(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042523
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】乾燥方法
(51)【国際特許分類】
F26B 5/04 20060101AFI20220308BHJP
F26B 3/347 20060101ALI20220308BHJP
F26B 5/14 20060101ALI20220308BHJP
F26B 21/10 20060101ALI20220308BHJP
A61F 13/53 20060101ALI20220308BHJP
B09B 3/40 20220101ALN20220308BHJP
B09B 3/00 20220101ALN20220308BHJP
【FI】
F26B5/04
F26B3/347
F26B5/14
F26B21/10 A
F26B21/10 Z
A61F13/53
B09B3/00 303Z
B09B3/00 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147922
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】594029333
【氏名又は名称】不二商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】田中 辰己
【テーマコード(参考)】
3B200
3L113
4D004
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200BB17
3L113AA01
3L113AB06
3L113AB10
3L113AC12
3L113AC23
3L113AC67
3L113AC73
3L113AC76
3L113AC77
3L113BA14
3L113CB07
3L113CB13
3L113DA10
4D004AA50
4D004AB01
4D004AC04
4D004CA42
4D004CB04
4D004CB33
4D004CB50
4D004CC09
4D004DA06
4D004DA07
(57)【要約】
【課題】より短時間で乾燥対象物を乾燥することができる乾燥方法を提供する。
【解決手段】乾燥方法は、減圧ポンプ12aを作動することによりチャンバー11内を減圧低温化させる初期減圧低温化工程S2と、初期減圧低温化工程S2の後に複数回繰り返す乾燥サイクル工程S3とを備える。乾燥サイクル工程S3は、チャンバー11内にマイクロ波を照射して、チャンバー11内の乾燥対象物Wを加熱するマイクロ波加熱工程S32と、マイクロ波加熱工程S32の後に、マイクロ波の照射を停止した状態で、減圧ポンプ12aを作動することにより再びチャンバー11内を減圧低温化させる減圧低温化工程S33とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に配置された乾燥対象物を乾燥させる乾燥方法であって、
減圧ポンプを作動することにより前記チャンバー内を減圧低温化させる初期減圧低温化工程と、
前記初期減圧低温化工程の後に複数回繰り返す乾燥サイクル工程と、
を備え、
前記乾燥サイクル工程は、
前記チャンバー内にマイクロ波を照射して、前記チャンバー内の前記乾燥対象物を加熱するマイクロ波加熱工程と、
前記マイクロ波加熱工程の後に、前記マイクロ波の照射を停止した状態で、前記減圧ポンプを作動することにより再び前記チャンバー内を減圧低温化させる減圧低温化工程と、
を備える、乾燥方法。
【請求項2】
前記乾燥サイクル工程は、
前記減圧ポンプの作動を停止することにより、減圧低温化された前記チャンバー内を増圧する増圧工程と、
前記増圧工程の後に行う前記マイクロ波加熱工程と、
前記マイクロ波加熱工程の後に行う前記減圧低温化工程と、
を備える、請求項1に記載の乾燥方法。
【請求項3】
前記マイクロ波加熱工程は、前記増圧工程により増圧された前記チャンバー内を前記減圧ポンプを作動することにより減圧しながら、前記チャンバー内に前記マイクロ波を照射して、前記チャンバー内の前記乾燥対象物を加熱する、請求項2に記載の乾燥方法。
【請求項4】
前記マイクロ波加熱工程における前記減圧ポンプと前記チャンバーとの間の流路に配置されたバルブ開度は、前記初期減圧低温化工程及び前記減圧低温化工程における前記バルブ開度より小さく設定されている、請求項3に記載の乾燥方法。
【請求項5】
前記増圧工程は、水の三重点より大きな圧力で、且つ、10kPa以下の範囲で、前記チャンバー内を増圧し、
前記マイクロ波加熱工程は、前記乾燥対象物を水の三重点より高温にする、請求項2-4の何れか1項に記載の乾燥方法。
【請求項6】
前記初期減圧低温化工程及び前記減圧低温化工程は、水の三重点より大きな圧力の範囲であり、水の三重点より高温の範囲で行う、請求項1-5の何れか1項に記載の乾燥方法。
【請求項7】
前記乾燥方法は、さらに、
前記乾燥サイクル工程の後に前記減圧ポンプの作動により前記チャンバー内を水の三重点以下に減圧して前記乾燥対象物を凍結する凍結工程を備える、請求項1-6の何れか1項に記載の乾燥方法。
【請求項8】
前記乾燥対象物は、吸水性ポリマーを備えた紙おむつにおいて前記吸水性ポリマーが水分を吸収した状態の使用済み紙おむつである、請求項1-7の何れか1項に記載の乾燥方法。
【請求項9】
前記マイクロ波加熱工程は、前記初期減圧低温化工程の開始時点における前記チャンバー内の温度を上限として加熱する、請求項8に記載の乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乾燥対象物を乾燥する方法として凍結乾燥(フリーズドライ)が知られている。凍結乾燥は、特に、食品等に用いられている。しかし、凍結乾燥では乾燥までに要する時間が長いという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1-2には、凍結乾燥とは異なる乾燥方法が提案されている。特許文献1には、チャンバー内を6.7~20.0kPaに減圧した状態で、マイクロ波の照射を周期的にオンオフして加熱と冷却を繰り返すことにより、乾燥対象物を乾燥することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、乾燥対象物が凍結した状態で入っている撹拌槽を冷却しながら減圧する第1工程、撹拌槽で撹拌と加熱を行い、乾燥対象物を減圧乾燥させる第2工程、撹拌槽で撹拌しながら当該撹拌槽の内部に液体窒素を供給することで乾燥対象物を凍結させる第3工程を行うことにより、乾燥対象物を乾燥させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4474506号公報
【特許文献2】特開2020-085346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記とは異なる乾燥方法であって、より短時間で乾燥対象物を乾燥することができる乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
乾燥方法は、チャンバー内に配置された乾燥対象物を乾燥させる乾燥方法であって、減圧ポンプを作動することにより前記チャンバー内を減圧低温化させる初期減圧低温化工程と、前記初期減圧低温化工程の後に複数回繰り返す乾燥サイクル工程とを備える。前記乾燥サイクル工程は、前記チャンバー内にマイクロ波を照射して、前記チャンバー内の前記乾燥対象物を加熱するマイクロ波加熱工程と、前記マイクロ波加熱工程の後に、前記マイクロ波の照射を停止した状態で、前記減圧ポンプを作動することにより再び前記チャンバー内を減圧低温化させる減圧低温化工程とを備える。
【0008】
凍結乾燥のように減圧低温化を行うだけでは、乾燥時間が長くなる。乾燥サイクル工程において、減圧低温化の処理に加えて、乾燥対象物を加熱することで、乾燥時間を短くできる。特に、乾燥方法では、乾燥サイクル工程を複数回繰り返している。つまり、減圧低温化の処理の後に、加熱して、再び減圧低温化の処理を行うことで、より乾燥時間を短くできる。ここで、発明者は、減圧低温化の処理において、乾燥対象物の温度が高い状態を初期状態とすると、乾燥効率が高いことを発見した。つまり、加熱と減圧低温化とを繰り返すことにより、温度が高い状態を初期状態とした減圧低温化の処理を繰り返すことができる。従って、乾燥効率を高めることができ、結果として乾燥時間をより短くできる。
【0009】
さらに、加熱はマイクロ波の照射により行う。マイクロ波の照射により、乾燥対象物に含まれている水分を効率的に加熱することができる。従って、上述した乾燥効率を高めることがより効果的にできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】乾燥装置による乾燥方法(制御方法)を示すフローチャートである。
【
図4】水の状態図(相図)を示し、
図3に示す乾燥方法を適用した場合の状態変化軌跡を示す。
【
図6】
図5に示す複数の実験例について、水分量の減少の時間経過を示すグラフである。
【
図7】水の状態図(相図)を示し、
図6のCの乾燥方法(凍結乾燥)を適用した場合の状態変化軌跡を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.乾燥対象物W)
乾燥対象物Wは、水分を含む物であって、乾燥を行う物全てを含む。例えば、乾燥対象物Wは、食品、植物、使用済み紙おむつ等を含む。特に、乾燥対象物Wは、使用済み紙おむつ等のように、乾燥後に廃棄する物が好適である。例えば、好適な乾燥対象物Wは、水分を除去することのみを目的とし、例えば水の沸騰により組成が変化することを許容できる物である。
【0012】
ここで、好適な乾燥対象物Wの1つとしての使用済み紙おむつの構成について、簡単に説明する。紙おむつは、公知の構成を有しており、表面層(透水性不織布)、吸水層(吸水性ポリマー等)、防水層(非透水性カバーシート)等を備えている。
【0013】
表面層は、例えばポリプロピレン製の不織布により形成されている。表面層の端縁には、ギャザーが形成され、大便漏れ等の防止をしている。吸水層は、吸水紙、綿状パルプ及び高分子吸収材(吸水性ポリマー)等より形成されている。高分子吸収材は、水分を含むとゲル状となって、圧力が負荷されても、水分が染み出すことなく、尿戻りを防止する。防水層は、例えば、ポリプロピレン製フィルムにより形成されている。防水層の端縁にはギャザー或いはテープが設けられ尿漏れ等を防止している。
【0014】
使用済み紙おむつは、上述した紙おむつにおいて、紙おむつの構成材の内、高分子吸収材(吸水性ポリマー)が尿等の水分を含んだ状態のものである。高分子吸収材(吸水性ポリマー)は、上述のように特に尿等の水分を含んでゲル状となり、含まれた水分は蒸発しにくく難燃性を示すところから、使用済み紙おむつの焼却処理に高い燃焼エネルギーを要している。従って、使用済み紙おむつは、廃棄処理するためには、高分子吸収材に含まれている水分を除去することが有用である。
【0015】
(2.乾燥装置1の構成)
乾燥装置1の構成について
図1を参照して説明する。乾燥装置1は、乾燥対象物Wを収容可能なチャンバー11を備える。チャンバー11内は、圧力及び温度を調整可能である。チャンバー11には、乾燥対象物Wを載置する載置台11aが設けられている。
【0016】
乾燥装置1は、チャンバー11内の気体の圧力を調整する減圧装置12を備える。減圧装置12は、減圧ポンプ12a、メインバルブ12b、及び、リークバルブ12cを備える。減圧ポンプ12aは、チャンバー11内の気体を吸入し、外部へ排出する。つまり、減圧ポンプ12aが作動することにより、チャンバー11内を減圧することができる。メインバルブ12bは、チャンバー11と減圧ポンプ12aとの間の流路に配置され、流通する流体の流量を調整することができる。リークバルブ12cは、減圧ポンプ12aとメインバルブ12bとの間の流路に大気を供給するためのバルブであって、供給する大気の流量を調整することができる。
【0017】
つまり、減圧装置12は、減圧ポンプ12a及びリークバルブ12cを制御することにより、チャンバー11内を減圧したり、増圧したりすることが可能である。すなわち、減圧ポンプ12aが作動し、且つ、リークバルブ12cが閉じている場合には、チャンバー11内を減圧することができる。一方、減圧ポンプ12aの作動を停止し、且つ、リークバルブ12cが開いている場合には、チャンバー11内を増圧することができる。さらに、減圧装置12は、メインバルブ12bを調整することにより、チャンバー11内の減圧速度及び増圧速度を調整することができる。
【0018】
乾燥装置1は、さらに、チャンバー11内にマイクロ波を照射するマグネトロン13を備える。特に、マグネトロン13は、チャンバー11内にマイクロ波を照射することにより、チャンバー11内に配置された乾燥対象物Wを加熱することができる。
【0019】
乾燥装置1は、さらに、チャンバー11内の圧力を検出する圧力センサ14、及び、チャンバー11内における乾燥対象物Wの温度を検出する温度センサ15を備える。ただし、温度センサ15は、チャンバー11内の雰囲気温度を検出することにより乾燥対象物Wの温度を間接的に検出しても良いし、乾燥対象物Wの温度を直接検出しても良い。乾燥装置1は、さらに、減圧装置12及びマグネトロン13を制御する制御装置16を備える。
【0020】
(3.乾燥方法(制御方法)の概要)
乾燥装置1による乾燥対象物Wの乾燥方法について
図2を参照して説明する。ここで、乾燥方法は、乾燥装置1の制御装置16の制御方法に相当する。
【0021】
図2に示すように、まず、作業者又は作業ロボット(図示せず)によって、チャンバー11内に乾燥対象物Wを投入される(乾燥対象物投入工程S1)。制御装置16は、例えば、チャンバー11に設けられた開閉扉を開き、乾燥対象物Wが投入された後に開閉扉を閉じる。ここで、乾燥対象物Wは、常温(室温)である。例えば、15℃-30℃の範囲である。つまり、乾燥対象物Wは、凍結されていない。
【0022】
続いて、制御装置16は、減圧ポンプ12aの作動を開始する。このとき、制御装置16は、メインバルブ12bの開度を100%とし、リークバルブ12cの開度を0%とする。そうすると、チャンバー11内が減圧低温化される(初期減圧低温化工程S2)。例えば、初期減圧低温化工程S2では、水の三重点(氷と水と水蒸気の3つの状態が平衡して共存する状態)付近を目標とする。より詳細には、初期減圧低温化工程S2では、水の三重点より大きな圧力の範囲で、且つ、水の三重点より高温の範囲で行われると良い。水の三重点は、約610Pa、約0.01℃である。
【0023】
例えば、初期減圧低温化工程S2は、チャンバー11内の圧力を、初期状態である大気圧(101300Pa:1気圧)から、600Pa-800Paの範囲に至るまで減圧する。チャンバー11内を水の三重点の圧力(約610Pa)に減圧していくと、チャンバー11内は、水の三重点の温度(約0.01℃)に近づいていく。仮に、チャンバー11内を水の三重点の圧力(約610Pa)よりもさらに減圧すると、チャンバー11内は、水の三重点の温度(約0.01℃)より低くなる。本例では、例えば、初期減圧低温化工程S2では、チャンバー11内を600Pa-800Paの範囲に減圧することにより、チャンバー11内が低温化される。
【0024】
また、初期減圧低温化工程S2では、チャンバー11内の圧力を目標圧力(600Pa-800Pa)となるように、制御装置16は、圧力センサ14の検出圧力を用いて、メインバルブ12bの開度を調整することもできる。例えば、チャンバー11内の圧力が目標圧力に近づいてきた場合には、メインバルブ12bの開度を小さくして、チャンバー11内の減圧速度を低下させる。そして、制御装置16は、チャンバー11内の圧力が目標圧力に到達した際に、減圧ポンプ12aの作動を停止する。
【0025】
続いて、制御装置16は、初期減圧低温化工程S2の後に、複数回繰り返す乾燥サイクル工程S3を実行する。1回の乾燥サイクル工程S3は、増圧工程S31、マイクロ波加熱工程S32、減圧低温化工程S33を順に実行する。つまり、複数回の乾燥サイクル工程S3では、増圧工程S31、マイクロ波加熱工程S32、減圧低温化工程S33が、複数回繰り返される。
【0026】
増圧工程S31は、減圧ポンプ12aの作動を停止することにより、減圧低温化されたチャンバー11内を増圧する。このとき、制御装置16は、減圧ポンプ12aの作動を停止すると共に、リークバルブ12cを開く。その結果、チャンバー11内に、大気が流入することで、チャンバー11内が増圧される。
【0027】
ここで、増圧工程S31では、チャンバー11内を大気圧まで増圧するのではなく、例えば、水の三重点の圧力(約610Pa)より大きな圧力で、且つ、10kPa以下の範囲で、チャンバー11内を増圧する。特に好適には、増圧工程S31では、5kPa以下の範囲とする。そこで、メインバルブ12bの開度を100%とするのではなく、例えば、30%-80%の範囲とすると良い。
【0028】
マイクロ波加熱工程S32は、増圧工程S31の後に、マグネトロン13を作動することによりチャンバー11内にマイクロ波を照射する。マイクロ波が照射されることにより、チャンバー11内の乾燥対象物Wが加熱される。特に、マイクロ波加熱工程S32では、乾燥対象物Wを水の三重点より高温の状態にする。
【0029】
増圧工程S31にてチャンバー11内が増圧され、乾燥対象物Wが含む水分が液相(水)の状態とすることにより、マイクロ波による加熱が効率的に行われる。また、マイクロ波は、チャンバー11内が真空状態よりも大気圧に近いほど、伝搬されやすい。つまり、増圧工程S31にてチャンバー11内が増圧されることによって、チャンバー11内を通過して、マイクロ波が乾燥対象物Wに伝搬されやすくなる。このことにより、乾燥対象物Wにマイクロ波を効果的に照射することができ、乾燥対象物Wを効率的に加熱することができる。
【0030】
ここで、マイクロ波加熱工程S32では、減圧ポンプ12aを作動させてチャンバー11内を減圧しながらマイクロ波を照射しても良いし、減圧ポンプ12aの作動を停止させた状態でマイクロ波を照射しても良い。
【0031】
マイクロ波加熱工程S32において減圧ポンプ12aを作動させる際には、メインバルブ12bの開度を100%としても良いし、100%以外の開度としても良い。マイクロ波により乾燥対象物Wを効果的に加熱するためには、メインバルブ12bの開度を30%-80%の範囲に設定すると良い。つまり、マイクロ波加熱工程S32におけるメインバルブ12bの開度は、初期減圧低温化工程におけるメインバルブ12bの開度よりも小さく設定されている。
【0032】
そして、マイクロ波を照射することにより、乾燥対象物Wが加熱されると、チャンバー11内に水蒸気が発生する状態になる場合がある。このとき、減圧ポンプ12aを作動しておくことにより、チャンバー11内の水蒸気を減少させることができる。チャンバー11内の水蒸気を減少させることにより、マイクロ波により乾燥対象物Wを効果的に加熱することができる。
【0033】
マイクロ波加熱工程S32において減圧ポンプ12aの作動を停止させる場合には、チャンバー11内に水蒸気が充満する状態となる場合がある。従って、マイクロ波による乾燥対象物Wの加熱の効果が低減する可能性がある。ただし、減圧ポンプ12aの作動を停止させたとしても、乾燥対象物Wを加熱することができる。
【0034】
また、乾燥対象物Wが使用済み紙おむつである場合には、マイクロ波加熱工程S32では、乾燥対象物Wの温度を、初期減圧低温化工程S2の開始時点におけるチャンバー11内の温度を上限として加熱すると良い。仮に、加熱された乾燥対象物Wの温度を常温(室温)より高温にすると、臭気が問題となるおそれがある。そこで、加熱された乾燥対象物Wの温度を、常温(室温)を上限とすることで、臭気の問題を抑制することができる。
【0035】
減圧低温化工程S33は、マイクロ波加熱工程S32の後に、マグネトロン13を停止することによりマイクロ波の照射を停止して、減圧ポンプ12aを作動することにより再びチャンバー11内を減圧低温化させる。減圧低温化工程S33は、実質的に、初期減圧低温化工程S2と同様の処理を行う。ただし、減圧低温化工程S33におけるチャンバー11内及び乾燥対象物Wが、マイクロ波加熱工程S32の後の状態である点が、初期減圧低温化工程S2とは異なる。
【0036】
減圧低温化工程S33が終了すると、1回の乾燥サイクル工程S3が終了することになる。乾燥サイクル工程S3の指定サイクル数に到達したか否かを判定し、指定サイクル数に達していなければ(S4:No)、再び、増圧工程S31から減圧低温化工程S33までを繰り返す(S4)。このように、乾燥サイクル工程S3を複数回繰り返すことにより、乾燥対象物Wに含まれる水分の大部分が減少し、乾燥対象物Wを乾燥させることができる。
【0037】
続いて、制御装置16は、乾燥サイクル工程S3が指定サイクル数繰り返された後には(S4:Yes)、凍結工程S5を実行する。凍結工程S5は、減圧ポンプ12aの作動によりチャンバー11内を水の三重点以下に減圧して、乾燥対象物Wを凍結する。ここで、凍結工程S5の開始時点において、既に乾燥対象物Wに含まれる大部分の水分は減少している。従って、凍結工程S5において、乾燥対象物Wを凍結するために要する時間は短時間で足りる。
【0038】
続いて、凍結工程S5を終了すると、作業者又は作業ロボットによって、チャンバー11内の凍結された乾燥対象物Wを取り出す(乾燥対象物取出工程S6)。制御装置16は、例えば、チャンバー11に設けられた開閉扉を開き、乾燥対象物Wが取り出した後に開閉扉を閉じる。乾燥対象物Wが凍結されているため、乾燥対象物Wが使用済み紙おむつである場合であっても、臭気が漏れることなく、チャンバー11の外に取り出すことができる。
【0039】
凍結工程S5における減圧レベルは、例えば、100Pa-200Paの範囲である。つまり、凍結工程S5では、乾燥を目的としておらず、凍結のみを目的とするため、いわゆる凍結乾燥(フリーズドライ)に用いられる減圧レベルに比べて高圧である。つまり、凍結工程S5を適用する場合において、減圧ポンプ12aのスペックを、凍結乾燥(フリーズドライ)を適用する場合に比べて低くすることができる。
【0040】
ここで、上記乾燥方法において、凍結工程S5を行わず、乾燥対象物Wをチャンバー11から取り出しても良い。この場合、乾燥対象物Wは乾燥されてはいるが、凍結されていない。ただし、乾燥対象物Wに僅かに残る水分に含まれる臭気成分によって、臭気が発生する場合がある。ただし、乾燥対象物Wを乾燥することを目的とするのであれば、凍結工程S5を行わなくても良い。
【0041】
(4.乾燥方法の具体例)
乾燥方法の具体例について
図3を参照して説明する。T11において、チャンバー11内に乾燥対象物Wを投入する(
図2のS1)。T11において、チャンバー11内は大気圧であり、常温(室温、例えば、20℃)である。そして、減圧ポンプ12aの作動を開始する(
図2のS2)。このとき、メインバルブ12bの開度は100%であり、リークバルブ12cは閉じており、さらに、マイクロ波は照射されていない。従って、チャンバー11内の圧力が低下すると共に、温度も低下する。このとき、乾燥対象物Wに含まれる水分は、水(液相)と水蒸気(気相)とが混在していると考えられる。
【0042】
そして、T12に、目標圧力(600Pa)よりも少し高い圧力(800Pa)に到達する。そうすると、メインバルブ12bの開度を65%に低下する。つまり、チャンバー11内の減圧速度が低下する。
【0043】
T21において、チャンバー11内が目標圧力(600Pa)に達すると、初期減圧低温化工程(S2)を終了し、乾燥サイクル工程(
図2のS3)の増圧工程(
図2のS31)が実行される。つまり、減圧ポンプ12aの作動を停止し、リークバルブ12cを開く。このとき、メインバルブ12bの開度は、65%を維持する。また、マイクロ波は照射されていない。増圧工程(S31)によって、乾燥対象物Wに含まれる水分は、水(液相)となる。
【0044】
T21から例えば、1分間経過すると、T22となる。T22において、乾燥サイクル工程(S3)のマイクロ波加熱工程(
図2のS32)が実行される。つまり、マイクロ波の照射がされる。このとき、本例では、減圧ポンプ12aの作動を開始し、リークバルブ12cを閉じる。そして、メインバルブ12bの開度は65%を維持する。従って、乾燥対象物Wに含まれる水分は、水(液相)の状態で、温度が高くなる。
【0045】
T22から例えば、2分間経過すると、T23となる。T23において、乾燥サイクル工程(S3)の減圧低温化工程(
図2のS33)が実行される。つまり、マイクロ波の照射が停止され、減圧ポンプ12aによってチャンバー11内が減圧される。T23においては、メインバルブ12bの開度が、100%にされる。従って、チャンバー11内の圧力が低下すると共に、温度も低下する。このとき、乾燥対象物Wに含まれる水分は、水(液相)と水蒸気(気相)とが混在していると考えられる。
【0046】
そして、T24に、目標圧力(600Pa)よりも少し高い圧力(800Pa)に到達する。そうすると、メインバルブ12bの開度を65%に低下する。つまり、チャンバー11内の減圧速度が低下する。
【0047】
T31において、チャンバー11内が目標圧力(600Pa)に達すると、1回目の乾燥サイクル工程(S3)を終了し、2回目の乾燥サイクル工程(S3)が開始される。つまり、減圧ポンプ12aの作動を停止し、リークバルブ12cを開く。このとき、メインバルブ12bの開度は、65%を維持する。また、マイクロ波は照射されていない。増圧工程(S31)によって、乾燥対象物Wに含まれる水分は、水(液相)となる。
【0048】
そして、2回目の乾燥サイクル工程(S3)が、T31-T41にて実行され、3回目の乾燥サイクル工程(S3)が、T41-T51にて実行され、4回目の乾燥サイクル工程(S3)が、T51-T61にて実行され、5回目の乾燥サイクル工程(S3)が、T61-T71にて実行され、6回目の乾燥サイクル工程(S3)が、T71-T81にて実行され、7回目の乾燥サイクル工程(S3)が、T81-T91にて実行され、8回目の乾燥サイクル工程(S3)が、T91-T101にて実行される。ただし、最終回である8回目の乾燥サイクル工程(S3)の減圧低温化工程S33(T93-T101)では、メインバルブ12bの開度を100%で維持する。
【0049】
T101において、乾燥サイクル工程(S3)の減圧低温化工程(S33)が終了すると、引き続き、凍結工程(
図2のS5)が開始される。凍結工程(S5)では、制御装置16は、最終回の減圧低温化工程(S33)と同様の状態を継続する。つまり、マイクロ波の照射が停止され、減圧ポンプ12aによってチャンバー11内が減圧される。そして、メインバルブ12bの開度が、100%にされる。
【0050】
T102において、チャンバー11内が目標最終圧力(例えば、100Pa-200Pa)に達すると、凍結工程(S5)を終了する。そして、チャンバー11内から、乾燥され且つ凍結された乾燥対象物Wを取り出す(
図2のS6)。
【0051】
(5.水の状態図における状態変化軌跡)
上述した乾燥方法において、乾燥対象物Wに含まれる水分の状態変化について、
図4の水の状態図を用いて説明する。乾燥対象物投入工程(
図2のS1)である開始点は、1気圧で常温(室温、例えば20℃)である。初期減圧低温化工程(
図2のS2)で、チャンバー11内が減圧されて、水(液相)と水蒸気(気相)の境界線に沿って水の三重点に向かって移動する。
【0052】
その後、乾燥サイクル工程(
図2のS3)では、水の三重点付近と、水の三重点より高温の点との間で、往復する。往復する際の経路は、
図3に示す具体例では、往路と復路で異なる。ただし、往復する際の経路は、往路と復路が同一となるようにしても良い。その後、凍結工程(
図2のS5)では、水の三重点から、固相(氷)と気相(水蒸気)との境界線に沿って移動する。
【0053】
(6.比較実験)
次に、上述した乾燥方法と、上述した乾燥方法とは異なる乾燥方法とについて、乾燥時間について実験を行った。
【0054】
実験を行った乾燥方法(A,B,C,D)は、
図5に示す。ここで、乾燥対象物Wは、初期状態において、300gの水分を含んでいる。また、乾燥対象物Wに含まれる水分が、30gに達したときを乾燥した状態とする。
【0055】
実験例Aは、上述した
図3に示す乾燥方法である。つまり、実験例Aは、チャンバー11に投入した際の乾燥対象物Wの初期状態が、常温(室温、例えば20℃)であって、乾燥過程では、乾燥サイクル(
図2のS3)を実行する。
【0056】
実験例Bは、チャンバー11に投入した際の乾燥対象物Wの初期状態が、凍結された状態であって、乾燥過程では、減圧ポンプ12aを常時駆動することによってチャンバー11内を減圧する。実験例Bは、いわゆる凍結乾燥(フリーズドライ)である。つまり、減圧ポンプ12aによって、例えば、チャンバー11内が50Paより低圧となるまで減圧する。そして、乾燥対象物Wが昇華によって乾燥する。
【0057】
実験例Cは、チャンバー11に投入した際の乾燥対象物Wの初期状態が、凍結された状態であって、乾燥過程では、減圧ポンプ12aを常時駆動することによってチャンバー11内を減圧すると共に、ヒータ(図示せず)によって載置台11aを常時加熱することにより乾燥対象物Wを加熱し続ける。つまり、乾燥対象物Wが昇華によって乾燥する。ヒータは、昇華を活発にする作用を有する。
【0058】
実験例Dは、チャンバー11に投入した際の乾燥対象物Wの初期状態が、常温(室温)であって、乾燥過程は、実験例Cと同様に、減圧ポンプ12aを常時駆動することによってチャンバー11内を減圧すると共に、ヒータによって載置台11aを常時加熱することにより乾燥対象物Wを加熱し続ける。つまり、乾燥対象物Wは、三重点より高い温度領域において蒸発し、その後、三重点より低い温度領域において昇華する。
【0059】
実験結果は、
図6に示す。乾燥対象物Wに含まれる水分が30gに達するまでの時間は、実験例Aは、2.5時間、実験例Bは、69時間、実験例Cは、31時間、実験例Dは、23時間である。上述した乾燥サイクル工程S3を実行する実験例Aは、他と比べて、極めて短時間で乾燥していることが分かる。
【0060】
ここで、
図6の実験例Cにおいて、乾燥対象物Wに含まれる水分の状態変化は、
図7の水の状態図に示す矢印付き実線のとおりである。開始点は、乾燥対象物Wが凍結された温度(例えば、-20℃)となる。その後、チャンバー11内が減圧されて、氷(固相)と水蒸気(気相)の境界線に向かって移動する。その後、氷(固相)水蒸気(気相)との境界線に沿って移動して、乾燥を終了する。
【0061】
実験例Bに示すように、凍結乾燥(フリーズドライ)として減圧低温化を行うだけでは、乾燥時間が長くなる。実験例Cに示すように、ヒータを用いることで、乾燥時間を短くできる。実験例Dに示すように、乾燥対象物Wの初期状態を常温とすることにより、乾燥時間を短くすることができる。このように、実験例C,Dに示すように、減圧低温化の処理に加えて、乾燥対象物Wを加熱することで、乾燥時間を短くできる。
【0062】
ここで、実験例B,C,Dにおいて、何れも、
図6において、乾燥を開始した初期が、最も水分減少量が大きい。つまり、減圧低温化の処理において、乾燥対象物Wの温度が高い状態ほど、乾燥効率が高いことが分かる。さらに、乾燥対象物Wが、凍結状態である実験例Cの場合と、常温である実験例Dの場合とを比べると、温度が高い実験例Dの方が、より乾燥効率が高いことが分かる。
【0063】
そこで、乾燥効率が高い状態を何度も繰り返すことができれば、乾燥時間を短くすることができる。そこで、実験例Aに示すように、減圧低温化の処理の後に、加熱して、再び減圧低温化の処理を行うことした。つまり、加熱と減圧低温化とを繰り返すことにより、乾燥対象物Wを温度が高い状態を初期状態とした減圧低温化の処理を繰り返すことができる。従って、乾燥効率を高めることができ、結果として乾燥時間をより短くできる。
【0064】
さらに、加熱はマイクロ波の照射により行う。マイクロ波の照射により、乾燥対象物に含まれている水分を効率的に加熱することができる。従って、上述した乾燥効率を高めることがより効果的にできる。
【符号の説明】
【0065】
1:乾燥装置、 11:チャンバー、 11a:載置台、 12:減圧装置、 12a:減圧ポンプ、 12b:メインバルブ、 12c:リークバルブ、 13:マグネトロン、 14:圧力センサ、 15:温度センサ、 16:制御装置、 S1:乾燥対象物投入工程、 S2:初期減圧低温化工程、 S3:乾燥サイクル工程、 S31:増圧工程、 S32:マイクロ波加熱工程、 S33:減圧低温化工程、 S5:凍結工程、 S6:乾燥対象物取出工程、 W:乾燥対象物