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  • 特開-細胞外水分比抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042716
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】細胞外水分比抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20220308BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20220308BHJP
   A61K 36/05 20060101ALI20220308BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20220308BHJP
   A61K 31/716 20060101ALI20220308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/125
A61K36/05
A61P7/10
A61K31/716
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148271
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 満智子
(72)【発明者】
【氏名】福ヶ迫 久仁衛
(72)【発明者】
【氏名】大中 信輝
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB04
4B018LB07
4B018LB08
4B018LE02
4B018MD33
4B018MD89
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA83
4C086ZC41
4C088AA15
4C088AC15
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA83
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】細胞外水分比抑制剤を提供すること。
【解決手段】ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、細胞外水分比抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、細胞外水分比抑制剤。
【請求項2】
ユーグレナ、パラミロン、及びパラミロン加工物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の細胞外水分比抑制剤。
【請求項3】
前記ユーグレナを含有し、且つ前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスである、請求項1又は2に記載の細胞外水分比抑制剤。
【請求項4】
前記ユーグレナを含有し、且つ前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスEOD-1株(受託番号FERM BP-11530)である、請求項1又は2に記載の細胞外水分比抑制剤。
【請求項5】
浮腫の予防又は改善に用いるための、請求項1~4のいずれかに記載の細胞外水分比抑制剤。
【請求項6】
前記浮腫が、細胞膜の機能低下に起因する浮腫、血流障害又は新陳代謝の低下に起因する浮腫、加齢に伴う浮腫、腎性浮腫、心性浮腫、肝性浮腫、内分泌性浮腫、栄養障害性浮腫、薬剤性浮腫、突発性浮腫、静脈性浮腫、リンパ性浮腫、炎症性浮腫、及び血管神経性浮腫からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の細胞外水分比抑制剤。
【請求項7】
前記浮腫が、上半身における浮腫を含む、請求項5又は6に記載の細胞外水分比抑制剤。
【請求項8】
食品組成物、栄養補助食品、食品添加剤、又は医薬である、請求項1~7のいずれかに記載の細胞外水分比抑制剤。
【請求項9】
経口組成物である、請求項1~8のいずれかに記載の細胞外水分比抑制剤。
【請求項10】
ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、浮腫の予防又は改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外水分比抑制剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
浮腫(むくみ)は、日常的に見られる状態であり、様々な原因、例えば加齢、炎症、疾患、外部刺激等によって引き起こされる状態である。浮腫は、放置すれば組織の線維化や皮膚の角化や、関節可動域の制限に繋がる可能性がある。また、主に外見的な理由から、QOL(Quality Of Life)を低下させる要因になり得る。
【0003】
浮腫は、組織間隙に過剰な水分の貯留した状態であると捉えることができ、細胞外水分量を体水分量(細胞外水分量+細胞内水分量)で除してなる細胞外水分比に表れる。すなわち、細胞外水分比が高いことは浮腫であること、或いは浮腫に近い又は引き起こし得る状態であることを意味する。
【0004】
ユーグレナは、ミドリムシ属(=ユーグレナ属)に属する微細藻類であり、食品材料として利用されている。また、ユーグレナ抽出物を皮膚に適用することも行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008-526954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細胞外水分比抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、細胞外水分比抑制剤、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、細胞外水分比抑制剤。
項2. ユーグレナ、パラミロン、及びパラミロン加工物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1に記載の細胞外水分比抑制剤。
項3. 前記ユーグレナを含有し、且つ前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスである、項1又は2に記載の細胞外水分比抑制剤。
項4. 前記ユーグレナを含有し、且つ前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスEOD-1株(受託番号FERM BP-11530)である、項1又は2に記載の細胞外水分比抑制剤。
項5. 浮腫の予防又は改善に用いるための、項1~4のいずれかに記載の細胞外水分比抑制剤。
項6. 前記浮腫が、細胞膜の機能低下に起因する浮腫、血流障害又は新陳代謝の低下に起因する浮腫、加齢に伴う浮腫、腎性浮腫、心性浮腫、肝性浮腫、内分泌性浮腫、栄養障害性浮腫、薬剤性浮腫、突発性浮腫、静脈性浮腫、リンパ性浮腫、炎症性浮腫、及び血管神経性浮腫からなる群より選択される少なくとも1種である、項5に記載の細胞外水分比抑制剤。
項7. 前記浮腫が、上半身における浮腫を含む、項5又は6に記載の細胞外水分比抑制剤。
項8. 食品組成物、栄養補助食品、食品添加剤、又は医薬である、項1~7のいずれかに記載の細胞外水分比抑制剤。
項9. 経口組成物である、項1~8のいずれかに記載の細胞外水分比抑制剤。
項10. ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、浮腫の予防又は改善剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細胞外水分比抑制剤を提供すること、さらには浮腫の予防又は改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】体幹の細胞外水分比の測定結果を示す(試験例1)。縦軸は、体幹の細胞外水分比の相対値を示す。横軸中、0Wは試験開始日(摂取開始前)、4Wは試験開始から4週間経過時、8Wは試験開始から8週間経過時の測定結果を示す。
図2】右腕の細胞外水分比の測定結果を示す(試験例1)。縦軸及び横軸については図1と同様である。*はp<0.1(有意)であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本発明は、その一態様において、ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、細胞外水分比抑制剤又は浮腫の予防又は改善剤(本明細書において、「本発明の剤」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0013】
1.ユーグレナ
ユーグレナは、ミドリムシ属(=ユーグレナ属)に属する微細藻類であり、その限りにおいて特に制限されない。ユーグレナとして、具体的には、例えばEuglena gracilis(ユーグレナ・グラシリス)、Euglena longaEuglena caudataEuglena oxyurisEuglena tripterisEuglena proximaEuglena viridisEuglena sociabilisEuglena ehrenbergiiEuglena desesEuglena pisciformisEuglena spirogyraEuglena acusEuglena geniculataEuglena intermediaEuglena mutabilisEuglena sanguineaEuglena stellataEuglena terricolaEuglena klebsiEuglena rubraEuglena cyclopicolaなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより確実に発揮できるという観点から、好ましくはユーグレナ・グラシリスが挙げられ、より好ましくはユーグレナ・グラシリスEOD-1株[2013年6月28日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター{NITE-IPOD(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)}にブダペスト条約の規定下で、受託番号FERM BP-11530として国際寄託済み]が挙げられる。
【0014】
ユーグレナの形態は、ユーグレナの細胞体又はその成分の大半を含むものである限り、特に制限されない。ユーグレナの形態としては、例えばユーグレナの乾燥粉末形態、ユーグレナの懸濁液、ユーグレナエキス等が挙げられ、中でも、好ましくはユーグレナの乾燥粉末形態が挙げられる。
【0015】
ユーグレナの乾燥状態におけるパラミロン含有率は、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0016】
ユーグレナは、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0017】
2.β-1,3-グルカン、パラミロン
β-1,3-グルカンは、グルコースがβ1,3結合のみで連結してなる1本の糖鎖(又は糖鎖構造)を主鎖として有するものであれば特に制限されない。β-1,3-グルカンは、直鎖状のものに限らず、分枝鎖を有するものも包含する。
【0018】
β-1,3-グルカン誘導体の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1×104~2×106、好ましくは5×104~1×106、更に好ましくは1×105~1×106ある。なお、重量平均分子量は、GPC法により測定することができる。
【0019】
β-1,3-グルカンは、化学合成により得られたものであってもよいが、入手容易性等の観点から、各種生物が産生する天然β-1,3-グルカンが好ましい。天然β-1,3-グルカンとしては、例えばパラミロン、カードラン、ラミナラン、カロース、レンチナン、シゾフィラン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはパラミロンが挙げられる。以下、パラミロンについて説明する。
【0020】
パラミロンは、ユーグレナ由来のβ-1,3-グルカンであり、その限りにおいて特に制限されない。
【0021】
パラミロンが由来するユーグレナについては、上記「1.ユーグレナ」における説明と同様である。
【0022】
パラミロンの質量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1×104~5×106、好ましくは2×104~1×106、より好ましくは5×104~1×106、さらに好ましくは1×105~5×105である。
【0023】
なお、質量平均分子量は、SEC-MALS分析により、以下の条件で測定 することができる:
検出器:多角度散乱検出器(Wyatt Technology製DAWN HELEOS II)
示差屈折計検出器(Wyatt Technology製Optilab T-rEX)
使用カラム:TSKgel α-M 2本(東ソー製)
移動相:0.05M臭化カリウム添加DMSO
流 速:0.5 mL/min。
【0024】
パラミロンは、ユーグレナの細胞内において、通常、β-1,3-グルカン鎖が形成する3重螺旋構造体が一定の規則性の基に高度に集積してなるパラミロン粒子として存在している。
【0025】
パラミロン粒子の形状は、特に制限されないが、通常は、偏平な回転楕円体状である。
【0026】
パラミロン粒子の粒子径分布は、特に制限されないが、例えば0.5~15μm、好ましくは1~6μmである。また、パラミロン粒子の平均粒子径も特に制限されないが、例えば1~10、好ましくは2~4μmである。
【0027】
パラミロンの形態は、パラミロンを含むものである限り、特に制限されない。ユーグレナの形態としては、例えばパラミロンの乾燥粉末形態、パラミロンの懸濁液等が挙げられ、中でも、好ましくはパラミロンの乾燥粉末形態が挙げられる。
【0028】
パラミロンは、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0029】
3.ユーグレナ及びパラミロンの製造方法
ユーグレナは、液体に含まれたユーグレナを培養する工程(培養工程)を含む方法により、大量に調製することが可能である。培養工程は、例えば公知の方法(例えば、特許第5883532号公報に記載の方法)に従って行うことができる。該培養工程では、典型的には、水と、ユーグレナと、ユーグレナが利用できる栄養素とを含む液体(培養液)を撹拌しつつ好気条件でユーグレナ属微細藻類を培養する。
【0030】
栄養素としては、糖類(グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)などの単糖類)、ミネラル類(例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛、モリブデン、銅、リン、窒素、硫黄、又は、ホウ素など)、ビタミンB類(例えばビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサール、又はピリドキサミン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、葉酸、ビオチンなど)などが挙げられる。培養液中の栄養素の濃度は、ユーグレナの生存、増殖等が可能な濃度である限り特に制限されない。
【0031】
培養工程の光条件は特に制限されず、培養工程は明条件と暗条件のいずれで行われてもよい。従属栄養培養にて培養する際には暗条件で培養される。明条件としては、藻類を増殖させるための通常の光強度を採用することができる。暗条件としては、例えば10μmol/m2/s未満、好ましくは光が全く当たらない完全な暗所条件が挙げられる。
【0032】
培養工程における培養温度は、ユーグレナが増殖できる温度であれば、特に限定されない。該培養温度(培養液の温度)としては、例えば、20℃~35℃が採用される。
【0033】
培養工程における液体のpHは、ユーグレナが増殖できるpHであれば、特に限定されない。ユーグレナが増殖できるpHとしては、例えば3.0~5.5が採用される。
【0034】
培養工程の後に、液体の遠心分離や重力分離などによってユーグレナを濃縮することが好ましい。得られたユーグレナは、所望の形態に応じて、追加の処理(例えば、液体への懸濁、水中又は油中への分散、エキス抽出、乾燥粉末化等)に供することができる。
【0035】
パラミロン粒子は、公知の方法(例えば特許第5883532号公報に記載の方法)に従って又は準じて、ミドリムシから分離、単離、又は精製することによって製造することができる。パラミロン粒子は、例えばミドリムシの細胞膜を破壊することによって得られる細胞内容成分を回収することによって、容易に得ることができる。また、必要に応じて、パラミロン粒子を精製してもよい。パラミロン粒子の精製については各種知られており(例えば、特許第5883532号公報)、それらの方法に従って行うことができる。精製工程としては、例えば、界面活性剤処理工程、洗浄工程などが挙げられる。得られたユーグレナは、所望の形態に応じて、追加の処理(例えば、液体への懸濁、水中又は油中への分散、乾燥粉末化等)に供することができる。
【0036】
4.パラミロン加工物
パラミロン加工物は、パラミロンに対して加工処理、例えば物理処理、化学処理等することによって得られるものであり、その限りにおいて特に制限されない。パラミロン加工物としては、例えば、繊維化パラミロン、アモルファスパラミロン等が挙げられる。アモルファルパラミロンは、公知の方法に従って又は準じて、例えば特開2011-184592号公報に記載の方法を用いて化学的に処理することにより、得ることができる。
【0037】
パラミロン加工物としては、繊維化パラミロンが好ましい。以下に、繊維化パラミロンについて説明する。
【0038】
繊維化パラミロンは、ユーグレナ由来のβ-1,3-グルカンであり、繊維状の形態のものである限りにおいて特に制限されない。これまで、パラミロン粒子を化学処理(アルカリ処理等)して得られたアモルファスパラミロンが報告されているが、これは、電子顕微鏡で観察すると繊維化であるとは認められず、形や大きさが不定形の塊であるため、繊維化パラミロンには包含されない。
【0039】
繊維化パラミロンの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1×104~2×107、好ましくは1×105~5×105である。
【0040】
なお、重量平均分子量は、SEC-MALS分析により、以下の方法で測定することができる:SEC装置:LC-10ADvp system(Shimadzu Co.、日本)、使用カラム:KD-806M(shodex.、日本)、
MALS検出器:DAWN HELEOSII(wyatt Technologies.、U.S.A.)、溶離液:1%LiCl/DMI、
流速:0.5 mL/分。
【0041】
繊維化パラミロンの繊維の直径は、特に制限されないが、例えば10~500 nm、好ましくは20~300 nm、より好ましくは50~200 nmである。繊維化パラミロンの繊維の直径は、通常、繊維化パラミロンの電子顕微鏡像に基づいて測定することができる。
【0042】
繊維化パラミロンの水中沈定体積は、特に制限されないが、例えば30~300 mL/g、好ましくは50~250 mL/g、より好ましくは70~200 mL/gである。
【0043】
水中沈定体積は以下の方法に従って又は準じて測定することができる:
「日本食物繊維学会監修、日本食物繊維学会編集委員会編(2008)食物繊維 ‐基礎と応用‐ 第3版, p.111 第一出版, 東京」に記載されている方法に準じて測定を行う。具体的には、次の通りである。サンプルのスラリー状の試験試料を、25 mL容積のプラスチックチューブに、乾燥質量換算で125 mg計り取り、プラスチックチューブを手で激しく振って、内容物を撹拌する。その後、25 mL容積のメスシリンダーに内容物を移し、25 mLになるまで純水を加える。メスシリンダー内の液体を撹拌した後、37℃で24時間静置する。これによりサンプルが沈殿し、界面を介して分けられる2つの層(沈殿したサンプルを主に含む層(下層)、及び水を主に含む層(上層))が生じる。下層の体積をメスシリンダーの目盛から求め、得られた体積をサンプル質量(乾燥質量)で除して、水中沈定体積(mL/g)を算出する。試験は3回又は4回行い、平均値及び標準偏差を算出する。
【0044】
繊維化パラミロンは、酵素による分解に対して、比較的高い耐性を有する。例えば、βグルカナーゼの分解により生成されるモノマー(グルコース)の量は、繊維化パラミロン1 g当たり、例えば0.1~50 mg、好ましくは1~10 mgである。
【0045】
この量は以下の方法に従って又は準じて測定することができる:
反応液[被検物質30 mg(乾燥重量)、緩衝液(東京化成工業社製 B0156、フタル酸水素カリウム-水酸化ナトリウムバッファー (pH4.0))5 mL、酵素液(日本バイオコン社製 endo-1,3-β-Glucanase (酵素含有量:50 units/mL))0.1 mL、純水、反応液量 10 mL]を調製し、40℃で24時間、45 rpmで水平振盪する。振盪後、直ちに凍結保存し、濃縮のために凍結乾燥する。凍結乾燥後、各試料に純水を0.5 mLずつ加え、攪拌する(20倍濃縮)。遠心分離(10000G、5分間、4℃)し、上澄を回収する作業を2回繰り返す。回収した上澄中のグルコース濃度を、測定キット(和光純薬工業社製、グルコースCII-テストワコー)を用いて測定する。測定値に基づいて、被検物質1 g当たりのグルコース生成量(mg)を算出する。
【0046】
繊維化パラミロンは、アルカリ溶液への溶解性が、比較的低い。例えば、繊維化パラミロンは、0.1~0.3Mの水酸化ナトリウム水溶液に対して溶解しない。ここで、「溶解しない」とは、例えば、当該水溶液に繊維化パラミロンを懸濁した後(例えば、直後~1時間経過後)の溶液の吸光度(660 nm)が、例えば0.1以上、好ましくは1.0以上であることを意味する。
【0047】
溶解性は以下の方法に従って又は準じて測定することができる:
被検物質250 mg(乾燥重量)をバイアル中の試験液(純水、0.1M NaOH水溶液、0.3M NaOH水溶液)10 mLに懸濁する。バイアルを20秒間、手で激しく振った後、およびシェーカーで80 rpmで1時間振盪した後に、それぞれバイアル中の液の660 nmにおける吸光度を測定する。なお、吸光度の測定は、日本分光株式会社製分光光度計 V-730を用いて行う。
【0048】
繊維化パラミロンの結晶化度の粒状パラミロンに対する相対値(繊維化パラミロンの結晶化度/粒状パラミロンの結晶化度)は、例えば0.60~0.90、好ましくは0.65~0.80である。
【0049】
結晶化度は以下の方法に従って又は準じて測定することができる:
被検物質について、XRD測定する。条件は次のとおりである。機器:PANalytical X’Pert3 Powder、管電圧:45kV、管電流:40mA、測定範囲:5.005~50.018°、測定間隔:0.013°、解析ソフト:HighScore。結晶化度は2θ=5~80°における非晶質部の強度と結晶部の強度の比により解析する。解析は各測定テ一夕から装置によるバックグラウンドを除去(バックグラウンド設定Auto、ベンティングファクター0、粒状度100)した後に実施し、非晶質部は2θ=14、29°を通る接線で決定する。それぞれの非晶質部を決定するペンディングファクターと粒状度の条件は、0/20とする。
【0050】
繊維化パラミロンは、水などの溶媒に分散した形態であってもよいし、乾燥形態であってもよい。繊維化パラミロンは、乾燥形態であっても、水に再分散することが可能である。
【0051】
なお、本明細書において、「乾燥形態」とは、水分含量が15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であることを示す。
【0052】
繊維化パラミロンとしては、好ましくはこのパラミロン粒子を物理的に解繊処理して得られる、パラミロン粒子の解繊物を用いることができる。また、この解繊処理をユーグレナに適用することによって得られる、ユーグレナの解繊処理物を、繊維化パラミロンとして用いることもできる。
【0053】
解繊処理は、パラミロン粒子中に存在するβ-1,3グルカンの水素結合をほとんど切断せずに(例えば、β-1,3グルカンの水素結合の10%以下、5%以下、2%以下、1%以下しか切断せずに)解繊することができる処理、又はパラミロン粒子中に存在するβ-1,3-グルカン鎖又はこれが形成する3重螺旋構造体の一部又は全部を解くことができる処理である限り特に制限されない。好ましくはパラミロン粒子中に存在するβ-1,3グルカンの水素結合をほとんど切断せずに解繊処理し、繊維状とすることが好ましい。パラミロン粒子の様な微粒子を摩砕(せん断)又は粉砕(好ましくは摩砕(せん断))することができる公知の処理を、解繊処理として採用することができる。
【0054】
解繊処理は、公知の摩砕機(せん断機)、粉砕機などの装置を用いて行うことができる。解繊処理に用いる装置としては、例えば石臼式摩砕機、ジェットミル、二軸混練機、高圧ホモジナイザー、高圧乳化機、二軸押し出し機、ビーズミルなどが挙げられる。これらの中でも、好ましくは石臼式摩砕機やビーズミルが挙げられる。
【0055】
解繊処理は、湿式で行うことも、乾式で行うこともできる。湿式で解繊処理を行う方が、繊維化パラミロンをより効率的に溶液中に分散させることが可能となり、好ましい。湿式で行う場合の溶媒としては、繊維化パラミロンを分散可能な溶媒である限り特に制限されず、水を好適に用いることができる。
【0056】
解繊処理は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。また、一部が解繊処理されたパラミロンであってもよく、解繊処理されたパラミロンを含む限り本発明の意図するものである。
【0057】
5.用途
ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種(以下、「本発明の有効成分」と示すこともある。)は、細胞外水分比抑制作用、浮腫の予防又は改善作用を有する。このため、本発明の有効成分は、細胞外水分比抑制のために、及び/又は、浮腫の予防又は改善のために用いることができる。
【0058】
なお、「抑制」とは、低下させることのみならず、増加基調にあるものの増加を抑える(増加幅を低下させる、増加させない)ことを包含する。また、「改善」とは、症状又は状態の好転又は緩和、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、症状又は状態の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0059】
細胞外水分比は、細胞外水分量を体水分量(細胞外水分量+細胞内水分量)で除してなる値であり、公知の方法に従って測定することができる。例えば、生体電気インピーダンス分析法により測定することができる。
【0060】
浮腫は、特に制限されず、種々の浮腫を包含する。浮腫としては、例えば細胞膜の機能低下に起因する浮腫、血流障害又は新陳代謝の低下に起因する浮腫、加齢に伴う浮腫、腎性浮腫(例えば急性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群等を原因とする)、心性浮腫(例えばうっ血性心不全等を原因とする)、肝性浮腫(例えば肝硬変等を原因とする)、内分泌性浮腫(例えば甲状腺機能低下症・亢進症等を原因とする)、栄養障害性浮腫(例えば蛋白漏出性胃腸症等を原因とする)、薬剤性浮腫(例えばグリチルリチン、経口避妊薬等を原因とする)、突発性浮腫、静脈性浮腫(例えば上・下大静脈症候群、静脈瘤、四肢静脈血栓症、静脈弁不全等を原因とする)、リンパ性浮腫(例えば先天性家族性リンパ浮腫、癌転移、フィラリア症等を原因とする)、炎症性浮腫(例えば血管炎、アレルギー、炎症等を原因とする)、血管神経性浮腫(例えば遺伝性血管神経性浮腫、クインケ浮腫等)等が挙げられる。
【0061】
本発明の一態様において、浮腫は、上半身(例えば体幹、腕等)における浮腫を含む。
【0062】
本発明の有効成分は、各種用途の内の複数(例えば2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上)の用途を含む包括的な用途に利用することができる。
【0063】
本発明の一態様において、本発明の剤の適用対象は、加齢性の浮腫が生じる可能性が高いより高年齢の人、例えば40歳以上、好ましくは50歳以上、より好ましくは60歳以上、さらに好ましくは65歳以上の人に適用することができる。また、別の分類の観点から、本発明の剤は、例えば中年の人、好ましくは高齢者に適用することができる。 さらには、本発明の有効成分は、以下に列挙する用途、目的、対象に用いることができる:
(a)筋肉の質を上げたい方に
(b)身体がむくんでいると感じる方に
(c)ちょっと太ったかなと思う方に
(d)顔がぱんぱんになる方に
(e)きゅっとスッキリ健康的なラインをめざす方に
(f) 塩分の取りすぎが気になる方に
(g)血流が滞っていると感じる方に
(h)ダイエット中の方に
(i)水太りを避けたい方に
(j)アルコールを飲みすぎた翌朝の顔が気になる方に。
【0064】
本発明の剤は、各種分野において、例えば食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)を包含する)、食品添加剤、化粧品、化粧品添加剤、医薬、試薬、飼料などとして用いることができる。本発明の剤は、好ましくは経口組成物である。
【0065】
本発明の剤の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0066】
本発明の剤の形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳などの飲料、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、乳製品(例えば、粉末状、液状、ゲル状、固形状等)、パン、菓子(例えば、クッキー等)などが挙げられる。
【0067】
本発明の剤の形態としては、用途が化粧品である場合は、例えば乳液、化粧液、フェイスクリーム、ハンドクリーム、ローション、ボディソープ、シャンプー、リンス、化粧用ゲル、パック、ファンデーション、リップクリーム、洗顔剤等が挙げられる。
【0068】
本発明の剤の形態としては、用途が医薬である場合は、例えば軟膏剤、外用液剤(リニメント剤、ローション剤等)、スプレー剤(外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤等)、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤(プラスター剤、硬膏剤等のテープ剤(リザーバー型、マトリックス型等)、パップ剤、パッチ剤、マイクロニードル等)、点眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、坐剤、直腸用半固形剤、注腸剤等の非経口摂取に適した製剤形態(特に、外用製剤形態); 錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口摂取に適した製剤形態(経口製剤形態)が挙げられる。
【0069】
本発明の剤の形態としては、用途が添加剤、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。
【0070】
本発明の剤は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)を包含する)、食品添加剤、化粧品、化粧品添加剤、医薬、試薬、飼料などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、着色料、香料、キレート剤などが挙げられる。
【0071】
本発明の剤における有効成分の含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100質量%、好ましくは0.001~50質量%とすることができる。
【0072】
本発明の剤の適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、細胞外水分比抑制作用を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の乾燥重量として、一般に1日あたり0.1~10000 mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)に分けて適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0073】
本発明の好ましい一態様において、ユーグレナ適用量(乾燥重量)は、1日あたり、好ましくは100~1000mg、より好ましくは250~750mg、さらに好ましくは400~600mgである。適用は1日1回とすることが好ましく、また毎日適用することが好ましい。適用期間は、好ましくは3日間以上、より好ましくは1週間以上、さらに好ましくは2週間以上、よりさらに好ましくは4週間以上、とりわけ好ましくは6週間以上、特に好ましくは8週間以上である。本発明の有効成分は天然由来であり安全性が高いので適用期間の上限は特に制限されないが、例えば3年間、1年間、6ヶ月間、3ヶ月間、又は2ヶ月間である。
【実施例0074】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0075】
製造例1
ユーグレナ・グラシリスEOD-1株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)の乾燥粉末(神鋼環境ソリューション製、パラミロン含有率70%以上)を下記配合でカプセル錠としたものを被験食とし、対照食としてコーンスターチを配合したカプセル錠を製造した。
【0076】
【表1】
【0077】
試験例1
試験概要は以下のとおりである。
・試験食摂取期間 : 8週間
・試験食の摂取量 : 2カプセル/day
・被験者 : 30名(男性15名, 女性15名;68.9±3.1歳)(試験食15名、対照食15名) ※内1名(対照食)は試験途中で脱落のため、結果には反映させなかった。
【0078】
試験食は被験食と対照食(プラセボ)の2種類(製造例1)とし、被験食はユーグレナグラシリスEOD-1株含有食品、対照食(プラセボ)はユーグレナグラシリスEOD-1株非含有食品とした。
【0079】
試験食を1日1回夕食時に2カプセル(被験食においては、ユーグレナグラシリスEOD-1株500mg(ユーグレナグラシリスEOD-1株由来パラミロン350mg)含有)摂取させ、これを8週間継続させた。なお、夕食時に摂取できなかった場合はその日の就寝までに摂取させた。
【0080】
試験開始日(摂取開始前)、試験開始から4週間経過時、及び試験開始から8週間経過時(試験終了時)に、体成分分析装置(InBody、インボディ・ジャパン社製、BIA法(Bio-electrical Impedance Analysis法)による分析装置)を用いて、体幹及び右腕の細胞外水分比測定した。細胞外水分比は、測定された細胞外水分量(ECW: ExtraCellular Water)を、測定された体水分量(TBW: Total Body Water)(=細胞外水分量+細胞内水分量(ICW: IntraCelular Water))で除してなる値である。
【0081】
得られた結果について、IBM SPSS Statistics 25を使用して統計解析した。検定は、Mann-WhitneyのU検定で実施した。p値が0.1未満であれば、有意であることを示す。
【0082】
結果を図1及び2に示す。体幹について、今回の試験では有意差は得られなかったものの、被験食群では、対照食群に比べて、細胞外水分比が低下する傾向であった。また右腕について、被験食群では、対照食群に比べて、細胞外水分比が有意に低下していた。これらの結果から、ユーグレナの摂取により、細胞外水分比を抑制できることが分かった。
図1
図2