(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042710
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/27 20220101AFI20220308BHJP
H02K 21/16 20060101ALI20220308BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H02K1/27 501M
H02K1/27 501K
H02K1/27 501A
H02K21/16 M
H02K1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148263
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100175330
【弁理士】
【氏名又は名称】樹下 浩次
(72)【発明者】
【氏名】片岡 康浩
(72)【発明者】
【氏名】草瀬 新
【テーマコード(参考)】
5H601
5H621
5H622
【Fターム(参考)】
5H601AA23
5H601BB17
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601DD25
5H601EE27
5H601FF02
5H601FF17
5H601GA02
5H601GA24
5H601GA32
5H601GA39
5H621BB07
5H621GA04
5H621HH01
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622CB02
5H622CB04
5H622CB05
(57)【要約】
【課題】本開示は、永久磁石を用いた回転電機に関する。
【解決手段】電機子10と、周方向R2に複数のスポーク24を備えた回転鉄心22と、スポーク24の間に交互に配された第1永久磁石30及び第2永久磁石32と、を有する界磁回転子20と、を有する回転電機1において、第1永久磁石30は、周方向R2の両端にS極、径方向R1の外側にN極を備え、第2永久磁石32は、周方向R2の両端にN極、径方向R1の外側にS極を備え、隣接する第1永久磁石30と第2永久磁石32の間を流れる第1磁束40と、電機子10に通電時、スポーク24とスポーク24に対向する電機子10のティース13の間を流れる第2磁束44と、を有する回転電機1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に複数のティースを備えた固定鉄心と、前記ティースの間に三相に巻装された巻線と、を有する電機子と、
周方向に複数のスポークを備えた回転鉄心と、
前記スポークの間に交互に配された第1永久磁石及び第2永久磁石と、を有する界磁回転子と、を有し、
前記界磁回転子の外周が、前記電機子の内周と所定寸法の空隙長を持って離間した回転電機において、
前記第1永久磁石は、周方向の両端にS極、径方向の外側にN極を備え、
前記第2永久磁石は、周方向の両端にN極、径方向の外側にS極を備え、
隣接する前記第1永久磁石と前記第2永久磁石の間を流れる第1磁束と、
前記電機子に通電時、前記スポークと前記スポークに対向する前記ティースの間を流れる第2磁束と、を有することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1の回転電機において、
前記スポークの周方向の幅は、前記ティースの最小幅又はティース先端の幅の1/2より大きく、前記ティースの最小幅又は前記ティース先端の幅の2倍より小さいことを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の回転電機において、
前記スポークは、N磁極とS磁極の中間極性であることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つの回転電機において、
前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石に対応する前記界磁回転子の外周の前記スポーク側の両端部が、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石に対応する前記界磁回転子の外周の中央部に対して径方向内側にオフセットしていることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つの回転電機において、
前記第1永久磁石は、2個のヨーク磁石と、前記ヨーク磁石の間に第1磁極磁石と、を有する永久磁石であること、
前記第2永久磁石は、2個のヨーク磁石と、前記ヨーク磁石の間に第2磁極磁石と、を有する永久磁石であること、を特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、永久磁石を用いた回転電機に関する。
【0002】
モータや発電機等永久磁石を用いた回転電機の小型高出力化は、分野や時代に関わらず普遍のニーズである。例えば、現状の自動車等で用いられる外径300mmの小型の回転電機では、発生するトルクは200Nm程度である。
【0003】
このような小型高出力の回転電機として、特許文献1及び特許文献2には、ロータである界磁回転子に、ハルバッハ配列と言われる磁束密度の集中効果を発揮する特殊な永久磁石の配列を採用するものが記載されている。
【0004】
特許文献1に記載される界磁回転子は、並行着磁された複数個の永久磁石を主磁極磁石及びヨーク磁石としてハルバッハ配列されている環状の永久磁石を有する。また、特許文献2に記載される界磁回転子は、一つの永久磁石にハルバッハ配列の効果を有するように極異方性界磁を行った環状の永久磁石を有する。これら特許文献1及び特許文献2に記載される環状の永久磁石を用いる界磁回転子は、ハルバッハ配列により径方向の外側に集中された高い磁束を有する効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-38968号公報
【特許文献2】特開2015-33245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載される環状の永久磁石を用いる界磁回転子は、鉄心を有していない。よって、電機子の巻線通電時に、鉄心による磁気的鉄心吸着力(以下、リラクタンストルクという)によるトルク加算効果がない。
よって、例えば、現状の自動車等で用いられる外径300mmの小型の回転電機の発生するトルク(200Nm程度)に対して、15%向上を目標とするトルク230Nmを達成することができない。
【0007】
そこで、本開示は上記の問題点を解決するためになされたものであり、ハルバッハ配列された永久磁石による径方向の外側に集中された高い磁束によるトルクに加えて、電機子の巻線通電時に発生する磁束による鉄心のリラクタンストルクによるトルク加算効果を有するものである。これにより、高いトルクを発生する回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、周方向に複数のティースを備えた固定鉄心と、前記ティースの間に三相に巻装された巻線と、を有する電機子と、周方向に複数のスポークを備えた回転鉄心と、前記スポークの間に交互に配された第1永久磁石及び第2永久磁石と、を有する界磁回転子と、を有し、前記界磁回転子の外周が、前記電機子の内周と所定寸法の空隙長を持って離間した回転電機において、前記第1永久磁石は、周方向の両端にS極、径方向の外側にN極を備え、前記第2永久磁石は、周方向の両端にN極、径方向の外側にS極を備え、隣接する前記第1永久磁石と前記第2永久磁石の間を流れる第1磁束と、前記電機子に通電時、前記スポークと前記スポークに対向する前記ティースの間を流れる第2磁束と、を有することを特徴とする。
【0009】
この態様によれば、第1永久磁石は、周方向の両端にS極、径方向の外側にN極を備え、第2永久磁石は、周方向の両端にN極、径方向の外側にS極を備え、隣接する第1永久磁石と第2永久磁石の間を流れる第1磁束と、巻線に通電時、スポークとスポークに対向するティースの間を流れる第2磁束とを有している。即ち、界磁回転子は、ハルバッハ配列を有する第1永久磁石及び第2永久磁石に加えて、鉄心であるスポークが設けられた環状の形状をしている。
【0010】
これにより、回転電機は、界磁回転子にハルバッハ配列された第1永久磁石及び第2永久磁石の間を流れる第1磁束を有するので、電機子の通電により界磁回転子にローレンツ力が作用しトルクが発生する。加えて回転電機は、電機子の通電によりスポークとスポークに対向するティースの間を流れる第2磁束を有するので、界磁回転子のスポークが鉄心として作用するリラクタンストルクが発生する。即ち、回転電機は、第1磁束により発生するトルク及び第2磁束により発生するトルクを有し、トルク加算効果がある。例えば、自動車等で用いられる外径300mmの小型の回転電機では、解析により発生するトルクを234Nmとすることができる。外径300mmの小型の回転電機の発生トルクは、通常200Nm程度である。よって、本態様によれば、目標とする15%(230Nm)を達成する17%(234Nm)のトルクが発生できる。
【0011】
上記の態様においては、前記スポークの周方向の幅は、前記ティースの最小幅又はティース先端の幅の1/2より大きく、前記ティースの最小幅又は前記ティース先端の幅の2倍より小さいこと、が好ましい。
【0012】
この態様によれば、スポークの周方向の幅は、ティースの最小幅又はティース先端の幅の1/2より大きく、ティースの最小幅又はティース先端の幅の2倍より小さい。ここで、巻線に通電時に発生する第2磁束は、スポークとスポークに対向するティース及びティース先端の間を流れる。よって、スポークの周方向の幅は、ティースの最小幅又はティース先端の幅の1/2より大きく、ティースの最小幅又はティース先端の幅の2倍より小さくすることにより、第2磁束をスポークとスポークに対向するティースの間にバランス良く流すことができる。また、スポークの周方向の幅を、ティースの最小幅又はティース先端の幅の2倍より小さくすることにより、第1永久磁石及び第2永久磁石の大きさを必要以上に小さくすることが無い。よって、ハルバッハ配列された第1永久磁石及び第2永久磁石による第1磁束の大きさを維持することができる。
【0013】
上記の態様においては、前記スポークは、N磁極とS磁極の中間極性であること、が好ましい。
【0014】
この態様によれば、スポークは、N磁極とS磁極の中間極性である。通常、磁性体は永久磁石に近接すると、近接した永久磁石のN磁極又はS磁極に磁化される。しかし、本態様では、磁性体であるスポークは、第1永久磁石のS磁極と第2永久磁石のN磁極の間に配されている。よって、スポークの外周では、第1永久磁石のS磁極からの磁束と第2永久磁石からのN磁極の磁束が互いに相殺され、スポークの電機子から見た磁極極性はN磁極でもS磁極でもない中間極性となる。一方、通電時は、スポークに対向する電機子のティース先端の磁極極性は、N磁極又はS磁極である。よって、第2磁束はスポーク,すなわち中間極性の鉄心に作用してリラクタンストルクを生じることができる。
【0015】
上記の態様においては、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石に対応する前記界磁回転子の外周の前記スポーク側の両端部が、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石に対応する前記界磁回転子の外周の中央部に対して径方向内側にオフセットしていること、が好ましい。
【0016】
この態様によれば、第1永久磁石及び第2永久磁石に対応する界磁回転子の外周のスポーク側の両端部が、第1永久磁石及び第2永久磁石に対応する界磁回転子の外周の中央部に対して、径方向内側にオフセットしている。
即ち、界磁回転子と電機子との空隙長は、第1永久磁石及び第2永久磁石のスポーク側の両端部が中央部に比べて広くなっている。界磁回転子と電機子との空隙長に狭いところと広いところがあると第1磁束及び第2磁束は狭いところに集中する。よって、第1永久磁石及び第2永久磁石対応する界磁回転子の外周を流れる磁束を、オフセットの無い中央部に集中させることができ、発生するトルクの振幅を小さくすることができる。
例えば、第1永久磁石及び第2永久磁石に対応する界磁回転子の外周が、第1永久磁石及び第2永久磁石を覆うブリッジの場合、ブリッジのスポーク側の両端部のオフセットの比率として、ブリッジのスポーク側の両端部をそれぞれ16%オフセットし、オフセットの無い中央部を68%として、発生するトルクを解析した。その結果、オフセットの無い場合に比べて平均トルクは同じ234Nmとなるが、トルクの振幅を68Nm(200Nm~268Nm)から、28Nm(220Nm~248Nm)と、約59%小さくすることができた。
【0017】
上記の態様においては、前記第1永久磁石は、2個のヨーク磁石と、前記ヨーク磁石の間に第1磁極磁石と、を有する永久磁石であること、前記第2永久磁石は、2個のヨーク磁石と、前記ヨーク磁石の間に第2磁極磁石と、を有する永久磁石であること、が好ましい。
【0018】
この態様によれば、第1永久磁石は、2個のヨーク磁石と、ヨーク磁石の間に第1磁極磁石と、を有する永久磁石である。また、第2永久磁石は、2個のヨーク磁石と、ヨーク磁石の間に第2磁極磁石と、を有する永久磁石である。即ち、この態様の永久磁石は3分割され小さくなっているので、着磁が容易で低コストとなる。本態様の回転鉄心は、径方向に複数のスポークによる第1永久磁石及び第2永久磁石を嵌合する開孔部を有する。よって、3分割された永久磁石を、各開孔部へ容易に組付けることができる。
また、3個の永久磁石をハルバッハ配列とする場合、永久磁石の磁力による反発力が働く。本態様の回転鉄心は、径方向に複数のスポークと、スポークの内側の端部を接続するハブと、スポークの外側の端部を接続するブリッジを有することができる。よって、第1永久磁石及び第2永久磁石と嵌合する開孔部により、3分割された永久磁石を、強固に固定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示により、永久磁石のハルバッハ配列により径方向の外側に集中された高い磁束によるトルクに加えて、電機子の巻線通電時発生する磁束よる鉄心のリラクタンストルクによるトルク加算効果を有する。よって、高いトルクを発生する回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図6】第2実施形態のティース部の構造。図(a)ティースが48個、図(b) ティースが96個
【
図10】オフセットの有無による第1磁束の流れを示す模式図。図(a)オフセット有り、図(b)オフセット無し
【
図11】第4実施形の永久磁石。図(a)第1永久磁石に対応する永久磁石、図(b)第2永久磁石に対応する永久磁石
【
図12】比較例の回転電機の磁気回路構造(ハルバッハ配列)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態である回転電機1について図を用いて示す。なお、実施形態は単なる開示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
【0022】
<回転電機の用途と構成>
本開示の回転電機1の界磁回転子20は、ハルバッハ配列された第1永久磁石30及び第2永久磁石32に加えて、鉄心であるスポーク24を有する環状の形状をしている。よって、回転電機1は、ハルバッハ配列された第1永久磁石30及び第2永久磁石32に発生する第1磁束42によるトルクに加えて、電機子10に通電時に発生する第2磁束44により、鉄心によるリラクタンストルクによるトルク加算効果を有する。よって、回転電機1は、高出力であり小型化も可能である。軽量高出力の強く望まれる自動車、ドローン等に適用価値が高い。
【0023】
(第1実施形態)
本開示の第1実施形態である回転電機1について、
図1から
図5を参照しながら説明する。
図1に、第1実施形態の回転電機1の磁気回路構造を示す。電機子10は、固定鉄心12に巻線18が巻装されている。固定鉄心12は、径方向R1に複数のティース13を有する。隣接するティース13の間には、スロット16が開孔され巻線18が巻装されている。ティース13の先端にはティース先端14がある。
界磁回転子20は、回転鉄心22と第1永久磁石30及び第2永久磁石32を有する。回転鉄心22は、径方向R1に複数のスポーク24と、スポーク24の内側の端部を接続するハブ28と、スポーク24の外側の端部を接続する複数のブリッジ26とを備える。ここで、ハブ28は一体の円筒形状である。一方、ブリッジ26はスポーク24の径方向R1の端部に接続されている。
電機子10と界磁回転子20は、界磁回転子20の外周であるブリッジ26及びスポーク24の外周が、電機子10の内周であるティース先端14と所定寸法の空隙長5を持って離間している。
界磁回転子20のハブ28の内側は、回転軸(図示しない)に接続されている。回転軸は回転軸方向Zの周方向R2に回転する。
【0024】
回転鉄心22は、径方向R1のスポーク24と、スポーク24の内側の端部を接続するハブ28と、スポーク24の外側の端部を接続するブリッジ26による開孔部を複数有する。この開孔部に、即ち、スポーク24の間に第1永久磁石30及び第2永久磁石32が交互に配されている。第1永久磁石30及び第2永久磁石32は、配された開孔部のスポーク24、ハブ28、及びブリッジ26と嵌合している。
尚、ブリッジ26は、スポーク24の先端を繋げて第1永久磁石30及び第2永久磁石32の全体を覆っているが、分離しても良い。例えば、スポーク24から対向する2つの突起部を設けて第1永久磁石30及び第2永久磁石32を勘合させて固定してもよい。この場合、界磁回転子20の外周は、スポーク24、突起部、第1永久磁石30及び第2永久磁石32より構成される。
第1永久磁石30は、周方向R2の両端にS極、径方向R1の外側にN極を備える。第2永久磁石32は、周方向R2の両端にN極、径方向R1の外側にS極を備える。よって、回転電機1は、隣接された第1永久磁石30及び第2永久磁石32がハルバッハ配列されているので、この間を循環する第1磁束を有する。
界磁回転子20は、ハルバッハ配列を有する第1永久磁石30及び第2永久磁石32に加えて鉄心であるスポーク24が設けられた環状の形状をしている。よって、回転電機1は、電機子10に通電時に発生する第2磁束44を有する。
また、
図1に示す回転電機1は、第1永久磁石30及び第2永久磁石32を合わせて16個有する16極である。
【0025】
<第1磁束及び第2磁束の流れ>
図2に、第1磁束及び第2磁束の流れの模式図を示す。尚、
図2において固定鉄心12のティース13及び巻線18は、以下の説明に要する箇所のみを図示している。
第1永久磁石30は、磁石内磁界30aが周方向R2の両端のS極から径方向R1の外側にN極に向く略円弧状に着磁されている。一方、第2永久磁石32は、磁石内磁界32aが径方向R1の外側のS極から周方向R2の両端のN極に向く略円弧状に着磁されている。尚、磁石内磁界30a及び磁石内磁界32aの方向は、S極からN極である。即ち、第1永久磁石30は磁石内磁界30a、第2永久磁石32は磁石内磁界32aと、それぞれ極異方性着磁されている。極異方性着磁された第1永久磁石30と第2永久磁石32は、ハルバッハ配列により磁束を径方向R1の外側へ集中させる効果を有する。よって、隣接する第1永久磁石30と第2永久磁石32の間には、磁石内磁界30a及び磁石内磁界32aと同じ方向の径方向R1の外側に循環する第1磁束42が流れる。
【0026】
一方、鉄心であるスポーク24を流れる第2磁束44は、電機子10の巻線18に通電時に発生する。
図2に、通電する巻線18の位置を示す。通電する巻線18の位置を、第1永久磁石30の中央より回転方向R2の後方とし、通電方向を紙面の上方から下方とする。磁界は、通電する巻線18を含む第1磁束42と同じ方向に発生する。よって、この磁界による第2磁束44は、第1磁束42内にあり、循環方向は第1磁束42と同方向になる(紙面に向かって時計回り)。
同様に、通電する巻線18の位置を、第2永久磁石32の中央より回転方向R2の後方とし、通電方向を紙面の下方から上方とする。磁界は、通電する巻線18を含む第1磁束42と同じ方向に発生する。よって、この磁界による第2磁束44は、第1磁束42内にあり、循環方向は第1磁束42と同方向になる(紙面に向かって反時計回り)。
加えて、第2磁束44は、回転鉄心22のスポーク24と固定鉄心12のスポーク24に対向するティース13の間を流れる。また、第2磁束44は、巻線18に通電時に発生に対向する磁界の方向、即ち、第1磁束42と同方向へ流れる。よって、回転電機1の中の第2磁束44の循環を、スポーク24を起点として考える。
【0027】
第1に、紙面に向かって反時計回りに循環する第2磁束44を、第2永久磁石32の回転方向R2の後方に位置するスポーク24を起点として説明する。まず、第2磁束44は、スポーク24に対向するティース13に向かって流れる。
次に、第2磁束44は、固定鉄心12の円弧部19において、第1磁束42と同方向へ流れる。この際、第2磁束44は、第1磁束42と合流し磁束40となる。次に、第1磁束42及び第2磁束44は、第2永久磁石32のS極に対向するティース13を流れる。 次に、第1磁束42及び第2磁束44は、前記ティース13から、対向する第2永久磁石32のS極に向かって流れる。次に、第1磁束42及び第2磁束44は、第2永久磁石32のS極から、第2永久磁石32の内部をN極、即ち、起点であるスポーク24に向かって流れる。
よって、第2磁束44は、スポーク24の内部を径方向R1の外側へ流れ循環する。一方、第1磁束42は、スポーク24の内部を貫通して、隣接する第1永久磁石30のS極に流れ、第1永久磁石30の内部をN極に向けて流れる。次に、第1永久磁石30のN極に対向する固定鉄心12のティース13を流れ、固定鉄心12の円弧部19にて、第2磁束44と合流し循環する。よって、第2磁束44は、第1磁束42の内側を第1磁束42と同じ方向に循環する。
【0028】
第2に、紙面に向かって時計回りに循環する第2磁束44を説明する。まず、第1永久磁石30の回転方向R2の後方に位置するスポーク24を起点として、第1磁束42と第2磁束44は、隣接する第1永久磁石30の内部を、S極からN極へ流れる。
次に、第1磁束42と第2磁束44は、第1永久磁石30の内部のN極から、対向する固定鉄心12のティース13に流れる。次に、固定鉄心12の円弧部19において、第1磁束42と第2磁束44は分流する。
分流した第2磁束44は、起点のスポーク24に対向するティース13に流れ、起点のスポーク24へ戻り循環する。分流した第1磁束42は、回転方向R2の後方に隣接する第2永久磁石のS極に対向するティース13に流れ、第2永久磁石の内部をS極からN極に流れ、起点のスポーク24へ戻り循環する。よって、第1の場合と同様に、第2磁束44は、第1磁束42の内側を第1磁束42と同じ方向に循環する。
以上、回転電機1の通電時(回転時)の磁束40は、第1磁束42の内側に第2磁束44が混在して循環している。
【0029】
<永久磁石>
第1永久磁石30及び第2永久磁石32は、焼結金属磁石又はプラスチック磁石を用いる。
焼結金属磁石としては、例えば、信越化学(株)のN36Zが使われる。これは、焼結ネオジム磁石であり、残留磁束密度1.1[T]、保磁力875[kA/m]である。焼結金属磁石の渦電流を左右する電気抵抗率(抵抗比)は、1.4[μΩ・m]である。プラスチック磁石に比べ高コストである。
プラスチック磁石としては、例えば、NEOMAX-P6 (NEOMAX(株))が使われる。プラマグボンド磁石であり、残留磁束密度0.5[T]、保磁力630[kA/m]である。渦電流を左右する電気抵抗率(抵抗比)は、50[μΩ・m]である。プラスチック磁石は、プラスチック材料を基材として、磁性体材料(例えば、希土類系磁石材料など)を混合している。プラスチック材料にはラバー材料も含まれる。
上記以外の材料であっても、特徴の類似する材料を用いることができるのはいうまでもない。
【0030】
<積層鉄心>
固定鉄心12及び回転鉄心22は、積層鉄心として磁性体である鉄を基材とした鋼板材料が用いられる。
固定鉄心12には、例えば、49%コバルト鋼板であるVACOFLUX50 (VAC社、独)が使われる。主な仕様は、板厚が0.2mm、磁気飽和密度が2.35[T]、引張強度が720[MPa]である。
回転鉄心22には、アモルファスを母相とする金属、例えば、アモルファス鋼板である2605HB1M (日立金属(株))が使われる。主な仕様は、鉄損が0.17W/kg (1.3[T]、[50Hz])、引張強度が2100MPa、磁気飽和密度が1.5[T]である。また例えば、回転鉄心22には、アモルファス金属の一種であるが、その母相中に鉄のナノ結晶を高密度に分散したナノ結晶合金のNANOMET(R)((株)東北マグネットインスティテュート)が使われる。鉄損が約0.3W/kg (1.5[T]、[50Hz])、磁気飽和密度が1.8[T]である。また、例えば、回転鉄心22には、普通珪素鋼板である 35H300 (日本製鐵(株))が使われる。主な仕様は、鉄損が3W/kg(1.3[T]、[50Hz])、引張強度が509MPa、磁気飽和密度が2[T]である。また回転子鉄心22には、高張力珪素鋼板である 35HXT780T (日本製鐵(株))が使われる。主な特長となる仕様は、引張強度が822MPaと強く、前記の磁極群や磁石群を支えるのに好適な耐久性をもたせた設計ができる。
上記以外の材料であっても、特徴の類似する材料を用いることができるのはいうまでもない。
尚、固定鉄心12及び回転鉄心22は、通常上述の鋼板を用いてそれぞれの形状にプレスにより一体として加工し、これらを積層させて製造される。よって、回転鉄心22の第1永久磁石30及び第2永久磁石32の挿入される開孔部の機械的強度を大きくすることができる。
【0031】
<解析手段>
本開示に用いた解析条件は以下である。過渡磁場解析に用いたFinite Element Analysis解析(以下、FEA解析と記す)は、ムラタソフトウェア(株)製のFemtetである。回転機械1のFEA解析のモデルは、電機子10の固定鉄心12の径は、300mm、内側に空隙長5の長さ1mmを持って界磁回転子20を設置している。界磁回転子20の極数は16極である。電機子20は、固定鉄心12のスロット16の巻線18が三相巻線である。スロット16の数は96個であり、三相巻線は1相1極あたり2つのスロット16を有する分布巻線である。巻線18は平角導体であり複数本がスロット16に巻装されている。電機子20の固定鉄心12は、49%コバルト鋼板VACOFLUX50である。界磁回転子20の回転鉄心はアモルファス鋼板2605HB1Mである。永久磁石は、焼結ネオジム磁石である。回転数は3000rpm、入力電流は240[A]である。
【0032】
図3に、第1実施形態の回転電機1の部分構造を示す。第1永久磁石30に対して、電機子10にはティース13及び巻線18が3個配されている。同様に、第2永久磁石32に対して、電機子10にはティース13及び巻線18が3個配されている。よって、回転電機1は、ティース13及び巻線18が48個配されている。
【0033】
<FEA解析の結果>
図4に、回転電機1の1/4の範囲について、磁束40の流れのFEA解析の結果を示す。
図4(a)に、2個の第1永久磁石30(30-1、30-2)、3個の第2永久磁石32(32-1、32-2、32-3)、5個のスポーク24(24-1、・・・、24-5)、14個のティース13(13-1、・・・、13-14)の配置を表す。
第1永久磁石30-2と隣接する第2永久磁石32-2.30-3での磁束40の流れを説明する。第1永久磁石30-2のN極を起点とする。第1永久磁石30-2のN極の周弧から、電機子10へ流れる磁束40は、2個のティース13-9、13-10へ流れる。
ティース13-9からの磁束40は、固定鉄心12の円弧部19を流れ、ティース13-6、13-11、13-12に流れる。
反時計方向(回転方向R2)のティース13-6への流れは、第2永久磁石32-2のS極へ流れる。次に、第2永久磁石32-2のS極からスポーク24-3を貫通して、隣接する起点の第1永久磁石30―2のN極へ戻り循環する。これは第1磁束42である。
時計方向のティース13-11への流れは、ティース13-11に対向するスポーク24-4へ流れ、起点の第1永久磁石30-2のN極へ戻り循環する。これは第2磁束44である。
時計方向のティース13-12への流れは、第2永久磁石32-3のS極へ流れる。次に、第2永久磁石32-3のS極からスポーク24-4を貫通して、隣接する起点の第1永久磁石30―2のN極へ戻りと循環する。これは第1磁束42である。
ティース13-10からの磁束40は、固定鉄心12の円弧部19を流れ、ティース13-11に流れ、ティース13-11に対向するスポーク24-4へ流れ、起点の第1永久磁石30-2へ戻り循環する。これは第2磁束である。
以上より、回転電機1の回転時(通電時)の磁束40は、第1磁束42の内側に第2磁束44が混在して循環している。
【0034】
図4(b)は、磁束40の表示を増やしたFEA解析の図である。第1永久磁石30-2、スポーク24-4、第2永久磁石32-3において、第1永久磁石30-2と第2永久磁石32-3で循環している第1磁束42がある。また、第1永久磁石30-2とスポーク24-4には、第1磁束42と同じ方向に循環している第2磁束44がある。第2磁束44は、第1磁束42の内部にある。これは、
図4(a)と同様である。また、
図1に示す回転電機1は、第1磁束を16個、第2磁束を16個有する。
以上より、
図2で説明した第1磁束42及び第2磁束42の流れが、FEA解析の結果とほぼ一致する。
【0035】
第1実施形態の回転電機1は、界磁回転子20にハルバッハ配列された第1永久磁石30及び第2永久磁石32の間を流れる第1磁束42を有するので、電機子10の通電により界磁回転子20にローレンツ力が作用しトルクが発生する。加えて回転電機1は、電機子10の通電によりスポーク24とスポーク24に対向するティース13の間を流れる第2磁束44を有するので、界磁回転子20にスポーク24が鉄心として作用するリラクタンストルクが発生する。即ち、回転電機は、第1磁束42により発生するトルク及び第2磁束42により発生するトルクを有し、トルク加算効果がある。
例えば、自動車等で用いられる外径300mmの小型の回転電機1では、FEA解析により、
図5に示すように発生するトルクを234Nmとすることができる。即ち、
図5は回転角度に対する平均トルクが234Nmを示している。トルクの振幅は、68Nm(最小値200Nm~最大値268Nm)である。
自動車等で用いられる外径300mmの小型の回転電機のトルクは、通常200Nm程度である。よって、第1実施形態の回転電機1によれば、目標とするトルクが15%(トルク230Nm)を達成する17%(トルク234Nm)とトルクを大きくできる。
【0036】
<比較例>
比較例として、
図12に、例えば、特許文献1に示されるハルバッハ配列の永久磁石の界磁回転子120を有する回転電機101の磁気回路構造を示す。電機子110の固定鉄心112は、ティース113を48個有している。界磁回転子120は、第1磁極磁石137、第2磁極磁石138、ヨーク磁石139から構成される。第1磁極磁石137は、並行着磁され磁石内磁界を径方向R1の外向きに有する。第2磁極磁石138は、並行着磁され磁石内磁界を径方向R1の内向きに有する。ヨーク磁石139は、並行着磁され磁石内磁界を周方向R2に有する。第1磁極磁石137と第2磁極磁石138は、ヨーク磁石139を介して交互に配される。また、ヨーク磁石139は、その界磁方向を第1磁極磁石137に向くように配される。界磁回転子120は、第1磁極磁石137及び第2磁極磁石138を合計16個配された16極の回転電機101である。回転電機101は、界磁回転子120の外側に、第1磁極磁石137から出て第2磁極磁石138に戻る第1磁束142を有する。
【0037】
図13に、
図12に示す回転電機101の第1磁束142の流れのFEA解析を示す。計算条件は、
図4(a)と同じである。例えば、第1磁極磁石137-2から両サイドのヨーク磁石139-2、139-3、及び第2磁極磁石138-1、138-2に循環する第1磁束142を見る。まず、第1磁束142は、第1磁極磁石137-2のN極に対向するティース113-6、113-7を流れる。
ティース113-6からの第1磁束142は、反時計方向(回転方向R2)とその反対方向の時計方向の2つに分てる。反時計方向の第1磁束142は、固定鉄心112の円弧部119を流れティース113-3、次に、第2磁極磁石138-1、次に、ヨーク磁石139-2を経て第1磁極磁石137-2に戻る。時計方向の第1磁束142は、固定鉄心112の円弧部119を流れティース113-9、次に、第2磁極磁石138-2、次に、ヨーク磁石139-3を経て第1磁極磁石137-2に戻り循環する。
ティース113-7からの時計方向の第1磁束142は、固定鉄心112の円弧部119を流れティース113-8、次に、第2磁極磁石138-2、次に、ヨーク磁石139-3を経て第1磁極磁石137-2に戻り循環する。
【0038】
比較例であるハルバッハ配列の永久磁石の界磁回転子120を有する回転電機101のトルクとして、例えば、自動車等で用いられる外径300mmの小型の回転電機のトルクのFEA解析は、220Nmである。解析条件は、
図5と同じである。これは、ハルバッハ配列を用いない通常の自動車等で用いられる外径300mmの小型の回転電機のトルクの200Nm程度に対して約10%向上する。
しかし、第1実施形態の回転電機1のトルクは234Nmであり、比較例の回転電機101のトルク220Nmより、約6.4%大きい。これは、第1実施形態は、比較例に比べて永久磁石が相対的に小さくなり第1磁束42は小さくなるが、鉄心であるスポーク24を有することで第2磁束44によるリラクタンストルクによるトルク加算効果を有するからである。
【0039】
(第2実施形態)
第2実施形態は、鉄心であるスポーク24の幅24wとスポーク24の磁極極性に関する。
図6に、第2実施形態のティース部の構造を示す。
図6(a)はティース13が48個の場合であり、
図6(b)は ティース13が96個の場合である。
尚、
図6に示すように、電機子10の内周と界磁回転子20の外周は、所定寸法の空隙長5を持って離間している。界磁回転子20の外周は、ブリッジ26及びスポーク24の外周で構成される。電機子10の内周は、一定の隙間を有して配されるティース先端14で構成される。電機子10の内周のティース先端14の幅14aは、磁束40(第1磁束42と第2磁束44)が流れ易いように大きい。一方、ティース13のスロット16には巻線18が配されるので、ティース13の幅は径方向R1の内側が狭くなっている。よって、ティース13とティース先端14の接続部がティース13の最小幅13aとなる。
【0040】
まず、鉄心であるスポーク24の幅24wについて説明する。
図6(a)に示すティース13が48個の場合、スポーク24の幅24wは、ティース13の最小幅13a又はティース先端14の幅14aより小さい。
図6(b)に ティース13が96個の場合、スポーク24の幅24wは、ティース13の最小幅13a又はティース先端14の幅14aより大きい。
ここで、巻線18に通電時に発生する第2磁束44は、スポーク24とスポーク24に対向するティース13及びティース先端14の間を流れる。よって、スポーク24の周方向の幅24wは、ティース13の最小幅13a又はティース先端14の幅14aの1/2より大きく、ティース13の最小幅13a又はティース先端14の幅14aの2倍より小さくすることにより、第2磁束44をスポーク24とスポーク24に対向するティース13の間にバランス良く流すことができる。
また、スポーク24の周方向の幅24wを、ティース13の最小幅13a又はティース先端14の幅14aより小さくすることにより、第1永久磁石30及び第2永久磁石32の大きさを、必要以上に小さくすることが無い。よって、ハルバッハ配列された第1永久磁石及び第2永久磁石による第1磁束42の大きさを維持することができる。
【0041】
次に、鉄心であるスポーク24の磁極極性は、N磁極とS磁極の中間極性である。
通常、磁性体は永久磁石と近接すると、近接した永久磁石のN磁極又はS磁極に磁化される。しかし、第2実施形態では、磁性体であるスポーク24は、第1永久磁石30のS磁極と第2永久磁石32のN磁極の間に配されている。よって、スポーク24の外周では、第1永久磁石30のS磁極からの磁束と第2永久磁石32からのN磁極の磁束が互いに相殺され、スポーク24の電機子から見た磁極極性はN磁極でもS磁極でもない中間極性となる。一方、通電時は、スポーク24に対向する電機子10のティース先端14の磁極極性は、N磁極又はS磁極である。よって、第2磁束44はスポーク24,すなわち中間極性の鉄心に作用してリラクタンストルクを生じることができる。
【0042】
(第3実施形態)
第3実施形態は、第1実施形態の
図5に示す発生トルクの振幅を小さくすることに関する。
図4で示すように第1永久磁石30の周弧(N磁極)及び第2永久磁石32の周弧(S磁極)は、電機子10と磁束40(第1磁束42と第2磁束44)を、周弧の全域で流している。ここで、スポーク24側の両端部の周弧を流れる磁束40は、近くにある鉄心であるスポーク24へショートカットするのでリラクタンストルク即ちトルクの振幅を大きくしている。
【0043】
第3実施形態は、第1永久磁石30及び第2永久磁石32に対応する界磁回転子20の外周のスポーク24側の両端部が、第1永久磁石30及び第2永久磁石32に対応する界磁回転子20の外周の中央部に対して径方向R1内側にオフセットしている。
即ち、界磁回転子29と電機子10との空隙長5は、第1永久磁石30及び第2永久磁石32のスポーク24側の両端部が中央部に比べて広くなっている。界磁回転子20と電機子10との空隙長5に狭いところと広いところがあると磁束40(第1磁束42及び第2磁束44)は狭いところに集中する。よって、第1永久磁石30及び第2永久磁石32に対応する界磁回転子20の外周を流れる磁束40をオフセットの無い中央部に集中させることができ、発生するトルクの振幅を小さくすることができる。
例えば、第1永久磁石及び第2永久磁石に対応する界磁回転子の外周が、第1永久磁石及び第2永久磁石を覆うブリッジ26である場合、ブリッジ26のスポーク24側の両端部は、径方向R1の内側に空隙であるオフセット部26aを有している。よって、ブリッジ26のスポーク24側の両端部は、オフセット部26aの無い中央部に比べて、界磁回転子20と電機子10との空隙長5が広くなっている。界磁回転子20と電機子10との空隙長5に狭いところと広いところがあると、磁束40(第1磁束42及び第2磁束44)は狭いところに集中する。よって、第1永久磁石30及び第2永久磁石32を覆うブリッジ26を流れる磁束40をオフセット部26aの無い中央部に集中させることができ、発生するトルクの振幅を小さくすることができる。
【0044】
図7に、第3実施形態のブリッジ26を有する回転電機1の部分構造を示す。第1永久磁石30に対して、電機子10にはティース13及び巻線18が6個配されている。同様に、第2永久磁石32に対して、電機子10にはティース13及び巻線18が6個配されている。よって、回転電機1は、ティース13及び巻線18が96個配されている。
【0045】
図8に、実施例としてFEA解析に用いたブリッジ26のオフセット部26aの構造を示す。1極当たりのオフセット部26aの比率を算出する。回転電機1は16極なので、一極は22.5°(機械角、以下同じ)である。スポーク24は4°である。よって、第1永久磁石30を覆うブリッジの幅は18.5°である。
ブリッジの両端のオフセット部26aの幅は3°、オフセット26aの無い中央部は12.5°となる。よって、オフセット部26aの比率は、(3°×2))/18.5°=32%(オフセット部26a当たり16%)である。オフセット部26aの形状は略三角形である。オフセット部26aの径方向R1の高さは、ブリッジ26のオフセット部26aの無い中央部からスポーク24に向かって徐々に高さを増しスポーク24との端面で2mmとした。
例えば、固定鉄心12の径が300mmの場合、オフセット部26aの幅7mmである。よって、オフセット部26aの大きさは、底辺7mm、高さ2mmの略直角三角形である。尚、スポーク24の幅24は9.6mmである。
【0046】
図5に対応する第3実施形態のトルク のFEA解析の結果を
図9に示す。平均トルクは同じ234Nmとなるが、トルクの振幅を68Nm(200Nm~268Nm)から、28Nm(220Nm~248Nm)と、約59%小さくすることができた。
【0047】
図10に、ティース13に対向するスポーク24の近傍の第2永久磁石32から第1永久磁石30への第1磁束42流れの模式図を示す。
図10(a)はオフセットの有る場合、
図10(b)はオフセットが無い場合である。両図において、第2永久磁石32のS極の中央部から第1永久磁石30のN極の中央部への第1磁束42の流れ、及びティース13から対向するスポーク24を経て第1永久磁石30のN極への流れは同じである。しかし、ティース13に対向するスポーク24の近傍の第2永久磁石32から第1永久磁石30への第1磁束42の流れは、オフセットの有無により異なる。
図10(b)のオフセット無しの場合、スポーク24の近傍の第2永久磁石32に流入した第1磁束42は、スポーク24を貫通して第1永久磁石30へ流れる。よって、第1磁束42は、第2永久磁石32のS極の周弧全体から、第1永久磁石32のN極の周弧全体へ流れる。
一方、
図10(a)のオフセット有りの場合、スポーク24の近傍の第1磁束42は、オフセット部26aのため空隙長さ5が大きくなっているため、空隙長さ5の狭い第2永久磁石32のS極のオフセット部26aの無い中央部へ流入する。第2永久磁石32のS極の中央部に流入した第1磁束42は、スポーク24を貫通して第1永久磁石30のN極のオフセット部26aの無い中央部へ流入する。よって、第1磁束42は、第2永久磁石32のS極のオフセット部26aの無い中央部から、第1永久磁石32のN極のオフセット部26aの無い中央部へ流れる。即ち、第1磁束42の流れる幅が、オフセット部26aにより小さくなっている。このことにより、トルクの振幅が小さくなったと推定する。
以上、トルクの振幅が小さくできる第3実施形態の回転電機1は、輸送機器だけでなく計測装置でも使用することができる。計測装置の回転電機1は、一定のトルクの安定性が必要である。よって、トルクの振幅が小さい回転電機1により、トルクの安定性が確保でき計測装置の計測制度が向上できる。
【0048】
第1永久磁石及び第2永久磁石を覆うブリッジ26の径方向R1の幅26aは、1.5mm~2mmである。よって、第1永久磁石30及び第2永久磁石32の両端部にはオフセットに対応した面取りを施している。
【0049】
(第4実施形態)
第4実施形態は、第1永久磁石30は、2個のヨーク磁石39と、ヨーク磁石39の間に第1磁極磁石37と、を有する永久磁石である。また、第2永久磁石32は、2個のヨーク磁石39と、ヨーク磁石39の間に第2磁極磁石38と、を有する永久磁石である。
【0050】
図11は、第4実施形態の永久磁石を示す。
図11(a)は、第1永久磁石30に対応する永久磁石を示す。第1磁極磁石37及びヨーク磁石39は、平行着磁されている。第1磁極磁石37は、径方向R1外向きに磁石内磁界37aを有する。ヨーク磁石39は周方向R2に磁極内磁界39aを有する。この第1永久磁石30は、左右の2個のヨーク磁石39の間に第1磁極磁石37が配され、ヨーク磁石39の磁石内磁界37aは、第1磁極磁石37に向かって互いに対向するように配される。また、
図11(b)は、第2永久磁石32に対応する永久磁石を示す。第2磁極磁石38及びヨーク磁石39は、平行着磁されている。第2磁極磁石38は、径方向R1内向きに磁石内磁界38aを有する。この第2永久磁石32は、左右の2個のヨーク磁石39の間に第2磁極磁石38が配され、ヨーク磁石39の磁石内磁界37aは、第1磁極磁石37に向かって互いに対向しないように配される。
【0051】
第4実施形態は、第1永久磁石及び第2永久磁石が、それぞれ並行着磁された3個の永久磁石から構成される。即ち、3分割されているので永久磁石が小さくなっている。小さい永久磁石にすることで、着磁が容易で低コストとすることができる。また、回転鉄心22は、径方向に複数のスポークによる第1永久磁石及び第2永久磁石を嵌合する開孔部を有する。よって、3分割された永久磁石を、各開孔部へ容易に組付けることができる。
また、3個の永久磁石をハルバッハ配列とする場合、永久磁石の磁力による反発力が働く。第4実施形態の回転鉄心22は、径方向に複数のスポーク24と、スポーク24の内側の端部を接続するハブ28と、スポーク24の外側の端部を接続するブリッジ26を有することができる。よって、第1永久磁石30及び第2永久磁石32と嵌合する開孔部により、3分割された永久磁石を、強固に固定することができる。
【0052】
第1磁極磁石37と第2磁極磁石38は同じ大きさである。一方、ヨーク磁石39の周方向R2の大きさは、第1磁極磁石37又は第2磁極磁石38の周方向R2の大きさの1/2とした。ヨーク磁石39の磁石内磁界39aは、第1永久磁石30と第2永久磁石32が隣接することで、2倍とすることができる。この2倍の磁石内磁界39aを、第1磁極磁石37の磁石内磁界37a又は第2磁極磁石38の磁石内磁界38aと同等の大きさとすることで、磁石内磁界のバランスを良くして、ハルバッハ配列による磁束を径方向R1の外側へ集中させる効果を高めることができる。尚、ヨーク磁石39は、開孔部への挿入方向を逆にすることで磁石内磁界39aの向きを変えることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 回転電機 5 空隙長(電機子と界磁回転子の間)
10 電機子 12 固定鉄心
13 ティース 13a ティースの最小幅
14 ティース先端 14a ティース先端の幅
16 スロット 18 巻線
19 円弧部 20 界磁回転子
22 回転鉄心 24 スポーク
24a 幅(スポークの周方向) 26 ブリッジ
26a オフセット部 28 ハブ
30 第1永久磁石 30a 磁石内磁界(第1永久磁石)
32 第2永久磁石 32a 磁石内磁界(第2永久磁石)
37 第1磁極磁石 38 第2磁極磁石
39 ヨーク磁石 40 磁束
42 第1磁束 44 第2磁束
Z 回転軸方向 R1 径方向
R2 周方向(回転方向)