(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042315
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】ジルコニア粉末、ジルコニア焼結体の製造方法、ジルコニア焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20220307BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20220307BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20220307BHJP
C01G 37/00 20060101ALI20220307BHJP
C01G 45/00 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C04B35/488
C01G51/00 B
C01G51/00 A
C01G25/00
C01G37/00
C01G45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】42
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147695
(22)【出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 優行
(72)【発明者】
【氏名】金西 啓太
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AB06
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】 成型性に優れ、高い焼結密度を有し、簡便な方法でカラージルコニア焼結体を製造することができるジルコニア粉末を提供すること。
【解決手段】 イットリアを2mol%以上6mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物とを含み、細孔径200nm以下の細孔容積が0.14~0.28mL/gであり、成型圧1t/cm2で成型した場合の相対成型密度が44~55%であるジルコニア粉末。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリアを2mol%以上6mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、
第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物とを含み、
細孔径200nm以下の細孔容積が0.14~0.28mL/gであり、
成型圧1t/cm2で成型した場合の下記式(1)で表される相対成型密度が44~55%であることを特徴とするジルコニア粉末。
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
【請求項2】
前記第4族~第9族が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、及び、Coからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記第12族が、Znであり、
前記第14族がSiであり、
前記ランタノイド元素がEr、Tb、及び、Prからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項3】
比表面積が5~20m2/gであり、
平均粒子径が0.3~0.8μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニア粉末。
【請求項4】
酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項5】
成型圧1t/cm2で成型し、1450℃で2時間焼結したときの相対焼結密度が、99.5%以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項6】
前記酸化物として、Fe2O3を0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、TiO2を0.5~0.9質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項7】
前記酸化物として、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、MnO2を0.8~1.4質量%を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項8】
前記酸化物として、ZnOを0.15~0.35質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項9】
前記酸化物として、Cr2O3を0.02~0.1質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項10】
アルミナの含有量が0.005質量%未満であり、
前記酸化物として、MnO2を0.03~0.06質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項11】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
前記酸化物として、MnO2を0.02~0.05質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項12】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
前記酸化物として、MnO2を0.2~0.5質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項13】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
前記酸化物として、Fe2O3を0.12~0.40質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項14】
アルミナの含有量が0.005質量%未満であり、
前記酸化物として、Fe2O3を0.12~0.23質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項15】
アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
前記酸化物として、CoOを0.3~1.0質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項16】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
前記酸化物として、Pr6O11を0.20~0.60質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項17】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
前記酸化物として、SiO2を0.03~0.30質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項18】
アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
前記酸化物として、CoOを0.3~1.0質量%、Cr2O3を0.05~0.25質量%、MnO2を0.03~0.2質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項19】
アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
前記酸化物として、CoOを0.2~0.8質量%、Cr2O3を0.26~0.7質量%、MnO2を0.21~0.4質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項20】
アルミナの含有量が1.5質量%以上4質量%以下であり、
前記酸化物として、Fe2O3を0.1~0.5質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.3~0.9質量%、TiO2を0.2~0.4質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項21】
アルミナの含有量が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、
前記酸化物として、Fe2O3を0.02~1質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.03~0.3質量%、TiO2を0.01~0.1質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項22】
アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
前記酸化物として、CoOを1.05~2質量%含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項23】
請求項1~12のいずれか1に記載のジルコニア粉末を成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を焼結させる工程Yとを有することを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項24】
第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物を含み、
請求項23に記載の製造方法によって得られることを特徴とするジルコニア焼結体。
【請求項25】
前記第4族~第9族が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、及び、Coからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記第12族が、Znであり、
前記第14族がSiであり、
前記ランタノイド元素がEr、Tb、及び、Prからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項26】
Fe2O3を0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、TiO2を0.5~0.9質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が-1以上13以下であり、a*が-7以上7以下であり、b*が-8以上6以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項27】
CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、MnO2を0.8~1.4質量%を含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が1以上17以下であり、a*が-9以上5以下であり、b*が-8以上6以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項28】
ZnOを0.15~0.35質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が80以上96以下であり、a*が-7以上7以下であり、b*が-6以上8以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項29】
Cr2O3を0.02~0.1質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が30以上52以下であり、a*が-5以上8以下であり、b*が0以上20以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項30】
アルミナの含有量が0.005質量%未満であり、
MnO2を0.03~0.06質量%を含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が28以上44以下であり、a*が-3以上8以下であり、b*が-8以上8以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項31】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
MnO2を0.02~0.05質量%を含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が31以上47以下であり、a*が-4以上12以下であり、b*が-9以上7以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項32】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
MnO2を0.2~0.5質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が1以上23以下であり、a*が-5以上11以下であり、b*が-10以上6以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項33】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
Fe2O3を0.12~0.40質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が55以上75以下であり、a*が-2以上17以下であり、b*が18以上40以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項34】
アルミナの含有量が0.005質量%未満であり、
Fe2O3を0.12~0.23質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が41以上61以下であり、a*が2以上18以下であり、b*が18以上38以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項35】
アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
CoOを0.3~1.0質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が22以上44以下であり、a*が-10以上7以下であり、b*が-50以上-28以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項36】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
Pr6O11を0.20~0.60質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が55以上75以下であり、a*が4以上20以下であり、b*が40以上60以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項37】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
SiO2を0.03~0.30質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が77以上97以下であり、a*が-5以上5以下であり、b*が-5以上5以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項38】
アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
CoOを0.3~1.0質量%、Cr2O3を0.05~0.25質量%、MnO2を0.03~0.2質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が13以上33以下であり、a*が-12以上-2以下であり、b*が-29以上-19以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項39】
アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
CoOを0.2~0.8質量%、Cr2O3を0.26~0.7質量%、MnO2を0.21~0.4質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が8以上28以下であり、a*が-14以上-4以下であり、b*が-21以上-11以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項40】
アルミナの含有量が1.5質量%以上4質量%以下であり、
Fe2O3を0.1~0.5質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.3~0.9質量%、TiO2を0.2~0.4質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上48以下であり、a*が-6以上4以下であり、b*が-10以上-1以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項41】
アルミナの含有量が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、
Fe2O3を0.02~1質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.03~0.3質量%、TiO2を0.01~0.1質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上48以下であり、a*が-6以上4以下であり、b*が-10以上-1以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【請求項42】
アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
CoOを1.05~2質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上48以下であり、a*が-5以上6以下であり、b*が-12以上-2以下であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア粉末、ジルコニア焼結体の製造方法、ジルコニア焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体、特に正方晶相ジルコニア焼結体は、その高い強度と鏡面研磨後の表面光沢の美しさから、刃物等の家庭用品やゴルフシューズスパイク等のスポーツ用品への応用が進んでおり、さらに時計ケースやアクセサリー等の装飾部材への応用にも広がりをみせている。こうした用途拡大に対応するためには、各種のカラーを持ったジルコニアが強く要望されている。
【0003】
上記のような背景のもと、装飾部品に用いる様々なカラーセラミックスが提案されている。例えば、特許文献1には、(a)ZrO298~67モル%、(b)安定化剤1.5~26モル%、(c)MnO4/30.3~1.5モル%、(d)Al2O30.1~3.5モル%および(e)CoO、Cr2O3、Fe2O3、TiO2からなる群から選ばれた一種類以上の酸化物0.1~2.0モル%からなる黒色系ジルコニア焼結体が開示されている。
【0004】
特許文献2には、安定化剤を含むZrO2に対し、Er2O3を0.5~2.0モル%、ZnOを0.1~0.6モル%含有するピンク色ジルコニア焼結体が開示されている。
【0005】
特許文献3には、安定化剤を含むZrO2に対し、Pr6O11を0.01~0.1モル%、ZnOを0.1~0.6モル%含有する黄色ジルコニア焼結体が開示されている。
【0006】
ジルコニア焼結体は、ジルコニア粉末を成型した後、この成型体を焼結することで製造される。この際、ジルコニア粉末にはあらかじめ、安定化処理が行われる。安定化処理を行うことより、ジルコニア結晶の高温安定相である正方晶系あるいは立方晶系の結晶構造を常温まで維持させることができる。ジルコニア結晶の安定化処理は、通常、ジルコニアにカルシア、マグネシア、イットリア等の酸化物類を固溶させることにより行われる。
立方晶系の結晶構造のみで形成されるジルコニアからなる焼結体は、いわゆる完全安定化ジルコニア(通常「安定化ジルコニア」と言う。)焼結体として広く利用されている。また、正方晶系の結晶構造のジルコニアを含有する焼結体は、部分安定化ジルコニア焼結体として広く利用されている。上記のようなジルコニア焼結体を得る場合、粉末の特性が製造時のハンドリングや焼結特性に影響を及ぼす。そのため、得られるジルコニア焼結体の特性は、原料であるジルコニア粉末の特性に大きく左右される。
【0007】
例えば、特許文献4には、2~6mol%のイットリアを含み、細孔径200nm以下の細孔容量が0.14~0.28mL/gであり、成型圧1t/cm2で成型した場合の下記式(1)で表される相対成型密度が44~55%であるジルコニア粉末の開示がある。
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
特許文献4には、上記ジルコニア粉末は、成型されると高い成型密度を有し、かつ、理論焼結密度に対して99.5%以上の焼結密度を有する焼結体を得ることができる旨、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4-114964号公報
【特許文献2】特開平4-2658号公報
【特許文献3】特開平4-2657号公報
【特許文献4】国際公開第2017/170565号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3のように、有色のジルコニア焼結体(以下、カラージルコニア焼結体ともいう)及び粉末については、従来知られている。一方、従来、カラージルコニア焼結体を得る際の成型性を詳細に検討した例はない。特許文献1~3のように、カラージルコニア焼結体を得る際の成型には、一般的に成型圧力として2t/cm2程度を必要とし、工程負荷が高いという問題がある。
【0010】
カラージルコニア焼結体を得る際には、通常、プレス成型等でジルコニア粉末を加圧して、圧粉体、つまり成型体を作製した上でこの成型体を焼結させる必要があるが、この成型体を作製するための成型工程では、ジルコニア粉末の特性が大きく影響する。焼結密度、及び、焼結体強度が高いカラージルコニア焼結体を得るためには、この成型体中の欠陥や密度ムラを減少させ、成型体をより高い密度にする必要がある。プレス成型工程においては成型時の金型壁面との摩擦の低減、及び、粉末粒子間の摩擦の低減が重要となる。この摩擦が大きい場合はラミネーション、クラックなどの欠陥が成型体に発生し、また、摩擦が大きいと成型圧力が粒子間に伝播しにくく、高成型密度の成型体を得ることができないことから、焼結体中に気孔が残存し、焼結密度を高くすることが難しい。また、射出成型、押し出し成型、鋳込み成型等を利用した場合では、成型体の歪み、成型密度ムラによる焼結体の割れなどが発生し、シート成型を利用した場合では、成型密度を高くすることができず、シート強度が低下し、加工性が悪くなることが多かった。
【0011】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、成型性に優れ、高い焼結密度を有し、簡便な方法でカラージルコニア焼結体を製造することができるジルコニア粉末を提供することにある。また、当該ジルコニア粉末を用いたジルコニア焼結体の製造方法を提供することにある。また、当該ジルコニア粉末を用いて製造されたジルコニア焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、着色用の酸化物を分散化させた状態での、一次粒子の凝集度を特定の範囲内に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るジルコニア粉末は、
イットリアを2mol%以上6mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、
第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物とを含み、
細孔径200nm以下の細孔容積が0.14~0.28mL/gであり、
成型圧1t/cm2で成型した場合の下記式(1)で表される相対成型密度が44~55%であることを特徴とする。
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
【0014】
前記構成によれば、細孔径200nm以下の細孔容積が0.14~0.28mL/gであるため、成型されると高い成型密度を有する。従って、前記ジルコニア粉末は、プレス成型、射出成型、鋳込み成型、シート成型等の各種成型方法に適している。しかも、前記ジルコニア粉末は、量産も容易であるので、コスト競争力にも優れ、各種用途に適用することができる。また、前記相対成型密度が44~55%であるため、高い焼結密度を有する焼結体を得ることができる。また、第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物を含むため、有色の焼結体とすることができる。
このように、本発明に係るジルコニア粉末によれば、着色用の酸化物を分散化させた状態での一次粒子の凝集度を特定の範囲内に制御することにより、成型性に優れ、高い焼結密度を有し、簡便な方法でカラージルコニア焼結体を製造することができる。
【0015】
前記構成においては、前記第4族~第9族が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、及び、Coからなる群より選ばれる1種以上であり、前記第12族が、Znであり、前記第14族がSiであり、前記ランタノイド元素がEr、Tb、及び、Prからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。なお、着色する場合、元素の組み合わせと、前記組み合わせに適した添加量があり、後述する。
【0016】
前記構成においては、比表面積が5~20m2/gであり、
平均粒子径が0.3~0.8μmであることが好ましい。
【0017】
前記ジルコニア粉末の比表面積が上記範囲であると、高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。
また、前記ジルコニア粉末の平均粒子径が上記範囲であると、高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。
【0018】
前記構成においては、酸化アルミニウムを含むことが好ましい。
【0019】
前記ジルコニア粉末がアルミナを含有すると、ジルコニア粉末の焼結性が向上し、結晶構造を均一化しやすくなる。また、ジルコニア粉末がアルミナを含有することで、ジルコニア焼結体の破壊靭性の低下を抑制しやすい。
【0020】
前記構成においては、成型圧1t/cm2で成型し、1450℃で2時間焼結したときの相対焼結密度が、99.5%以上であることが好ましい。
【0021】
前記相対焼結密度が、99.5%以上であると、より焼結密度が高いといえる。
【0022】
前記構成においては、前記酸化物として、Fe2O3を0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、TiO2を0.5~0.9質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0023】
前記構成においては、前記酸化物として、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、MnO2を0.8~1.4質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0024】
前記構成においては、前記酸化物として、ZnOを0.15~0.35質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0025】
前記構成においては、前記酸化物として、Cr2O3を0.02~0.1質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0026】
前記構成においては、アルミナの含有量が0.005質量%未満であり、
前記酸化物として、MnO2を0.03~0.06質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0027】
前記構成においては、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
前記酸化物として、MnO2を0.02~0.05質量%を含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0028】
前記構成においては、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
前記酸化物として、MnO2を0.2~0.5質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0029】
前記構成においては、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
前記酸化物として、Fe2O3を0.12~0.40質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0030】
前記構成においては、アルミナの含有量が0.005質量%未満であり、
前記酸化物として、Fe2O3を0.12~0.23質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0031】
前記構成においては、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
前記酸化物として、CoOを0.3~1.0質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0032】
前記構成においては、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
前記酸化物として、Pr6O11を0.20~0.60質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0033】
前記構成においては、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
前記酸化物として、SiO2を0.03~0.30質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0034】
前記構成においては、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
前記酸化物として、CoOを0.3~1.0質量%、Cr2O3を0.05~0.25質量%、MnO2を0.03~0.2質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0035】
前記構成においては、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
前記酸化物として、CoOを0.2~0.8質量%、Cr2O3を0.26~0.7質量%、MnO2を0.21~0.4質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0036】
前記構成においては、アルミナの含有量が1.5質量%以上4質量%以下であり、
前記酸化物として、Fe2O3を0.1~0.5質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.3~0.9質量%、TiO2を0.2~0.4質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0037】
前記構成においては、アルミナの含有量が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、
前記酸化物として、Fe2O3を0.02~1質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.03~0.3質量%、TiO2を0.01~0.1質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0038】
前記構成においては、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
前記酸化物として、CoOを1.05~2質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0039】
また、本発明に係るジルコニア焼結体の製造方法は、
前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を焼結させる工程Yとを有することを特徴とする。
【0040】
前記ジルコニア粉末は、着色用の酸化物が分散化されており、且つ、成型性に優れ、高い焼結密度を有する。従って、当該ジルコニア粉末を用いた前記ジルコニア焼結体の製造方法によれば、高い焼結密度を有するカラージルコニア焼結体を製造することができる。
【0041】
また、本発明に係るジルコニア焼結体は、第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物を含み、
前記製造方法によって得られることを特徴とする。
【0042】
本発明に係るジルコニア焼結体は、前記ジルコニア焼結体の製造方法によって得られるため、高い焼結密度を有する。また、第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物を含むため、有色の焼結体である。すなわち、本発明に係るジルコニア焼結体によれば、有色であり、且つ、高い焼結密度を有するカラージルコニア焼結体を提供することができる。
【0043】
前記構成において、ジルコニア焼結体を黒系に着色する場合、Fe2O3を0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、TiO2を0.5~0.9質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が-1以上13以下であり、a*が-7以上7以下であり、b*が-8以上6以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0044】
前記構成において、ジルコニア焼結体を異なる系統の黒系に着色する場合、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、MnO2を0.8~1.4質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が1以上17以下であり、a*が-9以上5以下であり、b*が-8以上6以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0045】
前記構成において、ジルコニア焼結体を白系に着色する場合、ZnOを0.15~0.35質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が80以上96以下であり、a*が-7以上7以下であり、b*が-6以上8以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0046】
前記構成において、ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、Cr2O3を0.02~0.1質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が30以上52以下であり、a*が-5以上8以下であり、b*が0以上20以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0047】
前記構成において、ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、MnO2を0.03~0.06質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が28以上44以下であり、a*が-3以上8以下であり、b*が-8以上8以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0048】
前記構成において、ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、MnO2を0.02~0.05質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が31以上47以下であり、a*が-4以上12以下であり、b*が-9以上7以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0049】
前記構成において、ジルコニア焼結体を黒色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、MnO2を0.2~0.5質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が1以上23以下であり、a*が-5以上11以下であり、b*が-10以上6以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0050】
前記構成において、ジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、Fe2O3を0.12~0.40質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が55以上75以下であり、a*が-2以上17以下であり、b*が18以上40以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0051】
前記構成において、ジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、Fe2O3を0.12~0.23質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が41以上61以下であり、a*が2以上18以下であり、b*が18以上38以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0052】
前記構成において、ジルコニア焼結体を青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下の条件下では、CoOを0.3~1.0質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が22以上44以下であり、a*が-10以上7以下であり、b*が-50以上-28以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0053】
前記構成において、ジルコニア焼結体を黄色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、Pr6O11を0.20~0.60質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が55以上75以下であり、a*が4以上20以下であり、b*が40以上60以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0054】
前記構成において、ジルコニア焼結体を白色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、SiO2を0.03~0.30質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が77以上97以下であり、a*が-5以上5以下であり、b*が-5以上5以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0055】
前記構成において、ジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下の条件下では、CoOを0.3~1.0質量%、Cr2O3を0.05~0.25質量%、MnO2を0.03~0.2質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が13以上33以下であり、a*が-12以上-2以下であり、b*が-29以上-19以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0056】
前記構成において、ジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下の条件下では、CoOを0.2~0.8質量%、Cr2O3を0.26~0.7質量%、MnO2を0.21~0.4質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が8以上28以下であり、a*が-14以上-4以下であり、b*が-21以上-11以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0057】
前記構成において、ジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1.5質量%以上4質量%以下の条件下では、Fe2O3を0.1~0.5質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.3~0.9質量%、TiO2を0.2~0.4質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上48以下であり、a*が-6以上4以下であり、b*が-10以上-1以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0058】
前記構成において、ジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.5質量%以上2.5質量%以下の条件下では、Fe2O3を0.02~1質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.03~0.3質量%、TiO2を0.01~0.1質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上48以下であり、a*が-6以上4以下であり、b*が-10以上-1以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0059】
前記構成において、ジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下の条件下では、CoOを1.05~2質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上48以下であり、a*が-5以上6以下であり、b*が-12以上-2以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、成型性に優れ、高い焼結密度を有し、簡便な方法でカラージルコニア焼結体を製造することができるジルコニア粉末を提供することができる。また、当該ジルコニア粉末を用いたジルコニア焼結体の製造方法を提供することができる。また、当該ジルコニア粉末を用いて製造されたジルコニア焼結体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、ジルコニアとは一般的なものであり、ハフニアを含めた10質量%以下の不純物金属化合物を含むものである。また、本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0062】
[ジルコニア粉末]
本実施形態に係るジルコニア粉末は、
イットリアを2mol%以上6mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、
第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物とを含み、
細孔径200nm以下の細孔容積が0.14~0.28mL/gであり、
成型圧1t/cm2で成型した場合の下記式(1)で表される相対成型密度が44~55%である。
【0063】
前記ジルコニア粉末は、ジルコニアを主成分とする一次粒子を含む。前記一次粒子の全部又は一部は、凝集して二次粒子を形成している。すなわち、前記ジルコニア粉末は、凝集していない一次粒子、及び、一次粒子が凝集した二次粒子を含む。
ただし、前記ジルコニア粉末において、二次粒子とはならず、凝集しない一次粒子の状態で存在する一次粒子の量はごく微量であり、例えば、一次粒子全体(凝集していない一次粒子と、凝集して二次粒子となった一次粒子との合計)のうちの1質量%未満である。つまり、前記ジルコニア粉末は、凝集していない一次粒子をごく微量含み得るが、大部分が二次粒子で構成されている。
【0064】
前記ジルコニア粉末は、ジルコニアを含有する。前記ジルコニアの含有量は、前記ジルコニア粉末を100質量%としたとき、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、さらに好ましくは94質量%以上、特に好ましくは94.3質量%以上である。前記ジルコニアの含有量の上限値は、特に制限されないが、前記ジルコニアの含有量は、好ましくは97.5質量%以下、より好ましくは97.2質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下、特に好ましくは96.9質量%以下である。
【0065】
前記ジルコニア粉末は、前記ジルコニアの全mol量に対して2mol%以上6mol%以下のイットリアを含む。イットリアは、安定化剤として機能する。イットリアはジルコニアと固溶体を形成して存在してもよく、混合物として存在してもよい。焼結時の元素分散性の観点から、イットリアはジルコニアと固溶体を形成して存在することが好ましい。つまり、イットリアは、イットリア安定化ジルコニアの形態で存在することが好ましい。イットリアの含有割合が2mol%以上であるため、ジルコニア粉末の焼結体中に単斜晶相の割合が過剰になるのを抑制することができる。すなわち、正方晶相から単斜晶相への相転移による大きな体積膨張で、亀裂の伝播を抑制することにより、ジルコニア焼結体の破壊靭性の低下を抑制できる。
【0066】
前記イットリアの含有量は、2~5mol%であることが好ましく、2~4mol%であることが特に好ましい。他の好ましいイットリアの含有割合は、3~6mol%であり、この範囲である場合、光学異方性の少ない立方晶相が形成されるため、透光性に優れたジルコニア焼結体を得ることができる。
【0067】
前記ジルコニア粉末は、イットリアの一部の代替として他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、カルシア、マグネシアなどのアルカリ土類金属酸化物や、セリアなどの希土類酸化物が例示される。
【0068】
前記ジルコニア粉末は、必要に応じて酸化アルミニウム(アルミナ)を含有することができる。前記アルミナの含有量は特に制限はないが、ジルコニア粉末の全質量に対して0.005~4.0質量%とすることができ、より好ましくは0.005~2.0質量%とすることができる。ジルコニア粉末がアルミナを含有する場合、ジルコニア粉末の焼結性が向上し、結晶構造を均一化しやすくなる。また、ジルコニア粉末がアルミナを含有することで、ジルコニア焼結体の破壊靭性の低下を抑制しやすい。さらに、アルミナの含有量を調節すれば、ジルコニア焼結体の透光性を向上させることができる。アルミナの含有量の上限値は、ジルコニア粉末の全質量に対して、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。
【0069】
アルミナの形態は、特に限定されないが、ジルコニア粉末の調製時のハンドリング性や不純物残存を低減するという観点から、アルミナ粉末が好ましい。
【0070】
アルミナ粉末を添加する場合、その一次粒子の平均粒子径に特に制限はないが、0.02~0.4μmとすることができ、より好ましくは0.05~0.3μm、さらに好ましくは0.07~0.2μmである。アルミナの一次粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0071】
前記ジルコニア粉末は、第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物を含む。第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物を着色剤として含むため、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体を着色することができる。
【0072】
前記第4族~第9族は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、及び、Coからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。前記第12族は、Znであることが好ましい。前記第14族は、Siであることが好ましい。前記ランタノイド元素は、Er、Tb、及び、Prからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0073】
前記酸化物としては、具体的には、例えば、TiO2、V2O5、Cr2O3、MnO2、Fe2O3、CoO、ZnO、SiO2、Er2O3、Tb4O7、Pr6O11等が挙げられる。前記酸化物は、前記ジルコニア粉末に混合物として添加されていることが好ましい。
【0074】
<第1の黒系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を黒系に着色する場合、前記酸化物として、Fe2O3を0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、TiO2を0.5~0.9質量%含むことが好ましい。
前記Fe2O3の含有量は、0.5~0.9質量%がより好ましく、0.6~0.8質量%がさらに好ましい。
前記CoOの含有量は、1.0~1.4質量%がより好ましく、1.1~1.3質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、1.1~1.5質量%がより好ましく、1.2~1.4質量%がさらに好ましい。
前記TiO2の含有量は、0.55~0.85質量%がより好ましく、0.6~0.8質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0075】
<第2の黒系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を、第1の黒系とは異なる系統の黒系に着色する場合、前記酸化物として、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、MnO2を0.8~1.4質量%を含むことが好ましい。
前記CoOの含有量は、1.0~1.4質量%がより好ましく、1.1~1.3質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、1.1~1.5質量%がより好ましく、1.2~1.4質量%がさらに好ましい。
前記MnO2の含有量は、0.9~1.3質量%がより好ましく、1.0~1.2質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0076】
<第3の黒系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を、第1、2の黒系とは異なる系統の黒系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、前記酸化物として、MnO2を0.2~0.5質量%を含ませることが好ましい。
前記MnO2の含有量は、0.25~0.45質量%がより好ましく、0.3~0.4質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0077】
<第1の白系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を白系に着色する場合、前記酸化物として、ZnOを0.15~0.35質量%含むことが好ましい。
前記ZnOの含有量は、0.2~0.3質量%がより好ましく、0.22~0.28質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0078】
<第2の白系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を白系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、前記酸化物として、SiO2を0.03~0.30質量%含むことが好ましい。
前記SiO2の含有量は、0.05~0.2質量%がより好ましく、0.07~0.13質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0079】
<第1の灰色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、前記酸化物として、MnO2を0.03~0.06質量%含むことが好ましい。
前記MnO2の含有量は、0.035~0.055質量%がより好ましく、0.04~0.05質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0080】
<第2の灰色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、前記酸化物として、MnO2を0.02~0.05質量%含むことが好ましい。
前記MnO2の含有量は、0.025~0.045質量%がより好ましく、0.03~0.04質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0081】
<第3の灰色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、Cr2O3を0.02~0.1質量%含むことが好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、0.04~0.08質量%がより好ましく、0.05~0.07質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0082】
<第1の茶色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、前記酸化物として、Fe2O3を0.12~0.23質量%含むことが好ましい。
前記Fe2O3の含有量は、0.14~0.21質量%がより好ましく、0.16~0.2質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0083】
<第2の茶色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、前記酸化物として、Fe2O3を0.12~0.23質量%含むことが好ましい。
前記Fe2O3の含有量は、0.14~0.21質量%がより好ましく、0.16~0.2質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0084】
<第3の茶色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を第1の茶色よりも深い色合いの茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、Fe2O3を0.23~0.40質量%含ませるとよい。
前記Fe2O3の含有量は、0.25~0.35質量%がより好ましく、0.28~0.32質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0085】
<青色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下の条件下において、CoOを0.3~1.0質量%を含ませるとよい。
前記CoOの含有量は、0.4~0.8質量%がより好ましく、0.5~0.7質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0086】
<黄色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を黄色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下において、Pr6O11を0.20~0.60質量%含ませるとよい。
前記Pr6O11の含有量は、0.30~0.50質量%がより好ましく、0.35~0.45質量%がさらに好ましい。
【0087】
<第1の深青色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下条件下において、前記酸化物として、CoOを0.3~1.0質量%、Cr2O3を0.05~0.25質量%、MnO2を0.03~0.2質量%含ませるとよい。
前記CoOの含有量は、0.4~0.8質量%がより好ましく、0.5~0.6質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、0.08~0.2質量%がより好ましく、0.1~0.15質量%がさらに好ましい。
前記MnOの含有量は、0.05~0.15質量%がより好ましく、0.08~0.12質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0088】
<第2の深青色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり条件下において、前記酸化物として、CoOを0.2~0.8質量%、Cr2O3を0.26~0.7質量%、MnO2を0.21~0.4質量%含ませるとよい。
前記CoOの含有量は、0.3~0.7質量%がより好ましく、0.35~0.5質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、0.3~0.5質量%がより好ましく、0.35~0.45質量%がさらに好ましい。
前記MnOの含有量は、0.25~0.4質量%がより好ましく、0.28~0.32質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0089】
<第3の深青色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1.5質量%以上4質量%以下条件下において、前記酸化物として、Fe2O3を0.1~0.5質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.3~0.9質量%、TiO2を0.2~0.4質量%含ませるとよい。
前記Fe2O3の含有量は、0.2~0.4質量%がより好ましく、0.25~0.35質量%がさらに好ましい。
前記CoOの含有量は、1.2~1.8質量%がより好ましく、1.3~1.6質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、0.4~0.7質量%がより好ましく、0.47~0.63質量%がさらに好ましい。
前記TiO2の含有量は、0.23~0.36質量%がより好ましく、0.25~0.33質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0090】
<第4の深青色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.5質量%以上2.5質量%以下条件下において、前記酸化物として、Fe2O3を0.02~1質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.03~0.3質量%、TiO2を0.01~0.1質量%含ませるとよい。
前記Fe2O3の含有量は、0.03~0.08質量%がより好ましく、0.035~0.07質量%がさらに好ましい。
前記CoOの含有量は、1.2~1.9質量%がより好ましく、1.4~1.7質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、0.05~0.2質量%がより好ましく、0.07~0.13質量%がさらに好ましい。
前記TiO2の含有量は、0.02~0.09質量%がより好ましく、0.03~0.07質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0091】
<第5の深青色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下条件下において、前記酸化物として、CoOを1.05~2質量%含ませるとよい。
前記CoOの含有量は、1.1~1.8質量%がより好ましく、1.2~1.4質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0092】
前記ジルコニア粉末は、細孔径200nm以下の細孔容積が0.14~0.28mL/gである。ここでいう細孔径とは、一次粒子が凝集して形成される二次粒子中の空隙の大きさを示す。
【0093】
200nm以下の細孔容積が0.14mL/g未満の場合は、一次粒子の凝集が強すぎるため、二次粒子が粗大になり焼結性が低下する。200nm以下の細孔容積が0.28mL/gを超える場合は、一次粒子の凝集が弱いため、成型体の成型密度が低く、高い焼結密度の焼結体を得ることができない。200nm以下の細孔容積は、0.15~0.27mL/gであることが好ましく、0.16~0.27mL/gであることがより好ましい。なお、200nmを超える大きさの細孔容積は、二次粒子どうしの空隙を示すものであるから、このような大きな空隙は一次粒子の凝集度との関連性は低い。前記細孔容積の測定方法は、実施例記載の方法による。
【0094】
本実施形態のジルコニア粉末の一次粒子径は200nm以下である場合、一次粒子が凝集して形成される二次粒子中の空隙、つまり一次粒子間の細孔径は200nm以下となりやすい。200nm以下の細孔径の細孔容積を制御することによって、二次粒子を構成する一次粒子の凝集度を制御することができる。細孔容積の値が小さければ、二次粒子内の空隙が少なく、一次粒子の凝集が強くなる。そのため、細孔容積の値が小さい粉末から得られる成型体は、二次粒子を構成する一次粒子が密に詰まっているので高い成型密度を有しやすい。
【0095】
本実施形態に係るジルコニア粉末は、上記のように特定範囲の細孔容積を有することで、二次粒子を構成する一次粒子の凝集性が従来知られているジルコニア粉末に比べて向上するとともに、一次粒子の粗大化も抑制され得る。従って、細孔径が200nm以下である細孔容積を上記の範囲に制御することは、一次粒子自体の凝集を強化しつつ、一次粒子の粗大化を抑制していることとなる。これにより、本実施形態に係るジルコニア粉末は優れた特性を有し、特にジルコニア粉末の成型性に優れる。
【0096】
前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、0.3μm以上0.8μm以下であることが好ましい。ジルコニア粉末の平均粒子径が上記範囲であると、高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。また、ジルコニア粉末の平均粒子径が上記範囲であると、粉砕工程の粉砕時間を長くする必要もない。また、ジルコニア粉末の平均粒子径が0.8μm以下であると、粉末中の単斜晶相が多くなり過ぎないので、高い焼結密度を有する焼結体が得られやすい。前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、好ましくは0.35μm以上、より好ましくは0.4μm以上である。また、前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、好ましくは0.75μm以下、より好ましくは0.7μm以下である。
ジルコニア粉末の平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2000」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。より詳細には、実施例に記載の方法による。なお、本明細書に記載の平均粒子径は体積基準で測定される値である。
【0097】
前記ジルコニア粉末の比表面積は、5m2/g以上20m2/g以下であることが好ましい。前記ジルコニア粉末の比表面積が5m2/g以上20m2/g以下であると、高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。前記ジルコニア粉末の比表面積は、好ましくは6m2/g以上、より好ましくは6.5m2/g以上、さらに好ましくは7m2/g以上である。前記ジルコニア粉末の比表面積は、好ましくは18m2/g以下、より好ましくは15m2/g以下、さらに好ましくは13m2/g以下である。
本明細書において、ジルコニア粉末の比表面積は、BET比表面積のことを指し、比表面積計「マックソーブ」、マウンテック製を用いて測定した値である。
【0098】
前記ジルコニア粉末は、成型圧1t/cm2で成型した場合の相対成型密度が44~55%である。前記相対成型密度は、45%以上が好ましく、46%以上がより好ましく、47%以上がさらに好ましく、48%以上が特に好ましい。また、前記相対成型密度は、54%以下が好ましく、53%以下がより好ましく、52%以下がさらに好ましく、51%以下が特に好ましく、50%以下が特別に好ましい。
ここで、相対成型密度は下記式(1)によって算出される値である。
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρ0とする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。
ρ0=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、X及びYはそれぞれ、イットリア濃度(モル%)及びアルミナ濃度(重量%)である。また、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+225.81X]/[150.5(100+X)A2C]・・・(2-2)
ここで、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-3)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は、粉末の組成によって変動する。例えば、イットリア含有ジルコニアの理論焼結密度は、イットリア含有量が2mol%であれば、6.112g/cm3、3mol%であれば、6.092g/cm3であれば、5.5mol%であれば、6.045g/cm3である。なお、これらの理論焼結密度は、アルミナ量0.25%を加味している。成型密度については、成型体の重量及び体積を計測することで算出することができる。着色剤を添加した場合は、アルミナ添加と同様に計算することにより理論密度を算出することができる。
【0099】
前記ジルコニア粉末は、成型圧1t/cm2で成型し、1450℃で2時間焼結したときの相対焼結密度が、99.5%以上であることが好ましい。前記相対焼結密度が、理論焼結密度に対して99.5%以上であると、より焼結密度が高いといえる。
相対焼結密度は下記式(3)によって算出される値である。
相対焼結密度は((%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(3)
焼結密度は、アルキメデス法にて計測して得られる値である。
【0100】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末について説明した。
【0101】
[ジルコニア粉末の製造方法]
以下、ジルコニア粉末の製造方法の一例について説明する。ただし、本発明のジルコニア粉末の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0102】
本実施形態に係るジルコニア粉末は、着色剤(前記酸化物)を添加する前の基材となる粉末に、前記酸化物を混合することにより得ることができる。前記基材となる粉末は、具体的には、特許第6250242号公報(国際公開第2017/170565号)に開示されているジルコニア粉末の製造方法により製造することができる。混合のより詳細な方法としては、純水等に分散させてスラリー化して湿式混合することが好ましい。湿式混合の後、乾燥し、ふるい等を通して整粒することが好ましい。前記混合は、前記基材となる粉末、及び、前記酸化物が粉砕されない態様(平均粒径や結晶子径が変化しないような態様)での混合が好ましい。
【0103】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法について説明した。
【0104】
[ジルコニア焼結体の製造方法]
以下、ジルコニア焼結体の製造方法の一例について説明するが、以下の例示に限定されない。
【0105】
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法は、
前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を焼結させる工程Yとを有する。
【0106】
<工程X>
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法においては、まず、前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る(工程X)。前記成型圧は特に限定されず、0.5t/cm2以上5t/cm2以下、0.8t/cm2以上2t/cm2以下等とすることができる。
【0107】
ジルコニア粉末を成型するにあたっては、市販の金型成型機や冷間等方圧加圧法(CIP)を採用できる。また、一旦、ジルコニア粉末を金型成型機で仮成型した後、CIP等のプレス成型で本成型してもよい。従来、カラージルコニア粉末の成型体を作製する場合、高圧条件で行われていたが、本実施形態では、前記数値範囲の中でも、低い成型圧(例えば、成型圧0.8t/cm2以上1.5t/cm2以下)で成型体を作製することが可能である。本実施形態では、前記ジルコニア粉末を用いることにより、このような低い成型圧で成型体を作製しても、高強度を有する焼結体を得ることができる。
【0108】
<工程Y>
前記工程Xの後、前記成型体を焼結する(工程Y)。これにより、本実施形態に係るジルコニア焼結体が得られる。
【0109】
前記焼結時の熱処理温度、及び、時間は特に限定されないが、1400~1550℃程度で1~5時間程度が好ましい。熱処理雰囲気は、大気中又は酸化性雰囲気中が好ましい。
【0110】
以上、本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法について説明した。
【0111】
[ジルコニア焼結体]
本実施形態に係るジルコニア焼結体は、
第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物を含み、
前記ジルコニア粉末の製造方法によって得られる。
【0112】
前記ジルコニア焼結体は、ジルコニアを含有する。前記ジルコニアの含有量は、前記ジルコニア焼結体を100質量%としたとき、好ましく90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、さらに好ましくは94質量%以上、特に好ましくは94.3質量%以上である。前記ジルコニアの含有量の上限値は、特に制限されないが、前記ジルコニアの含有量は、好ましくは97.5質量%以下、より好ましくは97.2質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下、特に好ましくは96.9質量%以下である。
【0113】
前記ジルコニア焼結体は、前記ジルコニアの全mol量に対して2mol%以上6mol%以下のイットリアを含む。
【0114】
前記イットリアの含有量は、2~5mol%であることが好ましく、2~4mol%であることが特に好ましい。他の好ましいイットリアの含有割合は、3~6mol%であり、この範囲である場合、光学異方性の少ない立方晶相が形成されるため、透光性に優れたジルコニア焼結体となる。
【0115】
前記ジルコニア焼結体は、酸化アルミニウム(アルミナ)を含有することができる。
【0116】
前記アルミナの含有量は特に制限はないが、ジルコニア焼結体の全質量に対して0.005~4.0質量%とすることができ、より好ましくは0.005~2.0質量%とすることができる。ジルコニア焼結体がアルミナを含有する場合、焼結性が向上しており、結晶構造が均一化しやすくなる。また、ジルコニア焼結体がアルミナを含有すると破壊靭性の低下を抑制しやすい。さらに、アルミナの含有量を調節すれば、ジルコニア焼結体の透光性を向上させることができる。アルミナの含有量の上限値は、ジルコニア焼結体の全質量に対して、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。
【0117】
前記ジルコニア焼結体は、第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物を含む。第4族~第9族、第12族、第14族及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1種以上の酸化物を着色剤として含むため、当該ジルコニア焼結体を有色とすることができる。
【0118】
前記第4族~第9族は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、及び、Coからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。前記第12族は、Znであることが好ましい。前記第14族は、Siであることが好ましい。前記ランタノイド元素は、Er、Tb、及び、Prからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0119】
前記酸化物としては、具体的には、例えば、TiO2、V2O5、Cr2O3、MnO2、Fe2O3、CoO、ZnO、SiO2、Er2O3、Tb4O7、Pr6O11等が挙げられる。
【0120】
<第1の黒系>
ジルコニア焼結体を黒系に着色する場合、前記酸化物として、Fe2O3を0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、TiO2を0.5~0.9質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が-1以上13以下であり、a*が-7以上7以下であり、b*が-8以上6以下であることが好ましい。
前記Fe2O3の含有量は、0.5~0.9質量%がより好ましく、0.6~0.8質量%がさらに好ましい。
前記CoOの含有量は、1.0~1.4質量%がより好ましく、1.1~1.3質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、1.1~1.5質量%がより好ましく、1.2~1.4質量%がさらに好ましい。
前記TiO2の含有量は、0.55~0.85質量%がより好ましく、0.6~0.8質量%がさらに好ましい。
前記L*は、4以上8以下がより好ましく、5以上6.5以下がさらに好ましい。
前記a*は、-2以上2以下がより好ましく、-1以上0以下がさらに好ましい。
前記b*は、-3以上1以下がより好ましく、-1.5以上-0.5以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0121】
<第2の黒系>
ジルコニア焼結体を、第1の黒系とは異なる系統の黒系に着色する場合、前記酸化物として、CoOを0.9~1.5質量%、Cr2O3を1.0~1.6質量%、MnO2を0.8~1.4質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が1以上17以下であり、a*が-9以上5以下であり、b*が-8以上6以下であることが好ましい。
前記CoOの含有量は、1.0~1.4質量%がより好ましく、1.1~1.3質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、1.1~1.5質量%がより好ましく、1.2~1.4質量%がさらに好ましい。
前記MnO2の含有量は、0.9~1.3質量%がより好ましく、1.0~1.2質量%がさらに好ましい。
前記L*は、6以上12以下がより好ましく、8以上9以下がさらに好ましい。
前記a*は、-4以上0以下がより好ましく、-2以上-1以下がさらに好ましい。
前記b*は、-3以上1以下がより好ましく、-1.5以上-0.5以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0122】
<第3の黒系>
ジルコニア焼結体を、第1、2の黒系とは異なる系統の黒系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、前記酸化物として、MnO2を0.2~0.5質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が1以上23以下であり、a*が-5以上11以下であり、b*が-10以上6以下であることが好ましい。
前記MnO2の含有量は、0.25~0.45質量%がより好ましく、0.3~0.4質量%がさらに好ましい。
前記L*は、6以上18以下がより好ましく、10以上14以下がさらに好ましい。
前記a*は、0以上6以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。
前記b*は、-5以上1以下がより好ましく、-3以上-1以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0123】
<第1の白系>
ジルコニア焼結体を白系に着色する場合、前記酸化物として、ZnOを0.15~0.35質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が80以上96以下であり、a*が-7以上7以下であり、b*が-6以上8以下であることが好ましい。
前記ZnOの含有量は、0.2~0.3質量%がより好ましく、0.22~0.28質量%がさらに好ましい。
前記L*は、85以上91以下がより好ましく、87以上89以下がさらに好ましい。
前記a*は、-2以上2以下がより好ましく、-1以上0以下がさらに好ましい。
前記b*は、-1以上3以下がより好ましく、1以上2以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0124】
<第2の白系>
ジルコニア焼結体を白系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、前記酸化物として、SiO2を0.03~0.30質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が77以上97以下であり、a*が-5以上5以下であり、b*が-5以上5以下であることが好ましい。
前記SiO2の含有量は、0.05~0.2質量%がより好ましく、0.07~0.13質量%がさらに好ましい。
前記L*は、82以上91以下がより好ましく、84以上89以下がさらに好ましい。
前記a*は、-3以上3以下がより好ましく、-1以上1以下がさらに好ましい。
前記b*は、-3以上3以下がより好ましく、0以上2以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0125】
<第1の灰色系>
ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、前記酸化物として、MnO2を0.03~0.06質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が28以上44以下であり、a*が-3以上8以下であり、b*が-8以上8以下であることが好ましい。
前記MnO2の含有量は、0.035~0.055質量%がより好ましく、0.04~0.05質量%がさらに好ましい。
前記L*は、33以上39以下がより好ましく、35以上37以下がさらに好ましい。
前記a*は、2以上7以下がより好ましく、4以上6以下がさらに好ましい。
前記b*は、-3以上3以下がより好ましく、-1以上1以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0126】
<第2の灰色系>
ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、前記酸化物として、MnO2を0.02~0.05質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が31以上47以下であり、a*が-4以上12以下であり、b*が-9以上7以下であることが好ましい。
前記MnO2の含有量は、0.025~0.045質量%がより好ましく、0.03~0.04質量%がさらに好ましい。
前記L*は、36以上42以下がより好ましく、38以上40以下がさらに好ましい。
前記a*は、1以上7以下がより好ましく、3以上5以下がさらに好ましい。
前記b*は、-4以上2以下がより好ましく、-2以上0以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0127】
<第3の灰色系>
ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、Cr2O3を0.02~0.1質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が30以上52以下であり、a*が-5以上8以下であり、b*が0以上20以下であることが好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、0.04~0.08質量%がより好ましく、0.05~0.07質量%がさらに好ましい。
前記L*は、35以上47以下がより好ましく、39以上43以下がさらに好ましい。
前記a*は、0以上6以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。
前記b*は、5以上15以下がより好ましく、9以上12以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0128】
<第1の茶色系>
ジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、前記酸化物として、Fe2O3を0.12~0.23質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が55以上75以下であり、a*が-2以上14以下であり、b*が18以上40以下であることが好ましい。
前記Fe2O3の含有量は、0.14~0.21質量%がより好ましく、0.16~0.2質量%がさらに好ましい。
前記L*は、60以上70以下がより好ましく、63以上67以下がさらに好ましい。
前記a*は、3以上9以下がより好ましく、5以上7以下がさらに好ましい。
前記b*は、23以上33以下がより好ましく、26以上30以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0129】
<第2の茶色系>
ジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、前記酸化物として、Fe2O3を0.12~0.23質量%含み、含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が41以上61以下であり、a*が2以上18以下であり、b*が18以上38以下であることが好ましい。
前記Fe2O3の含有量は、0.14~0.21質量%がより好ましく、0.16~0.2質量%がさらに好ましい。
前記L*は、46以上56以下がより好ましく、49以上53以下がさらに好ましい。
前記a*は、7以上13以下がより好ましく、9以上11.5以下がさらに好ましい。
前記b*は、23以上33以下がより好ましく、27以上30以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0130】
<第3の茶色系>
ジルコニア焼結体を第1の茶色よりも深い色合いの茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、Fe2O3を0.23~0.40質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が44以上64以下であり、a*が1以上17以下であり、b*が20以上40以下であることが好ましい。
前記Fe2O3の含有量は、0.25~0.35質量%がより好ましく、0.28~0.32質量%がさらに好ましい。
前記L*は、49以上59以下がより好ましく、52以上56以下がさらに好ましい。
前記a*は、6以上12以下がより好ましく、8以上10.5以下がさらに好ましい。
前記b*は、25以上35以下がより好ましく、28以上32以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0131】
<青色系>
ジルコニア焼結体を青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下の条件下において、CoOを0.3~1.0質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が22以上44以下であり、a*が-10以上7以下であり、b*が-50以上-28以下であることが好ましい。
前記CoOの含有量は、0.4~0.8質量%がより好ましく、0.5~0.7質量%がさらに好ましい。
前記L*は、27以上39以下がより好ましく、31以上36以下がさらに好ましい。
前記a*は、-5以上2以下がより好ましく、-3以上0以下がさらに好ましい。
前記b*は、-45以上-33以下がより好ましく、-41以上-37以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0132】
<黄色系>
ジルコニア焼結体を黄色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下において、Pr6O11を0.20~0.60質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が55以上75以下であり、a*が4以上20以下であり、b*が40以上60以下であることが好ましい。
前記Pr6O11の含有量は、0.30~0.50質量%がより好ましく、0.35~0.45質量%がさらに好ましい。
前記L*は、60以上70以下がより好ましく、63以上67以下がさらに好ましい。
前記a*は、6以上18以下がより好ましく、9以上13以下がさらに好ましい。
前記b*は、43以上57以下がより好ましく、47以上54以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0133】
<第1の深青色系>
ジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下条件下において、前記酸化物として、CoOを0.3~1.0質量%、Cr2O3を0.05~0.25質量%、MnO2を0.03~0.2質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が13以上33以下であり、a*が-12以上-2以下であり、b*が-29以上-19以下であることが好ましい。
前記CoOの含有量は、0.4~0.8質量%がより好ましく、0.5~0.6質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、0.08~0.2質量%がより好ましく、0.1~0.15質量%がさらに好ましい。
前記MnOの含有量は、0.05~0.15質量%がより好ましく、0.08~0.12質量%がさらに好ましい。
前記L*は、16以上30以下がより好ましく、20以上26以下がさらに好ましい。
前記a*は、-11以上-3以下がより好ましく、-9以上-5以下がさらに好ましい。
前記b*は、-28以上-20以下がより好ましく、-26以上-22以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0134】
<第2の深青色系>
ジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり条件下において、前記酸化物として、CoOを0.2~0.8質量%、Cr2O3を0.26~0.7質量%、MnO2を0.21~0.4質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が8以上28以下であり、a*が-14以上-4以下であり、b*が-21以上-11以下であることが好ましい。
前記CoOの含有量は、0.3~0.7質量%がより好ましく、0.35~0.5質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、0.3~0.5質量%がより好ましく、0.35~0.45質量%がさらに好ましい。
前記MnOの含有量は、0.25~0.4質量%がより好ましく、0.28~0.32質量%がさらに好ましい。
前記L*は、11以上25以下がより好ましく、14以上22以下がさらに好ましい。
前記a*は、-13以上-5以下がより好ましく、-11以上-7以下がさらに好ましい。
前記b*は、-20以上-12以下がより好ましく、-18以上-14以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0135】
<第3の深青色系>
ジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1.5質量%以上4質量%以下条件下において、前記酸化物として、Fe2O3を0.1~0.5質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.3~0.9質量%、TiO2を0.2~0.4質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上48以下であり、a*が-6以上4以下であり、b*が-10以上-1以下であることが好ましい。
前記Fe2O3の含有量は、0.2~0.4質量%がより好ましく、0.25~0.35質量%がさらに好ましい。
前記CoOの含有量は、1.2~1.8質量%がより好ましく、1.3~1.6質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、0.4~0.7質量%がより好ましく、0.47~0.63質量%がさらに好ましい。
前記TiO2の含有量は、0.23~0.36質量%がより好ましく、0.25~0.33質量%がさらに好ましい。
前記L*は、30以上45以下がより好ましく、34以上40以下がさらに好ましい。
前記a*は、-5以上3以下がより好ましく、-3以上1以下がさらに好ましい。
前記b*は、-9以上-2以下がより好ましく、-7以上-4以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0136】
<第4の深青色系>
ジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.5質量%以上2.5質量%以下条件下において、前記酸化物として、Fe2O3を0.02~1質量%、CoOを1~2質量%、Cr2O3を0.03~0.3質量%、TiO2を0.01~0.1質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上48以下であり、a*が-6以上4以下であり、b*が-10以上-1以下であることが好ましい。
前記Fe2O3の含有量は、0.03~0.08質量%がより好ましく、0.035~0.07質量%がさらに好ましい。
前記CoOの含有量は、1.2~1.9質量%がより好ましく、1.4~1.7質量%がさらに好ましい。
前記Cr2O3の含有量は、0.05~0.2質量%がより好ましく、0.07~0.13質量%がさらに好ましい。
前記TiO2の含有量は、0.02~0.09質量%がより好ましく、0.03~0.07質量%がさらに好ましい。
前記L*は、30以上45以下がより好ましく、34以上40以下がさらに好ましい。
前記a*は、-5以上3以下がより好ましく、-2以上2以下がさらに好ましい。
前記b*は、-9以上-2以下がより好ましく、-7以上-4以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0137】
<第5の深青色系>
ジルコニア焼結体を深青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下条件下において、前記酸化物として、CoOを1.05~2質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上48以下であり、a*が-5以上6以下であり、b*が-12以上-2以下であることが好ましい。
前記CoOの含有量は、1.1~1.8質量%がより好ましく、1.2~1.4質量%がさらに好ましい。
前記L*は、30以上45以下がより好ましく、35以上41以下がさらに好ましい。
前記a*は、-5以上3以下がより好ましく、-2以上2以下がさらに好ましい。
前記b*は、-11以上-3以下がより好ましく、-9以上-5以下がさらに好ましい。
【0138】
なお、L*a*b*表色系は、国際照明委員会(CIE)が1976年に推奨した色空間であり、CIE1976(L*a*b*)表色系と称される色空間のことを意味している。また、L*a*b*表色系は、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。本明細書において前記L*、a*、b*の値(色調の測定)は、ジルコニア焼結体を、厚さ3mmに調整し且つ粒径3μm以下のダイヤモンド砥粒を含むダイアモンドペーストを用いて鏡面研磨した後の測定値をいう。
【0139】
前記ジルコニア焼結体は、焼結密度が、理論焼結密度に対して99.5%以上であることが好ましい。前記焼結密度が、理論焼結密度に対して99.5%以上であると、より焼結密度が高いといえる。
【0140】
以上、本実施形態に係るジルコニア焼結体について説明した。
【実施例0141】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において得られたジルコニア粉末中には、不可避不純物として酸化ハフニウムを酸化ジルコニウムに対して1.3~2.5質量%含有(下記式(X)にて算出)している。
<式(X)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
【0142】
[ジルコニア粉末、及び、ジルコニア焼結体の作製]
(実施例1)
硫酸ナトリウム粉末をイオン交換水に溶解させて、硫酸ナトリウムの5質量%溶液を得た。得られた硫酸ナトリウム溶液を加温して、85℃で保持した。
一方、ジルコニウムをジルコニア換算で1質量%含有するようにオキシ塩化ジルコニウム溶液を調整し、加温して、85℃で保持した。ジルコニアの総量は100gとした。
次に、85℃で恒温保持したオキシ塩化ジルコニウム溶液に、85℃で恒温保持した硫酸ナトリウム溶液1000g全量を攪拌しながら10秒間で添加して混合することで、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーを得た。そこへ、塩化イットリウム溶液をイットリア量がジルコニアに対して3.0mol%となるように添加した後に、水酸化ナトリウムを用いて中和を行って水酸化物を得た。
水酸化物を濾別、水洗した後に、電気炉にて焼成温度を1000℃として水酸化物を焼成して酸化物(ジルコニア)を得た後、平均粒子径0.1μmのアルミナ粉末を前記酸化物に対して0.25質量%、着色剤としてFe2O3粉末を0.7質量%、CoO粉末を1.2質量%、Cr2O3粉末を1.3質量%、TiO2粉末を0.7質量%加え、水を分散媒とした湿式ボールミル30時間粉砕混合した。得られたスラリーを120℃にて恒温乾燥し、実施例1に係るジルコニア粉末を得た。
【0143】
得られたジルコニア粉末8gを直径25mmの金型で仮成型し、成型圧(静水圧)1t/cm2にて成型した。成型体の成型密度は、重量及び体積を計測することで算出した。得られた成型体を、1450℃、2時間で焼結して、実施例1に係るジルコニア焼結体を得た。
【0144】
(実施例2~実施例19)
イットリア量、アルミナ粉末の量、着色剤の量、焼成温度を表1に記載の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例19に係るジルコニア粉末を得た。また、実施例1と同様にして、実施例2~実施例19に係るジルコニア焼結体を得た。
【0145】
[ジルコニア粉末の組成測定]
実施例のジルコニア粉末の組成(酸化物換算)を、ICP-AES(「ULTIMA-2」HORIBA製)を用いて分析した。表1に示す。
【0146】
[細孔容積の測定]
実施例のジルコニア粉末について、細孔分布測定装置(「オートポアIV9500」マイクロメリティクス製)を用い、水銀圧入法にて細孔分布を得た。測定条件は下記の通りとした。
<測定条件>
測定装置:細孔分布測定装置(マイクロメリティクス製オートポアIV9500)
測定範囲:0.0036~10.3μm
測定点数:120点
水銀接触角:140degrees
水銀表面張力:480dyne/cm
【0147】
得られた細孔分布を用い、200nm以下の範囲における細孔容積を求めた。結果を表2に示す。
【0148】
[ジルコニア粉末の平均粒子径]
実施例のジルコニア粉末の平均粒子径を、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2000」(島津製作所社製)を用いて測定した。より詳細には、サンプル0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、卓上超音波洗浄機「W-113」(本多電子株式会社製)で5分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「SALD-2000」島津製作所社製))に投入して測定した。結果を表2に示す。
【0149】
[ジルコニア粉末の比表面積の測定]
実施例のジルコニア粉末の比表面積を、比表面積計(「マックソーブ」マウンテック製)を用いてBET法にて測定した。結果を表2に示す。
【0150】
[成型圧1t/cm2で成型した際の相対成型密度]
実施例のジルコニア粉末を、成型圧1t/cm2で成型し、相対成型密度を下記式(1)によって算出した。
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρ0とする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。
ρ0=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、X及びYはそれぞれ、イットリア濃度(モル%)及びアルミナ濃度(重量%)である。また、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+225.81X]/[150.5(100+X)A2C]・・・(2-2)
ここで、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-3)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は、粉末の組成によって変動する。例えば、イットリア含有ジルコニアの理論焼結密度は、イットリア含有量が2mol%であれば、6.112g/cm3、3mol%であれば、6.092g/cm3であれば、5.5mol%であれば、6.045g/cm3である。なお、これらの理論焼結密度は、アルミナ量0.25%を加味している。成型密度については、成型体の重量及び体積を計測することで算出した。着色剤を添加した場合は、アルミナ添加と同様に計算することにより理論密度を算出した。
【0151】
[成型圧1t/cm2で成型し、1450℃で2時間焼結したときの相対焼結密度]
実施例のジルコニア焼結体の相対焼結密度を式(3)に従って求めた。
【0152】
相対焼結密度(%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(3)
焼結密度は、アルキメデス法にて計測した。
【0153】
[焼結体の色調]
実施例のジルコニア焼結体を厚さ3mmに調整した後、自動研磨機(「Ecomet 250」BUEHLER製)を使用し、鏡面研磨を行った。鏡面研磨の仕上げには、粒径3μmのダイヤモンド砥粒を含むダイアモンドペーストを用いた。その後、得られた焼結体の色調を、色彩色差計(商品名:CM-3500d、コニカミノルタ社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0154】
【0155】