、矢印67に示す、ワーク51の力学的変形量が付加されたワーク51の熱膨張量を、矢印65に示す付加加工層56の熱膨張量に近づけることができる。そして、ワーク51の冷却時に引っ張り応力の付与の緩和によりその引っ張り歪みを徐々に解消することによって、ワーク51の熱収縮量と、付加加工層56の熱収縮量との間に差分が生じることを抑制できる。これにより、付加加工層56に亀裂、変形または破損等が生じることを防止できる。
【0065】
本実施の形態におけるワークの付加加工方法において、応力を付与するステップは、単位長さ当たりのワーク51の歪み量が、ワーク51を冷却するステップ時の、材料粉末からなる付加加工層56の単位長さ当たりの熱収縮量と、ワーク51の単位長さ当たりの熱収縮量との差分と等しくなるように、ワーク51に対して応力を付与するステップを含むことが好ましい。
【0066】
このような構成によれば、ワーク51を冷却するステップ時、ワーク51の熱収縮量と、付加加工層56の熱収縮量との間に差分が生じることをより効果的に抑制できる。これにより、付加加工層56に亀裂、変形または破損等が生じることをより確実に防止できる。
【0067】
一例として、ワーク51の線膨張係数、圧縮/引っ張り係数、および、引っ張り断面係数と、材料粉末の線膨張係数、圧縮/引っ張り係数、および、厚みと、ワーク51の加工点の温度、室温、および、冷却速度とをパラメータとし、これらパラメータに即して、ワーク51の冷却速度に合わせて応力を緩和することによって、付加加工層56に亀裂、変形または破損等が生じることを効果的に防ぐことができる。
【0068】
ワーク51を冷却するステップは、ワーク51の加工点の温度が、材料粉末の液相点温度以下、室温以上の範囲である場合に、ワーク51に対する応力付与を緩和するステップを含むことが好ましい。ワーク51に対する応力付与を緩和するステップは、ワーク51の加工点の温度が、少なくとも材料粉末の液相点温度から固相点温度まで低下する間に、継続的に実施されることがさらに好ましい。
【0069】
なお、ワーク51の加工点の温度は、付加加工層56の温度に対応している。材料粉末の液相点温度とは、材料粉末において液体から固体が出現しはじめる温度である。付加加工層56においては、材料粉末の液相点温度から、完全に固体になる材料粉末の固相点温度までの間に、結晶の核形成が進行する。
【0070】
このような構成によれば、付加加工層56において結晶の核形成が開始されるタイミング、すなわち、付加加工層56の熱収縮が始まるタイミングで、ワーク51に対する圧縮応力の付与を緩和する。これにより、付加加工層56に亀裂、変形または破損等が生じることをより確実に防止できる。
【0071】
続いて、本実施の形態におけるワークの付加加工方法のより具体的な例として、
図1および
図2中の加工機械100を用いて、本実施の形態におけるワークの付加加工方法を実行する場合を説明する。
【0072】
図10は、
図1および
図2中の加工機械において、ワークの付加加工に関連する制御系を示すブロック図である。
図10を参照して、加工機械100は、制御装置81をさらに有する。
【0073】
制御装置81は、加工機械100を制御する。制御装置81は、加工機械100に備え付けられ、加工機械100における各種動作を制御するための制御盤である。
【0074】
制御装置81は、プログラム記憶部82と、プログラム実行部83と、工具主軸制御部84と、付加加工制御部85と、第1ワーク主軸制御部86と、第2ワーク主軸制御部87とを有する。
【0075】
プログラム記憶部82には、加工機械100の作業者によって作成されたワーク加工のための実行プログラム(数値制御プログラム)が記憶されている。プログラム記憶部82は、一例として、フラッシュメモリである。
【0076】
プログラム実行部83は、プログラム記憶部82に記憶された実行プログラムを実行する。プログラム実行部83は、実行プログラムの命令を読み取って、工具主軸制御部84、付加加工制御部85、第1ワーク主軸制御部86および第2ワーク主軸制御部87の各々に制御信号を出力する。
【0077】
工具主軸制御部84は、プログラム実行部83からの制御信号に従って、工具主軸121をX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動させるための工具主軸送りモータ89と、工具主軸121をB軸旋回させるための工具主軸旋回モータ90とを制御する。付加加工制御部85は、プログラム実行部83からの制御信号に従って、付加加工用ヘッド21にレーザ光を供給するためのレーザ発振装置76と、付加加工用ヘッド21に材料粉末を供給するためのパウダーフィーダ70とを制御する。
【0078】
第1ワーク主軸制御部86は、プログラム実行部83からの制御信号に従って、第1ワーク主軸112を回転させるための第1ワーク主軸回転モータ91を制御する。第2ワーク主軸制御部87は、プログラム実行部83からの制御信号に従って、第2ワーク主軸117を回転させるための第2ワーク主軸回転モータ92と、第2ワーク主軸117をZ軸方向に移動させるための第2ワーク主軸送りモータ93とを制御する。
【0079】
制御装置81は、記憶部96をさらに有する。記憶部96には、ワークおよび材料粉末に用いられる金属の種類と、各金属の線膨張係数との関係に関するデータ、ならびに、材料粉末に用いられる金属の種類と、各金属の液相点温度との関係に関するデータが記憶されている。
【0080】
加工機械100は、操作部95と、温度センサ94と、歪みゲージ97とをさらに有する。操作部95は、加工エリア200の外部に設けられている。操作部95は、作業者が加工機械100を操作する際に用いる各種のボタンおよびスイッチ、ならびに、加工機械100におけるワークの加工状態等を示す表示部などを含む。操作部95は、ワークに用いられる金属の種類、および、材料粉末に用いられる金属の種類を入力可能なように構成されている。
【0081】
温度センサ94は、加工エリア200内に設けられている。温度センサ94は、加工エリア200内の温度、および、付加加工時におけるワーク51の加工点の温度を検出可能なように構成されている。温度センサ94は、付加加工用ヘッド21に取り付けられてもよい。温度センサ94は、非接触式の温度センサであってもよい。
【0082】
歪みゲージ97は、ワーク51に設けられている。歪みゲージ97は、Z軸方向におけるワーク51の歪み量を検出可能なように構成されている。
【0083】
図11は、
図1および
図2中の加工機械を用いて、本実施の形態におけるワークの付加加工方法を実行するステップの流れを示すフローチャート図である。
【0084】
図1、
図2、
図9および
図10を参照して、第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117により、ワーク51を保持する(S101)。本ステップでは、ワーク51を第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117の間に配置する。チャック113およびチャック118によって、Z軸方向におけるワーク51の一方端および他方端をそれぞれ把持する。
【0085】
ワーク51に用いられる金属の種類と、付加加工時の材料粉末に用いられる金属の種類とを、操作部95に入力する(S102)。操作部95は、入力された金属の種類を第2ワーク主軸制御部87に出力する。
【0086】
次に、第2ワーク主軸制御部87は、ワーク51の線膨張係数α1と、材料粉末の線膨張係数α2と、材料粉末の液相点温度T1とを特定する(S103)。
【0087】
本ステップにおいては、第2ワーク主軸制御部87が、S102のステップで得られたワーク51に用いられる金属の種類と、材料粉末に用いられる金属の種類とを、記憶部96に記憶されたデータに照らし合わせることによって、ワーク51の線膨張係数α1と、材料粉末の線膨張係数α2とを特定する。第2ワーク主軸制御部87は、S102のステップで得られた材料粉末に用いられる金属の種類を、記憶部96に記憶されたデータに照らし合わせることによって、材料粉末の液相点温度T1を特定する。
【0088】
次に、温度センサ94は、加工エリア200内の温度T0を検出する(S104)。温度センサ94は、検出した加工エリア200内の温度T0を、室温として第2ワーク主軸制御部87に出力する。
【0089】
次に、第2ワーク主軸制御部87は、Z軸方向における単位長さ当たりのワーク51の目標歪み量ΔLtを算出する(S105)。
【0090】
本ステップにおいては、第2ワーク主軸制御部87が、S103のステップで特定されたワーク51の線膨張係数α1および材料粉末の線膨張係数α2と、S103のステップで特定された材料粉末の液相点温度T1と、S104のステップで得られた室温T0とを、下記の数式に代入することによって、ワーク51の目標歪み量ΔLtを算出する。
【0091】
ΔLt=|α1-α2|*(T1-T0)
次に、第2ワーク主軸制御部87は、第2ワーク主軸117がZ軸方向に移動するように、第2ワーク主軸送りモータ93を制御する。歪みゲージ97は、Z軸方向における単位長さ当たりのワーク51の歪み量ΔLを検出する(S106)。
【0092】
S103のステップで特定されたワーク51の線膨張係数α1および材料粉末の線膨張係数α2が、α1>α2の関係式を満たす場合、第2ワーク主軸117の移動方向は、-Z軸方向である。S103のステップで特定されたワーク51の線膨張係数α1および材料粉末の線膨張係数α2が、α1<α2の関係式を満たす場合、第2ワーク主軸117の移動方向は、+Z軸方向である。
【0093】
歪みゲージ97は、Z軸方向における第2ワーク主軸117の移動に伴って生じるワーク51の歪み量を検出する。歪みゲージ97は、検出したワーク51の歪み量ΔLを、第2ワーク主軸制御部87に出力する。
【0094】
第2ワーク主軸制御部87は、ワーク51の歪み量ΔLが、S105のステップで算出したワーク51の目標歪み量ΔLtに達したか否かを判断する(S107)。ΔL<ΔLtの場合、S106のステップにおける第2ワーク主軸117の移動と、ワーク51の歪み量ΔLの検出とを継続する。ΔL=ΔLtの場合、S106のステップにおけS106のステップにおける第2ワーク主軸117の移動と、ワーク51の歪み量ΔLの検出とを停止し、次のS108のステップに進む。本ステップにより、ワーク51に対して応力を付与するステップが完了する。
【0095】
次に、ワーク51の付加加工を実施する(S108)。本ステップでは、プログラム記憶部82に記憶された実行プログラムに従ってワーク51の付加加工を実行することにより、ワーク51にその外周面を覆う付加加工層56を形成する。
【0096】
より具体的には、工具主軸制御部84は、工具主軸121に装着された付加加工用ヘッド21がワーク51の外周面と対向して位置決めされるように、工具主軸送りモータ89および工具主軸旋回モータ90を制御する。付加加工制御部85は、付加加工用ヘッド21からワーク51に向けてレーザ光および材料粉末が供給されるように、レーザ発振装置76およびパウダーフィーダ70を制御する。第1ワーク主軸制御部86および第2ワーク主軸制御部87は、第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117が中心軸201を中心に回転するように、第1ワーク主軸回転モータ91および第2ワーク主軸回転モータ92を制御し、工具主軸制御部84は、工具主軸121に装着された付加加工用ヘッド21がZ軸方向に移動するように、工具主軸送りモータ89を制御する。
【0097】
S108のステップにおける付加加工が完了したら、ワーク51を冷却する。温度センサ94は、ワーク51の加工点(付加加工層56)の温度tを検出する(S109)。
【0098】
本ステップでは、付加加工層56が形成されたワーク51を第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117により保持された状態で放置することによって、ワーク51を冷却する。温度センサ94は、検出したワーク51の加工点の温度tを第2ワーク主軸制御部87に出力する。
【0099】
第2ワーク主軸制御部87は、ワーク51の加工点の温度tが、S103のステップで特定された材料粉末の液相点温度T1に達したか否かを判断する(S110)。t>T1の場合、S109のステップにおけるワーク51の冷却と、ワーク51の加工点の温度tの検出とをそのまま継続する。t=T1の場合、次のS111のステップに進む。
【0100】
次に、第2ワーク主軸制御部87は、第2ワーク主軸117がZ軸方向に移動するように、第2ワーク主軸送りモータ93を制御する(S111)。
【0101】
S103のステップで特定されたワーク51の線膨張係数α1および材料粉末の線膨張係数α2が、α1>α2の関係式を満たす場合、第2ワーク主軸117の移動方向は、+Z軸方向である。S103のステップで特定されたワーク51の線膨張係数α1および材料粉末の線膨張係数α2が、α1<α2の関係式を満たす場合、第2ワーク主軸117の移動方向は、-Z軸方向である。
【0102】
本ステップ以降では、第2ワーク主軸117をZ軸方向に移動させ続けることにより、ワーク51に対する応力付与を緩和しながら、ワーク51の冷却と、ワーク51の加工点の温度tの検出とを継続する。第2ワーク主軸制御部87は、第2ワーク主軸117がS101における初期位置に戻った時点で停止するように、第2ワーク主軸送りモータ93を制御する。本ステップにおける第2ワーク主軸117の移動速度は、S106のステップにおける第2ワーク主軸117の移動速度よりも遅いことが好ましい。
【0103】
次に、ワーク51の冷却が完了する(S112)。本ステップにおいて、第2ワーク主軸制御部87は、ワーク51の加工点の温度tが、S104のステップで検出された加工エリア200内の温度T0に達した場合に、ワーク51の冷却が完了した判断してもよい。ワーク51の冷却の完了は、操作部95の表示部における表示、または、音などによって作業者に報知されてもよい。ワーク51の冷却の完了時、または、ワーク51の冷却が完了するよりも前に、第2ワーク主軸117がS101における初期位置に戻ることが好ましい。
【0104】
次に、第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117からワーク51を取り外す(S113)。以上のステップにより、
図1および
図2中の加工機械100を用いたワークの付加加工方法が完了する。
【0105】
このような構成によれば、加工機械100において互いに対向配置された第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117を用いて、ワーク51に対して付与する応力の大きさを自在に調整することができる。
【0106】
また、ワーク51の冷却が完了した後に、ワーク51を第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117から取り外すため、ワーク51を第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117により保持した状態が、付加加工層56およびメルトプール52の熱収縮が終了するまで継続される。これにより、付加加工層56に亀裂、変形または破損等が生じることをより確実に防止できる。
【0107】
なお、ワーク51の付加加工の後に除去加工を行なう場合には、S112のステップの後に、ワーク51を第1ワーク主軸112および第2ワーク主軸117により保持したまま、ワーク51の除去加工を引き続き行なってもよい。
【0108】
以上に説明した、本実施の形態におけるワークの付加加工方法は、第1の線膨張係数を有するワークに対して、応力を付与するステップと、ワークに応力を付与したまま、ワークに対して、第1の線膨張係数とは異なる第2の線膨張係数を有する材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するステップと、材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するステップの後に、ワークに対する応力の付与を緩和しつつ、ワークを冷却するステップとを備える。
【0109】
また、本実施の形態における加工機械100は、ワークに対して、材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射する付加加工用ヘッド21と、ワークに対して応力を付与する応力付与装置としての第2ワーク主軸117と、加工機械100を制御する制御装置81とを備える。制御装置81は、第1の線膨張係数を有するワークに対して応力を付与するように、第2ワーク主軸117の動作を制御する。制御装置81は、ワークに応力を付与したまま、ワークに対して、第1の線膨張係数とは異なる第2の線膨張係数を有する材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射するように、第2ワーク主軸117および付加加工用ヘッド21の動作を制御する。制御装置81は、材料粉末を供給するとともにレーザ光を照射した後に、ワークに対する応力の付与を緩和しつつ、ワークを冷却するように、第2ワーク主軸117の動作を制御する。
【0110】
このような構成によれば、ワークの線膨張係数と、材料粉末の線膨張係数との違いに起因して、付加加工層に亀裂、変形または破損等が生じることを抑制できる。ワークの表面上に薄肉状の付加加工層を積層する場合、付加加工層に亀裂等が発生し易くなるため、本実施の形態におけるワークの付加加工方法は、このような薄肉状の付加加工層の積層工程に対してより有効に効果を発揮する。また、ヒータ、レーザまたはクーラー等を用いてワークの冷却速度を制御する場合には、その冷却速度に応じて、ワークに対する応力の付与を緩和すればよい。
【0111】
また、上述の特許文献1に開示される三次元形状造形物の製造方法では、造形プレートに造形物を造形する工程の後に、造形プレートに対して応力を付与するための取り付けプレートから造形プレートを取り外している。この場合、造形プレートに対して付与される応力の緩和を制御することができない。また、上述の特許文献2に開示される内燃機関用ピストンの製造装置では、ピストン母材の冷却速度を制御するためのオイル槽、ヒータおよびポンプ等が必要となるため、装置が大掛かりとなる。また、上述の特許文献3に開示される焼結結合する方法では、熱膨張係数の異なる金属部材の間に、熱膨張係数が大きい金属部材から小さい金属部材へと熱膨張係数が段階的に変化するように、複数の粉末合金シートを配置するため、粉末合金シートを形成する金属材料に制約が生じる。本実施の形態におけるワークの付加加工方法および加工機械100は、これらの課題の解決に寄与するものである。
【0112】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0113】
この発明は、指向性エネルギー堆積法によるワークの付加加工に適用される。
【符号の説明】
【0114】
21 付加加工用ヘッド、24 ケーブル、51 ワーク、52 メルトプール、56 付加加工層、70 パウダーフィーダ、71 混合部、72 パウダーホッパー、76 レーザ発振装置、81 制御装置、82 プログラム記憶部、83 プログラム実行部、84 工具主軸制御部、85 付加加工制御部、86 第1ワーク主軸制御部、87 第2ワーク主軸制御部、89 工具主軸送りモータ、90 工具主軸旋回モータ、91 第1ワーク主軸回転モータ、92 第2ワーク主軸回転モータ、93 第2ワーク主軸送りモータ、94 温度センサ、95 操作部、96 記憶部、97 歪みゲージ、100 加工機械、111 第1主軸台、112 第1ワーク主軸、112f,117f,123 主軸端面、113,118 チャック、116 第2主軸台、117 第2ワーク主軸、121 工具主軸、131 刃物台、132 旋回部、136 ベッド、200 加工エリア、201,201A,201B,203,206 中心軸、204 旋回中心軸、205 スプラッシュガード。