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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042121
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】不織布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/16 20060101AFI20220307BHJP
   B01D 39/16 20060101ALN20220307BHJP
   B03C 3/28 20060101ALN20220307BHJP
【FI】
D04H3/16
B01D39/16 A
B03C3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147363
(22)【出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000187046
【氏名又は名称】東レ・ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】武田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】平原 武彦
【テーマコード(参考)】
4D019
4D054
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA13
4D019BB03
4D019BC01
4D019BD01
4D019CB06
4D019DA03
4D054AA11
4D054BC01
4D054BC16
4L047AA13
4L047AA14
4L047AA19
4L047AB07
4L047BA09
4L047BB02
4L047CA19
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】シートの目付斑が少なく、均一であり、ダストの漏れが少ない不織布を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂の繊維からなり、目付が50g/m2以下の白色の不織布であって、特性(1)前記不織布に黒色台紙を重ねて撮像した256階調の画像データを、閾値240で2値化処理したとき、白色の面積割合が95%以上、特性(2)塩化ナトリウム粒子の捕集効率の最小値が99.5%以上、特性(3)前記捕集効率が最小値であるときの吸気抵抗が65Pa以下、のすべてを満たす、不織布。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の繊維からなり、目付が50g/m2以下の白色の不織布であって、以下の特性(1)~(3)を満たす、不織布。
(1)前記不織布に黒色台紙を重ねて撮像した256階調の画像データを、閾値240で2値化処理したとき、白色の面積割合が、95%以上、
(2)塩化ナトリウム粒子の捕集効率の最小値が、99.5%以上、
(3)前記捕集効率が最小値であるときの吸気抵抗が65Pa以下。
【請求項2】
前記不織布が、1層構造である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記不織布が、帯電防止加工されている、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項4】
メルトブロー法を用いて、口金から溶融した熱可塑性樹脂を、吐出量700~1000g/分のメルトブロー繊維流として、1000~1300Nm3/hrの加熱圧縮空気と共に、捕集ドラムの回転方向の逆向きに噴射させる、請求項1~3のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、極細繊維からなる不織布は、各種フィルターやマスクに用いられており、繊維径の小さい繊維で形成された不織布は、微粒子の捕捉性に優れていることから、液体フィルター、エアフィルター、マスクに適用されている。特に、溶融した熱可塑性樹脂を紡糸して製造するメルトブロー不織布については、その特性を活かし様々な用途に用いられている。とりわけマスクについては、ダスト捕集性能が優れることに加え、装着時の通気性(息苦しさの低減)や、フィット感が良好なことが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、不織布を形成する繊維の配向度を規定したメルトブロー不織布が提案されているが、配向度を制御することで、プリーツ加工時のシートの破れを防ぐことはできるものの、マスクとしてのダスト捕集性能が必ずしも十分には得られていない。
【0004】
特許文献2には、不織布を形成する繊維の直交率を規定したメルトブロー不織布が提案されているが、荷重によりシートが変形し、耐水圧が低下することは抑制できるものの、耐水圧が高いため、マスクとしての通気性が得られず好ましくない。
【0005】
特許文献3には、帯電不織布を積層させたマスクが提案されているが、目付が高くなおかつ積層させるため、重量があり、製造コストが高くなることや、マスクとして装着した際、疲労感を早く感じ、好ましくない。
【0006】
特許文献4には、マスクの形態に特徴を持たせることで、折り畳み可能なマスクが提案されているが、マスクとしての捕集性能が十分に得られず好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-183327号公報
【特許文献2】特開2019-112757号公報
【特許文献3】特許第5475541号公報
【特許文献4】特表2018-500467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消すると共に、シートの目付斑が少なく、均一であり、ダストの漏れが少ない不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の不織布は、熱可塑性樹脂の繊維からなり、目付が50g/m2以下の白色の不織布であって、以下の特性(1)~(3)を満たす、ことを特徴とする。
(1)前記不織布に黒色台紙を重ねて撮像した256階調の画像データを、閾値240で2値化処理したとき、白色の面積割合が、95%以上、
(2)塩化ナトリウム粒子の捕集効率の最小値が、99.5%以上、
(3)前記捕集効率が最小値であるときの吸気抵抗が65Pa以下。
【発明の効果】
【0010】
本発明の不織布によれば、シートの目付斑が少なく、均一であり、ダストの漏れが少ない不織布が得られる。
【0011】
本発明の不織布は、1層構造であるとよく、また帯電防止加工されているとよい。
本発明の不織布の製造方法は、メルトブロー法を用いて、口金から溶融した熱可塑性樹脂を、吐出量700~1000g/分のメルトブロー繊維流として、1000~1300Nm3/hrの加熱圧縮空気と共に、捕集ドラムの回転方向の逆向きに噴射させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(1)~(6)は、不織布シートの画像データを2値化処理する手順を示す説明図である。
図2図2は、本発明の不織布の製造方法の概要を模式的に例示する側面図である。
図3図3は、従来の不織布の製造方法の概要を模式的に説明する側面図である。
図4図4は、実施例1および比較例1の不織布シートを2値化処理した際の白の割合を示したものである。
図5図5は、実施例における不織布の塩化ナトリウム粒子捕集効率の経時変化のグラフである。
図6図6は、実施例における不織布の塩化ナトリウム粒子の捕集試験時に測定した吸気抵抗の経時変化のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の不織布は、熱可塑性樹脂の繊維からなり、目付が50g/m2以下の白色の不織布であって、特性(1)前記不織布に黒色台紙を重ねて撮像した256階調の画像データを、閾値240で2値化処理したとき、白色の面積割合が95%以上、特性(2)塩化ナトリウム粒子の捕集効率の最小値が99.5%以上、特性(3)前記捕集効率が最小値であるときの吸気抵抗が65Pa以下、のすべてを満たす。以下、本発明の不織布をさらに具体的に述べる。
【0014】
不織布を構成する繊維は、熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、例えばポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド等を用いることができる。なかでもポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
【0015】
ポリプロピレン樹脂は、通常、不織布に用いられるものを使用することができるが、後述するメルトブロー法によって製造する場合には、MFR(メルトフローレート)が10g/10分以上3000g/10分以下の範囲にあることが好ましい。樹脂の物性値を示すMFRは、JIS K7210-1の標準的試験方法により測定される。ポリプロピレン樹脂については、測定条件2.16kg、230℃(JIS K6921-2においてポリプロピレン樹脂について定められた条件)として測定した値である。
【0016】
熱可塑性樹脂からなる繊維は、その平均繊維径が好ましくは0.1~8.0μm、より好ましくは0.5~6.5μm、更に好ましくは1.0~5.0μmである。平均繊維径が8.0μmを超えると不織布のポアサイズが大きくなり捕集性能が低下することがある。また平均繊維径が0.1μm未満であると、繊維の破断強度が不足し、プリーツ加工などの際に破れやすくなる。
【0017】
不織布は、目付が50g/m2以下、好ましくは45g/m2以下、より好ましくは40g/m2以下である。日付が50g/m2より大きくなると、製造時のコストが高くなることや、マスクとして装着した際、重量が重く、疲労感を早く感じ、好ましくない。また目付が好ましくは10g/m2以上、より好ましくは15g/m2以上であるとよい。日付が10g/m2より低いと捕集性能が低下することがある。
【0018】
不織布は、不織布シートに黒色台紙を重ねて撮像し、得られた256階調の画像データを、閾値240で2値化処理したとき、白色の面積割合が95%以上、好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上である。95%より少ない場合は不織布を構成する繊維分散の疎密斑が大きくなり、繊維密度が粗の部分からダストが漏れることとなる。すなわち、繊維密度が粗の部分では不織布が透けて裏側に重ねた黒色台紙に起因し、黒色面積の割合が増え、白色の面積割合が減少する。
【0019】
図1(1)~(6)により、不織布シートの画像データを取得し2値化処理する手順の概要を説明する。先ず、不織布シート(1m×1m)を目視にて観察し、不織布シートの濃淡を確認し、最も繊維密度が濃い部分、薄い部分、その中間程度の部分3点を選択し、各々直径113mmの円形サンプルとして切り出す。繊維密度の粗密を目視判定できないとき、任意の3点を選択してよい。円形サンプル1をスキャナー上に置き、その上に黒色台紙2を重ね、300dpi、256階調でスキャニングし画像データを撮像する(図1(1)参照)。得られた画像データを、WoodybellsのJTrim(v1.53c)のソフトウェアを用いて、円形サンプル1に外接する一辺133mm(1570dot四方)の正方形画像3(図1(1)の点線部分)に切り抜く(図1(2)参照)。得られた正方形画像3の中央部を一辺113mmのサイズ(1335dot四方)の正方形画像4(図1(3)の点線部分)に切り抜く(図1(4)参照)。さらに得られた正方形画像4に内接する直径1335dotの円形の画像データ1”(図1(5)の点線部分)を得る(図1(6)参照)。この円形画像データ1”は、塩化ナトリウム粒子の捕集試験の有効櫨過面積100cm2とほぼ同じ面積を有する。得られた円形画像データに外接する正方形画像5(図1(6)参照)に基づき、0~255の256段階の閾値240で2値化処理を行う。その2値化処理したデータをもとに白と黒の色差ヒストグラムを作成し、黒色(レベル0)の画素数、白色(レベル255)の画素数を読み取る。なお正方形画像5のうち、内接する円形画像データ1”の外側の四隅6の画素数は、不織布の画像データではないため、以下の計算式により、不織布の白色の面積割合を算出する。
白色の面積割合(%)=[白色面積/(白色面積+黒色面積-四隅の面積)]×100
【0020】
不織布は、塩化ナトリウム粒子の捕集効率の最小値が99.5%以上である。塩化ナトリウム粒子の捕集効率の最小値が99.5%未満であると、不織布の十分な櫨過精度が得られず、ダストが不織布を通過するおそれがある。塩化ナトリウム粒子の捕集効率の最小値は好ましくは99.6%以上、より好ましくは99.7%以上である。本明細書において、塩化ナトリウム粒子の捕集効率は、「防じんマスクの規格」(平成12年9月11日労働省告示第88号)第6条に記載されている塩化ナトリウム粒子による試験方法に準じて行い、塩化ナトリウム粒子の供給量に対する捕集効率を経時で測定し、得られた経時的変化のデータにおいて、捕集効率の値が最も低い値を塩化ナトリウム捕集効率の最小値とする。
【0021】
不織布は、塩化ナトリウム粒子の捕集効率が最小値であるときの吸気抵抗が65Pa以下である。吸気抵抗値が65Paより高くなると、通気性が悪化し、例えばマスクでは装着した際、息苦しくなり好ましくない。塩化ナトリウム粒子の捕集効率の最小値であるときの吸気抵抗は、63Pa以下がより好ましく、60Pa以下がさらに好ましい。本明細書において、不織布の吸気抵抗は、塩化ナトリウム粒子の捕集試験時に、コスモ計器社製差圧計(DP-330)を用いて、サンプルの上流側と下流側の差圧(Pa)を経時で測定し、得られた経時的変化のデータにおいて、捕集効率が最小値を示すときの吸気抵抗を求める。
【0022】
不織布は、1層からなる不織布が好ましい。複数の不織布を積層させると、製造時のコストが高くなり、積層する際、シワが発生し櫨過面積が減少することや、マスクとして装着した際、積層により重量が重くなり、好ましくない。
【0023】
不織布は、不織布の表面および内部に電荷を付与したもの、いわゆるエレクトレット加工を施したものが好ましい態様である。不織布に電荷を付与する方法としては、コロナ放電法、純水サクション法、および摩擦帯電法等の方法が挙げられる。
特に、エレクトレット添加剤として、ヒンダードアミン系化合物およびトリアジン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のエレクトレット添加剤が含まれていることが好ましい態様である。
【0024】
ヒンダードアミン系化合物としては、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASF・ジャパン社製、“キマソープ”(登録商標)944LD)、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物(BASF・ジャパン社製、“チヌビン"(登録商標)622LD)、および2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(BASF・ジャパン社製、“チヌビン"(登録商標)144)などが挙げられる。
【0025】
また、トリアジン系化合物としては、前述のポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASF・ジャパン社製、“キマソープ”(登録商標)944LD)、および2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-((ヘキシル)オキシ)-フェノール(BASF・ジャパン社製、“チヌビン"(登録商標)1577FF)などを挙げることができる。
【0026】
これらのエレクトレット添加剤の中でも、特にヒンダードアミン系化合物が好ましく用いられる。
【0027】
熱可塑性樹脂に添加される、ヒンダードアミン系化合物および/またはトリアジン系化合物の含有量は、不織布全質量に対して0.1~5.0質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5~3質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.8~2.0質量%の範囲である。また、これらのヒンダードアミン系化合物やトリアジン系化合物を、不織布もしくは繊維表面に付着させるなどの場合は、不織布全質量に対して0.1~5.0質量%の範囲で付着させることが好ましい。
【0028】
また、不織布には、上記の化合物の他に、結晶核剤、熱安定剤、耐候剤および重合禁止剤等の一般にエレクトレット加工品の不織布に使用されている通常の添加剤を添加することもできる。
【0029】
また、不織布は、メルトブロー不織布であることが好ましい。メルトブロー法では、溶融した樹脂を紡糸ノズルから繊維状に吐出させるときに、吐出された繊維状の溶融樹脂に両側面から圧縮ガス(例えば空気)をあてるとともに、ガスを随伴させることで繊維径を小さくすることができる。
【0030】
本発明の不織布の製造方法は、図2に例示するように、メルトブロー法を用いて、口金7から溶融した熱可塑性樹脂を、吐出量700~1000g/分のメルトブロー繊維流8として、1000~1300Nm3/hrの加熱圧縮空気と共に、捕集ドラム9の回転方向Rの逆向きに噴射させるとよい。このような製造方法でメルトブロー不織布を製造すると、上述した規定を満たす不織布を好適に得ることができる。
【0031】
メルトブロー不織布の製造方法は、口金7から下方に吐出するメルトブロー繊維流8を、加熱圧縮空気と共に、捕集ドラム9の回転方向Rの逆向きに噴射させ、捕集ドラム9の円周上で捕集させるとよい。捕集ドラム9にて捕集されたメルトブロー繊維流は、繊維同士が互いに自己融着により接着し、シート状となり、巻取機10にて、巻き取られる。捕集ドラム9の回転方向Rの逆向きに、メルトブロー繊維流8を噴射させることにより、繊維がシート搬送方向(回転方向R)に対し、横方向に分散しやすくなり、メルトブロー不織布の強度を大きくすることができる。メルトブロー繊維流8を噴射させる角度は、口金8下の鉛直方向に対して、シート搬送方向逆向きに、好ましくは3°~13°、より好ましくは6°~10°にするとよい。さらに、メルトブロー繊維流を、捕集ドラム9に対して、垂直に捕集されるようにするとよい。
【0032】
メルトブロー繊維流8は、1つの紡糸孔あたり好ましくは0.2g/分以上で熱可塑性樹脂を吐出するとよく、1.0mm以下の孔ピッチで配列した紡糸孔群から全体で700~1000g/分の吐出量にするとよい。
【0033】
加熱圧縮空気は、風量が好ましくは900Nm3/hr~1400Nm3/hr、より好ましくは1000Nm3/hr~1300Nm3/hrであるとよい。加熱圧縮空気の風量が1400Nm3/hrを超えると細繊維化し高吸気抵抗になる。また、900Nm3/hr未満にすると太繊維化し低捕集効率になる。
【0034】
加熱圧縮空気の温度は、好ましくは260℃~320℃、より好ましくは280℃~300℃であるとよい。320℃を超えると繊維間融着が過大になると共に細繊維化し高吸気抵抗になる。また、260℃未満にすると繊維間融着が弱くなると共に太繊維化し低捕集効率になる。
【0035】
メルトブロー繊維流の捕集距離(口金7から捕集ドラム9の円周面までの距離)は、特に制限されるものではないが、好ましくは25cm~33cm、より、好ましくは28cm~30cmであるとよい。捕集距離が33cmを超えると繊維間融着が弱くなり低捕集効率になる。また捕集距離を25cm未満にすると繊維間融着が過大になり高吸気抵抗になる。
【0036】
なお、図3は、後述する比較例2,3で用いられた、従来のメルトブロー不織布の製造方法の工程を説明するための側面図である。この製造方法では、口金8下の鉛直方向に対して、シート搬送方向の順方向(捕集ドラム9の回転方向R)に、メルトブロー繊維流として噴射し、捕集されたメルトブロー繊維流は、繊維同士が互いに自己融着により接着し、シート状の不織布が巻取機10にて、巻き取られる。この製造方法では、繊維がシート搬送方向(回転方向R)に対し、縦方向に配向しやすくなり、繊維密度に斑が生じやすくなり、メルトブロー不織布の強度が不足する傾向がある。また、繊維配向をばらつかせるため加熱圧縮空気の風量を多くすると、風綿が多発し不織布の製造が困難になる。
【実施例0037】
実施例および比較例で得られた不織布の特性は以下の方法で測定した。
[平均厚み(単位:mm)]
平均厚みは、得られた不織布を250mm×250mmにカットし、それぞれの辺の中央部分の4ヶ所をダイヤルシックネスゲージにより測定し、得られた値から、平均値を算出し、小数点以下第3位を四捨五入することにより求めた。
【0038】
[目付(単位:g/m2)]
目付は、得られた不織布を250mm×250mm(面積:0.0625m2)にカットした試験片を3枚採取し、各々の質量を電子天秤にて測定して3枚の平均値を算出し、この平均値を16倍し、小数点以下第2位を四捨五入することにより求めた。
【0039】
[平均繊維径(単位:μm)]
平均繊維径は、得られた不織布を電子顕微鏡にて2000倍で撮影した写真から、繊維径を測定することにより求めた。平均繊維径は、写真10枚から任意に、合計本数200本の繊維について直径0.01μmオーダーまで繊維径を測定し、それらを平均し、小数点以下第3位を四捨五入して求めた。
【0040】
[不織布シートの2値化および白色面積の割合(単位:%)]
1m×1mの不織布シートを目視にて観察し、不織布シートの濃淡を確認し、最も繊維密度が濃い部分(密)、薄い部分(疎)、その中間程度の部分(中)の3点を選択し、各々直径113mmの円形サンプル1として切り出す。円形サンプルをスキャナー上に置き、その上に黒色台紙を重ね、300dpi、256階調でスキャニングし画像データを撮像する。得られた画像データを、WoodybellsのJTrim(v1.53c)のソフトウェアを用いて、円形サンプルに外接する一辺133mm(1570dot四方)の正方形画像3に切り抜き、その中央部を一辺113mmのサイズ(1335dot四方)の正方形画像4に切り抜き、さらにその正方形画像4に内接する直径1335dotの円形の画像データ1"を得る。この円形画像データ1"は、塩化ナトリウム粒子の捕集試験の有効櫨過面積100cm2とほぼ同じ面積を有する。得られた円形画像データ1"に外接する正方形画像5に基づき、0~255の256段階の閾値240で2値化処理を行う。その2値化処理したデータをもとに白と黒の色差ヒストグラムを作成し、黒色(レベル0)の画素数、白色(レベル255)の画素数を読み取る。なお正方形画像5のうち、内接する円形画像データ1"の外側の四隅6の画素数は、不織布の画像データではないため、以下の計算式により、不織布の白色の面積割合を算出する。
白色の面積割合(%)=[白色面積/(白色面積+黒色面積-四隅の面積)]×100
【0041】
[塩化ナトリウム粒子捕集効率]
「防じんマスクの規格」(平成12年9月11日労働省告示第88号)第6条に記載されている塩化ナトリウム粒子による試験方法に準じて行う。1m×1mの不織布シートを目視にて観察し、不織布シートの濃淡を確認し、最も繊維密度が濃い部分、薄い部分、その中間程度の部分3点を選択し、各々直径113mmの円形サンプルとして切り出す。その円形サンプルを、規定の測定装置(柴田科学社製塩化ナトリウム発生器AP-9000G、柴田科学社製デジタル粉塵計AP-932F)に装着する。このときの円形サンプルにおける、有効櫨過面積を100cm2とする。
粒子として、粒径分布の中央値が0.06~0.10μmで、その幾何標準偏差が1.8以下である塩化ナトリウム粒子を使用し、粒子濃度が50mg/m3以下(濃度変動±15%以下)となる条件で、試験流量を毎分35.4リットルとして、塩化ナトリウム粒子を含有する空気を円形サンプル上流から供給する。塩化ナトリウム粒子の供給量が計100mgになるまで、円形サンプル上流側と下流側で粒子濃度を光散乱式粉じん濃度計で測定する。この測定結果から塩化ナトリウム粒子の供給量に対する捕集効率を求め、捕集効率の経時的変化として記録する。得られた経時的変化のデータにおいて、捕集効率の値が最も低い値を塩化ナトリウム捕集効率の最小値(単位:%)とする。
【0042】
[塩化ナトリウム粒子捕集効率が最小値のときの吸気抵抗]
吸気抵抗(単位:Pa)は、塩化ナトリウム粒子の捕集試験時に、円形サンプルの上流側と下流側の差圧(Pa)を、コスモ計器社製差圧計(DP-330)を用いて測定する。塩化ナトリウム粒子の捕集効率が最小値のときの吸気抵抗を、0.01位を四捨五入し、最小値における吸気抵抗値(Pa)とする。
【0043】
(実施例1)
メルトブロー不織布製造装置を用いて、原料としてポリプロピレン樹脂(MFRが850g/10分)を原料として不織布を製造した。このポリプロピレン樹脂を用い、メルトブロー不織布製造装置においてダイの設定温度を260℃、直径0.3mmの紡糸ノズル1穴当たりの吐出量を0.36g/分とした。紡糸ノズルの両側からは、設定温度290℃にて加熱圧縮された空気を1200Nm3/hrにて吹き付け、紡糸ノズルからシートの搬送方向とは反対側(捕集ドラムの回転方向と逆向き)に鉛直に対して8°の角度で、300mmの距離にて捕集装置に紡糸させ、捕集ドラムにてシート化した。捕集ドラム速度を調整し、目付が39.7g/m2としたメルトブロー不織布を得た。得られたメルトブロー不織布を、純水サクション法によってエレクトレット加工した。
【0044】
このメルトブロー不織布の塩化ナトリウム捕集効率の最小値は99.73~99.79%であり、捕集効率が最小値のときの吸気抵抗は55~59Paであった。また、塩化ナトリウム捕集効率を測定する前に測定サンプルを2値化した時の白の割合は、97~98%であった。シートの目付斑が少なく、均一な不織布であり、ダストの漏れの少ない不織布が得られた。
【0045】
表1に、実施例1および後述する比較例1~3の評価結果を表す。
図4に、実施例1および後述する比較例1の繊維密度が薄い不織布サンプル(疎)の円形画像データ1"および白色面積の割合を示す。
また図5に、実施例1および後述する比較例1,2の塩化ナトリウム捕集効率の経時変化のグラフ、並びに、図6に実施例1および後述する比較例1,2の吸気抵抗の経時変化のグラフ、を示す。
【0046】
(比較例1)
紡糸ノズルの両側からは、設定温度290℃にて加熱圧縮された空気を960Nm3/hrにした以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。このメルトブロー不織布の塩化ナトリウム捕集効率の最小値は98.88~98.98%であり、捕集効率が最小値のときの吸気抵抗は51~53Paで、あった。また、塩化ナトリウム捕集効率を測定する前に測定サンプルを2値化した時の白の割合は、81~87%であった。シートの目付斑が多く、不均一な不織布であり、ダストの漏れの多い不織布であった。
【0047】
(比較例2)
紡糸ノズルの両側からは、設定温度290℃にて加熱圧縮された空気を960Nm3/hrにし、紡糸ノズルからシートの搬送方向と同方向側(捕集ドラムの回転方向)に鉛直に対して8°の角度で、300mmの距離にて捕集装置に紡糸させた以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0048】
このメルトブロー不織布の塩化ナトリウム捕集効率の最小値は97.48~98.25%であり、捕集効率が最小値のときの吸気抵抗は47~52Paで、あった。また、塩化ナトリウム捕集効率を測定する前に測定サンプルを2値化した時の白の割合は、64~67%で、あった。シートの目付斑が多く、不均一な不織布であり、ダストの漏れの多い不織布で、あった。
【0049】
(比較例3)
紡糸ノズ、ルの両側からは、設定温度290℃にて加熱圧縮された空気を1200Nm3/hrにし、紡糸ノズルからシートの搬送方向と同方向側(捕集ドラムの回転方向)に鉛直に対して8°の角度で、300mmの距離にて捕集装置に紡糸させた以外は、実施例1と同様にして不織布を製布した。しかし繊維が吹き流れ、捕集ドラムにて捕集しきれず、シート化出来なかった。
【0050】
【表1】
【符号の説明】
【0051】
1 (不織布シート)円形サンプル
1' 円形サンプルの切り取り画像データ
1" 円形画像データ
2 黒色台紙
3 正方形画像データ
4 正方形画像データ
5 正方形画像データ
6 四隅の画像データ
7 口金
8 メルトブロー繊維流
9 捕集ドラム
10 巻取機
図1
図2
図3
図4
図5
図6