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特開2022-42404薄金属板用ドリルねじ及びこれを使用した構造体並びに固定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042404
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】薄金属板用ドリルねじ及びこれを使用した構造体並びに固定装置
(51)【国際特許分類】
   F16B 25/10 20060101AFI20220307BHJP
   F16B 25/04 20060101ALI20220307BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20220307BHJP
   F16B 25/00 20060101ALI20220307BHJP
   F16B 39/24 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
F16B25/10 A
F16B25/04 A
F16B5/02 V
F16B25/00 A
F16B39/24 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147821
(22)【出願日】2020-09-02
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】508078824
【氏名又は名称】近江OFT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】永嶋 達也
【テーマコード(参考)】
3J001
3J034
【Fターム(参考)】
3J001FA02
3J001GA02
3J001GB01
3J001HA02
3J001JA01
3J001KA05
3J001KA21
3J001KA26
3J001KB04
3J034AA09
3J034BC04
(57)【要約】
【課題】デッキプレートのような薄金属板製の部材(構造材)にワークを固定するためのドリルねじにおいて、構造を簡単化しつつ締結強度と緩み止め効果とを向上させる。
【解決手段】ドリルねじは、軸1とドリル部2と頭3とから成っており、軸1のねじ山4は、切欠き溝14によって全体的に又は部分的に分断されている。ねじ部は帯状の谷面11を有しており、谷径D1はドリル径D2よりも大きくなっている。かつ、相手材10の板厚は谷幅Eよりも大きくなっている。施工に際しては、相手材10の内周縁部21が拡径作用を受けることにより、内周縁部21の一部は谷に嵌合した食い込み部21bになり、反対側の部位は厚肉部21aになる。このため、ねじ山4を厚肉部21aにしっかりと食い込ませることができる。これにより、高い締結強度と緩み止め効果とを享受できると共に、雌ねじが潰れてねじ部が空回りするストリッピング現象も防止できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ部を有する軸とその先端に設けた自己穿孔部、及び、前記軸の基端に設けた頭とを備えており、前記ねじ部には、ねじ山を全体的に又は部分的に分断する切欠き溝の群が周方向に分かれて複数条形成されている薄金属板用自己穿孔ねじであって、
前記ねじ部は、隣り合ったねじ山の間に帯状の谷面が形成されて、前記ねじ部の谷径は前記自己穿孔部により形成される下穴の内径よりも大径か又は略同径になっている一方、
前記谷面の幅寸法をE、ねじ山のピッチをP、前記ねじ部がねじ込まれてワークの締結に供される薄金属板の板厚をtとしたとき、E<t<Pの関係になっており、
かつ、前記ねじ部が前記薄金属板にねじ込まれた状態で少なくとも1つの切欠き溝が薄金属板の内周面に重なるように設定されている、
薄金属板用自己穿孔ねじ。
【請求項2】
軸心と直交した平面と前記ねじ山の進み側フランクとが成す角度をθ1、軸心と直交した平面と前記ねじ山の追い側フランクとが成す角度をθ2としたき、θ1>θ2の関係でかつθ1+θ2は35~45°程度に設定されており、
更に、隣り合ったねじ山における切欠き溝の底の軸方向の間隔をLとしたとき、Lと前記tとが略同じ程度か又はt>Lに設定されている、
請求項1に記載した薄金属板用自己穿孔ねじ。
【請求項3】
前記薄金属板とねじ山とは、前記ねじ部が薄金属板にねじ込まれた状態で、略半周の範囲内において前記薄金属板の厚さの範囲内に複数の切欠き溝が存在する関係に設定されている、
請求項1又は2に記載した薄金属板用自己穿孔ねじ。
【請求項4】
薄金属板製の構造材とこれに重なったワーク、及び前記ワークを前記薄金属板に押さえ固定する自己穿孔ねじとを備えており、
前記自己穿孔ねじは、ねじ山より成るねじ部を有する軸とその先端に設けた自己穿孔部、及び、前記軸の基端に設けた頭とを備えて、前記ねじ部には、ねじ山を全体的に又は部分的に分断する切欠き溝の群が周方向に分かれて複数条形成されている構成であって、
前記ねじ部は、隣り合ったねじ山の間に帯状の谷面が形成されて、前記ねじ部の谷径は前記自己穿孔部により形成される下穴の内径よりも大径か又は略同径になっている一方、
前記谷面の幅寸法をE、ねじ山のピッチをP、前記ねじ部がねじ込まれてワークの締結に供される薄金属板の板厚をtとしたとき、E<t<Pの関係になっており、
かつ、前記各切欠き溝は、前記ねじ山の中途高さまでの深さに形成されており、前記ねじ部が前記薄金属板にねじ込まれた状態で少なくとも1つの切欠き溝が薄金属板の内周面に重なるように設定されている、
構造体。
【請求項5】
請求項1~3のうちのいずれかに記載した自己穿孔ねじとワッシャーとから成っており
前記ねじの頭の座面は下窄まりのテーパ状でかつ平断面多角形に形成されている一方、前記ワッシャーには、前記ねじの頭の座面が密着する平断面多角形の下窄まりテーパ状受け座が形成されており、前記受け座は、スリットで分断されることなく周方向に一連に連続している、
薄金属板用固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、薄金属板用自己穿孔ねじ及びこれを使用して構築された構造体並びに固定装置に関するものである。ここに薄金属板とは、概ね2mm以下程度(通常は1.6mm以下が多い)の金属板(主として鋼板やステンレス板)を云い、構造体は、建物の屋根部や天井部、壁部などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
1~2mm程度の板厚の鋼板製基材を使用している建物は多々存在しており、断熱材やコンパネ材などをこれら基材にドリルねじ等の自己穿孔ねじで固定することは広く行われている。例えば、建物の屋根部を構成するデッキプレート(折り板)の上面に防水シート及び断熱材をドリルねじやタッピンで固定したり、C型等の型鋼よりなる支柱や梁材に断熱材や内装材をドリルねじで固定したりすることなどが広く行われている。
【0003】
そして、ドリルねじにおいて、ねじ部に、ねじ山を全体的に又は部分的に分断して軸方向に延びるV形等の切欠き溝を形成することも提案され、或いは実施されている。その例として特許文献1には、ねじ部のうちドリル部に寄ったテーパねじ部に軸心と平行な複数条の凹み(切欠き溝)を形成することが開示されており、この特許文献1には、凹みによってねじ込みトルクを低減できる旨が記載されている。従って、特許文献1では、凹みは薄金属板の切削性向上効果のために設けていると解される。
【0004】
他方、特許文献2にもV形の切欠き溝(ノッチライン)を形成することが開示されており、この特許文献1では、ノッチラインの存在によって切り粉の排出が良好になって、基材の円滑な切り込みが実現できる旨が記載されている。従って、特許文献2も、特許文献1と同様に、ノッチラインは薄金属板の切削性向上効果のために設けていると云える。なお、木ねじにおいても、切削性向上と切り粉排出性向上のために切欠き溝を形成することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-177436号公報
【特許文献2】特開2017-67179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建物や構造物において、断熱材等のワークをデッキプレート等の薄金属板製構造材にドリルねじによって固定することは広く行われているが、この場合の問題の1つとして、構造材に対するねじ山の引っ掛かり代が小さいため、ねじ込みトルクが強すぎると構造材の雌ねじが潰れてしまうストリッピング現象が発生してドリルねじが空回りし、ねじとして意味をなさなくなってしまうことがある。
【0007】
他の問題として、締結後にドリルねじの緩みが挙げられる。緩みの原因は多々ある。例えば、風によって、ワークが構造材から離反する方向に押されることが原因になっていることがある。風圧によってワークが弾性変形し、弾性復元力によって戻る、という動きを繰り返すことによってドリルねじに振動が作用すると、ドリルねじが加速度的に緩みやすくなってしまう。空調機器の振動が構造材を伝ってドリルねじに作用することによっても、緩みが発生することがある。なお、緩みと施工時の空回りとは表裏一体の関係にあり、両者とも、構造材に対するねじ山の引っ掛かりが弱いことに起因している。
【0008】
この点について、特許文献1には、テーパ状のねじ部の谷面に設けた突角部(リブ)によって下穴を押圧することにより、下穴の内周部を板厚の2.5倍程度の厚さに広げ得る旨が説明されている。
【0009】
特許文献1に記載されているように、下穴の内周縁を部分的に厚肉化できると、ねじ山と薄金属板との引っ掛かり代を格段に増大できるため、高い締結強度を確保できると共に、ねじ部が空回りしてしまう現象を回避できると云える。
【0010】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、施工時におけるねじ部の空回りを防止すること、ねじ込み抵抗を抑制しつつ高い締結強度を確保すること、及び高い緩み防止効果を確保することを、特許文献1とは異なる視点に立った技術で容易に実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は様々な構成を含んでおり、その典型を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は薄金属板用自己穿孔ねじに係るもので、この自己穿孔ねじは、
「ねじ部を有する軸とその先端に設けた自己穿孔部、及び、前記軸の基端に設けた頭とを備えており、前記ねじ部には、ねじ山を全体的に又は部分的に分断する切欠き溝の群が周方向に分かれて複数条形成されている」
という基本構造になっている。
【0012】
そして、上記基本構成において、
「前記ねじ部は、隣り合ったねじ山の間に帯状の谷面が形成されて、前記ねじ部の谷径は前記自己穿孔部により形成される下穴の内径よりも大径か又は略同径になっている一方、
前記谷面の幅寸法をE、ねじ山のピッチをP、前記ねじ部がねじ込まれてワークの締結に供される薄金属板の板厚をtとしたとき、E<t<Pの関係になっており、
かつ、前記ねじ部が前記薄金属板にねじ込まれた状態で少なくとも1つの切欠き溝が薄金属板の内周面に重なるように設定されている」
という構成になっている。
【0013】
なお、切欠き溝は、谷面まで位置させてねじ山を切欠き溝によって完全に分断してもよいし、切欠き溝をねじ山の中途高に位置させてもよい。
【0014】
請求項2の発明は請求項1の展開例であり、
「軸心と直交した平面と前記ねじ山の進み側フランクとが成す角度をθ1、軸心と直交した平面と前記ねじ山の追い側フランクとが成す角度をθ2としたき、θ1>θ2の関係でかつθ1+θ2は35~45°程度に設定されており、
更に、隣り合ったねじ山における切欠き溝の底の軸方向の間隔をLとしたとき、Lと前記tとが略同じ程度か又はt>Lに設定されている」
という構成になっている。
【0015】
請求項3の発明は請求項1又は2を具体化したもので、
「前記薄金属板とねじ山とは、前記ねじ部が薄金属板にねじ込まれた状態で、略半周の範囲内において前記薄金属板の厚さの範囲内に複数の切欠き溝が存在する関係に設定されてきる」
という構成になっている。
【0016】
本願発明は構造体も含んでおり、請求項4のとおり、この構造体は、
「薄金属板製の構造材とこれに重なったワーク、及び前記ワークを前記薄金属板に押さえ固定する自己穿孔ねじとを備えており、
前記自己穿孔ねじは、ねじ山より成るねじ部を有する軸とその先端に設けた自己穿孔部、及び、前記軸の基端に設けた頭とを備えて、前記ねじ部には、ねじ山を全体的に又は部分的に分断する切欠き溝の群が周方向に分かれて複数条形成されている」
という基本構成である。
【0017】
そして、上記基本構成において、
「前記ねじ部は、隣り合ったねじ山の間に帯状の谷面が形成されて、前記ねじ部の谷径は前記自己穿孔部により形成される下穴の内径よりも大径か又は略同径になっている一方、
前記谷面の幅寸法をE、ねじ山のピッチをP、前記ねじ部がねじ込まれてワークの締結に供される薄金属板の板厚をtとしたとき、E<t<Pの関係になっており、
かつ、前記各切欠き溝は、前記ねじ山の中途高さまでの深さに形成されており、前記ねじ部が前記薄金属板にねじ込まれた状態で少なくとも1つの切欠き溝が薄金属板の内周面に重なるように設定されている」
という構成になっている。
【0018】
なお、ねじ山は断面三角形状の場合も多く、1条のねじ山が2条の稜線を有してねじ山に螺旋溝が形成された溝付きねじ山(或いは2コブ式ねじ山)も想定されるが、本願発明は、このような溝付きねじ山も含んでいる。この溝付きねじ山の場合、追い側フランクの箇所のみ又は進み側フランクの箇所のみに切欠き溝を形成することも可能である。
【0019】
本願発明は、自己穿孔ねじとワッシャーとの組み合わせに係る固定装置も含んでおり、この固定装置は、請求項5のとおり、
「請求項1~3のうちのいずれかに記載した自己穿孔ねじとワッシャーとから成っており、前記ねじの頭の座面は下窄まりのテーパ状でかつ平断面多角形に形成されている一方、前記ワッシャーには、前記ねじの頭の座面が密着する平断面多角形の下窄まりテーパ状受け座が形成されており、前記受け座は、スリットで分断されることなく周方向に一連に連続している」
という構成になっている。
【0020】
この場合、ねじの頭の座面及びワッシャーの受け座の角数が前記ねじの切欠き溝の条数と同じになっているのが好ましい。請求項5の固定装置は、弾性に抗して圧縮変形するワークの固定に使用される。この場合、ワークは単層でも複層でもよいが、複層の場合は少なくとも1層が弾性変形したら足りる。
【発明の効果】
【0021】
さて、薄金属板へのねじ部のねじ込みに際しては、薄金属板にはねじ山によって表裏方向の外力が掛かるため、薄金属板の内周部は表裏方向に曲がり変形する傾向を呈する。そして、薄金属板の板厚がねじ部の谷幅よりも小さかったり、ねじ部の谷径が自己穿孔部による下穴の内径よりも大きかったりすると、薄金属板の内周部は表裏方向に容易に逃げ変形するため、ねじ山が下穴の内周縁に僅かしか食い込まずに、ストリッピング現象が生じてねじ部が空回りしやすくなると共に、締結強度及び緩み止め効果が不十分になりやすい。
【0022】
他方、本願発明においては、まず、ねじ部の谷径が下穴よりも大きいか又は略同径であることにより、下穴を軸の谷部によって押し広げることが可能になり、このため、薄金属板の内周縁を、表裏方向の曲がり変形を規制された状態でねじ部にきっちりと噛み合わせることが可能になる。
【0023】
更に、谷面の幅寸法Eと、ねじ山のピッチPと、薄金属板の板厚tとがE<t<Pの関係になっていることにより、薄金属板のうち下穴の内周縁の肉は逃げ場を失って半径外側に逃げる現象が生じて、下穴の内周部を少なくとも部分的に厚肉化させることができる。
具体的に述べると、下穴に対する抵抗は周方向に不均一になるのが普通であるため、軸心を挟んだ一方側では薄金属板の内周部がねじ部の谷部にしっかり嵌まり込んで、軸心を挟んだ他方側では略半周程度は内周縁が厚肉化する現象が発生しやすく、この厚肉化した部位に1本又は複数本のねじ山が食い込む現象が見られる。谷幅に対する板厚tの大きさによっては、全周に亙って厚肉部が形成されることも有り得る。
【0024】
つまり、薄金属板の内周縁では、表裏方向への逃げ変形を規制された状態になることにより、内周縁部のうち周方向の少なくとも一部が厚肉化してねじ山がしっかりと食い込むのであり、これにより、下穴に対するねじ山の引っ掛かり性を向上させて、下穴の内周部の雌ねじが潰れてねじ部が空回りする現象(ストリッピング現象)を防止できると共に、高い締結強度と緩み止め効果とを得ることができる。
【0025】
そして、ねじ部に形成した切欠き溝が少なくとも1つは下穴の内周面に重なっているため、切欠き溝の箇所のうちねじ込み方向に向いた進み側端部の切り刃作用によってねじ込み抵抗を抑制でき、それだけねじ込みに要する力を低減できる。従って、高い締結強度確保しつつ作業者の負担を軽減できる。また、ねじ戻しに対しては切欠き溝のうちねじ戻し方向に向いた追い側端面が抵抗になるため、切欠き溝によって緩み止め防止効果を向上できる。
【0026】
この場合、実施形態のように、切欠き溝を、始端から終端に向けてねじ込み方向と逆方向に傾く(すなわち、切欠き溝の螺旋方向とねじ山の螺旋方向とが同じ方向になる)ように傾斜させると、下穴の内周部が切欠き溝の追い側端面によって下向き(先端の方向)に押されるため、ねじ戻しに対する抵抗を増大させて緩み止め効果を助長できる利点がある。
【0027】
ねじ山の角度が通常の小ねじのように60°程度であると、薄金属板に食い込むためには、薄金属板を表裏両方向に大きく押し広げなければならないため、薄金属板に対するねじ山の食い込み性が悪化したりねじ込み抵抗が増大したりするおそれがあるが、本願の請求項2のようにねじ山の角度を35~45°程度に設定すると、薄金属板に対する食い込み性を向上させて、薄金属板に下穴に雌ねじを形成する機能が向上する。
【0028】
また、追い側フランクの傾斜角度が進み側フランクの傾斜角度よりも小さいため、進み側フランクの角度と追い側フランクの角度とが同じである場合に比べて、ねじ込みの抵抗は減少できると共に、逆回転に対する抵抗は増大できる。従って、ねじ込みの容易性と緩み防止機能の向上とを両立できる。
【0029】
更に、請求項1の効果として説明したように、本願発明では、薄金属板の内周部が部分的に厚肉化する現象で生じて、下穴に対するねじ山の食い込みが確実化されるが、請求項2のように、隣り合った切欠き溝の縁部間の間隔Lと薄金属板の板厚tと同じかt>Lに設定すると、薄金属板がねじ部の谷に嵌まり込んだとき、隣り合った切欠き溝を薄金属板に食い込みやすくすることができる。これにより、切欠き溝の引っ掛かりによる緩み止め効果を向上できる。
【0030】
既述のとおり、切欠き溝は、ねじ込みに際しては、ねじ込み方向に向いた進み側端面が切り刃として作用することによって、薄金属板に対する食い込み性を向上させてねじ込み抵抗も抑制できる一方、ねじの逆回転に対しては切欠き溝の追い側面が抵抗として作用することによって緩み止め効果を発揮するが、請求項3の構成を採用すると、薄金属板の内周縁部のうちねじ部のねじ込みに伴って厚肉化した部位に複数の切欠き溝が存在するため、切欠き溝の効果を助長できる。なお、切欠き溝の数は、半周程度で3つ又は4つ程度存在するのが好ましい。従って、切欠き溝の条数は、周方向に少なくとも5条はあるのが好適であると云える。
【0031】
さて、ねじの緩み止め手段として、ねじの頭の座面に突起を形成する一方、ワシッャーの受け座に係合溝を形成して、突起を係合溝に嵌合させることが提案されているが、この場合は、緩み防止機能はワッシャーの受け座のみで担っており、また、受け座は係合溝によって分断されて変形しやすくなっているため、緩み止め効果に限度があった。
【0032】
これに対して本願請求項5の構成を採用すると、ねじが緩もうとすると、ワッシャー全体をワークに押し込んでワークを大きく弾性変形させねばならないため、ねじの緩みに対する抵抗が格段に高くなる。すなわち、ワークの弾性抵抗を利用してねじの緩みを防止できく。従って、緩み止め効果を格段に向上できる。
【0033】
請求項5において、実施形態のように座面及び受け座の角数を切欠き溝の条数と一致させると、切欠き溝による緩み防止機能と角形受け座の緩み防止機能との相乗作用により、緩み防止効果を更に向上できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施形態を示す図で、(A)は切欠き溝の大部分を省略した正面図、(B)は全体の側面図(写真)、(C)は平面図、(D)は部分的な拡大図、(E)は(D)のE-E視断面図、(F)は部分的な斜視図(写真)である。
図2】(A)は構造体の概略縦断面図、(B)は構造体の要部縦断面図、(C)は締結作業初期の縦断面図、(D)はねじ込み切った状態での要部縦断面図、(E)は切欠き溝の部分の拡大図、(F)は姿勢を変えた別例の切欠き溝の拡大図である。
図3】(A)はねじ込んだ状態での斜視図、(B)はねじ部を除去した状態での斜視図、(C)は裏側から見た斜視図である。
図4】(A)は他の形態のドリルねじの正面図、(B)はねじ部の斜視図、(C)はねじ山及び切欠き溝の別例を示す図である。
図5】ワッシャーと組み合わせた固定装置を示す図であり、(A)はねじを下方から見た斜視図、(B)はワッシャーを上から見た図、(C)はワッシャーを下から見た図、(D)は使用状態の部分断面図、(E)は(D)のE-E視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(1).ドリルねじの構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、ドリルねじに適用している。ドリルねじは鋼やステンレス等の金属製であり、図1(A)(B)に示すように、軸1とその先端(一端)に設けたドリル部2(自己穿孔部)と、軸1の基端(他端)に設けた頭3とから成っており、軸1には1条のねじ山4より成るねじ部が形成されている。以下では、方向を特定するため便宜的に上下の文言を使用するが、ドリル部2が下に位置して頭3が上に位置していると定義している。従って、平面視では頭3の頂面が現れる。
【0036】
ドリル部2は従来から知られた形状のものであり、一対の縦溝5を形成して一対の切り刃6を形成しており、ドリル部2の先端にはチゼルエッジが形成されている。縦溝5はねじ部の先端部に掛かっており、ねじ山4の始端部が縦溝5によって分断されている。
【0037】
頭3は下窄まりテーパ形の座面を有する皿タイプになっており、頂面にはドライバビット(図示せず)が係合する四角形の係合溝(リセス)7を形成している。係合溝7は十字形などの他の形態であってもよい。また、頭3は、六角頭や鍋頭、平板状のタイプなど、用途に応じて任意の形状に設定できる。
【0038】
図1(D)に示すように、ねじ山4は、稜線を糸面に形成してはいるが基本的に断面三角形になっており(正確には断面形状は台形になっている)、軸心Oと直交した平面と進み側フランク8とが成す角度θ1が、軸心Oと直交した平面と追い側フランク9とが成す角度θ2よりも大きい角度になっている。例えば、θ1は30~35°、θ2は0~10°程度に設定できる。θ1+θ2がねじ山4の角度になるが、このねじ山4の角度は35~45°程度に設定している。
【0039】
図1(D)に、ねじ山4の付け根の幅寸法(山の厚さ)Wとねじ山4の高さHとを表示しているが、W<Hの関係になっている(両者は略同じであってもよい。)。従って、ねじ山4は、ねじ込み対象の相手材である薄金属板10に対して食い込みやすい形状になっている。
【0040】
隣り合ったねじ山4の間には、帯状の谷面11が存在している。谷面11の溝幅Eはねじ山4の最大幅Wよりも小さくなっている。谷面11の外径D1(図2(D)参照)は、ドリル部2の回転外径D2(図2(B)参照)よりも少し大径に設定されている。従って、相手材10に形成された下穴は谷面11によって押し広げ拡径される。谷面11の溝幅Eは、相手材10の板厚tよりも小さい寸法になっている。例えば、相手材10の板厚tが1.0mmであると、溝幅Eは0.8mm程度に設定されている。
【0041】
なお、相手材10の板厚tは様々であるが、本願発明は、相手材10の板厚tに対応して溝幅Eなどを設定している。すなわち、建物の構造材は各メーカーにおいて規格化されていることが普通であり、各社の規格において板厚が共通していることも普通である。そこで、本願発明では、規格に応じて数値を選択しているのであり、これにより、多くの構造材に適用できる。
【0042】
ねじ山4は、その始端から徐々に高さを高くしている。従って、図1(A)に示すように、ねじ部は、ねじ山4の高さが変化しているテーパ部12を有しており、テーパ部12よりも後続の部位は、外径が一定したストレート部になっている。
【0043】
軸1の首下部にはねじ山4が形成されていないねじ無し部13が存在しているが、図1の(B)では(A)よりもねじ無し部13が少し長くなっている。従って、厳密には、図1の(A)と(B)とは同一と云えないが、ねじ無し部13の有無やその長さは用途に応じて選択するものであり、発明の本質には影響しない要素であるので、図1(A)の形態も図1(B)の形態も同じ実施形態と見做して差し支えない。なお、図4(A)に別例として示すように、かなり長いねじ無し部13を有するドリルねじもある(図4(A)では切欠き溝14は明示していていないが、ねじ部は図1(A)(B)と同じ形態になっている。)。図4(B)では、切欠き溝14の全体を表示している。
【0044】
ねじ山4には、これを分断するような状態で軸方向に延びる(点在する)V形の切欠き溝14が複数条形成されている(図2(C)(D)では切欠き溝14は省略している。)。図示の形態では、切欠き溝14の深さはねじ山4の高さよりも低くなっている。従って、図1(E)のとおり、切欠き溝14の底14aは、谷面11まで至ることなくねじ山4の中途高さに位置しているが、切欠き溝14の底14aを谷面11に至らせてもよい。そして、隣り合った切欠き溝14の底14aの縁間の間隔Lは、相手材10の板厚tと略同じか大きい寸法に設定している。
【0045】
切欠き溝14の始端は、テーパ部12の終端部から始まっている。従って、ねじ山4のうちテーパ部12の箇所の大部分には切欠き溝14は形成されていない。また、切欠き溝14は、ねじ山4と同じ方向に傾斜するように軸心回りに捩じれた姿勢(螺旋姿勢)になっており、軸心に対するリード角は非常に小さくなっている(半周程度のねじれで10山かそれ以上を通過するようになっている。)。
【0046】
なお、相手材10の板厚tが1.0mmである場合の好適な寸法として、ねじ山4の外径を約7mm、谷径D1を約4.2mm、ピッチPを約1.8mm、ドリル部2の回転外径D2を3.4mm程度に設定できる。長さは任意に設定される。
【0047】
(2).施工状態
本実施形態のドリルねじは、様々な現場(構造体)に使用できる。例えば、図2(A)(B)に示すように、断熱材17をデッキプレート18(相手材10)に押さえ固定することに使用できる。施工には円形のワッシャー19が使用されており、ワッシャー19は、ドリルねじにおける頭3の座面に重なる下窄まりテーパ状の受け座19aを備えている。ねじの頭3と断熱材17は、防水シート16で覆われている。
【0048】
施工において、ドリルねじは、ドリル部2の穿孔作用とねじ部のねじ込み作用とによって断熱材17に進入していき、次いで、図2(C)に示すように、デッキプレート18にドリル部2によって下穴20が空けられ、次いで、ねじ山4のねじ込みに伴い、下穴20が谷面11によって押し広げられて拡径されていくと共に、ねじ山4が下穴20の内周縁部21に食い込んでいき、やがて、頭3がワッシャー19に強く当接してねじ込みが停止される。
【0049】
そして、D1<D2であることとE<Tであることとにより、図2に示すように、まず、デッキプレート18の内周縁部21は潰れ変形しつつねじ部の谷面11にきっちり嵌合して上下方向の動き(曲がり変形)が規制されると共に、強制的な押し広げ(拡径)による肉の移動によって、内周縁部21の一部が厚肉部21aになる。
【0050】
更に述べると、ねじ部のねじ込みに際して、内周縁部21はねじ込み初期において上下方向に変形して一部がねじ部の谷に入り込んだ食い込み部21bとなり、その状態で拡径作用を受けることにより、軸心Oを挟んで食い込み部21bと反対側に位置した部位に強い押圧力が作用して厚肉部21aになると云える。つまり、下穴20の半分程度がねじ部の谷に対して強く突っ張った食い込み部21bになることにより、内周縁部21は食い込み部21bと反対側に逃げて厚肉部21aが形成されると云える。
【0051】
この点は、図3(B)(C)の写真からも理解できるであろう。なお、図3において、(A)(B)ではデッキプレート18の上面が現れて下穴20は下面が現れ、(C)では下面が現れているが、上下面に、軸心方向から見て同じ位置にマーク22を施して、位置関係を明確にしている。
【0052】
そして、厚肉部21aにねじ山4がしっかりと食い込むことにより、高い締結力と緩み止め効果が発揮されると共に、下穴20の雌ねじが潰れてねじ部が空回りしてしまうストリッピング現象も防止できる。
【0053】
更に、本実施形態では、切欠き溝14のうちねじ込み方向に向いた進み側端面14bが切り刃として作用することにより、ねじ込みに要する力を低減できると共に、内周縁部21の厚肉部21aに対するねじ山4の食い込みを良好ならしめて、雌ねじ形成機能を向上できる。この場合、切欠き溝14は8条形成されており、隣り合った切欠き溝14の軸方向の高さはP/8になるため、半周程度の範囲で、少なくとも3条又は4条の切欠き溝14がデッキプレート18における下穴20の内周に重なっている。
【0054】
このため、切欠き溝14は下穴20の内周面と頻繁に重なって、切欠き溝14の進み側端面14bによる切削機能を確実化できる。図3ではバリ23が見えるが、このようにバリ23が発生することは、切欠き溝14の進み側端面14bが切り刃として機能していることの証左であると云える。また、切欠き溝14の追い側端面14cは緩みに対して抵抗として作用するが、複数の切欠き溝14の追い側端面14cが特に厚肉部21aの箇所で下穴20に突っ張っているため、高い緩み止め効果を発揮できる。
【0055】
付言すると、厚肉部21aは弾性変形しつつ雌ねじが形成されており、ねじ込みが終わると弾性復元力(スプリングバック)が作用するが、弾性復元力によって厚肉部21aが切欠き溝14に食い込んで、切欠き溝14の進み側端面14bがねじ戻しに対して強い抵抗として作用する。
【0056】
切欠き溝14は軸心と平行な姿勢に形成することも可能であるが、本実施形態のようにねじれた姿勢に形成すると、ローリングダイス又は平ダイスで加工するにおいて、ダイスの刃との当たりが滑らかになって容易に加工できる利点がある。すなわち、ダイスを一定の圧力で加圧しつつ切欠き溝14を形成できるため、加工精度を高くできると共にダイスの耐久性にも優れている。特に、実施形態のように切欠き溝の螺旋方向をねじ山4の螺旋方向と同じ方向に形成すると、ダイスに対する抵抗を一定化できて好適である。
【0057】
図2(F)に示すように、切欠き溝14はねじ山4の傾斜方向と逆方向に傾斜させることも可能であるが、実施形態のように切欠き溝14をねじ山4と同じ方向に傾斜させると、図2(E)に矢印X24で示すように、ドリルねじをねじ戻そうとすると(上昇させようとすると)、切欠き溝14の追い側面14cがデッキプレート18を下向きに押すように作用するため、ドリルねじの緩みに対する抵抗作用が発揮されると解される。よって、緩み止め効果にも優れていると云える。
【0058】
図4(C)(D)に示すように、ねじ山4は、2本の稜線4a,4bを有する溝付き方式に形成することも可能であり、図示の例では、切欠き溝14は追い側フランクの箇所のみに形成している。切欠き溝14は、分図(C)では谷面11まで至っており、分図(D)ではねじ山4の中途高さで終わっている(すなわち、追い側の尾根部のみを切除した状態に形成されている。)。
【0059】
切欠き溝14はねじ山4の全体を分断するように形成することも可能であるが、図示のように追い側フランクの箇所のみに形成すると、相手材10,18を谷部に押し込む機能が高くなるため、緩み防止効果を向上できる。また、切欠き溝14は進み側フランクの箇所のみに形成することも可能であるが、図示の例のように、追い側フランクの箇所に形成すると、ねじ戻しに対して切欠き溝14が抵抗として作用する機能が高くなるため、緩み止め効果を更に向上できる利点がある。追い側フランクの箇所に切欠き溝14を形成する場合は、追い側フランクの角度θ2は、5~10°程度でよい。
【0060】
図5では、ドリルねじとワッシャー19と組み合わせに係る固定装置の例を示している。ドリルねじは基本的には既述の実施形態と同じであり、相違点は、頭3の座面3aが平断面多角形(8角形)になっている点のみである。そして、ドリルねじにおける頭3の座面3aが多角形になっていることに対応して、ワッシャー19の受け座19aも、座面3aと相似形の平断面多角形(8角形)になっている。
【0061】
この例では、締結終期には、ワッシャー19が断熱材17に押し込まれる状態になる。従って、ねじ込み抵抗は大きいが、既述のとおり、本実施形態のドリルねじはデッキプレートに対して高い締結力を有するため、デッキプレート18に形成された雌ねじが潰れる現象を生じることなく、ワッシャー19を断熱材17に強く押し付けてしっかりとねじ込むことができる。
【0062】
他方、固定後にはドリルねじが緩み回転しようとすると、座面3aの稜線が受け座19aの平面を乗り越えねばならず、従って、ねじの緩みに際しては、ワッシャー19は断熱材17を圧縮変形させねばならないが、ワッシャー19は大きな面積があることにより、ワッシャー19を断熱材17に押し込むことに大きな抵抗が発生するため、格段に高い緩み止め効果を得ることができる。
【0063】
実施形態のように、切欠き溝14の条数と座面3a及び受け座19aの角数を一致させると、切欠き溝14の引っ掛かりによる緩み止め効果と、角形の座面3a及び受け座19aの嵌合による緩み止め効果とが同時に発揮されるため、緩み防止効果を格段に向上できて好適である。
【0064】
本実施形態では、座面3aの稜線によって受け座19aが押されることにより、座面3aと受け座19aとの噛み合いが変わっていく。従って、ねじ込み抵抗と緩み防止効果とは、座面3a及び受け座19aの角数が少ないほど高くなる。他方、ねじ込み抵抗及び緩み防止効果は、断熱材17等のワークの弾性変形率にも依存している。従って、断熱材17等のワークの弾性変形率を考慮して、頭3の座面3a及びワッシャー19の受け座19aの角数を設定したらよい。一般的には、角数は5~10程度が好ましいといえる。
【0065】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えばねじ山の形状は通常の三角形であってもよいし、各寸法は用途に応じて設定できる。ドリルねじは角錐形であってもよい。また、自己穿孔部は、木ねじのように、最先端を相手材に突き刺してからねじ山のねじ込みに伴って相手材にこれを押し広げながら進入していく尖り先の揉みきり方式であってもよい。ねじ山を多条ねじに形成することも可能である(この場合、高さが相違するねじ山を並設することも可能である。)。
【0066】
また、本願発明は、ねじ山と切欠き溝との関係においてデザイン的にも優れた形態になっている。従って、意匠登録の対象にもなり得る。この場合、全体意匠としての登録対象になることはもとより、部分意匠として登録を受けることも可能である。部分意匠としては任意の範囲を特定できるが、例えば、図1(A)にK1で示すように、テーパ部12を挟んだ範囲、K2で示すように、ねじ部のテーパ部12とストレート部とから成る範囲、K3で示すように、ねじ部のうちストレート部のみの適宜範囲などを特定できる。切欠き溝は、軸方向から見てV形である必要はないのであり、四角形や台形であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本願発明は、ドリルねじ等の自己穿孔ねじ及びこれを使用した構造体、固定装置に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 軸
2 ドリル部(自己穿孔部)
3 頭
4 ねじ山
8 ねじ山の進み側フランク
9 ねじ山の追い側フランク
10 相手材
11 谷面
14 切欠き溝
14a 底
14b 進み側端面
14c 追い側端面
17 ワークとしての断熱材
18 構造材(相手材)の一例としてのデッキプレート
19 ワッシャー
19a 受け座
20 下穴
21 内周縁部
21a 厚肉部
21b 食い込み部
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2021-09-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが1.6mm以下の薄金属板にワークを固定するためのドリルねじであって、
ねじ山より成るねじ部を有する軸と、前記軸の先端に設けたドリル部と、前記軸の基端に設けた頭と、を備えており、
前記ねじ部には、ねじ山を全体的に又は部分的に分断する切欠き溝の群が周方向に分かれて複数条形成されて、前記切欠き溝のうち谷底を挟んでねじ込み方向の後ろに位置した追い側端面が前記薄金属板に対する切り刃として機能している構成であり、
前記ねじ部は、隣り合ったねじ山の間の谷部に帯状の谷面が形成されて、前記ねじ部の谷径は前記ドリル部によって前記薄金属板に形成される下穴の内径よりも大径か又は同径になっている一方、
前記谷面の幅寸法をE、ねじ山のピッチをP、前記薄金属板の板厚をtとしたとき、E<t<Pの関係にすることにより、前記薄金属板にねじ込まれた状態で、軸心を挟んだ一方の側では前記薄金属板の内周部が前記谷部にきっちり嵌合して、軸心を挟んだ他方の側では前記薄金属板における下穴の内周面に前記ねじ山が食い込むように設定されていると共に、
周方向に隣り合った前記切欠き溝の軸方向の間隔を前記薄金属板の板厚よりも小さい寸法にすることにより、前記ねじ部が前記薄金属板にねじ込まれた状態で、前記ねじ山のうち少なくとも1つの切欠き溝の箇所が薄金属板における下穴の内周面に重なるように設定されている、
薄金属板用ドリルねじ。
【請求項2】
軸心と直交した平面と前記ねじ山の進み側フランクとが成す角度をθ1、軸心と直交した平面と前記ねじ山の追い側フランクとが成す角度をθ2としたき、θ1>θ2の関係でかつθ1+θ2は35~45°設定されており、
更に、隣り合ったねじ山における切欠き溝の底の軸方向の間隔をLとしたとき、Lと前記tとが同じか又はt>Lに設定されている、
請求項1に記載した薄金属板用ドリルねじ。
【請求項3】
前記薄金属板とねじ山とは、前記ねじ部が薄金属板にねじ込まれた状態で、半周の範囲内において前記薄金属板の厚さの範囲内に複数の切欠き溝が存在する関係に設定されている、
請求項1又は2に記載した薄金属板用ドリルねじ。
【請求項4】
厚さが1.6mm以下の薄金属板製の構造材と、前記構造材に重なったワーク、前記ワークを前記薄金属板に押さえ固定するドリルねじと、を備えており、
前記ドリルねじは、ねじ山より成るねじ部を有する軸と、前記軸の先端に設けたドリル部と、前記軸の基端に設けた頭と、を備えて、前記ねじ部には、ねじ山を全体的に又は部分的に分断する切欠き溝の群が周方向に分かれて複数条形成されて、前記切欠き溝のうち谷底を挟んでねじ込み方向の後ろに位置した追い側端面が前記薄金属板に対する切り刃として機能している構成であって、
前記ねじ部は、隣り合ったねじ山の間の谷部に帯状の谷面が形成されて、前記ねじ部の谷径は前記ドリル部によって前記薄金属板に形成される下穴の内径よりも大径か又は同径になっている一方、
前記谷面の幅寸法をE、ねじ山のピッチをP、前記薄金属板の板厚をtとしたとき、E<t<Pの関係にすることにより、前記薄金属板にねじ込まれた状態で、軸心を挟んだ一方の側では前記薄金属板の内周部が前記谷部にきっちり嵌合して、軸心を挟んだ他方の側では前記薄金属板における下穴の内周面に前記ねじ山が食い込むように設定されていると共に、
周方向に隣り合った前記切欠き溝の軸方向の間隔を前記薄金属板の板厚よりも小さい寸法にすることにより、前記ねじ部が前記薄金属板にねじ込まれた状態で、前記ねじ山のうち少なくとも1つの切欠き溝の箇所が薄金属板における下穴の内周面に重なるように設定されている、
構造体。
【請求項5】
請求項1~3のうちのいずれかに記載したドリルねじとワッシャーとから成っており、前ドリルねじの頭の座面は下窄まりのテーパ状でかつ平断面多角形に形成されている一方、前記ワッシャーには、前記ドリルねじの頭の座面が密着する平断面多角形の下窄まりテーパ状受け座が形成されており、前記受け座は、スリットで分断されることなく周方向に一連に連続している、
薄金属板用固定装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、薄金属板用ドリルねじ及びこれを使用して構築された構造体並びに固定装置に関するものである。ここに薄金属板とは、1.6mm以下金属板(主として鋼板やステンレス板)を云い、構造体は、建物の屋根部や天井部、壁部などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
1~2mm程度の板厚の鋼板製基材を使用している建物は多々存在しており、断熱材やコンパネ材などをこれら基材にドリルねじ等の自己穿孔ねじで固定することは広く行われている。例えば、建物の屋根部を構成するデッキプレート(折り板)の上面に防水シート及び断熱材をドリルねじやタッピンねじで固定したり、C型等の型鋼よりなる支柱や梁材に断熱材や内装材をドリルねじで固定したりすることなどが広く行われている。
【0003】
そして、ドリルねじにおいて、ねじ部に、ねじ山を全体的に又は部分的に分断して軸方向に延びるV形等の切欠き溝を形成することも提案され、或いは実施されている。その例として特許文献1には、ねじ部のうちドリル部に寄ったテーパねじ部に軸心と平行な複数条の凹み(切欠き溝)を形成することが開示されており、この特許文献1には、凹みによってねじ込みトルクを低減できる旨が記載されている。従って、特許文献1では、凹みは薄金属板の切削性向上効果のために設けていると解される。
【0004】
他方、特許文献2にもV形の切欠き溝(ノッチライン)を形成することが開示されており、この特許文献1では、ノッチラインの存在によって切り粉の排出が良好になって、基材の円滑な切り込みが実現できる旨が記載されている。従って、特許文献2も、特許文献1と同様に、ノッチラインは薄金属板の切削性向上効果のために設けていると云える。なお、木ねじにおいても、切削性向上と切り粉排出性向上のために切欠き溝を形成することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-177436号公報
【特許文献2】特開2017-67179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建物や構造物において、断熱材等のワークをデッキプレート等の薄金属板製構造材にドリルねじによって固定することは広く行われているが、この場合の問題の1つとして、構造材に対するねじ山の引っ掛かり代が小さいため、ねじ込みトルクが強すぎると構造材の雌ねじが潰れてしまうストリッピング現象が発生してドリルねじが空回りし、ねじとして意味をなさなくなってしまうことがある。
【0007】
他の問題として、締結後に生じるドリルねじの緩みが挙げられる。緩みの原因は多々ある。例えば、風によって、ワークが構造材から離反する方向に押されることが原因になっていることがある。風圧によってワークが弾性変形し、弾性復元力によって戻る、という動きを繰り返すことによってドリルねじに振動が作用すると、ドリルねじが加速度的に緩みやすくなってしまう。空調機器の振動が構造材を伝ってドリルねじに作用することによっても、緩みが発生することがある。なお、緩みと施工時の空回りとは表裏一体の関係にあり、両者とも、構造材に対するねじ山の引っ掛かりが弱いことに起因している。
【0008】
この点について、特許文献1には、テーパ状のねじ部の谷面に設けた突角部(リブ)によって下穴を押圧することにより、下穴の内周部を板厚の2.5倍程度の厚さに広げ得る旨が説明されている。
【0009】
特許文献1に記載されているように、下穴の内周部を部分的に厚肉化できると、ねじ山と薄金属板との引っ掛かり代を格段に増大できるため、高い締結強度を確保できると共に、ねじ部が空回りしてしまう現象を回避できると云える。
【0010】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、施工時におけるねじ部の空回りを防止すること、ねじ込み抵抗を抑制しつつ高い締結強度を確保すること、及び高い緩み防止効果を確保することを、特許文献1とは異なる視点に立った技術で容易に実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は様々な構成を含んでおり、その典型を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は薄金属板用自己穿孔ねじに係るもので、この自己穿孔ねじは、
厚さが1.6mm以下の薄金属板にワークを固定するためのドリルねじであって、
ねじ山より成るねじ部を有する軸と、前記軸の先端に設けたドリル部と、前記軸の基端に設けた頭と、を備えており、
前記ねじ部には、ねじ山を全体的に又は部分的に分断する切欠き溝の群が周方向に分かれて複数条形成されて、前記切欠き溝のうち谷底を挟んでねじ込み方向の後ろに位置した 追い側端面が前記薄金属板に対する切り刃として機能している
という基本構造になっている。
【0012】
そして、上記基本構成において、
「前記ねじ部は、隣り合ったねじ山の間の谷部に帯状の谷面が形成されて、前記ねじ部の谷径は前記ドリル部によって前記薄金属板に形成される下穴の内径よりも大径か又は同径になっている一方、
前記谷面の幅寸法をE、ねじ山のピッチをP、前記薄金属板の板厚をtとしたとき、E<t<Pの関係にすることにより、前記薄金属板にねじ込まれた状態で、軸心を挟んだ一方の側では前記薄金属板の内周部が前記谷部にきっちり嵌合して、軸心を挟んだ他方の側では前記薄金属板における下穴の内周面に前記ねじ山が食い込むように設定されていると共に、
周方向に隣り合った前記切欠き溝の軸方向の間隔を前記薄金属板の板厚よりも小さい寸法にすることにより、前記ねじ部が前記薄金属板にねじ込まれた状態で、前記ねじ山のうち少なくとも1つの切欠き溝の箇所が薄金属板における下穴の内周面に重なるように設定されている」
という構成になっている。
【0013】
なお、切欠き溝は、谷面まで位置させてねじ山を切欠き溝によって完全に分断してもよいし、切欠き溝をねじ山の中途高に位置させてもよい。
【0014】
請求項2の発明は請求項1の展開例であり、
「軸心と直交した平面と前記ねじ山の進み側フランクとが成す角度をθ1、軸心と直交した平面と前記ねじ山の追い側フランクとが成す角度をθ2としたき、θ1>θ2の関係でかつθ1+θ2は35~45°設定されており、
更に、隣り合ったねじ山における切欠き溝の底の軸方向の間隔をLとしたとき、Lと前記tとが同じか又はt>Lに設定されている」
という構成になっている。
【0015】
請求項3の発明は請求項1又は2を具体化したもので、
「前記薄金属板とねじ山とは、前記ねじ部が薄金属板にねじ込まれた状態で、半周の範囲内において前記薄金属板の厚さの範囲内に複数の切欠き溝が存在する関係に設定されている」
という構成になっている。
【0016】
本願発明は構造体も含んでおり、請求項4のとおり、この構造体は、
厚さが1.6mm以下の薄金属板製の構造材と、前記構造材に重なったワーク、前記ワークを前記薄金属板に押さえ固定するドリルねじと、を備えており、
前記ドリルねじは、ねじ山より成るねじ部を有する軸と、前記軸の先端に設けたドリル部と、前記軸の基端に設けた頭と、を備えて、前記ねじ部には、ねじ山を全体的に又は部分的に分断する切欠き溝の群が周方向に分かれて複数条形成されて、前記切欠き溝のうち谷底を挟んでねじ込み方向の後ろに位置した追い側端面が前記薄金属板に対する切り刃として機能している
という基本構成である。
【0017】
そして、上記基本構成において、
「前記ねじ部は、隣り合ったねじ山の間の谷部に帯状の谷面が形成されて、前記ねじ部の谷径は前記ドリル部によって前記薄金属板に形成される下穴の内径よりも大径か又は同径になっている一方、
前記谷面の幅寸法をE、ねじ山のピッチをP、前記薄金属板の板厚をtとしたとき、E<t<Pの関係にすることにより、前記薄金属板にねじ込まれた状態で、軸心を挟んだ一方の側では前記薄金属板の内周部が前記谷部にきっちり嵌合して、軸心を挟んだ他方の側では前記薄金属板における下穴の内周面に前記ねじ山が食い込むように設定されていると共に、
周方向に隣り合った前記切欠き溝の軸方向の間隔を前記薄金属板の板厚よりも小さい寸法にすることにより、前記ねじ部が前記薄金属板にねじ込まれた状態で、前記ねじ山のうち少なくとも1つの切欠き溝の箇所が薄金属板における下穴の内周面に重なるように設定されている」
という構成になっている。
【0018】
なお、ねじ山は断面三角形状の場合も多く、1条のねじ山が2条の稜線を有してねじ山に螺旋溝が形成された溝付きねじ山(或いは2コブ式ねじ山)も想定されるが、本願発明は、このような溝付きねじ山も含んでいる。この溝付きねじ山の場合、追い側フランクの箇所のみ又は進み側フランクの箇所のみに切欠き溝を形成することも可能である。
【0019】
本願発明は、自己穿孔ねじとワッシャーとの組み合わせに係る固定装置も含んでおり、この固定装置は、請求項5のとおり、
「請求項1~3のうちのいずれかに記載したドリルねじとワッシャーとから成っており、前ドリルねじの頭の座面は下窄まりのテーパ状でかつ平断面多角形に形成されている一方、前記ワッシャーには、前記ドリルねじの頭の座面が密着する平断面多角形の下窄まりテーパ状受け座が形成されており、前記受け座は、スリットで分断されることなく周方向に一連に連続している」
という構成になっている。
【0020】
この場合、ねじの頭の座面及びワッシャーの受け座の角数が前記ねじの切欠き溝の条数と同じになっているのが好ましい。請求項5の固定装置は、弾性に抗して圧縮変形するワークの固定に使用される。この場合、ワークは単層でも複層でもよいが、複層の場合は少なくとも1層が弾性変形したら足りる。
【発明の効果】
【0021】
さて、薄金属板へのねじ部のねじ込みに際しては、薄金属板にはねじ山によって表裏方向の外力が掛かるため、薄金属板の内周部は表裏方向に曲がり変形する傾向を呈する。そして、薄金属板の板厚がねじ部の谷幅よりも小さかったり、ねじ部の谷径が自己穿孔部による下穴の内径よりも大きかったりすると、薄金属板の内周部は表裏方向に容易に逃げ変形するため、ねじ山が下穴の内周部に僅かしか食い込まずに、ストリッピング現象が生じてねじ部が空回りしやすくなると共に、締結強度及び緩み止め効果が不十分になりやすい。
【0022】
他方、本願発明においては、まず、ねじ部の谷径が下穴よりも大きいか又は同径であることにより、下穴を軸の谷部によって押し広げることが可能になり、このため、薄金属板の内周部を、表裏方向の曲がり変形を規制された状態でねじ部にきっちりと噛み合わせることが可能になる。
【0023】
更に、谷面の幅寸法Eと、ねじ山のピッチPと、薄金属板の板厚tとがE<t<Pの関係になっていることにより、薄金属板のうち下穴の内周部の肉は逃げ場を失って半径外側に逃げる現象が生じて、下穴の内周部を少なくとも部分的に厚肉化させることができる。具体的に述べると、下穴に対する抵抗は周方向に不均一になるのが普通であるため、軸心を挟んだ一方側では薄金属板の内周部がねじ部の谷部にしっかり嵌まり込んで、軸心を挟んだ他方側では略半周程度は内周部が厚肉化する現象が発生しやすく、この厚肉化した部位に1本又は複数本のねじ山が食い込む現象が見られる。谷幅に対する板厚tの大きさによっては、全周に亙って厚肉部が形成されることも有り得る。
【0024】
つまり、薄金属板の内周部では、表裏方向への逃げ変形を規制された状態になることにより、内周部のうち周方向の少なくとも一部が厚肉化してねじ山がしっかりと食い込むのであり、これにより、下穴に対するねじ山の引っ掛かり性を向上させて、下穴の内周部の雌ねじが潰れてねじ部が空回りする現象(ストリッピング現象)を防止できると共に、高い締結強度と緩み止め効果とを得ることができる。
【0025】
そして、ねじ部に形成した切欠き溝の箇所が少なくとも1つは下穴の内周面に重なっているため、切欠き溝の箇所のうちねじ込み方向に向いた追い側端面の切り刃作用によってねじ込み抵抗を抑制でき、それだけねじ込みに要する力を低減できる。従って、高い締結強度確保しつつ作業者の負担を軽減できる。また、ねじ戻しに対しては切欠き溝のうちねじ戻し方向に向いた進み側端面が抵抗になるため、切欠き溝によって緩み止め防止効果を向上できる。
【0026】
この場合、実施形態のように、切欠き溝を、始端から終端に向けてねじ込み方向と逆方向に傾く(すなわち、切欠き溝の螺旋方向とねじ山の螺旋方向とが同じ方向になる)ように傾斜させると、下穴の内周部が切欠き溝の進み側端面によって下向き(先端の方向)に押されるため、ねじ戻しに対する抵抗を増大させて緩み止め効果を助長できる利点がある。
【0027】
ねじ山の角度が通常の小ねじのように60°程度であると、薄金属板に食い込むためには、薄金属板を表裏両方向に大きく押し広げなければならないため、薄金属板に対するねじ山の食い込み性が悪化したりねじ込み抵抗が増大したりするおそれがあるが、本願の請求項2のようにねじ山の角度を35~45°程度に設定すると、薄金属板に対する食い込み性を向上させて、薄金属板下穴に雌ねじを形成する機能が向上する。
【0028】
また、追い側フランクの傾斜角度が進み側フランクの傾斜角度よりも小さいため、進み側フランクの角度と追い側フランクの角度とが同じである場合に比べて、ねじ込みの抵抗を低減できると共に、逆回転に対する抵抗増大できる。従って、ねじ込みの容易性と緩み防止機能の向上とを両立できる。
【0029】
更に、請求項1の効果として説明したように、本願発明では、薄金属板の内周部が部分的に厚肉化する現象生じて、下穴に対するねじ山の食い込みが確実化されるが、請求項2のように、隣り合った切欠き溝の縁部間の間隔Lと薄金属板の板厚tと同じかt>Lに設定すると、薄金属板がねじ部の谷に嵌まり込んだとき、隣り合った切欠き溝を薄金属板に食い込みやすくすることができる。これにより、切欠き溝の引っ掛かりによる緩み止め効果を向上できる。
【0030】
既述のとおり、切欠き溝は、ねじ込みに際しては、ねじ込み方向に向いた追い側端面が切り刃として作用することによって、薄金属板に対する食い込み性を向上させてねじ込み抵抗も抑制できる一方、ねじの逆回転に対しては切欠き溝の進み側端面が抵抗として作用することによって緩み止め効果を発揮するが、請求項3の構成を採用すると、薄金属板の内周部のうちねじ部のねじ込みに伴って厚肉化した部位に複数の切欠き溝が存在するため、切欠き溝の効果を助長できる。なお、切欠き溝の数は、半周程度で3つ又は4つ程度存在するのが好ましい。従って、切欠き溝の条数は、周方向に少なくとも5条はあるのが好適であると云える。
【0031】
さて、ねじの緩み止め手段として、ねじの頭の座面に突起を形成する一方、ワシッャーの受け座に係合溝を形成して、突起を係合溝に嵌合させることが提案されているが、この場合は、緩み防止機能はワッシャーの受け座のみで担っており、また、受け座は係合溝によって分断されて変形しやすくなっているため、緩み止め効果に限度があった。
【0032】
これに対して本願請求項5の構成を採用すると、ねじが緩もうとすると、ワッシャー全体をワークに押し込んでワークを大きく弾性変形させねばならないため、ねじの緩みに対する抵抗が格段に高くなる。すなわち、ワークの弾性抵抗を利用してねじの緩みを防止できる。従って、緩み止め効果を格段に向上できる。
【0033】
請求項5において、実施形態のように座面及び受け座の角数を切欠き溝の条数と一致させると、切欠き溝による緩み防止機能と角形受け座の緩み防止機能との相乗作用により、緩み防止効果を更に向上できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施形態を示す図で、(A)は切欠き溝の大部分を省略した正面図、(B)は全体の側面図(写真)、(C)は平面図、(D)は部分的な拡大図、(E)は(D)のE-E視断面図、(F)は部分的な斜視図(写真)である。
図2】(A)は構造体の概略縦断面図、(B)は構造体の要部縦断面図、(C)は締結作業初期の縦断面図、(D)はねじ込みきった状態での要部縦断面図、(E)は切欠き溝の部分の拡大図、(F)は姿勢を変えた別例の切欠き溝の拡大図である。
図3】(A)はねじ込んだ状態での斜視図、(B)はねじ部を除去した状態での斜視図、(C)は裏側から見た斜視図である。
図4】(A)は他の形態のドリルねじの正面図、(B)はねじ部の斜視図、(C)はねじ山及び切欠き溝の別例を示す図である。
図5】ワッシャーと組み合わせた固定装置を示す図であり、(A)はねじを下方から見た斜視図、(B)はワッシャーを上から見た図、(C)はワッシャーを下から見た図、(D)は使用状態の部分断面図、(E)は(D)のE-E視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(1).ドリルねじの構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、ドリルねじに適用している。ドリルねじは鋼やステンレス等の金属製であり、図1(A)(B)に示すように、軸1とその先端(一端)に設けたドリル部2(自己穿孔部)と、軸1の基端(他端)に設けた頭3とから成っており、軸1には1条のねじ山4より成るねじ部が形成されている。以下では、方向を特定するため便宜的に上下の文言を使用するが、ドリル部2が下に位置して頭3が上に位置していると定義している。従って、平面視では頭3の頂面が現れる。
【0036】
ドリル部2は従来から知られた形状のものであり、一対の縦溝5を形成して一対の切り刃6を形成しており、ドリル部2の先端にはチゼルエッジが形成されている。縦溝5はねじ部の先端部に掛かっており、ねじ山4の始端部が縦溝5によって分断されている。
【0037】
頭3は下窄まりテーパ形の座面を有する皿タイプになっており、頂面にはドライバビット(図示せず)が係合する四角形の係合溝(リセス)7を形成している。係合溝7は十字形などの他の形態であってもよい。また、頭3は、六角頭や鍋頭、平板状のタイプなど、用途に応じて任意の形状に設定できる。
【0038】
図1(D)に示すように、ねじ山4は、稜線を糸面に形成してはいるが基本的に断面三角形になっており(正確には断面形状は台形になっている)、軸心Oと直交した平面と進み側フランク8とが成す角度θ1が、軸心Oと直交した平面と追い側フランク9とが成す角度θ2よりも大きい角度になっている。例えば、θ1は30~35°、θ2は0~10°程度に設定できる。θ1+θ2がねじ山4の角度になるが、このねじ山4の角度は35~45°程度に設定している。
【0039】
図1(D)に、ねじ山4の付け根の幅寸法(山の厚さ)Wとねじ山4の高さHとを表示しているが、W<Hの関係になっている(両者は略同じであってもよい。)。従って、ねじ山4は、ねじ込み対象の相手材である薄金属板10に対して食い込みやすい形状になっている。
【0040】
隣り合ったねじ山4の間の谷部には、帯状の谷面11が存在している。谷面11の溝幅Eはねじ山4の最大幅Wよりも小さくなっている。谷面11の外径D1(図2(D)参照)は、ドリル部2の回転外径D2(図2(B)参照)よりも少し大径に設定されている。従って、相手材10に形成された下穴は谷面11によって押し広げ拡径される。谷面11の溝幅Eは、相手材10の板厚tよりも小さい寸法になっている。例えば、相手材10の板厚tが1.0mmであると、溝幅Eは0.8mm程度に設定されている。
【0041】
お、建物の構造材は各メーカーにおいて規格化されていることが普通であり、各社の規格において板厚が共通していることも普通である。そこで、本願発明では、規格に応じて数値を選択しているのであり、これにより、多くの構造材に適用できる。
【0042】
ねじ山4は、その始端から徐々に高さを高くしている。従って、図1(A)に示すように、ねじ部は、ねじ山4の高さが変化しているテーパ部12を有しており、テーパ部12よりも後続の部位は、外径が一定したストレート部になっている。
【0043】
軸1の首下部にはねじ山4が形成されていないねじ無し部13が存在しているが、図1の(B)では(A)よりもねじ無し部13が少し長くなっている。従って、厳密には、図1の(A)と(B)とは同一と云えないが、ねじ無し部13の有無やその長さは用途に応じて選択するものであり、発明の本質には影響しない要素であるので、図1(A)の形態も図1(B)の形態も同じ実施形態と見做して差し支えない。なお、図4(A)に別例として示すように、かなり長いねじ無し部13を有するドリルねじもある(図4(A)では切欠き溝14は明示していていないが、ねじ部は図1(A)(B)と同じ形態になっている。)。図4(B)では、切欠き溝14の全体を表示している。
【0044】
ねじ山4には、これを分断するような状態で軸方向に延びる(点在する)V形の切欠き溝14が複数条形成されている(図2(C)(D)では切欠き溝14は省略している。)。図示の形態では、切欠き溝14の深さはねじ山4の高さよりも低くなっている。従って、図1(E)のとおり、切欠き溝14の底14aは、谷面11まで至ることなくねじ山4の中途高さに位置しているが、切欠き溝14の底14aを谷面11に至らせてもよい。そして、隣り合った切欠き溝14の底14aの縁間の間隔Lは、相手材10の板厚tと略同じか大きい寸法に設定している。
【0045】
切欠き溝14の始端は、テーパ部12の終端部から始まっている。従って、ねじ山4のうちテーパ部12の箇所の大部分には切欠き溝14は形成されていない。また、切欠き溝14は、ねじ山4と同じ方向に傾斜するように軸心回りに捩じれた姿勢(螺旋姿勢)になっており、軸心に対するリード角は非常に小さくなっている(半周程度のねじれで10山かそれ以上を通過するようになっている。)。
【0046】
なお、相手材10の板厚tが1.0mmである場合の好適な寸法として、ねじ山4の外径を約7mm、谷径D1を約4.2mm、ピッチPを約1.8mm、ドリル部2の回転外径D2を3.4mm程度に設定できる。長さは任意に設定される。
【0047】
(2).施工状態
本実施形態のドリルねじは、様々な現場(構造体)に使用できる。例えば、図2(A)(B)に示すように、断熱材17をデッキプレート18(相手材10)に押さえ固定することに使用できる。施工には円形のワッシャー19が使用されており、ワッシャー19は、ドリルねじにおける頭3の座面に重なる下窄まりテーパ状の受け座19aを備えている。ねじの頭3と断熱材17は、防水シート16で覆われている。
【0048】
施工において、ドリルねじは、ドリル部2の穿孔作用とねじ部のねじ込み作用とによって断熱材17に進入していき、次いで、図2(C)に示すように、デッキプレート18にドリル部2によって下穴20が空けられ、次いで、ねじ山4のねじ込みに伴い、下穴20が谷面11によって押し広げられて拡径されていくと共に、ねじ山4が下穴20の内周部21に食い込んでいき、やがて、頭3がワッシャー19に強く当接してねじ込みが停止される。
【0049】
そして、D1<D2であることとE<Tであることとにより、図2に示すように、まず、デッキプレート18の内周部21は潰れ変形しつつねじ部の谷面11にきっちり嵌合して上下方向の動き(曲がり変形)が規制されると共に、強制的な押し広げ(拡径)による肉の移動によって、内周部21の一部が厚肉部21aになる。
【0050】
更に述べると、ねじ部のねじ込みに際して、内周部21はねじ込み初期において上下方向に変形して一部がねじ部の谷部に入り込んだ(嵌合した)食い込み部21bとなり、その状態で拡径作用を受けることにより、軸心Oを挟んで食い込み部21bと反対側に位置した部位に強い押圧力が作用して厚肉部21aになると云える。つまり、下穴20の半分程度がねじ部の谷に対して強く突っ張った食い込み部21bになることにより、内周部21は食い込み部21bと反対側に逃げて厚肉部21aが形成されると云える。
【0051】
この点は、図3(B)(C)の写真からも理解できるであろう。なお、図3において、(A)(B)ではデッキプレート18の上面が現れて下穴20は下面が現れ、(C)では下面が現れているが、上下面に、軸心方向から見て同じ位置にマーク22を施して、位置関係を明確にしている。
【0052】
そして、厚肉部21aにねじ山4のうち切欠き溝14の箇所がしっかりと食い込むことにより、高い締結力と緩み止め効果が発揮されると共に、下穴20の雌ねじが潰れてねじ部が空回りしてしまうストリッピング現象も防止できる。
【0053】
更に、本実施形態では、切欠き溝14のうち谷底14aを挟んでねじ込み方向の後ろに位置した追い側端面14bが切り刃として作用することにより、ねじ込みに要する力を低減できると共に、内周部21の厚肉部21aに対するねじ山4の食い込みを良好ならしめて、雌ねじ形成機能を向上できる。この場合、切欠き溝14は8条形成されており、隣り合った切欠き溝14の軸方向の高さはP/8になるため、半周程度の範囲で、少なくとも3条又は4条の切欠き溝14がデッキプレート18における下穴20の内周に重なっている。
【0054】
このため、切欠き溝14は下穴20の内周面と頻繁に重なって、切欠き溝14の追い側端面14bによる切削機能を確実化できる。図3ではバリ23が見えるが、このようにバリ23が発生することは、切欠き溝14の追い側端面14bが切り刃として機能していることの証左であると云える。また、切欠き溝14のうち谷底14aを挟んでねじ込み方向前側に位置した進み側端面14cは緩みに対して抵抗として作用するが、複数の切欠き溝14の進み側端面14cが特に厚肉部21aの箇所で下穴20に突っ張っているため、高い緩み止め効果を発揮できる。
【0055】
付言すると、厚肉部21aは弾性変形しつつ雌ねじが形成されており、ねじ込みが終わると弾性復元力(スプリングバック)が作用するが、弾性復元力によって厚肉部21aが切欠き溝14に食い込んで、切欠き溝14の進み側端面14cがねじ戻しに対して強い抵抗として作用する。
【0056】
切欠き溝14は軸心と平行な姿勢に形成することも可能であるが、本実施形態のようにねじれた姿勢に形成すると、ローリングダイス又は平ダイスで加工するにおいて、ダイスの刃との当たりが滑らかになって容易に加工できる利点がある。すなわち、ダイスを一定の圧力で加圧しつつ切欠き溝14を形成できるため、加工精度を高くできると共にダイスの耐久性にも優れている。特に、実施形態のように切欠き溝の螺旋方向をねじ山4の螺旋方向と同じ方向に形成すると、ダイスに対する抵抗を一定化できて好適である。
【0057】
図2(F)に示すように、切欠き溝14はねじ山4の傾斜方向と逆方向に傾斜させることも可能であるが、実施形態のように切欠き溝14をねじ山4と同じ方向に傾斜させると、図2(E)に矢印24で示すように、ドリルねじをねじ戻そうとすると(上昇させようとすると)、切欠き溝14の進み側端面14cがデッキプレート18を下向きに押すように作用するため、ドリルねじの緩みに対する抵抗作用が助長されると解される。よって、緩み止め効果にも優れていると云える。
【0058】
図4(C)に示すように、ねじ山4は、2本の稜線4a,4bを有する溝付き方式に形成することも可能であり、図示の例では、切欠き溝14は追い側フランクの箇所のみに形成している。切欠き溝14は、分図(C)では谷面11まで至っているが、追い側の尾根部のみを切除した状態に形成してもよい。
【0059】
切欠き溝14はねじ山4の全体を分断するように形成することも可能であるが、図示のように追い側フランクの箇所のみに形成すると、相手材10,18を谷部に押し込む機能が高くなるため、緩み防止効果を向上できる。また、切欠き溝14は進み側フランクの箇所のみに形成することも可能であるが、図示の例のように、追い側フランクの箇所に形成すると、ねじ戻しに対して切欠き溝14が抵抗として作用する機能が高くなるため、緩み止め効果を更に向上できる利点がある。追い側フランクの箇所に切欠き溝14を形成する場合は、追い側フランクの角度θ2は、5~10°程度でよい。
【0060】
図5では、ドリルねじとワッシャー19と組み合わせに係る固定装置の例を示している。ドリルねじは基本的には既述の実施形態と同じであり、相違点は、頭3の座面3aが平断面多角形(8角形)になっている点のみである。そして、ドリルねじにおける頭3の座面3aが多角形になっていることに対応して、ワッシャー19の受け座19aも、座面3aと相似形の平断面多角形(8角形)になっている。
【0061】
この例では、締結終期には、ワッシャー19が断熱材17に押し込まれる状態になる。従って、ねじ込み抵抗は大きいが、既述のとおり、本実施形態のドリルねじはデッキプレートに対して高い締結力を有するため、デッキプレート18に形成された雌ねじが潰れる現象を生じることなく、ワッシャー19を断熱材17に強く押し付けてしっかりとねじ込むことができる。
【0062】
他方、固定後にはドリルねじが緩み回転しようとすると、座面3aの稜線が受け座19aの平面を乗り越えねばならず、従って、ねじの緩みに際しては、ワッシャー19は断熱材17を圧縮変形させねばならないが、ワッシャー19は大きな面積があることにより、ワッシャー19を断熱材17に押し込むことに大きな抵抗が発生するため、格段に高い緩み止め効果を得ることができる。
【0063】
実施形態のように、切欠き溝14の条数と座面3a及び受け座19aの角数を一致させると、切欠き溝14の引っ掛かりによる緩み止め効果と、角形の座面3a及び受け座19aの嵌合による緩み止め効果とが同時に発揮されるため、緩み防止効果を格段に向上できて好適である。
【0064】
本実施形態では、座面3aの稜線によって受け座19aが押されることにより、座面3aと受け座19aとの噛み合いが変わっていく。従って、ねじ込み抵抗と緩み防止効果とは、座面3a及び受け座19aの角数が少ないほど高くなる。他方、ねじ込み抵抗及び緩み防止効果は、断熱材17等のワークの弾性変形率にも依存している。従って、断熱材17等のワークの弾性変形率を考慮して、頭3の座面3a及びワッシャー19の受け座19aの角数を設定したらよい。一般的には、角数は5~10程度が好ましいといえる。
【0065】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えばねじ山の形状は通常の三角形であってもよいし、各寸法は用途に応じて設定できる。ドリルねじは角錐形であってもよい。ねじ山を多条ねじに形成することも可能である(この場合、高さが相違するねじ山を並設することも可能である。)。
【0066】
また、本願発明は、ねじ山と切欠き溝との関係においてデザイン的にも優れた形態になっている。従って、意匠登録の対象にもなり得る。この場合、全体意匠としての登録対象になることはもとより、部分意匠として登録を受けることも可能である。部分意匠としては任意の範囲を特定できるが、例えば、図1(A)にK1で示すように、テーパ部12を挟んだ範囲、K2で示すように、ねじ部のテーパ部12とストレート部とから成る範囲、K3で示すように、ねじ部のうちストレート部のみの適宜範囲などを特定できる。切欠き溝は、軸方向から見てV形である必要はないのであり、四角形や台形であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本願発明は、ドリルねじ及びこれを使用した構造体、固定装置に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 軸
2 ドリル部(自己穿孔部)
3 頭
4 ねじ山
8 ねじ山の進み側フランク
9 ねじ山の追い側フランク
10 相手材
11 谷面
14 切欠き溝
14a 底
14b 追い側端面
14c 進み側端面
17 ワークとしての断熱材
18 構造材(相手材)の一例としてのデッキプレート
19 ワッシャー
19a 受け座
20 下穴
21 内周部
21a 厚肉部
21b 食い込み部