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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041875
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20220304BHJP
   C10M 159/22 20060101ALI20220304BHJP
   C10M 129/54 20060101ALI20220304BHJP
   C10M 149/14 20060101ALI20220304BHJP
   C10M 133/16 20060101ALI20220304BHJP
   C10M 139/00 20060101ALI20220304BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20220304BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20220304BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20220304BHJP
【FI】
C10M169/04 ZHV
C10M159/22
C10M129/54
C10M149/14
C10M133/16
C10M139/00 A
C10M101/02
C10N40:25
C10N30:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094578
(22)【出願日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2020146378
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】中澤 裕喜
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB24C
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BE11C
4H104BJ05C
4H104CB08C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104DB06C
4H104LA01
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】水混入時の低温流動性の悪化を低減することが可能な、内燃機関用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】(A)鉱油系基油及び/又は合成系基油からなり、100℃動粘度が3.8~4.6mm/sである潤滑油基油と、(B)サリシレート清浄剤を含む金属系清浄剤を、金属量として1000~2000質量ppm且つ組成物1kgあたりの全サリシレート石けん基の物質量として10mmol/kg以上と、(C)重量平均分子量が35万~100万かつ多分散度が4.0以下である櫛形ポリ(メタ)アクリレートを1.0~4.0質量%と、(D)無変性コハク酸イミド及び/又はホウ酸変性コハク酸イミドが全窒素分の70質量%以上を占めるコハク酸イミド分散剤を、窒素分として100~1000質量ppmとを含み、150℃におけるHTHS粘度が2.55~2.84mPa・sである、内燃機関用潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせからなり、100℃における動粘度が3.8~4.6mm/sである潤滑油基油と、
(B)1種以上の金属サリシレート清浄剤を含む金属系清浄剤を、組成物全量基準で金属量として1000~2000質量ppm、且つ組成物1kgあたりの全サリシレート石けん基の物質量として10mmol/kg以上と、
(C)重量平均分子量が350,000~1,000,000且つ多分散度が4.0以下である1種以上の櫛形ポリ(メタ)アクリレートを、組成物全量基準で樹脂分として1.0~4.0質量%と、
(D)1種以上の無変性コハク酸イミド分散剤もしくは1種以上のホウ酸変性コハク酸イミド分散剤またはそれらの組み合わせを含む、コハク酸イミド分散剤であって、該コハク酸イミド分散剤の全窒素分に占める前記無変性コハク酸イミド分散剤および前記ホウ酸変性コハク酸イミド分散剤の合計の窒素分の割合が70質量%以上である、コハク酸イミド分散剤を、組成物全量基準で窒素分として100~1000質量ppmと
を含み、
150℃におけるHTHS粘度が2.55~2.84mPa・sであることを特徴とする、内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記(A)潤滑油基油が、1種以上のAPI基油分類グループIII基油、もしくは1種以上のAPI基油分類グループIV基油、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(B)成分の含有量が、組成物1kgあたりの全石けん基の物質量として15mmol/kg以上である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(B)成分の全石けん基に占める全サリシレート石けん基の割合が50mol%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記(C)成分の重量平均分子量が400,000超1,000,000以下である、請求項1~4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記(D)成分の全ホウ素分(B)の全窒素分(N)に対する質量比(B/N)が、0~0.60である、請求項1~5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記(D)成分が、炭素数40~400のアルキル若しくはアルケニル基を有するアルキル若しくはアルケニルコハク酸若しくはその無水物と、ポリアミンとの縮合反応生成物、若しくはその変性物、又はそれらの組み合わせである、請求項1~6のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
ハイブリッド車の内燃機関の潤滑に用いられる、請求項1~7のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関はその発明以来、長年にわたり種々の輸送手段の動力源を担ってきた。近年、内燃機関に求められる省燃費性は高まる一方であり、この要求に対応するために内燃機関の潤滑油にも高い省燃費性能が求められている。
【0003】
各種の輸送手段の中でも、自動車は陸上における輸送の多くを担っており、その省燃費性の向上は重大な関心を集めている。自動車におけるさらなる省燃費性の向上のため、内燃機関と電動モーターとを組み合わせた動力ユニットを備えるハイブリッド自動車が提案され、商業的成功を収めている。ハイブリッド自動車は、駆動系には電動モーターのみが機械的に接続されており、常に電動モーターの出力で走行し、内燃機関は専ら電動モーターを駆動するための電力を発電するために最も効率の良い所定の回転数を維持するように運転される、シリーズ型のハイブリッド自動車と、内燃機関および電動モーターの両方が駆動系に機械的に接続されており、内燃機関と電動モーターとの出力負担を速度に応じて適宜配分し又は切り替えながら走行する、パラレル型のハイブリッド自動車との2種類に分類される。内燃機関には最も効率の高い回転数があり、これより低回転数になるほどトルクが低下する。電動モーターは低回転数におけるトルクは高いが高回転数になるほど効率が低下する。パラレル型のハイブリッド自動車によれば、内燃機関と電動モーターとで互いの欠点を補い合うことができるので、低速から高速まで全速度域にわたって燃料効率を高めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-196696号公報
【特許文献2】国際公開2014/136973号
【特許文献3】特開2016-196667号公報
【特許文献4】国際公開2016/152679号
【特許文献5】国際公開2014/136970号
【特許文献6】特開2019-089938号公報
【特許文献7】特開2008-144019号公報
【特許文献8】特開2017-226793号公報
【特許文献9】特開2016-148004号公報
【特許文献10】特開2013-170217号公報
【特許文献11】国際公開2014/017557号
【特許文献12】国際公開2014/017559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハイブリッド自動車、特にパラレル型のハイブリッド自動車においては、内燃機関が頻繁に始動と停止を繰り返し得る。そのような運転形態においては、エンジン油が十分な高温に達しないため、炭化水素燃料の燃焼により発生した水分が内燃機関内部で凝縮して、エンジン油中に蓄積しやすい。また、エンジン内の高温部と低温部との温度差が大きい場合には、ハイブリッド車ではない、専ら内燃機関によって走行の駆動力を発生する自動車の内燃機関においても、水分が内燃機関内部で凝縮してエンジン油中に蓄積することが懸念される。
【0006】
本発明者らは、水が混入したエンジン油においては、低温流動性が悪化しやすいことを見出した。エンジン油の低温粘度が高くなると、低温条件下においてエンジン油の撹拌抵抗が大きくなるので、燃費の悪化を招くことになる。
【0007】
本発明は、水混入時の低温流動性の悪化を低減することが可能な、内燃機関用潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記[1]~[8]の実施形態を包含する。
[1] (A)1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせからなり、100℃における動粘度が3.8~4.6mm/sである潤滑油基油と、
(B)1種以上の金属サリシレート清浄剤を含む金属系清浄剤を、組成物全量基準で金属量として1000~2000質量ppm、且つ組成物1kgあたりの全サリシレート石けん基の物質量として10mmol/kg以上と、
(C)重量平均分子量が350,000~1,000,000且つ多分散度が4.0以下である1種以上の櫛形ポリ(メタ)アクリレートを、組成物全量基準で樹脂分として1.0~4.0質量%と、
(D)1種以上の無変性コハク酸イミド分散剤もしくは1種以上のホウ酸変性コハク酸イミド分散剤またはそれらの組み合わせを含む、コハク酸イミド分散剤であって、該コハク酸イミド分散剤の全窒素分に占める前記無変性コハク酸イミド分散剤および前記ホウ酸変性コハク酸イミド分散剤の合計の窒素分の割合が70質量%以上である、コハク酸イミド分散剤を、組成物全量基準で窒素分として100~1000質量ppmとを含み、
150℃におけるHTHS粘度が2.55~2.84mPa・sであることを特徴とする、内燃機関用潤滑油組成物。
【0009】
本明細書において、「100℃における動粘度」とは、ASTM D445に規定される100℃での動粘度を意味する。「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味する。「150℃におけるHTHS粘度」とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を意味する。
【0010】
[2] 前記(A)潤滑油基油が、1種以上のAPI基油分類グループIII基油、もしくは1種以上のAPI基油分類グループIV基油、またはそれらの組み合わせである、[1]に記載の潤滑油組成物。
【0011】
[3] 前記(B)成分の含有量が、組成物1kgあたりの全石けん基の物質量として15mmol/kg以上である、[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
【0012】
[4] 前記(B)成分の全石けん基に占める全サリシレート石けん基の割合が50mol%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0013】
[5] 前記(C)成分の重量平均分子量が400,000超1,000,000以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0014】
[6] 前記(D)成分の全ホウ素分(B)の全窒素分(N)に対する質量比(B/N)が、0~0.60である、[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0015】
[7] 前記(D)成分が、炭素数40~400のアルキル若しくはアルケニル基を有するアルキル若しくはアルケニルコハク酸若しくはその無水物と、ポリアミンとの縮合反応生成物、若しくはその変性物、又はそれらの組み合わせである、[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0016】
[8] ハイブリッド車の内燃機関の潤滑に用いられる、[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、水混入時の低温流動性の悪化を低減することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳述する。なお、特に断らない限り、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。また「又は」及び「若しくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。本明細書において、要素E及びEについて「E及び/又はE」という表記は「E若しくはE、又はそれらの組み合わせ」を意味するものとし、要素E、…、E(Nは3以上の整数)について「E、…、EN-1、及び/又はE」という表記は「E、…、EN-1、若しくはE、又はそれらの組み合わせ」を意味するものとする。また本明細書において、「アルカリ土類金属」にはマグネシウムも包含されるものとする。
【0019】
なお本明細書において、別途指定のない限り、油中のカルシウム、マグネシウム、亜鉛、リン、硫黄、ホウ素、バリウム、およびモリブデンの各元素の含有量は、JIS K0116に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定されるものとする。また油中の窒素元素の含有量は、JIS K2609に準拠して化学発光法により測定されるものとする。また本明細書においてポリマーの「重量平均分子量」及び「数平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算での重量平均分子量および数平均分子量を意味する。GPCの測定条件は次の通りである。
[GPC測定条件]
装置:Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC UV RIシステム
カラム:上流側から順に、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT900A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)2本、および、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT200A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)1本を直列に接続
カラム温度:40℃
試料溶液:試料濃度1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:20.0μL
検出装置:示差屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製Agilent EasiCal(登録商標) PS-1)8点(分子量:2698000、597500、290300、133500、70500、30230、9590、2970)
上記条件に基づき測定した重量平均分子量が10000未満である場合、カラムおよび基準物質を以下条件に変更し再測定を行う。
カラム:上流側から順に、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT125A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)1本、および、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT45A(ゲル粒径1.7μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)2本を直列に接続
基準物質:標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製Agilent EasiCal(登録商標) PS-1)10点(分子量:30230、9590、2970、890、786、682、578、474、370、266)
【0020】
<(A)潤滑油基油>
本発明の内燃機関用潤滑油組成物(以下において単に「潤滑油組成物」又は「組成物」ということがある。)は、主要量の潤滑油基油と、基油以外の1種以上の添加剤とを含んでなる。本発明の潤滑油組成物において、潤滑油基油としては、1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせからなり、100℃における動粘度が3.8~4.6mm/sである潤滑油基油(以下において「(A)成分」ということがある。)が用いられる。
【0021】
潤滑油基油としては、1種以上の鉱油系基油、もしくは1種以上の合成系基油、またはそれらの混合基油を用いることができる。一の実施形態において、潤滑油基油としては、API基油分類のグループI基油(以下において「APIグループI基油」ということがある。)、グループII基油(以下において「APIグループII基油」ということがある。)、グループIII基油(以下において「APIグループIII基油」ということがある。)、グループIV基油(以下において「APIグループIV基油」ということがある。)、若しくはグループV基油(以下において「APIグループV基油」ということがある。)、又はそれらの混合基油を用いることができる。APIグループI基油は、硫黄分が0.03質量%超かつ/又は飽和分が90質量%未満であって、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。APIグループIV基油はポリα-オレフィン基油である。APIグループV基油は上記グループI~IV以外の基油であって、その好ましい例としてはエステル系基油を挙げることができる。なお本明細書において、粘度指数とは、JIS K 2283-2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。また本明細書において「潤滑油基油中の硫黄分の含有量」は、JIS K 2541-2003に準拠して測定されるものとする。また本明細書において「潤滑油基油中の飽和分の含有量」は、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。
【0022】
一の実施形態において、(A)成分としては、1種以上のAPIグループII基油、もしくは1種以上のAPIグループIII基油、もしくは1種以上のAPIグループIV基油、またはそれらの組み合わせを好ましく用いることができ、1種以上のAPIグループIII基油、もしくは1種以上のグループIV基油、またはそれらの組み合わせをより好ましく用いることができる。
【0023】
鉱油系基油の例としては、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理から選ばれる1種または2種以上の組み合わせにより精製することにより得られる、パラフィン系鉱油系基油、およびノルマルパラフィン系鉱油系基油、イソパラフィン系鉱油系基油、ならびにこれらの混合物などを挙げることができる。
【0024】
鉱油系基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)~(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはフィッシャー・トロプシュ(FT)プロセス等により得られる合成ワックス(FTワックス、ガストゥリキッド(GTL)ワックス等)
(4)基油(1)~(3)から選ばれる1種の基油、もしくは基油(1)~(3)から選ばれる2種以上の混合油、もしくはそれらのマイルドハイドロクラッキング処理油、又はそれらの混合油
(5)基油(1)~(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)~(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0025】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0026】
鉱油系基油としては、上記基油(1)~(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)~(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解基油
(10)上記基油(1)~(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化基油。脱ろう工程としては接触脱ろう工程を経て製造された基油が好ましい。
【0027】
また、上記(9)または(10)の潤滑油基油を得るに際して、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を、適当な段階で更に行ってもよい。
【0028】
また、上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)または当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM-5、ゼオライトベータ、SAPO-11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒および水素化異性化触媒は、積層または混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0029】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1~20MPa、平均反応温度150~450℃、LHSV0.1~3.0hr-1、水素/油比50~20000scf/bとすることが好ましい。
【0030】
鉱油系基油の%Cは、組成物の粘度-温度特性および省燃費性を高める観点から好ましくは70以上、より好ましくは75以上であり、また添加剤の溶解性を高める観点、および水混入時の低温流動性の悪化をさらに低減する観点から好ましくは99以下、より好ましくは95以下、さらに好ましくは94以下であり、一の実施形態において70~99、又は70~95、又は75~95、又は75~94であり得る。
【0031】
鉱油系基油の%Cは、組成物の粘度-温度特性および省燃費性を高める観点から好ましくは2以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下である。
【0032】
鉱油系基油の%Cは、添加剤の溶解性を高める観点、および水混入時の低温流動性の悪化をさらに低減する観点からから好ましくは1以上、より好ましくは4以上であり、また組成物の粘度-温度特性および省燃費性を高める観点から好ましくは30以下、より好ましくは25以下であり、一の実施形態において1~30、又は4~25であり得る。
【0033】
本明細書において%C、%Cおよび%Cとは、それぞれASTM D 3238-85に準拠した方法(n-d-M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%Cおよび%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cは0を超える値を示し得る。
【0034】
鉱油系基油における飽和分の含有量は、組成物の粘度-温度特性を高める観点から、基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。なお本明細書において飽和分とは、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。
【0035】
また、飽和分の分離方法には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記ASTM D 2007-93に記載された方法の他、ASTM D 2425-93に記載の方法、ASTM D 2549-91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0036】
鉱油系基油における芳香族分の含有量は、基油全量を基準として、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、特に好ましくは0~1質量%であり、一の実施形態において0.1質量%以上であり得る。芳香族分の含有量が上記上限値以下であることにより、新油状態での低温粘度特性および粘度-温度特性を高めることが可能になるほか、省燃費性をさらに高めることが可能になるとともに、潤滑油の蒸発損失をさらに低減して潤滑油の消費量をさらに低減することが可能になる。また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目を効果的に発揮させることが可能になる。また、潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量が上記下限値以上であることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0037】
なお、本明細書において芳香族分とは、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮環した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0038】
合成系基油の例としては、ポリα-オレフィン及びその水素化物、イソブテンオリゴマー及びその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ビス-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ビス-2-エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、並びにこれらの混合物等の合成系基油を挙げることができ、これらの中でも、ポリα-オレフィン系基油が好ましい。ポリα-オレフィン系基油の典型的な例としては、炭素数2~32、好ましくは炭素数6~16のα-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1-オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化生成物を挙げることができる。
【0039】
ポリα-オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含む触媒等の重合触媒の存在下で、α-オレフィンを重合させる方法を挙げることができる。
【0040】
潤滑油基油(全基油)の100℃における動粘度は、耐摩耗性および耐焼付き性を高める観点、ならびに潤滑油組成物の蒸発損失を低減して潤滑油の消費量を低減する観点から3.6mm/s以上、好ましくは3.8mm/s以上であり、水混入時の低温流動性の悪化を低減する観点、及び省燃費性を高める観点から4.6mm/s以下、好ましくは4.4mm/s以下であり、一の実施形態において3.6~4.6mm/s、又は3.6~4.4mm/s、又は3.8~4.4mm/sであり得る。
【0041】
潤滑油基油(全基油)の40℃における動粘度は、耐摩耗性および耐焼付き性を高める観点、ならびに潤滑油組成物の蒸発損失を低減して潤滑油の消費量を低減する観点から好ましくは16.0mm/s以上、より好ましくは16.3mm/s以上、さらに好ましくは16.6mm/s以上、特に好ましくは16.9mm/s以上であり、省燃費性および組成物の新油状態での低温粘度特性を高める観点、ならびに水混入時の低温流動性の悪化をさらに低減する観点から好ましくは25.0mm/s以下、より好ましくは23.0mm/s以下、さらに好ましくは22.0mm/s以下、特に好ましくは21.0mm/s以下であり、一の実施形態において16.0~25.0mm/s、又は16.3~23.0mm/s、又は16.6~22.0mm/s、又は16.9~21.0mm/sであり得る。なお本明細書において「40℃における動粘度」とは、ASTM D445に規定される40℃での動粘度を意味する。
【0042】
潤滑油基油(全基油)の粘度指数は、組成物の粘度-温度特性、耐摩耗性、及び省燃費性を高める観点、組成物の蒸発損失を低減して潤滑油の消費量を低減する観点、ならびに水混入時の低温流動性の悪化をさらに低減する観点から好ましくは100以上、より好ましくは105以上、さらに好ましくは110以上、特に好ましくは115以上、最も好ましくは120以上である。なお、本明細書において粘度指数とは、JIS K 2283-2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0043】
潤滑油基油(全基油)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15℃以下である。流動点が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物全体の新油状態での低温流動性を高めることが可能になる。なお、本明細書において流動点とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0044】
基油中の硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない基油を得ることができる。また、基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。潤滑油組成物の低硫黄化の観点から、潤滑油基油(全基油)中の硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。なお本明細書において基油中の「硫黄分の含有量」は、JIS K 2541-2003に準拠して測定されるものとする。
【0045】
潤滑油基油(全基油)中の窒素分の含有量は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、更に好ましくは3質量ppm以下である。本明細書において窒素分とは、JIS K 2609-1998に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0046】
潤滑油基油は、基油全体(全基油)として100℃における動粘度が3.8~4.6mm/sである限りにおいて、単一の基油成分からなってもよく、複数の基油成分を含んでもよい。
【0047】
潤滑油組成物中の潤滑油基油(全基油)の含有量は、組成物全量基準で、通常75~95質量%であり、好ましくは85~95質量%である。
【0048】
<(B):金属系清浄剤>
本発明の潤滑油組成物は、金属系清浄剤として、1種以上の金属サリシレート清浄剤を含む金属系清浄剤(以下において「(B)成分」ということがある。)を、組成物全量基準で金属量として1000~2000質量ppm、且つ組成物1kgあたりの全サリシレート石けん基の物質量として10mmol/kg以上含有する。金属系清浄剤の例としては、サリシレート系清浄剤、スルホネート系清浄剤、フェネート系清浄剤等を挙げることができる。また、(B)成分は1種の金属系清浄剤のみを含んでいてもよく、2種以上の金属系清浄剤を含んでいてもよい。
【0049】
サリシレート系清浄剤の好ましい例としては、金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。金属サリシレートの好ましい例としては、下記一般式(1)で表されるアルカリ又はアルカリ土類金属サリシレートを挙げることができる。
【0050】
【化1】

一般式(1)中、Rはそれぞれ独立に炭素数14~30のアルキルまたはアルケニル基を表し、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表し、aは1又は2を表し、nはMの価数に対応して1又は2を表す。Mがアルカリ金属であるときnは1であり、Mがアルカリ土類金属であるときnは2である。アルカリ金属としてはナトリウム又はカリウムが好ましく、アルカリ土類金属としてはカルシウム又はマグネシウムが好ましい。aとしては1が好ましい。なおa=2であるとき、Rは異なる基の組み合わせであってもよい。
【0051】
サリシレート系清浄剤の好ましい一形態としては、上記一般式(1)においてa=1であるアルカリ土類金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。
【0052】
アルカリ又はアルカリ土類金属サリシレートの製造方法は特に制限されるものではなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができる。例えば、フェノールを出発原料として、オレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいは、サリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基を反応させることにより、アルカリ又はアルカリ土類金属サリシレートを得ることができる。他の実施形態において、これらのモノアルキルサリチル酸等を一旦ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と金属交換させること等により、アルカリ土類金属サリシレートを得ることができる。
【0053】
スルホネート系清浄剤の好ましい例としては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ若しくはアルカリ土類金属塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩、より好ましくはアルカリ土類金属塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。アルキル芳香族化合物の重量平均分子量は好ましくは400~1500であり、より好ましくは700~1300である。
アルカリ金属としてはナトリウム又はカリウムが好ましく、アルカリ土類金属としてはカルシウム又はマグネシウムが好ましい。アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸が挙げられる。ここでいう石油スルホン酸としては、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。また、合成スルホン酸の一例としては、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物を回収すること、もしくは、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものを挙げることができる。合成スルホン酸の他の一例としては、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものを挙げることができる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に制限はなく、例えば発煙硫酸や無水硫酸を用いることができる。
【0054】
フェネート系清浄剤の好ましい例としては、下記一般式(2)で示される構造を有する化合物のアルカリ又はアルカリ土類金属塩の過塩基性塩、より好ましくはアルカリ土類金属塩の過塩基性塩を挙げることができる。アルカリ金属としてはナトリウム又はカリウムが好ましく、アルカリ土類金属としてはカルシウム又はマグネシウムが好ましい。
【0055】
【化2】

一般式(2)中、Rは炭素数6~21の直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和のアルキル又はアルケニル基を表し、mは重合度であって1~10の整数を表し、Aはスルフィド(-S-)基またはメチレン(-CH-)基を表し、xは1~3の整数を表す。なおRは2種以上の異なる基の組み合わせであってもよい。
【0056】
一般式(2)におけるRの炭素数は、基油に対する溶解性を高める観点から好ましくは9以上であり、また製造容易性の観点から好ましくは18以下、より好ましくは15以下であり、一の実施形態において9~18、又は9~15であり得る。
【0057】
一般式(2)における重合度mは、好ましくは1~4である。
【0058】
金属系清浄剤は、炭酸塩(例えば炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、または炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩。)で過塩基化されていてもよく、ホウ酸塩(例えばホウ酸ナトリウムやホウ酸カリウム等のアルカリ金属ホウ酸塩、またはホウ酸カルシウムやホウ酸マグネシウム等のアルカリ土類金属ホウ酸塩。)で過塩基化されていてもよい。
アルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化された金属系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭酸ガスの存在下で、金属系清浄剤(例えばアルカリ又はアルカリ土類金属フェネート、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属サリシレート等。)の中性塩をアルカリ又はアルカリ土類金属の塩基(例えばアルカリ又はアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物等。)と反応させることにより得ることができる。
アルカリ又はアルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、ホウ酸または無水ホウ酸及び任意的にホウ酸塩の存在下で、金属系清浄剤(例えばアルカリ又はアルカリ土類金属フェネート、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属サリシレート等。)の中性塩をアルカリ又はアルカリ土類金属の塩基(例えばアルカリ又はアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物等。)と反応させることにより得ることができる。ホウ酸はオルトホウ酸であってもよく、縮合ホウ酸(例えば二ホウ酸、三ホウ酸、四ホウ酸、メタホウ酸等。)であってもよい。ホウ酸塩としては、これらのホウ酸のナトリウム塩(ホウ酸塩で過塩基化されたナトリウム系清浄剤を得る場合)、カリウム塩(ホウ酸塩で過塩基化されたカリウム系清浄剤を得る場合)、カルシウム塩(ホウ酸塩で過塩基化されたカルシウム系清浄剤を得る場合)、又はマグネシウム塩(ホウ酸塩で過塩基化されたマグネシウム系清浄剤を得る場合)を好ましく用いることができる。ホウ酸塩は中性塩であってもよく、酸性塩であってもよい。ホウ酸および/またはホウ酸塩は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
(B)成分は1種以上の金属サリシレート清浄剤を含み、好ましくは1種以上のアルカリ土類金属サリシレート清浄剤を含み、より好ましくは1種以上のカルシウム又はマグネシウムサリシレート清浄剤を含む。(B)成分は1種以上の過塩基性カルシウム又はマグネシウムサリシレート清浄剤を含むことが好ましい。過塩基性カルシウムサリシレート清浄剤は炭酸カルシウムで過塩基化されていてもよく、ホウ酸カルシウムで過塩基化されていてもよい。また過塩基性マグネシウムサリシレート清浄剤は炭酸マグネシウムで過塩基化されていてもよく、ホウ酸マグネシウムで過塩基化されていてもよい。一の実施形態において、(B)成分は、金属サリシレート清浄剤に加えて、アルカリ若しくはアルカリ土類金属スルホネート清浄剤、若しくは、アルカリ若しくはアルカリ土類金属フェネート清浄剤、又はそれらの組み合わせをさらに含んでも良い。一の実施形態において、(B)成分は、1種以上の金属サリシレート清浄剤に加えて、カルシウム若しくはマグネシウムスルホネート清浄剤、若しくは、カルシウム若しくはマグネシウムフェネート清浄剤、又はそれらの組み合わせをさらに含んでもよい。ただし、水混入時の低温流動性の悪化をさらに低減する観点から、(B)成分の全石けん基に占める全サリシレート石けん基の割合は、(B)成分の全石けん基の物質量(mol)に対する、サリシレート清浄剤の全石けん基の物質量(mol)の割合として、好ましくは50~100mol%、より好ましくは60~100mol%、さらに好ましくは70~100mol%、特に好ましくは80~100mol%であり、一の実施形態において90~100mol%であり得る。同様の観点から、(B)成分の全石けん基に占める全サリシレート石けん基の割合は、(B)成分の全石けん基の有機酸換算での質量に対する、サリシレート清浄剤の全石けん基の有機酸換算での質量の割合として、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは70~100質量%、特に好ましくは80~100質量%であり、一の実施形態において90~100質量%であり得る。なお一般に潤滑油分野において、金属系清浄剤としては、基油中でミセルを形成することが可能な有機酸金属塩(例えばアルカリ又はアルカリ土類金属アルキルサリシレート、アルカリ又はアルカリ土類金属アルキルベンゼンスルホネート、及びアルカリ又はアルカリ土類金属アルキルフェネート等。)、又は該有機酸金属塩と塩基性金属塩(例えば該有機酸金属塩を構成するアルカリ又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、ホウ酸塩等。)との混合物が用いられる。そのような有機酸は通常、金属塩基(典型的には金属酸化物および/または金属水酸化物。)と塩を形成可能なブレンステッド酸性を有する少なくとも1つの極性基(例えばカルボキシ基、スルホ基、フェノール性ヒドロキシ基等。)と、直鎖または分岐鎖アルキル基(例えば炭素数6以上の直鎖または分岐鎖アルキル基等。)等の少なくとも1つの親油性基とを一分子中に有する。金属系清浄剤の石けん基とは、金属系清浄剤の石けん分を構成する有機酸の共役塩基(サリシレート清浄剤にあっては例えばアルキルサリシレートアニオン、スルホネート清浄剤にあっては例えばアルキルベンゼンスルホネートアニオン、フェネート清浄剤にあっては例えばアルキルフェネートアニオン。)を意味する。金属系清浄剤の石けん基の物質量は、該石けん基の負電荷の総量と同義である。例えば上記一般式(1)で表される金属サリシレートにおいては、サリシレート石けん基1molあたりの負電荷の総量は1molである。また例えば金属アルキルベンゼンスルホネートにおいては、スルホネート石けん基1molあたりの負電荷の総量は1molである。また例えば金属アルキルフェネートにおいては、フェネート石けん基1molあたりの負電荷の総量は1molである。また例えば上記一般式(2)で表されるフェノール化合物は金属塩基(典型的には金属酸化物および/または金属水酸化物。)と塩を形成可能なブレンステッド酸性を有するフェノール性ヒドロキシ基を1分子中にm+1個有する。該フェノール性ヒドロキシ基が全て金属塩を形成しているとき、その負電荷の総量は一般式(2)の化合物1分子あたりm+1個である。
【0060】
(B)成分中の金属含有量は、例えば1.0~20質量%、好ましくは5.0~14質量%であり得る。
【0061】
金属サリシレート清浄剤の塩基価は、好ましくは例えば150~350mgKOH/g、より好ましくは200~350mgKOH/g、特に好ましくは220~350mgKOH/gであり得る。金属スルホネート清浄剤の塩基価は、例えば200~500mgKOH/g、又は300~500mgKOH/g、又は300~420mgKOH/gであり得る。金属フェネート清浄剤の塩基価は、例えば140~420mgKOH/g、又は250~420mgKOH/g、又は250~330mgKOH/gであり得る。本明細書において塩基価とは、JIS K2501に準拠して過塩素酸法により測定される塩基価を意味する。また金属系清浄剤は一般に、溶剤や潤滑油基油等の希釈剤中での反応により得られる。そのため金属系清浄剤は、潤滑油基油等の希釈剤によって希釈された状態で商業的に流通している。本明細書において、金属系清浄剤の塩基価は、希釈剤を含む状態での塩基価を意味するものとする。また本明細書において、金属系清浄剤の金属含有量は、希釈剤を含む状態での金属含有量を意味するものとする。
【0062】
金属サリシレート清浄剤の金属比は、清浄性能および塩基価維持性を高める観点から好ましくは1.3以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.7以上、特に好ましくは2.5以上であり、また組成物の灰分を抑制する観点および排ガス後処理装置の寿命を向上させる観点から好ましくは7.0以下、より好ましくは5.5以下、さらに好ましくは4.0以下であり、一の実施形態において1.3~7.0、又は1.5~7.0、又は1.7~5.5、又は2.5~4.0であり得る。同様の観点から、金属スルホネート清浄剤の金属比は、好ましくは9.0以上、又は11.0以上、又は13.5以上、また好ましくは35.0以下、又は32.5以下、又は28.0以下、一の実施形態において9.0~35.0、又は11.0~32.5、又は13.5~28.0であり得る。同様の観点から、金属フェネート清浄剤の金属比は、好ましくは1.0以上、又は2.0以上、又は2.5以上、また好ましくは20以下、又は15以下、又は10以下、一の実施形態において1.0~20、又は2.0~15、又は2.5~10であり得る。
本明細書において、金属系清浄剤の金属比は、該金属系清浄剤が完全な中性塩のときに1となるように定義され、以下の式に従って計算される。
金属比=金属系清浄剤の全金属イオンの正電荷の総量(mol)/金属系清浄剤の全石けん基の負電荷の総量(mol)
例えば、アルカリ金属イオン1molあたりの正電荷は1molであり、アルカリ土類金属イオン1molあたりの正電荷は2molである。石けん基の負電荷の量については上記説明した通りである。
【0063】
潤滑油組成物中の(B)成分の含有量は、清浄化性能および塩基価維持性を高める観点から、組成物全量基準で金属量として1000質量ppm以上であり、好ましくは1100質量ppm以上、一の実施形態において1200質量ppm以上であり、また組成物中の灰分の増加を抑制する観点および排ガス後処理装置の寿命を向上させる観点から2000質量ppm以下であり、好ましくは1900質量ppm以下、一の実施形態において1800質量ppm以下であり、一の実施形態において1000~2000質量ppm、又は1100~1900質量ppm、又は1200~1800質量ppmであり得る。
【0064】
また潤滑油組成物中の(B)成分の含有量は、塩基価持続性を高める観点および水混入時の低温流動性の悪化を低減する観点から、組成物1kgあたりの全サリシレート石けん基の物質量として10mmol/kg以上であり、好ましくは15mmol/kg以上、一の実施形態において18mmol/kg以上であり、またスラッジを抑制する観点から好ましくは70mmol/kg以下、より好ましくは60mmol/kg以下、一の実施形態において50mmol/kg以下であり、一の実施形態において10~70mmol/kg、又は15~60mmol/kg、又は18~50mmol/kgであり得る。なお本明細書において単位「mmol」は10-3molを意味する。
【0065】
また潤滑油組成物中の(B)成分の含有量は、塩基価持続性を高める観点および水混入時の低温流動性の悪化をさらに低減する観点から、組成物1kgあたりの全石けん基の物質量として好ましくは15mmol/kg以上、より好ましくは17mmol/kg以上、一の実施形態において18mmol/kg以上であり、またスラッジを抑制する観点から好ましくは70mmol/kg以下、より好ましくは60mmol/kg以下、一の実施形態において50mmol/kg以下であり、一の実施形態において15~70mmol/kg、又は15~60mmol/kg、又は18~50mmol/kgであり得る。
【0066】
<(C)櫛形ポリ(メタ)アクリレート>
本発明の潤滑油組成物は、重量平均分子量が350,000~1,000,000且つ多分散指数が4.0以下である1種以上の櫛形ポリ(メタ)アクリレート(以下において「(C)成分」ということがある。)を、組成物全量基準で樹脂分として1.0~4.0質量%含有する。櫛形ポリ(メタ)アクリレートは非分散型ポリ(メタ)アクリレートであってもよく、分散型ポリ(メタ)アクリレートであってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
【0067】
(C)成分を構成するポリ(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ポリマー中の全単量体単位に占める下記一般式(3)で表される単量体単位の割合が10mol%以上であるポリ(メタ)アクリレート化合物(以下において「ポリ(メタ)アクリレート(C1)」又は「(C1)成分」ということがある。)好ましく採用できる。
【0068】
【化3】

(一般式(3)中、Rは水素又はメチル基を表し、Rは炭素数1~5の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、好ましくはアルキル基を表す。)
【0069】
ポリ(メタ)アクリレート(C1)において、ポリマー中の一般式(3)で表される(メタ)アクリレート単量体単位の割合は、粘度温度特性の向上効果を高める観点から好ましくは10mol%以上、より好ましくは20mol以上、さらに好ましくは30mol%以上、特に好ましくは40mol%以上であり、また基油への溶解性、粘度温度特性の向上効果、及び新油状態での低温粘度特性を高める観点から好ましくは90mol%以下、より好ましくは80mol%以下、さらに好ましくは70mol%以下であり、一の実施形態において10~90mol%、又は20~90mol%、又は30~80mol%、又は40~70mol%であり得る。
【0070】
本実施形態に係る粘度指数向上剤は、一般式(3)で表される(メタ)アクリレート単量体単位のみを含んでいてもよく、一般式(3)で表される(メタ)アクリレート単量体単位に加えて、他の(メタ)アクリレート単量体単位を含む共重合体であってもよい。このような共重合体は、下記一般式(4)で表される1種以上のモノマー(以下において「モノマー(M-1)」ということがある。)と、モノマー(M-1)以外の1種以上のモノマーとを共重合させることによって得ることができる。
【0071】
【化4】

(一般式(4)中、Rは水素又はメチル基を表し、Rは炭素数1~5の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、好ましくはアルキル基を表す。)
【0072】
モノマー(M-1)と組み合わせるモノマーは特に制限されるものではないが、例えば下記一般式(5)で表される1種以上のモノマー(以下において「モノマー(M-2)」ということがある。)若しくは下記一般式(6)で表される1種以上のモノマー(以下において「モノマー(M-3)」ということがある。)又はそれらの組み合わせが好適である。モノマー(M-1)とモノマー(M-2)及び/又はモノマー(M-3)との共重合体は、いわゆる非分散型ポリ(メタ)アクリレートである。
【0073】
【化5】

(一般式(5)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数6~18の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、好ましくはアルキル基を表す。)
【0074】
【化6】

(一般式(6)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数19以上の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、好ましくはアルキル基を表す。)
【0075】
一般式(6)で示すモノマー(M-3)中のRは、上述の通り炭素数19以上の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基であり、好ましくは炭素数20~50,000の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基、又は炭素数22~500の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基、又は炭素数24~100の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基、又は炭素数24~50の分岐鎖炭化水素基、又は炭素数24~40の分岐鎖炭化水素基である。
【0076】
ポリ(メタ)アクリレート(C1)において、ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(5)で表されるモノマー(M-2)に対応する単量体単位の割合は、粘度温度特性の向上効果を高める観点から好ましくは3mol%以上、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは10mol%以上、特に好ましくは15mol%以上であり、また基油への溶解性、粘度温度特性の向上効果、及び新油状態での低温粘度特性を高める観点から好ましくは75mol%以下、より好ましくは65mol%以下、さらに好ましくは55mol%以下、特に好ましくは45mol%以下、一の実施形態において35mol%以下であり、一の実施形態において3~75mol%、又は5~65mol%、又は10~55mol%、又は15~45mol、又は15~35mol%であり得る。
【0077】
ポリ(メタ)アクリレート(C1)において、ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(6)で表されるモノマー(M-3)に対応する単量体単位の割合は、粘度温度特性の向上効果を高める観点から好ましくは0.5mol%以上、又は1mol%以上、より好ましくは3mol%以上、さらに好ましくは5mol%以上、特に好ましくは10mol%以上であり、また粘度温度特性の向上効果および新油状態での低温粘度特性を高める観点から好ましくは70mol%以下、より好ましくは60mol%以下、さらに好ましくは50mol%以下、特に好ましくは40mol%以下、一の実施形態において30mol%以下であり、一の実施形態において0.5~70mol%、又は1~70mol%、又は3~60mol%、又は5~50mol%、又は10~40mol、又は10~30mol%であり得る。
【0078】
一の実施形態において、ポリマー中の全単量体単位に占めるモノマー(M-1)、(M-2)、及び(M-3)に対応する単量体単位の割合は、モノマー(M-1):モノマー(M-2):モノマー(M-3)=10~90mol%:3~75mol%:1~70mol%、又は20~90mol%:5~65mol%:3~60mol%、又は30~80mol%:10~55mol%:5~50mol%、又は40~70mol%:15~45mol%:10~40mol%であり得る。
【0079】
モノマー(M-1)と共重合させる他のモノマーとしては、下記一般式(7)で表される1種以上のモノマー(以下において「モノマー(M-4)」ということがある。)、若しくは下記一般式(8)で表される1種以上のモノマー(以下において「モノマー(M-5)」ということがある。)、又はそれらの組み合わせが好適である。モノマー(M-1)並びに任意的にモノマー(M-2)及び/又はモノマー(M-3)とモノマー(M-4)及び/又は(M-5)との共重合体は、いわゆる分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤である。
【0080】
【化7】

(一般式(7)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、R10は炭素数1~18のアルキレン基を表し、Eは窒素原子を1~2個、酸素原子を0~2個含有する、アミン残基又は複素環残基を表し、bは0又は1を表す。)
【0081】
10で表される炭素数1~18のアルキレン基の例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、及びオクタデシレン基(これらアルキレン基は直鎖でも分岐鎖でもよい。)等を挙げることができる。
【0082】
で表される基の例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピロリジノ基、ピペリジニル基、ピペリジノ基、キノリル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジニル基等を挙げることができる。
【0083】
【化8】

(一般式(8)中、R11は水素原子又はメチル基を表し、Eは窒素原子を1~2個、酸素原子を0~2個含有する、アミン残基または複素環残基を表す。)
【0084】
で表される基の例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピロリジノ基、ピペリジニル基、ピペリジノ基、キノリル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジニル基等を挙げることができる。
【0085】
モノマー(M-4)および(M-5)の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2-メチル-5-ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N-ビニルピロリドン、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0086】
モノマー(M-1)とモノマー(M-2)~(M-5)との共重合体における共重合比は特に制限されるものではないが、物質量比としてモノマー(M-1):モノマー(M-2)~(M-5)=20:80~90:10mol/mol程度が好ましく、より好ましくは30:70~80:20mol/mol、さらに好ましくは40:60~70:30mol/molである。
【0087】
ポリ(メタ)アクリレートの製造法は特に制限されない。例えば、重合開始剤(例えばベンゾイルパーオキシド等。)の存在下で、モノマー(M-1)~(M-3)から選ばれる1種以上のモノマーをラジカル溶液重合させることにより、非分散型ポリ(メタ)アクリレートを容易に得ることができる。また例えば、重合開始剤の存在下で、モノマー(M-1)~(M-3)から選ばれる1種以上のモノマーと、モノマー(M-4)及び(M-5)から選ばれる1種以上の含窒素モノマーとをラジカル溶液重合させることにより、分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物を容易に得ることができる。
【0088】
(C)成分は櫛形ポリ(メタ)アクリレートである。櫛形ポリマーは、幹部と、幹部に結合した2つ以上の枝部とを含む。櫛形ポリ(メタ)アクリレートの幹部はポリ(メタ)アクリレート重合鎖である。櫛形ポリ(メタ)アクリレートの枝部は、ポリ(メタ)アクリレート重合鎖以外の重合鎖であってもよく、ポリ(メタ)アクリレート重合鎖であってもよい。
【0089】
ポリ(メタ)アクリレート重合鎖を枝部として有する櫛形ポリ(メタ)アクリレートの好ましい一例としては、上記モノマー(M-1)~(M-5)から選ばれる1種以上のモノマー、好ましくは上記モノマー(M-1)、(M-2)、(M-4)、及び(M-5)から選ばれる1種以上のモノマーを重合させることにより得られ、重合性官能基を有するポリ(メタ)アクリレートマクロモノマー(M-6)(以下において「マクロモノマー(M-6)」ということがある。)を、単独で、又は上記モノマー(M-1)~(M-5)から選ばれる1種以上のモノマーとともに重合させることにより得られるポリ(メタ)アクリレート(C1)(以下において「櫛形ポリ(メタ)アクリレート(C1a)」ということがある。)を挙げることができる。マクロモノマー(M-6)は好ましくは重合鎖の末端に重合性官能基を有する。
【0090】
マクロモノマー(M-6)の数平均分子量(Mn)は、水混入時の低温流動性の悪化をさらに低減する観点から好ましくは270以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは600以上、特に好ましくは700以上であり、また製造コストの観点から好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、さらに好ましくは50,000以下、特に好ましくは20,000以下であり、一の実施形態において270~200,000、又は500~100,000、又は600~50,000、又は700~20,000であり得る。
【0091】
マクロモノマー(M-6)が有する重合性官能基の例としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、ビニルオキシ基(CH=CH-O-基)、アリル基、アリルオキシ基(CH=CH-CH-O-基)、アクロイルアミノ基(CH=CH-CONH-基)、メタクリロイルアミノ基(CH=C(CH)-CONH-基)、等を挙げることができる。
【0092】
櫛形ポリ(メタ)アクリレート(C1a)中のマクロモノマー(M-6)に対応する単量体単位の含有量は、水混入時の低温流動性の悪化をさらに低減する観点から、櫛形ポリ(メタ)アクリレート(C1a)の全単量体単位を基準として、物質量比として好ましくは30~100mol%、より好ましくは50~100mol%、さらに好ましくは70~100mol%、特に好ましくは90~100mol%である一方で、コスト削減の観点からは好ましくは90mol%以下、より好ましくは70mol%以下、さらに好ましくは50mol%以下であり、一の実施形態において30~100mol%、又は50~100mol%、又は70~100mol%、又は90~100mol%、又は30~90mol%、又は30~70mol%、又は30~50mol%、又は50~90mol%、又は50~70mol%であり得る。
【0093】
ポリ(メタ)アクリレート重合鎖以外の重合鎖を枝部として有する櫛形ポリ(メタ)アクリレートの好ましい一例としては、上記モノマー(M-1)と上記モノマー(M-3)並びに任意的に上記モノマー(M-2)、(M-4)、及び/又は(M-5)との共重合体であって、モノマー(M-3)が一般式(6)におけるRの数平均分子量(Mn)が1,000以上であるマクロモノマー(以下において「マクロモノマー(M-3a)」ということがある。)を含む形態のポリ(メタ)アクリレート(C1)(以下において「櫛形ポリ(メタ)アクリレート(C1b)」ということがある。)を挙げることができる。櫛形ポリ(メタ)アクリレート(C1b)においては、当該マクロモノマー(M-3a)のRが櫛形ポリマーの枝部を構成する。
【0094】
櫛形ポリ(メタ)アクリレート(C1b)において、マクロモノマー(M-3a)が有するR(一般式(6))の数平均分子量は1,000以上であり、好ましくは1,500以上、より好ましくは2,000以上であり、また好ましくは50,000以下、より好ましくは20,000以下、さらに好ましくは10,000以下であり、一の実施形態において1,000~50,000、又は1,500~20,000、又は2,000~10,000であり得る。そのようなマクロモノマー(M-3a)の例としては、ブタジエン及びイソプレンを共重合させることにより得られるポリオレフィンの水素化物から誘導されるRを有するマクロモノマーを挙げることができる。
【0095】
櫛形ポリ(メタ)アクリレート(C1b)において、マクロモノマー(M-3a)の共重合比は、水混入時の低温流動性の悪化をさらに低減する観点から、ポリ(メタ)アクリレートの全単量体単位を基準として物質量比として好ましくは30~100mol%、より好ましくは50~100mol%、さらに好ましくは70~100mol%、特に好ましくは90~100mol%である一方で、コスト削減の観点からは好ましくは90mol%以下、より好ましくは80mol%以下、さらに好ましくは60mol%以下、特に好ましくは40mol%以下であり、一の実施形態において30~100mol%、又は50~100mol%、又は70~100mol%、又は90~100mol%、又は30~90mol、又は30~80mol%、又は30~60mol%、又は30~40mol%、又は50~90mol%、又は50~80mol%、又は50~60mol%、又は70~90mol%、又は70~80mol%であり得る。
【0096】
(C)成分の重量平均分子量(Mw)は、水混入時の低温流動性の悪化を低減する観点から350,000以上であり、好ましくは380,000以上、一の実施形態において400,000超、例えば410,000以上であり、また省燃費性、貯蔵安定性、及びせん断安定性を高める観点から1,000,000以下、好ましくは900,000以下、一の実施形態において850,000以下、例えば800,000以下であり、一の実施形態において350,000~1,000,000、又は380,000~900,000、又は400,000超850,000以下、又は410,000~800,000であり得る。(C)成分が複数の櫛形ポリ(メタ)アクリレートを含む場合には、それぞれの櫛形ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量が上記範囲内であることが好ましい。
【0097】
(C)成分の多分散度(Polydispersity Index、PDI)は、水混入時の低温流動性の悪化を低減する観点から4.0以下であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.2以下、一の実施形態において3.1以下であり、また通常1.0超であり、製造容易性の観点から好ましくは1.1以上、より好ましくは1.5以上、一の実施形態において2.0以上であり、一の実施形態において1.0超4.0以下、又は1.1~3.5、又は1.5~3.2、又は2.0~3.1であり得る。なお本明細書においてポリマーの多分散度とは、当該ポリマーの重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)を意味する。(C)成分が複数の櫛形ポリ(メタ)アクリレートを含む場合には、それぞれの櫛形ポリ(メタ)アクリレートの多分散度が上記範囲内であることが好ましい。
【0098】
潤滑油組成物中の(C)成分の含有量は、水混入時の低温流動性の悪化を低減する観点から、組成物全量基準で樹脂分として1.0質量%以上であり、好ましくは1.3質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、一の実施形態において1.7質量%以上であり、また組成物の粘度を好ましい範囲に維持して省燃費性を高める観点およびせん断安定性を高める観点から4.0質量%以下であり、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3.2質量%以下、一の実施形態において3.1質量%以下であり、一の実施形態において1.0~4.0質量%、又は1.3~3.5質量%、又は1.5~3.3質量%、又は1.7~3.1質量%であり得る。なお本明細書において「樹脂分」とは、重量平均分子量1,000以上のポリマー成分を意味する。
【0099】
<(D)コハク酸イミド分散剤>
本発明の潤滑油組成物は、1種以上の無変性コハク酸イミド分散剤もしくは1種以上のホウ酸変性コハク酸イミド分散剤またはそれらの組み合わせを含むコハク酸イミド分散剤(以下において「(D)成分」ということがある。)を、組成物全量基準で窒素分として100~1000質量ppm含有する。(D)成分の全窒素分に占める前記無変性コハク酸イミド分散剤および前記ホウ酸変性コハク酸イミド分散剤の合計の窒素分の割合は70質量%以上である。コハク酸イミド分散剤としては、アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドまたはその変性物を用いることができる。アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの例としては、下記一般式(9)または(10)で表される化合物を挙げることができる。
【0100】
【化9】

一般式(9)中、R12は炭素数40~400のアルキル又はアルケニル基を示し、cは1~5、好ましくは2~4の整数を示す。R12の炭素数は、基油への溶解性の観点から40以上、好ましくは60以上であり、また組成物の新油状態での低温流動性の観点から400以下、好ましくは350以下であり、一の実施形態において40~400、又は60~350であり得る。
【0101】
一般式(10)中、R13及びR14は、それぞれ独立に炭素数40~400のアルキル又はアルケニル基を示し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、dは0~4、好ましくは1~4、より好ましくは1~3の整数を示す。R13及びR14の炭素数は、基油への溶解性の観点から40以上、好ましくは60以上であり、また組成物の新油状態での低温流動性の観点から400以下、好ましくは350以下であり、一の実施形態において40~400、又は60~350であり得る。
【0102】
一般式(9)及び(10)におけるR12~R14の炭素数が上記下限値以上であることにより、潤滑油基油に対する良好な溶解性を得ることができる。一方、R12~R14の炭素数が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の新油状態での低温流動性を高めることができる。
【0103】
一般式(9)及び(10)におけるアルキル又はアルケニル基(R12~R14)は直鎖状でも分枝状でもよい。その好ましい例としては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基を挙げることができる。なかでも慣用的にポリイソブチレンと呼ばれるイソブテンのオリゴマーから誘導される分枝状のアルキル又はアルケニル基や、ポリブテニル基が最も好ましい。
一般式(9)及び式(10)におけるアルキル又はアルケニル基(R12~R14)の好適な数平均分子量は800~3500、好ましくは1000~3500である。
【0104】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドには、ポリアミン鎖の一方の末端のみに無水コハク酸が付加した、一般式(9)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミン鎖の両末端に無水コハク酸が付加した、一般式(10)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含される。潤滑油組成物には、モノタイプのコハク酸イミド及びビスタイプのコハク酸イミドのいずれが含まれていてもよく、それらの両方が混合物として含まれていてもよい。(D)成分中のビスタイプのコハク酸イミド又はその誘導体の含有量は、(D)成分の全量を基準(100質量%)として好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。
【0105】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの製法は、特に制限されるものではない。該コハク酸イミドは例えば、炭素数40~400のアルキル又はアルケニル基を有するアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物と、ポリアミンとの反応により縮合反応生成物として得ることができる。(D)成分としては、該縮合生成物をそのまま用いてもよく(すなわち無変性コハク酸イミド)、該縮合生成物を後述する変性物(誘導体)に変換して用いてもよい。アルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物とポリアミンとの縮合生成物は、ポリアミン鎖の両末端がイミド化された、ビスタイプのコハク酸イミド(一般式(10)参照。)であってもよく、ポリアミン鎖の一方の末端のみがイミド化された、モノタイプのコハク酸イミド(一般式(9)参照。)であってもよく、それらの混合物であってもよい。ここで、炭素数40~400のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸無水物は例えば、炭素数40~400のオレフィンと無水マレイン酸とを100~200℃で反応させることにより得ることができる。また、該アルケニルコハク酸無水物をさらに水素添加反応に供することにより、炭素数40~400のアルキル基を有するアルキルコハク酸無水物を得ることができる。ポリアミンの例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン、並びにそれらの混合物を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種以上を含むポリアミン原料を好ましく用いることができる。ポリアミン原料はエチレンジアミンをさらに含有してもよく、含有しなくてもよいが、縮合生成物またはその誘導体の分散剤としての性能を高める観点からは、ポリアミン原料中のエチレンジアミンの含有量は、ポリアミン全量基準で好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%である。炭素数40~400のアルキル若しくはアルケニル基を有するアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物と、2種以上のポリアミンの混合物との縮合反応生成物として得られるコハク酸イミドは、一般式(9)又は(10)において異なるc又はdを有する化合物の混合物である。
【0106】
コハク酸イミドの変性物(誘導体)の例としては、(i)ホウ酸変性物、(ii)リン酸変性物、(iii)含酸素有機化合物による変性物、(iv)硫黄変性物、及び(v)これらのうち2種以上の変性の組み合わせによる変性物、を挙げることができる。
(i)ホウ酸変性物は、上述のコハク酸イミドにホウ酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物(ホウ酸変性コハク酸イミド)である。
(ii)リン酸変性物は、上述のコハク酸イミドにリン酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物(リン酸変性コハク酸イミド)である。
(iii)含酸素有機化合物による変性化合物は、上述のコハク酸イミドに、脂肪酸等の炭素数1~30のモノカルボン酸、炭素数2~30のポリカルボン酸(例えばシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等。)、これらの無水物もしくはエステル化合物、炭素数2~6のアルキレンオキサイド、又はヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたことにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物(含酸素有機化合物変性コハク酸イミド)である。
(iv)硫黄変性物は、上述のコハク酸イミドに硫黄化合物を作用させることにより得られる変性化合物(硫黄変性コハク酸イミド)である。
(v)2種以上の変性の組み合わせによる変性化合物は、上述のコハク酸イミドにホウ素変性、リン酸変性、含酸素有機化合物による変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせて施すことにより得ることができる。
これら(i)~(v)の変性物(誘導体)の中でも、ホウ酸変性コハク酸イミド、特にビスタイプのアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性物を好ましく用いることができる。
【0107】
(D)成分の分子量には特に制限は無いが、好適な重量平均分子量は1000~20000、より好ましくは2000~20000、さらに好ましくは3000~15000、特に好ましくは4000~9000である。
【0108】
(D)成分は1種以上の無変性コハク酸イミド分散剤のみを含んでいてもよく、1種以上のホウ酸変性コハク酸イミド分散剤のみを含んでいてもよく、それらの両方を含んでいてもよい。また(D)成分は無変性コハク酸イミド分散剤および/またはホウ酸変性コハク酸イミドに加えて、上記説明した変性コハク酸イミドであってホウ酸変性物以外のものをさらに含んでいても良い。ただし、(D)成分の全窒素分に占める無変性コハク酸イミド分散剤およびホウ酸変性コハク酸イミド分散剤の合計の窒素分の割合は、水混入時の低温流動性の悪化を低減する観点から70~100質量%であり、好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%、特に好ましくは95~100質量%である。
【0109】
潤滑油組成物中の(D)成分の含有量は、水混入時の低温流動性の悪化を低減する観点、ならびに耐コーキング性および添加剤の溶解性を高める観点から、組成物全量基準で窒素分として好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは200質量ppm以上、さらに好ましくは300質量ppm以上、特に好ましくは400質量ppm以上であり、また組成物の省燃費性および新油状態での低温流動性を高める観点から1000質量ppm以下、好ましくは900質量ppm以下、より好ましくは800質量ppm以下、特に好ましくは700質量ppm以下であり、一の実施形態において100~1000質量ppm、又は200~900質量ppm、又は300~800質量ppm、又は400~700質量ppmであり得る。
【0110】
(D)成分に由来する潤滑油組成物中のホウ素含有量は、省燃費性を高める観点および組成物の灰分量を低減する観点から、組成物全量基準で好ましくは0~500質量ppm、より好ましくは0~400質量ppm、さらに好ましくは0~350質量ppm、特に好ましくは0~300質量ppmである。
【0111】
(D)成分の全ホウ素分(B)の全窒素分(N)に対する質量比(B/N)は、水混入時の低温流動性の悪化をさらに低減する観点から、好ましくは0~0.69、より好ましくは0~0.62、さらに好ましくは0~0.54、特に好ましくは0~0.50である。
【0112】
<(E)ジアルキルジチオリン酸亜鉛>
一の好ましい実施形態において、本発明の潤滑油組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP;以下において「(E)成分」ということがある。)をさらに含有し得る。(E)成分としては、例えば下記一般式(11)で表される化合物を用いることができる。
【0113】
【化10】

一般式(11)中、R15~R18は、それぞれ独立に炭素数1~24の直鎖状又は分枝状のアルキル基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、R15~R18の炭素数は好ましくは3~12、より好ましくは3~8である。また、R15~R18は、第1級アルキル基、第2級アルキル基、及び第3級アルキル基のいずれであってもよいが、第1級アルキル基もしくは第2級アルキル基またはそれらの組み合わせであることが好ましく、さらに第1級アルキル基と第2級アルキル基とのモル比(第1級アルキル基:第2級アルキル基)が、0:100~30:70であることが好ましい。この比は分子内のアルキル鎖の組み合わせ比であっても良く、第1級アルキル基のみを有するZnDTPと第2級アルキル基のみを有するZnDTPとの混合比であっても良い。第2級アルキル基が主であることにより、省燃費性をさらに高めることが可能になる。
【0114】
上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、R15~R18に対応するアルキル基を有するアルコールを五硫化二リンと反応させてジチオリン酸を合成し、これを酸化亜鉛で中和することにより、上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛を合成することができる。
【0115】
潤滑油組成物中の(E)成分の含有量は、排ガス後処理装置の触媒被毒を低減する観点から、組成物全量基準でリン量として好ましくは0~1000質量ppm、より好ましくは0~900質量ppm、さらに好ましくは0~800質量ppmであり、また耐摩耗性および過早着火抑制能を高める観点から好ましくは400質量ppm以上、より好ましくは500質量ppm以上、さらに好ましくは600質量ppm以上であり、一の実施形態において700~800質量ppm、又は750~800質量ppm、又は770~800質量ppmであり得る。
【0116】
<(F)油溶性有機モリブデン化合物>
一の好ましい実施形態において、本発明の潤滑油組成物は、油溶性有機モリブデン化合物(以下において「(F)成分」ということがある。)をさらに含有し得る。(F)成分はモリブデン系摩擦調整剤として作用する。
【0117】
(F)成分としては、モリブデンジチオカーバメート(硫化モリブデンジチオカーバメート又は硫化オキシモリブデンジチオカーバメート。以下において「(F1)成分」ということがある。)を好ましく用いることができる。
【0118】
(F1)成分としては、例えば下記一般式(12)で表される化合物を用いることができる。
【0119】
【化11】

一般式(12)中、R19~R22は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2~24のアルキル基又は炭素数6~24の(アルキル)アリール基、好ましくは炭素数4~13のアルキル基又は炭素数10~15の(アルキル)アリール基である。アルキル基は第1級アルキル基、第2級アルキル基、第3級アルキル基のいずれでもよく、また直鎖でも分岐鎖でもよい。なお「(アルキル)アリール基」は「アリール基若しくはアルキルアリール基」を意味する。アルキルアリール基において、芳香環におけるアルキル基の置換位置は任意である。Y~Yはそれぞれ独立に硫黄原子又は酸素原子であり、Y~Yのうち少なくとも1つは硫黄原子である。
【0120】
(F1)成分以外の油溶性有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート;モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等。)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等。)又はその他の有機化合物との錯体等;および、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等の、硫黄を含有する有機モリブデン化合物を挙げることができる。なお有機モリブデン化合物は、単核モリブデン化合物であってもよく、二核モリブデン化合物や三核モリブデン化合物等の多核モリブデン化合物であってもよい。
【0121】
また、(F1)成分以外の油溶性有機モリブデン化合物として、硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることも可能である。硫黄を含まない有機モリブデン化合物の例としては、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン-アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0122】
潤滑油組成物の(F)成分の含有量は、潤滑油組成物の貯蔵安定性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準でモリブデン量として好ましくは0~2000質量ppm、より好ましくは0~1500質量ppm、さらに好ましくは0~1200質量ppmであり、また省燃費性および過早着火抑制能を高める観点から好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは200質量ppm以上、さらに好ましくは300質量ppm以上であり、一の実施形態において50~2000質量ppm、又は200~1500質量ppm、又は300~1200質量ppmであり得る。
【0123】
<その他の添加剤>
本発明の潤滑油組成物には、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている他の添加剤をさらに配合できる。そのような添加剤の例としては、(E)成分以外の摩耗防止剤または極圧剤、(F)成分以外の摩擦調整剤、(E)成分以外の酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、抗乳化剤、消泡剤等を挙げることができる。
【0124】
(E)成分以外の摩耗防止剤または極圧剤としては、潤滑油に用いられる摩耗防止剤または極圧剤を特に制限なく使用できる。その例としては、硫黄系、リン系、硫黄-リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等を挙げることができる。これらの中では硫黄系極圧剤が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
潤滑油組成物が(E)成分以外の摩耗防止剤または極圧剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.01~10質量%であり得る。
【0125】
(F)成分以外の摩擦調整剤としては、潤滑油用の無灰摩擦調整剤として通常用いられている化合物を特に制限なく用いることができる。無灰摩擦調整剤の例としては、炭素数6以上の炭化水素基と、酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選ばれる1種以上のヘテロ元素を含む官能基とを分子中に有する、炭素数6~50の化合物を挙げることができる。さらに具体的な例としては、炭素数8~36の脂肪族ヒドロカルビル又は脂肪族ヒドロカルビルカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪族アミン、脂肪酸アミド、脂肪酸ヒドラジド、脂肪族イミド化合物、脂肪族ウレア化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、等の化合物を挙げることができる。
潤滑油組成物が(F)成分以外の摩擦調整剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.1~1.0質量%、例えば0.3~0.8質量%であり得る。
【0126】
(E)成分以外の酸化防止剤の例としては、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、等の公知の無灰酸化防止剤を挙げることができる。
【0127】
芳香族アミン系酸化防止剤の例としては、アルキル化α-ナフチルアミン等の第1級芳香族アミン化合物;及び、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン等の第2級芳香族アミン化合物;を挙げることができる。芳香族アミン系酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、若しくはアルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、又はそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
【0128】
ヒンダードアミン系酸化防止剤の例としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を有する化合物(2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体)を挙げることができる。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体としては、4-位に置換基を有する2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体が好ましい。また、2個の2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格が、それぞれの4-位の置換基を介して結合していてもよい。また2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格のN-位は無置換であってもよく、該N-位に炭素数1~4のアルキル基が置換していてもよい。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格は好ましくは2,2,6,6-テトラメチルピペリジン骨格である。
【0129】
2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位の置換基としては、アシロキシ基(R23COO-)、アルコキシ基(R23O-)、アルキルアミノ基(R23NH-)、アシルアミノ基(R23CONH-)、等を挙げることができる。R23は好ましくは炭素数1~30、より好ましくは炭素数1~24、さらに好ましくは炭素数1~20の炭化水素基である。炭化水素基の例としてはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等を挙げることができる。
【0130】
2個の2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格が、それぞれの4-位の置換基を介して結合する場合の置換基としては、ヒドロカルビレンビス(カルボニルオキシ)基(-OOC-R24-COO-)、ヒドロカルビレンジアミノ基(-HN-R24-NH-)、ヒドロカルビレンビス(カルボニルアミノ)基(-HNCO-R24-CONH-)、等を挙げることができる。R24は好ましくは炭素数1~30のヒドロカルビレン基であり、より好ましくはアルキレン基である。
【0131】
2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位の置換基としては、アシロキシ基が好ましい。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位にアシロキシ基を有する化合物の一例としては、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとカルボン酸とのエステルを挙げることができる。該カルボン酸の例としては、炭素数8~20の直鎖又は分岐鎖脂肪族カルボン酸を挙げることができる。
【0132】
フェノール系酸化防止剤の例としては、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール);2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール);2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール;2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール;2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール;2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N’-ジメチルアミノメチル)フェノール;4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド;3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エステル類;3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール脂肪酸エステル類、等のヒンダードフェノール化合物およびビスフェノール化合物を挙げることができる。3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エステル類の例としては、オクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;デシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ドデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;テトラデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ヘキサデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート];2,2’-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、等を挙げることができる。
【0133】
潤滑油組成物が(E)成分以外の酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.1~5.0質量%、例えば0.5~3.0質量%であり得る。
【0134】
腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を使用可能である。潤滑油組成物が腐食防止剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.005~5質量%であり得る。
【0135】
防錆剤としては、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸石けん、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪族アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等の公知の防錆剤を使用可能である。潤滑油組成物が防錆剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.005~5質量%であり得る。なお本明細書においては、金属系清浄剤として市販されている添加剤でなくとも、基油中でミセルを形成可能な有機酸金属塩は全て上記(B)成分すなわち金属系清浄剤の含有量に寄与するものとする。
【0136】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、並びにβ-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等の公知の金属不活性化剤を使用可能である。潤滑油組成物が金属不活性化剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.005~1質量%であり得る。
【0137】
抗乳化剤としては、例えばポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等の公知の抗乳化剤を使用可能である。潤滑油組成物が抗乳化剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.005~5質量%であり得る。
【0138】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、及びフルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を使用可能である。潤滑油組成物が消泡剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.0001~0.1質量%であり得る。
【0139】
着色剤としては、例えばアゾ化合物等の公知の着色剤を使用可能である。
【0140】
<潤滑油組成物>
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、潤滑性を高める観点から好ましくは7.0mm/s以上、より好ましくは7.2mm/s以上、さらに好ましくは7.4mm/s以上であり、また省燃費性を高める観点から好ましくは8.5mm/s以下、より好ましくは8.4mm/s以下、さらに好ましくは8.3mm/s以下であり、一の実施形態において7.0~8.5mm/s、又は7.2~8.4mm/s、又は7.4~8.3mm/sであり得る。
【0141】
潤滑油組成物の40℃における動粘度は、潤滑性を高める観点から好ましくは20.0mm/s以上、より好ましくは23.0mm/s以上、さらに好ましくは26.0mm/s以上であり、また省燃費性および新油状態での低温粘度特性を高める観点から好ましくは40.0mm/s以下、より好ましくは36.0mm/s以下、さらに好ましくは32.0mm/s以下であり、一の実施形態において20.0~40.0mm/s、又は23.0~36.0mm/s、又は26.0~32.0mm/sであり得る。
【0142】
潤滑油組成物の粘度指数は、150℃におけるHTHS粘度を維持しながら省燃費性を高める観点、および組成物の新油状態での低温(例えば省燃費油の粘度グレードとして知られるSAE粘度グレード0W-Xに規定されるCCS粘度の測定温度である-35℃。)における粘度を低減させる観点から、好ましくは140以上、より好ましくは160以上、さらに好ましくは180以上、特に好ましくは200以上であり、一の実施形態において220以上、又は230以上、又は240以上であり得る。潤滑油組成物の粘度指数の上限は特に制限されるものではないが、例えば280以下、又は270以下、又は260以下であり得る。
【0143】
潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、潤滑性を高める観点から2.55mPa・s以上であり、省燃費性を高める観点から2.84mPa・s以下である。本明細書において、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を意味する。
【0144】
潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は、潤滑性を高める観点から好ましくは4.0mPa・s以上、より好ましくは4.5mPa・s以上であり、省燃費性を高める観点から好ましくは5.7mPa・s以下、より好ましくは5.3mPa・s以下であり、一の実施形態において4.5~5.3mPa・s、又は4.7~5.2mPa・sであり得る。なお本明細書において、「100℃におけるHTHS粘度」とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を意味する。
【実施例0145】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0146】
<実施例1~15、比較例1~14>
以下に示す基油および添加剤を用いて、本発明の潤滑油組成物(実施例1~15)及び比較用の潤滑油組成物(比較例1~14)をそれぞれ調製した。各組成物の組成を表1~6に示す。表1~6中、「基油組成」の項目において「質量%」は基油全量を基準(100%)とする質量%を表し、他の項目において「質量%」は組成物全量を基準(100%)とする質量%を表し、「樹脂分質量%」は組成物全量を基準(100%)とする樹脂分としての質量%を表し、「質量ppm」は組成物全量を基準とする質量ppmを表し、元素Xについて「質量ppm/X」は組成物全量基準での元素Xの量としての質量ppmを表す。
【0147】
(基油)
O-1: APIグループIII基油(水素化分解鉱油系基油、SKルブリカンツ社製Yubase(登録商標)4)、動粘度(100℃)4.2mm/s、動粘度(40℃)19.3mm/s、粘度指数125、%C 79.4、%C 20.6、%C 0.0、硫黄分10質量ppm未満
O-2: APIグループIV基油(ポリα-オレフィン基油、INEOS社製Durasyn(登録商標)164)、動粘度(100℃)3.9mm/s、動粘度(40℃)17.4mm/s、粘度指数122
O-3: APIグループIV基油(ポリα-オレフィン基油、INEOS社製Durasyn(登録商標)145)、動粘度(100℃)5.2mm/s、動粘度(40℃)25.0mm/s、粘度指数144
【0148】
(金属系清浄剤)
B-1:炭酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート、Ca含有量8.0質量%、塩基価(過塩素酸法)225mgKOH/g、金属比3.3
B-2:炭酸マグネシウム過塩基化マグネシウムサリシレート、Mg含有量7.5質量%、塩基価(過塩素酸法)342mgKOH/g、金属比3.3
B-3:炭酸カルシウム過塩基化カルシウムスルホネート、Ca含有量11.6質量%、塩基価(過塩素酸法)302mgKOH/g、金属比13.9
B-4:炭酸マグネシウム過塩基化マグネシウムスルホネート、Mg含有量9.1質量%、塩基価(過塩素酸法)405mgKOH/g、金属比27.7
【0149】
(ポリマー)
C-1:櫛形ポリ(メタ)アクリレート、重量平均分子量770,000、多分散度2.31
C-2:櫛形ポリ(メタ)アクリレート、重量平均分子量420,000、多分散度3.04
C-3;櫛形ポリ(メタ)アクリレート、重量平均分子量430,000、多分散度5.16
C-4:櫛形ポリ(メタ)アクリレート、重量平均分子量150,000、多分散度2.48
C-5:線状ポリ(メタ)アクリレート、重量平均分子量560,000、多分散度2.31
C-6:分散型線状ポリ(メタ)アクリレート、重量平均分子量290,000、多分散度3.95
C-7:水素化スチレン・イソプレン共重合体、重量平均分子量440,000、多分散度1.55
【0150】
(コハク酸イミド分散剤)
D-1:無変性ポリブテニルコハク酸イミド、N含有量1.2質量%
D-2:ホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミド、N含有量5.5質量%、B含有量2.6質量%
D-3:ホルムアミド変性ポリブテニルコハク酸イミド、N含有量1.1質量%
【0151】
(E)ZnDTP::ジアルキルジチオリン酸亜鉛、P含有量15.6質量%、S含有量32.3質量%、Zn含有量16.5質量%、アルキル基:第1級C8アルキル基、イソプロピル基、及び第2級C6アルキル基の組み合わせ
【0152】
(F)MoDTC:硫化(オキシ)モリブデンジチオカーバメート(ADEKA社製サクラルーブ(登録商標)515)、Mo含有量10.1質量%
【0153】
(酸化防止剤)
G-1:アミン系酸化防止剤(ジフェニルアミン)
G-2:ヒンダードフェノール系酸化防止剤
【0154】
(他の添加剤)
抗乳化(防錆)剤:酢酸ビニル-フマル酸アルキル共重合物
【0155】
【表1】
【0156】
【表2】
【0157】
【表3】
【0158】
【表4】
【0159】
【表5】
【0160】
【表6】
(鉄球沈下試験)
各潤滑油組成物について、ASTM D7563を参考とし、以下の試験により水混入時の低温流動性を評価した。
潤滑油組成物に水およびレギュラーガソリンを添加混合することにより、水分が混入した試料油を調製した。試料油中の水分とレギュラーガソリンの含有量は試料全量基準でそれぞれ15質量%とした。試料油300gを500mLビーカーに入れ、ホモジナイザー(POLYTRON PT 10-35 GT、シャフトはPT-DA 20/2 EC-B193)のシャフト先端からビーカー底までの距離が5mmになるようにビーカー及びホモジナイザーを固定し、ホモジナイザーのシャフト回転数12000rpmで試料油を13分攪拌した。その後、試料油をビーカーから500mLメスシリンダー(内径52mm)に移した。攪拌から10分以内にメスシリンダーを恒温槽に入れ、25℃から冷却速度-10℃/hで-30℃まで冷却し、そのまま-30℃で40時間冷却した。冷却後、恒温槽からメスシリンダーを取り出して10秒以内に、試料油の液面に鉄球(質量0.25mg)を静かに乗せた後、鉄球を解放して、鉄球が試料油液面から沈下してメスシリンダーの底面に到達するまでの所要時間を測定した。結果を表1~6に示している。沈下の所要時間が短いほど、水混入時の低温流動性が良好であることを意味する。なお表1~6中、「測定不可」との記載は、鉄球の沈下が観察されなかった(鉄球によって試料油に印加されるせん断応力が試料油の降伏応力に達しなかった)ことを意味する。
【0161】
(評価結果)
実施例1~15の潤滑油組成物は、いずれも鉄球の沈下が速く、すなわち水混入時の低温流動性が良好であった。
ポリマーとして多分散度が4.0を超える櫛形ポリ(メタ)アクリレートを用いた比較例1の組成物は、鉄球沈下試験において鉄球の沈下が観察されなかった。
ポリマーとして重量平均分子量が350,000未満の櫛形ポリ(メタ)アクリレートを用いた比較例2の組成物は、鉄球沈下試験において鉄球の沈下が観察されなかった。
ポリマーとして櫛形ではないポリ(メタ)アクリレートを用いた比較例3及び4の組成物は、鉄球沈下試験において鉄球の沈下が観察されなかった。
ポリマーとして水素化スチレン・イソプレン共重合体を用いた比較例5の組成物は、鉄球沈下試験において鉄球の沈下が観察されなかった。
金属系清浄剤としてスルホネート清浄剤のみを用いた比較例6~9の組成物は、鉄球沈下試験において鉄球の沈下が観察されないか、又は沈下の所要時間が実施例の組成物に比べて著しく長かった。
金属系清浄剤のサリシレート石けん基としての含有量が過少であった比較例10の組成物は、鉄球の沈下は観察されたものの、沈下の所要時間が実施例の組成物に比べて著しく長かった。
コハク酸イミド分散剤としてホウ酸以外の化合物(ホルムアミド)により変性されたコハク酸イミド分散剤のみを用いた比較例11の組成物は、鉄球沈下試験において鉄球の沈下が観察されなかった。
コハク酸イミド分散剤の全窒素分に占める無変性コハク酸イミド分散剤およびホウ酸変性コハク酸イミド分散剤の合計の割合が過少であった比較例12及び13の組成物は、鉄球の沈下が観察されないか、又は沈下の所要時間が実施例の組成物に比べて著しく長かった。
全基油の100℃における動粘度が過大であった比較例14の組成物は、鉄球の沈下は観察されたものの、沈下の所要時間が実施例の組成物に比べて著しく長かった。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、水混入時の低温流動性の悪化を低減することが可能である。したがって本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、内部に水が蓄積しやすい条件で運転される内燃機関、特にハイブリッド自動車のエンジン、とりわけパラレル型ハイブリッド自動車のエンジンの潤滑に好ましく用いることができる。