(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042799
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】エアゾール用抗微生物組成物及びこれを含む混合組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 47/44 20060101AFI20220308BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20220308BHJP
A01N 25/06 20060101ALI20220308BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220308BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20220308BHJP
A61L 9/14 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
A01N47/44
A01N25/02
A01N25/06
A01P1/00
A61L9/01 K
A61L9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148395
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水向 祐樹
【テーマコード(参考)】
4C180
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180AA19
4C180CB01
4C180EB06Y
4C180EB21X
4C180GG07
4H011AA01
4H011BB11
4H011DA13
4H011DA21
4H011DB05
4H011DE16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】空気中にエアゾールとして長時間浮遊させることができるエアゾール用抗微生物組成物及びこれを含む混合組成物の提供。
【解決手段】重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液、及び、55重量%以上のアルコールを含むことを特徴とするエアゾール用抗微生物組成物。好ましくは、該重合体ビグアナイドは、ポリアルキレンビグアナイド化合物である、エアゾール用抗微生物組成物。より好ましくは、該重合体ビグアナイドは、ポリヘキサメチレンビグアナイド化合物である、エアゾール用抗微生物組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液、及び、55重量%以上のアルコールを含むことを特徴とするエアゾール用抗微生物組成物。
【請求項2】
前記重合体ビグアナイドは、ポリアルキレンビグアナイド化合物である請求項1に記載のエアゾール用抗微生物組成物。
【請求項3】
前記重合体ビグアナイドは、ポリヘキサメチレンビグアナイド化合物である請求項1又は2に記載のエアゾール用抗微生物組成物。
【請求項4】
前記アルコールは、エタノールである請求項1~3のいずれか1項に記載のエアゾール用抗微生物組成物。
【請求項5】
前記エアゾール用抗微生物組成物は、噴射により平均粒径1~15μmのエアゾールが形成される請求項1~4のいずれか1項に記載のエアゾール用抗微生物組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のエアゾール用抗微生物組成物と噴射剤とを含む混合組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール用抗微生物組成物及びこれを含む混合組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原体である種々の微生物を媒介とした感染症が短時間で急激に広がる、いわゆる「パンデミック」が問題になっており、SARS(重症急性呼吸器症候群)や、ノロウィルス、鳥インフルエンザ等のウィルス感染による死者も報告されている。
【0003】
そこで、様々な細菌やウィルスに対して抗菌、抗ウィルス効果を発揮する抗菌、抗ウィルス剤の開発が活発に行われている。
【0004】
特許文献1には、ビグアナイド系カチオン殺菌消毒剤であるグルコン酸クロロヘキシジンと45重量%を上限としてエタノールを含み、エアゾール剤として使用される医薬組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-217394号公報
【特許文献2】特開平6-169676号公報
【特許文献3】特表2020-526577号公報
【特許文献4】特開2004-250331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された医薬組成物は、実際、空気中にスプレー噴射してエアゾール化させようとしても、平均粒径が15μmを超える大きなミストとなってしまい、空気中に長時間浮遊させることができないという問題があることが分かった。特許文献2には、エアゾール装置から噴霧される内容物は、内容物の噴霧粒子の平均粒子径(体積分布での50%累積値における粒径)が20μm以下、特に15μm以下にすることが最適であると記載されている。本文献から、平均粒子径15μm以下の噴霧粒子を形成することによりエアゾール装置の内容物が床面へ落下しにくくなり、空気中に長時間浮遊することが可能となることが確認できる。
また、特許文献3には、次亜塩素酸もしくは遊離塩素を必須成分として含む消毒剤組成物の様々な態様が開示されているが、エアゾールとして空気中に長時間浮遊させることについては何ら開示されていない。また、特許文献4には、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含む消臭性組成物が開示されており、噴霧により組成物中の静菌剤や防虫剤を抱含するマイクロカプセルを生成することが開示されている。しかし、エアゾールとして空気中に長時間浮遊させることは何ら開示されておらず、また、このようなマイクロカプセルは呼吸によりヒトやその他動物の肺胞に入った場合、人体やその他動物に対して予期しない悪影響を引き起こす可能性がある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、空気中にエアゾールとして長時間浮遊させることができるエアゾール用抗微生物組成物及びこれを含む混合組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
エアゾール用抗微生物組成物のミストを、空気中にエアゾールとして長時間浮遊させるためには、エアゾール用抗微生物組成物のミストの平均粒径を1~15μmに調整する必要があるが、本発明者は、鋭意研究の結果、エアゾール用抗微生物組成物中のアルコールの重量比率を上記特許文献1よりも多い55重量%以上に調整することで、このようなエアゾール用抗微生物組成物から形成されるミストの平均粒径が1~15μmに調整され、エアゾール用抗微生物組成物をエアゾールとして長時間空気中に浮遊させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液、及び、55重量%以上のアルコールを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物によれば、重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液、及び、55重量%以上のアルコールを含むので、噴射剤とエアゾール用抗微生物組成物とを液相中に相分離しない状態で均一混合させやすくなり、スプレー噴射時に噴射剤が液相から急速に揮発することにより、エアゾール用抗微生物組成物を含む液相が分断されて、平均粒径が1~15μm程度の細かい粒子が得られる。このため、本発明のエアゾール用抗微生物組成物を、エアゾールとして空気中に長時間浮遊させることが可能となった。その結果、本発明のエアゾール用抗微生物組成物を用いることにより、空気中に浮遊するウィルス、細菌及び/又はカビを不活性化させることができる。
なお、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、次亜塩素酸および遊離塩素を含まないことが望ましい。このような成分を含む微細粒子がヒトやその他動物の肺胞に入った場合、人体やその他動物に対する影響が予期できないからである。また、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを有していないことが望ましい。エアゾールあるいはミストが乾燥、ゲル化してマイクロカプセルが生じ、このようなマイクロカプセルがヒトやその他動物の肺胞に入った場合、人体やその他動物に悪影響を及ぼす可能性があるからである。このように人体やその他動物に対する影響が予期できない成分を微細粒子化することは望ましくない。
【0011】
本明細書において、抗微生物とは、抗ウィルス、抗菌、抗カビ及び防カビを含む概念である。従って、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、抗ウィルス、抗菌、抗カビ及び防カビのためのエアゾール用抗微生物組成物である。また、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、抗ウィルスのためのエアゾール用抗微生物組成物であることが好ましい。
【0012】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、重合体ビグアナイド及び/又はその塩を含む。重合体ビグアナイドは、人体に害がなく、抗微生物活性に優れている。重合体ビグアナイド及び/又はその塩は、食品加工工場や医療現場で用いられている成分であり、人体への安全性が認められている成分である。そのため、エアゾールとして微細化粒子化するのに好適な成分である。
本発明で使用される重合体ビグアナイドを構成する化合物は、特に限定されるものではないが、ポリアルキレンビグアナイド化合物であることが望ましく、特にポリヘキサメチレンビグアナイド化合物であることが最も望ましい。
【0013】
前記重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液の濃度は、50~5000ppmが望ましく、250~1000ppmがより望ましい。
【0014】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物における前記重合体ビグアナイド及び/又はその塩の濃度は、25~2500ppmが望ましい。
【0015】
本発明で使用される重合体ビグアナイドは、ポリアルキレンビグアナイド化合物であることが望ましく、下記式(1)で示されるものが好ましい。
【0016】
【0017】
[式中、Raは炭素数2~8のアルキレン基、nは2~18の整数を示す。]
【0018】
上記式(1)において、Raで示される炭素数2~8のアルキレン基には、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン(ヘキサメチレン)、ヘプチレン(ヘプタメチレン)、オクチレン(オクタメチレン)等の直鎖状のものの他、イソプロピレン、イソブチレン、イソペンチレン、ジメチルプロピレン、ジメチルブチレン等の分岐鎖状のものも含まれるが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。
【0019】
また、ウィルス不活化等の抗微生物効果の点から、上記式(1)におけるRaは、炭素数4~8のアルキレン基が好ましく、ヘキサメチレン基が特に好ましい。なお、上記式(1)におけるnは2~18の整数であり、ウィルス不活化効果等の抗微生物効果、取扱い性等を考慮すると、好ましくは10~14の整数であり、より好ましくは11~13の整数である。
【0020】
上記式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物は、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸との塩の形態、または酢酸、乳酸、グルコン酸等の有機酸との塩の形態でも用いることができる。かかる塩の中では、塩酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩が好ましく、塩酸塩が最も好ましく用いられる。本発明のエアゾール用抗微生物組成物には、上記式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが望ましい。本発明のエアゾール用抗微生物組成物には、上記式(1)で示されるポリアルキレンヒグアナイド化合物及びその塩が、1種類のみ含まれてもよく、2種類以上含まれてもよい。
【0021】
本発明において、ポリアルキレンビグアナイド化合物及び/又はその塩としては、公知の方法、たとえば英国特許第702,268号等に記載された方法に従って製造したものを用いてもよく、市販の製品を用いてもよい。市販の製品としては、「エクリンサイドBG(「エクリン」は理工協産株式会社の登録商標)」(理工協産株式会社製)、「プロキセルIB」(アーチ・ケミカルズ社製)、「ロンザバックBG」(ロンザジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0022】
また、本発明は、上述の本発明のエアゾール用抗微生物組成物と噴射剤とを含む混合組成物でもある。該混合組成物中において、本発明のエアゾール用抗微生物組成物と噴射剤とは、液相中に相分離せず均一混合されていることが好ましい。なお、噴射剤は一般に圧縮ガス、液化ガスであるため、液相中から揮発し気相(蒸気相)を形成する。そのため、上述の好適な態様(本発明のエアゾール用抗微生物組成物と噴射剤とが液相中に相分離せず均一混合されることが好ましい)は、液相中における好適な態様であって、噴射剤が液相から揮発して気相(蒸気相)を形成することを除外するものではない。また、上記噴射剤としては、本発明の属する分野において通常使用される噴射剤を用いることができ、特に限定されないが、例えば、ジメチルエーテル(DME)、窒素、液化石油ガス(LPG)、炭酸ガス等を使用でき、これらを単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。なかでもジメチルエーテル(DME)を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の混合組成物において、噴射剤の含有量は、混合組成物の総重量に対し、重量比で55~80重量%であることが望ましい。なお、混合組成物の総重量は、噴射剤重量と上述の本発明のエアゾール用抗微生物組成物の総重量との合計である。
【0024】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物をエアゾール粒子化する方法は、本発明の属する分野において通常使用される方法により行うことができ、特に限定されるものではない。例えば、噴射剤を封入したスプレー装置を用いて行うことができる。一般にはスプレー装置は、内部に原液と噴射剤とからなる組成物が封入された容器を備え、容器の上部にバルブ、アクチュエーター及びノズルを備える。そして、アクチュエーターを押すとバルブが開き、容器内部の噴射剤の圧力により原液が噴射剤と共にノズルから噴射される。本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、噴射剤を含まない原液に該当する。
【0025】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、55重量%以上のアルコールを含有する。アルコールを55重量%以上含有することで、噴射剤とエアゾール用抗微生物組成物とを液相中に相分離しない状態で均一混合させやすくなり、スプレー噴射時に、噴射剤が液相から急速に揮発することにより、エアゾール用抗微生物組成物を含む液相が分断されて平均粒径が1~15μm程度の細かい粒子が得られる。これにより、本発明のエアゾール用抗微生物組成物から形成されるエアゾールを空気中に長時間浮遊させることができる。
【0026】
また、本発明のエアゾール用抗微生物組成物には、アルコールを95重量%以下含有することが望ましい。なお本明細書におけるアルコール含有量は、アルコールの重量比率である。
また、噴射剤をエアゾール用抗微生物組成物に対して加える場合のアルコール含有量は、噴射剤を除いたエアゾール用抗微生物組成物の重量に対するアルコールの重量比率として計算する。
【0027】
本発明において、アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどを使用できるが、人体に影響が少ないエタノールが望ましい。
【0028】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、噴射により平均粒径1~15μmのエアゾールが形成されることが望ましい。これにより、本発明のエアゾール用抗微生物組成物から形成されるエアゾールを空気中に長時間浮遊させることができる。
【0029】
なお、本発明のエアゾール用抗微生物組成物における重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液の重量比率は、5重量%以上45重量%以下であることが好ましい。
【0030】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、エアゾール用に用いられる剤形であれば特に限定されないが、液剤であることが好ましい。
【0031】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば、香料、精油、粘度調整剤、泡調整剤、酵素、糖類、アミノ酸類等が挙げられる。なお、上記香料や精油としては、例えば、食品添加物として認められているゲラニオール、シトロネロール、オイゲノール、リナロール、テレピネオール、チモール、メントール、リモネン、ペリラアルデヒド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明のエアゾール用抗微生物組成物及び噴射剤(本発明の混合組成物)が封入されたスプレー装置の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のエアゾール用抗微生物組成物及び噴射剤(本発明の混合組成物)が封入されたスプレー装置を噴射している状態を示す概略図である。
【0033】
(発明の詳細な説明)
本発明のエアゾール用抗微生物組成物について説明する。
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液、及び、55重量%以上のアルコールを含むことを特徴とする。
【0034】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物によれば、重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液、及び、55重量%以上のアルコールを含むので、噴射剤とエアゾール用抗微生物組成物とを液相中に相分離しない状態で均一混合させやすくなり、スプレー噴射時に噴射剤が液相から急速に揮発することにより、エアゾール用抗微生物組成物を含む液相が分断されて、平均粒径が1~15μm程度の細かい粒子が得られる。このため、本発明のエアゾール用抗微生物組成物をエアゾールとして空気中に長時間浮遊させることが可能となった。その結果、本発明のエアゾール用抗微生物組成物を用いることにより、空気中に浮遊するウィルス、細菌及び/又はカビを不活性化させることができる。
なお、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、次亜塩素酸および遊離塩素を含まないことが望ましい。このような成分を含む微細粒子がヒトやその他動物の肺胞に入った場合、人体やその他動物に対する影響が予期できないからである。また、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを有していないことが望ましい。エアゾールあるいはミストが乾燥、ゲル化してマイクロカプセルが生じ、このようなマイクロカプセルがヒトやその他動物の肺胞に入った場合、人体やその他動物に悪影響を及ぼす可能性があるからである。このように人体やその他動物に対する影響が予期できない成分を微細粒子化することは望ましくない。
【0035】
本明細書において、抗微生物とは、抗ウィルス、抗菌、抗カビ及び防カビを含む概念である。従って、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、抗ウィルス、抗菌、抗カビ及び防カビのためのエアゾール用抗微生物組成物である。また、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、抗ウィルスのためのエアゾール用抗微生物組成物であることが好ましい。
【0036】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、重合体ビグアナイド及び/又はその塩を含む。重合体ビグアナイドは、人体に害がなく、抗微生物活性に優れている。重合体ビグアナイド及び/又はその塩は、食品加工工場や医療現場で用いられている成分であり、人体への安全性が認められている成分である。そのため、エアゾールとして微細化粒子化するのに好適な成分である。
本発明で使用される重合体ビグアナイドを構成する化合物は、特に限定されるものではないが、ポリアルキレンビグアナイド化合物であることが望ましく、特にポリヘキサメチレンビグアナイド化合物であることが最も望ましい。
【0037】
前記重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液の濃度は、50~5000ppmが望ましく、250~1000ppmがより望ましい。
【0038】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物における前記重合体ビグアナイド及び/又はその塩の濃度は、25~2500ppmが望ましい。
【0039】
本発明で使用される重合体ビグアナイドは、ポリアルキレンビグアナイド化合物であることが望ましく、下記式(1)で示されるものが好ましい。
【0040】
【0041】
[式中、Raは炭素数2~8のアルキレン基、nは2~18の整数を示す。]
【0042】
上記式(1)において、Raで示される炭素数2~8のアルキレン基には、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン(ヘキサメチレン)、ヘプチレン(ヘプタメチレン)、オクチレン(オクタメチレン)等の直鎖状のものの他、イソプロピレン、イソブチレン、イソペンチレン、ジメチルプロピレン、ジメチルブチレン等の分岐鎖状のものも含まれるが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。
【0043】
また、ウィルス不活化等の抗微生物効果の点から、上記式(1)におけるRaは、炭素数4~8のアルキレン基が好ましく、ヘキサメチレン基が特に好ましい。なお、上記式(1)におけるnは2~18の整数であり、ウィルス不活化効果等の抗微生物効果、取扱い性等を考慮すると、好ましくは10~14の整数であり、より好ましくは11~13の整数である。
【0044】
上記式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物は、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸との塩の形態、または酢酸、乳酸、グルコン酸等の有機酸との塩の形態でも用いることができる。かかる塩の中では、塩酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩が好ましく、塩酸塩が最も好ましく用いられる。本発明のエアゾール用抗微生物組成物には、上記式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが望ましい。本発明のエアゾール用抗微生物組成物には、上記式(1)で示されるポリアルキレンヒグアナイド化合物及びその塩が、1種類のみ含まれてもよく、2種類以上含まれてもよい。
【0045】
本発明において、ポリアルキレンビグアナイド化合物及び/又はその塩としては、公知の方法、たとえば英国特許第702,268号等に記載された方法に従って製造したものを用いてもよく、市販の製品を用いてもよい。市販の製品としては、「エクリンサイドBG(「エクリン」は理工協産株式会社の登録商標)」(理工協産株式会社製)、「プロキセルIB」(アーチ・ケミカルズ社製)、「ロンザバックBG」(ロンザジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0046】
また、本発明は、上述の本発明のエアゾール用抗微生物組成物と噴射剤とを含む混合組成物でもある。該混合組成物中において、本発明のエアゾール用抗微生物組成物と噴射剤とは、液相中に相分離せず均一混合されていることが好ましい。なお、噴射剤は一般に圧縮ガス、液化ガスであるため、液相中から揮発し気相(蒸気相)を形成する。そのため、上述の好適な態様(本発明のエアゾール用抗微生物組成物と噴射剤とが液相中に相分離せず均一混合されることが好ましい)は、液相中における好適な態様であって、噴射剤が液相から揮発して気相(蒸気相)を形成することを除外するものではない。また、上記噴射剤としては、本発明の属する分野において通常使用される噴射剤を用いることができ、特に限定されないが、例えば、ジメチルエーテル(DME)、窒素、液化石油ガス(LPG)、炭酸ガス等を使用でき、これらを単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。なかでもジメチルエーテル(DME)を用いることが好ましい。
【0047】
本発明の混合組成物において、噴射剤の含有量は、混合組成物の総重量に対し、重量比で55~80重量%であることが望ましい。なお、混合組成物の総重量は、噴射剤重量と上述の本発明のエアゾール用抗微生物組成物の総重量との合計である。
【0048】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液に加え、本発明の効果を阻害しない範囲で、本発明の属する技術分野において通常使用されている抗ウィルス成分、抗菌成分、抗カビ成分及び防カビ成分からなる群より選択される少なくとも1種の抗微生物成分を含んでもよい。なお、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、次亜塩素酸および遊離塩素を含まないことが望ましい。このような成分を含む微細粒子がヒトやその他動物の肺胞に入った場合、人体やその他動物に対する影響が予期できないからである。また、本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを有していないことが望ましい。エアゾールあるいはミストが乾燥、ゲル化してマイクロカプセルが生じ、このようなマイクロカプセルがヒトやその他動物の肺胞に入った場合、人体やその他動物に悪影響を及ぼす可能性があるからである。
【0049】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物をエアゾール粒子化する方法は、本発明の属する分野において通常使用される方法により行うことができ、特に限定されるものではない。例えば、噴射剤を封入したスプレー装置を用いて行うことができる。一般にはスプレー装置は、内部に原液と噴射剤とからなる組成物が封入された容器を備え、容器の上部にバルブ、アクチュエーター及びノズルを備える。そして、アクチュエーターを押すとバルブが開き、容器内部の噴射剤の圧力により原液が噴射剤と共にノズルから噴射される。本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、噴射剤を含まない原液に該当する。
【0050】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、55重量%以上のアルコールを含有する。アルコールを55重量%以上含有することで、噴射剤とエアゾール用抗微生物組成物とを液相中に相分離しない状態で均一混合させやすくなり、スプレー噴射時に、噴射剤が液相から急速に揮発することにより、エアゾール用抗微生物組成物を含む液相が分断されて平均粒径が1~15μm程度の細かい粒子が得られる。これにより、本発明のエアゾール用抗微生物組成物から形成されるエアゾールを空気中に長時間浮遊させることができる。
【0051】
また、本発明のエアゾール用抗微生物組成物には、アルコールを95重量%以下含有することが望ましい。なお本明細書におけるアルコール含有量は、アルコールの重量比率である。また、噴射剤をエアゾール用抗微生物組成物に対して加える場合のアルコール含有量は、噴射剤を除いたエアゾール用抗微生物組成物の重量に対するアルコールの重量比率として計算する。
【0052】
本発明において、アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどを使用できるが、人体に影響が少ないエタノールが望ましい。
【0053】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、噴射により平均粒径1~15μmのエアゾールが形成されることが望ましい。これにより、本発明のエアゾール用抗微生物組成物から形成されるエアゾールを空気中に長時間浮遊させることができる。
【0054】
(エアゾールの平均粒径の測定方法)
本発明のエアゾール用抗微生物組成物を噴射することにより形成されるエアゾールの平均粒径は、通常知られている方法で測定することができ、具体的には、直接観察法(光学顕微鏡、電子顕微鏡)、レーザー回折・散乱法、遠心沈降法、電気的検知帯法、光子相関法等を用いて測定することができる。
なかでも、レーザー回折・散乱法を用いて測定することが好ましく、市販のレーザー回折式粒子径分布測定装置(例えば、株式会社マツボー 商品名 HELO&RODOS)を用いて測定することができる。また、本発明における平均粒径は、特に説明が無い限りメジアン径(50%径)を表している。
【0055】
なお、本発明のエアゾール用抗微生物組成物における重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液の重量比率は、5重量%以上45重量%以下であることが好ましい。
【0056】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、エアゾール用に用いられる剤形であれば特に限定されないが、液剤であることが好ましい。
【0057】
本発明のエアゾール用抗微生物組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば、香料、精油、粘度調整剤、泡調整剤、酵素、糖類、アミノ酸類等が挙げられる。なお、上記香料や精油としては、例えば、食品添加物として認められているゲラニオール、シトロネロール、オイゲノール、リナロール、テレピネオール、チモール、メントール、リモネン、ペリラアルデヒド等が挙げられる。
【0058】
以下、本発明のエアゾール用抗微生物組成物及び噴射剤(すなわち、本発明の混合組成物と言い換えることができる)が封入されたスプレー装置について説明する。
図1は、本発明のエアゾール用抗微生物組成物及び噴射剤(本発明の混合組成物)が封入されたスプレー装置を説明するための概略図であり、
図2は、上記スプレー装置を噴霧している状態を示す概略図である。なお、本発明のエアゾール用抗微生物組成物及び噴射剤(本発明の混合組成物)が封入されたスプレー装置について、
図1及び
図2を参照して説明するが、スプレー装置は
図1及び
図2に示すスプレー装置に限定されるものではなく、一般的に用いられるスプレー装置を使用することができる。
【0059】
図1及び
図2に示すスプレー装置は、市販されているものである。スプレー装置1は、噴射剤とエアゾール用抗微生物組成物(溶液)とを含む混合組成物(溶液)を封入する缶状容器10を有し、缶状容器10内では、噴射剤が蒸気相を形成し、噴射剤とエアゾール用抗微生物組成物とを含む混合組成物が液相を形成している。スプレー装置1は、スプレーノズル2を有するアクチュエーター3、アクチュエーター3と連結するステム4、ステム4と共働して混合組成物がノズル側に漏れないようにシールするステムガスケット5、混合組成物を吸い上げるパイプ7から構成されている。アクチュエーター3を押し下げると、それに連結しているステム4が下げられる。ステム4が下げられると、ステムガスケット5とステム4とが接することにより閉じられていたステム孔6が開放されて、噴射剤の圧力で押し下げられた混合組成物がパイプ7から吸い上げられ、アクチュエーター3のスプレーノズル2から混合組成物が噴射される。混合組成物がスプレー装置から噴射される際に混合組成物中の噴射剤が液相から急速に揮発することにより、エアゾール用抗微生物組成物を含む液相が分断され、平均粒径が1~15μm程度の細かい粒子が得られる。
図1及び
図2に示すスプレー装置では、ステム4及びステムガスケット5によりバルブが形成されている。
なお、噴射剤としては、上述の通り本発明の属する分野において通常使用される噴射剤を用いることができ、例えば、ジメチルエーテル(DME)、窒素、液化石油ガス(LPG)などを使用できる。
【0060】
スプレー装置1に封入される噴射剤は、エアゾール用抗微生物組成物と液相中に相分離しない状態で均一混合されることが望ましい。噴射剤とエアゾール用抗微生物組成物とが液相中に相分離しない状態で均一混合された混合組成物が噴射されると、噴射剤が混合組成物から急速に揮発して、エアゾール用抗微生物組成物を含む液相を分断し、細かいミストを形成できるからである。噴射剤の含有量としては、エアゾール用抗微生物組成物と噴射剤との合計量に対して、重量比で55~80重量%であることが望ましい。
【0061】
スプレー装置1におけるスプレーノズルとしては本発明の属する分野において通常使用されるスプレーノズルを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、直径0.1~2.5mmのノズル径を有するスプレーノズルが好適である。参照特許文献(特開平11-221499号公報)によると、ノズル径(噴口径)は、0.8mmであり、スプレー装置では上記範囲のノズル径が一般的に用いられており、本発明のエアゾール用抗微生物組成物を平均粒径が1~15μmのエアゾールとするのに好適であると考えられる。
【0062】
次に、本発明のエアゾール用抗微生物組成物を製造する方法について説明する。なお本発明のエアゾール用抗微生物組成物の製造方法は以下の態様に限定されるものではない。
本発明のエアゾール用抗微生物組成物を製造する方法としては、重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液に、55重量%以上のアルコールを添加し、攪拌混合することにより製造することができる。ここで、重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液の濃度は、50~5000ppmであることが望ましく、250~1000ppmであることがより望ましい。また、得られるエアゾール用抗微生物組成物における重合ビグアナイド及び/又はその塩の濃度は、25~2500ppmであることが望ましい。また、エアゾール用抗微生物組成物におけるアルコールは、95重量%以下であることが望ましい。
【0063】
また、本発明のエアゾール用抗微生物組成物を製造する際には、さらに、水等の溶媒を添加してもよい。溶媒としては、本発明の効果を阻害しない範囲において、本発明の属する分野において通常使用される溶媒を用いることができる。
【0064】
次に、本発明の混合組成物を製造する方法について説明する。なお本発明の混合組成物の製造方法は以下の態様に限定されるものではない。
本発明の混合組成物を製造する方法としては、例えば、上述の製造方法により得られた本発明のエアゾール用抗微生物組成物と、噴射剤とを密封容器内で攪拌混合することにより製造することができる。ここで、噴射剤の含有量としては、混合組成物の総重量に対して、重量比で55~80重量%であることが望ましい。
【実施例0065】
(実施例1~3)
濃度500ppmのポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(PHMB)(分子量2634 Tクリスタル社製 商品名:除菌・抗菌水)の水溶液およびエタノールを下記表1に示す量で混合し、実施例1~3にかかるエアゾール用抗微生物組成物溶液を調製した。得られた各エアゾール用抗微生物組成物溶液に、噴射剤としてジメチルエーテル(DME)を、下記表1に示す量で混合し、スプレー装置に封入した。これにより実施例1~3にかかるエアゾール用抗微生物組成物が封入された各スプレー装置を得た。実施例1~3のエアゾール用抗微生物組成物は、液相として均一であり、相分離は見られなかった。
【0066】
(比較例1)
エタノールを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1にかかるエアゾール用抗微生物組成物溶液を調製し、これに噴射剤としてジメチルエーテル(DME)を、下記表1に示す量で混合し、スプレー装置に封入した。これにより比較例1にかかるエアゾール用抗微生物組成物が封入されたスプレー装置を得た。比較例1のエアゾール用抗微生物組成物は、液相として均一ではなく、相分離が見られた。
(比較例2)
エタノールを45重量%添加したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2にかかるエアゾール用抗微生物組成物溶液を調製し、これに噴射剤としてジメチルエーテル(DME)を、下記表1に示す量で混合し、スプレー装置に封入した。これにより比較例2にかかるエアゾール用抗微生物組成物が封入されたスプレー装置を得た。比較例2のエアゾール用抗微生物組成物は、液相として完全に均一ではなく、一部相分離が見られた。
【0067】
(スプレー結果の評価)
得られた実施例1~3及び比較例1、2にかかるエアゾール用抗微生物組成物が封入された各スプレー装置を噴射し、スプレーノズルから噴霧されるエアゾール用抗微生物組成物の平均粒径をレーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社マツボー 商品名 HELO&RODOS)を用いて測定した。測定の際に使用した解析ソフトはPAQXOS4.0である。また、平均粒径は、メジアン径(D50)である。
得られた結果を下記表1に示す。
【0068】
【0069】
上記表1に記載の結果から、重合体ビグアナイド及び/又はその塩の水溶液、及び、55重量%以上のアルコールを含む実施例1~3にかかるエアゾール用抗微生物組成物が封入されたスプレー装置を用いると、平均粒径が1~15μmのエアゾールが形成されており、実施例1~3にかかるエアゾール用抗微生物組成物を空気中に長時間浮遊させることができた。
一方、比較例1にかかるエアゾール用抗微生物組成物(エタノール添加なし)が封入されたスプレー装置を用いると、平均粒径が15μmを大きく超えるエアゾールが形成されており、空気中に長時間浮遊させることができなかった。また、比較例2にかかるエアゾール用抗微生物組成物(エタノールの重量比45wt%)が封入されたスプレー装置を用いた場合も、平均粒径が15μmを超えるエアゾールが形成されており、空気中に長時間浮遊させることができなかった。