IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 光洋應用材料科技股▲分▼有限公司の特許一覧

特開2022-42039ニッケル‐白金合金スパッタリングターゲット及びその調製方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042039
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】ニッケル‐白金合金スパッタリングターゲット及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220307BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20220307BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20220307BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220307BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C19/03 Z
C22F1/10 A
C22F1/00 604
C22F1/00 613
C22F1/00 630C
C22F1/00 661Z
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 685A
C22F1/00 691B
C22F1/00 694B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147203
(22)【出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】502294194
【氏名又は名称】光洋應用材料科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】劉宗翰
(72)【発明者】
【氏名】劉宜隴
(72)【発明者】
【氏名】劉娉▲テイ▼
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA25
4K029CA05
4K029DC04
4K029DC07
4K029DC08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明はNi‐Pt合金スパッタリングターゲット及びその調製方法を提供する。
【解決手段】Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットはニッケル及び白金を含み、以下の特徴を有する。硬度指数であって、その値はHであり、Hは100~150であり、Pt原子の量であって、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの原子の総量に対して1%~20%の範囲の量であり、その値はPt原子の量の単位を%で表すときXで表し、平均粒度であって、その値は平均粒度の単位をマイクロメートルで表すときYで表し、粒度のばらつきであって、その値は粒度のばらつきの単位を%で表すときZで表す。また、H、X、Y、及びZは以下の式(I):H=10000×(X/Z)1/10/Yを満たす。前記技術的手段により、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットは、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの加工性及び品質を向上させ得る好適な硬度を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル原子及び白金原子を含むニッケル‐白金合金スパッタリングターゲットであって、
硬度指数であって、その値はHで表し、Hは100~150であり、
白金原子の量であって、ニッケル‐白金合金スパッタリングターゲットの原子の総量に対して1%~20%の範囲の量であり、その値は白金原子の量の単位を%で表すときXで表し、
平均粒度であって、その値は平均粒度の単位をマイクロメートルで表すときYで表し、
粒度のばらつきであって、その値は粒度のばらつきの単位を%で表すときZで表し、
ここで、H、X、Y、及びZは以下の式(I)
式(I):H=10000×(X/Z)1/10/Y
を満たすことを特徴とする、
ニッケル‐白金合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記粒度のばらつきは15%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のニッケル‐白金合金スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記平均粒度は55マイクロメートル~110マイクロメートルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のニッケル‐白金合金スパッタリングターゲット。
【請求項4】
ビッカース硬度は110HV~150HVであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のニッケル‐白金合金スパッタリングターゲット。
【請求項5】
ニッケル‐白金合金スパッタリングターゲットの調製方法であって、
工程(a):ニッケル及び白金を溶融及び鋳造してニッケル‐白金合金鋳塊を得る工程であって、白金原子の量はニッケル原子及び白金原子の合計量に対して1%~20%の範囲である工程、
工程(b):ニッケル‐白金合金鋳塊を塑性成形に供する工程であって、塑性成形時の最高温度は800℃~1200℃であり、塑性成形後のニッケル‐白金合金鋳塊の総還元率は90%~95%である工程、及び、
工程(c):700℃~1000℃の温度で熱処理を行い、ニッケル‐白金合金スパッタリングターゲットを得る工程、を有する、
調製方法。
【請求項6】
塑性成形時の最高温度は850℃~1150℃であることを特徴とする、請求項5に記載の調製方法。
【請求項7】
塑性成形後のニッケル‐白金合金鋳塊の総還元率は90%~94%であることを特徴とする請求項5又は6に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体加工に適したスパッタリングターゲット及びその調製方法に関し、より詳細には、ニッケル‐白金合金スパッタリングターゲット(Ni‐Pt合金スパッタリングターゲット)及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ化物は高温での耐酸化性や電気伝導性及び熱伝導性に優れることから、半導体加工に広く利用されている。具体的には、ケイ化物を使用することにより、トランジスタのゲート、ソース、及びドレインの接触抵抗を低減でき、よってデバイス全体の駆動電流、応答時間、又は回路動作速度を向上できる。
【0003】
半導体デバイスの開発が小型化に向かっているため、抵抗の影響が無視できないものとなっており、関連するケイ化物の研究が非常に注目されている。一般的に、ゲート長が90ナノメートル(nm)を超える相補型金属酸化物半導体(CMOS)には、ケイ化チタンやケイ化コバルトが用いられている。ゲート長が65ナノメートル未満のCMOSには、ケイ化ニッケルがより適した性質を持つため採用されている。特に、CMOSのゲート長が45nm未満の場合には、絶縁体として二酸化ケイ素の代わりに二酸化ハフニウム(HfO)などの比誘電率の高い酸化物材料が通常選択され、抵抗が低く、シリコン消費量が少なく、加工温度が低いケイ化ニッケルと組み合わせて使用することで、短チャネル効果による悪影響を緩和する。しかし、ケイ化ニッケルの熱安定性は不十分で、白金を添加して改善する必要がある。従って、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットはケイ化ニッケルを生成するための重要なソースの1つとなる。
【0004】
先行技術では、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットに関する研究がいくつかある。例えば、特許文献1には、鋳造により作成したニッケル‐白金合金鋳塊は更にスパッタリングターゲットへ加工するには硬すぎて脆い場合が多く、この問題は、ニッケル‐白金合金の成分純度を99.99%超まで高めることにより解決できることが記述されている。しかしながら、ニッケル‐白金合金鋳塊を更に、例えば圧延や熱処理で加工してスパッタリングターゲットを作成する場合、スパッタリングターゲットの過度の変形により、作成したスパッタリングターゲットの表面に亀裂が発生し、スパッタリングターゲットの品質が低下する。この問題を解決するための関連する解決策は未だ開発されていない。
【0005】
従って、スパッタリングターゲットの変形を低減し、スパッタリングターゲット表面上の亀裂を回避し、高品質のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットを提供するための関連技術の開発が急務となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国公開特許第1926254号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に鑑みて、本発明の1つの目的は、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの硬度を特定の範囲内に制御することである。これによって、Ni‐Pt合金鋳塊を塑性成形及び熱処理して得られるNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの変形を低減し、また、更に加工するときにNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの亀裂を防止する。換言すれば、本発明の目的は、加工性が良好で品質の高いNi‐Pt合金スパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明はニッケル(Ni)原子及び白金(Pt)原子を含むNi‐Pt合金スパッタリングターゲットを提供する。Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットは以下の特徴を有する。
硬度指数であって、その値はHで表し、Hは100~150であり、Pt原子の量であって、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの原子の総量に対して1%~20%の範囲の量であり、その値はPt原子の量の単位を%で表すときXで表し、平均粒度であって、その値は平均粒度の単位をマイクロメートル(μm)で表すときYで表し、粒度のばらつきであって、その値は粒度のばらつきの単位を%で表すときZで表し、ここで、H、X、Y、及びZは以下の式(I)を満たす。
式(I):H=10000×(X/Z)1/10/Y
【0009】
上述の技術的手段、すなわち、硬度指数を100~150にするPt原子の量及びX、Y、及びZの特定の関係を制御することにより、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度を適切な範囲内に維持できる。このようにして、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの変形を低減し、更に加工した際のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの亀裂を防止することによって、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの加工性及び品質を向上できる。
【0010】
本発明によれば、式(I)中のX、Y、及びZはそれぞれ、Pt原子の量の単位を%で表すときのPt原子の量の値、平均粒度の単位をμmで表すときの平均粒度の値、及び粒度のばらつきの単位を%で表すときの粒度のばらつきの値を表す。例えば、Pt原子の量が1%の場合、平均粒度は75μmであり、粒度のばらつきは13%であり、式(I)中のX、Y、及びZはそれぞれ1、75、及び13である。
【0011】
本発明によれば、硬度指数は、Pt原子の量と、平均粒度と、粒度のばらつきとの特定の関係を示すように意図しており、よって硬度指数は、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの硬さと実質的に同一ではない。
【0012】
好ましくは、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの粒度のばらつきは15%未満である。より好ましくは、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの粒度のばらつきは7%~15%未満である。より好ましくは、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの粒度のばらつきは7%~13%である。
【0013】
好ましくは、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの平均粒度は55μm~110μmである。より好ましくは、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの平均粒度は60μm~100μmである。より好ましくは、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの平均粒度は68μm~100μmである。
【0014】
好ましくは、Pt原子の量はNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの全原子に対して1%~18%の範囲である。より好ましくは、Pt原子の量はNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの全原子に対して1%~17%の範囲である。
【0015】
好ましくは、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度は110HV~150HVである。より好ましくは、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度は120HV~150HVである。Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットは好適な硬度を有することから、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの変形を低減することが可能であり、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの亀裂を防止することが可能であり、よってNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの加工性を向上できる。本明細書では、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの測定ビッカース硬度とは、塑性成形の工程を経て得られるNi‐Pt合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度のことである。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の工程を含むNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの調製方法も提供する。
工程(a):Ni及びPtを溶融及び鋳造してNi‐Pt合金鋳塊を得る工程。Pt原子の量はNi原子及びPt原子の合計量に対して1%~20%の範囲である。
工程(b):Ni‐Pt合金鋳塊を塑性成形に供する工程。塑性成形時の最高温度は800℃~1200℃であり、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率は90%~95%である。
工程(c):700℃~1000℃の温度で熱処理を行い、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットを得る工程。
【0017】
特定量のPt原子を添加し、塑性成形時の最高温度、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率、及び熱処理温度を上記の特定範囲に制御することにより、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットは好適な範囲の硬度を得て、加工性が良好で、変形が少なく、亀裂が無いといった特性を有することが可能となる。
【0018】
工程(a)では、調製方法で採用したPtの純度は4N5を超えてもよく、調製方法で採用したNiの純度は5Nを超えてもよい。換言すれば、調製方法で採用したPtの純度は99.995%を超えてもよく、調製方法で採用したNiの純度は99.999%を超えてもよい。好ましくは、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの純度は5N(99.999%)を超えてもよい。
【0019】
本発明によれば、前記溶融は任意の従来の溶融方法により行ってもよい。例えば、前記溶融は、真空誘導溶融(VIM)、電子ビーム溶融(EBM)、真空アーク再溶融(VAR)、又は水冷銅るつぼ溶融であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明によれば、前記塑性成形は、任意の従来の塑性成形法により行ってもよい。例えば、前記塑性成形は、鍛造、圧延、又は塑性成形の他のプロセスであってもよいが、これらに限定されるものではない。また、前記塑性成形は、熱間塑性成形又は冷間塑性成形であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0021】
工程(c)では、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットを得るために、熱処理後に加工を行ってもよい。例えば、前記加工は旋盤加工や研削加工であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0022】
好ましくは、塑性成形時の最高温度は850℃~1150℃であってもよい。より好ましくは、塑性成形時の最高温度は850℃~1000℃であってもよい。
【0023】
好ましくは、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率は90%~94%であってもよい。より好ましくは、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率は90%~93%であってもよい。
【0024】
好ましくは、熱処理温度は800℃~1000℃であってもよい。より好ましくは、熱処理温度は850℃~1000℃であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの硬度及び加工性に及ぼす、調製方法の条件や、Pt原子の量と平均粒度と、粒度のばらつきとの特定の関係を制御する影響を明らかにするために、以下の実施例を提示して、本発明の実施を説明する。また、実施例と比較例との間の異なる特性を以下に示す。当業者であれば、以下の実施例から本発明の利点及び効果を容易に実現可能である。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明を実施又は応用するために様々な修正及び変形が可能である。
【0026】
実施例1~6:Ni‐Pt合金スパッタリングターゲット
以下の表1に収載したPt原子の量の違いに応じて、純度が5Nを超えるNi及び純度が4N5を超えるPtを金属成分として採用した。その後、これらの金属成分を溶融し、高純度Ni‐Pt合金を得た。この高純度Ni‐Pt合金を鋳造してNi‐Pt合金鋳塊を得た。その後、このNi‐Pt合金鋳塊を塑性成形により加工し、塑性成形時の最高温度及び塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率を特定の範囲内に制御した。次いで、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊を特定の温度範囲内で熱処理した後、加工し、実施例1~6それぞれのNi‐Pt合金スパッタリングターゲットを好適なサイズで得た。
実施例1~6の塑性成形時の最高温度、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率、及び熱処理温度を以下の表1に収載する。
【0027】
比較例1~5:Ni‐Pt合金スパッタリングターゲット
比較例1~5の調製方法は実施例1~6と同様である。表1に収載したPt原子の量の違いに応じて、金属成分としてNi及びPtを採用し、次いで溶融、塑性成形、熱処理、及び加工を順次行い、比較例1~5のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットを得た。
実施例1~6と比較例1~5との相違点は、塑性成形時の最高温度、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率、及び熱処理温度であり、これらも以下の表1に収載する。
【0028】
表1:実施例1~6及び比較例1~5のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットのPt原子の量、塑性成形時の最高温度、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率、及び熱処理温度
【0029】
【表1】

【0030】
試験例1:平均粒度及び粒度のばらつきの評価
試験例1の試料として、実施例1~6及び比較例1~5の塑性成形及び熱処理により成形したNi‐Pt合金スパッタリングターゲットを採用した。具体的には、各Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットを中心、半半径、及び縁で切断し、サイズ10mm×10mmの標本を得た後、標本を更に擦過し、研磨し、エッチングして観察用試料を調製した。光学顕微鏡(BX51M、オリンパス株式会社)を用いてこの試料を観察し、試料の光学顕微鏡像を取得した。その後、Image J Proの解析ソフトを用いて光学顕微鏡像に4本の補助線で印を付けた。2本の補助線はそれぞれ光学顕微鏡像上の対角線であった。残りの2本の補助線はそれぞれ光学顕微鏡像の長さと幅に平行な中心線であった。具体的には、4本の補助線はそれぞれ光学顕微鏡像の対向する辺と対向する点に結ばれている。
【0031】
その後、4本の補助線上の粒子の総量を単純無作為抽出法により計数した。各補助線の長さを、対応する補助線上の粒子量で除し、部分平均粒度を求めた。そして、各補助線上の部分平均粒度全てを算出し、平均粒度及び標準偏差を求めた。平均粒度を標準偏差で除し、100%を乗じて粒度の正規化均一度を算出した。粒度の正規化均一度の値が大きいほど、粒度のばらつきが大きく、分布が均一でないことを示唆していた。
実施例1~6及び比較例1~5それぞれの平均粒度及び粒度のばらつきを以下の表2に収載する。
【0032】
試験例2:硬度の評価
試験例2の試料として、実施例1~6及び比較例1~5の塑性成形及び熱処理により成形したNi‐Pt合金スパッタリングターゲットを採用した。具体的には各Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットを中心、半半径、及び縁で切断し、10mm×10mmの大きさの標本を得た後、標本を更に擦過し、研磨して測定用試料を調製した。ビッカース微小硬度試験機(HMV‐2、株式会社島津製作所)を用いて各試料の研磨面のビッカース硬度を測定し、1つのNi‐Pt合金スパッタリングターゲット上の異なる3箇所で測定した試料ビッカース硬度を平均化し、スパッタリングターゲットのビッカース硬度を表した。
実施例1~6及び比較例1~5の各Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度を以下の表2に収載する。
【0033】
試験例3:スパッタリングターゲットの変形及びスパッタリングターゲット上の亀裂の評価
実施例1~6及び比較例1~5の塑性成形及び熱処理により成形したNi‐Pt合金スパッタリングターゲットを試験例3の試料として採用した。具体的には、各Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットを水平面上に置き、直角定規を用いて、水平面に対するNi‐Pt合金スパッタリングターゲット表面の反りを測定した。
測定結果はスパッタリングターゲットの変形を表しており、以下の表2に収載する。
【0034】
次いで、実施例1~6及び比較例1~5の塑性加工及び熱処理により成形したNi‐Pt合金スパッタリングターゲットを更に、同一条件下で均一なサイズ(φ450×4mm)に加工した。その後、加工したNi‐Pt合金スパッタリングターゲットそれぞれの表面を目視で観察し、亀裂の存在を確認した。
スパッタリングターゲット上の亀裂の結果も以下の表2に収載する。
【0035】
また、試験例3で示したスパッタリングターゲットの変形と亀裂の結果を併用することで、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの加工性を更に評価することが可能になる。具体的には、スパッタリングターゲットの変形が0.3mmを超え、加工後のスパッタリングターゲットの表面に明らかな亀裂が目視で観察される状態を△で印す。スパッタリングターゲットの変形が約0.3mmであり、加工後のスパッタリングターゲットの表面に亀裂が目視で観察されない状態を○で印す。スパッタリングターゲットの変形が0.2mm未満であり、加工後のスパッタリングターゲットの表面に亀裂が目視で観察されない状態を◎で印す。
Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの加工性の結果を以下の表2に収載する。
【0036】
表2:実施例1~6及び比較例1~5のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットのPt原子の量(Pt)、硬度指数(H)、粒度のばらつき(Var.粒度)、平均粒度(Ave.粒度)、ビッカース硬度、スパッタリングターゲットの変形(変形)、スパッタリングターゲット上の亀裂(亀裂)、及び加工性
【0037】
【表2】
【0038】
実験結果の考察
表1及び表2によれば、塑性成形時の最高温度、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率、及び熱処理温度を特定の範囲内に制御することにより、実施例1~6の各Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットは特定のPt原子の量、平均粒度、及び粒度のばらつきを有しているため、特定の硬度指数を有していた。従って、実施例1~6のNi‐Pt合金スパッタリングターゲット全てのビッカース硬度は好適な範囲にあった。従って、実施例1~6のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットは変形が少なく、更に加工しても亀裂がない。よって加工性が向上し、スパッタリングターゲットの品質を高く維持できた。
これに対し、比較例1~5のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットについては、塑性成形時の最高温度、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率、及び熱処理温度のうち少なくとも1つの技術的特徴を特定の範囲内に制御しなければ、Pt原子の量と、平均粒度と、粒度のばらつきとに特定の関係は無かった。従って、比較例1~5のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの硬度指数は好適な範囲にはなかった。従って、比較例1~4では、スパッタリングターゲットの変形が大きく、加工後にスパッタリングターゲットに亀裂が発生しやすく、よってスパッタリングターゲットの加工性が低下した。比較例5については、スパッタリングターゲットの変形は少ないものの、硬度が高いため、その後の加工には失敗した。
【0039】
また、実施例2、比較例1、実施例4、及び比較例3の結果を更に参照すると、実施例2及び比較例1のPt原子の量は3%で実施例4及び比較例3のPt原子の量は7%であったが、比較例1及び比較例3の熱処理温度はそれぞれ550℃及び11000℃であり、700℃~1000℃の範囲内ではなかった。具体的には、熱処理温度550℃はNi‐Pt合金の再結晶温度よりも高くなく、熱処理温度1100℃は粒子の過成長を招いた。すなわち、比較例1及び3のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの平均粒度及び粒度のばらつきは硬度指数を100~150の範囲内にするには大きすぎてしまい、その結果、比較例1及び3のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度が低すぎてしまった。従って、比較例1及び3では、スパッタリングターゲットの変形を軽減できず、加工後のスパッタリングターゲット上に亀裂が目視で観察され、加工性が不十分であることを表していた。
【0040】
また、実施例3及び比較例2の結果を更に参照すると、実施例3と及び比較例2のPt原子の量は同一であったが、比較例2の塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率は90%未満であり、粒子微細化に十分な運動エネルギーを欠いていた。従って、比較例2のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの平均粒度及び粒度のばらつきは、硬度指数を100~150の範囲内にするには大きすぎて、比較例2のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度を低下させていた。そのため、比較例2では、加工後のスパッタリングターゲット上に亀裂が目視で観察されないにもかかわらず、スパッタリングターゲットの変形が依然として大きく、よって加工性に影響を与えていた。
【0041】
また、実施例5及び比較例4の結果を更に参照すると、実施例5及び比較例4のPt原子の量は10%であったが、比較例4の塑性成形時の最高温度は明らかに低すぎて塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率が不十分になったため、顕著な粒子微細化は得られなかった。従って、比較例4のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットの平均粒度及び粒度のばらつきは硬度指数を100~150の範囲内にするには大きすぎた。すなわち、比較例4のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度はわずか97HVであった。従って、比較例4では、スパッタリングターゲットの変形が多く、加工後のスパッタリングターゲット上に亀裂が目視で観察でき、更に加工性に影響を与えていた。
【0042】
また、比較例5を更に参照すると、比較例5の塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率のみが95%を超え、本発明が主張するような範囲内にはなかった。しかし、比較例5の硬度指数は依然として110~150の範囲内になかった。従って、比較例5のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度は最大184HVであり、よって比較例5のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットは、更に加工するにはあまり適していなかった。
【0043】
以上をまとめると、上記試験例1~3の結果によれば、本発明では、Pt原子の量、塑性成形時の最高温度、塑性成形後のNi‐Pt合金鋳塊の総還元率、及び熱処理温度などのNi‐Pt合金スパッタリングターゲット調製時の条件を制御することにより、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットのPt原子の量、平均粒度及び粒度のばらつきが特定の範囲内になり、硬度が好適なNi‐Pt合金スパッタリングターゲットが得られる技術的手段が提供される。すなわち、本発明のNi‐Pt合金スパッタリングターゲットは、スパッタリングターゲットの変形を低減し、スパッタリングターゲット上の亀裂を防止することが可能であり、具体的には、加工性を促進し、Ni‐Pt合金スパッタリングターゲットの品質を維持することが可能である。
【0044】
本発明の特徴及び利点の多くを本発明の構造及び特徴の詳細と共に上記で説明してきたが、本開示は例示的なものにすぎない。発明の原理の範囲内で、添付の特許請求の範囲に表される用語の広範な一般的意味により示される範囲全体まで、詳細に、特に部品の形状、サイズ、及び配置に関する事項について変更を加えてもよい。