(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042574
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系シーラントフィルム、および積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20220308BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148014
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】安岡 涼
(72)【発明者】
【氏名】三好 克典
(72)【発明者】
【氏名】豊島 裕
(72)【発明者】
【氏名】松浦 洋一
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
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4F100JN18
(57)【要約】
【課題】フィルム長手方向への優れた易引き裂き性を持ち、ヒートシール性と耐低温衝撃性、耐ブロッキング性、耐ユズ肌性に優れるポリプロピレン系シーラントフィルムおよびそれを用いた積層体を提供する。
【解決手段】少なくともA層/B層の2層からなるフィルムであって、A層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)を主成分とし、B層はプロピレン重合体(b)を主成分とし、各層各々にリン酸金属塩を0.0015~0.01重量%含有し、該フィルムの長手方向の引き裂き強度が、20N/mm以下であるポリプロピレン系シーラントフィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA層/B層の2層からなるフィルムであって、A層はプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)を主成分とし、B層はプロピレン重合体(b)を主成分とし、各層各々にリン酸金属塩を0.0015~0.01重量%含有し、該フィルムの長手方向の引き裂き強度が20N/mm以下であるポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項2】
各層に低密度ポリエチレン系重合体(c)が2~15重量%含有してなる請求項1に記載のポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項3】
各層に、極限粘度([η]d1)が5dl/g以上、10dl/g未満のプロピレン重合体成分を含有するプロピレン系重合体(d)を5~20重量部含有してなる請求項1または2に記載のポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項4】
各層に、高溶融張力ポリプロピレン(e)を5~20重量部含有してなる請求項1~3のいずれかに記載のポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項5】
B層のA層とは反対側にC層が積層されるA層/B層/C層の3層であり、該C層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体を主成分とする請求項1~4のいずれかに記載のポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項6】
複屈折率が3.5×10-3~8.0×10-3の範囲である請求項1~5のいずれかに記載のポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項7】
各層に高密度ポリエチレン系重合体(f)が1~5重量%含有してなる請求項3または4に記載のポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のポリプロピレン系シーラントフィルムが、単層または2層以上フィルムが積層されてなるラミネート基材層の片面に、積層された積層体。
【請求項9】
厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)と、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミドフィルム(ONy)と、厚み9μmのアルミニウム箔(AL)のラミネート基材層と、厚さ70μmの請求項1~7のいずれかに記載のポリプロピレン系シーラントフィルムとをウレタン系接着剤を用いてドライラミネート法で貼合わせ、PET/接着剤/ONy/接着剤/AL/ポリプロピレン系シーラントフィルムの構成の積層体を作成し、この積層体2枚を該ポリプロピレン系シーラントフィルムが袋の内面になるようにして、富士インパルス社製CA-450-10型ヒートシーラーを使用し、加熱時間1.0秒(シール温度:約220℃)、冷却時間3.0秒で、製袋サイズ50mm×150mmの3方パウチを作成し、120℃で30分レトルト処理後、JIS-K7128-1に基づいて測定したフィルム長手方向の引き裂き力が10N(絶対値)以下である積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包装袋のシーラントとして使用されるポリプロピレン系シーラントフィルムおよびそれを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、120℃~135℃の高温でレトルト殺菌されるハイレトルト包装用のシーラントフィルムとしては、プロピレン・エチレンブロック共重合体を主成分とする未延伸フィルム(以下CPPと称することがある)が使用されてきた。その主たる使用方法は、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルム(以下PETと称することがある)、ナイロン延伸フィルム(以下ONyと称することがある)、アルミニウム箔(以下ALと称することがある)等のラミネート基材層と貼合わせ、PET/ONy/AL箔/CPP、PET/AL/ONy/CPP、またはPET/AL/CPP構成の積層体とした後、製袋して使用されるというものである。
【0003】
しかしながら、特許文献1、2のプロピレン・エチレンブロック共重合体やプロピレン・エチレンブロック共重合体にエチレン系エラストマーなどを配合した樹脂を溶融押出して製膜した無延伸フィルムをレトルトパウチに用いた場合、ノッチ部(端部に設けられた切り口)からの開封時に、直線カット性が乏しく、内容物が変形したり、こぼれてしまうことが問題となっていた。
【0004】
そこで、レトルトパウチに用いられるシーラントフィルムには、刃物を用いること無くノッチ部から容易に引き裂くことで開封し得るものであること(易引き裂き性)が求められている。
【0005】
易引き裂き性を有するポリプロピレン系フィルムとして、縦方向に高倍率の延伸を施してなる一軸延伸フィルム(特許文献3)があるが、特許文献3のフィルムは、引き裂き性は改良されるが、耐低温衝撃性がレトルト用途として不十分であった。また、フィルムの結晶化度を上げて引き裂き性を付与する目的で、ソルビトール誘導体を配合してなるフィルム(特許文献4)やロジン金属塩化合物を配合してなるフィルム(特許文献5)があるが、レトルト処理後の臭気や抽出物が多くハイレトルト用途には適していない。さらに、結晶性ポリエチレン樹脂を配合してなるフィルム(特許文献6)や、ポリブテン-1を結晶核剤として配合してなるフィルム(特許文献7)もあるが、いずれも耐低温衝撃性に劣ることから、ハイレトルト用途として不十分であった。
【0006】
以上述べたように従来技術では、樹脂の押出方向(以下流れ方向(MD)と表現することがある)への易引き裂き性を有し、且つ耐低温衝撃性、ヒートシール性、耐ブロッキング性を兼備し、ハイレトルト用途(125~135℃殺菌)に広く使用できるポリプロピレン系未延伸フィルムはなかった。
【0007】
近年は業務用等パウチの大型化が進み、耐低温衝撃性の要求レベルがますます高くなってきた。また、パウチ外観の要求レベルも高くなってきており、レトルト殺菌後、積層体表面に生じる微細な凹凸状外観、いわゆるユズ肌の発生を極力抑えることが望まれている。
【0008】
また、積層体のCPPとラミネート基材層との滑り性が悪いため、フィルム成形工程、スリット工程、製袋工程、内容物充填工程等において、積層体のCPPとラミネート基材層とが粘着する、いわゆるブロッキング現象が起こり、長期保存や高温状態で保存すると、積層フィルムを使用する際、フィルムが巻き出し難くなり、製袋作業性、充填作業性が著しく低下する問題があった。
【0009】
上記問題を解決するために、ブロッキング防止剤、例えば耐水表面処理をしたデンプン等の粉をシーラントにふりかけてブロッキングを防止する方法、いわゆるパウダリング法によりブロッキングを回避する方法が採用されてきた。しかし、パウダリング法は、製袋の外観が損なわれたり、パウダーが充填する食品に混入し、味覚に悪影響を及ぼしたりする等、商品価値を落とす要因となっており、パウダリングの必要のない、いわゆるノンパウダーで使用でき、かつ包装袋または包装袋のシーラントとしてハイレトルト用途にも好適に使用できるポリプロピレン系フィルムの開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003-105164号公報
【特許文献2】特開2000-186159号公報
【特許文献3】特開平7-138423号公報
【特許文献4】特開平1-299831号公報
【特許文献5】特開平11-255910号公報
【特許文献6】特開平10-316772号公報
【特許文献7】特許第3813263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、包装袋のシーラントとして樹脂の流れ方向(MD)への優れた易引き裂き性を持ち、ヒートシール性と耐低温衝撃性に優れ、耐ブロッキング性に優れるためにノンパウダーで使用でき、耐ユズ肌性に優れることでハイレトルト用途にも好適に使用できるポリプロピレン系シーラントフィルムおよびそれを用いた積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは種々検討の結果、前記課題を解決した。
【0013】
すなわち、本発明は少なくともA層/B層の2層からなるフィルムであって、A層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)を主成分とし、B層はプロピレン重合体(b)を主成分とし、各層各々にリン酸金属塩を0.0015~0.01重量%含有し、該フィルムの長手方向の引き裂き強度が、20N/mm以下であるポリプロピレン系シーラントフィルムである。
【0014】
また、本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムが、単層または2層以上フィルムが積層されてなるラミネート基材層の片面に、積層された積層体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムおよびそれを用いた積層体を包装袋のシーラントとして用いたときに、フィルム長手方向への優れた易引き裂き性を持ち、ヒートシール性と耐低温衝撃性に優れ、耐ブロッキング性に優れるためにノンパウダーで使用でき、耐ユズ肌性に優れたハイレトルト用包装材に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明におけるA層のプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)は、20℃キシレン不溶部の割合が75~85重量%、該不溶部の極限粘度([η]H)が1.7~2.0dl/g、可溶部の極限粘度([η]EP)が2.8~3.4dl/g、であることが好ましい。なお、上記20℃キシレン不溶部、及び該可溶部とは、上記プロピレン・エチレンブロック共重合体ペレットを沸騰キシレンに完全に溶解させた後20℃に降温し、4時間以上放置し、その後これを析出物と溶液とに濾別した際、析出物を20℃キシレン不溶部と称し、溶液部分(濾液)を乾固して減圧下70℃で乾燥して得られる部分を該可溶部と称す。
【0017】
上記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)の該不溶部の極限粘度([η]H)が1.7dl/gより小さいと、海成分のポリプロピレンの分子量が小さいことで耐低温衝撃性、耐屈曲白化性が不十分となることがあり、2.0dl/gより大きければ、逆にポリプロピレンの分子量が大きくなりすぎ、キャスト成形が困難になることがある。
【0018】
該キシレン可溶部の極限粘度([η]EP)が2.8dl/gより小さければフィルムがベタつくなど耐ブロッキング性が悪化することがあり、3.4dl/gより大きければ、ポリエチレンおよびエチレン・プロピレン共重合ゴム成分からなる島成分の分散粒子径が大きくなり、油性食品を包装した場合、ユズ肌現象が生じ易くなることがある。
【0019】
なお、本発明に用いるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)の製造方法としては、触媒を用いて原料であるプロピレンやエチレンなどを重合させる方法が挙げられる。ここで、触媒としてはチーグラー・ナッタ型やメタロセン触媒などを用いることができ、例えば、特開平07-216017号公報に挙げられるものを好適に用いることができる。具体的には(1)Si-O結合を有する有機ケイ素化合物及びエステル化合物の存在下で、一般式Ti(OR)aX4-a(式中、Rは炭素数が1~20の炭化水素基、Xはハロゲン原子、aは0<a≦4の数字を表し、好ましくは2≦a≦4、特に好ましくはa=4である。)で表されるチタン化合物を有機マグネシウム化合物で還元して得られる固体生成物を、エステル化合物で処理した後、エーテル化合物と四塩化チタンの混合物もしくはエーテル化合物と四塩化チタンとエステル化合物の混合物で処理することにより、得られる3価のチタン化合物含有固体触媒、(2)有機アルミニウム化合物、(3)電子供与性化合物(ジアルキルジメトキシシラン等が好ましく用いられる)よりなる触媒系が挙げられる。
【0020】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)の製造方法として、生産性及び耐低温衝撃性の観点から、第1工程で実質的に不活性剤の不存在下にプロピレンを主体とした重合体部分を重合し、次いで第2工程で気相中にてエチレン・プロピレン共重合体を重合する方法を用いるのが好ましい。
【0021】
A層はプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)を主成分とする層からなり、ここで主成分とは50重量%以上からなることをいう。プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)が50重量%未満の場合、耐低温衝撃性やシール強度が悪くなる。
【0022】
上記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)の230℃(荷重21.18N)でのメルトフローレート(以下、MFRと略称することがある)は、樹脂どうしの分散性の観点から1~20g/10分の範囲が好ましく、1~10g/10分の範囲がより好ましく、5~8g/10分の範囲がさらに好ましい。
【0023】
本発明におけるB層のプロピレン重合体(b)とは、プロピレン単独の重合体であるホモポリプロピレンを主成分とすることが好ましい。プロピレン重合体(b)を主成分とすることで易引き裂き性や耐ブロッキング性が改善される。ここで主成分とは50重量%以上からなることをいう。
【0024】
上記プロピレン重合体(b)の230℃(荷重21.18N)でのMFRは、樹脂どうしの分散性の観点と安定溶融製膜性の観点からから1~20g/10分の範囲が好ましく、1~10g/10分の範囲より好ましく、5~8g/10分の範囲さらに好ましい。
【0025】
本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムは、A層、B層に低密度ポリエチレン系重合体(c)を併用することが好ましく、それにより耐低温衝撃性及び耐ユズ肌発生性が良化する。
【0026】
但し、低密度ポリエチレン系重合体(c)の添加により、上記A層の極限粘度[η]EP)が2.8dl/g以上でなければ、シール強度が著しく低下することがある。極限粘度[η]EPが3.4dl/gを上回るとユズ肌現象が発生し易くなることがある。なお、キシレン可溶部のエチレン含有量は20~50重量%の範囲が好ましい。該含有量が20重量%より小さければ低温での耐低温衝撃性が低下することがあり、逆に、50重量%より大きければ、易引き裂き性や耐ブロッキング性が不十分となることがある。
【0027】
本発明において、低密度ポリエチレン系重合体(c)は、ポリプロピレン系シーラントフィルムを構成する樹脂組成物における組成割合として、1~12重量%を含有することが好ましい。低密度ポリエチレン系重合体(c)の含有量が1重量%未満の場合、耐低温衝撃性および耐ユズ肌発生性の改善効果は得られないことがあり、逆に12重量%を超える場合は、易引き裂き性が悪化することがある。
【0028】
本発明に用いる低密度ポリエチレン系重合体(c)の密度は、0.920~0.940g/cm3の範囲であると、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)およびプロピレン重合体(b)への分散性が良く好ましい。ポリエチレン系重合体としては、エチレン単独またはエチレンと炭素数3以上のα-オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等との共重合体であり、一般的に知られている方法によって製造されているものが使用できる。具体的には、高圧法低密度ポリエチレンや、直鎖状低密度ポリエチレンが使用でき、中でも直鎖状低密度ポリエチレンは、高圧法低密度ポリエチレンより衝撃強度が高く、シール強度が高いため、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0029】
かかる低密度ポリエチレン系重合体の密度が0.920g/cm3未満では耐ブロッキング性が低下することがあり、0.940g/cm3より高い場合は耐低温衝撃性が低下するおそれがある。また、メタロセン系触媒により製造されるものを用いる方がシール強度の観点から好ましい。
【0030】
さらに、本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムは、各層にリン酸金属塩を含む結晶核剤を0.0015~0.01重量%含有することにより、易引き裂き性を満足させることができる。片方のみの層に含有する場合、易引き裂き性は満足出来ず、また、当該結晶核剤が0.0015重量%未満の場合でも、易引き裂き性が満足出来ない。なお、0.01重量%より多い場合では、易引き裂き性の更なる向上は認められず、シール性が悪化する。また、リン酸金属塩単独でも易引き裂き性を満足させることができるが、ジカルボン酸金属塩と併用することにより更に易引き裂き性が良くなることから、これらの結晶核剤を併用して用いても良い。
【0031】
本発明におけるリン酸金属塩としては、リン酸エステル系化合物等を挙げることができ、なかでも芳香族リン酸エステル金属塩が本発明の目的のため好ましい。
【0032】
具体的には、ナトリウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-ビス(4-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-ビス(4-エチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-ビス(4-i-プロピルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-ビス(4-t-オクチルフェニル)フォスフェート、カリウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、マグネシウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、アルミニウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4-i-プロピル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス[2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム-ビス[2,2’-チオビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム-ビス[2,2’-チオビス-(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-チオビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-チオビス-(4-t-オクチルフェニル)フォスフェート]、ナトリウム-2,2’-ブチリデン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-ブチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-t-オクチルメチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-t-オクチルメチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、バリウム-ビス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-(4,4’-ジメチル-5,6’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス[(4,4-’ジメチル-6,6’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビフェニル)フォスフェート]、ナトリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4-m-ブチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-エチルフェニル)フォスフェート、カリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、バリウム-ビス[2,2-’エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、アルミニウム-トリス[2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェル)フォスフェート]、および、アルミニウム-トリス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]
およびこれらの2種以上の混合物を例示することができる。
【0033】
特にナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートが好ましい。
【0034】
本発明におけるジカルボン酸金属塩は、特開2015-212078号公報に開示されている下記の構造式(i)で表される化合物である。
【0035】
【0036】
式(i)中、M1およびM2は、ナトリウム、水素、カルシウム、ストロンチウムまたはリチウムであり、同じものであっても異なるものであっても良い。R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、水酸基、炭素数1~9のアルコキシ基、炭素数1~9のアルキレンオキシ基、アミノ基、炭素数1~9のアルキルアミノ基、またはフェニル基であり、同じものであっても異なるものであっても良い。R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11のうちの任意の2つが結合して、それらが結合している式(i)に描かれたシクロヘキサン環炭素原子と一緒に、炭素数3~6の飽和炭化水素環を形成していても良い。R2およびR3は、トランス配置であっても、シス配置であっても良い。
【0037】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。炭素数1~9のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。炭素数1~9のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。炭素数1~9のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等が挙げられる。炭素数1~9のアルキレンオキシ基としては、例えば、下記の式で表される基等が挙げられる。
【0038】
R(R’O)n-
式中、Rは、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、R’は、炭素数2または3個のアルキレン基を表し、nは、2~4の整数を表す。ただし、RおよびR’の合計の炭素数は、9個以下である。
【0039】
炭素数1~9のアルキレンオキシ基が、上式で表される基である場合に、好ましくは、H(CH2CH2O)2-、H(CH2CH2O)3-、H(CH2CH2O)4-、CH3(CH2CH2O)2-、CH3(CH2CH2O)3-、CH3(CH2CH2O)4-、CH3CH2(CH2CH2O)2-、CH3CH2(CH2CH2O)3-、(CH3)2CH(CH2CH2O)2-、(CH3)2CH(CH2CH2O)3-、H((CH3)CHCH2O)2-、H((CH3)CHCH2O)3-、CH3((CH3)CHCH2O)2-、またはCH3CH2((CH3)CHCH2O)2-である。
【0040】
本発明は、さらに糖類系核剤も0~0.005重量%含有しても良い。ただし、含有量が多いとレトルト後のフィルムの臭気が悪くなることがあるため、好ましくは0.002~0.003重量%であると、より優れた易引き裂き性を満足することが出来る。糖類系核剤には、ソルビトール系、ノニトール系、キシリトール系等があり、具体的には、ビス-1,3:2,4-(3’-メチル-4’-フルオロ-ベンジリデン)1-プロピルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3’,4’-ジメチルベンジリデン)1’-メチル-2’-プロペニルソルビトール、ビス-1,3,2,4-ジベンジリデン2’,3’-ジブロモプロピルソルビトール、ビス-1,3,2,4-ジベンジリデン2’-ブロモ-3’-ヒドロキシプロピルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3’-ブロモ-4’-エチルベンジリデン)-1-アリルソルビトール、モノ2,4-(3’-ブロモ-4’-エチルベンジリデン)-1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(4’-エチルベンジリデン)1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3’,4’-ジメチルベンジリデン)1-メチルソルビトール、1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトール、ビス-1,3:2,4-(4’-エチルベンジリデン)1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(5’,6’,7’,8’-テトラヒドロ-2-ナフトアルデヒドベンジリデン)1-アリルキシリトール、ビス-1,3:2,4-(3’,4’-ジメチルベンジリデン)1-プロピルキシリトール等が挙げられる。
【0041】
本発明で用いる結晶核剤については、3~10重量%含有したマスターバッチで用いた方が、分散性の点から良い。マスターバッチのキャリアレジンとしては、オレフィン系樹脂が望ましく、例えば、プロピレンにエチレンまたはブテンをランダム共重合したプロピレン系ランダム共重合体や、ホモポリプロピレン、プロピレン系ブロック共重合体やポリエチレン系樹脂が挙げられる。
【0042】
また、本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムには、極限粘度[η]が5dl/g以上、10dl/g未満のプロピレン重合体成分を含有するプロピレン系重合体(d)を5~20重量部含有することが好ましい。極限粘度[η]が5dl/g未満では易引き裂き性の改善が十分でないことがあり、10dl/g以上ではフィルム中に異物が発生する場合がある。このプロピレン系重合体(d)を前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)及びプロピレン重合体(b)及び、低密度ポリエチレン系樹脂(c)と混練製膜することにより、均一混練と溶融製膜時の安定押出しが可能となり、フィルムのMD方向の配向を高く出来、易引き裂き性が良化する。
【0043】
上記プロピレン系重合体(d)は各層に5~20重量部含有させることが好ましく、5重量部未満の場合、易引き裂き性の効果が無いことがあり、20重量部より多いとメルトフラクチャーが発生することがあり、外観のシースルー性が著しく悪くなることがある。
【0044】
上記プロピレン系重合体(d)の230℃のMFRは、他のポリマーとの混和性、耐低温衝撃性を改良するという観点から、10~20g/10分の範囲が好ましい。
【0045】
上記プロピレン系重合体(d)はプロピレンを主体としたモノマーを重合して得られる重合体であり、例えばプロピレンの単独重合体、プロピレンと5重量%以下のエチレンとのランダム共重合体、プロピレンと10重量%以下のブテンとのランダム共重合体、またはプロピレンと5重量%以下のエチレンと10重量%以下のブテンとの3元ランダム共重合体等を用いることができる。
【0046】
上記プロピレン系重合体(d)の製造方法としては、例えば特開平11-228629号公報に挙げる法を用いることができ、プロピレン重合体成分の極限粘度およびプロピレン系重合体(d)全体の極限粘度およびメルトフローレートの調整方法としては、重合時の各工程で水素ガスや金属化合物などの分子量調節剤を加える方法を用いることができる。
【0047】
また、各層に高溶融張力ポリプロピレン(e)を5~20重量部含有させることにより易引き裂き性が更に向上するので好ましい。高溶融張力ポリプロピレンとは、電子線照射して長鎖分岐を付与したり、パーオキサイドと架橋モノマーの存在下に押出機内で変性することによって長鎖分岐を付与したり、多段重合により高分子量の成分を付与して溶融張力を向上させるといった公知の方法で製造可能である。組成は、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、或いはプロピレン-エチレンブロック共重合体のいずれでも良いが、耐熱性の点で、プロピレン単独重合体のタイプが好ましい。
【0048】
上記高溶融張力ポリプロピレン(e)の230℃(荷重21.18N)のMFRは、0.1~18g/10分の範囲が好ましく、0.5~9g/10分の範囲であることが、好適な製膜性やプロピレン系ブロック共重合体との良好な相溶性を得やすくなるので好ましい。
【0049】
また、上記高溶融張力ポリプロピレン(e)の溶融張力(230℃)は3~26gの範囲であることが、各層の結晶性を高めて、易引き裂き性が更に向上するので好ましい。
【0050】
また、各層に高密度ポリエチレン系重合体(f)を1~5重量%含有させると易引き裂き性を低下させず、耐低温衝撃性が飛躍的に良化するので好ましい。高密度ポリエチレン系重合体(f)は1重量%未満では含有効果がでないことがあり、5重量%より多く含有させると耐低温衝撃性は向上しないことがあり、シール強度が著しく低下することがある。
【0051】
さらに、上記高密度ポリエチレン系重合体(f)の密度は0.92~0.97g/cm3が好ましく、かつ190℃、荷重21.18NでのMFRが1~20g/10分のエチレン系重合体が好ましく、0.93~0.97g/cm3のエチレン単独重合体がより好ましい。高密度ポリエチレン系重合体(f)の密度が0.92g/cm3を下回る場合は、耐ブロッキング性が悪化する場合があり、0.97g/cm3を超える場合は、シール性が悪化する場合がある。
【0052】
上記高密度ポリエチレン系重合体(f)の190℃、荷重21.18NでのMFRは、1g/10分未満では透明性が悪化することがある。一方、MFRが20g/10分を超えると、耐低温衝撃性が悪くなることがある。
【0053】
本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、耐熱安定剤、中和剤、帯電防止剤、塩酸吸収剤、アンチブロッキング剤、滑剤、造核剤等を含むことができる。これらの添加剤は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ここで酸化防止剤の具体例としては、ヒンダードフェノール系として、4-メチル-2,6-ジ-t-ブチルフェノール(BHT)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(“イルガノックス”1076、“Sumilizer”BP-76)、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(“イルガノックス”1010、“Sumilizer”BP-101)、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(“イルガノックス”3114、“アデカスタブ”AO-20)等を、
また、ホスファイト系(リン系)酸化防止剤として、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(“Irgafos”168、“アデカスタブ”2112)、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4-4’-ビフェニレン-ジホスホナイト(“Sandstab”P-EPQ)、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(“Ultranox”626,“アデカスタブ”PEP-24G)、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(“アデカスタブ”PEP-8)等が挙げられるが、
中でもこれらのヒンダードフェノール系とホスファイト系の両機能を合わせ持つ2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(“Sumilizer”GP)、及び、アクリル酸2[1-[2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル]エチル]-4,6-ジ-t-ペンチルフェニル(“Sumilizer”GS)が好ましく、特に、この両者の併用は、フィルム製膜に際し、特に20℃キシレン可溶部の分解抑制に効果を発揮し、耐低温衝撃性と耐ブロッキング性の両立に大きく寄与することから好ましい。かかるキシレン可溶部の分解が促進されると耐ブロッキング性が悪化することがある。
【0055】
なお、酸化防止剤の添加量としては、用いる酸化防止剤の種類にもよるが、0.05~0.3重量%の範囲で適宜設定すればよい。
【0056】
また、中和剤としては、ハイドロタルサイト類化合物、水酸化などがフィルム製膜時の発煙低下に好ましい。
【0057】
次に、本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムは、Tダイ法、チューブラー法などの公知のフィルム製膜方法で製造することが可能であるが、特にTダイ法による未延伸フィルムの製膜方法が、フィルムの複屈折率や結晶性をコントロールすることが容易であることから好ましい。本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムのTダイ法による製膜方法を下記するが、本発明はこれらの方法に限られるものではない。
【0058】
一軸または二軸の溶融押出機で、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)、プロピレン重合体(b)のペレットまたはパウダー、さらに、リン酸金属塩を所定の配合割合で溶融混練したのち、得られた混練物をフィルターで濾過して、フラットダイ(例えばTダイ)からフィルム状に押出すことによって製造できる。各層の厚み比率は、易引き裂き性、シール性、耐低温衝撃性を好適に調整しやすいことから、シーラントフィルムが、内層(A層)及び外層(B層)からなる場合には、内層(A層)/外層(B層)で表される厚み比率が、50/50~5/95であることが好ましく、40/60~10/90であることがより好ましく、30/70~20/80であることがさらに好ましい。溶融押出機から押出す溶融ポリマーの温度は通常180~300℃が適用できるが、ポリマーの分解を防ぎ良好な品質のフィルムを得るためには、200~270℃が好ましい。Tダイから押出されたフィルムは20~90℃の一定温度に設定した冷却ロールに接触させて、冷却・固化させた後巻き取る。
【0059】
本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムは、内層(A層)及び外層(B層)のA層(内層)とは反対側に、C層を積層したA層/B層/C層の3層としてもよい。当該C層としては、例えば、オレフィン系樹脂を含有する層を好ましく使用でき、好適なシール性や引き裂き性を得やすいことから、内層(A層)又は外層(B層)と同様の層とすることが好ましく、内層(A層)と同様の層とすることが特に好ましい。各層の厚み比率は、易引き裂き性、シール性、耐衝撃性を好適に調整しやすいことから、内層(A層):外層(B層):最外層(C層)=1:2:1から1:8:1であることが好ましく、さらに好ましくは、1:4:1~1:6:1である。
【0060】
本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムは冷却固化の後に延伸を行うこともできるが、好ましくは実質的に延伸を行わない未延伸フィルムであることが好ましい。実質的に延伸を行わない未延伸フィルムの方が、ヒートシールする際のヒートシール温度を過度に高める必要がない(比較的低温でヒートシールできる)ことから好ましい。また、本発明において、未延伸フィルムとは、押出キャストフィルムのことを指すが、実際の製膜工程においては、フィルムMD方向または幅方向(以下、TD方向と略称することがある)に若干配向したフィルムとなる場合もあるため、本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムの複屈折率(フィルムのMD方向とTD方向の屈折率の差、Δn)は3.5×10―3~8.0×10―3の範囲であることが、ヒートシール性、熱寸法安定性、易引き裂き性の点で好ましい。尚、複屈折率(Δn)は、コンペンセータ法を用い、サンプルのリターデーションR(nm)を測定し、該測定部のフィルムの厚さd(nm)より、Δn=R/dとして求めることができる。
【0061】
このようにして得られた本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムの厚さは20~300μmが好ましく、より好ましくは30~100μmである。
【0062】
ここで、本発明において複屈折率を制御する方法としては例えば、上記混合樹脂を180℃~270℃の範囲、好ましくは200℃~250℃の低温で溶融し、温度を50~90℃、好ましくは50~70℃の高温に保たれたキャスティングドラム上で冷却し、10~100m/minの速度で巻き取る方法が挙げられる。
【0063】
上記のようにして得られたポリプロピレン系シーラントフィルムのMD方向の引き裂き強度は、20N/mm以下が好ましく、より好ましくは15N/mm以下である場合に、他基材とラミネートした後でも引き裂き性が良好であり、耐低温衝撃性とシール強度も高く好ましい。
【0064】
上記のようにして、厚さ70μmの本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムを用い、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)と、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミドフィルム(ONy)と、厚み9μmのアルミニウム箔(AL)からなるラミネート基材層と、該ポリプロピレン系シーラントフィルムとをウレタン系接着剤を用いてドライラミネート法で貼合わせ、PET/接着剤/ONy/接着剤/AL/該シーラントフィルムの構成の積層体を作成し、この積層体2枚を該シーラントフィルムが袋の内面になるようにして、富士インパルス社製CA-450-10型ヒートシーラーを使用し、加熱時間0.8秒(シール温度:約180℃)、冷却時間3.0秒で、製袋サイズ50mm×150mmの3方パウチを作成し、120℃で30分レトルト処理後、JIS-K7128-1に基づいて測定した引き裂き力が10N(絶対値)以下であることが望ましい。10Nを超えるとCPPが伸びて引き裂き性に劣るものとなることがある。
【0065】
本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムは、単独で包装用のフィルムとして使用することもできるが、AL箔を含むレトルト食品包装袋用のシーラントフィルムとして好ましく使用できる。積層体の構成フィルムは、接着剤を用いて貼合わせる通常のドライラミネート法が好適に採用できるが、必要に応じて本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムと他基材層の貼合わせには、直接ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を押出してラミネートする方法も採用できる。これら積層体は本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムをシール層(袋の内面)として、平袋、スタンディングパウチなどに製袋加工され使用される。
【0066】
また、これら積層体の積層構造は、包装袋の要求特性(例えば包装する食品の品質保持期間を満たすためのバリア性能、内容物の重量に対応できるサイズ・耐低温衝撃性、内容物の視認性など)に応じて適宜選択される。
【実施例0067】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本発明の詳細な説明および実施例中の各評価項目の測定値は、下記の方法で測定した。
【0068】
(1)20℃キシレン可溶部の含有量
ポリプロピレンペレット5gを沸騰キシレン(関東化学(株)1級)500mLに完全に溶解させた後に、20℃に降温し、4時間以上放置する。その後、これを析出物と溶液とに濾過して、可溶部と不溶部に分離した。可溶部は濾液を減圧下で固化した後、70℃で乾燥し、その重量を測定して含有量(重量%)を求めた。
【0069】
(2)20℃キシレン不溶部および可溶部の極限粘度
上記方法で分離したサンプルを用い、ウベローデ型粘度計を用いて、135℃テトラリン中で測定を行った。
【0070】
(3)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210:1999に準拠し、プロピレン系重合体およびプロピレン・エチレンブロック共重合体は温度230℃、ポリエチレン系重合体は温度190℃で、それぞれ荷重21.18Nにて測定した。
【0071】
(4)溶融張力(MS)
230℃における溶融張力(MS)は、(株)東洋精機製作所製メルトテンションテスター2型を用いて、装置内にてポリプロピレンを230℃に加熱し、溶融ポリプロピレンを直径2.095mmのノズルから20mm/分の速度で23℃の大気中に押し出してストランドとし、このストランドを3.14m/分の速度で引き取る際の糸状ポリプロピレンの張力を測定し、溶融張力(MS)とした。
【0072】
(5)密度
JIS K7112:1999に基づき、密度勾配管による測定方法で測定した。
【0073】
(6)耐低温衝撃性
厚さ12μmのPETと、厚さ15μmのONyと、厚さ9μmのAL箔と、厚さ70μmの本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムとをウレタン系接着剤を用いて通常のドライラミネート法で貼合わせ、次の構成の厚さ115μmの積層体を作成した。
【0074】
積層体構成:PET/接着剤/ONy/接着剤/AL箔/接着剤/本発明のポリプロピレン系シーラントフィルム(積層体1という)
この積層体2枚を本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムが袋の内面になるようにして、富士インパルス社製CA-450-10型ヒートシーラーを使用し、加熱時間1.4秒(シール温度:約220℃)、冷却時間3.0秒で、製袋サイズ150mm×285mmのスタンディングパウチを作成した。この袋に濃度0.1%の食塩水1000cm3を充填した後、135℃で30分レトルト処理する。レトルト処理後の袋を0℃の冷蔵庫で保管した後、55cmの高さから平らな床面に落下させ(n数20個)、破袋に至るまでの回数を記録する。本評価法ではn数20個の平均値で15回以上であれば業務用の耐低温衝撃性が良好(〇)とし、15回未満を耐低温衝撃性に劣る(×)とした。
【0075】
(7)ヒートシール(HS)強度
(6)と同じ積層体2枚のシール層どうしを、平板ヒートシーラーを使用し、シール温度180℃、シール圧力10N/cm2、シール時間1秒の条件でヒートシールしたサンプルを、130℃×30分レトルト処理した後、オリエンテック社製テンシロンを使用して300mm/分の引張速度でヒートシール強度を測定した。本測定法でシール強度が45N/15mm 以上であれば、レトルト用途にも良好に使用できる(〇)とし、45N/15mm未満をヒートシール強度不足で(×)とした。
【0076】
(8)耐ユズ肌発生性
(6)の積層体1の積層体2枚を本発明のポリプロピレン系シーラントフィルムが袋の内面になるようにして、平板ヒートシーラーを使用し、シール温度180℃、シール圧力10N/cm2、シール時間1秒の条件でヒートシールし、160mm×210mm(内部の寸法)の大きさの3方袋(平袋、シール幅5mm)を作成した。この袋に市販のレトルトカレー(ハウス食品工業社製のレトルトカレー「ククレカレー・辛口」)を充填した後、135℃で30分レトルト処理をした直後の積層体表面の凹凸発生状況を目視判定した。全くユズ肌が発生しないものをランク1、僅かに発生するものをランク2、軽度に発生するものをランク3、明確に発生するものをランク4、重度に発生するものをランク5として評価した。本評価法でランク1、2を耐ユズ肌発生性良好(〇)とし、ランク4、5を耐ユズ肌発生性に劣る(×)とした。
【0077】
(9)耐ブロッキング性(N/12cm2)
幅30mmで長さ100mmのフィルムサンプルを準備し、フィルムどうしを30mm×40mmの範囲で重ね合わせて、5N/12cm2の荷重をかけ、80℃のオーブン内で24時間加熱処理した後、23℃、湿度65%の雰囲気下に30分以上放置した後、オリエンテック社製テンシロンを使用して300mm/分の引張速度で剪断剥離力を測定した。 本測定法で剪断剥離力が10N/12cm2 以下であれば耐ブロッキング性が良好でノンパウダーレトルトして使用できるので(〇)とし、10N/12cm2以上を耐ブロッキング性が不良(×)とした。
【0078】
(10)ポリプロピレン系シーラントフィルムの引き裂き強度(N/mm)
JIS K7128-1に準拠し、23℃の恒温室内で試験片の幅50mm(TD方向)、長さ150mm(MD方向)の短冊の幅中央にMD方向に75mmの切り込みを入れ、速度200mm/分でMD方向への引き裂き強度(N)を測定し、フィルムの厚さ(mm)で割って引き裂き強度を算出した。ポリプロピレン系シーラントフィルム単体では20N/mm以下であれば易引き裂き性を有すると判断した。MDはフィルムの長手方向、TDはフィルムの幅方向である。
【0079】
(11)複屈折率(△n)
日本光学(株)製POH型偏光顕微鏡を用い、コンペンセータ法を用い、サンプルのリターデーションR(nm)を測定し、該測定部のフィルムの厚さd(nm)より、Δn=R/dとして求めた。
【0080】
(12)積層体の引き裂き力(N)
(6)の積層体1の積層体2枚を前記シーラントフィルムが袋の内面になるようにして、富士インパルス社製CA-450-10型ヒートシーラーを使用し、加熱時間0.8秒(シール温度:約180℃)、冷却時間3.0秒で、製袋サイズ50mm×150mmの3方パウチを作成し、120℃で30分レトルト処理後、JIS-K-7128-1に基づいて測定した引き裂き力が10N(絶対値)以下であればCPPが伸びず直進カット性があるといえる。
【0081】
(13)シースルー性
(6)の積層体1の積層体表面の凹凸発生状況を目視判定した。
【0082】
凹凸が全く発生しないものをランク1、僅かに発生するものをランク2、軽度に発生するものをランク3、明確に発生するものをランク4、重度に発生するものをランク5として評価した。本評価法でランク1、2、3をシースルー性良好とし、〇とした。
【0083】
実施例および比較例で用いた各成分は、以下のとおりである。
【0084】
[プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)/B-PP1]
20℃キシレン不溶部の含有量が80重量%、その極限粘度([η]H)が1.90dl/g、20℃キシレン可溶部の含有量が20重量%、その極限粘度([η]EP)が3.00dl/g、230℃でのMFRが2.3g/10分であり、酸化防止剤として“Sumilizer”GP0.0003重量%及び“Sumilizer”GS0.00075重量%を含有したプロピレン・エチレンブロック共重合体ペレットを使用した。上記、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)を、以下、B-PP1とする。
【0085】
[プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)/B-PP2]
20℃キシレン不溶部の含有量が80重量%、その極限粘度([η]H)が1.60dl/g、20℃キシレン可溶部の含有量が12重量%、その極限粘度([η]EP)が2.00dl/gのプロピレン・エチレンブロック共重合体に酸化防止剤として“Sumilizer”(登録商標)GP0.0003重量%および“Sumilizer”(登録商標)GS0.00075重量%を含有したMFRが8.0g/10分であるプロピレン・エチレンブロック共重合体ペレットを使用した。以下、B-PP2とする。
【0086】
[プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)/B-PP3]
20℃キシレン不溶部の含有量が88重量%、その極限粘度([η]H)が2.00dl/g、20℃キシレン可溶部の含有量が12重量%、その極限粘度([η]EP)が3.60dl/g、MFRが0.8g/10分であり、酸化防止剤として“Sumilizer”GP0.0003重量%および“Sumilizer”GS0.00075重量%を含有したプロピレン・エチレンブロック共重合体ペレットを使用した。上記、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)を、以下、B-PP3とする。
【0087】
[プロピレン重合体(b)/PP1]
230℃でのMFRが5.0g/10分であり、酸化防止剤として、“イルガノックス”1010を0.001重量%含有したホモポリプロピレンを使用した。上記、ホモポリプロピレンを、以下、PP1とする。
【0088】
[低密度ポリエチレン系重合体(c)/低密度PE1]
密度0.925g/cm3で、MFR1.9g/10分、共重合成分が1-ヘキセンである直鎖状低密度ポリエチレン(住友化学(株)製FV201)を使用した。上記、低密度ポリエチレン系重合体(c)を、以下、低密度PE1とする。
【0089】
[低密度ポリエチレン系重合体(c)/低密度PE2]
密度0.910g/cm3で、MFR10.0g/10分、共重合成分が1-ヘキセンである直鎖状低密度ポリエチレン((株)プライムポリマー製SP1071C)を使用した。上記、低密度ポリエチレン系重合体(c)を、以下、低密度PE2とする。
【0090】
[プロピレン系重合体(d)/PP2]
特開平11-228629号公報の実施例1に記載されている重合触媒を用いて、同例 に記載されている重合方法および重合条件に準拠して、第1工程でプロピレンを重合して第一の成分を生成させた後、触媒を失活させずに、触媒と第一の成分を第2工程へ移し、第2工程でプロピレンを重合して第一の成分と分子量が異なる成分を生成させる方法によって、極限粘度が7.6dl/gであるプロピレン重合体成分を9重量%と、極限粘度が1.2dl/gである成分91重量%からなり、全体の極限粘度1.8dl/gであるプロピレン系重合体(d)を得た。このプロピレン系重合体(d)100重量部に対し、酸化防止剤IRGANOX1010(商品名、チバ・スペシャリティ-ケミカルズ社製)0.2重量部、酸化防止剤IRGAFOS168(商品名、チバ・スペシャリティ-ケミカルズ社製)0.25重量部、ステアリン酸カルシウム0.05重量部を混合し、二軸押出機TEM75(商品名、東芝機械製)で吐出量300kg/時、スクリュー回転数250rpmで、200℃で溶融混合を行い、ペレットを得た。このペレットの230℃、荷重21.18NでのMFRは14g/10分であった。上記、プロピレン系重合体(d)を、以下、PP2とする。
【0091】
[高溶融張力ポリプロピレン(e)/HMS-PP]
密度0.90g/cm3で、230℃、荷重21.18NでのMFRが2.9g/10分、230℃での溶融張力(MS)が9gである日本ポリプロ(株)製EX6000を使用した。以下、HMS-PPとする。
【0092】
[高密度ポリエチレン系重合体(f)/高密度PE1]
密度0.950g/cm3で190℃、荷重21.18NでのMFRが16.0g/10分の市販の高密度エチレンペレットを使用した。以下、高密度エチレンペレットをHDPE1とする。
【0093】
[リン酸金属塩の結晶核剤/MB1]
リン酸エステル金属塩であるナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート(ADEKA製“アデカスタブ”NA-11)の結晶核剤を6重量%含有するマスターバッチ(東京インキ製PPMST-0024、キャリアレジン:ホモポリプロピレン、MFR:7g/10分)を使用した。以下、リン酸エステル金属塩の結晶核剤マスターバッチをMB1とする。
【0094】
[実施例1~24]
表1、2の樹脂構成で、ペレット状態の樹脂をブレンダーにより混合して、温度260℃に温調された2台または3台の押出機に供給し、溶融混練してフィルターで濾過した後、共押出し用のマルチマニフォールド口金で、2層または3層に積層してフィルム状に押出し、温度が50℃で速度が60m/分の冷却ロールに接触させて冷却・固化させた後、A層の反対側をコロナ放電処理して厚さ70μmのフィルムを得た。2層フィルムの場合のA層およびB層の厚さ比率は、A層30%、B層70%にした。3層フィルムの場合のA層およびB層及びC層の厚さ比率は、A層20%、B層60%、C層20%とした。
【0095】
フィルム特性を評価した結果、表1、2の通り、引き裂き強度、耐低温衝撃性、Δn、耐ブロッキング剪断性、耐ユズ肌性、シール強度、すべてにおいてバランス良く満足するフィルムが得られ、特に積層体として包装袋のシーラントとしてフィルム長手方向(MD)への優れた易引き裂き性、耐ブロッキング性に優れ、ノンパウダーで使用できることを確認した。
【0096】
[比較例1~8]
表3、4の樹脂構成で、ペレット状態でブレンダーにより混合して押出機に供給し、溶融混練してフィルターで濾過し、次いで240℃でTダイより60m/分で押出し、50℃の冷却ロールに接触させて冷却・固化させた後片面をコロナ放電処理して厚さ70μmのフィルムを得た。
【0097】
比較例1、3、5、7は、易引き裂き性が非常に悪いものであった。
【0098】
比較例2、4、6、8は、ヒートシール性や耐低温衝撃性が悪くなり、ハイレトルト用途に好適に使用できるものでは無かった。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】