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特開2022-42748複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法
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  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図1A
  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図1B
  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図2
  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図3
  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図4
  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図5
  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図6A
  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図6B
  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図6C
  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図7
  • 特開-複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042748
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】複合Cu材、これを含む電子部品または実装基板、電子部品実装基板、複合Cu材の製造方法、および、接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20220308BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20220308BHJP
   H05K 1/03 20060101ALN20220308BHJP
【FI】
H01L21/60 311Q
H01L21/52 E
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148313
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】591108178
【氏名又は名称】秋田県
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】大口 健一
(72)【発明者】
【氏名】福地 孝平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知也
(72)【発明者】
【氏名】大森 誉之
(72)【発明者】
【氏名】荒川 明
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 憲吾
【テーマコード(参考)】
5F044
5F047
【Fターム(参考)】
5F044AA02
5F044KK01
5F044KK11
5F044LL13
5F047BA14
5F047BA19
(57)【要約】
【課題】Cu-Sn系IMCを利用して電子部品等を接合する場合において、接合後の接合部に関し、厚さを確保しつつCu6Sn5の存在量を低減できる複合Cu材を提供する。上記複合Cu材を含む電子部品、実装基板または電子部品実装基板の提供を目的とする。さらに、本発明は、上記複合Cu材の製造方法、および、複合Cu材を利用した接合体の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】Cu材とこのCu材の表面の少なくとも一部に設けたCu3Sn層とを含む複合Cu材を、電子部品等への接合における接合部位として用いる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu材と前記Cu材の表面の少なくとも一部に設けたCu3Sn層とを含む複合Cu材であって、電子部品への接合または実装基板への接合に用いられる複合Cu材。
【請求項2】
前記Cu3Sn層の厚さが1~1000μmである、請求項1に記載の複合Cu材。
【請求項3】
前記Cu3Sn層が、少なくとも一部の表面にSn層を有する、請求項1または2に記載の複合Cu材。
【請求項4】
前記Cu3Sn層が、少なくとも一部の表面にCu6Sn5層を有する、請求項1または2に記載の複合Cu材。
【請求項5】
前記Cu3Sn層が複合Cu材の最外層である、請求項1または2に記載の複合Cu材。
【請求項6】
前記複合Cu材が、電子部品のCu電極、実装基板のCu配線またはリード材として用いられることで前記接合に供せられる、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合Cu材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の複合Cu材を含む、電子部品または実装基板。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の複合Cu材を介して接合された電子部品および実装基板を含む、電子部品実装基板。
【請求項9】
Cu材と前記Cu材の表面の少なくとも一部に設けたCu3Sn層とを含む複合Cu材の製造方法であって、
表面の少なくとも一部にSn層を有するCu材を加圧状態で加熱して前記複合Cu材を得ること、を含む複合Cu材の製造方法。
【請求項10】
前記加圧状態での加熱が、前記Sn層を有する前記Cu材を、Snに対して不活性な材料中に埋没させて実施される、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記不活性な材料が炭素材料である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記加圧状態での加熱が、前記Sn層のCu材側がCu3Snとなりかつ表層側がSnとなる条件で実施される、請求項9~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記加圧状態での加熱が、前記Sn層のCu材側がCu3Snとなりかつ表層側がCu6Sn5となる条件で実施される、請求項9~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記加圧状態での加熱が、前記Sn層の表面において、前記Sn層が前記Cu材とは異なるCu材料と接触した状態で、実施される、請求項9に記載の製造方法。
【請求項15】
Cu材と前記Cu材の表面の少なくとも一部に設けたCu3Sn層とを含む複合Cu材の製造方法であって、
Cu材の表面の少なくとも一部とSn材料が接触した状態で前記Cu材およびSn材料を加圧および加熱して、前記複合Cu材を得ること、を含む複合Cu材の製造方法。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか1項に記載の複合Cu材を接合部位に有する部材Aと、他のCu材を接合部位に有する部材Bとを準備し、
前記複合Cu材が有するCu3Sn層と前記他のCu材との間にインサート材を挟んだ状態で、前記部材Aおよび前記部材Bの接合部分を加熱して、前記部材Aおよび前記部材Bを接合した接合体を得ることを含み、
前記インサート材が、単独でまたは前記複合Cu材の表層部と一緒になって、Cu-Sn基化合物を生成可能な材料である、接合体の製造方法。
【請求項17】
前記部材Aが、電子部品または実装基板であり、
前記部材Bが、実装基板または電子部品であり、
前記接合体が、電子部品および実装基板が互いに接合した電子部品実装基板である、請求項16に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品(各種の能動素子および受動素子、半導体チップならびに集積回路(IC)など)の実装基板への接合などに使用される複合Cu(銅)材、およびこの複合Cu材を含む電子部品または実装基板に関する。また、本発明は、上記複合Cu材を介して接合された電子部品および実装基板を含む電子部品実装基板に関する。さらに、本発明は、上記複合Cu材の製造方法、および、複合Cu材を利用した接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
200℃以上での高温動作が可能なGaNまたはSiCを含むパワー半導体チップの実用化は、パワーモジュールにおける冷却系の省略を可能とするため、電動化が進む自動車の軽量化を進める上で極めて重要な技術である。
【0003】
そのような高温環境下での使用が想定されるパワー半導体チップを実装する際には、融点が約200℃の鉛フリーはんだを使用することはできない。また、環境への配慮から鉛を含む高融点はんだの使用も避けなければならない。さらに、現在提案されているAgナノ粒子を用いた焼結接合法は、Ag材料を使用する点でコスト上の問題が大きい。
【0004】
これらの解決策として、Cu-Sn系金属間化合物(IMC)を利用したCu材の接合技術の開発が期待されている。例えば、非特許文献1には、Cu電極間にSn層を挿入し、加圧状態でSnの融点付近の温度に置くことにより、接合部にCu-Sn系IMCを生成させる方法が記載されている。さらに、特許文献1および非特許文献2には、実装基板の反りを吸収する観点から、パワー半導体チップのCu電極と実装基板のCu配線(或いはCu電極)との間に、Cu層およびSn層の交互積層膜を挿入し、これを同様に加熱して、接合部の一定の厚さを確保しながら接合部にCu-Sn系IMCを生成させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-149580号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】福本信次、「パワー半導体実装におけるナノテルミット反応接合法の開発」、科学研究費助成事業研究成果報告書、研究期間2012~2014、課題番号24560883
【非特許文献2】福本信次、宮崎高彰、藤本高志、松嶋道也、高橋誠、藤本公三、「Cu/Sn多層膜を用いた銅の低温接合部のボイド低減」、平成24年度秋季全国大会講演概要、溶接学会、2012年、2012f巻、セッションID:209、DOI:https://doi.org/10.14920/jwstaikai.2012f.0.84.0
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、線膨張係数に関し、電子部品と実装基板との間には、数十倍の差がある。このため、温度変動が生じる環境に、電子部品が実装済みの実装基板を置くと、電子部品および実装基板の接合部では、熱変形量の違いによる熱応力が発生する。そうすると、温度の上昇と下降が繰り返されることで、接合部で繰り返し熱応力が発生し、接合部が熱疲労破壊を起こしてしまうことがある。この熱疲労破壊を防止するには、温度変動により生じるひずみのうち、せん断ひずみ(工学的せん断ひずみ)の発生量を抑えることが重要である。せん断ひずみは、熱変形により生じるずれ変形量が等しければ、熱変形する物の高さに反比例することが知られている。
【0008】
上記の点を踏まえると、特許文献1および非特許文献2の方法は、接合部が、ある程度の厚さを有するため、パワー半導体チップおよび実装基板の熱膨張率の差に起因する接合部の熱疲労破壊を抑制する点でも有用であると思われる。
【0009】
しかしながら、特許文献1および非特許文献2の方法では、接合部の主要構造はCu3Sn(ε相:融点676℃)となるが、相変態を起こすCu6Sn5(η相:融点415℃)も生成されやすい。パワーモジュールの使用中に相変態に伴う接合部の体積変化が生じると、その部分が接合部破壊の起点となる可能性がある。したがって、特許文献1および非特許文献2の方法でも、接合部の耐熱安定性の面で充分とは言えない。さらに、特許文献1および非特許文献2の方法において、Cu6Sn5の生成を抑制して接合部の耐熱安定性を高めるため、加圧力と加熱温度を高めたり加熱時間を長くしたりすると、パワー半導体チップや実装基板の破損を招く可能性がある。
【0010】
さらに、このような問題は、パワー半導体チップのみならず、パワー半導体チップと同じ環境で使用される他の電子部品(各種の能動素子および受動素子、他の半導体チップならびに集積回路(IC)など)にも生じうる。
【0011】
そこで、Cu-Sn系IMCを利用して電子部品等を接合する場合において、接合後の接合部に関し、厚さを確保しつつCu6Sn5の存在量を低減できる手法が望まれる。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、Cu-Sn系IMCを利用して電子部品等への接合を実施する場合において、接合後の接合部に関し、厚さを確保しつつCu6Sn5の存在量を低減できる複合Cu材の提供を目的とする。
【0013】
また、本発明は、上記複合Cu材を含む電子部品または実装基板、これらに加え、電子部品および実装基板を含む電子部品実装基板の提供を目的とする。さらに、本発明は、上記複合Cu材の製造方法、および、複合Cu材を利用した接合体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、Cu材の表面にCu3Sn層を設けた複合Cu材を、Cu電極等の接合部位に用い、このCu3Sn層を介在させて接合を実施することにより、解決できた。具体的には、以下の手段により、上記課題は解決された。
<1>
Cu材とCu材の表面の少なくとも一部に設けたCu3Sn層とを含む複合Cu材であって、電子部品への接合または実装基板への接合に用いられる複合Cu材。
<2>
Cu3Sn層の厚さが1~1000μmである、<1>に記載の複合Cu材。
<3>
Cu3Sn層が、少なくとも一部の表面にSn層を有する、<1>または<2>に記載の複合Cu材。
<4>
Cu3Sn層が、少なくとも一部の表面にCu6Sn5層を有する、<1>または<2>に記載の複合Cu材。
<5>
Cu3Sn層が複合Cu材の最外層である、<1>または<2>に記載の複合Cu材。
<6>
複合Cu材が、電子部品のCu電極、実装基板のCu配線またはリード材として用いられることで接合に供せられる、<1>~<5>のいずれか1つに記載の複合Cu材。
<7>
<1>~<6>のいずれか1つに記載の複合Cu材を含む、電子部品または実装基板。
<8>
<1>~<6>のいずれか1つに記載の複合Cu材を介して接合された電子部品および実装基板を含む、電子部品実装基板。
<9>
Cu材とCu材の表面の少なくとも一部に設けたCu3Sn層とを含む複合Cu材の製造方法であって、
表面の少なくとも一部にSn層を有するCu材を加圧状態で加熱して複合Cu材を得ること、を含む複合Cu材の製造方法。
<10>
加圧状態での加熱が、Sn層を有するCu材を、Snに対して不活性な材料中に埋没させて実施される、<9>に記載の製造方法。
<11>
不活性な材料が炭素材料である、<10>に記載の製造方法。
<12>
加圧状態での加熱が、Sn層のCu材側がCu3Snとなりかつ表層側がSnとなる条件で実施される、<9>~<11>のいずれか1つに記載の製造方法。
<13>
加圧状態での加熱が、Sn層のCu材側がCu3Snとなりかつ表層側がCu6Sn5となる条件で実施される、<9>~<11>のいずれか1つに記載の製造方法。
<14>
加圧状態での加熱が、Sn層の表面において、Sn層がCu材とは異なるCu材料と接触した状態で、実施される、<9>に記載の製造方法。
<15>
Cu材とCu材の表面の少なくとも一部に設けたCu3Sn層とを含む複合Cu材の製造方法であって、
Cu材の表面の少なくとも一部とSn材料が接触した状態でCu材およびSn材料を加圧および加熱して、複合Cu材を得ること、を含む複合Cu材の製造方法。
<16>
<1>~<6>のいずれか1つに記載の複合Cu材を接合部位に有する部材Aと、他のCu材を接合部位に有する部材Bとを準備し、
複合Cu材が有するCu3Sn層と上記他のCu材との間にインサート材を挟んだ状態で、部材Aおよび部材Bの接合部分を加熱して、部材Aおよび部材Bを接合した接合体を得ることを含み、
インサート材が、単独でまたは複合Cu材の表層部と一緒になって、Cu-Sn基化合物を生成可能な材料である、接合体の製造方法。
<17>
部材Aが、電子部品または実装基板であり、
部材Bが、実装基板または電子部品であり、
接合体が、電子部品および実装基板が互いに接合した電子部品実装基板である、<16>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合Cu材およびこれを含む電子部品または実装基板を使用することにより、Cu-Sn系IMCを利用して電子部品等への接合を実施する場合において、接合後の接合部に関し、厚さを確保しつつCu6Sn5の存在量を低減することが可能になる。
【0016】
本発明の電子部品実装基板により、電子部品実装基板の熱安定性が向上する。
【0017】
本発明の複合Cu材の製造方法により、上記複合Cu材を得ることができる。本発明の接合体の製造方法により、熱安定性の高い接合体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A図1Aは、本発明の複合Cu材のいくつかの例の断面概略図を示す。
図1B図1Bは、本発明の複合Cu材を含む電子部品、実装基板および接合体の一実施態様の断面概略図を示す。
図2図2は、SnSO4めっき溶液を用いたSnめっき層付きCu線の断面写真を示す。
図3図3は、各めっき溶液によるめっき処理を経たSnめっき層付きCu線の断面のSEM画像を示す。
図4図4は、加熱処理用の型に埋没したCu材の様子を示す概略図を示す。
図5図5は、加熱処理後の各実施例サンプルの断面写真を示す。
図6A図6Aは、実施例における一サンプル(Cu線)のCu線断面のSEM画像を示す。
図6B図6Bは、図6A中の測定箇所1におけるEDS分析の結果を示す。
図6C図6Cは、図6A中の測定箇所2および3におけるEDS分析の結果を示す。
図7図7は、加熱処理後のサンプルの断面図(a横断面、b縦断面)である。
図8図8は、2つの複合Cu材を接合する際の接合部概略断面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の代表的な実施形態について説明する。各構成要素は、便宜上、この代表的な実施形態に基づいて説明されるが、本発明は、そのような実施形態に限定されるものではない。
【0020】
「複合Cu材」
電子部品への接合または実装基板への接合に用いられる本発明の複合Cu材は、Cu材とこのCu材の表面の少なくとも一部に設けたCu3Sn層とを含む。
【0021】
Cu材の形状および大きさは、特段制限されず、複合Cu材の用途に応じて適宜選択される。例えば、複合Cu材が、後述するような独立した部材である場合には、Cu材は、複合Cu材の形状に合致して、例えば、板状、箔(フォイル)状、テープ状、ワイヤー状、リング状、コイル状および柱状などの形状を有する。そのような板状Cu材の厚さは、例えば0.1~20mmであり、0.5~10mmであってもよい。板状Cu材の一辺の長さは、例えば1cm~2mであり、5cm~1mであってもよい。箔状Cu材の厚さは、例えば1~100μmであり、5~50μmであってもよい。箔状Cu材の一辺の長さは、板状Cu材と同様である。テープ状Cu材の厚さは、箔状Cu材と同様である。テープ状Cu材の長さは、例えば1~50mであり、5m~30mであってもよい。ワイヤー状Cu材の直径は、例えば0.05~2mmであり、0.1~1mmであってもよい。また、複合Cu材が、電子部品の電極または実装基板の配線の少なくとも一部となる場合には、通常、Cu材は薄膜状である。そのような薄膜状Cu材の厚さは、例えば10nm~100μmであり、40nm~10μmであってもよい。
【0022】
Cu3Sn層は、実質的にCu3Snからなるか、あるいはCu3Sn以外にCu3Sn層の機能を阻害せず、本発明の効果が得られる範囲で、他の成分を含むことができる。Cu3Snは、Cu-Sn系IMCの一種であり、融点が676℃であることから、熱的安定性が高い。Cu3Sn層に含むことができる他の成分は、特に制限はないが、例えば、Cu3Sn以外のCu-Sn系IMC、金属Cu、金属Sn、その他の金属であることができる。Cu3Sn以外のCu-Sn系IMCとしては、例えば、Cu6Sn5を挙げることができる。Cu6Sn5の含有を積極的に推奨するものではないが、Cu3Sn層の調製過程において、形成する可能性がある成分である。但し、Cu6Sn5は相変態を起こし体積変化して接合部の破壊起点となるおそれがあるため含有したとしても少ない方が好ましい。
【0023】
熱安定性が高い接合が得られ、本発明の効果が支障なく奏されるという観点から、Cu3Sn層中のCu3Snの割合は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。一方、Cu6Sn5は相変態を起こし体積変化して接合部の破壊起点となるおそれがあるため、Cu3Sn層中のCu6Sn5の割合は、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。特に、Cu3Sn層は、Cu6Sn5を含まないことが好ましい。
【0024】
Cu3Sn層が設けられる位置は、Cu材の表面の少なくとも一部であって接合の用に供される部分であればよい。但し、Cu3Sn層は、Cu材の表面の全面に形成されてもよい。Cu3Sn層をCu材の一部の表面に形成する場合には、全面に形成した後、リソグラフィー等のパターニング技術を適用してもよい。あるいは、後述するが、Cu3Sn層の基となるSn層を一部の表面領域に形成すればよい。
【0025】
Cu3Sn層の厚さは、特に制限されず、例えば、1~1000μmであることができる。Cu3Sn層を厚くすればするほど、接合部の厚さを確保でき、接合部内に生じるせん断ひずみを緩和することができる。一方、せん断ひずみを緩和する以上に厚くし過ぎるとコストの無駄を招く場合がある。したがって、Cu3Sn層の厚さは、5~500μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。
【0026】
Cu3Sn層は複合Cu材の最外層であってもよいが、Cu3Sn層の表面に他の層を追加で設けることもできる。
【0027】
Cu3Sn層は、少なくとも一部の表面に例えば、Sn層を有してもよく、Sn層を有する場合、Sn層は最外層であってもよいが、その他の層をさらに有することもできる。Cu3Sn層の上にSn層がある場合、Sn層は、接合の際に、インサート材と一緒になって接合層を形成するための材料として使用できる。
【0028】
Cu3Sn層上のSn層の厚さは、特に制限されないが、インサート材と一緒になって接合層を形成するという観点からは、例えば1~500μmであることができる。接合の際、接合層内でのCu6Sn5の生成を抑制しやすいという観点から、Sn層の厚さは、3~250μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましい。
【0029】
Cu3Sn層は、少なくとも一部の表面にCu6Sn5層を有してもよく、Cu6Sn5層は最外層であってもよいが、その他の層をさらに有することもできる。Cu3Sn層の上にCu6Sn5層がある場合には、Cu6Sn5層は、接合の際に、インサート材と一緒になって接合層を形成するための材料として使用できる。
【0030】
Cu3Sn層上のCu6Sn5層の厚さは、特に制限されないが、例えば1~500μmである。接合の際、接合層内でのCu6Sn5の生成を抑制する観点から、Cu6Sn5層の厚さは、3~250μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましい。
【0031】
Cu3Sn層がその表面にCu6Sn5層またはSn層を有する場合において、深さ方向にCu3Snの割合が連続的に変化してCu3Sn層との明確な境界が認められないときは、局所的な深さ位置における最大成分に基づいて層の種類を判断する。例えば、ある局所的な深さ位置における最大成分がCu3Snであれば、その位置はCu3Sn層に属するものとする。
【0032】
Cu3Sn層は、少なくとも一部の表面にSn層およびCu6Sn5層の両方を有してもよい。この場合、Sn層が最外層であることが好ましい。Sn層がCu6Sn5層よりも、インサート材(Cuリッチとされることが多い)側にあることにより、接合の際、Sn層が優先してインサート材中のCu材と反応し、Cu-Sn系IMCの材料として使用される。これにより、CuおよびSnのモル比バランスが適切となり、接合層において、Cu3Snを生成しやすく、Cu6Sn5を抑制しやすい。このときのSn層およびCu6Sn5層の厚さは上記と同様である。
【0033】
Cu3Sn層がその表面にCu6Sn5層およびSn層を有する場合において、深さ方向にCu6Sn5の割合が連続的に変化してSn層との明確な境界が認められないときは、局所的な深さ位置における最大成分に基づいて層の種類を判断する。
【0034】
複合Cu材の表面が、Cu6Sn5層およびSn層などの存在によってSnリッチな状態である場合には、その層の表面に、さらに、インサート材としてCu層が設けられていてもよい。これにより、接合の際に、Cu箔やCu粒子などの別途のCu材料の使用を省略でき、またはその使用量を減じることができる。
【0035】
インサート材としてのCu層の厚さは、接合層においてCu3Sn層を生成させる観点から、インサート材全体のCu材料中のCuと、複合Cu材の表層部のSnとのモル比が3:1となるように、適宜調整される。インサート材としてのCu層の厚さは、例えば1~500μmである。接合の際、接合層内でのCu6Sn5の生成を抑制する観点から、インサート材としてのCu層の厚さは、3~250μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましい。
【0036】
図1Aは、本発明の複合Cu材のいくつかの例の断面概略図である。図1Aのa)の複合Cu材1aでは、Cu材は板状のCu材10aであり、このCu材の片面の全表面にCu3Sn層20aが設けられている。この複合Cu材1aにおいて、Cu3Sn層20aはCu材10aの片面の一部に設けられてもよく、両面の全面またはそれらの一部に設けられてもよい。図1Aのb)の複合Cu材1bでは、Cu材はワイヤー状のCu材10bであり、このCu材10bの一部の外周面にCu3Sn層20bが設けられている。この複合Cu材1bにおいて、Cu3Sn層20bは、Cu材10bの外周面の全表面に設けられてもよい。図1Aのc)の複合Cu材1cは、Cu材10cと、このCu材10cの一部の表面に設けられたCu3Sn層20cと、このCu3Sn層20cの表面に設けられたSn層30cとからなる。図1Aのd)の複合Cu材1dは、Cu材10dと、このCu材10dの一部の表面に設けられたCu3Sn層20dと、このCu3Sn層20dの表面に設けられたCu6Sn5層40dとからなる。図1Aのe)の複合Cu材1eは、Cu材10eと、このCu材10eの一部の表面に設けられたCu3Sn層20eと、このCu3Sn層20eの表面に設けられたCu6Sn5層40eと、このCu6Sn5層40eの表面に設けられたSn層30eとからなる。
【0037】
上記のように、独立した部材としての複合Cu材は、基材となるCu材の形状に応じて、例えば、板状、箔(フォイル)状、テープ状、ワイヤー状、リング状、コイル状および柱状などの形状を有することができる。このような独立した複合Cu材は、後述する接合技術により、リード材として電子部品または実装基板への接合に使用することができる。
【0038】
「電子部品および実装基板」
本発明は、上記した本発明の複合Cu材を接合部位に有する電子部品または実装基板を包含する。即ち、本発明の複合Cu材は、上記のように独立した部材の状態であるほか、電子部品または実装基板の一部となることもできる。
【0039】
図1Bのf)は、複合Cu材を含む電子部品の一実施態様の断面概略図を示す。この電子部品3は、主要回路部50と、主要回路部50から伸びた2つのCu電極10f(取り出し電極)と、これらのCu電極10fの表面にそれぞれ設けられた2つのCu3Sn層20fとからなる。1つのCu電極10fおよびそのCu電極10fの表面に設けられた1つのCu3Sn層20fが、複合Cu材に相当する。ここで、各Cu3Sn層20fは、図1Aと同様に、その表面の少なくとも一部に、Cu6Sn5層およびSn層の一方または両方を有してもよい。図1Bのg)は、複合Cu材を含む実装基板5の一実施態様の断面概略図を示す。この実装基板5は、基板60と、基板60上のCu配線10gと、Cu配線10g上のCu3Sn層20gとからなる。ここで、Cu3Sn層20gは、図1Aと同様に、その表面の少なくとも一部に、Cu6Sn5層およびSn層の一方または両方を有してもよい。
【0040】
複合Cu材は、電子部品および実装基板等との電気的接続を図る部材であり、インサート材を介在させ他のCu材に接合することができる。接合に際し、本発明の複合Cu材は、例えば電子部品および実装基板のどちらか一方にのみ存在していてもよい。熱安定性の高い接合を確保する観点から、インサート材を介在させ、本発明の複合Cu材同士を接合することが好ましい。インサート材は、接合の際、単独でまたは複合Cu材の表層部(例えばSn層およびCu6Sn5層の少なくとも1つ)と一緒になって、Cu-Sn基化合物を含む接合層となる。
【0041】
本発明は、電子部品と実装基板との間に「複合Cu材/接合層/複合Cu材」からなる接合部または「複合Cu材/接合層」からなる接合部を有する電子部品実装基板を包含する。「複合Cu材/接合層/複合Cu材」からなる接合部を有する電子部品実装基板は、基板側から、実装基板/複合Cu材/接合層/複合Cu材/電子部品の構成を有する。「複合Cu材/接合層」からなる接合部を有する電子部品実装基板は、基板側から、実装基板/複合Cu材/接合層/通常のCu材/電子部品の構成を有するか、実装基板/通常のCu材/接合層/複合Cu材/電子部品の構成を有することができる。
【0042】
図1Bのh)は、基板側から、実装基板5-複合Cu材(Cu配線10gおよびCu3Sn層20gの部分)-接合層35-複合Cu材(Cu電極10fおよびCu3Sn層20fの部分)-電子部品3の構成を有する接合体7(電子部品実装基板)の一例を示す概念図である。この接合体では、上記電子部品および上記実装基板が各Cu3Sn層および接合層を介して互いに接合されている。
【0043】
上記のような構成を有する本発明の複合Cu材を使用することにより、Cu-Sn系IMCを利用して電子部品等への接合を実施する場合において、接合後の接合部に関し、厚さを確保しつつCu6Sn5の存在量を低減することが可能になる。これは、次の理由によると考えられる。
【0044】
従来法(特許文献1)では、Cu材間に、Cu層およびSn層の交互積層膜を挿入して、これを加熱し、接合部にCu-Sn系IMCを生成させることにより、複数のCu材が互いに接合されていた。しかしながら、電子部品にダメージを与えない限度での加熱条件が求められる状況において、金属Cuおよび金属SnからCu3Snが生成できる加熱条件が満たされず、Cu6Sn5が生成しやすい環境となっていた。
【0045】
これに対し、本発明では、Cu材の表面に予めCu3Sn層が設けられているため、接合の際には、インサート材を用いて、複合Cu材中のCu3Sn層と他のCu材を接合する、或いは複数の複合Cu材中のCu3Sn層同士を接合するだけでよい。Cu3Snの融点(676℃)は、金属Cu(Cu:1085℃)に比べて低く、比較的緩い加熱条件(低加圧、低温および短時間)で接合が可能である。この際、Cu3Sn層の間にできる接合層にはCu6Sn5が生成しうるが、接合部全体からみて接合層は僅かな領域であり、接合部のどの場所にもCu6Sn5が生成しうる従来法に比べれば、熱による影響は小さいと言える。
【0046】
さらに、複合Cu材がその表面にCu6Sn5およびSn層の少なくとも1つを有する場合には、接合の際に、それらの層とインサート材との反応によりCu3Sn層に変換されるように調整することができる。したがって、Cu6Sn5およびSn層を、インサート材と一緒になって接合層を形成するための材料として使用できる。
【0047】
さらに、Cu材上にCu3Sn層があることにより、電子部品や実装基板等の部材同士の間の接合部において、ある程度の厚さを確保することもでき、電子部品と実装基板との熱膨張特性の違いに起因する熱疲労破壊も抑制される。
【0048】
上記のように、接合後の接合部に関し、厚さを確保しつつCu6Sn5の存在量を低減する結果として、接合の熱安定性が向上すると考えられる。
【0049】
「複合Cu材の製造方法」
本発明の複合Cu材は、例えば、表面の少なくとも一部にSn層を有するCu材を加圧状態で加熱することにより、得ることができる(第1の製造方法)。第1の製造方法では、加熱処理により、Cu材およびSn層の密着界面でCuおよびSnの熱拡散を生じさせて、Cu3Sn層を生成させる。
【0050】
Sn層を有するCu材を得るためのSn層の形成方法としては、例えば、蒸着法、スパッタリング法およびめっき法など、公知の金属膜の成膜法を使用できる。特に、大気圧下で実施できる簡便性から、Sn層の形成方法は、めっき法であることが好ましく、その中でも、成膜効率および厚さを制御しやすい観点から、電解めっき法であることがより好ましい。Cu材表面のSn層の厚さの2倍から3倍程度のCu3Sn層が形成されるため、Cu3Sn層の厚さを制御することにも繋がる。
【0051】
Sn層が設けられる位置は、Cu材の表面の少なくとも一部であって、接合の用に供される部分であればよい。一方、Sn層は、Cu材の表面の全面に形成されてもよい。Sn層をCu材の一部の表面に形成する場合には、全面に形成した後、リソグラフィー等のパターニング技術を適用してもよく、Sn層の成膜工程においてテーピングなどのマスクを使用してもよい。
【0052】
Sn層の厚さは、特に制限されず、例えば、500nm~500μmであることができる。熱処理によりSn層の厚さの2倍から3倍程度のCu3Sn層が形成される。Cu3Sn層の厚さを調整する観点から、Sn層の厚さは、1~200μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。
【0053】
第1の製造方法においては、上記のようなSn層付きCu材を加圧状態で加熱する。これにより、Sn層が常にCu材へ押し付けられている状態を保つことができ、カーケンダルボイド(相互拡散の不均衡により発生した原子空孔)の発生を抑制して、均質なCu3Sn層を得ることができる。
【0054】
Sn層付きCu材の加圧は、Snに対して不活性な材料を介して実施することができる。Snに対して不活性な材料は、気体でも固体でもよい。Snに対して不活性な材料は、容易に入手できる観点から、C(炭素)材料であることが好ましく、大気圧下で実施できる簡便性から、粉末材料であることが好ましく、C(炭素)粉末であることがより好ましい。Sn層付きCu材の加圧は、具体的には、Sn層付きCu材を、Snに対して不活性な材料(特に、C材料粉末)中に埋没させて実施することが好ましい。Sn層付きCu材を、Snに対して不活性な材料中に埋没させ、その材料に加圧を行うことで、等方圧下でSn層付きCu材を加熱する。上記粉末材料の平均粒径は、特に制限されないが、例えば1~1000μmである。この平均粒径は、Sn層に対する均一な密着およびハンドリング性を考慮して、30~700μmであることが好ましく、50~500μmであることがより好ましい。なお、粉末の平均粒径は、例えば、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0055】
Sn層付きCu材への加圧力は、例えば1kPa~10MPaであることができる。これにより、Sn層をCu材へ充分に押し付け、かつCu材の破損を防止することができる。さらに、加圧力は、10kPa~7MPaであってもよく、15kPa~5MPaであってもよい。本明細書において、加圧力は、大気圧以外の外力によって物体に付与された圧力を意味する。
【0056】
Sn層付きCu材の加熱は、例えば電気炉などの加熱装置を用いて行う。加熱温度および加熱時間は、Sn層の厚さや、Sn層のどの範囲までCu3Sn層を生成させるかなどを考慮して適宜調整される。加熱温度は、例えば250~450℃の範囲とすることができ、260~430℃であることが好ましく、270~420℃であることがより好ましい。加熱時間は、例えば1~100h(時間)の範囲とすることができ、5~70hであることが好ましく、10~50hであることがより好ましい。
【0057】
本発明の製造方法において、加圧状態での加熱は、Sn層のCu材側がCu3Snとなり、表層側がSnとなる条件で実施することができる。この条件での実施により、Sn層の一部のみをCu3Sn層の生成に使用し、Cu3Sn層の表面にSn層を残すことができる。これにより、この残ったSn層を、接合時にインサート材と一緒になって接合層を生成するための材料として使用できる。このSn層は、接合時に、接合層を生成するため大部分またはすべて消費されることが好ましく、接合後、接合部に残らないことが好ましい。
【0058】
本発明の製造方法において、加圧状態での加熱は、Sn層のCu材側がCu3Snとなり、かつ表層側がCu6Sn5となる条件で実施することもできる。この条件での実施により、Cu3Sn層の表層部にSnリッチのCu6Sn5層を生成させることができる。これにより、表層部のCu6Sn5層を、接合時にインサート材と一緒になって接合層を生成するための材料として使用できる。このCu6Sn5層は、接合時に、接合層を生成するため大部分またはすべて消費されることが好ましく、接合後、接合部に残らないことが好ましい。
【0059】
本発明の製造方法において、加圧状態での加熱は、Sn層の表面において、Sn層が上記Cu材とは異なるCu材料と接触した状態で、実施されてもよい。これにより、Sn層の両面で、CuおよびSnの熱拡散を生じさせて、厚さ方向に均質なCu3Sn層を形成しやすくなる。そのような状態は、例えば、Sn層付きCu材をCu粉末に埋没させること、または、Sn層の表面にさらにCu層を形成することにより実現できる。
【0060】
Sn層付きCu材の埋没に用いるCu粉末の粒径は、特に制限されないが、例えば1~1000μmである。この平均粒径は、Sn層に対する均一な密着およびハンドリング性を考慮して、30~700μmであることが好ましく、50~500μmであることがより好ましい。
【0061】
上記追加のCu層の形成方法としては、例えば、蒸着法、スパッタリング法およびめっき法など、公知の金属膜の成膜法を使用できる。特に、大気圧下で実施できる簡便性から、このCu層の形成方法は、めっき法であることが好ましく、その中でも、成膜効率および厚さを制御しやすい観点から、電解めっき法であることがより好ましい。上記Cu層の厚さは、特に制限されず、例えば、500nm~500μmであることができる。Cu3Sn層を適切に生成させる観点から、Cu層の厚さは、1~200μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。この追加のCu層を設ける場合において、さらにSn層およびCu層を交互に積層することもできる。これにより、厚さ方向に均質なCu3Sn層を形成しやすくなる。製造工程の簡便性の観点から、Sn層およびCu層は、それぞれ2層以下であってもよく、それぞれ1層(つまり、Cu材/Sn層/Cu層)であってもよい。
【0062】
さらに、本発明の複合Cu材は、例えば、Cu材の表面の少なくとも一部とSn材料が接触した状態で加圧および加熱することにより、得ることができる(第2の製造方法)。第2の製造方法では、加熱処理により、Cu材およびSn材料の接触界面でCuおよびSnの熱拡散を生じさせて、Cu3Sn層を生成させる。
【0063】
第2の製造方法においては、上記のように接触するCu材およびSn材料を加圧状態で加熱する。これにより、Sn材料が常にCu材へ押し付けられている状態を保つことができ、カーケンダルボイドの発生を抑制して、均質なCu3Sn層を得ることができる。
【0064】
Sn材料は、例えばSn板、Sn箔、SnチップおよびSn粉末など中から、Cu材の形状に合わせて適宜選択可能である。Cu材に対する均一な接触を実現する観点から、Sn材料は、Sn粉末であることが好ましい。Sn粉末の平均粒径は、Cu材に対する均一な密着およびハンドリング性を考慮して、例えば30~700μmであることが好ましく、50~500μmであることがより好ましい。Sn材料がSn粉末である場合には、等方圧下で加圧を行えるように、Cu材をSn粉末に埋没させることが好ましい。
【0065】
Sn材料およびCu材は、少なくともCu3Sn層を生成させる表面で互いに接触していればよい。Sn材料およびCu材を接触させたくない領域がある場合には、例えば、テーピングなどでマスクすることができる。
【0066】
Sn材料およびCu材への加圧力は、例えば1kPa~10MPaの範囲であることができる。これにより、Sn材料をCu材へ充分に押し付け、かつCu材の破損を防止することができる。さらに、加圧力は、10kPa~7MPaであることが好ましく、15kPa~5MPaであることがより好ましい。
【0067】
Sn材料およびCu材の加熱は、例えば電気炉などの加熱装置を用いて行うことができる。加熱温度および加熱時間は、Cu3Sn層の目標厚さなどにより、適宜調整される。加熱温度は、例えば250~450℃であり、260~430℃であることが好ましく、270~420℃であることがより好ましい。加熱時間は、例えば1~100h(時間)であり、5~70hであることが好ましく、10~50hであることがより好ましい。
【0068】
上記で説明した本発明の複合Cu材の2つの製造方法のうち、Cu3Sn層の厚さ制御が容易であるという観点から、第1の製造方法が好ましい。
【0069】
本発明の上記2つの製造方法において、加圧状態での加熱後、さらに、そのCu材の表面に、Sn層を成膜する別の工程を実施してもよい。これにより、この成膜で追加されたSn層を、接合時にインサート材と一緒になって接合層を生成するための材料として使用できる。この成膜によるSn層は、例えば、加圧状態での加熱後に、別途、めっき法等の成膜技術で得られる。この成膜で追加されるSn層は、加熱後にCu3Sn層の表面に残ったSn層の表面に形成してもよい。また、この成膜で追加されるSn層は、加熱後にCu3Sn層の表面に形成されたCu6Sn5層の表面に形成してもよい。
【0070】
本発明の上記2つの製造方法において、加圧状態での加熱後、さらに、そのCu材の表面に、インサート材としてのCu層を成膜する別の工程を実施してもよい。これにより、接合の際に、Cu箔やCu粒子などの別途のCu材料の使用を省略でき、或いは、その使用量を減じることができる。このインサート材としてのCu層は、例えば、加圧状態での加熱後に、別途、めっき法等の成膜技術で得られる。このインサート材としてのCu層は、加熱後にCu3Sn層の表面に残ったSn層の表面に形成してもよい。また、このインサート材としてのCu層は、加熱後にCu3Sn層の表面に形成されたCu6Sn5層の表面に形成してもよい。
【0071】
本発明の上記2つの製造方法において、加圧状態での加熱後、上記成膜技術によりSn層およびCu層を交互に積層することもできる。ただし、製造工程の簡便性の観点から、上記のような成膜によるSn層およびCu層は、それぞれ2層以下であってもよく、それぞれ1層(例えば、Cu材/Cu3Sn層/Cu6Sn5層/成膜によるSn層/成膜によるCu層)であってもよい。なお、加圧状態での加熱後、Sn層およびCu層を交互に積層する場合において、最初に形成されたCu層以降の層(Sn層を含む。)は、インサート材とする。つまり、そのような積層を有する複合Cu材は、インサート材付きの複合Cu材と言える。
【0072】
「接合体の製造方法」
本発明の複合Cu材を利用した接合体の製造方法は、複合Cu材を接合部位に有する部材Aと、他のCu材を接合部位に有する部材Bとを準備し、複合Cu材が有するCu3Sn層と上記他のCu材との間にインサート材を挟んだ状態で、部材Aおよび部材Bの接合部分を加熱して、部材Aおよび部材Bを接合した接合体を得ることを含む。ここで、インサート材は、単独でまたは複合Cu材の表層部と一緒になって、Cu-Sn基化合物を生成可能な材料である。
【0073】
本発明の複合Cu材を利用した接合体の製造方法では、複合Cu材を表面に有する部材同士を接合することも、一方の部材が、複合Cu材を表面に有する部材であり、他方の部材が、通常のCu材を表面に有する部材であることもできる。熱安定性に優れた接合を得るという観点から、接合対象の両方の部材が本発明の複合Cu材をそれぞれ有し、複合Cu材同士を接合することが好ましい。このとき、1つの複合Cu材が有するCu材が上記「他方のCu材」に相当する。複合Cu材同士を接合する場合、本発明の複合Cu材を利用した接合体の製造方法は、部材Aが有する第1の複合Cu材中のCu3Sn層と、部材Bが有する第2の複合Cu材中のCu3Sn層との間にインサート材を挟んだ状態で、部材Aおよび部材Bの接合部分を加熱して、部材Aと部材Bを接合した接合体を得ることを含む。
【0074】
本発明の複合Cu材を利用した接合体の製造方法において、部材Aが、電子部品または実装基板であり、部材Bが、実装基板または電子部品であり、接合体が、それらの電子部品および実装基板が互いに接合した電子部品実装基板であり得る。複合Cu材同士を接合する場合、複合Cu材を接合部位に有する部材Aは、複合Cu材を接合部位に有する電子部品であり、複合Cu材を接合部位に有する部材Bは、複合Cu材を接合部位に有する実装基板であり、接合体は、それらの電子部品および実装基板が互いに接合した電子部品実装基板であり得る。
【0075】
本発明の接合体の製造方法において、接合体は、電子部品および実装基板の接合体であり、複合Cu材は、電子部品のCu電極または実装基板のCu配線の少なくとも一部であり得る。特に、上記製造方法において、第1の複合Cu材が、電子部品のCu電極の少なくとも一部であり、第2の複合Cu材が、実装基板のCu配線の少なくとも一部であることが好ましい。これにより、接合体として、電子部品および実装基板の接合体である電子部品実装基板が得られる。
【0076】
インサート材は、上記のとおりCu-Sn基化合物を生成し、接合層を形成する。接合層に含まれるCu-Sn基化合物は、CuおよびSnの総量が主成分(例えば50質量%以上)である化合物であり、はんだ材料として通常使用されているBi、Ag、ZnおよびInなどの他の成分を含み得る。Cu-Sn基化合物は、CuおよびSnからなるCu-Sn系IMCであることが好ましい。インサート材は、複合Cu材の表層部の材料を考慮しながら、例えば下記1~3のとおり適宜選択される。
【0077】
<1.CuおよびSnの熱拡散による接合>
複合Cu材の表層部の材料がCu3Snである場合には、例えば、Cu材料とSn材料を3:1のモル比で含有するインサート材や、Cu3Sn粒子を含むインサート材を使用できる。これらのインサート材を用いることで、インサート材単独でCu3Snからなる接合層を形成できる。インサート材はペースト状でもよい。上記Cu材料およびSn材料の供給源としては、Cu箔、複合Cu材表面に予め設けられたCu層、Cu粒子、Sn箔、Sn粒子、および、Cu粒子をSn膜で被覆したCuコア-Snシェル粒子などが挙げられる。
【0078】
複合Cu材の表層部の材料がSnである場合には、例えば、Cu材料を含有するインサート材を使用できる。この場合、インサート材と表層部のSnとが一緒になってCu3Snからなる接合層が形成される。即ち、インサート材中のCuが表層部のSn内に拡散したり表層部のSnがインサート材中のCuに拡散したりする等により、Cu3Snが生成する。インサート材はペースト状でもよい。この際、Cu材料中のCuと、複合Cu材の表層部のSn材料中のSnとのモル比が3:1となるように、Cu材料の量を調整することが好ましい。なお、全体としてCuとSnのモル比が3:1となるのであれば、インサート材にSn材料が含まれていてもよい。上記Cu材料およびSn材料の供給源としては、Cu箔、複合Cu材表面に予め設けられたCu層、Cu粒子、Sn箔、Sn粒子、および、Cu粒子をSn膜で被覆したCuコア-Snシェル粒子などが挙げられる。この場合、複合Cu材のCu3Sn層上に予めSn層が存在するため、Cu3Sn層とSn層の密着性が高く、熱安定性に優れた接合が行える。
【0079】
<2.低融点Sn合金を用いた接合>
複合Cu材の表層部の材料がCu3Snである場合に、2つのCu3Sn層の間に、Sn-Bi合金のような低融点Sn合金とCuのインサート材を挟んだ状態で加熱する。これにより低融点Sn合金を溶融させ、その状態でCuとの拡散を生じさせてCu-Sn基化合物からなる接合層を生成させる。このように、接合層の形成に際し、インサート材を溶融状態とすることで、本発明の複合Cu材中のCu3Sn層と加圧なしで接合することができる。
【0080】
<3.Cu6Sn5層を介した接合>
複合Cu材の表層部の材料がCu6Sn5である場合には、例えば、Cu材料を含有するインサート材を使用できる。インサート材とこの表層部のCu6Sn5が一緒になってCu3Snからなる接合層が形成される。即ち、インサート材中のCuが、SnリッチのCu6Sn5内に拡散したり、Cu6Sn5中のSnがインサート材中のCuに拡散したりする等により、Cu3Snが生成する。インサート材はペースト状でもよい。この際、上記表層部(Cu6Sn5)および上記Cu材料中の合計のCuと、上記表層部中のSnとのモル比が3:1となるように、Cu材料の量を調整することが好ましい。なお、全体としてCuとSnのモル比が3:1となるのであれば、インサート材にSn材料が含まれていてもよい。上記Cu材料およびSn材料の供給源としては、上記1.の場合と同様である。
【0081】
接合体の製造方法における加熱は、例えばホットプレスなどの加熱装置を用いて加熱したり、電気炉を用いて錘を載せた状態で加熱したりして行うことができる。加熱温度および加熱時間は、複合Cu材の表層部の材料および結合層の構成などにより、適宜調整される。加熱温度は、例えば200~400℃であり、210~370℃であってもよく、220~350℃であってもよい。加熱時間は、例えば10min~50hであり、20min~25hであってもよく、25min~15hであってもよい。
【0082】
接合体の製造方法において、必要に応じて、複合Cu材を加圧しながら加熱してもよい。これにより、CuおよびSnの拡散を利用する際に、その拡散を促進することができる。このときの加圧力は、例えば1kPa~5MPaである。加圧力は、5kPa~3MPaであってもよく、10kPa~1MPaであってもよい。但し、第1の複合Cu材が、電子部品のCu電極の少なくとも一部であり、第2の複合Cu材が、実装基板のCu配線の少なくとも一部である場合、特に電子部品の耐熱性および耐圧性を考慮して、温度および圧力を選択することが適当である。
【0083】
複合Cu材が、その表面にSn層やCu6Sn5層を有する場合には、接合時に、接合層を生成するため、それらの層の大部分またはすべて消費されることが好ましく、接合後、接合部に残らないことが好ましい。
【実施例0084】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0085】
「1.複合Cu材の製造方法(Snめっき層あり)」
Cu材としてCu線(直径0.5mm)およびCu板(10mm×10mm、厚さ0.3mm)を用いた。これらのCu材の表面に電解めっき法によりSnめっき層を形成し、そのSn層付きCu材を加圧用粉末に埋没させた状態で加圧しながら加熱処理を施して、複合Cu材を得た。めっき条件および加圧加熱条件のうち、サンプルごとに変えた条件は表1のとおりであり、各工程の具体的な手順は下記のとおりである。なお、サンプル12では、加熱処理の後、1回目の条件と同じ条件で、もう一度めっき処理を施して、複合Cu材の表面をSnめっき層とした(つまり、めっき処理→加熱処理→めっき処理)。
【表1】
【0086】
<1-1.Cu材へのSnめっき処理>
各サンプルのCu材表面の酸化被膜を除去した後に、1.6mol/LのHClからなるめっき溶液またはSnSO4を含む下記のめっき溶液を用いてCu材にSnの電解めっきを施した。その際、陽極として、Sn-3.0Ag-0.5Cu系はんだ(SACはんだ)またはSn箔を使用し、陰極として、めっきを施すCu材を使用した。電源には、ポテンショスタット/ガルバノスタットを使用した。めっき時の電流密度は20mA/cm2とし、目標めっき厚は20μmとした。
・SnSO4を含むめっき溶液
・・SnSO4 0.186mol/L
・・硫酸 0.612mol/L
・・o-クレゾール-4-スルホン酸 0.319mol/L
・・ゼラチン 2g/L
・・β-ナフトール 3.47×10-3mol/L
【0087】
図2は、SnSO4を含むめっき溶液を用いたSnめっき層付きCu線の断面写真であり、図3は、各めっき溶液によるめっき処理を経たSnめっき層付きCu線の断面のSEM画像である。SnSO4を含むめっき溶液を用いた場合には、Snめっき層表面の凹凸が小さく、均一性の高い厚さのSnめっき層が形成されていた。HClめっき溶液を用いた場合には、SnSO4を含むめっき溶液を用いた場合に比べて、表面の凹凸が大きく、Snめっき層の厚さが薄かった。
【0088】
<1-2.加熱処理前の準備>
図4に示すような加熱処理用の型を用意した。この型は、その中に詰められた材料の上に蓋を載せて荷重をかけることにより、その材料に対して加圧を行えるようになっている。この型に加圧用粉末(C粉末、Cu粉末またはSn粉末)を詰め、上記の工程を経たCu材をこの粉末中に埋没させ、粉末の上から荷重をかけるように蓋を置いた。これにより、粉末中のCu材に等方的に圧力をかけることができる。加圧力は、蓋の上に錘を載せることで調整した。C粉末およびSn粉末の物性は下記のとおりである。
・C粉末:直径10μm、長さ200μmのファイバー状、三菱ケミカル株式会社製、K223HM。
・Cu粉末:株式会社ニラコ製、CU-114111。
・Sn粉末:小宗化学薬品株式会社製、試薬・最純。
【0089】
<1-3.Cu3Sn層を生成するための加熱処理>
蓋の上に錘を載せた状態で、Sn層付きCu材を入れた型を大気雰囲気中の電気炉に配置し、サンプルごとに表1に示す条件で加熱処理を実施した。
【0090】
<1-4.結果>
図5に、加熱処理後の各サンプルの断面写真を示す。図中の点線で囲まれた各領域は、Cu成分が残った領域を示す。エネルギー分散型X線分光法(EDS)によるCu線断面の分析を行ったところ、いずれのサンプルでも、その領域の外側にCu3Sn層が形成できていた。
【0091】
例えば、図6Aは、サンプル9(Cu線)のCu線断面のSEM画像を示し、図6A中の右の画像は、左の画像中の領域Aの拡大画像である。EDS分析は、図6A中の1~3の測定箇所で行った。図6Bは、測定箇所1におけるEDS分析の結果を示し、図6Cは、測定箇所2および3におけるEDS分析の結果を示す。なお、酸素原子含量が多い領域は、測定用樹脂が存在する領域である。図6Bおよび図6Cに示されるように、いずれの箇所においても、SnO2分を除いたCuおよびSnの存在比は概ね3:1であり、Cu-Sn系IMCとしてはCu3Snのみが生成し、Cu6Sn5は生成していなかった。Cu3Sn層の厚さは約45μmであった。
【0092】
また、サンプル11(Cu板)のEDS分析においても、Cu-Sn系IMCとしてCu3Snのみが生成していることを確認した。Cu3Sn層の厚さは約25μmであった。
【0093】
「2.複合Cu材の製造方法(Snめっき層なし)」
Cu材としてCu線(直径0.5mm)を用いた。このCu線をSn粉末に埋没させた状態で、加熱処理を施して、複合Cu材を得た。具体的な手順は下記のとおりである。
【0094】
<2-1.加熱処理前の準備>
図4に示すものと同様の加熱用型を用意し、この型の中にSn粉末を詰め、表面の酸化被膜を除去したCu線をこの粉末中に埋没させ、粉末の上から荷重をかけるように蓋を置いた。これにより、粉末中のCu線に等方的に圧力をかけることができる。このときの加圧力は62kPaとした。加圧力は、蓋の上に錘を載せることで調整した。Sn粉末の物性は前述のものと同一である。
【0095】
<2-2.Cu3Sn層を生成するための加熱処理>
蓋の上に錘を載せた状態で、Cu材を入れた型を大気雰囲気中の電気炉に配置し、300℃および18hの条件で加熱処理を実施した。
【0096】
<2-3.結果>
図7は、加熱処理後のサンプルの断面図(a横断面、b縦断面)を示す。図中の点線の上側領域は、Cu成分が残った領域を示す。EDSによるCu線断面の分析を行ったところ、その領域の外側にCu3Sn層が形成できていた。
【0097】
「3.複合Cu材の接合を使用した接合体の製造方法」
表1に示したサンプル11(Cu3Sn層が最表面である。)と同様の条件で作製した複合Cu材を2つ用意し、これらの接合を実施した。図8は、2つの複合Cu材を接合する際の様子を示す接合部概略断面図である。各複合Cu材表面のCu3Sn層の間にCu箔およびSn箔を挟み(図8)、加圧力30kPa、温度230℃および時間1hの条件の下、これらのサンプルを加熱した。ここで、Cu箔におけるCuモル量と、2つのSn箔の合計のSnモル量とが、3:1となるように、Cu箔およびSn箔のそれぞれの厚さを調整した。このように、Cu3Sn層の間でSnおよびCuの熱拡散を促すことにより、それらの層の間に新たなCu-Sn系IMC(特にCu3Sn)の層(接合層)を生成させ、上下のCu3Sn層を接合して、2つの複合Cu材が接合された接合体を得た。この接合体は、200℃以上の温度下でも充分な接合強度を有していた。
【0098】
さらに、表1に示したサンプル12(Snめっき層が最表面である。)と同様の条件で作製した複合Cu材を2つ用意し、これらの接合も実施した。各複合Cu材表面のSnめっき層の間にCu箔を挟み(層構造としては図8の場合と同じ)、加圧力30kPa、温度230℃および時間1hの条件の下、これらのサンプルを加熱した。ここで、Cu箔におけるCuモル量と、2つのSnめっき層の合計のSnモル量とが、3:1となるように、Cu箔およびSnめっき層のそれぞれの厚さを調整した。このように、Cu3Sn層の間でSnおよびCuの熱拡散を促すことにより、それらの層の間に新たなCu-Sn系IMC(特にCu3Sn)の層(接合層)を生成させ、上下のCu3Sn層を接合して、2つの複合Cu材が接合された接合体を得た。この接合体は、200℃以上の温度下でも充分な接合強度を有していた。
【符号の説明】
【0099】
1 複合Cu材
3 電子部品
5 実装基板
7 接合体
10a~e Cu材
10f Cu電極
10g Cu配線
20a~f Cu3Sn層
30c、30e Sn層
35 接合層
40d、40e Cu6Sn5
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8