(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041935
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】光フィルター用結晶化ガラスおよび光フィルター
(51)【国際特許分類】
C03C 10/10 20060101AFI20220304BHJP
C03C 3/062 20060101ALI20220304BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20220304BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20220304BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20220304BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C03C10/10
C03C3/062
C03C3/083
C03C3/085
G02B5/28
G02B5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135872
(22)【出願日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2020146313
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021116480
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 圭介
(72)【発明者】
【氏名】八木 俊剛
【テーマコード(参考)】
2H148
4G062
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA16
2H148FA24
2H148GA04
2H148GA09
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(57)【要約】
【課題】
本発明は、従来の光フィルター用基板に求められる透過率と、基板への誘電体成膜数の増加に伴い生じる応力変化に対応可能な高い熱膨張係数を兼ね備えた光フィルター用結晶化ガラスおよび光フィルターを得ることにある。
【解決手段】
酸化物換算の質量%で、SiO2成分を35.0%~55.0%、K2O成分を15.0%~30.0%、Al2O3成分を10.0%~25.0%、ZrO2成分を0%~10.0%、TiO2成分を0%~15.0%、ZrO2成分とTiO2成分の合計量が0%超~15.0%、を含有し、-30~70℃における熱膨張係数が125~155(×10-7/℃)であることを特徴とする光フィルター用結晶化ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算の質量%で、
SiO2成分を35.0%~55.0%、
K2O成分を15.0%~30.0%、
Al2O3成分を10.0%~25.0%、
ZrO2成分を0%~10.0%、
TiO2成分を0%~15.0%、
ZrO2成分とTiO2成分の合計量が0%超~15.0%、
を含有し、
-30~70℃における熱膨張係数が125~155(×10-7/℃)であることを特徴とする光フィルター用結晶化ガラス。
【請求項2】
酸化物換算の質量%で、
Li2O成分を0%~7.0%、
Na2O成分を0%~5.0%、
MgO成分を0%~7.0%、
を含有することを特徴とする請求項1に記載の光フィルター用結晶化ガラス。
【請求項3】
結晶相として、
KAlSiO4またはKAlSiO4固溶体を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光フィルター用結晶化ガラス。
【請求項4】
1mm厚の試料について、1550nmにおける分光透過率が90%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の光フィルター用結晶化ガラス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の結晶化ガラス上に誘電体を成膜してなる光フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光フィルター用結晶化ガラスおよび光フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、増加の一途を辿る通信デバイスの普及およびインターネットの急速な発展に伴い、光ファイバーを用いたデータ通信の更なる大規模化および大容量化が要求されている。光ファイバーを用いたデータ通信には光ファイバー内での光損失が特に小さい1550nm帯域の光が用いられる。また、さらに本帯域を更に複数の細かい帯域に分割し、複数の光を光ファイバーに同時伝送し、最終的に多重化された光信号を1本ずつ分離し取り出す、波長分割多重方式(WDM)が用いられる。
【0003】
さらに、WDMは多重化される光の密度によって粗密度波長分割多重方式(CWDM)と高密度波長分割多重方式(DWDM)との2種類に分類される。CWDMは多重化される波長が16波長程度と低密度である。一方、DWDMは多重化される波長が80~96程度であり高密度である。このため、大容量通信が求められる用途、例えば、事業者間、国家間、および基地局間のデータ通信等の用途においてはDWDMが採用される。
【0004】
また、第5世代移動通信システム(5G)やIoTの本格導入に伴い、WDMによるデータ通信容量限界が顕在化することが懸念される。近年の動向として、従来の波長分割多重方式(WDM)に加え、新たに空間分割多重方式(SDM:Space Division Multiplexing)を併用することでデータ通信容量限界を克服しようとする研究が進められている。
【0005】
ところで、光通信向け光フィルター基板上には低屈折率層(SiO2等)および高屈折率層(Ta2O5等)の誘電体が積層されて成膜される。データ通信容量を増大するためには多重化される光の帯域は狭い方が好ましく、通信波長の狭帯域化に対応するためには基板へ成膜する膜の積層数を増加する必要がある。したがって、積層された成膜の密着性の観点および成膜数増加に伴い生じる応力変化に対応するため熱膨張係数が大きい光フィルター用基板が要求される。
【0006】
特許文献1には、-20~70℃における熱膨張係数が93×10-7/℃~130×10-7/℃で、ヤング率が85GPa以上であり、主結晶相として(a)2珪酸リチウムおよび(b)α-クオーツ、α-クオーツ固溶体、α-クリストバライト、α-クリストバライト固溶体の中から選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする光フィルター用ガラスセラミックスが開示されている。しかしながら、100℃近傍に平均熱膨張係数の最大値が存在するという課題が達成されていなかった。
【0007】
また、特許文献2には、Al2O3成分と、R2O成分(RはLi、Na、Kから選ばれる少なくとも一種以上)を含有し、主結晶相がカルシライトである、-30℃~70℃の温度範囲における熱膨張係数が95×10-7/℃~121×10-7/℃である無機組成物が開示されている。しかしながら、熱膨張係数が125×10-7/℃を超える無機組成物は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-318222号公報
【特許文献2】特開2007-031180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、従来の光フィルター用基板に求められる透過率を維持しつつ、近年の情報通信量増加に対応するためDWDM装置向け基板へ要求される成膜数の増加に伴い生じる応力変化に対応可能な高い熱膨張係数を有する光フィルター用結晶化ガラスおよび光フィルターを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、ネットワークフォーマー成分とアルカリ金属酸化物成分の調整とガラスの結晶化により膨張特性を向上し、ZrO2成分またはTiO2成分の調整により析出結晶の粒径をコントロールすることで、透過率を維持しつつ所望の熱膨張係数を有する光フィルター用結晶化ガラスのガラス組成と配合を見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下を提供する。
【0011】
(1)酸化物換算の質量%で、
SiO2成分を35.0%~55.0%、
K2O成分を15.0%~30.0%、
Al2O3成分を10.0%~25.0%、
ZrO2成分を0%~10.0%、
TiO2成分を0%~15.0%、
ZrO2成分とTiO2成分の合計量が0%超~15.0%、
を含有し、
-30~70℃における熱膨張係数が125~155(×10-7/℃)であることを特徴とする光フィルター用結晶化ガラス。
【0012】
(2)酸化物換算の質量%で、
Li2O成分を0%~7.0%、
Na2O成分を0%~5.0%、
MgO成分を0%~7.0%、
を含有することを特徴とする(1)に記載の光フィルター用結晶化ガラス。
【0013】
(3)結晶相として、
KAlSiO4またはKAlSiO4固溶体
を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の光フィルター用結晶化ガラス。
【0014】
(4)1mm厚の試料について、1550nmにおける分光透過率が90%以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の光フィルター用結晶化ガラス。
【0015】
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の結晶化ガラス上に誘電体を成膜してなる光フィルター。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光フィルターとして必要な透過率を維持しつつ、熱膨張係数を向上させた光フィルター用結晶化ガラスおよび光フィルターを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の光フィルター用結晶化ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない限り、全て酸化物換算組成の全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量数を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0018】
[ガラス成分]
酸化物換算の質量%で、SiO2成分を35.0%~55.0%、K2O成分を15.0%~30.0%、Al2O3成分を10.0%~25.0%、ZrO2成分を0%~10.0%、TiO2成分を0%~15.0%、ZrO2成分とTiO2成分の合計量が0%超~15.0%を含有する。
【0019】
[必須成分、任意成分について]
SiO2成分は、ガラスの骨格成分であると同時に、原ガラスの熱処理により析出する結晶を形成する必須成分である。特に、SiO2成分の含有量を35.0%以上にすることで、安定的に原ガラスを作製することができる。
従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは35.0%以上、より好ましくは37.0%以上、さらに好ましくは40.0%以上を下限とする。
他方で、SiO2成分の含有量を55.0%以下にすることで、過剰な粘性の上昇や熔融性の悪化を抑えられるため、SiO2成分の含有量は、好ましくは55.0%以下、より好ましくは53.0%以下、より好ましくは50.0%以下、さらに好ましくは45.0%以下を上限とする。
【0020】
Li2O成分は、0%超含有する場合に、原料の熔融反応を助長し、ガラスの熔解温度を低下させ熔融性を向上する上で効果的な成分である一方、含有量が増加すると化学的耐久性の悪化や析出結晶相の変化を引き起こす。
従って、Li2O成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上を下限とする。
他方で、Li2O成分の含有量を7.0%以下にすることで過剰な含有による失透性の悪化や析出結晶相の変化、化学的耐久性の悪化を抑制することができる。
従って、Li2O成分の含有量は、好ましくは7.0%以下、より好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下を上限とする。
【0021】
Na2O成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を調整すると同時に、原ガラスの熱処理により析出する結晶を構成する成分である。
従って、Na2O成分の含有量は、好ましくは0%超、さらに好ましくは0.5%以上を下限とする。
他方で、Na2O成分の含有量を5.0%以下にすることで、化学的耐久性の悪化および析出結晶相の変化を抑制できる。
従って、Na2O成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下を上限とする。
【0022】
K2O成分は、0%超含有する場合に、原ガラスの熱処理により析出する結晶を構成する成分の一つであると同時にガラスの熔解性向上に寄与する必須成分である。K2O成分の含有量は、好ましくは15.0%以上、より好ましくは17.0%以上、さらに好ましくは18.0%以上を下限とする。
他方で、K2O成分の含有量を30.0%以下にすることで、化学的耐久性の悪化を抑制するため、K2O成分の含有量は、好ましくは30.0%以下、より好ましくは28.0%以下、さらに好ましくは26.0%以下を上限とする。
【0023】
Al2O3成分は、0%超含有する場合に、原ガラスの熱処理により析出する結晶を構成する成分の一つであると同時に、ガラスの化学的耐久性および機械的強度を高め、熔融ガラスの耐失透性を向上するのに有効な成分であり、本発明の光フィルター用結晶化ガラスの必須成分である。
従って、Al2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以上、より好ましくは12.0%以上、さらに好ましくは14.0%以上を下限とする。
他方で、Al2O3成分の含有量を25.0%以下にすることで、過剰な含有による熔融性の悪化、失透を低減することができるため、Al2O3成分の含有量は、好ましくは25.0%以下、より好ましくは22.0%以下、さらに好ましくは19.0%以下を上限とする。
【0024】
P2O5成分は、0%超含有する場合に、析出結晶の核形成剤として寄与し、融液を低粘性化させ、ガラスの安定性向上に寄与する任意成分であるが、過度に含有すると析出結晶相が変化したり、ガラスが失透しやすくなったり、ガラス化が困難となったりするため、好ましくは0%超、さらに好ましくは0.5%以上を下限とする。
また、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下を上限とする。
【0025】
B2O3成分は、0%超含有する場合に、融液の低粘性化に寄与し、ガラスの網目構造を形成しガラスの安定性に寄与する任意成分である。一方で、含有量の増加に伴い析出結晶相が変化したり、化学的耐久性の低下などを引き起こしたりするため、B2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、さらに好ましくは0.5%以上を下限とする。
また、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下を上限とする。
【0026】
MgO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を向上させると同時に析出結晶の粗大化を防止することに加え、ガラスの熔解性向上に寄与する任意成分である。
従って、MgO成分の含有量は、好ましくは0%超、さらに好ましくは1.0%以上を下限とする。
他方で、MgO成分の含有量を7.0%以下にすることで、過度な含有による失透を低減することができる。
従って、MgO成分の含有量は、好ましくは7.0%以下、より好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.8%以下、さらに好ましくは3.2%以下を上限とする。
【0027】
ZnO成分及びSrO成分は、それぞれ0%超含有する場合に融液の低粘性化とともに、ガラスの安定性向上に寄与する任意成分である。一方、過度な含有により、析出結晶相が変化したり、失透しやすくなったりする。
従って、素材の物性を損なわない範囲で、ZnO成分及びSrO成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。含有量は、各々、0%~3.0%とすることができる。
【0028】
ZrO2成分は、0%超含有する場合に核形成剤として働くため、結晶が析出しやすくなるだけでなく、析出結晶の微細化と機械的強度向上に寄与する成分である。特に本発明においては、結晶の粒径を調整できる成分である。
従って、ZrO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上、より好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは3.0%超を下限とする。
他方で、ZrO2成分の含有量を10.0%以下にすることで、ZrO2成分の過剰な含有による失透および熔解性の悪化を低減することができる。
従って、ZrO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下を上限とする。
【0029】
TiO2成分は、0%超含有する場合に核形成剤として働くため、結晶が析出しやすくなるだけでなく、析出結晶の微細化と機械的強度向上に寄与する成分である。特に本発明においては、結晶の粒径を調整できる成分である。
従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上、より好ましくは3.0%以上、より好ましくは4.0%以上、さらに好ましくは4.0%超を下限とする。
他方で、TiO2成分の含有量を15.0%以下にすることで透過率の低下を抑えることができる。
従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、より好ましくは9.0%以下、より好ましくは8.0%以下、より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下を上限とする。
【0030】
Sb2O3成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
従って、Sb2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、さらに好ましくは0.03%以上を下限としてもよい。
他方で、Sb2O3成分の含有量を1.0%以下にすることで、透過率の低下を抑えられる。
従って、Sb2O3成分の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下を上限としてもよい。
【0031】
Gd2O3成分は、3.0%以上含有する場合に、熔融ガラスの成形性及び失透性を低下させる成分である。
従って、Gd2O3成分の含有量は、好ましくは3.0%未満を上限とし、含まなくてもよい。
【0032】
また、素材の物性を損なわない範囲でLa2O3成分、Y2O3成分、Yb2O3成分、Eu2O3成分、Dy2O3成分、Er2O3成分、Tb2O3成分、Pr6O11成分、Nd2O3成分、Tm2O3成分、Sm2O3成分、Ho2O3成分、CeO2成分、CaO成分、BaO成分、Ta2O5成分、Nb2O5成分、WO3成分、TeO2成分、Bi2O3成分、GeO2成分、Ga2O3成分、及びSnO2成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。含有量は、各々、0%~3.0%未満とすることができる。
【0033】
ZrO2成分とTiO2成分は、合計含有量が0%超含有する場合に、析出結晶の核形成剤として機能する上に、析出結晶の微細化と材料の機械的強度向上に寄与する成分である。特に本発明においては、結晶の粒径を調整できる成分である。
従って、ZrO2成分とTiO2成分との合計含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは5.0%以上、より好ましくは7.0%以上、より好ましくは9.0%以上、より好ましくは9.2%以上、より好ましくは9.5%以上、さらに好ましくは9.7%以上を下限とする。
他方で、ZrO2成分とTiO2成分との合計含有量を15.0%以下にすることで透過率の悪化や結晶化時における急激な物性変化を抑えることができる。
従って、ZrO2成分とTiO2成分との合計含有量は、好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは12.0%以下を上限とする。
【0034】
SiO2成分の含有量に対する、Na2O成分とK2O成分とMgO成分との合計含有量の比[(Na2O+K2O+MgO)/SiO2]は、0.40以上とすることで、結晶化ガラスの熱膨張特性を向上することができる。
従って、SiO2成分の含有量に対する、Na2O成分とK2O成分とMgO成分との合計含有量の比[(Na2O+K2O+MgO)/SiO2]の上限値は、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.90以下、より好ましくは0.80以下、さらに好ましくは0.70以下とする。他方で、下限値は、好ましくは0.40以上、より好ましくは0.45以上、さらに好ましくは0.50以上とする。
【0035】
SiO2成分の含有量に対する、Na2O成分とK2O成分との合計含有量の比[(Na2O+K2O)/SiO2]は、0.30以上とすることで、結晶化ガラスの熱膨張特性を向上することができる。
従って、SiO2成分の含有量に対する、Na2O成分とK2O成分との合計含有量の比[(Na2O+K2O)/SiO2]の上限値は、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.70以下とする。他方で、下限値は、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.35以上、さらに好ましくは0.40以上とする。
【0036】
Al2O3成分の含有量に対する、Na2O成分とK2O成分との合計含有量の比[(Na2O+K2O)/Al2O3]は、1.00以上とすることで、結晶化ガラスの熱膨張特性を向上することができる。
従って、Al2O3成分の含有量に対する、Na2O成分とK2O成分との合計含有量の比[(Na2O+K2O)/Al2O3]の上限値は、好ましくは1.80以下、より好ましくは1.70以下、より好ましくは1.60以下、より好ましくは1.55以下、さらに好ましくは1.50以下とする。他方で、下限値は、好ましくは1.00以上、より好ましくは1.10以上、より好ましくは1.20以上、さらに好ましくは1.30以上とする。
【0037】
ZrO2成分とTiO2成分との合計含有量に対する、ZrO2成分の含有量の比[ZrO2/(ZrO2+TiO2)]は、0.10以上0.70以下とすることで、析出結晶の微細化による結晶化ガラスの透明性向上に寄与するパラメーターである。
従って、ZrO2成分とTiO2成分との合計含有量に対する、ZrO2成分の含有量の比[ZrO2/(ZrO2+TiO2)]の上限値は、好ましくは0.70以下、より好ましくは0.65以下、より好ましくは0.60以下、より好ましくは0.58以下、さらに好ましくは0.55以下とする。他方で、下限値は、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.25以上とする。
【0038】
[製造方法]
本発明の光フィルター用結晶化ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物などの原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1300~1600℃の温度範囲で熔融し、攪拌均質化した後、適当な温度に下げてから金型に鋳込み、徐冷することによりガラス母材を作製した。
【0039】
結晶化工程は、特に限定されないが、例えばガラス母材を、500℃~560℃の温度範囲にて5時間加熱し、結晶核形成を行った後に、570℃~800℃の温度範囲にて3時間加熱して結晶化を行った。析出した結晶相は、Bruker社製X線回折装置D8 DISCOVERによって解析して特定された。
【0040】
本発明の光フィルター用結晶化ガラスの析出結晶相は、熱膨張係数を向上させるため、KAlSiO4またはKAlSiO4固溶体であることが望ましい。その他、析出結晶相として、Rn2MgSiO4(ただし、RnはLi、Na、Kから選択される1種類以上)、Rn2SiO3(ただし、RnはLi、Na、Kから選択される1種類以上)、Li2TiO3、K2ZrSi2O7等を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0041】
この結晶化ガラスをラッピングした後、ポリシングすることにより光フィルター用結晶化ガラス基板が得られた。この結晶化ガラスの該基板表面に誘電体多層膜を成膜することで、SDM向け光フィルター、DWDM向け光フィルターとして用いることができる。
【0042】
[熱膨張係数]
日本光学硝子工業会規格JOGIS-16(2019)「光学ガラスの常温付近の平均線膨張係数の測定方法」を参考に、マックサイエンス社製TD5000Sを用いて-30℃~70℃の温度範囲における線膨張係数を測定した。試料を直径4mm、長さ20mmの円柱状に加工し、-30℃~70℃の温度範囲において、温度と材料の伸びの関係を示す膨張曲線の傾きから線膨張係数を算出した。
本発明の光フィルターとしては、-30℃~70℃における熱膨張係数の下限値は、好ましくは125(×10-7/℃)以上、より好ましくは126(×10-7/℃)以上、最も好ましくは127(×10-7/℃)以上であることが望ましい。また、上限値は、好ましくは155(×10-7/℃)以下、より好ましくは154(×10-7/℃)以下、さらに好ましくは153(×10-7/℃)以下であることが望ましい。
【0043】
[比重]
日本工業規格JIS Z 8807(2012)「固体の密度及び比重の測定方法」に則り、結晶化ガラスの比重を測定した。
本発明の光フィルターの比重は、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0以下とする。
【0044】
[内部透過率]
日本光学硝子工業会規格JOGIS-17(2019)「光学ガラスの内部透過率の測定方法」を参考に、10mmおよび1mm厚の対面平行研磨試料の反射損失を含む分光透過率を測定し、これらの分光透過率から1mm厚の内部透過率(反射損失を含まない分光透過率)を算出した。本発明の光フィルターとしては、1550nmにおける内部透過率が好ましくは90.0%以上、より好ましくは92.0%以上、さらに好ましくは95.0%以上、最も好ましくは98.0%以上であることが望ましい。
【0045】
[透過率]
日本光学硝子工業会規格JOGIS-02(2019)「光学ガラスの着色度測定方法」を参考に、厚さ1mmの対面平行研磨試料の分光透過率を、日立製作所製
分光光度計U-4100を用いて測定した。
本発明の光フィルターとしては、1550nmの分光透過率が好ましくは90.0%以上、より好ましくは90.2%以上、さらに好ましくは90.4%以上、最も好ましくは90.5%以上であることが望ましい。
【実施例0046】
以下の実施例では、本発明を例示の目的で詳細に示す。しかしながらこれらの実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく多くの改変が当業者によってなされるであろうことに留意されたい。
【0047】
実施例(No.1~No.21)及び比較例1、2として、表1~表2に列挙されるような種々の組成の結晶化ガラスを作製した。いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物などの通常の結晶化ガラスに使用される高純度原料を選定し、表1~表2に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1300~1600℃の温度範囲で熔解し、攪拌均質化した後、適当な温度に下げてから金型等に鋳込み、徐冷して得られたガラスをさらに所定温度で結晶化した。結晶化ガラスそれぞれについて、熱膨張係数、透過率、内部透過率、及び比重を測定した結果を表1~表2に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
本発明の実施例の光フィルター用結晶化ガラスは、透過率を維持しつつ高い熱膨張係数を有するため、SDM装置向けまたはDWDM装置向け光フィルターとして好適であることが明らかになった。