(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042308
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/073 20060101AFI20220307BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/095 515Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147681
(22)【出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】田中 和裕
(72)【発明者】
【氏名】河合 宏和
(72)【発明者】
【氏名】高見 親法
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082AB01
4E082CA01
4E082DA01
4E082EB11
4E082EC03
4E082EC13
4E082EF02
4E082EF07
4E082EF16
4E082FA01
4E082FA04
(57)【要約】
【課題】くびれを検出した時点で溶接電流を減少させるには、抵抗及びトランジスタの両方が必要であり、小型化に課題がある。
【解決手段】消耗電極式アーク溶接を行うために溶接電流Iwを出力する溶接電源部PMと、短絡期間中溶接ワイヤ1先端に発生する溶融金属のくびれを検出するくびれ検出部NDと、溶接電流Iwの通電路に設けられたトランジスタTRと、くびれ検出部NDの検出信号NdによりトランジスタTRを駆動する駆動部DRとを備え、くびれ検出部NDがくびれを検出した場合は、駆動部DRはトランジスタTRを能動領域にて駆動して溶接電流Iwを低下させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極式アーク溶接を行うために溶接電流を出力する溶接電源部と、
短絡期間中溶接ワイヤ先端に発生する溶融金属のくびれを検出するくびれ検出部と、
前記溶接電流の通電路に設けられたトランジスタと、
前記くびれ検出部の検出信号により前記トランジスタを駆動する駆動部と、
を備え、
前記くびれ検出部がくびれを検出した場合は、前記駆動部は前記トランジスタを能動領域にて駆動して前記溶接電流を低下させる、
ことを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記駆動部が前記トランジスタを能動領域にて駆動する期間は、前記くびれ検出部がくびれを検出した時点から前記溶接電流が所定値まで低下する時点までの期間である、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記駆動部は、前記トランジスタを、能動領域で駆動する期間以外の期間中は飽和領域にて駆動する、
ことを特徴とする請求項1及び2に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させてアークを再発生させる溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2の発明では、溶接ワイヤと母材間でアークと短絡状態を繰り返す消耗電極式アーク溶接において、短絡状態からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出し、くびれを検出した時点で溶接電流を減少させて小電流の状態でアークを再発生させ、スパッタ発生量を低減することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許公報第5950747号公報
【特許文献2】特許公報第4907892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2では、くびれを検出した時点で溶接電流を減少させる方法として、スイッチング素子と並列に抵抗を接続し、スイッチング素子をオフすることにより、溶接電流を減少させる方法が提供されている。しかし、スイッチング素子及びスイッチング素子に並列接続される抵抗が必要であり、機器の小型化やコスト低減が出来ない課題がある。
【0005】
本発明は、くびれを検出した時点で溶接電流を減少させる回路の小型化及びコスト低減を図ることができる溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
消耗電極式アーク溶接を行うために溶接電流を出力する溶接電源部と、
短絡期間中に溶接ワイヤ先端に発生する溶融金属のくびれを検出するくびれ検出部と、
前記溶接電流の通電路に設けられたトランジスタと、
前記くびれ検出部の検出信号により前記トランジスタを駆動する駆動部と、
を備え、
前記くびれ検出部がくびれを検出した場合は、前記駆動部は前記トランジスタを能動領域にて駆動して前記溶接電流を低下させる、
ことを特徴とする溶接装置である。
【0007】
請求項2の発明は、
前記駆動部が前記トランジスタを能動領域にて駆動する期間は、前記くびれ検出部がくびれを検出した時点から前記溶接電流が所定値まで低下する時点までの期間である、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接装置である。
【0008】
請求項3の発明は、
前記駆動部は、前記トランジスタを、能動領域で駆動する期間以外の期間中は飽和領域にて駆動する、
ことを特徴とする請求項1及び2に記載の溶接装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スイッチング素子に並列接続する抵抗を省略することができるので、くびれを検出した時点で溶接電流を減少させる回路の小型化及びコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る溶接装置の接続図及び各機能のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る溶接装置の短絡時の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る溶接装置の接続図及び各機能のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0013】
溶接電源回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この溶接電源回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0014】
リアクトルWLは、溶接電流Iwを平滑して安定したアーク3を持続させる。
【0015】
送給モータWMは、溶接電源回路PMからの送給制御信号Fcを入力として、溶接ワイヤ1を一定速度の送給速度Fwで送給する。
【0016】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4の先端からはシールドガス(図示は省略)が噴出して、アーク3を大気から遮蔽する。
【0017】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0018】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(-)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0019】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、短絡判別値以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0020】
電流設定回路IRは、短絡期間中の電流設定信号Irとして出力する。
【0021】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Ir及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流設定信号Ir(+)と電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0022】
電源特性切換回路SWは、電流誤差増幅信号Ei、電圧誤差増幅信号Ev及び短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する時点までの短絡期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)アーク期間中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、短絡期間中の溶接電源の特性は、定電流特性となり、それ以外の期間中は定電圧特性となる。
【0023】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の溶接電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの溶接電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の溶接電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、溶接電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0024】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0025】
トランジスタTRは、コレクタ端子cをリアクトルWLに接続し、エミッタ端子eを溶接トーチ4に接続しており、後述する駆動回路DRにより、くびれを検出して溶接電流Iwを減少させる場合は、能動領域で動作し、それ以外の期間は飽和領域で動作する。なお、トランジスタTRとしては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体素子が使用される。
【0026】
オン電圧検出器VCEは、トランジスタTRのエミッタ端子e(-)からコレクタ端子c(+)間の電圧を測定し、オン電圧信号Vceを出力する。
【0027】
オン抵抗測定器RCEは、オン電圧検出器VCEの測定したオン電圧信号Vceを電流検出回路IDの測定した電流検出信号Idで除算して、トランジスタTRのエミッタ端子eからコレクタ端子c間のオン抵抗Rceを算出する。
【0028】
駆動回路DRは、オン抵抗測定器RCEの算出したオン抵抗Rce、電流比較回路CMの電流比較信号Cm及びくびれ検出回路NDのくびれ検出信号Ndを入力として、下記のとおりトランジスタTRのゲート端子gを駆動するゲート信号Drを出力する。
1)くびれ検出信号NdがLowの場合、トランジスタTRのオン抵抗Rceが、ほぼ零になるようにトランジスタTRのゲート端子gを駆動するゲート信号Drを出力し、トランジスタTRを飽和領域で駆動する。
2)くびれ検出信号NdがHighで、かつ電流比較信号CmがLowの場合、トランジスタTRのオン抵抗Rceが所定値になるようにトランジスタTRのゲート端子gを駆動するゲート信号Drを出力し、トランジスタTRを能動領域で駆動する。オン抵抗Rceの所定値は、0.5Ωから3Ωの範囲が適正であり、本実施の形態においては、オン抵抗Rce=0.8Ωである。
3)くびれ検出信号NdがHighで、かつ電流比較信号CmがHighの場合、トランジスタTRのオン抵抗Rceが、ほぼ零になるようにトランジスタTRのゲート端子gを駆動するゲート信号Drを出力し、トランジスタTRを飽和領域で駆動する。
従って、この駆動信号Drはくびれが検出されるとトランジスタTRのオン抵抗Rceが所定値になるように能動領域で駆動し、トランジスタTRのオン抵抗Rceが通電路に挿入されることになるので、溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはトランジスタTRのオン抵抗Rceが、ほぼ零になるように能動領域で駆動し、トランジスタTRがオン状態になるので、通常の状態に戻る。
【0029】
図2は、本発明の実施の形態に係る溶接装置の短絡時の動作を示すタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwを示し、同図(B)は溶接電圧Vwを示し、同図(C)は短絡判別信号Sdを示し、同図(D)はくびれ信号Ndを示し、同図(E)は電流比較信号Cmを示し、同図(F)はトランジスタTRのVceを示し、同図(G)はトランジスタTRのオン抵抗Rceを示し、同図(H)は駆動信号Drを示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0030】
t0:時刻t0では、アーク期間中であり、同図(C)に示すように、短絡判別信号SdはLowである。このアーク期間中は、溶接ワイヤ1先端を溶かして溶融金属球を生成し、母材2に接触するのを待っている期間である。
【0031】
t1~t2:時刻t1において、溶接ワイヤ1先端に生成された溶融金属球が母材2に接触した瞬間であり、同図(C)に示すように、短絡判別信号SdはLowからHighに切り替わる。t1からt2の初期時間の間は、母材2に接触した溶融金属球がスムーズに母材2に移行するのを助けるため、低い電流の初期電流に抑えている。本実施の形態においては、初期時間=0.5mS、初期電流=40Aである。
【0032】
t2~t3:時刻t2からt3の期間は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時傾斜で上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。同図(b)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。本実施の形態においては、短絡時傾斜=180A/mS、短絡時ピーク値=400Aである。
【0033】
t3:時刻t3において、その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、同図(D)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。
【0034】
t3~t4:時刻t3にて、くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、同図(H)に示すように、駆動信号DrはトランジスタTRをオン抵抗Rce=0.8Ωとなるように能動領域で駆動する信号となるので、同図(G)に示すように、トランジスタTRのオン抵抗Rce=0.8Ωとなり、
図1のトランジスタTRの所にオン抵抗Rce=0.8Ωの抵抗が通電路に挿入された形となる。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値Ilrへと急減する。本実施の形態においては、低レベル電流値Ilr=50Aである。
【0035】
t4:時刻t4において、溶接電流Iwが低レベル電流値Ilrのまで減少すると、同図(E)に示すとおり、電流比較信号CmはLowからHighに切り替わる。すると、同図(E)に示すとおり、駆動信号DrはトランジスタTRをオン抵抗Rce≒0Ωとなるように飽和領域で駆動する信号に戻るので、トランジスタTRはオン状態となるため、先程まで
図1のトランジスタTRにより通電路に挿入された抵抗0.8Ωが除去された形となる。
【0036】
t4~t5:一旦くびれが発生した溶接ワイヤ1の先端では、溶接電流Iwを低レベル電流値Ilrまで減少させても、溶融金属の表面張力により加速度的に狭窄が進むため、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t4にて一旦減少した後、短絡からアークに切り替わる時刻t5までの間、急上昇する。
【0037】
t5:時刻t5において、アークが発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(C)に示すように、短絡判別信号SdはHighからLowに切り替わる。短絡判別信号SdがLowのアーク期間中は、
図1の電圧誤差増幅信号Evによって溶接電源のフィードバック制御が行われるので、定電圧特性となる。従って、同図(A)に示すように、アーク期間中の溶接電流Iwの値はアーク負荷によって変化し、再度溶接ワイヤ1先端を溶かして溶融金属球を生成し、母材2に接触するのを待っている時刻t0の状態に戻る。
【0038】
以上のように、本実施の形態においては、トランジスタTRを飽和領域と能動領域に切り替えて駆動することにより、スイッチング素子に並列接続する抵抗を省略することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
E 出力電圧
Ea 誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
Fc 送給制御信号
Fw 送給速度
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
IR 電流設定回路
Ir 電流設定信号
Iw 溶接電流
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 溶接電源回路
RCE オン抵抗測定器
Rce オン抵抗
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
SW 電源特性切換回路
TR トランジスタ
VCE オン電圧検出器
Vce オン電圧
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
WL リアクトル
WM 送給モータ