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特開2022-41932潤滑油添加剤組成物、潤滑油添加剤組成物を含有する潤滑油組成物及び潤滑油添加剤組成物の用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041932
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】潤滑油添加剤組成物、潤滑油添加剤組成物を含有する潤滑油組成物及び潤滑油添加剤組成物の用途
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20220304BHJP
   C10M 135/08 20060101ALI20220304BHJP
   C10M 135/34 20060101ALI20220304BHJP
   C10M 135/10 20060101ALI20220304BHJP
   C10M 129/76 20060101ALI20220304BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20220304BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220304BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20220304BHJP
【FI】
C10M169/04 ZAB
C10M135/08 ZHV
C10M135/34
C10M135/10
C10M129/76
C10N10:12
C10N30:06
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135759
(22)【出願日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2020147028
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505442613
【氏名又は名称】株式会社トライボジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100087918
【弁理士】
【氏名又は名称】久保田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】米川 喜明
(72)【発明者】
【氏名】米田 誠
(72)【発明者】
【氏名】西島 英一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 秀一
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB36C
4H104BB41A
4H104BG05C
4H104BG06C
4H104BG18C
4H104BH03A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104FA06
4H104LA03
4H104PA41
4H104PA44
(57)【要約】
【課題】
潤滑油組成物の摩擦調整剤として使用される有機モリブデン化合物の溶解性を向上させることが可能であると共に、摩耗抑制及び摩擦低減等の潤滑性の改善可能な潤滑油添加剤組成物を提供する。
【解決手段】
潤滑油組成物の成分として用いられる潤滑油添加剤組成物であって、少なくとも成分A及び成分Bが含有されてなる潤滑油添加剤であり、前記成分Aが、(a)置換基を有するスルホラン、(b)炭化水素基置換チオフェン及び(c)炭化水素基置換トルエンスルホネートからなる群より選択される少なくとも一種の複素環状構造を有する化合物であり、前記成分Bがトリメリット酸無水物のポリオールエステルであり、それぞれの所定量が含有されることを特徴とする潤滑油添加剤組成物。さらに、本発明によれば高濃度のMoDTCを含有する有機モリブデン化合物溶解性向上剤組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物の成分として用いられる潤滑油添加剤組成物であって、
少なくとも成分A及び成分Bが含有されてなる潤滑油添加剤組成物であり、
前記成分Aが、
(a)置換基を有するスルホラン、
(b)炭化水素基置換チオフェン 及び
(c)炭化水素基置換トルエンスルホネート
からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有するものであり、
前記成分Bが、トリメリット酸無水物のポリオールエステルを含有するものであることを特徴とする潤滑油添加剤組成物。
【請求項2】
前記成分A(a)の置換基を有するスルホランが、次の一般式(1)で表される置換スルホランを含むものである請求項1に記載の潤滑油添加剤組成物。
[化1]

(前記式(1)において、Rは、炭素数4以上の炭化水素基であり、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、R及びRは、それぞれ、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、互いに同一又は異なっていてもよい。)
【請求項3】
(3)前記成分A(b)の炭化水素基置換チオフェンが、次の一般式(3)で表される複素環式化合物である請求項1に記載の潤滑油添加剤組成物。

(前記一般式(3)において、R4は、炭化水素基であり、nは1以上の整数である。)
【請求項4】
前記成分A(c)の炭化水素基置換トルエンスルホネートが、アルキル基置換トルエンスルホネートである請求項1に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項5】
前記成分A及び前記成分Bに、さらに成分Cが配合されてなる請求項1に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項6】
前記成分Cが、添加剤ベース油及び/又は有機モリブデン化合物である請求項5に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項7】
前記成分A及び前記成分Bの含有量が前記潤滑油添加剤組成物の質量基準で、前記成分Aの含有量が0.05~20質量%であり、前記成分Bの含有量が0.1~30質量%である請求項1に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項8】
前記成分Aと前記成分Bとの混合割合が、前記成分A1質量部に対し、前記成分Bが0.2~2質量部の範囲である請求項1に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかの1項に記載の潤滑油添加剤組成物からなることを特徴とする有機モリブデン化合物溶解性向上剤組成物。
【請求項10】
潤滑油基油と、前記潤滑油基油に配合された請求項1~8のいずれかの1項に記載の潤滑油添加剤組成物又は請求項9に記載の有機モリブデン化合物溶解性向上剤組成物と、任意に選択された少なくとも一種の他の潤滑油添加剤組成物とからなることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項11】
前記潤滑油添加剤組成物の前記潤滑油組成物に対する配合量が、潤滑油組成物の全質量を基準として1~30質量%である請求項10に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
前記潤滑油組成物の用途が、内燃機関用潤滑油、ハイブリッド自動車用潤滑油、電気自動車用潤滑油、燃料電池搭載自動車用潤滑油、並びに自動変速機用潤滑油及び無段変速機用潤滑油その他の駆動系潤滑油である請求項10に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
潤滑油組成物に配合された有機モリブデン化合物の溶解性向上方法であって、
前記有機モリブデン化合物が、モリブデン原子(Mo)量として少なくとも500質量ppm含有する潤滑油組成物に請求項9の有機モリブデン化合物溶解性向上剤組成物を添加することにより有機モリブデン化合物が実質的に完全に溶解された潤滑油組成物を収得することを特徴とする有機モリブデン化合物の溶解性向上方法。
【請求項14】
前記有機モリブデン化合物溶解性向上剤組成物の添加量が、前記潤滑油組成物の全質量を基準として1~20質量%である請求項13に記載の有機モリブデン化合物の溶解性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油添加剤組成物、前記潤滑油添加剤組成物を含有する潤滑油組成物及び前記潤滑油組成物に含有される有機モリブデン化合物の溶解性向上方法に関するものであり、さらに詳しくは、摩擦低減作用及び摩耗抑制作用を有することにより、潤滑性を向上させることが可能な有機モリブデン化合物の溶解性向上剤組成物、前記有機モリブデン化合物溶解性向上剤組成物を含有する潤滑油組成物並びに有機モリブデン化合物からなる摩擦調整剤の溶解性向上方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での環境規制は、一層厳しくなり、これに伴い自動車を取り巻く状況においても燃費規制、排ガス規制等がますます厳しく要求されるに至っている。かかる燃費規制に対応するための自動車の省燃費化を向上させる手段として、エンジンの小型化、自動車の軽量化技術の開発と共に、ガソリンエンジン等のエンジンに用いられる潤滑油組成物としては、摩擦係数が小さく、エンジンに対する負荷を低減させたものが要求され、その手段として、潤滑油組成物を構成する成分として多数の有機系化合物からなる摩擦調整剤が用いられ、エンジンの稼働上の負荷の低減が図られてきている。かかる多数の有機系化合物の摩擦調整剤の中でも、モリブデンジチオカルバメ-ト(以下「MoDTC」ということがある。)及びモリブデンジチオフォスフェート(以下「MoDTP」ということがある。)が金属間の摩擦係数を低減し、省燃費化を向上させることができる摩擦調整剤として、従来から多用されている。
【0003】
しかしながら、MoDTC及びMoDTP等には金属成分Moが含有されており、これらの化合物のなかには潤滑油基油への溶解性については制限のあるものもあることが観察され、一定量以上のモリブデン量においては濁りが生じ、沈殿が生成することもあり、その結果、得られるべき摩擦低減効果が十分に得られないという難点が指摘されている。溶解可能なモリブデン量が制限されることにより、十分な摩擦低減効果が得られないことからこれを補充するため他の摩擦低減剤との組み合わせなど煩雑な作業を余儀なくされる状況にある。
【0004】
特許文献1によれば、MoDTCの基油に対する溶解性を向上させる観点から、MoDTCの一般式中の下記部分:
[化2]

において、X1~X4が酸素原子又は硫黄原子を示し、X1~X4中の硫黄原子と酸素原子とのモル比(硫黄原子/酸素原子)が、1/3~3/1の一定範囲に特定されたものであることが好ましく、1.5/2.5~3/1がより好ましいと記載されているが、硫黄原子と酸素原子の割合を前記範囲に調整することは製造操作上、煩雑となる問題がある。
【0005】
かかる状況下において簡便な操作より有機モリブデン化合物の溶解性向上に関する解決策が切望されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再表2016-159258
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、第一に潤滑油組成物の成分として使用される有機モリブデン化合物の含有量が高濃度であっても、その溶解性を向上させることが可能な潤滑油添加剤組成物を提供することにあって、かつ、完全に溶解された有機モリブデン化合物を含有する潤滑油組成物を提供することにあり、第二に第一の課題を解決すると共に、摩耗抑制及び摩擦低減による潤滑性の優れた潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、前記の如き本発明の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、有機モリブデン化合物の組成の元素構成の調整を要することなく、潤滑油用添加剤の添加により解決を図ることとし、置換基を有するスルホランを含有する成分及びトリメリット酸無水物のポリオールエステルを含有する成分を混合することにより得られる混合物を有機モリブデン化合物の溶解性向上剤として用いることにより、本発明の前記いずれの課題も解決できることに着目し、かかる知見に基いて本発明の完成に到達したものである。
【0009】
かくして、本発明の要旨は、次の(1)~(14)に示す通りのものである。

(1)潤滑油組成物の成分として用いられる潤滑油添加剤組成物であって、少なくとも成分A及び成分Bが含有されてなる潤滑油添加剤組成物であり、
前記成分Aが、
(a)置換基を有するスルホラン、
(b)炭化水素基置換チオフェン 及び
(c)炭化水素基置換トルエンスルホネート
からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むものであり、
前記成分Bが、トリメリット酸無水物のポリオールエステルを含むものであることを特徴とする潤滑油添加剤組成物。

(2)前記成分A(a)の置換基を有するスルホランが、次の一般式(1)で表される化合物を含むものである前記(1)に記載の潤滑油添加剤組成物。
[化1]

(前記式(1)において、Rは、炭素数4以上の炭化水素基であり、Xは、酸素原子又は硫黄原子であり、R及びRは、水素原子及び炭素数1~4のアルキル基であり、互いに同一又は異なっていてもよい。)

(3)前記成分A(b)の炭化水素基置換チオフェンが、次の一般式(3)で表される複素環式化合物である前記(1)に記載の潤滑油添加剤組成物。

(前記一般式(3)においてR4は、炭化水素基であり、nは1以上の整数である。)
(4)前記成分A(c)の炭化水素基置換トルエンスルホネートが、アルキル基置換トルエンスルホネートである前記(1)に記載の潤滑油添加剤組成物。

(5)前記成分A及び前記成分Bに、さらに成分Cが配合されてなる前記(1)に記載の潤滑油添加剤組成物。

(6)前記成分Cが添加剤ベース油及び/又は有機モリブデン化合物である前記(5)に記載の潤滑油添加剤組成物。
(7)前記成分A及び前記成分Bの含有量が前記潤滑油添加剤組成物の質量基準で、前記成分Aの含有量が0.05~20質量%であり、前記成分Bの含有量が0.1~30質量%である前記(1)に記載の潤滑油添加剤組成物。

(8)前記成分Aと前記成分Bとの混合割合が、前記成分A1質量部に対し、前記成分Bが0.2~2質量部の範囲である前記(1)に記載の潤滑油添加剤組成物。

(9)前記(1)~(8)のいずれかの1に記載の潤滑油添加剤組成物からなることを特徴とする有機モリブデン化合物の溶解性向上用潤滑油添加剤組成物。

(10)潤滑油基油と、前記潤滑油基油に配合された前記(1)~(8)のいずれかの1に記載の潤滑油添加剤組成物と、任意に選択された少なくとも一種の他の潤滑油添加剤組成物とからなることを特徴とする潤滑油組成物。

(11)前記潤滑油添加剤組成物の前記潤滑油組成物に対する配合量が、潤滑油組成物の全質量を基準として1~30質量%である前記(10)に記載の潤滑油組成物。

(12)前記潤滑油組成物の用途が、内燃機関用潤滑油、ハイブリッド自動車用潤滑油、電気自動車用潤滑油、自動変速機用潤滑油及び無段変速機用潤滑油、その他の駆動系潤滑油である前記(10)に記載の潤滑油組成物。

(13)潤滑油組成物に配合された有機モリブデン化合物の溶解性向上方法であって、
前記有機モリブデン化合物が、モリブデン原子(Mo)量として少なくとも1000質量ppm含有する潤滑油組成物に前記(1)~(8)のいずれかの1に記載の潤滑油添加剤組成物を添加することを特徴とする有機モリブデン化合物の溶解性向上方法。

(14)前記潤滑油添加剤組成物の添加量が、前記潤滑油組成物の全質量を基準として1~20質量%である前記(13)に記載の有機モリブデン化合物の溶解性向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物によれば、潤滑油の摩擦調整剤として使用される有機モリブデン化合物の潤滑油組成物における溶解性を著しく改善することができ、特にモリブデン原子(Mo)量として1000質量ppm以上、特に2000質量ppm以上の有機モリブデン化合物を濁化発生することなく、透明な状態になるように完全に溶解させることができる。
この結果、かかる潤滑油添加剤組成物が配合された潤滑油組成物によれば、エンジン摺動部の摩耗抑制及び摩擦低減を著しく顕著に図ることにより潤滑性を向上させることができ、特にアイドリング停止システムにおいて頻発する低速運転での潤滑性の向上において著しく顕著な効果を奏する。
また、本発明によれば、モリブデン原子(Mo)質量として500~5000質量ppmの高濃度の有機モリブデン化合物を溶解させてなる潤滑油添加剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
潤滑油添加剤組成物
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物は、少なくとも成分Aおよび成分Bを含有するものからなるものであり、
成分Aが
(a)置換基を有するスルホラン、
(b)炭化水素基置換チオフェン 及び
(c)炭化水素基置換トルエンスルホネート
からなる群より選択される少なくとも一種の複素環状構造を有する化合物を含むものであり、
成分Bが
トリメリット酸無水物のポリオールエステル
である。
【0012】
成分A
置換基を有するスルホラン
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物の構成成分として特定された置換基を有するスルホランは、次の一般式(1):
[化1]

で表される置換スルホランが好ましい。
式(1)において、Rは、炭素数4以上を有する炭化水素基であり、例えば、アルキル基及びアルケニル基等の脂肪族基、シクロアルキル基又はシクロアルケニル基等の脂環式基、芳香族基、脂肪族基-及び脂環式基-置換芳香族基、芳香族基-置換脂肪族基及び脂環式基等を挙げることができる。例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシルデシル基、エイコシル基、デセニル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基、ヘプチルフェニル基、イソプロペニルフェニル基及びナフチル基等の各基並びにこれらの各異性体を挙げることができる。
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物の成分Aとして、好適な置換スルホランは、R
が、炭素数4~50の炭化水素基であり、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンタニル基、ブテニル基、ドデセニル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、ドデシルフェニル基、テトラプロペン-アルキル化フェニル基、フェネチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基等の炭化水素基を選択してもよい(炭化水素基は各々の異性体も包含するものである。)。かかる炭化水素基のなかで炭素数4~30のアルキル基又はアルケニル基(奥性体を含む)が好ましい。
また、式(1)において、Xは、酸素原子又は硫黄原子が好ましい。
及びRは、それぞれ、水素原子及び炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択される。
【0013】
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物の構成成分である成分Aとしてさらに好適な置換スルホランは、Rが炭素数4~12のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の混合体又は、デシル基、イソデシル基等のアルキル基、分岐アルキル基である。また、R及びRは、それぞれ水素原子であり、Xとしては酸素原子又は硫黄原子が好ましい。かかる観点から置換基としては、3-アルコキシ基又は3-アルキチオ基を有するものが好ましい。
【0014】
炭化水素基置換チオフェン
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物の成分Aとして使用される炭化水素基置換チオフェンは、チオフェンのなかの水素原子を炭化水素基で置き換えられた誘導体であり、その具体例としては、次の一般式(3)を有する化合物を挙げることができる。
[化3]

式(3)において、R4は、炭化水素基であり、炭化水素基としては、例えば、アルキル基またはアルケニル基等の脂肪族基、シクロアルキル基又はシクロアルケニル基等の脂環式基、芳香族基、脂肪族基-及び脂環式基-置換芳香族基、芳香族基-置換脂肪族基及び脂環式基等を挙げることができる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、エイコシル基、デセニル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基、ヘプチルフェニル基、イソプロペニルフェニル基、及びナフチル基等の各基並びにこれらの各異性体を挙げることができる。
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物の構成成分の成分Aとして好適な炭化水素基置換チオフェンは、R4が炭素数1~50の炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基、フェニル基、フェネチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基等及びこれらの各異性体を挙げることができる。
また、式(3)において、置換基の数nは1以上であり、4以下のいずれでもよいが1又は2が好ましい。また、五員環への置換位置は、いずれの位置でもよいが、2または3の位置が好ましい。
以上の観点から、本発明にかかる潤滑油添加剤組成物の成分Aとして、さらに好適な炭化水素基置換チオフェンは、R4が炭素数1~10のアルキル基又はアルケニル基及びこれらの異性体であり、特に好ましくは、炭素数4~10であり、具体的には、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基であり、例えば、3-ブチルチオフェン、3,4-ジブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-デシルチオフェン等を挙げることができる。さらに好ましくは、炭素数4以上であり、下記の式(4)で示す2-n-オクチルチオフェン、および式(5)の3-n-オクチルチオフェンを挙げることができる。
[化4]

[化5]

また、本発明にかかる潤滑油添加剤成分Aの(b)炭化水素基置換チオフェンとして、ホウ素含有化合物を含有するものも使用することができ、具体例として、次の式(6)および式(7)で表される化合物を挙げることができる。
すなわち、式(6):
[化6]

で示される3-n-オクチル-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)チオフェン、
式(7):
[化7]

で示される4-n-オクチル-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)チオフェン
等を挙げることができる。
【0015】
炭化水素基置換トルエンスルホネート
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物の成分Aとして使用することができる炭化水素基置換トルエンスルホネートは、炭化水素基が炭素数4~12のアルキル基(異性体を含む。)が好ましく、特に、炭素数6以上のヘキシル基、オクチル基、デシル基等が好ましい。さらに好ましい具体例としては、
[化8]

で示されるn-オクチルp-トルエンスルホネート
を挙げることができる。
【0016】
成分B
トリメリット酸無水物のポリオールエステル
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物を構成する成分Bのトリメリット酸無水物のポリオ-ルエステルは、下記の式(8-1)および式(8-2)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有するものである。
[化8-1]

(前記式(8-1)において、Xは、2価の炭素数2~12のアルケニル基である。)
[化8-2]


(前記式(8-2)において、Rは水素原子及び炭素数1~3のアルキル基の群から選択される基である。)
前記式(8-1)において(-O-X-O-)基は、脂肪族飽和炭化水素(以下、「アルカン」という。)の末端にヒドロキシル基を有するポリオールから誘導されたものであり、Xは、両末端ヒドロキシル基の間のポリオールを構成する骨格原子からなるものである。
【0017】
前記式(8-1)において、Xは二価の炭素数2~12のアルケニル基であり、式(8-2)においてRは水素原子および炭素数1~3のアルキル基から選択される。
前記炭素数2~12のアルケニル基としては、具体的には、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基等及びこれらの異性体が挙げられる。また、前記Rの炭素数1~3のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基及びプロピル基の異性体が挙げられる。
前記式(8-1)及び(8-2)の化合物は、いずれの方法で製造してもよいが、トリメリット酸無水物をアルカンポリオールの有機酸エステルと反応させることにより得ることが提案されている。アルカンポリオールは、末端にヒドロキシル基を有するものであり、炭素数1~12を有するものが好ましい。具体的には、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオ-ル、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,12-ドデカンジオール等を挙げることができる。
アルカンポリオールとしては、3個のヒドロキシル基を有するものも使用することができる。例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン等を挙げることができる。また、ペンタエリスリトール等のテトラヒドロキシンアルカンポリオールも挙げることができる。
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物の構成成分の成分Bとして好適なトリメリット酸無水物のポリオールエステルは、下記の動粘度を有するように一般式(8-1)におけるXが選択される。好ましいポリオールは、1,4-ブタンジオ-ル、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオールからなる群より選択することができる。
また、一般式(8-2)におけるRとしては、水素原子又はメチル基を選択することができる。
【0018】
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物を構成する成分Bは、前記の通りのトリメリット酸無水物のポリオールエステルを含有する流体であり、APIカテゴリーグループVフルードに属するものである。粘度としては、40℃動粘度:280~360mm2/s、100℃動粘度:18~25mm2/sのものが好ましい。また粘度指数は70以上のものを採用することができる。
【0019】
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物を構成する成分A及び成分Bの含有量は、成分Cを含有する潤滑油添加剤組成物の全質量基準で成分Aの含有量が0.05~20質量%であり、好ましくは、0.1~15質量%である。さらに好ましくは、0.15~10質量%であり、特に好ましくは、1~8質量%である。
【0020】
成分Aの含有量が0.05質量%未満の場合は、十分な有機モリブデン化合物の溶解性を達成することができず、潤滑性も十分でない。一方、成分Aの含有量が20質量%を超えると金属部品に対する腐食が発生する可能性が大きくなるおそれがある。
【0021】
一方、成分Bの含有量は0.1~30質量%であり、好ましくは、1~20質量%であり、さらに好ましくは、2~15質量%であり、特に好ましくは、5~12質量%である。
【0022】
成分Bの含有量が0.1質量%未満であると有機モリブデン化合物の溶解性が十分でなく、潤滑性も十分な効果が得られない。一方、30質量%を超えると成分Bの吸着阻害により摩耗防止剤の作用を損なう可能性がでてくるおそれがある。
【0023】
成分Aと成分Bとの混合割合は、成分A1質量部に対して成分Bが0.2~2質量部の範囲が好適であり、好ましくは0.5~1.5質量部であり、さらに好ましくは0.7~1.2質量部である。
【0024】
成分A1質量部に対し、成分Bが0.2質量部に満たない場合においては、有機モリブデン化合物の溶解性が十分でなく、一方2質量部を超えると成分Bの吸着阻害により摩耗防止剤の作用を損なう可能性がでてくるおそれがある。成分A1質量部に対し、成分Bが0.2~2質量部の混合範囲において、有機モリブデン化合物の溶解性が著しい相乗的効果を奏することは後述の実施例、比較例において示されている。また、成分Aと成分Bとの混合範囲が前記範囲と同範囲において潤滑性についても著しい効果を示すことが明らかになった。
【0025】
成分C
成分Cは、成分A及び成分Bの媒体としてのベース油であり、また、潤滑油組成物との粘度調整のために採用される。ベース油として、後述の潤滑油基油と同一のものを、用途に応じて任意に選択することができるが、各種鉱油、植物油及び合成油を用いることができる。鉱油としては、例えば、通常、潤滑油基油として用いられる石油精製工程において製造される潤滑油留分を用いることができる。具体的には、潤滑油原料油を溶剤精製、水素化分解、水素化精製、溶剤脱蝋、接触脱蝋等の精製工程を選択することにより得られる溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、ワックスの水素化分解鉱油又はこれらの混合油を用いることができる。植物油としては菜種油等を挙げることができる。合成油としては、ポリアルファオレフィン(PAO)、二塩基酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、オレイン酸、アゼライン酸、スペリン酸、セバチン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー等)と各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシンアルコール、2-エチルヘキシンアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステル、炭素数5~18のモノカルボン酸とポリオール(例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等)とのエステル等を挙げることができる。市場で入手することができる。かかる成分Cの粘度としては、本発明にかかる潤滑油添加剤組成物の用途によるものであり、潤滑油基油の粘度に対応して決定されるが、通常100℃動粘度:4~35mm2/sの範囲のものが好ましい。
【0026】
また、成分Cとして、有機モリブデン化合物を任意に含有させることができる。有機モリブデン化合物をベース油及び/又は成分A及び成分Bに添加し、モリブデン原子(Mo)の含有量として500~5,000質量ppmの高濃度で透明体のものを得ることができる。かかる成分A、B及びCからなる組成により摩擦低減及び摩擦抑制による潤滑性向上用の添加剤を提供することができる。前記有機モリブデン化合物としては、MoDTC、MoDTP等を挙げることができるが、摩擦調整剤としての性能を有するものであれば採用することができる。
成分Cの含有量は、成分Aと成分Bの合計量の残量であり、成分A及び成分Bの含有量により変動するが、50質量%以上、好ましくは、65質量%以上である。
【0027】
有機モリブデン化合物溶解性向上剤組成物
本発明にかかる潤滑油添加剤組成物の用途として有機モリブデン化合物溶解性向上剤組成物(以下「モリブデン溶解性向上剤組成物」と略称することがある。)を提供することができる。
本発明にかかるモリブデン溶解性向上剤組成物は、前記成分A及び前記成分Bを含有し、成分Cとしてベース油を含有し、さらに任意成分として有機モリブデン化合物がモリブデン原子(Mo)量として500~5000質量ppm、好ましくは600~3000質量ppmの範囲で含有してなるものでもよい。
前記成分A及び前記成分Bの含有量は、前記潤滑油添加剤組成物における含有量と同一範囲のものでよく、前記成分Aについては、モリブデン溶解性向上剤組成物の全質量基準で、0.05~20質量%であり、成分Bについては0.1~30質量%である。
本発明にかかるモリブデン溶解性向上剤組成物の構成成分としてのベース油は、前記潤滑油添加剤組成物の構成成分として用いられる、鉱油、植物油及び合成油と同一のものを採用することができる。特に100℃動粘度2~10mm2/sの低粘度の高度水素化処理鉱油が好ましい。
本発明によれば、有機モリブデン化合物を含有しないモリブデン溶解性向上剤組成物を市販潤滑油等の潤滑油組成物に添加し、摩擦調整剤として含有する有機モリブデン化合物の溶解性を向上させることができ、又、高濃度の有機モリブデン化合物を含有するモリブデン溶解性向上剤組成物を市販潤滑油等の潤滑油組成物に添加し、沈殿の生成を惹起することなく、透明な状態において市販潤滑油中のモリブデン含有量を著しく増加させることができる。
かかるモリブデン含有量の増量は本発明にかかる有機モリブデン化合物溶解性向上剤の存在下においてはじめて達成することができたものである。
【0028】
有機モリブデン化合物
本発明にかかる有機モリブデン化合物溶解性向上剤及び有機モリブデン化合物の溶解性向上方法において対象とする有機モリブデン化合物は、潤滑油の添加剤として使用されるものを対象とするものであり、例えば、下記の1、2に記載の通りのものを挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、モリブデンオキサイド、モリブデンアミンコンプレックス、その他のモリブデン原子(Mo)を含有する有機化合物であれば対象とすることができる。
(1)モリブデンジチオカルバメ-ト
モリブデンジチオカルバメ-ト(MoDTC)は、本発明の背景技術で記載した一般式(2)で表される化合物である。
式(2)中、両末端のR1~R4は、水素原子;炭素数1~20のアルキル基;炭素数6~26のシクロアルキル基;炭素数6~26のアリール基;アルキルアリール基又はアリールアルキル基等の炭化水素であり、互いに同一又は異なるものでもよい。また、式中、X1及びX2、3及びX4は酸素原子又は硫黄原子であり、互いに同一でも異なるものでもよい。
具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオカルバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカルバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカルバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカルバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカルバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカルバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカルバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカルバメート等の硫化モリブデンジアルキルジチオカルバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカルバメート等の硫化モリブデンジ(アルキルフェニル)ジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカルバメート等の硫化オキシモリブデンジアルキルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジ(アルキルフェニル)ジチオカルバメート等の硫化オキシモリブデンジ(アルキルフェニル)ジチオカルバメート等を挙げることができる。
(2)モリブデンジチオフォスフェート
モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)の具体例として硫化オキシモリブデンジアルキルジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジ(アルキルフェニル)ジチオフォスフェート等を挙げることができる。
硫化オキシモリブデンジアルキルジチオフォスフェートのアルキル基としては、炭素数2~12のもの(異性体を含む。)を選択することができる。
前記の如き、有機モリブデン化合物は、市場で入手できるものでよく、いずれの形態のものであっても本発明にかかる有機モリブデン化合物溶解性向上剤組成物により潤滑油等の有機媒体中で容易に溶解させることができる。
潤滑油組成物
本発明にかかる潤滑油組成物は、潤滑油基油と、前記潤滑油基油に配合された前記潤滑油
添加剤組成物と、さらに必要に応じて配合される他の潤滑油添加剤とから構成されるものである。
【0029】
尚、本発明において、有機モリブデン化合物は、本発明にかかる潤滑油添加剤に高濃度に含有させて、透明な状態で潤滑油組成物に配合することができるが、潤滑油基油に配合されて潤滑油組成物を得るか、他の添加剤と同時に、又は他の添加剤の配合後に配合してもよい。
【0030】
潤滑油基油
本発明にかかる潤滑油組成物を構成する潤滑油基油は、通常の潤滑油基油として使用され、また使用が可能なものであれば、特に限定されるものではないが、本発明にかかる潤滑油組成物の構成成分として用いられる潤滑油添加剤組成物を完全に溶解させることができるものが好適である。具体的には、かかる要求を満たす鉱油系基油、GTL(Gas to liquid)系基油、合成油系基油またはこれらの混合油系基油等が用いられる。
【0031】
鉱油系基油としては、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧蒸留装置の残渣油の減圧蒸留による留出油として得られる潤滑油留分または残渣油を溶剤精製、水素化分解、水素化処理、水素化精製、溶剤脱蝋、接触脱蝋、白土処理等の各種精製工程を任意に選択して用いることにより処理して得られる溶剤精製鉱油または水素化処理鉱油および溶剤精製と水素化処理を組み合わせた工程により得られる鉱油、または減圧蒸留残渣油の溶剤脱瀝処理により得られる脱瀝油を前記の精製工程により処理して得られる鉱油、またはワックス分の異性化により得られる鉱油等、これらの混合油を基油基材として用いることができる。
【0032】
前記の如くして得られる精製基油基材として粘度レベルの異なる軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストック等を挙げることができ、これらの基材を潤滑油製品の各用途に応じて動粘度等の要求性状を満たすように適宜調合することにより鉱油系基油を製造することができる。
【0033】
また、GTL油系基油としては、GTLプロセスにより天然ガス等を原料として得られる液体生成物から分離される潤滑油留分、または生成ワックスの水添異性化または水素化分解により得られる潤滑油留分等を挙げることができる。さらには、アスファルト等の重質残油成分を原料とするATL(Asphalt to Liquid)プロセスにより得られる液状生成油から分離される潤滑油留分等も用いることができる。
【0034】
一方、合成油系基油としては、ポリアルファオレフィンオリゴマー(例えば、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン)等およびこれらの混合物。);ポリブテン;エチレン-アルキレンコポリマー;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン、ジノニルベンゼン等。);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、アルキル化ポリフェニル等。);アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドおよびこれらの誘導体;二塩基酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スペリン酸、セバチン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー等。)と各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2ーエチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等。)とのエステル;炭素数5~18のモノカルボン酸とポリオール(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等。)とのエステル;その他、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、リン酸エステル等を挙げることができる。
【0035】
潤滑油基油は、前記の鉱油系基油、合成油系基油およびGTL油系基油を潤滑油組成物の用途に応じて所望の粘度およびその他の性状を満たすように単独でまたは二種以上の基油を混合することにより製造される。
【0036】
潤滑油基油としては、特に合成油系基油と鉱油系基油との混合油系基油が好適であり、GTL油系基油と鉱油系基油との混合油系基油、二種以上の鉱油系基油からなる混合油系基油または二種以上のGTL油系基油からなる混合油系基油等が好ましく、さらに、GTL油系基油と鉱油系基油との混合油系基油および二種以上の鉱油系基油からなる混合油系基油が粘度特性と経済性とのバランスを図る点から好適である。
【0037】
本発明にかかる潤滑油組成物中の構成成分としての潤滑油基油の粘度は、潤滑油組成物の用途に応じて決定されるが、環境保全の観点から低粘度化油が求められる状況下にあり、潤滑油基油の100℃における動粘度が2~10mm2/sの範囲にあり、好ましくは3~7mm2/sの範囲に制御される。
【0038】
潤滑油基油の粘度が高すぎると、摩擦抵抗が大きくなり、また流体潤滑域における摩擦係数が高くなり、省燃費特性が悪化するという問題がある。一方、粘度が低すぎると、摺動部分、例えば内燃機関の動弁系、ピストンリングおよび軸受等において摩耗が増加するという難点が生ずる。
【0039】
潤滑油基油の含有量は、潤滑油組成物の全質量基準で99.5~50質量%、好ましくは99~60質量%、さらに好ましくは95~70質量%である。
【0040】
本発明にかかる潤滑油組成物は、潤滑油基油と、該潤滑油基油に配合された前記添加剤組成物とからなるものであり、潤滑油組成物の用途に応じて要求される性能を満たすためにさらに他の各種添加剤が任意に配合される。
【0041】
潤滑油基油と該潤滑油基油に配合された成分Aおよび成分Bを含有する潤滑油添加剤組成物とからなる潤滑油組成物において、潤滑油添加剤組成物の含有量は、潤滑油組成物全質量基準で、0.1~30質量%の範囲で採用される。好ましくは、0.15~20質量%、さらに好ましくは、0.2~15質量%である。潤滑油添加剤組成物の含有量が0.1質量%に満たないとMoDTCの溶解性の向上を促進することができず、潤滑性の向上にも寄与することができない。一方、30質量%を超えると潤滑油添加剤組成物が添加されて得られる潤滑油組成物の性状がアンバランスになり、潤滑性のが低下するおそれが生ずる。
【0042】
また、本発明にかかる潤滑油組成物中の成分Aの含有量は、潤滑油組成物の全質量基準で0.01~5質量%、好ましくは、0.05~4質量%、さらに好ましくは、0.1~3質量%、特に好ましくは、0.15~2.5質量%の範囲である。
【0043】
成分Bの含有量は、0.01~6質量%、好ましくは0.05~5質量%、さらに好ましくは0.1~4質量%、特に好ましくは0.15~3質量%の範囲である。
【0044】
成分Aの含有量が0.01質量%に満たないと有機モリブデン化合物に対する可溶化性能が不十分となり、一方、5質量%を超えると金属部品に対する腐蝕による弊害のおそれが生ずる。
また、成分Bの含有量が0.01質量%に満たないと有機モリブデン化合物に対する可溶化性能が不十分となるおそれがあり、一方6質量%を超えると成分Bの過多に伴う吸着阻害により摩耗防止剤の性能を低減させるおそれが生ずる。
【0045】
他の添加剤
本発明にかかる潤滑油組成物は、自動変速機油、無段変速機油、油圧油、ギヤ油、タービン油、コンプレッサー油及びエンジン油等として好適なものであり、基油の選択により、必要な粘度調整を行ない、用途に応じてそれぞれ要求される性能を満たすために各種添加剤、例えば、粘度指数向上剤、無灰分散剤、有機酸金属塩(金属系洗浄剤)、酸化防止剤、極圧剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、防錆剤、着色剤などを適宜添加することができる。
【0046】
粘度指数向上剤としては、一般に非分散型ポリメタアクリレート、分散型ポリメタアクリレート、非分散型オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体)、分散型オレフィンコポリマー、ポリアルキルスチレン、スチレン-ブタジエン水添共重合体、スチレン-無水マイレン酸エステル共重合体、星状イソプレン等が挙げられる。非分散型オレフィンコポリマーとは、分子中に酸素または窒素を含有せずに分散性能を有しているものである。ポリイソブチレンやエチレン-プロピレン共重合体の分子量としては、質量平均分子量で10万以上(GPC分析においてポリスチレン換算量)のものが好ましい。これは単独だけでなく複数のものを併用してもよい。通常0.01質量%~30質量%の割合で使用される。
【0047】
無灰分散剤としては、コハク酸イミド、コハク酸アミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、コハク酸エステル-アミド等を含有する添加剤およびそれらのホウ素含有等が挙げられるが、コハク酸イミド系およびホウ素含有コハク酸イミド系が好ましく用いられる。コハク酸イミド系およびホウ素含有コハク酸イミド系の配合量は、通常0.05質量%~8質量%である。
【0048】
金属系清浄剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のスルホネート、フェネート、サリシレート、カルボキシレートから選択される化合物を含むものが挙げられ、過塩基性塩、塩基性塩、中性塩等の塩基価の異なるものを任意に選択して用いることができる。これらの配合量は、金属元素量として、通常0.05質量%~5質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0049】
摩擦調整剤としては、例えば、有機モリブデン化合物の他に脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、油脂類、アミン、ポリアミド、硫化エステル、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。これらは、通常0.05質量%~5質量%の割合で使用される。
【0050】
摩耗防止剤としては、一般にジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸金属塩(Pb,Sb,Moなど)、ジチオカルバミン酸金属塩(Zn,Pb,Sb,Moなど)ナフテン酸金属塩(Pbなど)、脂肪酸金属塩(Pbなど)、ホウ素化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられ、通常0.1質量%~5質量%の割合で使用される。
【0051】
酸化防止剤としては、一般にアルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤、モリブデン系酸化防止剤、さらにジチオリン酸亜鉛等が挙げられ、特に、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤およびこれらの組合せが好ましく用いられる。これらは、通常0.05質量%~5質量%の割合で使用される。
【0052】
極圧剤としては、一般に無灰系サルファイド化合物、硫化油脂、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられ、これらは、通常0.05質量%~3質量%の割合で使用される。
【0053】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体等が挙げられ、これらは、通常0.01質量%~3質量%の割合で使用される。
【0054】
流動点降下剤としては、一般にエチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタリンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、特に、ポリメタアクリレートが好ましく用いられる。これらは、通常0.01質量%~5質量%の割合で使用される。
【0055】
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸基、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられ、これらは、通常0.01質量%~3質量%の割合で使用される。
【0056】
また、潤滑油組成物を調製する際に、用途に応じてエンジン油用添加剤パッケージ、自動変速機油(ATF)用の添加剤パッケージ等の添加剤パッケージが用いられるが、前記の添加剤群から有用な添加剤を選択して使用することもできる。エンジン油としては、摩擦調整剤のほか、通常、酸化防止剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、防錆剤、腐食防止剤等を含有するものである。各添加剤の配合量の具体例としては、下記記載の通りである。
本発明によれば、前記の通りの潤滑油組成物に本発明にかかる高濃度の有機モリブデン化合物を含有する潤滑油添加剤組成物を添加することにより、モリブデン量をさらに増加させた潤滑油組成物を提供することができる。
【表1】
【0057】
有機モリブデン化合物の溶解性向上方法
本発明によれば、潤滑油の摩擦調整剤として使用される有機モリブデン化合物(例えばMoDTC)の溶解性向上方法であって、有機モリブデン化合物をモリブデン原子(Mo)含有量として700質量ppm以上、特に2000質量ppm以上配合した潤滑油基油又は潤滑油組成物に少なくとも成分A及び成分Bを含有する潤滑油添加剤組成物を添加することからなる、有機モリブデン化合物の溶解性向上方法が提供される。
【0058】
通常、有機モリブデン化合物、特に、MoDTC等は、潤滑油基油又は潤滑油組成物に対して、鉱油系基油又は合成系基油により差異はあるとしても約700質量ppmを超えると溶解しにくくなり、濁りを生じ、沈殿を生成することも観察される。従って、1000質量ppm以上、特に2000質量ppm以上においては沈殿を生じ分離状態となることもある。かかる状態のMoDTCを含有する潤滑油基油又は他の添加剤が含有する潤滑油組成物に対し、本発明にかかる潤滑油添加剤組成物を添加することにより、濁り、沈殿及び分離状態を解消し、完全透明な状態になるように溶解性を向上させることができる。
【0059】
かかる潤滑油添加剤組成物の添加量は、潤滑油基油又は潤滑油組成物の全質量基準で5~20質量%、好ましくは7~15質量%、さらに好ましくは9~12質量%である。
【0060】
有機モリブデン化合物の溶解性向上方法において、潤滑油添加剤組成物を添加することにより、潤滑油基油又は潤滑油組成物中の有機モリブデン化合物を溶解させることができると共に、有機モリブデン化合物を含有する高濃度に含有する添加剤組成物の添加により、有機モリブデン化合物を補給することにより完全溶解状態の高濃度のモリブデン(Mo)を含有する潤滑油基油又は潤滑油組成物を提供することができる。
MoDTCの溶解性の評価は、実施例において詳述する手順に従って調製した透明度の異なる試料に基き目視メリットにより求めることができる。
【実施例0061】
以下、本発明について実施例および比較例により、具体的に詳述する。もっとも本発明は、実施例等により限定されるものではない。
尚、実施例等において用いる評価試験方法及び試験材料等については下記に掲げる。
【0062】
1.MoDTCの溶解性の評価方法
評価方法の手順を次に示す。
(1)試験用基油に、MoDTCを所定量添加し、60~80℃に加温し、スターラで10分間撹拌し、第1の混合物を得る。
(2)前記(1)で得られた第1の混合物に各実施例及び各比較例で得られた潤滑油添加剤開発品(以下、「LPT」ということがある。)をそれぞれ添加して得られた第2の混合物を評価用の試料とする。
(3)試料を容量30~100mlの透明サンプル瓶に封入して1時間静置保存する。
(4)最初に、試料を3日間マイナス20℃の冷蔵庫内に保存し、その後、11日間、室温(25℃)で室内で静置保存する。
(5)静置保存により合計14日経過後の試料の状態を目視で評価する。MoDTCの溶解の程度は、完全に溶解すると透明に見えることからその透明状態を10、濁りにより全く見透かせない状態を0とし、その間を11段階に区分してメリット評点で表示する。
【0063】
2.潤滑性評価試験
次のPin on Ring Testにより、摩擦係数変化及び試験後のピン、リングの摩耗状況の測定・観察により潤滑性を評価する。
(1)Pin on Ring Test
図1に示すPin on Ring潤滑油試験機を用いて、油温:100±4℃、回転数:200±5rpmを採用。試料量50ccをオイルタンクに採り、下部ヒーターにて加熱し、油温をコントロールする。1:10比レバーにて分銅3kgを載せ、摺動接点部に30kgfの荷重をかける。摺動トルクを0.1秒毎にレコーディングする。
(2)試験終了後のPin摩擦面を顕微鏡により観察・測定し、摩擦面積を摩擦量とする。
(3)摩擦係数を、下記のStep1の試験条件におけるInitial Stage、Step2におけるFirst Stage及びFinal Stageの3ステージで読み取り、比較する。摩擦低減効果を試験条件Step2の時間(2時間)について集積、全摩擦発生量(ワット:w/2時間)として算出比較する。

【0064】
3.試験材料
A 潤滑油添加剤組成物
(1)成分A:
・置換スルホラン:Lubrizol730(ルーブリゾール社製)
・アルキル基置換チオフェン:2-n-オクチルチオフェン(東京化成工業社製O0376)
(2)成分B:
トリメリット酸無水物ポリオールエステル:Palub8434H(Patech社製)
(3)成分C:
・添加剤ベース油:市販油1:水素化分解鉱油YUBASE4(SKルブリカンツ社製)
市販油2:水素化分解鉱油YUBASE6(SKルブリカンツ社製)
・有機モリブデン化合物MoDTC:アデカサクラルーブ525(アデカ社製)
・粘度指数向上剤:市販VI向上剤1 VISCOPLEX3-220(エボニック社製)
・増粘剤:市販VI向上剤2(エボニック社製)
B 潤滑油組成物
・市販油7:Fine5w30(ENEOS社製)
・市販油8:Mobil1 15w30(エクソンモービル社製)
・市販油9:Sustina0w20(ENEOS社製)
・市販油10:PrimeX0w20(ENEOS社製)
【実施例0065】
添加剤ベース油として市販油1と市販油2の等量混合油を用い、これに成分Aとして置換スルホランを10質量%および成分Bとしてトリメリット酸無水物ポリオールエステル10質量%配合し、さらに粘度指数向上剤を添加して潤滑油添加剤開発品LPT1を調製した。潤滑油添加剤開発品LPT1の組成を表2に示す。
【表2】
【0066】
潤滑油添加剤開発品LPT1を、表3に示す試験用基油に、混合物の全質量基準で10質量%添加し得られた混合物を前記のMoDTCの溶解性評価試験に供したところ、完全溶解状態で透明となり、目視メリット:10を得た。
【0067】
【表3】
【実施例0068】
添加剤ベース油として市販油1及び市販油2の等量混合油を用い、これに成分Aとして置換スルホランを10質量%および成分Bとしてドリメリット酸無水物ポリオールエステルを10質量%配合し、市販VI向上剤1、さらに増粘剤として市販VI向上剤2を添加して潤滑油添加剤開発品LPT2を調製した。潤滑油添加剤開発品LPT2の組成を表4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
潤滑油添加剤開発品LPT2を、表3に示す試験用基油に、10質量%添加し得られた混合物を前記のMoDTCの溶解性評価試験に供したところ、完全溶解状態で透明となり、目視メリット:9を得た。
【実施例0071】
添加剤ベース油として市販油1及び市販油2の等量混合油を用い、これに成分Aとして置換スルホランを5質量%および成分Bとしてトリメリット酸無水物ポリオールエステルを10質量%配合し、さらに市販VI向上剤1、増粘剤として市販VI向上剤2及び有機モリブデン化合物としてMoDTCを添加して潤滑油添加剤開発品LPT3を調製した。潤滑油添加剤開発品LPT3の組成を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
潤滑油添加剤開発品LPT3を表3に示す試験用基油に10質量%添加し、得られた混合物を前記MoDTCの溶解性の評価に供したところ、ほとんど完全溶解状態となり、目視メリット:9の結果を得た。
【実施例0074】
表3に示す試験用基油に、成分Aとして置換スルホランを0.5質量%、成分Bとしてトリメリット酸無水物ポリオールエステルを1.0質量%、各々添加したこと以外、すべて実施例1と同様に処理し、MoDTCの溶解性の評価に供したところ、部分的溶解状態となり目視メリット:8.5を得た。
【実施例0075】
表3に示す試験用基油に成分Aとして2-n-オクチルチオフェンを0.5質量%、成分Bとしてトリメリット酸無水物ポリオールエステルを1.0質量%、各々添加したこと以外、すべて実施例1と同様に処理し、MoDTCの溶解性の評価に供したところ、部分的溶解状態となり目視メリット:8を得た。
【0076】
(比較例1)
表3に示す試験用基油に、成分Aとして、置換スルホランのみを0.5質量%添加し、MoDTCの溶解性の評価に供したところ、濁りが生じ目視メリット:7を得た。
【0077】
(比較例2)
表3に示す試験用基油に、成分Bとして、トリメリット酸無水物ポリオールエステルのみを1.0質量%添加し、MoDTCの溶解性の評価に供したところ、沈殿が生じ、分離状態となり目視メリット:4を得た。
【0078】
(比較例3)
表3に示す試験用基油に成分Aとして2-n-オクチルチオフェンのみを0.5質量%添加し、MoDTCの溶解性の評価に供したところ、濁りが生じ、目視メリット:6を得た。
【0079】
以上の実施例4~5及び比較例1~3の結果から、成分A又は成分BのみではMoDTCを完全に溶解することが出来ないのに対し、成分A及び成分Bを混合して併用することによりMoDTCの溶解性を著しく向上させることができることが判明した。さらに、実施例1~3の如く成分Aを0.5質量%増量し、成分Bと同量の1質量%とし、成分Aと成分Bの合計を2質量%とすることにより、MoDTCの溶解性は、完全溶解状態となり、目視メリット:10を得るに至ることが示された。また、実施例5において、成分Aとして用いた2-n-オクチルチオフェンは、LZ730の置換スルホンと同様の挙動を示した。
【0080】
かかる実験結果から、本発明にかかる成分Aと成分Bを併用し、かつ、添加量を調整することによりMoDTCの溶解性の向上について著しく顕著な効果を奏することが明らかとなった。
【0081】
【表6】
【実施例0082】
実施例3において得られた潤滑油添加剤開発品(LPT3)を市販油7、市販油8、市販油9、及び市販油10にそれぞれ10質量%添加し、表7に示す試料油4種を得た。これらを図1に示す試験機を用いる前記Pin on Ring Testによる潤滑性の評価試験に供したところ、図2に示す摩耗抑制効果、表8-1~表8-4及び図3-1~図3-5にそれぞれ示す摩擦低減効果を得た。
【0083】
下記の表7に市販油7,8,9,及び10の各々にLPT3を10質量%添加した試料油のMo含有量を示す。
【表7】

【表8-1】

【表8-2】

【表8-3】

【表8-4】
【0084】
図2によれば、各市販油に対し、LPT3の添加により得られた試料油の摩耗量の低減が著しく顕著に表れていることが示されている。
【0085】
また、図3-1~図3-4によれば、いずれの市販品に対しても、LPT3の添加により得られた試料油の摩擦係数が低減するまでの時間が短縮し、また、表8-1~表8-4によれば摩擦係数の低減到達レベルも低下して、よりMoDTCの添加効果が現れていることが示された。
【0086】
また、図3-5に示すように、Pin on Ring Testのステージ2の条件における2時間の摺動摩擦力を集積して比較すると、いずれの市販油に対して、LPTの添加により得られた試料油の摩擦発生に要した摩擦エネルギー(ワット/2時間)がLPT3の添加により低減されることが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1】Pin on Ring潤滑油試験機の概略図である。
図2】LPT3の市販エンジン油への摩耗抑制効果を示す図である。
図3-1】LPT3の市販油7への摩擦低減効果を示す図である。
図3-2】LPT3の市販油8への摩擦低減効果を示す図である。
図3-3】LPT3の市販油9への摩擦低減効果を示す図である。
図3-4】LPT3の市販油10への摩擦低減効果を示す図である。
図3-5】LPT3の各種市販エンジン油への摩擦低減効果を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1 市販油7
11 試料油7(市販油7+LPT3)
2 市販油8
22 試料油8(市販油8+LPT3)
3 市販油9
33 試料油9(市販油9+LPT3)
4 市販油10
44 試料油10(市販油10+LPT3)
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】