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  • 特開-拡張式アンカーの抜去装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042219
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】拡張式アンカーの抜去装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20220307BHJP
   B25B 29/00 20060101ALI20220307BHJP
   E04G 21/16 20060101ALI20220307BHJP
   E04G 23/08 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
B25B29/00
E04G21/16
E04G23/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147537
(22)【出願日】2020-09-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年6月11日にYouTube(インターネット動画サイト)にて、出願人(日本パワーファスニング株式会社)自身が本願発明を用いた製品に関する動画を公開。
(71)【出願人】
【識別番号】000110789
【氏名又は名称】日本パワーファスニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 淳
(72)【発明者】
【氏名】田中 智也
【テーマコード(参考)】
2D041
2E174
2E176
3C031
【Fターム(参考)】
2D041GA02
2D041GB03
2E174AA03
2E174EA00
2E176AA01
2E176DD10
2E176DD64
3C031GG00
(57)【要約】
【課題】手動若しくは動力ドライバを使用して拡張式アンカーを容易に抜き取りできる装置を提供する。
【解決手段】抜去装置は、アンカー1の雌ねじ2にねじ込まれる中継部材7が別体に又は一体に設けられたスライドロッド9と、スライドロッド9に対して相対回転不能で相対スライド可能に嵌め込まれるホルダー10と、ホルダー10に回転自在及びスライド不能に保持された状態でスライドロッド9の露出部に螺合する筒状ナット11(スラスト回転体)とを備えている。動力ドライバによって筒状ナット11を回転させると、スライドロッド9が後退してアンカー1が抜き取られる。アンカー1がボール拡張式である場合、ボールを押圧するインナーボルト4を前工程で緩めておくか取り外しておくことにより、特に抜き取りを容易に行える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工部に空けられた下穴に拡開作用によって固定されると共に雌ねじが外向きに開口しているアンカーを施工部から引き抜くための装置であって、
前記アンカーの雌ねじにねじ込まれる中継部材が別体に又は一体に設けられたスライドロッドと、
前記アンカーに取り付けられた前記スライドロッドに対して相対回転不能で相対スライド可能に嵌め込まれるホルダーと、
前記ホルダーに回転自在及びスライド不能に保持された状態で前記スライドロッドと直接に又は間接的に螺合するスラスト回転体とを備えており、
前記スラスト回転体の回転によって前記スライドロッドが前記施工部から離反するように後退させられる、
拡張式アンカーの抜去装置。
【請求項2】
施工部に空けられた下穴に拡開作用によって固定されると共に前記施工部から露出した雄ねじ部を有するアンカーを施工部から引き抜くための装置であって、
前記アンカーに形成された雌ねじ又は前記雄ねじ部にねじ込まれる中継部材が別体に又は一体に設けられたスライドロッドと、
前記アンカーに取り付けられた前記スライドロッドに対して相対回転不能で相対スライド可能に嵌め込まれるホルダーと、
前記ホルダーに回転自在及びスライド不能に保持された状態で前記スライドロッドと直接に又は間接的に螺合するスラスト回転体とを備えており、
前記スラスト回転体の回転によって前記スライドロッドが前記施工部から離反するように後退させられる、
拡張式アンカーの抜去装置。
【請求項3】
前記スライドロッドは、基本的には円形のボルトであって少なくとも一部を断面小判形又はその他の非円形部に形成していると共に、一部が前記ホルダーの外側から突出するように設定されている一方、
前記ホルダーには、前記スライドロッドの非円形部が回転不能でスライド自在に嵌まる係合穴が形成されており、
更に、前記スラスト回転体は、動力ドライバ又は手動式レンチで回転操作される筒状ナットである、
請求項1又は2に記載した拡張式アンカーの抜去装置。
【請求項4】
前記ホルダーは一般成人が掴むことができる大きさであり、内部には中空部が形成されて、前記中空部は窓穴を介して外周面の一部に開口している、
請求項1~3のうちのいずれかに記載した拡張式アンカーの抜去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ボール等の拡張部材を備えた拡張式アンカーを施工現場から引き抜く抜去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやレンガのような石質系の施工部に部材を固定するために、拡張式のアンカーが使用されている。このアンカーには、ピンを叩き込んでテーパ状のコーンによって拡張部を広げるタイプと、特許文献1に開示されているように、内部に配置されている多数個のボールをインナーボルトで押圧して膨らませるタイプとがあり、後者のタイプは、ハンマーを振り回す必要がないため、作業者の負担を大幅に軽減できる等の利点を有している。
【0003】
いずれのタイプにおいても、部材を取り外した後に、アンカーを施工部から抜去せねばならない場合がある。そこで、雌ねじを形成してボルトでワークを固定するようになっているアンカーの抜去装置が提案されており、例えば特許文献2,3には、ホルダー(カラー)とこれに螺合したボルトとを有する抜去装置が開示されている。
【0004】
すなわち、特許文献2,3において、ボルトは頭付きであってホルダーの外側にナットが螺合しており、ボルトをアンカーの雌ねじにねじ込んでから、ボルトを回転不能に保持した状態でナットをスパナで回転操作することにより、ボルトを軸方向に移動させてアンカーを引き抜くようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表WO2016/121993号公報
【特許文献2】実開平7-14000号のCD-ROM
【特許文献3】特開平7-48834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2,3はナットに対して大きなトルクを作用させ得るため、アンカーの拡張子を取り外す等して下穴に対する突っ張りを弱めておくことにより、アンカーを的確に引き抜くことができるが、ナットは手動式のスパナでないと回転操作できず、電動ドライバのような動力ドライバを使用できないため、作業性が悪いと共に作業者の負担も大きいという問題がある。
【0007】
本願発明はこのような現状を改善すべく成されたものであり、動力ドライバ等を使用してアンカーを容易に引き抜きできる装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
コンクリート等に使用される拡張式アンカーには、全体が施工部の下穴に埋め込まれつつ施工部の外側に露出した雌ねじが形成されていて、雌ねじにねじ込んだボルトによってワークが施工面に固定される雌ねじタイプのものと、施工面から突出する雄ねじ部を有して、ワークがナットで固定される雄ねじタイプとがある。
【0009】
拡張手段としては、雌ねじタイプでは打ち込み式のピンが多用されており、雄ねじタイプでは、特許文献2,3に開示されているような下穴配置方式のテーパピンを使用しているものがある。他方、特許文献1には、雌ねじタイプ及び雄ねじタイプについて、ボール及びインナーボルトを使用して拡張することが開示されている。従って、雄ねじタイプでのアンカーは、アンカーが雌ねじを備えているものと、単なる中空穴を備えているものと、中空穴が存在しないものとがある。
【0010】
そして、本願発明は様々な構成を含んでおり、その典型を各請求項で特定している。請求項1の発明は雌ねじタイプのアンカーの抜き取りに使用するもので、この装置は、
「前記アンカーの雌ねじにねじ込まれる中継部材が別体に又は一体に設けられたスライドロッドと、
前記アンカーに取り付けられた前記スライドロッドに対して相対回転不能で相対スライド可能に嵌め込まれるホルダーと、
前記ホルダーに回転自在及びスライド不能に保持された状態で前記スライドロッドと直接に又は間接的に螺合するスラスト回転体とを備えており、
前記スラスト回転体の回転によって前記スライドロッドが前記施工部から離反するように後退させられる」
という構成になっている。
【0011】
他方、請求項2の発明は雄ねじタイプのアンカーの抜き取りに使用するもので、この装置は、
「前記アンカーに形成された雌ねじ又は前記雄ねじ部にねじ込まれる中継部材が別体に又は一体に設けられたスライドロッドと、
前記ホルダーに回転自在及びスライド不能に保持された状態で前記スライドロッドと直接に又は間接的に螺合するスラスト回転体とを備えており、
前記スラスト回転体の回転によって前記スライドロッドが前記施工部から離反するように後退させられる」
という構成になっている。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、
「前記スライドロッドは、基本的には円形のボルトであって少なくとも一部を断面小判形又はその他の非円形部に形成していると共に、一部が前記ホルダーの外側から突出するように設定されている一方、
前記ホルダーには、前記スライドロッドの非円形部が回転不能でスライド自在に嵌まる係合穴が形成されており、
更に、前記スラスト回転体は、動力ドライバ又は手動式レンチで回転操作される筒状ナットである」
という構成になっている。
【0013】
請求項3においては、筒状ナットの締め込みに際しての噛み込みや焼き付きを防止してスムースな回転を許容するため、ホルダーと筒状ナットとの間にスラスト式等のベアリングやリング状スライダーのような回転円滑化部材を介在させるのが好ましい。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1~3のうちのいずれかにおいて、
「前記ホルダーは一般成人が掴むことができる大きさであり、内部には中空部が形成されて、前記中空部は窓穴を介して外周面の一部に開口している」
という構成になっている。
【0015】
本願発明において、ホルダーは、ケース、ハウジング、カラーのような文言で特定することも可能である。スライドロッドも同様であり、スライド軸、作動軸、プーラーといった文言で特定することも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本願各発明では、アンカーの抜き取りは、アンカーから拡張部材を抜き取る等して下穴に対するアンカーの突っ張りを解除又は低減させる、中継部材をアンカーに螺合する、中継部材が取り付いたスライドロッドにホルダーを嵌め込む、片手でホルダーを回転不能に掴んだ状態で、他方の手でスラスト回転体を回転操作してスライドロッドを後退させる、という手順で行うことができる。
【0017】
そして、本願発明では、スラスト回転体は電動ドライバ等の動力ドライバによって回転操作できるため、アンカーの抜き取りを迅速かつ殆ど力を要することなく行える。従って、作業能率を格段に向上できると共に、作業者の負担も著しく軽減できる。
【0018】
請求項3のように構成すると、スライドロッドとホルダーとが直接にスライド自在で回転不能に嵌合すると共に筒状ナットがスライドロッドに直接螺合するため、部材点数を少なくして構造を簡単化でき、延いてはコストダウンにも貢献できる。
【0019】
作業者がホルダーを回転不能に保持するには、当該ホルダーにはある程度の大きさが必要であるが、請求項4のようにホルダーに中空部を形成すると、ホルダーをできるだけ軽量化しつつ必要な大きさに設定できる。従って、ユーザーフレンドリーである。
【0020】
また、ホルダーには窓穴が空いているため、スライドロッドへのホルダーの嵌め込みを正確に行える。特に、請求項3のようにスライドロッドが小判形等の非円形に形成されていると、ホルダーとスライドロッドとを姿勢合わせする必要があるが、ホルダーに窓穴が空いていると、窓穴を介してスライドロッドの姿勢を視認できるため、ホルダーの嵌め込みを迅速に行えて好適である。
【0021】
本願装置の使用に際しては、インナーボルトや打ち込み式ピンを予め除去して下穴に対するアンカーの突っ張りを解除又は減少させておくのが好適であるが、特許文献1のように、拡張部材としてボールとインナーボルトとを使用すると、インナーボルトをねじ戻す簡単な作業によって下穴に対する拡張部の突っ張り力を大幅に低減できるため、本願発明の拡張式アンカーの抜去装置の真価が強く発揮されるといえる。逆に述べると、本願発明の装置により、抜き取り容易であるというボール拡張式アンカーの利点が確実化される。但し、下穴に対するアンカーの突っ張り力が低い場合などは、拡張部材はそのままにしてアンカーを強引に引き抜くことも可能である。
【0022】
また、スラスト回転体はスライドロッドの外側に露出しているため、スラスト回転体にドライバビット係合部を設けておくことにより、動力ドライバ等によってスラスト回転体を軽快に回転操作することができる。
【0023】
なお、雌ねじタイプのアンカーでは、雌ねじにねじ込んだボルトによってワークを施工面に固定することが多いが、吊りボルトやフックボルトのように、ワークの固定機能を持たないボルトの取り付けに使用されることもある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態を示す図で、(A)は分離斜視図、(B)は(A)のB-B視断面図である。
図2】抜き取り工程を示す図で、(A)は前工程を示す図、(B)は引き抜いている状態を示す図である。
図3】雄ねじタイプアンカーの抜き取り状態を示す図で、(A)は前工程を示す図、(B)は引き抜いている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1).実施形態の構造
次に、本願発明の実施形態を説明する。以下では、方向を特定するため上下の文言を便宜的に使用するが、この文言は、床部に打ち込まれたアンカーを抜き取ることを想定して使用している(天井に配置されたアンカーの抜き取りに使用する場合は上下が逆になり、壁に配置されたアンカーの抜き取りに使用する場合は、上下は左右に変わる。)。
【0026】
まず、図1~2に示す第1実施形態を説明する。本実施形態は、雌ねじを有するアンカー1の抜き取りに使用するもので、図2(A)に一部だけ示すように、アンカー1は、筒状で内部に雌ねじ2が形成された本体3を備えており、本体3には図示しない拡張部が形成されて、拡張部が図示しないボールの群を介して押し広げられる。
【0027】
そこで、雌ねじ2には、ボールの群を本体3の先端方向に押圧するインナーボルト(虫ねじ)4がねじ込まれている。従って、インナーボルト4を抜き取ると、施工部5の下穴6に対する拡張部の突っ張り力が大幅に低下して、容易に抜き取りできる状態になる。
【0028】
抜去装置は、アンカー1の雌ねじ2にねじ込み可能なボルト式の中継部材7と、下端面(一端面)に中継部材7がねじ込まれるタップ穴8を空けたスライドロッド9と、スライドロッド9に上から相対回転不能で相対スライド自在に嵌合し得るホルダー10と、ホルダー10の上方からスライドロッド9に螺合する筒状ナット11と、ホルダー10と筒状ナット11との間に介在するスラストベアリング12とを備えている。中継部材7はスライドロッド9とは別体に構成されているが、図1(A)に一点鎖線で示すように、中継部材7をスライドロッド9に一体に形成することも可能である。
【0029】
スライドロッド9は、基本的には頭がない両切りボルトであり、一対の平坦面9aを全長に亙って形成することにより、全長に亙って断面小判形の非円形に形成されている。他方、ホルダー10は、下端(施工部5に重なる一端)にフランジ10aを形成した円形であり、内部には下向きに開口した中空部13が形成されて、外周のうちの一部に窓穴14が形成されている。
【0030】
また、ホルダー10のうち中空部13よりも上に位置した天板部に、スライドロッド9と相対回転不能で相対スライド自在に嵌まり合う小判形の係合穴15が空いている。実施形態の窓穴14は、係合穴15の長手軸線と平行な方向に開口している。従って、ホルダー10をスライドロッド9に嵌め込むに際しては、スライドロッド9の雄ねじ部16を窓穴14から視認できる。従って、ホルダー10の姿勢合わせを迅速に行える。なお、窓穴14は軸心を挟んだ両側に形成してもよい。ホルダー10は、例えば50mm程度の外径であり、一般成人がしっかり掴むことができる程度の外径に設定されている。
【0031】
本実施形態では、スライドロッド9の外周にその全長に亙って雄ねじ部16が形成されているが、雄ねじ部16は、引き抜き作業時にホルダー10の上方に露出するように形成したら足りる。平坦面9aも同様であり、ホルダー10と上下スライドする部位よりも下方は円形のままであってもよい。筒状ナット11は請求項に記載したスラスト回転体の一例であり、その下端に、スライドロッド9に上から螺合し得るタップ穴17が開口している。
【0032】
他方、筒状ナット11の上端には、ビット係合部として、六角のドライバビット18が嵌合するビット穴19を形成している。ドライバビット18はソケット方式であってもよい。この場合は、筒状ナット11の上面に、ビット係合部として六角等のボス部を一体に形成したらよい。
【0033】
(2).抜き取り工程
本実施形態のアンカー1はボルト拡張式であるので、図2(A)に示すように、まず、角形レンチ20を使用してインナーボルト4を抜き取る。次いで、アンカー1の雌ねじ2に中継部材7を適当な深さまでねじ込み、それから中継部材7にスライドロッド9をねじ込む。スライドロッド9は、施工部5の表面に当たるまでねじ込むのが好ましい。
【0034】
次いで、施工部5の表面から突出しているスライドロッド9にホルダー10を被せるようにして嵌め込む。すなわち、ホルダー10の係合穴15をスライドロッド9に上から嵌め込み、ホルダー10を施工部5の表面に載せる。これにより、スライドロッド9とホルダー10とは、相対的に回転不能で相対的にスライド自在に保持される。
【0035】
スライドロッド9は、ホルダー10が嵌合した状態で上部がホルダー10の上方に露出する長さに設定しており、スライドロッド9の上向き露出部にまずスラストベアリング12を被嵌し、次いで、片手でホルダー10を把持した状態で、スライドロッド9の上向き露出部に筒状ナット11を動力ドライバにねじ込んでいく。すると、スライドロッド9は回転不能に保持されているため、筒状ナット11がスラストベアリング12に当たると、筒状ナット11の回転によってスライドロッド9は上向きに引き上げられ、これによってアンカー1も一緒に上向きに抜かれていく。
【0036】
この場合、ホルダー10は人がしっかり掴持できる程度の外径であるため、ホルダー10を回転不能に保持した状態で筒状ナット11をスライドロッド9にねじ込むことができる。従って、アンカー1の引き抜きを確実化できる。
【0037】
なお、上記の説明では、前工程においてインナーボルト4を取り外したが、インナーボルト4を緩めた状態で、雌ねじ2が中継部材7を十分にねじ込みできる深さを持っている場合は、インナーボルト4は、緩めるだけで取り外さずにおくことも可能である。また、アンカー1は、ある程度まで引き上げると手で引き抜きできることもあるので、必ずしも、アンカー1が施工部5から離脱する状態まで筒状ナット11の回転操作を行うことは必要ない。
【0038】
なお、アンカー1の長さはまちまちであるが、長さの違いに対する対応手段としては、筒状ナット11を最も長い長さに応じた長さに設定しておくことにより、1本の筒状ナット11で全種類のアンカー1に対応できるようにしておいてもよいし、長さが相違する筒状ナット11を複数種類用意しておいてもよい。
【0039】
アンカー1は、その外径及び雌ねじ2の径が相違するものが複数種類あり得るが、この場合は、中継部材7は雌ねじ2の径に対応して複数種類用意しておく必要がある。スライドロッド9の一端と他端とに径が異なるタップ穴8を形成しておくことにより、1本のスライドロッド9を2種類の中継部材7に対応せしめることも可能である。或いは、中継部材7について、アンカー1の雌ねじ2の種類に対応した複数種類を製造して、各中継部材7のうちスライドロッド9に螺合する部位は同径に設定しておくことにより、スライドロッド9、ホルダー10、筒状ナット11を1種類で足りるようにすることも可能である。
【0040】
図1(A)に一点鎖線で示すように、スラスト回転体として高ナット(ロングナット)11aを使用して、これをソケットレンチ18aで回転操作することも可能である。高ナット11aは長さが異なるものが市販されているため、適度の長さのものを簡単に入手できる。他方、図2(B)に点線で示すように、スラスト回転体として六角ナット等の角形ナット11bを使用して、この角形ナット11bを長い長さのソケットレンチ(図示せず)で回転操作することも可能である。
【0041】
(3).雄ねじタイプのアンカーへの適用
図3では、雄ねじタイプのアンカー1の抜き取りに使用した状態を示している。この例では、アンカー1は、施工部5の表面から露出した雄ねじ部21を備えていると共に、インナーボルト4がねじ込まれる雌ねじ2が形成されている。従って、アンカー1は、インナーボルト4によってボールを押圧して本体3の拡張部を拡径するタイプである。
【0042】
このように、雄ねじタイプであっても雌ねじ2が形成されているアンカー1の場合は、既述の装置をそのまま使用できるが、スライドロッド9は、雄ねじ部21の露出寸法だけ施工部5の表面から離れるため、図1,2のスライドロッド9をそのまま使用するとアンカー1の引き上げストロークが短くなる。従って、雄ねじタイプのアンカー1に使用する場合は、雌ねじタイプのアンカー1よりも短いスライドロッド9を使用したらよい。もとより、筒状ナット11の長さが十分にある場合は、雌ねじタイプのアンカーと雄ねじタイプのアンカー1との両方に同じ長さのスライドロッド9を使用できる。
【0043】
雄ねじタイプのアンカー1であって雌ねじ2が形成されていない場合は、図3(B)に一点鎖線で示すように、中継部材7を、アンカー1の雄ねじ部21に螺合するナット部22と、スライドロッド9のタップ穴8に螺合するボルト部23とを有する形態(異径の形態)に形成することで対応できる。或いは、スライドロッド9に、アンカー1の雄ねじ部21に螺合するナット部22を一体に形成することも可能である。
【0044】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に展開できる。例えば、ホルダーは、四角形や六角形等の角形であってもよい。また、スライドロッド9とホルダー10との相対回転防止手段としては、スライドロッド9にキー溝を形成する一方、ホルダー10の係合穴に突条を形成するなど、様々な組み合わせを採用できる。
【0045】
また、スライドロッドは、外周に雄ねじが形成されたボルトタイプである必要はない。例えば、スライドロッドを六角形等の断面角形に形成する一方、ホルダーにはスライドロッドがスライド自在で相対回転不能に嵌まる角形の係合穴を形成して、スライドロッドの上端を係合穴の内部に位置させて、頭付きボルトを、スラストベアリングを介してスライドロッドに上からねじ込むことにより、頭付きボルトの回転操作によってスライドロッドを引き上げる(後退させる)ことができる。この場合は、頭付きボルトが請求項に記載したスラスト回転体になる。
【0046】
更に、スラスト回転体の例である筒状ナットや頭付きボルトは、ソケットレンチやメガネレンチなどの長い柄を有するレンチで回転させることも可能である。この場合は、筒状ナットや頭付きボルトのようなスラスト回転体に大きなトルクを掛けることができる。ホルダーに回り止めのハンドルを取り付けることも可能である。回転円滑化手段としては、摩擦係数が小さい硬質材料からなるリング状スライダーなども使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本願発明は、拡張式アンカーの抜去装置に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 アンカー
2 雌ねじ
3 アンカー本体
4 拡張部材の一部を構成するインナーボルト
5 施工部
6 下穴
7 中継部材
8 タップ穴
9 スライドロッド
10 ホルダー
11 スラスト回転体の一例としての筒状ナット
12 回転円滑化部材の一例としてのベアリング
13 中空部
14 窓穴
15 係合穴
16 雄ねじ部
17 タップ穴
18 ドライバビット
21 雄ねじ部
図1
図2
図3