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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042155
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】発酵食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20220307BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20220307BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23L19/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147421
(22)【出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】520337503
【氏名又は名称】篠田 絵美
(71)【出願人】
【識別番号】520337514
【氏名又は名称】古木 真也
(71)【出願人】
【識別番号】520337525
【氏名又は名称】田崎 建
(74)【代理人】
【識別番号】100085110
【弁理士】
【氏名又は名称】千明 武
(72)【発明者】
【氏名】古木 真也
【テーマコード(参考)】
4B016
4B035
【Fターム(参考)】
4B016LC04
4B016LE03
4B016LG12
4B016LK18
4B016LP03
4B016LP06
4B016LP11
4B016LP13
4B035LC16
4B035LE05
4B035LE20
4B035LG19
4B035LG37
4B035LG50
4B035LP06
4B035LP24
4B035LP42
4B035LP43
4B035LP59
(57)【要約】
【課題】
例えば麻竹を乳酸発酵させるメンマのような食材・食品の製造に好適で、その発酵と製造を迅速に行なえるようにして、竹林の資源価値の向上を通し、竹林の荒廃を防止するとともに、食品の製造過程で副生される煮汁や漬け汁を有効に利用し、それらの所要量を冷凍保存して次期使用に備え、また冷凍保存した煮汁や漬け汁を適時解凍して使用し、製造設備を合理的に稼働して生産性を向上するとともに、煮汁や漬け汁を例えば生竹や木材の防カビ処理に使用し、その有効利用を図ることで廃棄ないし排水処理を低減し得るようにした、発酵食品およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】
食材1を加工してボイル後、発酵菌を添加して発酵させた発酵食品であること。
前記食材1を薄厚にスライスし、そのボイル後の加工食材に発酵菌を添加して発酵させたこと。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材を加工してボイル後、発酵菌を添加して発酵させた発酵食品において、前記食材を薄厚にスライスし、そのボイル後の加工食材に発酵菌を添加して発酵させたことを特徴とする発酵食品。
【請求項2】
前記発酵菌は発酵食品を作る微生物であって、細菌または酵母若しくは黴からなり、乳酸菌、酢酸菌、好熱菌、放線菌を含む請求項1記載の発酵食品。
【請求項3】
食材を加工してボイル後、乳酸菌を含む煮汁を添加して乳酸発酵させた発酵食品であって、前記食材を薄厚にスライスし、そのボイル後の加工食材に高濃度の乳酸菌を含む煮汁または漬け汁と、所定量の糖類を添加して急速に乳酸発酵させた請求項2記載の発酵食品。
【請求項4】
前記発酵食品の食味が、煮汁と所定量の糖類を添加したものは酸味とスルメイカのような旨味があり、漬け汁と所定量の糖類を添加したものは甘しょっぱい旨味がある、請求項3記載の発酵食品。
【請求項5】
前記食材が日本国産の筍である請求項1記載の発酵食品。
【請求項6】
前記発酵食品はメンマである請求項1記載の発酵食品
【請求項7】
食材を加工してボイル後、発酵菌を添加して発酵させる発酵食品の製造方法において、前記食材を薄厚にスライスし、そのボイル後の加工食材に発酵菌を添加して発酵させたことを特徴とする発酵食品の製造方法。
【請求項8】
前記発酵菌は発酵食品を作る微生物であって、細菌または酵母若しくは黴からなり、乳酸菌、酢酸菌、好熱菌、放線菌を含む請求項7記載の発酵食品の製造方法。
【請求項9】
食材を所定の形状寸法に加工してボイルし、ボイル後の加工食材に乳酸菌を含む煮汁を添加して乳酸発酵させる発酵食品の製造方法であって、食材を薄厚にスライスしてボイルし、ボイル後の加工食材に高濃度の乳酸菌を含む煮汁または漬け汁と、所定量の糖類を添加して乳酸発酵させる請求項8記載の発酵食品の製造方法。
【請求項10】
前記煮汁と漬け汁は、それらの作製後所要量を冷凍保存し、その使用時に所要量を解凍して所定量の糖類に添加する請求項9記載の発酵食品の製造方法。
【請求項11】
前記煮汁と所定量の糖類の添加時期と、漬け汁と所定量の糖類の添加時期を相違させる請求項10記載の発酵食品の製造方法。
【請求項12】
前記糖類を一定量添加し急速に乳酸菌を生成可能にして乳酸濃度を上昇させ、乳酸菌以外の大半の微生物の生育を抑制可能にする請求項9記載の発酵食品の製造方法。
【請求項13】
乳酸菌以外の大半の微生物の生育を抑制可能にし、塩を添加することなく製造する請求項12記載の発酵食品の製造方法。
【請求項14】
乳酸菌以外のセルラーゼを分泌する大半の微生物の生育を抑制可能にし、セルロースを主成分とする食材の分解と溶解を防止可能にする請求項12記載の発酵食品の製造方法。
【請求項15】
前記乳酸発酵後の発酵食品を低温乾燥する請求項9記載の発酵食品の製造方法。
【請求項16】
前記請求項9における加工前の竹材または木材を乳酸発酵して竹材または木材を防黴する防黴方法。
【請求項17】
前記乳酸発酵に、高濃度の乳酸菌を含む煮汁または発酵食品製造後の残液である漬け汁を使用する請求項16記載の防黴方法。
【請求項18】
前記漬け汁に竹材または木材を浸漬する請求項16または17記載の防黴方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば麻竹を乳酸発酵させるメンマのような食材・食品の製造に好適で、その発酵と製造を迅速に行なえるようにして、竹林の資源価値の向上を通し、竹林の荒廃を防止するとともに、食品の製造過程で副生される煮汁や漬け汁を有効に利用し、それらの所要量を冷凍保存して次期使用に備え、また冷凍保存した煮汁や漬け汁を適時解凍して使用し、製造設備を合理的に稼働して生産性を向上するとともに、煮汁や漬け汁を例えば生竹や木材の防カビ処理に使用し、その有効利用を図ることで廃棄ないし排水処理を低減し得るようにした、発酵食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、主にラーメンの具材に使用されている発酵食品であるメンマは、約1m高に成長した麻竹(マチク)を切り取り、硬い節を取り除き、輪切りにして茹でたり蒸したりする、いわゆるボイル工程を経て、ボイルした麻竹を特製の竹篭に入れて密閉し、約1ケ月自然発酵させた後、3~4日間天日で乾燥させてから、未発酵部分や硬い部分を切り取り、所定サイズに裁断し選別して乾燥メンマを製造していた。
そして、この乾燥メンマで市販の水煮メンマを製造する場合は、乾燥メンマを長時間水に晒して酸味を除去し、ボイル作業によって乾燥戻しし、袋にメンマとpH調整液を充填して密封し加熱殺菌していた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、この従来のメンマの製造方法は、発酵工程に最短で約1ケ月を要し、また日持ち良くするために自然発酵の代わりに塩漬け発酵する場合は、塩分濃度10~30%でより長い発酵期間を要し、経済性が低くなるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するものとして、収穫した麻竹のうち、根元側の硬い茎部分から節を除去し、短冊状にカットした材料片を得る工程と、材料片をボイルする工程と、ボイル後の材料片を密封して自然発酵させる工程を備え、発酵を一様かつ迅速化して発酵期間を10週間以内にするととともに、発酵工程の途中で発酵を停止させて、筍のような食感を得るようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかし、このメンマの製造方法は、使用竹材が麻竹に限られ、メンマの価格の高騰を招くうえに、発酵期間を4週間以上10週間以内に調整できても、長い発酵期間の問題は解消されず、またボイル工程前に麻竹を短冊状にカットするだけでは、発酵期間はさほど短くならず、依然としてメンマの経済性と生産性が低く、メンマの価格の高止まりを助長するという問題があった。
【0006】
ところで、発酵食品の発酵方法として、納豆製造における大豆蒸煮工程で発生する大豆煮汁を蒸煮工程の終了前に分離し、この大豆煮汁を蒸煮工程の終了後の大豆に散布し、納豆菌を接種して発酵させるようにし、納豆製造と副生する大豆煮汁の廃棄処理を合理的に行なうようにしたものがある(例えば、特許文献3参照)。
また、同種の発酵食品の発酵方法として、大豆煮汁を含む培地で納豆菌を培養して得られたγ-ポリグルタミン酸を、煮豆に添加するようにしたものがある(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
しかし、これらの製造方法は、納豆製造における大豆蒸煮工程で発生する大豆煮汁を有効利用して、納豆菌を接種かつ発酵させるとともに、納豆製造と副生する大豆煮汁の廃棄処理を合理的に行なうようにしているが、納豆製造と関係ないメンマの発酵に前記方法を適用することは、風味と食感に問題があって採用し難い。
【0008】
一方、大豆煮汁は納豆製造で大量に副生され、通常はそのまま廃棄され、または加工して飼料または肥料に使用されていたが、廃棄するにしても排水規制が厳しく、排水処理施設を持たない企業では水で希釈処理していたが、水質汚濁防止法によって煮汁の河川放流は事実上、困難になってきている。また、煮汁を活性汚泥等によって処理している企業においても、排水規制に伴う設備の拡張や余剰汚泥の処理に多大な設備投資を伴い、経済的負担が過大になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-159544号公報
【特許文献2】特開2012-223165号公報
【特許文献3】特開2015-154724号公報
【特許文献4】特開2013-48573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような問題を解決し、例えばメンマのような食材・食品の製造に好適で、その発酵と製造を迅速に行なえるようにして、竹林の資源価値の向上を通し、竹林の荒廃を防止するとともに、食品の製造過程で副生される煮汁や漬け汁を有効に利用し、それらの所要量を冷凍保存して次期使用に備え、また冷凍保存した煮汁や漬け汁を適時解凍して使用し、製造設備を合理的に稼働して生産性を向上するとともに、煮汁や漬け汁を例えば生竹や木材の防カビ処理に使用し、その有効利用を図ることで廃棄ないし排水処理を低減し得るようにした、発酵食品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、食材を加工してボイル後、発酵菌を添加して発酵させた発酵食品において、前記食材を薄厚にスライスし、そのボイル後の加工食材に発酵菌を添加して発酵させ、発酵菌による発酵を精密かつ能率良く行なうようにしている。
請求項2の発明は、発酵菌は発酵食品を作る微生物であって、細菌または酵母若しくは黴からなり、乳酸菌、酢酸菌、好熱菌、放線菌を含ませることで、具体的な発酵菌による発酵食品を実現している。
請求項3の発明は、食材を加工してボイル後、乳酸菌を含む煮汁を添加して乳酸発酵させた発酵食品であって、食材を薄厚にスライスし、そのボイル後の加工食材に高濃度の乳酸菌を含む煮汁または漬物の漬け汁と、所定量の糖類を添加して急速に乳酸発酵させて、食材を速やかに加工し、従来の発酵食品に比べ1/8~1/4の短期間で乳酸発酵工程を完了させて、生産性を向上するとともに、従来廃棄処理していた乳酸菌を含む煮汁または漬物の漬け汁を有効に利用し、発酵食品の製造と廃液処理の合理化を図り、発酵食品の食材である筍や野沢菜、高菜等の生産を合理的に行うようにしている。
請求項4の発明は、発酵食品の食味が、煮汁と所定量の糖類を添加したものは酸味とスルメイカのような旨味があり、漬け汁と所定量の糖類を添加したものは甘酸っぱい旨味がある。すなわち、発酵スタータとして例えば大豆の煮汁を栄養源として、予め増やして置いた植物性乳酸菌群と、その菌の増殖を手助ける少量の糖類を添加したものは、従来の発酵食品に比べ珍味で新鮮味があり、おやつや酒のおつまみ、おかずに好適にしている。
【0012】
請求項5の発明は、食材が日本国産の筍であり、従来のような中国または台湾産の麻竹(マチク)に比べ、筍を容易かつ速やかで新鮮に入手でき、発酵食品であるメンマを速やかで安価に製作できるとともに、発酵食品の高速発酵と高速製造によって筍の収穫を促進することで、竹林の資源価値の向上を図り、国内の竹林の荒廃を防止し得るようにしている。
請求項6の発明は、発酵食品はメンマであり、メンマを容易かつ速やかで新鮮かつ安価に製造できるようにしている。
【0013】
請求項7の発明は、食材を加工してボイル後、発酵菌を添加して発酵させた発酵食品の製造方法において、食材を薄厚にスライスし、そのボイル後の加工食材に発酵菌を添加して発酵させ、発酵菌による発酵を精密かつ能率良く行なうようにしている。
請求項8の発明は、発酵菌は発酵食品を作る微生物であって、細菌または酵母若しくは黴からなり、乳酸菌、酢酸菌、好熱菌、放線菌を含み、具体的な発酵菌による発酵食品の製造方法を実現している。
請求項9の発明は、食材を所定の形状寸法に加工してボイルし、ボイル後の加工食材に乳酸菌を含む煮汁を添加して乳酸発酵させる発酵食品の製造方法において、食材を薄厚にスライスしてボイルし、ボイル後の加工食材に高濃度の乳酸菌を含む煮汁または漬け汁と、所定量の糖類を添加して急速に乳酸発酵させ、食材を速やかに加工し、従来廃棄処理していた乳酸菌を含む煮汁または漬物の漬け汁を有効に利用し、発酵食品の製造と廃液処理の合理化を図り、従来の発酵食品に比べ1/8~1/4の短期間で発酵工程を完了させて、生産性を向上するとともに、発酵食品の食材である例えば筍や野沢菜、高菜等の生産を合理的に行うようにしている。
【0014】
請求項10の発明は、煮汁と漬け汁は、それらの作製後所要量を冷凍保存し、その使用時に所要量を解凍して所定量の糖類に添加し、煮汁と漬け汁を適時、その所要量を別々に使用できるようにして、煮汁と漬け汁の廃棄を低減し、その廃棄設備や処理設備の費用を抑制するとともに、煮汁と漬け汁を別々に使用し得るようにして、製造設備の合理的かつ安定した稼働を図り生産性を向上するようにしている。
請求項11の発明は、煮汁と所定量の糖類の添加時期と、漬け汁と所定量の糖類の添加時期を相違させ、例えば予め作製した煮汁や漬け汁を適宜冷凍保存して置き、春に収穫する食材の筍の収穫時に、前記煮汁を使用して発酵食品を製造し、また秋や冬季に収穫する食材である野沢菜や高菜等の収穫時に、前記漬け汁を使用して発酵食品を製造し、各発酵食品の製造時期をその収穫時期に対応してずらせ、製造時期の重複や集中を回避し年間を通じて製造設備を合理的かつ安定して稼働し、生産性を向上するようにしている。
【0015】
請求項12の発明は、糖類を一定量添加し乳酸菌を急速に生成させて、乳酸濃度を上昇させ、乳酸菌以外の大半の微生物の生育を抑制し、加工食材の腐敗と製造時における分解と溶解を防止可能にしている。
請求項13の発明は、乳酸菌以外の大半の微生物の生育を抑制し、塩を添加することなく製造するようにして、容易かつ速やかに製造するようにしている。
請求項14の発明は、乳酸菌以外のセルラーゼを分泌する大半の微生物の生育を抑制し、セルロースを主成分とする食材の分解と溶解を防止可能にして、製造時における食材の分解と溶解を防止し、発酵食品の確実な製造を確保するようにしている。
請求項15の発明は、乳酸発酵後の発酵食品を減圧条件下で沸点を低下させることにより低温で乾燥し、細胞の組織破壊が少なく、食品本来の香りを残しながら旨味を凝縮させ、温度の高い乾燥法のような、食品の栄養素を失わせてしまう不具合を解消するようにしている。
【0016】
請求項16の発明は、前記請求項9の発酵食品の製造方法における加工前の竹材または木を乳酸発酵して竹材または木材を防黴し、例えば生きた乳酸菌群または酵母、カビ、その他酢酸菌や好熱菌等の細菌類によって、発酵食品である加工前の竹材または木材に含まれる糖分や栄養素を予め分解して枯渇させることにより、黴を代表とする他の微生物の生育を抑制するようにしている。事実、ただ単に乳酸に付けた竹や土は容易に湿度と温度の条件が揃えば黴が生える。
請求項17の発明は、乳酸発酵に、高濃度の乳酸菌を含む煮汁または発酵食品製造後の残液である漬け汁を使用し、煮汁または漬け汁を有効利用して、その廃棄ないし排水処理を低減し得るようにしている。
請求項18の発明は、漬け汁に竹材または木材を浸漬し、竹材または木材に漬け汁の乳酸菌を精度良く含ませて、防カビ効果を向上するようにしている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明は、食材を薄厚にスライスし、そのボイル後の加工食材に発酵菌を添加して発酵させたから、発酵菌による発酵を精密かつ能率良く行なうことができる。
請求項2の発明は、発酵菌は発酵食品を作る微生物であって、細菌または酵母若しくは黴からなり、乳酸菌、酢酸菌、好熱菌、放線菌を含ませることで、具体的な発酵菌による発酵食品を実現することができる。
請求項3の発明は、食材を薄厚にスライスし、そのボイル後の加工食材に高濃度の乳酸菌を含む煮汁または漬物の漬け汁と、所定量の糖類を添加して急速に乳酸発酵させたから、食材を速やかに加工し、従来の発酵食品に比べ1/8~1/4の短期間で乳酸発酵工程を完了させて、生産性を向上できるとともに、従来廃棄処理していた乳酸菌を含む煮汁または漬物の漬け汁を有効に利用し、発酵食品の製造と廃液処理の合理化を図り、発酵食品の食材である例えば筍や野沢菜、高菜等の生産を合理的に行なうことができる。
請求項4の発明は、発酵食品の食味が、煮汁と所定量の糖類を添加したものは酸味とスルメイカのような旨味があり、漬け汁と所定量の糖類を添加したものは甘酸っぱい旨味がある。すなわち、発酵スタータとして例えば大豆の煮汁を栄養源として、予め増やして置いた植物性乳酸菌群と、その菌の増殖を手助ける少量の糖類を添加したものは、従来の発酵食品に比べ珍味で新鮮味があり、おやつや酒のおつまみ、おかずに好適な効果がある。
【0018】
請求項5の発明は、食材が日本国産の筍であるから、従来のような中国または台湾産の麻竹(マチク)に比べ、筍を容易かつ速やかで新鮮に入手でき、発酵食品であるメンマを速やかで安価に製作できるとともに、発酵食品の高速発酵と高速製造によって筍の収穫を促進し、竹林の資源価値の向上を図り、国内の竹林の荒廃を防止することができる。
請求項6の発明は、発酵食品はメンマであるから、メンマを容易かつ速やかで新鮮かつ安価に製造することができる。
【0019】
請求項7の発明は、食材を薄厚にスライスし、そのボイル後の加工食材に発酵菌を添加して発酵させるから、発酵菌による発酵を精密かつ能率良く行なうことができる。
請求項8の発明は、発酵菌は発酵食品を作る微生物であって、細菌または酵母若しくは黴からなり、乳酸菌、酢酸菌、好熱菌、放線菌を含ませるから、具体的な発酵菌による発酵食品の製造方法を実現することができる。
請求項9の発明は、食材を薄厚にスライスしてボイルし、ボイル後の加工食材に高濃度の乳酸菌を含む煮汁または漬け汁と、所定量の糖類を添加して急速に乳酸発酵させるから、食材を速やかに加工し、従来の発酵食品に比べ1/8~1/4の短期間で発酵工程を完了させて、生産性を向上できるとともに、従来廃棄処理していた乳酸菌を含む煮汁または漬物の漬け汁を有効に利用し、発酵食品の製造と廃液処理の合理化を図り、発酵食品の食材である例えば筍や野沢菜、高菜等の生産を合理的に行うことができる。
請求項10の発明は、煮汁と漬け汁は、それらの作製後所要量を冷凍保存し、その使用時に所要量を解凍して所定量の糖類に添加したから、煮汁と漬け汁を適時、その所要量を別々に使用できるようにして、その合理的な使用と別々の使用を図り、製造設備の合理的かつ安定した稼働を図り生産性を向上することができる。
【0020】
請求項11の発明は、煮汁と所定量の糖類の添加時期と、漬け汁と所定量の糖類の添加時期を相違させたから、例えば予め作製した煮汁や漬け汁を適宜冷凍保存して置き、春に収穫する食材の筍の収穫時に、前記煮汁を使用して発酵食品を製造し、また秋や冬季に収穫する食材である野沢菜や高菜等の収穫時に、前記漬け汁を使用して発酵食品を製造し、各発酵食品の製造時期をその収穫時期に対応してずらせて、製造時期の集中や重複を回避し年間を通じ製造設備を合理的かつ安定して稼働して、生産性を向上することができる。
【0021】
請求項12の発明は、糖類を一定量添加し乳酸菌を急速に生成させて、乳酸濃度を上昇させ、乳酸菌以外の大半の微生物の生育を抑制するから、加工食材の腐敗と製造時における分解と溶解を防止することができる。
請求項13の発明は、乳酸菌以外の大半の微生物の生育を抑制し、塩を添加することなく製造するから、容易かつ速やかに製造することができる。
請求項14の発明は、乳酸菌以外のセルラーゼを分泌する大半の微生物の生育を抑制し、セルロースを主成分とする食材の分解と溶解を防止可能にするから、製造時における食材の分解と溶解を防止し、発酵食品の確実な製造を確保することができる。
請求項15の発明は、乳酸発酵後の発酵食品を減圧条件下で沸点を低下させることにより低温で乾燥するから、細胞の組織破壊が少なく、食品本来の香りを残しながら旨味を凝縮させ、温度の高い乾燥法のような、食品の栄養素を失わせてしまう不具合を解消することができる。
【0022】
請求項16の発明は、前記請求項9の発酵食品の製造方法における加工前の竹材または木を乳酸発酵して竹材または木材を防黴するから、例えば生きた乳酸菌群または酵母、カビ、その他酢酸菌や好熱菌等の細菌類によって、発酵食品である加工前の竹材または木材に含まれる糖分や栄養素を予め分解して枯渇させることで、黴を代表とする他の微生物の生育を抑制することができ、簡便かつ安価な防カビ処理を実現することができる。事実、ただ単に乳酸に付けた竹や土は、容易に湿度と温度の条件が揃えば黴が生える。
請求項17の発明は、乳酸発酵に、高濃度の乳酸菌を含む煮汁または発酵食品製造後の残液である漬け汁を使用するから、煮汁または漬け汁を有効利用して、その廃棄ないし排水処理を低減することができる。
請求項18の発明は、漬け汁に竹材または木材を浸漬するから、竹材または木材に漬け汁の乳酸菌を精度良く含ませて、防カビ効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(1)~(9)は本発明を適用した発酵食品であるメンマの製造工程の概要を示す説明図である。
図2】(a)~(d)は本発明を適用した竹材または木材の防カビ処理工程の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を麻竹を乳酸発酵させた発酵食品であるメンマの製造に適用した図示の実施形態について説明すると、図1において1はメンマの食材である筍で、この筍1には日本国産の孟宗竹、真竹、淡竹、女竹、四方竹、黒竹、唐竹、根曲がり竹の他に、中国または台湾産の麻竹(マチク)であってもよく、その大きさは地中での生育中のものや、地上約1~1.2m高のやや育ち過ぎのものでもよい。
【0025】
前記筍1は周囲が竹皮2で覆われ、収穫後に竹皮2を剥いで筍本体3を表出させるようにしている。
前記筍本体3は食に適さない複数の硬い節4が内外部に形成され、その主要な節4の周辺をカッター(図示略)で輪切りして、食に適する大小異径の複数の小筍5を分割形成し、その長さを食用に適当な一定の長さに形成している。
次に、前記小筍5の周面に複数の切断線6を略等角度位置、例えば180°または90°に形成し、これを管軸方向に沿って延設して、小筍5を二つ割りまたは四つ割りの筍ピース7を形成している。
【0026】
前記筍ピース7は手指で保持可能な大きさに形成され、これを例えば電動フードカッターまたは電動フードスライサー(図示略)を用いて、所定寸法のスライス片8に形成する。
前記スライス片8は、例えば長さaが40~50mm、幅bが5~10mm、厚さcが1~2mmの細長の矩形断面に形成され、筍ピース7から厚さcのスライス片8を一時に複数形成するようにしている。
【0027】
前記スライス片8の形成は、小筍5を先ず所定幅の長さの長方形に形成し、これを所定の厚さに切断する2工程の短冊切りに比べて、容易かつ速やかに加工し得るようにしている。
その際、スライス片8は厚さcを維持して小筍5の管軸と平行に形成され、つまり木目に相当する竹目9と平行に形成され、この竹目9によってこの後のボイル時間を短縮し、またその後の乳酸菌の浸透を促して、急速な乳酸発酵を実現させるようにしている。
【0028】
こうして所定量のスライス片8を作製後、これをボイル鍋10に収容してボイル鍋10内の水11に浸漬し、該ボイル鍋10に蓋12をして密閉し、このボイル鍋10を加熱器13上の火口ホルダ14に設置するようにしている。
実施形態の加熱器13はガスバーナ15を備え、ガスバーナ15の火力で水11を90~100℃の熱水に加熱し、多量のスライス片8を60~90分間茹でるようにしている。
【0029】
前記スライス片8を茹でた後、これを発酵用槽16に移し、該スライス片8に発酵加速材として、高濃度の乳酸菌を含有する煮汁17または漬物の漬け汁19と、発酵促進材として乳酸菌のエネルギ-源である、糖質の一部を構成する糖類18を添加している。
【0030】
このうち、煮汁17は魚や肉、野菜等の食材を煮る際にできた汁で、従来より多くは廃液として処理され、実施形態では大豆などをテンペ菌で発酵させた発酵食品である、インドネシア発祥のテンペの製作過程において、大豆を水に浸漬して茹でた大豆汁を使用している。
また、漬物の漬け汁19は、例えば野沢菜漬けや高菜漬けなどの乳酸発酵した漬物の絞り汁で、従来より殆どは未利用で廃液として処理されている。
【0031】
前記煮汁17や漬け汁19は、それらの作製直後に発酵食品の製造に使用する場合を除いて、その所定量を容器(図示略)に収容して冷凍保存し、発酵食品の製造時に適時、その所要量を解凍して使用するようにしている。
その際、煮汁17や漬け汁19は、そのまま希釈せずに使用して、高濃度の乳酸菌の含有を保持させている。
このようにテンペの製作過程で副生される大豆汁や、漬物の製作過程で副生される漬け汁を有効利用することによって、その廃棄処理や処理設備の負担を低減し、発酵食品の急速発酵と、煮汁や漬け汁の廃棄処理を同時に解決し得るようにしている。
【0032】
この場合、テンペは大豆以外の豆、例えばおからや落花生や穀物から作られるものもあり、その場合は大豆や落花生の煮汁17を使用する。この他の豆の煮汁17として、黒豆、えんどう豆、金時豆、小豆の煮汁を使用することも可能である。
また、前記漬物の漬け汁19は、野沢菜や高菜、大根、白菜、かぶ等の種々によるものを含み、特定の材料に限定されない。
【0033】
前記糖類18は、ぶどう糖や果糖などの単糖類と、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖などの二糖類があり、実施形態では砂糖(ショ糖)として黒糖を使用している。
黒糖は、主成分であるショ糖以外に、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄などのミネラルが豊富に含まれ、特にカリウムが最も多く含まれている。
前記黒糖は、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6などのビタミンが含まれ、栄養が豊富である。
【0034】
実施形態では黒糖を乳酸菌の生育促進用として、所要量を水に溶かして添加し、その添加量を乳酸菌の消長と発酵後の食味を考慮して、決定している。
すなわち、微量の黒糖を添加する場合は分泌する乳酸菌が少なく、発酵が不活発で時間が掛かり、一方、多量の黒糖を添加する場合は、乳酸菌が大量に分泌されて乳酸が大量に分解され、乳酸菌が活動する煮汁17や漬物の漬け汁19と、糖類18との混合溶液の酸性度が急速に上昇して、乳酸菌が活動を停止し生育を抑制する惧れがある。
このように、糖の添加量は、多すぎると菌の生育を抑制するとともに、分解しきれない糖分が製品の甘味となり、風味に影響する。糖の添加量は、一定量を越せば、生成される酸は高止まりするので、途中で発酵を止めない限り、酸味は最終的に同じになる。
そこで、これらを勘案して黒糖の添加量を調整するようにしている。
【0035】
なお、一定量以上の黒糖を添加する場合は、乳酸菌以外の大半の細菌等の微生物が生存できなくなるから、微生物による腐敗を防止し、塩を添加しなくてもメンマの製造が実質的に可能になる。
しかも、自然界に無数に存在するセルラ-ゼを分泌する細菌等の微生物が、前述のように生育を抑制されることによって、筍1の主要成分のセルロースが前記セルラーゼによって分解され、溶けてしまう事態が防止され、スライス片8の発酵過程における消失を防止して、スライス片8の所期の発酵量を確保し、確実かつ合理的にメンマを製造することができる。
【0036】
ただ、メンマの旨味の形成用として、適度な塩味がいい塩梅の風味にするために、2~3%の塩を添加することが望ましい。一方、漬物の漬け汁19を使用する場合は、希釈等、塩分濃度調整をして漬け込む必要があり、その場合は糖類18の添加量を考慮する必要がある。
【0037】
こうして発酵用槽16内の多量のスライス片8に、煮汁17と所定量の糖類18と適量の塩を添加し(図1(7)(a))、または漬物の漬け汁19と所定量の糖類18と適量の塩を添加し(図1(7)(b))、発酵用槽16に蓋20をして密閉し、該蓋20の上に錘21を載せて密閉性を強化し、発酵を促進させるようにしている。
【0038】
前記スライス片8は、自然に付着していた乳酸菌と、黒糖18のショ糖成分をエネルギー源として生成した乳酸菌によって、急速かつ高速に発酵し、実施形態では前記スライス片8の発酵を5日間で完了可能にしている。
【0039】
前記スライス片8の発酵後、これを発酵用槽16から取り出して低温乾燥工程へ移行するようにしている。
前記低温乾燥工程は、発酵後のスライス片8を乾燥トレー22に移し替え、該乾燥トレー22を低温乾燥機23に収容して低温乾燥するようにしている。
【0040】
前記低温乾燥機23は、実施形態では減圧平衡発熱乾燥機を使用しており、この減圧平衡発熱乾燥機23は、内部の乾燥庫24内を減圧して水分の蒸発を高め、同時に内部に設けた減圧用の起熱ファン(図示略)と空気の摩擦によって熱を発生させ、その熱の移動域にヒータ(図示略)と循環用ファン(図示略)を配置して、温熱を乾燥庫24内に供給し、発酵後のスライス片8の乾燥を実行可能にしている。
【0041】
この場合、前記減圧乾燥の過程では、水分が気化する際に気化熱で温度が低下し、この温度低下によって水蒸気分圧も低下して乾燥効率が低下し、一方、温度低下が行き過ぎると、スライス片8の凍結による品質低下の惧れがある。
そこで、前記凍結を未然に防止し、乾燥効率を維持向上するため、前記ヒータによって前記乾燥機23内の移動空気を加熱するようにしている。
【0042】
前記起熱ファンは特殊モーターと、特殊形状羽根で構成され、起熱ファンを回転させると、前記乾燥機23内の空気を吸引して減圧平衡状態を形成し、前記ファンの連続的維持回転によって、発生した熱を前記乾燥機23内に蓄積するようにしている。
前記起熱ファンとヒータによって暖められた空気は、循環用ファンによって強制的に循環され、このような環境の下で乾燥トレー22内の発酵後のスライス片8の水分の遊離性を高め、水分の移動と表面の発散を促進するようにしている。
【0043】
前記減圧平衡状態では前記乾燥機23の吸気口(図示略)に設けたダンパー(図示略)から、新鮮な空気が機内に導入され、前記乾燥機23内から同量の湿った空気が排出され、その際生じる減圧度の変化によって、乾燥トレー22内の発酵後のスライス片8の水分を強制的に吸引可能にしている。
この場合、前記ダンパーによる換気効果と減圧度、温度、湿度の急激な変化(揺れ)によって、乾燥トレー22内の発酵後のスライス片8の乾燥を促進させるようにしている。
【0044】
前記低温乾燥機23は30~40℃の低温で乾燥させるから、発酵食品であるメンマの細胞の組織破壊が少なく、食品本来の香りを残しながら旨味を凝縮させ、温度の高い乾燥法に比べ、食品の栄養素を失わせてしまうことがない。
こうしてスライス片8の低温乾燥後、乾燥トレー22を低温乾燥機23から取り出し、完成したスライス片8を収納袋(図示略)に収容して、冷蔵庫(図示略)に保管する。
【0045】
このように構成した本発明の製造方法によって、発酵食品である例えばメンマを製造する場合は、先ずメンマの食材である筍1を収穫する。
前記筍1は、日本国産の孟宗竹、真竹、淡竹、女竹、四方竹、黒竹、唐竹、根曲がり竹を適宜生育地で収穫する。その際、筍1は地中での生育中のものや、地上約1~1.2m高のやや育ち過ぎのものでもよく、また日本国産のものに限らず、購入した中国または台湾産の麻竹(マチク)であってもよい。
【0046】
この場合、筍1に日本国産のものを使用すれば、従来のような中国または台湾産の麻竹(マチク)に比べ、筍1を容易かつ速やかで新鮮かつ安価に入手でき、メンマを速やかで安価に製作できるとともに、日本国内の竹林の整備とその資源価値の向上を図れる。
【0047】
こうして収穫し、または購入した筍1は図1(1)のように、周囲が竹皮2で覆われているから、竹皮2を剥いで筍本体3を表出させる。この状況は図1(2)のようである。
この場合、前記筍本体3は様々な形状と寸法のものがあるから、これを所定の形状寸法に加工し、その製造の利便と食用の適切性と旨味の向上を図る。
【0048】
前記筍本体3の加工として、先ず筍本体3には食に適さない複数の硬い節4が内外部に形成されているから、その主要な節4の周辺をカッター(図示略)で輪切りし、食に適する大小異径の複数の小筍5を分割形成し、その長さを食用に利便な一定の長さに形成する。この状況は図1(3)のようである。
【0049】
次に、前記小筍5の周面にカッター(図示略)を介して、複数の切断線6を略等角度位置、例えば180°または90°に形成し、これを管軸方向に沿って延設して、小筍5を二つ割りまたは四つ割りの筍ピース7に分割形成する。この状況は図1(4)のようである。
【0050】
前記筍ピース7は手指(箸)で保持可能な大きさに形成し、これを例えば電動フードカッターまたは電動フードスライサー(図示略)を用いて、所定寸法のスライス片8に形成する。
前記スライス片8は、例えば長さaが40~50mm、幅bが5~10mm、厚さcが1~2mmの薄厚の矩形断面に形成し、筍ピース7から厚さcのスライス片8を一時に複数形成する。
【0051】
この場合、スライス片8は筍ピース7から一時に複数形成できるから、これを例えば小筍5を先ず所定幅の長さの長方形の短冊状に形成し、次いで所定の厚さに切断する従来の2工程の短冊切り法に比べ、容易かつ速やかに行える。
しかも、前記スライス片8は図1(5)のように、厚さcを維持して小筍5の管軸と平行に形成し、つまり木目に相当する竹目9と平行に薄厚に形成しているから、この竹目9を介して、この後のボイル時間を短縮し、またその後の煮汁による乳酸菌の浸透を促して、急速な乳酸発酵を増進させる。
【0052】
こうして所定量のスライス片8を作製後、これをボイル鍋10に収容し、内部に収容した水11に浸漬後、該ボイル鍋10に蓋12をして密閉し、これを加熱器13上の火口ホルダ14に設置する。
実施形態の加熱器13はガスバーナ15を備え、該ガスバーナ15の火力で水11を90~100℃の熱水に加熱し、多量のスライス片8を60~90分間茹でる。
この場合、スライス片8は竹目9と平行に薄厚に形成しているから、竹目9によって熱水による茹で効果が促進され、ボイル時間を短縮できる。
【0053】
前記スライス片8を茹でた後、これを発酵用槽16に移し、該スライス片8に発酵加速材として、高濃度の乳酸菌を含有する煮汁17と、発酵促進材として乳酸菌のエネルギー源である、糖質の一部を構成する糖類18を添加する。
【0054】
前記煮汁17は魚や肉、野菜等の食材を煮る際にできた汁であり、実施形態では大豆などをテンペ菌で発酵させた発酵食品である、インドネシア発祥のテンペの製作過程において、大豆を水に漬けて茹でてできた大豆汁を使用する。この状況は図1(7)(a)のようである。
【0055】
また、煮汁17に代わって、漬物の漬け汁19も利用可能であり、この漬け汁19は漬物の製造工程で副生され、乳酸菌に富み、煮汁17と同様に利用可能である。
この場合、漬け汁19は漬け物の種類、例えば野沢菜漬けや高菜漬け、白菜、大根、かぶ等によって風味が異なり、その塩分濃度も相違する。
その際、漬け汁19は基本的にそのまま使用して乳酸菌の高濃度の含有を保持させ、また発酵食品に応じて塩分濃度を適宜希釈して使用することも可能である。
この場合、煮汁17や漬物の漬け汁19は、基本的にそれらの作製後、適時所定量を冷凍して保存し、使用時に所要量解凍して使用する。
【0056】
このようにテンペの製作過程で副生される大豆の煮汁17や漬物の漬け汁19を有効利用し、その廃棄処理や処理設備の負担を低減して、発酵食品の急速発酵と大豆汁の廃棄処理を同時に解決するとともに、冷凍保存した煮汁17や漬物の漬け汁19を適時解凍して使用し、発酵食品を製造する。
例えば春に収穫する食材の筍1の収穫時に、前記煮汁17を使用して発酵食品を製造し、また秋や冬季に収穫する食材である野沢菜や高菜等の収穫時に、前記漬け汁19を使用して発酵食品を製造する。
すなわち、各発酵食品の製造時期をその収穫時期に対応してずらせて使用することで、製造時期の重複や集中を回避し、年間を通じ製造設備を合理的かつ安定して稼働し、生産性を向上し得る。
【0057】
前記テンペは、大豆以外の豆、例えばおからや落花生、穀物から作られるものもあり、その場合は大豆や落花生の煮汁を使用する。なお、他の豆の煮汁として、黒豆、えんどう豆、金時豆、小豆の煮汁を使用することも可能である。また、漬物の漬け汁19も同様に、素材に関係なく種々の漬け汁19を利用可能である。
【0058】
一方、前記糖類18は、ぶどう糖や果糖などの単糖類と、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖などの二糖類があり、実施形態では砂糖(ショ糖)として黒糖を使用する。
前記黒糖は、主成分であるショ糖以外に、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄などのミネラルが豊富に含まれ、特にカリウムが最も多く含まれ、しかも黒糖は、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6などのビタミンが含まれ、栄養が豊富である。
【0059】
そして、黒糖を乳酸菌の生育促進用として、その少量を水に溶かして添加し、その添加量を、乳酸菌の消長と発酵後の食味を考慮して決定する。
すなわち、微量の黒糖を添加する場合は、その糖分から分泌される乳酸菌が少なく、発酵が不活発で時間が掛かる。
一方、多量の黒糖を添加する場合は、乳酸菌が大量に分泌されて乳酸が大量に分解され、乳酸菌が活動する煮汁17と糖類18との混合溶液の酸性度が急速に上昇して、乳酸菌が活動を停止し生育を抑制するおそれがある。したがって、これらを勘案して黒糖の添加量を調整する。 この状況は図1(7)(a)のようである。
【0060】
なお、一定量以上の黒糖を添加する場合は、前述のように乳酸菌以外の大半の細菌等の微生物が生存できなくなるから、塩を添加しなくてもメンマの製造が実質的に可能になり、製造の合理化を図れる。
【0061】
しかも、自然界に無数に存在するセルラーゼを分泌する大半の細菌等の微生物が前述のように生育を抑制することによって、筍1の主要成分のセルロースが前記セルラーゼによって分解されて溶けてしまう事態を防止し、スライス片8の発酵過程における減量ないし消失を防止して、スライス片8の所期の発酵量を確保でき、確実かつ合理的にメンマを製造できる。
ただ、メンマの旨味の形成用として、乳酸による酸味を低減するために2~3%の塩を添加することが望ましい。
【0062】
こうして発酵用槽16内の多量のスライス片8に、煮汁17と適量の糖類18を添加し、または漬物の漬け汁19と適量の糖類18を添加し、発酵用槽16に蓋20をして密閉し、該蓋20の上に錘21を載せて密閉性を強化し、発酵を促進する。
前記スライス片8は、当初から付着していた乳酸菌と、添加した黒糖18のショ糖成分をエネルギー源として生成した乳酸菌によって高速かつ急速に発酵し、実施形態ではスライス片8が5日間で発酵を完了し、従来の発酵法に比べて1/8~1/4の短期間で乳酸発酵が完了し、生産性が大幅に向上した。
【0063】
前記スライス片8の発酵後、これを低温乾燥へ移行する。
前記低温乾燥は、発酵用槽16からスライス片8を取り出して乾燥トレー22に移し替え、該乾燥トレー22を低温乾燥機23の乾燥庫24に収容して行う。
実施形態では、前記低温乾燥機23として減圧平衡発熱乾燥機を使用し、この減圧平衡発熱乾燥機23は、内部の乾燥庫24内を減圧して水分の蒸発を高め、同時に内部に設けた減圧用の起熱ファン(図示略)と空気の摩擦によって熱を発生させ、かつその熱の移動域にヒータ(図示略)と循環用ファン(図示略)を配置して、温熱を乾燥庫24内に供給し、発酵後のスライス片8の乾燥を実行する。
【0064】
この場合、前記減圧乾燥の過程では、水分が気化する際に気化熱で温度が低下し、この温度低下によって水蒸気分圧も低下して乾燥効率が低下し、一方、温度低下が行き過ぎると、スライス片8の凍結による品質低下の惧れがある。
そこで、前記凍結を未然に防止し、乾燥効率を維持向上するため、前記ヒータによって乾燥機23内の移動空気を加熱する。
【0065】
前記起熱ファンを特殊モーターと特殊形状羽根とで構成し、該起熱ファンを回転させると、前記乾燥機23内の空気を吸引して減圧平衡状態にし、前記ファンの連続的維持回転によって発生した熱を、前記乾燥機23内に蓄積する。
前記起熱ファンとヒータによって暖められた空気は、循環用ファンによって強制的に循環し、この環境の下で乾燥トレー22内の発酵後のスライス片8の水分の遊離性を高め、水分の移動と表面の発散を促進する。
【0066】
前記減圧平衡状態では前記乾燥機23の吸気口(図示略)に設けたダンパー(図示略)から、新鮮な空気が機内に導入され、同量の湿った空気が前記乾燥機23内から排出され、その際生じる減圧度の変化によって、乾燥トレー22内の発酵後のスライス片8の水分を強制的に吸引する。
この場合、前記ダンパーによる換気効果と減圧度、温度、湿度の急激な変化(揺れ)によって、乾燥トレー22内の発酵後のスライス片8の乾燥が促進される。
【0067】
このように前記低温乾燥機23は、30~40℃の低温で乾燥させるから、発酵食品であるメンマの細胞の組織破壊が少なく、食品本来の香りを残しながら旨味を凝縮させるとともに、温度の高い乾燥法に比べ、食品の栄養素を失わせてしまうことがない。
こうしてスライス片8の低温乾燥後、乾燥トレー22を低温乾燥機23から取り出し、完成したスライス片8を収納袋(図示略)に収容して、冷蔵庫(図示略)に保管する。
【0068】
前記製造した発酵食品の食味は、煮汁17と所定量の糖類18を添加したものは酸味とスルメイカのような旨味があり、漬け汁19と所定量の糖類18を添加したものは甘しょっぱい旨味があるから、新鮮で珍味であり、おやつや酒のおつまみ、おかず等に好適である。
また、本発明はメンマを高速に発酵し、従来の製造方法に比べて約1/8~1/4の短期間に製造できるから、メンマの食材である筍1の収穫量の増量が促され、筍1の収穫によって竹林の整備を促進し、その資源価値の向上を図れて竹林の荒廃を防止できる実用的な効果がある。
【0069】
前述した実施形態では食材にメンマ用の麻竹を適用し、発酵菌として乳酸菌を使用して発酵させているが、メンマに限らず他の野菜や果実などの食材に適用しても良く、また発酵菌は乳酸菌に限らず酢酸菌や好熱菌、放線菌等を使用しても良い。
【0070】
図2の実施形態は、発酵食品の発酵および製造に使用した残液である前述の漬け汁19に糖類18を添加した添加液を、竹細工に使用する竹材27や建築材である木材28の防カビ処理に適用した例を示している。
すなわち、漬け汁19に糖類18を添加して乳酸菌を増殖させた高濃度の乳酸菌を含む発酵食品製造後の残液である添加液31を浴槽26に収容し、この添加液31に竹細工用に伐採した加工前の生竹27を例えば一晩浸漬し、または建築材若しくは民芸用材である丸太状または板状の木材28を一晩以上浸漬している。この場合、乳酸菌に限らず酢酸菌や好熱菌、放線菌等の発酵菌を使用しても良い。
【0071】
図2(a)は前記生竹27の節部29を繰り抜いて連通し、これを適宜長さに切断して幹状に形成し、防カビ処理を精密に行うようにしている。
図2(b)は前記生竹27を薄厚長尺に形成して添加液31を十分に染み込ませ、防カビ後の生竹27を速やかに竹編み可能にしている。
図2(c)は前記木材28を適宜長さに切断し、内部に適当な染み込み孔(図示略)を形成して、添加液31に一晩以上浸漬し、防カビ処理を精密に行うようにしている。
図2(d)は前記木材28を適宜長さに切断し、これを板状に形成して添加液31に一晩以上浸漬し、防カビ処理を精密に行うようにしている。
図中、30は積み重ねた木材28の間に配置した支持具である。
【0072】
このように竹材27や木材28を発酵食品の製造後の残液である添加液31に浸漬すると、竹材27や木材28に添加液31が浸透し、その乳酸菌がそれらの内部の糖分を分解して乳酸を生成し、この乳酸によって雑菌の繁殖を抑え、カビの発生を防止する。
したがって、例えば青竹を加熱処理する方法や燻し処理する方法、または高価な防カビ剤を塗布若しくは浸漬する方法に比べ、添加液31の残液を有効利用することによって、簡便かつ能率良く安価に防カビ処理でき、竹細工品や建築材のカビの発生を防止して、竹細工品や建築材の美観を維持するとともに、漬け汁19ないし添加液31の廃棄処理量を低減し得る。なお、この応用形態として、漬け汁19の代わりに前記煮汁17を使用することも可能であり、また乳酸菌に限らず酢酸菌や好熱菌、放線菌等の発酵菌を使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の発酵食品およびその製造方法は、食品の発酵と製造を迅速に行なえるようにして、竹林の資源価値の向上を通し、竹林の荒廃を防止するとともに、食品の製造過程で副生される煮汁や漬け汁を有効に利用し、それらの所要量を冷凍保存して次期使用に備え、また冷凍保存した煮汁や漬け汁を適時解凍して使用し、製造設備を合理的に稼働して生産性を向上するとともに、煮汁や漬け汁を例えば生竹や木材の防カビ処理に使用し、その有効利用を図ることで廃棄ないし排水処理を低減し得るから、例えばメンマのような食材・食品の製造に好適である。
【符号の説明】
【0074】
1 食材(筍)
8 スライス片(加工食材)
17 煮汁
18 糖類
19 漬け汁
22 低温乾燥機
27 竹材
28 木材
31 添加液
図1
図2