(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042498
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】風力タービンギアボックスの故障診断のためのディープハイブリッド畳み込みニューラルネットワーク
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20220307BHJP
G06N 3/02 20060101ALI20220307BHJP
G01M 13/021 20190101ALI20220307BHJP
G01R 31/34 20200101ALI20220307BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G06N3/02
G01M13/021
G01R31/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140034
(22)【出願日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】17/010,605
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TENSORFLOW
(71)【出願人】
【識別番号】504407000
【氏名又は名称】パロ アルト リサーチ センター インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ファンチョウ・チェン
【テーマコード(参考)】
2G024
2G116
【Fターム(参考)】
2G024AB01
2G024AD05
2G024AD18
2G024AD23
2G024BA21
2G024BA22
2G024BA27
2G024CA18
2G024DA09
2G024EA11
2G024FA04
2G116BA01
2G116BB02
2G116BB06
2G116BC05
2G116BD06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】風力タービンの故障診断システムを提供する。
【解決手段】動作中、システムは、回転機械を含む物理的物体に関連付けられた電流信号を収集する。システムは、収集した信号を復調して電流包絡線信号を取得し、それにより、基本周波数を排除し、故障関連周波数を保持する。システムは、電流包絡線信号をリサンプリングし、それにより、故障関連周波数を定周波数成分に変換する。システムは、故障増幅畳み込み層によって、リサンプリングした包絡線信号を拡大して故障情報を取得する。システムは、故障情報をディープ畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network、CNN)への入力として提供する。システムは、ディープCNNによって、物理的物体に対する故障診断を含む出力を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
故障診断を容易にするためのコンピュータ実行可能方法であって、前記方法は、
回転機械を含む物理的物体に関連付けられた電流信号を収集することと、
収集した前記信号を復調して電流包絡線信号を取得し、それにより、基本周波数を排除し、故障関連周波数を保持することと、
前記電流包絡線信号をリサンプリングし、それにより、前記故障関連周波数を定周波数成分に変換することと、
故障増幅畳み込み層によって、リサンプリングした前記包絡線信号を拡大して故障情報を取得することと、
前記故障情報をディープ畳み込みニューラルネットワーク(CNN)への入力として提供することと、
前記ディープCNNによって、前記物理的物体に対する前記故障診断を含む出力を生成することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記回転機械は、
風力タービンと、
風力タービンギアボックスと、
回転軸を含む機械と、
1つ以上の回転構成要素、及び電流信号が収集又は取得され得る少なくとも1つの構成要素を含む機械と、のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
収集した前記信号を復調すること、前記電流包絡線信号をリサンプリングすること、リサンプリングした前記包絡線信号を拡大すること、前記故障情報を前記ディープCNNへの入力として提供することは、物理学ベースのモジュールによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
収集した前記信号を復調することは、前記物理学ベースのモジュールの振幅復調モジュールによって実行され、ヒルバート変換に基づいており、
保持した前記故障関連周波数は、非定常の故障関連周波数である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記電流包絡線信号をリサンプリングすることは、前記物理学ベースのモジュールの角リサンプリングモジュールによって実行され、角リサンプリングアルゴリズムに基づいており、
前記角リサンプリングアルゴリズムは、順序追跡方法に基づいており、
リサンプリングした前記包絡線信号は、角度領域において等しい位相増分を有し、それによってスペクトルスミアリングを排除する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記物理学ベースのモジュールは、前記故障増幅畳み込み層を含み、
リサンプリングした前記包絡線信号を拡大することは、
前記故障増幅畳み込み層によって、前記定周波数成分に対応する振幅に基づいてカーネルを構築することと、
前記カーネルと局所入力信号との間の類似性を測定することによって特徴を抽出することと、を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記故障情報を前記ディープCNNへの入力として提供することは、
リサンプリングし、拡大した前記包絡線信号に対して高速フーリエ変換(FFT)分析を実行することを更に含み、
前記ディープCNNに提供した前記故障情報は、所定の周波数範囲の大きさを含み、
前記所定の周波数範囲は、前記回転機械に関連付けられたシステム又はユーザによって構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ディープCNNは、ゼロパディング、バッチ正規化、及び複数の畳み込み層に続く複数のプーリング層に基づいて、前記故障情報を処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ディープCNNは、ソフトマックス関数を使用して、前記回転機械の健康状態に関する条件付き確率を決定することによって、2つの全結合層に更に基づいて前記故障情報を処理し、
前記故障診断は、前記回転機械の前記健康状態に関連する故障分類を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
故障診断を容易にするためのコンピュータシステムであって、前記コンピュータシステムは、
プロセッサと、
前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに方法を実行させる命令を記憶する記憶デバイスと、を含み、前記方法は、
回転機械を含む物理的物体に関連付けられた電流信号を収集することと、
収集した前記信号を復調して電流包絡線信号を取得し、それにより、基本周波数を排除し、故障関連周波数を保持することと、
前記電流包絡線信号をリサンプリングし、それにより、前記故障関連周波数を定周波数成分に変換することと、
故障増幅畳み込み層によって、リサンプリングした前記包絡線信号を拡大して故障情報を取得することと、
前記故障情報をディープ畳み込みニューラルネットワーク(CNN)への入力として提供することと、
前記ディープCNNによって、前記物理的物体に対する前記故障診断を含む出力を生成することと、を含む、コンピュータシステム。
【請求項11】
前記回転機械は、
風力タービンと、
風力タービンギアボックスと、
回転軸を含む機械と、
1つ以上の回転構成要素、及び電流信号が収集又は取得され得る少なくとも1つの構成要素を含む機械と、のうちの1つ以上を含む、請求項10に記載のコンピュータシステム。
【請求項12】
収集した前記信号を復調すること、前記電流包絡線信号をリサンプリングすること、リサンプリングした前記包絡線信号を拡大すること、前記故障情報を前記ディープCNNへの入力として提供することは、物理学ベースのモジュールによって実行される、請求項10に記載のコンピュータシステム。
【請求項13】
収集した前記信号を復調することは、前記物理学ベースのモジュールの振幅復調モジュールによって実行され、ヒルバート変換に基づいており、
保持した前記故障関連周波数は、非定常の故障関連周波数である、請求項12に記載のコンピュータシステム。
【請求項14】
前記電流包絡線信号をリサンプリングすることは、前記物理学ベースのモジュールの角リサンプリングモジュールによって実行され、角リサンプリングアルゴリズムに基づいており、
前記角リサンプリングアルゴリズムは、順序追跡方法に基づいており、
リサンプリングした前記包絡線信号は、角度領域において等しい位相増分を有し、それによってスペクトルスミアリングを排除する、請求項12に記載のコンピュータシステム。
【請求項15】
前記物理学ベースのモジュールは、前記故障増幅畳み込み層を含み、
リサンプリングした前記包絡線信号を拡大することは、
前記故障増幅畳み込み層によって、前記定周波数成分に対応する振幅に基づいてカーネルを構築することと、
前記カーネルと局所入力信号との間の類似性を測定することによって特徴を抽出することと、を更に含む、請求項12に記載のコンピュータシステム。
【請求項16】
前記故障情報を前記ディープCNNへの入力として提供することは、
リサンプリングし、拡大した前記包絡線信号に対して高速フーリエ変換(FFT)分析を実行することを更に含み、
前記ディープCNNに提供した前記故障情報は、所定の周波数範囲の大きさを含み、
前記所定の周波数範囲は、前記回転機械に関連付けられたシステム又はユーザによって構成されている、請求項10に記載のコンピュータシステム。
【請求項17】
前記ディープCNNは、ゼロパディング、バッチ正規化、及び複数の畳み込み層に続く複数のプーリング層に基づいて、前記故障情報を処理する、請求項10に記載のコンピュータシステム。
【請求項18】
前記ディープCNNは、ソフトマックス関数を使用して、前記回転機械の健康状態に関する条件付き確率を決定することによって、2つの全結合層に更に基づいて前記故障情報を処理し、
前記故障診断は、前記回転機械の前記健康状態に関連する故障分類を含む、請求項17に記載のコンピュータシステム。
【請求項19】
ディープハイブリッド畳み込みニューラルネットワーク(DHCNN)であって、
回転機械を含む物理的物体に関連付けられた電流信号を収集するように構成されたデータ収集モジュールと、
物理学ベースのモジュールの故障増幅畳み込み層であって、
前記故障増幅畳み込み層は、収集した前記電流信号に基づいてリサンプリングした包絡線信号を拡大して故障情報を取得するように構成されている、故障増幅畳み込み層と、
前記故障情報をディープ畳み込みニューラルネットワーク(CNN)への入力として提供するように構成された情報提供モジュールと、を含み、
前記DHCNNは、前記物理的物体の前記故障診断を含む出力を生成するように構成されている、ディープハイブリッド畳み込みニューラルネットワーク(DHCNN)。
【請求項20】
振幅復調モジュール、角リサンプリングモジュール、前記故障増幅畳み込み層、及び前記情報提供モジュールを含む前記物理学ベースのモジュールを更に含み、
前記振幅復調モジュールは、収集した前記信号を復調して電流包絡線信号を取得し、それにより、基本周波数を排除し、故障関連周波数を保持するように構成されており、
前記角リサンプリングモジュールは、前記電流包絡線信号をリサンプリングし、それにより、前記故障関連周波数を定周波数成分に変換して、リサンプリングした前記包絡線信号を取得するように構成されている、請求項19に記載のディープハイブリッド畳み込みニューラルネットワーク(DHCNN)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、機械学習及びデータ分類に関する。より具体的には、本開示は、風力タービン及び関連するギアボックスなどの回転機械の故障診断のための、ディープハイブリッド畳み込みニューラルネットワークに関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習アルゴリズムは、広範なクラスの回転システムに適用されてきた。1つの例示的なデータセットは、風力タービンの動作である。回転機械では、製造、エネルギー、及び輸送などの特定の特徴が監視され得る。これらの分野の故障、例えば、回転機械の1つ以上の構成要素に関連する故障は、著しいダウンタイムによる費用の増加、並びに事故及び関連する安全性の問題の増加を招き得る。したがって、回転機械は、問題が発生し始めるときに(例えば、「ソフト故障」)、及び「ハード」故障の前に、それらの問題を予測し得るシステムの恩恵を受け得る。
【0003】
ソフト故障の検出にあたっての1つの問題は、センサデータが収集され得る方法に関する。例えば、回転機械システムでは、データは、第1の位置にあるセンサから取得され得るが、このセンサは、別の場所でシステムに組み込まれた別のセンサから近い距離にある場合も、遠い距離にある場合もある。故障信号は、他の動作特徴部によって不明瞭になるか又はそれらの間に隠れてしまう場合があり、それによって、故障信号の検出が難しくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、様々なセンサからの関連する故障信号を検出及び分析することを含む、ソフト故障の効率的な検出は、回転機械システム、例えば、風力タービンの故障診断のための機械傾斜の分野に課題を残している。
【0005】
一実施形態は、故障診断を容易にするためのシステムを提供する。動作中、システムは、回転機械を含む物理的物体に関連付けられた電流信号を収集する。システムは、収集した信号を復調して電流包絡線信号を取得し、それにより、基本周波数を排除し、故障関連周波数を保持する。システムは、電流包絡線信号をリサンプリングし、それにより、故障関連周波数を定周波数成分に変換する。システムは、故障増幅畳み込み層によって、リサンプリングした包絡線信号を拡大して故障情報を取得する。システムは、故障情報をディープ畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network、CNN)への入力として提供する。システムは、ディープCNNによって、物理的物体に対する故障診断を含む出力を生成する。
【0006】
いくつかの実施形態では、回転機械は、風力タービンと、風力タービンギアボックスと、回転軸を含む機械と、1つ以上の回転構成要素、及び電流信号が収集又は取得され得る少なくとも1つの構成要素を含む機械と、のうちの1つ以上を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、収集した信号を復調することと、電流包絡線信号をリサンプリングすること、リサンプリングした包絡線信号を拡大すること、故障情報をディープCNNへの入力として提供すること、は、物理学ベースのモジュールによって実行される。
【0008】
いくつかの実施形態では、収集した信号を復調することは、物理学ベースのモジュールの振幅復調モジュールによって実行され、ヒルバート変換に基づくものである。保持された故障関連周波数は、非定常の故障関連周波数である。
【0009】
いくつかの実施形態では、電流包絡線信号をリサンプリングすることは、物理学ベースのモジュールの角リサンプリングモジュールによって実行され、角リサンプリングアルゴリズムに基づくものである。角リサンプリングアルゴリズムは、順序追跡方法に基づいており、リサンプリングした包絡線信号は、角度領域において等しい位相増分を有し、それによってスペクトルスミアリングを排除する。
【0010】
いくつかの実施形態では、物理学ベースのモジュールは、故障増幅畳み込み層を含む。リサンプリングした包絡線信号を拡大することは、故障増幅畳み込み層によって、定周波数成分に対応する振幅に基づいてカーネルを構築することと、カーネルと局所入力信号との間の類似性を測定することによって特徴を抽出することと、を更に含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、システムは、拡大した、リサンプリングした包絡線信号に対して高速フーリエ変換(fast Fourier Transform、FFT)分析を実行することによって、故障情報をディープCNNへの入力として提供する。ディープCNNに提供した故障情報は、所定の周波数範囲の大きさを含む。所定の周波数範囲は、回転機械に関連付けられたシステム又はユーザによって構成される。
【0012】
いくつかの実施形態では、ディープCNNは、ゼロパディング、バッチ正規化、及び複数の畳み込み層に続く複数のプーリング層に基づいて、故障情報を処理する。
【0013】
いくつかの実施形態では、ディープCNNは、ソフトマックス関数を使用して、回転機械の健康状態に関する条件付き確率を決定することによって、2つの全結合層に更に基づいて故障情報を処理する。故障診断は、回転機械の健康状態に関連する故障分類を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による、故障診断を容易にするための例示的な環境を示す。
【0015】
【
図2】
図2は、本出願の一実施形態による、ディープハイブリッド畳み込みニューラルネットワーク(DHCNN)及び物理学ベースのモジュールの例示的なアーキテクチャを示す。
【0016】
【
図3A】
図3Aは、本出願の一実施形態による、物理学ベースのモジュールを使用するための例示的な環境を示す。
【0017】
【
図3B】
図3Bは、本出願の一実施形態による、物理学ベースのモジュールを使用するための例示的な環境を示す。
【0018】
【
図4】
図4は、本出願の一実施形態による、2歯欠損(two teeth missing、TTM)故障及びその高速フーリエ変換(FFT)スペクトルを有する、1秒間の拡張データサンプルの図を示す。
【0019】
【
図5A】
図5Aは、本出願の一実施形態による、物理学ベースのモジュール内の故障増幅畳み込み層を使用した結果を含む、例示的なDHCNNで使用されるパラメータの要約を伴う表を示す。
【0020】
【
図5B】
図5Bは、本出願の一実施形態による、4つの異なる方法の精度及び標準偏差の比較を伴う表を示す。
【0021】
【
図5C】
図5Cは、本出願の一実施形態による、
図5Bに列挙された方法のうちのいくつかに関する例示的な精度曲線を有するプロットを示す。
【0022】
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態による、故障診断を容易にするための方法を例示するフロー図を示す。
【0023】
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態による、故障診断を容易にする例示的なコンピュータ及び通信システムを示す。
【0024】
図面中、同じ参照番号は、同じ図形要素を指す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の説明は、当業者が本発明を製造及び使用することを可能にするために提示され、特定の用途及びその要件に関連して提供される。開示される実施形態に対する様々な修正は、当業者には容易に明らかとなり、本明細書に定義される一般原理は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、他の実施形態及び用途に適用され得る。したがって、本発明は、示される実施形態に限定されるものではなく、本明細書に開示される原理及び特徴と一致する最も広い範囲を与えられるものである。
大まかな概要
【0026】
本明細書に記載される実施形態は、ディープハイブリッド畳み込みニューラルネットワークを使用して、回転機械システムの故障診断の精度及び堅牢性を改善するためのシステムを提供する。
【0027】
上述のように、回転機械の1つ以上の構成要素に関連する故障は、著しいダウンタイムによる費用の増加、並びに事故及び関連する安全性の問題の増加を招き得る。したがって、回転機械は、問題が発生し始めるとき(例えば、「ソフト故障」)、及び「ハード」障害の前に、それらの問題を予測し得るシステムの恩恵を受け得る。ソフト故障の検出にあたっての1つの問題は、センサデータが収集され得る方法に関する。例えば、回転機械システムでは、データは、第1の位置にあるセンサから取得され得るが、このセンサは、別の場所でシステムに組み込まれた別のセンサから近い距離にある場合も、遠い距離にある場合もある。故障信号は、他の動作特徴部によって不明瞭になるか又はそれらの間に隠れてしまう場合があり、それによって、故障信号の検出が難しくなる。
【0028】
したがって、様々なセンサからの関連する故障信号を検出及び分析することを含む、ソフト故障の効率的な検出は、回転機械システム、例えば、風力タービンの故障診断のための機械傾斜の分野に課題を残している。
【0029】
本明細書に記載される実施形態は、振幅復調、角リサンプリング、及び故障増幅を提供して故障情報を取得する物理学ベースのモジュールと、物理学ベースのモジュールからの故障情報を組み込み、故障診断のためのより包括的な特徴を捕捉する、ディープ畳み込みニューラルネットワーク(CNN)と、の2つのモジュールを備えるシステムを提供することによって、これらの課題に対処する。本明細書に記載される実施形態は、例示的な回転機械として風力タービン(具体的には、風力タービン及び全体回転機械システムに関連付けられたギアボックス)を指すが、実施形態は、任意の回転機械システム及び関連する構成要素に適用することができ、風力タービン、風力タービンギアボックス、又は風力タービンに関連付けられた任意の構成要素若しくはシステムに限定されるものではない。
【0030】
維持管理費は、風力タービンによって生成される均等化発電原価(levelized cost of electricity、LCOE)のかなりの部分に寄与し得る。例えば、点検整備費は、陸上風力タービンのLCOEの10~15%を占める場合があり、洋上風力タービンのLCOEの最大40%を占める場合がある。風力タービンにおける1つの必須構成要素は、ギアボックスである。ギアボックスに関連付けられた故障は、風力タービンの著しいダウンタイム及び財務損失を招き得る。したがって、風力タービンシステム、及びギアボックスなどの構成要素の有効かつ効率的な故障診断は、システムの利用可能性、安全性、及び信頼性の改善を実現することができ、また、ダウンタイム及び整備費を低減することができる。
【0031】
風力タービンギアボックスの故障診断のための1つの技術は、発電機の電流信号を使用するものである。これらの「電流ベースの」技術は、広く使用されている振動ベースの技術よりもいくつかの利点を提供し得る。第1に、風力タービン制御システムにおいて電流信号は既に使用されているため、追加のセンサ又はデータ収集装置を設置する必要はない。これにより、電流ベースの方法を実装する費用及び複雑さが低減され得る。第2に、電流ベースの故障診断方法は、問題が発生したときに適切な警報を自動的にトリガするために、監視制御及びデータ収集システム又は制御システムに潜在的に統合され得る。この特徴は、特に遠隔地又は立ち入りできない場所における無人の風力タービン運転に不可欠であり得る。第3に、電流信号は、一般に、振動信号と比較して環境騒音及びセンサの場所の影響を受けにくい。電流信号は、タワーの底部に記録することができ、容易にアクセス可能であり、風力タービンの邪魔にならない。
【0032】
電流ベースの技術は、風力タービンギアボックスの故障診断を提供し得るが、電流信号からギアボックス故障診断に有用な故障特徴を抽出するためにいくつかの課題を残している。第1に、電流信号は、基本成分及び故障関連成分を含み得る。故障関連成分は基本成分で変調され、基本成分は、支配的成分であり、典型的に故障関連成分よりはるかに大きい。「信号対雑音比」(SNR)を説明するとき、「信号」は、故障関連成分に対応し得る一方、「雑音」は、基本成分を含む他の成分に対応し得る。電流信号は一般に、非常に低い信号対雑音比(SNR)を有し、特に純粋なデータ駆動方法について、故障特徴を抽出することを困難にし得る。
【0033】
更に、風力タービンの様々な軸回転速度により、ギアボックスの状態監視システムから収集された信号は、通常は非定常である。このようにして、故障関連情報(すなわち、故障特性周波数)は、多くの場合、収集された信号において経時的に変化する。したがって、先進的な信号処理アルゴリズムは、有用な故障特徴を識別し、抽出するために必要とされ得る。
【0034】
収集されたセンサ信号から故障特徴が識別され、抽出された後、ギアボックスに関連付けられた故障を検出及び分類するために、サポートベクターマシン(SVM)及び人工ニューラルネットワーク(ANN)などの機械学習技術が適用され得る。深層学習アルゴリズムは、異なる故障診断用途に使用されてもよく、複数の非線形演算及び特殊演算を通じて入力の高次特徴を適応的に学習するように訓練され得る。この結果、従来の機械学習アルゴリズムの固有な欠点のいくつかが軽減され得る。
【0035】
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は、最も強力な深層学習アルゴリズムのうちの1つであり、故障診断目的で採用され得る。いくつかの従来のCNNは、データを直接処理するため、かつ一次元(1-D)センサデータの分析を容易にするため、1-D構造として設計される。例えば、いくつかの従来のCNNは、入力として生電流データを利用することができ、1-D CNNを使用して、リアルタイムのモータ故障検出のために特徴抽出及び分類を統合し得る。他の従来のCNNは、ギアボックスの状態監視のために、振動信号の周波数スペクトルから直接、特徴を学習し得る。
【0036】
しかしながら、従来のCNNは、故障診断用途において進歩を遂げたが、既存のCNN及び関連する方法は、依然として特定の課題に直面している。1つの課題は、従来のCNNのほとんどが、CNN構造の設計において物理的知識を考慮しない純粋なデータ駆動フレームワークを使用することである。これは、特に、データが非常に低いSNRを有するシナリオ、例えば、風力タービンにおける電流信号において、重要な故障情報の損失を招き得る。別の課題は、CNN構造が、望ましい故障診断結果を取得するために不可欠であるということである。画像認識とは異なり、CNNのハイパーパラメータは、入力信号及び特徴の特性に基づいて注意深く調整されるべきである。これは、故障診断用途のより正確かつ堅牢な診断結果を得るために重要であり得る。
【0037】
本明細書に記載される実施形態は、電流信号を使用した風力タービンギアボックスの故障診断のためのディープハイブリッド畳み込みニューラルネットワーク(DHCNN)を含むシステムを提供することによって、これらの課題に対処する。電流信号は、3相固定子及び回転子電流を含み得る。システムは、2つのモジュールを含む。第1のモジュールは、(例えば、ヒルバート変換を介した)振幅復調、角リサンプリング、及び故障増幅を提供して故障情報を取得する物理学ベースのモジュールである。第2のモジュールは、物理学ベースのモジュールからの故障情報を組み込み、故障診断のためのより包括的な特徴を捕捉する、ディープ畳み込みニューラルネットワーク(CNN)である。
【0038】
物理学ベースのモジュールは、電流信号のSNRの改善をもたらし得、物理的観点からより多くの故障情報を更に提供し得る。物理学ベースのモジュールの振幅復調部分では、システムは、ヒルバート変換を使用して収集された電流信号を復調して、その「電流包絡線信号」又は「包絡線」を取得し得る。これにより、非定常の故障関連周波数を保持しながら、支配的な基本周波数を排除し得る。
【0039】
システムは、物理学ベースのモジュールを介して、角リサンプリングアルゴリズムを使用して電流包絡線信号をリサンプリングして、非定常の故障関連成分を「リサンプリングした包絡線信号」内の定周波数成分に変換し得る。その後、システムは、物理学ベースのモジュールの故障増幅部分を介して、リサンプリングした包絡線信号を拡大又は増幅し得る。故障増幅部分は、畳み込み層であり得、カーネルを構築し得る。故障特性周波数は、カーネルサイズ及びフィルタの数を決定することができ、関連情報を決定するために訓練し、最適化する必要性を排除する。これはまた、学習プロセスにおける計算費を低減し得る。このようにして、システムは基本回転周波数を抑制し、続いて、故障の特徴が概して埋もれる可能性がある、より高い高調波を増幅し得る。
【0040】
第2のモジュールは、ディープCNNモジュールである。システムは、6つの畳み込み信号の高速フーリエ変換(FFT)をそれぞれ計算することができ、故障診断のために、FFTスペクトルをディープ1-D CNNとして並列に供給し得る。システム全体は、物理学ベースのモジュール及びディープCNNモジュールの両方を含むことができ、ディープハイブリッドCNN(DHCNN)と称され得る。DHCNNは、風力タービンのより豊富なデータ及び堅牢な健康状態を捕捉するために、特徴レベルのセンサデータ融合概念を利用し得る。DHCNNの有効な訓練のために、ハイパーパラメータを十分に調整することができ、バッチ正規化を採用することができる。記載される実施形態の有効性及び優位性は、二重給電誘導発電機(doubly-fed induction generator、DFIG)ベースの風力タービンドライブトレーンテストベッドにおいて様々なギアボックスの故障によって検証され得る。
故障特性周波数、振幅復調、角リサンプリング、及び標準CNNの背景
--電流信号における故障特性周波数
【0041】
ギアボックス内の機械的故障は、ギアボックスと発電機との間の電気機械的連結に基づいて、電流信号で識別され得る。ギアの故障関連周波数、すなわち、軸回転周波数における振動は、電流信号を変調し得る。二重給電誘導発電機(DFIG)システムでは、電力電子インターフェースは、変化する風で最大エネルギーを捕捉するのに必要な可変速度を得るために、回転子電流を制御し得る。DFIG電流について、1相固定子/回転子電流においては、故障特性周波数成分はf±fi(i=1、2、3...)で存在し、fは電流信号の基本周波数であり、fiは、ギア故障の振動特性周波数である。DFIGベースの風力タービンのギアボックスでは、fiは軸回転周波数frに比例し、動作モードに応じて、固定子電流のfは60Hzで一定であり、回転子電流のfは(60±fr)Hzに等しい。DFIGベースの風力タービンの動作中、f±fiにおける振幅は、健康な状態で観察されるレベル又は振幅とは異なることが観察され得る。これは、ギアボックス内でギアの故障が発生している可能性があり、周波数fiで追加の振動を誘発し得ることを示めしている場合がある。このようにして、これらの周波数振幅は、ギアの故障診断に有効な故障特徴として使用され得る。
【0042】
しかしながら、そのような故障特性周波数成分の振幅は、一般に、電流信号における基本周波数よりもはるかに小さく、低いSNRをもたらし得る。このようにして、故障関連成分のSNRを改善するという課題が残る。更に、風力タービンは、風速及び方向の変動に起因して、時変軸回転周波数で動作するため、電流中の故障特性周波数は、一定でもfrに比例するものではない。これは別の課題であり、より良好な故障特徴抽出のために更なる信号処理が必要とされ得ることも示している。
--振幅復調
【0043】
基本周波数を排除し、SNRを増加させるために、記載される実施形態は、振幅復調を使用して電流信号の包絡線信号e(t)を抽出し得る。振幅復調には、ヒルバート変換が使用され得、ヒルバート変換は、時間領域における90度移相に対応し得る。H[i
a(t)]によって示される、1相電流信号(例えば、i
a(t))のヒルバート変換は、以下のような積分変換によって定義することができる。
【数1】
包絡線信号e(t)は、以下のように定義することができる。
【数2】
包絡線信号e(t)は、基本周波数成分を排除する一方で、依然としてf
rに比例する故障振動特性周波数f
iを保持し得る。
--角リサンプリング
【0044】
角リサンプリングは、可変軸速度条件で動作する風力タービンからの信号のスペクトルスミアリングの問題を解決することができる技術である。角リサンプリングの一般的な考え方は、固定サンプリングレート信号を、位相領域内の固定位相間隔を有する信号にリサンプリングすることである。角リサンプリングは、時間周波数領域の分析方法よりも周波数領域において相対的に高い解像度を有し、したがって、周波数領域の故障特徴を抽出するのにより効果的であり得る。振幅復調後に取得した包絡線信号e(t)の角リサンプリングを得るために、順序追跡ベースの方法を使用することができる。取得し、リサンプリングした包絡線信号e’(t)は、角度領域において等しい位相増分を有し得、したがって、スペクトルスミアリングの問題を有さなくなる。このようにして、特徴抽出のためにリサンプリングした信号に対して、従来のスペクトル分析を行うことができる。
--標準CNNのアーキテクチャ
【0045】
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は、多段階のフィードフォーワードニューラルネットワークであり、典型的には、複数の畳み込み層、プーリング層、及び全結合層からなる。これらの層を使用して、特徴の学習及び分類のタスクが果たされ得る。本明細書に記載される実施形態は、CNNの入力が1-D電流信号であるため、1-D CNNに焦点を合わせる。
【0046】
畳み込み層は、入力1-Dベクトルを1組のカーネルwl∈RJxHxIとして畳み込むことができ、続いて、活性化演算を実行して出力特徴を生成することができ、ここで、Jはカーネルの数であり、Hはそれぞれのカーネルの固定長であり、Iはカーネル内のチャネルの数(深さ)である。カーネルを使用して、入力の局所領域内の局所的特徴が抽出され得る。
【0047】
出力特徴ベクトル
【数3】
は、以下のように表現され得る。
【数4】
式中、σ(・)は、シグモイド及び正規化線形ユニット(Rectified Linear Unit、ReLU)などの活性化関数であり、
【数5】
は、l番目の層内のi番目の特徴チャネルであり、
【数6】
は、Hの長さを有するカーネルであり、
【数7】
は層内のバイアスベクトルであり、ここで、j=1、2、...、J及びi=1、2、...、Iである。畳み込み層内の訓練可能パラメータは、カーネルの重量
【数8】
であり、ハイパーパラメータはH及びIである。
【0048】
プーリング層は、通常、CNNアーキテクチャ内で畳み込み層の後に積層され得る。プーリング層は、特徴のサイズ及びCNNのパラメータを低減するダウンサンプリング演算として機能することができ、ゆえに訓練時間及びメモリ要件を減少させることができ、オーバーフィッティングを更に制御することができる。一般に使用される1つのプーリング関数は、入力特徴の局所領域の最大値を抽出する「最大プーリング」である。
【0049】
全結合層は、CNN構造内の最後の数層である。全結合層は、以前の層から学習した特徴を平坦化することができ、分類目的に使用され得る。
物理学ベースのモジュールを有するDHCNNの概要
【0050】
本明細書に記載される実施形態は、上述のように、故障診断のための既存の深層学習アーキテクチャを上回る改善を提供する。記載される実施形態は、物理学ベースのモジュール及びディープCNNモジュールの2つのモジュールを有するDHCNNを含むシステムを提供する。このシステムは、風力タービン発電機端子から3相固定子及び回転子電流信号を収集する。システムは、より良好な診断結果を得るために、物理ベースのモジュールを介して収集した信号を処理して、SNRを向上させる。具体的には、システムは、ヒルバート変換ベースの振幅復調アルゴリズムを使用して、電流基本周波数を排除し、包絡線信号を抽出し得る。次に、システムは、角リサンプリング方法を使用して、時間領域内の非定常包絡線信号を角度領域内の定常信号に変換し得る。続いて、システムは、ギアボックスの故障の振動特性周波数fiに基づいた故障増幅畳み込み層を使用して、特徴抽出のためにSNRを増加させ得る。最後に、システムは、故障増幅畳み込み層における入力信号間の潜在的な時間遅延及び異なるカーネルサイズのため、FFT分析を実行して時間領域から周波数領域に信号を変換し得る。これはまた、ディープCNNモジュールへの入力サイズを著しく低減し得る。FFTスペクトルは、複数の畳み込み層、バッチ正規化、最大プーリング層、及び全結合層を含むディープCNNモジュールに提供され得るか又はディープCNNモジュールへの入力として使用され得る。
--物理学ベースのモジュールの詳細な概要
【0051】
システムが振幅復調及び角リサンプリングを実行した後、取得した、リサンプリングした包絡線信号e’(t)は定常信号であり、特性周波数f
iは、e’(t)の周波数領域スペクトルにおいて一定値
【数9】
に変換される。これらの周波数における振幅を使用して、故障増幅畳み込み層(「Conv0」)内にカーネルが構築され得る。
【0052】
この畳み込み層は、カーネルと局所入力信号との間の類似性を測定することによって、特徴を抽出することを目的とする。このようにして、故障診断用途のカーネルは、故障特性周波数における入力信号の大きさが大きいかどうかを識別するのに役立つはずである。CNNの畳み込み層内の十分に訓練されたカーネルは、単一又は複数の特性周波数を有する1組のフィルタであり得ることが知られている。このようにして、記載される実施形態では、物理学ベースの畳み込み層Conv0を、一定の故障周波数
【数10】
を含むように設計することができ、故障の発生時にそれらの大きさを増大させることができるべきである。
【0053】
ギアボックスの故障が、n
fに等しい故障特性周波数を有すると仮定する。次いで、n
fカーネルは、それぞれのカーネルが一定の故障特性周波数
【数11】
を有する1つの正弦波の4つの連続する周期を含むように設計される。時間領域における2つの信号の畳み込み演算は、周波数での乗算に対応し得る。
【0054】
信号e’(t)のフーリエ変換及びConv0におけるカーネル
C0(t)は、それぞれE’(jω)及びC
0(jω)であるとする。
【数12】
式中、Fはフーリエ変換演算である。システムは、故障周波数を増幅するように設計されたカーネルと共に畳み込むことによってフーリエ変換を使用し得る。すなわち、フーリエ変換領域は、例えば、Y(jω)を増幅するためのカーネル関数の設計に見られるように、乗数となり得る。このようにして、故障特性周波数の大きさは、層Conv0の後に増幅され得、その結果、システムは信号のSNRを改善し得る。
【0055】
異なる故障に対する
【数13】
は、典型的には数Hz~数百Hzで変化し得るため、Conv0内のカーネルの長さは、大幅に変化し得る。システムは、Conv0の後にFFT分析を行うことができ、CNNへの入力として、FFTスペクトルにおける選択された周波数範囲の大きさのみを使用し得る。
--ディープCNNモジュールの概要
【0056】
図2のDHCNNの全体構造に示されるように、物理学ベースのモジュールの出力は、ディープCNNモジュールに供給される前処理された信号のFFTスペクトルである。CNNモジュールは、チャネル数を増やしながら入力テンソルの次元を徐々に減らしていく、4つのブロックの畳み込み層、バッチ正規化、及び最大プーリング層を含み得る。その後、DHCNNは、故障診断のために平坦化及び2つの全結合層を適用し得る。
【0057】
第1のブロックは、DHCNNモジュール内に設計された構造を導入するための例として説明される。畳み込み層(「Conv1」)では、システムは、ゼロパディングを使用して、畳み込み演算後に入力サイズを一定に保ち得る。ReLUは、逆伝搬学習方法を使用して訓練プロセスの収束を加速し得るため、活性化関数オメガとして選択され得る。システムは、畳み込み関数と活性化関数との間のConv1にバッチ正規化を追加して、CNNの内部共分散シフトを低減し、訓練プロセスを加速化し得る。システムは、Conv1の後に最大プーリング(「Pool1」)層を積層し得、それにより、隣接点の最大値を決定し得、出力寸法を更に低減し得る。
【0058】
DHCNNでは、故障分類段階は、前の層から学習された平坦な故障特徴をとることによって、2つの全結合層から構成され得る。システムは、例えば、j番目のギアボックスの健康状態に対する条件付き確率O
jを決定するために、ソフトマックス関数を使用し得る。
【数14】
式中、nは異なる健康状態の数であり、θは層内で学習される必要のあるパラメータであり、
【数15】
である。最大O
jを有する故障タイプは、診断結果として決定又は識別され得る。
【0059】
訓練段階では、損失関数は、推定されたソフトマックス出力確率分布と実際のクラスとの間の多クラス交差エントロピー(categorical cross-entropy)として定義され得る。システムは、Adam確率的最適化アルゴリズムを適用して、損失関数を最小化し得る。
-故障診断を容易にするための例示的な環境の詳細な説明
【0060】
図1は、本発明の一実施形態による、故障診断を容易にするための例示的な環境100を示す。環境100は、デバイス102、関連するユーザ122、及び関連するディスプレイ103と、デバイス104及び関連するユーザ124と、デバイス106と、を含み得る。デバイス102は、クライアントコンピューティングデバイス、例えば、ラップトップコンピュータ、携帯電話、スマートフォン、タブレット、デスクトップコンピュータ、及びハンドヘルドデバイスであり得る。加えて、デバイス102、104、及び106は、例えば、コンピューティングデバイス、サーバ、ネットワークエンティティ、及び通信デバイスであり得る。デバイス102、104、及び106は、ネットワーク120を介して互いに通信することができる。環境100はまた、回転し、電流又は信号を生成する構成要素を有する物理的物体を含み得る。例えば、物理的物体は、複数のセンサ110.1~110.nを有するブレード110など、複数のブレードを有する風力タービン108であり得る。それぞれのセンサは、データを記録し、別のデバイスに送信し得る。風力タービン108は、ギアボックス112及び電流センサ114を含み得、電流センサ114は、(
図3A及び
図3Bに関して後述するように)ギアボックス112に関連付けられた二重給電誘導発電機(DFIG)又は巻線形誘導発電機(wound rotor induction generator、WRIG)によって生成される3相固定子及び回転子電流などの、生成された信号を検出し得る。
【0061】
動作中、デバイス104は、ネットワーク120を介して、訓練データ140をデバイス106に送信し得る。デバイス106は、訓練データ140を(訓練データ142として)受信し、訓練データ142に基づいて(ネットワークの訓練144動作を介して)ディープCNNを訓練し得る。訓練データ140は、デバイス104又は別のデバイス(図示せず)からデバイス106に周期的間隔で、又はデバイス(例えば、102、106、又は別のデバイス)からのコマンドに応答して送信され得る。その後、デバイス102は、ユーザ122を介して故障診断コマンド150をデバイス106に送信し得る。ここで、コマンド150は、風力タービン108(又は具体的には風力タービン108のギアボックス112内の構成要素)などの物理的物体、物理的構成要素、又は物理的システムに関連する故障特性情報の要求である。
【0062】
デバイス106は、故障診断コマンド150を(故障診断コマンド152として)受信し、時系列データの入手154動作を実行して、デバイス104宛てに時系列データの入手156メッセージを生成し得る。デバイス104は、時系列データの入手156メッセージを(時系列データの入手158メッセージとして)受信し得る。電流センサ114は、デバイス104からの要求(図示せず)に基づいて、時系列データ160をデバイス104に送信し得る。電流センサ114はまた、第1の所定の閾値に基づいて周期的間隔で、又は第2の所定の閾値に基づいて連続的に、時系列データ160をデバイス104に送信し得る。デバイス104は、時系列データ160を(時系列データ162として)デバイス106に返送し得る。
【0063】
デバイス106は、時系列データ162を(時系列データ164として)受信し得、その後、以下の動作を実行し得る。デバイス106は、包絡線信号の取得166動作を実行して、例えば、収集した時系列データ164(「信号」)を復調して、基本周波数を排除し、非定常の故障関連周波数を保持し得る。デバイス106は、例えば、非定常の故障関連成分を定周波数成分に変換するために、包絡線信号のリサンプリング168動作を実行し得る。デバイス106は、例えば、故障増幅畳み込み層が故障を増幅し、定周波数における振幅に基づいてカーネルを構築する、リサンプリングした包絡線信号のSNRの拡大170動作を実行し得る。装置106は、FFTスペクトルの計算172動作を実行し、続いて、障害診断を取得するためのDHCNNへのFFTスペクトルの入力174動作を実行し得る。デバイス106は、故障診断176をデバイス102に返し得る。
【0064】
デバイス102は、故障診断176を(故障診断178として)受信し得、故障特性に関連する情報をディスプレイ103に表示させ得る。例示的なディスプレイ情報としては、物理的物体(風力タービン108)に関連する情報、ギアボックス112の特定の設計又は構成要素アーキテクチャ、時系列データ160、FFTスペクトル172、分類又は故障タイプ、故障タイプを示す他の情報、及び示された故障タイプに関連付けられた1つ以上の構成要素が挙げられ得る。
【0065】
本明細書に記載される実施形態では、DHCNNの出力は故障診断であり、故障の有無の識別だけではなく、故障が存在する場合は、故障のタイプも含み得る。すなわち、システムは、
図2の故障タイプ248及び
図3Bの故障タイプ370に関して上に示したように、検出された故障のタイプの分類を提供し得る。故障診断は、
図1の故障診断178及びディスプレイ103に関して上述したように、要求側ユーザに返され、要求側ユーザに関連付けられた表示画面上に様々な情報の形態で表示され得る。風力タービンの例示的な回転機械システムでは、故障診断は、「関心のあるエンティティ」(単数又は複数)とも称され得る、物理資産又は回転機械システム(例えば、風力タービン)に関する情報に関心を持ち得る又はその情報を必要とし得る任意の他の人又は人の集まりによって使用され得る。
【0066】
例えば、整備技術者は、特定の故障を有する特定のギア(例えば、2歯欠損(TTM)故障を有するギア2)を分類する故障診断を使用して、特定のギア又は特定のギアに関連する1組のギアを交換することができる。別の関心のあるエンティティとしては、工場全体及びその構成要素に関する問題により効率的に対処するために高いレベルで故障診断を使用し得る、工場所有者が挙げられ得る。他の関心のあるエンティティとしては、エネルギーを取得するための他の必要性を計画するために(例えば、特定の故障診断又は1組の故障診断が、予測される電力量を提供するために風力タービンの能力に影響を及ぼす場合)、故障診断又は1組の故障診断を使用し得る、パワーグリッドオペレータが挙げられ得る。別の関心のあるエンティティとしては、風力タービンを含むシステムに関連付けられた製造リード又はユーザが挙げられ得る。このエンティティは、オフピーク生産サイクル中の整備を計画するため、例えば、生産が回転機械に依存しないように又は依存しない場合に生産のタイミングを計画するために、故障診断を使用し得る。
【0067】
システムによる故障診断出力は、上に列挙した例示的な関心のあるエンティティのうちのいずれかのために、操作ダッシュボード又は他のグラフィカルユーザインターフェース(GUI)に供給され得る。それぞれの関心のあるエンティティは、故障を診断するためにコマンド(例えば、
図1のコマンド150)を生成して送信するユーザ(
図1のユーザ122など)であり得る。システムは、ユーザに関連付けられた表示画面(例えば、
図1のディスプレイ103)上に故障診断の識別、分類、及び他の関連情報を表示し得る(「検出された故障」)。検出された故障の故障診断出力に基づいて、ユーザは、診断又は検出された故障に対処するために是正措置を実行することができる。ユーザは、その後、(例えば、ウィジェット又は他の実行可能なボタン若しくはウィジェットを押すことによって)操作ダッシュボード又はGUIを使用して、実行した是正措置が検出された故障に十分に対処したかどうかを判定するために、故障を診断するための別のコマンドを生成することができる。このようにして、記載されている実施形態は、DHCNNを、故障増幅層を含む物理学ベースのモジュールと共に使用することによって、回転機械システム(風力タービン及び関連するギアボックス内など)における故障の分類の改善を提供する。
【0068】
図2は、本出願の一実施形態による、DHCNN及び物理学ベースのモジュールの例示的なアーキテクチャ200を示す。アーキテクチャ200は、データ収集モジュール210と、物理学ベースのモジュール220と、ディープCNNモジュール240と、を含み得る。動作中、データ収集モジュール210は、物理的物体(例えば、風力タービン212又は風力タービン212に関連付けられた信号生成構成要素)から生成されるような電流信号214を監視、観察、及び検出することによって、時系列データを取得し得る。電流信号214は、時系列データとして表され得る。データ取得モジュール210は、電流信号214を時系列データとして(通信250を介して)物理学ベースのモジュール220に送信し得る。
【0069】
物理学ベースのモジュール220は、振幅復調モジュール222を介して、電流信号214を時系列データとして受信し得る。振幅復調モジュール222は、収集した電流信号を復調して電流包絡線信号を取得し得、それにより、基本周波数を排除し、非定常の故障関連周波数を保持し得る。次に、角リサンプリングモジュール224は、角リサンプリングアルゴリズムに基づいて、電流包絡線信号をリサンプリングして、非定常の故障関連成分を定周波数成分に変換し得る。続いて、故障増幅畳み込み層226(本開示において「Conv0」として示される)は、定周波数の振幅に基づいて、リサンプリングした包絡線信号を拡大し、カーネルを構築し得る。FFTスペクトル228モジュールは、拡大又は増幅した包絡線信号のFFT分析を実施し得、ディープCNNモジュール240への入力として、選択された周波数範囲の大きさを有するFFTスペクトルのみを提供し得る。
【0070】
FFTスペクトル228モジュールの出力は、通信252を介してディープCNNモジュール240に送信され得る。このFFTスペクトルは、通信254を介して、ディープCNNモジュール240の畳み込み/バッチ正規化/プーリング層244への入力として更に提供される。例えば、畳み込み及びプーリング層のうちの4つに続いて、ディープCNNモジュール240は、例えば、2つの全結合層246を介してデータを処理し得る。最後に、ディープCNNモジュール240は、
図1に関して上述したように、要求側デバイス又はユーザの表示画面上での表示及び更なる分析のために、要求側デバイス又は関連ユーザに戻され得るその出力として、故障タイプ248を提供し得る。更なる分析は、回転軸システムの任意の関連する物理的構成要素に関連した診断された故障を修復するか、ないしは別の方法で対処するためのユーザの措置を含み得る。
物理学ベースのモジュールを使用した例示的なデータセット及び結果
--例示的な環境:風力タービンエミュレータ
【0071】
図3Aは、本出願の一実施形態による、物理学ベースのモジュールを使用するための例示的な環境300を示す。環境300は、故障診断のためのDHCNNを実証するために、風力タービンエミュレータを有するシステムを描写し得る。環境300は、風310及び回転子312によって駆動され得る。例えば、可変周波数交流(AC)駆動装置によって駆動される誘導モータは、誘導モータの軸回転周波数を減少させるステップダウン型ギアボックス314と共に、原動機として用いられ得る(例えば、
図3Bの二重給電誘導発電機(DFIG)316又は巻線型誘導発電機(WRIG)350)。これは、風力タービン回転子の原動力をエミュレートし得る。別の2段階ヘリカルギアボックス(例えば、
図3Bの2段階ヘリカルギアボックス360)は、いくつかの人工的に生成された故障を有する動力伝達装置内のギアボックスをエミュレートするために使用することができ、2極対でDFIG316に接続する。
【0072】
DFIG316の固定子318は、パワーグリッドをエミュレートするために使用され得る、プログラム可能なAC電源(グリッド322として示される)に接続され得る。DFIG316の回転子320は、それぞれロータ側変換器(rotor side converter、RSC)326及びグリッド側変換器(grid side converter、GSC)324である2つの背中合わせに接続された3相絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(insulatd-gate bipolar transistor、IGBT)電力変換器を介して、同じAC電源(例えば、グリッド322)に接続され得る。システムは、例えば、5kHzのサンプリング周波数でdSPACE 1005基板(図示せず)を使用して、3相回転子電流を含む、DFIG制御スキームによって使用される信号を記録し得る。
【0073】
1回転当たり4096サイクルの解像度を有する位置エンコーダ(例えば、
図3Bのエンコーダ356)を、DFIG316の入力軸上に装着して、軸回転周波数f
r(t)を測定することができる。軸回転周波数は、無作為に変化する可能性があり、一般に、DFIG316の動作要件を満たすために同期回転周波数の±20%以内にあり得る。
【0074】
図3Bは、本出願の一実施形態による、物理学ベースのモジュールを使用するための例示的な環境340を示す。環境340は、連結具358によって接合された巻線回転子誘導発電機(WRIG)350及び2段階ヘリカルギアボックス360を含み得る。WRIG350は、回転子巻線352及びスリップリング354、並びにエンコーダ356を含み得る。2段階ヘリカルギアボックス360は、4つのギア(「ギア1」、「ギア2」、「ギア3」、及び「ギア4」とラベル付けされる)と、入力軸362と、ピニオン軸364と、出力軸366と、を含み得る。それぞれのラベル付けされたギアは、歯の特定の本数z
xに対応する。例えば、ギア1は52本の歯(z
1=52)を有し、ギア2は11本の歯(z
2=11)を有し、ギア3は38本の歯(z
3=38)を有し、ギア4は17本の歯を有する(z
4=17)。それぞれのギアは、例えば、例示的な故障のあるテストギアのうちの4つの故障タイプ370である、1歯欠損(one tooth missing、OTM)372、2歯欠損(two teeth missing、TTM)374、欠け376、及び亀裂378のうちの1に対応し得る。
【0075】
ギア故障特性周波数、すなわち、3つの軸回転周波数は、以下の式によって表現され得る。
【数16】
【0076】
f
r(t)=f
3(t)であるため、e’(t)における定数
【数17】
は、それぞれ2.84Hz、13.42Hz、及び30Hzに導出され得る。Conv0内のカーネルn
fの数は、同様に3であると決定され得る。例示的なデータセット及び結果は、5つの異なるギアボックス故障タイプを網羅し得る。例えば、低速軸(入力軸362など)に装着されたギア1において、1つの故障タイプは、健康な状態のテストギアボックスであり、他の4つの故障タイプは、1歯欠損(OTM)故障、2歯欠損(TTM)故障、欠け故障、又は亀裂故障を有するテストギアボックスである。
--例示的なDHCNNアーキテクチャ
【0077】
以下の設定を使用して、例示的な結果を生成することができる。例示的な結果は、5つの故障タイプのそれぞれの下で100分間連続的に実施された実験に基づく。システムは、2つの連続するデータレコード間に20秒の間隔で、1つの生データレコードとして100秒間、3相固定子及び回転子電流信号を記録し、それぞれの故障タイプで50個の生データサンプルを得た。訓練/テストデータセットのサイズを増大させるために、生データサンプルをストライドでスライスする単純なデータ拡張技術を使用して、データサンプルの数を増加させることができる。例えば、100秒の生データサンプルを、2秒のストライド時間を用いて30秒間の長さの36個のデータサンプルにスライスすることができる。このようにして、故障タイプごとに1800個のデータサンプルが存在することができ、これにより、合計9000個のデータサンプルが得られ得る。これらのデータサンプルは、無作為にシャッフルされ、拡張データサンプルの70%、20%、及び10%をそれぞれ含み得る訓練、検証、及びテストのデータセットに分割され得る。
【0078】
できるだけ多くの故障情報を保存するために、CNNモデルに供給される大きさを有するFFTスペクトルの周波数範囲は、
【数18】
における最大周波数の大きさの2倍になるように選択され得る。この例示的なDHCNNのパラメータを
図5Aに要約する。
【0079】
図5Aは、本出願の一実施形態による、物理学ベースのモジュール内の故障増幅畳み込み層を使用した結果を含む、例示的なDHCNNで使用されるパラメータの要約を伴う表500を示す。表500は、例示的なDHCNNのアーキテクチャの詳細を示し得る。表500は、層ごとに複数のエントリを含む場合があり、それぞれのエントリは、対応の層502と、カーネルサイズ/ストライド504と、カーネルの数506と、出力サイズ(H
*I)508と、パラメータサイズ510と、に関連する(列)情報を含み得る。エントリ520は、「Conv0」層(例えば、
図2の物理学ベースのモジュール220の故障増幅畳み込み層226)に対応し得る。エントリ522は、FFT(例えば、
図2の物理学ベースのモジュール220の出力として示されるFFTスペクトル228)に対応し得る。後続のエントリ524~538は、複数の畳み込み層及びプーリング層(例えば、
図2のディープCNNモジュール240の244)に対応し得る。エントリ540~542は、全結合(FC)層(例えば、
図2のディープCNNモジュール240の246)に対応し得る。
【0080】
表500は、出力サイズの長さ(列508、「H」)が、Conv層及びPool層を通って徐々に減少し、出力サイズの深さ(列508「I」)は増加し続けることを示す。例示的なDHCNNは、230,957個の訓練可能パラメータ及び736個の非訓練可能パラメータを含む、合計231,693個のパラメータを含み得る。訓練プロセスは、TensorflowをバックエンドとするKerasを使用して実装され得る。
--物理学ベースのモジュール及び故障増幅畳み込み層を使用した例示的な結果
【0081】
図4は、本出願の一実施形態による、TTM故障及びそのFFTスペクトルを有する、1秒間の拡張データサンプルの
図400を示す。
図400は、TTM故障及びそのFFTスペクトルの下で収集した、1相回転子電流から拡張した1つのデータサンプルI
ra(t)の部分(上部)を示す。
図4では、基本成分は明確に識別され(ボックス430の中央部分で)、その周波数は、様々な軸速度に起因して8~10ヘルツ(Hz)の範囲で変化し得る。同時に、故障関連情報の視覚的インジケータは、検出することが不可能に近い。実際に、故障関連情報(例えば、故障関連情報434及び436を含み得る、故障関連範囲432)は、拡大したFFTスペクトルに現れる不鮮明な範囲にはほとんど見られない。これは、生データサンプルが非常に低いSNRを有することを実証している。
【0082】
本明細書に記載される実施形態では、システムは、例えば、電流信号を収集することと、収集した電流信号を復調して電流包絡線信号を取得することと、電流包絡線信号をリサンプリングして非定常の故障関連周波数を定周波数成分に変換することと、リサンプリングした包絡線信号を拡大して、定周波数での振幅に基づいてカーネルを構築することと、によって、基本周波数を排除し、非定常の故障関連周波数を保持し得る。この信号処理手順を実行するための例示的な方法については、
図2に関連して上述し、かつ
図6に関連して後述する。
【0083】
図5Bは、本出願の一実施形態による、4つの異なる方法の精度及び標準偏差の比較を伴う表550を示す。表550は、エントリ560~566を含み得、それぞれのエントリは、構造552、平均精度554、及び標準偏差556を示し得る。例えば、エントリ560は、記載される実施形態のDHCNNに対応し得、描写された4つの方法の最高平均精度(99.54%)及び最低標準偏差(0.25%)を示す。エントリ562は、物理学ベースのモジュールなしに、生データサンプルを入力としてとる従来のCNN構造である「DCNN1」に対応し得る。エントリ564は、故障増幅畳み込み層(すなわち、Conv0)のないDHCNNである「DCNN2」に対応し得る。エントリ566は、従来のフィードフォーワード人工ニューラルネットワーク(ANN)に対応し得る。このようにして、表550は、DHCNNの記載された実施形態が、故障診断のために最高精度及び堅牢な性能を有することを示す。加えて、DCNN1の平均精度は、他の方法よりも著しく低いが、DCNN1の標準偏差は、他の方法よりも著しく高い。これは、物理学ベースのモジュールが、故障診断における高い精度及び堅牢性を達成するために決定的又は重要であり得ることを示す。
【0084】
更に、本明細書に記載されるDHCNNの実施形態で物理学ベースのモジュールを用いることによって、システムは、(従来のCNNのように)純粋な機械学習に頼るよりも、システムの動作状況を使用する(例えば、風力タービンのギアボックスを回転機械システムの構成要素における共通の故障点として識別する)ことによって、故障関連情報の分析及び診断の改善を提供し得る。具体的には、物理学ベースのモジュール(故障増幅モジュールを含む)とディープCNNとのハイブリッドアプローチを使用することによって、記載される実施形態は、広範なクラスの回転機械システムに対する改善された故障診断をもたらし得る。
【0085】
図5Cは、本出願の一実施形態による、
図5Bに列挙された方法のうちのいくつかに関する例示的な精度曲線を有するプロット570を示す。プロット570は、全ての3つの列挙された方法(DHCNN、DCNN1、及びDCNN2)の訓練精度はエポック数の増加と共に安定した値になり得るが、最終的にはDHCNNが最も高い精度を有することを示している。更に、DHCNNの記載されている実施形態は、物理学ベースのモジュールにおけるConv0の使用に起因して、DCNN1及びDCNN2よりも、開始時にはるかに高い精度を有し、より迅速に収束し得る。このようにして、Conv0の利用は、訓練を伴わずにより多くの故障情報をDHCNNに提供することができ、これにより、特に時間に敏感なシステムにおいてより迅速かつより正確な診断結果をもたらし得る。これらの改善は、記載されたDHCNNが、より迅速かつより効率的な学習のためにより良好であり得、オンライン適応のためにリアルタイムで実装され得ることを実証している。
故障診断を容易にするための例示的な方法
【0086】
図6は、本出願の一実施形態による、故障診断を容易にするための方法を例示するフロー
図600を示す。動作中、システムは、回転機械を含む物理的物体に関連付けられた電流信号を収集する(動作602)。システムは、収集した信号を復調して電流包絡線信号を取得し、それにより、基本周波数を排除し、故障関連周波数を保持する(動作604)。システムは、電流包絡線信号をリサンプリングし、それにより、故障関連周波数を定周波数成分に変換する(動作606)。システムは、故障増幅畳み込み層によって、リサンプリングした包絡線信号を拡大して故障情報を取得する(動作608)。システムは、故障情報をディープ畳み込みニューラルネットワーク(CNN)への入力として提供する(動作610)。システムは、ディープCNNによって、物理的物体の故障診断を含む出力を生成する(動作612)。このディープCNNは、故障増幅畳み込み層を含む物理学ベースのモジュールに基づくディープハイブリッドCNN(DHCNN)を含み得る。
例示的なコンピュータ及び通信システム
【0087】
図7は、本発明の一実施形態による、故障診断を容易にする例示的なコンピュータ及び通信システムを示す。コンピュータシステム702は、プロセッサ704、メモリ706、及び記憶デバイス708を含む。メモリ706は、管理メモリとして機能する揮発性メモリ(例えば、RAM)を含むことができ、1つ以上のメモリプールを記憶するために使用され得る。更に、コンピュータシステム702は、ディスプレイデバイス710、キーボード712、及びポインティングデバイス714に結合され得る。記憶デバイス708は、オペレーティングシステム716、コンテンツ処理システム718、及びデータ734を記憶し得る。
【0088】
コンテンツ処理システム718は、コンピュータシステム702によって実行されると、本開示に記載されている方法及び/又はプロセスをコンピュータシステム702に実行させることができる命令を含み得る。具体的には、コンテンツ処理システム718は、コンピュータネットワーク(通信モジュール720)を介して他のネットワークノードへ/から、データパケットを送信及び/又は受信するための命令を含み得る。データパケットは、データ、要求、コマンド、時系列データ、訓練データ、及び故障診断又は故障分類を含み得る。
【0089】
コンテンツ処理システム718は、回転機械を備える物理的物体に関連付けられた電流信号を収集するための命令を更に含み得る(通信モジュール720及びデータ取得モジュール722)。コンテンツ処理システム718は、収集した信号を復調して電流包絡線信号を取得し、それにより、基本周波数を排除し、故障関連周波数を保持するための命令を含み得る(振幅復調モジュール724)。コンテンツ処理システム718は、電流包絡線信号をリサンプリングし、それにより、故障関連周波数を定周波数成分に変換するための命令を含み得る(角リサンプリングモジュール726)。コンテンツ処理システム718は、故障増幅畳み込み層によって、リサンプリングした包絡線信号を拡大して故障情報を取得するための命令を含み得る(故障増幅モジュール728)。コンテンツ処理システム718は、故障情報をディープ畳み込みニューラルネットワーク(CNN)への入力として提供するための命令を含み得る(通信モジュール720及び情報提供モジュール730)。コンテンツ処理システム718は、ディープCNNによって、物理的物体の故障診断を含む出力を生成するための命令を含み得る(故障診断モジュール732)。
【0090】
データ734は、入力として必要とされるか、又は本開示に記載される方法及び/若しくはプロセスによって出力として生成される、いずれかのデータを含み得る。具体的には、データ734は、少なくとも、データと、1組のデータと、電流信号を表すデータと、物理的物体又は回転機械のインジケータ又は識別子と、復調信号と、電流包絡線信号と、基本周波数と、故障関連周波数と、リサンプリングした信号と、定周波数成分と、拡大又は増幅した信号と、故障情報と、CNN、DCNN、又はDHCNNに関連付けられた又は関連する情報と、出力と、故障診断と、故障タイプ又は故障分類と、FFTスペクトルと、物理学ベースのモジュール、振幅復調モジュール、角リサンプリングモジュール、及び故障増幅モジュールのインジケータと、畳み込み層、バッチ正規化、プーリング層、又は全結合層のインジケータ又は識別子と、故障タイプと、を記憶し得る。
【0091】
「発明を実施するための形態」に記載されるデータ構造及びコードは、典型的には、コンピュータ可読記憶媒体に記憶され、コンピュータ可読記憶媒体は、コンピュータシステムが使用するためのコード及び/又はデータを記憶することができる任意のデバイス又は媒体であり得る。コンピュータ可読記憶媒体としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、ディスクドライブなどの磁気及び光学記憶デバイス、磁気テープ、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル多用途ディスク若しくはデジタルビデオディスク)、又は既知の、若しくは今後開発されるコンピュータ可読媒体を記憶することができる他の媒体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
「発明を実施するための形態」の節に記載される方法及びプロセスは、上に論じられるようなコンピュータ可読記憶媒体内に記憶され得るコード及び/又はデータとして具体化され得る。コンピュータシステムが、コンピュータ可読記憶媒体上に記憶されたコード及び/又はデータを読み取って実行すると、コンピュータシステムは、データ構造及びコードとして具体化され、コンピュータ可読記憶媒体内に記憶された方法及び処理を実行する。
【0093】
更に、上で説明される方法及び処理は、ハードウェアモジュール又は装置に含まれ得る。ハードウェアモジュール又は装置としては、特定用途向け集積回路(application-specific integrated circuit、ASIC)チップ、フィールドプログラム可能ゲートアレイ(field-programmable gate array、FPGA)、特定の時刻に特定のソフトウェアモジュール又はコードを実行する専用又は共有プロセッサ、及び、既知の又は後に開発される他のプログラム可能論理デバイスが挙げられ得るが、これらに限定されない。ハードウェアモジュール又は装置が起動されると、それらの内部に含まれる方法及び処理が実行される。
【0094】
本明細書に記載される前述の実施形態は、例示及び説明のみを目的として提示されている。これらは、網羅的であること、又は本発明を開示される形態に限定することを意図するものではない。したがって、多くの修正及び変形が、当業者には明らかであろう。加えて、上記の開示は、本発明を限定することを意図するものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。