(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042560
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】熱処理炉および熱処理炉を用いた無機材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
F27B 9/02 20060101AFI20220308BHJP
F27B 9/08 20060101ALN20220308BHJP
【FI】
F27B9/02
F27B9/08
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147981
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】稲本 浩也
(72)【発明者】
【氏名】金井 照昌
【テーマコード(参考)】
4K050
【Fターム(参考)】
4K050AA02
4K050BA05
4K050CA11
4K050CC07
4K050CD06
4K050CG01
(57)【要約】
【課題】材料を純化処理することが可能な熱処理炉およびそれを用いて無機材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】被処理材料42を加熱処理するための加熱部15と、前記材料を搬送する搬送部と、を有する熱処理炉1である。該搬送部は、前記材料を炉内に搬入可能な搬入口22を有する予熱室21と、該予熱室と連通し前記材料を加熱処理する加熱室11と、該加熱室と連通し前記加熱処理された材料を炉外に搬出可能な搬出口32を有する冷却室31と、前記予熱室、前記加熱室および前記冷却室を貫く搬送路40と、を備えている。前記搬送路は、前記予熱室に配置されている前記材料が前記加熱室方向に搬送されると同時に、前記加熱室に配置されている前記材料が前記冷却室方向に搬送され、かつ、前記冷却室に配置されている前記材料の搬出と前記予熱室への前記材料の搬入とが同時に行われ得るように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理材料を加熱処理するための加熱部と、前記材料を搬送する搬送部と、を有する熱処理炉であって、
該搬送部は、
前記材料を炉内に搬入可能な搬入口を有する予熱室と、
該予熱室と連通し、前記材料を加熱処理する加熱室と、
該加熱室と連通し、前記加熱処理された材料を炉外に搬出可能な搬出口を有する冷却室と、
前記予熱室、前記加熱室および前記冷却室を貫く搬送路と、
を備えており、
前記搬送路は、前記予熱室に配置されている前記材料が前記加熱室方向に搬送されると同時に、前記加熱室に配置されている前記材料が前記冷却室方向に搬送され、かつ、前記冷却室に配置されている前記材料の搬出と前記予熱室への前記材料の搬入とが同時に行われ得るように構成されている、熱処理炉。
【請求項2】
前記予熱室と前記加熱室の境界付近および前記加熱室と前記冷却室の境界付近の少なくともいずれか一方にエアカーテンを備える、請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記加熱室に予め定められたガスを給気するための給気管と、前記加熱室からガスを排気するための排気管と、を備える、請求項1または2に記載の熱処理炉。
【請求項4】
前記排気管には真空ポンプが接続されており、
該真空ポンプの作動によって、前記予熱室、前記加熱室および前記冷却室を所定の真空度にすることができるように構成されている、請求項3に記載の熱処理炉。
【請求項5】
前記給気管はハロゲンガスまたはハロゲン化水素ガスを導入可能に構成されている、請求項3または4に記載の熱処理炉。
【請求項6】
前記予熱室および前記冷却室のうち少なくとも一方は、水冷ジャケットを備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【請求項7】
前記加熱室は、前記予熱室に近接する上流領域と、前記冷却室に近接する下流領域と、前記加熱部から加熱処理が行われる主加熱領域と、を備え、
前記搬送部は、
前記予熱室に配置されている前記材料が前記上流領域に搬送され、前記上流領域に配置されている前記材料が前記主加熱領域に搬送され、前記主加熱領域に配置されている前記材料が前記下流領域に搬送され、前記下流領域に配置されている前記材料が前記冷却室に搬送されるように構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【請求項8】
所定の被処理材料に対する熱処理を伴って、無機材料を製造する製造方法であって、
前記熱処理は、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱処理炉を用いて前記被処理材料を処理することを特徴とする、無機材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理炉に関する。詳しくは、ハロゲンガス等の反応性の高いガスを用いて材料を熱化学処理することが可能な熱処理炉および該熱処理炉を用いて無機材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛や石英は、機械的強度、耐熱性、耐久性、熱伝導等に優れるという性質を持ち、半導体分野をはじめとした幅広い分野で用いられている。これらの材料を上記用途で使用する際に、材料内の不純物を数ppm以下にまで低減させて高純度化することが要求されている。これらの材料の高純度化は、例えば塩素等の反応性の高いガスの雰囲気下で材料を加熱することによって行うことができる。例えば、高温雰囲気で無機材料に含まれる不純物をハロゲンガスと反応させること、生成したハロゲン化物を真空引きにより除去すること、を繰り返すことによって行うことができる。このような高純度化処理は、ハロゲンガスおよびハロゲン化物が炉外へ流出しないよう、例えば特許文献1~3に開示されるような熱処理炉を用いて密閉環境下で行われている。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、材料を加熱処理するための加熱室に、材料を直接配置し純化処理する熱処理炉であって、上記加熱室に扉部が設けられているバッチ式の熱処理炉が開示されている。また特許文献3には、上述したような加熱室と、材料を炉内に搬入および搬出するための冷却室と、それらを区切る中間扉と、が設けられたバッチ式の熱処理炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-80684号公報
【特許文献2】特開平1-285787号公報
【特許文献3】特開平11-147706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば黒鉛材を高純度化処理する場合、炉内の温度を2000℃程度まで昇温させる必要がある。特許文献1~3に開示されている熱処理炉はバッチ式であるため、材料の純化処理に必要な時間に加えて、炉内および材料の昇温冷却にも長時間を要するため、材料の生産効率が良好ではない。また、このように昇温と冷却を繰り返すことは、製造コストの増大にもつながる。
また、これらの熱処理炉には、材料を加熱室に出し入れするための扉や、加熱室と他の部屋とを仕切る中間扉が設けられている。このような構成の熱処理炉を用いて上述した純化処理を行うと、扉がハロゲンガスに曝されることによる腐食が起こりやすい。このように熱処理炉内の扉に腐食が発生することによって真空漏れが発生し、材料の品質に影響を及ぼす恐れがある。また、このような腐食によってメンテナンスも必要となるため、熱処理炉を長期的に使用していく上でも課題がある。
材料の純化に要する時間を短縮することによって材料の生産効率を向上させ、かつ、耐久性にも優れる処理装置が求められている。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、材料の熱化学処理を効率的に行うことができ、また、長期使用に耐えられる熱処理炉を提供することを目的とし、併せてそのような熱処理炉を用いて無機材料を製造する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される一態様の熱処理炉は、被処理材料を加熱処理するための加熱部と、前記材料を搬送する搬送部と、を有する熱処理炉である。該搬送部は、前記材料を炉内に搬入可能な搬入口を有する予熱室と、該予熱室と連通し、前記材料を加熱処理する加熱室と、該加熱室と連通し、前記加熱処理された材料を炉外に搬出可能な搬出口を有する冷却室と、前記予熱室、前記加熱室および前記冷却室を貫く搬送路と、を備えている。前記搬送路は、前記予熱室に配置されている前記材料が前記加熱室方向に搬送されると同時に、前記加熱室に配置されている前記材料が前記冷却室方向に搬送され、かつ、前記冷却室に配置されている前記材料の搬出と前記予熱室への前記材料の搬入とが同時に行われ得るように構成されている。
【0008】
かかる熱処理炉によって、無機材料を連続的に熱化学処理することができ、より効率的に無機材料を製造することができる。
【0009】
好ましい一態様の熱処理炉は、前記予熱室と前記加熱室の境界付近および前記加熱室と前記冷却室の境界付近の少なくともいずれか一方にエアカーテンを備える。
かかる構成によって、予熱室および冷却室に加熱室から流入するガスを低減することができる。
【0010】
好ましい一態様の熱処理炉は、前記加熱室に予め定められたガスを給気するための給気管と、前記加熱室からガスを排気するための排気管と、を備える。
かかる構成によって、予め定められたガスを用いて材料の処理を行うことができる。
【0011】
好ましい一態様の熱処理炉は、前記排気管には真空ポンプが接続されており、該真空ポンプの作動によって、前記予熱室、前記加熱室および前記冷却室を所定の真空度にすることができるように構成されている。
かかる構成によって、材料の処理を真空環境下で行うことができる。
【0012】
好ましい一態様の熱処理炉において、前記給気管はハロゲンガスを導入可能に構成されている。
かかる構成によって、材料の処理をハロゲンガス雰囲気下で行うことができる。
【0013】
好ましい一態様の熱処理炉において、前記予熱室および前記冷却室のうち少なくとも一方は、水冷ジャケットを備える。
かかる構成によって、予熱室および冷却室の温度を低く抑えることができる。
【0014】
好ましい一態様の熱処理炉において、前記加熱室は、前記予熱室に近接する上流領域と、前記冷却室に近接する下流領域と、前記加熱部から加熱処理が行われる主加熱領域と、を備えている。前記搬送部は、前記予熱室に配置されている前記材料が前記上流領域に搬送され、前記上流領域に配置されている前記材料が前記主加熱領域に搬送され、前記主加熱領域に配置されている前記材料が前記下流領域に搬送され、前記下流領域に配置されている前記材料が前記冷却室に搬送されるように構成されている。
かかる構成によって、加熱室の雰囲気が予熱室および冷却室に流入することを低減できる。
【0015】
ここに開示される技術の他の側面として、所定の被処理材料に対する熱処理を伴って無機材料を製造する製造方法が提供される。前記熱処理は、ここで開示される熱処理炉を用いて前記被処理材料を処理することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態にかかる熱処理炉の構成を模式的に示す図である。
【
図2】一実施形態にかかる熱処理炉の炉体内部の断面を模式的に示す図である。
【
図3】一実施形態にかかる熱処理炉の予熱室側の一部の構成を模式的に示す図である。
【
図4】一実施形態にかかる熱処理炉の冷却室側の一部の構成を模式的に示す図である。
【
図5】一実施形態にかかる熱処理炉を用いて無機材料を製造する方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照しながら、ここで開示される熱処理炉および該熱処理炉を用いた無機材料の製造方法の実施形態について、ハロゲンガス雰囲気下で純化処理を行うことができる熱処理炉を例に挙げて詳細に説明する。以下の実施形態は、当然ながらここに開示される技術を特に限定することを意図したものではない。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材や部位には同じ符号を付し、重複する説明を省略または簡略化することがある。以下の図面における長さや幅等の寸法関係は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。本明細書において、熱処理炉で処理される材料のことを「被処理材料」、または単に「材料」ともいう。本明細書において「真空排気」とは、真空ポンプによって行われる排気処理のことをいい、「真空状態」とは、真空排気によって熱処理炉内が大気圧よりも減圧された状態のことをいう。
【0018】
本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
まず、一実施形態にかかる熱処理炉の全体構成について
図1を用いて説明する。図中の矢印は、熱処理炉内に導入された材料が順次搬送される方向を表している。ここでは長手状で箱型の炉体を有する熱処理炉を例として説明するが、炉体の外形はこれに限られず、例えば円筒型等であってもよい。
図1は、熱処理炉1の構成を模式的に示す図である。熱処理炉1は、被処理材料42を加熱処理するための加熱部16と、材料42を搬送する搬送部と、を有している。上記搬送部は、予熱室21と、加熱室11と、冷却室31と、を備えている。予熱室21と加熱室11および加熱室11と冷却室31はそれぞれ連通している。材料42を処理するための加熱室11は、炉体10内に設けられている。予熱室21は、材料42を炉内に搬入可能な搬入口22を有し、冷却室31は加熱処理された材料42を炉外に搬出可能な搬出口32を有している。
搬入口22および搬出口32は、容器に収容された材料42を搬入および搬出するための開口であり、搬入口22および搬出口32には、例えば手動または自動で開放可能な蓋やシャッターが備えられていてもよい。
なお、材料は、容器に収容された状態で処理され得るが、特に言及する場合を除いてこれを省略し、「被処理材料」または「材料」という。
【0020】
炉体10、予熱室21および冷却室31は、剛性および耐熱性に優れる金属製の材料によって構成され、例えばステンレス等によって構成され得る。炉体10、予熱室21および冷却室31の構成は熱処理炉1の使用の形態に応じて適宜設計される。
例えば熱処理炉1に対して後述する真空ポンプ54を用いて真空排気を行う場合、予熱室21と炉体10および炉体10と冷却室31は、それぞれそれぞれ気密に接続され、真空ポンプ54の作る真空度に耐えられる真空容器から構成され得る。
後述するように熱処理炉1内にハロゲンガスを導入する場合は、炉体10、予熱室21および冷却室31の内壁等、ハロゲンガスと接する箇所には、SUS316やハステロイといった耐腐食性が高い材料が使用されているか、その表面に耐腐食を向上させる表面処理が行われていることが好ましい。
【0021】
次に、一実施形態にかかる熱処理炉の炉体および加熱室について説明する。
図1および
図2に示すように、炉体10は内部に、マッフル15と、加熱部16と、断熱材17と、を備えている。断熱材17は、炉体10の内表面を覆うように配置されている。加熱部16は、断熱材17によって作られる空間の上面および下面に配置されている。マッフル15は、上面および下面に配置された加熱部16の間の空間に配置されている。マッフル15は、材料42が搬送されるための開口を有しており、該開口は搬送路40が挿通されている。マッフル15は、例えば搬送方向に対して垂直な上下左右の面が平坦な板からなる角筒であり得る。
【0022】
マッフル15、加熱部16および断熱材17に使用される材料は、設定温度、導入するガス、処理する無機材料の種類等に応じて適宜設定し得る。マッフル15としては、耐熱性に優れ、温度変化に伴う変形が小さいカーボン製の材料が好ましく用いられる。加熱部16としては、耐熱性が高く反応性が低い性質を持つものが用いられ、カーボンヒータが好ましく用いられ得る。断熱材17としては、耐熱性が高く反応性が低い性質を持つものが用いられ、カーボン繊維製の断熱材が好ましく用いられ得る。
【0023】
炉体10内の加熱室11は、上流領域12と、主加熱領域13と、冷却領域14と、を備え得る。主加熱領域13は、例えばマッフル15に囲まれた空間に形成された領域であり、加熱部16からマッフル15を介して加熱処理が行われる。
図3に示すように、上流領域12は、予熱室21と炉体10との境界から主加熱領域13との間に形成された空間であり、例えば搬送方向に対して垂直な上下左右の面を断熱材17に囲まれて形成され得る。
図4に示すように、下流領域14は、冷却室31と炉体10との境界から主加熱領域13との間に形成された空間であり、上流領域12と同様、例えば搬送方向に対して垂直な上下左右の面を断熱材17に囲まれて形成され得る。
【0024】
熱処理炉1は、加熱室11に予め定められたガスを供給するための給気管50と、加熱室11からガスを排気するための排気管53を備えていてもよい。
図1示すように、加熱室11内を搬送方向の上流側と下流側に2分割した場合に、給気管50は加熱室11の下流側の下面に配置されており、排気管53は加熱室11の上流側の上面に配置されているが、本発明の効果を奏する限りにおいて給気管50および排気管53を配置する場所は限定されない。
【0025】
給気管50は、マッフル15内にガスを直接給気できるように構成され得る。例えば、マッフル15に穴が設けられており、その穴を介してマッフル15内に給気管50から給気されるガスが流入するような構成とすることができる。
また、排気管53は、マッフル15からガスを直接排気できるように構成され得る。例えば、マッフル15に上記の穴とは別の穴が設けられており、マッフル15内のガスがその穴を介して排気管53から排気されるような構成とすることができる。
【0026】
給気管50は、不活性ガスや純化処理に用いるガスを加熱室11内に導入できるように構成されている。不活性ガスとしては窒素やアルゴン等が好ましく用いられている。純化処理に用いるガスとしては、例えばハロゲンガスやハロゲン化水素ガスが用いることができ、塩素が好ましく用いられている。
導入されるガスは1種類に限られず、2種類以上のガスが選択的に導入されるように構成されていてもよい。例えば、給気管50に不活性ガスボンベ51とハロゲンガスボンベ52が接続され、図示しない切替弁によって加熱室11に導入されるガスが選択されるように構成されていてもよい。給気管から導入するガスの圧力は自由に設定することができる。
【0027】
排気管53は、加熱室11内のガスを排気できるように構成されている。排気管53には、例えば真空ポンプ54を接続することができる。真空ポンプ54としては、ドライポンプや油回転ポンプ等を使用することができ、加熱室11内の真空度は例えば100Pa程度に減圧され得る。排気管53から排気されたハロゲンガスや材料42に含まれていた不純物は、例えば湿式スクラバー等で回収することができる。
【0028】
給気管50、不活性ガスボンベ51、ハロゲンガスボンベ52、排気管53および真空ポンプ54は、あらかじめ定められたプログラムに従って給気および排気が行われるように、図示しない制御部によって制御され得る。
これに限られないが、このようなプログラムとしては例えば、真空排気後、ハロゲンガスを一定時間導入し続け、一定時間経過後に再び真空排気し、不活性ガスを導入するようなプログラムや、真空排気後、ハロゲンガスの導入および真空排気を一定の間隔で繰り返し、予め定められた回数終了後に再び真空排気し、不活性ガスを導入するようなプログラム、を設定することができる。
【0029】
次に、一実施形態にかかる熱処理炉の予熱室について説明する。
図3に示されるように、予熱室21は、加熱室11との境界付近の上面および下面に、不活性ガスを吹き込むエアカーテン55を備えていてもよい。特に限定されないが、エアカーテン55は、予熱室21と加熱室11の境界から、材料を収容するために使用する容器42の奥行き以内の位置に設けられていることが好ましい。
エアカーテン55の配置は、本発明の効果を奏する限りにおいて、特に制限されない。エアカーテン55は通常、上記境界から30cm以内、例えば15cm以内に設けられ得る。また、エアカーテン55は、予熱室21内において搬送方向と垂直ないずれか一面以上の面に設けられ得る。
【0030】
エアカーテン55には、図示しない給気ポンプが接続されており、不活性ガスが吹き込むように構成されている。エアカーテン55からの不活性ガスの吹き込みは、常に一定強度で行われる必要はなく、上述した給気および排気のプログラムと連動して間欠的に吹き込みが行われてもよい。これに限られないが、例えば真空排気が行われている間は不活性ガスの吹き込みが停止され、それ以外の時は不活性ガスの吹き込みが行われるように構成されていてもよい。
熱処理炉1がこのような構成のエアカーテン55を備えることによって、予熱室21に加熱室11から流入するガスを低減することができる。
【0031】
予熱室21内の温度は場所によって異なるが、炉体10内に設けられた加熱部16の熱によって100~200℃程度の温度となり得る。また、搬入口22付近はそれよりも低い温度となり得る。また、予熱室21内部の雰囲気は、大気またはエアカーテン55および給気管50から導入され得る不活性ガス中心の雰囲気になっている。
このような予熱室21に材料42が一定時間置かれることよって、加熱室11にて処理される前に材料42はあらかじめ昇温され、また、材料42の内部にある酸素等が除去され得る。
【0032】
次に、一実施形態にかかる熱処理炉の冷却室について説明する。
図4に示されるように、冷却室31は、加熱室11との境界付近の上面および下面に、上述したようなエアカーテン55を備えていてもよい。特に限定されないが、エアカーテン55は、冷却室31と加熱室11の境界から容器42の奥行き以内の位置に設けられていることが好ましい。エアカーテン55の配置は、本発明の効果を奏する限りにおいて、特に制限されない。エアカーテン55は通常、上記境界から30cm以内、例えば15cm以内に設けられ得る。また、エアカーテン55は、冷却室31内において搬送方向と垂直ないずれか一面以上の面に設けられ得る。
このような構成によって、冷却室31に加熱室11から流入するガスを低減することができる。
【0033】
冷却室31内の温度は場所によって異なるが、炉体10内に設けられた加熱部16の熱によって100~200℃程度の温度となり得る。また、搬出口32付近はそれよりも低い温度となり得る。また、冷却室31内部の雰囲気は、大気またはエアカーテン55および給気管50から導入され得る不活性ガス中心の雰囲気になっている。
このような冷却室31に材料42を一定時間置くことよって、加熱室11にて処理された材料42は段階的に冷却され、また、材料42と酸素等との反応を抑制することができる。
【0034】
予熱室21および冷却室31は、内部の温度を調整する等の目的で、水冷ジャケット56を備えていてもよい。予熱室21および冷却室31が水冷ジャケット56を備えることによって、予熱室21と加熱室11の境界および加熱室と冷却室31の境界に中間扉が設けられていない場合にも、予熱室21および冷却室31の内部の温度上昇を抑制することができる。例えば2000℃程度の高温環境下で加熱処理を行う際にも予熱室21および冷却室31の温度を低く抑えることができる。
水冷ジャケット56は、予熱室21および冷却室31両方に設けられていてもよく、一方のみに設けられていてもよい。
【0035】
また、上記水冷ジャケット56は、熱処理炉1の外壁の温度上昇を抑制するため、炉体10、予熱室21および冷却室31に設けられていてもよい。上記水冷ジャケット56を設けることによって、熱処理炉1の内部の温度が2000℃程度の高温となっても、外部の温度上昇を抑制することができ、熱による熱処理炉1の損傷を抑えることができる。
水冷ジャケット56は例えば、炉体10、予熱室21および冷却室31それぞれに内壁および外壁を設け、上記内壁および外壁からなる空間に冷却水を循環させられる構成とすることができる。
【0036】
次に、一実施形態にかかる熱処理炉の搬送部について説明する。
上記搬送部は、予熱室21、加熱室11および冷却室31を貫く搬送路41を備えている。搬送路41は、搬入口31から被処理材料42を搬入でき、搬出口32から処理された材料42を搬出できるよう、搬入口31近傍から搬出口32近傍に渡って形成されている。
【0037】
特に限定されないが、搬送路40は例えば、
図2に示されるような、搬入口22から搬出口32まで互いに平行に延びる2列のレールであり得る。搬送路40のレールの本数は2列に限られない。搬送路40は、上述したようなレールに限られず、例えば、ハースローラ等であってもよい。
【0038】
搬送路40上に台板41が置かれ、台板41に容器に収容された材料42が置かれる。台板41は、
図2に示すように搬送路40が嵌まるような溝を有していてもよい。台板41を図示しないプッシャーで搬送方向に押し込むことによって、材料42が搬送される。搬送路40に複数の台板41が連なって配置されている場合には、搬入口22に最も近い所にある台板41を搬送方向に押し込むことによって、搬送方向前方に置かれている他の台板41も順次押し込まれ、搬送方向に同時に搬送される。
このようにして、搬送路40は、予熱室21に配置されている材料42が加熱室11方向に搬送されると同時に、加熱室11に配置されている材料42が冷却室31方向に搬送され、かつ、冷却室31に配置されている材料42の搬出と予熱室21への材料42の搬入とが同時に行われ得るように構成されている。
【0039】
なお、上記搬送部は、
図3および
図4に示すように、上述した加熱室11内の上流領域12および下流領域14に台板41および材料42が置かれるように構成することができる。すなわち上記搬送部は、予熱室21に配置されている材料42が上流領域12に搬送され、上流領域12に配置されている材料42が主加熱領域13に搬送され、主加熱領域13に配置されている材料42が下流領域14に搬送され、下流領域14に配置されている材料42が冷却室31に搬送されるように構成することができる。
【0040】
上流領域12および下流領域14は、予熱室21および冷却室31より温度が高く、主加熱領域13より温度が低くなり得る。予熱室21から上流領域12に材料42を配置することによって、材料42を段階的に予熱することができる。下流領域14から冷却室31に材料42を配置することによって、材料42を段階的に冷却することができる。また、上流領域12および下流領域14に材料42が配置されることによって、予熱室21および冷却室31に主加熱領域13内の雰囲気が流れ込むことが抑制され得る。
【0041】
また、予熱室21、加熱室11および冷却室31それぞれに配置され得る台板41は1つに限られず、複数の台板41を配置することができる。例えば、材料42をより長い時間加熱室11内で処理するために、加熱室11において複数の台板41を配置できるような構成とすることができる。また、被処理材料42を段階的に予熱するために、予熱室21において複数の台板41を配置できるような構成としてもよく、処理された材料42を十分に冷却するため、冷却室31において複数の台板41を配置できるような構成とすることができる。
【0042】
このように構成された搬送部を用いて所定の時間ごとに材料42を搬送することによって、予熱室21、加熱室11および冷却室31それぞれに材料42が置かれる時間を合わせることができ、常に一定条件で材料42を処理することができる。
【0043】
つまり、大まかに以下の手順:
材料42が熱処理炉1内に搬入された状態で、あらかじめ定められた給気および排気のプログラム(以下、「給排気プログラム」という)を開始する;
当該給排気プログラム終了後に搬出口32を開け、台板41および処理された材料42を取り出し搬出口32を閉じる;
搬入口22を開け、搬入口22に最も近い所にある台板41を台板1つ分押し込むことによって、熱処理炉1内に置かれている台板41を全て搬送方向に搬送する;
搬入口22から新たな台板41および被処理材料42を搬入し、搬入口22を閉める、
を繰り返すことによって、異なる時点で搬入された材料42であっても、予熱、加熱および冷却の条件を揃えることができる。
【0044】
上述した熱処理炉1によると、材料42を連続的に一定の条件で処理することができ、生産効率を向上させることができる。
【0045】
また、ここで開示される熱処理炉1は、予熱室21と加熱室11の境界および加熱室11と冷却室31の境界にシャッターや扉等の開閉する部分を有しなくてもよい。これによって、当該開閉する部分がハロゲンによって腐食されることによる真空漏れが起こりにくく、さらに、このような腐食に伴うメンテナンスも発生しにくく、熱処理炉1の長期使用における耐久性も良好である。
【0046】
無機材料の製造方法
ここで開示される熱処理炉を用いて被処理材料を連続的に処理することができる。
図5は一実施形態にかかる熱処理炉を用いて無機材料を製造する方法を表すフローチャートである。ここで、材料の処理は上述した給排気プログラムによって行われる。ここで、当該プログラムの最後のステップは、大気圧まで熱処理炉1内に不活性ガスを導入するステップとして説明する。
【0047】
搬入工程(S1)
被処理材料42を搬入する。
まず、熱処理炉1内の真空排気を行う。次に、熱処理炉1内が大気圧になるまで、給気口50から不活性ガスを導入する。熱処理炉1内が大気圧になったところで搬入口22を開け、台板41および被処理材料42を予熱室21内に搬入する。
【0048】
予熱工程(S2)
被処理材料42を予熱する。予熱室21内の温度は場所によって異なるが、加熱部16の熱によって例えば100~200℃程度の温度となっている。
被処理材料42の搬入後、熱処理炉1内を真空排気することによって予熱室21内が真空状態になる。そして、エアカーテン55から予熱室21に吹き込む不活性ガスと、上述の給排気プログラムによる給排気によって、被処理材料42は真空および不活性ガス雰囲気が繰り返されながら一定時間予熱される。
このような処理によって、被処理材料42に含まれる酸素等が除去され、また、被処理材料42は加熱室11にて処理される前に予熱される。
【0049】
上記給排気プログラムの終了後に、搬入口22を開け、搬入口22に最も近い所にある台板41を押し込むことによって予熱された材料42を加熱室11に搬送する。その際、必要に応じて処理された材料42の搬出や新たに処理する被処理材料42の搬入を行う。
【0050】
加熱工程(S3)
予熱された材料42を加熱する。
主加熱領域13の温度は、加熱部16によってマッフル15が加熱されることによって、あらかじめ定められた温度となっている。主加熱領域13に搬送された材料42は、目的の温度まで昇温され、上記給排気プログラムに従って給気管50からのハロゲンガスの導入と排気管53からの真空排気が繰り返され、純化処理が行われる。
このような処理によって、材料42に含まれる不純物とハロゲンガスの反応および生成したハロゲン化物の真空引きによる除去が繰り返され、材料42に純化処理を施すことができる。
【0051】
上記給排気プログラムの終了後に、搬入口22を開け、搬入口22に最も近い所にある台板41を押し込むことによって処理された材料42を冷却室31に搬送する。その際、必要に応じて処理された材料42の搬出や新たに処理する被処理材料42の搬入を行う。
【0052】
冷却工程(S4)
処理された材料42を冷却する。
冷却室31内の温度は場所によって異なるが、炉体10内に設けられた加熱部16の熱によって、例えば100~200℃程度の温度となっている。処理された材料42を冷却室31に搬送後、上述の給排気プログラムが終了するまでの一定時間、被処理材料42は真空および不活性ガス雰囲気が繰り返されながら一定時間冷却される。
このような処理によって、加熱処理された材料42が冷却される。
【0053】
搬出工程(S5)
上記給排気プログラムの終了後、搬出口32を開け、搬出口32に最も近い所にある台板41および処理された材料42を搬出する。その際、必要に応じて新たに処理する被処理材料42の搬入を行う。
以上のように、ここで開示される熱処理炉1を用いることで、材料を連続的に純化処理し、無機材料を製造することができる。
【0054】
ここで開示される熱処理炉1を用いて無機材料を製造する方法を具体的に説明したが、製造方法はこれに限られない。
例えば、予熱された材料42が加熱室11の主加熱領域13に搬送される前に、上流領域12に搬送されてもよい。上流領域12の温度は、予熱室21の温度より高く、加熱室の主加熱領域13の温度より低い温度となっている。したがって、上流領域12に搬送された材料42は、さらに予備的に加熱され得る。また、材料42が上流領域12に配置されることによって、予熱室21に主加熱領域13の雰囲気が流れ込むことを抑制することができる。
【0055】
同様に、処理された材料42が冷却室31に搬送される前に、下流領域14に搬送されてもよい。下流領域14の温度は、冷却室31の温度より高く、加熱室の主加熱領域13の温度より低い温度となっている。したがって、下流領域14に搬送された材料42は、予備的に冷却され得る。また、材料42が下流領域14に配置されることによって、冷却室31に主加熱領域13の雰囲気が流れ込むことを抑制することができる。
【0056】
このような製造方法によれば、主加熱領域13の雰囲気が予熱室21および冷却室31に流れ込むことを低減することができる。
【0057】
以上、具体的な実施形態を挙げて詳細な説明を行ったが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に記載した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。また、上記実施形態で例示された複数の技術の一部を連続焼成炉に採用することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 熱処理炉
10 炉体
11 加熱室
12 上流領域
13 主加熱領域
14 下流領域
15 マッフル
16 加熱部
17 断熱材
21 予熱室
22 搬入口
31 冷却室
32 搬出口
40 搬送路
41 台板
42 材料(容器)
50 給気管
51 不活性ガスボンベ
52 ハロゲンガスボンベ
53 排気管
54 真空ポンプ
55 エアカーテン
56 水冷ジャケット