IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 酒井重工業株式会社の特許一覧

特開2022-41785振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ
<>
  • 特開-振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ 図1
  • 特開-振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ 図2
  • 特開-振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ 図3
  • 特開-振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ 図4
  • 特開-振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ 図5
  • 特開-振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ 図6
  • 特開-振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ 図7A
  • 特開-振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ 図7B
  • 特開-振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041785
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラ
(51)【国際特許分類】
   E01C 19/28 20060101AFI20220304BHJP
【FI】
E01C19/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160896
(22)【出願日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】17/007,578
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000182384
【氏名又は名称】酒井重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 洋昭
(72)【発明者】
【氏名】小池 房義
【テーマコード(参考)】
2D052
【Fターム(参考)】
2D052AB01
2D052AD04
2D052BB01
2D052DA33
(57)【要約】
【課題】アスファルト舗装の施工時における既設アスファルト路面の損傷を防ぎつつ、新設アスファルト路面に対して所望の振動をより確実に与えることが可能な振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラを提供する。
【解決手段】進行方向に対する前輪及び後輪の内部に設けられた偏心錘Y1,Y2を備えた起振軸X1,X2を起振用モータM3,M4によって回転させて前輪及び後輪に振動を発生させる振動ローラの制御装置1は、単位長の施工対象路面に対して所定の回数で振動を与えるように前輪の振動を開始させる前輪振動開始信号を出力する前輪振動開始信号出力部3と、後輪が振動を開始してから所定の回数で施工対象路面に対して振動を与え得る振動数で振動するまでに要する時間幅に基づいて後輪振動開始タイミングを算出する演算部4と、後輪振動開始タイミングで後輪の振動を開始させる後輪振動開始信号を出力する後輪振動開始信号出力部5とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向に対する前輪および後輪の内部に設けられた偏心錘を備えた起振軸を起振用モータによって回転させることで前記前輪および前記後輪に振動を発生させる振動ローラを制御するための制御装置であって、
前記前輪の振動を開始させる前輪振動開始タイミングおよび前記後輪の振動を開始させる後輪振動開始タイミングを算出する振動開始タイミング算出部と、
前記振動開始タイミング算出部によって算出された前記前輪振動開始タイミングに基づいて前記前輪の振動を開始させる前輪振動開始信号を出力する前輪振動開始信号出力部と、
前記振動開始タイミング算出部によって算出された前記後輪振動開始タイミングに基づいて前記後輪の振動を開始させる後輪振動開始信号を出力する後輪振動開始信号出力部と、
を備え、
前記振動開始タイミング算出部は、施工対象路面に対して同じ位置を前記前輪および前記後輪が通過するタイミングを前記前輪振動開始タイミングおよび前記後輪振動開始タイミングとすることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記振動開始タイミング算出部は、前記前輪および前記後輪が前記施工対象路面の境界位置に達したタイミングで前記前輪および前記後輪が振動を開始するように、前記前輪振動開始タイミングおよび前記後輪振動開始タイミングを算出することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記振動開始タイミング算出部は、前記前輪および前記後輪が前記施工対象路面の境界位置に達したタイミングに対して、前記前輪および前記後輪の各々が振動を開始してから前記施工対象路面に対して所定の回数で振動を与え得る振動数で振動するまでに要する時間幅だけ前のタイミングで前記前輪および前記後輪が振動を開始するように、前記前輪振動開始タイミングおよび前記後輪振動開始タイミングを算出することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記振動開始タイミング算出部は、前記振動ローラの走行速度および前記前輪および前記後輪の軸間距離に基づいて、前記前輪振動開始タイミングから前記後輪振動開始タイミングまでの時間幅を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記所定の回数は、前記施工対象路面1フィートあたり10~15回の間で設定されることを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項6】
前記所定の回数は、前記施工対象路面1フィートあたり10~12回の間で設定されることを特徴とする請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
各々が内部に偏心錘を有する起振軸を備えた前輪および後輪としての一対のドラムと、
前記一対のドラムの一方または両方を振動させる起振用モータと、
請求項1から6のいずれか一項に記載の制御装置と、
を備えることを特徴とする振動ローラ。
【請求項8】
進行方向に対する前輪および後輪の一方または両方の内部に設けられた偏心錘を備えた起振軸を起振用モータによって回転させてドラムに振動を発生させる振動ローラを制御するための制御方法であって、
前記前輪の振動を開始させる前輪振動開始タイミングおよび前記後輪の振動を開始させる後輪振動開始タイミングを算出し、
単位長さ当たりの施工対象路面に対して所定の回数で振動を与えるように前輪のドラムの振動を開始させ、
算出された前記前輪振動開始タイミングに基づいて前記前輪の振動を開始し、
算出された前記後輪振動開始タイミングに基づいて前記後輪の振動を開始し、
前記前輪のドラムの振動が開始してから、前記後輪のドラムが前記所定の回数で前記施工対象路面に対して振動を与え得るタイミングを算出し、
算出された前記タイミングで前記後輪のドラムの振動を開始させ、
施工対象路面に対して同じ位置を前記前輪および前記後輪が通過するタイミングを前記前輪振動開始タイミングおよび前記後輪振動開始タイミングとすることを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムを振動させて舗装路面等を締め固める振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
舗装路面を締め固める振動ローラとして、前輪および後輪の一方または両方のドラムの内部に設けられた偏心錘を備えた起振軸を油圧モータによって回転させてドラムに振動を発生させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。当該振動ローラは、振動による力と車両重量とによって舗装路面の締め固めを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-128880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような振動ローラによるアスファルト舗装の施工場所には、既設アスファルト路面と施工対象の新設アスファルト路面とが存在するが、振動ローラが既設アスファルト路面を走行中に振動を開始してしまうと、既設アスファルト路面を振動で損傷してしまう虞があった。
【0005】
本発明は、振動ローラの制御に用いることで、振動ローラの起振用モータへのピーク負荷を軽減させることが可能な制御装置、制御方法、および当該制御装置を備えた振動ローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成することのできる本発明の一態様は、進行方向に対する前輪および後輪の内部に設けられた偏心錘を備えた起振軸を起振用モータによって回転させることで前記前輪および前記後輪に振動を発生させる振動ローラを制御するための制御装置であって、前記前輪の振動を開始させる前輪振動開始タイミングおよび前記後輪の振動を開始させる後輪振動開始タイミングを算出する振動開始タイミング算出部と、前記振動開始タイミング算出部によって算出された前記前輪振動開始タイミングに基づいて前記前輪の振動を開始させる前輪振動開始信号を出力する前輪振動開始信号出力部と、前記振動開始タイミング算出部によって算出された前記後輪振動開始タイミングに基づいて前記後輪の振動を開始させる後輪振動開始信号を出力する後輪振動開始信号出力部と、を備え、前記振動開始タイミング算出部は、施工対象路面に対して同じ位置を前記前輪および前記後輪が通過するタイミングを前記前輪振動開始タイミングおよび前記後輪振動開始タイミングとすることを特徴とする。
このような構成の制御装置を備えた振動ローラは、施工対象路面に対する所定の位置で前輪の振動を開始させた後、当該所定の位置を後輪が通過するタイミングで後輪の振動を開始させるので、前輪および後輪の両方を同時に振動させる場合と比べて、起振用モータへのピーク負荷が軽減することができる。
【0007】
また、上記の制御装置において、前記振動開始タイミング算出部は、前記前輪および前記後輪が前記施工対象路面の境界位置に達したタイミングで前記前輪および前記後輪が振動を開始するように、前記前輪振動開始タイミングおよび前記後輪振動開始タイミングを算出してもよい。
このような構成の制御装置を備えた振動ローラは、例えばアスファルト舗装等の施工時において、施工対象である新設アスファルト路面の手前にある既設アスファルト路面の損傷を防ぎつつ、新設アスファルト路面に対して確実に振動による締固めを行うことができる。
【0008】
また、上記の制御装置において、前記振動開始タイミング算出部は、前記前輪および前記後輪が前記施工対象路面に達したタイミングに対して、前記前輪および前記後輪の各々が振動を開始してから前記施工対象路面に対して所定の回数で振動を与え得る振動数で振動するまでに要する時間幅だけ前のタイミングで前記前輪および前記後輪が振動を開始するように、前記前輪振動開始タイミングおよび前記後輪振動開始タイミングを算出してもよい。
このような構成の制御装置を備えた振動ローラは、例えばアスファルト舗装等の施工時において、施工対象である新設アスファルト路面の手前にある既設アスファルト路面の損傷をできるだけ防ぎつつ、施工対象路面に対して所定回数の振動をより確実に与えることで締固め密度を一定にすることができる。
【0009】
また、上記の制御装置において、前記振動開始タイミング算出部は、前記振動ローラの走行速度および前記前輪および前記後輪の軸間距離に基づいて、前記前輪振動開始タイミングから前記後輪振動開始タイミングまでの時間幅を算出してもよい。
【0010】
また、上記の制御装置において、前記所定の回数は、前記施工対象路面1フィートあたり10~15回の間で設定されもよい。
施工対象路面が新設アスファルト路面である場合は、締固め施工の振動回数は、上記の範囲に設定されることが好ましい。
【0011】
また、上記の制御装置において、前記所定の回数は、前記施工対象路面1フィートあたり10~12回の間で設定されることがより好ましい。
施工対象路面が新設アスファルト路面である場合は、締固め施工の振動回数は、上記の範囲に設定されることがより好ましい。
【0012】
また、本発明の他の一態様は、振動ローラであって、各々が内部に偏心錘を有する起振軸を備えた前輪および後輪としての一対のドラムと、前記一対のドラムの一方または両方を振動させる起振用モータと、上記のいずれかの特徴を有する制御装置と、を備える。
【0013】
また、本発明のさらに他の一態様は、進行方向に対する前輪および後輪の一方または両方の内部に設けられた偏心錘を備えた起振軸を起振用モータによって回転させてドラムに振動を発生させる振動ローラを制御するための制御方法であって、前記前輪の振動を開始させる前輪振動開始タイミングおよび前記後輪の振動を開始させる後輪振動開始タイミングを算出し、単位長さ当たりの施工対象路面に対して所定の回数で振動を与えるように前輪のドラムの振動を開始させ、算出された前記前輪振動開始タイミングに基づいて前記前輪の振動を開始し、算出された前記後輪振動開始タイミングに基づいて前記後輪の振動を開始し、前記前輪のドラムの振動が開始してから、前記後輪のドラムが前記所定の回数で前記施工対象路面に対して振動を与え得るタイミングを算出し、算出された前記タイミングで前記後輪のドラムの振動を開始させ、施工対象路面に対して同じ位置を前記前輪および前記後輪が通過するタイミングを前記前輪振動開始タイミングおよび前記後輪振動開始タイミングとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る振動ローラの制御装置、制御方法および振動ローラよれば、例えばアスファルト舗装の施工時において、振動ローラの起振用モータへのピーク負荷を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る振動ローラの平面図である。
図2】本発明の実施形態に係る振動ローラの側面図である。
図3】振動ローラが備える制御装置の機能ブロック図である。
図4】振動ローラによる新設アスファルト路面に対する締固め施工動作のフローチャートである。
図5】従来の振動ローラが施工対象路面上を走行して締め固める様子を時系列で示す図である。
図6】従来の振動ローラの走行時における原動機の回転数およびトルクを示すグラフである。
図7A】本発明の実施形態に係る振動ローラが施工対象路面上を走行して締め固める様子を時系列で示す図である。
図7B】本発明の実施形態に係る振動ローラが施工対象路面上を走行して締め固める様子を時系列で示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る振動ローラの走行時における原動機の回転数およびトルクを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る振動ローラ10の平面図を示す。図2は、振動ローラ10の側面図を示す。図1及び図2に示すように、振動ローラ10は、第一ドラム11と、第二ドラム12と、前部車体13と、後部車体14と、前部車体13と後部車体14とを連結する連結部15と、を備えている。後部車体14の上部には運転席16が設けられている。なお、第一ドラムとは、運転席に座ったオペレータから見て、振動ローラ10の前側に取り付けられているドラムのことであり、第二ドラムとは、振動ローラ10の後側に取り付けられているドラムのことである。
【0017】
第一ドラム11は、前部車体13に取り付けられている(軸装されている)。第二ドラム12は、後部車体14に取り付けられている(軸装されている)。振動ローラ10は、前部車体13と後部車体14とが連結部15を中心に鉛直軸C周りに回動可能なアーティキュレート式の振動ローラである。振動ローラ10は、転圧輪としての第一ドラム11と第二ドラム12を前進または後進させることで、新設のアスファルト路面等を締め固める締固め施工が可能である。
【0018】
また、後部車体14には、駆動源としてのエンジンEと、第一ドラム11を走行させるための前走行用モータM1と、第二ドラム12を走行させるための後走行用モータM2と、第一ドラム11を振動させるための前起振用モータM3と、第二ドラム12を振動させるための後起振用モータM4と、走行用モータM1,M2及び起振用モータM3,M4の動作を制御する制御装置1とが設けられている。走行用モータM1,M2及び起振用モータM3,M4は、例えば油圧モータで構成されている。
【0019】
運転席16の座席脇には、車両の前進または後進を切り替えることが可能な前後進レバーR1が設けられている。前後進レバーR1は、前進位置と中立位置と後進位置とに切り替えられるように構成されている。運転席16のハンドル脇には、エンジンEの回転数を変化させることが可能なレバーR2が設けられている。エンジンEの回転数は、レバーR2の傾斜角度に応じて変化させることができる。なお、振動ローラ10が施工対象路面上を走行して締め固め動作を行う際は、レバーR2の傾斜角度は、通常はエンジンEが最大出力となるように設定される。前後進レバーR1およびレバーR2は、制御装置1に接続されている。
【0020】
運転席16の操作パネル上には、振動ローラ10の動作情報が表示される表示部Dと、オペレータが振動ローラ10に対する各種の操作を行うための操作部Uが設けられている。操作部Uには、第一ドラム11及び第二ドラム12の振動のON/OFFを切り替えることが可能な振動スイッチS1と、設定振動数を切り替えることが可能な切替スイッチS2とが設けられている。操作部Uの振動スイッチS1および切替スイッチS2は、制御装置1に接続されている。
【0021】
前部車体13は、第一ドラム11を回転および振動可能に支持している。第一ドラム11の内部には、起振機ケースが設けられており、当該起振機ケースに第一ドラム11を振動させる起振軸X1が内蔵されている。起振軸X1には、偏心錘Y1(図3参照)が固定されている。偏心錘Y1が固定された起振軸X1を前起振用モータM3によって回転させることにより、第一ドラム11を振動させることができる。
【0022】
後部車体14は、第二ドラム12を回転および振動可能に支持している。第二ドラム12の内部には、起振機ケースが設けられており、当該起振機ケースに第二ドラム12を振動させる起振軸X2が内蔵されている。起振軸X2には、偏心錘Y2(図3参照)が固定されている。偏心錘Y2が固定された起振軸X2を後起振用モータM4によって回転させることにより、第二ドラム12を振動させることができる。
【0023】
制御装置1は、走行用モータM1,M2を駆動させることにより、振動ローラ10の第一ドラム11および第二ドラム12を回転駆動させる。また、制御装置1は、起振用モータM3,M4を駆動させることにより、振動ローラ10の第一ドラム11および第二ドラム12を振動させる。また、制御装置1は、例えば、起振用モータM3によって開始される第一ドラム11の振動開始タイミングと、起振用モータM4によって開始される第二ドラム12の振動開始タイミングとを、第一ドラム11および第二ドラム12の振動数、1フィートあたりの打撃数(振動数)であるIPF(Impact Per Foot)、振動ローラ10の走行速度等に基づいて算出する。
【0024】
図3は、振動ローラ10が備える制御装置1の機能ブロック図である。図3に示すように、制御装置1は、走行開始信号出力部2と、前輪振動開始信号出力部3と、演算部4(振動開始タイミング算出部の一例)と、後輪振動開始信号出力部5と、を備えている。なお、「前輪」および「後輪」とは、前進および後進の両方での締固め施工が可能である振動ローラ10において、進行方向に対する前輪および後輪を意味する。したがって、振動ローラ10が前進しているときは、第一ドラム11が前輪であり、第二ドラム12が後輪である。これに対して、振動ローラ10が後進しているときは、第二ドラム12が前輪であり、第一ドラム11が後輪である。
【0025】
走行開始信号出力部2は、第一ドラム11および第二ドラム12の走行を開始させるための走行開始信号を出力する。走行開始信号出力部2から出力された走行開始信号は、走行用油圧ポンプP1に送信される。走行用油圧ポンプP1は、エンジンEを動力源とする油圧ポンプであるが、走行開始信号の受信によって作動する。これにより、走行用モータM1,M2に作動油が供給され、第一ドラム11および第二ドラム12が回転を開始する。走行開始信号は、オペレータがレバーR2を傾倒させるとともに、前後進レバーR1を傾倒させることにより出力される。
【0026】
前輪振動開始信号出力部3は、オペレータが振動スイッチS1をONさせたタイミングで、前輪の振動を開始させるための前輪振動開始信号を、振動用油圧ポンプP2に対して出力する。また、前輪振動開始信号出力部3は、後述のように演算部4で算出された前輪振動開始タイミングで前輪振動開始信号を出力してもよい。前輪振動開始信号出力部3から出力された前輪振動開始信号は、振動用油圧ポンプP2に送信される。振動用油圧ポンプP2は、エンジンEを動力源とする油圧ポンプであるが、前輪振動開始信号出力部3からの前輪振動開始信号により作動し、前起振用モータM3に作動油を供給する。これにより、起振軸X1が回転して、第一ドラム11が振動を開始する。
【0027】
後輪振動開始信号出力部5は、オペレータが振動スイッチS1をONさせたタイミングで、後輪の振動を開始させるための後輪振動開始信号を、振動用油圧ポンプP2に対して出力する。また、後輪振動開始信号出力部5は、後述のように演算部4で算出された後輪振動開始タイミングで後輪振動開始信号を出力してもよい。後輪振動開始信号出力部5から出力された後輪振動開始信号は、振動用油圧ポンプP2に送信される。振動用油圧ポンプP2は、後輪振動開始信号出力部5からの後輪振動開始信号により作動し、後起振用モータM4に作動油を供給する。これにより、起振軸X2が回転して、第二ドラム12が振動を開始する。
【0028】
オペレータが振動スイッチS1をONさせるタイミングは、例えば、前輪である第一ドラム11および後輪である第二ドラム12が施工対象路面の境界位置に達したタイミングである。これにより、例えば振動ローラ10によるアスファルト舗装等の施工時において、施工対象である新設アスファルト路面の手前にある既設アスファルト路面の損傷を防ぎつつ、新設アスファルト路面に対して確実に振動による締固めを行うことができる。
【0029】
なお、前輪の第一ドラム11の振動が開始された場合、その振動数は、すぐには予め設定された振動数に到達せず、到達までにある程度のタイムラグが発生する。そこで、オペレータが振動スイッチS1をONさせるタイミングを、前輪である第一ドラム11および後輪である第二ドラム12が施工対象路面に達するタイミングよりも所定の時間幅だけ前のタイミングとしてもよい。ここで、所定の時間幅とは、前輪である第一ドラム11および後輪である第二ドラム12の各々が振動を開始してから振動数が上昇かつ安定した後、施工対象路面の単位長さあたり予め設定した回数で振動を与え得る振動数で安定的に振動するまでに要する時間幅である。これにより、例えば振動ローラ10によるアスファルト舗装等の施工時において、振動ローラ10の第一ドラム11および第二ドラム12は、施工対象である新設アスファルト路面とその手前にある既設アスファルト路面の境界位置から所定距離(振動ローラ10が上記時間幅で進む距離)だけ手前で振動を開始し、上記境界位置に達するときに、施工対象路面に対して締固めに必要とされる振動数で振動する。
損傷をできるだけ防ぎつつ、施工対象路面の開始位置から施工対象路面に対して締固めに必要とされる回数の振動をより確実に与えることで締固め密度を一定にすることができる。
【0030】
なお、前輪である第一ドラム11および後輪である第二ドラム12が振動を開始するタイミングは、演算部4によって算出してもよく、この場合、例えば、「施工対象路面の境界位置よりも1m手前で振動スイッチS1をONしてください。」などとオペレータに対して振動スイッチS1の操作をすべきタイミングを表示部Dに表示させてもよい。これにより、オペレータは、第一ドラム11および第二ドラム12が施工対象路面の開始位置から施工対象路面に対して締固めに必要とされる回数の振動をより確実に与えるために振動を開始させるタイミング(位置)を容易に認識することができる。また、第一ドラム11および第二ドラム12が振動を開始するタイミングを演算部4で算出する場合は、オペレータに操作させることなく、算出したタイミングで自動的に第一ドラム11および第二ドラム12を振動させてもよい。
【0031】
より具体的には、例えば、演算部4は、振動ローラ10の進行方向(前進方向、後進方向)を検出するための進行方向検知部21と、振動ローラ10の走行速度を検出するための走行速度検知部22とからの検出結果(進行方向、走行速度)に基づいて、前輪である第一ドラム11が振動を開始させるべきタイミングを算出し、当該タイミングが来た時点で自動的に第一ドラム11の振動を開始させる。そして、演算部4は、走行速度検知部22からの検出結果(振動ローラ10の走行速度)および第一ドラム11と第二ドラム12の軸間距離に基づいて、第二ドラム12が振動を開始させるべきタイミングを算出する。すなわち、演算部4は、第一ドラム11の振動開始のタイミングから振動ローラ10が第一ドラム11と第二ドラム12の軸間距離に相当する距離だけ走行するために必要な時間だけ経過した後、第二ドラム12が振動を開始させる。
【0032】
演算部4には、運転席16の操作パネル上に設けられている表示部Dと、操作部Uが接続されている。表示部Dには、例えば、振動ローラ10の走行速度、第一第二ドラム11,12の振動状況、IPFの設定値等が表示される。操作部Uには、例えば、第一第二ドラム11,12の振動数、IPF等を入力することができる。IPFの設定回数は、好ましくは10~15回、より好ましくは10~12回の範囲で設定される。
【0033】
進行方向検知部21は、例えば、ジャイロセンサや加速度センサ等で構成されている。走行速度検知部22は、例えば、前後走行用モータM1,M2の回転数を検出可能なロータリエンコーダ等で構成されている。
【0034】
次に、図4を参照して、振動ローラ10の動作例を説明する。
図4は、新設アスファルト路面に対して締固め工事を実施する際の振動ローラ10の動作を説明するフローチャートである。
【0035】
オペレータによって振動ローラ10のエンジンEが起動され、運転席16の操作パネル上の操作部Uを介して第一ドラム11および第二ドラム12のIPFと、振動数が入力される。これにより、振動ローラ10の締固め施工における第一ドラム11および第二ドラム12のIPFと振動数とが設定される(ステップS10)。例えば、IPFが12回に設定され、振動数が2400rpmに設定される。設定された設定情報は、操作パネル上の表示部Dに表示される。
【0036】
演算部4は、入力された第一ドラム11および第二ドラム12のIPFと振動数とに基づいて、締固め施工における振動ローラ10の最適な走行速度(本例では3.6km/h)を算出する(ステップS11)。算出された走行速度は、振動ローラ10の走行速度として設定されるとともに演算部4のメモリに記憶される。なお、この時点では、まだ締固め施工は開始されておらず、振動ローラ10は既設のアスファルト路面上に位置している。
【0037】
次に、オペレータによって、レバーR2及び前後進レバーR1が傾倒される(ステップS12)。本動作例では、前後進レバーR1を前進位置側に傾倒して、振動ローラ10の前進走行による締固めを施工する場合について説明する。前後進レバーR1の操作状態は、表示部Dに例えば「前進設定」などと表示される。切替スイッチS2の操作状態は、表示部Dに例えば「設定振動数2400rpm」などと表示される。
【0038】
レバーR2及び前後進レバーR1が傾倒されると、制御装置1の走行開始信号出力部2から走行用油圧ポンプP1に向けて走行開始信号が送信される。走行開始信号を受信した走行用油圧ポンプP1は、走行用モータM1,M2に作動油を供給する。作動油が供給されることで走行用モータM1,M2は、第一ドラム11および第二ドラム12を回転させる。これにより、振動ローラ10は、ステップS11において設定された走行速度になるように走行を開始する(ステップS13)。
【0039】
次に、オペレータによって、前輪の第一ドラム11を振動させるための振動スイッチS1がON操作される。振動スイッチS1は、前輪の第一ドラム11が施工対象である路面に到達する時点よりも前の時点でON操作される。振動スイッチS1をONさせるタイミングは、前輪の第一ドラム11が施工対象である路面に対して予め設定された所定の回数の振動を与えることができるようになるまでに要する時間に基づいて特定することができる。オペレータは、施工対象である新設アスファルト路面の位置を例えば目視で確認しながら振動スイッチS1をON操作する。あるいは、オペレータは、演算部4によって算出され、表示部Dに表示される例えば「施工地点よりも1m手前で振動スイッチS1をONしてください。」などの算出情報を参照しつつ振動スイッチS1をON操作してもよい。振動スイッチS1がONされることにより、前輪振動開始信号出力部3から振動用油圧ポンプP2に向けて前輪振動開始信号が送信される。前輪振動開始信号を受信した振動用油圧ポンプP2は、エンジンEからの動力で作動し、振動用油圧ポンプP2から前起振用モータM3に作動油を流通させる。作動油が流通されることで前起振用モータM3が起振軸X1を回転させて、前輪の第一ドラム11の振動が開始される(ステップS14)。これにより、前輪の第一ドラム11は、施工対象である路面に到達した時点で設定された所定の回数で振動するようになる。
【0040】
演算部4は、前輪の第一ドラム11の振動開始に基づいて、後輪の第二ドラム12の振動を開始させる後輪振動開始タイミングT1を算出する(ステップS15)。演算部4は、進行方向検知部21からの情報に基づいて、振動ローラ10の進行方向を検知する。また、演算部4は、走行速度検知部22からの情報に基づいて、振動ローラ10の走行速度を検知する。演算部4は、ステップS10で設定された第二ドラム12の振動数(本例では2400rpm)に基づいて、第二ドラム12が振動を開始してからその振動数がステップS10で設定されたIPF(12回)で振動を与え得る振動数に達するまでに要する時間t1を算出する。「振動数」と、「IPF」と、「時間t1」との関係は、テーブルとして予め演算部4に記憶されている。
【0041】
また、演算部4は、検知された振動ローラ10の走行速度と、前輪の第一ドラム11から後輪の第二ドラム12までの距離Lとに基づいて、後輪の第二ドラム12が距離Lを移動するのに要する時間t2を算出する。演算部4は、算出された時間t2に基づいて、後輪の第二ドラム12が施工対象である新設アスファルト路面に到達するタイミングT2を、前輪の第一ドラム11を振動させるために振動スイッチS1がON操作されたタイミングT0を基準として算出する。演算部4は、後輪の第二ドラム12が新設アスファルト路面に到達するタイミングT2から、後輪の第二ドラム12の振動数が設定されたIPF(12回)で振動を与え得る振動数に達するまでに要する時間t1だけ前のタイミングを、後輪の第二ドラム12の振動を開始させる後輪振動開始タイミングT1として算出する。演算部4は、算出された後輪振動開始タイミングT1を後輪振動開始信号出力部5に送信する。
【0042】
後輪振動開始信号出力部5は、演算部4から受信した後輪振動開始タイミングT1に基づいて、後輪の振動を開始させるための後輪振動開始信号を振動用油圧ポンプP2に向けて送信する。後輪振動開始信号を受信した振動用油圧ポンプP2は、エンジンEからの動力で作動し、振動用油圧ポンプP2から後起振用モータM4に作動油を流通させる。作動油が流通されることで後起振用モータM4は、起振軸X2を回転させて第二ドラム12を振動させる。これにより、演算部4によって算出された後輪振動開始タイミングT1において、後輪の第二ドラム12の振動が開始される(ステップS16)。また、後輪の第二ドラム12は、新設アスファルト路面の位置に到達したときに、当該路面に対して設定されているIPF(12回)で振動を与え得る振動数に達する。
【0043】
なお、演算部4は、例えば、ステップS15において、前輪の第一ドラム11が振動を開始したタイミングT0から後輪の第二ドラム12が距離Lを移動するのに要する時間t2だけ経過したタイミングを後輪の第二ドラム12の振動を開始させる後輪振動開始タイミングT1として算出するようにしてもよい。
【0044】
また、図4のフローチャートには示さないが、前輪の第一ドラム11が締固め施工区間である新設アスファルト路面の走行方向における終端部に達するタイミングで、前輪の第一ドラム11の振動を停止させるために、オペレータによって振動スイッチS1がOFF操作される。振動スイッチS1がOFFされることにより、振動用油圧ポンプP2の作動が停止し、前起振用モータM3による起振軸X1の回転が停止して前輪の第一ドラム11の振動が停止される。前輪の第一ドラム11の振動が停止されると、演算部4は、後輪の第二ドラム12が締固め施工区間である新設アスファルト路面の走行方向における終端部に到達するタイミングを、振動ローラ10の走行速度と前輪の第一ドラム11から後輪の第二ドラム12までの距離とに基づいて算出する。そして、演算部4によって算出されたタイミング、すなわち、後輪の第二ドラム12が締固め施工区間の走行方向における終端部に到達したタイミングで後輪の第二ドラム12の振動が停止される。
【0045】
また、締固め施工区間の走行方向における終端部に到達した振動ローラ10は、続いて、後進走行による締固め工事の実施へと移行する。後進走行による締固め施工の場合、振動ローラ10は、第二ドラム12を前輪として動作させ、第一ドラム11を後輪として動作させて、上記ステップS12からステップS16までと同様の処理を実行する。
【0046】
次に、振動ローラの走行時におけるエンジンの回転数とエンジンのトルクについて説明する。
図5は、従来の振動ローラ100が施工対象路面上を走行して締め固める様子を時系列で示す図である。図6は、従来の振動ローラ100の走行時におけるエンジンの回転数とトルクを示すグラフである。図7Aは、本発明の実施形態に係る振動ローラ10が施工対象路面上を走行して締め固める様子を時系列で示す図である。図7Bは、図7Aに続く締め固める様子を時系列で示す図である。図8は、本発明の実施形態に係る振動ローラ10の走行時におけるエンジンEの回転数とトルクを示すグラフである。なお、図5および図6を参照して行う従来の振動ローラ100に関する説明、および図7A図7Bおよび図8を参照して行う本発明の実施形態に係る振動ローラ10に関する説明の何れにおいても、エンジンEが定常状態で最大の回転数(約2200rpm)となるようにレバーR2の傾斜角度を設定している。
【0047】
図5及び図6に示す従来の振動ローラ100では、オペレータによって、ドラムを振動させるための振動スイッチがON操作されると、前起振用モータと後起振用モータが同時に各起振軸を回転させて、前輪のドラムと後輪のドラムとが同時に振動を開始するように構成されている。
これに対して、図7A図7B及び図8に示す本発明の実施形態に係る振動ローラ10では、上述したように、前輪の第一ドラム11が施工対象である新設アスファルト路面に到達する手前で、オペレータによって、前輪の第一ドラム11を振動させるための振動スイッチS1がON操作され、前起振用モータM3のみが起振軸X1を回転させて、前輪の第一ドラム11のみが振動を開始する。そして、その後に、演算部4によって算出された後輪振動開始タイミングT1、すなわち、後輪の第二ドラム12が施工対象である新設アスファルト路面に達するタイミングT2から、後輪の第二ドラム12が振動を開始してから施工対象である路面に対して所定の回数で振動を与え得る振動数で振動するまでに要する時間幅だけ前のタイミングで、後起振用モータM4が起振軸X2を回転させて、後輪の第二ドラム12が振動を開始するように構成されている。
【0048】
図5において、タイミングαに示される振動ローラ100は、前進走行による締固め施工において、前輪のドラム111が新設アスファルト路面の位置に到達し、オペレータの操作に基づいて前輪のドラム111と後輪のドラム112が同時に振動を開始した状態を示す。この状態は、図6において、矢印αで示されるタイミングの状態であり、前輪のドラム111と後輪のドラム112が同時に振動を開始したことによりエンジンの回転数が低下している。
【0049】
図5において、タイミングβに示される振動ローラ100は、前進走行による締固め施工において、振動ローラ100の後輪のドラム112が締固め施工区間である新設アスファルト路面の走行方向における終端部まで到達し、オペレータの操作に基づいて振動ローラ100が前進走行を停止させるとともに、前輪のドラム111及び後輪のドラム112の振動が停止した状態を示す。この状態は、図6において、矢印βで示されるタイミングの状態であり、前輪のドラム111と後輪のドラム112が同時に振動を停止させたことによりエンジンのトルクが低下している。
【0050】
図5において、タイミングγに示される振動ローラ100は、後進走行による締固め施工において、前輪のドラム112が新設アスファルト路面の位置に到達し、オペレータの操作に基づいて前輪のドラム112と後輪のドラム111が同時に振動を開始した状態を示す。この状態は、図6において、矢印γで示されるタイミングの状態であり、前輪のドラム112と後輪のドラム111が同時に振動を開始したことによりエンジンの回転数が低下している。なお、矢印γのタイミングにおけるエンジンの回転数の低下は、矢印αのタイミングにおけるエンジンの回転数の低下よりも低下幅が小さい。これは、前進走行による締固め施工において回転を開始した偏心錘を有する起振軸が振動を停止させる信号を受信した後も慣性により継続して回転しているため、後進走行による締固め施工が開始される矢印γのタイミングにおいてエンジンへの負荷が軽減されるためである。
【0051】
図5において、タイミングδに示される振動ローラ100は、後進走行による締固め施工において、振動ローラ100の後輪のドラム111が締固め施工区間である新設アスファルト路面の走行方向における終端部まで到達し、オペレータの操作に基づいて振動ローラ100が後進走行を停止させるとともに、前輪のドラム112及び後輪のドラム111の振動が停止した状態を示す。この状態は、図6において、矢印δで示されるタイミングの状態であり、前輪のドラム112と後輪のドラム111が同時に振動を停止させたことによりエンジンのトルクが低下している。
【0052】
図7Aにおいて、タイミングAに示される振動ローラ10は、前進走行による締固め施工において、前輪の第一ドラム11が新設アスファルト路面に到達する手前にあり、オペレータによって前輪の第一ドラム11を振動させるための振動スイッチS1がON操作され、前輪の第一ドラム11のみが振動を開始させた状態を示す。この状態は、図8において、矢印Aで示されるタイミングの状態であり、前輪の第一ドラム11が振動を開始したことによりエンジンの回転数が低下している。矢印Aのタイミングにおけるエンジンの回転数の低下は、図6の矢印αのタイミングにおけるエンジンの回転数の低下よりも低下幅が小さい。これは、図6の矢印αのタイミングにおいて前輪のドラム111と後輪のドラム112が同時に振動を開始したのに対して、矢印Aのタイミングにおいては後輪の第二ドラム12の振動は開始されず前輪の第一ドラム11のみが振動を開始したためである。
【0053】
図7Aにおいて、タイミングBに示される振動ローラ10は、前進走行による締固め施工において、前輪の第一ドラム11が新設アスファルト路面の位置に到達した状態を示す。このとき前輪の第一ドラム11の振動数は、新設アスファルト路面に対して設定された例えばIPF=12回で振動を与え得る振動数に達している。この状態は、図8において、矢印Bで示されるタイミングの状態である。
【0054】
図7Aにおいて、タイミングCに示される振動ローラ10は、前進走行による締固め施工において、後輪の第二ドラム12が新設アスファルト路面に到達する手前にあり、後輪振動開始タイミングT1で振動を開始させた状態を示す。この状態は、図8において、矢印Cで示されるタイミングの状態である。
【0055】
図7Aにおいて、タイミングDに示される振動ローラ10は、前進走行による締固め施工において、後輪の第二ドラム12が新設アスファルト路面の位置に到達した状態を示す。このとき後輪の第二ドラム12の振動数は、新設アスファルト路面に対して設定された例えばIPF=12回で振動を与え得る振動数に達している。この状態は、図8において、矢印Dで示されるタイミングの状態である。
【0056】
図7Aにおいて、タイミングEに示される振動ローラ10は、前進走行による締固め施工において、振動ローラ10の後輪の第二ドラム12が締固め施工区間である新設アスファルト路面の走行方向における終端部まで到達し、後輪の第二ドラム12の振動が停止した状態を示す。この状態は、図8において、矢印Eで示されるタイミングの状態である。
【0057】
次に、図7Bにおいて、タイミングFに示される振動ローラ10は、後進走行による締固め施工において、前輪の第二ドラム12が新設アスファルト路面に到達する手前にあり、オペレータによって前輪の第二ドラム12を振動させるための振動スイッチS1がON操作され、前輪の第二ドラム12のみが振動を開始させた状態を示す。この状態は、図8において、矢印Fで示されるタイミングの状態であり、前輪の第二ドラム12が振動を開始したことによりエンジンの回転数が低下している。なお、矢印Fのタイミングにおけるエンジンの回転数の低下は、矢印Aのタイミングにおけるエンジンの回転数の低下よりも低下幅が小さい。これは、図5におけるタイミングγで説明したのと同様に、前進走行の締固め施工で回転を開始した偏心錘を有する起振軸が慣性により回転を継続し、後進走行による締固め施工が開始される矢印FのタイミングにおいてエンジンEへの負荷が軽減されるためである。
【0058】
図7Bにおいて、タイミングGに示される振動ローラ10は、後進走行による締固め施工において、前輪の第二ドラム12が新設アスファルト路面の位置に到達した状態を示す。このとき前輪の第二ドラム12の振動数は、新設アスファルト路面に対して設定された例えばIPF=12回で振動を与え得る振動数に達している。この状態は、図8において、矢印Gで示されるタイミングの状態である。
【0059】
図7Bにおいて、タイミングHに示される振動ローラ10は、後進走行による締固め施工において、後輪の第一ドラム11が新設アスファルト路面に到達する手前にあり、後輪振動開始タイミングT1で振動を開始させた状態を示す。この状態は、図8において、矢印Hで示されるタイミングの状態である。
【0060】
図7Bにおいて、タイミングIに示される振動ローラ10は、後進走行による締固め施工において、後輪の第一ドラム11が新設アスファルト路面の位置に到達した状態を示す。このとき後輪の第一ドラム11の振動数は、新設アスファルト路面に対して設定された例えばIPF=12回で振動を与え得る振動数に達している。この状態は、図8において、矢印Iで示されるタイミングの状態である。なお、タイミングH-I間の時間t11、すなわち、後進走行の締固め施工において後輪の第一ドラム11が振動を開始してから新設アスファルト路面に対して設定されたIPF=12回で振動を与え得る振動数に達するまでの時間t11は、タイミングC-D間の時間t10、すなわち、前進走行の締固め施工において後輪の第二ドラム12が振動を開始してから新設アスファルト路面に対して設定されたIPF=12回で振動を与え得る振動数に達するまでの時間t10よりも短い。これは、前進走行による締固め施工において回転を開始した偏心錘を有する起振軸が振動を停止させる信号を受信した後も慣性により継続して回転しているため、後進走行による締固め施工において起振軸が所定の回転数に達するまでに要する時間が短くなるからである。
【0061】
図7Bにおいて、タイミングJに示される振動ローラ10は、後進走行による締固め施工において、振動ローラ10の後輪の第一ドラム11が締固め施工区間である新設アスファルト路面の走行方向における終端部まで到達し、後輪の第一ドラム11の振動が停止した状態を示す。この状態は、図8において、矢印Jで示されるタイミングの状態である。
【0062】
図6に示されるように、従来の振動ローラ100では、矢印αのタイミングにおいて、前輪のドラム111と後輪のドラム112が同時に振動を開始するため、エンジン(原動機)の回転数が、施工開始前の約2200rpmから約1200rpmまで下がっている。これに対して、本発明の実施形態に係る振動ローラ10の場合には、図8に示されるように、矢印Aのタイミングにおいて、前輪の第一ドラム11のみの振動が開始され、後輪の第二ドラム12の振動が開始されないため、エンジンE(原動機)の回転数は、施工開始前の約2200rpmから1800rpmまでしか下がっていない。これにより、本発明の実施形態に係る振動ローラ10では、従来の振動ローラ100と比較して、締固め施工の開始時における起振用油圧モータの負荷が大きくなるのを抑えることができる。
【0063】
なお、図6において、矢印γのタイミングは、前進走行による締固め施工が終了した後に、後進走行による締固め施工が開始されるタイミングであり、振動ローラ100の後進走行において、前輪のドラム112と後輪のドラム111とが同時に振動を開始するタイミングである。また、図8において、矢印Fのタイミングは、前進走行による締固め施工が終了した後に、後進走行による締固め施工が開始されるタイミングであり、振動ローラ10の後進走行において、前輪の第二ドラム12のみが振動を開始するタイミングである。これらのタイミングの場合にも、上記前進走行の場合と同様に、本発明の実施形態に係る振動ローラ10では、従来の振動ローラ100と比較して、締固め施工開始時における起振用油圧モータの負荷が大きくなるのを抑えることができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の振動ローラ10によれば、前輪の第一ドラム11の振動開始タイミングと後輪の第二ドラム12の振動開始タイミングとを相違させ、前輪の第一ドラム11の振動が開始されてから所定の時間が経過したタイミングで後輪の第二ドラム12の振動が開始されるように構成されている。このため、アスファルト舗装の施工時における既設アスファルト路面に対して後輪の第二ドラム12の振動による打撃を抑制することができ、既設路面に損傷が生じるのを抑制することができる。また、振動ローラ10によれば、前輪の第一ドラム11の振動が開始されてから所定の時間が経過したタイミング、すなわち、後輪の第二ドラム12が新設アスファルト路面に到達するタイミングT2から後輪の第二ドラム12の振動数が設定されたIPF(10~15回)に達するまでに要する時間t1だけ前のタイミングT1で後輪の第二ドラム12の振動が開始される。このため、新設アスファルト路面に対して後輪の第二ドラム12により所定回数の振動を正確に与えることができるので、施工対象範囲における締固め密度を均一にすることができ、アスファルト舗装の施工品質を向上させることができる。
【0065】
また、新設アスファルト路面に対する締固め施工の振動回数が、施工対象路面1フィートあたり10~15回の間、好ましくは10~12回の間となるように管理されるので、さらに施工対象範囲における締固め密度を均一にすることができ、アスファルト舗装の施工品質を向上させることができる。
【0066】
また、振動ローラ10によれば、前輪の第一ドラム11が新設アスファルト路面に到達するタイミングから前輪の第一ドラム11の振動数が設定されたIPF(10~15回)に達するまでに要する時間だけ前のタイミングで前輪の第一ドラム11の振動を開始させることも可能である。このため、新設アスファルト路面に対して前輪の第一ドラム11により所定回数の振動を正確に与えることができるので、施工対象範囲における締固め密度を均一にすることができ、アスファルト舗装の施工品質を向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態に係る振動ローラの制御装置及び制御方法によれば、上記振動ローラ10と同様に、アスファルト舗装の施工時における既設アスファルト路面に対して後輪の第二ドラム12の振動による打撃を抑制することができるので、既設路面に損傷が生じるのを抑制することができる。また、演算部4によって算出されたタイミングT1に基づいて後輪振動開始信号を出力させるので、新設アスファルト路面に対して所定回数の振動を正確に与えることができ、施工対象範囲における締固め密度を均一にすることができる。
【0068】
ところで、一般的な振動ローラにおいて、油圧モータが最も大きな動力を必要とするのは、振動ローラの走行を開始するタイミングおよび偏心錘を備えた起振軸を起振用モータによって回転させるタイミングである。一方で、振動ローラが走行を開始した後および起振軸を回転させることでドラムに生じた振動が安定した後は、上記の各タイミングに比べて油圧モータによる大きな動力を必要としない。
【0069】
これに対して、本実施形態に係る制御装置1を備えた振動ローラ10によれば、前輪の第一ドラム11と後輪の第二ドラム12との振動開始のタイミングが異なるので、前起振用モータM3と後起振用モータM4とを作動させる振動用油圧ポンプP2および振動用油圧ポンプP2を作動させるエンジンEのピーク負荷を抑えることができる(例えば、図8の矢印Aのタイミング参照)。このため、振動用油圧ポンプP2およびエンジンE等の動力源のダウンサイジングも可能になる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲およびその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【0071】
上記実施形態においては、第一ドラム11と第二ドラム12を備える振動ローラ10を例示したが、これに限定されず、例えば、ドラム(鉄輪)とタイヤを備える振動ローラであってもよい。また、第一ドラム11と第二ドラム12の両方に振動を発生させる振動ローラ10を例示したが、いずれか一方のドラムに振動を発生させるようにしてもよい。また、本発明は、アーティキュレート式だけでなく、リジッドフレーム式に採用することも可能であるし、タイヤローラ、マカダムローラ等に採用してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1:制御装置
2:走行開始信号出力部
3:前輪振動開始信号出力部
4:演算部(振動開始タイミング算出部の一例)
5:後輪振動開始信号出力部
10:振動ローラ
11:第一ドラム
12:第二ドラム
13:前部車体
14:後部車体
15:連結部
E:エンジン
M1:前走行用モータ
M2:後走行用モータ
M3:前起振用モータ
M4:後起振用モータ
P1:走行用油圧ポンプ
P2:振動用油圧ポンプ
R1:前後進レバー
R2:レバー
S1:振動スイッチ
S2:切替スイッチ
X1,X2:起振軸
Y1,Y2:偏心錘
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8