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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042084
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】細胞移植装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20220307BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220307BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20220307BHJP
【FI】
A61M37/00 514
C12M1/00 A
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147277
(22)【出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真一
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C267
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029HA10
4B065AA93X
4B065BD04
4B065CA44
4C267AA80
4C267BB02
4C267BB10
4C267BB61
4C267CC04
4C267CC05
4C267DD10
4C267EE01
(57)【要約】
【課題】漏出血液による配置環境の変化を把握可能にした細胞移植装置を提供する。
【解決手段】細胞を含む移植物CMを生体内に配置するための細胞移植装置であって、開口を有して生体内に進入する先端部12Eを備え、開口から生体内に移植物CMを出す針状部12と、先端部12Eの進入先に進入して血液の存否を検知する判定部41と、を備える。判定部41は、針状部12の内部に位置する先端部を備え、開口から針状部12の内部に血液が流入したことを血液の存在として検知する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む移植物を生体内に配置するための細胞移植装置であって、
開口を有して前記生体内に進入する先端部を備え、前記開口から前記生体内に前記移植物を出す針状部と、
前記先端部の進入先に進入して血液の存否を検知する検知部と、を備える
細胞移植装置。
【請求項2】
前記検知部は、血液を採取する検知内筒を有し、
前記検知内筒は、前記先端部と共に前記生体内に進入する
請求項1に記載の細胞移植装置。
【請求項3】
前記検知部は、前記針状部の内部に位置する先端部を備え、前記開口から前記針状部の内部に血液が流入したことを前記血液の存在として検知する
請求項1または2に記載の細胞移植装置。
【請求項4】
前記検知部は、生体内に進入した状態の前記針状部における内圧の上昇を血液の存在として検知する
請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項5】
前記検知部は、前記針状部の内部に位置し、前記針状部の内部を吸引する内筒を備え、前記針状部が生体内に進入した状態の前記内筒における負圧を前記内圧の指標として検知する
請求項4に記載の細胞移植装置。
【請求項6】
前記針状部の内部に位置し、前記移植物を保持するための保持部をさらに備え、
前記検知部は、前記保持部が前記移植物を保持している期間に前記内筒による吸引を行う
請求項5に記載の細胞移植装置。
【請求項7】
前記針状部の内部に位置し、前記移植物を保持するための保持部をさらに備え、
前記内筒は、前記針状部の内部を吸引するための吸引口が形成された先端部を備え、
前記針状部の先端と前記吸引口との間の距離は、前記針状部の先端と前記保持部との間の距離よりも小さい
請求項5に記載の細胞移植装置。
【請求項8】
前記検知部は、前記内圧の上昇度合いを検知する
請求項4から7のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項9】
前記移植物は、100μm以上1000μm以下の径を有した細胞群を含む
請求項1から8のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項10】
前記移植物は、皮膚由来幹細胞を含む細胞凝集体を含む
請求項1から9のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の移植に用いられる細胞移植装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体に細胞を移植する技術は、医療や美容などの様々な分野で注目されている。毛包の形成に寄与する細胞群を皮内に移植する技術は、毛髪を再生する分野で検討されはじめている。毛包は、上皮系細胞と間葉系細胞との相互作用から形成される。良好な毛髪再生を実現する毛包は、移植後の細胞群から産生され、周期的な毛髪の形成能力を有する。毛包を産生するための細胞群の製造方法は、例えば、特許文献1から4に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/073625号
【特許文献2】国際公開第2012/108069号
【特許文献3】特開2008-29331号公報
【特許文献4】国際公開第2019-064653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、細胞群の移植に用いられる針状部は、生体内に進入して対象部位に細胞群を配置する。生体内に進入した針状部と血管との接触は、血管を傷つけて血液の漏出を生じさせることがあり得る。針状部による穿刺傷を伝う漏出血液の流れは、移植された細胞群の深さ位置や、層内における細胞群の平面位置に、大きな誤差を生じさせてしまう。また、細胞群が配置された環境を漏出血液が変えることは、細胞群の生着率や、細胞群の活性に影響を与え、細胞群の移植成功率を低下させてしまう。
【0005】
本発明の目的は、漏出血液による配置環境の変化を把握可能にした細胞移植装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための細胞移植装置は、細胞を含む移植物を生体内に配置するための細胞移植装置であって、開口を有して前記生体内に進入する先端部を備え、前記開口から前記生体内に前記移植物を出す針状部と、前記先端部の進入先に進入して血液の存否を検知する検知部と、を備える。
【0007】
上記構成によれば、針状部の進入先に検知部が進入し、移植物が配置される環境での血液の存否が検知される。これにより、針状部の進入によって血液の漏出が生じるか否かを移植物の配置前に検知すること、あるいは、移植物が配置された部位に漏出血液が存在するか否かを移植物の配置後に検知することが可能となる。
【0008】
すなわち、移植物が配置される前に、漏出血液による配置環境の変化が把握可能となる。あるいは、移植物が配置された後に、漏出血液による配置環境の変化が把握可能となる。結果として、漏出血液が検知された部位に対する移植物の配置を停止することや、漏出血液が検知された部位とは異なる部位に移植物を再配置するという処置が実施可能となる。
【0009】
上記細胞移植装置において、前記検知部は、血液を採取する検知内筒を有し、前記検知内筒は、前記先端部と共に前記生体内に進入してもよい。
上記構成によれば、漏出血液を採取する検知内筒が、針状部と共に生体内に進入するため、針状部の進入前に検知内筒が進入する構成と比べて、移植物の配置時における血液の存否を、より高い確度のもとで検知することが可能ともなる。また、検知内筒と針状部とが生体内に別々に進入する構成と比べて、血液存否の検知に要する手間が省かれる。
【0010】
上記細胞移植装置において、前記検知部は、前記開口から前記針状部の内部に血液が流入したことを前記血液の存在として検知してもよい。
上記構成によれば、針状部の内部に漏出血液が流入しているか否かが検知されるため、漏出血液が少量であっても、血液存否の検知に足りる血液が確保されやすい。結果として、血液存否の検知精度が高まる。また、漏出血液による環境変化が配置前の移植物に達しているか否かが、より高い確度のもとで把握される。
【0011】
上記細胞移植装置において、前記検知部は、生体内に進入した状態の前記針状部における内圧の上昇を血液の存在として検知してもよい。
針状部の進入による漏出血液の発生は、針状部の内部に対する血液の流入、さらには血液の流入による内圧の上昇を招く。この点、上記構成によれば、針状部における内圧の上昇が血液の存在として検知されるため、漏出血液の容量が針状部の内圧を上昇させる程度であることを検知可能とする。
【0012】
上記細胞移植装置において、前記検知部は、前記針状部の内部に位置し、前記針状部の内部を吸引する内筒を備え、前記針状部が生体内に進入した状態の前記内筒における負圧を前記内圧の指標として検知してもよい。
【0013】
針状部よりも小さい径を有した内筒における内圧の上昇は、針状部における内圧の上昇よりも高い感度のもとで、血液存否の検知を可能とする。この点、上記構成によれば、針状部とは異なる内筒を針状部の内部に備えるため、より高い感度のもとで、血液存否の検知が可能となる。また、針状部とは異なる内筒が針状部の内部を吸引するため、漏出血液が針状部の内部に広がることを抑えることが可能ともなる。
【0014】
上記細胞移植装置において、前記針状部の内部に位置し、前記移植物を保持するための保持部をさらに備え、前記検知部は、前記保持部が前記移植物を保持している状態で前記内筒による吸引を行ってもよい。
【0015】
内筒が行う吸引は、針状部の内部において移植物に負圧を作用させる。上記構成であれば、針状部の内部において移植物が保持され、移植物が保持されている期間に、内筒による吸引が行われる。そのため、針状部の内部に位置する移植物が負圧によって不要に動くことを抑えることが可能となる。
【0016】
上記細胞移植装置は、前記針状部の内部に位置し、前記移植物を保持するための保持部をさらに備え、前記内筒は、前記針状部の内部を吸引するための吸引口が形成された先端部を備え、前記針状部の先端と前記吸引口との間の距離は、前記針状部の先端と前記保持部との間の距離よりも小さくてもよい。
【0017】
生体内で発生した漏出血液は、針状部の先端から針状部の内部に流入する。上記構成によれば、移植物に対する針状部の先端側に吸引口が位置する。そのため、針状部に流入した血液が移植物まで達することを抑えることが可能となる。
【0018】
上記細胞移植装置において、前記検知部は、前記内圧の上昇度合いを検知してもよい。
漏出血液が少量であるほど、針状部における内圧の上昇度合いは小さく、反対に、漏出血液の量が多量であるほど、針状部における内圧の上昇度合いは大きい。この点、上記構成によれば、針状部における内圧の上昇度合いが検知されるため、漏出血液の量に応じた処置が実施可能となる。
【0019】
上記細胞移植装置において、前記移植物は、100μm以上1000μm以下の径を有した細胞群を含んでもよい。この構成によれば、100μm以上1000μm以下の径を有した細胞群の移植に際して、漏出血液による配置環境の変化が把握可能となる。
【0020】
上記細胞移植装置において、前記移植物は、皮膚由来幹細胞を含む細胞凝集体を含んでもよい。この構成によれば、皮膚由来幹細胞を含む細胞凝集体の移植に際して、漏出血液による配置環境の変化が把握可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る細胞移植装置によれば、漏出血液による配置環境の変化を把握可能にした細胞移植装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】細胞移植装置の一実施形態における装置構成を示す構成図。
図2】針状部の先端部における構成を拡大して示す構成図。
図3】保持部が移植物を引き込む状態を示す作用図。
図4】針状部が移植物を引き込む状態を示す作用図。
図5】検知部が漏出血液を検知する状態を示す作用図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1から図5を参照し、細胞移植装置の一実施形態を説明する。まず、細胞を含む移植物の構成を説明し、次に、移植物を移植するための細胞移植装置の構成を説明し、そして、細胞移植装置の作用を説明する。
【0024】
[移植物]
移植物は、1つの細胞、あるいは、複数の細胞から構成される細胞群を含んでもよい。移植物に含まれる細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、幹細胞性を有する細胞であってもよい。移植物に含まれる細胞群は、凝集した複数の細胞からなる集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞からなる集合体であってもよいし、分散した複数の細胞から構成されてもよい。移植物に含まれる細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とから構成されてもよいし、幹細胞性を有する細胞を含んでもよい。
【0025】
移植物に含まれる細胞群は、スフェロイドである細胞塊、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニ臓器でもよい。細胞群は、移植先に配置されて組織形成に作用してもよい。細胞群は、幹細胞性を有する細胞を含んでもよい。
【0026】
移植物に含まれる細胞群は、皮内、皮下、あるいは臓器に配置されて、所望の効果を発揮する。例えば、移植物に含まれる細胞群は、皮内または皮下に配置され、発毛または育毛に寄与する。例えば、移植物に含まれる細胞群は、皮膚領域に配置され、美容効果を発揮する。美容効果は、皮膚における皺の解消、あるいは保湿状態の改善などである。移植物に含まれる細胞群の一例は、毛包器官として機能する能力、毛包器官に分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力を有してもよい。移植物に含まれる細胞群は、毛色の制御に寄与する細胞を含んでもよいし、血管系細胞を含んでもよい。毛色の制御に寄与する細胞は、色素細胞、もしくは色素細胞に分化する幹細胞などである。
【0027】
移植物に含まれる細胞群のより具体的な一例は、皮膚由来幹細胞を含む細胞凝集体でもよい。また、移植物に含まれる細胞群のより具体的な一例は、原始的な器官原基でもよい。器官原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含んでもよい。器官原基は、毛包器官に分化する毛包原基、肝臓の原基、腎臓の原基、膵臓の原基、神経系の原基細胞、および、血管系の原基細胞でもよい。器官原基を含む移植物は、器官原基の形成方法に応じて、例えば、原基としての形状や性能を補助するための核材料、ガイドワイヤー、および、夾雑物を含んでもよい。
【0028】
移植物に含まれる毛包原基は、毛乳頭などの間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部などに位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成されてもよい。なお、間葉系細胞の由来、および上皮系細胞の由来は、毛包器官由来であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来であってもよいし、多能性幹細胞由来であってもよい。
【0029】
移植物に含まれる細胞群は、単一の構造体でもよいし、2以上の構造体でもよい。移植物に含まれる細胞群が2以上の構造体である場合、特定の細胞群について、生体内で存在している環境を模倣することが可能ともなる。また、移植物に含まれる細胞群が2以上の構造体である場合、生体機能を発現するための適切な細胞密度や培地条件を実現することが可能ともなる。また、移植物に含まれる細胞群が2以上の構造体である場合、シグナル伝達物質の存在環境などを制御することが可能ともなる。
【0030】
移植物の形状は、真球状でもよいし、楕円球状でもよいし、多段球状でもよいし、これら以外の不定形状でもよい。移植物の表面上に位置する任意の2点のなかで、最も長い2点間の距離は、移植物の長径である。移植物の表面上に位置する任意の2点のなかで、長径方向と直交する短径方向での2点間の距離は、移植物の短径である。移植物の長径は、2000μm以下でもよい。移植物に含まれる細胞群の長径方向の長さは、100μm以上1000μm以下でもよい。
【0031】
移植物は、保護液を含んでもよい。保護液は、移植物を保持することが可能な液体であり、細胞の生存を阻害し難い液体であればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の低い液体でもよい。保護液は、生理食塩水、ワセリンや化粧水などの皮膚を保護する液体、これらの液体の混合物でもよい。保護液は、栄養成分などの添加成分を含んでいてもよい。保護液は、細胞を培養するための培地であってもよいし、培地から交換された液体であってもよい。移植物は、保護液を含む液状体でもよく、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体でもよい。液状体は、ゾル状物、あるいは、ゲル状物であり得る。
【0032】
[細胞移植装置]
図1が示すように、細胞移植装置は、支持部11、針状部12、および判定部41を備える。針状部12は、移植物が通る通路である。針状部12は、生体内に進入する先端部12E(図2を参照)を備える。判定部41は、生体内における先端部12Eの進入先における血液の存否を判定する。
【0033】
先端部12Eの進入先は、移植物の配置において、先端部12Eが配置される生体内の位置である。先端部12Eの進入先は、移植物の配置において、先端部12Eが以前に配置されていた部位でもよいし、先端部12Eが現在配置されている部位でもよいし、先端部12Eが今後配置される予定の部位でもよい。先端部12Eが今後配置される予定の部位は、生体表面上において刺し込み前の先端部12Eの平面位置と、針状部12が生体内に進入し得る所定の深さと、から特定される。先端部12Eの進入先は、皮内でもよいし、皮下でもよい。
【0034】
先端部12Eの進入先における血液は、先端部12Eの進入時に、当該進入よって進入先で漏出した血液でもよいし、先端部12Eの進入前に、予定の進入先で検知時に漏出した血液でもよい。先端部12Eの進入先における血液は、先端部12Eが以前に配置された部位で漏出している血液でもよいし、先端部12Eが現在配置されている部位で漏出している血液でもよいし、先端部12Eが今後配置される予定の部位で漏出している血液でもよい。
【0035】
支持部11は、針状部12を支持する構造体である。支持部11は、針状部12と一体に構成されてもよいし、針状部12と別体に構成されてもよい。支持部11と針状部12とが別体である場合、支持部11が挿通孔を有し、当該挿通孔の開口から針状部12の先端部12Eが突き出るように、針状部12が支持部11に組み付けられてもよい。支持部11と針状部12とが一体である場合、支持部11の表面から針状部12が突き出る。針状部12の先端部12Eは、針状部12のなかで、生体内に進入する部分である。
【0036】
[針状部]
図2が示すように、針状部12が有する先細り形状は、針状部12の先端部12Eを生体内に進入させること、また、移植物を生体の内部に移送することに適している。針状部12の延在方向での針状部12の長さは、先端部12Eの進入先からの要請に応じて適宜選択される。先端部12Eの進入先が皮内である場合、針状部12の延在方向での針状部12の長さは、200μm以上でもよいし、先端部12Eの進入先が皮下である場合、針状部12の延在方向での針状部12の長さは、6mm以下でもよい。
【0037】
針状部12は、針状部12の先端部12Eに開口を区画する。針状部12が区画する開口の大きさ、および、針状部12が区画する開口の形状は、移植物の大きさや移植物の数量などからの要請に応じて、適宜選択される。なお、図1が示す例では、針状部12が円筒状を有し、かつ、針状部12の先端部12Eが針状部12の延在方向と交差する切断面で切断された楕円環状を有する。
【0038】
針状部12は、先端部12Eの開口から移植物を引き込んでもよいし、針状部12の内部に移植物を収容してもよい。例えば、針状部12は、培養装置や加工装置などの移植物の保存環境のなかに、先端部12Eの開口を配置する。針状部12は、先端部12Eの開口から針状部12の内部に向けて移植物を引き込む。針状部12は、針状部12が生体内に進入するまで、針状部12の内部に移植物を収容し続ける。
【0039】
針状部12は、先端部12Eの開口から移植物を押し出してもよいし、皮内や皮下などの生体内に移植物を配置してもよい。例えば、針状部12は、生体内に先端部12Eを進入させる。針状部12は、針状部12の内部から生体内に向けて移植物を押し出し、先端部12Eの開口を通じて、先端部12Eの進入先に移植物を配置する。
【0040】
針状部12は、先端部12Eの開口から、移植物が保持される位置まで、保護液などの流れと共に、移植物を引き込んでもよい。また、針状部12は、移植物が保持された位置から、先端部12Eの開口まで、保護液などの流れと共に、移植物を押し出してもよい。移植物が保持されるべき位置は、先端部12Eの開口近傍でもよいし、先端部12Eの開口よりも支持部11に近い位置でもよい。
【0041】
なお、移植物の保持されるべき位置が開口に近いほど、引き込みや押し出しにおいて、移植物が移動する距離は短く、移植物と針状部12との接触は抑えられる。また、針状部12の内部が平滑であるほど、移植物と針状部12との接触による負荷は抑えられる。細胞の生存率や、細胞の活性度合いを高める観点から、移植物の保持されるべき位置は、移植物が開口から露出しない範囲で、開口に近いことが好ましく、また、針状部12の内面は、平滑面であることが好ましい。
【0042】
また、針状部12の開口が大きいほど、移植物の引き込みは容易である。針状部12の内径が大きいほど、移植物と針状部12との摩擦は抑えられる。細胞の生存率や、細胞の活性度合いを高める観点では、針状部12の開口、および、針状部12の内径は、生体内の進入を円滑にする範囲のなかで、大きいことが好ましい。
【0043】
また、針状部12の開口が小さいほど、針状部12の内部に入る移植物の個数は調整されやすい。針状部12の内径が小さいほど、移植物の経路は狭められ、移植物の位置は特定されやすい。移植物における数量の精度を高める観点では、針状部12の開口、および、針状部12の内径は、移植物の移動を円滑にする範囲のなかで、小さいことが好ましい。
【0044】
また、針状部12の先端部12Eが尖鋭であるほど、針状部12の穿刺傷は小さい。血液の漏出を抑え、穿刺による痛みを軽減する観点では、針状部12の先端部12Eが尖鋭ことが好ましい。
【0045】
細胞移植装置が備える針状部12の本数は、単一でもよいし、2以上でもよい。細胞移植装置が複数の針状部12を備える場合、複数の針状部12は、幾何学格子の格子点のように規則的に並んでもよいし、不規則に並んでもよい。細胞移植装置が複数の針状部12を備える場合、第1針状部121から第n針状部12n(nは2以上の整数)は、単一の支持部11に支持されてもよいし、別々の支持部11に支持されてもよい。
【0046】
細胞移植装置が複数の針状部12を備える場合、各針状部12が移植物を同時に引き込んでもよいし、各針状部12が移植物を同時に押し出してもよい。引き込みや押し出しが複数の針状部12で同時に進められることは、細胞の移植に要する効率を高める。また、引き込みや押し出しが複数の針状部12で同時に進められることは、移植物の乾燥を抑える。
【0047】
細胞移植装置が複数の針状部12を備える場合、複数の針状部12が針状部12の配列順に従って移植物を引き込んでもよいし、複数の針状部12が針状部12の配列順に従って移植物を押し出してもよい。引き込みや押し出しが針状部12の配列順に進められることは、先の針状部12による移植の影響を、各針状部12において同一とすること、すなわち、針状部12の間での移植のばらつきを抑える。
【0048】
移植物に含まれる細胞群が発毛に寄与する場合、細胞群の移植による毛の配置は、複数の針状部12の配置によって定まる。移植物に含まれる細胞群が育毛に寄与する場合もまた、細胞群の移植による毛の配置は、複数の針状部12の配置によって定まる。移植物に含まれる細胞群が毛包原基である場合、単位面積当たりの針状部12の密度は、1本/cm以上400本/cm以下であることが好ましく、さらには、20本/cm以上100本/cm以下であることが好ましい。針状部12の密度が1本/cm以上であれば、1本ずつのきめ細かい毛髪再生が可能になる。針状部12の密度が400本/cm以下であれば、毛髪再生に要する栄養分が各細胞群に行きわたりやすい。
【0049】
針状部12は、針状部12が区画する空間内に、保持内筒13をさらに備えてもよい。
保持内筒13は、移植物を保持するための先端である保持部13Eを備える。保持内筒13は、保持内筒13の内部に保護液などの流体を流す空間を区切ってもよい。保持内筒13が区切る空間は、移植物が入らない大きさである。
【0050】
保持部13Eは、保持内筒13が延在方向と直交する環状の平面でもよいし、保持内筒13が延在方向と交差する楕円環状の平面でもよい。保持部13Eによる移植物の保持は、針状部12の内部において、移植物を所定位置に安定させる。
【0051】
保持内筒13は、針状部12の延在方向に沿って、針状部12の内部を針状部12に対して相対的に往復してもよい。保持内筒13は、突出位置と収容位置との間を往復してもよい。突出位置の保持内筒13は、針状部12の開口から針状部12の外側に、保持部13Eを突き出している。収容位置の保持内筒13は、針状部12の内部に保持部13Eを収容する。
【0052】
保持内筒13は、保持部13Eに移植物を保持していない状態で、突出位置と収容位置とを往復してもよい。保持内筒13は、保持部13Eに移植物を保持した状態で、突出位置と収容位置とを往復してもよい。保持内筒13による移植物の移動は、移植物の位置精度を高め、移植物の移動における再現性を高める。なお、図2は、収容位置の保持内筒13が、保持部13Eに移植物を保持していない状態を示す。
【0053】
細胞移植装置は、位置設定部21と圧力設定部31とを備えてもよい。
位置設定部21は、針状部12の延在方向において、保持内筒13の位置を設定する。保持内筒13の設定位置は、突出位置と収容位置とのいずれかである。細胞移植装置が複数の針状部12を備える場合、位置設定部21は、保持内筒13の位置を、保持内筒13ごとに設定してもよいし、複数の保持内筒13の位置を一括して設定してもよい。位置設定部21は、複数の保持内筒13を一括して往復させてもよいし、各保持内筒13を別々に往動させてもよい。
【0054】
位置設定部21は、支持部11を介して、保持内筒13と接続されてもよいし、支持部11を介さず、保持内筒13と直接接続されてもよい。
位置設定部21は、保持内筒13に駆動力を伝える。駆動力は、保持内筒13の往動力、あるいは、保持内筒13の復動力である。駆動力は、位置設定部21と保持内筒13との間の伝達路を通じ、位置設定部21から保持内筒13に伝わる。なお、複数の保持内筒13の往復が一括して設定される場合、位置設定部21と各保持内筒13とは、保持内筒13ごとの伝達路を介して接続されてもよいし、単一の伝達路を介して接続されてもよい。
【0055】
圧力設定部31は、保持内筒13の内圧を設定する。保持内筒13の内圧は、移植物を保持部13Eに引き付けるための負圧でもよいし、移植物を保持部13Eから離脱させるための正圧でもよい。細胞移植装置が複数の針状部12を備える場合、圧力設定部31は、保持内筒13の内圧を、保持内筒13ごとに設定してもよいし、複数の保持内筒13に対し一括して設定してもよい。圧力設定部31は、複数の保持部13Eで移植物を一括して引き付けてもよいし、保持部13Eごとに移植物を引き付けてもよい。圧力設定部31は、複数の保持部13Eで移植物を一括して離脱させてもよいし、保持部13Eごとに移植物を離脱させてもよい。
【0056】
圧力設定部31は、支持部11を介して、保持内筒13と接続されてもよいし、支持部11を介さず、保持内筒13と直接接続されてもよい。
圧力設定部31は、保持内筒13に作動圧を伝える。作動圧は、保持内筒13の内圧となる負圧、あるいは、保持内筒13の内圧となる正圧である。作動力は、位置設定部21と保持内筒13との間の伝播路を通じ、位置設定部21から保持内筒13に伝わる。なお、複数の保持内筒13の内圧を一括して設定する場合、圧力設定部31と各保持内筒13とは、保持内筒13ごとの伝播路を介して接続されてもよいし、単一の伝播路を介して接続されてもよい。
【0057】
[検知部]
検知部は、先端部12Eの進入先に進入する進入部と、進入部の進入を通じて進入先における血液の存否を判定する判定部41とを備える。検知部は、先端部12Eの進入先における血液の存否を検知する。
細胞移植装置が複数の針状部12を備える場合、検知部は、針状部12ごとの進入部を備えて、先端部12Eの進入先における血液の存否を、針状部12ごとに検知する。判定部41は、第1針状部121の先端部12Eの進入先における血液の存否を検知し、当該検知とは別に、第n針状部12nについて先端部12Eの進入先における血液の存否を検知する。
【0058】
判定部41は、各針状部12nにおける血液の存否を、検知結果DEとして出力する。
細胞移植装置が複数の針状部12を備える場合、判定部41は、針状部12の識別情報を記憶してもよい。針状部12の識別情報は、当該針状部12を他の針状部12から識別するための情報である。検知結果DEは、血液の存在が検知された針状部12の識別情報から構成されてもよい。また、検知結果DEは、針状部12の識別情報と、当該針状部12における血液の存否と、を対応づけたデータでもよい。検知結果DEは、血液の存在が検知された針状部12を外部装置で把握できるデータであればよい。
【0059】
検知結果DEを読み取る外部装置は、血液の存在が検知されたことを利用者に報知してもよい。検知結果DEを読み取る外部装置は、血液の存在が検知された針状部12の位置を利用者に報知してもよい。検知結果DEを読み取る外部装置は、血液の存在が検知された針状部12を特定し、当該針状部12による別の部位での移植や、他の針状部12による別の部位での移植を、利用者に促してもよい。
【0060】
検知部を構成する進入部は、支持部11を介して、針状部12に接続されてもよいし、支持部11を介さず、針状部12に直接接続されてもよい。
検知部は、伝送路を備えてもよい。伝送路は、進入部と、検知部の処理系である判定部41とを流体的に接続していてもよい。これにより、伝送路は、先端部12Eの進入先で漏出した血液を、先端部12Eから検知部の処理系まで伝送してもよい。伝送路は、進入部と、検知部の処理系である判定部41とを電気的に接続していてもよい。これにより、伝送路は、先端部12Eの進入先に血液が漏出したか否かを示す信号を、針状部12の先端部12Eから検知部の処理系まで伝送してもよい。検知部が備える伝送路の本数は、針状部12の本数と同数でもよい。
【0061】
先端部12Eの進入先は、先端部12Eが実際に進入した部位でもよい。検知部が検知する血液の漏出は、先端部12Eが実際に進入した部位での漏出でもよい。先端部12Eが実際に進入した部位を、血液検知の対象とする場合、先端部12Eが進入しているときに、当該進入先に、検知部が備える進入部もまた進入してもよい。あるいは、先端部12Eが進入した後の進入先に、検知部が備える進入部が進入してもよい。
【0062】
先端部12Eの進入先は、先端部12Eの進入が予定された部位でもよい。検知部が検知する血液の漏出は、先端部12Eの進入が予定された部位での漏出でもよい。先端部12Eの進入が予定された部位は、生体表面上における先端部12Eの平面位置と、針状部12が生体内に進入し得る所定の深さと、から特定される。検知部が備える進入部は、特定された進入先に進入し、進入先で血液が漏出しているか否かを検知してもよい。
【0063】
検知部は、進入部の一例として検知内筒14を備えてもよい。
検知内筒14は、血液を採取する端部である。検知内筒14は、針状部12の外部に位置する細管でもよいし、針状部12の内部に位置する細管でもよい。検知内筒14は、血液を通すための細い空間を、針状部12の内部、あるいは、針状部12の外部にさらに区切る。検知内筒14は、針状部12に固定されてもよいし、針状部12の延在方向に針状部12に対して移動してもよい。
【0064】
検知内筒14の下端は、検知部の先端部であって、進入部の先端部でもある。検知内筒14の下端は、吸引口14Eである。吸引口14Eは、検知内筒14のなかで、針状部12の先端部12Eに最も近い。針状部12の生体進入によって血液の漏出が生じるとき、針状部12の先端部12Eは、針状部12の内部に向けて漏出血液を導く。検知内筒14の吸引口14Eは、針状部12の内部において、先端部12Eの近傍に位置し、こうした漏出血液に触れやすい。検知内筒14の吸引口14Eは、針状部12に流入する血液の存否を検知しやすく、これにより、漏出した血液が少量であっても、血液存否を検知することが可能となる。
【0065】
検知内筒14の吸引口14Eは、先端部12Eの進入先まで、先端部12Eと共に進入してもよい。検知内筒14の吸引口14Eは、先端部12Eが生体内に進入した後に、当該先端部12Eの位置に進入してもよい。あるいは、検知内筒14の吸引口14Eは、先端部12Eと共に進入先に進入してもよい。また、検知内筒14の吸引口14Eは、先端部12Eが進入を予定する進入先に、先端部12Eに先駆けて進入してもよい。
【0066】
検知部は、吸引部、および、判定部の一例として圧力検知部を備えてもよい。
検知部が備える吸引部は、検知内筒14が区切る空間に負圧を形成し、漏出した血液などの液体を吸引口14Eから吸引する。検知部が備える圧力検知部は、検知内筒14が区切る空間で、血液による圧力変動を検知する。検知部が備える圧力検知部は、検知内筒14における内圧の変動、すなわち、針状部12における内圧の変動を検知してもよい。
【0067】
針状部12の進入による血液の漏出は、針状部12の内部に対する血液の流入、さらには、血液の流入による内圧の上昇を招く。針状部12における内圧の上昇は、検知内筒14における内圧の上昇を招く。検知内筒14における内圧の上昇は、血液の存在として、判定部41に判定される。
【0068】
針状部12の内圧が変動したことに基づく血液存否の検知は、針状部12の内圧を変える程度の少ない血液の存否を検知する。検知内筒14の内径は、針状部12の内径よりも十分に小さい。そのため、検知内筒14の内圧が変動したことに基づく血液存否の検知は、検知内筒14の内圧を変える程度のさらに少ない血液量、すなわち、非常に少量の血液量の存否を検知可能とする。また、検知内筒14の内圧変動は、針状部12の内圧変動よりも、高い感度で検知されやすい。
【0069】
検知内筒14の吸引口14Eは、収容位置における保持内筒13の保持部13Eよりも、針状部12の下端に近くてもよい。生体内で発生した漏出血液は、針状部12の下端から針状部12の内部に流入する。針状部12に流入した血液は、移植物に達する前に、吸引口14Eから吸引される。そして、血液が移植物に到達しているか否かを、より高い確度のもとで把握することが可能ともなる。
【0070】
針状部12の先端部12Eにおける最下端と、検知内筒14の吸引口14Eと、の間の距離は、針状部12の延在方向において、吸引距離L2である。収容位置における保持内筒13の保持部13Eと、検知内筒14の吸引口14Eと、の間の距離は、針状部12の延在方向において、収容距離L3である。なお、移植物の短軸方向における移植物の長さは、移植物の短径である。移植物の長軸方向における移植物の長さは、移植物の長径である。
【0071】
吸引距離L2は、移植物の長径よりも短くてもよいし、移植物の短径よりも短くてもよい。生体内で発生した漏出血液は、検知内筒14の吸引口14Eに到達するまでに、少なくとも吸引距離L2の移動を要する。吸引距離L2が短いほど、血液存否の検知時期を速めることが可能となる。また、吸引距離L2が短いほど、血液存否の検知精度を高めることが可能ともなる。
【0072】
収容距離L3は、移植物の短径よりも長くてもよいし、移植物の長径よりも長くてもよい。生体内で発生した漏出血液は、検知内筒14の吸引口14Eを通過し、吸引口14Eよりも針状部12の奥側に流入し得る。吸引距離L2が長いほど、血液と移植物との接触を抑えることが可能ともなる。
【0073】
[作用]
細胞移植装置を用いた細胞移植は、移植物の収容、および移植物の配置を含む。以下では、保持内筒13を備えた細胞移植装置を用いる細胞移植の例を示す。細胞移植装置が備える制御部は、位置設定部21、圧力設定部31、および判定部41の駆動を制御し、移植物の収容、および移植物の配置を構成する下記(A)、(B1)、(B2)、(C)、(D)の各動作を実行する。
【0074】
移植物の収容は、(A)保持内筒13の突出、(B1)保持部13Eの吸引、および(C)保持内筒13の収容を含む。
移植物の配置は、(A)保持内筒13の突出、(B2)保持部13Eの排出、(C)保持内筒13の収容、および、(D)血液存否の検知を含む。
【0075】
(D)血液存否の検知は、(A)保持内筒13の突出前に行われてもよいし、(A)保持内筒13の突出後から(B2)保持部13Eの排出前までに行われてもよい。(D)血液存否の検知は、(B2)保持部13Eの排出後から(C)保持内筒13の収容前までに行われてもよいし、(C)保持内筒13の収容後に行われてもよい。
【0076】
[収容動作]
図3が示すように、細胞移植装置は、移植物CMの収容として、まず、保持内筒13を収容位置に配置する。次いで、細胞移植装置では、針状部12が移植物CMの環境に配置される。移植物CMの環境は、移植物CMが保存される培養環境、移植物CMが加工される加工環境のなどである。そして、細胞移植装置は、移植物CMの収容として、(A)保持内筒13の突出、(B1)保持部13Eの吸引、および(C)保持内筒13の収容を、(A)、(B1)、(C)の順に行う。
【0077】
まず、細胞移植装置は、保持内筒13を収容位置から突出位置に移動する。突出位置の保持内筒13は、針状部12の開口を通じ、先端部12Eの外側に保持部13Eを突き出す。先端部12Eから突き出た保持部13Eは、移植物CMの環境に配置されている。
【0078】
次に、細胞移植装置は、圧力設定部31を用い、保持内筒13の内部に負圧を形成する。保持内筒13の内部に形成された負圧は、保持部13Eを通じて、移植物CMに作用する。負圧を受けた移植物CMは、保持部13Eに引き付けられる。保持内筒13の内部に形成される負圧は、移植物CMに負圧を加え続け、保持部13Eに移植物CMを保持し続ける。
【0079】
次いで、図4が示すように、細胞移植装置は、保持内筒13を突出位置から収容位置に戻す。保持内筒13の保持部13Eは、針状部12の開口を通じ、針状部12の内部に移動する。この間、細胞移植装置は、圧力設定部31を用い、保持内筒13の内部に負圧を形成し続ける。保持内筒13の内部に形成された負圧は、保持部13Eを通じて、移植物CMに作用し、移植物CMの保持を続ける。
【0080】
[配置動作]
図5が示すように、細胞移植装置は、移植物CMの配置として、まず、移植先となる生体SAの内部に、針状部12を配置する。この際、細胞移植装置は、針状部12の先端部12Eを生体SAの内部に進入させると共に、検知内筒14の吸引口14Eも生体SAの内部に進入させる。これにより、細胞移植装置は、検知内筒14の吸引口14Eを先端部12Eの進入先に配置する。
【0081】
次いで、細胞移植装置は、移植物CMの配置として、(A)保持内筒13の突出、(B2)保持部13Eの排出、および(C)保持内筒13の収容を、(A)、(B2)、(C)の順に行う。以下では、細胞移植装置の一例として、移植物CMの配置に含まれる(D)血液存否の検知を(A)保持内筒13の突出に先駆けて実施する例を示す。
【0082】
まず、(D)血液存否の検知において、判定部41は、検知内筒14の内圧上昇が存否するか否かを判定する。検知内筒14における内圧上昇の存否は、毛細血管CPにおける漏出血液の存否を示す。例えば、針状部12の配置によって血液が漏出していない場合、検知内筒14の内圧上昇は、検知部によって検知されない。これに対し、針状部12の配置によって血液が漏出している場合、検知内筒14の内圧上昇は、検知部によって検知される。これにより、先端部12Eの進入による血液漏出が、検知部によって検知される。
【0083】
この際、先端部12Eと吸引口14Eとの間の距離である吸引距離L2は、移植物CMの短径以下に短く、これにより、漏出血液が吸引口14Eに到達することを速める。すなわち、検知内筒14における内圧上昇の検知時期を速める。
【0084】
また、保持部13Eと吸引口14Eとの間の距離である収容距離L3は、移植物CMの長径以上に長く、これにより、漏出血液が移植物CMに到達することを遅らせる。加えて、漏出血液が移植物CMに到達することを、吸引口14Eの吸引によって一層に遅らせる。
【0085】
さらに、検知内筒14の内径は、針状部12よりも十分に小さく、これにより、漏出血液が少量であっても、漏出血液による大きな圧力変動を生じさせて、内圧変動の検知精度を高める。すなわち、検知内筒14の小さい内径は、血液存否の検知精度を高める。
【0086】
なお、血液の存在が検知された場合、細胞移植装置の利用者は、例えば、漏出血液が検知された進入先に対し、移植物CMの配置を停止する。あるいは、細胞移植装置の利用者は、例えば、漏出血液が検知された進入先とは異なる他の進入先に、移植物CMを再配置する。一方で、漏出血液が検知されなかった場合、細胞移植装置の利用者は、血液の不存在が検知された進入先に対し、細胞移植装置に、上記(A)、(B2)、(C)の順に、移植物CMの配置を続けさせる。
【0087】
まず、細胞移植装置は、保持内筒13を収容位置から突出位置に移動する。突出位置の保持内筒13は、針状部12の開口を通じ、先端部12Eの外側に保持部13Eを突き出す。先端部12Eから突き出た保持部13Eは、移植物CMを保持した状態で、生体内の環境に配置されている。
【0088】
次に、細胞移植装置は、圧力設定部31を用い、保持内筒13の内部に正圧を形成する。保持内筒13の内部に形成された正圧は、保持部13Eを通じて、移植物CMに作用する。正圧を受けた移植物CMは、保持部13Eから離れて、生体内に配置される。
【0089】
そして、細胞移植装置は、保持内筒13を突出位置から収容位置に戻す。保持内筒13の保持部13Eは、移植物CMをその配置先に残し、針状部12の開口を通じ、針状部12の内部に戻る。
【0090】
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)針状部12の進入先に検知部の進入部が進入し、移植物CMの配置前における環境での血液の存否が検知される。結果として、漏出血液が検知された進入先に対し移植物CMの配置を停止することや、漏出血液が検知された進入先とは異なる部位に移植物を再配置するという処置が実施可能となる。
【0091】
(2)針状部12と検知内筒14とが生体内に同時に進入するため、検知内筒14のみが先行して進入する構成と比べて、移植物CMの配置直前における環境での血液の存否が、より高い確度のもとで検知される。また、検知内筒14と針状部12とが別々に進入する構成と比べて、血液存否の検知に要する手間が省かれる。
【0092】
(3)細胞移植装置は、針状部12に血液が流入しているか否かを検知する。そのため、細胞移植装置は、漏出血液が仮に少量であっても、血液存否の検知に足りる血液量を確保しやすく、血液存否の検知精度を向上可能としている。
【0093】
(4)細胞移植装置は、移植物CMを収容している針状部12に血液が流入しているか否かを検知する。すなわち、細胞移植装置は、漏出した血液が移植物CMに到達しているか否かを推定可能ともなる。加えて、細胞移植装置は、移植物CMよりも針状部12の先端側に位置する吸引口14Eに、移植物CMに向けて広がる血液を吸引させる。そのため、細胞移植装置は、血液が移植物CMに到達することを、血液存否の検知に用いる吸引によって抑える。
【0094】
(5)細胞移植装置は、検知内筒14に血液が流入しているか否かを、血液存否の検知対象とする。そのため、血液が少量であっても、血液存否の検知に足りる血液量が確保されやすい。結果として、針状部12の内圧上昇の有無を検知する構成と比べて、さらに血液存否の検知精度を高めることが可能ともなる。また、検知内筒14の内圧上昇が血液の存在として検知されるため、検知内筒14の内圧上昇を招く程度に漏出血液が多いことを検知することができる。
【0095】
(6)細胞移植装置は、針状部12の内部において移植物CMを保持している期間に、血液存否の検知に要する吸引を行う。血液存否の検知に要する吸引力は、針状部12の内部に位置する移植物CMに少なからず作用する。この点、保持内筒13の保持部13Eが移植物CMを保持する構成であれば、移植物CMの位置が吸引によってずれることが抑えられる。結果として、移植物CMの配置を血液存否の検知後に円滑に進めることが可能ともなる。
【0096】
(7)細胞移植装置は、移植物CMの配置前に、特に、(A)保持内筒13の突出前に、検知部による血液存否の検知を実行する。そして、移植物CMの配置前に血液の存在が検知された場合、血液の存在下に移植物CMを突き出すことを停止することが可能ともなる。また、移植物CMの配置前に血液の不存在が検知された場合にのみ、移植物CMを配置すること、すなわち、血液の不存在下にのみ移植物CMを配置することが可能ともなる。
【0097】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。
[検知時期]
・細胞移植装置は、針状部12の進入前に、検知部による血液存否の検知を実行してもよい。例えば、細胞移植装置は、生体表面に針状部12を配置し、針状部12よりも先に、検知内筒14を生体内に刺し込む。次いで、細胞移植装置は、血液不存在の検知に基づいて、針状部12を生体内に刺し込んでもよい。
【0098】
この構成によっても、針状部12の進入先に検知部の進入部は進入し、移植物CMが配置される環境での血液の存否が検知される。これにより、針状部12の進入によって血液の漏出が生じるか否かを、針状部12に代わる進入部の進入によって、移植物CMの配置前に検知することが可能となる。
【0099】
なお、上記(3)にて説明したように、検知内筒14が針状部12と共に生体内に進入する構成であれば、移植物CMの配置時における血液の存否を、より高い確度のもとで検知することが可能ともなる。
【0100】
・検知部は、(A)保持内筒13の突出後、かつ(B2)保持部13Eの排出前に、血液存否の検知を行ってもよいし、(B2)保持部13Eの排出後、かつ(C)保持内筒13の収容前に、血液存否の検知を行ってもよい。さらに、検知部は、(C)保持内筒13の収容後に、血液存否の検知を行ってもよい。これら各構成であっても、上記(1)から(6)に準じた効果を得ることは可能である。
【0101】
なお、上記(7)に記載の通り、移植物CMの配置前に、特に、(A)保持内筒13の突出前に、血液存否の検知が行われる構成であれば、血液の不存在下にのみ移植物CMを配置することが可能であり、血液の存在下に移植物CMを突き出すことを停止することが可能ともなる。
【0102】
[内筒]
・細胞移植装置は、保持内筒13を割愛してもよい。保持内筒13を割愛した細胞移植装置は、保持内筒13の引き込みによる移植物CMの保持に代えて、針状部12の内部を吸引し、これによって、針状部12の内部に移植物CMを収容してもよい。また、細胞移植装置は、保持内筒13の押し出しによる移植物CMの配置に代えて、針状部12の内部から流体を押し出し、これによって、移植物CMを配置してもよい。そして、細胞移植装置は、移植物CMが針状部12の内部に収容されている状態で、検知内筒14の吸引による血液存否の検知を行ってもよい。この構成であっても、上記(1)から(5)に準じた効果は得られる。
【0103】
・細胞移植装置は、検知内筒14を割愛してもよい。検知内筒14を割愛した細胞移植装置は、検知内筒14の吸引による血液存否の検知に代えて、電気的な特性の変化による血液存否の検知を行ってもよい。あるいは、化学的な試薬による光学的な変化を血液存否の検知に適用してもよい。例えば、検知部を構成する進入部は、先端部12Eの進入先に進入する電気的な端子を備え、当該端子が計測する流体の電気的な特性の変化に基づいて、検知部を構成する判定部41が、先端部12Eの進入先における血液の存否を判定してもよい。例えば、検知部を構成する進入部は、血液との接触によって光学的に変化する化学的な端子を備え、当該端子における光学的な変化に基づいて、検知部を構成する判定部が、先端部12Eの進入先における血液の存否を判定してもよい。こうした構成であっても、上記(1)から(4)に準じた効果は得られる。
【0104】
[内圧]
・検知部は、検知内筒14における内圧の変動を検知することに代えて、あるいは、検知内筒14における内圧の変動を検知することと共に、針状部12における内圧の変動を検知してもよい。すなわち、針状部12は、検知部を構成する進入部を兼ねてもよい。検知内筒14の吸引口14Eが漏出血液を吸引する場合であれ、検知内筒14の吸引口14Eが漏出血液を吸引しない場合であれ、漏出血液が針状部12の内部に入る以上、針状部12の内圧は少なからず変動する。針状部12における内圧の変動を検知することは、検知内筒14における検知と同じく、針状部12の進入による血液の漏出を検知することを可能とする。また、検知内筒14における検知、および、針状部12における検知を並行させる構成であれば、血液が漏出したことの検知の精度を高めることが可能ともなる。
【0105】
なお、上記(4)に記載の通り、検知内筒14の吸引口14Eが血液を吸引する構成であれば、移植物CMに向けて広がる血液が吸引されるため、漏出した血液が移植物CMに到達することを、検知に用いる吸引によって抑えることが可能ともなる。
【0106】
・検知部は、針状部12の内圧が変わったか否かに限らず、針状部12における内圧の変化量、すなわち針状部12における内圧の上昇度合いを検知してもよい。また、検知部は、検知内筒14の内圧が変わったか否かに限らず、検知内筒14における内圧の変化量、すなわち検知内筒14における内圧の上昇度合いを検知してもよい。
【0107】
漏出血液が少量であるほど、針状部12における内圧の上昇度合いは小さく、検知内筒14における内圧の上昇度合いも小さい。反対に、漏出血液の量が多量であるほど、針状部12における内圧の上昇度合いは大きく、検知内筒14における内圧の上昇度合いも大きい。針状部12における内圧の上昇度合い、あるいは検知内筒14における内圧の上昇度合いが検知される構成であれば、漏出血液の量を把握させることが可能であって、漏出血液の量に応じた処置が実施可能ともなる。
【符号の説明】
【0108】
CM…移植物
L2…吸引距離
L3…収容距離
11…支持部
12…針状部
12E…先端部
13…保持内筒
13E…保持部
14…検知内筒
14E…吸引口
21…位置設定部
31…圧力設定部
41…判定部
図1
図2
図3
図4
図5