(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041909
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】カーボンナノ粒子の製造方法及びカーボンナノ粒子、並びに、抗菌剤及び抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
C01B 32/15 20170101AFI20220304BHJP
B01J 27/053 20060101ALI20220304BHJP
B01J 31/02 20060101ALI20220304BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220304BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220304BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220304BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220304BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20220304BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20220304BHJP
A01N 59/00 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C01B32/15 ZNM
B01J27/053 M
B01J31/02 103M
B01J31/02 102M
B82Y40/00
B82Y30/00
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/10
A01N25/12 101
A01N59/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128289
(22)【出願日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2020147069
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】新留 琢郎
(72)【発明者】
【氏名】徐 薇
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
4H011
【Fターム(参考)】
4G146AA07
4G146AB04
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AD17
4G146AD40
4G146BA11
4G146BA49
4G146BC06
4G146BC15
4G146BC42
4G146BC48
4G146CA11
4G146CA16
4G146CB17
4G146CB19
4G146CB35
4G146DA03
4G146DA31
4G169BA42A
4G169BA47A
4G169BB10A
4G169BB10B
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE22A
4G169BE22B
4G169CB81
4G169DA02
4H011AA02
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC06
4H011BC19
4H011DA02
4H011DA07
4H011DA14
4H011DH04
4H011DH11
(57)【要約】
【課題】簡便かつ短時間に製造可能な、有機溶媒に分散可能なカーボンナノ粒子の製造方法、及び有機溶媒に分散可能なカーボンナノ粒子を提供する。
【解決手段】強酸又は強塩基の触媒存在下、有機溶媒を加熱してカーボンナノ粒子を形成することを含む、カーボンナノ粒子の製造方法。グラファイト構造を有し、有機溶剤可溶性であり、平均粒子径が5~1000nmであるカーボンナノ粒子。前記強酸又は強塩基が、硫酸、パラトルエンスルホン酸、又はジメチルアミノピリジンであることが好ましく、有機溶媒にマイクロ波照射して有機溶媒を加熱することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強酸又は強塩基の触媒存在下、有機溶媒を加熱してカーボンナノ粒子を形成することを含む、カーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記強酸又は強塩基が、硫酸、パラトルエンスルホン酸、又はジメチルアミノピリジンである、請求項1に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒を加熱することが、有機溶媒にマイクロ波照射して有機溶媒を加熱することである、請求項1又は2に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が有機酸無水物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記有機酸無水物が無水酢酸である、請求項4に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒がアセトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、又は、ジメチルホルムアミドである、請求項1~3のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記カーボンナノ粒子が有機溶剤可溶性である、請求項1~6のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記カーボンナノ粒子の平均粒子径が5~1000nmである、請求項1~7のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記カーボンナノ粒子をラマン分光法で測定したとき、グラファイト構造由来のGバンドの強度IGに対するグラファイト構造の欠陥に起因するDバンドの強度IDの相対比(ID/IG)が0.3~0.9である、請求項1~8のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記カーボンナノ粒子を、X線光電子分光法(XPS)により測定し、得られるXPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量が60%以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記カーボンナノ粒子をフーリエ変換赤外分光法で測定したとき、2900cm-1近傍にC-H結合のピークが発現し、且つ3300cm-1近傍にO-H結合のピークが発現しない、請求項1~10のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
前記有機溶媒がN原子及びS原子を含まない、請求項1~11のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
グラファイト構造を有し、
有機溶剤可溶性であり、
平均粒子径が5~1000nmであるカーボンナノ粒子。
【請求項14】
前記カーボンナノ粒子をラマン分光法で測定したとき、グラファイト構造由来のGバンドの強度IGに対するグラファイト構造の欠陥に起因するDバンドの強度IDの相対比(ID/IG)が0.3~0.9である、請求項13に記載のカーボンナノ粒子。
【請求項15】
前記カーボンナノ粒子を、X線光電子分光法(XPS)により測定し、得られるXPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量が60%以下である、請求項13又は14に記載のカーボンナノ粒子。
【請求項16】
前記カーボンナノ粒子をフーリエ変換赤外分光法で測定したとき、2900cm-1近傍にC-H結合のピークが発現し、且つ3300cm-1近傍にO-H結合のピークが発現しない、請求項13~15に記載のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子。
【請求項17】
前記カーボンナノ粒子がN原子及びS原子を含まない、請求項13~16のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子。
【請求項18】
請求項13~17のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子を含む抗菌剤。
【請求項19】
請求項13~17のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子を含む抗ウイルス剤。
【請求項20】
請求項13~17のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子、及び、ポリマーを含む複合フィルム。
【請求項21】
請求項13~17のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子、及び、ポリマーを含む複合ナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ粒子の製造方法及びカーボンナノ粒子、並びに、抗菌剤及び抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン量子ドット(GQDs)は、毒性が低く、水溶性と安定した光化学特性のため、バイオイメージング用の蛍光プローブ、医療材料としての利用が期待されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、天然アミノ酸であるグルタミン酸を熱分解させて、グラフェン量子ドットを作製する方法が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、尿素やチオ尿素をマイクロ波照射して、グラフェン量子ドットを作製する方法が開示されている。
【0005】
非特許文献3には、食品添加物の一つであるクエン酸をマイクロ波照射して、グラフェン量子ドットを作製する方法が開示されている。
【0006】
非特許文献4には、炭酸アンモニウム溶液中、アスパラギン酸をマイクロ波照射して、グラフェン量子ドットを作製する方法が開示されている。
【0007】
特許文献1及び非特許文献5には、酸化グラフェンの過酸化水素溶液から、グラフェン量子ドットを作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Wu et al., "Fabrication of highly fluorescent graphene quantum dots using L-glutamic acid for in vitro/in vivo imaging and sensing", J Mater Chem C Mater Opt Electron Devices, 2013 August 21; 1(31): 4676-4684.
【非特許文献2】Dan Qu et al., "Highly luminescent S, N co-doped graphene quantum dots with broad visible absorption bands for visible light photocatalysts", Nanoscale, 2013, 5, 12272-12277.
【非特許文献3】Qianfen Zhuang et al., "Solid-phase synthesis of graphene quantum dots from the food additive citric acid under microwave irradiation and their use in live-cell imaging", Luminescence 2016; 31: 746-753.
【非特許文献4】Chunfang Zhang et al., "Microwave assisted one-pot synthesis of graphene quantum dots as highly sensitive fluorescent probes for detection of iron ions and pH value", Talanta 150 (2016) 54-60.
【非特許文献5】Rabeb El-Hnayn et al., "One-Step Synthesis of Diamine-Functionalized Graphene Quantum Dots from Graphene Oxide and Their Chelating and Antioxidant Activities", Nanomaterials 2020, 10, 104; doi:10.3390/nano10010104.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1~5、特許文献1に開示されているグラフェン量子ドット(GQDs)の製造方法では、いずれも、GQDsを水溶媒中で合成し、水分散液として調製している。
【0011】
一方、有機溶媒に分散するグラフェン量子ドットは、ポリマーと混合してフィルムや繊維状にしたり、また、染料としても利用できる。しかしながら、従来の水分散液としてのグラフェン量子ドットを有機溶媒に分散させるためには、表面修飾する等の必要があり、その製造にはコストがかかる。
【0012】
そこで、本発明は、簡便かつ短時間に製造可能な、有機溶媒に分散可能なカーボンナノ粒子の製造方法、及び有機溶媒に分散可能なカーボンナノ粒子を提供することを目的とする。
本明細書において、「カーボンナノ粒子」は「グラフェン量子ドット」及び「カーボン量子ドット」を含む概念である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の態様を含む。
【0014】
[1] 強酸又は強塩基の触媒存在下、有機溶媒を加熱してカーボンナノ粒子を形成することを含む、カーボンナノ粒子の製造方法。
[2] 前記強酸又は強塩基が、硫酸、パラトルエンスルホン酸、又はジメチルアミノピリジンである、前記[1]に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
[3] 前記有機溶媒を加熱することが、有機溶媒にマイクロ波照射して有機溶媒を加熱することである、前記[1]又は[2]に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
[4] 前記有機溶媒が有機酸無水物である、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
[5] 前記有機酸無水物が無水酢酸である、前記[4]に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
[6] 前記有機溶媒がアセトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、又は、ジメチルホルムアミドである、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【0015】
[7] 前記カーボンナノ粒子が有機溶剤可溶性である、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
[8] 前記カーボンナノ粒子の平均粒子径が5~1000nmである、前記[1]~[7]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
[9] 前記カーボンナノ粒子をラマン分光法で測定したとき、グラファイト構造由来のGバンドの強度IGに対するグラファイト構造の欠陥に起因するDバンドの強度IDの相対比(ID/IG)が0.3~0.9である、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
[10] 前記カーボンナノ粒子を、X線光電子分光法(XPS)により測定し、得られるXPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量が60%以下である、前記[1]~[9]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
[11] 前記カーボンナノ粒子をフーリエ変換赤外分光法で測定したとき、2900cm-1近傍にC-H結合のピークが発現し、且つ3300cm-1近傍にO-H結合のピークが発現しない、前記[1]~[10]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
[12] 前記有機溶媒がN原子及びS原子を含まない、前記[1]~[11]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子の製造方法。
【0016】
[13] グラファイト構造を有し、有機溶剤可溶性であり、平均粒子径が5~1000nmであるカーボンナノ粒子。
[14] 前記カーボンナノ粒子をラマン分光法で測定したとき、グラファイト構造由来のGバンドの強度IGに対するグラファイト構造の欠陥に起因するDバンドの強度IDの相対比(ID/IG)が0.3~0.9である、前記[13]に記載のカーボンナノ粒子。
[15] 前記カーボンナノ粒子を、X線光電子分光法(XPS)により測定し、得られるXPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量が60%以下である、前記[13]又は[14]に記載のカーボンナノ粒子。
[16] 前記カーボンナノ粒子をフーリエ変換赤外分光法で測定したとき、2900cm-1近傍にC-H結合のピークが発現し、且つ3300cm-1近傍にO-H結合のピークが発現しない、前記[13]~[15]に記載のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子。
[17] 前記カーボンナノ粒子がN原子及びS原子を含まない、前記[13]~[16]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子。
[18] 前記[13]~[17]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子を含む抗菌剤。
[19] 前記[13]~[17]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子を含む抗ウイルス剤。
[20] 前記[13]~[17]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子、及び、ポリマーを含む複合フィルム。
[21] 前記[13]~[17]のいずれか一項に記載のカーボンナノ粒子、及び、ポリマーを含む複合ナノ粒子。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡便かつ短時間に製造可能な、有機溶媒に分散可能なカーボンナノ粒子の製造方法、及び有機溶媒に分散可能なカーボンナノ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1のカーボンナノ粒子の高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)で撮影した画像(A,B)、及び、エネルギー分散型X線分析(EDX)の結果を表すグラフ(C,D)である。
【
図2】実施例1のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液に365nmの紫外線を照射したときの蛍光スペクトルを表すグラフである。
【
図3】実施例1のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液について分光蛍光光度計で測定した三次元蛍光マッピングの結果を表すグラフである。
【
図4】実施例1のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液の紫外線-可視光線の吸収スペクトルを表すグラフである。
【
図5】実施例1のカーボンナノ粒子のラマン分光スペクトルを表すグラフである。
【
図6】実施例1のカーボンナノ粒子のフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを表すグラフである。
【
図7】実施例1のカーボンナノ粒子のX線光電子分光(XPS)C1sスペクトルを表すグラフである。
【
図8】実施例3のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液に各波長の励起光で照射したときの蛍光スペクトルを表すグラフである。
【
図9】実施例2、3、4のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液の紫外線-可視光線の吸収スペクトルを表すグラフである。
【
図10】実施例2、3、4のカーボンナノ粒子のラマン分光スペクトルを表すグラフである。
【
図11】カーボンナノ粒子の抗菌活性評価の結果を表すグラフである。
【
図12】カーボンナノ粒子(GQDs)の抗ウイルス活性評価の結果を表すグラフである。
【
図13】カーボンナノ粒子(GQDs)の抗ウイルス活性の時間依存の結果を表すグラフである。
【
図14】カーボンナノ粒子(GQDs)とポリマーとの複合フィルムの抗菌活性評価の結果を表すグラフである。
【
図15】ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)フィルム上、並びに、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合フィルム上の大腸菌の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図16】ポリ乳酸(PLLA)フィルム上、並びに、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸(PLLA)の複合フィルム上の大腸菌の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図17】ポリカプロラクトン(PCL)フィルム上、並びに、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリカプロラクトン(PCL)の複合フィルム上の大腸菌の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図18】シルクフィブロイン(SF)フィルム上、並びに、カーボンナノ粒子(GQDs)及びシルクフィブロイン(SF)の複合フィルム上の大腸菌の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図19】カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリカプロラクトン(PCL)の複合フィルムの抗菌活性について、カーボンナノ粒子(GQDs)の含量依存性の評価結果を表すグラフである。
【
図20】カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸(PLLA)の複合フィルム、並びに、ポリ乳酸(PLLA)フィルムのFT-IRスペクトルである。
【
図21】カーボンナノ粒子(GQDs)及びシルクフィブロイン(SF)の複合フィルム、並びに、シルクフィブロイン(SF)フィルムのFT-IRスペクトルである。
【
図22】水に分散させた、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子の、励起光520nm(最大蛍光)と560nm(最大アップコンバージョン発光)での蛍光スペクトルである。
【
図23】
図23(A)は、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のナノ粒子をHeLa細胞に添加して2時間培養したときの光学顕微鏡写真である。
図23(B)は、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のナノ粒子をHeLa細胞に添加して2時間培養したときの蛍光顕微鏡写真である。
図23(C)は、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子をHeLa細胞に添加して2時間培養したときの光学顕微鏡写真である。
図23(D)は、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子をHeLa細胞に添加して2時間培養したときの蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<カーボンナノ粒子の製造方法>
本発明のカーボンナノ粒子の製造方法は、強酸又は強塩基の触媒存在下、有機溶媒を加熱してカーボンナノ粒子を形成することを含む。
【0020】
強酸又は強塩基の触媒存在下、有機溶媒を加熱すると、有機溶媒中の炭素を含むナノ粒子が析出して、反応液は、透明な状態から不透明な茶褐色に変化する。本発明のカーボンナノ粒子の製造方法は、有機溶媒を炭素源とするので、有機溶媒に分散可能なカーボンナノ粒子を、簡便かつ短時間に製造可能である。
【0021】
カーボンナノ粒子は、炭素を含むナノ粒子であれば限定されず、グラフェン構造を含むグラフェン量子ドットであってもよく、カーボン量子ドットであってもよい。
【0022】
強酸としては、硫酸、パラトルエンスルホン酸、塩酸、硝酸等が挙げられ、硫酸、又はパラトルエンスルホン酸が好ましい。
【0023】
強塩基としては、ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0024】
強酸又は強塩基は触媒として用いられ、触媒として機能する量が存在すればよい。触媒濃度は、0.1~1000mmol/Lが好ましく、1~500mmol/Lがより好ましく、2~200mmol/Lがさらに好ましく、5~50mmol/Lが特に好ましい。
【0025】
有機溶媒とは、常温常圧で液体の有機化合物をいう。有機溶媒として、極性溶媒が好ましい。極性溶媒としてはプロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒が挙げられる。プロトン性極性溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、アセトニトリル、常温常圧で液体の有機酸無水物等が挙げられる。有機溶媒がアセトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、又は、ジメチルホルムアミドであることが好ましい。有機溶媒として、常温常圧で液体の有機酸無水物が好ましく、常温常圧で液体の脂肪族カルボン酸無水物がより好ましい。N原子及びS原子を含まない有機溶媒が好ましい。
【0026】
常温常圧で液体の脂肪族カルボン酸無水物としては、無水酢酸(融点:-73℃、沸点:140.0℃)、無水プロピオン酸、無水イソ酪酸、無水酪酸、ピバル酸無水物、無水イソ吉草酸、無水吉草酸、無水ヘキサン酸、無水ヘプタン酸、無水メタクリル酸、無水アクリル酸等が挙げられる。常温常圧で液体の脂肪族カルボン酸無水物としては、無水酢酸が好ましい。
【0027】
本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。本明細書において、「常圧」とは、加圧も減圧もしない状態の圧力をいう。
【0028】
加熱温度は、80~200℃が好ましく、90~190℃がより好ましく、100~180℃がさらに好ましく、110~170℃がさらに好ましく、120~160℃が特に好ましい。
【0029】
加熱時間は、反応温度及び触媒濃度に依存するため、特に限定されない。加熱時間は、30~240分間が好ましく、40~200分間がより好ましく、50~160分間がさらに好ましく、60~120分間が特に好ましい。
【0030】
前記有機溶媒を加熱する手段は、限定されない。マイクロ波照射による加熱が好ましい。
【0031】
本発明のカーボンナノ粒子の製造方法は、有機溶媒を加熱してカーボンナノ粒子を形成するので、得られるカーボンナノ粒子は、原材料に用いた前記有機溶媒に分散可能である。
本発明のカーボンナノ粒子の製造方法から得られるカーボンナノ粒子は有機溶剤可溶性であることが好ましい。カーボンナノ粒子が有機溶剤可溶性であるとは、カーボンナノ粒子を、一般的な有機溶剤のうちいずれか一つの有機溶剤に分散させたとき、透明に分散することを云う。カーボンナノ粒子が有機溶剤可溶性であるとき、有機溶剤は、原材料に用いた前記有機溶媒であってもよく、原材料に用いた前記有機溶媒でなくてもよい。本発明のカーボンナノ粒子の製造方法から得られるカーボンナノ粒子は水不溶性であることが好ましい。水不溶性であることにより、有機溶剤に分散させて得られたカーボンナノ粒子を、容易に水洗することができる。
【0032】
本発明のカーボンナノ粒子の製造方法から得られるカーボンナノ粒子の平均粒子径は5~1000nmであることが好ましく、10~500nmであることがより好ましく、20~200nmであることがさらに好ましい。ここで、カーボンナノ粒子の平均粒子径は、カーボンナノ粒子のSTEM画像を画像処理することにより、粒子の投影面積円相当径の数平均から求められる。
【0033】
本発明のカーボンナノ粒子の製造方法は、従来のグラフェン量子ドットよりも平均粒子径が大きいカーボンナノ粒子を、簡便かつ短時間に製造可能である。
【0034】
本発明のカーボンナノ粒子の製造方法から得られるカーボンナノ粒子をラマン分光法で測定したとき、グラファイト構造由来のGバンドの強度IGに対するグラファイト構造の欠陥に起因するDバンドの強度IDの相対比(ID/IG)が0.3~0.9であることが好ましく、0.4~0.8であることがより好ましく、0.5~0.7であることがさらに好ましい。
【0035】
一般に、グラフェン量子ドットを、X線光電子分光法(XPS)により測定したとき、XPS C1sスペクトルには、285eV付近にC=C、C-Cに割り当てられるピーク、286eV付近にC-Oに割り当てられるピーク、及び、289eVeV付近にC=Oに割り当てられるピークが観測される。従来のグラフェン量子ドットのXPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量は、通常、約80%である。
【0036】
本発明のカーボンナノ粒子の製造方法から得られるカーボンナノ粒子を、X線光電子分光法(XPS)により測定し、得られるXPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量が60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
通常、グラフェン量子ドットを、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)で測定したとき、3300cm-1近傍にO-H結合のピークが発現し、2900cm-1近傍にC-H結合のピークは発現しない。
【0038】
本発明のカーボンナノ粒子の製造方法から得られるカーボンナノ粒子をフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)で測定したとき、2900cm-1近傍にC-H結合のピークが発現し、且つ3300cm-1近傍にO-H結合のピークが発現しないことが好ましい。
【0039】
<カーボンナノ粒子>
本発明のカーボンナノ粒子は、グラファイト構造を有し、有機溶剤可溶性である。本発明のカーボンナノ粒子は、前記カーボンナノ粒子の製造方法から得ることができる。
【0040】
カーボンナノ粒子のグラファイト構造は、カーボンナノ粒子をラマン分光法で測定したとき、グラファイト構造由来のGバンドのピークの検出により確認することができる。有機溶剤可溶性についての説明は、前記と同じである。
【0041】
本発明のカーボンナノ粒子は、平均粒子径が5~1000nmである。本発明のカーボンナノ粒子の平均粒子径は10~500nmであることが好ましく、20~200nmであることがより好ましい。ここで、カーボンナノ粒子の平均粒子径は、カーボンナノ粒子のSTEM画像を画像処理することにより、粒子の投影面積円相当径の数平均から求められる。
【0042】
本発明のカーボンナノ粒子をラマン分光法で測定したとき、グラファイト構造由来のGバンドの強度IGに対するグラファイト構造の欠陥に起因するDバンドの強度IDの相対比(ID/IG)が0.3~0.9であることが好ましく、0.4~0.8であることがより好ましく、0.5~0.7であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明のカーボンナノ粒子を、X線光電子分光法(XPS)により測定し、得られるXPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量が60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明のカーボンナノ粒子を、フーリエ変換赤外分光法で測定したとき、2900cm-1近傍にC-H結合のピークが発現し、且つ3300cm-1近傍にO-H結合のピークが発現しないことが好ましい。
【0045】
本発明のカーボンナノ粒子はN原子及びS原子を含まないことが好ましい。
【0046】
<抗菌剤>
本発明の抗菌剤は、前述の本発明のカーボンナノ粒子を含む。
抗菌剤の形態は限定されず、カーボンナノ粒子を溶媒に分散させた分散液の形態を採用することができ、後述の複合フィルム又は複合ナノ粒子の形態を採用することもできる。
本発明の抗菌剤は、大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌などに抗菌活性を有する。
【0047】
<抗ウイルス剤>
本発明の抗ウイルス剤は、前述の本発明のカーボンナノ粒子を含む。
抗ウイルス剤の形態は限定されず、カーボンナノ粒子を溶媒に分散させた分散液の形態を採用することができ、後述の複合フィルム又は複合ナノ粒子の形態を採用することもできる。
【0048】
<複合フィルム>
本発明の複合フィルムは、前述の本発明のカーボンナノ粒子、及び、ポリマーを含む。
ポリマーとしては、生分解性ポリマーが好ましい。生分解性ポリマーとして、ポリ乳酸(PLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、シルクフィブロイン(SF)などが挙げられる。
本発明のカーボンナノ粒子は有機溶剤可溶性であるので、ポリマーと共に有機溶剤に分散させ溶液とすることにより、この溶液を基板に塗布し、乾燥させることで、複合フィルムを容易に製造することができる。
【0049】
<複合ナノ粒子>
本発明の複合ナノ粒子は、前述の本発明のカーボンナノ粒子、及び、ポリマーを含む。
ポリマーとしては、前述のポリマーと同様である。
本発明のカーボンナノ粒子は有機溶剤可溶性であるので、ポリマーと共に有機溶剤に分散させ溶液とした後、水に分散させることにより、複合ナノ粒子を容易に製造することができる。
【0050】
本発明の複合ナノ粒子の、動的光散乱法により測定される平均粒子径は、50~4000nmとすることができ、100~2000nmとすることができ、200~1000nmとすることができる。本発明の複合ナノ粒子の、動的光散乱法により測定される多分散指数は、0.05~0.40とすることができ、0.08~0.30とすることができ、0.10~0.20とすることができる。
【実施例0051】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
無水酢酸20mLに98%硫酸10μLを加え、アントンパール社製マイクロ波合成装置(Monowave300)を用いてマイクロ波照射をしながら、5分間で室温から180℃まで昇温し、180℃を60分間維持した。反応液中の硫酸の触媒濃度は、9mmol/Lであった。反応液は、透明な状態から不透明な茶褐色に変化した。
【0053】
その後、反応液に2倍の体積量のクロロホルムと混合して均一な混合溶液を得た。さらに、2倍の体積量の水を添加し、分液ロートにて5%のNaHCO3水溶液、飽和食塩水、硫酸マグネシウムの順番でクロロホルム相を洗浄し、混合溶液中の無水酢酸及び硫酸を取り除いた。さらに、クロロホルム相に水を入れ、十分混ぜた後も、クロロホルム相に茶褐色が残った。すなわち、得られた茶褐色の分散粒子は水不溶性であった。
【0054】
クロロホルム抽出された茶褐色の分散粒子を、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製透過型電子顕微鏡TECNAI F20)で撮影した画像、及び、エネルギー分散型X線分析(EDX)の結果を
図1に示した。
図1(A)は低倍率のSTEM画像であり、
図1(B)は高倍率のSTEM画像であり、
図1(C)は粒子をEDX測定した結果のグラフであり、
図1(D)はカーボングリットをEDX測定した結果のグラフである。
【0055】
図1(A)の低倍率のSTEM画像を画像処理することにより、50個の粒子の投影面積円相当径の数平均を求めた。結果、分散粒子の平均粒子径は50nmであった。
図1のこれらの結果から、茶褐色の分散粒子は、カーボンナノ粒子と云えるものであった。
【0056】
従来のグラフェン量子ドットの平均粒子径は、およそ10nm未満である。実施例1のカーボンナノ粒子は、従来のグラフェン量子ドットよりも平均粒子径が大きい。
【0057】
図1のEDXの結果において、実施例1のカーボンナノ粒子に、N原子及びS原子は、いずれも検出されなかった。原材料の無水酢酸はN原子及びS原子を含まない有機溶媒であることに加えて、触媒の硫酸を洗浄して除去できたことが確認できた。
【0058】
実施例1のカーボンナノ粒子は、クロロホルム分散液として調製できたので、ポリマーと混合してフィルムや繊維状にしたり、また、染料としても容易に利用可能である。
【0059】
(蛍光測定)
クロロホルム抽出液をクロロホルムで50倍希釈すると、薄いオレンジ色の透明な溶液になった。この実施例1のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液に、Ultra-Lum社製UVトランスイルミネーター装置(型番900-1211-02)を用いて、365nmの紫外線を照射したとき、黄緑色の蛍光を発することを目視で確認した。
また、この実施例1のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液について、分光蛍光光度計(日本分光社製FP-6600)で測定した蛍光スペクトル(励起波長360nm)の結果を
図2に示し、三次元蛍光マッピングの結果を
図3に示した。これらの結果から、励起波長410~460nmにおいて、波長490~510nm付近に最大強度の蛍光を発することが分かった。
【0060】
(紫外線-可視光線の吸収スペクトル)
UV/VIS分光光度計(日本分光社製V670)にて測定したときの、紫外線-可視光線の吸収スペクトルを
図4に示した。実施例1のカーボンナノ粒子は300nm付近の光を吸収することが分かった。
【0061】
(ラマンスペクトル)
実施例1のカーボンナノ粒子のクロロホルム抽出液をガラス板にキャストし、乾燥させ、ガラス板から、実施例1のカーボンナノ粒子の粉体を採取した。
実施例1のカーボンナノ粒子の粉体について、HORIBA社製顕微ラマン分光装置XploRA(登録商標)を用いて、ラマン分光法で測定したラマンスペクトルを
図5に示した。
グラファイト構造由来のGバンドのピークと、グラファイト構造の欠陥に起因するDバンドのピークが観測された。
グラファイト構造由来のGバンドの強度I
Gに対するグラファイト構造の欠陥に起因するDバンドの強度I
Dの相対比(I
D/I
G)から構造欠陥の程度が分かる。実施例1のカーボンナノ粒子の相対比(I
D/I
G)は0.609であった。実施例1のカーボンナノ粒子はグラフェン構造が主であることが分かった。なお、このラマンスペクトルは、既知の水溶性グラフェン量子ドットと類似していた。
【0062】
(フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトル)
実施例1のカーボンナノ粒子の粉体について、日本分光社製FT/IR-4200装置を用いて、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)分光法で測定したFT-IRスペクトルを、
図6に示した。
参考例1は、クエン酸から作製する方法で得られたグラフェン量子ドット(GQD)のFT-IRスペクトルである(非特許文献1から引用。)。
【0063】
参考例1のFT-IRスペクトルでは、3300cm-1近傍にO-H結合のピークが発現していた。これに対して、実施例1のカーボンナノ粒子のFT-IRスペクトルでは、2900cm-1近傍にC-H結合のピークが発現し、且つ3300cm-1近傍にO-H結合のピークが発現しなかった。
【0064】
(X線光電子分光(XPS)C1sスペクトル)
実施例1のカーボンナノ粒子の粉体について、サーモエレクトロン社製X線光電子分光(XPS)装置(SigmaProbe)を用いて測定して得られたXPS C1sスペクトルを、
図7に示した。
【0065】
実施例1のカーボンナノ粒子のXPS C1sスペクトルには、285eV付近にC=C、C-Cに割り当てられるピーク、286eV付近にC-Oに割り当てられるピーク、及び、289eVeV付近にC=Oに割り当てられるピークが観測された。
【0066】
XPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量は20%であった。
【0067】
非特許文献5で、酸化グラフェンから得られた作製したグラフェン量子ドットでは、C=C量18.6%、C-O量66.7%、C=O量14.8%であり、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量は、81.4%であった。実施例1のカーボンナノ粒子のC-O量及びC=O量の総量は、従来のグラフェン量子ドットよりも少ないことが確認できた。
【0068】
実施例1のカーボンナノ粒子の粉体をテトラヒドロフラン(THF)、アセトン、アセトニトリル、メタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルムの各有機溶剤に分散させた。結果、全ての分散液は、薄い黄色い透明な溶液になった。これらの分散溶液を365nmの紫外線光を照射すると全て黄緑色に光った。
【0069】
[実施例2]
無水酢酸20mLに98%硫酸50μLを加え、1時間、加熱還流させた。反応液中の硫酸の触媒濃度は、45mmol/Lであった。反応液は、透明から黒色不透明に変化した。
【0070】
その後、反応液に同体積量の水を加え、混合して実施例2の混合溶液を得た。この混合溶液を分画分子量3500の透析膜(REPLIGEN製Spectra/Pro)に入れ、3日間透析を行った。透析中に混合溶液が混濁し、沈殿物が見られた。3日間の透析の後、沈殿と混濁した溶液を凍結乾燥して、1.2mgの実施例2の粉体(すなわち、カーボンナノ粒子)を得た。
【0071】
実施例2のカーボンナノ粒子の粉体について、ラマン分光法の測定をした。ラマンスペクトルを
図10に示した。結果、実施例2のカーボンナノ粒子の前記相対比(I
D/I
G)は0.65であった。実施例2のカーボンナノ粒子はグラフェン構造が主であることが分かった。
【0072】
実施例2のカーボンナノ粒子のXPS C1sスペクトルには、285eV付近にC=C、C-Cに割り当てられるピーク、286eV付近にC-Oに割り当てられるピーク、及び、289eVeV付近にC=Oに割り当てられるピークが観測された。
【0073】
XPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量は35.3%であった。
【0074】
[実施例3]
無水酢酸20mLに98%硫酸50μLを加え、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、180℃でマイクロ波照射を行った。反応液中の硫酸の触媒濃度は、45mmol/Lであった。
【0075】
その後、実施例2と同じく、混合溶液を作製し、この実施例3の混合溶液を分画分子量3500の透析膜で、3日間透析を行った。透析中に混合溶液が混濁し、沈殿物が見られた。3日間の透析の後、沈殿と混濁した溶液を凍結乾燥して、106mgの実施例3の粉体(すなわち、カーボンナノ粒子)を得た。
【0076】
実施例3のカーボンナノ粒子の粉体について、ラマン分光法の測定をした。ラマンスペクトルを
図10に示した。結果、実施例3のカーボンナノ粒子の前記相対比(I
D/I
G)は0.75であった。実施例3のカーボンナノ粒子はグラフェン構造が主であるが、実施例2のカーボンナノ粒子よりも、グラファイト構造の欠陥が多いことが分かった。
【0077】
実施例3のカーボンナノ粒子のXPS C1sスペクトルには、285eV付近にC=C、C-Cに割り当てられるピーク、286eV付近にC-Oに割り当てられるピーク、及び、289eVeV付近にC=Oに割り当てられるピークが観測された。
【0078】
XPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量は42.9%であった。
【0079】
[実施例4]
無水酢酸20mLに98%硫酸10μLを加え、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、180℃でマイクロ波照射を行った。反応液中の硫酸の触媒濃度は、9mmol/Lであった。反応液は、透明な状態から不透明な茶褐色に変化した。
【0080】
その後、実施例2と同じく、混合溶液を作製し、この実施例4の混合溶液を分画分子量3500の透析膜で、3日間透析を行った。透析中に混合溶液が混濁し、沈殿物が見られた。3日間の透析の後、沈殿と混濁した溶液を凍結乾燥して、10mgの実施例4の粉体(すなわち、カーボンナノ粒子)を得た。
【0081】
実施例4のカーボンナノ粒子の粉体について、ラマン分光法の測定をした。ラマンスペクトルを
図10に示した。実施例4のカーボンナノ粒子の前記相対比(I
D/I
G)は0.63であった。実施例4のカーボンナノ粒子はグラフェン構造が主であることが分かった。
【0082】
実施例4のカーボンナノ粒子のXPS C1sスペクトルには、285eV付近にC=C、C-Cに割り当てられるピーク、286eV付近にC-Oに割り当てられるピーク、及び、289eVeV付近にC=Oに割り当てられるピークが観測された。
【0083】
XPS C1sスペクトルからShirley法で定量したとき、C-C量、C=C量、C-O量、及びC=O量の総量100%に対して、C-O量及びC=O量の総量は38.8%であった。
【0084】
上記の実施例2~4の結果から、カーボンナノ粒子の収率は、実施例3>実施例4>実施例2の順であり、C-O量及びC=O量も、実施例3>実施例4>実施例2の順に多かった。カーボンナノ粒子の収率が高いほど、C=C及びC-Cの結合が減少し、C-O及びC=Oの結合が増える傾向にあることが分かった。
C-O及びC=Oの結合が少ない方が、有機溶媒に分散し易くなると考えられる。
【0085】
マイクロ波装置を使用することにより、沸点より高い温度で反応させることが可能となり、より多くのカーボンナノ粒子が合成されたと考えられる。また、触媒硫酸の量が多いほどカーボンナノ粒子が多く合成されることが分かった。そのため、実施例2~4のカーボンナノ粒子の中では、実施例3のカーボンナノ粒子の反応率が一番高く、実施例2のカーボンナノ粒子の反応率が一番低かったと考えられる。
【0086】
(蛍光測定)
実施例2~4のカーボンナノ粒子をクロロホルムに分散させると、何れも、薄いオレンジ色の溶液となった。これらの溶液に、Ultra-Lum社製UVトランスイルミネーター装置(型番900-1211-02)を用いて、365nmの紫外線を照射するといずれも、緑色に光った。
また、実施例3のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液について、分光蛍光光度計(日本分光社製FP-6600)で測定した蛍光スペクトル(励起波長340~520nm)の結果を
図8に示した。440nmの励起光を照射すると506nmの最大蛍光を発することが分かった。実施例2及び4のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液も同様な蛍光スペクトルが確認できた。
【0087】
(紫外線-可視光線の吸収スペクトル)
実施例2~4のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液について、UV/VIS分光光度計(日本分光社製V670)にて測定したときの、紫外線-可視光線の吸収スペクトルを
図9に示した。270nm付近及び320nm付近の光を吸収することが分かった。また、270nm付近の吸収ピークが同じであるのに対して、反応率が高いほど(実施例3>実施例4>実施例2)、320nm付近の吸収ピークが大きいことが分かった。320nm付近の吸収ピークは炭素-酸素結合のn-π
*遷移が報告されているため、実施例3のカーボンナノ粒子がより多くの炭素-酸素結合があるではないかと考えられる。
【0088】
[実施例5]
アセトン10mLに98%硫酸5μLを加え、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、140℃でマイクロ波照射を行った。反応液中の硫酸の触媒濃度は、9mmol/Lであった。反応液が、透明から不透明な茶褐色に変化したことで、カーボンナノ粒子が生成したことを確認した。
【0089】
[比較例1]
アセトン10mLについて、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、140℃でマイクロ波照射を行った。反応液は、透明なままであり、365nmの紫外線を照射しても蛍光を発することはなかった。
【0090】
[実施例6]
ジメチルアセトアミド10mLに98%硫酸5μLを加え、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、180℃でマイクロ波照射を行った。反応液中の硫酸の触媒濃度は、9mmol/Lであった。反応液が、透明から不透明な茶褐色に変化したことで、カーボンナノ粒子が生成したことを確認した。
【0091】
[比較例2]
ジメチルアセトアミド10mLについて、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、180℃でマイクロ波照射を行った。反応液は、ほとんど透明なままであり、365nmの紫外線を照射しても蛍光を発することはほとんどなかった。
【0092】
[実施例7]
ジメチルホルムアミド10mLに98%硫酸5μLを加え、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、180℃でマイクロ波照射を行った。反応液中の硫酸の触媒濃度は、9mmol/Lであった。反応液が、透明から不透明な茶褐色に変化したことで、カーボンナノ粒子が生成したことを確認した。
【0093】
[比較例3]
ジメチルホルムアミド10mLについて、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、180℃でマイクロ波照射を行った。反応液は、ほとんど透明なままであり、365nmの紫外線を照射しても蛍光を発することはほとんどなかった。
【0094】
[実施例8]
無水酢酸10mLにジメチルアミノピリジン5mgを加え、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、180℃でマイクロ波照射を行った。反応液が、透明から不透明な茶褐色に変化したことで、カーボンナノ粒子が生成したことを確認した。
【0095】
(蛍光測定)
その後、反応液に2倍の体積量のクロロホルムと混合して均一な混合溶液を得た。さらに、2倍の体積量の水を添加し、分液ロートにて5%のNaHCO3水溶液、飽和食塩水、硫酸マグネシウムの順番でクロロホルム相を洗浄し、混合溶液中の無水酢酸及びジメチルアミノピリジンを取り除いた。
【0096】
クロロホルム抽出液をクロロホルムで50倍希釈すると、薄いオレンジ色の透明な溶液になった。この実施例8のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液に365nmの紫外線で照射したとき黄緑色に光った。
【0097】
[実施例9]
無水酢酸10mLにパラトルエンスルホン酸5mgを加え、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、180℃でマイクロ波照射を行った。反応液が、透明から不透明な茶褐色に変化したことで、カーボンナノ粒子が生成したことを確認した。
【0098】
(蛍光測定)
その後、反応液に2倍の体積量のクロロホルムと混合して均一な混合溶液を得た。さらに、2倍の体積量の水を添加し、分液ロートにて5%のNaHCO3水溶液、飽和食塩水、硫酸マグネシウムの順番でクロロホルム相を洗浄し、混合溶液中の無水酢酸及びパラトルエンスルホン酸を取り除いた。
【0099】
クロロホルム抽出液をクロロホルムで50倍希釈すると、薄いオレンジ色の透明な溶液になった。この実施例9のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液に365nmの紫外線で照射したとき黄緑色に光った。
【0100】
[実施例10~17]
実施例1における昇温到達温度180℃を、表1の様に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、1時間、マイクロ照射させた。反応液中の硫酸の触媒濃度は9mmol/Lであった。反応液に2倍の体積量のクロロホルムと混合して均一な混合溶液を得た。さらに、2倍の体積量の水を添加し、分液ロートにて5%のNaHCO3水溶液、飽和食塩水、硫酸マグネシウムの順番でクロロホルム相を洗浄し、混合溶液中の無水酢酸及び硫酸を取り除いた。
【0101】
実施例10及び11では、クロロホルム相が薄いオレンジ色の透明な溶液になり、実施例10及び11のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液を調製できた。
【0102】
実施例12及び13では、クロロホルム相が濃いオレンジ色となり、実施例12及び13のカーボンナノ粒子のクロロホルム抽出液を調製した。
クロロホルム抽出液をクロロホルムで20倍希釈すると、薄いオレンジ色の透明な溶液になった。これらを実施例12及び13のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液として、蛍光測定に供した。
【0103】
実施例14~17では、クロロホルム相が茶褐色となり、実施例14~17のカーボンナノ粒子のクロロホルム抽出液を調製した。
クロロホルム抽出液をクロロホルムで50倍希釈すると、薄いオレンジ色の透明な溶液になった。これらを実施例14~17のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液として、蛍光測定に供した。
【0104】
(蛍光測定)
これらの実施例10~17のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液に、Ultra-Lum社製UVトランスイルミネーター装置(型番900-1211-02)を用いて、波長365nmの紫外線で照射したとき、黄緑色の蛍光を発することを、いずれも目視で確認した。これらの黄緑色の蛍光の強さを目視で観察し、次の評価基準で蛍光強度を評価した。結果を表1に示す。
◎:蛍光の強度が非常に強かった。
○:蛍光の強度が強かった。
△:蛍光の強度が弱かった。
【0105】
【0106】
[実施例18~27]
実施例2における硫酸の触媒濃度45mmol/Lを、表2の様に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、1時間、加熱還流させた。反応液に2倍の体積量のクロロホルムと混合して均一な混合溶液を得た。さらに、2倍の体積量の水を添加し、分液ロートにて5%のNaHCO3水溶液、飽和食塩水、硫酸マグネシウムの順番でクロロホルム相を洗浄し、混合溶液中の無水酢酸及び硫酸を取り除いた。
【0107】
実施例18では、クロロホルム相が薄いオレンジ色の透明な溶液になり、実施例18のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液を調製できた。
【0108】
実施例19では、クロロホルム相が濃いオレンジ色となり、実施例19のカーボンナノ粒子のクロロホルム抽出液を調製した。
クロロホルム抽出液をクロロホルムで20倍希釈すると、薄いオレンジ色の透明な溶液になった。これを実施例19のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液として、蛍光測定に供した。
【0109】
実施例20~23では、クロロホルム相が茶褐色となり、実施例20~23のカーボンナノ粒子のクロロホルム抽出液を調製した。
クロロホルム抽出液をクロロホルムで50倍希釈すると、薄いオレンジ色の透明な溶液になった。これらを実施例20~23のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液として、蛍光測定に供した。
【0110】
実施例24では、反応液中に少量の黒い塊が見られた。クロロホルム相が茶褐色となり、実施例24のカーボンナノ粒子のクロロホルム抽出液を調製した。
クロロホルム抽出液をクロロホルムで50倍希釈すると、薄いオレンジ色の透明な溶液になった。これを実施例24のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液として、蛍光測定に供した。
【0111】
実施例25~27では、反応液中に多量の黒い塊が見られた。クロロホルム抽出液が茶褐色となり、実施例25~27のカーボンナノ粒子のクロロホルム抽出液を調製した。
クロロホルム抽出液をクロロホルムで50倍希釈すると、薄いオレンジ色の透明な溶液になった。これらを実施例25~27のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液として、蛍光測定に供した。
【0112】
(蛍光測定)
これらの実施例18~27のカーボンナノ粒子のクロロホルム溶液に、Ultra-Lum社製UVトランスイルミネーター装置を用いて、波長365nmの紫外線で照射したとき、黄緑色の蛍光を発することを、いずれも目視で確認した。これらの黄緑色の蛍光の強さを目視で観察し、次の評価基準で蛍光強度を評価した。結果を表2に示す。
◎:蛍光の強度が非常に強かった。
○:蛍光の強度が強かった。
△:蛍光の強度が弱かった。
【0113】
【0114】
[実験例1]
(カーボンナノ粒子の抗菌活性)
次の大腸菌及び培地を用いて、大腸菌のコロニー1個を培地に接種し、37℃で16時間振盪培養し、大腸菌液を調製した。
大腸菌:K12株、独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手した。
培地:10gの塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)、10gのトリプトン(ナカライテスク株式会社)及び5gの酵母エキス(ナカライテスク株式会社)を1Lの水に溶解させ、121℃で20分間、ヤマト社製オートクレーブ装置により滅菌した。
【0115】
実施例1のカーボンナノ粒子をジメチルスルホキシド(DMSO)に分散させ、カーボンナノ粒子の濃度が50μg/mL、100μg/mL、150μg/mL、200μg/mLの分散液を調製した。大腸菌液1mLにカーボンナノ粒子の分散液10μL、又は、ジメチルスルホキシド(DMSO)10μL(対照実験:Control)を加えて37℃で6時間振盪培養した。一時間毎に大腸菌液の波長620nmにおける吸光度を測定して、大腸菌の増殖を評価した。吸光度の測定結果を
図11に示す。カーボンナノ粒子の濃度が200μg/mLになると、6時間までも大腸菌の増殖が完全に抑制された。カーボンナノ粒子の大腸菌での抗菌活性が確認できた。
【0116】
また、サルモネラ菌(LT2株、独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手。)及び黄色ブドウ球菌(ATCC25923、独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手。)にて、大腸菌の場合と同様の実験をしたところ、同様に、カーボンナノ粒子のサルモネラ菌及び黄色ブドウ球菌での、実施例1のカーボンナノ粒子の抗菌活性が確認できた。
【0117】
[実験例2]
(カーボンナノ粒子の抗ウイルス活性)
次のバクテリオファージQβ及び培地を用いて、バクテリオファージQβを培地に接種させ、バクテリオファージQβ液(106pfu/mL)を調製した。
バクテリオファージQβ:独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手した。
培地:1gのペプトン(ナカライテスク株式会社)、及び、8.5gの塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)を1Lの水に溶解させ、121℃で20分間、ヤマト社製オートクレーブ装置により滅菌した。
【0118】
実施例1のカーボンナノ粒子(GQDs)をジメチルスルホキシド(DMSO)に分散させ、カーボンナノ粒子の濃度が100μg/mL、200μg/mLの分散液を調製した。人に感染しないウイルスであるバクテリオファージQβ液1mLに、これらの分散液10μL、又は、ジメチルスルホキシド(DMSO)10μL(対照実験:Control)を加えて混合し、37℃で、3時間、振盪培養した。
その後、宿主となる大腸菌(K12株、独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手。)にバクテリオファージQβを混合させ、軟寒天培地(前記培地に0.33質量%の寒天末を加えたもの)中、37℃で16時間培養した。バクテリオファージQβの感染による溶菌したプラークが形成され、プラークの数を数えることでバクテリオファージQβの数を定量した。
図12は、カーボンナノ粒子(GQDs)の抗ウイルス活性評価の結果を表すグラフである。
【0119】
図12の結果から示される通り、対照実験(Control)に対して、カーボンナノ粒子(GQDs)の濃度が100μg/mLの場合はバクテリオファージQβが10分の1近くに減少し、カーボンナノ粒子の濃度が200μg/mLになるとバクテリオファージQβが1000分の1近くに減少したことから、カーボンナノ粒子の抗ウイルス効果が確認できた。
【0120】
実施例1のカーボンナノ粒子(GQDs)の濃度が200μg/mLの分散液10μL、又は、ジメチルスルホキシド(DMSO)10μL(対照実験:Control)をバクテリオファージQβ液1mLに加え、37℃で30分間、3時間、6時間、振盪培養した。
その後、宿主となる大腸菌にバクテリオファージQβを混合させ、軟寒天培地(前記培地に0.33質量%の寒天末を加えたもの)中、37℃で16時間培養した。バクテリオファージQβの感染による溶菌したプラークが形成され、プラークの数を数えることでバクテリオファージQβの数を定量した。結果を
図13に示す。
30分間の短い時間から、カーボンナノ粒子が抗ウイルス活性を示した。
【0121】
[実験例3]
(カーボンナノ粒子とポリマーとの複合フィルムの抗菌活性)
ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA):質量平均分子量100,000であり、LACTEL社から入手した。
ポリ乳酸(PLLA):質量平均分子量100,000であり、LACTEL社から入手した。
ポリカプロラクトン(PCL):質量平均分子量80,000であり、LACTEL社から入手した。
シルクフィブロイン(SF):株式会社あつまるホールディングスから入手した。
大腸菌:K12株、独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手した。
培地:塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)、トリプトン(ナカライテスク株式会社)、酵母エキス(ナカライテスク株式会社)を水に溶解させ、121℃で20分間ヤマト社製オートクレーブ装置により滅菌した。
【0122】
それぞれ、18mgの4種類のポリマー(ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ乳酸(PLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)又はシルクフィブロイン(SF))と、3mgの実施例1のカーボンナノ粒子(GQDs)とを、1mLのヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に分散させ、それぞれ分散液を調製した。これらの分散液100μLをφ10mm×t1mmのガラス板表面に塗布し、乾燥させて、約0.0268mg/mm
2の複合フィルムを作製した。ガラス板上の複合フィルムを大腸菌液1mLに浸漬し、37℃で6時間振盪培養し、2時間毎に大腸菌液の吸光度を測定した。また、対照実験(Control)として、フィルムを浸漬せずに、そのまま、37℃で6時間振盪培養し、2時間毎に大腸菌液の吸光度を測定した。
図14は、それぞれの複合フィルムの抗菌活性評価の結果を表すグラフである。
【0123】
図14の結果から、何れの複合フィルムも、対照実験(Control)に比べて吸光度が抑えられており、抗菌活性があることが示された。
また、ポリ乳酸(PLLA)+カーボンナノ粒子(GQDs)の複合フィルム、ポリカプロラクトン(PCL)+カーボンナノ粒子(GQDs)の複合フィルムの方が、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)+カーボンナノ粒子(GQDs)の複合フィルム、シルクフィブロイン(SF)+カーボンナノ粒子(GQDs)の複合フィルムより高い抗菌活性が示された。
このようにポリマーの種類により大腸菌に対する抗菌活性が異なった理由は、カーボンナノ粒子(GQDs)がポリマーから放出される速度が違うからと考えられる。
【0124】
上記の、ガラス板上の4種類のポリマーの複合フィルムを用いて、日立ハイテクノロジーズ社製走査型電子顕微鏡で大腸菌の接着を観察した。フィルム上の大腸菌を4%-パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(富士フイルム和光純薬株式会社)で一晩固定させて、25%、50%、75%、90%、100%エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社)で脱水した。その後、走査型電子顕微鏡で観察した(
図15~18)。カーボンナノ粒子(GQDs)を混合させた複合フィルム(
図15~18の右側)は、カーボンナノ粒子(GQDs)を混合していないもの(
図15~18の左側)よりも、フィルム表面上の大腸菌の数が明らかに少なく、カーボンナノ粒子(GQDs)が大腸菌のバイオフィルムの形成を阻害したことがわかった。
【0125】
18mgのポリカプロラクトン(PCL)と、500μg、1000μg、1500μg、2000μg、2500μgの、実施例1のカーボンナノ粒子(GQDs)とを、1mLのヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に分散させ、それぞれの分散液を調製した。これらの分散液100μLをφ10mm×t1mmのガラス板に塗布し、乾燥させて、それぞれ、単位面積(1mm
2)当たりの複合フィルムの質量(mg)が、約0.0236mg/mm
2、約0.0242mg/mm
2、約0.0248mg/mm
2、約0.0255mg/mm
2、約0.0261mg/mm
2の複合フィルムを作製した。ガラス板上の複合フィルムを大腸菌液1mLに浸漬し、37℃で6時間振盪培養し、2時間毎に大腸菌液の吸光度を測定した。
図19に結果を示す。
図19は、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリカプロラクトン(PCL)の複合フィルムの抗菌活性について、カーボンナノ粒子(GQDs)の含量依存性の評価結果を表すグラフである。カーボンナノ粒子(GQDs)を150μg以上に混合させたポリカプロラクトン(PCL)の複合フィルムは、6時間後にも50%以上の抗菌活性が示された。
【0126】
[実験例4]
実験例3の大腸菌を、サルモネラ菌(LT2株、独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手。)、又は、黄色ブドウ球菌(ATCC25923、独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手。)に変更したことを除いて、実験例3と同じ実験をした。
サルモネラ菌と黄色ブドウ球菌にも同様な結果が得られた。何れの複合フィルムも、対照実験(Control)に比べて吸光度が抑えられており、サルモネラ菌及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性があることが示された。
また、ポリ乳酸(PLLA)+カーボンナノ粒子(GQDs)の複合フィルム、ポリカプロラクトン(PCL)+カーボンナノ粒子(GQDs)の複合フィルムの方が、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)+カーボンナノ粒子(GQDs)の複合フィルム、シルクフィブロイン(SF)+カーボンナノ粒子(GQDs)の複合フィルムより高い、サルモネラ菌及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が示された。
【0127】
[実験例5]
(複合フィルムのFT-IR特性評価)
3mg実施例1のカーボンナノ粒子(GQDs)と、18mgのポリ乳酸(PLLA)とを、1mLのヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に分散させて分散液を調製し、この分散液100μLをφ10mm×t1mmのガラス板に塗布し、乾燥させて、複合フィルムを作製した。
18mgのポリ乳酸(PLLA)を1mLのヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に分散させて分散液を調製した。この分散液100μLをガラス板に塗布し、乾燥させて、単位面積(1mm
2)当たりのフィルムの質量(mg)が、約0.0229mg/mm
2のポリマーフィルムを作製した。
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)によって、これらのフィルムの構造分析を行なった。
図20は、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸(PLLA)の複合フィルム、並びに、ポリ乳酸(PLLA)フィルムのFT-IRスペクトルである。その結果、カーボンナノ粒子(GQDs)を混合させると、1640cm
-1と1570cm
-1付近にカーボンナノ粒子(GQDs)由来のC=CのピークとC=Oのピークが検出された。
【0128】
同様に、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリカプロラクトン(PCL)の複合フィルム、並びに、ポリカプロラクトン(PCL)フィルムを作製し、FT-IRスペクトルを取得した。
同様に、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合フィルム、並びに、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)フィルムを作製し、FT-IRスペクトルを取得した。
いずれも、カーボンナノ粒子(GQDs)を混合させると、1640cm-1と1570cm-1付近にカーボンナノ粒子(GQDs)由来のC=CのピークとC=Oのピークが検出された。
【0129】
また、同様に、カーボンナノ粒子(GQDs)及びシルクフィブロイン(SF)の複合フィルム、並びに、シルクフィブロイン(SF)フィルムを作製し、FT-IRスペクトルを取得した。結果を
図21に示す。
興味深いことには、カーボンナノ粒子(GQDs)由来1570cm
-1付近のピークが見られなかった。また、フィブロインのランダム構造を示す1640cm
-1付近のピークが、βシート構造を示す1620cm
-1付近のピークに枝分かれた。この結果から、カーボンナノ粒子(GQDs)をシルクフィブロインに混合させることにより、フィブロイン構造の一部がβシートに変化したではないかと考えられる。このようにカーボンナノ粒子(GQDs)をポリマーに添加することにより、抗菌活性を持たせるだけではなく、ポリマーの特性を変えることも可能である。
【0130】
[実験例6]
(カーボンナノ粒子を用いたシルクの蛍光染色)
無水酢酸10mLに硫酸5μLを加えて混合溶液を作製し、この混合溶液に、30mgのシルク繊維(市販の糸)を浸漬し、アントンパール社製マイクロ波合成装置を用いて、1時間、180℃でマイクロ波照射を行った。その後、染色されたシルク繊維を取り出して大量な水で洗浄した。
その繊維に紫外線ライトを照射すると、オレンジ色に発光した。また、蛍光顕微鏡(FITCフィルタ、488nm)で観察しても、その蛍光を観察できた。カーボンナノ粒子(GQDs)が合成された後すぐにシルク繊維に吸着したと考えられる。
【0131】
[実験例7]
(カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子の作製)
5mgの実施例1のカーボンナノ粒子(GQDs)と、10mgのポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)とを、1mLのクロロホルムに分散させ、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のクロロホルム溶液を作製した。超音波を照射しながら、4℃に冷却した1質量%のポリビニルアルコール水溶液1mLにGQDs及びPLGAのクロロホルム溶液を滴下した。3時間撹拌した後、この混合溶液を3回遠心分離し、上澄を除去し、沈殿を水で再分散させ、均一に水分散した、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子を合成した。複合ナノ粒子の分散液を5倍に希釈したところ、黄色の溶液(5倍希釈液)となった。この溶液に365nmの紫外線を照射すると黄色に光った。分光蛍光光度計(日本分光社製FP-6600)で測定した蛍光スペクトルの測定結果を
図22に示す。
520nmで励起すると595nm付近に最大蛍光を発することが分かった。
図8のカーボンナノ粒子(GQDs)の蛍光スペクトルでは、440nmの励起で506nm付近に最大蛍光を発していたのに対して、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子の最大蛍光波長は、506nm付近から595nm付近にシフトしたことが示された。
【0132】
一般的に水溶性のカーボンナノ粒子(GQDs)は非選択的に細胞に取り込まれて蛍光を発するため、実際にバイオイメージングに応用するのは難しいと考えられる。一方、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)は生体分解性ポリマーであって、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のナノ粒子は細胞に選択性があり、取り込まれやすい。本発明に係るカーボンナノ粒子(GQDs)は、疎水性であり、有機溶剤可溶性であるので、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子に内包させ、バイオイメージングに応用することが期待できる。また、一般的な蛍光ラベルする物質(ローダミンやファロイジンなど)は水に溶けやすいため、ナノ粒子中の蛍光安定性が低い。これに対して、本発明に係るカーボンナノ粒子(GQDs)は、疎水性であり、有機溶剤可溶性であるので、安定に複合ナノ粒子に内包させることができ、蛍光を発したと考えられる。
【0133】
カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子の、動的光散乱法により測定される平均粒子径は、400nmであった。動的光散乱法により測定される多分散指数は、0.15であり、均一な粒度分布の分散液であることが確認できた。
【0134】
[実験例8]
(カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子のHeLa細胞への取り込み)
1×105cells/mLのHeLa細胞(JCRB9004、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所から入手。)を、培地(D-MEM、富士フイルム和光純薬株式会社から入手。)に分散させ、37℃で5%CO2環境下24時間培養し、アズワン製ディッシュに接着させて、HeLa細胞培養液を調製した。
【0135】
カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子(100μg/mL)をHeLa細胞培養液へ添加し、37℃で5%CO2環境下、2時間培養した。
また、10mgのポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)を、1mLのクロロホルムに分散させ、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のクロロホルム溶液を作製した。超音波を照射しながら、4℃に冷却した1質量%のポリビニルアルコール水溶液(1mL)にPLGAのクロロホルム溶液を滴下した。3時間撹拌した後、この混合溶液を3回遠心分離し、上澄を除去し、沈殿を水で再分散させ、均一に水分散した、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のナノ粒子を合成した。
ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のナノ粒子(100μg/mL)をHeLa細胞培養液へ添加し、同様に、2時間培養した。
その後、光学顕微鏡及び蛍光顕微鏡を用いて、細胞への取り込みを評価した。
【0136】
図23(A)は、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のナノ粒子をHeLa細胞に添加して2時間培養したときの光学顕微鏡写真である。
図23(B)は、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のナノ粒子をHeLa細胞に添加して2時間培養したときの蛍光顕微鏡写真である。
図23(C)は、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子をHeLa細胞に添加して2時間培養したときの光学顕微鏡写真である。
図23(D)は、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子をHeLa細胞に添加して2時間培養したときの蛍光顕微鏡写真である。
その結果、カーボンナノ粒子(GQDs)及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)の複合ナノ粒子がHeLa細胞へ取り込まれ、蛍光イメージングが確認された。
本発明のカーボンナノ粒子の製造方法は、有機溶媒を炭素源とするので、有機溶媒に分散可能なカーボンナノ粒子を、簡便かつ短時間に製造可能である。本発明のカーボンナノ粒子の製造方法から得られるカーボンナノ粒子は、医療材料、蛍光材料、染料、防虫剤等としての利用が期待される。
特に、本発明のカーボンナノ粒子は、緑色の蛍光を発するので、バイオイメージングのための造影剤としての利用可能性がある。また、本発明のカーボンナノ粒子は、抗菌活性、抗ウイルス活性を有するので、抗菌剤、抗ウイルス剤としての利用可能性がある。