(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042452
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】水溶性マクロポーラスジルコニウムポルフィリン構造化合物の調製方法およびその用途
(51)【国際特許分類】
C07F 7/00 20060101AFI20220307BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C07F7/00 A
G01N21/64 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153392
(22)【出願日】2020-09-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】202010911680.8
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】515190906
【氏名又は名称】南京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088063
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 康治
(72)【発明者】
【氏名】付▲ふぇ▼雲
(72)【発明者】
【氏名】陳倍寧
(72)【発明者】
【氏名】周至城
(72)【発明者】
【氏名】李玉凡
【テーマコード(参考)】
2G043
4H049
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA07
2G043CA03
2G043DA06
2G043EA01
2G043FA06
2G043FA07
2G043KA02
2G043NA11
4H049VN06
4H049VP06
4H049VQ78
4H049VR44
4H049VU29
4H049VW02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】分光プローブの技術分野、特に水溶性マクロポーラスジルコニウムポルフィリン構造化合物の調製方法およびその用途の提供。
【解決手段】ZrCl
4、H
2-TCPPおよび安息香酸を超音波処理によりN、N-ジエチルホルムアミドに溶解し、溶液を得るステップを含む、水溶性マクロポーラスジルコニウムポルフィリン構造化合物の調製方法の提供。フッ素イオンに対するMOF多孔性構造の濃縮効果および金属ジルコニウムの高選択性を利用して、フッ素イオンの超高感度検出を実現し、このセンサーは優れた化学的安定性と非常に速い応答速度を持ち、検出限界は従来技術の文献で報告された値よりも1桁以上減少する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
S1、化合物合成
S11、ZrCl4、H2-TCPPおよび安息香酸を超音波処理によりN、N-ジエチ
ルホルムアミドに溶解し、溶液を得るステップと、
S12、ステップS11で調製された溶液をポリテトラフルオロエチレンのオートクレー
ブに移し、ブラストオーブンに入れ120℃まで加熱し、48時間保持するステップと、
S13、ステップS12で加熱された溶液を室温まで冷却した後、N、N-ジメチルホル
ムアミドを使用して複数回の吸引濾過で洗浄し、N、N-ジメチルホルムアミドの代わり
にアセトンを使用して数回洗浄を続け、固体化合物の生成物を収穫するステップと、
S2、化合物の活性化
S21、濃塩酸をDMF懸濁液に加え、次にステップS13で合成された生成物を120
℃のDMFで12時間浸漬するステップと、
S22、ステップS21で浸漬した後の生成物をDMFとアセトンで洗浄し、次に生成物
をアセトンに浸漬し24時間放置するステップと、
S23、ステップS22で放置した生成物を真空乾燥オーブンで6時間真空乾燥して活性
化処理を行い、最後に脱ガス機能を用いて120℃で12時間再度乾燥させるステップと
、
を含むことを特徴とする水溶性マクロポーラスジルコニウムポルフィリン構造化合物の調
製方法。
【請求項2】
S1、化合物合成
S11、75~100mgのZrCl4、50~70mgのH2-TCPPおよび2.7
~3.6gの安息香酸を超音波処理により8~12mlのN、N-ジエチルホルムアミド
に溶解し、溶液を得るステップと、
S12、ステップS11で調製された溶液をポリテトラフルオロエチレンのオートクレー
ブに移し、ブラストオーブンに入れ120℃まで加熱し、48時間保持するステップと、
S13、ステップS12で加熱された溶液を室温まで冷却した後、N、N-ジメチルホル
ムアミドを使用して2~4回の吸引濾過で洗浄し、N、N-ジメチルホルムアミドの代わ
りにアセトンを使用して2~5回の洗浄を続け、固体化合物の生成物を収穫するステップ
と、
S2、化合物の活性化
S21、まず0.5~1mLの濃塩酸を20~40mlのDMF懸濁液に加え、ステップ
S13で合成した生成物を120℃のDMFに12時間浸漬するステップと、
S22、ステップS21で浸漬した後の生成物をDMFとアセトンで2~5回洗浄し、生
成物をアセトンに浸漬し24時間放置するステップと、
S23、ステップS22で放置した後の生成物を真空乾燥オーブンに6時間真空乾燥して
活性化処理を行い、最後に脱ガス機能を用い120℃で12時間再度乾燥させるステップ
と、を
含むことを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
イオン条件下で廃水中のF-を検出するための蛍光プローブとして使用されることを特徴
とする、請求項1または2に記載の方法で調製された化合物の用途。
【請求項4】
前記蛍光プローブを用いてF-を検出する方法が、水溶液中の蛍光スペクトルを検出し、
421nmでの蛍光強度を検出することによりF-濃度を得る、ことを特徴とする請求項
3に記載の用途。
【請求項5】
F-濃度が、1~100μMの範囲の前記蛍光プローブの蛍光の消光を有し、蛍光消光率
とF‐濃度が1~20μM以内に線形関係があることを特徴とする請求項3に記載の用途
。
【請求項6】
前記蛍光プローブのF‐の検出限界が56nMであり、F‐の応答速度が5s未満である
、ことを特徴とする請求項3に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光プローブ技術分野、特に水溶性マクロポーラスジルコニウムポルフィリン
構造化合物の調製方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素は水域の一般的な汚染物質であり、フッ素の過剰摂取は、フッ素症を引き起こした
り、人間の骨や歯を損傷したり、腎臓の損傷や甲状腺ホルモン障害を引き起こす可能性が
ある。
従って、水域のフッ素イオンの監視および管理は、水環境の安全性を確保する上で重要な
要素であり、水域のフッ素イオンを分析および検出するための正確で高速かつ高感度な方
法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0003】
一、発明原理と目的
発光性有機金属フレームワーク材料(LMOFs)は、MOFsの重要な分野である。他
の発光プローブ材料と比較して、LMOFsの固有の多孔性により、いくつかの重要な利
点が得られる。LMOFsの多孔性は、分析物-MOFの距離を制限し、MOFと分析物
間の密接な相互作用を可能にする。細孔のサイズと親疎水性/極性などを変更することで
選択的にセンサーの相互作用を制御することができる。LMOFsは、分析物を孔に濃縮
し、感度を大幅に向上させることもできる。現在、合成LMOFによるフッ素イオンの検
出に関する報告がいくつかあるが、ほとんどは水系媒体中で安定に存在することができず
、細孔径が微細孔であるか、または比表面積が大きくないため感度が低くなる。
【0004】
二、解決策
上記の問題を解決するために、本発明は、廃水中のフッ素イオンに対して高い選択性を有
する蛍光プローブを提供し、リガンドとしてH2-TCPP(TCPP=テトラ(4-カ
ルボキシフェニル)ポルフィリン)を使用し、非常に安定なZr6クラスターをアセンブ
リノードとして使用し、ZrポルフィリンMOF--PCN-222(PCNPorou
sCoordinationNetwork、多孔性調整ネットワーク)を正常に合成し
た。
PCN-222は、大きな開放チャンネル、非常に大きな比表面積および優れた安定性を
有する。PCN-222は選択的にF‐に対する顕著な蛍光消光応答を高感度で示し、そ
の実用性はスパイクされた水サンプルを検出することによってさらに検証される。
【0005】
具体的に技術的解決策は以下の通りである。
S1、化合物合成
S11、ZrCl4、H2-TCPPおよび安息香酸を超音波処理によりN、N-ジエチ
ルホルムアミドに溶解し、溶液を得る。
S12、ステップS11で調製された溶液をポリテトラフルオロエチレンのオートクレー
ブに移し、ブラストオーブンに入れ120℃まで加熱し、48時間保持する。
S13、ステップS12で加熱された溶液を室温まで冷却した後、N、N-ジメチルホル
ムアミドを使用して複数回吸引濾過で洗浄を行い、その後N、N-ジメチルホルムアミド
の代わりにアセトンを使用して数回洗浄を続け、最終的に固体化合物の生成物を収穫する
。
S2、化合物の活性化
S21、活性化プロセスを最適化するために、まず少量の濃塩酸をDMF懸濁液に加え、
次にステップS213で合成した生成物を120℃のDMFで12時間浸漬する。
S22、ステップS21で浸漬した後の生成物をDMFとアセトンで数回洗浄し、次に生
成物をアセトンに浸漬し24時間放置する。
S23、ステップS22で放置した生成物を真空乾燥オーブンで6時間真空乾燥して活性
化処理を行い、最後に脱ガス機能を用い120℃で12時間再度乾燥させる。
【0006】
好ましくは、上記調製方法は、具体的には、
S1、化合物合成
S11、75~100mgのZrCl4、50~70mgのH2-TCPPおよび2.7
~3.6gの安息香酸を超音波処理により8~12mlのN、N-ジエチルホルムアミド
に溶解し、溶液を得る、
S12、ステップS11で調製された溶液をポリテトラフルオロエチレンのオートクレー
ブに移し、ブラストオーブンに入れ120℃まで加熱し、48時間保持する、
S13、ステップS12で加熱された溶液を室温まで冷却した後、N、N-ジメチルホル
ムアミドを使用して2~4回吸引濾過で洗浄を行い、その後N、N-ジメチルホルムアミ
ドの代わりにアセトンを使用して2~5回洗浄し、最終的に固体化合物の生成物を収穫す
る、
S2、化合物の活性化
S21、まず0.5~1mLの濃塩酸を20~40mlのDMF懸濁液に加え、ステップ
S13で合成した生成物を120℃のDMFで12時間浸漬する、
S22、ステップS21で浸漬した生成物をDMFとアセトンで2~5回洗浄し、生成物
をアセトンに洗浄し24時間放置する、
S23、ステップS22で放置した生成物を真空乾燥オーブンで6時間真空乾燥して活性
化処理を行い、最後に脱ガス機能を用い120℃で12時間再度乾燥させる。
【0007】
本発明の一態様によれば、本発明で調製された水溶性マクロポーラスジルコニウムポルフ
ィリン構造化合物の用途は、イオン条件下で廃水中のF-を検出するための蛍光プローブ
として使用される。
【0008】
本発明の一態様によれば、前記蛍光プローブによるF-の検出方法は、水溶液の蛍光スペ
クトルを検出し、421nmでの蛍光強度を検出することでF-濃度を得る。
【0009】
本発明の一態様によれば、F-による前記蛍光プローブの蛍光消光は1~100μM(マ
イクロモル)の範囲で比較的強く、蛍光消光率とF‐濃度が1~20μM(マイクロモル
)以内に顕著な線形関係があり、F‐の定量的検出のためのツールとして使用できる。
【0010】
本発明の一態様によれば、前記蛍光プローブはF‐に対する優れた選択性、非常に低い検
出限界(56nM)、および非常に速い応答速度(<5s)を有し、同時にPCN-22
は、耐水性、耐酸性、耐光性に優れた化学的安定性を有する。
【0011】
従来のフッ素イオン蛍光プローブと比較して、本発明で調製されたPCN-222は以下
の有益な効果を有する。
(1)水熱法により蛍光機能を備えたMOF--PCN-222を成功に調製し、390
~450nmに広い吸収帯を有し、最大吸収波長は421nmであり、650~750n
mに蛍光発光帯があり、最大発光波長が680nmである。
(2)PCN-222は、修飾なしでF‐に対する蛍光消光応答を示し、F‐によるPC
N-222の蛍光消光は0~100μMの範囲でより強く、蛍光消光率とF‐濃度が0~
20μM内に顕著な線形関係があり、F‐の定量的検出のためのツールとして使用される
。
(3)PCN-222はF‐に対して優れた選択性、非常に低い検出限界(56nM)、
および非常に速い応答速度(<5s)を備え、同時にPCN-22は耐水性、耐酸性、耐
光性に優れた化学的安定性を有する。
(4)PCN-222による水道水および太湖の水に対するF‐検出は大きな干渉を受け
ず、良好な結果を示したため、この蛍光プローブ検出方法は水中のF‐の通常検出に適し
ている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明で調製されたPCN-222の走査型顕微鏡SEM画像である。
【
図2】本発明で調製されたPCN-222のFT-IRスペクトルおよびXRDスペクトルである。
【
図3】本発明で調製されたPCN-222の77Kでの窒素吸着-脱着等温線および対応する細孔径分布図である。
【
図4】本発明で調製されたPCN-222の水溶液の紫外線可視光吸収スペクトルおよび三次元蛍光スペクトルである。
【
図5】本発明のPCN-222蛍光発光強度に対するF‐濃度の影響である。
【
図6】本発明で調製されたPCN-222のF‐濃度に従う変化傾向および線形関係である。
【
図7】本発明で調製された元のPCN-222および24時間水中に浸漬されたPCN-222のX線回折(XRD)図である。
【
図8】本発明で調製されたPCN-222溶液の連続的励起光照射下での蛍光発光強度である。
【
図9】本発明で調製されたPCN-222のアニオンの蛍光応答時間を示すグラフである。
【
図10】本発明で調製されたPCN-222の200μMのF‐添加後の蛍光強度の経時変化を示すグラフである。
【
図11】本発明で調製されたPCN-222の構造概略図である。
【0013】
ただし、
図2では、(a)はFT-IRスペクトルであり、(b)はXRDスペクトルである。
図3では、PCN-222の細孔径分布図が示される。
図4では、(a)は紫外線可視光吸収スペクトルであり、(b)は三次元蛍光スペクトル
であり、図の色が濃いほど蛍光強度が強い。
図5では、(λEx=421nm)
図6では、(a)は蛍光消光効率のF‐濃度に従う変化の傾向図であり、(b)は蛍光消
光効率とF‐濃度(0~20μM)の線形関係図であり、λEx=421nm、λEm=6
80nm
図8では、F‐濃度は200μMである。
図9では、(a)はPCN-222の低濃度(20μM)アニオンの蛍光応答グラフであ
り、(b)はPCN-222の高濃度(200μM)アニオンの蛍光応答グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によって達成される方法および効果をさらに説明するために、本発明の技術的解決
策を、添付の図面と併せて以下に明確かつ完全に説明する。
【0015】
実施例1
本実施例では、本発明で設計された水溶性マクロポーラスジルコニウムポルフィリン構造
化合物の蛍光プローブ--PCN-222の調製方法を中心に説明する。
【0016】
一、実験機器および試薬
本発明で使用される機器および試薬は表1および表2に示される。
表1 実験機器
表2 実験試薬
【0017】
二、PCN-222の調製
S11、ZrCl4(80mg)、H2-TCPP(50mg)および安息香酸(2.7
g)を超音波処理によりN、N-ジエチルホルムアミド(8ml)に溶解し、溶液を得る
。
S12、ステップS11で調製された溶液をポリテトラフルオロエチレンのオートクレー
ブに移し、ブラストオーブンに入れ120℃まで加熱し、48時間保持する。
S13、ステップS12で加熱された溶液を室温まで冷却した後、N、N-ジメチルホル
ムアミドを使用して吸引濾過で2回洗浄し、その後N、N-ジメチルホルムアミドの代わ
りにアセトンを使用して3回洗浄を続け、最終的に固体化合物の生成物を収穫する。
S2、化合物の活性化
S21、活性化プロセスを最適化するために、まず0.5mLの濃塩酸を20mLDMF
懸濁液に加え、次にステップS213で合成した生成物を120℃のDMFに12時間浸
漬する。
S22、ステップS21で浸漬された生成物をDMFで2回洗浄してから、アセトンで3
回洗浄し、最後に生成物をアセトンに浸漬し24時間放置する。
S23、ステップS22で放置した生成物を真空乾燥オーブンで6時間真空乾燥して活性
化処理を行い、最後に脱ガス機能を用い120℃で12時間再度乾燥させる。
【0018】
実施例2
実施例2では、主に実施例1と異なる組成の調製方法を説明するが、以下の内容以外は実
施例1と同様である。
S1、化合物合成
S11、ZrCl4(100mg)、H2-TCPP(60mg)および安息香酸(3g
)を超音波処理によりN、N-ジエチルホルムアミド(12ml)に溶解し、溶液を得る
。
S12、ステップS11で調製された溶液をポリテトラフルオロエチレンのオートクレー
ブに移し、ブラストオーブンに入れ120℃まで加熱し、48時間保持する。
S13、ステップS12で加熱された溶液を室温まで冷却した後、N、N-ジメチルホル
ムアミドを使用して吸引濾過で4回洗浄し、その後N、N-ジメチルホルムアミドの代わ
りにアセトンを使用して3回洗浄を続け、最終的に固体化合物の生成物を収穫する。
S2、化合物の活性化
S21、活性化プロセスを最適化するために、まず1mLの濃塩酸を40mLのDMF懸
濁液に加え、次にステップS213で合成した生成物を120℃のDMFに12時間浸漬
する。
S22、ステップS21で浸漬された生成物をDMFで3回洗浄してから、アセトンで3
回洗浄し、最後に生成物をアセトンに浸漬し24時間放置する。
S23、ステップS22で放置した生成物を真空乾燥オーブンで6時間真空乾燥して活性
化処理を行い、最後に脱ガス機能を用い120℃で12時間再度乾燥させる。
【0019】
実験例1
実験例1では、上記実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として特徴付ける
ものであり、PCN-222の走査型電子顕微鏡写真、フーリエ変換赤外線スペクトルお
よびXRDスペクトルを説明することを目的とする。
PCN-222の走査型電子顕微鏡(SEM)画像は
図1に示すように、写真は、PCN
-222の3次元形態が0.5~1μm太さの棒状構造であることを示し、文献で報告さ
れたPCN-222の形態と一致している。
図2(a)は、PCN-222のフーリエ変換赤外線(FT-IR)スペクトルを示し、
1697cm
-1での吸収ピークはC=Oの伸縮振動に起因し、1602cm
-1での吸
収ピークはC=Cの伸縮振動に対応し、1413cm
-1での吸収ピークはC-Hおよび
O-Hの曲げ振動に対応し、1178cm
-1、1020cm
-1での吸収ピークはC-
Oの伸縮振動に対応し、700cm
-1~1000cm
-1間の吸収ピークはC-Hの曲
げ振動に対応し、これらの特徴帯はすべて文献で報告されたPCN-222の特徴帯と一
致している。
図2(b)はPCN-222のXRDスペクトルを示し、図の回折ピークは2.4°、4
.8°、7.1°および9.8°に現れ、文献で報告されたPCN-222のXRDスペ
クトルと非常に一致している。赤外線特徴評価とXRD特徴評価の結果により、PCN-
222の合成が成功したことがさらに証明された。
【0020】
実験例2
実験例2では、上記実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として説明し、P
CN-222の表面積および細孔径情報を示すことを目的とし、
図3に示すように、PC
N-222の窒素吸着/脱着等温線および細孔径分布の結果が示される。
結果は、PCN-222のBrunauer-Emmett-Teller(BET)比
表面積が2080m2g-1であり、これは、PCN-222は非常に大きい比表面積を
有することを示す。窒素吸着曲線に基づく密度汎関数理論(DFT)結果は、PCN-2
22が2種類の細孔、それぞれ1.3nmおよび3.2nm(
図3の図)があることを示
し、PCN-222は非常に大きい開放チャンネルがあることを示し、これは、文献で報
告されたPCN-222の孔道構造と一致している。以上の結果は、PCN-222の合
成が成功したことを示し、その構造特性も検出性能を良好にサポートする。
【0021】
実験例3
実験例3では、上記実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として説明し、P
CN-222の紫外線可視光吸収スペクトルおよび蛍光発光スペクトルを説明することを
目的とし、2つのスペクトルの検出はすべて水溶液で行われる。
図4(a)に示すように、紫外線可視光吸収スペクトルの390nm~450nm間に1
つの吸収ピークが観察され、最大吸収波長は421nm(Soret帯)であり、ポルフ
ィリン化合物の紫外線可視光領域の特徴吸収ピークであり、PCN-222はポルフィリ
ン構造を有することが検証される。
図4(b)はPCN-222の三次元蛍光スペクトルであり、650nm~750nm間
のPCN-222の強い蛍光発光が明確に示され、最大発光波長は680nmであり、同
時に強い蛍光発光領域間の対応する励起波長も390nm~450nmであり、これは吸
収スペクトルの結果と同様である。
【0022】
実験例4
実験例4では、上記実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として説明し、P
CN-222のF‐に対する感度を求めることを目的とし、水溶液中での相互作用の蛍光
応答を調べたが、具体的に
図5に示される。
具体的な実験方法は、以下の通りである。
PCN-222溶液を等量的に10mL遠心管に各管に5mLずつ加え、PCN-222
溶液を含む遠心管に様々な濃度(0~500μM)のフッ素イオンを加え、30s混合し
て各遠心管中PCN-222溶液の蛍光発光スペクトルを測定した。
図5に示すように、F‐濃度が0から徐々に500μMまで増加すると、PCN-222
の蛍光強度が徐々に低下し、これはF‐がPCN-222の蛍光を消光したことを示した
。
【0023】
実験例5
実験例5では、上記実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として説明し、P
CN-222のF‐濃度に従う変化傾向および線形関係を示し、具体的には
図6に示され
る。
図6(a)は、PCN-222蛍光消光率とF‐濃度の関係を示し、蛍光消光率とは、消
光した蛍光強度と元の蛍光強度の比率を意味し、(1-F/F0)で表され、ただし、F
およびF0はそれぞれF‐の存在下および非存在下での蛍光強度(λEx=421nm、
λEm=680nm)である。
図6(a)から分かるように、0~100μMF‐の範囲に、消光効率が急激増加し、そ
の後増加率が低下する。さらに重要なことは、
図6(b)から分かるように、消光効率(
1-F/F0)とF‐濃度は0~20μM範囲内で良好な線形関係があり、これは、PC
N-222はF‐濃度を定量的に検出するための蛍光センサーとして使用されることが示
される。検出限界の計算式(LOD=3σ/slope、σはブランクサンプルの標準偏
差)により得られたPCN-222のF‐に対する検出限界は56nMであり、WHOの
飲料水に対して規定されるF‐の限界値(~1.5mg/L)よりも顕著に低く、かつ報
告されているほとんどのMOFセンサーのF‐検出限界よりも低い。
検出限界が低いのは、次の2つの理由が考えられる。第一、金属ポルフィリン構造におけ
るZr(IV)カチオンとF‐間の強い相互作用により、PCN-222とF‐が非常に
反応しやすい、第二、PCN-222は非常に大きい比表面積および孔道を有するので、
F‐が濃縮されて効果を生み出す。
【0024】
実験例6
実験例6では、上記実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として説明し、P
CN-222の水中の安定性を説明することを目的とし、24時間浸漬と非浸漬のPCN
-222のXRD画像を示し、具体的に
図7に示される。
具体的な実験方法は以下の通りである。
PCN-222溶液を等量的に2つの10mL遠心管に各管に5mLずつ加え、一方に2
00μMのフッ素イオンを加え、他方に同じ体積の純水を加えた。
図7に示すように、浸水前後のXRD画像が大体同じであり、PCN-222の主な構造
は基本的に変化しないことが観察され、この結果は、PCN-222が優れた水安定性を
有することを示した。
【0025】
実験例7
蛍光プローブは、蛍光強度の変化により検出目的を達成するために、実験例7では、上記
実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として説明し、PCN-222の励起
光下での蛍光安定性を説明することを目的とし、元のPCN-222溶液およびF‐添加
後のPCN-222溶液をそれぞれそれぞれ励起光下で連続的に1時間照射し、1分ごと
にその蛍光強度を測定し、具体的な結果が
図8に示される。
具体的な実験方法は、以下の通りである。
蛍光分光計を使用して、2つの遠心管中のPCN-222溶液を動的に検出し、1分ごと
1回検出するように1時間の検出を行い、検出過程中に励起光を照射し続ける。
図8に示すように、F‐非添加の元のPCN-222溶液の蛍光強度およびF‐で消光さ
れたPCN-222溶液の蛍光強度は1時間以内に顕著な変動がなかった。これは、PC
N-222は良好な蛍光安定性を有し、蛍光プローブとして使用される条件があることを
示した。上記の結果に基づいて、PCN-222は同時に水安定性、酸安定性、光安定性
を備えた材料であり、その優れた化学的安定性の理由は、PCN-222構造中のZr6
クラスターであると考えられ、これは、Zr6クラスターがMOF構造中で最も安定した
構築単位の1つと見なされている。
【0026】
実験例8
実験例8では、上記実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として説明し、P
CN-222のF‐の特定の選択性を明確説明することを目的とし、いくつかの一般的な
イオン(F‐、K+、Mg2+、Ca2+、Al3+、Cl
-、Br
-、I-、NO3
-、B
rO3-、SO42-、CO32-)のPCN-222蛍光強度に対する影響を測定し、
結論をより説得力のあるものにするために、同時に低濃度(20μM)と高濃度(200
μM)の2つの濃度の実験を行い、具体的な結果が
図9に示される。
具体的な試験方法は、以下の通りである。
この実験は、低濃度グループと高濃度グループに分けられ、PCN-222の低濃度と高
濃度のフッ素イオンに対する選択性を検出することを目的とする。
低濃度グループ:PCN-222水溶液を等量的に10mL遠心管に各管に5mLずつ加
え、それぞれPCN-222溶液を含む遠心管に同じ体積、同じ濃度(20μM)の様々
なアニオン(F‐、K+、Mg2+、Ca2+、Al3+、Cl
-、Br
-、I-、NO3
-
、BrO3-、SO42-、CO32-)を加え、ブランク対照グループでは同じ体積の
純水だけ加え、30s混合した後各遠心管中のPCN-222溶液の蛍光発光スペクトル
を測定した。3グループの実験が並行して行われた。
高濃度グループ:PCN-222水溶液を等量的に10mL遠心管に各管に5mLずつ加
え、それぞれPCN-222溶液を含む遠心管中に同じ体積、同じ濃度(200μM)の
様々なアニオン(F‐、K+、Mg2+、Ca2+、Al3+、Cl
-、Br
-、I-、NO
3
-、SO42-、BrO3
-、CO32-)を加え、ブランク対照グループでは同じ体
積の純水だけを加え、30s混合した後各遠心管中PCN-222溶液の蛍光発光スペク
トルを測定した。3グループの実験が並行して行われた。
その結果、低濃度(
図9a)と高濃度(
図9b)のF‐はPCN-222蛍光強度に対す
る消光が顕著であり、他のイオンは蛍光強度に対する影響が非常に小さいことを示した。
これは、PCN-222はF‐に対して非常に強い選択性を持ち、F‐検出用プローブに
適していることが示される。選択性が高い理由は、Zr(IV)とF‐間の親和力がZr
(IV)と他のアニオン間の親和力よりもはるかに高いためである。
【0027】
実験例9
実験例9は、上記実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として説明し、F‐
添加後のPCN-222の蛍光強度の経時変化を説明し、具体的には
図10に示される。
図10に示すように、F‐添加後5s以内に蛍光強度がほぼ完全に消光され、安定になる
傾向があることが明確に示される。これは、この検出方法は応答速度が速い利点を有する
ことを示した。
【0028】
実験例10
実験例10では、上記実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として説明し、
本発明で調製されたPCN-222蛍光プローブ検出法と近年報告されているF‐の蛍光
検出方法を比較して、具体的な結果を表3に示す。
表3では、文献1で記載された蛍光プローブ番号を1、文献2で記載された蛍光プローブ
番号を2、文献3で記載された蛍光プローブ番号を3、文献4で記載された蛍光プローブ
番号を4、文献5で記載された蛍光プローブ番号を5、文献6で記載された蛍光プローブ
番号を6、文献7で記載された蛍光プローブ番号を7、文献8で記載された蛍光プローブ
番号を8とする。
表3 近年報告されているフッ素イオン蛍光検出方法
ただし、
文献1:2019「Selective、Fast-Response、andRege
nerableMetal-OrganicFrameworkforSampling
ExcessFluorideLevelsinDrinkingWater」、
文献2:2017「Fluorescentmoleculeincorporated
metal-organicframeworkforfluoridesensing
inaqueoussolution」、.
文献3:2017「Silsesquioxanecagesasfluoridese
nsors」、
文献4:2017「DevelopmentofanInnerFilterEffec
ts-BasedUpconversionNanoparticles-Curcum
inNanosystemfortheSensitiveSensingofFluo
rideIon」、
文献5:2017「Boric-Acid-FunctionalLanthanide
MetalOrganicFrameworksforSelectiveRatiom
etricFluorescenceDetectionofFluorideIons
」、
文献6:2016「AIEactivepyridiniumfusedtetraph
enylethene:Rapidandselectivefluorescent"t
urn-on"sensorforfluorideioninaqueousmedi
a」、
文献7:2016「Simpleandefficientcoumarin-base
dcolorimetricandfluorescentchemosensorfo
rF-detection:AnON1-OFF-ON2fluorescentass
ay」、
文献8:2015「Fluorescentcarbonnanodotsforopt
icaldetectionoffluorideioninaqueousmedia
」。
【0029】
実験例11
実験例11では、上記実施例1の方法で調製されたPCN-222を対象として説明し、
本発明で調製されたPCN-222蛍光プローブの水中フッ素イオン分析への適用性を検
証することを目的とするため、さらに実際の水サンプルを使用してF‐のスパイク検出を
行う。
本実施例では、水道水サンプルおよび太湖の水サンプルの2つの実際の水サンプルを使用
して分析を行う。水サンプルは事前に前処理されており、処理後の水サンプルに様々な濃
度の既知標準フッ化物を加え、その後PCN-222を使用して蛍光検出を行い、得られ
た測定結果が表4に示される。
具体的な実験方法は、以下の通りである。
水道水および太湖の水の水サンプルをいくつか採取し、0.22μmフィルター膜で濾過
して水中の不純物を除去した。水サンプルに様々な濃度(20、40、60、80、10
0μM)のフッ素イオンを加え、一連の異なる濃度のフッ素イオンの水サンプルを調製し
、水サンプルとPCN-222分散液を1:9の割合で混合し(つまり、10倍に希釈し
、この時フッ素イオン濃度はそれぞれ2、4、6、8、10μMである)、混合溶液を等
量的に10mL遠心管に各管に5mLずつ加え、各遠心管中PCN-222溶液の蛍光発
光スペクトルを測定した。
表4 水道水サンプルおよび太湖の水サンプルのF‐スパイク検出結果
表4に示すように、水道水サンプルの回収率は88.0%~103.5%であり、太湖水
サンプルの回収率は93.0%~105.6%であり、これは、PCN-222による実
際の水サンプル中のフッ素イオンの検出は顕著な干渉を受けなかった。これらの結果から
分かるように、この蛍光プローブ検出方法は高い正確性および信頼性を有し、水サンプル
中のF‐の測定に使用され得る。
【手続補正書】
【提出日】2021-01-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン条件下で廃水中のF
-
を検出するための蛍光プローブとして使用され、
S1、化合物合成
S11、ZrCl4(80mg)、H2-TCPP(50mg)および安息香酸(2.7
g)を超音波処理によりN、N-ジエチルホルムアミド(8ml)に溶解し、溶液を得る
ステップと、
S12、ステップS11で調製された溶液をポリテトラフルオロエチレンのオートクレー
ブに移し、ブラストオーブンに入れ120℃まで加熱し、48時間保持するステップと、
S13、ステップS12で加熱された溶液を室温まで冷却した後、N、N-ジメチルホル
ムアミドを使用して吸引濾過で2回洗浄し、その後N、N-ジメチルホルムアミドの代わ
りにアセトンを使用して3回洗浄を続け、最終的に固体化合物の生成物を収穫するステッ
プと、
S2、化合物の活性化
S21、活性化プロセスを最適化するために、まず0.5mLの濃塩酸を20mLDMF
に加え、次にステップS213で合成した生成物を120℃のDMFに12時間浸漬する
ステップと、
S22、ステップS21で浸漬された生成物をDMFで2回洗浄してから、アセトンで3
回洗浄し、最後に生成物をアセトンに浸漬し24時間放置するステップと、
S23、ステップS22で放置した生成物を真空乾燥オーブンで6時間真空乾燥して活性
化処理を行い、最後に脱ガス機能を用い120℃で12時間再度乾燥させるステップと、
を含む水溶性マクロポーラスジルコニウムポルフィリン構造化合物の調製方法で調製され
た化合物の使用方法であって、
前記蛍光プローブを用いてF
-
を検出する方法が、水溶液中の蛍光スペクトルを検出し、
421nmでの蛍光強度を検出することによりF
-
濃度を得て、
F
-
濃度が、1~100μMの範囲の前記蛍光プローブの蛍光の消光を有し、蛍光消光率
とF‐濃度が1~20μM以内に線形関係がある、
ことを特徴とする化合物の使用方法。
【手続補正書】
【提出日】2021-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン条件下で廃水中のF-を検出するための蛍光プローブとして使用され、
S1、化合物合成
S11、ZrCl4(80mg)、H2-TCPP(50mg)および安息香酸(2.7
g)を超音波処理によりN、N-ジエチルホルムアミド(8ml)に溶解し、溶液を得る
ステップと、
S12、ステップS11で調製された溶液をポリテトラフルオロエチレンのオートクレー
ブに移し、ブラストオーブンに入れ120℃まで加熱し、48時間保持するステップと、
S13、ステップS12で加熱された溶液を室温まで冷却した後、N、N-ジメチルホル
ムアミドを使用して吸引濾過で2回洗浄し、その後N、N-ジメチルホルムアミドの代わ
りにアセトンを使用して3回洗浄を続け、最終的に固体化合物の生成物を収穫するステッ
プと、
S2、化合物の活性化
S21、活性化プロセスを最適化するために、まず0.5mLの濃塩酸を20mLDMF
に加え、次にステップS13で合成した生成物を120℃のDMFに12時間浸漬するス
テップと、
S22、ステップS21で浸漬された生成物をDMFで2回洗浄してから、アセトンで3
回洗浄し、最後に生成物をアセトンに浸漬し24時間放置するステップと、
S23、ステップS22で放置した生成物を真空乾燥オーブンで6時間真空乾燥して活性
化処理を行い、最後に脱ガス機能を用い120℃で12時間再度乾燥させるステップと、
を含む水溶性マクロポーラスジルコニウムポルフィリン構造化合物の調製方法で調製され
た化合物の使用方法であって、
前記化合物がイオン条件下で廃水中のF
-
を検出するための蛍光プローブとして使用され
、前記蛍光プローブを用いてF-を検出する方法が、水溶液中の蛍光スペクトルを検出し
、421nmでの蛍光強度を検出することによりF-濃度を得て、
F-濃度が、1~100μMの範囲の前記蛍光プローブの蛍光の消光を有し、蛍光消光率
とF‐濃度が1~20μM以内に線形関係がある、
ことを特徴とする化合物の使用方法。