IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウシオ電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図1
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図2
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図3
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図4A
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図4B
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図5
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図6
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図7
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図8
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図9
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図10
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図11
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図12
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図13
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図14
  • 特開-低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041670
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20220304BHJP
【FI】
A61L2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147016
(22)【出願日】2020-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】柳生 英昭
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 龍志
(72)【発明者】
【氏名】大橋 広行
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058AA24
4C058AA26
4C058BB06
4C058DD12
4C058KK02
4C058KK50
(57)【要約】
【課題】 虫に対する誘引効果を抑制した紫外光による菌又はウィルスの不活化方法を提供する。
【解決手段】 200nm以上240nm未満の波長範囲内にピーク波長を有し、250nm以上550nm未満の波長範囲の光強度が抑止された出射光を照射することで、虫に対する誘引効果を抑制した。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
200nm以上240nm未満の波長範囲内にピーク波長を有し、250nm以上550nm未満の波長範囲の光強度が抑止された出射光を照射することで、虫に対する誘引効果を抑制したことを特徴とする低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法。
【請求項2】
少なくとも暗環境下において、点灯と消灯とを繰り返して菌又はウィルスの不活化処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法。
【請求項3】
点灯期間が消灯期間に対して50%以下となるように、点灯と消灯を繰り返すことを特徴とする請求項2に記載の低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法。
【請求項4】
点灯期間が消灯期間に対して25%以下となるように、点灯と消灯を繰り返すことを特徴とする請求項3に記載の低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法。
【請求項5】
点灯期間が60秒以下であることを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法。
【請求項6】
Kr及びClを発光ガスとして含むエキシマランプから出射された光を照射することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法。
【請求項7】
前記出射光は、前記エキシマランプから出射されて、少なくとも250nm以上550nm未満の波長範囲の光強度を低減させるフィルタを通過した光であることを特徴とする請求項6に記載の低誘虫な菌又はウィルスの不活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌又はウィルスの不活化方法に関し、特に、紫外光の照射による菌又はウィルスの不活化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外光による殺菌方法は、薬剤等を散布することなく、処理対象空間や処理対象物に紫外光を照射するだけで殺菌処理が行えるため、主に食品工場や医療施設等の高い衛生管理が求められる環境の殺菌処理に採用されている。
【0003】
紫外光による殺菌処理は、主に波長が254nmの紫外光を利用した方法が採用されており、例えば、下記特許文献1には、波長が254nmの紫外光を出射する低圧水銀ランプを備えた紫外線照射装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-078479号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】田澤信二、「害虫行動を制御する黄色ランプ」、照明学会誌、第85巻第3号、2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者は、人の往来が頻繁な駅や公園、屋外のスタジアムやテーマパーク、さらには、上述したような高い衛生管理が求められる環境向けの紫外光による殺菌処理及びウィルスの不活化処理について鋭意検討したところ、以下のような課題が存在することを見出した。以下、図面を参照しながら説明する。
【0007】
図14は、低圧水銀ランプから出射される光のスペクトルであり、縦軸がピーク値に対する相対値で表されている。図14に示すように、低圧水銀ランプから出射される紫外光は、254nmにピーク波長を有するとともに、300nm以上400nm未満の範囲にもピーク波長に対してある程度の相対強度を示す光が含まれている。
【0008】
図15は、ショウジョウバエの視感度特性のグラフであり、縦軸がピーク値に対する相対値で表されている(非特許文献1参照)。図15に示すように、ショウジョウバエの視覚は、波長が300nm以上550nm未満の光に対して強い刺激を受ける特徴がある。なお、種類によって波長ごとの刺激効果は異なるが、多くの虫が、250nm以上550nm未満の波長帯に視感度を有することが知られている。
【0009】
また、ショウジョウバエ等の多くの虫は、刺激となる光に向かって移動する走光性を有しており、視感度の波長範囲内であって、周囲の光に対して相対的に明るいと視感する光源に向かって移動する特性を有する。この特性によって、ショウジョウバエは、波長が250nm以上550nm未満の光によって視覚が刺激され、当該光源に誘引されてしまう。
【0010】
したがって、低圧水銀ランプから出射される紫外光を照射して殺菌処理する方法は、殺菌処理に用いられる波長254nmの光や、当該光とともに出射される異なる波長帯の紫外光や可視光によって虫を誘引し、かえって不衛生な環境を作り出してしまっていた。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑み、虫に対する誘引効果を抑制した紫外光による菌又はウィルスの不活化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の菌又はウィルスの不活化方法は、
200nm以上240nm未満の波長範囲内にピーク波長を有し、250nm以上550nm未満の波長範囲の光強度が抑止された出射光を照射することで、虫に対する誘引効果を抑制したことを特徴とする。
【0013】
本明細書における、「光強度が抑止された」とは、光強度が1mW/cm2以下であって、ピーク波長における光強度に対して、光強度が5%未満であることを意味し、より好ましくは3%未満である。
【0014】
また、本明細書において、「不活化」とは、菌やウィルスを死滅させる又は感染力や毒性を失わせることを包括する概念を指し、「菌」とは、細菌や真菌(カビ)等の微生物を指す。以下において、「菌又はウィルス」を「菌等」と総称することがある。
【0015】
波長が200nm以上240nm未満の紫外光は、254nmの紫外光と同様に、菌やウィルス等の細胞が持つDNAやRNAに吸収される性質を有するため、菌やウィルスの不活化処理に用いることができる。この効果については、「発明を実施するための形態」において、図4A及び4Bを参照しながら詳述される。
【0016】
また、上述したように、虫(特に、ショウジョウバエやユスリカ)は、300nm以上400nm未満の波長範囲に対して視感度が高い。
【0017】
そこで、上記方法とすることで、虫に対する誘引効果を低減させつつ、空間や処理対象物の表面に存在する菌やウィルスの不活化処理をすることができる。
【0018】
上記の菌又はウィルスの不活化方法は、
少なくとも暗環境下において、点灯と消灯とを繰り返して菌又はウィルスの不活化処理を行う方法であっても構わない。
【0019】
また、上記の菌又はウィルスの不活化方法は、
点灯期間が消灯期間に対して50%以下となるように、点灯と消灯を繰り返すことが好ましい。
【0020】
さらに、上記の菌又はウィルスの不活化方法は、
点灯期間が消灯期間に対して25%以下となるように、点灯と消灯を繰り返すことがより好ましい。
【0021】
本明細書における「暗環境」とは、光が全く存在しない暗黒空間だけではなく、人が周囲の状況を視認して移動できる程度の環境までを含み、例えば、建物内の非常階段、周辺に街灯が少ない夜間の公園、窓が暗幕で覆われた部屋のような環境をも含んでいる。具体的には、空間の照度が75lx以下の環境が想定される。
【0022】
上述したように、虫の多くは、走光性を有しており、相対的に明るいと視感される光源に対して誘引させる傾向がある。例えば、光源から出射される光が波長250nm以上550nm未満の範囲内に強度を有する場合、暗環境下であるほど当該光源の光は相対的に明るいと視感されるため、微弱な光であっても際立つことがある。これは、虫の視感度が高い波長帯(300nm以上400nm未満)の光が含まれない白色照明であっても、夜間では虫が誘引されてしまうことがあることからも理解できる。特に、空間の照度が50lxを下回るような暗環境下となると、光源から出射される波長250nm以上550nm未満の範囲内の光が、ごく僅かであったとしても際立ってしまい、虫を誘引してしまう。
【0023】
しかしながら、当該波長範囲の光が出射されないように、光源の周囲を遮光してしまうと、菌等を不活化するための光をも遮光してしまうことになる。
【0024】
そこで、上記方法とすることで、不活化処理用の光源に向かって進行しようとする、又は進行している虫が、一時的に当該光源から出射される光を見失うことになる。したがって、虫が光源に向かって移動することを抑制することができ、暗環境下であっても、虫に対する誘引効果が抑制される。
【0025】
なお、点灯と消灯を繰り返すように菌等の不活化処理が行われる場合であっても、断続的に動作し、紫外光が菌等に対して、不活化処理に必要な積算照射量だけ照射されれば、所望の効果は得られる。詳細については、「発明を実施するための形態」において、図7を参照しながら説明される。
【0026】
さらに、上記の菌又はウィルスの不活化方法は、
点灯期間が60秒以下であっても構わない。
【0027】
点灯期間が60秒以下であれば、光源から数十cm離れた場所にいる虫のほとんどは、光源から出射される光を視認し、当該光源に向かって進行しようとするまでの間、又は進行している最中に光を見失う傾向が確認される。そこで、上記方法とすることで、虫の誘引効果がさらに抑制される。
【0028】
上記の菌又はウィルスの不活化方法は、
Kr及びClを発光ガスとして含むエキシマランプから出射された光を照射することで行われても構わない。
【0029】
上記構成による方法とすることで、200nm以上240nm未満の波長範囲内である222nmにピーク波長を有する光源を構成することができる。
【0030】
また、上記の菌又はウィルスの不活化方法において、
前記出射光は、前記エキシマランプから出射されて、少なくとも250nm以上550nm未満の波長範囲の光強度を低減させるフィルタを通過した光であっても構わない。
【0031】
上記構成とすることで、250nm以上550nm未満の波長範囲の光強度がさらに抑制され、さらに虫に対する誘引効果が抑制される。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、虫に対する誘引効果を抑制した紫外光による菌又はウィルスの不活化方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】不活化装置の一使用態様を模式的に示す図面である。
図2】紫外光照射器の模式的な側面図である。
図3】紫外光照射器の光取り出し窓から出射される光のスペクトルである。
図4A】紫外光照射器から出射される紫外光が、菌を不活化する作用を奏することを説明するための検証結果である。
図4B】紫外光照射器から出射される紫外光が、ウィルスを不活化する作用を奏することを説明するための検証結果である。
図5】制御部の構成を模式的に示すブロック図である。
図6】制御部の点灯制御部が紫外光照射器に対して送信する点灯制御信号の一例を示すグラフである。
図7】紫外光照射器を間欠点灯させた場合に、菌を不活化する作用を奏することを説明するための検証結果である。
図8】実験1の装置構成を模式的に示す図面である。
図9】白色LEDから出射される光のスペクトルである。
図10】蛍光灯から出射される光のスペクトルである。
図11】実験2の装置構成を模式的に示す図面である。
図12】不活化装置の別使用態様を模式的に示す図面である。
図13】不活化装置の別使用態様を模式的に示す図面である。
図14】低圧水銀ランプから出射される光のスペクトルである。
図15】ショウジョウバエの視感度特性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の不活化方法及び不活化装置について、図面を参照して説明する。なお、不活化装置に関して、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0035】
図1は、不活化装置1の一使用態様を模式的に示す図面であり、暗環境下である夜間の公園において、ベンチ2及びその周辺の空間を不活化処理する様子が示されている。図1に示すように、不活化装置1は、紫外光照射器10と制御部20とを備える。
【0036】
図2は、紫外光照射器10の模式的な側面図である。図2には、紫外光照射器10は、筐体11内に四本のエキシマランプ12を備える例が図示されている。このエキシマランプ12は、発光ガスが封入された発光管12aと、これらの発光管12aに対して電圧を印加するための一対の電極12bを備える。一対の電極12b間に電圧が印加されることで発光管12a内に封入された発光ガスがエキシマ発光し、発光管12aから紫外光が出射される。
【0037】
エキシマランプ12から出射された紫外光は、光取り出し窓13から出射されて、図1に示すように、出射光L1としてベンチ2に照射される。
【0038】
本実施形態のエキシマランプ12は、石英ガラスからなる発光管12a内に発光ガスとしてKrとClが封入されており、ピーク波長が222nm近傍の紫外光を出射する。また、光取り出し窓13は、紫外光を透過するガラス等の板材と、250nm以上300nm未満の波長範囲の光強度を低減させるように、当該板材上に形成された、誘電体多層膜等からなるフィルタが形成されている。
【0039】
また、波長240nm以上300nm未満の波長域の紫外光は、人に照射されると、人体に影響を及ぼすリスクがあることが知られている。皮膚は、表面に近い部分から表皮、真皮、その深部の皮下組織の3つの部分に分けられ、表皮は、さらに表面に近い部分から順に、角質層、顆粒層、有棘層、基底層の4層に分けられる。殺菌線としての波長254nm等、240nm以上300nm未満の波長域の紫外光が人体に照射されると、角質層を透過して、顆粒層や有棘層、場合によっては基底層に達し、これらの層内に存在する細胞のDNAに吸収される。この結果、皮膚がんのリスクが発生する。
【0040】
一方、波長200nm以上240nm未満の波長域の紫外光(より好ましくは、波長200nm以上235nm以下の波長域の紫外光)は、人体に照射されても、皮膚の角質層で吸収され、それよりも内側(基底層側)には進行し難い。角質層に含まれる角質細胞は細胞核を有しない細胞であるため、例えば有棘細胞のようにDNAが存在しない。このため、240nm以上300nm未満の波長域の紫外光が照射される場合のように、細胞に吸収されてDNAが破壊されるというリスクが低い。さらに、波長235nm以上240nm未満の帯域の光強度も抑止されることによって、紫外光が細胞に吸収されてDNAが破壊されるというリスクが確実に低減できる。
【0041】
上述したように、紫外光照射器10から発せられた紫外光は、波長250nm以上300nm未満の波長域において光強度が抑止されることで、誘虫性が効果的に低減される。さらに、240nm以上400nm未満の帯域の光強度が抑止されることによって、不活化装置1の近くに人が存在する時間帯に紫外光照射器10が点灯したとしても、人体に対する影響を効果的に低減することができる。さらには、235nm以上400nm未満の帯域の光強度が抑制されることによって、誘虫性を効果的に低減するとともに、人体に対する影響をより確実に低減できる。
【0042】
そして、紫外光照射器10から発せられる、200nm以上240nm未満の波長域内の紫外光が、不活化装置1から出射される出射光L1として照射されることで、照射される領域や被処理物の表面等に存在する菌等を不活化できる。より好ましくは、200nm以上235nm未満の波長域内の紫外光が照射されることで、人体への影響を確実に低減しながら、当該照射領域内に存在する菌等を不活化できる。このような波長帯域の抑止は、例えば、適切な光源を選択するか、当該帯域を抑止可能な光学フィルタを用いることによって実現できる。光学フィルタとしては、例えば、HfO2層及びSiO2層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることができる。紫外光照射器10に搭載されるエキシマランプ12が、KrClの発光ガスやKrBrの発光ガスが封入された発光管を有する場合においても、同様である。
【0043】
さらに、250nm以上550nm未満の波長範囲の光強度を低減させる光学フィルタを用いて、250nm以上550nm未満の広い波長帯域の光強度をより抑止させる構成であっても構わない。上記構成とすることで、人体に影響を及ぼす波長帯域の紫外光を抑制しつつ、かつ、250nm以上550nm未満の波長範囲の光強度を抑制することで、虫に対する誘引効果をより抑制することができる。
【0044】
なお、出射する光の波長250nm以上550nm未満における光強度が十分に低い光源であれば、光取り出し窓13にフィルタが形成されていなくても構わない。
【0045】
ここで、紫外光照射器10から出射される出射光L1と、ショウジョウバエの比刺激効果について確認する。図3は、紫外光照射器10の光取り出し窓13から出射される光のスペクトルであって、縦軸がピーク波長(222nm)における光強度に対する相対値で表されている。
【0046】
図3に示すように、紫外光照射器10から出射される出射光L1は、ピーク波長が222nmである。
【0047】
本来、KrClエキシマランプからは、ピーク波長が222nm近傍で半値幅が極めて狭い、急峻なスペクトルを示す紫外光が生成される。しかし、上述したように、この紫外光は、発光ガスが封入された発光管12aを透過した後、光取り出し窓13から外部に出射される。発光管12aは、製造時に不純物(例えば、Ti、Ni、Fe等の遷移金属)が不可避的に含まれることがある。この場合、発光管12a内で生成された紫外光が発光管12aの管壁に入射して不純物を励起する。これにより、発光管12aからは、紫外光に加えて、300nm以上550nm未満の範囲内の微弱な光が出射されることがある。したがって、虫を誘引する効果を抑制するには、発光管12aを構成する材料が、できる限り不純物の濃度が低い材料が選択されることが好ましい。なお、光取り出し窓13を構成する材料についても同様である。
【0048】
紫外光照射器10から出射される出射光L1は、200nm以上240nm未満の波長域内にピーク波長を有することで、菌やウィルスを不活化する作用が確認される。この点について検証結果を参照して説明する。
【0049】
φ35mmのシャーレに、濃度106/mL程度の黄色ブドウ球菌を1mL入れ、シャーレの上方から、図3に示すスペクトルを有する出射光L1を、照度0.001mW/cm2で照射した。その後、出射光L1の照射後のシャーレ内の溶液を、生理食塩水で所定の倍率に希釈し、希釈後の溶液0.1mLを標準寒天培地に播種した。そして、温度37℃、湿度70%の培養環境下で24時間培養し、コロニー数をカウントした。
【0050】
図4Aは、上記実験結果をグラフ化したものであり、横軸が出射光L1の照射量、縦軸が黄色ブドウ球菌の生存率に対応する。なお、縦軸は、出射光L1の照射前の時点における黄色ブドウ球菌のコロニー数を基準としたときの、照射後の黄色ブドウ球菌のコロニー数の比率のLog値に対応する。
【0051】
図4Aによれば、出射光L1の照度が0.001mW/cm2と極めて低い場合であっても、黄色ブドウ球菌の不活化が実現できていることが確認される。なお、出射光L1によって、セレウス菌や枯草菌等、他の菌に対しても不活化の作用があることが確認されている。
【0052】
なお、別の検証として、インフルエンザウィルスに対して同様の検証を行った結果を図4Bに示す。この結果によれば、出射光L1によってウィルスの不活化が行えることも確認される。なお、例えば、出射光L1の照射量を3mJ/cm2とするには、照度0.01mW/cm2の場合には5分間の照射によって実現され、照度0.001mW/cm2の場合には50分間の照射によって実現される。図4Bによれば、出射光L1によって、ウィルスの不活化も実現できることが確認される。なお、出射光L1によって、ネココロナウィルス等の他のウィルスに対しても不活化の作用があることが確認されている。
【0053】
次に制御部20の構成と、制御部20による紫外光照射器10の点灯制御について説明する。図5は、制御部20の構成を模式的に示すブロック図である。図5に示すように、制御部20は、紫外光照射器10に対して点灯状態と消灯状態とを切り換える制御信号を出力する点灯制御部21と、点灯期間と消灯期間の時間を計測するタイマ22と、動作開始や動作モードを切り換え操作等を行う操作部23とを備える。動作開始や動作モードを切り換え操作とは、例えば、公園の管理者が、虫が発生しやすい夏場が近づいた頃に、不活化装置1の動作を開始させる場合等が想定される。
【0054】
図6は、制御部20の点灯制御部21が紫外光照射器10に対して送信する点灯制御信号の一例を示すグラフである。図6は、ハイレベルが紫外光照射器10を点灯させる状態を示し、ローレベルが紫外光照射器10を消灯させる状態を示している。図6に示すように、制御部20は、操作者が操作部23を操作して、紫外光照射器10の動作を開始させる操作を行うと、点灯制御部21が紫外光照射器10に対して点灯状態に切り替える制御信号を出力する(図6におけるS1時点)。
【0055】
紫外光照射器10を点灯状態に切り替える信号が、点灯制御部21から紫外光照射器10に対して出力されると、タイマ22が点灯期間の時間T1の計測を開始する。
【0056】
タイマ22がS1時点から時間T1が経過したことを検知すると、点灯制御部21が、紫外光照射器10に対して消灯状態に切り替える制御信号を出力する(図6におけるS2時点)。
【0057】
点灯制御部21から、紫外光照射器10に対して消灯状態に切り替える制御信号が出力されると、タイマ22が消灯期間の時間T2の計測を開始する。
【0058】
タイマ22がS2時点から時間T2が経過したことを検知すると、点灯制御部21が、紫外光照射器10に対して点灯状態に切り替えるように制御信号を出力する(図6におけるS3時点)。
【0059】
以降、操作者が操作部23を操作して、紫外光照射器10を停止させる操作を行うまでは、上述の制御が繰り返される。この制御により、紫外光照射器10は、点灯と消灯を繰り返すように不活化処理を行う。
【0060】
本実施形態では、時間T1を30秒、時間T2を150秒として、点灯期間が消灯期間に対して20%となるようにしたが、時間T1と時間T2は、任意に設定されても構わない。なお、虫が紫外光照射器10から出射される出射光L1を見失いやすいように、点灯期間は、消灯期間に対して50%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましい。
【0061】
また、虫の誘引効果をより低減させるために、虫が紫外光照射器10から出射される出射光L1を見失いやすいように、時間T1は、60秒以下に設定されることが好ましい。
【0062】
上記構成による方法によれば、虫に対する誘引効果を低減させて、空間や処理対象物の表面に存在する菌等を不活化処理することができる。また、紫外光照射器10を用いた方法により、虫(特に、ショウジョウバエやユスリカ)に対する誘引効果を低減できる点については、実験結果を参照して後述される。
【0063】
そして、菌やウィルスの不活化の効果の大小は、出射光L1の積算照射量(ドーズ量)に依存する。このため、紫外光照射器10が点灯と消灯を繰り返すように動作したとしても、処理対象となる空間、領域に対して出射光L1の積算照射量が菌等の不活化に必要とされるだけ十分に確保されていれば、当該空間、領域における菌等を不活化する効果は得られる。
【0064】
図7は、出射光L1の照射態様を異ならせた点を除けば、図4Aと同様の方法で黄色ブドウ球菌に対する不活化の検証を行った結果を示すグラフである。照射条件としては、照度を0.01mW/cm2として、デューティ比50%の間欠点灯8.3分ON、8.3分OFFする方法が採用された。
【0065】
図7の結果によれば、出射光L1が間欠的に照射された場合であっても菌等の不活化作用が得られることが分かる。
【0066】
虫に対する誘引効果を検証する実験を行った。以下、実験の詳細と結果について説明する。
【0067】
[実験1]
実験対象とする虫は、ショウジョウバエと同じハエ目の仲間であるユスリカとした。
【0068】
図8は、実験1の装置構成を模式的に示す図面である。図8に示すように、実験1の装置は、二つのボックス(B1,B2)をアクリルパイプP1で接続した構成である。ボックスB1には光源N1を配置した。なお、実験時は、装置全体は暗幕で覆い、装置内に外光が入らないように構成した。
【0069】
(実験方法)
ボックスB1に光源N1を配置し、ボックスB2には、ユスリカを約150匹入れ、実験開始とともに、光源N1を点灯させて、所定の時間経過後にボックスB2からボックスB1に移動したユスリカの匹数をカウントした。実験は、光源N1を、上記実施例の紫外光照射器10、白色LED、蛍光灯の3種類に変更した状態で行われた。なお、図9は白色LEDから出射される光のスペクトルであり、図10は、蛍光灯から出射される光のスペクトルである。
【0070】
(結果)
光源N1が蛍光灯では、実験開始後40分で21匹のユスリカがボックスB1に移動した。
【0071】
光源N1が白色LEDでは、実験開始後40分で23匹のユスリカがボックスB1に移動した。
【0072】
光源N1が紫外光照射器10では、実験開始後20分で36匹のユスリカがボックスB1に移動した。
【0073】
以上の結果から、暗幕で覆われた暗環境下においては、蛍光灯、白色LED、紫外光照射器10のいずれも、出射する光のユスリカに対する誘引効果が確認された。
【0074】
[実験2]
実験対象とする虫は、実験1と同様にユスリカとした。
【0075】
図11は、実験1の装置構成を模式的に示す図面である。図11に示すように、実験2の装置は、三つのボックス(B1,B2,B3)をアクリルパイプ(P1,P2)で直列に接続した構成である。ボックスB1には光源N1、ボックスB3には光源N2を配置した。なお、実験時は、装置全体は暗幕で覆い、装置内に外光が入らないように構成した。
【0076】
(実験方法)
ボックスB1に光源N1、ボックスB3に光源N2を配置し、ボックスB2には、ユスリカを約150匹入れ、実験開始とともに、光源(N1,N2)を点灯させて、20分後にボックスB2からボックスB1、ボックスB3のそれぞれに移動したユスリカの匹数をカウントした。実験2は、実験1と同様に、光源N1,N2を、上記実施例の紫外光照射器10、白色LED、蛍光灯の3種類の中から、光源N1と光源N2が相互に異なる組み合わせとなるように選択して行われた。
【0077】
(結果)
それぞれの結果を下記の表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
紫外光照射器10は、白色LEDや蛍光灯と同時に点灯している場合は、ユスリカに対する誘引効果が小さい結果となった。これにより、実際に使用される周辺に照明機器が存在するような環境下においては、紫外光照射器10に虫が寄っていく確率は、非常に低いことが確認された。
【0080】
[別使用態様]
以下、別使用態様につき説明する。
【0081】
〈1〉 図12は、不活化装置1の別使用態様を模式的に示す図面である。図12に示すように、不活化装置1は、夜間における自動販売機3及びその周辺の空間を不活化処理する様子が示されている。人が飲み物を購入する頻度が低くなる深夜帯において、自動的に消灯している状態の自動販売機3に対して紫外光を照射し、人が頻繁に触れるボタンやコインの投入口、商品取り出し口等に付着している菌等を不活化処理する態様が考えられる。
【0082】
なお、図12においては、制御部20は、紫外光照射器10と一緒に筐体に収められて、自動販売機3の上部に載置されているため見えない。
【0083】
また、図12の構成は、より広い範囲を不活化処理するために、紫外光照射器10を複数備えるように構成されている。図12に示すように、不活化装置1は、紫外光照射器10を複数備え、制御部20がそれぞれの紫外光照射器10を一括、又は別々に制御するように構成されていてもよい。
【0084】
図13は、不活化装置1の図12とは別の使用態様を模式的に示す図面である。図13に示すように、紫外光照射器10は、ドア4に装着されて、出射光L1が、人が頻繁に触れるドアノブ4aに対して照射されるように配置されていてもよい。さらには、紫外光照射器10は、券売機や遊技機等の周辺に配置、又はこれらの機器に装着されて、出射光L1が装置や設備の操作ボタンや操作用のタッチパネル等に対して照射されるように構成されていてもよい。これにより、ドアの開閉や購入操作等のために人が触れる部分に付着した菌やウィルスが、次々に当該部分に触れる人に伝搬することを防ぎ、感染症の拡大を抑える効果が期待できる。
【0085】
さらに、不活化装置1は、自動販売機3のような照明機能を有する装置、又は照明装置と制御部20の制御機能を共有し、それぞれの点灯時間等を一体的に制御するように照明システムの一部を構成するものであっても構わない。
【0086】
〈2〉 上述した不活化装置1の実施形態では、操作者が制御部20の操作部23を操作する態様を説明したが、例えば、制御部20がさらに無線受信部を備え、リモコンから発信される無線信号を受信して動作を開始したり、動作モードを切り替えたりする構成であっても構わない。
【0087】
また、不活化装置1は制御部20を備えず、単に操作者が紫外光照射器10の電源をオン/オフするだけの構成であっても構わない。
【符号の説明】
【0088】
1 : 不活化装置
2 : ベンチ
3 : 自動販売機
4 : ドア
4a : ドアノブ
10 : 紫外光照射器
11 : 筐体
12 : エキシマランプ
12a : 発光管
12b : 電極
13 : 光取り出し窓
20 : 制御部
21 : 点灯制御部
22 : タイマ
23 : 操作部
L1 : 出射光
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15