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特開2022-41906水素吸蔵合金、この水素吸蔵合金を含む負極及びこの負極を含むニッケル水素二次電池
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  • 特開-水素吸蔵合金、この水素吸蔵合金を含む負極及びこの負極を含むニッケル水素二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041906
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金、この水素吸蔵合金を含む負極及びこの負極を含むニッケル水素二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20220304BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20220304BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20220304BHJP
   C22C 19/00 20060101ALI20220304BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220304BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20220304BHJP
【FI】
H01M4/38 A
H01M10/30 Z
C22C19/03 M
C22C19/00 F
C22F1/00 621
C22F1/00 641A
C22F1/00 661C
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123214
(22)【出願日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2020145827
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】大畠 昇太
(72)【発明者】
【氏名】石田 潤
(72)【発明者】
【氏名】江原 友樹
(72)【発明者】
【氏名】木原 勝
【テーマコード(参考)】
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H028AA06
5H028EE01
5H028HH01
5H050AA06
5H050AA07
5H050BA14
5H050CA03
5H050CB16
5H050EA12
5H050EA27
5H050FA12
5H050FA19
5H050HA02
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】ニッケル水素二次電池のサイクル寿命特性を低下させることなく、低温放電特性を向上させることができる水素吸蔵合金、この水素吸蔵合金を含む負極及びこの負極を含むニッケル水素二次電池を提供する。
【解決手段】ニッケル水素二次電池2は、外装缶10と、外装缶10内にアルカリ電解液とともに収容された電極群22とを備え、電極群22は、セパレータ28を介して重ね合わされた正極24及び負極26を含んでおり、負極26は、ニッケル水素二次電池用の水素吸蔵合金であって、単一の組成を有しており、且つ、複数の結晶相で構成されている、水素吸蔵合金を含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル水素二次電池用の水素吸蔵合金において、単一の組成を有しており、且つ、複数の結晶相で構成されている、水素吸蔵合金。
【請求項2】
前記複数の結晶相について、Cu-Kα線をX線源とするX線回折パターンを測定した際に得られる、2θ=30.3°における回折ピークの強度をI1とし、2θ=32.8°における回折ピークの強度をI2とし、2θ=31.5°における回折ピークの強度をI3とした場合に、I1/I2で表される強度比Aが0.02≦A<0.14の範囲にあり、且つ、I3/I2で表される強度比Bが0.02<B<0.31の範囲にある、請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記組成は、一般式:Ln1-xMgNiy-zAl(ただし、式中、Lnは、Zr及び希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素を表し、添字x、y、及びzは、それぞれ、x≦0.30、3.3≦y≦3.6、z≦0.25を満たしている)で表される、請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
前記Lnは、Laである、請求項3に記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の水素吸蔵合金を含んでいる、ニッケル水素二次電池用の負極。
【請求項6】
容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群とを備え、
前記電極群は、セパレータを介して互いに重ね合わされた正極及び負極を含み、
前記負極は、請求項5に記載の負極である、ニッケル水素二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金、この水素吸蔵合金を含む負極及びこの負極を含むニッケル水素二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ二次電池の一種としてニッケル水素二次電池が知られている。このニッケル水素二次電池は、ニッケルカドミウム二次電池に比べて高容量で、且つ、環境安全性にも優れているという点から、各種のポータブル機器やハイブリッド電気自動車等の各種機器に使用されるようになっており、用途が拡大している。このように用途が拡大していることから、ニッケル水素二次電池には、より高性能化が望まれている。
【0003】
ニッケル水素二次電池に求められる高度化すべき性能の一つとして、低温放電特性がある。ここで、低温放電特性とは、低温環境下でどの程度放電できるかの度合いであり、低温放電特性に優れる電池とは、低温環境下であっても長時間にわたり高容量の放電が可能な電池を指す。
【0004】
ニッケル水素二次電池においては、低温放電特性を改善するために多くの研究がなされており、例えば、特許文献1に示されるようなニッケル水素二次電池が知られている。特許文献1のニッケル水素二次電池は、水素吸蔵合金の粒子の表面を改質する手法を用いることにより、低温放電特性の改善が図られている。また、この他にも、水素吸蔵合金の組成を改良する手法や、水素吸蔵合金の粒子サイズを小径化する手法を用いることにより、ニッケル水素二次電池の低温放電特性を改善することが行われている。これらの手法を採用すると、水素吸蔵合金の表面の活性が高められ、それにともない負極の反応性が向上するので、低温環境下においても良好な放電特性を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-030702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したような低温放電特性を改善する手法では、基本的に水素吸蔵合金の表面の活性が高められるので、水素吸蔵合金とアルカリ電解液との反応も過剰となりやすい。このため、水素吸蔵合金の腐食が進行しやすく早期に水素吸蔵合金の劣化が起こってしまう。水素吸蔵合金が劣化すると、水素の吸蔵放出が困難となり、電池反応が阻害され、電池のサイクル寿命が早期に尽きてしまう。また、水素吸蔵合金とアルカリ電解液との反応にともない、アルカリ電解液が消費されて減少していく。そして、アルカリ電解液が減少するとセパレータのドライアウトにより電池の内部抵抗が増加するため放電が困難となる。その結果、電池のサイクル寿命が早期に尽きてしまう。
【0007】
上記したように、低温放電特性を改善するために水素吸蔵合金の表面の活性を高めると、低温放電特性は改善できるものの、サイクル寿命特性が低下してしまうという問題がある。
【0008】
ニッケル水素二次電池においては、なるべく多くの回数の繰り返し使用にも耐えられるように長寿命であることも求められている。このため、優れた低温放電特性と、優れたサイクル寿命特性とを兼ね備えたニッケル水素二次電池の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、ニッケル水素二次電池のサイクル寿命特性を低下させることなく、低温放電特性を向上させることができる水素吸蔵合金、この水素吸蔵合金を含む負極及びこの負極を含むニッケル水素二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によればニッケル水素二次電池用の水素吸蔵合金において、単一の組成を有しており、且つ、複数の結晶相で構成されている、水素吸蔵合金が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水素吸蔵合金は、ニッケル水素二次電池用の水素吸蔵合金において、単一の組成を有しており、且つ、複数の結晶相で構成されている。本発明の水素吸蔵合金を含んでいる負極が組み込まれたニッケル水素二次電池は、低温放電特性の向上とサイクル寿命特性の向上の両立が図れる。よって、本発明によれば、ニッケル水素二次電池の低温放電特性及びサイクル寿命特性の両立を図ることに貢献する水素吸蔵合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係るニッケル水素二次電池を部分的に破断して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、一実施形態について、図1に示すようなAAサイズの円筒型のニッケル水素二次電池(以下、電池という)2を例に説明する。
【0014】
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10は導電性を有し、その底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の開口には、封口体11が固定されている。この封口体11は、蓋板14及び正極端子20を含み、外装缶10を封口するとともに正極端子20を提供する。蓋板14は、導電性を有する円板形状の部材である。外装缶10の開口内には、蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。即ち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0015】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有し、蓋板14の外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状をなす金属製の正極端子20が電気的に接続されている。この正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、正極端子20には、図示しないガス抜き孔が設けられている。
【0016】
通常時、中央貫通孔16は弁体18によって気密に閉じられている。一方、外装缶10内にガスが発生し、その内圧が高まれば、弁体18は内圧によって圧縮され、中央貫通孔16を開き、その結果、外装缶10内から中央貫通孔16及び正極端子20のガス抜き孔(図示せず)を介して外部にガスが放出される。つまり、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池2のための安全弁を形成している。
【0017】
外装缶10には、電極群22が収容されている。この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28を含んでいる。詳しくは、これら正極24及び負極26は、セパレータ28を間に挟み込んだ状態で渦巻状に巻回されている。即ち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が互いに重ね合わされている。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成されており、外装缶10の内周壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0018】
外装缶10内には、電極群22の一端と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、正極リード30は、その一端が正極24に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は上部絶縁部材32に設けられたスリット39内を通って延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0019】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、電極群22に含浸され、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。このアルカリ電解液としては、KOH、NaOH、LiOH等を溶質として含むアルカリ水溶液を用いることが好ましい。
【0020】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。具体的には、スルホン化処理が施されてスルホン基が付与されたポリオレフィン繊維を主体とする不織布を用いることが好ましい。ここで、スルホン基は、硫酸又は発煙硫酸等の硫酸基を含む酸を用いて不織布を処理することにより付与される。このようなスルホン基を有する繊維を含むセパレータを用いた電池は、優れた自己放電特性を発揮する。
【0021】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極基体と、この正極基体の空孔内に保持された正極合剤とを含んでいる。
【0022】
上記したような正極基体としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状もしくは繊維状の金属体、あるいは、発泡ニッケルを用いることができる。
【0023】
正極合剤は、正極活物質、導電材、正極添加剤及び結着剤を含む。この結着剤は、正極活物質、導電材及び正極添加剤を結着させるとともに正極合剤を正極基体に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。
【0024】
正極活物質粒子は、水酸化ニッケル粒子又は高次水酸化ニッケル粒子である。なお、これら水酸化ニッケル粒子には、亜鉛、マグネシウム及びコバルトのうちの少なくとも一種を固溶させることが好ましい。
【0025】
導電材としては、例えば、コバルト化合物及びコバルト(Co)から選択された1種又は2種以上を用いることができる。前記したコバルト化合物としては、コバルト酸化物(CoO)、コバルト水酸化物(Co(OH))等を挙げることができる。この導電材は、必要に応じて正極合剤に添加されるものであり、添加される形態としては、粉末の形態の他に、正極活物質の表面を覆う被覆層の形態で正極合剤に含まれていてもよい。
【0026】
正極添加剤は、正極の特性を改善するために添加されるものであり、例えば、酸化イットリウム、酸化亜鉛等を用いることができる。
【0027】
正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記したような正極活物質粒子の集合体である正極活物質粉末に、導電材、正極添加剤、水及び結着剤を添加して混練し、正極合剤スラリーを調製する。得られた正極合剤スラリーは、例えば、発泡ニッケルに充填され、乾燥処理が施される。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填された発泡ニッケルは、ロール圧延されてから裁断される。これにより、正極合剤を担持した正極24が得られる。
【0028】
次に、負極26について説明する。
負極26は、帯状をなす導電性の負極基板(芯体)を有し、この負極基板に負極合剤が保持されている。
【0029】
負極基板は、貫通孔が分布されたシート状の金属材であり、例えば、パンチングメタルシートや、金属粉末を型成形させ焼結させた焼結基板を用いることができる。負極合剤は、負極基板の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極基板の両面上にも層状にして保持されている。
【0030】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金の粒子、導電材及び結着剤を含む。この結着剤は水素吸蔵合金の粒子、負極添加剤及び導電材を互いに結着させると同時に負極合剤を負極基板に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては親水性若しくは疎水性のポリマー等を用いることができ、導電材としては、カーボンブラックや黒鉛を用いることができる。また、必要に応じて負極添加剤を添加しても構わない。
【0031】
ここで、水素吸蔵合金は一般的に、水素との親和性が高い金属元素(以下、A元素という)と、水素との親和性が低い金属元素(以下、B元素という)の組み合わせであり、A元素とB元素との比率によって分類される(AB、AB、AB等)。結晶相も主にこの元素の比率によりに変化する。つまり、単一の組成の水素吸蔵合金においては、単一の結晶相が得られるのが一般的である。これらの結晶相は、水素を繰り返し吸蔵放出した際の微粉化(劣化)の挙動が異なり、一般的にCaCu型などのようにA元素1に対するB元素の割合が多い結晶相では、水素の吸蔵放出を繰り返した際の微粉化が起こりにくく、CeNi型などのようにA元素1に対するB元素の割合が少ない結晶相では、前述の微粉化が起こりやすい傾向となる。
【0032】
ニッケル水素二次電池へ水素吸蔵合金を用いる場合、水素吸蔵合金の結晶相における微粉化の挙動は、電池特性のうち、低温放電性とサイクル寿命特性に対して相反する影響を与える。具体的には、微粉化が起こりやすい結晶相は、活性の高い新生面が多数生じるので、電池に組み込まれた場合、当該電池の低温放電性を高めるが、アルカリ電解液との反応が過剰となりサイクル寿命特性を低下させてしまう。一方、微粉化が起こりにくい結晶相は、電池に組み込まれた場合、アルカリ電解液との反応がある程度抑えられるので当該電池のサイクル寿命を延ばすことができるが、水素吸蔵合金の表面の活性が低いので低温放電性は低くなってしまう。
【0033】
従来の水素吸蔵合金は、単一の組成につき単一の結晶相を備えているものであるので、ニッケル水素二次電池においては、サイクル寿命特性を延ばすためには、低温放電特性をある程度犠牲にし、低温放電特性を延ばすためには、サイクル寿命特性をある程度犠牲にせざるを得なかった。
【0034】
本願の発明者は、ニッケル水素二次電池の低温放電特性及びサイクル寿命特性の両立を図るべく鋭意研究を行った結果、構成元素の比率、製造条件(鋳造方法、熱処理条件)などを変化させることで、単一の組成でも複数の異なる結晶相が組み合わされた水素吸蔵合金が得られることを見出し、単一の組成を有しており、且つ、複数の結晶相で構成されている、水素吸蔵合金を得た。本願に係る水素吸蔵合金は、複数の結晶相を有しているので、低温放電特性の向上に貢献する結晶相とサイクル寿命特性の向上に貢献する結晶相とが混在している。つまり、電池反応に寄与する表面活性の高い結晶相と、アルカリ電解液による腐食反応に耐性を有する結晶相とが混在している。これらの結晶相がバランス良く混在していることで、当該水素吸蔵合金を採用したニッケル水素二次電池は、サイクル寿命特性を維持しながら低温放電性を増加させることが可能となる。
【0035】
本願に係る水素吸蔵合金においては、そこに含まれる複数の結晶相について、Cu-Kα線をX線源とするX線回折パターンを測定した際に得られる、2θ=30.3°における回折ピークの強度をI1とし、2θ=32.8°における回折ピークの強度をI2とし、2θ=31.5°における回折ピークの強度をI3とした場合に、I1/I2で表される強度比Aが0.02≦A<0.14の範囲にあり、且つ、I3/I2で表される強度比Bが0.02<B<0.31の範囲にある。ここで、2θ=30.3°の回折ピークは、CaCu型結晶相に帰属し、2θ=31.5°の回折ピークは、CeCo19型結晶相に帰属し、2θ=32.8°の回折ピークは、CeNi型結晶相に帰属しており、これらの強度比が上記した範囲内にあれば、電池反応に寄与する表面活性の高い結晶相と、アルカリ電解液による腐食反応に耐性を有する結晶相とがバランス良く混在する態様となり、かかる水素吸蔵合金を組み込んだニッケル水素二次電池においては、サイクル寿命特性を低下させることなく低温放電特性の向上が図れる。
【0036】
本願に係る水素吸蔵合金としては、例えば、希土類元素、Mg及びNiを含む希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が用いられる。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金としては、具体的には、以下に示す一般式(I)で表される組成を有している水素吸蔵合金を用いることが好ましい。
【0037】
Ln1-xMgNiy-zAl・・・(I)
ただし、一般式中、Lnは、Zr及び希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素を表し、添字x、y、及びzは、それぞれ、x≦0.30、3.3≦y≦3.6、z≦0.25を満たしている。ここで、上記した希土類元素とは、具体的に、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc及びYを指す。
【0038】
ここで、上記したように、Mgの元素比率を表すxが0.30以下、Niの元素比率を表すyが3.3以上3.6以下、Alの元素比率を表すzが0.25以下の範囲から外れると、得られた水素吸蔵合金は、貯蔵可能となる水素量が小さくなったり、水素吸蔵合金の水素吸蔵/放出時の平衡圧が高くなったりするため、ニッケル水素二次電池用負極へ適用できなくなる。よって、添字x、y、及びzは、上記した範囲内に設定することが好ましい。また、上記した希土類元素としては、Laのみを採用することが好ましい。Laは、希土類元素のうち、比較的安価であり、水素吸蔵合金の製造コストの削減に貢献する。
【0039】
上記した水素吸蔵合金の粒子は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を例えば誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットに、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃で5~24時間保持する熱処理を施す。この後、室温まで冷却したインゴットを不活性ガス雰囲気中にて機械的に粉砕し、篩分けすることにより所望粒径の水素吸蔵合金の粒子が得られる。
【0040】
次に、負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金の粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストを負極基板に塗着し、乾燥させる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基板にロール圧延及び裁断を施す。これにより負極26が得られる。
【0041】
以上のようにして得られた正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回され、これにより電極群22が形成される。
【0042】
このようにして得られた電極群22は、外装缶10内に収容される。引き続き、当該外装缶10内にはアルカリ電解液が所定量注入される。その後、電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、正極端子20を備えた蓋板14により封口され、電池2が得られる。得られた電池2は、初期活性化処理が施され、使用可能状態とされる。
【0043】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)水素吸蔵合金及び負極の作製
【0044】
まず、La、Mg、Ni、Alを計量して、これらがモル比で0.763:0.237:3.30:0.10の割合となる混合物を調製した。得られた混合物は、誘導溶解炉で溶解され、その溶湯が鋳型に流し込まれた後、室温(25℃)まで冷却され水素吸蔵合金のインゴットとされた。このインゴットより採取したサンプルにつき、高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって組成分析を行った。その結果、水素吸蔵合金の組成は、La0.763Mg0.237Ni3.30Al0.10であった。
【0045】
次いで、得られたインゴットを容器に充填し、当該容器内をアルゴンでガス置換した後、当該容器を封止した。この容器を熱処理炉に投入し、温度1000℃で10時間保持し、インゴットに対してアルゴンガス雰囲気下での熱処理を施した。そして、この熱処理後、室温まで冷却された水素吸蔵合金のインゴットをアルゴンガス雰囲気中で機械的に粉砕し、水素吸蔵合金の粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得た。ここで、得られた水素吸蔵合金粉末につき、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置を用いて粒子の粒径を測定した結果、かかる水素吸蔵合金粒子の体積平均粒径(MV)は65μmであった。
【0046】
更に、得られた水素吸蔵合金粉末についてX線回折測定(XRD測定)を行った。測定には株式会社リガク製の平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの測定仕様は、X線源:Cu-Kα、管電圧:50kV、管電流:300mA、スキャンスピード:1°/分、試料の回転速度:60rpmであった。測定結果のプロファイルから、CaCu型結晶相に帰属する2θ=30.3°の回折ピークのピーク強度I1と、CeNi型結晶相に帰属する2θ=32.8°の回折ピークのピーク強度I2と、CeCo19型結晶相に帰属する2θ=31.5°の回折ピークのピーク強度I3とを測定した。そして、I1/I2で表される強度比Aと、I3/I2で表される強度比Bとをそれぞれ算出した。その算出結果を表1に示した。
【0047】
次に、上記のようにして得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.4重量部、カルボキシメチルセルロース0.1重量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)の固形分50%のディスパージョン1.0重量部、カーボンブラック(一次粒子が中空シェル状の構造を持つ中空カーボンブラック、具体的には、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製のケッチェンブラック(登録商標))0.5重量部、及び水30重量部を添加して混練し、負極合剤のペーストを調製した。
【0048】
この負極合剤のペーストを負極基板としての鉄製の孔あき板の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように塗布した。なお、この孔あき板は60μmの厚みを有し、その表面にはニッケルめっきが施されている。
【0049】
ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末が付着した孔あき板を更にロール圧延して体積当たりの合金量を高めた後、裁断し、AAサイズ用の負極26を得た。
【0050】
(2)正極活物質及び正極の作製
ニッケルに対して亜鉛が3.0重量%、マグネシウムが0.4重量%、コバルトが1.0重量%となるように、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム及び硫酸コバルトを計量し、これらを、アンモニウムイオンを含む1Nの水酸化ナトリウム水溶液に加え、混合水溶液を調整した。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に10Nの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させ、ここでの反応中のpHを13~14に安定させて、水酸化ニッケルを主成分とし、亜鉛、マグネシウム及びコバルトを固溶した水酸化ニッケル粒子を生成させた。得られた水酸化ニッケル粒子を10倍量の純水で3回洗浄した後、脱水工程及び乾燥工程を経て水酸化ニッケル粒子の集合体である正極活物質粉末を得た。ここで、得られた正極活物質粉末につき、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置を用いて粒子の粒径を測定した結果、かかる正極活物質粒子の体積平均粒径(MV)は、10μmであった。
【0051】
次に、100重量部の正極活物質粉末に、10重量部の水酸化コバルト、0.5重量部の酸化イットリウム、40重量部のHPC(ヒドロキシプロピルセルロース)、0.3重量部の酸化亜鉛、及び30重量部の水を混合して正極合剤スラリーを調製し、この正極合剤スラリーを正極基体としてのシート状の発泡ニッケルに充填した。正極合剤スラリーを乾燥させた後、正極合剤が充填された発泡ニッケルをロール圧延した後、所定形状に裁断し、AAサイズ用の正極24を得た。
【0052】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て
得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を作製した。ここでの電極群22の作製に使用したセパレータ28はスルホン化処理が施されたポリプロピレン繊維製不織布で形成され、その厚みは0.1mm(目付量53g/m)であった。
【0053】
一方、アルカリ電解液として、KOH、NaOH及びLiOHを含む水溶液を準備した。ここで、アルカリ電解液には、KOH、NaOH及びLiOHが、KOH:NaOH:LiOH=5.0:1.5:1.0の比で含まれている。
【0054】
次いで、有底円筒形状の外装缶10内に上記した電極群22を収容するとともに、準備したアルカリ電解液を所定量注入した。この後、封口体11で外装缶10の開口を塞ぎ、公称容量2300mAhのAAサイズのニッケル水素二次電池2を組み立てた。ここで、公称容量は、温度25℃の環境下にて、0.23Aで16時間充電後、0.46Aで電池電圧が1.0Vになるまで放電した際の電池の放電容量とした。
【0055】
(4)初期活性化処理
電池2に対し、温度25℃の環境下にて、0.23Aで16時間の充電を行った後に、0.46Aで電池電圧が1.0Vになるまで放電させる充放電作業を5回繰り返すことにより初期活性化処理を行った。このようにして、電池2を使用可能状態とした。
【0056】
(実施例2~3、比較例1~2)
水素吸蔵合金の熱処理温度を変更することにより、強度比A及び強度比Bを表1に示すような値にしたことを除いて、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を組み立てた。
【0057】
2.ニッケル水素二次電池の評価
(1)低温放電特性
作製された実施例1~3、比較例1~2の電池に対し、25℃の環境下にて、2.3Aの充電電流を流し、電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電し、その後、1時間休止した。そして、1時間休止した後の電池を、25℃の環境下にて、2.3Aの放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電させた。このとき、放電容量を測定し、この放電容量を電池の初期容量とした。
【0058】
初期容量を測定した後の実施例1~3、比較例1~2の電池に対し、25℃の環境下にて、2.3Aの充電電流を流し、電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電し、その後、-10℃の環境下にて、3時間休止した。
【0059】
ついで、3時間休止した後の電池を、-10℃の環境下にて、2.3Aの放電電流で、電池電圧が1.0Vになるまで放電させ、このときの放電容量を求めた。この放電容量を低温環境下容量とした。
【0060】
次に、-10℃の低温環境下容量と25℃の室温環境下容量(初期容量)の比率を、以下の(II)式により求めた。この比率を低温放電容量比率とした。なお、この低温放電容量比率の値が大きいほど、低温での放電容量の低下の度合いが少ない。
低温放電容量比率=低温環境下容量/初期容量×100・・・(II)
【0061】
ここで、比較例1の低温放電容量比率の値を100として、各電池の低温放電容量比率の値との比を求め、その結果を低温放電特性比として、表1に示した。
【0062】
なお、この低温放電特性比の値が大きいほど低温放電特性に優れていることを示している。
【0063】
(2)サイクル寿命特性
作製された実施例1~3、比較例1~2の電池に対し、25℃の環境下にて、2.3Aの充電電流を流し、電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電し、その後、1時間休止した。そして、1時間休止した後の電池を、25℃の環境下にて、2.3Aの放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電させ、その後1時間休止した。この充放電サイクルを繰り返し行い、サイクル数を数えた。このとき、各サイクルにおける放電容量を測定した。そして、各サイクルにおける放電容量が、1サイクル目の放電容量の60%を下回った時点のサイクル数をサイクル寿命とした。
【0064】
ここで、比較例1のサイクル寿命の値を100として、各電池のサイクル寿命の値との比を求め、その結果をサイクル寿命特性比として、表1に示した。
【0065】
なお、このサイクル寿命特性比の値が大きいほどサイクル寿命特性に優れていることを示している。
【0066】
【表1】
【0067】
(3)考察
表1の結果より、実施例1、2、3および比較例2はいずれも比較例1に比べて低温放電特性に優れており、低温環境下での放電時間が長いことを確認した。また、実施例1、2、3は、比較例1に比べサイクル寿命特性が同等以上であることを確認した。一方で、比較例2は、比較例1に比べてサイクル寿命特性が劣っていることを確認した。
【0068】
これらの結果より、実施例1、2、3のような、単一の組成を有しており、且つ、複数の結晶相で構成されている、水素吸蔵合金であって、Cu-Kα線をX線源とするX線回折パターンを測定した際に得られる、2θ=30.3°における回折ピークの強度をI1とし、2θ=32.8°における回折ピークの強度をI2とし、2θ=31.5°における回折ピークの強度をI3とした場合に、I1/I2で表される強度比Aが0.02≦A<0.14の範囲にあり、且つ、I3/I2で表される強度比Bが0.02<B<0.31の範囲にある水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素二次電池は、比較例1や比較例2のような、上記した強度比A及び強度比Bの範囲を外れる水素吸蔵合金が含まれる負極を備えたニッケル水素二次電池に比べ、サイクル寿命特性を低下させずに低温放電特性の向上を図ることができていることがわかる。
【0069】
つまり、上記した強度比A及び強度比Bの範囲を0.02≦A<0.14、且つ、0.02<B<0.31とすることがサイクル寿命特性を低下させずに低温放電特性の向上を図ることに有効であるといえる。特に、比較例2のように、強度比A及び強度比Bが、上記した範囲を超えるとサイクル寿命特性が低下してきてしまい、低温放電特性とサイクル寿命特性の両立が難しくなることがわかる。
【0070】
以上より、上記した強度比A及び強度比Bの範囲を0.02≦A<0.14、且つ、0.02<B<0.31とすることにより、従来のニッケル水素二次電池において課題であった低温放電特性とサイクル寿命特性との相反する関係性を改善することができ、ニッケル水素二次電池のサイクル寿命特性を低下させることなく、低温放電特性の高いニッケル水素二次電池を得ることができるといえる。
【符号の説明】
【0071】
2 ニッケル水素二次電池
22 電極群
24 正極
26 負極
28 セパレータ
図1