(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042631
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】金属板の打ち抜き方法
(51)【国際特許分類】
B21D 28/24 20060101AFI20220308BHJP
B21D 28/26 20060101ALI20220308BHJP
B24B 9/00 20060101ALI20220308BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20220308BHJP
B24B 49/03 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B21D28/24 Z
B21D28/26
B24B9/00 601K
B24B1/00 Z
B24B49/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148099
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 尚記
【テーマコード(参考)】
3C034
3C049
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034AA19
3C034CA30
3C034CB08
3C034DD20
3C049AA05
3C049AA09
3C049AA11
3C049AB04
(57)【要約】
【課題】疲労強度に優れた打ち抜き穴を形成する金属板の打ち抜き方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る金属板の打ち抜き方法は、金属板1に円形の打ち抜き穴3を形成するものであって、円形の開口部を有して金属板1を支持するダイ13と、先端に設けられた円柱状の打ち抜き部19と打ち抜き部19よりも基端側に設けられて打ち抜き部19の中心軸を回転軸として回転可能な回転部21と回転部21の外周面に設けられた研磨布紙23とを有するパンチ15と、を用いて、パンチ15を打ち抜き方向に移動させて打ち抜き部19により金属板1に打ち抜き穴3を形成し、打ち抜き穴3を形成した後、回転部21を打ち抜き穴3に挿通させた状態で回転部21をパンチ円周方向に回転させて、研磨布紙23により打ち抜き穴3のせん断端面5を研磨することを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板に円形の打ち抜き穴を形成する金属板の打ち抜き方法であって、
円形の開口部を有して前記金属板を支持するダイと、先端に設けられた円柱状の打ち抜き部と該打ち抜き部よりも基端側に設けられて前記打ち抜き部の中心軸を回転軸として回転可能な回転部と該回転部の外周面に設けられた研磨布紙とを有するパンチと、を用いて、
前記パンチを打ち抜き方向に移動させて前記打ち抜き部により前記金属板に打ち抜き穴を形成し、
該打ち抜き穴を形成した後、前記回転部を前記打ち抜き穴に挿通させた状態でパンチ円周方向に回転させて、前記研磨布紙により前記打ち抜き穴のせん断端面を研磨することを特徴とする金属板の打ち抜き方法。
【請求項2】
前記回転部は、前記回転軸を中心として拡径及び縮径可能な拡径・縮径部を有し、
前記研磨布紙が前記打ち抜き部の外周面よりも内側となるように前記拡径・縮径部を縮径させた状態で前記金属板に前記打ち抜き穴を形成し、
前記打ち抜き穴を形成した後、前記回転部を回転させて、前記研磨布紙が前記打ち抜き穴のせん断端面に当接するように前記拡径・縮径部を拡径して、前記せん断端面を研磨し、
前記せん断端面を研磨した後、前記研磨布紙が前記打ち抜き部の外周面よりも内側となるように前記拡径・縮径部を縮径させることを特徴とする請求項1記載の金属板の打ち抜き方法。
【請求項3】
予備試験にて、前記パンチに前記研磨布紙を設けずに前記金属板に前記打ち抜き穴を形成し、該打ち抜き穴の前記せん断端面における破断面と前記金属板の表面とのなす角度を測定し、
前記予備試験により測定した角度と、前記研磨布紙の表面と前記打ち抜き部の中心軸断面とのなす角度と、が所定誤差範囲となるように、前記研磨布紙が前記回転部の外周面に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属板の打ち抜き方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の打ち抜き方法に関し、特に、せん断端面の疲労強度を向上させた打ち抜き穴を形成する金属板の打ち抜き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
打ち抜き加工した金属板の打ち抜き穴のせん断端面は、打ち抜き加工により打ち抜き穴円周方向の引張残留応力が発生すること、端面が粗いこと等から、ドリル等で機械加工した穴の端面に比べると疲労強度が低いことが知られており(非特許文献1参照)、自動車部品等における疲労破壊の原因となっている。そのため、打ち抜き加工した金属板の打ち抜き穴のせん断端面の性状を改善することが望まれている。
【0003】
打ち抜き穴のせん断端面の性状を改善させるため、例えば、以下の技術がこれまでに提案されている。
特許文献1及び特許文献2には、予め金属板を塑性変形させて圧痕を形成した後に打ち抜く方法が提案されている。
また、特許文献3には、パンチの先端側の剪断部よりも基端側に剪断部よりも拡径した型大部を設け、剪断部が金属板の打ち抜き穴に貫通した状態からさらに打ち抜き方向に移動させて型大部を通過させることにより打ち抜き穴のせん断端面を擦る方法が提案されている。
さらに、特許文献4には、ポンチ金型とダイス金型としわ押さえ金型の組み合わせにより、ポンチ金型の移動に連動してしわ押さえ金型で金属板を加圧しながら打ち抜き加工する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-12018号公報
【特許文献2】特開2008-137073号公報
【特許文献3】WO2009-125786号公報
【特許文献4】特開2004-283875号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】吉武他:自動車技術会論文集、Vol.33、No.4、pp.203-208、2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された方法では、金属板に打ち抜き穴を形成する金型の他にも別の金型を要するために、工程数が増えて生産性が低いという問題があった。
また、特許文献3に開示された方法では、型大部が打ち抜き穴を通過する際に打ち抜き穴の周辺の金属板が変形してしまうという問題があった。
【0007】
さらに、特許文献4に開示された方法によれば、せん断端面におけるせん断面の割合を高めることで疲労強度を向上させることができるとされている。
【0008】
しかしながら、特許文献4に記載された方法によってもせん断端面に破断面が残存するため、破断面におけるき裂の発生を十分に抑制できない。その上、特殊な形状のしわ押さえ金型を要するために適用できる箇所が限られるという問題があった。
【0009】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、打ち抜き穴を形成する金型の他に別の金型を要せずに一工程で、せん断端面の性状が改善された打ち抜き穴を形成し、せん断端面からのき裂の発生を抑制して疲労強度を向上できる金属板の打ち抜き方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る金属板の打ち抜き方法は、金属板に円形の打ち抜き穴を形成するものであって、
円形の開口部を有して前記金属板を支持するダイと、先端に設けられた円柱状の打ち抜き部と該打ち抜き部よりも基端側に設けられて前記打ち抜き部の中心軸を回転軸として回転可能な回転部と該回転部の外周面に設けられた研磨布紙とを有するパンチと、を用いて、
前記パンチを打ち抜き方向に移動させて前記打ち抜き部により前記金属板に打ち抜き穴を形成し、
該打ち抜き穴を形成した後、前記回転部を前記打ち抜き穴に挿通させた状態でパンチ円周方向に回転させて、前記研磨布紙により前記打ち抜き穴のせん断端面を研磨することを特徴とするものである。
【0011】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記回転部は、前記回転軸を中心として拡径及び縮径可能な拡径・縮径部を有し、
前記研磨布紙が前記打ち抜き部の外周面よりも内側となるように前記拡径・縮径部を縮径させた状態で前記金属板に前記打ち抜き穴を形成し、
前記打ち抜き穴を形成した後、前記回転部を回転させて、前記研磨布紙が前記打ち抜き穴のせん断端面に当接するように前記拡径・縮径部を拡径して、前記せん断端面を研磨し、
前記せん断端面を研磨した後、前記研磨布紙が前記打ち抜き部の外周面よりも内側となるように前記拡径・縮径部を縮径させることを特徴とするものである。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
予備試験にて、前記パンチに前記研磨布紙を設けずに前記金属板に前記打ち抜き穴を形成し、該打ち抜き穴の前記せん断端面における破断面と前記金属板の表面とのなす角度を測定し、
前記予備試験により測定した角度と、前記研磨布紙の表面と前記打ち抜き部の中心軸断面とのなす角度と、が所定誤差範囲となるように、前記研磨布紙が前記回転部の外周面に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、円形の開口部を有して前記金属板を支持するダイと、先端に設けられた円柱状の打ち抜き部と該打ち抜き部よりも基端側に設けられて前記打ち抜き部の中心軸を回転軸として回転可能な回転部と該回転部の外周面に設けられた研磨布紙とを有するパンチと、を用いて、前記パンチを打ち抜き方向に移動させて前記打ち抜き部により前記金属板に打ち抜き穴を形成し、該打ち抜き穴を形成した後、前記回転部を前記打ち抜き穴に挿通させた状態で前記回転部をパンチ円周方向に回転させて、前記研磨布紙により前記打ち抜き穴のせん断端面を研磨することにより、前記せん断端面の凹凸を少なくするとともに、前記せん断端面における研磨痕の方向と前記打ち抜き穴を形成した前記金属板に繰り返し荷重を負荷させたときに前記せん断端面に発生するき裂の方向とが一致しないようにすることができ、疲労強度に優れた打ち抜き穴のせん断端面を得ることができる。
また、本発明によれば、打ち抜き後にプレス成形を行う場合のせん断端面の延性破壊を防止することによる成形性の向上や、打ち抜き穴を形成した金属板が静的な荷重を受けた状態で所定時間経過した際に脆性的に破壊が生じる遅れ破壊特性の向上が期待できる。さらに、せん断端面の凹凸を小さくして表面積を小さくすることにより、塗料の塗布性や耐食性の向上も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る金属板の打ち抜き方法を説明する図である((a)打ち抜き前、(b)打ち抜き直後及び研磨、(c)パンチの引き抜き)。
【
図2】本発明の実施の形態2に係る金属板の打ち抜き方法を説明する図である(その1)((a)打ち抜き前、(b)打ち抜き直後、(c)拡径・縮径部の拡径及び研磨)。
【
図3】本発明の実施の形態2に係る金属板の打ち抜き方法を説明する図である(その2)((a)拡径・縮径部の縮径、(b)パンチの引き抜き)。
【
図4】本発明の実施の形態2に係る金属板の打ち抜き方法において、回転部の外周面を拡径させる拡径・縮径部の具体的な一例と、拡径・縮径部が縮径した状態を示す図である((a)側面図、(b)B-B断面図)。
【
図5】本発明の実施の形態2に係る金属板の打ち抜き方法において、回転部の外周面を縮径させる拡径・縮径部の具体的な一例と、拡径・縮径部が拡径した状態を示す図である((a)側面図、(b)B-B断面図)。
【
図6】実施例において、疲労試験に用いた疲労試験片を示す図である。
【
図7】打ち抜き加工により形成された打ち抜き穴のせん断端面を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明者らは、上記の課題を解決するために、まず、打ち抜き加工した打ち抜き穴のせん断端面の性状と疲労強度について鋭意検討した。
【0016】
金属板1を打ち抜き加工して形成した打ち抜き穴3の断面図(側面)を
図7(a)に示す。打ち抜き穴3のせん断端面5は、せん断面5aと、破断面5bとに分けられる。このような打ち抜き穴3が形成された金属板1に繰り返し荷重を負荷すると、
図7(b)上面図に示すように、せん断端面5における破断面5bにき裂9が発生しやすく、き裂9を起点として疲労破壊に至る。
【0017】
また、破断面5bの凹凸において、パンチ15による打ち抜き方向に凹部が連なる部位が起点となって、打ち抜き加工により付加される打ち抜き穴円周方向の引張応力や金属板の曲げ等の応力によってき裂が進展する。さらに、せん断端面に残る研磨痕の方向が打ち抜き方向であっても、き裂の発生を促進してしまうことが明らかになった。
【0018】
そこで、発明者らは、円柱状の打ち抜き部と、前記打ち抜き部の中心軸を回転軸としてパンチ円周方向に回転可能な回転部と、該回転部の外周面に設けられた研磨布紙とを有するパンチを用いて金属板を打ち抜き加工し、金属板に打ち抜き穴を形成した後、打ち抜き穴に挿通させた状態で前記回転部をパンチ円周方向に回転させて、研磨布紙により打ち抜き穴のせん断端面を研磨して研磨痕を金属表面にほぼ平行とすることにより、き裂の起点とならずにせん断端面を研磨することができるという知見を得た。
すなわち、打ち抜き穴のせん断端面をパンチ円周方向に研磨布紙で研磨してせん断端面の性状を改善することによって、疲労強度が向上することが明らかになった。
【0019】
本発明の実施の形態1及び実施の形態2に係る金属板の打ち抜き方法について、以下に説明する。
なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能や構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
また、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があるが、各構成要素の寸法や比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1に係る金属板の打ち抜き方法は、
図1に一例として示すように、ダイ13と、パンチ15と、を備えた金型11を用いて、金属板1に円形の打ち抜き穴3を形成するものである。
【0021】
ダイ13は、円形の開口部13aを有して金属板1を支持するものである。
パンチ15は、本体部17と、先端に設けられた円柱状の打ち抜き部19と、打ち抜き部19よりも基端側であって本体部17との間に設けられて打ち抜き部19の中心軸を回転可能な回転部21と、回転部21の外周面に設けられた研磨布紙23と、を有する。
【0022】
回転部21は、パンチ15の中心軸を回転軸として回転可能に本体部17に保持されたものであり、例えば、電動により回転部21を回転させる回転機構(図示なし)を本体部17に設けるとよい。
【0023】
このようなダイ13とパンチ15とを備えた金型11を用いて金属板1に打ち抜き穴3を形成する具体的な方法は、以下のとおりである。
【0024】
まず、
図1(a)に示すように、ダイ13の開口部13aを跨ぐように金属板1を設置し、金属板1をダイ13により支持する。
【0025】
次に、
図1(b)に示すように、パンチ15を打ち抜き方向に移動させて打ち抜き部19により金属板1を打ち抜いて除去部7を除去し、打ち抜き穴3を形成する。ここで、打ち抜き方向とは、金属板1に打ち抜き穴3を形成するためにパンチ15をダイ13側に相対移動させる方向である。
【0026】
続いて、
図1(b)に示すように、打ち抜き穴3を形成した後、パンチ15の回転部21を打ち抜き穴3に挿通させた状態で回転部21を回転させて、研磨布紙23により打ち抜き穴3のせん断端面5を研磨する。
【0027】
そして、せん断端面5を研磨した後、
図1(c)に示すように、パンチ15を打ち抜き方向と反対方向に相対移動させて、パンチ15を打ち抜き穴3から引き抜く。
【0028】
このように、本発明の実施の形態1に係る金属板の打ち抜き方法によれば、複数の金型や工程数の増加を要せずに、一つの金型11を用いて一工程で打ち抜き穴3のせん断端面5の凹凸を小さくすることができる。さらに、研磨布紙23により研磨したせん断端面5における研磨痕の方向と、打ち抜き穴3を形成した金属板1に繰り返し荷重を負荷させたときにせん断端面5に発生するき裂の方向とが一致しないようにすることができる。これにより、打ち抜き穴3を形成した金属板1に繰り返し荷重が負荷してもせん断端面5にき裂が発生するのを抑制し、疲労強度を向上させることができる。
【0029】
さらに、本実施の形態1に係る金属板の打ち抜き方法によれば、打ち抜き後にプレス成形を行う場合のせん断端面5の延性破壊を防止することによる成形性の向上や、打ち抜き穴3の遅れ破壊特性を向上し、せん断端面5の凹凸を小さくして表面積を小さくすることで塗料の塗布性や耐食性の向上も期待できる。
【0030】
なお、研磨布紙23は、打ち抜き穴3のせん断端面5を十分に研磨するために、研磨布紙23が打ち抜き部19の外周面よりも外側となるように、すなわち、研磨布紙23の外径を打ち抜き部19の外径以上にするとよい。
【0031】
もっとも、研磨布紙23の外径が打ち抜き部19の外径よりも大きすぎると回転部21を打ち抜き穴3に挿通させることができなくなったり、たとえ回転部21を挿通させることができたとしても、回転部21を回転させるとせん断端面5だけでなくダイ13を研磨してしまうことで研磨布紙23の寿命が低下してしまうおそれがある。そのため、研磨布紙23の外径は、ダイ13の開口部13aの内径と同程度であることが望ましい。
【0032】
なお、上記の説明は、研磨布紙23の表面が打ち抜き方向と平行、すなわち、研磨布紙23の表面と打ち抜き部19の中心軸断面19a(
図1(a)参照)とのなす角度θが90°であるパンチ15を用いたものであった。
【0033】
もっとも、研磨布紙23の表面と打ち抜き部19の中心軸断面19aとのなす角度θは90°に限定されるものではなく、予備試験として、パンチ15に研磨布紙23を設けずに金属板1に打ち抜き穴3を形成させ、打ち抜き穴3のせん断端面5における破断面5bと金属板1の表面1aとのなす角度θ’(
図7(a)参照)を測定し、角度θを当該予備試験により測定した角度θ’と所定誤差範囲となるようにしてもよい。所定誤差範囲として±3°が例示される。
【0034】
これにより、繰り返し荷重を負荷した際にき裂が発生しやすい破断面5bを重点的に研磨することができる。
なお、研磨布紙23の表面と打ち抜き部19の中心軸断面19aとのなす角度θを所定の角度にするために、例えば、回転部21の外周面の形状を適宜設定するとよい。
【0035】
また、回転部21の回転方向は特に限定されるものではなく、1方向(例えば
図1(b)に示すようにパンチ15の基端側から見た断面内において時計回り方向)に恒常的に回転させてもよいし、2方向(時計回り方向と反時計回り方向)に繰り返し回転させてもよい。
【0036】
さらに、回転部21の回転による研磨時間は、研磨時間を変更して研磨したせん断端面5を確認する予備試験を行って決定するとよい。
【0037】
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2に係る金属板の打ち抜き方法は、
図2及び
図3に一例として示すように、ダイ13と、パンチ33と、を備えた金型31を用いて、金属板1に円形の打ち抜き穴3を形成するものである。
【0038】
パンチ33には、前述した金型11のパンチ15と同様、本体部35と、先端に設けられた円柱状の打ち抜き部37と、打ち抜き部37よりも基端側であって本体部35との間に設けられて打ち抜き部37の中心軸を回転可能な回転部39と、回転部39の外周面に設けられた研磨布紙23と、を有する。
【0039】
回転部39は、パンチ33の中心軸を回転軸として回転可能に本体部35に保持されたものであり、例えば、電動により回転部39を回転させる回転機構(図示なし)を本体部35に設けるとよい。
さらに、回転部39は、回転軸を中心として拡径及び縮径可能な拡径・縮径部41を有する。
【0040】
拡径・縮径部41を有する回転部39の一例を、
図4及び
図5に示す。
回転部39は、拡径・縮径部41に加えて、回転土台43と、スライド機構45と、を有する。
【0041】
回転土台43は、打ち抜き部37の中心軸を回転軸として回転可能な円板状のものであり、その上面に拡径・縮径部41が配設される。回転土台43は、例えば、本体部35に設けられた電動の回転機構(図示なし)により回転させるとよい。
【0042】
スライド機構45は、回転土台43と拡径・縮径部41との間に設けられ、回転土台43の上面において拡径・縮径部41を回転軸を中心とする径方向に移動可能とすることにより拡径(
図5)及び縮径(
図4)させるものである。
【0043】
本実施の形態2において、金型31を用いて金属板1に打ち抜き穴3を形成する具体的な方法は以下のとおりである。
【0044】
まず、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、研磨布紙23が打ち抜き部37の外周面よりも内側となるように拡径・縮径部41を縮径させた状態でパンチ33を打ち抜き方向に移動させて、金属板1から除去部7を除去して打ち抜いて、打ち抜き穴3を形成する。
【0045】
次に、
図2(c)に示すように、回転部39を打ち抜き穴3に挿通させた状態で、研磨布紙23が打ち抜き穴3のせん断端面5に当接するように拡径・縮径部41を拡径する。そして、回転部39を回転させて、研磨布紙23により打ち抜き穴3のせん断端面5を研磨する。
【0046】
さらに、打ち抜き穴3のせん断端面5を研磨した後、
図3(a)に示すように、研磨布紙23が打ち抜き部37の外周面よりも内側となるように拡径・縮径部41を縮径させ、
図3(b)に示すように、パンチ33を打ち抜き方向と反対方向に移動させて打ち抜き穴3から引き抜く。
【0047】
このように、本発明の実施の形態2に係る金属板の打ち抜き方法によれば、前述した実施の形態1と同様に、工程数の増加や複数の金型を要せずに一つの金型31を用いて一工程で、繰り返し荷重が負荷した際にせん断端面5におけるき裂の発生を抑制して疲労強度を向上する打ち抜き穴3を形成することができる。
その上、パンチ33を打ち抜き穴3から引き抜く前に回転部39の拡径・縮径部41を縮径させることで、パンチ33を打ち抜き穴3から引く抜く際に研磨布紙23がせん断端面5を強く研磨して打ち抜き方向に沿って研磨痕が生じることを防ぐことができる。さらには、パンチ33を打ち抜き穴3から引く抜く際に研磨布紙23がダイ13を研磨して研磨布紙23の寿命が低下することも防ぐことができる。
【0048】
なお、拡径・縮径部41の縮径は、パンチ33を移動させる前に限らず、パンチ33を打ち抜き穴3から引き抜く間に行ってもよい。
【0049】
さらに、前述した実施の形態1と同様に、研磨布紙23の表面と打ち抜き部37の中心軸断面37aとのなす角度θ(
図2参照)に関しては、予備試験を行って、パンチ33に研磨布紙23を設けずに金属板1に打ち抜き穴3を形成し、せん断端面5における破断面5bと金属板1の表面1aとのなす角度θ’(
図7(a)参照)を測定し、当該予備試験により測定した角度θ’と所定誤差範囲となるようにするとよい。
【0050】
これにより、打ち抜き穴3を形成した金属板1に繰り返し荷重を負荷した際にき裂が発生しやすい破断面5bを重点的に研磨することができる。
【0051】
上記の説明において、回転部39は、
図4及び
図5に一例を示すように、平面視で扇型状の拡径・縮径部41を4個有するものであったが、拡径・縮径部41の形状及び個数はこれに限定されるものではなく、適宜設定するとよい。
【0052】
また、拡径・縮径部41を拡径及び縮径させるものは、前述のようにスライド機構45に限定されるものではない。
【0053】
さらに、回転部39の回転方向や研磨時間については、前述した実施の形態1と同様に、適宜決定すればよい。
【0054】
なお、前述した実施の形態1及び実施の形態2のいずれにおいても、研磨布紙23には一般的なバフを用いるとよいが、研磨布紙23が厚み方向に伸縮性を有するものでないと打ち抜き穴3から抜けなくなるおそれがあるので、研磨布紙23の種類や材質については適宜選択することが望ましい。
【0055】
また、研磨布紙23の番手に関しても、特に限定されるものではないが、金属板1の硬さ等に応じて決定することが望ましく、金属板1として一般的な鋼板に対してであれば#80~#240程度が望ましい。
【実施例0056】
本発明に係る金属板の打ち抜き方法の作用効果について確認するための実験を行ったので、これについて以下に説明する。
【0057】
実験では、まず、金属板1として780MPa級の熱延鋼板(板厚2.9mm)を用いて、
図1に示す金型11又は
図2及び
図3に示す金型31を用いて、金属板1に打ち抜き穴3を形成した。
【0058】
金型11の打ち抜き部19の外径は10mm、打ち抜き部19の外径とダイ13の開口部13aの内径とのクリアランスは10%とした。
【0059】
そして、回転部21の外周面に設ける研磨布紙23には、番手が#120のラジアルサンダーを用い、回転部21に設けた研磨布紙23の外径は10mm、研磨布紙23と打ち抜き部19の中心軸断面19aとのなす角度θは90°とした。
【0060】
一方、金型31は、金型11と同様に、打ち抜き部37の外径は10mm、打ち抜き部37の外径とダイ13の開口部13aの内径とのクリアランスは10%とした。
【0061】
また、研磨布紙23には、金型11と同様に番手が#120のラジアルサンダーを用い、回転部39における拡径・縮径部41の外周面に設けられている。
研磨布紙23を拡径・縮径部41の外周面に設けるにあたっては、予備試験として、回転部39の外周面に研磨布紙23を設けずに金属板1に打ち抜き穴3を形成し、せん断端面5における破断面5bと金属板1の表面1aとのなす角度θ'(
図7参照)を測定して、研磨布紙23の表面と打ち抜き部37の中心軸断面37aとのなす角度θ(
図2参照)を予備試験で測定した角度θ’(=83°)と一致させた。
【0062】
続いて、金型11及び金型31を用いて打ち抜き穴3を形成した金属板1から、
図6に示すように打ち抜き穴3を有する疲労試験片51を作製した。そして、シェンク型平面曲げ試験機を用いて疲労試験片51に両振りで繰り返し荷重を負荷する疲労試験を行った。
【0063】
疲労試験においては、公称応力300MPaでトルクが30%低下した時点を破壊と判定し、破壊に至るまでの荷重負荷の繰り返し回数を測定した。また、荷重負荷の繰り返し回数200万回を打ち切り回数とし、疲労試験を終了した。
【0064】
実験では、金型11を用いて形成された打ち抜き穴3を有する疲労試験片51を用いたものを発明例1、金型31を用いて形成された打ち抜き穴3を有する疲労試験片51を用いたものを発明例2とした。
さらに、比較対象として、研磨布紙23を取り外した金型11を用いて形成された打ち抜き穴3を有する疲労試験片51を作製し、上記と同様の疲労試験を行ったものを従来例とした。
表1に、疲労試験の結果を示す。
【0065】
【0066】
表1より、従来例においては、繰り返し回数48万回で疲労試験片51が破壊した。これに対して、発明例1及び発明例2においては、繰り返し回数200万回でも破壊されず、従来例と比べて疲労寿命が4倍以上向上する結果が得られた。