(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041955
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】アッカーマンシア属細菌増殖促進剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20220304BHJP
A61K 31/7034 20060101ALI20220304BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20220304BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220304BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20220304BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220304BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220304BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220304BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220304BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220304BHJP
A61K 36/634 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/7034
A61K31/365
A61P1/04
A61K36/28
A61P1/16
A61P3/10
A61P9/10 101
A61P29/00
A61P37/08
A61K36/634
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138434
(22)【出願日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2020145115
(32)【優先日】2020-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晋平
(72)【発明者】
【氏名】稲益 悟志
(72)【発明者】
【氏名】与茂田 敏
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD48
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4C086ZB13
4C088AB26
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4C088ZB13
(57)【要約】
【課題】 腸内におけるアッカーマンシア属細菌の増殖を促進し、アッカーマンシア属細菌の構成比を増加することができる新規の薬剤および組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有し、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインが、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有されてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、アッカーマンシア属細菌増殖促進剤。
【請求項2】
前記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインが、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有される、請求項1に記載のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤。
【請求項3】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、アッカーマンシア属細菌増殖促進用食品組成物。
【請求項4】
前記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインが、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有される、請求項4に記載のアッカーマンシア属細菌増殖促進用食品組成物。
【請求項5】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、アッカーマンシア属細菌増殖促進作用を介してアルコール性肝炎(ASH)、IgEに関連するアトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病など)、過敏性腸症候群、虫垂炎、LPS増加に起因するインスリン抵抗性および糖尿病、アテローム性動脈硬化症ならびに自閉症からなる群より選択される少なくとも1つの疾患を治療、改善および/または予防するための医薬組成物。
【請求項6】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、腸内短鎖脂肪酸産生促進剤。
【請求項7】
前記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインが、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有される、請求項6に記載の腸内短鎖脂肪酸産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内におけるアッカーマンシア属細菌の増殖を促進させる剤および食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)は、ヒトの腸内に存在するムチン分解菌であり、ムチンを唯一の炭素源および窒素源とする。アッカーマンシア・ムシニフィラは、宿主の腸の粘膜層に豊富に存在し、最も多くが盲腸に存在する。この細菌は、ヒトが出生してから1年以内には、ヒトの腸に安定してコロニーを形成し、大人になるにつれて増加するが、老人においては段階的に減少する(非特許文献1)。
【0003】
アッカーマンシア・ムシニフィラに関する総説である非特許文献1には、アッカーマンシア・ムシニフィラが宿主の代謝機能および免疫機能を改善する作用を有することが記載されている。さらに、アッカーマンシア・ムシニフィラが、癌治療を修正する作用を有する可能性も示唆されている。また、アッカーマンシア・ムシニフィラは、ムチンを有益な副産物に変換することによって、宿主の腸内微生物バランスを維持する作用を有することが示唆されている。
【0004】
腸の粘膜層は、主に上皮細胞を微生物による攻撃から保護するとともに、微生物に対し、栄養として用いられる生育のためのエネルギーを提供する。腸に存在するアッカーマンシア・ムシニフィラの量が少なくなると、粘膜が薄くなることにより腸のバリア機能が弱まり、病原菌毒素およびリポ多糖(LPS)、あるいはアレルギーを惹起する食品に由来する抗原が宿主に侵入しやすくなることがわかっている。アッカーマンシア・ムシニフィラと宿主との関係は、グルコース、タンパク質および脂質代謝に伴うエネルギーの取り込み、利用および消費だけでなく、粘膜層の健全性および関連する粘膜免疫応答にも影響を与える。アッカーマンシア・ムシニフィラは、宿主の免疫制御に関わるだけでなく、腸の上皮細胞の健全性および粘膜層の厚さを強化し、それによって腸の健康を促進する作用を有する(非特許文献1)。
【0005】
このように、腸は、有害物質の生体内への侵入を防ぐバリア機能を保持している。腸管の上皮細胞をつなぐタイトジャンクションは、細胞間接着因子によって構成され、バリア機能に関係している。脂質代謝異常および糖尿病では、この腸管バリア機能が低下し、代謝性エンドトキシンの原因物質であるLPSが体内へ流入し、それに伴い体内は慢性炎症となり血中の炎症性サイトカインが上昇する。また、LPSは、肝臓での脂質代謝を抑制することおよび脂肪組織での炎症の亢進に関与することが知られている。さらには、LPSは、脳での神経細胞の炎症や認知機能の低下に関与していることも知られている。
【0006】
上述したように、腸内のアッカーマンシア・ムシニフィラは、宿主の腸内微生物バランス、代謝および免疫応答などに密接に関わっている。そのため、腸内のアッカーマンシア・ムシニフィラの量を増加または維持することは、腸内微生物バランス、代謝および免疫応答に関わる様々な疾患の治療、改善および予防ならびにQOL改善のために重要である。
【0007】
特許文献1には、スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合したシアリル糖ペプチドを含むアッカーマンシア・ムシニフィラ増加促進用組成物が開示されている。
【0008】
特許文献2には、腸内細菌叢中のアッカーマンシア属に属する細菌を増大させるためにアスタキサンチンを含有する組成物を摂取して使用する方法が開示されている。
【0009】
特許文献3には、植物由来の5量体以上のプロアントシアニジン類、又はその薬学的に許容できる塩を有効成分として含有するアッカーマンシア属細菌増殖促進剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-43867号公報
【特許文献2】特開2019-131527号公報
【特許文献3】特開2018-8911号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Ting Zhang, et al.、Akkermansia muciniphila is a promising probiotic、“Microbial Biotechnology”、2019年、12巻、p.1109-1125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、腸内におけるアッカーマンシア属細菌の増殖を促進し、アッカーマンシア属細菌の構成比を増加することができる新規の薬剤および組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アルクチゲニンならびにアルクチゲニンを含有するゴボウスプラウトエキスおよびレンギョウ葉エキスをマウスに投与することにより、腸内におけるアッカーマンシア属細菌の構成比率が増加することを見出した。また、本発明者らは、アルクチゲニン、ゴボウスプラウトエキスおよびレンギョウ葉エキスが、盲腸内の短鎖脂肪酸量を増加させる作用を有することを見出した。本発明は、これらの知見をもとになされた。
【0014】
本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、アッカーマンシア属細菌増殖促進剤を提供する。
【0015】
本発明はまた、上記アッカーマンシア属細菌増殖促進剤において、上記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインが、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有される、アッカーマンシア属細菌増殖促進剤を提供する。
【0016】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、アッカーマンシア属細菌増殖促進用食品組成物を提供する。
【0017】
本発明はまた、上記アッカーマンシア属細菌増殖促進用食品組成物において、上記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインが、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有される、アッカーマンシア属細菌増殖促進用食品組成物を提供する。
【0018】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、アッカーマンシア属細菌増殖促進作用を介してアルコール性肝炎(ASH)、IgEに関連するアトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病など)、過敏性腸症候群、虫垂炎、LPS増加に起因するインスリン抵抗性および糖尿病、アテローム性動脈硬化症ならびに自閉症からなる群より選択される少なくとも1つの疾患を治療、改善および/または予防するための医薬組成物を提供する。
【0019】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、腸内短鎖脂肪酸産生促進剤を提供する。
【0020】
本発明はまた、上記腸内短鎖脂肪酸産生促進剤において、前記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインが、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有される、腸内短鎖脂肪酸産生促進剤を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明であれば、腸内におけるアッカーマンシア属細菌の増殖を促進し、アッカーマンシア属細菌の構成比を増加することができる新規の薬剤および組成物を提供することができる。また、本発明を用いることにより、アッカーマンシア属細菌の増殖を誘導することで、腸内の短鎖脂肪酸量を増加させることができる。さらに、本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤を用いれば、腸内細菌叢を改善するための方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】Normal群、Control群、アルクチゲニン高用量群(AG)、ゴボウスプラウトエキス高用量群(GSE)およびレンギョウ葉エキス高用量群(RLE)における体重(g)の変化を示す図。
【
図2】Normal群、Control群、アルクチゲニン高用量群(AG)、ゴボウスプラウトエキス高用量群(GSE)およびレンギョウ葉エキス高用量群(RLE)におけるCD11c、PAI-1およびTNFαの発現量を示すグラフ。
【
図3】Normal群、Control群、アルクチゲニン低用量群(AG Low)、アルクチゲニン高用量群(AG High)、ゴボウスプラウトエキス低用量群(GSE Low)、ゴボウスプラウトエキス高用量群(GSE High)、レンギョウ葉エキス低用量群(RLE Low)およびレンギョウ葉エキス高用量群(RLE High)について、盲腸内容物に含まれる細菌の属レベルの構成比を示すグラフ。
【
図4】Normal群、Control群、アルクチゲニン低用量群(AG Low)、アルクチゲニン高用量群(AG High)、ゴボウスプラウトエキス低用量群(GSE Low)、ゴボウスプラウトエキス高用量群(GSE High)、レンギョウ葉エキス低用量群(RLE Low)およびレンギョウ葉エキス高用量群(RLE High)について、盲腸内容物に含まれる細菌におけるアッカーマンシア属細菌の構成比を示すグラフ。
【
図5】Normal群、Control群、アルクチゲニン群(AG)、メトホルミン群(MF)ゴボウスプラウトエキス群(GSE)およびレンギョウ葉エキス群(RLE)における体重(g)の変化を示す図。
【
図6】Normal群、Control群、アルクチゲニン群(AG)、メトホルミン群(MF)ゴボウスプラウトエキス群(GSE)およびレンギョウ葉エキス群(RLE)における内臓脂肪重量(g)を示す図。
【
図7】Normal群、Control群、アルクチゲニン群(AG)、メトホルミン群(MF)ゴボウスプラウトエキス群(GSE)およびレンギョウ葉エキス群(RLE)について、糞便中に含まれる細菌の属レベルの構成比を示すグラフ。
【
図8】Normal群、Control群、アルクチゲニン群(AG)、メトホルミン群(MF)ゴボウスプラウトエキス群(GSE)およびレンギョウ葉エキス群(RLE)について、糞便中に含まれるアッカーマンシア属細菌のqPCRによる定量結果を示すグラフ。
【
図9】Normal群、Control群、アルクチゲニン群(AG)、メトホルミン群(MF)ゴボウスプラウトエキス群(GSE)およびレンギョウ葉エキス群(RLE)について、盲腸内容物に含まれる短鎖脂肪酸の定量結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、アッカーマンシア属細菌増殖促進剤を提供する。本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤を用いることにより、腸内細菌叢を改善するための方法を提供することができる。
【0024】
本明細書において「アッカーマンシア属細菌」は、アッカーマンシア属(Akkermansia)に属する細菌であり、たとえばアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)が含まれる。
【0025】
本明細書において「細菌の増殖を促進する」ことには、たとえば細菌の数を増加させること、細菌の数を維持すること、細菌の数の低下を抑制すること、細菌の重量を増加させること、細菌の重量を維持すること、細菌の重量の低下を抑制することおよび細菌の構成比を増加させることなどが含まれる。
【0026】
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤は、腸内特定細菌の増殖および活性を選択的に変化させることにより腸内細菌叢を改善することができる。腸内細菌叢を改善することにより、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康に有益な全身的な効果を誘導するプレバイオティクス様の効果を得ることができる。その有益な効果とは、整腸作用(便通改善)、脂質異常症の改善、インスリン抵抗性の改善、ミネラル吸収促進作用、尿中窒素低減作用、大腸がん・炎症性腸疾患の予防・改善、アレルギー抑制作用および腸管免疫の増強等が挙げられる。
【0027】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、腸内短鎖脂肪酸産生促進剤を提供する。腸内の短鎖脂肪酸は、腸内細菌によって産生され、腸上皮細胞のエネルギー源となる他、腸から吸収され肝臓や筋肉で代謝される。短鎖脂肪酸は、脂肪細胞にはたらきかけて脂肪の蓄積を抑制するはたらきを有する。さらに、短鎖脂肪酸は、神経細胞に作用し、交感神経を介して全身の代謝を活発化する。腸内短鎖脂肪酸はまた、腸内のpHを低下させることにより、病原菌の生育を抑制し、腸内細菌叢のバランスを改善する。さらに、短鎖脂肪酸は、免疫機能を調節することが知られている。たとえば、短鎖脂肪酸は、腸管上皮のバリア機能を強化して炎症および病原菌感染を抑制する。また、短鎖脂肪酸は、B細胞の抗体産生細胞への分化を誘導し、IgAおよびIgGの分泌を促し腸管免疫を増強する。さらに、短鎖脂肪酸は、Treg細胞の増殖を誘導し過剰な免疫反応を抑制する。すなわち、短鎖脂肪酸の産生を促進することによって、肥満および糖尿病の予防、ならびに免疫機能の調節などの効果を得ることができる。
【0028】
本発明において、短鎖脂肪酸には、酢酸、プロピオン酸および酪酸等が含まれる。本明細書において「腸内短鎖脂肪酸の産生を促進する」ことには、腸内に存在する短鎖脂肪酸の量を増加させることが含まれる。短鎖脂肪酸の増加には、少なくとも1種類の短鎖脂肪酸の増加または複数の短鎖脂肪酸の総量の増加が含まれる。本明細書において「腸」には、大腸が含まれる。大腸は、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸およびS状結腸を含む結腸と、直腸S状部、上部直腸および下部直腸を含む直腸により構成される。本明細書において「腸」は、これらのいずれかの部位または複数の部位であることができる。
【0029】
アルクチゲニンおよびアルクチインは、ゴボウ等の植物に含まれるジフェニルプロパノイド(リグナン類)の1つである。アルクチインは、アルクチゲニンの前駆体であり、生体内で代謝されてアルクチゲニンになることが知られている。アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして、化学的に合成したアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを用いてもよいし、植物から単離したアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを用いてもよい。また、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物そのものまたはこの植物の抽出物を用いてもよい。アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物には、たとえばゴボウ(スプラウト・葉・根茎・ゴボウシ)、アイノコレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、チョウセンレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、レンギョウ(花・葉・果実・根茎)、シナレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、ベニバナ、ヤグルマギク、アメリカオニアザミ、サントリソウ(ギバナアザミ)、カルドン、ゴロツキアザミ、アニウロコアザミ、ゴマ、モミジヒルガオ、シンチクヒメハギ、チョウセンテイカカズラ、テイカカズラ、ムニンテイカカズラ、ヒメテイカカズラ、トウキョウチクトウ、ケテイカカズラ、リョウカオウ、オオケタデ、ヤマザクラ、シロイヌナズナ、アマランス、クルミ、エンバク、スペルタコムギ、軟質コムギ、メキシコイトスギおよびカヤが含まれる。なかでも、ゴボウ(特にゴボウシおよびゴボウスプラウト)およびレンギョウ(特に葉)は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインの含有量が高いため好ましい。植物そのものを用いる場合、生または乾燥して刻んだもの、或いは乾燥して粉末としたものを用いることができる。
【0030】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして植物の抽出物を用いる場合、抽出物は、たとえば以下の方法によって植物から調製してもよい。本発明において使用される抽出物は、たとえばアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物から、酵素変換工程および有機溶媒による抽出工程の2段階により抽出してもよい。
【0031】
酵素変換工程は、植物に内在する酵素であるβ-グルコシダーゼにより、該植物に含まれているアルクチインをアルクチゲニンに酵素変換する工程である。具体的には、植物を乾燥し切栽したものを適切な温度に保持することにより内在のβ-グルコシダーゼを作用させて、アルクチインからアルクチゲニンへの反応を進行させる。たとえば、切裁した植物に水などの任意の溶液を加えて、30℃付近の温度(20~50℃)の間にて攪拌することなどにより、植物を任意の温度に保持することができる。
【0032】
有機溶媒による抽出工程は、任意の適切な有機溶媒を使用して、植物からアルクチゲニンおよびアルクチインを抽出する工程である。すなわち、上記の酵素変換工程によりアルクチゲニンが高含量となった状態で、適切な溶媒を添加して、植物から抽出物(エキス)を抽出する工程である。たとえば、植物に適切な溶媒を添加して、適切な時間加熱攪拌して抽出物を抽出する。また、加熱攪拌以外にも、加熱還流、ドリップ式抽出、浸漬式抽出または加圧式抽出法などの当業者に公知の任意の抽出法を使用して、抽出物を抽出することができる。
【0033】
アルクチゲニンは水難溶性であることから、有機溶媒を添加することにより、アルクチゲニンの収率を向上させることができる。有機溶媒は、任意の有機溶媒を使用することができる。たとえば、メタノール、エタノールおよびプロパノールなどのアルコール、並びにアセトンを使用することができる。安全性の面を考慮すると、有機溶媒として30%量のエタノールを使用することが好ましい。抽出物から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物を得ることができる。
【0034】
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤および腸内短鎖脂肪酸産生促進剤は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして、上述した植物そのものもしくはこの植物の抽出物、上述した植物を乾燥して刻んだもの、または上述した植物を乾燥して粉末としたものを含有してもよい。これらを含有することにより、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを単独で含有するよりも優れた効果を得ることができる。
【0035】
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤および腸内短鎖脂肪酸産生促進剤は、食物繊維、オリゴ糖、ポリフェノール類、魚油、ビフィズス菌および乳酸菌などと併せて摂取することにより、より優れた効果を得ることができる。食物繊維には、たとえば食物繊維を多く含む根菜類、難消化性デキストリンなどの難消化性繊維、ならびにこんにゃくおよび山芋などに含まれる水溶性食物繊維などが含まれる。ポリフェノール類には、たとえばブルーベリーおよび大豆などに含まれるポリフェノール類が含まれる。魚油には、たとえばDHAおよびEPAなどのオメガ3脂肪酸を含む魚油が含まれる。ビフィズス菌および乳酸菌には、酢酸、酪酸および/またはプロピオン酸などの短鎖脂肪酸を産生するビフィズス菌および乳酸菌などのプロバイオティクスが含まれる。
【0036】
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤および腸内短鎖脂肪酸産生促進剤は、任意の形態の製剤であることができる。アッカーマンシア属細菌増殖促進剤および腸内短鎖脂肪酸産生促進剤は、経口投与製剤として、たとえば糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤;トローチ剤;丸剤;散剤;硬カプセル剤および軟カプセル剤を含むカプセル剤;顆粒剤;ならびに懸濁剤、乳剤、シロップ剤およびエリキシル剤等の液剤などであることができる。
【0037】
また、本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤および腸内短鎖脂肪酸産生促進剤は、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの非経口投与製剤であることができる。本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤および腸内短鎖脂肪酸産生促進剤は、たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などであることができる。
【0038】
また、本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤および腸内短鎖脂肪酸産生促進剤は、外用剤として提供されることができる。本発明の外用剤は、医薬品および化粧品などであることができる。本発明の外用剤は、皮膚、頭皮、毛髪、粘膜および爪などに適用するための外用剤であることができる。外用剤には、たとえばクリーム剤、軟膏剤、液剤、ゲル剤、ローション剤、乳液剤、エアゾール剤、スティック剤、シートマスク剤、固形剤、泡沫剤、オイル剤およびチック剤等の塗布剤;パップ剤、プラスター剤、テープ剤およびパッチ剤等の貼付剤;並びにスプレー剤などが含まれる。
【0039】
また、本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤および腸内短鎖脂肪酸産生促進剤は、食用に適した形態であることができ、たとえば固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状およびペースト状などであってもよい。
【0040】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、アッカーマンシア属細菌増殖促進用組成物を提供する。本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物を提供する。本発明の組成物は、医薬品、化粧品および食品などに用いるための組成物であることができる。本発明の組成物は、医薬品、化粧品および食品に通常用いられる任意の成分をさらに含むことができる。たとえば、本発明の組成物は、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などをさらに含んでもよい。
【0041】
本発明の組成物に使用する担体および賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、デキストリン、アラビアガム、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどを含む。
【0042】
結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどを含む。
【0043】
崩壊剤の例には、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどを含む。
【0044】
滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどを含む。着色剤は、医薬品、化粧品および食品に添加することが許容されている任意の着色剤を使用することができる。
【0045】
また、本発明の組成物は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などで一層以上の層で被膜してもよい。
【0046】
また、本発明の組成物は、必要に応じて、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、希釈剤、コーティング剤、甘味剤、香料および可溶化剤などを添加してもよい。
【0047】
本発明はまた、本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤を含有するアッカーマンシア属細菌増殖促進用医薬組成物を提供する。本発明はまた、本発明の腸内短鎖脂肪酸産生促進剤を含有する腸内短鎖脂肪酸産生促進用医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、腸内細菌叢におけるアッカーマンシア属細菌の構成比率を高めることにより治療、改善または予防し得る種々の症状または疾患を治療、改善および/または予防するための医薬組成物であることができる。本発明の医薬組成物はまた、腸内短鎖脂肪酸を増加させることにより治療、改善または予防し得る種々の症状または疾患を治療、改善および/または予防するための医薬組成物であることができる。本発明の医薬組成物は、たとえばアッカーマンシア属細菌増殖促進作用を介してアルコール性肝炎(ASH)、IgEに関連するアトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病など)、過敏性腸症候群、虫垂炎、LPS増加に起因するインスリン抵抗性および糖尿病、アテローム性動脈硬化症ならびに自閉症を治療、改善および/または予防するための医薬組成物であることができる。本発明の医薬組成物は、たとえば腸内短鎖脂肪酸の増加を介して肥満、糖尿病、自己免疫性疾患、アトピー性皮膚炎、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、および炎症性腸疾患を治療、改善および/または予防するための医薬組成物であることができる。
【0048】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有するアッカーマンシア属細菌増殖促進用食品組成物を提供する。本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する腸内短鎖脂肪酸産生促進用食品組成物を提供する。本発明の食品組成物は、上述した本発明の剤および組成物と同様に構成されることができる。本発明の食品組成物は、たとえばアッカーマンシア属細菌増殖促進作用を介してアルコール性肝炎(ASH)、IgEに関連するアトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病など)、過敏性腸症候群、虫垂炎、LPS増加に起因するインスリン抵抗性および糖尿病、アテローム性動脈硬化症ならびに自閉症を改善および/または予防するための食品組成物であることができる。本発明の食品組成物はまた、たとえば腸内短鎖脂肪酸の増加を介して肥満、糖尿病、自己免疫性疾患、アトピー性皮膚炎、アレルギー性疾患、感染防御、悪性腫瘍、および炎症性腸疾患を改善および/または予防するための食品組成物であることができる。
【0049】
本明細書において「食品組成物」には、一般的な飲食品だけでなく、病者用食品、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品およびサプリメントなどが含まれる。一般的な飲食品には、たとえば各種飲料、各種食品、加工食品、液状食品(スープ等)、調味料、栄養ドリンクおよび菓子類などが含まれる。本明細書において「加工食品」とは、天然の食材(動物および植物など)に対し加工および/または調理を施したものをいい、たとえば肉加工品、野菜加工品、果実加工品、冷凍食品、レトルト食品、缶詰食品、瓶詰食品およびインスタント食品などが含まれる。本発明の食品組成物は、アッカーマンシア属細菌を増殖促進する旨または腸内短鎖脂肪酸の産生を促進する旨の表示を付した食品であってもよい。また、本発明の食品組成物は、袋および容器等に封入された形態で提供されてもよい。本発明において使用する袋および容器は、食品に通常使用される任意の袋および容器であることができる。
【0050】
本発明の剤、組成物および食品組成物におけるアルクチゲニンおよび/またはアルクチインの含有量は、アッカーマンシア属細菌の増殖を促進する効果を発揮できる量であればよく、適用する対象、目的および投与方法(摂取方法)に応じて適宜設定することができる。たとえばヒトに経口摂取させる場合、好ましくはアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを1日あたりの摂取量が10~2000mgとなるように含むことができる。
【実施例0051】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1 ゴボウシ抽出物の製造1)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを29~33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した。次いで、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに60分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および7.1%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0053】
(実施例2 ゴボウシ抽出物の製造2)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30~33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.0%および6.8%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.87のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0054】
(実施例3 ゴボウシ抽出物の製造3)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30~32℃に保温した水560Lに加えて40分間攪拌した後、60分後にエタノール258Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および6.7%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.93のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0055】
(実施例4 ゴボウシ抽出物の製造4)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30~32℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール253Lを加えて85℃に昇温し、さらに40分間加熱還流した。この液を遠心分離し、得られた抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.4%および7.2%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0056】
(実施例5 ゴボウスプラウト抽出物の製造)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、ゴボウスプラウトからエキス(抽出物)を抽出した。乾燥させたゴボウスプラウト125 kgに水1680 kgを加えて35±5℃に加温し60分間攪拌した。次いで、エタノール720 kgを加えて昇温し、さらに2時間攪拌し、80メッシュのフィルターでろ過しゴボウスプラウト抽出液を得た。これを70℃で1時間殺菌し、抽出物固形分に対してデキストリンを約30%量加えて、減圧濃縮し、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ13.7%および0.4%であり、アルクチゲニン相当量として13.9%のゴボウスプラウト抽出物粉末が得られた。
【0057】
(実施例6 シナレンギョウ葉抽出物の製造1)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、シナレンギョウ葉からエキス(抽出物)を抽出した。アルクチイン2.53%およびアルクチゲニン0.76%を含有するレンギョウ葉小刻み50gに水350mLを加えて37℃で30分間保温後、エタノール150mLを添加し30分間加熱抽出した。この溶液を100メッシュ篩を用いて固液分離し、凍結乾燥を行うことにより、アルクチゲニン含量が5.62%のシナレンギョウ葉抽出物18.62gを得た。
【0058】
(実施例7 シナレンギョウ葉抽出物の製造2)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、シナレンギョウ葉からエキス(抽出物)を抽出した。アルクチイン7.38%およびアルクチゲニン0.78%を含有するレンギョウ葉小刻み720gに水5Lを加えて37°Cで30分間保温後、エタノール2.16Lを添加し30分間加熱抽出した。この溶液を100メッシュ篩を用いて固液分離し、凍結乾燥を行うことにより、アルクチゲニン含量が9.55%のシナレンギョウ葉抽出物343.07gを得た。
【0059】
(実施例8 シナレンギョウ葉抽出物の製造3)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、シナレンギョウ葉からエキス(抽出物)を抽出した。アルクチイン8.77%およびアルクチゲニン1.54%を含有するレンギョウ葉小刻み10 kgに水140 kgを加えて35±5℃に加温し60分間保温後、エタノール60 kgを添加し2時間加熱し、80メッシュのフィルターでろ過してレンギョウ葉抽出液を得た。この溶液の抽出物固形分に対してデキストリンを約20%量添加後、減圧濃縮し、噴霧乾燥した。アルクチゲニン含量が7.73%のシナレンギョウ葉抽出物粉末を3.63 kg得た。
【0060】
(実施例9 シナレンギョウ葉抽出物の製造4)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、シナレンギョウ葉からエキス(抽出物)を抽出した。レンギョウ葉95 kgに含水エタノールを2000 kgを加えて50±5℃に加温し2時間攪拌し、80メッシュのフィルターでろ過してレンギョウ葉抽出液を得た。この溶液の抽出物固形分に対してアラビアガムおよびデキストリンを各10%量添加後、減圧濃縮し、噴霧乾燥した。アルクチゲニン含量が8.60%のシナレンギョウ葉抽出物粉末を32.6 kg得た。
【0061】
(実施例10 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて顆粒剤を製造した。「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造した。すなわち、下記(1)~(3)の成分をとり、顆粒状に製した。これを1.5gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を0.5g含有する顆粒剤を得た。
【0062】
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 33.3%
(2)乳糖 65.2%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 1.5%
合計 100%
【0063】
(実施例11 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて顆粒剤を製造した。「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造した。すなわち、下記(1)~(3)の成分をとり、顆粒状に製した。これを3.0gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を2g含有する顆粒剤を得た。
【0064】
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 66.7%
(2)乳糖 30.3%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 3.0%
合計 100%
【0065】
(実施例12 ゴボウシ抽出物粉末配合錠剤)
本発明のアッカーマンシア属細菌増殖促進剤の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて錠剤を製造した。「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製した。すなわち、下記(1)~(6)の成分をとり、錠剤を得た。
【0066】
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 37.0%
(2)結晶セルロース 45.1%
(3)カルメロースカルシウム 10.0%
(4)クロスポピドン 3.5%
(5)含水二酸化ケイ素 3.4%
(6)ステアリン酸マグネシウム 1.0%
合計 100%
【0067】
(実施例13 アッカーマンシア属細菌増殖に対するアルクチゲニンの効果)
[実験動物]
以下の実施例には、20週齢の雄性C57BL/6J-DIOマウス(日本チャールス・リバー株式会社より購入)を用いた。動物は温度23.0±5℃、湿度50.0±10%、12時間の明暗サイクルの環境下で飼育した。
【0068】
[実験方法]
20週齢の雄性C57BL/6 DIOマウスに高脂肪食(Research Diets社製の飼料D12492、以下HFDと示す)を追加で9週間給餌し、体重増加が鈍化した肥満モデルマウスを以下の8つの群に分け、4週間にわたって被験物質を強制経口投与した:Normal群(通常食)、Control群(HFD)、アルクチゲニン低用量群(AG Low群;HFD+アルクチゲニン20mg/kg)、アルクチゲニン高用量群(AG High群;HFD+アルクチゲニン60mg/kg)、ゴボウスプラウトエキス低用量群(GSE Low群;HFD+ゴボウスプラウトエキス144mg/kg)、ゴボウスプラウトエキス高用量群(GSE High群;HFD+ゴボウスプラウトエキス432mg/kg)、レンギョウ葉エキス低用量群(RLE Low群;HFD+レンギョウ葉エキス260mg/kg)およびレンギョウ葉エキス高用量群(RLE High群;HFD+レンギョウ葉エキス780mg/kg)(各群n=6)。
【0069】
アルクチゲニンには、ゴボウスプラウトエキスよりクラシエホールディングス株式会社にて精製したアルクチゲニン精製品(>95.0%)を用いた。ゴボウスプラウトエキスには、実施例5のゴボウスプラウトエキスを用いた。レンギョウ葉エキスには、実施例8のレンギョウ葉エキスを用いた。ゴボウスプラウトエキスおよびレンギョウ葉エキスの量は、低用量群ではアルクチゲニンが20mg/kg相当、高用量群ではアルクチゲニンが60mg/kg相当となるように調整した。
【0070】
投与方法は、連日強制経口投与とした。給餌方法は、Normal群以外のHFD給餌群では粉末飼料のペアフィーディングを行い、摂餌量を統一した。
【0071】
被験物質を4週間投与した後、18時間の絶食を行い、麻酔下で腹部大静脈より採血し頚椎脱臼による屠殺後、肝臓および盲腸内容物を採取した。
【0072】
[体重変化]
各群の体重(g)の変化を表1に示した。Normal群、Control群、アルクチゲニン高用量群(図中、「AG」で示す)、ゴボウスプラウトエキス高用量群(図中、「GSE」で示す)およびレンギョウ葉エキス高用量群(図中、「RLE」で示す)の体重(g)の変化を
図1に示す。表1および
図1に示すように、ゴボウスプラウトエキス高用量群およびレンギョウ葉エキス高用量群では、体重減少傾向が認められた。
【0073】
【0074】
[炎症関連因子の発現量]
Normal群、Control群および各被験物質高用量投与群について、得られた肝臓からtotal RNAの抽出およびcDNA合成を行った後、qPCRにより、炎症関連因子であるCD11c、PAI-1およびTNFαをコードする遺伝子の発現量を比較した。遺伝子発現量のコントロールとして、18S rRNAを用いた。qPCRのためのプライマーは、18S(F: TTCTGGCCAACGGTCTAGACAAC、R: CCAGTGGTCTTGGTGTGCTGA)、CD11c(F: ACACAGTGTGCTCCAGTATGA、R: GCCCAGGGATATGTTCACAGC)、PAI-1(F: CCGTGGAACAAGAATGAGATCAG、R: CTCTAGGTCCCGCTGGACAA)、TNFα(F: ACCCTCACACTCAGATCATCTTC、R: TGGTGGTTTGCTACGACGT)を用いた。
【0075】
表2および
図2に、Normal群、Control群、アルクチゲニン高用量群(図中、「AG」で示す)、ゴボウスプラウトエキス高用量群(図中、「GSE」で示す)およびレンギョウ葉エキス高用量群(図中、「RLE」で示す)におけるCD11c、PAI-1およびTNFαの発現量を示す。
図3における値は、3~6匹の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表す。Dunnett’s t-testの結果、Control群と比較してp値が0.05より小さい場合には「*」を付した。アルクチゲニン高用量群、ゴボウスプラウトエキス高用量群およびレンギョウ葉エキス高用量群では、Control群と比較してCD11c、PAI-1およびTNFαの発現量が低かった。
【0076】
【0077】
これらの結果から、アルクチゲニン、ゴボウスプラウトエキスおよびレンギョウ葉エキスは、CD11c、PAI-1およびTNFαをコードする遺伝子の発現を抑制する作用を有することが示された。
【0078】
[盲腸内容物の菌叢解析]
各群について、採取した盲腸内容物からDNAを抽出し、アンプリコンシーケンス解析を行った。表3および
図3は、全ての群について、盲腸内容物に含まれる構成比の高かった11種およびその他の細菌の属レベルの構成比(%)を示す。
【0079】
【0080】
表4および
図4は、各群について、盲腸内容物に含まれるアッカーマンシア属細菌の構成比(%)を示す。
図4における値は、3~6匹の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表す。Dunnett testの結果、p値が0.01より小さい場合には「**」を付した。
【0081】
【0082】
図3および
図4に示すように、アルクチゲニン、ゴボウスプラウトエキスおよびレンギョウ葉エキスを投与した群では、Control群と比較して、アッカーマンシア属細菌の構成比の用量依存的な上昇が観察された。アルクチゲニン、ゴボウスプラウトエキスおよびレンギョウ葉エキスの高用量群では、アッカーマンシア属細菌の構成比の有意な増加が観察された。
【0083】
(実施例14 アッカーマンシア属細菌増殖に対するアルクチゲニンの効果)
[実験動物]
以下の実施例には、5週齢の雄性C57BL/6Jマウス(日本エスエルシー株式会社より購入)を用いた。動物は温度23.0±5℃、湿度50.0±10%、12時間の明暗サイクルの環境下で飼育した。
【0084】
[実験方法]
6週齢の雄性C57BL/6Jマウスを以下の6つの群に分け、8週間にわたって被験物質を混餌投与した:Normal群(通常食)、Control群(高脂肪高ショ糖食:HFHS)、アルクチゲニン群(AG群;アルクチゲニン0.5%含有HFHS)、メトホルミン群(MF群;メトホルミン0.5%含有HFHS)、ゴボウスプラウトエキス群(GSE 群;ゴボウスプラウトエキス5%含有HFHS)およびレンギョウ葉エキス群(RLE群;レンギョウ葉エキス5%含有HFHS)(各群n=6)。
【0085】
アルクチゲニンには、ゴボウスプラウトエキスよりクラシエホールディングス株式会社にて精製したアルクチゲニン精製品(>95.0%)を用いた。メトホルミン(M2009)は東京化成工業株式会社より購入したものを用いた。ゴボウスプラウトエキスには、実施例5のゴボウスプラウトエキスを用いた。レンギョウ葉エキスには、実施例9のレンギョウ葉エキスを用いた。
【0086】
被験物質を7週間投与した後、マウスを金網ケージに移し、新鮮糞を採取した。投与8週後、麻酔下で屠殺し、内臓脂肪(精巣上体周囲脂肪および腸間膜脂肪)および盲腸内容物を採取した。
【0087】
[体重変化]
各群の体重(g)の変化を
図5に示す。
図5における値は、6匹の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表す。Repeated measures ANOVAにより有意差検定を行い、Control群と比較してp値が0.05より小さい場合には「*」を、p値が0.01より小さい場合には「**」を付した。Control群と比較して、全ての群で有意な体重増加の抑制が認められた。
【0088】
[内臓脂肪重量]
解剖時の各群の内臓脂肪重量(g)を
図6に示す。
図6における値は、6匹の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表す。Dunnett testの結果、p値が0.01より小さい場合には「**」を付した。Control群と比較して全ての群で、有意な内臓脂肪重量の低下が認められた。
【0089】
[糞便中の菌叢解析]
各群について、採取した糞便からDNAを抽出し、アンプリコンシーケンス解析を行った。
図7は、全ての群について、糞便中に含まれる構成比の高かった10種およびその他の細菌の属レベルの構成比(%)を示す。
【0090】
[糞便中のアッカーマンシア属細菌の定量]
各群について、採取した糞便からDNAを抽出し、qPCRにより、糞便中に含まれるアッカーマンシア属細菌のコピー数を定量した。qPCRのためのプライマーは、Akk-F: CAGCACGTGAAGGTGGGGACおよびAkk-R:CCTTGCGGTTGGCTTCAGATを用いた。
図8は、全ての群について、糞便中に含まれるアッカーマンシア属細菌のqPCRによる定量結果を示す。
図8における値は、6匹の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表す。Dunnett testの結果、p値が0.01より小さい場合には「**」を付した。Control群と比較して、アルクチゲニン群、ゴボウスプラウトエキス群およびレンギョウ葉エキス群で有意に糞便中のアッカーマンシア属細菌が増加した。
【0091】
[盲腸内容物中の短鎖脂肪酸量]
各群について、採取した盲腸内容物中の短鎖脂肪酸量(酢酸、プロピオン酸、酪酸および総短鎖脂肪酸量)をProminenceTM HPLCによる有機酸分析システム(Shimadzu, Japan)を用いて定量した。
図9は、全ての群について、盲腸内容物に含まれる短鎖脂肪酸の定量結果を示す。
図9における値は、6匹の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表す。Dunnett testの結果、p値が0.05より小さい場合には「*」を、0.01より小さい場合には「**」を付した。Control群と比較して、アルクチゲニン群およびレンギョウ葉エキス群では酢酸、プロピオン酸および総短鎖脂肪酸量が、ゴボウスプラウトエキス群では総短鎖脂肪酸量が有意に増加した。
【0092】
これらの結果から、アルクチゲニン、ゴボウスプラウトエキスおよびレンギョウ葉エキスは、アッカーマンシア属菌の増殖を誘導し、盲腸内の短鎖脂肪酸量を増加させる作用を有することが示された。