(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042038
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/36 20060101AFI20220307BHJP
F16C 33/54 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
F16C19/36
F16C33/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147202
(22)【出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】東穂 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中杤 直樹
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA53
3J701BA69
3J701CA08
3J701CA17
3J701FA32
3J701GA11
3J701GA51
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB23
3J701XB24
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】公転する環境下で使用されても、保持器の自転軸の傾きが抑制されて保持器の摩耗が生じ難い円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】保持器5の小径側環状部6と内輪2の小鍔部2bとの間のすきまである小径側すきまS1と、大径側環状部7と内輪2の大鍔部2cとの間のすきまである大径側すきまS2と、平均ころ径dと、ころ長さlと、外方部材角度αとで次式(1)により定まる無次元数Xを規定する。
【数1】
前記無次元数Xを、0.69<X<1.12の範囲とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両鍔付きの内輪と、前記内輪の転走面と対向する環状の転走面を有する外方部材と、これら内輪と外方部材との間に介在する複数の円すいころと、前記複数の円すいころを保持する保持器とを備え、前記保持器が、小径側環状部、大径側環状部、およびこれら小径側環状部と大径側環状部を繋ぐ円周方向複数箇所の柱部を有する内輪案内形式の円すいころ軸受であって、
前記保持器の前記小径側環状部と前記内輪の小鍔部との間のすきまである小径側すきまS1と、前記大径側環状部と前記内輪の大鍔部との間のすきまである大径側すきまS2と、平均ころ径dと、ころ長さlと、前記外方部材の転走面が傾斜する円すい開き角度である外方部材角度α(ただし、αは20°~40°)とで次式により定まる無次元数X、
【数1】
が、0.69<X<1.12
の範囲である円すいころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の円すいころ軸受において、前記保持器の前記大径側環状部が、前記柱部に対して内径側に屈曲して延びるフランジ状部を有し、このフランジ状部の前記柱部に対して成す屈曲角度が、前記柱部が軸受軸心に対して傾く角度である保持器角度を基準として90°±10°の範囲である円すいころ軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の円すいころ軸受において、前記保持器の前記大径側環状部が、前記柱部に対して円弧状の曲げ部分を介し内径側に屈曲して延びるフランジ状部を有し、前記曲げ部分の内径側表面の曲率半径である曲げ部分R寸法が、前記大径側環状部の前記柱部が延びる方向の長さである軸方向長さに対し、20~90%の範囲にある円すいころ軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の円すいころ軸受において、前記保持器の前記小径側環状部および前記大径側環状部が、前記柱部に対して内径側に屈曲して延びるフランジ状部を有し、このフランジ状部の円周方向複数箇所に、このフランジ状部の軸受軸方向の内外に対して潤滑油の通過を許容する切欠状または窓状の通油路を有する円すいころ軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の円すいころ軸受において、前記保持器の前記大径側環状部の前記小径側環状部に対する断面積比が、1.0~1.2である円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遠心力が作用する部位、例えば建設機械等の遊星減速機部、特に遠心力が大きい1段目の遊星部等に利用できる円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な円すいころ軸受は、例えば
図12に示すように、保持器5が円すいころ4によって案内されるころ案内形式とされる。
しかし、遊星減速機の遊星部等の公転する環境下で使用される円すいころ軸受は、公転で生じる遠心力のため、転動体案内形式であると保持器の挙動の安定性が低くて柱部の摩耗が大きく、軌道輪案内形式の軸受であることが好ましい。
【0003】
これにつき説明すると、
図14の上段(Aa)~(Ad)にころ案内形式の標準保持器を用いた円すいころ軸受の作用を、下段(Ba)~(Bd)に内輪案内とした高遠心力対応の保持器を用いた円すいころ軸受を示す。同図(Ab)(Bb)に示すように、遊星減速機の遊星回転体105に円すいころ軸受を用いた場合、円すいころ軸受が矢印cで示すように公転することで円すいころ軸受の全体に遠心力Gが作用する。外輪案内とした高遠心力対応の保持器を用いた円すいころ軸受も同様である。
このように円すいころ軸受の全体に公転による遠心力Gが作用すると、円すいころ軸受の固定側軌道輪となる内輪2が静止状態にあるとして軸受構成部品間の作用を考えると、遠心力Gにより、同図(Ac)(Bc)に軸受断面を示すように、保持器5を内径側に引っ張る作用が生じる。
この場合に、上段に示すころ案内形式では内輪鍔部、特に小鍔部2bと保持器5との間の隙間dが大きく、遠心力Gで内径側に引っ張られた場合に、保持器5が径方向に大きく移動し、同図(Ad)に示すように、保持器5のポケット内面と円すいころ4との間の隙間δが無くなり、柱部8の摩耗が増加する。
しかし、下段の内輪案内形式(Ba)~(Bd)では、内輪鍔部(小鍔部2b、大鍔部2c)と保持器5の間の隙間d1,d2が小さく、保持器5が遠心力で内径側に引っ張られても、保持器5の径方向の移動量が小さくて、ポケット内面と円すいころ4との間に隙間δが有る状態が維持され、柱部8のポケット内面の摩耗が減少する。
【0004】
内輪案内形式の円すいころ軸受の文献としては、保持器の小径側と大径側の両方に鍔部を設け、そこを摺動面として、内輪で案内するものがある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第103410853号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉄板等の金属板の保持器を使用したころ案内形式の円すいころ軸受は、次の課題がある。
・組立時に保持器柱部の小径側を加締める為、内径寸法にバラツキが出やすく、片側のつば案内(以下片つば案内)になることがある。
・遊星部等の高遠心力が作用する環境下で使用する場合、保持器の振れ回り及び変形により、設計上は非案内側も鍔部外径と保持器内径が一時的に接触した状態で回転し、保持器の自転軸が傾いた状態で運転される。
・自転軸が傾いた状態で運転されると、ジャイロモーメントが発生し、保持器に軸方向力が作用する。この軸方向力により保持器が軸方向に移動し、ころ端面と保持器のポケット内面における軸方向を向く面部とが強く接触し、摩耗が発生して耐久性が乏しくなる。
【0007】
この発明の目的は、軸受が公転する環境下で使用されても、保持器の自転軸の傾きが抑制されて保持器の摩耗が生じ難い、鉄板等の金属板の保持器を使用した内輪案内形式の円すいころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の円すいころ軸受は、
両鍔付きの内輪と、前記内輪の転走面と対向する環状の転走面を有する外方部材と、これら内輪と外方部材との間に介在する複数の円すいころと、前記複数の円すいころを保持する保持器とを備え、前記保持器が、小径側環状部、大径側環状部、およびこれら小径側環状部と大径側環状部を繋ぐ円周方向複数箇所の柱部を有する内輪案内形式の円すいころ軸受であって、
前記保持器の前記小径側環状部と前記内輪の小鍔部との間のすきまである小径側すきまS1と、前記大径側環状部と前記内輪の大鍔部との間のすきまである大径側すきまS2と、平均ころ径dと、ころ長さlと、前記外方部材の転走面が傾斜する円すい開き角度である外方部材角度α(ただし、αは20°~40°)とで次式により定まる無次元数X、
【0009】
【数1】
が、0.69<X<1.12
の範囲である。
【0010】
運転時の保持器の傾きを適切に保つには、保持器を内輪案内形式とするだけでは不十分であり、静止時の内輪の各鍔部の外径と保持器の間のすきま(前記小径側すきまS1および大径側すきまS2)に加えて、運転時のころと保持器のすきま(径方向のすきま、および軸方向のすきま)を適切に管理する必要がある。運転時のころと保持器のすきまは、平均ころ径d及びころ長さlにより規定される。これを考慮し、前記小径側すきまS1および大径側すきまS2に、平均ころ径dところ長さlとより定まる前記無次元Xを考え、この無次元Xが適切な範囲(0.69<X<1.12の範囲)に収まるように小径側すきまS1および大径側すきまS2の比率を管理することで、保持器の自転軸の傾きを抑制することができることを見出した。
このように、内輪鍔外径と保持器内径のすきまにおいて、小径側と大径側のすきまの差を小さくすることで、遠心力が作用した場合の保持器の自転軸と内輪の軸とのズレが少ない状態で軸受を回転させることができる。これにより、保持器の振れ回りを小さくし、保持器の摩耗を抑制することができる。保持器の振れ回りを小さくすることで、ジャイロモーメントによる保持器の軸方向の動きを小さくし、安定した状態で軸受を運転させることができる。
【0011】
外方部材角度αを20°~40°としたのは、次の理由による。
外方部材角度αが20°以下では、アキシアル荷重を負荷する能力が小さい。
外方部材角度αが40°以上では、アキシアル荷重を負荷する能力が大きいが、ラジアル荷重を負荷する能力が小さくなる。遊星減速部等の遠心力が作用する環境で使用される円すいころ軸受では、主にラジアル荷重を負荷するため、外方部材角度αが大きい軸受製品が適用されるケースが少ない。また、遊星減速機の歯車のかみあい等によりアキシアル荷重の発生が考えられるため、外輪部材角度は20°以下ではアキシアル荷重を負荷する能力が不足する可能性がある。
【0012】
この発明において、前記保持器の前記大径側環状部が、前記柱部に対して内径側に屈曲して延びるフランジ状部を有し、このフランジ状部の前記柱部に対して成す屈曲角度が、前記柱部が軸受軸心に対して傾く角度である保持器角度を基準として90°±10°の範囲であってもよい。
フランジ状部の前記屈曲角度が90°±10°の範囲にあることで、保持器を内輪案内形式とする上で適切な形状となる。
【0013】
この発明の円すいころ軸受において、前記保持器の前記大径側環状部が、前記柱部に対して円弧状の曲げ部分を介し内径側に屈曲して延びるフランジ状部を有し、前記曲げ部分の内径側表面の曲率半径である曲げ部分R寸法が、前記大径側環状部の前記柱部が延びる方向の長さである軸方向長さに対し、20~90%の範囲にあってもよい。
前記曲げ部分R寸法が前記大径側環状部の軸方向長さに対して20°以下では、曲げ加工時における応力集中が大きくなり、保持器が損傷する懸念がある。また、90%以上であると、曲げ部分の内径側表面の円弧形状が緩やかになりすぎて、ポケットの開口縁に対してころの端面がエッジ当たりになる懸念がある。
【0014】
この発明の円すいころ軸受において、前記保持器の前記小径側環状部および前記大径側環状部が、前記柱部に対して内径側に屈曲して延びるフランジ状部を有し、このフランジ状部の円周方向複数箇所に、このフランジ状部の軸受軸方向の内外に対して潤滑油の通過を許容する切欠状または窓状の通油路を有していてもよい。
前記のように通油路が形成されることで、保持器のフランジ状部の内外で潤滑油が通過し易く、円すいころの転動面や保持器ポケット内面との間の良好な潤滑が得られる。
【0015】
この発明の円すいころ軸受において、前記保持器の前記大径側環状部の前記小径側環状部に対する断面積比が、1.0~1.2であってもよい。
大径側環状部の小径側環状部に対する断面積比が1.0~1.2の範囲であると、大径側と小径側との重量バランスが適切となり、保持器の触れ回りが抑えられ、かつ良好な内輪案内が行える。
【発明の効果】
【0016】
この発明の円すいころ軸受は、両鍔付きの内輪と、前記内輪の転走面と対向する環状の転走面を有する外方部材と、これら内輪と外方部材との間に介在する複数の円すいころと、前記複数の円すいころを保持する保持器とを備え、前記保持器が、小径側環状部、大径側環状部、およびこれら小径側環状部と大径側環状部を繋ぐ円周方向複数箇所の柱部を有する内輪案内形式の円すいころ軸受であって、
前記保持器の前記小径側環状部と前記内輪の小鍔部との間のすきまである小径側すきまS1と、前記大径側環状部と前記内輪の大鍔部との間のすきまである大径側すきまS2と、平均ころ径dと、ころ長さlと、前記外方部材の転走面が傾斜する円すい開き角度である外方部材角度α(ただし、αは20°~40°)とで前記の式により定まる前記無次元数Xが、0.69<X<1.12の範囲であるため、高い遠心力が作用する環境下で使用されても、保持器の自転軸の傾きが抑制されて保持器の摩耗が生じ難く、耐久性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る円すいころ軸受の断面図である。
【
図3】(A)は同保持器の小径側端の端面図、(B)は同保持器の大径側端の端面図である。
【
図5】同保持器の大径側環状部と円すいころとをさらに拡大して示す部分拡大断面図である。
【
図6】同円すいころ軸受を用いた遊星減速機における円すいころ軸受に作用する遠心力の説明図である。
【
図7】同円すいころ軸受に用いる保持器の変形例を示す断面図である。
【
図8】(A)は同保持器の小径側端の端面図、(B)は同保持器の大径側端の端面図である。
【
図9】同円すいころ軸受を用いる遊星減速機の一例を示す断面図である。
【
図11】円すいころ軸受の隙間管理に用いるゲージの例の説明図である。
【
図12】従来の転動体案内型の円すいころ軸受の断面図である。
【
図13】転動体案内型と内輪案内型の円すいころ軸受とにつき遠心力による作用を説明する作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の第1の実施形態に係る円すいころ軸受を、
図1~
図6と共に説明する。なおこの円すいころ軸受1は、後に
図9、
図10と共に説明する遊星減速機または遊星変速機における遊星部に用いられる。
図1において、この円すいころ軸受1は、内輪2と、外方部材3と、これら内輪2と外方部材3との間に介在する複数の円すいころ4と、これら複数の円すいころ4を保持する保持器5とを備える。内輪2は、外周面の軸方向の一端付近から他端付近に渡って拡径するテーパ面の転走面2aを有し、前記一端に小鍔部2bを、他端に大鍔部2cを有する両鍔付きである。外方部材3は、内輪2の転走面2aと対向し一端から他端に渡って拡径するテーパ面の転走面3aを有する環状の部品である。外方部材3は、軸受としての機能のみを有する部品である場合における「外輪」に相当する部品であるが、例えば外周面がギヤ部となり、内周面に前記転走面3aを有する部品を含む概念の部品であり、この明細書では「外方部材」と称する。なお、この明細書において、試験及び解析例等においては、「外方部材」を「外輪」とする場合がある。外方部材3は、図示の実施形態では鍔無しであるが、一端または他端に内径側に突出する鍔部(図示せず)を有してしてもよい。
【0019】
保持器5は、小径側環状部6、大径側環状部7、およびこれら小径側環状部6と大径側環状部7を繋ぐ円周方向複数箇所の柱部8を有し、隣合う柱部8の間は、円すいころ4を保持するポケット9となる。保持器5の小径側環状部6および大径側環状部7の内径面は内輪2の小鍔部2bおよび大鍔部2cでそれぞれ案内される径とされ、これにより、この円すいころ軸受1は内輪案内形式の軸受とされている。なお、保持器5は、内輪案内形式であればよく、内輪2の小鍔部2bおよび大鍔部2cのいずれか一方のみで案内される構成であってもよい。基本的には、少なくとも内輪2の小鍔部2bで案内される形式とすることが好ましい。
保持器5は、この実施形態では鉄板等の金属板のプレス保持器とされ、小径側環状部6および大径側環状部7は、曲げ加工によって形成されている。柱8は、ポケット9をプレス加工で打ち抜くことで形成されている。保持器5の材質は、この他に樹脂製であってもよい。
【0020】
この円すいころ軸受1の各部の寸法関係を説明する。
保持器5の小径側環状部6と内輪2の小鍔部2bとの間のすきまである小径側すきまS1と、大径側環状部7と内輪2の大鍔部2cとの間のすきまである大径側すきまS2と、ころ4の平均ころ径dと、ころ4のころ長さlと、外方部材3の転走面3aが傾斜する円すい開き角度(外輪3の軸受軸心Oを含む平面で断面した両側の転走面3aを示す2本の直線が成す角度)である外方部材角度α(ただし、αは20°~40°)とで、次式により定まる無次元数Xを定める。
【0021】
【0022】
このように定めた無次元数Xを、0.69<X<1.12の範囲とする。無次元数Xは、より好ましくは、0.73<X<1.046である。
ただし、この実施形態の円すいころ軸受1は、前記外方部材角度αが20°~40°の範囲にあるとする。
【0023】
保持器5の小径側環状部6および大径側環状部7は、柱部8に対して内径側に屈曲して延びるフランジ状部6a,7aを有し、大径側環状部7のフランジ状部7aの柱部8に対して成す屈曲角度βが、柱部8が軸受軸心Oに対して傾く角度である保持器角度(換言すれば柱部8が延びる方向)を基準として90°±10°の範囲とされている。小径側環状部6および大径側環状部7の内径面は、内輪2の小鍔部2bおよび大鍔部2cの外周面と平行であることが好ましいが、傾斜していてもよい。
【0024】
図4に拡大して示すように、保持器5の大径側環状部7は、より詳しくは、柱部8に対して円弧状の曲げ部分7b(
図4参照)を介し前記フランジ状部7aが内径側に屈曲している。前記曲げ部分7bの内径側表面の曲率半径である曲げ部分R寸法b1は、大径側環状部7の柱部8が延びる方向の長さである軸方向長さaに対し、20~90%の範囲とされている。曲げ部分7bの外径側表面の曲げ部分R寸法b2は、特に規定していない。
【0025】
保持器5の前記小径側環状部6および大径側環状部7のフランジ状部6a,7aは、円周方向複数箇所に、これらフランジ状部6a,7aの軸受軸方向の内外に対して潤滑油の通過を許容する通油路10,11を有している。通油路10,11は、この実施形態では
図3(A),(B)に示すように、フランジ状部6a,7aの内周縁に形成された切欠状とされている。詳しくは、円弧状の切欠状とされている。
通油路10,11は、
図7,8に示すように、窓状としてもよい。
図7,8において、小径側環状部6のフランジ状部6aの通油路10は円形に、大径側環状部7のフランジ状部7aの通油路11は楕円状とされている。
なお、前記各通油路10,11は、必ずしも設けなくてもよい。
【0026】
これら
図1~
図8に示す実施形態において、保持器5の大径側環状部7の小径側環状部6に対する断面積比は、1.0~1.2の範囲とされている。ここで言う断面比は、前記通油路10,11を設けない周方向箇所における断面の断面比である。
【0027】
上記構成の作用を説明する。
図6に示すように、円すいころ軸受1を遊星減速機の遊星部等の公転(矢印c)を伴う環境下で使用すると、遠心力Gが作用し、この遠心力で保持器5を傾けようとする力が作用する。
運転時の保持器5の傾きを適切に保つには、保持器5を内輪案内形式とするだけでは不十分であり、静止時の内輪2の各鍔部2b,2cの外径と保持器5の間のすきま(前記小径側すきまS1および大径側すきまS2)に加えて、運転時のころ4と保持器5のすきま(径方向のすきま、および軸方向のすきま)を適切に管理する必要がある。運転時のころ4と保持器5のすきまは、平均ころ径d及びころ長さlにより規定される。
これを考慮し、前記小径側すきまS1および大径側S2に、平均ころ径dところ長さlとより定まる前記無次元Xを考え、この無次元Xが適切な範囲にあれば、保持器の自転軸の傾きを抑制することができることを見出し、試験及び解析により確認した。
その結果、前記無次元Xが、0.69<X<1.12の範囲に収まるように小径側すきまS1および大径側すきまS2の比率を管理することで、保持器5の自転軸の傾きを抑制することができることを見出した。
【0028】
前記試験及び解析は、遊星減速機の遊星部を模し、遠心力が30G以上の耐久を条件とした。
試験及び解析に用いた円すいころ軸受1の寸法は、いずもれも、内径φ76×外径φ136.5×幅46.0(単位はmm)で、外輪角度(外方向部材角度α)を35°とした。また、試験及び解析に用いた円すいころ軸受1の各部の寸法(ころ平均径、ころ長さ、小径側すきまS1、大径側すきまS2)は、個々の値は省略するが、前記無次元Xが表1に示す値となる寸法とした。
【0029】
【0030】
その試験及び解析の結果を表1に示すように、サンプル(2)~(6)を含む範囲である
0.69<X<1.12の範囲で、良好な結果(保持器5の摩耗がないか軽微)が得られた。特に、サンプル(3),(4)は摩耗がなく、0.73<X<1.04の範囲であることが、より好ましい。
このように、内輪鍔2b,2cの外径と保持器5の内径のすきまにおいて、小径側と大径側のすきまS1,S2の差を小さくすることで、遠心力が作用した場合の保持器5の自転軸と内輪2の軸のズレが少ない状態で円すい軸受1を回転させることができ、保持器5の振れ回りを小さくし、保持器5の摩耗を抑制することができる。保持器5の振れ回りを小さくすることで、ジャイロモーメントによる保持器5の軸方向の動きを小さくし、安定した状態で円すいころ軸受1を運転することができる。
【0031】
外方部材角度αを20°~40°としたのは、次の理由による。
外方部材角度αが20°以下では、アキシアル荷重を負荷する能力が小さい。
外方部材角度αが40°以上では、アキシアル荷重を負荷する能力が大きいが、ラジアル荷重を負荷する能力が小さくなる。遊星減速部等の遠心力が作用する環境で使用される円すいころ軸受では、主にラジアル荷重を負荷するため、外方部材角度αが大きい軸受製品が適用されるケースが少ない。また、遊星減速機の歯車のかみあい等によりアキシアル荷重の発生が考えられるため、外輪部材角度は20°以下ではアキシアル荷重を負荷する能力が不足する可能性がある。
【0032】
保持器5は、大径側環状部7のフランジ状部7aの屈曲角度β(フランジ状部7aが柱部8に対して成す屈曲角度)を、保持器角度を基準として90°±10°の範囲としている。このため、保持器5を内輪案内形式とする上で適切な形状となる。
【0033】
保持器5の大径側環状部7における曲げ部分7bの内径側表面の曲げ部分R寸法b1(
図4)は、大径側環状部7の軸方向長さaに対し、20~90%の範囲としているため、次の問題が生じない。
すなわち、曲げ部分R寸法b1が大径側環状部7の軸方向長さaに対して20°以下では、曲げ加工時における応力集中が大きくなり、保持器5が損傷する懸念があま。また、90%以上であると、
図5に細線で示すように、曲げ部分7bの内径側表面の円弧形状が緩やかに緩やかになりすぎて、ポケット9の開口縁に対してころ4の端面がエッジ当たりになる懸念がある。20~90%の範囲とすることで、このような問題がなくなる。
【0034】
この実施形態では、保持器5の小径側環状部6および大径側環状部7のフランジ状部6a,7aにおけるの円周方向複数箇所に、前記のように切欠状または窓状の通油路10,11を設けているが、そのため、次の効果が得られる。すなわち、通油路10,11が形成されることで、保持器5のフランジ状部6a,7aの内外で潤滑油が通過し易い。そのため、円すいころ4の転動面や保持器5のポケット内面との間の良好な潤滑が得られる。
【0035】
また、保持器5の大径側環状部7の小径側環状部6に対する断面積比が、1.0~1.2とされているため、次の利点が得られる。すなわち、前記断面積比が1.0~1.2の範囲であると、大径側と小径側との重量バランスが適切となり、保持器5の触れ回りが抑えられ、かつ良好な内輪案内が行える。
【0036】
図9、
図10は、前記実施形態に係る円すいころ軸受1が使用される遊星減速機の一例を示す。この遊星減速機は、入力軸101に取り付けた太陽歯車102と、ハウジング103に固定された内歯車104との間に、両歯車102、104に噛み合う遊星歯車としての遊星回転体105が複数個配置される。出力軸106に連結されたキャリヤ107に対して各遊星回転体105が回転自在に支持され、太陽歯車102と内歯車104との間で自転しながら公転する遊星回転体105の公転運動が、キャリヤ107を介して出力軸106に出力される。
この遊星減速機は、例えば、建設機械のホイールリムの内側に設けられた終減速装置の第1段目の減速を行う。
【0037】
円すいころ軸受1は、遊星減速機の遊星回転体105とキャリヤ107との間に一対で配置される。各円すいころ軸受1の外方部材3(
図1)は、遊星回転体105に取り付けられ、遊星回転体105と一体に回転する。各円すいころ軸受1の内輪2は、キャリヤ107に設けられた支持軸108に固定状態に取り付けられる。
【0038】
なお、前記小径側すきまS1、大径側すきまS2は、組み立て時における保持器5の小径側環状部6の加締不足等で変化する。そのため、小径側すきまS1を測定するには、例えば、
図11(A),(B)に示す基準隙間ゲージ51を180°位相で保持器内径と内輪つば外径の間に差し込み、0°と180°位相での小径側すきまS1を確認し、平均化したものを基準すきまとする。
その後、前記小径側すきまS1に挿入し、片側を基準すきま(前述の平均値)の状態にする。その状態のまま180°位相位置に測定用すきまゲージ52を挿入した時の小径側すきまS1を計測し適正な範囲であるかを確認する。
【0039】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
1…円すいころ軸受
2…内輪
2a…転走面
2b…小鍔部
2c…大鍔部
3…外方部材
4…円すいころ
5…保持器
3a…転走面
6…小径側環状部
6a…フランジ状部
7…大径側環状部
7a…フランジ状部
7b…曲げ部分
8…柱部
9…ポケット
10,11…通油路
S1…小径側すきま
S2…大径側すきま
d…平均ころ径
l…ころ長さ
α…外方部材角度
X…無次元数