(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042703
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】アミロイドベータ毒性抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20220308BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20220308BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220308BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220308BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220308BHJP
A61K 36/88 20060101ALI20220308BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20220308BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20220308BHJP
【FI】
A61K31/05
A61P39/02
A61P43/00 105
A61P25/00
A61P25/28
A61K36/88
C07K14/47 ZNA
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148253
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】300067479
【氏名又は名称】株式会社佐藤園
(71)【出願人】
【識別番号】397010789
【氏名又は名称】萩原株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 寿之
(72)【発明者】
【氏名】武田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】池田 大樹
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD48
4B018ME14
4B018MF01
4C088AB71
4C088BA32
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZA16
4C088ZB21
4C088ZC37
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA16
4C206KA05
4C206KA18
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA16
4C206ZB21
4C206ZC37
4H045AA50
4H045BA19
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
【課題】アミロイドベータタンパク質の毒性を抑制する新規な方法の提供。
【解決手段】デヒドロエフソールを含有する、アミロイドベータ毒性抑制用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デヒドロエフソールを含有する、アミロイドベータ毒性抑制用組成物。
【請求項2】
デヒドロエフソールを含有する、海馬神経細胞死抑制用組成物。
【請求項3】
デヒドロエフソールを含有する、神経細胞におけるメタロチオネイン誘導用組成物。
【請求項4】
神経細胞内亜鉛イオン濃度が、アイロイドベータ凝集体から亜鉛イオンが遊離可能な濃度である対象のための、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
海馬にアミロイドベータ凝集体が存在する対象のための、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アミロイドベータ毒性抑制用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドベータタンパク質(本明細書では「Aβ」と表記することがある)は、アルツハイマー病の原因物質の候補の一つである。Aβが凝集し、アミロイド繊維を形成することにより、神経細胞死を引き起こすことによって、アルツハイマー病が引き起こされるのではないかという仮説がよく知られている。また、Aβには自己凝集能があり、亜鉛イオンはこれを促進することも知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Singhuber J, Baburin L, Khom S et al. : GABAA receptor modulators from the Chinese herbal drug junci medulla-the pith of juncus effuses. Planta med 78: 455-458 (2012)
【非特許文献2】Wang YG, Wang YL, Zhai HF et al. : Phenanthrens from juncus effusus with anxiolytic and sedative activities. Nat Prod Res. 26: 1234-1239 (2012)
【非特許文献3】Liao YJ, Zhai HF, Zhang B et al. : Anxiolytic and sedative effects of dehydroeffusol from juncus effusus in mice. Planta med. 77: 416-420 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Aβ毒性の本体は亜鉛イオンそのものと考えられる。Aβの自己凝集能を抑制しなくとも、毒性の本体と考えられる亜鉛イオン毒性を抑制することにより、結果としてAβ(特にAβ1-42)の神経毒性を抑制することができると考えられる。より詳細には、Aβ(特にAβ1-42)はアルツハイマー病の原因の1つとはされているものの、その毒性は亜鉛毒性によるものであって、Aβが神経細胞内に入るのを亜鉛が促進し、最終的には神経細胞内で亜鉛毒性が生じるものと考えられる。このため、神経細胞内の亜鉛イオン量を減少させることにより、神経毒性を抑制できる可能性が考えられる。
【0005】
そこで、本発明者らは、Aβ存在下において、神経細胞の亜鉛イオン量を減少させることにより、Aβの神経毒性を抑制できる可能性を考え、検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、デヒドロエフソールが、神経細胞の亜鉛イオン量を減少させ得る可能性を見出し、さらに改良を重ねた。
【0007】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
デヒドロエフソールを含有する、アミロイドベータ毒性抑制用組成物。
項2.
デヒドロエフソールを含有する、海馬神経細胞死抑制用組成物。
項3.
デヒドロエフソールを含有する、神経細胞におけるメタロチオネイン誘導用組成物。
項4.
神経細胞内亜鉛イオン濃度が、アイロイドベータ凝集体から亜鉛イオンが遊離可能な濃度である対象のための、請求項3に記載の組成物。
項5.
海馬にアミロイドベータ凝集体が存在する対象のための、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、Aβ存在下において、神経細胞の亜鉛イオン量を減少させ、神経細胞毒性を抑制するために有用である方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】マウス側脳室内にAβ
1-42を投与したときの、海馬歯状回における神経細胞死を検討した結果を示す。デヒドロエフソールはヒトAβ
1-42によって増加した海馬歯状回における細胞死マーカーPIをコントロールレベルまで抑制したことが分かる。
【
図2】マウス側脳室内にAβ
1-42を投与したときの、海馬歯状回における神経細胞死を検討した結果を示す。デヒドロエフソールはヒトAβ
1-42によって増加した海馬歯状回における神経変性マーカーFJBをコントロールレベルまで抑制したことが分かる。
【
図3】マウス側脳室内にAβ
1-42を投与したときの海馬歯状回を抗Aβ抗体で免疫染色した時の結果を示す。デヒドロエフソールは神経細胞へのAβ取り込みを阻害しないことが分かる。
【
図4】マウス側脳室内にAβ
1-42を投与したときの海馬歯状回における亜鉛イオンを、亜鉛イオン検出用蛍光プローブであるZnAF-2DA(五稜化薬株式会社)を用いて検出した結果である。デヒドロエフソールは神経細胞におけるAβ
1-42誘発亜鉛イオンの増加を抑制することが分かる。
【
図5】マウス側脳室内にAβ
1-42を投与したときの海馬歯状回を抗メタロチオネイン抗体で免疫染色した時の結果を示す。デヒドロエフソールは神経細胞におけるメタロチオネイン発現を増加させることが分かる。
【
図6】デヒドロエフソールは神経細胞におけるメタロチオネイン(MT)発現を増加させ、Aβ
1-42誘発亜鉛イオン(Zn
2+)の増加を抑制することを示すモデル図である。
【
図7】イ草全草50%エタノール水溶液抽出液又はイ草芯50%エタノール水溶液抽出液をHPLC解析して得たクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、デヒドロエフソールを含有する組成物並びにその用途及び使用対象者等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0011】
本開示に包含される組成物(以下、「本開示の組成物」ということがある)はデヒドロエフソールを含有する。デヒドロエフソールは、以下の構造式で表される化合物である。
【0012】
【0013】
デヒドロエフソールは、合成品であっても、自然界に存在するものを抽出及び精製したものであってもよい。公知の方法又は公知の方法より容易に想到できる方法により合成して得ることができる。自然界から得る場合には、例えばデヒドロエフソールはイ草(灯心草)に存在していることが知られており、イ草から抽出(及び必要に応じて精製)して得ることができる。より詳細には、例えばイ草から水、エタノール、又はこれらの混合液により抽出を行って得ることができる。当該抽出液としては、特に40~60%エタノール水溶液が好ましく、特に50%エタノール水溶液が好ましい。また、必要に応じてさらに得られた抽出液をさらに分画及び/又は精製してもよい。分画は、例えば液液分配抽出により行うことが出来る。当該分配は、例えば水と酢酸エチルを用いて行うことができる。また、精製は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行うことができる。また、抽出に供するイ草の部分も特に制限はされず、例えばイ草の全草を抽出に供してもよいし、イ草の芯を抽出に供してもよい。イ草の芯には、多くのデヒドロエフソールが存在しているため、イ草の芯を用いることが特に好ましい。
【0014】
Aβが凝集し、アミロイド繊維を形成することにより、神経細胞死が引き起こされると考えられており、また、当該Aβの凝集が亜鉛イオン(Zn2+)により促進されることも知られているところ、本発明者らは、デヒドロエフソールが、神経細胞(好ましくは海馬神経細胞)において、メタロチオネインを誘導し、これによって神経細胞内亜鉛イオン濃度を低下させ、亜鉛毒性を抑制する(ひいてはAβ毒性を抑制する)ことを見いだした。
【0015】
このため、本開示の組成物は、例えばアミロイドベータ毒性抑制用、神経細胞(特に海馬神経細胞)死抑制用(特に、Aβ存在化における神経細胞死抑制用)、又はメタロチオネイン誘導用(特に神経細胞におけるメタロチオネイン誘導用等)として、特に有用である。特に制限はされないが、神経細胞におけるメタロチオネイン誘導用として用いる場合は、神経細胞内亜鉛イオン濃度が、アイロイドベータ誘発亜鉛イオン毒性を誘導する濃度以上の対象に対して用いることが、好ましい。また、亜鉛イオンはAβ凝集体の形成を促進すると考えられているが、細胞神経に取り込まれたAβ凝集体からは亜鉛イオンが遊離し、当該亜鉛イオンによって神経細胞毒性が生じると考えられる(
図6参照)。このことから、神経細胞におけるメタロチオネイン誘導用として用いる場合は、神経細胞の亜鉛イオン濃度が、取り込まれたAβ凝集対から亜鉛イオンが遊離可能な濃度である(すなわち、神経細胞の亜鉛イオン濃度が比較的低い)ことが好ましい。当該Aβ凝集体におけるAβはAβ
1-42であることが好ましい。また、当該Aβ凝集体は、Aβ
1-42及び亜鉛イオンを含む物であることが好ましい。また、神経細胞としては、海馬神経細胞がより好ましい。
【0016】
なお、理論に拘束されることを望むものではないが、細胞外亜鉛イオン濃度は約10 nMと推定され、100~500pM程度のAβ1-42が存在するとZn-Aβ1-42凝集体が形成され、海馬神経細胞に速やかに取り込まれ得る。細胞内では亜鉛イオン濃度は通常約100nMと低いため、Aβ1-42からZn2+が遊離し、毒性を示す。
【0017】
メタロチオネインは、システインのチオール基を豊富に含むタンパク質であり、チオール基を介して亜鉛などの金属と結合する。亜鉛の恒常性の維持、重金属毒性の除去、及び活性酸素種に由来するラジカルの排除等に機能すると考えられている。
【0018】
また、本開示の組成物の使用対象は特に限定はされないが、海馬にアミロイドベータ凝集体(ひいてはアミロイド繊維)が存在する対象が好ましい。当該対象としては、例えばアルツハイマー病患者等が挙げられる。
【0019】
なお、本開示の組成物は、ヒトのみならず、非ヒト哺乳動物にも用いることができる。特にペット及び家畜として飼育される哺乳動物が好ましい。具体的には、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が例示できる。
【0020】
本開示の組成物は、例えば、医薬分野及び食品分野で好ましく用いられる。当該組成物は、以下に詳述するように、デヒドロエフソールのみからなるものでもよいし、デヒドロエフソール及び他の成分(各種基剤、担体、添加剤等)を含む組成物であってもよい。また、生体抽出物(好ましくはイ草抽出物)そのものも当該組成物に含まれる。つまり、デヒドロエフソール含有生体抽出物(及び必要に応じてさらに他の成分が配合されたもの)も本開示のデヒドロエフソールを含有する組成物に含まれる。なお、組成物とは通常複数の成分からなる物であるため、本開示の組成物がデヒドロエフソールのみからなる場合、組成物と表記することは適当ではないかもしれないが、本明細書ではデヒドロエフソールのみからなる場合であっても組成物と表記する。(すなわち、当該組成物の表記は、剤との表記と同義である。)
【0021】
本開示の組成物を医薬分野(医薬品及び医薬部外品を含む)にて用いる場合、当該組成物(以下「本開示に係る医薬組成物」と記載することがある)は、デヒドロエフソールのみからなるものでもよいし、他の成分を配合した組成物でもよい。例えば、本開示に係る医薬組成物においては、有効成分であるデヒドロエフソールに、必要に応じて薬学的に許容される基剤、担体、添加剤(例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、甘味剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、保湿剤、保存剤、pH調整剤、粘稠化剤等)等を配合することができる。このような基材、担体、添加剤等は、例えば医薬品添加物辞典2016(株式会社薬事日報社)等に具体的に記載されており、例えばこれに記載されるものを用いることができる。また製剤形態も特に制限されず、常法により有効成分及びその他の成分を混合し、例えば錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、チュアブル剤、ソフト錠剤等の製剤に調製することができる。例えば、錠剤の製造は打錠法により行い得る。混合した原料をそのまま打錠する直接打錠法、混合した原料を顆粒にしてから打錠する顆粒打錠法、のいずれも用い得る。また例えば、カプセル剤の場合はソフトカプセル及びハードカプセルのいずれであってもよい。
【0022】
本開示に係る医薬組成物におけるデヒドロエフソールの配合量は、効果が発揮される限り特に制限されず、対象者に応じて適宜設定できる。好ましくは0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%である。なお、下限は10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、又は80質量%程度であってもよい。
【0023】
本開示に係る医薬組成物の投与時期は特に限定されず、例えば製剤形態、投与対象の年齢、投与対象の症状の程度等を考慮して適宜投与時期を選択することが可能である。なお、投与形態は特に制限されないが、経口投与及び経血管投与(経静脈投与、経動脈投与)が好ましく、経口投与がより好ましい。
【0024】
本開示に係る医薬組成物の投与量は、投与対象の年齢、投与対象の症状の程度、その他の条件等に応じて適宜選択され得る。特に含まれるデヒドロエフソール量を基準として、本開示の効果が損なわれない範囲で適宜設定することができる。特に制限はされないが、例えば、成人一日あたりに投与されるデヒドロエフソール量は、1~50mg程度が好ましく、5~30mg程度、6~24mg程度、10~24mg程度、又は12~24mg程度がより好ましい。なお、1日1回又は複数回(好ましくは2~3回)に分けて投与することができる。非ヒト哺乳動物の場合も、当該人の場合を参考として適宜投与量を設定できる。
【0025】
本開示の組成物を食品組成物(例えば飲食品や食品添加物)として用いる場合、当該組成物(以下「本開示に係る食品組成物」と記載することがある)は、デヒドロエフソール、及び食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤、その他飲食品として利用され得る成分・材料等が適宜配合されたものである。例えば、デヒドロエフソールを含む、学習記憶能力増強用の加工食品、飲料、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能性食品、機能性表示食品、又は病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等の食品組成物が例示できる。特に制限はされないが、当該食品組成物に配合されるデヒドロエフソールが生体抽出物(好ましくはイ草抽出物)である場合は、例えば当該抽出物が配合された加工食品、健康食品、栄養機能食品、特定保健用食品、サプリメント、病者用食品等であってもよい。また、デヒドロエフソールを例えば粉末状にする等して、飲料類(ジュース等)、菓子類、パン類、スープ類(粉末スープ等を含む)、加工食品等の各種飲食品に含有させたものであってもよい。なお、本開示に係る食品組成物は、近い将来にAβの凝集(特に海馬におけるAβの凝集)を生じることが予測される場合に、予防的に用いることもできる。また、病院食とは病院に入院した際に供される食事であり、病人食は病人用の食事であり、介護食とは被介護者用の食事である。本開示に係る食品組成物は、特に入院、自宅療養等されている患者、あるいは介護を受けられている患者であってAβの凝集予防及び/又は抑制が必要な対象者用の病院食、病人食又は介護食として好ましく用いることができる。
【0026】
健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメントとして、本開示に係る食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤)等の形態に調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましい。ただし、特にこれらに限定されるものではない。顆粒、カプセル、錠剤等の形態の、本開示に係る食品組成物は、薬学的及び/又は食品衛生学的に許容される担体等を用いて、常法に従って適宜調製することができる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0027】
本開示に係る食品組成物におけるデヒドロエフソールの配合量は、効果が発揮され得る限り特に制限されない。、好ましくは0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%である。なお、下限は10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、又は80質量%程度であってもよい。
【0028】
本開示に係る食品組成物の摂取対象等は、例えば上述した本開示に係る医薬組成物と同様であることが好ましい。
【0029】
本開示は、デヒドロエフソールを配合する工程を含む、本開示の組成物の製造方法、並びに、デヒドロエフソール(好ましくは上述のデヒドロエフソールを含有する本開示の組成物)を投与することにより、アミロイドベータ毒性を抑制する方法、海馬神経細胞死を抑制する方法、海馬におけるメタロチオネインを誘導する方法等も包含する。これらの方法における各種条件は、上述したとおりである。
【0030】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0031】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0032】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0033】
以下の検討においては、アミロイドベータタンパク質として、ヒトアミロイドベータタンパク質(1-42)を購入して用いた(Synthetic human Aβ1-42, ChinaPeptides, Shanghai, China)。当該ヒトアミロイドベータタンパク質のアミノ酸配列はDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIAである。また、当該ヒトアミロイドベータタンパク質をAβ1-42と表記することがある。
【0034】
マウスの側脳室内にAβ
1-42(25μM、20μl)又はコントロールとしてSalineを投与した。その2週間後に凍結脳切片または全脳生スライスを作製し、神経変性マーカーであるフルオロジェイド-B(FJB)、細胞死マーカーであるヨウ化プロピジウム(PI)を用いて、共焦点レーザー顕微鏡にて海馬歯状回顆粒細胞死を評価した(GCL:歯状回顆粒細胞層)。マウスにデヒドロエフソール(15 mg/kg,10 mL/kg/day)を1日1回、計6回経口投与した後、側脳室内にAβ
1-42またはSalineを投与して評価したところ、Aβ
1-42による海馬歯状回における神経変性・細胞死はコントロールレベルまで抑制された(
図1及び
図2;なおこれらの図でvehicleは0.5% carboxymethyl cellulose sodiumを意味する。)
【0035】
このデヒドロエフソール前投与は抗Aβ抗体で評価した神経細胞へのAβ取り込みを阻害しなかった(
図3)。しかし、Aβ
1-42誘発細胞内Zn
2+レベルの増加をコントロールレベルまで抑制した(
図4)。なお、
図4は、亜鉛イオン検出用蛍光プローブであるZnAF-2DA(五稜化薬株式会社)を用いて取得した写真である。
【0036】
次に、デヒドロエフソールによる細胞内亜鉛結合タンパク質であるメタロチオネイン(MT)の誘導合成を調べた。MTの免疫染色を行ったところ、MTレベルは海馬歯状回においてデヒドロエフソールの6回投与により有意に増加した(
図5)。デヒドロエフソールにより誘導合成されたMTはAβ
1-42誘発細胞内Zn
2+レベルの増加を抑制し、Aβ
1-42誘発海馬神経細胞死を阻止することが明らかとなった(
図6)。
【0037】
なお、デヒドロエフソールは、イ草(全草又は芯)の50%エタノール水溶液抽出液を、さらに精製して得たものを用いた。
図7に、イ草全草50%エタノール水溶液抽出液又はイ草芯50%エタノール水溶液抽出液をHPLC解析して得たクロマトグラムを示す。イ草芯についての抽出、分画及び精製について次に詳説する。市販の灯心草(イグサ科イグサの茎の髄を乾燥したもの)5kgを20倍量の50%含水エタノール中で80℃加熱下、2時間還流抽出を2回行いろ過した。ろ液を減圧下濃縮し、濃縮液に1.3リットルの蒸留水を加えて懸濁させ、1.3リットルの酢酸エチルを加えて分液ロートで液液分配抽出を行った。これを3回繰り返し、水層と酢酸エチル層に分けた。酢酸エチルは減圧下溶媒留去し乾燥して酢酸エチルエキス26.2gを得た。この酢酸エチルエキスをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(510ミリリットル)でAからMの13個のフラクションに分画した(溶出液:2%メタノール含有クロロホルム~40%メタノール含有クロロホルム)。フラクションFおよびGを分取HPLCで精製し、化合物1(0.218グラム)、化合物2(1.725グラム)を得た。化合物1および2はNMRスペクトルを測定しそれぞれエフソールおよびデヒドロエフソールと同定した。