(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041998
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】抗ウイルス性物品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/46 20060101AFI20220304BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20220304BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20220304BHJP
D06C 11/00 20060101ALI20220304BHJP
A01N 33/02 20060101ALI20220304BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220304BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
D06M13/46
D06M15/263
D06M15/55
D06C11/00 Z
A01N33/02
A01P1/00
A01N25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141193
(22)【出願日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020145265
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】511050974
【氏名又は名称】株式会社トラスト化学
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】川上 哲洋
【テーマコード(参考)】
3B154
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
3B154AB19
3B154AB27
3B154BA25
3B154BB58
3B154BD12
3B154DA28
4H011AA04
4H011BB04
4H011DA04
4L033AA02
4L033AA07
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA85
4L033CA18
4L033CA45
(57)【要約】
【課題】抗ウイルス性の耐久性に優れた抗ウイルス性物品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】抗ウイルス性物品は、基材と、基材の表面を被覆する被覆層とを備える。被覆層は、樹脂と、第四級アンモニウム塩とを含有する。第四級アンモニウム塩は、被覆層の表面に部分的に露出している。
抗ウイルス性物品の製造方法は、基材の表面に樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被膜層を形成する第1工程と、第1工程の後に実行され、被覆層の表面の樹脂を研磨又は溶解によって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に部分的に露出させる第2工程と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面を被覆する被覆層とを備え、
前記被覆層は、樹脂と、第四級アンモニウム塩とを含有し、
前記第四級アンモニウム塩は、前記被膜層の表面に部分的に露出している
ことを特徴とする抗ウイルス性物品。
【請求項2】
前記基材が、繊維集合体であり、
前記樹脂が、熱硬化性樹脂である
ことを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性物品。
【請求項3】
前記繊維集合体が、撚糸、不織布、織布又は編物を含むことを特徴とする請求項2に記載の抗ウイルス性物品。
【請求項4】
前記繊維集合体が、綿繊維、麻繊維、ウール繊維、シルク繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維及びカーボン繊維からなる群より選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の抗ウイルス性物品。
【請求項5】
前記繊維集合体が、綿繊維とポリエステル繊維と含むことを特徴とする請求項2~4のいずれか1つの項に記載の抗ウイルス性物品。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂が、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びユリア樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項2~5のいずれか1つの項に記載の抗ウイルス性物品。
【請求項7】
前記繊維集合体に対する前記第四級アンモニウム塩の含有量が、0.5~3.0%o.w.f.(On the weight of fiber)であることを特徴とする請求項2~6のいずれか1つの項に記載の抗ウイルス性物品。
【請求項8】
前記第四級アンモニウム塩は、前記被膜層中に分散した状態で存在していることを特徴とする請求項1~7のいずれか1つの項に記載の抗ウイルス性物品。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つの項に記載の抗ウイルス性物品の製造方法であって、
基材の表面に樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被膜層を形成する第1工程と、
第1工程の後に実行され、前記被覆層の表面の前記樹脂を研磨又は溶解によって除去し、前記第四級アンモニウム塩を前記被覆層の表面に部分的に露出させる第2工程と、を有する
ことを特徴とする抗ウイルス性物品の製造方法。
【請求項10】
前記基材が、繊維集合体であり、
前記樹脂が、熱硬化性樹脂であり、
前記第2工程における前記樹脂の除去が前記樹脂の研磨による除去により行われる
ことを特徴とする請求項9に記載の抗ウイルス性物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性物品及びその製造方法に係り、更に詳細には、抗ウイルス性の耐久性に優れた抗ウイルス性物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第四級アンモニウム塩の一部がエンベロープを持つウイルスに対する抗ウイルス剤として利用できることが知られている。このような第四級アンモニウム塩を物品の表面に固定化する方法として、シランカップリング剤を結着材として利用した抗ウイルス剤固定化方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような抗ウイルス剤固定化方法を利用して製造した抗ウイルス性物品を適用したマスクにあっては、洗濯して再利用するマスクにおける抗ウイルス性の洗濯耐久性が50回程度であり、このようなマスクにおける要求性能の向上に対して抗ウイルス性の耐久性が十分ではないという問題点があった。
【0005】
一方で、本発明者は、抗ウイルス性の耐久性を向上させるために、シランカップリング剤に替えて熱硬化性樹脂を用いて第四級アンモニウム塩を繊維集合体の表面に結着した。その結果、予想に反して物品が抗ウイルス性を示さなくなってしまうという技術知見を得た。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題や技術知見に鑑みてなされたものであって、抗ウイルス性の耐久性に優れた抗ウイルス性物品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、基材の表面に配置され、樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被覆層の表面に第四級アンモニウム塩を部分的に露出させることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の抗ウイルス性物品は、基材と、基材の表面を被覆する被覆層とを備える。被覆層は、樹脂と、第四級アンモニウム塩とを含有する。第四級アンモニウム塩は、被覆層の表面に部分的に露出している。
【0009】
また、本発明の抗ウイルス性物品の製造方法は、上記本発明の抗ウイルス性物品の製造方法であって、次の第1工程及び第2工程を有する。第1工程は、基材の表面に樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被覆層を形成する工程である。第2工程は、第1工程の後に実行され、被覆層の表面の樹脂を研磨又は溶解によって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に部分的に露出させる工程である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材の表面に配置され、樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被覆層の表面に第四級アンモニウム塩を部分的に露出させることとしたため、抗ウイルス性の耐久性に優れた抗ウイルス性物品及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の抗ウイルス性物品の第1の実施形態の構成を示す概略断面図である。
【
図2】
図1に示した被覆層のII線で囲んだ部分を拡大して示す概略断面図である。
【
図3】本発明の抗ウイルス性物品の第2の実施形態の構成を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の抗ウイルス性物品の製造方法の第1の実施形態における研磨の要領を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の抗ウイルス性物品及びその製造方法の若干の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
[抗ウイルス性物品]
まず、本発明の抗ウイルス性物品について説明する。
図1は、本発明の抗ウイルス性物品の第1の実施形態の構成を示す概略断面図である。また、
図2は、
図1に示した被覆層のII線で囲んだ部分を拡大して示す概略断面図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の抗ウイルス性物品1は、基材3と、基材3の表面を被覆する被覆層5とを備えている。なお、図示例では、基材3としてゴムを適用している。さらに、
図2に示すように、被覆層5は、樹脂7と、樹脂7に保持された第四級アンモニウム塩9とを含有している。さらに、第四級アンモニウム塩9は、被覆層5の表面に部分的に露出している。
【0015】
本実施形態の抗ウイルス性物品は、基材の表面に配置され、樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被覆層の表面に第四級アンモニウム塩が部分的に露出しているので、抗ウイルス性の耐久性に優れると考えられる。
【0016】
特に、このような抗ウイルス性物品を適用した人工皮革は、抗ウイルス性の洗濯耐久性に優れると考えられる。さらに、本実施形態の抗ウイルス性物品においては、被膜層の表面に基材が部分的に露出していることが好ましい。
【0017】
また、このような抗ウイルス性物品は、形態安定性、消臭性及び抗菌性の少なくとも1つを更に備えることができる場合があるという副次的な利点がある。
【0018】
以下、各構成要素について更に詳細に説明する。
【0019】
基材3は、例えば、壁紙、ゴム、塗膜、フィルム、テープ、樹脂、紙材、繊維、繊維集合体を含むことが好ましい。その中でも、ゴム、塗膜、フィルム及びテープにおいては、これらが被膜層の表面に露出していることにより、被膜層の樹脂により発生することが阻害されていたこれらの帯電、例えば、マイナスイオンの発生が容易になり、ウイルスを吸着する能力が大きく増大すると考えられる。また、繊維集合体においても、これが被膜層の表面に露出していることにより、被膜層の樹脂により発生することが阻害されていた繊維集合体における帯電、例えば、マイナスイオンの発生が容易になり、ウイルスを吸着する能力が大きく増大すると考えられる。
【0020】
壁紙としては、例えば、建築物に用いられる樹脂壁紙、和紙・紙製壁紙、珪藻土壁紙などを挙げることができる。ゴムとしては、例えば、建築物の建具や輸送用機械器具に用いられるゴム、台所用品、事務機器、家具等に用いられるゴムなどを挙げることができる。塗膜としては、例えば、建築物の建具や輸送用機械器具として用いられる製品に形成される塗膜、台所用品、事務機器、家具等に形成される塗膜などを挙げることができる。フィルムとしては、例えば、建築物の建具や輸送用機械器具に用いられるフィルム、台所用品、事務機器、家具等に用いられるフィルムなどを挙げることができる。テープとしては、例えば、台所用品、事務機器、家具等に用いられるテープなどを挙げることができる。樹脂としては、例えば、建築物の建具や輸送用機械器具に用いられる樹脂、台所用品、事務機器、家具等に用いられる樹脂などを挙げることができる。紙材としては、例えば、新聞巻取紙、印刷・情報用紙、包装用紙、衛生用紙、雑種紙などの紙、段ボール原紙、紙器用板紙、建材原紙、紙管原紙、ワンプ、その他板紙などの板紙を挙げることができる。繊維としては、例えば、カーボン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などを挙げることができる。これらの繊維は繊維集合体としてもよい。繊維集合体は、例えば、撚糸、不織布、織布、編物を含むことが好ましい。
【0021】
その中でも、抗ウイルス性物品の適用例である洗濯して再利用するマスクに適用し易いという観点からは、繊維集合体として織布を使用することがより好ましい。
【0022】
特に限定されないが、繊維集合体の素材としては、例えば、合成繊維、半合成繊維、天然繊維等が挙げられる。
【0023】
繊維集合体は、例えば、綿繊維、麻繊維、ウール繊維、シルク繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、カーボン繊維を含むことが好ましい。さらに、これらの2種以上を任意の組合せで使用することもできる。
【0024】
特に限定されないが、合成繊維の中でも、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリヘキサメチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維、ナイロン6繊維、ナイロン6,6繊維などのポリアミド繊維、ポリアクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリビニルアルコール繊維を含むことが好ましい。
【0025】
特に限定されないが、半合成繊維の中でも、例えば、アセテート繊維、レーヨン繊維を含むことが好ましい。
【0026】
特に限定されないが、天然繊維の中でも、ウール繊維、シルク繊維、綿繊維、麻を含むことが好ましい。
【0027】
その中でも、2種類の繊維の間で静電気が起こり易く、ウイルスを吸着し易くなるという観点からは、繊維集合体として綿繊維とポリエステル繊維とを組合せた織布を使用することがより好ましい。
【0028】
第四級アンモニウム塩を結着する結着材としての樹脂7としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、2液混合系の常温硬化性樹脂のいずれも用いることができるが、熱硬化性樹脂を用いることがより好ましい。熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ブタジエン樹脂ラテックス、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリテーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、オレフィン・ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂を含むことが好ましい。また、これらは1種を単独で又は2種以上を任意の組合せで使用することができる。熱硬化性樹脂は、例えば、アルキド樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ユリア樹脂を含むことが好ましい。さらに、これらも1種を単独で又は2種以上を任意の組合せで使用することができる。
【0029】
その中でも、抗ウイルス性物品の耐水性、耐候性を向上させ得るという観点からは、熱硬化性樹脂としてメラミン樹脂を使用することがより好ましい。
【0030】
第四級アンモニウム塩9としては、エンベロープを持つウイルスに対して抗ウイルス性を示す従来公知の第四級アンモニウム塩を使用することができる。
【0031】
第四級アンモニウム塩は、界面活性剤の一種として知られている。また、陽イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤の混合溶液は、一般の界面活性剤溶液と比べて希薄な系においても様々な分子集合体を形成することが知られている。特に、このような分子集合体として注目されているベシクルは、水中で親水性と疎水性をもち合わせる両親媒性分子が隙間なく並び、脂質二重層を形成した袋状の自己集合体である。なお、このような分子集合体を形成する際には、これらの2種の界面活性剤を混合する際のモル比が等モル付近でないことが好ましいことも知られている。
【0032】
例えば、陰イオン性界面活性剤であるアニオン系抗菌加工剤を使用して洗濯耐久性を有する抗ウイルス機能繊維を製造する場合、洗濯耐久性を高めるために、結着材を加える必要がある。そして、耐久性をより高めるためには、結着材としての樹脂の使用量や樹脂における架橋剤の添加量を増やす必要がある。しかしながら、これにより、繊維製品の柔軟な風合いが損なわれたり、コストが増加したりすることがある。
【0033】
一方、例えば、陽イオン性界面活性剤であるカチオン系抗菌加工剤(ニッカノンRB)と陰イオン性界面活性剤であるアニオン系抗菌加工剤の2種を使用して洗濯耐久性を有する抗ウイルス機能繊維を製造する場合、これらの分子集合体と結着材との結びつきが強固なものとなる。ここで、ニッカノンRBは第四級アンモニウム塩を含んでいる。そのため、基材に第四級アンモニウム塩を結着させるための結着材である樹脂の使用量を低減できる。その結果、繊維製品の柔軟な風合いを維持できると共にコストを低減できる。
【0034】
また、陽イオン性界面活性剤であるカチオン系抗菌加工剤(ニッカノンRB)に、陰イオン性界面活性剤であるアニオン系抗菌加工剤を希釈したものを添加して混合し、次いで、この混合物に結着材を添加し、得られた第四級アンモニウム塩を含む結着材混合物を繊維に塗装すると、第四級アンモニウム塩を繊維に強固に結着することができる。このとき、用いる結着材は1種でもよいが、複数種の結着材を用いると第四級アンモニウム塩を繊維により強固に結着することができる。特に限定されないが、結着材として機能する樹脂としてアクリル系エマルションとノニオン系架橋剤とを組み合わせることが好ましい。なお、「アクリル系エマルション」とは、微粒子状のアクリルポリマーを含む乳濁液のことである。典型例としては、組成が自己架橋型アクリル酸エステル共重合エマルションであり、外観が乳白色エマルション(乳白色の液体)であるものを挙げることができる。また、陽イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤とを等モル混合からずらしたモル比で混合することが好ましい。
【0035】
これまで、ポリエステルやナイロンなどの繊維に対して、結着材を用いて第四級アンモニウム塩を結着し、洗濯耐久性を有する抗ウイルス機能繊維とすることは困難であるとされてきたが、上述のように、陽イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤と結着材を混合して用いることにより、ポリエステルやナイロンなどの繊維を抗ウイルス機能繊維とすることができる。
【0036】
特に限定されないが、例えば、抗ウイルス性物品の抗ウイルス性の耐久性をより向上させ得るという観点からは、第四級アンモニウム塩は、被膜層中に分散した状態で存在していることが好ましい。
【0037】
特に限定されないが、例えば、繊維集合体に対する第四級アンモニウム塩の含有量が0.5~3.0%o.w.f.(On the weight of fiber)であることが好ましい。繊維集合体に対する第四級アンモニウム塩の含有量が0.5%o.w.f.未満であると、抗ウイルス性物品の洗濯耐久性が低下してしまうことがある。一方、繊維集合体に対する第四級アンモニウム塩の含有量が3.0%o.w.f.を超えると、加工後の繊維製品の柔軟な風合いが損なわれることがある。
【0038】
本発明の抗ウイルス性物品が適用されるゴム製品としては、例えば、玩具、遊具、スポーツ用品、コンドーム等が挙げられる。
【0039】
本発明の抗ウイルス性物品が適用される塗装製品としては、例えば、水性塗料、油性塗料、アクリル塗料、家具・床用塗料等が塗装された物品等が挙げられる。
【0040】
本発明の抗ウイルス性物品が適用されるフィルム製品としては、例えば、キーボード用保護フィルム、エレベーターボタン用保護フィルム、机用保護フィルム、スマートフォンやタブレットコンピュータのタッチパネルフィルム、医療機器や公共施設におけるタッチパネルフィルム、各種デジタルサイネージのパネルフィルム、フェイスシールド、ウィンドウフィルム、自動車用車載ディスプレイタッチパネルフィルム等が挙げられる。
【0041】
本発明の抗ウイルス性物品が適用されるテープ製品としては、例えば、体育館ラインテープ、医療用保護テープ、ビル・オフィス、店舗・商業施設、学校・教育施設、病院・医療施設、介護施設、運動・遊技施設等における接触感染対策テープ(ドアノブ、階段手すり、洗面所手すり、トイレ手すり等)等が挙げられる。
【0042】
本発明の抗ウイルス性物品が適用される樹脂製品としては、例えば、玩具、遊具、スポーツ用品等が挙げられる。
【0043】
本発明の抗ウイルス性物品が適用される紙材製品としては、例えば、段ボール、雑誌、新聞紙等が挙げられる。
【0044】
本発明の抗ウイルス性物品が適用される繊維としては、繊維強化プラスチックに適用される、例えば、カーボン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などを挙げることができる。
【0045】
本発明の抗ウイルス性物品が適用される繊維製品としては、例えば、衣料用品、介護用品、雑貨用品、インテリア用品、寝具用品等が挙げられる。
【0046】
衣料用品としては、例えば、外出着衣料、スポーツウェア、ホームウェア、リラックスウェア、パジャマ、寝間着、肌着、オフィスウェア、作業服、食品白衣、看護白衣、患者衣、介護衣、学生服、厨房衣等が挙げられる。
【0047】
介護用品としては、例えば、サポーター、コルセット、リハビリ用靴、肌着、おむつカバー、小物等が挙げられる。
【0048】
雑貨用品としては、例えば、エプロン、タオル、手袋、マフラー、靴下、帽子、靴、サンダル、鞄、傘等が挙げられる。
【0049】
インテリア用品としては、例えば、カーテン、絨毯、マット、こたつカバー、ソファーカバー、クッションカバー、ソファー用側生地、便座カバー、便座マット、テーブルクロス等が挙げられる。
【0050】
寝具用品としては、例えば、布団用側生地、布団用詰め綿、毛布、毛布用側生地、枕の充填材、シーツ、防水シーツ、布団カバー、枕カバー等が挙げられる。
【0051】
図3は、本発明の抗ウイルス性物品の第2の実施形態の構成を示す概略断面図である。
図3のII線で囲んだ部分を拡大して示す概略断面図は
図2と同様である。
【0052】
図3に示すように、本実施形態の抗ウイルス性物品1Aは、基材3と、基材3の表面を被覆する被覆層5とを備えている。なお、図示例においては、基材3として繊維集合体の一例である織布を適用している。さらに、
図2に示すように、被覆層5は、樹脂7と、樹脂7に保持された第四級アンモニウム塩9とを含有している。さらに、第四級アンモニウム塩9は、被覆層5の表面に部分的に露出している。なお、図示例においては、樹脂7として、熱硬化性樹脂を適用している。
【0053】
上述したように、本実施形態の抗ウイルス性物品は、繊維集合体の表面に配置され、熱硬化性樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被覆層の表面に第四級アンモニウム塩が部分的に露出しているので、抗ウイルス性の耐久性に優れると考えられる。
【0054】
特に、このような抗ウイルス性物品を適用したマスクは、抗ウイルス性の洗濯耐久性に優れると考えられる。さらに、本実施形態の抗ウイルス性物品においては、被膜層の表面に繊維集合体が部分的に露出していることが好ましい。上述したように、繊維集合体が被膜層の表面に露出していることにより、被膜層の熱硬化性樹脂により発生することが阻害されていた繊維集合体における帯電、例えば、マイナスイオンの発生が容易になり、ウイルスを吸着する能力が大きく増大すると考えられる。なお、各構成要素についての詳細な説明は上述したので重複する説明を省略する。
【0055】
[抗ウイルス性物品の製造方法]
次に、本発明の抗ウイルス性物品の製造方法について説明する。本発明の抗ウイルス性物品の製造方法は、上述した本発明の抗ウイルス性物品を製造する方法の一実施形態である。従って、本発明の抗ウイルス性物品は、本発明の抗ウイルス性物品の製造方法によって得られたものに限定されない。
【0056】
本発明の抗ウイルス性物品の製造方法の第1の実施形態は、次の第1工程及び第2工程を含む。
第1工程は、基材の表面に樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被膜層を形成する工程である。
第2工程は、第1工程の後に実行され、被覆層の表面の樹脂を研磨又は溶解によって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に部分的に露出させる工程である。
【0057】
図4は、本発明の抗ウイルス性物品の製造方法の第1の実施形態における研磨の要領を模式的に示す説明図である。図中(A)は研磨前の状態を示し、図中(B)は研磨後の状態を示す。
図4(A)及び(B)に示すように、第2工程においては、被覆層5の表面の被研磨部11の樹脂7を研磨によって除去し、第四級アンモニウム塩9を被覆層5の表面に部分的に露出させる。
【0058】
なお、図示しないが、本発明の抗ウイルス性物品の製造方法の第1の実施形態においては、溶解前の被膜層の表面の被溶解部(
図4中の被研磨部に相当)の樹脂を溶解によって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に部分的に露出させてもよい。
【0059】
本実施形態の抗ウイルス性物品の製造方法は、基材の表面に配置され、樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被覆層の表面に第四級アンモニウム塩を部分的に露出させることができるので、抗ウイルス性の耐久性が優れた抗ウイルス性物品を得ることができると考えられる。
【0060】
特に、このようにして得られた抗ウイルス性物品を適用したマスクは、抗ウイルス性の洗濯耐久性に優れると考えられる。
【0061】
また、このようにして得られた抗ウイルス性物品は、形態安定性、消臭性及び抗菌性の少なくとも1つを更に備えることができる場合があるという副次的な利点がある。
【0062】
以下、各工程について更に詳細に説明する。
【0063】
第1工程においては、例えば、まず、基材(好ましくは繊維集合体)に抗ウイルス剤としての第四級アンモニウム塩含有液を接触させ含浸させて、第四級アンモニウム塩含有液含有基材(好ましくは繊維集合体)を得、次いで、第四級アンモニウム塩含有液含有基材(好ましくは繊維集合体)を乾燥して、第四級アンモニウム塩含有基材(好ましくは繊維集合体)を得る。次に、第四級アンモニウム塩含有基材(好ましくは繊維集合体)に接着材としての樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料含有液を接触させ含浸させて、樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料含有液・第四級アンモニウム塩含有基材(好ましくは繊維集合体)を得、次いで、樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料含有液・第四級アンモニウム塩含有基材(好ましくは繊維集合体)を加熱して、基材(好ましくは繊維集合体)の表面に樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)と第四級アンモニウム塩とを含有する被膜層を形成することが好ましい。第四級アンモニウム塩を基材(好ましくは繊維集合体)に強固に接着することができるという観点からは、このような第1工程を実行することが好ましい。
【0064】
また、第1工程においては、例えば、基材(好ましくは繊維集合体)に第四級アンモニウム塩含有液及び樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料含有液をこの順序で接触させ含浸させて又は第四級アンモニウム塩含有液及び樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料含有液の混合液を接触させ含浸させて、第四級アンモニウム塩含有液・樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料含有液含有基材(好ましくは繊維集合体)を得、次いで、第四級アンモニウム塩含有液・樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料含有液含有基材(好ましくは繊維集合体)を加熱して、基材(好ましくは繊維集合体)の表面に樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)と第四級アンモニウム塩とを含有する被膜層を形成することが好ましい。第四級アンモニウム塩を被膜層の表面に露出させ易い、第四級アンモニウム塩を被膜層中に分散した状態で存在させ易いという観点からは、このような第1工程を実行することが好ましい。
【0065】
ここで、特に限定されないが、第四級アンモニウム塩、樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料に適用する溶媒は、第四級アンモニウム塩、樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料を溶解させる溶媒であることが好ましい。しかし、これに限定されるものではなく、エマルション状態になる溶媒を適用することもできる。さらに、特に限定されないが、第四級アンモニウム塩、樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料に適用する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールなどのアルコール類を挙げることができる。
【0066】
その中でも、第四級アンモニウム塩含有液や樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料含有液の粘度が高くなり難いという観点からは、第四級アンモニウム塩、樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)原料に適用する溶媒は、メタノール、エタノールが好ましく、メタノール、エタノールなどのアルコールと水との混合液も好ましい。
【0067】
また、被膜層を形成する際には、上述した接着材としての樹脂原料含有液の代わりに、例えば、基材に塗装する溶剤型ラッカー塗料、水系エマルション塗料、熱可塑性粉体塗料等の化学反応を伴わない乾燥・硬化により塗膜を形成する塗料、乾性油型アルキド塗料、不飽和ポリエステル塗料、紫外線硬化塗料、常乾型エポキシ塗料、常乾型ウレタン塗料、熱硬化性液状塗料、熱硬化型粉体塗料等の化学反応を伴う乾燥・硬化により塗膜を形成する塗料を用いることができる。例えば、このような塗料に予め四級アンモニウム塩を混合させておいてもよい。接着材や塗料に含まれる樹脂としては、上述した熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を挙げることができる。また、接着材や塗料は1液型であっても2液型であってもよい。接着材や塗料としては、それぞれ市販の接着材や塗料を用いることができる。
【0068】
特に限定されないが、基材が繊維集合体である場合、上述した乾燥における条件は90~150℃、30秒間~5分間程度であることが好ましい。乾燥温度が90℃未満であると、抗ウイルス性物品の洗濯耐久性が低下することがある。一方、乾燥温度が150℃を超えると、抗ウイルス剤である第四級アンモニウム塩の劣化が起こることがある。
【0069】
特に限定されないが、基材が繊維集合体である場合、上述した加熱における条件は120~200℃、30秒間~10分間程度であることが好ましい。このような加熱に際しては更に衣類へアイロンがけをする場合と同程度に加圧することが好ましく、例えばローラによって加圧をすることが好ましい。
【0070】
第2工程の一例においては、第1工程で得られた被覆層の表面の樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)を、乾燥状態で、砥石や紙やすりなどによる研磨によって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に露出させて、抗ウイルス性物品を得る。
【0071】
第2工程の他の一例においては、第1工程で得られた被覆層の表面の樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)を、水、次亜塩素酸水溶液などで被膜層を湿らせた湿潤状態で、砥石や紙やすりなどによる研磨、換言すれば水研ぎによって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に露出させて、抗ウイルス性物品を得る。
【0072】
第2工程の更に他の一例においては、第1工程で得られた被覆層の表面の樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)を、乾燥状態で、第1工程で得られた例えば別の被覆層の表面の樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)と擦り合わせることによる研磨によって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に露出させて、抗ウイルス性物品を得る。
【0073】
第2工程の更に他の一例においては、第1工程で得られた被覆層の表面の樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)を、水、次亜塩素酸水溶液などで被膜層を湿らせた湿潤状態で、第1工程で得られた例えば別の被覆層の表面の樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)と擦り合わせることによる研磨、換言すれば水研ぎによって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に露出させて、抗ウイルス性物品を得る。
【0074】
特に限定されないが、上述した研磨における条件は、1m2辺り5~50kgf程度の加圧力を付与しながら、砥石、紙やすり、別の被膜層の摺動速度が0.5~5m/s程度、擦り合わせ時間が0.5秒間~5分間程度の研磨をすることが好ましい。
【0075】
特に限定されないが、上述した研磨における被膜層の温度は、摩擦による発熱により被膜層が加熱されて被膜層の密着性が著しく低下しないように、被膜層に含まれる樹脂のガラス転移点温度以下とすることが好ましい。
【0076】
第1工程で得られた被覆層の表面の樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)を、乾燥状態で研磨によって除去するよりも、水、次亜塩素酸水溶液などで被膜層を湿らせた湿潤状態で研磨、換言すれば水研ぎによって除去する方が、基材(好ましくは繊維集合体)の形状や構造を維持することができ、抗ウイルス性の耐久性をより向上させ得るという利点がある。
【0077】
第1工程で得られた物品の被覆層の表面の樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)を、乾燥状態で研磨によって除去するよりも、水、次亜塩素酸水溶液などで被膜層を湿らせた湿潤状態で研磨、換言すれば水研ぎによって除去する方が、基材(好ましくは繊維集合体)の形状や構造を維持することができる。そして、繊維集合体が静電気の起こり易い2種類の繊維で形成されていた場合、2種類の繊維の間で静電気が起こり、ウイルスを吸着し易くなる形状や構造を維持することができる。その結果、抗ウイルス性の耐久性をより向上させ得るという利点がある。
【0078】
熱硬化性樹脂にはホルマリンが含まれていることがあるが、第1工程で得られた被覆層の表面の熱硬化性樹脂を、酸やアルカリ、特に、次亜塩素酸水溶液で被膜層を湿らせた状態で、砥石や紙やすりなどによる研磨、又は、第1工程で得られた例えば別の物品の被覆層の表面の熱硬化性樹脂と擦り合わせることによる研磨、換言すれば水研ぎによって除去することにより、ホルマリンを除去することができるという利点がある。
【0079】
上述した第2工程の例示の中では、第1工程で得られた被覆層の表面の熱硬化性樹脂を水、次亜塩素酸水溶液などで被膜層を湿らせた湿潤状態で、第1工程で得られた例えば別の物品の被覆層の表面の熱硬化性樹脂と擦り合わせることによる研磨、換言すれば水研ぎによって除去することが好ましい。
【0080】
また、第2工程の他の一例においては、第1工程で得られた被覆層の表面の樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)を、溶剤によって溶解し、次いで、溶解した部分を除去し、しかる後、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に露出させて、抗ウイルス性物品を得る。
【0081】
また、樹脂の溶解に用いる溶剤は、被膜層に含まれる樹脂の種類に応じて従来公知の溶剤から適宜選択することができる。
【0082】
特に限定されないが、上述した溶解における被膜層の温度は、溶解による反応熱により被膜層が加熱されて被膜層の密着性が著しく低下しないように、被膜層に含まれる樹脂のガラス転移点温度以下とすることが好ましい。
【実施例0083】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0084】
(実施例1)
繊維集合体(平織布、ポリエステル40%、綿60%)を抗ウイルス剤としての第四級アンモニウム塩及び接着材としての熱硬化性樹脂原料含有液を含む混合液(ニッカノンRB(日華化学株式会社製))に、繊維集合体に対して第四級アンモニウム塩を2.0%o.w.f.担持するように0.5秒間接触させ、第四級アンモニウム塩含有液・熱硬化性樹脂原料含有液含有繊維集合体を得、次いで、これをパッダーによって絞り率100%で絞り、その後、120℃で5分間加熱して、繊維集合体の表面に熱硬化性樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被膜層を形成した。以下、これを「物品1」という。
【0085】
しかる後、得られた物品1の被覆層の表面の熱硬化性樹脂を、次亜塩素酸水溶液で湿らせた湿潤状態で、別の被覆層の表面の熱硬化性樹脂と1m2辺り10kgfの加圧力を付加しながら、別の被膜層の摺動速度1m/sで1秒間擦り合わせることによる研磨、換言すれば水研ぎによって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に部分的に露出させて、本例の抗ウイルス性物品を得た。
【0086】
(実施例2)
繊維集合体(織布、ポリエステル40%、綿60%)を抗ウイルス剤としてのカチオン系第四級アンモニウム塩(ニッカノンRB(日華化学株式会社製))5質量部、アニオン系第四級アンモニウム塩5質量部、結着材としてのアクリル系エマルション5質量部、結着材助剤としてのノニオン系架橋剤2質量部及び水80質量部を含む抗ウイルス性加工液に、繊維集合体に対して第四級アンモニウム塩を2.0%o.w.f.担持するように0.5秒間接触させ、抗ウイルス性加工液含有繊維集合体を得、次いで、これをパッダーによって絞り率100%で絞り、その後、120℃で5分間加熱して、繊維集合体の表面に樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被膜層を形成した。以下、これを「物品2」という。
【0087】
しかる後、得られた物品2の被覆層の表面の樹脂を、次亜塩素酸水溶液で湿らせた湿潤状態で、別の被覆層の表面の熱硬化性樹脂と1m2辺り10kgfの加圧力を付加しながら、別の被膜層の摺動速度1m/sで1秒間擦り合わせることによる研磨、換言すれば水研ぎによって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に部分的に露出させて、本例の抗ウイルス性物品を得た。
【0088】
(比較例1)
実施例1において得られた物品1(未研磨品)を本例の物品とした。
【0089】
[性能評価]
(抗ウイルス性試験)
各例の抗ウイルス性物品及び物品を用いて、2014年度版ISO18184記載の方法に準じて評価した。試験対象ウイルスは次の2種である。
・A型インフルエンザウイルス(H3N2)(ATCC VR-1679)
・ネコカリシウイルス(F-9)(ATCC VR-782)
【0090】
(洗濯方法)
一般財団法人繊維評価技術協議会製品認証部発行の「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」(平成26年4月1日改訂版・文書番号JEC326)に従い、標準洗濯法(1995年度版JIS L0217 103法記載の方法)を用いて150回洗濯処理をし、吊り干し乾燥をした。
【0091】
本発明の範囲に属する実施例1及び実施例2の抗ウイルス性物品においては、未洗濯品であっても150回洗濯品であっても優れた抗ウイルス性を示すことが分かった。
また、本発明の抗ウイルス性物品が優れた抗ウイルス性を示すのは、被膜層の表面に第四級アンモニウム塩が露出したからだけでなく、被膜層表面の熱硬化性樹脂を研磨により除去することによって、被膜層の熱硬化性樹脂により発生することが阻害されていた繊維集合体におけるイオンの発生が容易になり、ウイルスを吸着する能力が大きく増大したからとも考えられる。
一方、本発明外の比較例1の物品においては、抗ウイルス性を示さないことが分かった。
【0092】
(実施例3)
繊維集合体(織布、ポリエステル40%、綿60%)を抗ウイルス剤としてのカチオン系第四級アンモニウム塩(ニッカノンRB(日華化学株式会社製))10質量部、結着材としてのアクリル系エマルション5質量部、結着材助剤としてのノニオン系架橋剤2質量部及び水80質量部を含む抗ウイルス性加工液に、繊維集合体に対して第四級アンモニウム塩を2.0%o.w.f.担持するように0.5秒間接触させ、抗ウイルス性加工液含有繊維集合体を得、次いで、これをパッダーによって絞り率100%で絞り、その後、120℃で5分間加熱して、繊維集合体の表面に樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被膜層を形成した。以下、これを「物品3」という。
【0093】
しかる後、得られた物品3の被覆層の表面の樹脂を、次亜塩素酸水溶液で湿らせた湿潤状態で、別の被覆層の表面の熱硬化性樹脂と1m2辺り10kgfの加圧力を付加しながら、別の被膜層の摺動速度1m/sで1秒間擦り合わせることによる研磨、換言すれば水研ぎによって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に部分的に露出させて、本例の抗ウイルス性物品を得た。
【0094】
(実施例4)
繊維集合体(織布、ポリエステル40%、綿60%)を抗ウイルス剤としてのカチオン系第四級アンモニウム塩(ニッカノンRB(日華化学株式会社製))2.5質量部、アニオン系第四級アンモニウム塩2.5質量部、結着材としてのアクリル系エマルション2.5質量部、結着材助剤としてのノニオン系架橋剤1質量部及び水80質量部を含む抗ウイルス性加工液に、実施例4と同様に0.5秒間接触させ、抗ウイルス性加工液含有繊維集合体を得、次いで、これをパッダーによって絞り率100%で絞り、その後、120℃で5分間加熱して、繊維集合体の表面に樹脂と第四級アンモニウム塩とを含有する被膜層を形成した。以下、これを「物品4」という。
【0095】
しかる後、得られた物品4の被覆層の表面の樹脂を、次亜塩素酸水溶液で湿らせた湿潤状態で、別の被覆層の表面の熱硬化性樹脂と1m2辺り10kgfの加圧力を付加しながら、別の被膜層の摺動速度1m/sで1秒間擦り合わせることによる研磨、換言すれば水研ぎによって除去し、第四級アンモニウム塩を被覆層の表面に部分的に露出させて、本例の抗ウイルス性物品を得た。
【0096】
(比較例2)
実施例4において得られた物品4(未研磨品)を本例の物品とした。
【0097】
[性能評価]
(抗ウイルス性試験)
各例の抗ウイルス性物品及び物品を用いて、繊維製品の抗ウイルス性試験方法(JIS L1922:2016 プラーク測定法)に準じて評価した。試験条件の一部と得られた結果を表1及び表2に示す。
【0098】
【0099】
【0100】
表1及び表2より、本発明の範囲に属する実施例3及び実施例4の抗ウイルス性物品においても優れた抗ウイルス性を示すことが分かった。さらに、実施例3及び実施例4の抗ウイルス性物品の結果から、結着材等の配合割合を50%少なくした実施例4においても優れた抗ウイルス性を示すことが分かった。つまり、ポリエステルなどの基材に第四級アンモニウム塩を結着させる際に、結着材である樹脂の使用量を低減できることが分かった。更に、樹脂の使用量を低減できるので、繊維製品の柔軟な風合いを維持できると共にコストを低減できることが分かった。
一方、本発明外の比較例2の物品においては、抗ウイルス性を示さないことが分かった。
【0101】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。