(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041961
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20220304BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139195
(22)【出願日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2020145898
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】工藤 秀憲
(72)【発明者】
【氏名】藤井 武
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA09
2C350NA01
4J039AD07
4J039AE13
4J039BC19
4J039BC56
4J039BE12
4J039EA44
4J039EA48
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、潤滑性を向上し、ボール座の摩耗抑制と書き味を向上し、書き出し性能が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることである。
【解決手段】着色剤、有機溶剤、メチル分岐型脂肪酸を含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、有機溶剤、メチル分岐型脂肪酸を含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
【請求項2】
前記メチル分岐型脂肪酸の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項3】
前記筆記具用油性インキ組成物に、リン酸エステルを含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項4】
前記筆記具用油性インキ組成物に、ケトン樹脂またはポリビニルブチラール樹脂を含んでなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項5】
前記ケトン樹脂のインキ組成物全量に対する含有量をC、前記ポリビニルブチラール樹脂のインキ組成物全量に対する含有量をD、とした場合、0.1≦C/D≦10の関係でであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項6】
前記筆記具用油性インキ組成物に、脂肪酸エステルを含んでなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
【請求項8】
インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に請求項1ないし7のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筆記具は筆記時に筆記先端部と被筆記面との間で筆記抵抗によって、ボールペンやマーキングペン等の書き味に影響を及ぼしやすく、特にボールペンは、先端にステンレス鋼などからなる金属チップと、該金属チップのボール受け座に抱持される超鋼などの金属からなる転写ボールと、からなるボールペンチップをインキ収容筒に装着した構成を有しており、筆記時にボールの回転によって、ボール座に摩耗が発生し、筆跡に線飛び、カスレなどの発生や、書き味が悪くなるという問題があり、改善の余地があった。
【0003】
こうした問題を解決するため、筆記時に筆記先端部と被筆記面との間で筆記抵抗を抑制するために、潤滑性向上を目的として、様々な潤滑剤を用いた筆記具用油性インキ組成物が多数提案されている。
【0004】
このような潤滑剤を用いた油性インキ組成物としては、アルキルβ-D-グルコシドを用いたものとしては、特開平5-331403号公報「油性ボールペンインキ」、N-アシルアミノ酸、N-アシルメチルタウリン酸、N-アシルメチルアラニンを用いたものとしては、特開2007-176995号公報「油性ボールペン用インキ」、多環芳香族化合物を用いたものとして、特開2013-151594号公報「ボールペン用油性インキ」、さらに潤滑剤として、ジアルキルポリスルフィドを用いたものとしては、特開2014-88486号公報「ボールペン用油性インキ」等に、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】「特開平5-331403号公報」
【特許文献2】「特開2007-176995号公報」
【特許文献3】「特開2013-151594号公報」
【特許文献4】「特開2014-88486号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~4のような各種潤滑剤を用いた場合、筆記先端部と被筆記面との間で筆記抵抗をある程度低減することはできるが、十分ではなく、より向上するために、改良の余地があった。さらに、ボールペンの場合、ボール径が0.5mm以下である小径ボールを用いると、同一距離の筆記をする場合にボールの直径が小さいほどボールの回転数が多くなることや、小径ボールであると、ボール座への負荷がかかるので、ボール座の摩耗が激しく、筆記不良の原因となり、小径ボールにすると新たな課題が発生しやすい。
また、筆記先端部(チップ先端部)を大気中に放置した状態で、該筆記先端部(チップ先端部)が乾燥したときの書き出し性能を向上する筆記具用油性インキ組成物も望まれて、特に、ノック式油性ボールペンや回転繰り出し式油性ボールペン等の出没式油性筆記具を用いた場合では、書き出し性能に影響が出やすいので重要となる。
【0007】
本発明の目的は、筆記先端部の潤滑性を向上することで、ボール座の摩耗抑制と書き味を向上し、書き出し性能が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.着色剤、有機溶剤、メチル分岐型脂肪酸を含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
2.前記メチル分岐型脂肪酸の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%であることを特徴とする第1項に記載のインキ組成物。
3.前記筆記具用油性インキ組成物に、リン酸エステルを含んでなることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
4.前記筆記具用油性インキ組成物に、ケトン樹脂またはポリビニルブチラール樹脂を含んでなることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
5.前記ケトン樹脂のインキ組成物全量に対する含有量をC、前記ポリビニルブチラール樹脂のインキ組成物全量に対する含有量をD、とした場合、0.1≦C/D≦10の関係でであることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
6.前記筆記具用油性インキ組成物に、脂肪酸エステルを含んでなることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
7.第1項~第6項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
8.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に第1項ないし第7項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、筆記先端部の潤滑性を向上することで、摩擦緩和作用が働き、筆記先端部の筆記抵抗を抑制して、筆記先端部(ボールとチップ本体との間)の潤滑性を保ち、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制と、書き味を向上とすることが可能であり、さらに、書き出し性能が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1のボールペンを示す縦断面図である。
【
図2】第1の形態のボールペンレフィルを示す一部省略した要部縦断面図である。
【
図3】第1の形態のボールペンチップを示す一部省略した要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」等は特に断らない限り質量基準である。
【0012】
本発明の特徴は、メチル分岐型脂肪酸を含んでなる筆記具用油性インキ組成物とすることである。これは、メチル分岐型脂肪酸を含んでなることで、前記メチル分岐型脂肪酸による潤滑層によって、潤滑性を向上し、ボールとチップ本体との間の潤滑性を保ち、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制と、書き味を向上することが可能であり、さらに筆記先端部(チップ先端部)を大気中に放置した状態で、該筆記先端部(チップ先端部)が乾燥したときの書き出し性能を良好とすることが可能である。
【0013】
(メチル分岐型脂肪酸)
本発明で用いるメチル分岐型脂肪酸については、潤滑性を向上することで、筆記先端部(ボールとチップ本体との間)の潤滑性を保ち、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレを抑制し、書き味を向上することが可能である。これは、メチル分岐型脂肪酸が、筆記先端部(ボールペンチップのボールやチップ本体)の金属表面に吸着することで、筆記先端部(ボールとチップ本体との間)の金属接触を抑制し、摩擦緩和作用により、筆記先端部の筆記抵抗を抑制することができるためである。特にメチル分岐型を有することで、嵩高い構造を有することができ、該金属表面を覆う面積が多くなることで、筆記先端部(ボールとチップ本体)との間の金属接触を抑制することができるため、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレを抑制し、書き味を向上することが可能となり、さらに、書き出し性能を良好とすることも可能であり、油性ボールペンに用いる場合は、効果的である。
特にボールペンの場合は、ボール径が0.5mm以下である小径ボールとした場合においても、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレを抑制し、書き味を良好に保ち、小径ボールのように局部的にボール座間に負荷が掛かった場合でも、潤滑性を保ちやすく、効果的であるため、好ましく、ボール直径を0.4mm以下とした場合でも、効果的であるため、好ましく、さらにボール直径を0.3mm以下とした場合でも効果的で、好ましい。
【0014】
メチル分岐型脂肪酸については、潤滑性を考慮すれば、メチル分岐型脂肪酸の炭素数が10~20であることが好ましい。これは、炭素数が10以上であると、所望の潤滑性を向上するのに適したアルキル基の長さであり、筆記先端部(ボールペンチップ)の金属表面に吸着しやすいためである。一方、炭素数が20を超え、よりアルキル基が長くなると、分子同士が反発することにより、金属表面への吸着を阻害し、潤滑性の向上を阻害しやすいためである。さらに、より潤滑性を考慮すれば、メチル分岐型脂肪酸の炭素数が16~20であることが好ましく、よりボール座の摩耗抑制を向上することを考慮すれば、メチル分岐型脂肪酸の炭素数が18~20であることが好ましい。
【0015】
メチル分岐型脂肪酸としては、メチル分岐型脂肪酸の主鎖からメチル基が分岐された化学構造であり、メチル分岐型飽和脂肪酸、メチル分岐型不飽和脂肪酸が挙げられるが、潤滑性を考慮すれば、メチル分岐型飽和脂肪酸を用いることが好ましい。具体的には、メチル分岐型飽和脂肪酸としては、メチル分岐型ウンデカン酸、メチル分岐型ドデカン酸、メチル分岐型トリデカン酸、メチル分岐型テトラデカン酸、メチル分岐型ペンタデカン酸、メチル分岐型ヘプタデカン酸、メチル分岐型オクタデカン酸(メチル分岐型ステアリン酸)、メチル分岐型ノナデカン酸、メチル分岐型ドコサン酸などが挙げられる。これらの中でも、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制と、書き味を向上することを考慮すれば、メチル分岐型オクタデカン酸(メチル分岐型ステアリン酸)が好ましく、より考慮すれば、16-メチルオクタデカン酸(16-メチルステアリン酸)が好ましい。特に、ボール直径を0.5mm以下とした場合で、局部的にボール座間に負荷が掛かった場合でも、潤滑性を保ちやすいため、効果的であるため、好ましく、ボール直径を0.4mm以下とした場合でも、効果的であるため、好ましく、さらにボール直径を0.3mm以下とした場合でも効果的で、好ましい。
【0016】
メチル分岐型脂肪酸としては、10-メチルウンデカン酸、10-メチルドデカン酸、12-メチルトリデカン酸、12-メチルテトラデカン酸、14-メチルペンタデカン、14-メチルヘキサデカン、16-メ チルヘプタデカ ン酸、16-メ チルオクタデカン酸(16-メチルステアリン酸)、10-メ チルノナデカン酸、10-メ チルヘプタデカン酸、10-メ チルヘキサデカン酸、10-メ チルペンタデカン酸などが挙げられる。
【0017】
メチル分岐型脂肪酸の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑効果が得られないおそれがあり、10質量%を越えると、インキ経時安定性に影響するおそれがあるため、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%が好ましく、より潤滑性を考慮すれば、0.5~10質量%が好ましく、さらに、インキ経時安定性などを考慮すれば、1~5質量%が好ましい。
【0018】
(リン酸エステル)
本発明では、筆記先端部の潤滑性を向上することで、筆記先端部の筆記抵抗を抑制することを考慮すれば、リン酸エステルを用いることが好ましい。さらに、ボール座の摩耗抑制、書き味を向上することをより考慮すれば、ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルを用いることが好ましい。これは、従来のリン酸エステルとは異なり、ClH2l+1O-C2H4O(アルコキシエチル基)またはCmH2m+1O(アルコキシル基)を有するリン酸エステルによって、潤滑層を形成することで、筆記先端部の潤滑性を向上しやすく、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制し、書き味を向上しやすいためであり、油性ボールペンに用いる場合は、効果的である。
そのため、メチル分岐型脂肪酸とリン酸エステルを併用することによって、形成される2層の潤滑層の相互作用による潤滑効果によって、従来では、得られなかった高い潤滑性を得られるようになり、特にメチル分岐型脂肪酸とClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルを併用することが好ましい。さらに、ボール径が0.5mm以下とした場合で、局部的にボール座間に負荷が掛かった場合でも、より高い潤滑性を保つため、効果的であり、好ましく、ボール径が0.4mm以下とした場合でも、効果的であるため、好ましく、さらにボール直径を0.3mm以下とした場合でも効果的で、好ましい。さらに、書き出し性能を良好とすることが可能である。
【0019】
リン酸エステルについては、インキ中で安定し、筆記先端部の潤滑性を向上しやすいことを考慮すれば、一般式(化1)、(化2)のように表されるものが好ましい。これは、 前記一般式(化1)、(化2)のリン酸エステルは、インキ中で安定しており、一般式(化1)、(化2)の構造のPに隣接するOが、金属製のボールペンチップ本体やボールに吸着し、C
lH
2l+1O-C
2H
4O(アルコキシエチル基)やC
mH
2m+1O(アルコキシル基)が、潤滑層を形成することで、潤滑性を向上し、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制と、書き味を向上しやすいためである。特に、ボール座の摩耗を抑制することを考慮すれば、C
lH
2l+1O-C
2H
4O(アルコキシエチル基)を有する一般式(化1)を用いることが好ましい。
【化1】
【化2】
【0020】
また、一般式(化1)、(化2)のようなリン酸エステルの中でも、ClH2l+1O-C2H4O(アルコキシエチル基)、CmH2m+1O(アルコキシル基)の末端アルキル基の炭素鎖(l,m)について特定の炭素鎖(l,m)とすることが好ましいが、この効果については、以下のように推測する。
ClH2l+1O-C2H4O、CmH2m+1Oの末端アルキル基の炭素鎖(l,m)については、1~15とすることが好ましい。これは、ClH2l+1O-C2H4OやCmH2m+1Oの末端アルキル基の炭素鎖が長くなり過ぎて、書き味や書き出し性能は良好であるものの、ボール座の摩耗抑制が得られづらい。これは、末端アルキル基の炭素鎖(l,m)が15を越えた場合、お互いの炭素鎖同士がからみあいやすく、炭素鎖の配列の向きがランダムとなり、並んだ配列とならないため、潤滑性が十分な潤滑層が得られず、ボール座の摩耗抑制が得られづらいためである。さらに、末端アルキル基の炭素鎖(l,m)が15を越えた場合、末端アルキル基の極性が低極性側に寄ってしまうため、極性のある有機溶剤に対する親和性が劣ることで、溶解安定性に影響しやすく、特にグリコールエーテル溶剤では影響が生じやすく、インキ中での溶解安定性に問題が出やすくなる。このため、長期間保存により金属製チップ中の金属イオン等の影響により、金属塩析出物が発生しやすくなり、インキ経時安定性が劣りやすく、本発明のような潤滑効果が得られづらい。そのため、前記末端アルキル基の炭素鎖(l,m)については、1~15とすることが好ましく、より考慮すれば、前記末端アルキル基の炭素鎖(l,m)は、1~10であることが好ましく、よりボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレ抑制を考慮すれば、前記末端アルキル基の炭素鎖(l,m)は、1~5が好ましい。
一方、末端アルキル基の炭素鎖(l,m)が3以下とした場合には、ボール座の摩耗抑制は良好であるものの、インキ中において、前記アルキル基が十分な厚みのある潤滑層が得られず、ボールとボール座の間のクッション性が十分でない潤滑層であるため、書き味や書き出し性能、ボール座の摩耗抑制に影響が出やすい。そのため、前記末端アルキル基が、ブチル基(末端アルキル基の炭素鎖:4)を有するブトキシエチルアシッドホスフェート(l=4)、ブチルアシッドホスフェート(m=4)などを用いることで、ボール座の摩耗を抑制、書き味、書き出し性能の向上する効果が得られやすいため好ましく、特にブトキシエチル基(C4H9OCH2CH2O、末端アルキル基の炭素鎖4)を有するブチルアシッドホスフェートが好ましい。特に、ボール径が0.5mm以下とした場合で、局部的にボール座間に負荷が掛かった場合でも、潤滑性を保ちやすいため、ボール座の摩耗抑制では、効果的であるため、好ましく、ボール径が0.4mm以下とした場合でも、効果的であるため、好ましく、さらに0.3mm以下とした場合でも効果的で、好ましい。
【0021】
さらに、一般式(化1)、(化2)のようなリン酸エステルについては、リン酸エステルのモノエステル(化1、化2のn=1)、リン酸エステルのジエステル(化1、化2のn=2)、リン酸エステルのトリエステル(化1、化2のn=3)や、それらの混合物などが挙げられる。その中でも、ボール座の摩耗を抑制することと、書き味を考慮すれば、リン酸エステルのモノエステル(化1、化2のn=1)と、リン酸エステルのジエステル(化1、化2のn=2)の混合物を用いることが好ましい、これは、前記リン酸エステルのトリエステル(化1、化2のn=3)だと、ClH2l+1O-C2H4O(アルコキシエチル基)、CmH2m+1O(アルコキシル基)が多すぎることで、インキ経時安定性に影響が出やすいためである。
さらに、ボール座の摩耗を抑制することを考慮すれば、リン酸エステルのモノエステルと、リン酸エステルのジエステルとを混合することが好ましい。その場合の混合比については、リン酸エステルのジエステル(化1、化2のn=2)は、ClH2l+1O-C2H4O(アルコキシエチル基)と、CmH2m+1O(アルコキシル基)が多いため、潤滑性に有利に働き、さらにインキ経時安定性も保てるため、リン酸エステルのジエステルが多い方が好ましい。そのため、1:1~1:5の範囲が好ましく、さらに考慮すれば、1:1~1:3の範囲が好ましい。
【0022】
また、一般式(化1)、(化2)のようなリン酸エステルの具体例としては、一般式(化1)はブトキシエチルアシッドホスフェート(l=4)などや、(化2)はメチルアシッドホスフェート(m=1)、エチルアシッドホスフェート(m=2)、ブチルアシッドホスフェート(m=4)、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート(m=8)、イソデシルアシッドホスフェート(m=10)、ラウリルアシッドホスフェート(m=12)、アルキル(m=12,14,16,18)アシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート(m=13)、オレイルアシッドホスフェート(m=18)、テトラコシルアシッドホスフェート(m=24)などが挙げられる。
【0023】
また、前記リン酸エステルの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、10質量%を越えると、インキ経時が不安定になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、0.1~5質量%が好ましく、より考慮すれば、0.3~3質量%が、好ましい。
【0024】
前記メチル分岐型脂肪酸のインキ組成物全量に対する総含有量をX、前記リン酸エステルのインキ組成物全量に対する含有量をY、とした場合、ボール座の摩耗抑制、書き味を向上することを考慮すれば、0.1≦X/Y≦5の関係であることが好ましく、より考慮すれば、0.3≦X/Y≦3が好ましく.さらに0.5≦X/Y≦2の関係であることが好ましい。
【0025】
(有機アミン)
また、本発明のように前記メチル分岐型脂肪酸、前記リン酸エステルを用いる場合は、有機アミンを用いることが好ましい。これは、前記メチル分岐型脂肪酸、前記リン酸エステルを有機アミンによって、中和させることで、インキ中で、溶解安定させることで、前記メチル分岐型脂肪酸、前記リン酸エステルの効果を得られやすくし、さらに着色剤など他のインキ成分の経時安定性を良好としやすくするためである。前記有機アミンと、前記メチル分岐型脂肪酸、前記リン酸エステル、着色剤との安定性を考慮すれば、2級アミンまたは3級アミンを用いることが好ましい。これは、油性インキ中での反応性については、1級アミンが最も強く、次いで2級アミン、3級アミンと反応性が小さくなり、1級アミンは、前記リン酸エステル、メチル分岐型脂肪酸、着色剤やその他の成分と反応しやすく、インキ経時安定性に影響が出やすい。そのため、2級アミンまたは3級アミンを用いることが好ましく、より考慮すれば、3級アミンを用いることが好ましい。
【0026】
また、有機アミンについては、具体的には、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のエチレンオキシドを有するアミンや、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミンや、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン等の脂肪族アミンが挙げられ、その中でも、インキ中での安定性を考慮すれば、エチレンオキシドを有するアミン、ジメチルアルキルアミンが好ましく、より考慮すればエチレンオキシドを有するアミンが好ましい。
【0027】
さらに、前記有機アミンの全アミン価は、前記リン酸エステル、前記メチル分岐型脂肪酸、着色剤やその他の成分との安定性を考慮すれば、100~300(mgKOH/g)とすることが好ましい。これは、300(mgKOH/g)を超えると、反応性が強いため、上記成分と反応し易いため、インキ経時安定性が劣りやすい。また、全アミン価が、100(mgKOH/g)未満であると、インキ中でのメチル分岐型脂肪酸、ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルの安定性に影響が出やすく、油性ボールペンとした場合、ボールやチップ本体などの金属類の吸着性が劣りやすく、潤滑性能が得られにくい。より上記成分との安定性や潤滑性を考慮すれば、150~300(mgKOH/g)の範囲が好ましく、より安定性を考慮すれば、200~300(mgKOH/g)が好ましく、最も考慮すれば、230~270(mgKOH/g)が好ましい。
【0028】
有機アミンについては、具体的には、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンとしては、具体的には、ナイミーンL-201(全アミン価:232~246、2級アミン)、同L-202(全アミン価:192~212、3級アミン)、同L-207(全アミン価:107~119、3級アミン)、同S-202(全アミン価:152~166、3級アミン)、同S-204(全アミン価:120~134、3級アミン)、同S-210(全アミン価:75~85、3級アミン)、同DT-203(全アミン価:227~247、3級アミン)、同DT-208(全アミン価:146~180、3級アミン)(日本油脂(株)社製)等が挙げられる。アルキルアミンとしては、具体的には、ファーミン80(全アミン価:204~210、1級アミン)、ファーミンD86(全アミン価:110~119、2級アミン)、ファーミンDM2098(全アミン価:254~265、3級アミン)、ファーミンDM8680(全アミン価:186~197、3級アミン)(花王(株))、ニッサン3級アミンBB(全アミン価:243~263、3級アミン)、同FB(全アミン価:230~250、3級アミン)(日本油脂(株)社製)等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0029】
前記有機アミンの含有量は、前記メチル分岐型脂肪酸、前記リン酸エステル、着色剤やその他の成分との安定性を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%が好ましく、さらに後に説明する界面活性剤に対する中和を考慮すれば、0.5~5質量%が好ましい。
【0030】
前記リン酸エステル、前記メチル分岐型脂肪酸のインキ組成物全量に対する総含有量をA、前記有機アミンのインキ組成物全量に対する含有量をB、とした場合、中和させることでインキ経時安定性を考慮すれば、0.01≦A/B≦5の関係であることが好ましく、より考慮すれば、0.1≦A/B≦3が好ましく.さらに0.1<A/B<1の関係であることが好ましい。
【0031】
(着色剤)
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができ、染料、顔料は併用して用いても良い。染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられる。これらの染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C-RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.イエロー510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0032】
さらに、着色剤としては、メチル分岐型脂肪酸、リン酸エステルとの相性による経時安定性を考慮して、少なくとも造塩染料を用いることが好ましく、さらに造塩結合が安定していることで経時安定性を保てることを考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料との塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料を用いることが好ましい。
より考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料を用いることが好ましく、より考慮すればアゾ系骨格染料を有した造塩染料、キサンテン系染料を有した造塩染料、芳香族アミンを有する造塩染料の中から用いることが好ましく、その中でも、結合安定するため、メチル分岐型脂肪酸、リン酸エステルへの影響が出にくいため、アゾ系塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と芳香族アミンとの造塩染料の中から用いることが好ましい。
【0033】
塩基性染料と有機酸との造塩染料の有機酸については、フェニルスルホン基を有する有機酸であれば、筆記先端部の金属に吸着し易い潤滑膜を形成しやすく、筆記先端部の潤滑性を向上し、書き味やボール座の摩耗抑制を良好とするため好ましく、さらにインキ中で長期安定することを考慮すれば、有機酸として、アルキルベンゼンスルホン酸を用いることが好ましい。
また、酸性染料と有機アミンについては、潤滑性を向上しつつ、耐光性を良好とするためには、Cu、Cr、Fe、Coを含む酸性含金染料が好ましいため、酸性含金染料と有機アミンとの造塩染料を用いることが好ましい。該酸性含金染料を油性インキ中で安定させるために、有機アミンの中でも、芳香環を有するアミンで中和反応させて造塩染料とすることが好ましい。
該酸性含金染料については、インキ中での経時安定性を良好とすることを考慮すれば、Cuを含む酸性含金染料を用いることが好ましく、さらに、フタロシアニン系、アゾ系などあるが、その中でも、銅フタロシアニン系酸性染料を用いることが好ましい。さらに、該酸性含金染料の構造内に、スルホ基 (-SO3H)やカルボキシル基 (-COOH)などを有するものが挙げられるが、より潤滑性の向上を考慮すれば、スルホ基(-SO3H) を有する酸性含金染料が好ましい。これは、スルホ基(-SO3H) を有すると、ボールとボール座間に強固な潤滑層を形成しやすいため、潤滑性が向上しやすいと考えられ、芳香環を有するアミンと併用することで相乗的な潤滑効果も得られるためである。
【0034】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
【0035】
着色剤としては、潤滑性を考慮すれば、顔料を用いることが好ましい、これは、顔料粒子を用いることで、筆記先端部のボールとチップ本体の隙間に顔料粒子が入り込むことで、ベアリングのような作用が働きやすく、筆記先端部の金属接触を抑制することで、潤滑性を向上し、書き味を向上し、ボール座の摩耗を抑制する効果が得られやすいため、顔料を用いることが好ましい。特に、メチル分岐型脂肪酸、ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルによる潤滑層と、顔料粒子とベアリング作用による相乗効果によって、潤滑性を保ちやすく、ボール座の摩耗の抑制と、書き味を向上とすることが可能となる。また、ボールペンチップ内部の隙間関係を考慮し、平均粒子径は、1~500nmとすることが好ましい。より好ましくは、30~350nmであり、さらに好ましくは、50~300nmである。ここで、平均粒子径は、レーザー回折法、具体的には、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いて、標準試料や他の測定方法を用いてキャリブレーションした数値を基に測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により求めることができる。
尚、前記顔料は、筆記具用油性インキ組成物中での顔料の分散状態で前記した作用効果を奏するため、分散状態の粒子径を求めることが好ましい。さらに、顔料は、耐水性、耐光性に優れ、良好な発色を得られるため、好ましい。
【0036】
顔料の種類としては、メチル分岐型脂肪酸、リン酸エステルとの相性による潤滑性を考慮すれば、カーボンブラック、キナクリドン系、スレン系、ジケトピロロピロール系の顔料の中から用いることが好ましく、さらに経時的な相性により、インキ経時安定性を考慮すれば、ジケトピロロピロール系の顔料を用いることが好ましい。
【0037】
着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、5~30質量%が好ましい。これは、5質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30質量%を越えると、インキ中での溶解性に影響しやすい傾向があるためで、よりその傾向を考慮すれば、7~25質量%が好ましく、さらに考慮すれば、10~20質量%である。
【0038】
(有機溶剤)
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、筆記具用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
【0039】
これらの有機溶剤の中でも、メチル分岐型脂肪酸、リン酸エステルとの溶解性を考慮すれば、潤滑性を向上する効果が得られやすいため、非水溶性有機溶剤を用いて、油性ボールペン用インキ組成物として、溶解安定させることが好ましい。
その中でも、グリコールエーテル溶剤を用いることが好ましい。これは、メチル分岐型脂肪酸、リン酸エステルとのグリコールエーテル溶剤に対する親和性が良好となりやすく、溶解安定するため、長期間保存においてもインキ経時が安定しやすい。さらに、グリコールエーテル溶剤を用いると、吸湿しやすいため、チップ先端部が乾燥したときに形成する被膜の強度を軟化させ、書き出し性能も向上しやすいためであり、後述する界面活性剤と併用するとより効果的で、インキ中での安定性を考慮すれば、芳香族グリコールエーテル溶剤を用いることが好ましい。さらに、グリコールエーテル溶剤以外の有機溶剤については、アルコール溶剤を用いることが好ましいが、これは、アルコ-ル溶剤は揮発して、チップ先端での乾燥をしやすく、筆記先端部内(チップ先端部内)をより早く増粘させることで、筆記先端部の間隙からインキ漏れを抑制して、インキ漏れ抑制性能を向上するためで、好ましい。さらに、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコ-ルは、潤滑性を向上する効果もあるため、少なくとも用いる方が好ましい。そのため、グリコールエーテル溶剤とアルコ-ル溶剤を併用することが好ましい。
【0040】
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、10~70質量%が好ましい。また、アルコ-ル溶剤の含有量は、チップ先端での乾燥性を考慮すれば、全有機溶剤に対し、30~90質量%が好ましく、より好ましくは50~90質量%である。
(樹脂)
【0041】
本発明では、粘度調整剤として樹脂を用いても良く、具体的には、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。
その中でも、ケトン樹脂は、筆記先端部の潤滑性を向上し、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制しやすくすることが可能であるため、好ましい。特に、前記メチル分岐型脂肪酸、前記リン酸エステルとの相性が良く、本発明の特徴である潤滑性を阻害することなく、相乗的に潤滑性を向上することで、より一層ボール座の摩耗を抑制しやすいため好ましい。
【0042】
ケトン樹脂の中でも、芳香環骨格(フェニル基、アセトフェノン基、ナフタレン基などベンゼン環を有する)やシクロヘキサン骨格(シクロヘキサン基、シクロヘキサノン基などシクロヘキサン環を有する)などの環状構造を有するケトン樹脂を用いることが好ましい。これは、環状構造を有するケトン樹脂によるクッション効果が得られ、潤滑性を向上し、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレを抑制しやすいためで、より好ましくは、芳香環を有するケトン樹脂の方が、二重結合構造を多数有するため、より強いクッション効果が得られやすいため、潤滑性には効果的であり、好ましい。
さらに、ケトン樹脂については、水酸基価が100(mgKOH/g)以上であることが好ましい、これは、100(mgKOH/g)以上であると、アルコール溶剤やグリコール溶剤などの有機溶剤に溶解しやすく、前記メチル分岐型脂肪酸、前記リン酸エステルと併用することによる相互作用によるボール座の摩耗抑制の効果が得られやすいためで、よりボール座の摩耗抑制を考慮すれば、水酸基価が200(mgKOH/g)以上であることが好ましく、より考慮すれば、ケトン樹脂の水酸基価が300(mgKOH/g)以上であることが好ましい。特に、ボール直径を0.5mm以下とした場合で、局部的にボール座間に負荷が掛かった場合でも、潤滑性を保ちやすく、ボール座の摩耗抑制に、効果的であるため、好ましく、ボール直径を0.4mm以下とした場合でも、効果的であるため、好ましく、さらにボール直径を0.3mm以下とした場合でも効果的で、好ましい。
【0043】
また、ケトン樹脂は、筆記先端部の潤滑性を向上して、ボール座の摩耗抑制をしやすくすることは可能であるが、書き味向上については、十分得られにくいため、ポリビニルブチラール樹脂を併用して用いることが好ましい。
ポリビニルブチラール樹脂については、メチル分岐型脂肪酸と併用することで、さらには、前記リン酸エステルと併用することで、より高い潤滑効果が得られる潤滑層を形成しやすい。そのため、筆記先端部(ボールとボール座との間)に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすい。さらに、前記ポリビニルブチラール樹脂を用いると、形成する被膜によって、インキ漏れをより向上しやすくなるため、好ましく、また、着色剤として顔料を用いる場合は、顔料分散効果も得られるため、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましく、油性ボールペンに用いる場合は、効果的である。
ここで、ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造である。
【0044】
また、ポリビニルブチラール樹脂は、水酸基量25mol%以上とすることが好ましい。これは、水酸基量25mol未満のポリビニルブチラール樹脂では、有機溶剤への溶解性が十分でなく、十分な書き味向上効果や、インキ漏れ抑制の効果が得られにくく、さらに、吸湿性による書き出し性能を考慮すると、水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいためである。また、前記水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、書き味が向上しやすくなるため、好ましい。これは、筆記時において、ボールの回転により摩擦熱が発生することで、チップ先端部のインキが温められて、該インキの温度が高くなるが、前記ポリビニルブチラール樹脂は他の樹脂とは違い、インキ温度が高くなっても、インキ粘度を下がりづらくする性質があり、筆記先端部(ボールとボール座との間)に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすいためである。また、前記水酸基量40mol%を越えるポリビニルブチラール樹脂を用いると、吸湿量が多くなりやすく、インキ成分との経時安定性に影響が出やすいため、水酸基量40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましい。そのため、水酸基量30~40mol%のポリビニルブチラール樹脂が好ましく、さらに好ましくは、水酸基量30~36mol%が好ましい。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
【0045】
また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度については、前記平均重合度は200以上であると、インキ漏れ抑制性能が向上しやすく、また、前記平均重合度は2500を超えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、前記平均重合度は、200~2500が好ましい。さらに、より書き味、インキ漏れ抑制を考慮すれば、前記平均重合度は1500以下が好ましく、さらに1000以下が好ましい。ここで、平均重合度とは、ポリビニルブチラール樹脂の1分子を構成している基本単位の数をいい、JISK6728(2001年度版)に規定された方法に基づいて測定された値を採用可能である。
【0046】
また、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂を併用して用いる場合は、前記ケトン樹脂のインキ組成物全量に対する含有量をC、前記ポリビニルブチラール樹脂のインキ組成物全量に対する含有量をD、とした場合、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制と、書き味、インキ漏れ抑制、インキ経時をバランス良く向上しやすくすることを考慮すれば、0.1≦C/D≦10の関係であることが好ましく、より考慮すれば、0.5≦C/D≦7が好ましく、さらに1.5≦C/D≦5の関係であることが好ましい。
【0047】
前記樹脂の総含有量は、インキ組成物全量に対し、1質量%より少ないと、所望の書き味、ボール座の摩耗抑制、インキ漏れ抑制性能が劣りやすく、40質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、1~40質量%が好ましい。さらに、考慮すれば、5質量%以上が好ましく、30質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、5~30質量%が好ましい。
【0048】
ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂以外の樹脂は、曳糸性付与剤を適宜用いてもよい。特に、ポリビニルピロリドン樹脂を配合することで、インキの結着性を高め、チップ先端における余剰インキの発生を抑制しやすいため、ポリビニルピロリドン樹脂を含有することが好ましい。前記ポリビニルピロリドン樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01質量%より少ないと、余剰インキの発生を抑制しにくい傾向があるため、3.0質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすい傾向があるため、インキ組成物全量に対し、0.01~3.0質量%が好ましい。より上記理由を考慮すれば、0.1~2.0質量%が好ましい。具体的には、アイエスピー・ジャパン(株)製の商品名;PVP K-15、PVP K-30、PVP K-90、PVP K-120などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0049】
(界面活性剤)
本発明においては、上記潤滑性として、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制と、書き味や、筆記先端部(チップ先端部)を大気中に放置した状態で、該筆記先端部(チップ先端部)が乾燥したときの書き出し性能を向上することを考慮すれば、界面活性剤を用いることが好ましい。これは、界面活性剤を用いると、形成される被膜を柔らかくする傾向があり、書き出し性能を改良でき、さらに潤滑性も向上することができる。界面活性剤としては、不飽和脂肪酸、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤(ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルを除く)などが挙げられる。その中でも、上記効果を考慮すれば、不飽和脂肪酸、シリコーン系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤(ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルを除く)の中から1種以上を用いることが好ましく、より好ましくは2種以上用いることが好ましい。
特に、リン酸エステル系界面活性剤(ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルを除く)を用いる場合については、同骨格としてリン酸を有することで、相性が良く、相乗的な潤滑効果が得られやすいため、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。これは、前記したリン酸エステルとリン酸エステル系界面活性剤(ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルを除く)を併用することで、前記リン酸エステルの潤滑層とリン酸エステル系界面活性剤(ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルを除く)との潤滑層とが相互作用することで、より高い潤滑性を有する潤滑層を形成できるため、筆記先端部の潤滑性を保ち、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制と、書き味を向上しやすくする効果を奏するものと推測する。さらに、リン酸エステル系界面活性剤(ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルを除く)を用いる場合は、酸価は、160以下(mgKOH/g)とすることが好ましい、これは、リン酸エステル系界面活性剤による潤滑性の向上を発揮しやすくするためで、さらにインキ中での安定性や、潤滑性を考慮すれば、酸価は30~160が好ましい、より考慮すれば、酸価は70~120(mgKOH/g)が好ましい
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
さらに、前記したメチル分岐型脂肪酸、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂を用いる場合は、より潤滑性を向上しやすいためより好ましい。
【0050】
前記界面活性剤については、より潤滑性、書き出し性能との両方を向上することを考慮すれば、HLB値が6~14であることが好ましい。これは、HLB値が14を越えると親水性が強くなりやすいため、油性インキ中での溶解性が劣りやすいため、前記界面活性剤の効果が得られにくく、潤滑効果が得られにくいためである。また、HLB値が6未満だと、親油性が強くなり過ぎて、有機溶剤との相溶性に影響が出やすく、インキ経時が安定しにくく、さらに書き出し性能が向上しにくいためである。さらに、潤滑性を考慮すれば、HLB値が12以下にすることが好ましく、HLB値が6~12であることが好ましく、より書き出し性能を考慮すれば、HLB値が7~12が好ましい。
尚、HLBは、グリフィン法、川上法などから求めることができ、一例としては、一般式として、HLB=7+11.7log(Mw/Mo)、(Mw;親水基の分子量、Mo;親油基の分子量)などから求めることができる。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時ペン先が外部に露出した状態であるため、筆記先端部の乾燥時の書き出し性能に影響しやすいため、上記HLB値とした界面活性剤を用いることはより好ましい。
【0051】
前記界面活性剤としては、具体的には、不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸などが挙げられ、シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーンなどが挙げられ、フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロ基ブチルスルホン酸塩、パーフルオロ基含有カルボン酸塩、パーフルオロ基含有リン酸エステル、パーフルオロ基含有リン酸エステル型配合物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物などが挙げられ、リン酸エステル系界面活性剤(ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1O(l、m=1~30)を有するリン酸エステルを除く)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられる。
【0052】
界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3~3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5~3.0質量%が、最も好ましい。
【0053】
(脂肪酸エステル)
本発明においては、上記潤滑性と、筆記先端部(チップ先端部)を大気中に放置した状態で、該筆記先端部(チップ先端部)が乾燥したときの書き出し性能をより向上することを考慮すれば、脂肪酸エステルを用いることが好ましい。脂肪酸エステルによって、筆記先端部(チップ先端部)のインキ乾燥時に形成される被膜強度が軟化しやすくすることで、書き出し性能を向上しやすく、さらに、潤滑性を向上しやすくすることで、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制と、書き味、書き出し性能を全て向上しやすいため好ましい。そのため、メチル分岐型脂肪酸、リン酸エステル、脂肪酸エステルを併用することによって、形成される潤滑層との相互作用による潤滑効果によって、従来では、得られなかった高い潤滑性を得られやすく、ボール座の摩耗抑制、書き味、書き出し性能、インキ経時をバランス良く全て向上しやすいため好ましく、油性ボールペンに用いる場合は、効果的である。
【0054】
脂肪酸エステルについては、脂肪酸と、1価アルコールや多価アルコールなどのアルコールとをエステル化反応させたものであるが、前記脂肪酸エステルの中でも、より書き出し性能を向上することを考慮すれば、分岐型アルキル基を有する脂肪酸エステルを用いることが好ましい。これは、分岐型アルキル基を有する脂肪酸エステルは、直鎖構造よりも、嵩高い構造をしているため、分岐型アルキル基の嵩高さによって、金属製のボール表面やチップ本体のボール座に吸着した際に、厚い潤滑膜を形成して、より潤滑性が向上しやすいためで、同時に分岐型アルキル基の嵩高さによって、チップ先端部のインキ乾燥時に形成される被膜強度が軟化し、書き出し性能を向上するためである。
【0055】
さらに、前記脂肪酸エステルについては、酸価を0.01~5(mgKOH/g)とすることが好ましい、これは、油性インキ中の前記メチル分岐型脂肪酸、前記リン酸エステルや他成分との相性が良好であり、長期間インキ中で安定しているため、長時間書き出し性能と潤滑性を向上し、書き味を向上しやすくすることが可能となるためである。より考慮すれば、酸価については、0.01~2.5(mgKOH/g)であることが好ましく、より好ましくは、0.05~1.0(mgKOH/g)である。
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分(遊離脂肪酸)を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0056】
前記脂肪酸エステルのエステル化反応に用いられるアルコールは、多価アルコールが好ましい。これは、理由は定かではないが、前記脂肪酸エステルのエステル化反応に用いられるアルコールの水酸基が多い方が、保湿作用が働きやすく、チップ先端部が乾燥したときに形成する被膜の強度を軟化させ、ボールの回転をスムーズにする効果が得られるので、筆跡カスレが発生せずに、書き出し性能が向上するものと推測される。より書き出し性能、潤滑性を向上することを考慮すれば、水酸基が3価以上の多価アルコールであることが好ましく、より好ましくは水酸基が5価以上であることが好ましい。また、水酸基が多すぎると、油性インキ中での安定性に影響が出やすいため、水酸基が8価以下であることが好ましく、より好ましくは、水酸基が6価以下である。
【0057】
前記脂肪酸エステルのエステル化反応に用いられるアルコールの具体例としては、1価アルコールとしては、ペンタノール、シクロヘキサノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、デカノール、ラウリルアルコール、ミスチリルアルコール、ステアリルアルコール、ドコサノールなどが挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、グリセリン、2-メチルプロパントリオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリエチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの中でも、より書き出し性能を向上し、インキ経時安定性を考慮すれば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのペンタエリスリトール類によってエステル化した脂肪酸エステルを含むことが好ましく、より考慮すれば、ジペンタエリスリトールによってエステル化した脂肪酸エステルを含むことが好ましい。
【0058】
また、前記脂肪酸エステルの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性、書き出し性能が得られにくい傾向があり、10質量%を越えると、インキ経時が不安定になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、0.1~5質量%が好ましく、より考慮すれば、0.1~3質量%が好ましく、0.3~2質量%が最も好ましい。
【0059】
また、その他として、粘度調整剤として、脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤を、また、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0060】
インキ粘度が15000mPa・sを超えると、筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が重くなりやすく、ボール座の摩耗抑制に影響しやすく、さらに書き出し性能、インキ追従性能に影響が生じやすい。このため、20℃、剪断速度500sec-1(筆記時)におけるインキ粘度は、15000mPa・s以下であることが好ましい。より書き味、ボール座の摩耗抑制の向上を考慮すれば、10000mPa・s以下が好ましく、より書き味、ボール座の摩耗抑制を考慮すれば、8000mPa・s以下であることが好ましく、さらに書き味を考慮すれば、6000mPa・s以下であることが好ましい。
また、20℃、剪断速度500sec-1(筆記時)におけるインキ粘度が10mPa・s未満の場合には、ボール座の摩耗抑制や、筆跡に滲みやインキ垂れ下がりの影響が出やすい。このため、20℃、剪断速度500sec-1(筆記時)におけるインキ粘度が10mPa・s以上であることが好ましく、より考慮すれば、インキ粘度が100mPa・s以上であることが好ましく、さらにボール座の摩耗抑制を考慮すれば、インキ粘度が500mPa・s以上であることが好ましく、より考慮すれば、1000mPa・s以上であることが好ましく、2000mPa・s以上であることが好ましい。
【0061】
(ボールペン)
また、ボールペンの100mあたりのインキ消費量は、20~70mgであることが好ましい。これは、100mあたりのインキ消費量が、20mg未満だと、濃い筆跡や、良好な書き味が得られにくく、100mあたりのインキ消費量が70mgを越えると、ボールとチップ先端の間隙よりインキ漏れ抑制に影響が出やすく、さらに書き出し性能、泣きボテも発生しやすいためである。より考慮すれば、20~60mgであることが好ましい。
特に、ボール直径を0.5mm以下とした比較的小さいボール径とすると、インキ消費量が少なくなりやすく、書き味、カスレなどの筆記性にも影響しやすいため、20~50mgが好ましく、より考慮すれば、20~45mgが好ましい。
また、ボール直径を0.5mm以下とした場合は、より濃い筆跡や、書き味、インキ漏れ抑制を向上するにはインキ消費量を設定するだけではなく、ボール径との関係も考慮すると効果的である。具体的には、油性ボールペンの100mあたりのインキ消費量(mg)に対するボール径(mm)の比については(ボール径:インキ消費量)、1:40~1:140の関係とし、従来とは異なる関係とすることで、より濃い筆跡や、書き味、インキ漏れ抑制が得られやすいため、好ましく、さらに考慮すれば、1:50~1:130であることが好ましく、さらに1:60~1:120であることが好まし。
なお、インキ消費量については、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度70°、筆記荷重200gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。
【0062】
本発明のように、メチル分岐型脂肪酸、リン酸エステルを含んでなる油性ボールペン用インキ組成物とすることで、ボール座の摩耗を抑制することができるため、筆記初期~筆記終了まで、インキ消費量が安定するため、書き味や、筆跡にカスレ出にくく、濃い筆跡である良好な筆記性能を安定的に得られやすいため、好ましい。具体的には、初期0~100m時点のインキ消費量Emgと、インキ終了前100mのインキ消費量Fmgとしたときに、初期0~100m時点のインキ消費量Emgに対する、インキ終了前100mのインキ消費量Fmgの比については(E:F)、1:0.7~1:1.3であると、書き味や、筆跡にカスレが出にくく、良好な筆記性能を安定的に得られやすいため好ましく、より考慮すれば、1:0.8~1:1.2であることが好ましく、1:0.9~1:1.1であることが好ましい。特に、ボール直径を0.5mm以下とした場合は、より効果的であり好ましい。
【0063】
(ボールペンチップ)
ボールペンチップについては、ボールとチップ本体との間の潤滑性を保ち、ボール座の摩耗抑制をして、筆跡カスレの抑制と、書き味を向上すること、ボール抱持室の底壁19に、略円弧面状のボール座19aを設けることが好ましい。
【0064】
また、チップ先端部の内壁に、略円弧面状のシール面14cを形成するとともに、前記チップ先端部の内壁に、略円弧面状のシール面を形成するとともに前記チップ先端部の内壁に、略円弧面状のシール面を形成するとともに前記ボール抱持室の底壁に、略円弧面状のボール座を設け、チップ先端部が、70~110°である傾斜角による第1のかしめ部14aを有することが好ましく、当該第1のかしめ部よりも前方に、100~140°である傾斜角の第2のかしめ部14bを具備してなることが好ましい。これは、ボールとチップ先端縁の間にインキを溜める空間を確保することで、インキ消費量を確保しやすくすることで、インキ出渋りを抑制し、濃い筆跡、書き味、ボール座の摩耗抑制を良好としやすく、さらにボール保持力を高めることができるためで、より考慮すれば、第1のかしめ部の傾斜角(α)は、80~100°であることが好ましく、第2のかしめ部の傾斜角(β)は、110~130°であることが好ましい。
第1のかしめ部14aの傾斜角を、第1の傾斜角αと称して説明する場合がある。また、第2のかしめ部14bの傾斜角を、第2の傾斜角βと称して説明する場合がある。これらの傾斜角は、かしめ角度と称される場合がある。
【0065】
また、ボール抱持室の底壁19の傾斜角(γ)については、100~140°であることが好ましく、110~130°であることが好ましい。さらに第2のかしめ部の傾斜角(β)と近似角であることが好ましく、特に、ボール抱持室の底壁の傾斜角(γ)と第2のかしめ部の傾斜角(β)の差が、±10°であることが好ましく、より好ましくは、±5°であることが好ましい。これは、ボール座19aとシール面14cを設けることでボールの回転をスムーズにするとともに、ボール座やシール面が摩耗してもボール抱持室の底壁や第2のかしめ部の内壁の角度違いによる摩耗の変化が発生し難い効果を奏する。また、インキ流通孔からボール抱持室へ流れ込むインキと、チップ先端部から紙面に転写されず、チップ先端部からボール抱持室へ流れ込むインキ(インキリターン)とが、ボール抱持室内でのインキの流れが安定することが考えられ、ボール座やシール面が摩耗しても安定したインキ流出量を得ることができる効果も奏し、本発明の効果が得られやすい。
底壁19の傾斜角(γ)は、
図3に示すように、ボールペンチップ11の先端方向に沿った断面における、ボール先端部の外周方向に沿った底壁19の角度である。
【0066】
また、ボール座19a及びシール面14cを形成するとき、ボール抱持室の底壁及び第2のかしめ部の内壁の近似角の壁面にボールを転写するため、転写後にスプリングバックにて曲率が変化しても、得られる転写面の曲率が近似しており、ボールの偏りを抑制することができ、ボールの回転によるボール座及びチップ先端部のシール面の偏摩耗を抑制することもでき、安定したボールの回転と安定したインキ流出を得ることができる。
【0067】
また、本発明で用いるボールペンチップのボール表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1~12nmとすること好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.1nm未満だと、ボール表面に十分にインキが載りづらく、筆記時に濃い筆跡が得られづらく、筆跡に線とび、カスレが発生しやすく、算術平均粗さ(Ra)が12nmを越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きいため、書き味が劣りやすく、さらに、筆跡にカスレ、線とび、線ムラなどの筆記性能に影響が出やすくなるためである。より考慮すれば、前記算術平均粗さ(Ra)が0.1~10nmが好ましく、より好ましくは、0.5~5nmである。なお、表面粗さの測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。
【0068】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。
【0069】
また、ボ-ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABSなどの樹脂材が挙げられるが、ボール座の摩耗、経時安定性を考慮するとステンレス製のチップ本体とすることが好ましい。
【0070】
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量が、3~30μmとするのが好ましい。これは、3μm未満であると、濃い筆跡や良好な書き味が得られづらくなり、30μmを越えると、インキ垂れ下がり性能に影響が出やすくなるためで、より考慮すれば、10~25μmとするのが好ましい。特に、ボール直径を0.5mm以下とした比較的小さいボール直径とすると、インキ消費量が少なくなりやすく、書き味にも影響しやすいため、ボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量が、12~25μmとするのが好ましく、より考慮すれば、14~25μmとするのが好ましい。ボール直径を0.4mm以下とした場合でも、効果的であるため、好ましく、さらに0.3mm以下とした場合でも効果的で、好ましい。
【0071】
また、インキ漏れ抑制をするには、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングなどの弾発部材により直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましいが、書き味を良好に保ちやすくするには、前記弾発部材については、弾発部材の押圧荷重を30gf以下に設定することが好ましい、 特に、ボール直径を0.5mm以下とした場合で、局部的にボール座間に負荷が掛かった場合でも、より高い潤滑性を保ち、書き味を良好に保ちやすくするには、弾発部材の押圧荷重を20gfに設定することが好ましく、さらに15gf以下が好ましい。また、インキ漏れ抑制、インキ追従性を向上しやすいことを考慮すれば、弾発部材の押圧荷重を3gf以上が好ましく、5gf以上が好ましい。
【0072】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、有機溶剤に顔料と顔料分散剤を添加し分散機で分散させた後、顔料分散体、染料、有機溶剤、メチル分岐型脂肪酸、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、リン酸エステル、有機アミン、界面活性剤、脂肪酸エステル、曳糸性付与樹脂を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて油性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
【0073】
実施例1
着色剤(酸性染料と塩基性染料との造塩染料) 10.0質量%
着色剤(塩基性染料と有機酸との造塩染料) 5.0質量%
顔料分散体(顔料分20%、ジケトピロロピロール系顔料) 15.0質量%
メチル分岐型脂肪酸(メチル分岐型オクタデカン酸(炭素数:18) 2.0質量%
ClH2l+1O-C2H4OまたはCmH2m+1Oを有するリン酸エステル(化1:l=4として、n=1とn=2の混合物) 2.0質量%
アルコール溶剤(ベンジルアルコール) 25.0質量%
グリコールエーテル溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル)19.5質量%
界面活性剤(リン酸エステル系界面活性剤) 2.0質量%
有機アミン 2.0質量%
脂肪酸エステル(酸価:0.1mgKOH/g、水酸基6価) 2.0質量%
ポリビニルブリラール樹脂(水酸基量:36mol%) 5.0質量%
ケトン樹脂(芳香環を有するケトン樹脂) 10.0質量%
曳糸性付与樹脂(ポリビニルピロリドン樹脂) 0.5質量%
【0074】
実施例2~26
表に示すように、各成分、チップ仕様を変更した以外は、実施例1と同様な手順でインキ配合し、実施例2~26の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
尚、20℃の環境下、剪断速度500sec-1において、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して、実施例1、実施例2、実施例9、実施例14、実施例18、実施例25、実施例26のインキ粘度を測定したところ、以下のような結果となった。
実施例1、実施例2:インキ粘度=4500mPa・s
実施例9 :インキ粘度=3700mPa・s
実施例14:インキ粘度=2800mPa・s
実施例18:インキ粘度=3500mPa・s
実施例24:インキ粘度=5900mPa・s
実施例25:インキ粘度=7100mPa・s
実施例26:インキ粘度=1500mPa・s
【0075】
比較例1~3
表に示すように、各成分、チップ仕様を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1~3の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0076】
試験および評価
実施例1~26および比較例1~3で作製した筆記具用油性インキ組成物を、インキ収容筒(ポリプロピレン製)の先端に、前記ボールを弾発部材(コイルスプリングの押圧荷重:8gf/mm)によりチップ先端縁の内壁に押圧したボールペンチップのボール(φ0.3mm)を回転自在に抱時したボールペンチップ(ボールの縦軸方向の移動量:18μm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)2nm)、第1のかしめ部の傾斜角α:90°、第2のかしめ部の傾斜角β:120°、ボール抱持室の底壁の傾斜角γ:120°)を装着するとともに、インキ収容筒内に、実施例1の筆記具用油性インキ組成物(0.3g)を直に収容してボールペンレフィルを(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペンに配設して、油性ボールペンを作製し筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
実施例1、実施例2、実施例9、実施例14の初期100mあたりのインキ消費量は、油性ボールペンで、らせん筆記試験を行ったところ、それぞれ、30mg/100m、27mg/100m、25mg/100m、40mg/100mであった。
実施例1、実施例2、実施例9、実施例14の油性ボールペンの初期100mあたりのインキ消費量(mg)に対するボール直径(mm)の比については(ボール直径:インキ消費量)、
それぞれ、実施例1 1:100、実施例2 1:90、実施例9 1:83、実施例14 1:80 であった。
なお、実施例1、実施例2、実施例9、実施例14の初期0~100m時点のインキ消費量Emgと、インキ終了前100mのインキ消費量Fmgとしたときに、E:Fについは、
それぞれ 実施例1 30:33=1:1.1、実施例2 27:25=1:0.93、実施例9 25:27=1:1.08で、実施例14 40:42=1:1.05 であった。
【0077】
次に筆記具(ボールペン)の実施例を、図面に示して本発明を説明する。
実施例
図1~
図3に示すように、本実施の第一の形態(実施例1)のボールペン1は、前軸2と後軸3とを着脱自在に螺着した外筒本体内に、ボールペンレフィル4をコイルスプリング5によって後方に付勢して収納してあり、後外筒3内に具備した回転カム6による出没機構によって、ノック部材7を押圧することで、ボールペンレフィル4のペン先となるボールペンチップ11の前端部を前軸2の前端開口部2aから出没可能とした出没式のボールペン1としてある。尚、後軸3には、クリップ8を配設し、前軸2の把持には、オレフィン系の熱可塑性エラストマーからなるグリップ9を装着してある。
【0078】
ボールペンレフィル4を出没させるための出没機構として、後軸3にボールペンレフィル4のボールペンチップ11の出没切替のための回転カム6と当該回転カム6に係合するカム溝(図示せず)を有するカム機構が設けられている。ボールペンレフィル4のボールペンチップ11が前軸2内に没入した状態でノック部材7が押圧操作(ノック操作)されると、回転カム6がカム溝に沿って摺動し、ボールペンレフィル4のボールペンチップ11が前軸2の開口部2cから前方へ突出され、更に、カム機構の作用によって回転カム6が回転されることによって、ボールペンレフィル4の軸方向後方への相対移動が制限され、押圧操作の終了後もこの突出状態が維持されるようになっている。また、この突出状態で再度ノック部材7が押圧操作(ノック操作)されると、カム機構の作用によってボールペンレフィル4の軸方向後方への相対移動が許容され、コイルスプリング5の付勢力によってボールペンレフィル4及びノック部材7が軸方向後方に押し戻されて初期状態に復帰されるようになっている。
【0079】
ボールペンレフィル4について詳述すると、ボールペンレフィル4は、インキ収容筒22の先端部に、チップホルダー23を介してステンレス鋼線材からなるボールペンチップ11を装着してあり、インキ収容筒22の後端部には尾栓24を装着してある。
【0080】
ボールペンチップ11は、チップ本体12に、ボール抱持室15と、ボール抱持室15の中央にインキ流通孔16と、このインキ流通孔16に連通する放射状に延び、チップ後部孔18に達しないインキ流通溝17を有するとともに、ボール抱持室15の底壁19に、φ0.3mmのタングステンカーバイド製のボール20を載置し、チップ先端部13を内側にかしめことにより、ボール20の一部がチップ先端部13より突出するように回転自在に抱持してある。チップ先端部13には、第1のかしめ部14aと第2のかしめ部14bとの2段のかしめ部14が形成されている。
【0081】
また、ボールペンチップ11は、φ2.3mm、硬度が230Hv~280Hvのステンレス鋼線材を所望の長さに切断し、ボール抱持室15、インキ流通溝17、インキ流通孔16、チップ後部孔18を作製後、ボール抱持室14の底壁19にボール20を載置し、ボール抱持室14の底壁19にボール座19a、チップ先端部13の内壁(第2のかしめ部14bの内壁)に、ボール20と略同形のシール面14cを形成してある。
【0082】
また、ボール20が、底壁19に載置している状態のチップ先端より臨出するボール出Hは、ボール径の30%、第1の傾斜角度(かしめ角度)αは90度、第2の傾斜角度(かしめ角度)βは120度、底壁19の傾斜角γは120度、チップ先端部13から後方の角度δは30度、ボールの縦方向のクリアランスが18μmとしてある。また、図示はしていないがボール20の後方には、コイルスプリング21を配設してあり、この押圧力によって、ボール20をチップ先端部13の内壁のシール面14c側に押圧してある。尚、ボール20を押圧するコイルスプリング21の押圧力は8gfとしてあり、ボール保持力は、300gfであった。
【0083】
このボールペン1を筆記すると、ボール20の回転と、筆圧によって、前記した縦方向のクリアランス分、ボール20が底壁19側に移動して、チップ先端部13の内壁とボール20に隙間を生じ、インキを吐出して筆記することができる。
【0084】
耐摩耗試験(ボール座の摩耗試験):荷重100gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が5μm未満のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が5μm以上、10μm未満のもの ・・・○
ボール座の摩耗が10μm以上、20μm未満であるが、筆記可能であるもの ・・・△
ボール座の摩耗がひどく、筆記不良になってしまうのもの ・・・×
【0085】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0086】
書き出し性能試験:手書き筆記した後、筆記先端部(チップ先端部)を出したまま20、65%RHの環境下に30分放置し、その後、走行試験で下記筆記条件にて筆記し、書き出しにおける筆跡カスレの長さを測定した。
<筆記条件>筆記荷重70gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、走行試験機にて直線書きを行い評価した。
筆跡カスレの長さが、10mm未満であるもの ・・・◎
筆跡カスレの長さが、10mm以上、20mm未満であるもの ・・・○
筆跡カスレの長さが、20mm以上、40mm未満であるもの ・・・△
筆跡カスレの長さが、40mm以上であるもの ・・・×
【0087】
インキ経時試験:チップ本体内のインキを顕微鏡観察した。
析出物がなく、良好のもの ・・・◎
析出物が微少に発生したもの ・・・○
析出物が発生したが、実用上問題のないもの ・・・△
析出物が発生し、カスレや筆記不良などの原因になるもの ・・・×
【0088】
実施例1~26では、耐摩耗試験(ボール座の摩耗試験)、書き味、書き出し性能試験、インキ経時試験ともに良好な性能が得られた。
【0089】
比較例1~3では、メチル分岐型脂肪酸を用いなかったため、耐摩耗試験(ボール座の摩耗試験)において、ボール座の摩耗がひどく筆跡にカスレが発生し、筆記不良になるものがあり、書き味が劣ってしまった。さらに比較例1~3では、書き出し性能、インキ経時試験も劣っていた。
【0090】
また、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具を用いた場合では、書き出し性能が重要な性能の1つであるため、少なくとも本発明のようなインキ組成物を用いると効果的である。
【0091】
また、本実施例では、インキ収容筒内に筆記具用油性インキ組成物を収容したボールペンレフィルを軸筒内に配設した油性ボールペンを例示したが、本発明の筆記具は、軸筒自体をインキ収容筒とし、軸筒内に、筆記具用油性インキ組成物を直に収容した直詰め式のボールペン、マーキングペン、サインペンとした筆記具であっても良く、インキ収容筒内に筆記具用油性インキ組成物を収容したもの(ボールペンレフィル)をそのままボールペンとして使用した構造であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は筆記具用油性インキ組成物として利用でき、さらに詳細としては、該筆記具用油性インキ組成物を充填した、キャップ式、ノック式等の油性ボールペン、マーキングペン、サインペンとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1…ボールペン
2…前軸、2a…開口部
3…後軸(軸筒本体)
4…ボールペンレフィル
5…コイルスプリング
6…回転カム
7…ノック部
8…クリップ
9…グリップ
11…ボールペンチップ
12…チップ本体
13…チップ先端部
14…かしめ部、14a…第1のかしめ部、14b…第2のかしめ部、14c…シール面
15…ボール抱持室
16…インキ流通孔
17…インキ流通溝
18…チップ後部孔
19…底壁、19a…ボール座
20…ボール
21…コイルスプリング
22…インキ収容筒
23…チップホルダー
24…尾栓