(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042454
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】防汚塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20220307BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220307BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220307BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220307BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20220307BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220307BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D7/61
C09D201/00
C09D5/16
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020157885
(22)【出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】513100378
【氏名又は名称】HANASマテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥地 英樹
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038CG002
4J038DB002
4J038DG002
4J038DJ011
4J038DL002
4J038HA026
4J038HA446
4J038JB01
4J038KA03
4J038KA08
4J038MA06
4J038MA10
4J038NA05
4J038PB05
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】 この発明は、船舶、漁網、水中構造物などへの海洋生物の付着を防ぐ効果を具えるとともに、環境に対する悪影響のない防汚塗料を提供する
【解決手段】 主剤と硬化剤とを混合し、さらにカーボンナノチューブと、加熱して粉砕して得た紅麹粉末とを加えて混合し、防汚塗料を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルエマルション系塗料を主剤とし、硬化剤と、過熱して粉砕した紅麹粉末と、及びカーボンナノチューブとを混合して得ることを特徴とする防汚塗料。
【請求項2】
疎水性シリカ組成成分として含む油性塗料に、過熱して粉砕した紅麹粉末と、及びカーボンナノチューブとを混合して得ることを特徴とする防汚塗料。
【請求項3】
前記紅麹粉末の主剤に対する混合比率が20%~30%であって、
前記カーボンナノチューブの主剤に対する混合比率が30%~40%であることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の防汚塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防汚塗料に関し、特に船底、漁網、水中構造物などに塗布して海生生物などの付着を防ぐ防汚塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の船底外板などは、海水との接触によって海洋生物が容易に付着する。例えば、貝類、海藻、藻などであって、これらの付着は船舶の走行抵抗が増大させ、燃費の悪化を招く。そこで、係る現象を防ぐための防汚塗料が開発され、実用化されている。その応用範囲は、船舶のみならず、漁網、水中構造物などにも及ぶ。
【0003】
従来、防汚染塗料は、防汚機能を有するトリプチル錫、トリフェニル錫などの有機錫を含有していたが、但し、有機スズが海中に溶出すると、イボニシ貝をはじめとする貝類のインポセックス現象を招き、不妊化が発生する。さらに、有機錫はベリジャー幼生に有害である。また、前記有機錫以外に、ロジンを含有する塗料も使用されたが、やはり海洋生物の整体に影響を与えることが判明した。このため、2001年10月には、国際海事機関(IMO)において船舶の有害な防汚方法の規制に関する国際条約(the International Convention on the Control of Harmful nti-ouling ystem on Ships,2001AF)が採択され、有機スズ化合物などを含有する防汚塗料の使用が規制された。
【0004】
そこで、有機スズ化合物などの代替としてマレイド系化合物含有塗料などが開発された。また、海洋生物の船底への付着を防ぐために、フラノテルパンを含有させる、もしくはヒバ油などの天然物を用いるなどの方法が開発された。
【0005】
また、特開2006-070104公報に開示される淡水域対応型防汚塗料組成物、その塗膜および防汚方法においては、高級脂肪酸で表面処理された亜酸化銅を含む。
【0006】
然しながら、上述する従来の防汚塗料では、防汚効果が不十分であったり、添加物の製造コストが高価であったりして、なおも改善が望まれている。特に、亜酸化銅は水中で銅イオンとして毒性が発揮されるため、これ防汚塗料に用いた場合、海洋生物への影響があることは否めない。
【0007】
そこで、本発明者は、海洋生物の付着を防ぐ効果を具え、かつ海洋生物に対する悪影響のない、環境にやさしい防汚水性塗料を提供すべく、鋭意研究を重ねた結果、ホタテガイの貝殻を粉砕して得られたホタテガイ粉末と、紅麹を粉砕して得られた粉末とを混合して防汚水性塗料の成分とした防汚水性塗料を開発し、特許出願した。即ち、特開2014-19792号公報に開示する防汚水性塗料である。
【0008】
但し、ホタテガイ粉末の成分には、炭酸カルシウム以外にタンパク質も含まれるが、近年の研究によれば、タンパク質を水性塗料の材料に使用した場合、汚染を引き起こす可能性があるともいわれている。
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-070104公報
【特許文献2】特開2014-19792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、船舶、漁網、水中構造物などへの海洋生物の付着を防ぐ効果を具えるとともに、環境に対する悪影響のない防汚塗料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者は従来の技術に見られる欠点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、カーボンナノチューブと、紅麹を粉砕して得られた粉末とを防汚作用を有する成分として含有する防汚水性塗料によって課題を解決できる点に着眼し、係る知見に基づいて本発明を完成させた。即ち、主剤と硬化剤とを混合し、さらにカーボンナノチューブと、加熱して粉砕して得た紅麹粉末とを加えて混合し、防汚水性塗料を得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明は、船舶などに対するする海洋生物の付着を防ぐとともに、環境に対する悪影響のない防汚水性塗料を提供するものであって、紅麹粉末とカーボンナノチューブを主要な成分とする。係る防汚水性塗料の特徴について、具体的な実施例を挙げて以下に詳述する。
【実施例0013】
この発明による防汚水性塗料は、カーボンナノチューブと、紅麹とを防汚塗料の成分とし、これらと硬化剤とを主剤に混合して得る。
【0014】
この発明の実施の形態として、主剤にはアクリルエマルション系塗料を用い、硬化剤にはエポキシ樹脂を用いた。但し、主剤と硬化剤についてはこれらに限定することなく、例えば主剤としてはポリアミン化合物などであってもよく、硬化剤としてはアクリル樹脂、ウレタン、シリコンなどを用いてもよい。
【0015】
紅麹は、紅麹菌を培養して得る。さらに加熱処理を行って酸素を不活性化した上で、乾燥粉砕して紅麹粉末を得る。紅麹は、モナリコンKと、y-アミノ絡酸とを主要な含有成分とし、血圧低下作用、コレステロール抑制作用を有することが知られている。
【0019】
上述する紅麹粉末にカーボンナノチューブを加えて防汚効果を有する塗料成分とする。
【0020】
前記主剤として、アクリルエマルジョン系塗料を500gに、硬化剤としてエポキシ樹脂400gを混合し、撹拌した。これを塗料サンプルAとし、繊維強化プラスチックによってなり、長さ30cm、幅10cmメートルの短冊状の試験板に塗布して試験板1を得た。
【0021】
次いで、前記主剤と硬化剤との混合物に前記紅麹粉末25gと、カーボンナノチューブ粉末50gを混合し、撹拌して塗料サンプルBとし、繊維強化プラスチックによってなり、長さ30cm、幅10cmメートルの短冊状の試験板に塗布して試験板2を得た。塗料サンプルBにおける主剤と硬化剤との混合物に対する紅麹粉末とカーボンナノチューブとの混合比率は、紅麹粉末5%、カーボンナノチューブ10%であって、カーボンナノチューブは単層のものを用いたが、但しこれに限定することなく、多層のものであってもよい。
【0022】
次に、前記主剤と硬化剤との混合物に前記紅麹粉末100gと、カーボンナノチューブ粉末150gを混合し、撹拌して塗料サンプルCとし、繊維強化プラスチックによってなり、長さ30cm、幅10cmメートルの短冊状の試験板に塗布して試験板3を得た。塗料サンプルCにおける主剤と硬化剤との混合物に対する紅麹粉末とカーボンナノチューブとの混合比率は、紅麹粉末20%、カーボンナノチューブ30%であった。
【0023】
次に、前記主剤と硬化剤との混合物に前記紅麹粉末150gと、カーボンナノチューブ粉末200gを混合し、撹拌して塗料サンプルDとし、繊維強化プラスチックによってなり、長さ30cm、幅10cmメートルの短冊状の試験板に塗布して試験板4を得た。塗料サンプルDにおける主剤と硬化剤との混合物に対する紅麹粉末とカーボンナノチューブとの混合比率は、紅麹粉末30%、カーボンナノチューブ40%であった。
【0024】
前記試験板1、2、3、4は、塗布した塗料を乾燥させて、海水に浸漬して貝や藻の付着状況を観察した。試験場所は広島県宮古島沖で、期間は2019年8月1日から同年11月1日の3ケ月間であったその結果、サンプル塗料Aを塗布した試験板には、表裏ともにフジツボが多数付着するとともに、大量の藻が付着した。サンプル塗料Bを塗布した試験板2には、表裏ともにフジツボの付着は見られなかったものの、全面的に藻の付着が見られた。
【0025】
然しながら、サンプル塗料Cを塗布した試験板3には貝類の付着はなく、若干の藻が付着し、サンプル塗料Dを塗布した試験板4には、は貝類の付着はなく、藻の付着も見られなかった。
【0026】
上述する試験の結果、紅麹粉末とカーボンナノチューブ粉末とを主剤に混合して得た塗料は、海洋生物の付着を阻止する効果が見られる。その混合比率は、前記塗料サンプル塗料Bを塗布した試験板2に見られるように、主剤に対し紅麹粉末5%、カーボンナノチューブ10%では、効果が不十分であって、前記塗料サンプル塗料Cを塗布した試験板3、もしくは前記塗料サンプル塗料Dを塗布した試験板4に見られるように、少なくとも紅麹粉末20%、カーボンナノチューブ粉末30%は必要である。その上限としては、前記塗料サンプル塗料Dを塗布した試験板4に見られるように、紅麹粉末30%、カーボンナノチューブ粉末40%で十分な海洋生物付着阻止の効果が得られ、かつ製造コスト等を考慮すれば、紅麹粉末30%、カーボンナノチューブ粉末40%を超える必要はない。
【0027】
したがって、この発明における防汚塗料は、主剤に対する紅麹粉末含有比率が20~30%の範囲であることが好ましく、主剤に対するカーボンナノチューブ粉末含有比率が30~40%の範囲であることが好ましい。
【0028】
また、発明による防汚塗料は、上述するようにアクリルエマルション系塗料を主剤とし、硬化剤と、過熱して粉砕した紅麹粉末と、及びカーボンナノチューブとを混合して得るが、例えば疎水性シリカなどを用いた油性塗料に応用することができる。この場合も同様に、主剤に対して30%~40%のカーボンナノチューブと、主剤に対して20%~30%の紅麹粉末を混合することで、海洋生物の付着を防ぐという効果が得られる。
【0029】
この発明による防汚塗料は、船底、漁網、水中構造物などに塗布することで、海洋生物の付着を防ぐ効果が得られ、かつ従来の塗料に含まれる有機スズ、ロジン、亜酸化銅などのように環境対して悪影響を与えることがない。また、製造コストが低く、材料の安定した供給が得られるという利便性をも有する。さらには、疎水性シリカなどを用いた油性塗料にも応用することができ、広い応用性を具える。
【0030】
以上のこの発明の好ましい実施の形態であって、この発明の範囲を限定するものではない。よって、当業者のなし得る訂正、変更などであって。この発明の精神においてなされ、この発明に対して均等の効果を有するものは、いずれもこの発明の特許請求の範囲に属するものとする。