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特開2022-42358コルチゾール合成酵素11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1活性阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042358
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】コルチゾール合成酵素11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1活性阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20220307BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
A61K8/49
A61K31/365
A61P17/00
A61Q19/00
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147766
(22)【出願日】2020-09-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000226437
【氏名又は名称】日光ケミカルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301068114
【氏名又は名称】株式会社コスモステクニカルセンター
(72)【発明者】
【氏名】段 中瑞
(72)【発明者】
【氏名】横田 真理子
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AA122
4C083AB032
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC211
4C083AC212
4C083AC342
4C083AC392
4C083AC422
4C083AD092
4C083AD172
4C083AD332
4C083AD352
4C083AD572
4C083AD662
4C083CC02
4C083CC05
4C083EE11
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA22
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】本発明は、皮膚のコルチゾール合成に必要な酵素11β-HSD1の活性阻害剤を提供することを課題とする。
【解決手段】心理的ストレスに応じてストレスホルモンであるコルチゾールが作られるが、過剰に合成するコルチゾールの皮膚への老化やバリア機能の低下などの悪影響を回避するため、コルチゾールの合成と過剰分泌を抑制する方法が望まれている。皮膚のコルチゾールは、主に酵素11β-HSD1に依存してコルチゾンから合成される。本発明者らはメバロン酸及びその誘導体が11β-HSD1の活性阻害作用を有し、これが皮膚に作用するとコルチゾンからコルチゾールへの合成を抑制することを見出し、本発明を達成するに至った。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メバロン酸及びその誘導体を主成分とするコルチゾール合成酵素11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1の活性阻害剤。
【請求項2】
メバロン酸およびその誘導体が、メバロノラクトンである請求項1に記載のコルチゾール合成酵素11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1の活性阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メバロン酸及びその誘導体による、コルチゾール合成酵素11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1(11β-HSD1)活性阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一種であり、身体的・精神的ストレスを感じると、その合成と分泌が増加することが知られている(非特許文献1)。コルチゾールは、人体全身の色々な臓器に作用して、代謝、血圧、血糖をコントロールする必須のホルモンだと言われている。例えば、コルチゾールは、糖質や脂質などの代謝に影響を与えたり、血糖を上げたり、体の炎症を抑える効果がある。皮膚は身体の最も外側に位置し、外部環境からの物理的刺激や化学物質による刺激を防御する役割を担っている組織である。近年皮膚にコルチゾールの重要性について報告され始めているが、まだ研究は多くない。少量なコルチゾールはストレスに対処し、皮膚の恒常性を維持することに重要である。一方、局所的に高いレベルのコルチゾールが持続すると、皮膚にストレスによる悪影響を生じる。例えば、コルチゾールは、上皮角化細胞において過剰な角化の誘導(非特許文献2)やヒアルロン酸合成の抑制作用(非特許文献3)が確認されている。また、過剰なコルチゾールは、しわと弾力性の低下のような皮膚の老化現象や、肌のバリア機能の低下などの皮膚状態を生じる。したがって、過剰なコルチゾールの作用を抑えることができれば、ストレスの皮膚への悪影響から、皮膚状態のバランスを取り戻し、健康的な肌を維持できる。先行文献では、コルチゾールを含むストレスホルモンの作用緩和剤が報告されているが(特許文献1)、皮膚における過剰なコルチゾールの合成や分泌を抑制する手段はなかった。
【0003】
ヒト皮膚のコルチゾールは、酵素11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1(11β-HSD1)によってコルチゾンから合成される(非特許文献4)。11β-HSD1は表皮と真皮に広く発現しており(非特許文献5)、老化や光暴露による局所的なコルチゾールの増加は11β-HSD1の発現と正に相関している(非特許文献6)。以上のように、皮膚のコルチゾールの主な合成経路は、皮膚細胞に発現する11β-HSD1によるものである。11β-HSD1の活性阻害剤の開発は、皮膚のコルチゾールの過剰合成を防いで、スキンケアとアンチエイジングに重要であることは明らかである。
【0004】
メバロノラクトンはメバロン酸が分子内エステル化してできた物質であり、細胞内に取り込まれると、容易に構造変化してメバロン酸になる。また、生体内ではメバロン酸の反応経路が2つに分けられる。メバロン酸が増加することによって、代謝産物であるコエンザイムQ10の産生を促進する経路が存在している(非特許文献7)。一方、メバロン酸はスクワレンやコレステロール、ビタミンK、セラミドなどの脂質を合成する経路も知られている(非特許文献7)。これらのことから、メバロノラクトンには抗酸化や、アンチエイジング、皮膚のバリア機能の向上などの効果が期待できる。しかしながら、これまでにメバロノラクトンやメバロン酸とコルチゾールの合成や分泌の関係について言及した報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-150216号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】McInnis C,Brain.Behav. Immun. 46, 237-48(2015)
【非特許文献2】Ponec M, In Vitro Cell. Dev. Biol. 24, 764-70(1988)
【非特許文献3】Agren UM, J. Cell. Physiol. 164, 240-8(1995)
【非特許文献4】Odermatt A, Mol. Cell Endocrinol. 350, 168-86(2012)
【非特許文献5】Tiganescu A, J. Clin. Invest.Dermatol. 131, 30-6(2011)
【非特許文献6】Tiganescu A, Exp. Dermatol. 24, 370-6(2015)
【非特許文献7】Marcheggiani F, Aging(Albany NY). 11, 2565(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、メバロン酸及びその誘導体を利用する、皮膚のコルチゾール合成に必要な酵素11β-HSD1の活性阻害剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
心理的ストレスに応じてストレスホルモンであるコルチゾールが作られるが、過剰に合成するコルチゾールの皮膚への老化やバリア機能の低下などの悪影響を回避するため、コルチゾールの合成と過剰分泌を抑制する方法が望まれている。皮膚のコルチゾールは、主に酵素11β-HSD1に依存してコルチゾンから合成される。本発明者らはメバロン酸及びその誘導体が11β-HSD1の活性阻害作用を有し、これが皮膚に作用するとコルチゾンからコルチゾールへの合成を抑制することを見出し、本発明を達成するに至った。なおこれまでにコルチゾールの皮膚への悪影響を回避する目的で、過剰に合成されたコルチゾールの影響を緩和する解決策の報告はなされているが、本発明はメバロン酸及びその誘導体が皮膚コルチゾールの合成を抑制して、肌の状態を改善する点において従来の発明とは異なる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメバロン酸及びその誘導体を主成分とする11β-HSD1の活性阻害剤は、皮膚においてコルチゾンからのコルチゾール合成を抑制することで、過剰なコルチゾールによる皮膚への老化やバリア機能の低下などの悪影響を回避する化粧品として提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いる11β-HSD1活性阻害剤はメバロン酸およびその誘導体を主成分とし、市販品としては日光ケミカルズ株式会社のNIKKOL Mevalutionや株式会社ADEKAのメバロノラクトンなどがあるが特に限定されるものではない。
【0011】
本発明における11β-HSD1活性は、コルチゾンからのコルチゾール合成レベルをもってその指標とした。本発明に用いるメバロン酸およびその誘導体を主成分とする11β-HSD1活性阻害剤は、これを配合した化粧料として皮膚(表皮)に適用することでをコルチゾールの合成と分泌を抑制するものである。メバロン酸およびその誘導体を主成分とする11β-HSD1活性阻害剤の配合量は、用途、剤型、配合目的等によって異なり、特に限定されるものではないが、一般的には0.01~10.0%の濃度で使用することができ、より好ましくは0.05%~10.0%の濃度を推奨する。本阻害剤を配合した化粧料に係る剤型は任意であり、化粧水および乳液、クリーム、美容液、パック等の任意の剤型をとることができる。以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。
【実施例0012】
実施例1.表皮細胞を用いたメバロノラクトンの11β-HSD1依存性コルチゾール合成への阻害作用
1、実験方法
表皮細胞を2.0×10 cellsの播種密度で96-well plateに播種した。一晩培養後、表1に記載の濃度にてメバロノラクトンとコルチゾンを添加し、48時間培養を行った。その後、培養上清を回収してコルチゾールレベルをAlphaLISA Cortisol Detection kit(Pekin Elmer社製)を用いて定量した。また、表皮細胞は0.1%Triton X-100溶液にて溶解したのち、BCATMProtein Assay(Thermo Scientific社)を用いて細胞タンパクを定量した。コルチゾールの合成量は単位細胞タンパク当たりの量として算出した。なお、統計処理はStudent-t検定を用いて解析を行った。
【0013】
2、結果
結果を表1に示した。コルチゾン未添加の細胞と比較して、コルチゾンを添加した細胞ではより多くのコルチゾールを合成した。一方、メバロノラクトン未添加コントロールと比較して、メバロノラクトンを添加した細胞では、コルチゾールの合成が顕著に阻害された。
【0014】
【表1】
【0015】
処方例1.乳液
(A)NIKKOL ニコムルス41 1.20(質量%)
NIKKOL レシノールS-10 0.50
NIKKOL 精製オリーブスクワラン 3.00
NIKKOL TrifatS-308 5.00
NIKKOL ホホバ油 1.00
NIKKOL マカデミアンナッツ油 1.00
KF-995 1.00
トコフェロール 0.10
(B)ブチレングリコール 3.00
ペンチレングリコール 4.00
キサンタンガム(2%水溶液) 5.00
カルボマー(2%水溶液) 4.00
水酸化カリウム(1%水溶液) 3.00
防腐剤 適量
水 全量100.00
(C)ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 1.00
NIKKOL Mevalution 3.00
水 6.00
(使用原料)
NIKKOL ニコムルス41(日光ケミカルズ社製)べへニルアルコール、ペンタステアリン酸ポリグリセリル‐10、ステアロイルラクチレートナトリウム
NIKKOL レシノールS-10(日光ケミカルズ社製)水添レシチン
NIKKOL 精製オリーブスクワラン(日光ケミカルズ社製)スクワラン
NIKKOL TrifatS-308(日光ケミカルズ社製)トリエチルヘキサノイン
NIKKOL ホホバ油(日光ケミカルズ社製)ホホバ種子油
NIKKOL マカダミアンナッツ油(日光ケミカルズ社製)マカダミアナッツ油、トコフェロール
KF-995(信越化学工業製)シクロペンタシロキサン
NIKKOL Mevalution(日光ケミカルズ社製)メバノラクトン2%水溶液
(調製方法)A相とB相をそれぞれ80℃まで加温し、均一攪拌混合する。B相にA相を添加し、ホモミキサーにて乳化する。水浴にて攪拌冷却し、40℃でC相を添加し、水補正して調製を終了する。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明のメバロン酸およびその誘導体を主成分とする11β-HSD1活性阻害剤により、コルチゾールの過剰合成を回避し、様々な心理的ストレスの影響に対して健やかな皮膚機能を維持させる化粧品の提供が可能となる。