(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041733
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】膵臓がん検出方法及び膵臓がん検出キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220304BHJP
G01N 33/566 20060101ALI20220304BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G01N33/566
G01N33/53 V
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147108
(22)【出願日】2020-09-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載ウェブサイトのアドレス:https://www.mdpi.com/2072-6694/12/9/2469、掲載年月日:令和2年8月31日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】糸長 誠
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅之
(72)【発明者】
【氏名】横瀬 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚志
(72)【発明者】
【氏名】加部 泰明
(72)【発明者】
【氏名】松田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】平井 美和
(72)【発明者】
【氏名】北郷 実
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QR48
4B063QR66
4B063QS33
4B063QS36
(57)【要約】
【課題】リキッド・バイオプシーにより、膵臓がんの早期検出及び治療効果のモニタリングを可能とする、膵臓がん検出方法及び膵臓がん検出キットを提供する。
【解決手段】被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンと接触させる工程(a)と、前記工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する工程(b)と、前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する工程(c)と、を含む、膵臓がん検出方法。また、1種以上のレクチンが固定された固相担体と、汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片と、を含む、膵臓がん検出キット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンと接触させる工程(a)と、
前記工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する工程(b)と、
前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する工程(c)と、
を含む、膵臓がん検出方法。
【請求項2】
前記工程(c)は、
膵臓がんを有さないことが既知である被検体の体液試料を用いて測定された前記1種以上のレクチンに結合する細胞外小胞の量と比較して、前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量が多い場合に、前記被検体に膵臓がんが存在すると評価することを含む、
請求項1に記載の膵臓がん検出方法。
【請求項3】
前記1種以上のレクチンが、DSA、STL、LEL、ACA、UDA、ABA、MAH、及びTJA-1からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の膵臓がん検出方法。
【請求項4】
前記工程(b)を、汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を用いて行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の膵臓がん検出方法。
【請求項5】
前記汎細胞外小胞膜タンパク質が、CD9、CD63、及びCD81からなる群より選択される、請求項4に記載の膵臓がん検出方法。
【請求項6】
1種以上のレクチンが固定された固相担体と、
汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片と、
を含む、膵臓がん検出キット。
【請求項7】
前記1種以上のレクチンが、DSA、STL、LEL、ACA、UDA、ABA、MAH、及びTJA-1からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項6に記載の膵臓がん検出キット。
【請求項8】
前記汎細胞外小胞膜タンパク質が、CD9、CD63、及びCD81からなる群より選択される、請求項6又は7に記載の膵臓がん検出キット。
【請求項9】
前記汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片が、固相担体粒子に固定されている、請求項6~8のいずれか一項に記載の膵臓がん検出キット。
【請求項10】
前記膵臓がん検出キットは、細胞外小胞の計数に用いられる細胞外小胞計数器に使用される細胞外小胞捕捉ユニットを含み、
前記固相担体が、前記細胞外小胞捕捉ユニットに備えられている、請求項6~9のいずれか一項に記載の膵臓がん検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓がん検出方法及び膵臓がん検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓がんによる死亡数は年々増加している。2018年の日本のがん死亡者数の統計では、がんによる死因のうち、膵臓がんは33475人であり4位と上位を占めている。近年、手術手技自体の改良のみならず、術前治療(化学療法、放射線治療など)及び術後補助療法などの集学的治療戦略が開発されている。そのため、以前と比較し長期成績の改善を認めるものの、悪性新生物全体でみれば未だ課題は多い。この理由として、膵臓がんは画像診断の発展にもかかわらず進行がんで診断されることが多く診断時の切除率は30%程度とされ、高難度な外科手術により根治切除を得たとしても高率に再発をきたす性質を有すること、及び既存の化学療法や放射線療法に対し治療抵抗性を有することが挙げられる。
【0003】
膵臓がんの早期診断が難しい理由の一つに、膵臓は他がん腫の臓器と比較して直接的な検体の採取が困難であるという臓器の特殊性がある。画像検査の解像度の向上により診断精度は向上したが、膵臓がんの有効なスクリーニング方法として確立したものはない。また、組織を採取する際に超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)が普及し、診断能は向上したものの、穿刺による播種の可能性及び侵襲性の課題があり、より簡便で低侵襲な検膵臓がんの検査手法が求められている。
【0004】
以上の理由から、リキッド・バイオプシーという、体液(血液など)試料を用いてがん由来の分子を調べることで、がんの診断又は治療効果判定を行う検査法が膵臓がんにおいて注目を集めている。
リキッド・バイオプシーで用いられる、既存の膵臓がん検出のための腫瘍マーカーとしては、糖鎖抗原としてCA19─9、Span─1、CA50、CA242、Dupan─2、TAG─72、尿中フコースなど、糖鎖以外の抗原としてCEA、POA、TPSなどが挙げられる(非特許文献1)。これらの腫瘍マーカーは、感度は良いが特異度はそれほど高くなく、偽陽性率が高いという課題がある。さらに、膵臓がんでの陽性的中率は進行がんを除けば一般的に低く、2cm以下の膵臓がんでもCA19─9の陽性的中率は52%と半数に過ぎない。そのため、腫瘍マーカーは、早期膵臓がんの検出に課題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会、膵癌診療ガイドライン2009年版 診断法「CQ1 診断法 CQ1-3 膵癌を疑った場合、まず行うべき検査は何か?」、[online]、[令和2年7月10日検索]、インターネット<URL:http://www.suizou.org/PCMG2009/cq1/cq1-3.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
膵臓がんの早期診断のためには、簡便で低侵襲な検査方法が求められる。しかしながら、従来の腫瘍マーカーを用いたリキッド・バイオプシーでは、膵臓がんの陽性的中率は一般的に低く、早期膵臓がんを検出することは困難である。
【0007】
そこで、本発明は、リキッド・バイオプシーにより、膵臓がんの早期検出及び治療効果のモニタリングを可能とする、膵臓がん検出方法及び膵臓がん検出キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンと接触させる工程(a)と、前記工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する工程(b)と、前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する工程(c)と、を含む、膵臓がん検出方法。
[2]前記工程(c)は、膵臓がんを有さないことが既知である被検体の体液試料を用いて測定された前記1種以上のレクチンに結合する細胞外小胞の量と比較して、前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量が多い場合に、前記被検体に膵臓がんが存在すると評価することを含む、[1]に記載の膵臓がん検出方法。
[3]前記1種以上のレクチンが、DSA、STL、LEL、ACA、UDA、ABA、MAH、及びTJA-1からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載の膵臓がん検出方法。
[4]前記工程(b)を、汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を用いて行う、[1]~[3]のいずれか一項に記載の膵臓がん検出方法。
[5]前記汎細胞外小胞膜タンパク質が、CD9、CD63、及びCD81からなる群より選択される、[4]に記載の膵臓がん検出方法。
[6]1種以上のレクチンが固定された固相担体と、汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片と、を含む、膵臓がん検出キット。
[7]前記1種以上のレクチンが、DSA、STL、LEL、ACA、UDA、ABA、MAH、及びTJA-1からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[6]に記載の膵臓がん検出キット。
[8]前記汎細胞外小胞膜タンパク質が、CD9、CD63、及びCD81からなる群より選択される、[6]又は[7]に記載の膵臓がん検出キット。
[9]前記汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片が、固相担体粒子に固定されている、[6]~[8]のいずれか一項に記載の膵臓がん検出キット。
[10]前記膵臓がん検出キットは、細胞外小胞の計数に用いられる細胞外小胞計数器に使用される細胞外小胞捕捉ユニットを含み、前記固相担体が、前記細胞外小胞捕捉ユニットに備えられている、[6]~[9]いずれか一項に記載の膵臓がん検出キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リキッド・バイオプシーにより、膵臓がんの早期検出及び治療効果のモニタリングを可能とする、膵臓がん検出方法及び膵臓がん検出キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る膵がん検出方法に用いるレクチンが固定された固相担体の一例を示す。
【
図1B】本発明の一実施形態に係る膵がん検出方法の工程(a)の一例を説明する図である。
【
図1C】本発明の一実施形態に係る膵がん検出方法の工程(b)の一例を説明する図である。
【
図2A】細胞外小胞計数器にセットされる細胞外小胞捕捉ユニットの一例を示す模式図である。
【
図2B】
図2Aの細胞外小胞捕捉ユニットのA-A切断線における模式的な断面図である。
【
図2C】
図2Aの細胞外小胞捕捉ユニットのカートリッジ52が着脱可能であることを説明するための模式的な断面図である。
【
図3A】
図7Aの細胞外小胞捕捉ユニットのB-B切断線における模式的な断面図である。
【
図3B】
図7Ano細胞外小胞捕捉ユニットの凹部及び凸部の寸法的形状を説明するための拡大断面図である。
【
図4】各種がん細胞株(膵臓がん細胞株:BxPC33、Capan-1;乳がん細胞株:MCF7;大腸がん細胞株:HCT116;肺がん細胞株:A549)の培養上清を用いて、ABA又はACAに結合する糖鎖を有するエクソソーム(以下、「ABA/ACA特異的エクソソーム」ともいう)数を測定した結果を示す。
【
図5】
図1で用いた培養上清において、総エクソソーム数に対するABA/ACA特異的エクソソーム数の比率を算出した結果を示す。
【
図6】健常者血清(NC)、膵臓がん患者の手術前(PC/Preoperative)及び手術後(PC/Postoperative)の血清を用いて、ABA/ACA特異的エクソソーム数を測定した結果を示す。
【
図7】膵臓がん患者血清(PC)、食道がん患者血清(Esophageal Cancer)、及び大腸がん患者血清(Colorectal cancer)血清を用いて、ABA/ACA特異的エクソソーム数を測定した結果を示す。
【
図8】健常者血清(NC)、ステージI、II及びIIIの各膵臓がん患者血清を用いて、ABA/ACA特異的エクソソーム数を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0012】
(膵臓がん検出方法)
一実施形態において、本発明は、膵臓がん検出方法を提供する。本実施形態の膵がん検出方法は、被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンと接触させる工程(a)と、前記工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する工程(b)と、前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する工程(c)と、を含む。
【0013】
図1A~1Cを参照し、本実施形態の膵臓がん検出方法の概略を説明する。
図1Aの固相担体1は、細胞外小胞を、レクチン10と接触させるために用いられる固相担体の一例である。固相担体1は、凹部2及び凸部3有しており、凹部2にはレクチン10が固定されている。固相担体1に、被検体に由来する体液試料を添加すると、前記体液試料中の細胞外小胞(E1、E2)をレクチン10に接触させることができる(工程(a):
図1B)。
【0014】
細胞外小胞E1は、糖鎖21及び糖鎖22を有しているが、糖鎖21はレクチン10に対する結合性を有するため、レクチン10に結合する。一方、細胞外小胞E2は、糖鎖22及び糖鎖23を有しているが、これらの糖鎖はレクチン10に対する結合性を有さないため、レクチン10に結合しない。
【0015】
次に、レクチン10に結合した細胞外小胞E1の量を測定する(工程(b):
図1C)。例えば、細胞外小胞E1に、汎細胞外小胞膜タンパク質に結合する抗体41を結合させて、前記抗体41に結合させた標識のシグナルを検出することにより、細胞外小胞E1の量を測定することができる。
図1Cの例では、固相担体粒子40に抗体41を固定し、固相担体粒子40のシグナルを検出している。
【0016】
次に、測定された細胞外小胞E1の量に基づいて、被検体における膵臓がんの存在を評価する。例えば、健常被検体の体液試料における測定値と比較して、工程(b)で測定された細胞外小胞E1の量が多い場合には、被検体に膵臓がんが存在すると評価する。
【0017】
本実施形態の膵臓がん検出方法では、上記のとおり、レクチンに結合する細胞外小胞の量を指標として、膵臓がんを検出する。細胞外小胞は、細胞が放出する小胞である。細胞外小胞の大きさは直径30nm~1μm程度である。細胞外小胞としては、エクソソーム、アポトーシス小体、マイクロベシクル等が挙げられる。
本実施形態の膵臓がん検出方法において、指標として用いる細胞外小胞は、好ましくはエクソソームである。エクソソームは、直径50~150nm程度の脂質二重膜で囲まれた膜小胞であり、エンドソーム内腔へ内向きに出芽した腔内膜小胞が、がん細胞を含む種々の細胞から、体液中に分泌されたものである。
【0018】
細胞外小胞は、細胞の分泌物であり、その表面に分泌源の細胞由来の種々のタンパク質を発現している。タンパク質翻訳後修飾の1つである糖鎖は、あらゆる細胞膜及び分泌タンパク質上に存在し、細胞の分化及びがん化によりその構造が変化するとされている。細胞外小胞の膜タンパク質も糖鎖修飾されており、分泌源の細胞により糖鎖構造は異なっている。本実施形態の膵臓がん検出方法は、膵臓がんを有する個体では、膵臓がんを有さない個体と比較して、体液試料中の、特定のレクチンに対して結合性を有する細胞外小胞の量が増加(若しくは減少)するという知見に基づく。
【0019】
[工程(a)]
工程(a)では、被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンと接触させる。工程(a)は、in vitroで行われる工程である。
【0020】
「被検体に由来する体液試料」とは、被検体から採取された体液試料、及び被検体から採取された体液試料に何らかの処理を施した試料をいう。被検体に由来する体液試料は、細胞外小胞を含むものであれば、特に限定されない。被検体から採取された体液試料を処理する方法は、特に限定されないが、例えば、細胞成分を除去する処理(例えば、遠心分離処理)、緩衝液(PBS、PBS-T、生理食塩水、トリス緩衝液等)等で希釈する処理等が挙げられる。
【0021】
体液試料は、細胞外小胞を含むものであれば、特に限定されない。細胞外小胞は、ほとんどの体液中に安定して存在しているため、ほとんどの体液を使用可能である。体液試料としては、例えば、血液、血清、血漿、唾液、尿、涙、汗、乳汁、鼻汁、精液、胸水、消化管分泌液、脳脊髄液、組織間液、及びリンパ液等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外小胞は、被検体から採取された後、冷蔵下または冷凍下で長期間保存された体液中でも比較的安定である。そのため、採取後に長期間保存された体液試料も使用可能である。
被検体に由来する体液試料としては、血清又は血漿が好ましく、血清がより好ましい。
【0022】
「被検体」は、膵臓がん検出の対象となる動物個体をいう。被検体は、膵臓がんが発生し得る動物であれば、特に限定されないが、ヒト又はヒト以外の哺乳類が挙げられる。ヒト以外の哺乳類としては、例えば、霊長類(サル、チンパンジー、ゴリラなど)、げっ歯類(マウス、ハムスター、ラットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等が挙げられる。好ましくは、被検体はヒトである。
【0023】
レクチンは、糖鎖に結合性を有するタンパク質である。体液試料中の細胞外小胞に接触させるレクチンは、1種以上であってもよいし、2種以上であってもよい。レクチンの種類は、特に限定されないが、DSA、STL、LEL、ACA、UDA、ABA、MAH、及びTJA-1からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。後述する実施例で示すように、膵臓がん患者では、健常者と比較して、これらのレクチンに結合する細胞外小胞が有意に上昇することが確認されている。上記の中でも、レクチンは、ACA及びABAからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0024】
レクチンは、糖鎖に対する結合能を保持する限り、上記のようなレクチンの変異体であってもよい。「レクチンの変異体」とは、レクチンのアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなり、元のレクチンの糖鎖結合性を有する、タンパク質をいう。前記アミノ酸の変異は、置換、付加、欠失、及び挿入からなる群より選択される少なくとも一種である。
レクチンの変異体としては、例えば、
(1)元のレクチンのアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなり、且つ元のレクチンの糖鎖結合性を有するタンパク質;並びに
(2)元のレクチンのアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ元のレクチンの糖鎖結合性を有するタンパク質、等が挙げられる。
前記(1)において、「複数個」は、例えば、2~20個、2~15個、2~10個、2~5個、2~4個、又は2個若しくは3個が挙げられる。前記(2)において、配列同一性は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上が特に好ましい。なお、アミノ酸配列同士の配列同一性は、2つのアミノ酸配列を、対応するアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除くアミノ酸配列全体に対する一致したアミノ酸の割合として求められる。アミノ酸配列同士の配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。例えば、アミノ酸配列の配列同一性の値は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTPにより得られたアライメントを元にした計算によって得ることができる。
好ましい変異体としては、元のレクチンを構成するアミノ酸の一部が保存的置換した変異体が挙げられる。「保存的置換」とは、類似した生化学的性質を有するアミノ酸への置換である。保存的置換としては、例えば、脂肪族側鎖を有するアラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシン間での置換;ヒドロキシ基側鎖を有するセリン及びトレオニン間での置換;酸性側鎖を有するアスパラギン酸及びグルタミン酸の間での置換;アミド基側鎖を有するアスパラギン及びグルタミンの間での置換;塩基性側鎖を有するリジン及びアルギニンの間での置換;並びに芳香族側鎖を有するフェニルアラニン及びトリプトファンの間での置換等が挙げられる。
【0025】
体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンと接触させる方法は、特に限定されない。例えば、
図1Aに示すようなレクチン10が固定された固相担体1を用いてもよい。
図1Aの固相担体1は、凹部2及び凸部3を備えており、凹部2にレクチン10が固定されている。この場合、
図1Bに示すように、固相担体1に細胞外小胞を含む体液試料を供給することにより、細胞外小胞(
図1BのE1、E2)をレクチン10と接触させることができる。細胞外小胞をレクチン10と接触させると、細胞外小胞E1は、レクチン10に結合性を有する糖鎖21を有するため、糖鎖21を介してレクチン10に結合し、凹部2に捕捉される。一方、細胞外小胞E2は、レクチン10に結合性を有する糖鎖を有しないため、レクチン10に結合しない。したがって、レクチン10に結合性を有する細胞外小胞E1のみを、固相担体1上に捕捉することができる。
【0026】
固相担体1の材質は、特に限定されないが、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート等の樹脂;並びにガラス等が挙げられる。固相担体1は、レクチンが結合できるように表面加工されたウェルプレートであってもよく、凹部2は、ウェルプレートのウェルであってもよい。あるいは、固相担体1は、表面加工された基板に凹部2及び凸部3を設けたものであってもよい。
固相担体1へのレクチン10の固定方法は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、レクチンを固定する面を、表面疎水的相互作用によりタンパク質が物理吸着されるように表面加工してもよく、アミノ基若しくはカルボキシル基等を有するように表面加工してもよい。あるいは、アビジン-ビオチン結合を利用して、凹部2にレクチン10を固定してもよい。
【0027】
細胞外小胞に接触させるレクチンとして2種以上のレクチンを用いる場合、細胞外小胞との接触は、レクチンの種類毎に行うことが好ましい。例えば、
図1Aの例では、1つの固相担体1に固定するレクチン10は1種類のレクチンとし、レクチンの種類毎に固相担体1を準備する。そして、複数の固相担体1のそれぞれに体液試料を供給し、体液試料中の細胞外小胞とレクチン10とを接触させる。
【0028】
細胞外小胞をレクチン10と接触させた後は、適宜、洗浄液を用いて固相担体1の洗浄を行ってもよい。固相担体1を洗浄することにより、レクチン10に結合していない細胞外小胞を除去することができる。洗浄液は、特に限定されず、ELISA等で洗浄に用いられる洗浄液を使用することができる。洗浄液としては、例えば、緩衝液又は緩衝液にTween20等の界面活性剤を添加したもの等が挙げられる。洗浄液としては、例えば、PBS、PBS-T、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、純水等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
体液試料中の細胞外小胞とレクチンとの接触は、固相担体1を用いた方法に限定されず、当技術分野で公知の任意の方法を用いることができる。例えば、体液試料中の細胞外小胞とレクチンとの接触は、レクチンを固定した磁気ビーズ等により行ってもよい。この場合、磁気ビーズを回収することにより、レクチンに結合した細胞外小胞を回収することができる。
【0030】
また、体液試料中の細胞外小胞とレクチンとの接触は、体液試料にレクチンを添加することにより液相中行ってもよい。この場合、レクチンに特異的に結合する糖鎖又は抗体を固定した固相担体等を用いて、レクチンに結合した細胞外小胞を回収することができる。ここで、「特異的に結合する」とは、対象とする物質に高い結合性を有し、他の物質にはほとんど結合性を有しないことを意味する。
【0031】
また、始めに、汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体等を介して固相担体に細胞外小胞を捕捉した後、レクチンを含む溶液を前記固相担体上に供給することにより、細胞外小胞をレクチンと接触させてもよい。ここで、「汎細胞外小胞膜タンパク質」とは、細胞外小胞がユビキタスに有する膜タンパク質をいう。汎細胞外小胞膜タンパク質は、エクソソーム、アポトーシス小体、及びマイクロベシクル等の細胞外小胞全般が、ユビキタスに有する膜タンパク質であってもよく、エクソソーム、アポトーシス小体、及びマイクロベシクルのいずれかで、通常発現される膜タンパク質であってもよい。例えば、汎細胞外小胞膜タンパク質は、エクソソームがユビキタスに有する膜タンパク質(以下、「汎エクソソーム膜タンパク質」ともいう)であることができる。「細胞外小胞がユビキタスに有する」とは、広範な種類の細胞外小胞が有していることをいう。「エクソソームがユビキタスに有する」とは、広範な種類のエクソソームが有していることをいう。汎エクソソーム膜タンパク質としては、例えば、CD9、CD63、及びCD81等が挙げられる。
【0032】
レクチンが固相担体1に固定されていない場合、レクチンは、標識分子で標識化されたものを用いてもよい。標識分子としては、後述の蛍光分子等を好ましく用いることができる。標識化したレクチンを用いることにより、後述の工程(b)で、前記標識化に用いた標識分子を検出することにより、レクチンに結合する細胞外小胞を測定することができる。あるいは、レクチンは、後述の固相担体粒子40に固定されていてもよい。この場合、後述の工程(b)で、細胞外小胞計測器等で固相担体粒子40のシグナルを検出することにより、レクチンに結合する細胞外小胞を測定することができる。
【0033】
[工程(b)]
工程(b)では、工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する。工程(b)は、in vitroで行われる工程である。
【0034】
レクチンに結合した細胞外小胞の量は、細胞外小胞の数により測定されてもよく、細胞外小胞に特異的に発現するタンパク質の量により測定されてもよく、細胞外小胞の体積により測定されてもよい。
【0035】
レクチンに結合した細胞外小胞(以下、「レクチン特異的細胞外小胞」ともいう)の量は、例えば、細胞外小胞が発現する汎細胞外小胞タンパク質を利用して測定することができる。そのような方法は、特に限定されず、タンパク質の検出に通常用いられる方法を使用することができる。例えば、
図1Cでは、汎細胞外小胞膜タンパク質に結合する抗体41を固定した固相担体粒子40を用いて、レクチン10に結合した細胞外小胞E1を測定している。抗体41は、汎細胞外小胞膜タンパク質31に特異的に結合する抗体であり、抗体41を含む溶液を固相担体1上に供給すると、凹部2に捕捉された細胞外小胞E1に結合する。そのため、固相担体粒子40を測定することにより、細胞外小胞E1を測定することができる。
【0036】
固相担体粒子40の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、グリシジルメタクリレート等の樹脂;並びに磁気ビーズ等が挙げられる。固相担体粒子40は、例えば、固相担体1に向けてレーザ光を照射し、固相担体1からの反射光を解析することで、測定することができる。
【0037】
汎細胞外小胞膜タンパク質31は、測定対象をエクソソームとする場合、汎エクソソーム膜タンパク質を選択することができる。汎エクソソーム膜タンパク質としては、CD9、CD63、及びCD81等が挙げられる。
抗体41は、汎細胞外小胞膜タンパク質を抗原として公知の抗体作製方法(ハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法など)により作製することができる。抗体41は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。抗体41が由来する動物は、特に限定されず、抗体作製用に一般的に用いられる動物を用いることができ、例えば、ヤギ抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、サル抗体、ヒト抗体等が利用可能である。
抗体41は、インタクトな抗体である必要はなく、抗原結合断片であってもよい。「抗原結合断片」とは、抗体の一部を含むポリペプチドであって、元の抗体の抗原結合性を維持しているポリペプチドをいう。抗原結合断片としては、例えば、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等が挙げられる。また、抗体41は、キメラ抗体等の改変抗体であってもよい。
【0038】
固相担体粒子40への抗体41の固定は、公知の方法により行うことができる。例えば、固相担体1へのレクチン10の固定方法として挙げた方法と同様の方法を用いることができる。
【0039】
抗体41を固定した固相担体粒子40を用いる場合、固相担体粒子40の検出には、市販の細胞外小胞計測器(例えば、エクソソーム計測器)等を用いることができる。「細胞外小胞計測器」とは、細胞外小胞に直接又は間接的に結合させたシグナル物質のシグナルを検出することにより、細胞外小胞を計数することができる装置である。固相担体粒子40は、前記シグナル物質として機能する。市販の細胞外小胞計測器としては、例えば、ExoCounter(登録商標)(JVCケンウッド)等を用いることができる。細胞外小胞計測器を用いる場合、固相担体1及び固相担体粒子40としては、後述の[膵臓がん検出キット]で詳述するものを用いることができる。
【0040】
レクチン特異的細胞外小胞(細胞外小胞E1)の測定は、固相担体粒子40に替えて、標識分子を用いて行ってもよい。例えば、抗体41を標識分子により標識化し、前記標識分子のシグナルを測定することにより、細胞外小胞E1を測定することができる。標識分子としては、ELISA等に一般的に用いられる標識分子を、特に制限なく使用することができる。標識分子としては、例えば、標識物質としては、例えば、ペルオキシダーゼ(例、西洋ワサビペルオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼなどの酵素標識;カルボキシフルオレセイン(FAM)、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’,7’-ジメトキシフルオレセイン(JOE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラクロロフルオレセイン(TET)、5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト(HEX)、Cy3、Cy5、Alexa568、Alexa647などの蛍光標識;ヨウ素125などの放射性同位体標識;ルテニウム錯体などの電気化学発光標識;ビオチン;金属ナノ粒子等が挙げられる。
標識分子のシグナルの検出は、使用する標識分子に応じた公知の方法により行うことができる。例えば、汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する標識抗体を、レクチン特異的細胞外小胞に結合させ、標識分子のシグナルを測定することにより、レクチン特異的細胞外小胞が発現する汎細胞外小胞膜タンパク質の量を測定することができる。前記汎細胞外小胞膜タンパク質の量を、レクチン特異的細胞外小胞の量とみなすことができる。更に、汎エクソソーム膜タンパク質とされるCD9、CD63、CD81等のタンパク質の量を測定することで、エクソソーム量を測定するようにしてもよい。
【0041】
固相担体1に抗体41を反応させた後、固相担体粒子40又は標識分子の検出を行う前に、適宜、洗浄液を用いて固相担体1の洗浄を行ってもよい。固相担体1を洗浄することにより、細胞外小胞E1に結合していない抗体41を除去することができる。洗浄液は、特に限定されず、ELISA等で洗浄に用いられる洗浄液を使用することができる。洗浄液としては、例えば、緩衝液又は緩衝液にTween20等の界面活性剤を添加したもの等が挙げられる。洗浄液としては、例えば、PBS、PBS-T、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、純水等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
前記工程(a)で、固相担体1に固定されていない標識化したレクチンを用いた場合には、前記標識化に用いた標識分子のシグナルを測定することにより、レクチンに結合した細胞外小胞を測定することができる。例えば、標識分子として蛍光分子を用いた場合、フローサイトメトリー等を用いて、レクチンに結合した細胞外小胞を測定することができる。また、前記工程(a)で、固相担体に固定した汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体を用いて固相担体に細胞外小胞を捕捉し、前記細胞外小胞に対して、固相担体粒子に固定したレクチンを接触させた場合、細胞外小胞計測器等を用いて固相担体粒子のシグナルを検出することにより、レクチンに結合した細胞外小胞を測定することができる。
【0043】
工程(a)及び工程(b)を実施する方法の具体例を以下に例示するが、これらに限定されない。
(1)レクチンを固定した固相担体、及び汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体を固定した固相担体粒子を用いて、細胞外小胞計測器により、レクチンに結合した細胞外小胞の量を測定する方法。
(2)レクチンを固定した固相担体、及び標識分子で標識化した汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、サンドイッチELISA等の免疫学的計測法により、レクチンに結合した細胞外小胞の量を測定する方法。
(3)汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体を固定した固相担体、及びレクチンを固定した固相担体粒子を用いて、細胞外小胞計測器により、レクチンに結合した細胞外小胞の量を測定する方法。
(4)汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体を固定した固相担体、及び標識分子で標識化したレクチンを用いて、サンドイッチELISA等の免疫学的計測法により、レクチンに結合した細胞外小胞の量を測定する方法。
(5)標識分子で標識化したレクチンを用いて、フローサイトメトリーにより、レクチンに結合した細胞外小胞の量を測定する方法。
(6)レクチンを固定した磁気ビーズを用いてレクチンに結合した細胞外小胞を回収し、標識分子で標識化した汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、フローサイトメトリーにより、レクチンに結合した細胞外小胞の量を測定する方法。
(7)汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体を固定した磁気ビーズを用いて細胞外小胞を回収し、標識分子で標識化したレクチンを用いて、フローサイトメトリーにより、レクチンに結合した細胞外小胞の量を測定する方法。
【0044】
工程(a)及び工程(b)を実施するより具体的な方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
レクチンを固定した固相担体を用いてレクチンに結合したエクソソームを回収し、汎エクソソームタンパク質を標的としてELISA等の免疫学的計測法により、レクチンを用いて回収されたエクソソームにおける前記汎エクソソームタンパク質の量を測定する。
あるいは、レクチンを固定した固相担体上に捕捉されているエクソソーム上の汎エクソソームタンパク質を蛍光標識抗体で標識し、フローサイトメーターにより、その量を測定する。
【0045】
[工程(c)]
工程(c)では、工程(b)で測定された細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する。
【0046】
工程(b)で測定される細胞外小胞(レクチン特異的細胞外小胞)の量は、体液試料が由来する被検体が膵臓がんを有する場合と、被検体が膵臓がんを有さない場合とで異なっている。そのため、工程(b)で測定された細胞外小胞の量に基づいて、被検体が膵臓がんにおける膵臓がんの存在を評価することができる。
より具体的には、非膵臓がん体液試料で測定されるレクチン特異的細胞外小胞の量と比較して、工程(b)で測定された細胞外小胞の量が多いか又は少ない場合、前記被検体に膵臓がんが存在する、と判定することができる。「非膵臓がん体液試料」とは、膵臓がんを有さないことが既知であるか、膵臓がんを有する可能性が極めて低い個体に由来する体液試料をいう。例えば、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査、磁気共鳴胆管膵管造影検査(MRCP)、超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、陽電子放出断層撮影法(PET)等の各種画像診断により、膵臓がんであると診断されなかった個体に由来する体液試料を、「非膵臓がん体液試料」として用いることができる。非膵臓がん体液試料は、いわゆる健常者の体液試料であってもよい。また、膵臓がん以外のがん患者の体液試料であってもよい。
【0047】
非膵臓がん体液試料は、評価対象の被検体の体液試料と同種の体液試料を用いる。例えば、評価対象の体液試料が血清である場合には、非膵臓がん体液試料も血清を用いる。非膵臓がん体液試料におけるレクチンに結合する細胞外小胞の測定は、上記工程(a)及び(b)と同様の方法で測定することができる。非膵臓がん体液試料は、体液試料として非膵臓がん体液試料を用いること以外は、被検体の体液試料と同じ方法で、レクチンに結合する細胞外小胞を測定することが好ましい。
【0048】
工程(c)において、比較として用いる非膵臓がん体液試料におけるレクチン特異的細胞外小胞の量は、1個体の体液試料での測定値であってもよく、複数個体の体液試料での測定値の平均値または中央値であってもよい。あるいは、非膵臓がん体液試料におけるレクチン特異的細胞外小胞の量は、複数個体のレクチン特異的細胞外小胞の測定値を、外れ値を除外する等の統計処理をして算出されたものであってもよい。また、非膵がん体液試料におけるレクチン特異的細胞外小胞の量は、予め測定された非膵臓がん体液試料及び膵臓がん体液試料におけるレクチン特異的細胞外小胞の量に基づいて定められたカットオフ値であってもよい。カットオフ値は、例えば、ROC曲線に基づき設定することができる。ROC曲線は、予め測定された非膵臓がん体液試料及び膵臓がん体液試料におけるレクチン特異的細胞外小胞の量から、各カットオフ値での感度及び特異度を算出し、横軸を偽陽性率(1-特異度)とし、縦軸を感度とした座標上にプロットして作成することができる。カットオフ値は、感度が高く、偽陽性率が低くなるように設定することが好ましい。
【0049】
非膵臓がん体液試料におけるレクチン特異的細胞外小胞の測定は、被検体の体液試料における測定と同時に行ってもよく、異なる時期に行ってもよい。例えば、被検体の体液試料における測定の前に、事前に、非膵臓がん体液試料におけるレクチン特異的細胞外小胞の量を測定してもよい。また、複数の非膵臓がん体液試料でレクチン特異的細胞外小胞の量を測定する場合、それらの複数の非膵臓がん体液試料における測定は、同時に行ってもよく、異なる時期に行ってもよい。例えば、任意の期間中に、複数の非膵臓がん体液試料におけるレクチン特異的細胞外小胞の量を測定して測定値を蓄積し、蓄積された測定値を統計処理して算出された値を、非膵臓がん体液試料におけるレクチン特異的細胞外小胞の量として用いてもよい。
【0050】
工程(a)で用いるレクチンが、DSA、STL、LEL、ACA、UDA、ABA、MAH、及びTJA-1からなる群より選択される場合、工程(b)で測定された細胞外小胞の量が、非膵臓がん体液試料で測定された量と比較して、多い場合に、被検体において膵臓がんが存在すると評価することができる。例えば、工程(b)で測定された細胞外小胞の量が、非膵臓がん体液試料で測定された量の1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上である場合、被検体に膵臓がんが存在していると評価することができる。一方、工程(b)で測定された細胞外小胞の量が、非膵臓がん体液試料で測定された量と同程度かより低い場合には、被検体に膵臓がんが存在している可能性が低いと評価することができる。「非膵臓がん体液試料で測定された量と同程度」とは、例えば、非膵臓がん体液試料で測定された量の1.2倍未満、好ましくは1.1倍以下、より好ましくは1倍以下であることをいう。
【0051】
工程(a)で2種以上のレクチンを用いる場合、工程(b)ではレクチンの種類毎に結合する細胞外小胞の測定値が得られる。この場合、工程(c)では、これらの測定値を総合して、被検体における膵臓がんの存在を評価してもよい。例えば、2種以上のレクチンにおける測定値が全て、非膵臓がん体液試料における測定値よりも大きい場合に、被検体に膵臓がんが存在すると評価することができる。この場合、工程(a)で用いるレクチンの数が多くなるほど、被検体に膵臓がんが存在するとの評価の正確性が高くなる。あるいは、2種以上のレクチンにおける測定値のうちの少なくとも1つが、非膵臓がん体液試料における測定値よりも大きい場合に、被検体に膵臓がんが存在すると評価することができる。この場合、膵臓がんが存在する可能性が高い被検体を広く捕捉することができる。あるいは、2種以上のレクチンにおける測定値のうちの特定の割合(例えば、過半数)が、非膵臓がん体液試料における測定値よりも大きい場合に、被検体に膵臓がんが存在すると評価してもよい。
【0052】
工程(c)で、被検体における存在が評価される膵臓がんのステージは、特に限定されない。本実施形態の膵臓がんの検出方法では、ステージI~IVのいずれの膵臓がんも検出することができる。本実施形態の膵臓がん検出方法では、ステージIの早期の膵臓がんも検出することができるため、早期膵臓がんのスクリーニングに好適に用いることができる。
【0053】
また、工程(c)で、被検体における存在が評価される膵臓がんは、手術後に再発した膵臓がんであってもよい。手術により膵臓がんを切除するとレクチン特異的細胞外小胞の量は、非膵臓がん体液試料と同程度まで低下する。しかし、膵臓がんが再発すると、レクチン特異的細胞外小胞の量は、再び上昇すると推測される。そのため、本実施形態の膵臓がん検出方法は、膵臓がんの治療効果のモニタリング方法として好適に用いることができる。
【0054】
[任意工程]
本実施形態の検出方法は、上記工程(a)~(c)に加えて、任意工程を含んでいてもよい。任意工程としては、工程(a)の前に固相担体1のブロッキング処理を行う工程(ブロッキング工程)、工程(c)の後に膵臓がんを治療する工程(治療工程)、等が挙げられる。
【0055】
<ブロッキング工程>
工程(a)の前に、レクチン10が固定された固相担体1のブロッキング処理を行ってもよい。ブロッキング処理を行うことにより、レクチン10に結合しない細胞外小胞が非特異的に固相担体1に結合することを抑制することができる。
ブロッキング処理は、公知のブロッキング液を用いて行うことができる。ブロッキング液、ELISA等で通常用いられるものを特に制限なく使用することができる。ブロッキング液としては、例えば、1~5%程度のスキムミルク又は牛血清アルブミン(BSA)を含む緩衝液等が挙げられる。前記ブロッキング液用の緩衝液は、特に限定されないが、例えば、PBS、PBS-T、トリス緩衝液、HEPES緩衝液等が挙げられる。
【0056】
<治療工程>
工程(c)において、被検体に膵臓がんが存在すると評価された場合には、膵臓がんを治療する工程を行ってもよい。
したがって、本発明は、
被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンと接触させる工程(a)と、
前記工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する工程(b)と、
前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する工程(c)と、
前記工程(c)で被検体に膵臓がんが存在すると評価された場合に、前記膵臓がんを治療する工程(d)
を含む、膵臓がん治療方法、もまた提供する。
【0057】
前記工程(c)は、工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体が膵臓がんに罹患しているかを診断する工程、ということもできる。
【0058】
膵臓がんの治療方法は、特に限定されず、膵臓がんの治療に通常用いられる方法を用いることができる。例えば、膵臓がんの外科的切除、放射線治療、抗がん剤(ゲムシタビン、TS-1、エルロチニブ等)の投与等が挙げられる。
【0059】
また、工程(c)の後、膵臓がんの治療を行う前に、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査、磁気共鳴胆管膵管造影検査(MRCP)、超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、陽電子放出断層撮影法(PET)等の各種画像診断、並びに細胞診又は組織診により、膵臓がんの確定診断を行ってもよい。これらの方法により膵臓がんであると確定診断された被験者に対して、膵臓がんの治療を行ってもよい。
【0060】
本実施形態の膵臓がんの検出方法によれば、被検体の体液試料を用いて、in vitroで膵臓がんを検出することができるため、非侵襲的な方法で、簡易に膵臓がんを検出することができる。また、本実施形態の膵臓がんの検出方法によれば、膵臓がんを早期に検出することができる。また、膵臓がんの治療効果のモニタリングを行うことができる。
【0061】
(膵臓がん検出キット)
一実施形態において、本発明は、1種以上のレクチンが固定された固相担体と、汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片と、を含む、膵臓がん検出キット、を提供する。
【0062】
[1種以上のレクチンが固定された固相担体]
1種以上のレクチンが固定された固相担体としては、上記(膵臓がん検出方法)の[工程(a)]で説明したもの(例えば、
図1Aに示す固相担体1)と同様のものを用いることができる。レクチンを2種以上用いる場合、1つの固相担体には、1種類のレクチンが固定されていることが好ましい。あるいは、1つの固相担体をレクチンの種類数に区画して、1区画には1種類のレクチンを固定するようにしてもよい。固相担体に固定されるレクチンは、DSA、STL、LEL、ACA、UDA、ABA、MAH、及びTJA-1からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ACA及びABAからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0063】
[汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片]
汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片としては、上記(膵臓がん検出方法)の[工程(b)]で説明したものと同様のものを用いることができる。汎細胞外小胞膜タンパク質は、汎エクソソーム膜タンパク質であってもよい。汎エクソソーム膜タンパク質としては、CD9、CD63、及びCD81等が挙げられる。
【0064】
汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、固相担体粒子に固定化されていてもよく、標識分子で標識化されていてもよい。固相担体粒子、及び標識分子としては、上記で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0065】
<細胞外小胞計数器に用いられる膵臓がん検出キット>
本実施形態の膵臓がん検出キットは、細胞外小胞計測器で用いられるものであってもよい。細胞外小胞計数器は、市販のものを用いることができ、例えば、ExoCounter(登録商標)(JVCケンウッド)等が挙げられる。細胞外小胞計測器で用いられる場合、1種以上のレクチンが固定された固相担体は、細胞外小胞計数器に使用される細胞外小胞捕捉ユニットに備えられるものであってもよい。また、汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、固相担体粒子に固定されたものを用いることができる。
【0066】
≪細胞外小胞捕捉ユニット≫
細胞外小胞捕捉ユニットは、使用する細胞外小胞計数器に応じたものを使用することができる。細胞外小胞体捕捉ユニットに備えられる固相担体としては、例えば、
図1Aの固相担体1のような形態のものが挙げられる。以下、
図2A~2C及び
図3A~3Bを参照して、固相担体1を備える細胞外小胞捕捉ユニットの例について説明する。
【0067】
図2Aは細胞外小胞捕捉ユニット50の模式的な上面図である。
図2Bは、
図2AのA-A切断線における模式的な断面図である。
図2Cはカートリッジ52が基板51に対して着脱可能であることを説明するための模式的な断面図である。
図3Aは、
図2AのB-B切断線における部分拡大斜視図である。
【0068】
図2Aに示すように、細胞外小胞捕捉ユニット50は、基板51とカートリッジ52とを有して構成されている。
【0069】
基板51は、例えば、ブルーレイディスク(BD)、DVD、コンパクトディスク(CD)等の光ディスクと同等の円板形状を有する。基板51は、例えば、一般的に光ディスクに用いられるポリカーボネート樹脂やシクロオレフィンポリマー等の樹脂材料で形成されている。
【0070】
図3Aに示すように、基板51の表面には、凸部3と凹部2とが半径方向に交互に配置されたトラック領域55が形成されている。凸部3及び凹部2は、内周部から外周部に向かってスパイラル状に形成されている。凸部3は光ディスクのランドに相当する。凹部2は光ディスクのグルーブに相当する。
【0071】
基板51は、
図1Aの固相担体1に該当し、基板51に形成されている凸部3及び凹部2は、それぞれ
図1Aの凸部3及び凹部2に該当する。基板51において凹部2及び凸部3が形成されているトラック領域55には、少なくとも凹部2に、レクチン10が固定されている。
【0072】
図2Aに示すように、カートリッジ52はリング形状を有する。カートリッジ52には、周方向に複数の円筒状の貫通孔56が形成されている。
【0073】
図2B及び
図3Aに示すように、細胞外小胞捕捉ユニット50は、カートリッジ52の貫通孔56と基板51のトラック領域55とによって形成される複数のウェル57を有している。即ち、貫通孔56の内周面はウェル57の内周面を構成し、基板51のトラック領域55はウェル57の底面を構成する。ウェル57は試料液等を溜めるための容器である。また、貫通孔56と基板51の間に、シリコンゴム等の弾性変形する素材で作成したパッキンを入れると、溶液の漏れる可能性を低減することができ好都合である。
【0074】
図2Cに示すように、カートリッジ52は基板51に対して着脱可能である。細胞外小胞捕捉後の細胞外小胞の検出は、カートリッジ52を基板51から取り外し、基板51単体で行われる。
【0075】
細胞外小胞捕捉ユニット50において、前記工程(a)における体液試料中の細胞外小胞と、トラック領域55に固定されたレクチン10との接触は、体液試料をウェル57に投入することにより行うことができる。また、前記工程(b)において、汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体41を用いる場合、抗体41と、レクチン10に結合した細胞外小胞E1との反応は、抗体41を含む溶液をウェル57に投入することにより行うことができる。また、洗浄処理、ブロッキング処理等を行う場合も、ウェル57に洗浄液、ブロッキング液等を投入することにより行うことができる。各処理用の溶液をウェル57に投入する前には、その前の処理で用いられた溶液を、ウェル57から除去しておくことが好ましい。
【0076】
≪固相担体粒子≫
固相担体粒子は、使用する細胞外小胞計数器に応じたものを使用することができる。固相担体粒子としては、例えば、ポリスチレン、グリシジルメタクリレート等の樹脂粒子;並びに磁気ビーズ等が挙げられる。固相担体粒子には、汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体が固定されている。固相担体粒子としては、例えば、
図1Cの抗体41が固定された固相担体粒子40が挙げられる。
【0077】
次に、細胞外小胞捕捉ユニット50の基板51に形成される凹部2及び凸部3の寸法、固相担体粒子の寸法、及び細胞外小胞の平均粒径との関係について説明する。
【0078】
図3Bは、基板51のトラック領域55に形成される凹部2及び凸部3の寸法的形状を説明するための拡大断面図である。凹部2の深さ(凸部3の高さ)をHとし、凹部2の幅をWaとし、凸部3の幅をWbとする。幅Wa、幅Wbは、点線で示すH/2の位置での幅である。
【0079】
凸部3の幅Wbは、下記式(1)に示すように、細胞外小胞の平均粒子径Raよりも小さいことが好ましい。下記式(1)を満たすことで、細胞外小胞が凸部3上に位置しにくくなる。
Wb<Ra ・・・(1)
【0080】
凹部2の幅Waは、下記式(2)に示すように、細胞外小胞の平均粒子径Raよりも大きく、平均粒子径Raの4培値よりも小さいことが好ましい。下記式(2)を満たすことにより、細胞外小胞を凹部2に捕捉しやすくなる。
Ra<Wa<4×Ra ・・・(2)
【0081】
凹部2に捕捉された細胞外小胞は、一般的に、球形から接触面積を拡げる方向に変形する。球形の細胞外小胞が体積を保って楕円体に変形したと仮定すると、球の直径が50%変化する場合、回転楕円体の長軸である凹部2との接触部位の直径は約40%大きくなる。さらに実際には、回転楕円体形状よりも接触部位の面積が大きくなる方向に変形するので、接触部位の直径は、元の球形のときの直径の50%以上、場合によっては100%以上増大することもある。したがって、上記式(2)のWa<4×Raを満たすことが好ましい。
【0082】
また、凹部2の幅Wa、凸部3の幅Wb、及び固相担体粒子の粒子径Rcは、下記式(3)を満たすことが好ましい。
Wb<Rc<Wa<2×Rc ・・・(3)
【0083】
上記式(3)のWb<Rcを満たすことで、固相担体粒子は凸部3上に位置しにくくなる。上記式(3)のRc<Waを満たすことで、固相担体粒子は凹部2に入りやすくなる。式(3)のWa<2×Rcを満たすことで、固相担体粒子が凹部2の幅方向に同時に2つ以上入りにくくなり、細胞外小胞と固相担体粒子との数量関係を1対1に近づけることができる。
【0084】
下記式(4)に示すように、固相担体粒子の粒子径Rcは、細胞外小胞の平均粒子径Raよりも大きいことが好ましい。
Ra<Rc ・・・(4)
【0085】
上記式(4)を満たすことで、凹部2に固定された細胞外小胞に複数の固相担体が結合しにくくなり、細胞外小胞と固相担体粒子との数量関係を1対1に近づけることができる。式(4)を満たすことで、細胞外小胞と固相担体粒子とが反応的に出会う確率が高くなり、結果として反応の収率を向上させることができる。
【0086】
下記式(5)に示すように、凹部2の深さHは、細胞外小胞の平均粒子径Raと固相担体粒子の粒子径Rcの加算値の1/8倍値よりも大きいことが好ましい。
(Ra+Rc)/8<H ・・・(5)
【0087】
上記式(5)を満たすことで、細胞外小胞は凹部2に捕捉されやすくなる。また、固相担体粒子の凸部3への非特異的な吸着が起こりにくくなり、固相担体粒子が凹部2に捕捉されている細胞外小胞と結合しやすくなる。
【0088】
凹部2の深さHは、式(6)を満たすことがさらに好ましい。
(Ra+Rc)/6<H ・・・(6)
【0089】
凹部2、凸部3、及び固相担体粒子は、上記式(1)~(5)(または式(6))の全てを満たすことが好ましいが、部分的に満たすだけでもよい。
【0090】
[任意の構成]
本実施形態の膵臓がん検出キットは、上記構成に加えて、任意の構成を含んでいてもよい。任意の構成としては、例えば、体液試料を処理するための試薬(例えば、希釈液等)、洗浄液、ブロッキング液、緩衝液等の各種試薬類、及び使用説明症等が挙げられる。
【0091】
汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片が、標識分子で標識化されたものである場合、前記標識分子を検出するための検出試薬を含んでいてもよい。検出試薬は、標識の種類に応じて、公知のものを用いることができる。さらに、本実施形態の膵臓がん検出キットは、標準試薬を含んでいてもよい。標準試薬は、レクチン特異的細胞外小胞の検量線を作成するために試薬である。標準試薬は、例えば、固相担体に固定されたレクチンが結合する糖鎖を含むものを用いることができる。
【0092】
本実施形態の膵臓がん検出キットは、前記実施形態の膵臓がん検出方法に使用することができる。
【0093】
(他の態様)
本発明は、以下の態様も含み得る。
(1)被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンとin vitroで接触させる工程(a)と、前記工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する工程(b)と、前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する工程(c)と、を含む、膵臓がん診断方法。
(2)被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンとin vitroで接触させる工程(a)と、前記工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する工程(b)と、前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する工程(c)と、を含む、膵臓がんを有する被検体に由来する体液試料を特定する方法。
(3)被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンとin vitroで接触させる工程(a)と、前記工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する工程(b)と、前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する工程(c)と、を含む、膵臓がんを診断するためのデータを収集する方法。
(4)膵臓がん治療を受けた被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンとin vitroで接触させる工程(a)と、前記工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する工程(b)と、前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する工程(c)と、を含む、膵臓がん治療の効果のモニタリング方法。
(5)膵臓がん治療を受けた被検体に由来する体液試料中の細胞外小胞を、1種以上のレクチンとin vitroで接触させる工程(a)と、前記工程(a)後、前記1種以上のレクチンに結合した前記細胞外小胞の量を測定する工程(b)と、前記工程(b)で測定された前記細胞外小胞の量に基づいて、前記被検体における膵臓がんの存在を評価する工程(c)と、を含む、膵臓がん治療の効果を評価するためのデータを収集する方法。
(6)膵臓がんの診断キットを製造するための、レクチン、及び汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体の使用。
(7)膵臓がんを診断するための、レクチン、及び汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体の使用。
(8)膵臓がんの診断に用いるための、レクチン、及び汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体。
前記(1)~(8)において、レクチンは、DSA、STL、LEL、ACA、UDA、ABA、MAH、及びTJA-1からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ABA及びACAからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。前記(1)~(5)において、工程(a)~(c)は、上記と同様に行うことができる。前記(7)及び(8)において。汎細胞外小胞膜タンパク質としては、CD9、CD63、及びCD81等が挙げられる。
【実施例0094】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
(候補レクチンの選定)
膵臓がん患者と健常者の血清から、Magcapture Exosome Isolation Kit(富士フィルム、東京、日本)を用いて、エクソソームを単離した。エクソソームをバッファ中に再分散し、Cy3-succimidyl ester(SE;Amersham Biosciences,Tokyo,Japan)でエクソソームを標識した。この試料を、45種類のレクチンを予め固定してあるレクチンアレイ(LecChip(登録商標)、GPバイオサイエンス、横浜、日本)と反応させ、各々のレクチンと結合できるエクソソームを固相化した。この固相化したエクソソームを、エバネッセント蛍光スキャナーを用いて解析した。
【0096】
その結果、特定のレクチンと特異的に結合するエクソソームの量が、膵臓がん患者血清で増加することが見いだされた。結合するエクソソームの量が、膵臓がん患者血清で増加するレクチンを表1に示した。表1中のp値は、Mann-Whitney U-testを用いて算出した。括弧()内は、95%信頼区間(CI:confidence interval)を示す。
【0097】
【0098】
上記の結果から、特定のレクチンと結合するエクソソームを検出することで、膵臓がんの発見、診断、及び進行度若しくは治療効果のモニタリングを行い得ると示唆された。
【0099】
表1に示す結果を総合的に評価し、候補レクチンとしてABA及びACAを選定して以下の試験に用いた。
【0100】
(レクチンに結合するエクソソームの測定方法)
以降の試験において、ABA又はACAに結合する糖鎖を有するエクソソーム(以下、「ABA/ACA特異的エクソソーム」ともいう)の測定は、サンドイッチ・イムノアッセイにより行った。実施したサンドイッチ・イムノアッセイの手順を以下に示す。
1)表面をカルボキシル基で修飾された磁気ビーズに抗CD9抗体を共有結合させたものを準備する。具体的には、以下の手順に従った。
FGビーズ(COOHビーズ;多摩川精機)に、400mMの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)及びN-ヒドロキシスクシンイミドを含有するPBS(pH7.4)を添加し、4時間、室温で反応。
50mMの酢酸バッファー(pH5.2)でビーズを洗浄。
ビーズに、1.0g/Lの抗CD9抗体又は抗CD63抗体を含有する酢酸バッファー(pH5.2)を添加し、4℃で一晩反応させ、抗体を固定。
ビーズに0.1Mのエタノールアミンを含有するPBS(pH7.4)を添加し、4℃で5時間反応させて、未反応のカルボキシル基をマスキング。
150mM KCl、5mM EDTA及び0.1% Tween20を含むHEPESバッファー(10mM HEPES、pH7.9)で、洗浄し、4℃で保存。
2)ExoCounter(登録商標)(JVCケンウッド、横浜、日本)のディスク(細胞外小胞捕捉ユニット)にABA又はACAを結合させる。具体的には、5mg/mLのレクチンを含有する炭酸バッファー(pH9.6)をディスクに添加し、37℃で30分間静置する。
3)ディスクを0.05%PBS-T(pH7.4)で洗浄する。
4)がん細胞株培養上清又は被験者血清を、適宜、緩衝液(PBS又はPBS-T)で希釈して、ディスク上のABA又はACAと反応させる(37℃、2時間、1000-1500rpmで振盪)。
5)ディスクを0.05%PBS-T(pH7.4)で洗浄する。
6)抗CD9抗体を結合した磁気ビーズを0.05%PBS-T(pH7.4)に20μg/mLとなるように懸濁し、ディスク上のABA又はACに結合したエクソソームと反応させる(37℃、1.5時間)。この反応は、磁石を用いて、迅速に磁気をディスク表面に集め反応させる方法であっても良い。
7)ディスクをPBS-Tで洗浄する。最終洗浄は純水で実施する。
8)ディスクを乾燥させる。
9)ディスクをExoCounterにセットして、エクソソームを測定する。
【0101】
上記手順では、検出用ディスクへのエクソソームの捕捉をレクチン(ABA又はACA)で行い、エクソソームにユビキタスに発現しているとされているCD9に対する抗体を固定したナノビーズで顕出することで、ABA/ACA特異的エクソソームを顕出している。なお、上記4)で血清を用いる場合、PBS-Tで4倍希釈した。
【0102】
(がん細胞株による候補レクチンの評価)
≪ABA/ACA特異的クソソーム数の測定≫
各種がん細胞株(膵臓がん細胞株:BxPC33、Capan-1;乳がん細胞株:MCF7;大腸がん細胞株:HCT116;肺がん細胞株:A549)の培養上清を用いて、ABA/ACA特異的エクソソームの量に、がん種間で差があるかを検討した。ABA/ACA特異的エクソソームの定量は、上記<レクチンに結合するエクソソームの測定方法>に記載の方法により行った。
【0103】
結果を
図4に示す。全てのがん細胞株で、ABA及びACAの両レクチンに特異的なエクソソームを検出できた。その中でも、特に、膵臓がん細胞株であるBxPC3及びCapan-1で、ABA及びACAに結合するエクソソームが高値で検出された。
【0104】
≪総エクソソーム数に対するABA/ACA特異的エクソソーム数の比率≫
エクソソームの分泌量は、細胞株の種類によって異なる。そのため、総エクソソーム分泌量に対するABA/ACA特異的エクソソームの比率が重要になる。そこで、上記と同じ試料を用いて、CD63抗体を固定したディスクにエクソソームを捕捉し、CD9抗体を固定したビーズを用いてエクソソームを検出した。CD63は、CD9と同様にエクソソームにユビキタスに発現していると考えられている膜タンパク質である。そのため、この測定結果は試料中の総エクソソーム数を表していると言える。この測定値を用いて、
図1に示す測定数をCD63・CD9の測定数で正規化することで、総エクソソームに対するABA又はACA特異的エクソソームの比率を評価した。
【0105】
結果を
図5に示す。総エクソソームに占める、ABA/ACA特異的エクソソームの比率は、膵臓がん細胞株(BxPC3、Capan-1)において、他のがん細胞株に比べて非常に高い値を示した。
【0106】
(実施例1)
健常者と膵臓がん患者とのABA/ACA特異的エクソソーム数の比較
健常者血清、膵臓がん患者の手術前及び手術後血清を用いて、ABA/ACA特異的エクソソームの量に、前記血清間で差があるかを検討した。ABA/ACA特異的エクソソームの定量は、上記<レクチンに結合するエクソソームの測定方法>に記載の方法により行った。血清は、PBS-Tにより4倍に希釈して用いた。
【0107】
結果を
図6に示す。ABA特異的エクソソーム及びACA特異的エクソソームのいずれも、膵臓がん患者の手術前血清(PC/Preoperative)では、健常者血清(NC)に対して統計的に有意に高値であった。一方、膵臓がん患者の手術後血清(PC/Postoperative)では、いずれのエクソソームも手術前に対して低下し、その差は統計的に有意であった。この結果から、ABA特異的エクソソーム及びACA特異的エクソソームを、膵臓がんの検出、及び術後の膵臓がん再発のモニタリングに使用できることが示された。
【0108】
(実施例2)
膵臓がんと他のがん種とのABA/ACA特異的エクソソーム数の比較
健常者血清、膵臓がん患者、食道がん患者、大腸がん患者の各血清を用いて、ABA/ACA特異的エクソソームの量に、がん種間で差があるかを検討した。ABA/ACA特異的エクソソームの定量は、上記<レクチンに結合するエクソソームの測定方法>に記載の方法により行った。
【0109】
結果を
図7に示す。膵臓がん患者血清(PC)では、食道がん患者血清(Esophageal Cancer)、及び大腸がん患者血清(Colorectal cancer)に対して、ABA特異的エクソソーム及びACA特異的エクソソームのいずれも高値であった。この結果から、ABA特異的エクソソーム及びACA特異的エクソソームは、膵臓がんの特異的検出に有効であることが示された。
【0110】
(実施例3)
ステージの異なる膵臓がん患者間のABA/ACA特異的エクソソーム数の比較
健常者血清、ステージI、II及びIIIの各膵臓がん患者血清を用いて、ABA/ACA特異的エクソソームの量に、前記血清間で差があるかを検討した。ABA/ACA特異的エクソソームの定量は、上記<レクチンに結合するエクソソームの測定方法>に記載の方法により行った。
【0111】
結果を
図8に示す。ステージIの膵臓がん患者血清においても、ABA特異的エクソソーム及びACA特異的エクソソームのいずれも、健常者血清(NC)に対して統計的に有意に高値であった。この結果から、ABA/ACA特異的エクソソームは、膵臓がんの早期発見に有効であることが示された。
本発明によれば、リキッド・バイオプシーにより、膵臓がんの早期検出及び治療効果のモニタリングを可能とする、膵臓がん検出方法及び膵臓がん検出キットが提供される。
1…固相担体、2…凹部、3…凸部、10…レクチン、21、22、23…糖鎖、31…汎細胞外小胞膜タンパク質、40…固相担体粒子、41…汎細胞外小胞膜タンパク質に特異的に結合する抗体、50…細胞外小胞捕捉ユニット、51…基板、52…カートリッジ、55…トラック領域、56…貫通孔、57…ウェル。