(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042163
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】マラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/47 20060101AFI20220307BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220307BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220307BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
A61K36/47
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61P33/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147434
(22)【出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】伴戸 寛徳
(72)【発明者】
【氏名】オラワレ ジェジェ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C088
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB38
4C084ZC75
4C088AB46
4C088AC01
4C088BA08
4C088CA04
4C088CA09
4C088MA02
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZB38
4C088ZC41
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】新規のマラリア原虫赤血球侵入剤を提供すること。
【解決手段】Phyllanthus ninuriの抽出物を含む、マラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Phyllanthus ninuriの抽出物を含む、マラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤。
【請求項2】
Phyllanthus ninuriの抽出物及び抗マラリア薬を含むマラリアを予防又は治療するための組み合わせ製剤。
【請求項3】
Phyllanthus ninuriの抽出物を含むマラリアの予防又は治療剤であって、抗マラリア薬と組み合わせて用いるための予防又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マラリアはマラリア原虫であるプラスモディウム(Plasmodium)属によって引き起こされる最も一般的なベクター媒介性感染症の一つである。2018年の世界保健機関(WHO)の報告では、世界中で405,000人が死亡し、2億1,300万人がマラリアに感染していると推定されている。また、マラリアの全症例の90%がサハラ以南のアフリカで発生したと報告されている。人間のマラリアは通常、プラスモディウム属の原虫の4種(P.falciparum、P.vivax、P.malariaeおよびP.ovale)によって引き起こされるが、感染の大部分はP.falciparumによって引き起こされる。さらに、P.falciparumの感染は、重度の貧血、脳マラリア、急性呼吸器不全などの重度のマラリアを引き起こすことが知られている。したがって、長い間マラリアと闘うことが求められてきている。これまでに認可されたマラリアワクチンはないが、いくつかの有効な抗マラリア薬が開発されてきている。例えば、キニーネはシンコナの木から抽出され、アルテミシニンは中国の植物Artemisia annuaから発見されている。このように、薬用植物からの抗マラリア薬はマラリア制御に貢献している。
【0003】
しかし、近年、薬剤耐性原虫の出現が深刻な問題を引き起こしているため、WHOはマラリアの治療にアルテミシニンをベースとした併用療法(ACT)を推奨している。既存の抗マラリア薬のほとんどは赤血球(RBC)内の原虫を標的としているが、抗マラリアの治療が結果的に原虫に対する薬剤の長期暴露等につながるため、治療開発の標的としてメロゾイトの赤血球への侵入のステップが非常に注目されている。
【0004】
しかしながら、原虫の赤血球侵入を標的とした抗マラリア薬はほとんどない。例えば、非特許文献1では、抗マラリア活性を有する化合物を含む400種の化合物ライブラリーをスクリーニングした結果、マラリア原虫の赤血球からの放出を抑制した化合物は15種類、マラリア原虫の赤血球侵入を抑制したのは24種類であったと報告されている。そのため、依然として、赤血球への原虫の侵入を標的とする新しい抗マラリア薬の開発が熱望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Int J Parasitol. 2020 Mar;50(3):235-252.
【非特許文献2】Southeast Asian J Trop Med Public Health. 2007 Jul; 38(4): 609-15
【非特許文献3】J Nat Prod. 2005 Apr;68(4):537-9
【非特許文献4】J Exp Med 216, 1733-1748, doi:10.1084/jem.20182227 (2019).
【非特許文献5】mBio 9, doi:10.1128/mBio.01738-18 (2018).
【非特許文献6】Phytother Res 31, 980-1004, doi:10.1002/ptr.5825 (2017).
【非特許文献7】Interdiscip Toxicol 4, 206-210, doi:10.2478/v10102-011-0031-9 (2011).
【非特許文献8】. Antimicrob Agents Chemother 57, 1455-1467, doi:10.1128/aac.01881-12 (2013).
【非特許文献9】PLoS Pathog 8, e1002401, doi:10.1371/journal.ppat.1002401 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決すべき課題は、新規のマラリア原虫赤血球侵入阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる状況の下、本発明者らは多種多様な成分について検討した結果、Phyllanthus ninuriの抽出物が、マラリア原虫の赤血球への侵入抑制効果を有することを見出した。本発明は、かかる新規の知見に基づくものである。
【0008】
従って、本発明は、以下の項を提供する:
項1.Phyllanthus ninuriの抽出物を含む、マラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤。
【0009】
項2.Phyllanthus ninuriの抽出物及び抗マラリア薬を含むマラリアを予防又は治療するための組み合わせ製剤。
【0010】
項3.Phyllanthus ninuriの抽出物を含むマラリアの予防又は治療剤であって、抗マラリア薬と組み合わせて用いるための予防又は治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、これまでマラリア原虫の赤血球への侵入阻害効果について知られていなかったPhyllanthus ninuriの抽出物を有効成分として用いることによって、新規のマラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤を提供することができる。
【0012】
ここで、本発明の有効成分であるPhyllanthus ninuriの抽出物が抗マラリア活性を有することは知られていた(非特許文献2、3)。しかし、非特許文献1を挙げて前述したように抗マラリア活性を有する化合物の多くはマラリア原虫の赤血球侵入の抑制効果を奏さない。また、抗マラリア活性を有する各薬剤の、原虫の増殖阻害又は発達の抑制のメカニズム、原虫の赤血球侵入阻害のメカニズム等についてはまだ不明なところが多い。従って、抗マラリア活性が報告されている多種多様な成分のうち、どの化合物が原虫の赤血球侵入阻害活性を有するかを確認するためには、非常に多くの試行錯誤を必要とする。従って、上記本発明の驚くべき効果は、従来技術から予想し得ないものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】Phyllanthus niruri 抽出物(PE)処理は、in vitroで熱帯熱マラリア原虫の増殖を阻害する。(A)P. niruriの直接画像および概略抽出手順。P. niruriの写真はナイジェリア南西部の町の収集地点で撮影された。風乾後、1:10の比率(植物試料の蒸留水量あたりの重量)で1時間沸騰させて抽出した。(B)PEで24時間処理した後、HFFから培地に放出された乳酸脱水素酵素(LDH)の量を測定した。(C)感染した赤血球は、未処理またはPEで96時間処理した後、パラシテミアを計数した。陽性対照薬としてアルテミシニン(ART)を使用した。(D)寄生虫の50%(IC
50)の増殖を阻害する有効濃度。指示された濃度のPEが準備され、感染した赤血球を96時間処理するために使用した。得られたパラシテミアの割合(%)を、濃度の逆対数を使用して、その濃度に対してプロットした。示されている値は、±s.dの平均である。(E)PEまたはART処理後24時間の感染赤血球の様子をギムザ染色で確認した。(全てのデータは、3回の独立した実験を行い、各実験の中では3サンプルの反復をとった)(B-D)。** p <0.01; N.S. 有意差無し(スチューデントのt検定)。
【
図2】PEは、熱帯熱マラリア原虫の赤血球への侵入に影響を与える。(A)200 ug / mlのPEでの処理後または処理なしの感染赤血球の画像。P. falciparumのよく同期した培養物を後期の栄養型段階まで増殖させPEで処理または処理無しで24時間培養した。塗抹標本を各グループから作成し、顕微鏡で観察した。(B)精製されたシゾント感染赤血球を新鮮な赤血球および培地と混合して、2%のパラシテミアと1%のヘマトクリットを得た。PE処理、ART処理または未処理で24時間培養した後、スメアを作成して感染率を測定した。(C)洗浄した赤血球を使用した侵入阻害アッセイ。(D)PE処理が赤血球内のマラリア原虫の増殖を阻害できるか測定した。示されている値は、±s.dの平均である。(全てのデータは、3回の独立した実験を行い、各実験の中では3サンプルの反復をとった)(B-D)。** p <0.01、*** p <0.001; N.S.有意差無し(スチューデントのt検定)。
【
図3】PEはin vivoで齧歯類マラリアPlasmodium bergheiに対して抗マラリア効果を発揮する。(A-D)未処理またはPE処理マウスにP. bergheiを感染させた。(A)パラシテミアはギムザ染色によって評価した。(B)生存率を分析した。(C)血液脳関門(BBB)への影響は、エバンスブルー(EB)灌流によって測定した。非感染マウスを対照として使用した。(D)血清中のIFN-γの量をELISAで評価した。示されている値は、±s.dの平均である。(全てのデータは、3回の独立した実験を行い、各実験の中では3サンプルの反復をとった)(A、C、D)。** p <0.01、*** p <0.001; N.S. 有意差無し (ログランク検定またはスチューデントのt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
マラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤
本発明は、Phyllanthus ninuriの抽出物を含む、マラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤を提供する。本発明の有効成分は、Phyllanthus ninuriの抽出物である。Phyllanthus niruri L.(トウダイグサ科)は広範囲に渡る熱帯植物であり、薬用植物の1つとして知られており、いくつかの風土病地域でマラリア治療に使用されている。また、前述した非特許文献2及び3にはPhyllanthus niruriの抽出物が抗マラリア活性を有することが記載されている。具体的には、非特許文献2には、3種の溶媒(水、MeOH、CHCl3)を各々使用したP. niruri 抽出物に抗マラリア活性があることが記載されている。また、非特許文献3には、沸騰水を使用したP. niruri 抽出物に含まれる3種類の化合物が抗マラリア活性を示すことが記載されている。しかし、Phyllanthus niruri及びその抽出物がどのようなメカニズムで抗マラリア効果をもたらすのかは知られておらず、原虫の赤血球侵入阻害活性についても一切知られていなかった。
【0015】
Phyllanthus niruri又はその粉砕物を溶剤に浸漬することによりPhyllanthus niruriの抽出物を得ることができる。溶剤としては、水性溶剤及び非水性溶剤を挙げることができ、好ましくは水性溶剤を用いることができる。水性溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトン等を挙げることができる。非水性溶剤としては、例えば、クロロホルム、ヘキサン、ジクロロメタン等を挙げることができる。これらの溶剤は、1種単独で、又は2種以上を混合溶媒として用いることができる。Phyllanthus niruriの抽出物を得るための親浸漬時間は特に限定されないが、例えば、15分~24時間、好ましくは、30分~1時間の範囲で適宜設定できる。浸漬の際の温度も特に限定されないが、50~120℃、好ましくは、60~90℃の範囲で適宜設定できる。本発明においては、Phyllanthus niruriの抽出物は、上記抽出に用いられた溶剤に抽出物が溶出されている抽出液の状態で用いても、当該抽出液から自体公知の方法で抽出物を精製したものを用いてもよい。
【0016】
本発明において、マラリア原虫としては、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、サルマラリア原虫が揚げられるが、典型的には、熱帯熱マラリア原虫が挙げられる。
【0017】
また、本発明においては、本発明の有効成分であるPhyllanthus niruriの抽出物そのものをマラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤として用いても、薬学的に許容される各種担体(例えば、等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤等)と組み合わせた医薬組成物として用いてもよい。
【0018】
等張化剤としては、例えば、グルコース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等の糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩類等が挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
キレート剤としては、例えば、エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム等のエデト酸塩類、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸又はその塩、ヘキサメタリン酸ソーダ、クエン酸等が挙げられる。これらのキレート剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
安定化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0021】
pH調節剤としては、例えば、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の酸が挙げられ、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウム等のアルカリ金属クエン酸塩、トロメタモール等の塩基等が挙げられる。これらのpH調節剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられる。これらの防腐剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、濃縮混合トコフェロール等が挙げられる。これらの抗酸化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
溶解補助剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、グリセリン、D-ソルビトール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、D-マンニトール等が挙げられる。これらの溶解補助剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
粘稠化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの粘稠化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
また、上記医薬組成物は、Phyllanthus niruriの抽出物以外に、抗マラリア活性を有するとされている化合物をさらに含んでいてもよい。抗マラリア活性を有することが知られている化合物としては、例えば、アルテミシニン、キニーネ、メフロキン、アトバコン/プログアニル合剤等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの化合物を用いる場合、その使用量は特に限定されないが、例えば、Phyllanthus niruriの抽出物1質量部に対し、抗マラリア活性を有する化合物を0.001~1000質量部、好ましくは0.01~100質量部、より好ましくは0.1~10質量部使用することができる。Phyllanthus niruriの抽出物以外の抗マラリア活性を有する化合物を複数種類用いる場合、例えば、各化合物について上記使用割合で用いることができる。
【0027】
医薬組成物の実施形態において、組成物中のPhyllanthus niruriの抽出物の含有量は特に限定されず、例えば、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。
【0028】
製剤形態は、特に限定されず、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口投与剤;注射剤(静脈注射、筋肉注射、局所注射等)、含嗽剤、点滴剤、外用剤(軟膏、クリーム、貼付薬、吸入薬)、座剤等の非経口投与剤等の各種製剤形態を挙げることができる。上記製剤形態のうち、好ましいものとしては、例えば、経口投与剤(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等)、外用剤(吸入薬、軟膏、クリーム、貼付薬等)等が挙げられる。
【0029】
本発明において、Phyllanthus niruriの抽出物の投与量は、投与経路、患者の年齢、体重、症状等によって異なり一概に規定できないが、成人に対する1日投与量が通常、約5000mg以下、好ましくは約1000mg以下になる量とすればよい。Phyllanthus niruriの抽出物の投与量の下限も特に限定されず、例えば、成人に対する1日投与量が通常、0.1mg以上、好ましくは0.5mg以上の範囲で適宜設定できる。1日1回投与する場合は、1製剤中にこの量が含まれていればよく、1日3回投与する場合は、1製剤中にこの3分の1量が含まれていればよい。
【0030】
本発明のマラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤は、哺乳動物等の患者に投与される。哺乳動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ等が挙げられる。
【0031】
組み合わせ製剤、マラリアの予防又は治療剤
本発明の有効成分であるPhyllanthus niruriの抽出物は、マラリア原虫の赤血球への侵入阻害効果を有する。従って、Phyllanthus niruriの抽出物は、Phyllanthus niruriの抽出物以外の抗マラリア薬、特にPhyllanthus niruriの抽出物と作用点が異なる(例えば、赤血球への侵入阻害効果を有さない抗マラリア薬)と組み合わせて用いることが有用である。従って、一実施形態において、本発明は、Phyllanthus ninuriの抽出物及び抗マラリア薬を含むマラリアを予防又は治療するための組み合わせ製剤を提供する。また、別の実施形態において、Phyllanthus ninuriの抽出物を含むマラリアの予防又は治療剤であって、抗マラリア薬と組み合わせて用いるための予防又は治療剤も提供する。
【0032】
これらの実施形態において、Phyllanthus niruriの抽出物の製造方法、使用方法等については、前述の「マラリア原虫の赤血球への侵入阻害剤」に記載したのと同様である。
【0033】
また、これらの実施形態において、「組み合わせ」るとは、1つの錠剤、カプセル剤等の1つの剤形にPhyllanthus ninuriの抽出物及びその他の抗マラリア薬とを両方含む態様だけでなく、別々の剤形にPhyllanthus ninuriの抽出物及びその他の抗マラリア薬とがそれぞれ配合されている態様等、併用療法に用いられ得る種々の態様が包含され得る。
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0035】
材料および方法
マウス、細胞、寄生虫
6週齢のメスのC57BL / 6NマウスをCharles riverから得た。すべての動物実験は、東北大学の動物研究委員会の承認を得て行った。MOLT-4細胞は、10%熱不活化FBS、100 U / mlペニシリン、0.1 mg / mlストレプトマイシンを含むRPMI(Nacalai Tesque)で維持した。P. berghei ANKAおよびP. falciparum HB3クローンは、Malaria Research and Reference Reagent Resource Center(MR4; American Type Culture Collection、バージニア州マナッサス)から入手した。寄生虫は、RPMI 1640、25 mM HEPES、100 uMヒポキサンチン、12.5 ug / ml硫酸ゲンタマイシン5%(w / v)Albumax I、および62.5 ug / ml NaHCO3を含む培地で培養した。
【0036】
植物材料と抽出物の調製
Phyllanthus ninuri全体の植物の新鮮なサンプルは、ナイジェリアのAdo-Ekitiから収集した。植物全体を風乾し、乳鉢と乳棒で粉砕した。
【0037】
試薬
NF-kB p65(sc-8008)に対する抗体は、Santa Cruz Biotechnologyから入手した。
【0038】
P. falciparumのGIA
P. ninuri抽出物の熱帯熱マラリア原虫HB3に対する抗マラリア原虫活性を評価した。抽出物を計量し、蒸留水に溶解し、フィルター滅菌(0.45 μmミリポアフィルター)して、濃度5000 μg / mlの原液を作成した。濃度が200 μg / mlの作業溶液は、完全な寄生虫培地で希釈して作成した。事前に5%ソルビトールでリングステージに同期させた150マイクロリットルのP. falciparum寄生虫培養懸濁液を、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに等分し、最終ヘマトクリットを2%、パラシテミアを0.5%となるように新鮮な赤血球(AB型)で調整した。培養物を37℃で、5%CO2および5%O2でインキュベートした。インキュベーション後48時間で、5 ulの完全培地を各培養液に添加した。アルテミシニンを陽性対照として使用し、薬剤を含まないが同じパラシテミアおよびヘマトクリットで培養したウェルを陰性対照として使用した。顕微鏡法を用いて、インビトロGIAの結果の評価を96時間のインキュベーション後に行った。
【0039】
P. falciparum侵入アッセイ
侵入阻害アッセイのための精製シゾント感染赤血球はパーコールソルビトール法により調製した。手短に言えば、古い培地を、室温で2000rpmで5分間の遠心分離によって寄生虫培養物から除去した。次に、パックされた赤血球を50%ヘマトクリットに再懸濁し、70%および40%Percoll-Sorbitol溶液から作成したグラジエントをかけた。その後勾配をSS-34ローターで10,000rpmで20分間20℃でブレーキなしで遠心分離した。感染赤血球を界面40/70から収集し、不完全培地で2回洗浄した。塗抹標本は、血球計算盤を使用して感染率を算出するために作成した。精製されたシゾントを完全培地と混合して1%のヘマトクリットを取得し、新鮮なAB型赤血球を追加して総パラシテミアを2%にした。培養物(150 ul)を96ウェルプレートに移し、最終濃度が200 ug / mlになるように抽出液を適切に加えた。培養物を37℃で24時間、5%CO2および5%O2でインキュベートした。培養上清を吸引し、細胞ペレットを塗抹し、ギムザ染色で染色した。リング期の原虫が感染している赤血球率を測定した(インキュベーション後約24時間)。
【0040】
P. falciparum発生アッセイ
P. falciparum発生アッセイでは、精製したシゾントが感染した赤血球を、上記のようにパーコールソルビトール法で調製した。新鮮なAB型赤血球を植物抽出物と1時間インキュベートした後、3回洗浄した。精製されたシゾントを完全培地と混合して1%のヘマトクリットを得、洗浄した赤血球を加えて2%のパラシテミアを形成した。未処理群および処理後に洗浄を行わなかった群を対照群とした。培養物(150 ul)を96ウェルプレートに移し、最終濃度が200 ug / mlになるように抽出液を適切に加えた。培養物を37℃で24時間、5%CO2および5%O2でインキュベートした。培養上清を吸引し、細胞ペレットを塗抹し、ギムザ染色で染色した。パラシテミアはリング期の原虫が感染している赤血球率を測定した(インキュベーション後約24時間)。
【0041】
P. bergheiのパラシテミアの評価
血液塗抹標本は、すべての感染したマウスから毎日採取され、ギムザによって染色した。パラシテミアは、少なくとも5×103の赤血球を数えることにより評価した。
【0042】
血液脳関門障害の評価
非特許文献4に記載の方法に従いエバンスブルー血管漏出を測定した。マウスに、5×10
6個のP. berghei感染赤血球を感染させ、感染5日目に、200μlの2%エバンスブルー(ナカライテスク)を静脈注射した。エバンスブルー注射の1時間後にマウスを安楽死させて解剖し、脳を分離して写真を撮り、続いて脳重量を測定した。次に、脳を2 mlのホルムアミドに37℃で48時間置いた。エバンスブルーの濃度は、100μlの溶液を使用してELISAリーダーで620 nmで測定した。エバンスブルーの濃度は、200μg/ mlから始まる標準曲線を使用して計算した。エバンスブルーの含有量は、
図3Cで「μgエバンスブルー/ g脳」として表される。
【0043】
細胞生存率の定量(LDHアッセイ)
PEによって誘発された細胞毒性は、非特許文献5に記述された方法に従い測定した。細胞生存率は、CytoTox96 Non-Radio Cytotoxicity Assay Kit(Promega)を使用して培養液への乳酸脱水素酵素(LDH)の漏出を測定することにより評価した。付着細胞HFFを適切な培養容量でプレートに播種し、37℃、5%CO2および5%O2でインキュベートした。24時間後、古い培地を吸引し、200 ug / mlの抽出物を含む新しい培地と交換した。次に、細胞および抽出物を、示されているように様々な時間、5%CO2および5%O2と共に37℃でインキュベートした。培養上清を収集し、3000 rpmで5分間遠心分離した後、無細胞上清中のLDHの活性を製造元の指示に従って測定した。無細胞培地を陰性対照として使用した。すべての細胞を殺すためにTritonX-100(0.1%)で処理した細胞の培養上清を陽性対照に使用した。
【0044】
PEのIC
50
決定
P. falciparumに対するPEのIC50を計算するために、GIAアッセイを12.5、25、50、100、200μg/ mlを使用して実行した。PE処理細胞の寄生虫数は、パラシテミアを未処理のパラシテミアで標準化した抑制率として図に示されている。
【0045】
IFN-γの酵素免疫測定法(ELISA)分析
製造元の指示に従って、マウスIFN-γELISAキット(RayBiotech)を使用した。簡単に言えば、マウスから得た血清100 ulと標準を、抗マウスIFN-γ(固定化抗体)でコーティングした96ウェルマイクロプレートにウェルごとに加えた。それらを穏やかに振盪しながら室温(RT)で2.5時間インキュベートした。4回洗浄した後、100 ulの調製済みビオチン化抗マウスIFN-γを添加し、穏やかに振とうしながら室温で1時間インキュベートした。ウェルを4回洗浄し、100 ulのHRP結合ストレプトアビジン溶液を加え、穏やかに振とうしながら45分間インキュベートした。それを洗浄した後、穏やかに振盪しながら暗所でワンステップ基質試薬(3,3,5,5-テトラメチルベンジジン)と反応させた。30分のインキュベーション後、50 ulの2N硫酸を添加して反応を停止し、マイクロプレートリーダーで450 nmの色の強度を測定した。曲線を作成し、標準ウェルのIFN-γの濃度に対して450 nmでの吸光度をプロットした。サンプルの吸光度をこの曲線と比較することにより、サンプル中のIFN-γの濃度を決定した。
【0046】
統計分析
すべての統計分析は、Prism 7(GraphPad)を使用して実行した。各図に示されているポイント1つは、3サンプルの生物学的反復による平均値を示しており、3回の独立した実験を行った。平均値の差の統計的有意性は、対応のない両側スチューデントのt検定を使用して分析した。0.05未満のP値は統計的に有意であると見なした。2つのグループ間のマウスの生存時間の差の統計的有意性は、カプランマイヤー生存分析ログランクテストによって分析した。
【0047】
参考例 PE処理は、インビトロ培養条件で熱帯熱マラリア原虫の増殖を阻害する
マラリア原虫の寄生虫の増殖に対するP. niruriの詳細な効果はほとんどわかっていない。したがって、P. niruriに抗寄生虫効果の能力があるかどうかをテストするために、凍結乾燥した水性P. niruri抽出物(PE)を調製した(
図1A)。PEはin vitroおよびin vivoの両方で毒性を示さなかったことが報告されている(非特許文献6、7)。初代ヒト包皮線維芽細胞(HFF)に対して100 μg / ml PEの濃度では有意な細胞毒性が観察されなかったことを確認した(
図1B)。次に、PEの抗寄生虫活性をテストするために、熱帯熱マラリア原虫を100 μg / ml PEで96時間培養し、増殖阻害アッセイ(GIA)を行った(
図1C)。以前に報告されているように、PE処理により、未処理の状態と比較して寄生虫の数が大幅に減少した(
図1Cおよび
図1E)。さらに、P. falciparum阻害に対するPEのIC
50値は35.11μg/ mLであることが分かった(
図1D)。以前の研究ではP. ninuriのメタノール抽出物を使用することにより、今回の結果(IC
50:35.11 μg / ml)と比較して、より高い抗マラリア活性(IC
50:2.9-4.1 μg / ml)が示されている。かかる活性の違いは抗マラリア活性の違いは抽出方法の違いによるものと考えられるが、簡易煎じ法で調製した水抽出液が実態に即した評価に役立つため、本法を選択した。
【0048】
実施例1 PEは、熱帯熱マラリア原虫の赤血球侵入に影響を与える。
【0049】
GIAは通常、寄生虫の侵入、破裂、および/または分化・増殖を阻害する薬物の包括的な能力を測定するために使用される(非特許文献9)。したがって、PEが赤血球内の寄生虫の分化・増殖に影響を与えるかどうかをテストするために、同期したリング状の寄生虫(未成熟栄養体)をPEを含む培養液で24時間培養し、寄生虫(シゾント)の形態を比較した(
図2A)。寄生虫の形態(
図2A)とパラシテミア(
図2D)に対するPEの観察可能な影響はなく、PEの作用点は赤血球内の寄生虫の分化・増殖ではないことを示している。次に、PEが寄生虫の赤血球侵入に影響を与えるかどうかを調べるために、同期したシゾントをPEと24時間培養し、パラシテミアを比較した(
図2B)。PE処理により、寄生虫の数が大幅に減少した(
図2B)。さらに、感染した寄生虫の大部分はシゾント段階ではなく、リング期(データは示されていない)であり、寄生虫の破裂と放出に対するPEの影響がないことを示している。寄生虫の赤血球侵入はホスト受容体と寄生虫リガンド間の相互作用を必要とするので、PEが赤血球表面受容体に影響を与えるかどうかを評価した。赤血球をPEで1時間処理した。その後、赤血球を洗浄し、感染赤血球と一緒に24時間培養した(
図2C)。
図2Cに示すように、前洗浄した赤血球は寄生虫侵入を阻害する能力を失い、従って、このことはPEが赤血球表面受容体ではなく寄生虫リガンドまたは寄生虫侵入プロセスにも影響を与えることを示唆している。アルテミシニン等のほとんどの抗マラリア薬は原虫の赤血球侵入を阻害しないことが知られているため、上記
図2Cに示された原虫の赤血球侵入阻害効果は、PE特有のものである。
【0050】
実施例2 PEはマウスのマラリアP. bergheiに対してin vivoで複数の抗マラリア効果がある
次に、PE治療がin vivoで脳マラリアの発症を制御できるかどうかをテストした。マウスのマラリア原虫、P. berghei ANKAは、実験的な脳性マラリアの優れたモデルであることが知られているC57BL / 6(B6)マウスに感染させるために使用した(非特許文献9)。モックまたはPE処理マウスをP. berghei感染赤血球でチャレンジしたところ、PE処理マウスはパラシテミアの減少(
図3A)とより高い生存率(
図3B)を示した。さらに、PE処理マウスでは、血液脳関門の障害が大幅に減少することがわかった(
図3C)。さらに、P. berghei感染マウスの血清IFN-γレベルは、PEの存在下で有意に減少した(
図3D)。まとめると、これらの結果は、PEがin vivoで複数の効果を発揮し、寄生虫の増殖の抑制、過剰な炎症に伴う血液脳関門の障害の抑制を通じて脳マラリアの進行から保護することを示している。