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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041665
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】イヌのがん細胞に対する増植抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/517 20060101AFI20220304BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20220304BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220304BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALN20220304BHJP
【FI】
A61K31/517
A61K31/44
A61P35/00
C12Q1/06
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147007
(22)【出願日】2020-09-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】515114120
【氏名又は名称】株式会社日本動物高度医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(74)【代理人】
【識別番号】100220696
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 寛文
【テーマコード(参考)】
4B063
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ61
4B063QR77
4B063QX02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC67
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC61
(57)【要約】      (修正有)
【課題】イヌのがん細胞に対する増植抑制剤の提供。
【解決手段】1-(3-((6,7-ジメトキシキナゾリン-4-イル)オキシ)フェニル)-3-(5-(1,1,1-トリフルオロ-2-メチルプロパン-2-イル)イソキサゾ-ル-3-イル)尿素,又はCEP-32496を有効成分として含む,イヌのがん細胞に対する増植抑制剤であって,イヌのがん細胞の例は,BRAF遺伝子変異によるがん細胞である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-(3-((6,7-ジメトキシキナゾリン-4-イル)オキシ)フェニル)-3-(5-(1,1,1-トリフルオロ-2-メチルプロパン-2-イル)イソキサゾ-ル-3-イル) 尿素,又はCEP-32496を有効成分として含む,イヌのがん細胞に対する増植抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載の剤であって,前記イヌのがん細胞がBRAF遺伝子変異によるものである剤。
【請求項3】
請求項1に記載の剤であって,イヌのがんの治療剤である剤。
【請求項4】
請求項3に記載の剤であって,前記イヌのがんが,イヌの移行上皮がん,イヌの前立腺がん,イヌの悪性黒色腫,又はイヌの末梢神経鞘腫である剤。
【請求項5】
請求項1に記載の剤であって,イヌのBRAF阻害剤耐性がん細胞に対する併用薬である剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,イヌのがん細胞に対する増植抑制剤などに関する。特にこの発明は,イヌのBRAF遺伝子変異(V595E:ヒトのV600Eに相当)によるイヌのがん細胞に対する増植抑制剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
イヌの悪性腫瘍の一つでBRAF遺伝子変異(V595E)を有する移行上皮がんは局所浸潤性,遠隔転移性が高く,早期診断ならびに早期治療が望まれる腫瘍である。これまでの研究成果からV595Eは移行上皮がんに高率(60-70%)に発現しており,MAPK signaling pathwayを活性化し,移行上皮細胞をがん化するdriver mutation であることが知られている。
【0003】
野生型BRAFによるMAPK signaling pathway の活性化には,まず上流のReceptor tyrosine kinase(RKTs)の活性化,ついでRAS-GTP活性化によるBRAF kinase domainのリン酸化(Thr598/Ser601)が必要である。この活性化BRAFはARAF,BRAF,CRAFのホモダイマーあるいはヘテロダイマー(B/CRAF-MEK complex を含む)を形成してMEKをリン酸化し活性化する。一方,BRAF kinase domain には30個所以上にがん原性遺伝子変異が認められており,それらの変異のうちV600の発現(V600Eなど)では,RASに依存しないモノマー を形成する変異,あるいはダイマーを形成する変異と,V600以外に発現しCRAFを活性化する変異に分類される。
【0004】
ヒトのBRAF遺伝子変異(V600E)を有するがん細胞(悪性黒色腫,結腸がん,甲状腺がんなど)に対しては細胞増殖抑制剤あるいは抗腫瘍薬として各種のBRAF阻害剤が開発され,治療に用いられている。しかしながら,RAFの二量化などのがん化機構,BRAF阻害剤の作用機序(立体構造など),あるいはBRAF阻害剤投与時に発現する薬剤耐性などの詳細が明らかにされるとともに更なる阻害剤の開発が望まれ,進められている。
【0005】
すなわち,第一世代のBRAF阻害剤であるGDC0879,AZ628は遺伝子変異で活性化したBRAFの L-loop(ATP-binding site)部位で,ATP結合に競合(small molecular ATP competitive BRAF inhibitor)する低分子物質としてBRAFのリン酸化活性(MEKならびにERKの活性化(リン酸化))を阻害して,細胞増殖,がん化を抑制する。
【0006】
しかしながら,BRAF遺伝子変異の多様性が明らかになるとともに,第一世代阻害剤ではBRAF変異に対する抗腫瘍効果が限局されており,またBRAFV600Eの活性阻害を標的とした第二世代の阻害剤であるLPX4720,Vemurafenib,Dabrafenibなどでは投与後比較的早期に薬剤耐性が引き起こされる。
【0007】
一方, イヌの移行上皮がんに対する治療薬(化学療法藥)に著効を示すものはなく,オキシカム系非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の抗腫瘍効果に期待するのみである。イヌのBRAF遺伝子変異(V595E)により引き起されるイヌの腫瘍が移行上皮がん,前立腺がん,悪性黒色腫,末梢神経鞘腫などで明らかにされてきている。しかしながら,それらがん細胞に対する増殖抑制剤や治療薬としてのBRAF阻害剤は見出されていない。またV595Eがdriver mutation であることから,代表的な第二世代BRAF阻害剤であるVemurafenibが移行上皮がんの治療薬として検討された。しかしながら,Vemurafenibでは,細胞増殖抑制活性(IC50)は8マイクロMと十分な活性は得られていない(Decker B et al. 2016)。イヌのBRAFV595Eによるがん細胞はV595Eが責任遺伝子変異であるので,有用なBRAF阻害剤を開発することが強く望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Decker B, Parker HG, Dhawan D et al. Mol. Cancer Res 2015; 13(6); 993-1002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は,イヌのがん細胞に対する増植抑制剤,特に,イヌのBRAF遺伝子変異(V595E)によるイヌのがん細胞に対する増植抑制剤などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この明細書に記載される発明は,基本的には,CEP-32496を用いることでBRAF遺伝子変異によるイヌのガン細胞の増植を抑制できるという実施例による知見に基づく。
【0011】
この明細書に記載される発明は,イヌのがん細胞に対する増植抑制剤(本発明の剤)に関する。イヌのがん細胞に対する増植抑制剤は,対象となるイヌに投与され,イヌのガン細胞が増植することを抑制する剤である。
この剤は,1-(3-((6,7-ジメトキシキナゾリン-4-イル)オキシ)フェニル)-3-(5-(1,1,1-トリフルオロ-2-メチルプロパン-2-イル)イソキサゾ-ル-3-イル) 尿素(本発明の化合物),又はCEP-32496を有効成分として含む。
CEP-32496は,アゲラフェニブ(Agerafenib:INN)やRXDX-105,AB-024,及びAC-013773と同義であり,ヒトのBRAF遺伝子変異(V600E)に対する阻害剤に関する研究用試薬として市販されている。CEP-32496の有効成分は,上記した本発明の化合物である。
【0012】
イヌのがん細胞の例は,イヌのBRAF遺伝子変異(V595E)によりもたらされるがん細胞である。つまり,上記の剤の例は,イヌのがんの治療剤である。そして,イヌのがんの例は,イヌの移行上皮がん,イヌの前立腺がん,イヌの悪性黒色腫,及びイヌの末梢神経鞘腫である。
【0013】
この明細書は,他のがんの治療薬とともにイヌに対して投与される併用薬(イヌのBRAF阻害剤耐性がん細胞に対する併用薬:本発明の併用薬)をも提供する。
【0014】
本発明の剤及び本発明の併用薬は,本発明の化合物又はCEP-32496を有効成分として有効量含む。本発明の剤及び本発明の併用薬は,投与対象となるイヌの体重,年齢,性別,投与方法,及び剤型に応じ適切な量を,適切な頻度で投与すればよい。実施例により示された通り,上記の有効成分は極めて微量であっても有効である。そのため1回あたりの投与量の例体重1kg当たり,1ng以上1g以下であり,10ng以上500mg以下でもよいし,100ng以上100mg以下でもよいし,1mg以上100mg以下でもよいし,1mg以上20mg以下でもよい。投与回数は,例えば1週間に1回でもよいし,1日1回でもよいし,1日2回又は3回でもよい。
本発明の剤及び本発明の併用薬は,経口投与剤,ドリンク剤,錠剤,又は注射剤として投与できる。注射剤は,静脈内,筋肉内または皮下等に有効成分を投与することができ,これらのうち静脈内投与がより好ましい。静脈内投与を行う場合,注射剤は,注射器から直接対象に投与してもよく,また点滴バッグ中で点滴液に先ず添加して対象に点滴静注を行ってもよい。
本発明の剤及び本発明の併用薬が注射剤又はドリンク剤の場合,有効成分の他に,水,生理食塩水,溶媒,培養上清,pH調整剤,酸化防止剤(ビタミンC),及びトレハロースといった各種素材を含んでもよい。本発明の剤及び本発明の併用薬が錠剤の場合は,賦形剤,担体といった各種素材を含んでもよい。
【0015】
この明細書は,対象となるイヌに本発明の剤及び本発明の併用薬を投与する工程を含む,イヌのがん細胞に対する増植抑制方法,イヌのがんの治療方法をも開示する。イヌのがん細胞の例は,イヌのBRAF遺伝子変異(V595E)によりもたらされるがん細胞である。そして,イヌのがんの例は,イヌの移行上皮がん,イヌの前立腺がん,イヌの悪性黒色腫,及びイヌの末梢神経鞘腫である。
【発明の効果】
【0016】
この発明は,イヌのがん細胞に対する増植抑制剤,特に,イヌのBRAF遺伝子変異(V595E)によるイヌのがん細胞に対する増植抑制剤などを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は,V595E移行上皮がん細胞に対するBRAF阻害剤の反応曲線の一例(TCCV-So株)を示す図面に代わるグラフである。CEP32496のみが増殖抑制活性を示していた(IC50: 15 nM)。
図2図2は,臨床例から採取し,約80代継代クローン化したV595E移行上皮がん細胞(5株)に対するBRAF阻害剤8種の増殖抑制活性のまとめである。他の7種のBRAF阻害剤に比較してCEP32496は著しく高い活性を示した。
図3図3は,V595E移行上皮がん細胞におけるCEP32496とVemurafenib同時投与時の増殖抑制反応曲線の一例(TCCV-Ka株)を示す図面に代わるグラフである。単剤投与時に比較して同時投与時の細胞生存率は明らかな低値を示し,相乗効果あるいは相加効果を示している。
図4図4は,図3に示した一例(TCCV-Ka)を含めたV595E移行上皮がん細胞(5株)のIC50値のまとめである。いずれの株化細胞においてもCEP32496にVemrafenibを同時投与すると細胞増殖抑制活性は増強された。CEP32496はBRAF阻害剤の基本であるBRAFのATP結合部位における競合拮抗作用に加えて,競合拮抗以外の機序でBRAF阻害作用を示すと考えられた。
図5図5は,V595E移行上皮がん株化細胞のSCIDマウス異種移植時の腫瘤形成の一例(TCCV-Ka株)を示す。図5は,株化細胞1×10個/300 μlをSCIDマウス(3匹)の腹側部皮下に接種して腫瘤の形成を観察したものである。抗腫瘍活性の対象として腫瘍原性,個体内でのバラツキ,増大傾向などの点からTCCV-Ka株化細胞が適していた。グラフ中の3種の異なる記号は,3匹のマウスの各個体を示す。
図6図6に異種移植試験系によるCEP32496の抗腫瘍活性を示した。CEP32496投与5日目より有意な腫瘤形成抑制が認められ,CEP32496はV595E移行上皮がん細胞に対して抗腫瘍活性を示した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【実施例0019】
これまでに発明者らが臨床例から採取し,約80代継代クローン化したイヌのV595E移行上皮がん株化細胞5株を用いて,入手可能で細胞増殖抑制活性の高いヒトBRAF阻害剤8種(GDC0879,AZ628,PLX4720,Encorafenib(エンコラフェニブ),Vemurafenib(ベムラフェニブ),Dabrafenib(ダブラフェニブ),RAF265,CEP32496)の細胞増殖抑制活性を検討した。また,異種移植の試験系で腫瘍の増大抑制(抗腫瘍活性)を測定し,抗腫瘍活性を検討した。
【0020】
細胞増殖抑制試験
ウェルあたり1000から3000個の株化細胞(TCCV-Ka,TCCV-So,TCCV-Ec,TCCV-Ni,TCCV-Ic)を96 well のカルチャープレートに撒き24時間培養後,0.1%DMSOに溶解した8種のBRAF阻害剤(GDC0879,AZ628,PLX4720,Encorafenib(エンコラフェニブ),Vemurafenib(ベムラフェニブ),Dabrafenib(ダブラフェニブ),RAF265,CEP32496)を0, 50, 100, 500, 1000, 5000, 10000 nMで GDC0879,AZ628,Vemurafenib,Dabrafenib,RAF265を,0, 1, 10, 100, 1000, 5000,10000nMで PLX4720を,0, 32, 63, 125, 250, 500, 1000nMで Encorafenibを,0, 3, 10, 30, 100, 300, 1000nMでCEP32496を添加して,24,48,72時間後の生存細胞数を,WST1を用いて測定し,細胞増殖抑制活性を算出した。
【0021】
図1にイヌのV595E移行上皮がん細胞に対するBRAF阻害剤の反応曲線の一例(TCC V-So株)を示した。またこの反応曲線から算出した細胞増植抑制活性(IC50: nM)を図2に示した。
【0022】
GDC0879,AZ628,Vemurafenib,Dabrafenibの4種のBRAF阻害剤は,用いた全ての細胞に対して十分な増殖抑制活性(IC50: 200nM以下)を示さなかった。PLX4720,Encorafenib,RAF265ではTCCV-Ec株のみで200nM,180nM,150nMのIC50が算出可能であった。一方,CEP32496は用いた全細胞株に対してIC50が算出でき,9-200nMの値を示した。したがって,8種のBRAF阻害剤のうちCEP32496のみがイヌのV595E移行上皮がんに対して細胞増植抑制剤または治療薬として有用と考えられた。
【0023】
BRAF阻害剤はV595E変異で活性化し,BRAF L-loop(ATP-binding site)の部位で,低分子でATP結合に競合(small molecular ATP competitive BRAF inhibitor)する物質としてBRAF活性を阻害し,MEKならびにERKの活性化(リン酸化)を阻害して細胞増殖,がん化を抑制する(Holderfield M, Nagel TE, Stuart DD. Br J Cancer 2014: 111(4): 640-645.)。そこで,CEP32496の細胞増殖抑制機序について代表的なBRAF阻害剤(第二世代)であるVemurafenibを併用投与することで検討した。
【0024】
TCCV-Ni株で得られたVemurafenibのIC50(1.5μM)の1/2量とCEP32496を,それとは反対にTCCV-So株で得られたCEP32496のIC50(15nM)の1/2量とVemurafenibを同時投与して,V595E移行上皮がん細胞(5株)に対する細胞増殖抑制活性を測定した。図3に反応曲線の一例(TCCV-Ka株)を示した。また算出したV595E移行上皮がん細胞(5株)のIC50を図4に示した。
【0025】
BRAF祖害剤で,ATPとの結合を競合阻害するVemurafenibをCEP32496と同時に投与すると,その細胞生存率はCEP32496単剤投与時に比較して明らかな低値を示した(図3図4)。また,反対にCEP32496をVemurafenibと同時に投与するとVemurafenib単剤投与に比較して同時投与時の細胞生存率は明らかな低値を示した。したがって,CEP32496はBRAF阻害剤の基本であるBRAFのATP結合部位における競合拮抗作用に加えて,競合拮抗以外の機序でBRAF阻害作用を示すことが明らかになった。実際,CEP32496はBRAF阻害剤であるとともに,MEKやERK活性を阻害し,マルチキナーゼの性質を示すとも報告されている(James J, Ruggen B, Armstrong RC et al. Mol Cancer Ther 2012; 11(4): 930-941)。
【0026】
異種移植試験系によるCEP32496の抗腫瘍活性
移植に用いるV595E移行上皮がん細胞
異種移植試験系における抗腫瘍活性を観察するには接種する細胞数,細胞株,動物種により腫瘤の増大の異なることが報告されている。そこで,5株のV595E移行上皮がん株化細胞を1×10個,1×10個/200 μlをSCIDマウス(CB17/Icr-scid/scid.Jcl, CLEA Japan)の腹側部皮下に接種して腫瘤の形成を観察した。
【0027】
約1カ月間観察したが,300 μlのPBSに1×10個の細胞を浮遊させた溶液を接種すれば全株化細胞で腫瘤の形成(4 x 4 mm 以上:腫瘍原性)が認められた。しかしながら,その後増大しないもの(TCCV-Ni株),消失してしまうもの(TCCV-Ic株),増大はするものの抗腫瘍活性を観察する対照としては変動幅が大きく適していないものが多かった。図5にはCEP32496の抗腫瘍活性判定の対照に適したTCCV-Ka株の腫瘍形成曲線を示した。
【0028】
CEP32496の抗腫瘍活性
移植細胞をTCCV-Ka株とし,投与群,対照群各5匹のSCIDマウス右腹側に1×10個の細胞を接種した。2週後に約5×5mmの腫瘤が形成された。投与は対照群では10%DMSOを,投与群には10% DMSOのCEP32496懸濁溶液(10 mg/kg)200μlを腹腔内投与した。投与は5回/週とした。
【0029】
CEP32496(10 mg/kg)投与群は投与5日目以降,対照群に比較して,有意な腫瘤形成抑制を示し,BRAFV595E移行上皮がん細胞に対する抗腫瘍活性を示した(図6)。
【0030】
考察
これまで的確な治療法が認められないイヌのBRAF遺伝子変異(V595E)によるがん細胞に対して細胞増殖抑制剤としての,また抗腫瘍薬としてのCEP32496の有用性を明らかにした。遺伝子診断等により早期診断をはかり,CEP32496を投与することでこれら腫瘍の新しい治療法が展開できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明は,動物用の薬剤の分野で利用されうる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6