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特開2022-42724被処理液の再生方法および被処理液の再生剤
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  • 特開-被処理液の再生方法および被処理液の再生剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042724
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】被処理液の再生方法および被処理液の再生剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
C12N5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148284
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敏明
(72)【発明者】
【氏名】亀田 知人
(72)【発明者】
【氏名】北川 文彦
(72)【発明者】
【氏名】神保 陽一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昌幸
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB15
4B065BB31
4B065BD50
4B065CA24
(57)【要約】
【課題】新規な乳酸およびアンモニアの除去技術を提供する。
【解決手段】被処理液の再生方法は、Mg2+およびAl3+を構成金属として含むMg-Al系層状複水酸化物を含む乳酸吸着剤4と、L型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤5と、を乳酸およびアンモニアを含有する被処理液に接触させて、被処理液中の乳酸およびアンモニアを除去することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg2+およびAl3+を構成金属として含むMg-Al系層状複水酸化物を含む乳酸吸着剤と、L型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤と、を乳酸およびアンモニアを含有する被処理液に接触させて、前記被処理液中の乳酸およびアンモニアを除去することを含む被処理液の再生方法。
【請求項2】
前記被処理液は、グルコースを含有する請求項1に記載の被処理液の再生方法。
【請求項3】
前記被処理液は、細胞および微生物の少なくとも一方の培養液である請求項1または2に記載の被処理液の再生方法。
【請求項4】
前記乳酸吸着剤および前記アンモニア吸着剤それぞれの使用量は、前記被処理液に対する濃度が0.025g/mL以上0.1g/mL以下となる量である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の被処理液の再生方法。
【請求項5】
Mg2+およびAl3+を構成金属として含むMg-Al系層状複水酸化物を含む乳酸吸着剤と、
L型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤と、を備え、
乳酸およびアンモニアを含有する被処理液に接触して、前記被処理液中の乳酸およびアンモニアを除去する被処理液の再生剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理液の再生方法および被処理液の再生剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品製造や再生医療などの分野において、細胞や微生物を人工的に効率よく大量培養することが求められている。大量培養が求められる細胞としては、抗体産生細胞や多能性幹細胞等が挙げられる。これらの細胞等を長期間安定的に大量培養できれば、モノクローナル抗体等の生体物質や多能性幹細胞由来の分化誘導組織を効率よく生産することができる。
【0003】
細胞等を工業的に大量培養する方法としては、培養槽を用いた浮遊攪拌培養が考えられる。一方、細胞の工業利用では培養スケールが大きくなるため、培養コストが増加する傾向がある。したがって、コストの削減を図るために、細胞等の培養密度を高めることが有効である。しかしながら、培養密度を高めていくと、細胞等の増殖が抑えられることが知られている。これは、細胞等の高密度化によって培養液(液体培地)中の老廃物(代謝物)の濃度が上昇し、これにより細胞等の増殖活性が低下するためである。細胞等に影響を与える老廃物の代表的なものとしては、乳酸およびアンモニアが知られている。
【0004】
したがって、細胞等を高密度状態で安定的に増殖させるためには、培養液中に蓄積する乳酸およびアンモニアを除去することが望ましい。これに対し、例えば特許文献1には、濃度差に依存して成分を透過させる培養液成分調整膜を設けた送液ラインによって、細胞培養槽と成分調整液槽とを接続した細胞培養装置が開示されている。この細胞培養装置では、培養液中に蓄積した老廃物を成分調整液側に移動させることで、培養液中の老廃物の濃度を低下させていた。なお、成分調整液には、培養液そのものが用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/122528号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される細胞培養装置は、透析の原理を利用して培養液から老廃物を除去していた。したがって、十分な老廃物の除去を実現するために、成分調整液槽の容積を細胞培養槽の容積の10倍以上に設定していた。このため、必要な液量が莫大でコストがかかるという課題があった。特に、成分調整液に培養液そのものを用いる場合には、高価な培地を大量に消費することになり、より一層のコストがかかってしまう。また、透析技術を利用して老廃物を除去する場合、培養装置の構造が複雑になるという課題もあった。
【0007】
また、乳酸およびアンモニアは、細胞等の培養液に限らず、他の溶液系においても除去が望まれることが多い。このため、透析技術以外の手法を用いた新規な乳酸およびアンモニアの除去技術が強く望まれる。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、新規な乳酸およびアンモニアの除去技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は被処理液の再生方法である。この方法は、Mg2+およびAl3+を構成金属として含むMg-Al系層状複水酸化物を含む乳酸吸着剤と、L型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤と、を乳酸およびアンモニアを含有する被処理液に接触させて、被処理液中の乳酸およびアンモニアを除去することを含む。この態様によれば、新規な乳酸およびアンモニアの除去技術を提供することができる。
【0010】
上記態様において、被処理液は、グルコースを含有してもよい。また、上記いずれかの態様において、被処理液は、細胞および微生物の少なくとも一方の培養液であってもよい。また、上記いずれかの態様において、乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤それぞれの使用量は、被処理液に対する濃度が0.025g/mL以上0.1g/mL以下となる量であってもよい。
【0011】
本発明の他の態様は被処理液の再生剤である。この再生剤は、Mg2+およびAl3+を構成金属として含むMg-Al系層状複水酸化物を含む乳酸吸着剤と、L型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤と、を備え、乳酸およびアンモニアを含有する被処理液に接触して、被処理液中の乳酸およびアンモニアを除去する。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規な乳酸およびアンモニアの除去技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(A)~図1(D)は、実施の形態に係る被処理液の再生方法を説明するための模式図である。
図2】乳酸およびアンモニアの水溶液における乳酸吸着率およびアンモニア吸着剤を示す図である。
図3】培養液における乳酸吸着率、アンモニア吸着剤、グルコース吸着率およびpHを示す図である。
図4図4(A)は、同時処理系における吸着剤の各組み合わせの吸着性能を示す図である。図4(B)は、乳酸吸着処理の後にアンモニア吸着処理を実施する2段階処理系における吸着剤の各組み合わせの吸着性能を示す図である。図4(C)は、アンモニア吸着処理の後に乳酸吸着処理を実施する2段階処理系における吸着剤の各組み合わせの吸着性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0016】
本発明者らは、乳酸およびアンモニアの除去技術について鋭意検討を重ね、乳酸およびアンモニアを高選択的に吸着することができる乳酸吸着剤とアンモニア吸着剤との組み合わせを見出した。具体的には、本実施の形態に係る被処理液の再生剤は、層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide:LDH)を含む乳酸吸着剤と、L型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤とを備える。
【0017】
乳酸吸着剤に含まれるLDHは、Mg2+およびAl3+を構成金属として含むMg-Al系LDHである。LDHは、複数のホスト層(金属水酸化物層)と、ホスト層の層間に保持される陰イオンおよび水分子とを有し、ホスト層が構成金属として2価金属イオンMg2+と3価金属イオンAl3+とを含む。より具体的には、LDHは、Mg(OH)におけるMg2+の一部がAl3+に置換されることにより正電荷を帯びた八面体層のホスト層と、ホスト層の正電荷を補償するアニオンおよび層間水からなるゲスト層とで構成される。乳酸(乳酸イオン)は、ゲスト層の陰イオンとイオン交換されることで、LDHに吸着される。ホスト層がMg2+およびAl3+を含むLDHは、以下の化学式で表される。
【0018】
[Mg2+ 1-XAl3+ (OH)][An- x/n・yHO]
上記式中、An-は、HEPES、クエン酸、ピルビン酸、CO 2-、SO 2-、Cl、OH、SiO 4-、SO 2-およびNO からなる群から選択されるn価の陰イオンである。xは0.22~0.33であり、nは1~3であり、yは1~12である。
【0019】
乳酸吸着剤にMg-Al系LDHを含有させることで、L型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤と組み合わせた際に、良好な乳酸吸着性能を発揮することができる。また、LDHがCuを含有する場合に比べて、細胞等に対するLDHの毒性を低減できる可能性を高められ得る。なお、LDHを構成する金属イオンや陰イオンの種類が異なる複数種のLDHを混合して用いてもよい。
【0020】
アンモニア吸着剤に含まれるL型ゼオライトは、酸化ケイ素からなる基本骨格を有し、基本骨格中の一部のケイ素がアルミニウムに置換されている。このため、結晶全体が負に帯電している。ゼオライトは、電気的中性を保つために、ゼオライト細孔中に陽イオンを保持する。陽イオンは、可逆的に交換可能である。アンモニア(アンモニウムイオン)は、保持イオンとイオン交換されることで、L型ゼオライトに吸着される。アンモニア吸着剤にL型ゼオライトを含有させることで、上述の乳酸吸着剤と組み合わせた際に、良好なアンモニア吸着性能を発揮することができる。
【0021】
L型ゼオライトとしては、500KOA(東ソー社製)、HS-500(富士フィルム和光純薬社製)等の合成ゼオライトを用いることができる。これらのL型ゼオライトが保持する陽イオンはKである。保持イオンはKが好ましいが、Na、Li、Rb、Ce、Ba、Ca、Mg、Sr、La、Al、Fe等のアルカリ金属、アルカリ土類金属またはランタノイドであってもよい。また、保持イオンはHであってもよい。また、保持イオンの異なる複数種のL型ゼオライトを混合して用いてもよい。
【0022】
上述の乳酸吸着剤は、乳酸に接触するだけで、乳酸を吸着することができる。また、上述のアンモニア吸着剤は、アンモニアに接触するだけで、アンモニアを吸着することができる。したがって、本実施の形態の再生剤は、溶液中の乳酸およびアンモニアを吸着除去する場合に好適に用いることができる。この場合、乳酸およびアンモニアを含有する被処理液に乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤を接触させることで、被処理液中の乳酸およびアンモニアを除去することができる。
【0023】
また、再生剤は、被処理液が有用成分としてグルコースを含有する場合に、溶液中に残すべきグルコースに比べて除去対象である乳酸およびアンモニアを高選択的に吸着することができる。グルコースを含有する被処理液としては、細胞および微生物の少なくとも一方の培養液が例示される。つまり、本実施の形態の再生剤は、培養液の再生処理に好適に用いることができる。なお、培養液の種類は特に限定されない。また、再生剤は、他の細胞老廃物を吸着する吸着剤と併用することもできる。
【0024】
好ましくは、被処理液の再生処理における乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤それぞれの使用量、つまり再生剤が備える各吸着剤の量は、被処理液に対する濃度が0.025g/mL以上0.1g/mL以下となる量である。乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤の使用量(濃度)を0.025g/mL以上に調整することで、乳酸およびアンモニアをより効果的に吸着することができる。また、乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤の使用量(濃度)を0.1g/mL以下に調整することで、グルコース吸着率をより効果的に抑制することができる。また、溶液のpH変動をより効果的に抑制することができる。これにより、より効率よく細胞等を培養することができる。
【0025】
培養液を用いて培養される細胞および微生物は、特に限定されない。例えば細胞は、ヒトiPS細胞、ヒトES細胞、ヒトMuse細胞等の多能性幹細胞および分化誘導細胞;間葉系幹細胞(MSC細胞)、ネフロン前駆細胞等の体性幹細胞;ヒト近位尿細管上皮細胞、ヒト遠位尿細管上皮細胞、ヒト集合管上皮細胞等の組織細胞;ヒト胎児腎細胞(HEK293細胞)等の抗体産生細胞株;チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、昆虫細胞(SF9細胞)等のヒト以外の動物由来の抗体産生細胞株等が挙げられる。
【0026】
(被処理液の再生方法)
本実施の形態に係る被処理液の再生方法は、乳酸およびアンモニアを含有する被処理液に、上述の乳酸吸着剤とアンモニア吸着剤とを接触させて、被処理液中の乳酸およびアンモニアを吸着除去することを含む。各吸着剤を被処理液に接触させる方法は特に限定されないが、以下の態様が例示される。図1(A)~図1(D)は、実施の形態に係る被処理液の再生方法を説明するための模式図である。以下では、培養液からの乳酸およびアンモニアの除去を例に挙げて説明するが、他の被処理液からの乳酸およびアンモニアの除去についても同様に実施することができる。
【0027】
図1(A)に示すように、第1の態様では、カラム等の容器2に乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5が充填された吸着モジュール6が用意される。容器2は、容器2の内外を連通する入口2aと出口2bとを有する。乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5は、例えば粒子状であり、互いに混合されて吸着モジュール6に収容される。吸着モジュール6は、循環路8を介して、スピナーフラスコ等の培養容器10に接続される。循環路8は、培養容器10と容器2の入口2aとを接続する往路8aと、容器2の出口2bと培養容器10とを接続する復路8bとを含む。往路8aの途中には、ポンプ12が接続される。培養容器10中には、培養液14と、細胞16とが収容される。なお、ポンプ12は復路8bに配置されてもよい。
【0028】
ポンプ12が駆動すると、培養液14は培養容器10から吸引され、往路8aを介して吸着モジュール6の容器2内に送られる。容器2内に送り込まれた培養液14は、復路8bを介して培養容器10内に戻される。培養液14は、培養容器10と吸着モジュール6との間を循環する過程で、容器2に充填された乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5と接触する。このとき、培養液14中の乳酸は乳酸吸着剤4に吸着され、培養液14中のアンモニアはアンモニア吸着剤5に吸着される。この結果、培養液14中の乳酸およびアンモニアが除去される。
【0029】
往路8aにおける培養容器10に接続される側の端部には、図示しないフィルタが設けられる。これにより、細胞16が吸着モジュール6側に流れることが抑制される。なお、培養容器10と吸着モジュール6との間で培養液14を循環させる過程で、細胞16の培養に必要なグルコースやタンパク質等の培地成分が培養液14に補充されてもよい。
【0030】
つまり、第1の態様では、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5(すなわち再生剤)を有する吸着モジュール6と、細胞16(微生物であってもよい)および培養液14が収容される培養容器10と、培養容器10および吸着モジュール6をつなぎ培養液14を循環させる循環路8と、を備える再生装置を用いることで、培養液14中の乳酸およびアンモニアが除去される。
【0031】
図1(B)に示すように、第2の態様では、培養容器10の内壁面に乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5が支持されている。培養容器10中には、培養液14と、細胞16とが収容されている。したがって、培養液14は、培養容器10の内壁面において露出する乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5に接触する。これにより、培養液14中の乳酸およびアンモニアを乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5に吸着させることができる。培養容器10としては、スピナーフラスコ、シャーレ、ウェルプレート、セルカルチャーインサート、マイクロスフェア等が例示される。
【0032】
培養容器10の内壁面に乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5を支持させる方法としては、例えば、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5を培養容器10の内壁面に接着する方法や、培養容器10が樹脂製である場合には、予め乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5を混合した樹脂で培養容器10を成形する方法等が挙げられる。つまり、第2の態様では、培養容器10と、培養容器10の内壁面に支持される乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5(すなわち再生剤)と、を備える再生装置を用いることで、培養液14中の乳酸およびアンモニアが除去される。
【0033】
図1(C)に示すように、第3の態様では、培養容器10は、多孔質膜等の隔膜18によって容器内部が上段10aと下段10bとに区切られた構造を有する。このような培養容器10としては、セルカルチャーインサートが例示される。上段10aには培養液14および細胞16が収容され、下段10bには培養液14、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5が収容される。培養液14は、隔膜18を通過して上段10aと下段10bとの間を行き来することができる。一方、細胞16、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5は、隔膜18を通過することができない。
【0034】
このような構造において、培養液14は、下段10bに収容された乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5に接触する。これにより、培養液14中の乳酸およびアンモニアを乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5に吸着させることができる。つまり、第3の態様では、培養容器10と、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5(すなわち再生剤)と、培養容器10内を乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5が収容される第1空間と細胞16(微生物でもよい)が収容される第2空間とに区画する隔膜18と、を備える再生装置を用いることで、培養液14中の乳酸およびアンモニアが除去される。
【0035】
図1(D)に示すように、第4の態様では、粒子状の乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5を培養液14中に分散、沈降あるいは浮遊させる。これにより、培養液14中の乳酸およびアンモニアを乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5に吸着させることができる。培養液14に添加した乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5を回収する場合には、ろ過や遠心分離等の公知の方法で回収することができる。なお、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5は、細胞16に貪食されることを防ぐために、所定サイズ以上、例えば10μm以上の大きさであることが好ましい。つまり、第4の態様では、培養容器10と、培養容器10内の培養液14に添加される乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5(すなわち再生剤)と、を備える再生装置を用いることで、培養液14中の乳酸およびアンモニアが除去される。
【0036】
好ましくは、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5は、ポリビニルアルコールやアルギン酸等の樹脂、コラーゲンやゼラチン等の生体由来ゲル等で被覆される。これにより、細胞16に影響を与え得る微粒子が乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5から培養液14中に流出することを抑制できる。あるいは、乳酸吸着剤4は、セラミックスバインダー、樹脂バインダー、生体由来ゲル等とMg-Al系LDHとを混練して成形される。また、アンモニア吸着剤5は、セラミックスバインダー、樹脂バインダー、生体由来ゲル等とL型ゼオライトとを混練して成形される。これによっても、微粒子の流出を抑制することができる。セラミックスバインダーとしては、アルミナバインダー、コロイダルシリカ等が例示される。樹脂バインダーとしては、アルギン酸、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等が例示される。生体由来ゲルとしては、コラーゲン、ゼラチン等が例示される。
【0037】
なお、上述した第1~第4の態様では、乳酸吸着剤4とアンモニア吸着剤5とが吸着モジュール6、培養容器10の内壁面、下段10bあるいは培養液14に混在している。つまり、上述した第1~第4の態様は、被処理液に対して乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5を同時に接触させる同時処理系である。しかしながら、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5を被処理液に接触させるタイミングはこれに限らず、被処理液に乳酸吸着剤4を接触させた後に、アンモニア吸着剤5を接触させてもよいし、被処理液にアンモニア吸着剤5を接触させた後に、乳酸吸着剤4を接触させてもよい。つまり、被処理液に対して乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5を異なるタイミングで接触させる2段階処理系であってもよい。
【0038】
2段階処理系の場合、例えば乳酸吸着剤4を収容する容器2と、アンモニア吸着剤5を収容する容器2とが循環路8に直列に接続される。2つの容器2は、どちらが上流側に配置されてもよい。また、乳酸吸着剤4を内壁面に支持する培養容器10と、アンモニア吸着剤5を内壁面に支持する培養容器10とが用意され、一方の培養容器10に収容されている培養液14が他方の培養容器10に移し替えられる。また、乳酸吸着剤4を下段10bに収容する培養容器10と、アンモニア吸着剤5を下段10bに収容する培養容器10とが用意され、一方の培養容器10に収容されている培養液14が他方の培養容器10に移し替えられる。また、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5のうち一方の吸着剤が培養容器10に添加され、所定時間が経過した後に回収され、続いて他方の吸着剤が培養容器10に添加される。
【0039】
同時処理系および2段階処理系のいずれにおいても、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5を培養液14に接触させる時間は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。また、例えば循環路8等に濃度センサを接続し、培養液14中の乳酸およびアンモニアの濃度を計測して、乳酸濃度およびアンモニア濃度が所定値以下になるまで吸着処理を実施してもよい。濃度センサとしては、培地成分アナライザー等の公知のセンサを用いることができる。また、乳酸およびアンモニアの濃度検出方法としては、所定の測定試薬を用いた比色法、酵素の基質特異性を利用する酵素電極法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を利用することもできる。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態に係る被処理液の再生方法は、Mg2+およびAl3+を構成金属として含むMg-Al系LDHを含む乳酸吸着剤4と、L型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤5とを乳酸およびアンモニアを含有する被処理液に接触させて、被処理液中の乳酸およびアンモニアを除去することを含む。また、本実施の形態に係る被処理液の再生剤は、Mg-Al系LDHを含む乳酸吸着剤と、L型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤とを備え、乳酸およびアンモニアを含有する被処理液に接触して、被処理液中の乳酸およびアンモニアを除去する。
【0041】
これにより、従来の透析技術を用いて乳酸およびアンモニアを除去する場合とは異なり、莫大な量の溶液を使用せずに乳酸およびアンモニアを除去することができる。したがって、本実施の形態によれば、低コストに乳酸およびアンモニアを除去できる新規な除去技術を提供することができる。また、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5を乳酸およびアンモニアを含有する被処理液に接触させるだけで乳酸およびアンモニアを除去できるため、本実施の形態によれば被処理液の再生処理に必要な装置構造の簡略化を図ることができる。
【0042】
また、本発明者は、乳酸およびアンモニアの除去技術について鋭意研究を重ねた結果、乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤の種類によっては、同時に被処理液に接触させると別々に被処理液に接触させる場合に比べて乳酸およびアンモニアそれぞれの吸着率が低下し得ることを見出した。また、乳酸吸着剤とアンモニア吸着剤とを別々に接触させる場合も、その順番によって吸着率が低下し得ることを見出した。
【0043】
これに対し、本実施の形態における乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤の組み合わせによれば、被処理液に同時に接触させる場合、乳酸吸着剤をアンモニア吸着剤よりも先に被処理液に接触させる場合、およびアンモニア吸着剤を乳酸吸着剤よりも先に被処理液に接触させる場合のいずれであっても、良好な乳酸吸着率およびアンモニア吸着率を得ることができる。したがって、処理工程の自由度を高めることができる。
【0044】
また、本実施の形態の乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤の組み合わせは、被処理液がグルコースを含有する場合に、グルコースに比べて乳酸およびアンモニアを高選択的に吸着することができる。よって、本実施の形態に係る被処理液の再生方法および再生剤は、グルコースを含有する被処理液から乳酸およびアンモニアを除去する際に、好適に採用することができる。
【0045】
また、本実施の形態の乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤の組み合わせによれば、吸着剤の添加によって生じ得る被処理液のpH変動を抑制することができる。したがって、被処理液が培養液である場合に、pH変動によって培地成分が失活してしまう可能性を低下させることができる。また、pH変動が小さいため、各吸着剤の使用量を増やして、乳酸およびアンモニアの除去量を増やすことができる。また、各吸着剤は、細胞等に対する毒性が低い。よって、本実施の形態に係る被処理液の再生方法および再生剤は、培養液から乳酸やアンモニアを除去する際に、特に好適に採用することができる。
【0046】
また、被処理液が培養液である場合には、従来の透析技術に比べて培養液の使用量を減らすことができる。一般的に培養液は高価であるため、より一層の低コスト化が可能である。また、乳酸およびアンモニアの除去により細胞等を高密度に大量培養することができる。さらに、細胞が多能性幹細胞である場合には、乳酸およびアンモニアの除去によって細胞の高密度大量培養が可能となることに加え、細胞が未分化の状態、つまり細胞の多分化能(分化多能性)を維持することができる。したがって、分化誘導組織作製に好適な細胞を大量に得ることができる。これにより、細胞製造に要するコストを削減することができる。
【0047】
また好ましくは、乳酸吸着剤4およびアンモニア吸着剤5それぞれの使用量は、被処理液に対する濃度が0.025g/mL以上0.1g/mL以下となる量に調整される。これにより、乳酸およびアンモニアをより効果的に除去するとともに、グルコース吸着率をより効果的に抑制することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。
【実施例0049】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0050】
[Mg-Al系LDHの合成]
3575mg/L HEPES溶液(富士フイルム和光純薬社製)を入れた三口フラスコを用意した。そして、窒素雰囲気、30℃、pH10.5の条件下で、Mg(NO-Al(NO混合溶液をHEPES溶液に滴下しながら300rpmで攪拌した。滴下開始から1時間経過後、反応溶液をろ過、水洗して生成物を得た。得られた生成物を40℃、減圧下で40時間乾燥して、保持イオンがHEPESであるHEPES型Mg-Al系LDH(以下では適宜、Mg-Al LDHと表記する)を得た。
【0051】
[乳酸およびアンモニアの水溶液における吸着剤性能の解析]
乳酸およびアンモニアの混合水溶液に各吸着剤を添加した際の各吸着剤の性能を3つの吸着プロセスで評価した。吸着プロセスには、乳酸吸着処理およびアンモニア吸着処理を同時に実施する同時処理系と、乳酸吸着処理の後にアンモニア吸着処理を実施する2段階処理系と、アンモニア吸着処理の後に乳酸吸着処理を実施する2段階処理系とが含まれる。
【0052】
(同時処理系)
まず、乳酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)および塩化アンモニウム(富士フイルム和光純薬社製)を純水に添加し、乳酸ナトリウム濃度および塩化アンモニウム濃度がそれぞれ10mmol/Lである水溶液を調製した。この水溶液を50mLの三角フラスコに20mL投入した。水溶液の入った三角フラスコに、乳酸吸着剤としてのMg-Al LDHを0.5g、アンモニア吸着剤としての500KOA(東ソー社製)を0.5g、それぞれ投入した。
【0053】
三角フラスコを恒温振とう槽に浸し、37℃、150rpmで24時間振とうした(乳酸吸着処理およびアンモニア吸着処理の実施)。その後、水溶液を吸引ろ過して吸着剤を除去した。得られたろ液の乳酸濃度およびアンモニア濃度をHPLC(日本分光社製)を用いて測定した。また、以下の数式に基づいて、乳酸およびアンモニアの吸着率を算出した。結果を図2に示す。
吸着率(%)=[吸着前濃度-吸着後濃度]/吸着前濃度×100
【0054】
(2段階処理系:乳酸→アンモニア)
同時処理系の試験で用いた水溶液が20mL入った三角フラスコに、乳酸吸着剤としてのMg-Al LDHを0.5g投入して、同時処理系の試験と同じ手順で乳酸吸着処理を実施した。その後、水溶液を吸引ろ過して乳酸吸着剤を除去した。得られたろ液に、アンモニア吸着剤としての500KOAを0.5g投入して、同時処理系の試験と同じ手順でアンモニア吸着処理を実施した。その後、水溶液を吸引ろ過してアンモニア吸着剤を除去した。得られたろ液の乳酸濃度およびアンモニア濃度の測定と、乳酸吸着率およびアンモニア吸着率の算出とを同時処理系の試験と同様に実施した。結果を図2に示す。
【0055】
(2段階処理系:アンモニア→乳酸)
同時処理系の試験で用いた水溶液が20mL入った三角フラスコに、アンモニア吸着剤としての500KOAを0.5g投入して、同時処理系の試験と同じ手順でアンモニア吸着処理を実施した。その後、水溶液を吸引ろ過してアンモニア吸着剤を除去した。得られたろ液に、乳酸吸着剤としてのMg-Al LDHを0.5g投入して、同時処理系の試験と同じ手順で乳酸吸着処理を実施した。その後、水溶液を吸引ろ過して乳酸吸着剤を除去した。得られたろ液の乳酸濃度およびアンモニア濃度の測定と、乳酸吸着率およびアンモニア吸着率の算出とを同時処理系の試験と同様に実施した。結果を図2に示す。
【0056】
図2は、乳酸およびアンモニアの水溶液における乳酸吸着率およびアンモニア吸着剤を示す図である。図2に示すように、いずれの吸着プロセスにおいても、50%以上の高い乳酸吸着率および60%以上の高いアンモニア吸着率が得られた。したがって、Mg-Al系LDHとL型ゼオライトとの組み合わせによれば、吸着順序によらず乳酸とアンモニアとを効果的に水溶液から除去できることが確認された。
【0057】
[培養液における吸着剤性能の解析]
グルコース含有溶液としての培養液に各吸着剤を添加した際の各吸着剤の性能を3つの吸着プロセスで評価した。3つの吸着プロセスは、水溶液を用いた解析と同様である。
【0058】
(同時処理系)
まず、乳酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)および塩化アンモニウム(富士フイルム和光純薬社製)をiPS細胞培養用培地(StemFit:味の素社製)に添加し、乳酸ナトリウム濃度および塩化アンモニウム濃度がそれぞれ10mmol/Lである培養液を調製した。この培養液のグルコース濃度は、250mg/dLである。また、この培養液のpHを測定したところ、pH7.4であった。この培養液を複数の50mLチューブに20mLずつ分注した。
【0059】
各50mLチューブに、乳酸吸着剤としてのMg-Al LDHとアンモニア吸着剤としての500KOA(東ソー社製)とをそれぞれ投入した。各吸着剤の添加量(濃度)は、0.02g(0.001g/mL)、0.1g(0.005g/mL)、0.5g(0.025g/mL)、1.0g(0.05g/mL)、2.0g(0.1g/mL)とした。各50mLチューブを恒温振とう槽に浸し、37℃、60回/分で24時間振とうした(乳酸吸着処理およびアンモニア吸着処理の実施)。その後、水溶液を吸引ろ過して吸着剤を除去した。得られたろ液の乳酸濃度、グルコース濃度およびpHを血液ガス分析装置(ABL800 FLEX:ラジオメーター社製)を用いて測定した。また、得られたろ液のアンモニア濃度をAmmonia Assay Kit(シグマ-アルドリッチ社製)を用いて測定した。また、上述の数式に基づいて、乳酸、グルコースおよびアンモニアの吸着率を算出した。結果を図3に示す。
【0060】
(2段階処理系:乳酸→アンモニア)
同時処理系の試験で用いた培養液が20mL入った複数の50mLチューブに、乳酸吸着剤としてのMg-Al LDHを投入して乳酸吸着処理を実施した。吸着剤の添加量(濃度)および吸着処理の手順は、同時処理系の試験と同様である。その後、水溶液を吸引ろ過して乳酸吸着剤を除去した。得られたろ液に、アンモニア吸着剤としての500KOAを投入してアンモニア吸着処理を実施した。吸着剤の添加量(濃度)および吸着処理の手順は、同時処理系の試験と同様である。その後、水溶液を吸引ろ過してアンモニア吸着剤を除去した。得られたろ液の乳酸濃度、グルコース濃度、pHおよびアンモニア濃度の測定と、乳酸吸着率、グルコース吸着率およびアンモニア吸着率の算出とを同時処理系の試験と同様に実施した。結果を図3に示す。
【0061】
(2段階処理系:アンモニア→乳酸)
同時処理系の試験で用いた培養液が20mL入った複数の50mLチューブに、アンモニア吸着剤としての500KOAを投入してアンモニア吸着処理を実施した。吸着剤の添加量(濃度)および吸着処理の手順は、同時処理系の試験と同様である。その後、水溶液を吸引ろ過してアンモニア吸着剤を除去した。得られたろ液に、乳酸吸着剤としてのMg-Al LDHを投入して乳酸吸着処理を実施した。吸着剤の添加量(濃度)および吸着処理の手順は、同時処理系の試験と同様である。その後、水溶液を吸引ろ過して乳酸吸着剤を除去した。得られたろ液の乳酸濃度、グルコース濃度、pHおよびアンモニア濃度の測定と、乳酸吸着率、グルコース吸着率およびアンモニア吸着率の算出とを同時処理系の試験と同様に測定した。結果を図3に示す。
【0062】
図3は、培養液における乳酸吸着率、アンモニア吸着剤、グルコース吸着率およびpHを示す図である。図3に示すように、いずれの吸着プロセスにおいても、グルコースに比べて乳酸およびアンモニアを高選択的に除去できることが確認された。特に、乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤の濃度がそれぞれ0.025g/mL以上であるとき、約30%以上の高い乳酸吸着率と、約50%以上の高いアンモニア吸着率が得られることが確認された。また、乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤の濃度がそれぞれ0.1g/mL以下であるとき、グルコース吸着率を20%以下に抑制できることが確認された。また、各吸着剤の濃度を0.1g/mL以下とすることで、pHの変動量を約1以下に抑制できることが確認された。
【0063】
[乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤の有用な組み合わせの選別]
各種の乳酸吸着剤およびアンモニア吸着剤を組み合わせて、各組み合わせを培養液に添加した際の吸着性能を3つの吸着プロセスで評価した。3つの吸着プロセスは、上述のとおりである。
【0064】
乳酸吸着剤の候補材料として、以下のものを用意した。
層状複水酸化物(Ca-Al LDH)
層状複水酸化物(Cu-Al LDH)
層状複水酸化物(Mg-Al LDH)
層状複酸化物(Mg-Al LDO)
弱塩基性陰イオン交換樹脂(WA30:三菱ケミカル社製)
【0065】
また、アンモニア吸着剤の候補材料として、以下のものを用意した。
強酸性陽イオン交換樹脂(PK216LH:三菱ケミカル社製)
L型ゼオライト(500KOA:東ソー社製)
金属錯体(プルシアンブルー:関東化学社製)
【0066】
(同時処理系)
各吸着剤の候補材料を総当たりで組み合わせた。そして、上述の培養液が20mL入った複数の50mLチューブに、各組み合わせの吸着剤0.5gずつを投入した。各50mLチューブを恒温振とう槽に浸し、37℃、150rpmで24時間振とうした(乳酸吸着処理およびアンモニア吸着処理の実施)。その後、水溶液を吸引ろ過して吸着剤を除去した。得られたろ液の乳酸濃度を血液ガス分析装置(ABL800 FLEX:ラジオメーター社製)を用いて測定した。また、得られたろ液のアンモニア濃度をAmmonia Assay Kit(シグマ-アルドリッチ社製)を用いて測定した。また、上述の数式に基づいて、乳酸およびアンモニアの吸着率を算出した。
【0067】
そして、乳酸吸着率およびアンモニア吸着率がともに25%以上であった場合をAと評価した。また、乳酸吸着率のみが25%以上であった場合をBlと評価した。また、アンモニア吸着率のみが25%以上であった場合をBaと評価した。また、乳酸吸着率およびアンモニア吸着率がともに25%未満であった場合をXと評価した。結果を図4(A)に示す。
【0068】
(2段階処理系:乳酸→アンモニア)
同時処理系の試験で用いた培養液が20mL入った複数の50mLチューブに、各組み合わせにおける乳酸吸着剤を投入して、同時処理系の試験と同じ手順で乳酸吸着処理を実施した。その後、水溶液を吸引ろ過して乳酸吸着剤を除去した。得られたろ液に、各組み合わせのアンモニア吸着剤を投入して、同時処理系の試験と同じ手順でアンモニア吸着処理を実施した。その後、水溶液を吸引ろ過してアンモニア吸着剤を除去した。得られたろ液の乳酸濃度およびアンモニア濃度の測定と、乳酸吸着率およびアンモニア吸着率の算出と、吸着性能の評価とを同時処理系の試験と同様に実施した。結果を図4(B)に示す。
【0069】
(2段階処理系:アンモニア→乳酸)
同時処理系の試験で用いた培養液が20mL入った複数の50mLチューブに、各組み合わせにおけるアンモニア吸着剤を投入して、同時処理系の試験と同じ手順でアンモニア吸着処理を実施した。その後、水溶液を吸引ろ過してアンモニア吸着剤を除去した。得られたろ液に、各組み合わせの乳酸吸着剤を投入して、同時処理系の試験と同じ手順で乳酸吸着処理を実施した。その後、水溶液を吸引ろ過して乳酸吸着剤を除去した。得られたろ液の乳酸濃度およびアンモニア濃度の測定と、乳酸吸着率およびアンモニア吸着率の算出と、吸着性能の評価とを同時処理系の試験と同様に測定した。結果を図4(C)に示す。
【0070】
図4(A)は、同時処理系における吸着剤の各組み合わせの吸着性能を示す図である。図4(B)は、乳酸吸着処理の後にアンモニア吸着処理を実施する2段階処理系における吸着剤の各組み合わせの吸着性能を示す図である。図4(C)は、アンモニア吸着処理の後に乳酸吸着処理を実施する2段階処理系における吸着剤の各組み合わせの吸着性能を示す図である。図4(A)~図4(C)に示すように、吸着プロセスを問わず高い乳酸吸着率および高いアンモニア吸着率が得られる組み合わせは、Mg-Al LDHとL型ゼオライトとの組み合わせのみであった。このことから、Mg-Al系LDHを含む乳酸吸着剤とL型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤との組み合わせは、他の吸着剤の組み合わせと比較して、優れた乳酸吸着性能およびアンモニア吸着性能を有することが確認された。また、細胞等に対する毒性やpH変動の観点からも、Mg-Al系LDHを含む乳酸吸着剤とL型ゼオライトを含むアンモニア吸着剤との組み合わせは、培養液の再生に極めて有用であることを理解することができる。
【符号の説明】
【0071】
2 容器、 4 乳酸吸着剤、 5 アンモニア吸着剤、 6 吸着モジュール、 8 循環路、 10 培養容器、 12 ポンプ、 14 培養液、 16 細胞、 18 隔膜。
図1
図2
図3
図4