(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042722
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】ガラス繊維の巻取装置及びガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/12 20060101AFI20220308BHJP
B65H 51/015 20060101ALI20220308BHJP
B65H 54/28 20060101ALI20220308BHJP
B65H 54/34 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C03B37/12 Z
B65H51/015
B65H54/28 Z
B65H54/34 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148280
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石野 光洋
【テーマコード(参考)】
3F056
【Fターム(参考)】
3F056AA06
3F056AB01
(57)【要約】
【課題】トラバースガイド及びトラバースガイドを往復移動させる駆動部をコレットから離れるように移動させた場合におけるトラバースガイドからのガラスストランドの糸外れを抑制する。
【解決手段】トラバース装置13は、ガラスストランドSの綾振りを行う基準位置P3と、退避位置との間で移動可能に構成されている。側面視において、ガラスストランドSにより分割される二つの領域のうちのコレット14が位置する領域を第1領域R1とし、コレット14が位置しない領域を第2領域R2としたとき、トラバースガイド20の溝部20cの底部20dは、第1領域R1に配置されている。退避位置は、第1領域R1側から第2領域R2側に向かう方向へ基準位置P3から移動した位置、又はガラスストランドSに沿ってギャザリングシューに向かう方向へ基準位置P3から移動した位置である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を集束してガラスストランドを形成するギャザリングシューと、
前記ガラスストランドを通過させる溝部を有するトラバースガイド及び前記トラバースガイドを往復移動させる駆動部を備えるトラバース装置と、
前記トラバースガイドを通過した前記ガラスストランドを巻き取るコレットと、を備えたガラス繊維の巻取装置であって、
前記トラバース装置は、前記コレットの軸方向から見た側面視において、前記ガラスストランドの綾振りを行う基準位置と、前記ガラスストランドの綾振りを行わない退避位置との間で移動可能に構成され、
前記側面視において、前記ガラスストランドにより分割される二つの領域のうちの前記コレットが位置する領域を第1領域とし、前記コレットが位置しない領域を第2領域としたとき、前記トラバースガイドの溝部の底部は、前記第1領域に配置されており、前記退避位置は、前記第1領域側から前記第2領域側に向かう方向へ前記基準位置から移動した位置、又は前記ガラスストランドに沿って前記ギャザリングシューに向かう方向へ前記基準位置から移動した位置であるガラス繊維の巻取装置。
【請求項2】
前記トラバースガイドには、複数の前記溝部が設けられ、
前記コレットは、前記トラバースガイドを通過した複数の前記ガラスストランドを巻き取る請求項1に記載のガラス繊維の巻取装置。
【請求項3】
前記側面視における前記トラバース装置の前記基準位置から前記退避位置への移動方向は、前記基準位置に位置する前記トラバース装置の前記トラバースガイドと前記ギャザリングシューとの間に位置する前記ガラスストランドに直交する仮想線に対して交差する方向である請求項1又は請求項2に記載のガラス繊維の巻取装置。
【請求項4】
前記トラバース装置と前記コレットとの間には、前記コレットが位置する範囲外に前記ガラスストランドが供給されるように前記ガラスストランドを移動させるオフワイディングロッドが設けられている請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス繊維の巻取装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のガラス繊維の巻取装置を用いたガラス物品の製造方法であって、
前記巻取装置は、複数の前記コレットが支持された回転体を回転させることにより、所定の巻取位置に位置する前記コレットを入れ替え可能に構成され、
前記トラバース装置の前記退避位置は、前記回転体の回転動作中に干渉しない位置に設定され、
前記回転体を回転させて、前記ガラスストランドが巻き取られた巻き取り済みの前記コレットを巻き取り前の前記コレットに交換し、該巻き取り前の前記コレットに前記ガラスストランドを巻き取る交換工程を有し、
前記交換工程の前に、前記基準位置から前記退避位置に前記トラバース装置を移動させるとともに、前記交換工程の後に、前記退避位置から前記基準位置に前記トラバース装置を移動させることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維の巻取装置及びガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維の製造には、ブッシングから紡糸されたガラス繊維を巻き取る巻取装置が用いられる。特許文献1に開示されるガラス繊維の巻取装置は、ブッシングから紡糸されたガラス繊維を集束してガラスストランドを形成するギャザリングシューと、そのガラスストランドを往復移動させるトラバースガイドと、トラバースガイドを通過したガラスストランドを巻き取るコレットとを備えている。トラバースガイドの往復移動によってガラスストランドがコレットに綾掛けされながら巻き取られることで、ケーキが得られる。
【0003】
また、特許文献1のガラス繊維の巻取装置は、コレットが装着される二つの装着部を有する回転体を備えている。巻取位置にある装着部に装着されたコレットが満巻になった場合に、回転体が回転することにより、満巻になったコレットが巻取位置から退避するとともに、別の装着部に装着された空のコレットが巻取位置に移動する。これにより、ガラス繊維を連続的に巻き取ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のガラス繊維の巻取装置では、コレットの軸方向から見た側面視において、ガラスストランドを挟んだコレットの反対側かつコレットに近い位置にトラバースガイドが配置されている。そのため、回転体を回転させる際に、トラバースガイド及びトラバースガイドを往復移動させる駆動部に回転体が接触するおそれがある。
【0006】
回転体の接触を回避する方法として、回転体を回転させる際に、一時的にトラバースガイド及び駆動部をコレットから離れるように移動させることが考えられる。しかしながら、この場合には、トラバースガイドは、ガラスストランドからも離れることになるため、トラバースガイドの溝部からガラスストランドが抜け出す(以下、糸外れと記載する。)という問題が新たに生じる。
【0007】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、トラバースガイド及びトラバースガイドを往復移動させる駆動部をコレットから離れるように移動させた場合におけるトラバースガイドからのガラスストランドの糸外れを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するガラス繊維の巻取装置は、ガラス繊維を集束してガラスストランドを形成するギャザリングシューと、前記ガラスストランドを通過させる溝部を有するトラバースガイド及び前記トラバースガイドを往復移動させる駆動部を備えるトラバース装置と、前記トラバースガイドを通過した前記ガラスストランドを巻き取るコレットと、を備えたガラス繊維の巻取装置であって、前記トラバース装置は、前記コレットの軸方向から見た側面視において、前記ガラスストランドの綾振りを行う基準位置と、前記ガラスストランドの綾振りを行わない退避位置との間で移動可能に構成され、前記側面視において、前記ガラスストランドにより分割される二つの領域のうちの前記コレットが位置する領域を第1領域とし、前記コレットが位置しない領域を第2領域としたとき、前記トラバースガイドの溝部の底部は、前記第1領域に配置されており、前記退避位置は、前記第1領域側から前記第2領域側に向かう方向へ前記基準位置から移動した位置、又は前記ガラスストランドに沿って前記ギャザリングシューに向かう方向へ前記基準位置から移動した位置である。
【0009】
トラバースガイドの溝部の底部を第1領域に配置したことにより、基準位置から退避位置へトラバース装置を移動させた場合、トラバースガイドがガラスストランドから離れることなしに、ガラスストランドに押し付けられながら移動する、又はガラスストランドとの距離を維持したまま移動する。そのため、退避位置へのトラバース装置の移動に伴ってガラスストランドとトラバースガイドとの距離が大きく離れることはない。したがって、トラバース装置をコレットから離れるように移動させた場合におけるトラバースガイドからのガラスストランドの糸外れを抑制できる。
【0010】
上記ガラス繊維の巻取装置において、前記トラバースガイドには、複数の前記溝部が設けられ、前記コレットは、前記トラバースガイドを通過した複数の前記ガラスストランドを巻き取ることが好ましい。
【0011】
トラバースガイドに複数のガラスストランドを通過させてガラスストランドを巻き取る構成の場合に、トラバースガイドからのガラスストランドの糸外れが生じると、ガラスストランド同士が接着することがある。そのため、ガラスストランドの糸外れの対処として、トラバースガイドの溝部にガラスストランドを戻す作業に加えて、ガラスストランド同士の接着を解消させる作業も行う必要があり、単数のガラスストランドを巻き取る場合よりも手間がかかる。したがって、トラバースガイドの複数のガラスストランドを通過させながらガラスストランドを巻き取る構成の場合には、ガラスストランドの糸外れを抑制することによるメリットが特に大きい。
【0012】
上記ガラス繊維の巻取装置において、前記側面視における前記トラバース装置の前記基準位置から前記退避位置への移動方向は、前記基準位置に位置する前記トラバース装置の前記トラバースガイドと前記ギャザリングシューとの間に位置する前記ガラスストランドに直交する仮想線に対して交差する方向であることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、トラバース装置を基準位置から退避位置へ移動させた際に、ガラスストランドの張力が過度に上昇することを抑制できる。
上記ガラス繊維の巻取装置において、前記トラバース装置と前記コレットとの間には、前記コレットが位置する範囲外に前記ガラスストランドが供給されるように前記ガラスストランドを移動させるオフワイディングロッドが設けられていることが好ましい。上記構成によれば、トラバース装置を第1領域に配置した構成において、ガラスストランドを移動させることが容易である。
【0014】
上記課題を解決するガラス物品の製造方法は、上記ガラス繊維の巻取装置を用いたガラス物品の製造方法であって、前記巻取装置は、複数の前記コレットが支持された回転体を回転させることにより、所定の巻取位置に位置する前記コレットを入れ替え可能に構成され、前記トラバース装置の前記退避位置は、前記回転体の回転動作中に干渉しない位置に設定され、前記回転体を回転させて、前記ガラスストランドが巻き取られた巻き取り済みの前記コレットを巻き取り前の前記コレットに交換し、該巻き取り前の前記コレットに前記ガラスストランドを巻き取る交換工程を有し、前記交換工程の前に、前記基準位置から前記退避位置に前記トラバース装置を移動させるとともに、前記交換工程の後に、前記退避位置から前記基準位置に前記トラバース装置を移動させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トラバースガイド及びトラバースガイドを往復移動させる駆動部をコレットから離れるように移動させた場合におけるトラバースガイドからのガラスストランドの糸外れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、ガラス繊維の巻取装置の一実施形態について説明する。
図1及び
図2に示すように、ガラス繊維の巻取装置10は、ブッシング11から供給されたガラス繊維Fを集束してガラスストランドSを形成するギャザリングシュー12と、ガラスストランドSを往復移動させるトラバース装置13と、ガラスストランドSを巻き取るコレット14とを備えている。
【0018】
ブッシング11は、複数のブッシングノズルを有し、ブッシング11に供給された溶融ガラスをブッシングノズルから引き出すことによりガラス繊維Fを成形する。ブッシング11とギャザリングシュー12との間には、アプリケータ15が配置されており、ガラス繊維Fはアプリケータ15に接触することで集束剤が塗布される。アプリケータ15は、駆動ローラーにより、集束剤をガラス繊維Fに塗布する装置である。
【0019】
ギャザリングシュー12では、集束剤が塗布された複数のガラス繊維Fが集束され、ガラスストランドSが形成される。本実施形態のギャザリングシュー12は、4本のガラスストランドSを形成する。
【0020】
トラバース装置13は、ギャザリングシュー12からコレット14へ引き取られるガラスストランドSが通過するトラバースガイド20と、トラバースガイド20を往復移動させる駆動部21とを備えている。トラバース装置13は、トラバースガイド20にガラスストランドSを通過させた状態で、駆動部21によりトラバースガイド20を往復移動させることによって、コレット14へ引き取られるガラスストランドSの綾振りを行う。
図1においては、駆動部21の図示を省略している。
【0021】
図3に示すように、トラバースガイド20は、基端縁20a及び先端縁20bを対向する二辺とする平面視長方形状の板状部材である。トラバースガイド20には、4個の溝部20cが設けられている。各溝部20cは、基端縁20aに開口するとともに基端縁20aから先端縁20b側に延びる直線状に形成されており、それぞれ底部20dを有している。4個の溝部20cは、所定の間隔をあけて互いに平行に位置するように配置されている。
【0022】
図1に示すように、駆動部21は、コレット14の軸方向にトラバースガイド20を往復移動させる。駆動部21としては、例えば、モータの回転力を往復直線運動に変換するカム機構などの公知のものが用いられる。
【0023】
図1及び
図2に示すように、巻取装置10は、満巻になったコレット14を空のコレット14に交換するための回転機構16を備え、コレット14は、回転機構16に設けられる装着部に装着される。回転機構16は、円板状の回転体30と、回転体30の一方の表面30aから突出する円柱状の二つの装着部31と、二つの装着部31の間を仕切る仕切板32とを備えている。
【0024】
二つの装着部31は、互いに平行となるように設けられるとともに、表面30aにおいて、回転体30の回転軸を中心として点対称となる位置に配置されている。装着部31の基端側部分には、コレット14が装着されるとともに、装着部31の先端側部分には、コレット14に隣接するように補助コレット17が装着されている。仕切板32は、回転体30の表面30aに設けられている。
【0025】
ギャザリングシュー12からコレット14へ引き取られるガラスストランドSは、回転機構16に設けられる二つの装着部31のうち、巻取位置に位置する一方の装着部31に装着されているコレット14に引き取られる。上記巻取位置は、適宜、設定できる。本実施形態においては、
図2における右側の装着部31の位置が巻取位置になっている。
【0026】
回転機構16は、巻取位置に位置する装着部31に装着されたコレット14が満巻状態、すなわち、巻き取り完了となった場合に、回転体30を180度回転させる。これにより、巻取位置にある満巻状態のコレット14と、巻取位置にない装着部31に装着された空のコレット14とが入れ替わる。
【0027】
トラバース装置13と巻取位置のコレット14との間には、コレット14によるガラスストランドSの巻き取りを一時的に止めるためのオフワイディングロッド18が設けられている。オフワイディングロッド18は、コレット14によりガラスストランドSを巻き取る状態と、補助コレット17によりガラスストランドSを巻き取る状態とを切り換えることにより、コレット14によるガラスストランドSの巻き取りを一時的に停止する。
【0028】
図4に示すように、オフワイディングロッド18は、ガラスストランドSに干渉しない待機位置P1と、トラバース装置13を通過したガラスストランドSを押し込む作動位置P2との間で移動可能に構成されている。オフワイディングロッド18が待機位置P1にあるときは、トラバース装置13を通過したガラスストランドSは、コレット14が位置する範囲内に供給されてコレット14に巻き取られる(
図1参照)。
【0029】
オフワイディングロッド18が作動位置P2にあるときには、トラバース装置13を通過したガラスストランドSは、オフワイディングロッド18により、コレット14の軸方向において、コレット14が位置する範囲外かつ補助コレット17が位置する範囲まで押し出されて補助コレット17に巻き取られる。
【0030】
図5及び
図6に示すように、巻取装置10は、トラバース装置13を基準位置P3と退避位置P4との間で移動させる移動装置19を備えている。基準位置P3は、コレット14に引き取られるガラスストランドSの綾振りを行う位置である。コレット14による巻き取りを行うタイミングにおいては、トラバース装置13は基準位置P3に位置している。
【0031】
図5に示すように、巻取位置にあるコレット14の軸方向から見た側面視(以下、単に側面視と記載する。)において、ギャザリングシュー12からコレット14に引き取られるガラスストランドSにより分割された二つの領域のうち、巻取位置にあるコレット14が位置する領域を第1領域R1とし、巻取位置にあるコレット14が位置しない領域を第2領域R2とする。
【0032】
基準位置P3において、トラバース装置13は、トラバースガイド20の溝部20cの底部20dがガラスストランドSにより分割された第1領域R1に位置するように配置されている。トラバースガイド20は、先端縁20bを第2領域R2側に向けた状態、すなわち、溝部20cの開口が第2領域R2側を向くように配置されている。
【0033】
退避位置P4は、回転機構16の回転動作に干渉しない位置、すなわち、回転動作中の回転機構16の各部位及びコレット14に接触しないように、基準位置P3よりも第2領域R2側の位置に設定される。回転機構16を動作させるタイミングにおいては、トラバース装置13は退避位置P4に位置し、ガラスストランドSの綾振りを行わない。
【0034】
具体的には、基準位置P3から退避位置P4へと向かうトラバース装置13の移動方向Aは、トラバースガイド20の溝部20cにガラスストランドSが収容された状態を維持できる方向であり、第1領域R1側から第2領域R2側に向かう方向、又はガラスストランドSに沿ってギャザリングシュー12に向かう方向である。
【0035】
特に、トラバース装置13の移動方向Aは、側面視において、基準位置P3に位置するトラバース装置13のトラバースガイド20とギャザリングシュー12との間に位置するガラスストランドSに直交する仮想線Lに対して交差する方向であることが好ましい。この場合には、トラバース装置13を基準位置P3から退避位置P4への移動させた際におけるガラスストランドSの張力の上昇を抑制することができる。トラバース装置13の移動方向Aと仮想線Lとの交差角度θは、例えば、3度以上90度以下である。
【0036】
退避位置P4においても、トラバースガイド20の溝部20cの底部20dは、第1領域R1に位置している。第1領域R1側から第2領域R2側に向かう方向へ基準位置P3にあるトラバース装置13を移動させたとしても、トラバースガイド20の溝部20cの底部20dによってガラスストランドSが第2領域R2側へと押されて、第1領域R1が第2領域R2側に広がる。そのため、トラバースガイド20の溝部20cの底部20dがガラスストランドSを越えて第2領域R2側に位置することはなく、溝部20cの底部20dは、第1領域R1に位置する。
【0037】
次に、巻取装置10を用いたガラス物品の製造方法について説明する。
まず、ブッシング11に供給された溶融ガラスをブッシングノズルから引き出すことによりガラス繊維Fが成形される。成形されたガラス繊維Fは、アプリケータ15により集束剤が塗布された後、ギャザリングシュー12へと供給される。ギャザリングシュー12にて、複数のガラス繊維Fが集束されることにより4本のガラスストランドSが形成される。
【0038】
4本のガラスストランドSは、トラバースガイド20の溝部20cに1本ずつ収容された状態とされ、トラバースガイド20の往復移動によってコレット14に綾掛けされながら巻き取られる。これにより、4本のガラスストランドSが巻き取られてなるガラス物品としての多分糸ケーキCが得られる。
【0039】
また、ガラス物品の製造方法は、満巻になった巻き取り済みのコレット14を巻き取り前の空のコレット14に交換し、巻き取り前のコレット14にガラスストランドSを巻き取る交換工程を有している。交換工程は、トラバース装置13を基準位置P3から退避位置P4へ移動させた後に行われる。
【0040】
交換工程では、まず、オフワイディングロッド18を待機位置P1から作動位置P2に移動させて、コレット14によりガラスストランドSを巻き取る状態から、補助コレット17によりガラスストランドSを巻き取る状態に切り換える。その際、コレット14の回転速度を下げる。
【0041】
次いで、回転体30を180度回転させて、巻取位置にある満巻状態のコレット14と、巻取位置にない装着部31に装着された空のコレット14との位置を入れ替える。これにより、新たに巻取位置に移動した空のコレット14に隣接する補助コレット17に巻き取られる状態になる。
【0042】
その後、巻取位置に移動した空のコレット14の回転速度を、巻き取りに適した特定速度まで上昇させる操作が行われる。そして、コレット14の回転速度が特定速度に達した後、オフワイディングロッド18を作動位置P2から待機位置P1に移動させて、補助コレット17によりガラスストランドSを巻き取る状態から、コレット14によりガラスストランドSを巻き取る状態に切り換えることにより、交換工程が完了する。交換工程の完了後、トラバース装置13を退避位置P4から基準位置P3に復帰させる。これにより、ガラスストランドSは、新たに巻取位置に移動した空のコレット14に綾掛けされながら巻き取られる。
【0043】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態の巻取装置10では、ガラスストランドSの綾振りを行うためのトラバースガイド20の溝部20cの底部20dを、側面視において、ギャザリングシュー12からコレット14に引き取られるガラスストランドSよりもコレット14側の第1領域R1に配置している。そして、トラバース装置13を基準位置P3から退避位置P4に移動させることにより、トラバース装置13をコレット14から離している。退避位置P4は、第1領域R1側から第2領域R2側に向かう方向へ基準位置P3から移動した位置、又はガラスストランドSに沿ってギャザリングシュー12に向かう方向へ基準位置P3から移動した位置である。
【0044】
トラバースガイド20の溝部20cの底部20dを第1領域R1に配置したことにより、基準位置P3から退避位置P4へトラバース装置13を移動させた場合、ガラスストランドSがトラバースガイド20から離れることなしに、ガラスストランドSに押し付けられながら移動する、又はガラスストランドSとの距離を維持したまま移動する。そのため、退避位置P4へのトラバース装置13の移動に伴ってガラスストランドSとトラバースガイド20との距離が大きく離れることはない。したがって、トラバース装置13をコレット14から離れるように移動させた場合におけるトラバースガイド20からのガラスストランドSの糸外れを抑制できる。
【0045】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)巻取装置10は、ガラス繊維Fを集束してガラスストランドSを形成するギャザリングシュー12と、ガラスストランドSを通過させる溝部20cを有するトラバースガイド20及びトラバースガイド20を往復移動させる駆動部21を備えるトラバース装置13と、トラバースガイド20を通過したガラスストランドSを巻き取るコレット14とを備えている。
【0046】
トラバース装置13は、ガラスストランドSの綾振りを行う基準位置P3と、ガラスストランドSの綾振りを行わない退避位置P4との間で移動可能に構成されている。側面視において、ガラスストランドSにより分割される二つの領域のうちのコレット14が位置する領域を第1領域R1とし、コレット14が位置しない領域を第2領域R2としたとき、トラバースガイド20の溝部20cの底部20dは、第1領域R1に配置されている。退避位置P4は、第1領域R1側から第2領域R2側に向かう方向へ基準位置P3から移動した位置、又はガラスストランドSに沿ってギャザリングシュー12に向かう方向へ基準位置P3から移動した位置である。
【0047】
上記構成によれば、トラバース装置13をコレット14から離れるように移動させた場合におけるトラバースガイド20からのガラスストランドSの糸外れを抑制できる。
(2)トラバースガイド20には、複数の溝部20cが設けられている。コレット14は、トラバースガイド20を通過した複数のガラスストランドSを巻き取るように構成されている。
【0048】
トラバースガイド20に複数のガラスストランドSを通過させながらガラスストランドSを巻き取る構成の場合に、トラバースガイド20からのガラスストランドSの糸外れが生じると、ガラスストランドS同士が接着することがある。そのため、ガラスストランドSの糸外れの対処として、トラバースガイド20の溝部20cにガラスストランドSを戻す作業に加えて、ガラスストランドSの接着を解消させる作業も行う必要があり、単数のガラスストランドSを巻き取る場合よりも手間がかかる。したがって、トラバースガイド20の複数のガラスストランドSを捕捉させながらガラスストランドSを巻き取る構成の場合には、ガラスストランドSの糸外れを抑制することによるメリットが特に大きい。
【0049】
(3)側面視におけるトラバース装置13の基準位置P3から退避位置P4への移動方向Aは、基準位置P3に位置するトラバース装置13のトラバースガイド20とギャザリングシュー12との間に位置するガラスストランドSに直交する仮想線Lに対して交差する方向である。
【0050】
上記構成によれば、トラバース装置13を基準位置P3から退避位置P4へ移動させた際に、ガラスストランドSの張力が過度に上昇することを抑制できる。特に、移動方向Aと仮想線Lとの交差角度θを3度以上90度以下とした場合には、ガラスストランドSの張力の上昇をより効果的に抑制できる。
【0051】
(4)トラバース装置13とコレット14との間には、コレット14が位置する範囲外にガラスストランドSが供給されるようにガラスストランドSを移動させるオフワイディングロッド18が設けられている。上記構成によれば、トラバース装置13を第1領域R1に配置した構成において、ガラスストランドSを移動させることが容易である。
【0052】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・トラバースガイド20に設けられる溝部20cの形状及び数は、上記実施形態に限定されない。例えば、平面視L字状の溝部20cとしてもよいし、基端縁20aと先端縁20bとを接続する側縁20e(
図3参照)に開口する溝部20cであってもよい。これらの場合、溝部20cの縁部における、ガラスストランドSが第1領域R1側へ移動しようとした際にガラスストランドSに当接して、それ以上の移動を制限する部分が溝部20cの底部20dに該当する部分になる。また、トラバースガイド20の外形も適宜、変更できる。
【0053】
・巻取装置10は、1本のガラスストランドSが巻き取られたケーキの製造に適用することもできる。この場合、トラバースガイド20に設けられる溝部20cの数は1であってもよい。
【0054】
・トラバース装置13を基準位置P3から退避位置P4への移動させるタイミングは、回転機構16によりコレット14を入れ替える場合に限定されるものでなく、必要に応じて適宜のタイミングで移動させることができる。
【符号の説明】
【0055】
F…ガラス繊維
P3…基準位置
P4…退避位置
R1…第1領域
R2…第2領域
S…ガラスストランド
10…巻取装置
12…ギャザリングシュー
13…トラバース装置
14…コレット
20…トラバースガイド
20c…溝部
20d…底部
21…駆動部