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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042470
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】工具保持装置及びバリ取り装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 5/027 20060101AFI20220307BHJP
   B23C 3/12 20060101ALI20220307BHJP
   B24B 9/00 20060101ALI20220307BHJP
   B24B 47/16 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
B23Q5/027
B23C3/12 B
B24B9/00 602L
B24B47/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083304
(22)【出願日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2020147611
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】595031063
【氏名又は名称】株式会社クロイツ
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】中田 周一
【テーマコード(参考)】
3C022
3C034
3C049
【Fターム(参考)】
3C022DD11
3C034AA19
3C034BB25
3C034CB01
3C034DD20
3C049AA03
3C049AA16
3C049CB05
(57)【要約】
【課題】従来よりコンパクトな工具保持装置及びバリ取り装置を提供する。
【解決手段】本開示のバリ取り装置95Aによれば、回転入力部20Aから工具保持部30Aに伝わる回転動力の一部が、工具保持部30Aと支持ベース11Aとに備えたカム機構によりスライド動力に変換されるので、1つの駆動源からの動力によって工具90Aの回転と直線移動を実現することができ、2つの駆動源によってそれらを実現していた従来のものに比べてコンパクト化が可能になる。これにより、NC旋盤の装置支持部96やロボットの先端部へのバリ取り装置95Aの装着が容易になると共に、取り回しも容易になる。しかも、工具90Aは、回転中心から離れる側に付勢されて、その付勢力に抗して側面突部91を回転半径方向に移動するので、バリ取り処理中にワーク及び工具90Aに過負荷がかかることを防ぐこともできる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持ベースに回転可能に支持され、回転動力を受けて回転駆動される回転入力部と、
工具を保持する工具保持部と、
前記工具保持部を、前記回転入力部に対して一体回転可能かつその回転軸方向に直線移動可能に連結する回転連結機構と、
前記工具保持部と前記支持ベースとに設けられ、前記工具保持部の回転に伴って互いに摺接して前記工具保持部を前記回転軸方向に往復直線移動させるカム機構と、を備える工具保持装置。
【請求項2】
前記カム機構には、
前記工具保持部を前記回転入力部から離れる側に付勢する付勢手段と、
前記工具保持部と前記支持ベースとに設けられて、前記回転軸方向で互いに対向する1対の対向部と、
一方の前記対向部に設けられ、前記工具保持部の回転軸を中心とする環状をなして、その周方向に複数の凹部と突部とが交互に並ぶ環状カム面と、
他方の前記対向部に設けられて一方の前記対向部に向かって突出し、前記付勢手段の付勢力によって前記環状カム面に先端を押し付けられるカム突部と、が備えられている請求項1に記載の工具保持装置。
【請求項3】
前記回転入力部に形成されて、その回転軸からずれた位置で前記回転軸方向に延びる複数の入力側バネ受容孔と、
前記工具保持部に形成されて、前記複数の入力側バネ受容孔の同軸延長線上に延びる複数の出力側バネ受容孔と、
同軸上に配置された各対の前記入力側バネ受容孔及び前記出力側バネ受容孔に共通して嵌合されて、それら入力側バネ受容孔及び出力側バネ受容孔の奥面同士の間で圧縮状態にされる前記付勢手段としての複数の圧縮コイルバネと、を有する請求項2に記載の工具保持装置。
【請求項4】
前記回転連結機構は、
前記回転入力部に形成されて、その回転軸からずれた位置で前記回転軸方向に延びる複数の入力側ピン孔と、
前記工具保持部に形成されて、前記複数の入力側ピン孔の同軸延長線上に延びる複数の出力側ピン孔と、
同軸上に配置された各対の前記入力側ピン孔及び前記出力側ピン孔に共通して嵌合し、少なくとも一方に対してスライド可能な複数のピンと、
を有する請求項1から3の何れか1の請求項に記載の工具保持装置。
【請求項5】
前記回転連結機構は、前記回転入力部と前記工具保持部とに設けられて、断面非円形となって前記回転軸方向に延び、互いにスライド可能に嵌合するスプラインシャフト部及びスプライン孔部を有する請求項1から4の何れか1の請求項に記載の工具保持装置。
【請求項6】
前記工具保持部には、
前記回転入力部に対して前記回転連結機構で連結されかつ前記支持ベースとの間に前記カム機構を有する可動ベースと、
前記工具が嵌合される工具嵌合孔を前記工具保持部の回転軸と平行に備える工具固定部と、
前記工具固定部を前記可動ベースに対し、その回転軸と直交する回転半径方向に直線移動可能に支持しかつその移動可能な範囲の一端又は途中の原点位置に付勢するフローティング機構と、が備えられている請求項1から5の何れか1の請求項に記載の工具保持装置。
【請求項7】
前記工具保持部には、
前記回転入力部に対して前記回転連結機構で連結されかつ前記支持ベースとの間に前記カム機構を有する可動ベースと、
前記工具が嵌合される工具嵌合孔を前記工具保持部の回転軸と平行に備える工具固定部と、
前記工具固定部を前記可動ベースに対し、前記回転軸の軸方向に直線移動可能に支持しかつその移動可能な範囲の一端又は途中の原点位置に付勢するフローティング機構と、が備えられている請求項1から5の何れか1の請求項に記載の工具保持装置。
【請求項8】
前記工具保持部には、
前記回転入力部に対して前記回転連結機構で連結されかつ前記支持ベースとの間に前記カム機構を有する可動ベースと、
前記工具が嵌合される工具嵌合孔を前記工具保持部の回転軸と平行に備える工具固定部と、
前記工具固定部を前記可動ベースに対し、前記回転軸の軸方向に直線移動可能かつ前記回転軸を中心に回転可能に支持すると共に、前記軸方向で対向する前記工具固定部及び前記可動ベースの1対の対向部を摩擦係合するように押し付け、前記工具固定部と前記可動ベースとの間に作用する負荷トルクが基準値を超えると前記摩擦係合が外れるフローチング機構と、が備えられている請求項1から5の何れか1の請求項に記載の工具保持装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに1の請求項に記載の工具保持装置に工具を保持させてなるバリ取り装置。
【請求項10】
請求項6に記載の工具保持装置に工具を保持させてなるバリ取り装置であって、
前記工具は、前記工具嵌合孔に嵌合されるシャフト部と、前記シャフト部の側面から突出して先端が円錐状又は半球状をなしかつ表面にバリ取り用の凹凸を有する側面突部とを備え、
前記フローティング機構は、前記工具固定部を前記可動ベースに対して移動可能な範囲の一端の原点位置に付勢し、
前記側面突部は、前記フローティング機構により直線移動可能な方向に突出し、
前記側面突部の先端は、前記工具のうち前記可動ベースの回転中心から最も離れた位置に配置されているバリ取り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工具を保持して、回転可能に支持する工具保持装置及びバリ取り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の工具保持装置として、工具を保持している部分が、回転用モータから回転動力を受けると共に、直動用モータから回転軸方向にスライドさせる動力(以下、「スライド動力」という)を受けることで、工具を回転させながら回転軸方向に往復移動させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3710593号公報(図1、段落[0012],[0014],[0015],[0020])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の工具保持装置に対し、広い設置スペースを要することが問題になっていた。そこで、本開示では、従来よりコンパクトな工具保持装置及びバリ取り装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1の発明は、支持ベースに回転可能に支持され、回転動力を受けて回転駆動される回転入力部と、工具を保持する工具保持部と、前記工具保持部を、前記回転入力部に対して一体回転可能かつその回転軸方向に直線移動可能に連結する回転連結機構と、前記工具保持部と前記支持ベースとに設けられ、前記工具保持部の回転に伴って互いに摺接して前記工具保持部を前記回転軸方向に往復直線移動させるカム機構と、を備える工具保持装置である。
【0006】
請求項2の発明は、前記カム機構には、前記工具保持部を前記回転入力部から離れる側に付勢する付勢手段と、前記工具保持部と前記支持ベースとに設けられて、前記回転軸方向で互いに対向する1対の対向部と、一方の前記対向部に設けられ、前記工具保持部の回転軸を中心とする環状をなして、その周方向に複数の凹部と突部とが交互に並ぶ環状カム面と、他方の前記対向部に設けられて一方の前記対向部に向かって突出し、前記付勢手段の付勢力によって前記環状カム面に先端を押し付けられるカム突部と、が備えられている請求項1に記載の工具保持装置である。
【0007】
請求項3の発明は、前記回転入力部に形成されて、その回転軸からずれた位置で前記回転軸方向に延びる複数の入力側バネ受容孔と、前記工具保持部に形成されて、前記複数の入力側バネ受容孔の同軸延長線上に延びる複数の出力側バネ受容孔と、同軸上に配置された各対の前記入力側バネ受容孔及び前記出力側バネ受容孔に共通して嵌合されて、それら入力側バネ受容孔及び出力側バネ受容孔の奥面同士の間で圧縮状態にされる前記付勢手段としての複数の圧縮コイルバネと、を有する請求項2に記載の工具保持装置である。
【0008】
請求項4の発明は、前記回転連結機構は、前記回転入力部に形成されて、その回転軸からずれた位置で前記回転軸方向に延びる複数の入力側ピン孔と、前記工具保持部に形成されて、前記複数の入力側ピン孔の同軸延長線上に延びる複数の出力側ピン孔と、同軸上に配置された各対の前記入力側ピン孔及び前記出力側ピン孔に共通して嵌合し、少なくとも一方に対してスライド可能な複数のピンと、を有する請求項1から3の何れか1の請求項に記載の工具保持装置である。
【0009】
請求項5の発明は、前記回転連結機構は、前記回転入力部と前記工具保持部とに設けられて、断面非円形となって前記回転軸方向に延び、互いにスライド可能に嵌合するスプラインシャフト部及びスプライン孔部を有する請求項1から4の何れか1の請求項に記載の工具保持装置である。
【0010】
請求項6の発明は、前記工具保持部には、前記回転入力部に対して前記回転連結機構で連結されかつ前記支持ベースとの間に前記カム機構を有する可動ベースと、前記工具が嵌合される工具嵌合孔を前記工具保持部の回転軸と平行に備える工具固定部と、前記工具固定部を前記可動ベースに対し、その回転軸と直交する回転半径方向に直線移動可能に支持しかつその移動可能な範囲の一端又は途中の原点位置に付勢するフローティング機構と、が備えられている請求項1から5の何れか1の請求項に記載の工具保持装置である。
【0011】
請求項7の発明は、前記工具保持部には、前記回転入力部に対して前記回転連結機構で連結されかつ前記支持ベースとの間に前記カム機構を有する可動ベースと、前記工具が嵌合される工具嵌合孔を前記工具保持部の回転軸と平行に備える工具固定部と、前記工具固定部を前記可動ベースに対し、前記回転軸の軸方向に直線移動可能に支持しかつその移動可能な範囲の一端又は途中の原点位置に付勢するフローティング機構と、が備えられている請求項1から5の何れか1の請求項に記載の工具保持装置である。
【0012】
請求項8の発明は、前記工具保持部には、前記回転入力部に対して前記回転連結機構で連結されかつ前記支持ベースとの間に前記カム機構を有する可動ベースと、前記工具が嵌合される工具嵌合孔を前記工具保持部の回転軸と平行に備える工具固定部と、前記工具固定部を前記可動ベースに対し、前記回転軸の軸方向に直線移動可能かつ前記回転軸を中心に回転可能に支持すると共に、前記軸方向で対向する前記工具固定部及び前記可動ベースの1対の対向部を摩擦係合するように押し付け、前記工具固定部と前記可動ベースとの間に作用する負荷トルクが基準値を超えると前記摩擦係合が外れるフローチング機構と、が備えられている請求項1から5の何れか1の請求項に記載の工具保持装置である。
【0013】
請求項9の発明は、請求項1から8の何れかに1の請求項に記載の工具保持装置に工具を保持させてなるバリ取り装置である。
【0014】
請求項10の発明は、請求項6に記載の工具保持装置に工具を保持させてなるバリ取り装置であって、前記工具は、前記工具嵌合孔に嵌合されるシャフト部と、前記シャフト部の側面から突出して先端が円錐状又は半球状をなしかつ表面にバリ取り用の凹凸を有する側面突部とを備え、前記フローティング機構は、前記工具固定部を前記可動ベースに対して移動可能な範囲の一端の原点位置に付勢し、前記側面突部は、前記フローティング機構により直線移動可能な方向に突出し、前記側面突部の先端は、前記工具のうち前記可動ベースの回転中心から最も離れた位置に配置されているバリ取り装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1及び請求項9の構成では、回転動力を受けて回転駆動される回転入力部に対し、工具を保持する工具保持部が、一体回転可能かつその回転軸方向に直線移動可能に連結されている。そして、回転入力部から工具保持部に伝わる回転動力の一部が、工具保持部と支持ベースとに備えたカム機構によりスライド動力に変換される。これにより、1つの駆動源からの動力によって工具の回転と直線移動を実現することができ、2つの駆動源によってそれらを実現していた従来のものに比べてコンパクト化が可能になる。
【0016】
カム機構は、例えば、支持ベース及び工具保持部の何れか一方に円周面を設けて、その円周面に波形状のカム溝を形成して、他方に備えたカムフォロアをそのカム溝に係合させた構成としてもよいし、請求項2のように、工具保持部を回転入力部から離れる側に付勢する付勢手段を設けておくと共に、工具保持部と支持ベースとに回転軸方向で互いに対向する1の対向部を設けておき、一方の対向部に、複数の凹部と突部とが交互に並ぶ環状カム面を形成して、そこに他方の対向部に設けたカム突部が突き当たるように付勢する構成としてもよい。
【0017】
また、付勢手段としては、回転入力部と工具保持部との間に挟まれた、圧縮コイルバネや、バネ構造を有しない例えば柱形状又はブロック形状のエラストマーや、圧縮ガスを収容したエアーシリンダ等が挙げられる。また、付勢手段として圧縮コイルバネを利用する場合には、圧縮コイルバネの巻回軸が、回転入力部及び工具保持部の回転軸と一致するように配置した構成であってもよいし、請求項3のように回転入力部及び工具保持部に、同軸上に並ぶ入力側バネ受容孔と出力側バネ受容孔とを複数対備えて、それらに共通して圧縮コイルバネが嵌合されて、それら入力側バネ受容孔及び出力側バネ受容孔の奥面同士の間で圧縮されるようにしてもよい。
【0018】
回転連結機構としては、請求項4の構成のように、回転入力部及び工具保持部に、同軸上に並ぶ入力側ピン孔と出力側ピン孔とを複数対備えて、それらに共通して嵌合する複数のピンを設けた構成としてもよいし、請求項5の構成のように、回転入力部及び工具保持部にスプラインシャフト部とスプライン孔部と備えた構成としてもよいし、請求項4,5の両方の構成を備えたものであってもよい。
【0019】
請求項6,7,8の工具保持装置では、ワークの凹凸形状に応じて、フローティング機構により工具を回転半径方向又は回転軸方向に逃がすか、工具固定部と可動ベースとの間でトルクの伝達を遮断してワーク及び工具に過負荷がかかることを防ぐことができる。
ことができる。
【0020】
請求項9のバリ取り装置では、工具には、側方に突出して先端が円錐状又は半球状をなしかつ表面にバリ取り用の凹凸を有する側面突部が備えられている。そして、フローティング機構により側面突部の先端は、工具のうち可動ベースの回転中心から最も離れた位置に配置されている。これにより側面突部が回転中心側に逃げるように移動させることができ、バリ取り処理中にワーク及び工具に過負荷がかかることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態のバリ取り装置の側断面図
図2】バリ取り装置の側断面図
図3】可動ベース、カムプレート及び工具固定部の斜視図
図4】工具保持部の分解斜視図
図5】工具保持部の可動ベースと工具固定部の正断面図
図6】工具保持部の可動ベースと工具固定部の側断面図
図7】第2実施形態のバリ取り装置の側断面図
図8図7におけるA-A切断面の正断面図
図9】第3実施形態のバリ取り装置の側断面図
図10】そのバリ取り装置の工具保持部の側断面図
図11】第4実施形態のバリ取り装置の工具保持部の側断面図
図12】第5実施形態のバリ取り装置の工具保持部の側断面図
図13】第6実施形態のバリ取り装置の工具保持部の側断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
以下、図1から図6を参照して、本実施形態のバリ取り装置95Aについて説明する。図1に示すように、本実施形態のバリ取り装置95Aは、工具保持装置10Aに工具90Aを取り付けてなる。以下、バリ取り装置95Aの各部品、各部位の説明において、図1における右側を「基端側」、「後端側」、「後側」等といい、その反対側を、「先端側」、「前端側」、「前側」等といい、さらに、図1の左右方向を単に「前後方向」ということとする。
【0023】
工具保持装置10Aは、円筒状の支持筒部18の先端部から支持ヘッド19が張り出した構造の支持ベース11Aを備える。支持筒部18の内側には、1対のベアリング16が軸方向に間隔を空けて設けられ、軸方向に移動不能に支持されている。そして、これら1対のベアリング16に工具保持装置10Aの回転入力部20Aが回転可能に支持されている。
【0024】
回転入力部20Aは、1対のベアリング16の内側に嵌合される中間軸部29と、その前端部から側方に張り出す先端大径部28とを有する。また、中間軸部29の後端寄り位置の外面には螺子部29Nが形成され、その螺子部29Nに後方からワッシャW1が通されてからナットN1が螺合されている。これにより、ワッシャW1が後側のベアリング16のインナーに押し付けられると共に、先端大径部28が前側のベアリング16のインナーに押し付けられて、回転入力部20Aが支持ベース11Aに対して回転軸方向H1で移動不能に支持されている。
【0025】
また、中間軸部29の後端部には、接続アダプタ27が一体回転可能に固定されて、その接続アダプタ27の後面から連結突部27Aが突出している。連結突部27Aは、断面四角形をなして回転半径方向に延びる突条構造をなしている。そして回転入力部20Aは、連結突部27Aに外部からの回転動力を受けて回転駆動される。
【0026】
なお、接続アダプタ27は、連結突部27Aの形状が異なる複数種類が用意されていて、それらを交換して中間軸部29に固定することで、複数種類の駆動源に回転入力部20Aを接続することができるようになっている。
【0027】
回転入力部20Aの先端大径部28は、支持ベース11Aの支持ヘッド19の内側に位置し、その支持ヘッド19の内側のうち先端大径部28の外周面と対向する部分が段付き状に拡径されてシール受容部19Aになっている。そして、先端大径部28とシール受容部19Aとの間にシールリング17が嵌合されてベアリング16側への粉塵の進入を規制している。
【0028】
支持ヘッド19のうちシール受容部19Aの前隣となる部分には、シール受容部19Aからさらに段付き状に拡径されたフランジ受容部19Bが形成されている。また、支持ヘッド19のうちフランジ受容部19Bより前側部分は、フランジ受容部19Bより段付き状に縮径されている。
【0029】
また、支持ヘッド19は、ヘッドベース12とカムプレート13と先端カバー14とを組み付けてなる。ヘッドベース12は、支持筒部18の先端部に一体に設けられ、軸方向から見ると略四角形をなし(図示せず)、回転入力部20Aの回転軸方向H1と直交する前端面を有する。そして、フランジ受容部19Bは、ヘッドベース12に形成されてヘッドベース12の前端面に開口している。
【0030】
カムプレート13は、円環形の板状をなし、その径方向の中間位置より外側部分をヘッドベース12の前端面に重ねられてボルトで固定されて、フランジ受容部19Bの内側面から内側に張り出している。
【0031】
先端カバー14は、軸方向から見るとヘッドベース12に対応した略四角形をなしていて(図示せず)、先端カバー14の後端面には、円形の凹部14Aが陥没形成されている。そして、その凹部14Aにカムプレート13を受容した状態で先端カバー14の後端面がヘッドベース12の前端面に重ねられて、ボルトにて先端カバー14がヘッドベース12に固定されている。
【0032】
カムプレート13のうちフランジ受容部19Bに臨む部分にはカム面13Sが形成されている。図3に示すように、カム面13Sは、凹部13Aと突部13Bとを周方向に交互に並べてなる。
【0033】
図1に示すように、回転入力部20Aの前端面(即ち、先端大径部28の前端面)は、例えば、支持ベース11Aにおけるシール受容部19Aとフランジ受容部19Bとの間の段差面より僅かに前方に位置する。また、回転入力部20Aの前端部には、回転入力部20Aの回転軸J1上に螺子孔28Nが形成され、その螺子孔28Nの周囲には、回転軸J1の軸方向(以下、単に「回転軸方向H1」という。本実施形態では、前後方向が回転軸方向H1でもある)に延びる複数の入力側バネ受容孔25と複数の入力側ピン孔21(図2参照)とが形成されている。より具体的には、入力側バネ受容孔25と入力側ピン孔21は、例えば2つずつ設けられて、螺子孔28Nの周りに90度の間隔を空けて交互に並べられている。
【0034】
図2に示すように、螺子孔28Nは、前端側に座ぐり部28Zを有する。また、その座ぐり部28Zの周方向の2箇所と両入力側ピン孔21との間を連絡するように、1対の連通路28Yが形成されている。
【0035】
各入力側ピン孔21には、それぞれピン22が嵌合している。ピン22の基端寄り位置には、周面の一部に横溝22Aが形成されている。また、座ぐり部28Zには、異形ワッシャ23が収容されて螺子孔28Nに螺合したボルトによって固定されている。そして、異形ワッシャ23から張り出す1対の突片23Tが連通路28Yを介して1対の入力側ピン孔21内に突出し、各ピン22の横溝22Aに係合して各ピン22を入力側ピン孔21内に固定している。
【0036】
上記した1対のピン22により、工具保持部30Aの可動ベース39が回転入力部20Aに一体回転可能かつ直動可能に連結されている。可動ベース39は、回転入力部20Aの回転軸J1の同軸上に延びる円柱状の可動ベース本体39Hを有し、その可動ベース本体39Hの基端部には、1対の入力側ピン孔21の同軸延長線上に延びる1対の出力側ピン孔31が形成されている。そして、それら1対の出力側ピン孔31に1対のピン22が直線移動可能に嵌合することで、前述のように可動ベース39が回転入力部20Aに一体回転可能かつ直動可能に連結されている。
【0037】
詳細には、可動ベース本体39Hには、軸方向の中間位置より前側を直方体状にくりぬいて前端凹部36が形成され、前端凹部36の底面から可動ベース本体39Hの後端面に亘って、1対の入力側ピン孔21の同軸延長線上に1対の下孔32が形成されている。また、各下孔32の後端部は、段付き状に縮径され、各下孔32のうち段差面より前側に、円筒状の摺動メタル33が嵌合されている。そして、1対の摺動メタル33の内側が前述した1対の出力側ピン孔31をなし、それらの内側に1対のピン22が直動に嵌合している。
【0038】
また、前端凹部36の底面には、摺動メタル33を抜け止めするための底板101が敷設されて螺子止めされている。なお、底板101には、出力側ピン孔31の同軸上に、出力側ピン孔31の内径より大きく摺動メタル33の外径より小さい内径の貫通孔101Aが形成されている。また、下孔32の後端部の内径も、出力側ピン孔31の内径より大きくなっている。
【0039】
図3に示すように、可動ベース本体39Hのうち1対の出力側ピン孔31に対して回転軸J1周りに90度ずれた位置には、1対の出力側バネ受容孔35が形成されて、図1に示すように、1対の入力側バネ受容孔25の同軸延長線上に位置している。各出力側バネ受容孔35は、各入力側バネ受容孔25と同じ内径をなし、可動ベース本体39Hの後面から前端凹部36の後方位置に亘って延びている。また、入力側バネ受容孔25及び出力側バネ受容孔35の奥面は、それらの軸方向と直交する平坦面になっている。そして、1対の入力側バネ受容孔25と1対の出力側バネ受容孔35とに跨がって1対の圧縮コイルバネ26が収容されて、入力側バネ受容孔25及び出力側バネ受容孔35の奥面の間で圧縮されて、可動ベース39を前方に付勢している。
【0040】
可動ベース本体39Hの後端部からはフランジ38が側方に張り出し、支持ベース11Aのフランジ受容部19Bに受容されて、カムプレート13に後方から対向している。即ち、本実施形態では、カムプレート13とフランジ38とが、特許請求の範囲の「1対の対向部」に相当する。そして、フランジ38を周方向で複数等分する複数位置から複数のカム突部37Tが突出し、圧縮コイルバネ26の弾発力によって複数のカム突部37Tがカム面13Sに突き当てられている。
【0041】
具体的には、図3に示すように、フランジ38には、周方向を3等分する3箇所に、前後方向に貫通する貫通孔38Aが形成され、それら貫通孔38Aにニードル37が嵌合されている。ニードル37は、前後方向に延びる円柱体の先端部を円錐状に縮径させる一方、後端部を段付き状に縮径させた形状をなしている。また、ニードル37の後端面寄り位置には、係合溝が形成されている。これに対し、図1に示すように、貫通孔38Aは、ニードル37の中間部と後端部とに対応して後側が段付き状に縮径された形状をなしている。そして、貫通孔38Aにニードル37が前側から嵌合されかつ、ニードル37の係合溝にCリング(図示せず)が係合されて抜け止めされ、ニードル37の円錐形状部分がフランジ38から突出してカム突部37Tになっている。
【0042】
図3に示すように、カム突部37Tの先端部は、前述のカム面13Sの凹部13A内に突入可能な大きさをなしている。また、カム面13Sが有する凹部13A及び突部13Bのそれぞれの個数は、ニードル37の個数(本実施形態では、3つ)の整数倍になっていて、複数のカム突部37Tの先端部は、同時にカム面13Sの凹部13A内に突入すると共に同時に突部13Bに乗り上がる。これにより、可動ベース39は、回転に伴ってその回転軸方向H1に往復直線移動する。
【0043】
図5に示すように、可動ベース39の前端凹部36には、工具固定部81が受容され、フローティング機構81Fにより、可動ベース39の回転軸J1と直交する回転半径方向に直線移動可能に支持されている。そして、工具固定部81と可動ベース39とそれらの間のフローティング機構81Fとを主要部にして、工具保持装置10Aの工具保持部30Aが構成されている。
【0044】
具体的には、図4に示すように、工具固定部81は、フローティングベース82に溝形カバー83、ボールブッシュ84等の複数の部品を組み付けてなる。フローティングベース82は、前端凹部36の直方体状の内部空間に対して前後左右上下の3方向で一回り小さい、直方体状のベース本体82Aの前面中央から円柱状の前面突部82Bが突出した構造をなしている。そして、前面突部82Bの先端からベース本体82Aの後端寄り位置に亘って工具嵌合孔82Cが形成されている。
【0045】
ベース本体82Aの長手方向の2箇所には、短手方向に貫通する1対の下孔82Eが形成されている。各下孔82Eの一端側は、段付き状に縮径され、他端側から円筒状のボールブッシュ84がそれぞれ嵌合されている。そして、これら1対のボールブッシュ84の内側が、工具固定部81を貫通する1対のピン孔81Pになっている。
【0046】
また、ベース本体82Aのうち1対の下孔82Eの間の中央から後方にずれた位置には、下孔82Eと平行な同軸上に螺子孔82Nとバネ受容孔82Zとが形成されている。そして、ベース本体82Aにおいて1対の下孔82Eが開口している1対の主平面のうち一方の主平面に螺子孔82Nが開口し、他方の主平面にバネ受容孔82Zが開口している。また、螺子孔82Nには、位置決ボルト85が螺合している。
【0047】
ベース本体82Aの外側には、1対のボールブッシュ84を抜け止めするために溝形カバー83が装着されている。溝形カバー83は、ベース本体82Aの長手方向に延びる角溝形状をなし、底部に中央孔83Aを備える。そして、中央孔83Aにフローティングベース82の前面突部82Bが通され、ベース本体82Aの前面と1対の主平面とに重なるように溝形カバー83がベース本体82Aに装着される。また、前面突部82Bの基端寄り位置には係合溝82Mが形成されていて、そこに係合されたCリングC1(図1参照)により溝形カバー83がフローティングベース82に固定されている。
【0048】
また、溝形カバー83の1対の対向壁には、ベース本体82Aの1対の下孔82Eの同軸上に貫通孔83Eが形成され、一方の対向壁には、位置決ボルト85との干渉を回避するために半円形の切り欠き83Fが形成されている。なお、貫通孔83Eの内径は、ボールブッシュ84の内径より大きく、ボールブッシュ84の外径より小さくなっている。また、前述の下孔82Eの一端側の内径もボールブッシュ84の内径より大きく、ボールブッシュ84の外径より小さくなっている。
【0049】
前端凹部36の内部には、1対のピン86が差し渡されている。具体的には、前端凹部36の外面には、前端凹部36の内側面のうち1対の主平面の一方の主平面と隣合わせとなるように側部平面39Eが形成されている。そして、工具固定部81の1対のピン孔81Pに対応した1対のピン孔86Pが、側部平面39Eと前端凹部36の一方の主平面との間を貫通すると共に、他方の主平面には陥没した状態になるように形成されている。また、1対のピン孔86Pの間の中央から後方にずれた位置には、側部平面39Eと前端凹部36の一方の主平面との間を貫通するようにバネ挿通孔87Pが形成されている。
【0050】
そして、工具固定部81が前端凹部36に受容された状態で、1対のピン86が、側部平面39E側から1対のピン孔86Pに挿入されて工具固定部81の1対のピン孔81Pに通され、前端凹部36の1対の主平面の間に指し渡される。また、工具固定部81のバネ受容孔82Zには、側部平面39Eのバネ挿通孔87Pを通して圧縮コイルバネ87が収容される。そして、押え板88が側部平面39Eに重ねられ、その押え板88の貫通孔88Aに通したボルトが可動ベース39に形成された螺子孔88Pに締め付けられて、1対のピン86と圧縮コイルバネ87が抜け止めされる。これにより、工具固定部81が可動ベース39に対してその回転半径方向に直線移動可能に支持されると共に可動範囲の一端側に付勢され、位置決ボルト85が前端凹部36内の主平面に当接することで工具固定部81が原点位置に位置決めされるようになっている。
【0051】
工具固定部81の原点位置は、位置決ボルト85の螺合操作によって変更することができる。詳細には、図6に示すように、回転入力部20Aと可動ベース39の共通の回転軸J1に対し、原点位置の工具固定部81における工具嵌合孔82Cの中心軸J2は、圧縮コイルバネ87の付勢力が作用する方向に僅かに(図6のδ参照)ずれた配置になっている。また、圧縮コイルバネ87に抗して工具固定部81を側方から押していくと工具嵌合孔82Cの中心軸J2が回転入力部20A及び可動ベース39の回転軸J1と一致してから反対側にずれるようになっている。そして、位置決ボルト85の螺子孔82Nに対するピンの高さを変更することで、回転軸J1に対する工具固定部81の原点位置が変更されて、回転軸J1に対する工具嵌合孔82Cの中心軸J2の位置が変更される。
【0052】
工具嵌合孔82Cには工具90Aのシャフト部92が嵌合され、前面突部82Bを側方から貫通する螺子孔82Dにセット螺子を螺合することで固定される。その工具90Aは、シャフト部92の先端部の側面から側面突部91が突出した構造をなしている。側面突部91は、先端が円錐状又は半球状をなしかつ表面にバリ取り用の凹凸が形成されている。なお、シャフト部92は、先端部が全体より太くなっている。そして、工具90Aは、側面突部91が、圧縮コイルバネ87の付勢力が作用する方向に突出するように配置されている。これにより、側面突部91の先端が、工具90Aのうち可動ベース39の回転軸J1から最も離れた位置に配置されている。
【0053】
本実施形態のバリ取り装置95Aの構成に関する説明は以上である。以下、このバリ取り装置95Aの作用効果について説明する。
【0054】
本実施形態のバリ取り装置95Aは、例えば、NC旋盤の主軸の側方に備えた装置支持部96の装着孔96Aに支持筒部18を挿入されて(図1参照)、支持ヘッド19が装置支持部96の前面に重ねられた状態に固定される。また、装着孔96Aの内部では、バリ取り装置95Aの連結突部27Aと、NC旋盤の図示しない回転駆動部の係合溝とが凹凸係合され、その回転駆動部から回転入力部20Aが回転動力を受けて回転駆動される。すると、回転入力部20Aと共に工具保持部30A及びそれに固定された工具90Aが回転し、その回転に伴ってカム面13Sとカム突部37Tとが摺接することで工具保持部30A及び工具90Aが回転軸方向に往復直線移動する。
【0055】
この状態で、バリ取り装置95Aは、NC旋盤に予めプログラムされた位置及び姿勢に変更されてワークの非加工部分の稜線に沿うように移動されてバリ取りを行う。その際、工具90Aは、回転しながら回転軸方向に往復直線移動するので、工具90Aの先端部をワークの非加工部分の稜線に倣うようにプログラミングするだけで、稜線を跨ぐように工具90Aの側面突部91を移動させながらバリ取りを行うことができ、効率良くバリを除去することができる。また、工具90Aは、フローティング機構81F(図5参照)により回転半径方向に動き得るので、ワークの凹凸形状に応じて回転半径方向に逃げて、ワーク及び工具90Aに過負荷がかかることを防ぐこともできる。
【0056】
なお、このバリ取り装置95Aは、NC旋盤に組み込まずに、例えば駆動源となる減速機付きモータを外付けしておいて、ロボットツールとしてロボットの先端部に取り付けて使用してもよい。
【0057】
以上説明した工具保持装置10Aを主要部とする本実施形態のバリ取り装置95Aによれば、回転入力部20Aから工具保持部30Aに伝わる回転動力の一部が、工具保持部30Aと支持ベース11Aとに備えたカム機構によりスライド動力に変換されるので、1つの駆動源からの動力によって工具90Aの回転と直線移動を実現することができ、2つの駆動源によってそれらを実現していた従来のものに比べてコンパクト化が可能になる。これにより、NC旋盤の装置支持部96やロボットの先端部へのバリ取り装置95Aの装着が容易になると共に、取り回しも容易になる。しかも、工具90Aは、回転中心から離れる側に付勢されて、その付勢力に抗して側面突部91を回転半径方向に移動するので、バリ取り処理中にワーク及び工具90Aに過負荷がかかることを防ぐこともできる。
【0058】
[第2実施形態]
本実施形態は、図7図8とに示されている。前記第1実施形態のバリ取り装置95Aでは、複数のピン22と複数の出力側ピン孔31とを主要部とする連結機構によって工具保持部30Aが回転入力部20Aに一体回転可能かつ直線移動可能に連結されていたが(図2参照)、本実施形態のバリ取り装置95Bは、スプラインシャフト部70S及びスプライン孔部73Sを主要部とする連結機構によって工具保持部30Bが回転入力部20Bに一体回転可能かつ直線移動可能に連結されている点が大きく相違する。以下、その連結機構も含め、本実施形態のバリ取り装置95Bについて第1実施形態のバリ取り装置95Aと異なる構成に関してのみ説明する。
【0059】
図7に示すように、バリ取り装置95Bの工具保持装置10Bにおける工具保持部30Bの可動ベース39Vは、カム突部37Tを有するフランジ38より後方まで延びている。そして、可動ベース39Vの後端面から前端凹部36寄り位置まで中心部に下孔39Zが穿孔されていて、そこに円筒状のボールスプラインナット73が嵌合されている。ボールスプラインナット73は、下孔39Zの内面後端の係合溝39Mに係合したCリングC2により抜け止めされると共に、図示しないキーによって下孔39Z内に回り止めされている。また、ボールスプラインナット73の内面には、ボールスプラインナット73に保持されたボール73B(図8参照)を複数軸方向に並べてなるボール列が複数列備えられて、これにより、ボールスプラインナット73の内側が断面非円形のスプライン孔部73Sになっている。
【0060】
一方、回転入力部20Bの中心部には、前端から中間部までセンター孔29Aが形成されている。そして、センター孔29Aにセンターシャフト70の基端部が嵌合され、センター孔29Aに側方から連通する螺子孔29B内のセット螺子によりセンターシャフト70が回転入力部20Bに固定されている。また、センターシャフト70のうち回転入力部20Bから前方に延びた部分が、スプラインシャフト部70Sになっている。そして、スプラインシャフト部70Sには、軸方向に延びる複数の係合溝70Mが設けられ、そこにスプライン孔部73Sの複数のボール列を係合している。これらにより、工具保持部30Bが回転入力部20Bに一体回転可能かつ直線移動可能に連結されている。
【0061】
図7に示すように、回転入力部20Bの前端寄り位置からは、側方にフランジ29Fが張り出している。そして、回転入力部20Bの先端部の外側に遊嵌された圧縮コイルバネ71が、フランジ29Fと可動ベース39Vの後端面との間で圧縮変形され、工具保持部30Bを前方に付勢している。また、スプラインシャフト部70Sの先端部には、前面に開口する凹部73Aが形成され、そこに収容された圧縮コイルバネ72が、凹部73Aの後端の奥面と下孔39Zの前端の奥面との間で圧縮変形され、この圧縮コイルバネ72も工具保持部30Bを前方に付勢している。
【0062】
なお、本実施形態では、支持ベース11Bの先端カバー13Vが、前記第1実施形態のカムプレート13と先端カバー14とを兼ね、先端カバー13Vの後面にカム面13Sが形成されている。また、支持ベース11Bの支持筒部18における軸方向の中間部分の外面にOリング溝18Mが形成されて、そこにOリング18Nが装着されている。さらに、回転入力部20Bの後端寄り位置には、外部から回転動力を受けるための断面非円形の連結部29Vが備えられている。
【0063】
工具保持装置10Bの工具固定部81に固定される工具90Bは、例えば、シャフト部92の先端部に円盤状の砥石93を備えた構造をなしている。
【0064】
本実施形態の構成に関する説明は以上である。このバリ取り装置95Bによっても、第1実施形態のバリ取り装置95Aと同様の作用効果を奏する。なお、前記第1実施形態及び本実施形態の工具保持装置10A,10Bに、バリ取り以外の用途の工具を取り付けて使用してもよい。
【0065】
[第3実施形態]
図9及び図10に示した本実施形態のバリ取り装置95Cに含まれる工具保持装置10Cは、前記第1実施形態の工具保持装置10Aの一部を変更した構造をなしている。以下、第1実施形態と異なる構成に関してのみ説明する。
【0066】
前記第1実施形態の工具保持装置10Aのカムプレート13は、図3に示すように凹部13A同士のピッチと突部13B同士のピッチとが略同一になって凹部13Aと突部13Bとが交互に配置されていたが、本実施形態のカムプレート13は、図示しないがカム突部37Tの個数の倍数個の突部13Bが周方向に離散配置されて、それら突部13Bの間に扇状の凹部13Aが備えられた構造をなしている。
【0067】
具体的には、3つのカム突部37Tが、可動ベース39Cの回転軸周りに120度の間隔を開けて配置され、カムプレート13には、3つの突部13Bが120度の間隔を開けて配置されるか、6つの突部13Bが支持ベース11Aの中心軸周りに60度の間隔を開けて配置されている。
【0068】
また、図10に示すように可動ベース39Cは、先端部のガイドスリーブ40とそれ以外の可動ベース本体39Hとに分解可能になっている。可動ベース本体39Hの軸方向の中間位置より前側は、先細り状のテーパ部39Tをなしている。また、可動ベース本体39Hの中心部には、先端から軸方向の途中位置に亘って中心孔41が穿孔され、その中心孔41の前端寄り位置から軸方向の途中位置までの間が雌螺部41Aをなし、前端寄り位置から前端迄の間が雌螺部41Aより大径の芯出部41Bになっている。一方、ガイドスリーブ40には、全体が円筒状をなし、後部に雌螺部41Aに螺合する雄螺子部40Nと、芯出部41Bに嵌合する芯出軸部40Bとが備えられている。
【0069】
前記第1実施形態の工具保持部30Aには、工具固定部81が可動ベース39に対して回転半径方向に移動可能なフローティング機構81F(図5参照)が備えられていたのに対し、本実施形態の工具保持部30Cには、工具固定部43が可動ベース39Cに対して前後にスライド可能なフローティング機構43Fが備えられている。
【0070】
具体的には、工具固定部43の軸方向の中間部には、外周面の周方向で180度離れた2箇所に、互いに平行な1対の平坦面43Mが形成されている。また、貫通孔40Cの軸方向の中間部には、内周面の周方向で180度離れた2箇所に、前後方向と直交する方向に延びかつ1対の平坦面43Mに線接触する1対のピン43Eが固定されている。これらにより、工具固定部43がガイドスリーブ40に対して前後にスライド可能かつ回転不能に連結されている。なお、特許第5442057号公報に開示されている構造のように1対の平坦面43Mを捻れた曲面形状にして、工具固定部43のガイドスリーブ40に対する直動に伴って工具固定部43が回転する構造としてもよい。
【0071】
また、フローティング機構43Fには、工具固定部43をスライド可能な範囲の前端と後端との間の原点位置に付勢する圧縮コイルバネ44が含まれている。具体的には、工具固定部43は、後端寄り位置から後側が段付き状に縮径されて小径軸部43Gになっている。また、小径軸部43Gには、第1と第2のスライドスリーブ45A,45Bがスライド可能に嵌合されている。それらのうち前側の第1のスライドスリーブ45Aは、側方に張り出すフランジ部45Fを前端部に備える一方、後側の第2のスライドスリーブ45Bはフランジ部45Fを後端部に備える。そして、圧縮コイルバネ44が1対のフランジ部45Fの間に突っ張り状態に組み付けられている。
【0072】
また、第1のスライドスリーブ45Bの内側は、後端部が段付き状に拡径されている。さらに、小径軸部43Gの後部の中心に形成された螺子孔にボルト43Jが螺合し、そのボルト43Jのヘッド部43Kが、第2のスライドスリーブ45Bの内側段差面に当接している。そして、通常は、第1のスライドスリーブ45Aの前端面が、工具固定部43のうち小径軸部43Gの前端の段差面と、ガイドスリーブ40の後端面とに当接すると共に、第2のスライドスリーブ45Bの後端面が中心孔41内の後端の奥面41Wに当接し、ボルト43Jのヘッド部43Kが奥面41Wから前方に離間した原点位置に工具固定部43が保持される。そして、原点位置から工具固定部43が後方に押されると、ボルト43Jのヘッド部43Kが奥面41Wに当接する位置まで工具固定部43がスライドし、原点位置から工具固定部43が前方に引かれると、第1と第2のスライドスリーブ45A,45Bが互いに当接する位置まで工具固定部43がスライドする。なお、ガイドスリーブ40の前端部の内側には、スクレーパ43Zが組み付けられている。
【0073】
工具固定部43の前端部には、工具90Cを固定するための工具嵌合孔43Lが形成されている。この工具嵌合孔82Cは、軸方向の途中位置より前側が段付き状に拡径された大径部43Tをなし、後側が小径部43Uになっている。大径部43Tには、周方向の1箇所又は対向する2箇所に平坦面43T1が形成され、小径部43Uには、側方から連通する1対の螺子孔43Wが形成されている。そして、後端部が工具嵌合孔43Lに対応した形状を有する工具90Cが工具嵌合孔43Lに嵌合され、その工具90Cの図示しない平坦面と工具嵌合孔43Lの平坦面43T1との当接により工具90Cが工具固定部43に回り止めされ、螺子孔43Wに螺合したセット螺子によって工具90Cが抜け止めされるようになっている。なお、工具90Cには、前述した工具90A,90Bと同様の構造の先端部を備えたものと、それ以外のものとの複数種類が用意されて、任意ものが取り付けられる。本実施形態の工具保持装置10Cではフローティング機構43Fにより工具90Cを回転軸方向に逃がして、ワーク及び工具90Cに過負荷がかかることを防ぐことができる。それ以外にも、本実施形態の構成によっても第1及び第2の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0074】
[第4実施形態]
本実施形態の工具保持装置10Dは、図11に示されている。前記第3実施形態の工具保持装置10Cの工具固定部43が原点位置から前側と後側との両方にスライドするフローティング機構43Fを備えていたのに対し、本実施形態の工具保持装置10Dは工具固定部46が原点位置から前側のみにスライドするフローティング機構46Fを備えている。
【0075】
具体的には、工具固定部46は、前記第3実施形態の工具固定部43に小径軸部43Gに相当する部位を有さず、均一外径で後端部まで延び、後端から側方にフランジ部46Bが張り出した構造をなしている。そして、フランジ部46Bとガイドスリーブ40の後端面との間に圧縮コイルバネ44が突っ張り状態に組み付けられている。この構成により、本実施形態の工具保持装置10Dのフローティング機構46Fでは、工具固定部46が通常状態の原点位置から前側にのみスライドする。
【0076】
[第5実施形態]
本実施形態の工具保持装置10Eは、図12に示されており、工具固定部47が原点位置から後側にのみスライドするフローティング機構47Fを備えている。
【0077】
具体的には、本実施形態の可動ベース39Dは、前記第3実施形態の可動ベース本体39Hとガイドスリーブ40とを一体にした外観形状をなし、中心部に先端から軸方向の途中位置まで延びる中心孔39Yを備える。そして、中心孔39Yの軸方向の途中位置に第3実施形態で説明した1対の平坦面43Mが形成され、それら1対の平坦面43Mに線接触する1対のピン43Eが工具固定部47の軸方向の途中位置に固定されている。
【0078】
工具固定部47の中心部には、後端から後端寄り位置に亘って凹部47Aが形成され、中心孔39Yには、凹部47Aと同一内径の凹部39Xが形成されている。そして、凹部47Aの奥面と凹部39Xの奥面との間に、圧縮コイルバネ44が突っ張り状態に組み付けられている。この構成により、本実施形態の工具保持装置10Eのフローティング機構47Fでは、工具固定部47が通常状態の原点位置から後側にのみスライドする。
【0079】
[第6実施形態]
本実施形態の工具保持装置10Eは、図13に示されており、工具に対する負荷トルクが基準値を超えた場合に、工具固定部48と可動ベース49との間でトルクの伝達を遮断してワーク及び工具に過負荷がかかることを防ぐフローティング機構49Fを備えている。
【0080】
即ち、可動ベース49は、先端部のヘッド部49Bと可動ベース本体49Aとの分割されていて、可動ベース本体49Aの中心部には、前端から前後方向の途中位置に亘って中心孔49Eが形成されている。中心孔49Eは、前後方向の途中に段差面を有して、その段差面より前側が、例えば、断面が正六角形又は正八角形のフランジ係合部49Dをなし、断面円形のスリーブ嵌合部49Cになっている。
【0081】
ヘッド部49Bは、可動ベース本体49Aの前端面に重ねて固定され、中心部に貫通孔49Kを備える。そして、中心孔49Eの前端開口の外縁部を前方から覆っている。また、ヘッド部49Bの前面からは、貫通孔49Kの開口縁から円筒状の筒形突部49Tが突出している。さらに、その筒形突部49Tの基端部の外面には、係合溝49Sが形成されている。そして、筒形突部49Tの外側にエラストマー製のブーツ50が嵌合し、その基端部が係合溝49Sに係合して抜け止めされている。また、ブーツ50は、前方に向かってテーパー状に縮径し、前端部が基端より小径の円筒状をなしている。
【0082】
工具固定部48は、均一外径をなして前後方向の前後方向に延びる円筒状をなし、その外側にブーツ50の先端部が嵌合している。また、工具固定部48の前端部には、前述の工具嵌合孔43Lが備えられ、工具固定部48の後端には、側方に張り出すフランジ部48Fが備えられている。フランジ部48Fは、フランジ係合部49Dと同様に、断面が正六角形又は正八角形をなし、フランジ部48Fの側面は、工具固定部48の中心軸と直交する方向から見ると湾曲している(図示せず)。そして、フランジ部48Fがフランジ係合部49Dに嵌合し、工具固定部48が可動ベース49に対して傾動を許容された状態で一体回転する。
【0083】
中心孔49Eのスリーブ嵌合部49Cの内周面には、円筒状の摺動メタル52が嵌合され、その摺動メタル52の内側には、直動スリーブ51が嵌合している。直動スリーブ51は、前端有底、後端開放の円筒状をなし、摺動メタル52に直線移動可能かつ回転可能に支持されている。また、直動スリーブ51の内側には圧縮コイルバネ44が収容されて、直動スリーブ51を前方に付勢している。これにより、直動スリーブ51の前端の平坦面が、工具固定部48の後端の平坦面に当接し、工具固定部48と可動ベース49との前後方向における1対の対向部に相当するフランジ部48Fとヘッド部49Bとが互いに押し付けられている。また、ヘッド部49Bの後面には、複数の突部49Gが設けられている。また、複数の突部49Gの先端は、図には現れていないヘッド部49Bの径方向と直交する方向から見て丸みを帯びていて、フランジ部48Fの前面48Gに対して点当接又は線当接している。これらにより、工具固定部48が側方から負荷を受けると、可動ベース49に対して工具固定部48が傾動してワーク及び工具に過負荷がかかることを防ぐことができるようになっている。即ち、本実施形態の工具保持装置10Eには、特許第6315565号に開示の構造と同様のフローティング機構49Fを備えて、ワーク及び工具に過負荷がかかることを防いでいる。
【0084】
[他の実施形態]
(1)前記各実施形態の工具保持装置10A~10Fには、工具90Aを回転半径方向に往復移動に支持するフローティング機構43F,46F,47F,49Fが備えられていたが、フローティング機構を備えずに、単に工具を回転させながら回転軸方向に往復移動させる構成としてもよい。
【0085】
(2)上記した第1及び第2の実施形態のカム機構は、カム面13Sにカム突部37Tを押し付けるための付勢手段として圧縮コイルバネ26を備えていたが、その付勢手段は、バネ構造を有しない例えば柱形状又はブロック形状のエラストマーや、圧縮ガスを収容したエアーシリンダ等であってもよい。
【0086】
(3)上記各実施形態のカム機構では、カム面13Sが支持ベース11A,11B側に設けられる一方、カム突部37Tが回転入力部20A,20Bに設けられていたが、その逆であってもよい。カム面13Sには、凹部13Aと突部13Bとが交互に等間隔に設けられていたが、平坦面に複数の凹部13Aだけ又は複数の突部13Bだけが形成されていてもよい。また、それら複数の13A及び複数の突部13Bは、等間隔に配置されていなくてもよい。
【0087】
(4)また、カム機構に付勢手段を備えない構成としてもよい。具体的には、例えば、支持ベース11A及び工具保持部30Aの何れか一方の内周面が外周面に波形状のカム溝を形成して、他方に備えたカムフォロアをそのカム溝に係合させて、圧縮コイルバネ等の付勢手段を備えない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10A~10F 工具保持装置
11A,11B 支持ベース
13S カム面
20A,20B 回転入力部
21 入力側ピン孔
22 ピン
25 入力側バネ受容孔
26 圧縮コイルバネ
30A,30B 工具保持部
31 出力側ピン孔
35 出力側バネ受容孔
36 前端凹部
37T カム突部
39,39C,39V,49 可動ベース
43F,46F,47F,49F フローティング機構
70S スプラインシャフト部
73S スプライン孔部
81 工具固定部
43F,48F,48F,81F
90A,90B,90C 工具
91 側面突部
95A,95B,95C バリ取り装置
H1 回転軸方向
J1 回転軸
図1
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