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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042503
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】培養容器及び培養細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20220307BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20220307BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142527
(22)【出願日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2020147513
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000158208
【氏名又は名称】AGCテクノグラス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本杉 聡子
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029GA03
4B029GB10
4B065AA90X
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】複数個を積み上げて使用する際の培養細胞の予期せぬ動きを抑制できる培養容器、及び前記培養容器を用いた培養細胞の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】培養面18を有し、複数個を積み上げて使用する培養容器1において、培養容器1の上面22aに、積み上げられた同型の培養容器1の面方向の動きを規制する突起26を設け、上面22aにおける突起26の内側の領域内で面積が最大になる矩形の各頂点を時計回りに点A~Dとしたとき、支柱を用いて測定される点A~Dの高さH~H(mm)が、0≦H/L×100000≦200(ただし、Hは対角線ACの中点と対角線BDの中点の高さの差であり、Lは前記矩形の対角線の長さ(mm)である。)を満たす。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養面を有し、複数個を積み上げて使用する培養容器であって、
前記培養容器の上面には、積み上げられた同型の培養容器が前記上面の面方向に動くことを規制する突起が前記上面の外縁に沿って設けられ、
前記培養容器の上面の平面視形状と相似形状で、かつその周縁が前記突起の上面の内縁に一致する領域内で面積が最大になる矩形の各頂点を時計回りに点A、点B、点C、点Dとしたとき、
高さが35mmで、かつ高さ方向に垂直な平坦な上端面を有する支柱上に、前記培養容器を前記培養容器の上面が上を向くように置いた状態で測定される、前記点A、点B、点C、点Dのそれぞれの前記支柱の下端からの高さH(mm)、H(mm)、H(mm)、H(mm)が、下式1及び下式2を満たす、培養容器。
0≦H/L×100000≦200 ・・・式1
=|(H+H)/2-(H+H)/2| ・・・式2
(ただし、前記式中、Lは前記矩形の対角線の長さ(mm)である。)
【請求項2】
前記培養容器の上面の平面視形状が正円であり、正円の前記領域内で面積が最大になる矩形の各頂点を時計回りに点A、点B、点C、点Dとする、請求項1に記載の培養容器。
【請求項3】
前記培養容器の上面の平面視形状が矩形であり、矩形の前記領域の各頂点を時計回りに点A、点B、点C、点Dとする、請求項1に記載の培養容器。
【請求項4】
前記培養面に、細胞接着抑制剤を塗布してなる低接着コート膜が形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の培養容器。
【請求項5】
前記培養容器の材質が、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びシリコーン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂である、請求項1~4のいずれか一項に記載の培養容器。
【請求項6】
前記培養面に複数の微細ウェルが形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の培養容器。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の培養容器のみを複数個使用し、細胞培養、及び細胞培養後の運搬のいずれか一方又は両方を、前記培養容器の複数個を積み上げた状態で行う、培養細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養容器及び培養細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生命現象を解明する基礎研究、創薬研究等においては、培養細胞が広く利用されている。特に3次元培養で得られる細胞が凝集した3次元細胞塊(スフェロイド)は、生体内と同様に立体的な構造を有しているため、2次元培養で得た細胞に比べて試験精度が向上することが期待されている。3次元培養としては、例えば、マイクロプレートの各ウェルの底面や、ディッシュの底面等に孔径100~1,000μmの微細ウェル(マイクロウェル)が多数形成された培養容器(微細加工容器)を用いた培養方法が知られている(特許文献1)。微細加工容器に細胞を播くと、各微細ウェルの中で細胞が会合し、細胞塊が形成される。
【0003】
培養時や運搬時に揺れによって細胞塊が微細ウェルから飛び出すと、細胞塊同士が重なり、プレートリーダー、セルイメージャー等による測定や観察が困難になる。特許文献2には、植物細胞を効率良く培養するために、複数個の培養容器を積み上げて培養することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6400575号公報
【特許文献2】特開2011-78386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
培養時や運搬時に複数個の培養容器を積み上げると、揺れを充分に抑制することは困難である。特に微細ウェルから細胞塊が飛び出すことを充分に抑制するには、培養容器を積み重ねた状態での揺れを最小限に留めることが重要である。
【0006】
本発明は、複数個を積み上げた状態の揺れが低減され、培養細胞の予期せぬ動きを抑制できる培養容器、及び前記培養容器を用いた培養細胞の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]培養面を有し、複数個を積み上げて使用する培養容器であって、
前記培養容器の上面には、積み上げられた同型の培養容器が前記上面の面方向に動くことを規制する突起が前記上面の外縁に沿って設けられ、
前記培養容器の上面の平面視形状と相似形状で、かつその周縁が前記突起の上面の内縁に一致する領域内で面積が最大になる矩形の各頂点を時計回りに点A、点B、点C、点Dとしたとき、
高さが35mmで、かつ高さ方向に垂直な平坦な上端面を有する支柱上に、前記培養容器を前記培養容器の上面が上を向くように置いた状態で測定される、前記点A、点B、点C、点Dのそれぞれの前記支柱の下端からの高さH(mm)、H(mm)、H(mm)、H(mm)が、下式1及び下式2を満たす、培養容器。
0≦H/L×100000≦200 ・・・式1
=|(H+H)/2-(H+H)/2| ・・・式2
(ただし、前記式中、Lは前記矩形の対角線の長さ(mm)である。)
[2]前記培養容器の上面の平面視形状が正円であり、正円の前記領域内で面積が最大になる矩形の各頂点を時計回りに点A、点B、点C、点Dとする、[1]に記載の培養容器。
[3]前記培養容器の上面の平面視形状が矩形であり、矩形の前記領域の各頂点を時計回りに点A、点B、点C、点Dとする、[1]に記載の培養容器。
[4]前記培養面に、細胞接着抑制剤を塗布してなる低接着コート膜が形成されている、[1]~[3]のいずれかに記載の培養容器。
[5]前記培養容器の材質が、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びシリコーン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂である、[1]~[4]のいずれかに記載の培養容器。
[6]前記培養面に複数の微細ウェルが形成されている、[1]~[5]のいずれかに記載の培養容器。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の培養容器のみを複数個使用し、細胞培養、及び細胞培養後の運搬のいずれか一方又は両方を、前記培養容器の複数個を積み上げた状態で行う、培養細胞の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数個を積み上げた状態の揺れが低減され、培養細胞の予期せぬ動きを抑制できる培養容器、及び前記培養容器を用いた培養細胞の製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の培養容器を示した平面図である。
図2図1の培養容器のI-I断面図である。
図3図2の培養容器の複数個を積み重ねて使用する様子を示した断面図である。
図4図1の培養容器の点A~Dの高さを測定する様子を示した断面図である。
図5図1の培養容器の培養面を拡大して示した断面図である。
図6】他の実施形態の培養容器を示した平面図である。
図7図6の培養容器のII-II断面図である。
図8図7の培養容器の複数個を積み重ねて使用する様子を示した断面図である。
図9図6の培養容器の点A~Dの高さを測定する様子を示した断面図である。
図10図6の培養容器の培養面を拡大して示した断面図である。
図11図1の培養容器を5枚積重ねて評価したときの様子を示した断面図である。
図12図6の培養容器を5枚重ねて評価した時の様子を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における用語の意味及び定義は以下である。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
「微細ウェルの開口端」とは、微細ウェルを全周にわたって周回する最上部を結んだ境界線である。微細ウェルの周囲に平坦面がある場合、その平坦面と微細ウェルの落ち込みとの境界線が微細ウェルの開口端である。
「微細ウェルの開口形状」とは、開口端の平面視形状である。
「微細ウェルの開口の直径」とは、微細ウェルの開口端の平面視での直径であり、開口端の平面視形状が正円でない場合はその平面視形状に対する内接円の直径とする。
「微細ウェルの開口面積」とは、平面視で微細ウェルの開口端が占める領域の面積である。
「微細ウェルの深さ」は、微細ウェルを周回する最上部に上方から最も多く接する面を基準面としたときの、微細ウェルの最深部と基準面との距離である。微細ウェルの周囲が平坦面である場合、その平坦面は基準面と一致する。
【0011】
以下、本発明の培養容器の実施形態の一例を示し、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0012】
[第1実施形態]
図1及び図2に示すように、本実施形態の培養容器1は、容器本体10と、蓋部20とを備えるディッシュである。
容器本体10は、円板状の底部12と、底部12の外縁部から全周にわたって垂直に立ち上がる周壁部14と、底部12の下面12bに、その外縁に沿って全周にわたって下方に突出して設けられた円環状の環状突起16と、を備えている。容器本体10の底面、すなわち底部12の上面12aは培養面18になっている。図5に示すように、この例の容器本体10の培養面18には、複数の微細ウェル19が形成されている。すなわち、培養容器1は複数の微細ウェル19を有する微細加工容器である。
【0013】
蓋部20は、円板状の上面部22と、上面部22の外縁部から全周にわたって垂直に垂下された周壁部24と、上面部22の上面22aに、上面22aの外縁に沿って全周にわたって上方に突出して設けられた円環状の突起26と、を備えている。
【0014】
培養容器1では、容器本体10に蓋部20を被せることで、容器本体10の培養面18の上方の開口を開閉自在に閉じることができる。容器本体10に蓋部20を被せた状態では、蓋部20の周壁部24が容器本体10の周壁部14の外側に位置する。
【0015】
図3に示すように、培養容器1は、容器本体10に蓋部20を被せた状態で、複数個を積み重ねることができる。同型の複数個の培養容器1を積み重ねた状態では、蓋部20の上面22a上に積み重ねられた培養容器1の容器本体10の環状突起16が、蓋部20の突起26の内側に嵌まる。これにより、蓋部20の上面22aの面方向における、蓋部20の上面22a上に積み重ねられた培養容器1の動きが規制される。
【0016】
突起26の長さ方向に垂直な断面形状は、この例では矩形であるが、蓋部20の上面22a上に積み重ねられた培養容器1の動きを規制できる範囲であれば、半円形等であってもよい。
蓋部20の上面22aに設けられる突起26は、蓋部20の上面22a上に積み重ねられた培養容器1の面方向の動きを規制できる範囲であれば、環状の連続した突起には限定されず、複数の突起が断続的に形成されていてもよい。
【0017】
培養容器1は、以下に説明する測定方法によって測定される点A~Dの4点の高さが特定の条件を満たす。
まず、図1に示すように、培養容器1の上面部22の上面22aの平面視形状と相似形状で、かつその周縁が突起26の上面26aの内縁26bに一致する領域E内で、面積が最大になる矩形の各頂点を時計回りに点A、点B、点C、点Dとする。
【0018】
この例では、上面部22の上面22aの平面視形状は正円であり、突起26は蓋部20の上面22aの外縁に沿って全周にわたって円環状に形成されているため、領域Eはその外周が突起26の上面26aの内縁26bに沿う正円の領域である。この領域E内において、面積が最大になる矩形、すなわち正方形の4つの頂点を時計回りに点A、点B、点C、点Dとする。4つの点A~Dは、いずれも領域Eの外周、すなわち突起26の上面26aの内縁26b上に位置する。領域Eの平面視形状が正円の場合、点A~Dを決定する際の矩形(正方形)は、当該正円の中心を基準とする回転方向において、Hが最大となる矩形(正方形)を設定し、支柱100の下端112からの高さが最大となる点をAとする。
【0019】
図4に示すように、高さが35mmで、かつ高さ方向に垂直な平坦な上端面110を有する支柱100上に、培養容器1の蓋部20を上面22aが上を向くように置く。なお、図4には、2つの支柱100の上に培養容器1の蓋部20を載置した状態を示しているが、支柱100上に培養容器1を安定に載置した状態で測定できれば、支柱100の数は2つでなくてもよい。
【0020】
このように、培養容器1の蓋部20を支柱100上に置いた状態で、突起26の上面26a上の4つの点A、点B、点C、点Dについて、それぞれ支柱100の下端112からの高さH(mm)、H(mm)、H(mm)、H(mm)を測定する。
培養容器1は、このように測定される点A~Dの高さH~Hが下式1及び下式2を満たす。
【0021】
0≦H/L×100000≦200 ・・・式1
=|(H+H)/2-(H+H)/2| ・・・式2
ただし、前記式中、Lは、点A~Dを各頂点とする矩形の対角線の長さ(mm)である。
【0022】
は、点Aと点Cの中点(対角線ACの中点)の高さと、点Bと点Dの中点(対角線BDの中点)の高さとの差を示している。Lは、対角線ACの長さ(=対角線BDの長さ)である。
【0023】
/L×100000で表される値は、0~200であり、0~100が好ましく、0~50がより好ましく、0~30がさらに好ましく、0~25が特に好ましく、0~20が最も好ましい。H/L×100000で表される値が前記範囲内であれば、培養容器1の上面22aの歪みが小さく、複数個の培養容器1を積み上げたときのがたつきが低減される。これにより、複数個の培養容器1を積み上げた状態での揺れが抑制される。そのため、培養面の各微細ウェルで細胞塊を培養する場合、微細ウェルから細胞塊が飛び出すことが抑制されるため、細胞塊の測定や観察が容易になる。
【0024】
容器本体10の培養面18には、サイズが均一な細胞塊が得られやすい点から、サイズが均一な複数の微細ウェル19が形成されていることが好ましい。図1及び図5に示す例は、培養面18における各微細ウェル19の周囲に平坦面がない態様である。なお、培養面18における各微細ウェル19の周囲は平坦面になっていてもよい。
微細ウェル19の開口形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形、多角形、不規則な形状を例示できる。
【0025】
微細ウェル19の開口の平均直径d(図5)は、100~2500μmが好ましく、200~2000μmがより好ましく、400~1000μmがさらに好ましい。微細ウェル19の開口の平均直径dが前記範囲の下限値以上であれば、充分なサイズの細胞塊が形成されやすい。微細ウェル19の開口の平均直径dが前記範囲の上限値以下であれば、微細ウェル間の隙間が小さくなり、培養面に多くの微細ウェルを効率良く形成できるため、培養できる細胞塊の数が多くなる。なお、微細ウェルの開口の平均直径dは、任意の10個の微細ウェルの直径を測定して平均した値である。微細ウェルの開口の直径の測定は、平面観察像を用いて実施できる。
【0026】
微細ウェル19の開口面積は、0.008mm以上4.9mm以下が好ましく、0.03mm以上3.1mm以下がより好ましく、0.13mm以上0.8mm以下がさらに好ましい。微細ウェル19の開口面積が前記範囲の上限値以下であれば、微細ウェル19から細胞がこぼれることを抑制しやすく、均一な大きさのスフェロイドを形成しやすい。
なお、微細ウェル19の開口面積は、レーザ顕微鏡(キーエンス社製)等によって測定される。
【0027】
微細ウェル19の平均深さh(図5)は、50~1200μmが好ましく、100~1000μmがより好ましく、200~600μmがさらに好ましい。微細ウェル19の平均深さhが前記範囲の下限値以上であれば、細胞塊が微細ウェルから飛び出しにくく、安定して保持されやすい。微細ウェル19の平均深さhが前記範囲の上限値以下であれば、培地を添加したときに微細ウェルに泡が発生し難く、また発生したとしても泡を除きやすい。なお、微細ウェルの平均深さhは、任意の10個の微細ウェルについて、微細ウェルの深さ(基準面と微細ウェルの最深部との距離)を測定して平均した値である。微細ウェルの深さの測定は、3次元測定器による測定や、シリコーンゴム等で微細ウェルを型取りしたものを測定することで実施できる。
【0028】
微細ウェル19の配置パターンは、特に限定されず、規則的なパターンで形成してもよく、不規則に形成してもよく、規則的な部分と不規則な部分が混在していてもよい。規則的な配置パターンとしては、例えば、隙間なく並べた正方形の各頂点に微細ウェルを配置するパターン、隙間なく並べた正六角形の各頂点と中央に微細ウェルを配置するパターン、千鳥状のパターンを例示できる。
【0029】
培養面18に形成される微細ウェル19の数は、単位面積あたり、10個/cm以上が好ましく、10~10000個/cmがより好ましく、15~5000個/cmがさらに好ましく、20~1500個/cmが特に好ましい。
【0030】
培養容器1の材質としては、樹脂またはガラスを例示できる。
樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、高密度ポリエチレン、ポリエーテルサルファン、PET共重合体、パーマノックス(サーモフィッシャーサイエンティフィック商標)、シクロオレフィンポリマー樹脂及びサイトップ(AGC商標)から選ばれる1種が好ましく、透明性が高く、薬剤吸着性が低いという点から、ポリスチレン樹脂が特に好ましい。培養容器1を構成する樹脂は、1種でもよく、2種以上でもよい。
ガラスとしては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、リン酸ガラス、化学強化ガラス等を例示できる。培養容器1を構成するガラスは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0031】
培養容器1の周壁部14は透明でも不透明でもよい。周壁部14を不透明とする場合、色調としては黒や白など、光を通しづらい色味がより好ましい。周壁部14を不透明にすることによって、顕微鏡での観察時に光の反射による観察しづらさを軽減することができる。周壁部14を不透明にする方法としては、特に限定されず、例えば、微粒子を添加する方法、顔料等の着色料を添加する方法等を用いることができる。黒の場合はカーボン等、白の場合は酸化チタン等を用いることができる。
【0032】
底部12の平均厚みは、80μm以上2000μm以下が好ましい。培養容器1がガラスの場合、平均厚みは100μm以上250μ以下がより好ましく、130μ以上200μm以下がさらに好ましい。培養容器1が樹脂の場合、300μm以上1800μm以下がより好ましく、500μm以上1500μm以下がさらに好ましく、810μm以上1000μm以下がより一層好ましい。培養容器1の平均厚みが前記範囲内であれば、微細ウェル19形成による培養容器1の変形が低減でき、積み重ね時の歪みも軽減できる。
【0033】
培養容器1の製造方法は、特に限定されず、例えば、射出成形法によって成形できる。
微細ウェル19を形成する方法としては、例えば、レーザ照射を例示できる。樹脂製の容器本体10の底面である培養面18にレーザ光が照射されると、培養面18を構成する樹脂が溶解及び気化して、非常に滑らかな表面を持つ微細ウェル19が形成される。微細ウェル19の開口周辺には、溶解した樹脂が盛り上がって土手部が形成されてもよい。この場合、微細ウェルを周回する土手部の最上部が当該微細ウェルの開口端となる。
【0034】
レーザ光源としては、特に限定されず、COレーザを例示できる。微細ウェル19の配置及びサイズは、レーザ光の照射位置や出力、時間等の照射条件を調節することによって調節できる。
レーザ出力は、例えば、1~100Wの範囲で固定し、レーザ照射時間は、例えば、0.1~100μsの範囲で固定してレーザ照射を行うことで、各微細ウェル19のサイズを均一にできる。
【0035】
培養面18には、細胞の接着を抑制する低接着コート膜を形成してもよい。低接着コート膜が形成されることで、培養細胞を取り出しやすくなる。低接着コート膜は、例えば、細胞接着抑制剤を塗布することによって形成できる。細胞接着抑制剤としては、リン脂質ポリマー(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等)、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、フッ素含有化合物、ポリエチレングリコールを例示できる。細胞接着抑制剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、培養容器1の容器本体10全体又は培養面18をシリコーン樹脂等の細胞接着抑制効果のある樹脂や、前記細胞接着抑制剤を配合した合成樹脂等で成形すれば、低接着コート膜を形成しなくても培養面18に細胞が接着することを抑制できる。
【0036】
培養面18には、細胞を接着させやすくする易接着コート膜を形成してもよい。易接着コート膜を形成する材料としては、コラーゲン、ゼラチンを例示できる。易接着コート膜を形成する材料としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、培養容器1の容器本体10全体又は培養面18を細胞接着効果のある樹脂や、細胞易接着コート剤を配合した合成樹脂等で成形してもよい。
また、コート剤以外でも、プラズマ処理、コロナ放電等の物理的処理を行い、細胞を接着しやすくしてもよい。
【0037】
(培養細胞の製造方法)
以下、培養容器1を用いた培養細胞の製造方法について説明する。
同型の培養容器1のみを複数個使用し、細胞培養、及び細胞培養後の運搬のいずれか一方又は両方を、複数個の培養容器1を積み上げた状態で行う。本実施形態では、細胞培養時にのみ複数個の培養容器1を積み上げてもよく、運搬時にのみ複数個の培養容器1を積み上げてもよく、細胞培養時と運搬時の両方で複数個の培養容器1を積み上げてもよい。
【0038】
培養容器1の蓋部20の上面22aに突起26が設けられていることで、蓋部20の上面22a上に積み重ねられた培養容器1の面方向の動きが規制される。さらに、突起26の上面26aの内縁26bに沿う領域の4つの点A~Dの高さH~Hが前記式1及び前記式2を満たしているため、複数個の培養容器1を積み重ねた状態におけるがたつきが低減され、揺れにくくなる。これらのことから、培養細胞の予期せぬ動きを抑制できる。そのため、培養面に微細ウェルを形成した場合には、微細ウェルから細胞塊が飛び出すことが抑制され、細胞塊の測定や観察が容易になる。
【0039】
[第2実施形態]
図6及び図7に示すように、本実施形態の培養容器2は、容器本体30と、蓋部40とを備えるマイクロプレートである。
容器本体30は、平面視形状が矩形の板状の底部32と、底部32の外縁部から全周にわたって垂直に立ち上がる周壁部34と、底部32の周壁部34の内側から立ち上がり、各ウェル35を形成する複数の円筒状の筒部36と、底部32の下面32bに、その外縁に沿って全周にわたって下方に突出して設けられた環状突起38と、を備えている。
【0040】
この例の培養容器2では、底部32と筒部36によって形成される各ウェル35の底面が培養面37になっている。複数のウェル35は平面視で縦横にマトリックス状に配列されている。図10に示すように、各ウェル35の培養面37には、複数の微細ウェル39が形成されている。すなわち、培養容器2は複数の微細ウェル39を有する微細加工容器である。
【0041】
蓋部40は、平面視形状が矩形の上面部42と、上面部42の外縁部から垂直に垂下された周壁部43と、上面部42の上面42aの外縁に沿って全周にわたって上方に突出するように設けられた矩形の環状の突起44と、を備えている。
【0042】
培養容器2におけるウェル35の配置パターンは、特に限定されず、例えば、マトリックス状、千鳥状を例示できる。ウェル35の平面視の開口形状は、円形には限定されず、例えば、矩形であってもよい。
培養容器2が有するウェル35の数は、特に限定されず、例えば、1~1536個が挙げられる。
【0043】
ウェル35の平均深さは、6.0~12.0mmが好ましく、5.7~10.8mmがより好ましい。ウェル35の平均深さが前記範囲の下限値以上であれば、内容物がこぼれにくい。ウェル35の平均深さが前記範囲の上限値以下であれば、溶液の分注、排出が容易になる。
【0044】
図8に示すように、培養容器2は、複数個を積み重ねることができる。同型の複数個の培養容器2を積み重ねた状態では、上面部42の上面42aに設けられた突起44が、上面部42の上面42a上に積み重ねられた培養容器2の環状突起38の内側に嵌まる。これにより、上面部42の上面42aの面方向における、上面部42の上面42a上に積み重ねられた培養容器2の動きが規制される。
【0045】
突起44の長さ方向に垂直な断面形状は、この例では矩形であるが、上面部42の上面42a上に積み重ねられた培養容器2の動きを規制できる範囲であれば、半円形等であってもよい。
上面部42の上面42aに設けられる突起44は、上面部42の上面42a上に積み重ねられた培養容器2の面方向の動きを規制できる範囲であれば、環状の連続した突起には限定されず、複数の突起が断続的に形成されていてもよい。
【0046】
培養容器2は、以下に説明する測定方法によって測定される点A、点B、点C、点Dの4点の高さが特定の条件を満たす。
まず、図6に示すように、培養容器2の上面部42の上面42aの平面視形状と相似形状で、かつその周縁が突起44の上面44aの内縁44bに一致する領域E内で、面積が最大になる矩形の各頂点を時計回りに点A、点B、点C、点Dとする。
【0047】
この例では、上面部42の上面42aの平面視形状は矩形であり、突起44は上面部42の上面42aの外縁に沿って全周にわたって矩形の環状に形成されている。そのため、領域Eは、その外周が突起44の上面44aの内縁44bに沿う矩形の領域である。この領域E内において面積が最大になる矩形は領域Eと同一形状であり、突起44の四隅に位置する4つの頂点を時計回りに点A、点B、点C、点Dとする。
【0048】
図9に示すように、高さが35mmで、かつ高さ方向に垂直な平坦な上端面110を有する支柱100上に、培養容器2の蓋部40を上面部42の上面42aが上を向くように置く。なお、第1実施形態と同様に、点A~Dの高さを安定して測定できれば、支柱100の数は2つでなくてもよい。
【0049】
このように、培養容器2を支柱100上に置いた状態で、培養容器2の蓋部20の上面部42の上面42a上の4つの点A、点B、点C、点Dについて、それぞれ支柱100の下端112からの高さH(mm)、H(mm)、H(mm)、H(mm)を測定する。
培養容器2は、このように測定される点A~Dの高さH~Hが前記式1及び前記式2を満たす。
【0050】
培養容器2においても、H/L×100000で表される値が0~200であることで、培養容器2の上面部42の上面42aの歪みが小さく、複数個の培養容器2を積み上げたときのがたつきが低減される。これにより、複数個の培養容器2を積み上げた状態での揺れが抑制される。そのため、培養面の各微細ウェルで細胞塊を培養する場合、微細ウェルから細胞塊が飛び出すことが抑制されるため、細胞塊の測定や観察が容易になる。
/L×100000で表される値の好ましい範囲は、第1実施形態におけるH/L×100000で表される値の好ましい範囲と同じである。
【0051】
図10に示すように、各ウェル35の培養面37には、サイズが均一な複数の微細ウェル39が形成されていることが好ましい。培養面37における各微細ウェル39の周囲には、平坦面があってもよく、平坦面がなくてもよい。微細ウェル39の開口形状、開口の平均直径d(図10)、開口面積、平均深さh(図10)、配置パターン、数等の態様は、第1実施形態の微細ウェル19と同じ態様を例示でき、好ましい態様も同じである。
【0052】
培養容器2の材質としては、培養容器1の材質として例示したものと同じ樹脂及びガラスを例示でき、なかでもポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びシリコーン樹脂から選ばれる1種が好ましく、ポリスチレン樹脂が特に好ましい。また、培養容器1と同様に筒部36を不透明としてもよい。
【0053】
底部32の平均厚みは、80μm以上2000μm以下が好ましい。培養容器2がガラスの場合、平均厚みは100μm以上250μ以下がより好ましく、130μ以上200μm以下がさらに好ましい。培養容器2が樹脂の場合、300μm以上1800μm以下がより好ましく、500μm以上1500μm以下がさらに好ましく、810μm以上1000μm以下がより一層好ましい。培養容器2の平均厚みが前記範囲内であれば、微細ウェル39形成による培養容器2の変形が低減でき、積み重ね時の歪みも軽減できる。
【0054】
培養容器2の製造方法は、特に限定されず、例えば、射出成形法によって成形できる。
微細ウェル39を形成する方法としては、微細ウェル19を形成する方法と同じ方法を採用できる。培養面37にも、細胞の接着を抑制する低接着コート膜や、細胞を接着させやすくする易接着コート膜を形成してもよい。
【0055】
(培養細胞の製造方法)
以下、培養容器2を用いた培養細胞の製造方法について説明する。
同型の培養容器2のみを複数個使用し、細胞培養、及び細胞培養後の運搬のいずれか一方又は両方を、複数個の培養容器2を積み上げた状態で行う。本実施形態では、細胞培養時にのみ複数個の培養容器2を積み上げてもよく、運搬時にのみ複数個の培養容器2を積み上げてもよく、細胞培養時と運搬時の両方で複数個の培養容器2を積み上げてもよい。
【0056】
培養容器2を使用する態様も培養容器1の場合と同様に、上面部42の上面42aに設けられた突起44によって、積み重ねられた培養容器2の面方向の動きが規制される。さらに、突起44の上面44aの内縁44bに沿う領域の4つの点A~Dの高さH~Hが前記式1及び前記式2を満たしているため、積み重ねた培養容器2のがたつきが低減され、揺れにくくなるため、培養細胞の予期せぬ動きを抑制できる。そのため、培養面に微細ウェルを形成した場合には、微細ウェルから細胞塊が飛び出すことが抑制され、細胞塊の測定や観察が容易になる。
【0057】
なお、本発明の培養容器は、上面上に複数個を積み重ねて使用する培養容器であればよく、培養容器1のようなディッシュや、培養容器2のようなマイクロプレートには限定されない。本発明の培養容器は、例えば、同型の培養容器を積み重ねられる上面を有するフラスコ状の培養容器であってもよい。その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[積み重ねの安定性]
図11及び図12に示すように、同型の5個の培養容器(ディッシュ又はマイクロプレート)を積み重ね、最も上に位置する培養容器の点A~Dの高さ(T~T)を測定し、それら測定値から標準偏差を算出し、積み重ねの安定性を以下の基準で評価した。
◎(優良):標準偏差が0.1以下。
○(良):標準偏差が0.1超0.2以下。
×(不良):標準偏差が0.2超。
【0059】
[例1]
図1及び図2で例示したような態様で、平面視形状が直径100mmの正円である4種の培養容器(ディッシュ-1~ディッシュ-4、及びディッシュ-6~ディッシュ-9)について、高さH~Hを測定し、H/L×100000で表される値を算出した。結果を表1及び表2に示す。また、ディッシュ-1~ディッシュ-4については、同型の培養容器を積み重ねたときの、最も上に位置する培養容器の高さT~Tを測定し、標準偏差を算出し、安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
[例2]
図6及び図7に例示したような態様で、平面視形状が縦85.3mm×横127.6mmの矩形で6個(2×3)のウェルを有する4種の培養容器(マイクロプレート-1~マイクロプレート-4、及びマイクロプレート-9~マイクロプレート-11)について、高さH~Hを測定し、H/L×100000で表される値を算出した。結果を表1及び表2に示す。また、マイクロプレート-1~マイクロプレート-4については、同型の培養容器を積み重ねたときの、最も上に位置する培養容器の高さT~Tを測定し、標準偏差を算出し、安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
[例3]
図6及び図7に例示したような態様で、平面視形状が縦85.3mm×横127.6mmの矩形で96個(8×12)のウェルを有する4種の培養容器(マイクロプレート-5~マイクロプレート-8、及びマイクロプレート-12~マイクロプレート-14)について、高さH~Hを測定し、H/L×100000で表される値を算出した。結果を表1及び表2に示す。また、マイクロプレート-5~マイクロプレート-7については、同型の培養容器を積み重ねたときの、最も上に位置する培養容器の高さT~Tを測定し、標準偏差を算出し、安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0062】
[例4]
図1及び図2で例示したような態様で、平面視形状が直径150mmの正円である1種の培養容器(ディッシュ-5、ディッシュ-10及びディッシュ-11)について、高さH~Hを測定し、H/L×100000で表される値を算出した。結果を表1及び表2に示す。また、ディッシュ-5については、同型の培養容器を積み重ねたときの、最も上に位置する培養容器の高さT~Tを測定し、標準偏差を算出し、安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
以上の結果のうち、ディッシュ-8及びディッシュ-9については、H/L×100000の値が200を超え、蓋の歪みが大きく、積み重ねに不向きであることがいえる。
【符号の説明】
【0066】
1,2…培養容器、10…容器本体、12…底部、14…周壁部、18…培養面、19…微細ウェル、20…蓋部、22…上面部、22a…上面、24…周壁部、26…突起、26a…上面、26b…内縁、30…容器本体、32…底部、34…周壁部、35…ウェル、36…筒部、37…培養面、39…微細ウェル、40…蓋部、42…上面部、42a…上面、44…突起、44a…上面、44b…内縁、100…支柱、110…上端面、112…下端。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12