(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042541
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】放電加工機
(51)【国際特許分類】
B23H 1/02 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
B23H1/02 D
B23H1/02 C
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147952
(22)【出願日】2020-09-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦治
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 慶輝
(72)【発明者】
【氏名】塙 智仁
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059BA03
3C059BA07
3C059CB07
3C059CC01
3C059CE06
3C059CE08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より正確に除去量を推定できる放電加工機を提供する。
【解決手段】放電加工機は、加工間隙に電流を供給する直流電源21と、直流電源21と加工間隙との間に直列に設けられる主スイッチング素子23と、正極性スイッチング素子251と、逆極性スイッチング素子253と、を含む極性切換回路25と、スイッチング素子を所定のスイッチング周波数で切換え正極性加工および逆極性加工を行うパルス発生装置27と、加工間隙における極間電圧を検出する検出回路3と、スイッチング素子の動作パターンのそれぞれについて放電数あたりの除去量を示す係数が記憶されるとともに、極間電圧から放電数を算出し放電数および動作パターンに応じた係数とから除去量を推定する放電制御装置41と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物と工具電極とによって形成される加工間隙に直列に接続され、前記加工間隙に電流を供給する直流電源と、
前記直流電源と前記加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子である主スイッチング素子と、
前記直流電源の正極側と前記被加工物との間に設けられるスイッチング素子と前記直流電源の負極側と前記工具電極との間に設けられるスイッチング素子とを有する正極性スイッチング素子と、前記直流電源の負極側と前記被加工物との間に設けられるスイッチング素子と前記直流電源の正極側と前記工具電極との間に設けられるスイッチング素子とを有する逆極性スイッチング素子と、を含む極性切換回路と、
前記逆極性スイッチング素子がオフの状態で前記主スイッチング素子および前記正極性スイッチング素子のオン/オフを所定のスイッチング周波数で切換え正極性加工を行い、前記正極性スイッチング素子がオフの状態で前記主スイッチング素子および前記逆極性スイッチング素子のオン/オフを前記スイッチング周波数で切換え逆極性加工を行うパルス発生装置と、
前記被加工物または前記工具電極に接続され、前記加工間隙における極間電圧を検出する検出装置と、
前記正極性加工時において前記正極性スイッチング素子がオンであるとき、前記正極性加工時において前記正極性スイッチング素子がオフであるとき、前記逆極性加工時において前記逆極性スイッチング素子がオンであるとき、および前記逆極性加工時において前記逆極性スイッチング素子がオフであるときのいずれかであるかによって区分される動作パターンのそれぞれについて放電数あたりの除去量を示す係数が記憶されるとともに、前記極間電圧から前記放電数を算出し前記放電数および前記動作パターンに応じた前記係数とから除去量を推定する放電制御装置と、を備える、放電加工機。
【請求項2】
前記検出装置は、
前記被加工物または前記工具電極に接続される入力装置と、
前記入力装置と接続される同軸ケーブルと、
前記同軸ケーブルと接続され、前記極間電圧の電圧信号から前記加工間隙における電圧波形のデータを生成する出力装置と、を含む、請求項1に記載の放電加工機。
【請求項3】
前記同軸ケーブルの内部導体の線抵抗値は、30Ω/m以上100Ω/m以下である、請求項2に記載の放電加工機。
【請求項4】
前記スイッチング周波数は、2MHz以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の放電加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工機においては、被加工物は所定の加工間隙を隔てて工具電極に対向配置される。換言すれば、被加工物と工具電極とが、所定の加工間隙を形成する。放電加工機は、加工間隙に加工電圧を印加して放電を発生させるとともに、工具電極と被加工物とを相対移動させて放電エネルギにより被加工物を所望の形状に加工する。以下、加工間隙に生じる放電の発生回数を放電数、被加工物において放電により除去される量を除去量という。
【0003】
直流電源と加工間隙との間に、直列に1つ以上のスイッチング素子が設けられる。スイッチング素子のオン/オフが所定のスイッチング周波数で繰り返し行われることによって所定の休止時間毎に電圧が印加され、加工間隙に繰り返し放電が発生する。以下、加工間隙への電圧供給のオン/オフを切り替えるためのスイッチング素子を主スイッチング素子という。
【0004】
放電加工においては、被加工物を正極、工具電極を負極とする加工が基本である。一方、工具電極や被加工物の材質、加工形状、または加工工程によっては、被加工物を負極、工具電極を正極とする加工が、要求される加工結果をよりよく得る上で適切であることがある。一般に、被加工物を正極、工具電極を負極とする加工は、正極性加工と称される。また、正極性加工に対して、被加工物を負極、工具電極を正極とする加工は、逆極性加工と称される。
【0005】
また、加工中に正極性加工および逆極性加工の一方のみを行う加工と、加工中に適宜正極性加工と逆極性加工とを切り換える加工がある。一般に、前者は直流加工、後者は交流加工と称される。特に、交流加工において、パルス毎に正極性加工と逆極性加工を切り換え、所定期間中の加工間隙における見かけ上の電圧を0Vにする加工方法は、両極性加工と称される。以下においては、直流加工か交流加工(両極性加工を含む)かを問わず、その時々において被加工物が正極であるか負極であるかによって、正極性加工であるか逆極性加工であるかが定義される。すなわち、被加工物を正極、工具電極を負極として、加工間隙に電圧が印加されてから休止時間を終えるまでに起こる放電を、正極性加工時に起きた放電とし、被加工物を負極、工具電極を正極として、加工間隙に電圧が印加されてから休止時間を終えるまでに起こる放電を、逆極性加工時に起きた放電とする。
【0006】
正極性加工と逆極性加工を切換え可能に構成された放電加工機は、放電加工回路中に極性を切り換える極性切換回路を備えている。交流加工を実施する放電加工回路においては、直流電源と加工間隙との間にリングコア等の変換器を設けて交流を供給する構成と、直流電源と加工間隙との間に設けられている切換スイッチを利用して交流を供給する構成がよく知られている。特に、切換スイッチによって交流加工を実施する場合は、高周波交流を供給することができるように、切換スイッチは、高速でオンオフ動作できる複数のスイッチング素子で形成される。
【0007】
正極性加工時にゲート信号が供給される正極性スイッチング素子は、オン時に、直流電源の正極側と被加工物とを電気的に接続し、直流電源の負極側と工具電極とを電気的に接続する。逆極性加工時にゲート信号が供給される負極性スイッチング素子は、オン時に、直流電源の負極側と被加工物とを電気的に接続し、直流電源の正極側と工具電極とを電気的に接続する。
【0008】
なお、加工間隙に電圧を印加してから実際に放電が発生するまでには、不特定の時間がある。そのため、休止時間が短い高周波で繰り返し加工間隙に電圧を供給する放電加工回路においては、スイッチング素子がオンのときに放電が発生しなかった場合、加工間隙に残留した電荷によりスイッチング素子がオフのときに放電が発生することもありうる。
【0009】
ところで、放電加工の制御を行う上で放電数を計測することがある。例えば、特許文献1は、加工間隙の電圧から放電数を計測し、放電数に応じて被加工物と工具電極の相対位置を制御し、加工間隙の大きさを一定に維持するよう構成された放電加工機を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の放電加工機においては、放電数のみにより除去量を推定して制御を行っていた。しかしながら、放電1回あたりの除去量は、放電加工の運転状況によって変動しうる値であり、常に同一とは限らない。例えば、運転状況は、正極性加工時であって正極性スイッチング素子がオンの場合、正極性加工時であって正極性スイッチング素子がオフの場合、負極性加工時であって負極性スイッチング素子がオンの場合、負極性加工時であって負極性スイッチング素子がオフの場合の4つの動作パターンに区分される。各動作パターンにおいて、放電1回あたりの除去量はそれぞれ異なっている。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、スイッチング素子の動作パターンに応じて、より正確に除去量を推定できる放電加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、被加工物と工具電極とによって形成される加工間隙に直列に接続され、加工間隙に電流を供給する直流電源と、直流電源と加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子である主スイッチング素子と、直流電源の正極側と被加工物との間に設けられるスイッチング素子と直流電源の負極側と工具電極との間に設けられるスイッチング素子とを有する正極性スイッチング素子と、直流電源の負極側と被加工物との間に設けられるスイッチング素子と直流電源の正極側と工具電極との間に設けられるスイッチング素子とを有する逆極性スイッチング素子と、を含む極性切換回路と、逆極性スイッチング素子がオフの状態で主スイッチング素子および正極性スイッチング素子のオン/オフを所定のスイッチング周波数で切換え正極性加工を行い、正極性スイッチング素子がオフの状態で主スイッチング素子および逆極性スイッチング素子のオン/オフをスイッチング周波数で切換え逆極性加工を行うパルス発生装置と、被加工物または工具電極に接続され、加工間隙における極間電圧を検出する検出装置と、正極性加工時において正極性スイッチング素子がオンであるとき、正極性加工時において正極性スイッチング素子がオフであるとき、逆極性加工時において逆極性スイッチング素子がオンであるとき、および逆極性加工時において逆極性スイッチング素子がオフであるときのいずれかであるかによって区分される動作パターンのそれぞれについて放電数あたりの除去量を示す係数が記憶されるとともに、極間電圧から放電数を算出し放電数および動作パターンに応じた係数とから除去量を推定する放電制御装置と、を備える、放電加工機が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スイッチング素子の動作パターンに応じて、放電数から除去量を推定するにあたり、放電数あたりの除去量を示す係数が変更される。これにより、より正確に除去量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の放電加工機の概略構成図である。
【
図2】電源装置、検出装置、および制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に説明される各種変形例は、それぞれ任意に組み合わせて実施することができる。
【0017】
本実施形態に係る放電加工機1は、工具電極Eとしてワイヤ電極を使用するワイヤ放電加工機であるが、本発明は、総型電極を使用する形彫放電加工機、細穴電極を使用する細穴放電加工機、その他の放電加工機にも適用することができる。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る放電加工機1は、上ガイドアセンブリ11と、下ガイドアセンブリ13と、加工槽15と、テーブル17と、ワークスタンド19と、を備える。テーブル17は、加工槽15内に設けられ、ワークスタンド19は、テーブル17に立設されている。放電加工の対象となる被加工物Wは、ワークスタンド19に固定され、水平に配設されるように加工槽15内に載置される。被加工物Wの上下にそれぞれ上ガイドアセンブリ11および下ガイドアセンブリ13が設けられる。工具電極Eであるワイヤ電極は、上ガイドアセンブリ11内の不図示の上ガイドと下ガイドアセンブリ13内の不図示の下ガイドに案内され、上下に張架される。放電加工中は、加工槽15は絶縁性の加工液Lで満たされる。工具電極Eおよび被加工物Wは、電源装置2と電気的に接続される。
【0019】
工具電極Eは、被加工物Wに対して相対移動可能に構成される。具体的に、本実施形態の放電加工機1は、テーブル17を所定の水平方向であるX軸方向に移動させるX軸モータ61と、テーブル17をX軸に直交する水平方向であるY軸方向に移動させるY軸モータ63と、を含む駆動装置6を備える。放電加工にあたり、工具電極Eは、被加工物Wに対して、非接触を保ちつつ近接するよう相対移動される。被加工物Wと工具電極Eとの間の隙間を、加工間隙という。
【0020】
放電加工は、一般的には、取り代を段階的に小さくしながら、複数の加工工程で実施される。放電加工の各加工工程は、取り代が大きい順に、荒加工工程、中仕上げ工程、仕上げ工程と呼ばれる。加工工程毎に適する加工条件は異なっているので、放電加工機1の電源装置2は、荒加工工程用の放電加工回路、中仕上げ用工程の放電加工回路、仕上げ工程用の放電加工回路を含み、放電加工の進行状況に応じて適する放電加工回路を選択可能に構成されてよい。
【0021】
図2には、電源装置2の各放電加工回路のうち、中仕上げ工程用の放電加工回路が抜粋して示されている。また、本発明の説明に不要な構成は適宜図示を省略している。
図2に示すように、電源装置2は、直流電源21と、主スイッチング素子23と、極性切換回路25と、パルス発生装置27と、を含む。
【0022】
直流電源21は、被加工物Wと工具電極Eとによって形成される加工間隙に直列に接続され、加工間隙に電流を供給する。
【0023】
主スイッチング素子23は、直流電源21と加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子であり、加工間隙への電圧供給のオン/オフを切り替える。主スイッチング素子23は、加工間隙に供給する電流の大きさに対応して複数並列に設けられてもよい。極性切換回路25は、4つのスイッチング素子が設けられたいわゆるブリッジ回路であり、正極性加工と逆極性加工とを切り換える。具体的に、極性切換回路は、正極性加工時にゲート信号が供給される正極性スイッチング素子251と、逆極性加工時にゲート信号が供給される逆極性スイッチング素子253と、を含む。正極性スイッチング素子251は、直流電源21の正極側と被加工物Wとの間に設けられるスイッチング素子と、直流電源21の負極側と工具電極Eとの間に設けられるスイッチング素子と、を有する。逆極性スイッチング素子253は、直流電源21の負極側と被加工物Wとの間に設けられるスイッチング素子と、直流電源21の正極側と工具電極Eとの間に設けられるスイッチング素子と、を有する。各スイッチング素子は、例えば、MOSFET等の電解効果トランジスタである。なお、予め設定されているピーク電流値を超えるとき、主スイッチング素子23と極性切換回路25の各スイッチング素子は、それぞれ図示しないチョッパ回路によって、パルス発生装置27から供給されるゲート信号に関わらずにオフする。
【0024】
パルス発生装置27は、設定されている加工条件に基づいて主スイッチング素子23と極性切換回路25の各スイッチング素子を同期して制御することによって、加工条件に従う波形の電流パルスを加工間隙に供給する。特に、電流供給方式として、加工間隙に放電が発生するタイミングと無関係に主スイッチング素子23のオン/オフを操作する、いわゆるマルチ発振方式で電流パルスを供給する場合、不図示のコンピュータ数値制御装置からのゲート指令および極性指定に基づき、パルス発生装置27は、主スイッチング素子23と極性切換回路25の各スイッチング素子のオン/オフを所定のスイッチング周波数で切り換える。具体的に、パルス発生装置27は、正極性加工を行うときは、主スイッチング素子23および正極性スイッチング素子251に対して、所定のスイッチング周波数でゲート信号を供給する。これにより、逆極性スイッチング素子253がオフの状態で、主スイッチング素子23および正極性スイッチング素子251のオン/オフが所定のスイッチング周波数で切換えられる。また、パルス発生装置27は、逆極性加工を行うときは、主スイッチング素子23および逆極性スイッチング素子253に対して、所定のスイッチング周波数でゲート信号を供給する。これにより、正極性スイッチング素子251がオフの状態で、主スイッチング素子23および逆極性スイッチング素子253のオン/オフが所定のスイッチング周波数で切換えられる。
【0025】
ワイヤ放電加工において、中仕上げ工程時に設定されるスイッチング周波数は、例えば、数百kHzから2MHz程度である。
【0026】
主スイッチング素子23と、正極性スイッチング素子251または逆極性スイッチング素子253とがオンにされると、直流電源21から加工間隙に所定の電圧が印加され、不特定の遅延時間の後に絶縁破壊により放電が発生する。なお、加工間隙に電圧を印加しているときに放電が発生しないで、主スイッチング素子23および極性切換回路25の各スイッチング素子がオフすることもある。このとき、加工間隙に残留した電荷により、主スイッチング素子23と、正極性スイッチング素子251および逆極性スイッチング素子253とがオフのときに、放電が発生することもある。
【0027】
すなわち、放電が発生し得る時のスイッチング素子の動作パターンは、正極性加工時において正極性スイッチング素子251がオンであるとき(以下、正極性オン)、正極性加工時において正極性スイッチング素子251がオフであるとき(以下、正極性オフ)、逆極性加工時において逆極性スイッチング素子253がオンであるとき(以下、逆極性オン)、逆極性加工時において逆極性スイッチング素子253がオフであるとき(以下、逆極性オフ)の4つに区分される。各動作パターンにおいて、放電1回あたりの除去量はそれぞれ異なっている。
【0028】
図2に示されるように、放電加工機1は、極間電圧を検出して加工間隙における電圧波形を示すデータを出力する検出装置3を備えている。検出装置3は、被加工物Wまたは工具電極Eに接続される。検出装置3は、入力装置31と、同軸ケーブル33と、出力装置35と、を含む。
【0029】
入力装置31は、加工間隙における極間電圧を入力し、所定のサンプリング周波数で所定の電圧信号を取得する。入力装置31は、加工間隙と同軸ケーブル33との間に直列に設けられる抵抗とコンデンサの並列回路を含んでなる検出器である。
【0030】
同軸ケーブル33は、被加工物Wまたは工具電極Eと出力装置35との間、より具体的には入力装置31の抵抗とコンデンサの並列回路と、出力装置35の分圧回路351との間に直列に接続される。
図3に模式的に示される同軸ケーブル33は、中心軸線である内部導体331と、内部導体331を被覆する絶縁体333と、絶縁体333を被覆する外部導体335と、外部導体335を被覆する保護被膜337と、を有する。内部導体331は入力装置31と出力装置35とに接続され、外部導体335はグラウンドに接続される。
【0031】
従来の同軸ケーブルは、内部導体には体積抵抗率が低い材料、一般的には銅が使用されている。一方、中仕上げ工程や仕上げ工程では、電圧波形が高周波となるので、内部導体が銅である従来の同軸ケーブルでは電圧信号の反射が発生しやすく、正確な放電の検出が難しい。そのため、高周波の電圧波形を検出するにあたり、内部導体331の1mあたりの抵抗値、すなわち線抵抗値が比較的高い同軸ケーブル33が使用されることが望ましい。内部導体331の線抵抗値[Ω/m]は、体積抵抗率[Ω・m]を内部導体331の断面積[m2]で除することで求められる。具体的に、同軸ケーブル33の内部導体331の線抵抗値は、30Ω/m以上100以下Ω/mであることが望ましい。本実施形態では、19重量%以上21重量%以下のクロム、70重量%以上79重量%以下のニッケル、0重量%超の残部のアルミニウムからなるNi-Cr-Al合金が内部導体331の材料として使用された、同軸ケーブル33が使用される。当該Ni-Cr-Al合金の体積抵抗率は、1.28μΩ・m以上1.38μΩ・m以下である。また、内部導体331の線径は、例えば、0.18mmである。すなわち、本実施形態の内部導体331の線抵抗率は、約50Ω/mである。このような同軸ケーブル33によれば、電圧信号の反射を抑えることができるので、より正確に放電を検出することができる。
【0032】
出力装置35は、入力装置31から同軸ケーブル33を通して取得する極間電圧の電圧信号から加工間隙における電圧波形のデータを生成するとともに、アナログの電圧波形のデータをデジタルデータに変換して出力する。具体的に、出力装置35は、
図4に示すように、分圧回路351と、フィルタ回路353と、差動化回路355と、ADコンバータ357と、を有する。分圧回路351は、同軸ケーブル33から送られた電圧信号を分圧する。フィルタ回路353は、分圧回路351から送られた電圧信号のノイズを除去する。出力装置35は、分圧回路351とフィルタ回路353を通して、極間電圧の電圧信号に基づく加工間隙における電圧波形を取得する。差動化回路355は、フィルタ回路353から送られた電圧信号を増幅して、加工間隙におけるアナログの電圧波形のデータを生成する。ADコンバータ357は、差動化回路355から送られた所定のサンプリング周波数(クロック周波数)で出力されているアナログの電圧波形のデータを、より高いサンプリング周波数でデジタルデータに変換して出力する。ADコンバータ357において、サンプリング周波数をより高いサンプリング周波数に変更してデジタルの電圧波形のデータを生成することによって、より高精度に極間電圧を検出するようにすることができる。例えば、本実施形態の検出装置3においては、10MHzのサンプリング周波数のアナログの電圧波形のデータを100MHzのサンプリング周波数のデジタルの電圧波形データに変換するようにしている。デジタルデータに変換された電圧波形のデータは、制御装置5の放電制御装置41へと送られる。
【0033】
制御装置4は、不図示のコンピュータ数値制御装置(CNC)と、放電制御装置41と、モータ制御装置43と、を有する。放電制御装置41は、CNCから転送されてくる極性、ピーク電流値(平均加工電流値)、オン時間(パルス幅、放電時間)、オフ時間(休止時間)、電源電圧、電流供給方式、サーボ基準電圧のような予め設定されている所望の放電加工における初期の電気的な加工条件のパラメータのデータをセットする。また、放電制御装置41は、加工条件が諸々の理由で放電加工中に変更設定される場合は、保持している加工条件のパラメータのデータを変更してセットし直す。放電制御装置41は、現在保持している電気的な加工条件のうちの電流パルスに関する加工条件、例えば、ピーク電流値と、オン時間と、オフ時間とに相応する指令信号をパルス発生装置27に出力して、パルス発生装置27を通して電流パルスを制御する。また、放電制御装置41は、現在保持している加工条件に相応する指令信号を放電加工回路中に設けられている所定の切換スイッチ群に選択的に出力して切換スイッチを開閉操作する。また、放電制御装置41は、現在保持している加工条件に相応する指令信号を、放電加工回路中に設けられている例えば可変直流電源または可変抵抗器に出力して電源電圧値や抵抗値を設定し、あるいは比較器(基準入力端)に出力して基準値を設定する。特に、実施形態の放電制御装置41は、検出装置3から出力される電圧波形のデータに基づいて、放電数の計測を行う。モータ制御装置43は、コンピュータ数値制御装置からの指令と放電制御装置41が算出した除去量に基づいて、駆動装置6におけるサーボ制御を行う。モータ制御装置43は、種々の演算を行う演算装置と、制御や演算に必要なデータを保存する記憶装置と、演算にあたりデータを一時的に保存するメモリと、を含む。
【0034】
ここで、
図5から
図7に基づいて、放電数の計測および除去量の算出方法について詳細に説明する。
図5に示されるように、放電制御装置41は、分類器51と、放電検出回路52と、デマルチプレクサ53と、正極性オンカウンタ541と、正極性オフカウンタ542と、逆極性オンカウンタ543と、逆極性オフカウンタ544と、乗算器551と、乗算器552と、乗算器553と、乗算器554と、加算器56と、除去量カウンタ57と、を有する。具体的に、放電制御装置41は、例えば、種々の演算を行う演算装置、制御や演算に必要なデータを保存する記憶装置、演算にあたりデータを一時的に保存するメモリ等から構成される。演算装置は、例えば、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスである。
【0035】
まず、分類器51は、主スイッチング素子23をオン/オフする指令であるゲート指令と、正極性加工または逆極性加工を指定する極性指定とに基づき、現在の加工が正極性オン、正極性オフ、逆極性オン、逆極性オフのいずれかであるかを判定し、判定結果をデマルチプレクサ53に出力する。
図6の(A)から(C)に示されるように、分類器51は、ゲート指令がオン(ON)かつ極性指定が正極性加工(+)のとき正極性オン(ON+)と判定し、ゲート指令がオフ(OFF)かつ極性指定が正極性加工(+)のとき正極性オフ(OFF+)と判定し、ゲート指令がオン(ON)かつ極性指定が逆極性加工(-)のとき逆極性オン(ON-)と判定し、ゲート指令がオフ(OFF)かつ極性指定が逆極性加工(-)のとき逆極性オフ(OFF-)と判定する。
【0036】
一方で、放電検出回路52は、ADコンバータ37からの電圧波形のデータに基づき、放電の発生を検出する。
図6の(E)は極間電圧の実電圧の波形を、(F)はADコンバータ357によってデジタルデータに変換された極間電圧の測定値の波形を、それぞれ示している。また、
図7には、放電が発生した極間電圧の測定値の波形の一部を拡大して示している。例えば、放電検出回路52は、所定のサンプリング点における電圧と次のサンプリング点における電圧の差の絶対値ΔVが、所定の閾値以上となったときに、電圧降下信号を出力する。そして、放電検出回路52は、2連続で電圧降下信号を出力したとき、放電が発生したことを示す放電検出信号をデマルチプレクサ53に出力する。
図6の(G)は電圧降下信号を、
図6の(H)は放電検出信号をそれぞれ示している。なお、放電の誤検出を防ぐため、極性指定がプラスからマイナス、またはマイナスからプラスに切り替わってから所定時間が経過するまでは、放電検出回路52は電圧降下信号または放電検出信号を出力しないように構成されてもよい。
【0037】
デマルチプレクサ53は、放電発生時のスイッチング素子の動作パターンを判断し、放電数をスイッチング素子の動作パターン毎に分けて、正極性オンカウンタ541、正極性オフカウンタ542、逆極性オンカウンタ543または逆極性オフカウンタ544にリセットされるまで累積記憶する。具体的に、デマルチプレクサ53は、分類器51からの分類結果および放電検出回路52の放電検出信号に基づき、正極性オン、正極性オフ、逆極性オンおよび逆極性オフのそれぞれに分けて放電数をカウントし、各動作パターンの動作時の放電数を各動作パターンに紐づけるようにして、それぞれの動作パターンのときの放電数のカウント値を正極性オンカウンタ541、正極性オフカウンタ542、逆極性オンカウンタ543または逆極性オフカウンタ544に保存する。
図6の(I)、(J)、(K)、(L)はそれぞれ正極性オンカウンタ541、正極性オフカウンタ542、逆極性オンカウンタ543、逆極性オフカウンタ544のカウント数を示しており、具体的に、
図6においては正極性オン時と逆極性オフ時にそれぞれ1回ずつ放電が発生したことが示されている。
【0038】
ここで、放電検出回路52の記憶装置には、スイッチング素子の動作パターン、すなわち、正極性オン、正極性オフ、逆極性オンおよび逆極性オフのそれぞれについて、放電数あたりの除去量を示す係数の値が保存されている。本実施形態においては、正極性オン時の係数CPonは例えば3.22であり、正極性オフ時の係数CPoffは例えば2.75であり、逆極性オン時の係数CNonは例えば1.17であり、逆極性オフ時の係数CNoffは例えば1.00である。
【0039】
上記係数は、サーボ基準電圧、オン時間、オフ時間等の加工条件のパラメータから、所定の計算式を用いて概算することができる。また、所定の加工条件毎に予め異なる係数の値を得て保存しておき、設定されている加工条件に相応する係数の値を取得するようにしてもよい。
【0040】
所定周期で、正極性オンカウンタ541、正極性オフカウンタ542、逆極性オンカウンタ543および逆極性オフカウンタ544から各動作パターンにおける放電数を示す信号が出力され、乗算器551,552,553,554によって放電数に各係数CPon,CPoff,CNon,CNoffが乗算された後に、加算器56によって各値が合算される。合算された値は、所定周期における除去量の推定値として除去量カウンタ57に保存される。
図6の(M)は、除去量カウンタ57のカウント数を示している。このような構成により、放電数からより正確に除去量が算出される。
【0041】
以上に説明した電源装置2、検出装置3および制御装置4の具体的な構成はあくまで一例であり、本発明を実施可能な範囲で任意の構成が採用されてよい。例えば、パルス発生装置27に代えて放電制御装置41の演算装置が直接各スイッチング素子に対してゲート信号を出力するように構成されてもよい。この場合は放電制御装置41の演算装置がパルス発生装置を兼用する。
【0042】
なお、より正確に放電数の検出を行うためには、各スイッチング素子のスイッチング周波数は、ADコンバータ357のサンプリング周波数の約1/50以下であることが望ましい。具体的に、ADコンバータ357のサンプリング周波数が100MHzであるとき、スイッチング周波数は約2MHz以下であることが望ましい。すなわち、本明細書に記載の放電数と動作パターンに応じた係数とから除去量を推定する加工方法は、スイッチング周波数が約2MHz以下に設定されることが多く、かつ比較的高精度な加工が求められる、中仕上げ工程時に実施されることが好適である。もちろん、本加工方法は荒加工工程時や仕上げ加工工程時に実施されてもよい。
【0043】
以上のように、より正確に除去量を算出することで、放電加工の制御をより正確に行うことができる。例えば、モータ制御装置43は、放電制御装置41が算出した除去量に応じて、X軸モータ61およびY軸モータ63を制御し、加工間隙の大きさが一定になるように、工具電極Eと被加工物Wの相対位置を補正してもよい。このようにすれば、加工間隙の大きさが略一定に制御されるので、所期の量の材料を被加工物Wから除去し、所望の水準の面粗さを得ることができる。
【0044】
本発明は、既にいくつかの例が具体的に示されているように、図面に示される実施形態の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形または応用が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 放電加工機
3 検出装置
21 直流電源
23 主スイッチング素子
25 極性切換回路
27 パルス発生装置
31 入力装置
33 同軸ケーブル
35 出力装置
41 放電制御装置
251 正極性スイッチング素子
253 逆極性スイッチング素子
331 内部導体
E 工具電極
W 被加工物