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特開2022-41736吊搬シミュレーション装置、吊搬シミュレーションシステムおよび吊搬シミュレーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041736
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】吊搬シミュレーション装置、吊搬シミュレーションシステムおよび吊搬シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 13/20 20110101AFI20220304BHJP
   G06T 19/00 20110101ALI20220304BHJP
【FI】
G06T13/20
G06T19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147114
(22)【出願日】2020-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】509328928
【氏名又は名称】株式会社日立プラントコンストラクション
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 敬仁
(72)【発明者】
【氏名】和田 政臣
(72)【発明者】
【氏名】塚原 聡
(72)【発明者】
【氏名】牧 小百合
【テーマコード(参考)】
5B050
【Fターム(参考)】
5B050AA03
5B050BA06
5B050BA08
5B050BA11
5B050BA13
5B050BA18
5B050BA19
5B050BA20
5B050CA07
5B050DA01
5B050EA19
5B050EA24
5B050EA26
5B050FA02
5B050FA05
5B050FA13
(57)【要約】
【課題】移動にともなう現実の物理挙動を含めた吊荷の3次元モデルの表示を可能とする。
【解決手段】吊搬シミュレーション装置100は、カメラ151を備える。吊搬シミュレーション装置100は、さらに、カメラ151が撮像した撮像画像と、振動を含む吊荷の動きを記述するアニメーションデータ134から生成される吊荷の3次元モデルの画像とを重畳して表示装置(ディスプレイ152)に表示する表示部118を備える。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラと、
前記カメラが撮像した撮像画像と、振動を含む吊荷の動きを記述するアニメーションデータから生成される前記吊荷の3次元モデルの画像とを重畳して表示装置に表示する表示部と
を備えることを特徴とする吊搬シミュレーション装置。
【請求項2】
アニメーション生成部をさらに備え、
前記アニメーション生成部は、
前記吊荷の大きさと重量と重心位置とを含むモデル設定情報、並びに、
前記重心の移動方向と移動量と移動時間とを含むモデル移動情報、および前記吊荷の回転軸と回転方向と回転量と回転時間とを含むモデル回転情報のなかの1つ以上を
入力として、前記アニメーションデータを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の吊搬シミュレーション装置。
【請求項3】
前記モデル移動情報は、前記移動方向が異なる複数のモデル移動情報を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の吊搬シミュレーション装置。
【請求項4】
前記モデル回転情報は、前記回転軸または前記回転方向が異なる複数のモデル回転情報を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の吊搬シミュレーション装置。
【請求項5】
物体までの距離を測定する空間センサと、
前記空間センサの測定結果から空間形状データを生成する空間認識部と、
前記3次元モデルの所定の点から当該3次元モデルに対して所定の向きにある前記空間形状データに含まれる物体までの距離が、所定値以内である場合に、警告を表示する干渉判定部と
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の吊搬シミュレーション装置。
【請求項6】
アニメーション生成装置とカメラを有する携帯型表示装置とを備える、吊荷の吊搬シミュレーションシステムであって、
前記アニメーション生成装置は、
前記吊荷の大きさと重量と重心位置とを含むモデル設定情報、並びに、
前記重心の移動方向と移動量と移動時間とを含むモデル移動情報、および前記吊荷の回転軸と回転方向と回転量と回転時間とを含むモデル回転情報のなかの1つ以上を入力として、振動を含む前記吊荷の動きを記述するアニメーションデータを生成するアニメーション生成部を備え、
前記携帯型表示装置は、
前記カメラが撮像した撮像画像と、前記アニメーションデータから生成される前記吊荷の3次元モデルの画像とを重畳して表示装置に表示する表示部を備える
ことを特徴とする吊搬シミュレーションシステム。
【請求項7】
カメラを備える吊搬シミュレーション装置の吊搬シミュレーション方法であって、
前記吊搬シミュレーション装置が、
前記カメラが撮像した撮像画像と、振動を含む吊荷の動きを記述するアニメーションデータから生成される前記吊荷の3次元モデルの画像とを重畳して表示装置に表示するステップを実行する
ことを特徴とする吊搬シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される吊荷の3次元モデルを表示する吊搬シミュレーション装置、吊搬シミュレーションシステムおよび吊搬シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場では、構造物(建築要素、構築要素)をクレーンやチェーンブロックで吊り上げて搬入する作業が繰り返し行われる。特にプラント建設の場合には、複雑な形状の大型機器や配管類を、狭隘なところを通して搬入したり、狭隘なところに設置したりする場合が多く、綿密な計画が求められる。
吊荷の搬送(吊り搬送、吊搬)の搬送経路を計算するシステムとして、特許文献1に記載の搬送経路計算システムがある。このシステムは、建物データ、搬送物データ、搬送機器の機構パラメータ、経由点情報などから、建物に非干渉かつ好適な吊り姿勢や円弧軌道を含む搬送経路を計算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-68019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシステムにより、搬送物(吊荷)の吊り姿勢や搬送経路が生成される。しかしながら、実際の建物データに、例えば仮設の足場や取り外し可能な手摺りなど、建設現場に存在していて搬送物の干渉の相手となる物体が全て含まれているとは限らない。また、吊荷は搬送(移動)にともない前後左右に振動したり、回転したりするが、特許文献1では、このような吊荷の物理挙動までは考慮されていない。このため、計算外の干渉が起きてしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、移動にともなう現実の物理挙動を含めた吊荷の3次元モデルの表示を可能とする吊搬シミュレーション装置、吊搬シミュレーションシステムおよび吊搬シミュレーション方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するため、本発明に係る吊搬シミュレーション装置は、カメラと、前記カメラが撮像した撮像画像と、振動を含む吊荷の動きを記述するアニメーションデータから生成される前記吊荷の3次元モデルの画像とを重畳して表示装置に表示する表示部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、移動にともなう現実の物理挙動を含めた吊荷の3次元モデルの表示を可能とする吊搬シミュレーション装置、吊搬シミュレーションシステムおよび吊搬シミュレーション方法を提供することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】梁材を搬入する建物の概要を示す図である。
図2】梁材に吊具を架け、吊り上げる直前の初期状態を示す図である。
図3図2に示した初期状態から梁材を吊り上げ、チェーンブロックを操作して梁材を30度傾けた状態を示す図である。
図4図3に示した状態から梁材をクレーンにより吊り上げた状態を示す図である。
図5図4に示した状態から梁材をクレーンによりX方向に水平移動した状態を示す図である。
図6図5に示した状態から梁材をクレーンにより吊り上げ限界まで吊り上げた状態を示す図である。
図7図6に示した状態から梁材をクレーンによりX方向に水平移動した状態を示す図である。
図8図7に示した状態からチェーンブロックを操作して梁材の傾きを水平に戻した状態を示す図である。
図9図8に示した状態から梁材をクレーンによりX方向に水平移動した状態を示す図である。
図10】本実施形態に係る吊搬シミュレーション装置の利用手順を示すフローチャートである。
図11】本実施形態に係る吊搬シミュレーション装置の機能構成図である。
図12】本実施形態に係るシーン設定画面の構成図である。
図13】本実施形態に係るモデル位置・姿勢設定画面の構成図である。
図14】本実施形態に係る物理演算部の処理内容を説明するための図である。
図15】本実施形態に係る梁材の3次元モデルが、カメラの撮影画像に重ねて表示された画像を説明するための図である。
図16】本実施形態に係る吊荷と現場にある物体との距離算出を説明するための図である。
図17】本実施形態に係る吊搬シミュレーション処理のフローチャートである。
図18】本実施形態に係るアニメーション表示処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪吊搬作業の概要≫
本発明を実施するための形態(実施形態)における吊搬シミュレーション装置を説明する前に、吊荷を搬入する吊搬作業の例を説明する。図1は、梁材800を搬入する建物890の概要を示す図である。後記する図2図9を参照しながら、建物890の搬入口810から1階フロア830に搬入された梁材800を、さらに2階フロア840の開口部820を通して2階フロア840に搬入する作業を説明する。
【0010】
図2は、梁材800に吊具850を架け、吊り上げる直前の初期状態を示す図である。なお、吊具850とは、クレーン、吊り金具、チェーンブロック、ワイヤ、スリングなどであり、吊搬の対象となる重量物を吊り上げて移動させるための機械や道具の総称である。
図3は、図2に示した初期状態から梁材800を吊り上げ、チェーンブロックを操作して梁材800を30度傾けた状態を示す図である。
図4は、図3に示した状態から梁材800をクレーンにより吊り上げた状態を示す図である。梁材800のX方向の端点は、開口部820を抜けて2階フロア840より上に位置している。
【0011】
図5は、図4に示した状態から梁材800をクレーンによりX方向に水平移動した状態を示す図である。
図6は、図5に示した状態から梁材800をクレーンにより吊り上げ限界まで吊り上げた状態を示す図である。梁材800の-X方向の端点は、開口部820より下にある。
図7は、図6に示した状態から梁材800をクレーンによりX方向に水平移動した状態を示す図である。
【0012】
図8は、図7に示した状態からチェーンブロックを操作して梁材800の傾きを水平に戻した状態を示す図である。
図9は、図8に示した状態から梁材800をクレーンによりX方向に水平移動した状態を示す図である。この状態からクレーンを操作して梁材800を2階フロア840に降ろすことで、搬入作業が完了する。
【0013】
≪既存の吊搬シミュレーションの問題点≫
図2図9を見る限りでは、梁材800が2階フロア840(開口部820の縁)を含め建物890と干渉することなく搬入することが可能に見える。しかしながら、実際の搬入作業において梁材800を吊って移動すると、梁材800に前後左右の揺れ(振動)が発生し、例えば、梁材800の開口部820の縁に近い箇所811(図5参照)が、開口部820の縁と干渉する可能性がある。このため、吊荷である梁材800の3次元モデルを建物890のモデルのなかで上下左右に移動させたり、梁材800の姿勢の角度を変えたりするだけの吊搬シミュレーションでは、干渉の有無を確認することはできない。
【0014】
また、振動の大きさや向きは、吊荷である梁材800の大きさや重さ、吊具850に含まれるワイヤの長さの他に、移動の速度(速度の変化)によって決まる。このため、梁材800と建物890との間に一定値以上の隙間があるから干渉は生じないとも言えない。吊搬をシミュレーションする際には、移動の速度(移動時間)を考慮して振動を含めた吊荷の動き(物理挙動)を再現して、干渉しないことを確認できるようにする必要がある。
【0015】
吊搬のシミュレーションをする際には、吊荷(梁材800)の他に現場(建物890)がモデル化されている必要がある。しかしながら、実際の現場では、一時的に設置された足場など、モデル化されていないが、吊荷が干渉する仮設物などの物体が存在する。図1図9には記載していないが、開口部820周辺には、取り外し可能な手摺りが設置されており、搬入の邪魔になる場合には、取り外される。簡単に移動可能な仮設物ならば、搬入の間は移動しておけばよいが、移動が困難な場合には、現場のモデルに仮設物のモデルを加えて、搬入のシミュレーションをする必要が出てくる。しかしながら、仮設物があることや、その位置、大きさなどは、事前(搬入計画の立案時)に把握できるとは限らず、搬入当日に現場で初めて判明する場合も多い。現場で仮設物の位置や大きさを測定してモデル化し、搬入経路を求めることは、時間が限られる現場では、現実的とは言えない。
【0016】
≪吊搬シミュレーション装置の概要≫
上記したように、吊搬シミュレーション装置では、振動を含めた吊荷の動きをシミュレーションして干渉の有無を確認できることが求められる。また、仮設物などモデル化されていないが現場にある物体との干渉の有無を確認できることが求められる。
【0017】
本実施形態に係る吊搬シミュレーション装置(後記する図11参照)は、吊荷の3次元モデルを現場の映像に重ねて表示することで、これらの要求を満たす。詳しくは、カメラが撮像した現場の映像に、予め設定された吊荷の3次元モデルを重ねて表示する。吊荷の3次元モデルは、設定された搬入工程(例えば、図2図9で説明した工程)に従って、移動する。この際、クレーン操作による上下水平の移動やチェーンブロックによる姿勢変化だけではなく、吊荷の揺れや回転を含む物理挙動を含めて3次元モデルが表示される。なお、揺れとは、振り子のように吊荷が前後左右に揺れることを言う。回転とは、一方向または向きを変えながら吊荷が回転することを言う。クレーン操作による上下水平の移動やチェーンブロックによる姿勢変化とは異なる、揺れや回転を含む吊荷の物理挙動を振動とも記す。
【0018】
クレーン操作による移動やチェーンブロックによる姿勢変化の他に振動を含む吊荷の3次元モデルの動きが、現場の映像に重ねて表示されることで、実際の搬送作業において吊荷が干渉を起こすか否かを確かめることができるようになる。なお、吊搬シミュレーション装置は、現場における自己位置の認識が可能であり、利用者が望む位置や向きから現場を撮像して、撮像した映像に吊荷の3次元モデルを重ねて表示することができる。
また、吊搬シミュレーション装置は、現場の空間形状(壁や天井、床、機材、設置物など)を認識することができ、吊荷との距離が所定値以下であれば、警告を発する。
【0019】
このような吊搬シミュレーション装置を用いることで、利用者(搬入作業者)は、吊荷の3次元モデルを動かしつつ現場の映像を見ながら、吊荷がどこを通るか、どの程度揺れるか、壁や設置物と吊荷との距離などを確認することができる。予想外の設置物があって干渉を起こすので搬入経路を変更せざるを得ない場合でも、搬入工程の差し替えやパラメータ(移動距離や方向など)を変更することで搬入経路を変えることができる。新しい搬入経路を通る吊荷の3次元モデルを現場の映像に重ねて表示することで、干渉が起きないことを確認したうえで、実際の搬入作業を行うことができるようになる。
【0020】
上記した吊搬シミュレーション装置100(後記する図11参照)を説明する前に、吊搬シミュレーション装置100の利用手順を説明する。なお、以下では混同が特に問題とならない場合には、吊荷と吊荷の3次元モデルとを同一視して説明する場合がある。例えば、画面上で吊荷の3次元モデルと壁とが干渉しないことを確認することを、画面上で吊荷と壁とが干渉しないことを確認するなどと記載する。
【0021】
図10は、本実施形態に係る吊搬シミュレーション装置100の利用手順を示すフローチャートである。
ステップS11において利用者は、吊荷や吊具(例えばフック)の3次元モデルを作成する。詳しくは、利用者は、吊荷の大きさ、形状、重量、重心位置、吊点(ワイヤ・スリングなどを掛ける点)の他に、吊荷とフックとの位置関係(拘束条件)を設定する。
【0022】
ステップS12において利用者は、搬入のシーンを作成(設定)する。シーンとは、吊荷を上げる、下げる、一方向に移動する、姿勢を変える、向きを変えるなど、搬入の1つの工程である。上記した梁材800(図1参照)の2階フロア840への搬入では、図2に示される初期状態から図3に示すように吊り上げるシーンから始まって、図9に示される状態から梁材800を2階フロア840に降ろすシーンまでの、合計8つのシーン(搬入工程、工程)から構成される。なお、後記する図12および図13は、シーン設定時の吊搬シミュレーション装置100の画面を示す。
【0023】
ステップS13において利用者は、アニメーション作成を指示する。指示を受けると、吊搬シミュレーション装置100は、振動を含む吊荷の動きを示すアニメーションデータを生成する。
以上、ステップS11~S13までが、事前準備の工程である。以下は、搬入現場での工程である。
ステップS14において利用者は、マーカを現場(搬入現場)に設置する。
【0024】
ステップS15において利用者は、吊搬シミュレーション装置100の空間認識を確認する。詳しくは、利用者は、移動しながら吊搬シミュレーション装置100のカメラでマーカ、および現場の空間を撮影する。この間に、吊搬シミュレーション装置100は、現場の空間形状を認識する。吊搬シミュレーション装置100は、認識結果である空間形状(壁や設置物など現場にある物体の面)を映像と重ねてメッシュとして表示する。利用者は、メッシュが正しく表示されることで、吊搬シミュレーション装置100が空間形状を正しく認識できていることを確認することができる。
【0025】
ステップS16において利用者は、ステップS13で作成したアニメーションを再生して(吊荷の3次元モデルを動かして)干渉を確認する。詳しくは、マーカを基点として、吊搬シミュレーション装置100は、現場における自身の位置と向きを認識する。吊搬シミュレーション装置100は、認識した位置と向きから見える吊荷の3次元モデルを、現場の映像に重ねて表示する。利用者は、アニメーションを再生したり、再生を止めたり、吊搬シミュレーション装置100の位置や向きを変えたりしながら、表示された3次元モデルと、現場映像の映る壁や設置物とが干渉しないかを確認する。
【0026】
ステップS17において利用者は、干渉があればステップS18に進み、なければステップS19に進む。干渉の有無ではなく、利用者が干渉の可能性が高い(吊荷と物体との間隔が小さい)と判断して、ステップS18に進んでもよい。
ステップS18において利用者は、搬入の作業工程であるシーンを修正し、アニメーションを作成して、ステップS16に戻る。
ステップS19において利用者は、実際の搬入作業を行う。
【0027】
≪吊搬シミュレーション装置の構成≫
図11は、本実施形態に係る吊搬シミュレーション装置100の機能構成図である。吊搬シミュレーション装置100は、制御部110、記憶部130、カメラ151、ディスプレイ152、デプスセンサ153、および慣性センサ154を備える。
カメラ151は、マーカを含む現場を撮像するカメラである。ディスプレイ152は、利用者の操作を受け付けるタッチパネル付きのディスプレイである。デプスセンサ153は、例えばToF(Time-of-Flight)深度センサであって、壁や床、機材、設置物、仮設物など現場にある物体(物体表面)までの距離を測定する。慣性センサ154は、3方向の加速度センサやジャイロスコープ(角速度センサ)などを含む。
【0028】
≪吊搬シミュレーション装置の構成:記憶部≫
記憶部130は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリなどから構成される。記憶部130には、モデルデータ131、モデル位置・姿勢データ132、モーションデータ133、アニメーションデータ134、マーカデータ135、および空間形状データ136などが記憶される。
【0029】
モデルデータ131は、吊荷や吊具の3次元モデルに係るデータである。モデルデータ131には、吊荷の大きさ、形状、重量、重心位置、吊点位置などの他に、吊具のフックの3次元モデル、吊荷と吊具(クレーンやフックなど)との位置関係(拘束条件)に係るデータが含まれる。モデルデータ131は、ステップS11(図10参照)の3次元モデル作成中に設定される。
モデル位置・姿勢データ132は、吊荷を含む3次元モデルの位置と姿勢に係るデータである。モデル位置・姿勢データ132は、シーン(搬入工程)ごとの移動方向・移動量、または回転軸・回転方向・回転量(回転角度)などのデータ、シーンの順序のデータ、各シーンの長さ(工程の時間)を含む。モデル位置・姿勢データ132は、ステップS12(図10参照)のシーン作成中に設定される。
【0030】
モーションデータ133は、吊荷の物理挙動を示すデータである。モーションデータ133は、例えば、吊荷(吊荷の3次元モデル)の重心や吊点の時刻歴座標値データであって、吊荷の振動を含む物理挙動を示すデータである。
アニメーションデータ134は、振動を含む3次元モデルの動きを示すデータである。アニメーションデータ134は、例えば、3次元モデルを構成するポリゴンの位置や向きの時刻歴データである。
【0031】
マーカデータ135は、マーカを示すデータであって、例えば、マーカの画像データである。マーカデータ135には、ステップS14(図10参照)にてマーカが設置される位置や向きのデータも含まれる。
空間形状データ136は、搬入現場となる空間の形状データであって、現場にある物体の位置を含む形状データである。空間形状データ136は、後記する空間認識部117により生成される。
【0032】
≪吊搬シミュレーション装置の構成:制御部≫
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、モデル設定部111、シーン設定部112、物理演算部113、アニメーション作成部114、マーカ設定部115、マーカ認識部116、空間認識部117、表示部118、および干渉判定部119を含む。
モデル設定部111は、利用者からの3次元モデルの設定を受け付け(図10記載のステップS11参照)、モデルデータ131に格納する。また、モデル設定部111は、設定された3次元モデルを、視点や向きを変えながらディスプレイ152に表示したり、利用者からの設定修正を受け付けたりする。
【0033】
シーン設定部112は、利用者からのシーン(搬入工程)の設定を受け付け(図10記載のステップS12参照)、モデル位置・姿勢データ132に格納する。利用者は、後記するシーン設定画面210(図12参照)を用いてシーンを設定する。設定結果は、モデル位置・姿勢データ132に記憶される。
【0034】
図12は、本実施形態に係るシーン設定画面210の構成図である。利用者は、シーン設定画面210を用いてシーンの追加、削除、順序の変更を行う。画面左側のシーン列表示領域221は、現時点で設定済みのシーンが、「長さ」とともに搬入工程の順に表示されている。「長さ」とは、工程の時間であって、例えば、吊荷を1m上昇するのにかける時間である。同じシーンであっても、「長さ」の数値が大きければ、ゆっくりと移動することになる。
1番上のシーンは、搬入作業の最初の状態である「初期状態」を示すシーンであって、吊荷の位置や向きを示している(図2参照)。「初期状態」以降のシーンは、吊荷の移動や姿勢変更(回転)を示すシーンである。本実施形態では、1つのシーンは、移動方向が同じ移動、または、回転軸、回転方向が同じである回転(姿勢変更)である。
【0035】
保存ボタン235がタップされると、設定されたシーン、シーンの長さ、シーンの順序などが、モデル位置・姿勢データ132として記憶される。開くボタン234がタップされると、記憶済みのモデル位置・姿勢データ132が読み出され、シーン名や長さがシーン列表示領域221に表示される。シーン列表示領域221でシーンがタップされて選択され、シーン削除ボタン233がタップされると、選択されたシーンが削除される。シーン列表示領域221でシーンがタップされて選択され、シーン挿入ボタン232がタップされると、選択されたシーンの次に新しいシーンが追加される。シーン列表示領域221でシーンがタップされて選択され、シーン変更ボタン231がタップされると、後記するモデル位置・姿勢設定画面240(図13参照)が表示され、選択されたシーンが変更可能になる。
【0036】
図13は、本実施形態に係るモデル位置・姿勢設定画面240の構成図である。シーン変更ボタン231(図12参照)がタップされると、モデル位置・姿勢設定画面240が表示される。「オブジェクト名」である「model#302」は、シーンに含まれる吊荷の3次元モデルの識別情報であり、設定対象となる吊荷を表す。
「X軸移動」の設定領域251は、吊荷のX軸方向の移動量を設定する領域であって、設定領域251にある「-」ボタンや「+」ボタンをタップしたり、「移動量」のコンボボックス261から移動量を選択したりして移動量を設定する。「Y軸移動」、「Z軸移動」についても同様である。
【0037】
「X軸回転」の設定領域252は、吊荷のX軸を軸とする回転量を設定する領域であって、設定領域252にあるつまみ253を左右に移動したり、「<」ボタンや「>」ボタンをタップしたり、「回転量」のコンボボックス262から回転量を選択したりして回転量を設定する。「Y軸回転」、「Z軸回転」についても同様である。
OKボタン263がタップされると、設定が反映されてモデル位置・姿勢設定画面240が閉じて、シーン設定画面210(図12参照)に戻る。キャンセルボタン264がタップされると、設定が反映されずにモデル位置・姿勢設定画面240が閉じて、シーン設定画面210に戻る。
【0038】
図11に戻って、物理演算部113は、モデルデータ131に記憶される吊荷の大きさ・形状・重量などの情報、吊具(クレーンやフックなど)との位置関係(拘束条件)および、モデル位置・姿勢データ132に記憶される吊荷の移動や回転の情報から、振動を含む吊荷の物理挙動(動き)を計算し、計算結果をモーションデータ133に格納する。
【0039】
図14は、本実施形態に係る物理演算部113の処理内容を説明するための図である。クレーンに備わるトロリ856が、ガーダ857上を移動することで、吊具850に吊られた梁材800が±X方向に移動する。-X方向へのトロリ856の変位をu、吊具850が鉛直方向となす角をθ、吊具850(ワイヤやチェーンブロック)の長さをl、吊具850の巻き上げ速度をlv、重力加速度をgとすると、(式1)が成り立つ。ここで微分は時間に関する微分である。
【0040】
【数1】
【0041】
物理演算部113は、モデル位置・姿勢データ132に記憶される吊荷の移動の情報からトロリ856の変位となるuを求め、(式1)からθを計算することで、振動を含む吊荷の物理挙動(動き)を計算し、計算結果をモーションデータ133に格納する。吊荷の回転についても同様に、回転角度の微分方程式から物理挙動を計算する。
【0042】
アニメーション作成部114は、モーションデータ133、およびモデルデータ131に含まれる3次元モデルの設定情報から、振動を含む3次元モデルの動きを計算し、計算結果をアニメーションデータ134に格納する。
マーカ設定部115は、マーカの形状データ(例えば、マーカの画像データ)や設置位置・向きに係る設定情報を取得し、マーカデータ135に格納する。
【0043】
マーカ認識部116は、カメラ151の撮影画像やデプスセンサ153で取得した距離から、現場に設置されたマーカを認識し、吊搬シミュレーション装置100に対する相対的なマーカの向きや距離、マーカデータ135に記憶されるマーカの設置位置・向きなどの情報から、吊搬シミュレーション装置100自身の位置や向きを計算する。慣性センサ154の測定結果から算出される吊搬シミュレーション装置100の位置や向きの変化量、および、マーカ認識部116を計算したマーカ認識時点での位置や向きから、マーカ認識以降の吊搬シミュレーション装置100の位置や向きを計算することができる。
【0044】
空間認識部117は、カメラ151の撮影画像、吊搬シミュレーション装置100の位置や向き、およびデプスセンサ153の測距情報から空間形状を計算し、空間形状データ136に格納する。
表示部118は、カメラ151の撮影画像に、アニメーションデータ134に記述される3次元モデルを重ねて表示する。表示部118は、吊搬シミュレーション装置100の位置と向き、および、アニメーションデータ134に記述される3次元モデルの位置や向きから、吊搬シミュレーション装置100を視点とした3次元モデルの画像を生成して、表示する。アニメーションデータ134は、時刻歴データであり、表示部118が次々と3次元モデルを表示することで、振動を含む3次元モデルの動きを表示することができる。
【0045】
図15は、本実施形態に係る梁材800の3次元モデルが、カメラ151の撮影画像に重ねて表示された画像を説明するための図である。撮影画像には、2階フロア840の開口部820の縁に設置されている手摺り860やエレベータの扉870が含まれている。表示部118は、開口部820からX方向の先端部が2階フロア840に抜けた梁材800(図7参照)の3次元モデルを、カメラ151の撮影画像に重ねて表示している。空間形状データ136に含まれる2階フロア840の壁や手摺り860の位置や形状データ、梁材800の3次元モデルの位置、大きさ、形状データなどから計算可能な、3次元モデルに隠れて見えない手摺り860や壁の一部の撮像画像は表示されない。このため、梁材800の3次元モデルが手摺り860や壁より手前にあるように表示される。
【0046】
図11に戻って、干渉判定部119は、吊荷と、壁などの現場にある物体との距離を算出する。詳しくは、吊荷の3次元モデル上の、予め設定された干渉測定点801(後記する図16参照)から物体までの距離を算出する。距離が所定値より近いならば、干渉判定部119は、警報を発する。
【0047】
図16は、本実施形態に係る吊荷と現場にある物体との距離算出を説明するための図である。干渉判定部119は、予め設定された干渉測定点801を起点とし、予め設定された干渉測定方向802にある物体(例えば、建物890の壁)までの距離を算出する。物体の位置情報は、空間形状データ136に記憶されている。
【0048】
≪吊搬シミュレーション処理≫
図17は、本実施形態に係る吊搬シミュレーション処理のフローチャートである。この処理は、図10に記載のステップS11~S18に対応する吊搬シミュレーション装置100の処理である。
ステップS31においてモデル設定部111は、利用者からの3次元モデルの設定を受け付け、設定内容をモデルデータ131に格納する。ステップS31は、図10記載のステップS11に対応したモデル設定部111の処理である。
【0049】
ステップS32においてシーン設定部112は、利用者からのシーン(搬入工程)の設定を受け付け、設定内容をモデル位置・姿勢データ132に格納する。ステップS32は、図10記載のステップS12に対応したシーン設定部112の処理である。
ステップS33において物理演算部113は、モデルデータ131、およびモデル位置・姿勢データ132から、振動を含む吊荷の物理挙動(動き)を計算し、計算結果をモーションデータ133に格納する。
ステップS34においてアニメーション作成部114は、モーションデータ133、およびモデルデータ131から、振動を含む3次元モデルの動きを計算し、計算結果をアニメーションデータ134に格納する。ステップS33,S34は、図10記載のステップS13に対応した物理演算部113、およびアニメーション作成部114の処理である。
【0050】
ステップS35において空間認識部117は、マーカ認識部116が計算したマーカ認識時点での吊搬シミュレーション装置100の位置や向き、カメラ151の撮影画像、慣性センサ154が測定した移動や向きの変化量、およびデプスセンサ153の測距情報から空間形状を計算し、空間形状データ136に格納する。空間認識部117は、認識した空間形状をメッシュとして、カメラ151の撮影画像に重ねて表示する。
ステップS36において空間認識部117は、認識し表示した空間形状が正しいか否かを利用者に確認する。確認がOK(認識結果が正しい)ならば(ステップS36→YES)ステップS37に進み、OKでなければ(ステップS36→NO)ステップS35に戻り、再度空間形状を生成する。ステップS35,S36は、図10記載のステップS15に対応した空間認識部117の処理である。
【0051】
ステップS37において表示部118は、アニメーション表示処理を実行する。アニメーション表示処理の詳細は、図18を参照して後記する。ステップS37は、図10記載のステップS16に対応した表示部118の処理である。
ステップS38において表示部118は、ステップS37のアニメーション表示処理中にシーン(搬入工程)の修正指示があれば(ステップS38→YES)ステップS39に進み、修正指示がなければ(ステップS38→NO)ステップS42に進む。修正指示とは、後記する図18のステップS59の操作で指示される修正指示である。ステップS38は、図10記載のステップS17に対応した表示部118の処理である。
ステップS39においてシーン設定部112は、利用者からのシーン設定の修正を受け付け、修正された設定内容をモデル位置・姿勢データ132に格納する。
【0052】
ステップS40,S41は、ステップS33,S34とそれぞれ同様である。ステップS41の実行後にステップS37に戻る。ステップS39~S41は、図10記載のステップS18に対応したシーン設定部112、物理演算部113、およびアニメーション作成部114の処理である。
ステップS42において表示部118は、アニメーション表示処理の終了指示があれば(ステップS42→YES)吊搬シミュレーション処理を終え、終了指示がなければ(ステップS42→NO)ステップS37に戻る。終了指示とは、後記する図18のステップS59の操作で指示される終了指示である。
【0053】
≪アニメーション表示処理≫
図18は、本実施形態に係るアニメーション表示処理のフローチャートである。図18を参照しながら、ステップS37のアニメーション表示処理の詳細を説明する。
ステップS51において表示部118は、吊搬シミュレーション装置100の位置と向きとを取得する。詳しくは、マーカ認識部116が計算したマーカ認識時点での吊搬シミュレーション装置100の位置や向き、慣性センサ154が測定した移動や向きの変化量から、現時点での吊搬シミュレーション装置100の位置と向きとを計算する。
【0054】
ステップS52において表示部118は、ステップS51で計算した吊搬シミュレーション装置100の位置と向き、および、アニメーションデータ134に記述される3次元モデルの位置や向きから、カメラ151による撮影画像上の3次元モデル画像の表示位置や向きを算出する。
ステップS53において表示部118は、ステップS52で算出した3次元モデル画像の表示位置と向きとに合わせた3次元モデル画像を生成して、カメラ151の撮影画像に重ねて表示する。
【0055】
ステップS54において干渉判定部119は、吊荷から、現場にある壁や設置物などの物体までの距離を算出する。複数の干渉測定点や複数の干渉測定方向(図16参照)が設定されている場合には、干渉判定部119は、複数の距離を計算し、最小の距離を算出する。
ステップS55において干渉判定部119は、ステップS54で算出した距離が第1の閾値以下ならば(ステップS55→YES)ステップS56に進み、距離が第1の閾値超えるならば(ステップS55→NO)ステップS57に進む。
【0056】
ステップS56において干渉判定部119は、距離を赤色で表示する。干渉判定部119は、当該距離に対応する干渉測定点と干渉測定方向を3次元モデル画像に重ねて表示してもよい。
ステップS57において干渉判定部119は、ステップS54で算出した距離が第2の閾値以下ならば(ステップS57→YES)ステップS58に進み、距離が第2の閾値超えるならば(ステップS57→NO)ステップS59に進む。
【0057】
ステップS58において干渉判定部119は、距離を黄色で表示する。干渉判定部119は、当該距離に対応する干渉測定点と干渉測定方向を3次元モデル画像に重ねて表示してもよい。
ステップS59において表示部118は、利用者からの操作があれば(ステップS59→YES)アニメーション処理を終了してステップS38(図17参照)に進み、操作がなければ(ステップS59→NO)ステップS51に戻る。操作とは、シーンの修正、またはアニメーション表示の終了を指示する操作である(図17のステップS38,S42参照)。
【0058】
≪吊搬シミュレーション装置の特徴≫
吊搬シミュレーション装置100は、吊荷の3次元モデルの情報(大きさ、形状、重量など)や搬入工程情報(移動や回転)から、吊荷の物理挙動(動き)を算出し、現場の映像情報に重ねて表示する。物理挙動は、移動や回転という搬入作業そのものによる動きだけではなく、移動や回転の開始・終了によって引き起こされる振動を含む。利用者は、振動を含む物理挙動を含み、現場の映像に重ねられた3次元モデルを見ることで、搬入作業がどのように進むのかを確認することができる。また、干渉が発生しそうなポイント(干渉する吊荷の部分と物体)を確認することができる。
【0059】
干渉測定点と干渉測定方向(図16参照)を設定しておくことで、吊搬シミュレーション装置100は、吊荷と物体(現場の壁や設置物)との距離を測定し、所定の閾値以下ならば警報を発する(図18のステップS55~S58参照)。利用者は、画像だけではなく、数値として、吊荷と物体との間にどの程度の距離があるかを確認することできる。距離が小さい(余裕が小さい)と判断すれば、シーン(搬入工程)を変更して、改めて搬入作業を確認することができるようになる(図10のステップS17→YES、ステップS18,S16、図17のステップS38→YES、ステップS39~S41,S37参照)。
【0060】
建設中のプラントなどの搬入現場は、日々変化しており、搬入当日になって搬入経路近くに仮設物があることが判明する場合もある。このような場合であっても、現場映像と重ねられた3次元モデル画像や、仮設物との距離とを確認することで、搬入工程を確認することができる。また、干渉の可能性が高ければ、その場で搬入工程を見直して、再度確認することができるようになる。
【0061】
≪変形例:シーン設定≫
上記した実施形態においては、各シーンについて、移動方向・移動量・回転軸・回転量を設定して、長さ(時間)を設定している(図12図13参照)。移動や回転といった変化を設定するのではなく、各シーンが終了した状態での吊荷の位置や姿勢を設定するようにしてもよい。この場合、物理演算部113は、設定された位置や姿勢の変化から吊荷の物理挙動を計算する。
上記した実施形態では、吊荷の移動は直線の移動のみであったが、曲線のレールを備えるクレーンに対応して、曲線を含む移動を定義できるようにしてもよい。
【0062】
≪変形例:吊搬シミュレーションシステム≫
上記した実施形態では、吊搬シミュレーション装置100が全ての機能を備えているが、一部機能を別の装置で実現してもよい。例えば、物理演算部113とアニメーション作成部114とをアニメーション生成装置とし、他を携帯型表示装置として機能を分けた吊搬シミュレーションシステムという実施形態であってもよい。
【0063】
≪その他変形例≫
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。例えば、アニメーション表示処理(図18参照)において、表示の処理(ステップS51~S53)と距離算出の処理(ステップS54~S57)とを並列に処理してもよい。または、それぞれの処理を繰り返しながら並列に処理してもよい。
【0064】
また、吊荷の物理挙動を計算する物理演算部113と3次元モデルの動きを計算するアニメーション作成部114を一体化してアニメーション生成部としてもよい。上記した実施形態では、図17記載のステップS35において空間認識部117が空間形状を計算しているが、ステップS37のアニメーション表示処理中も計算して、空間形状データ136を修正するようにしてもよい。
【0065】
本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
100 吊搬シミュレーション装置
111 モデル設定部
112 シーン設定部
113 物理演算部(アニメーション生成部)
114 アニメーション作成部(アニメーション生成部)
115 マーカ設定部
116 マーカ認識部
117 空間認識部
118 表示部
119 干渉判定部
131 モデルデータ(モデル設定情報)
132 モデル位置・姿勢データ(モデル移動情報、モデル回転情報)
133 モーションデータ
134 アニメーションデータ
136 空間形状データ
151 カメラ
152 ディスプレイ(表示装置)
153 デプスセンサ(空間センサ)
800 梁材(吊荷、吊荷の3次元モデル)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18